キングコング・西野亮廣(41)が原作を手がけた絵本『えんとつ町のプペル』。これまでにミュージカルやアニメ映画、さらには歌舞伎作品になるなど、多角的な展開をしてきたが、今年10月にバレエ化されることが明らかとなった。しかし、これにバレエファンから反発の声があがっている。物議を醸しているのは、『プペルバレエ』の企画者がnoteに投稿した内容。すでに削除されているが、記事には次のような文言が掲載されていたのだ。《私たちは、プペルバレエを古典作品にすることを目指しています。それは、「白鳥の湖」や「くるみ割り人形」、「眠れる森の美女」などと同じ棚に並べるということです》これについてある舞台関係者は語る。「『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』はいずれもかのチャイコフスキー作曲。1890年代に初演された作品で、“3大バレエ作品”として愛されてきました。しかし、これらは“長く愛される古典”になることを目的として作られたものではなく、長い年月をかけて愛され続けた結果、古典となったです。企画の段階から“3大バレエに並ぶものを作る”と考えているのは、古典を軽視していると言われても仕方ありません」さらに企画者は、『プペルバレエ』の古典化のために必要なこととして《全国のバレエ教室の発表会レパートリーとなる》《世界中のバレエ団のレパートリーとなる》と挙げている。「演目として定着すれば、バレエ教室の発表会やバレエ団の公演で上演されることも増えるかもしれませんが、教室やバレエ団は演目の使用料を支払う必要があります。上演されるたびに使用料が発生するので、企画者側にとっては長期的な利益が見込めます」(前出・舞台関係者)構想の段階から、“古典”を強調する『プペルバレエ』だが、SNS上では、“古典を軽視している”と反発の声があがっている。《演目として定着させて、演目使用料、楽曲使用料、バレエだし発表会ごとに長期的収入もオッケー。とか言うサロンの新しいビジネスモデルだったりしてなー(嫌すぎる)》《プペルがバレエまできたか。良い作品だから何度も上演されて、いつの間にか古典と言われるようになるんじゃないの?初めから古典作りますってなんか違う気がする。見えてくるのは金儲けのみ。だからプペ関連は胡散臭く思ってしまう》《紆余曲折ありながらも愛され続けて現代まで伝わってきたのが現在古典作品と言われているものであって、「古典作品として生き残らせる」が1番に来てるのはもう違うのよ》《プペルバレエ、古典にすることを目指してるって言ってる割に古典作品に対する敬意が微塵も感じられなくて草》
2022年05月18日前進座が恒例にしている国立劇場での歌舞伎公演が間もなく開幕する。鶴屋南北作の古典歌舞伎『杜若艶色紫』(かきつばたいろもえどぞめ)は、「悪婆もの」と呼ばれるジャンルの歌舞伎で、主人公のお六は、今風で言うところの「ダークヒロイン」。破戒坊主の相棒とグルになって悪事に手を染めていたが、その悪事をきっかけに実の妹・八ツ橋が殺されてしまい、そこから改心してゆくという物語だ。主人公の悪婆・お六と、花魁・八ツ橋の二役を演じるのは六代目河原崎國太郎。祖父の五世国太郎は「悪婆ものの国太郎」と呼ばれるほど、晩年近くにこのジャンルの役々で名演を残したことで知られる。その三十三回忌の追善公演で、お六、八ツ橋ともに初役でつとめる。「お六は、ただの悪役ではなく、信念を持って行動する女性。頼りない夫の伝兵衛を食わせ、その弟の金五郎のかけ落ちを助けたりする。夫や身内を守るために相棒だった男をばっさり裏切る。自立していて、ある意味、現代的な女性像だと思います。そういう姿が痛快だから、江戸のご見物衆に大いに受けたのではないでしょうか。」文化12年(1815)の初演は、五世岩井半四郎が二役を演じて大ヒットだったという。タイトルにある「杜若」は、上演月の季節の花と半四郎の俳名「とじゃく」にかけたものだそう。南北劇には定評がある前進座が、全員初役で臨む41年ぶりの上演。願哲役の藤川矢之輔の愛嬌ある敵役や、佐野次郎左衛門を演じる嵐芳三郎の二枚目ぶりも楽しみだ。また、公演期間中には、五世国太郎の舞台衣装や写真などのロビー展示や、國太郎も出演するアフタートーク(5/21の15時開演の部)など、先代を偲ぶイベントが企画されている。
2022年05月16日四月大歌舞伎の第二部で上演中の『荒川の佐吉』は同じ歌舞伎の演目の中でも新歌舞伎というジャンル。『元禄忠臣蔵』などで知られる真山青果の作品だ。主人公の佐吉は一介の大工からやくざになったばかり。だが親分の鍾馗の仁兵衛は浪人成川郷右衛門に片腕を斬られ落ちぶれてしまっている。その親分の娘のお新は、日本橋の大店・丸総の旦那の妾になっていたが、産まれた卯之吉が生まれつきの盲目のため、親子で離縁されそうになっていた。佐吉は仁兵衛から、次女の八重と夫婦になってこの子を育ててくれと頼まれる。だが仁兵衛が金目当てに卯之吉を預かってきたことを知った八重は、その情けなさに出て行ってしまった。佐吉は大工仲間の辰五郎の手も借りて卯之吉を育てることを決意する。その後仁兵衛は賭博で身を持ち崩し命を落とし、辰五郎の助けを借り卯之吉を必死になって育てる佐吉。ついに佐吉は仁兵衛の敵を討つため成川に挑む。その際に後見人として佐吉を見守ったのは相模屋政五郎だった。これも後につながる一つの因果だったのかもしれない。みごと成川を斬った佐吉は、仁兵衛の縄張りを継ぎ、立派な家を構え、卯之吉もすくすく成長していた。その佐吉の下へ、お新が卯之吉を返してほしいとやって来る。付き添ってきたのは政五郎だった。政五郎には丸総にかつて恩義があり、その政五郎に恩義のある佐吉。卯之吉の将来のためになると政五郎に説得され、泣く泣く別れを決意する。払暁、佐吉は隅田堤の満開の桜を眺めながら、八重や政五郎、辰五郎、そして卯之吉が見守る中、一人旅立って行く。松本幸四郎が佐吉を勤めるのは2度目だ。初役の際には片岡仁左衛門から教わったという。一人の気のいい若者だった佐吉が、やくざの世界に身を賭したばかりに、人として否応なく変わっていく様が伝わってくる。ひょろっとした着の身着のままの力のない新米やくざから、月代も伸びてちょっと疲れた感じに。そして親分の敵を討った後は羽振りもよくなり、どこから見ても立派な親分姿。拵えだけではなく、声や所作、目線に至るまで、成長し変貌していく様をち密に作り上げていることが伝わってくる。幸四郎は仁左衛門が佐吉を勤める舞台で辰五郎も勤めたことがある。佐吉が卯之吉を育てるその苦労と心情を切々を訴えるくだりで、「役として陰で聞きながら毎日本当に泣いていた」と取材会で語っていた。筆者が観たその日にも、客席のあちこちからすすり泣きが聴こえてきたし、幕間では目を赤くした観客をそこかしこに見かけた。梅玉の成川郷右衛門は茶屋に座っているその背中だけで凄みを感じさせるし、尾上右近の辰五郎も情に厚く意気のいい江戸っ子らしさがある。孝太郎のお八重の「なぜ私がそんなことしなきゃいけないのか」と言わんばかりのプライドの高さにはゾクゾクした。白鸚の政五郎には義理も情も知り尽くした大人の貫禄を感じ、うちひしがれてやってくる魁春のお新には「この人にはこの人なりにここまでの苦労があったのだろう」と思わされてグッときた。絶世の美男と謳われた二枚目役者の十五代目市村羽左衛門はめったに作者に注文を出さなかったそうだが、ある時青果宅を訪れ、珍しく「最初はみすぼらしく哀れで最後に桜の花のぱっと咲くような男の芝居を書いて欲しい」と言った。まさにその通り、まだ薄暗い明け方から次第に陽が上り、満開の桜が朱に染まっていく景色を背に、花道を引っ込む幸四郎の佐吉にボーッと見とれてしまった。人らしく誠実に生きているからこその強さと、筋を曲げることができないからこその不条理とも思える別れ。最後の「やけに散りやがる桜だな」の台詞に、佐吉の寂しさ、切なさ、そしてどこか爽快感を感じる幕切れだった。江戸の情趣あふれる舞台の背景がまた格別だ。両国広小路を歩く人々、稲荷ずし売りや辻占の風俗、三味線の聴こえてくる向島、待乳山や浅草寺を望む長命寺の堤。この界隈ならではの風情も、この作品にしっとりと艶を与えている。もう一幕の『義経千本桜』の所作事「時鳥花有里」は、いくつかの古い台本を再構成して2016年に初演されたもの。6年ぶりの再演だ。夢のような桜満開の舞台。源義経は家臣の鷲尾三郎とともに大和へ向かている。父の義朝を長田に討たれ、さらに今も頼朝から追われている身を嘆く。背景が転換され目の前に現れるのはさらに鮮やかな龍田の里。そこに悠然と白拍子や傀儡子が現れる。義経とともに別世界に迷い込んだかのような感覚に陥ってしまう。梅玉がこの義経を勤めるのは2016年の初演に続き2度目。凛々しくも憂いを帯びた源氏の御曹司ぶりにほれぼれする。前の幕の『荒川の佐吉』で憎々しい敵役の成川を演じた同一人物とは思えないほどだ。優雅な白拍子たちの舞に続き、傀儡子輝吉の踊りが始まる。『義経千本桜』の義経、静御前、弁慶、知盛の面を使い分け、「鳥居前」や「大物浦」の物語をユーモラスに軽快に踊る。この踊りは『義経千本桜』本編のいわばパロディ。ちなみに輝吉というのは又五郎の本名(光輝)をもじったものだ。上演されるたびに踊り手の名前をあしらった役名になっているのも楽しい。鷲尾三郎に中村鴈治郎、三芳野に中村扇雀、そして白拍子たちに若手俳優たちが顔をそろえた華やかな一幕。この後義経と三郎は、川連法眼の館へと落ちていく。狐忠信との出会いが待っているとも知らずに。取材・文:五十川晶子四月大歌舞伎チケット情報
2022年04月13日三月大歌舞伎が本日3月3日(木)、初日を迎える。時代物の名作、痛快な世話物、スペクタクル感あふれる演目などなど、光まぶしい早春の候にふさわしい演目が並び、人気俳優たちが顔を揃える。第一部は『新・三国志(しんさんごくし)』。平成11(1999)年、三代目市川猿之助(現・猿翁)により創出された、スーパー歌舞伎『新・三国志』。新たな演出・構想で歌舞伎座に初登場する。乱世を生きる関羽は、張飛、劉備と運命的な出会いをし、“夢見る力”を信じて、3人は桃園で義兄弟の契りを結ぶ。理想の世を作るために関羽たちは軍略に長けた孔明を軍師に迎え、いよいよ群雄割拠の時代を迎えることに。宿敵、曹操を打ち倒すため赤壁の戦いが始まる。勇士たちの姿を壮大なスケールで描き、スペクタクルに富む演出で人気を集めたスーパー歌舞伎シリーズ屈指の名作。今月は「関羽篇」として上演する。猿之助の関羽、中車の張飛、笑也が劉備を勤める。第二部一幕目は『河内山(こうちやま)』。質屋の上州屋の娘が、奉公する松江出雲守の屋敷に幽閉されていると聞きつけ、金目当てにその奪還を請け負ったお数寄屋坊主の河内山宗俊。河内山は上野寛永寺の僧になりすまして松江邸に赴く。大胆不敵な態度で煙にまくが……。河竹黙阿弥の七五調の名台詞とともに、弱きを助け強きをくじく河内山の粋で痛快な悪党の魅力をたっぷりと。仁左衛門の河内山、鴈治郎の松江出雲守、歌六の高木小左衛門で。二幕目は『芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)』。三遊亭円朝が生んだ人情噺の傑作だ。ある朝、大酒飲みで怠け癖のある魚屋の政五郎は芝浜海岸で大金の入った革財布を拾う。政五郎は早速酒盛りを始めるが酔いつぶれ寝入ってしまう。目を覚ますと女房おたつに夢を見ていたのだと諭される。政五郎は禁酒を誓い一念発起して仕事に励んでいたら……。宵越しの金は持たない。そんな江戸っ子気質の政五郎としっかり者の女房おたつ。江戸の町に息づく庶民の暮らし、夫婦の情愛を描いた人気狂言。菊五郎の政五郎、時蔵が女房おたつを勤める。第三部一幕目は『信州川中島合戦(しんしゅうかわなかじまかっせん)』。名高い上杉謙信と武田信玄の合戦を、近松門左衛門がドラマチックに描く。越後の大名長尾輝虎(後の上杉謙信)は、敵対する武田信玄の名軍師山本勘助を味方につけようと画策。勘助の妹である直江山城守の妻唐衣を利用し、勘助の母越路と妻お勝を館に呼び寄せて……。絢爛かつ緊迫感あふれる時代狂言を。芝翫の長尾輝虎、雀右衛門のお勝、幸四郎の直江山城守、孝太郎の唐衣、魁春の越路。二幕目は『石川五右衛門(いしかわごえもん)』。大盗賊石川五右衛門は勅使に化けて足利邸に乗り込み、饗応役として現れた此下久吉と対峙する。実はふたりは幼なじみ。かつて同じ盗賊仲間だったのだ。意外なところから本性を見顕されるが、まんまと幕府の重宝である御正印を盗み妖術を使って逃げていく。先行作からの名場面や人気のせりふを再構成した五右衛門ものの集大成だ。久吉と旧交を温める場面や「つづら抜け」の宙乗りなど意外性に富んだ展開が楽しい。幸四郎の石川五右衛門、錦之助の此下久吉。文:五十川晶子歌舞伎座三月大歌舞伎2022年3月3日(木)~2022年3月28日(月)会場:東京・歌舞伎座★『石川五右衛門』の“つづら抜け”の宙乗りについては、新連載「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」にて松本幸四郎さんに詳しくお話を聞いています。こちらも要チェック!記事は こちら()
2022年03月03日3月2日(水)より、京都・南座で「三月花形歌舞伎」が開幕するのを前に、坂東巳之助、中村壱太郎、中村米吉、中村隼人、中村橋之助の出演者5名がリモート取材会に応じた。岡本綺堂作の新歌舞伎『番町皿屋敷』と舞踊劇『芋掘長者』の2演目を午前・午後の部にて、役替わりで上演する。「三月花形歌舞伎」チケット情報『番町皿屋敷』は旗本の青山播磨(隼人・橋之助)と腰元のお菊(壱太郎・米吉)の身分違いの悲恋を描くもの。前半は荒っぽい喧嘩場が見どころで、播磨とやり合う放駒四郎兵衛役の巳之助は「男同士でいる時の播磨を描くことで、男女の関係性になった時の播磨が際立つ」と、“ふたりの播磨”相手に愛の物語の導入部分を盛り上げる。午前の部は隼人&壱太郎が播磨とお菊を勤める。先日、源氏物語を題材としたオンライン舞台「META歌舞伎」でも悲恋を演じたばかりのふたり。「皿屋敷には『女が一生に一度の男』とお菊の台詞にありますけど、隼人君の光源氏だったらいいなとふとそんな思いが生まれたので、その気持ちを大事に、3月公演でも純愛だからこその罪や食い違いのドラマの面白さを見せられたら」と壱太郎。隼人も「壱太郎さんなら愛せる」と応え、相思相愛ぶりをアピールした。播磨役について隼人は、恋人を殺めるような設定にも「僕は純愛物語だと思っているので、理解できない部分も超越できるような播磨にしたい」とアツく語る。初役で挑んだ前回は鳴物など、合方の音楽で台詞に調子を付ける古典と違い、新歌舞伎は沈黙を多用する難しさを感じたと振り返る。「お菊とのシーンは基本的にずっと無音なので、今回は台詞に音楽性を出していけたら」と2度目ならではの一段深い役作りに挑む。午後の部を勤めるのは橋之助&米吉ペア。「お菊への愛を何より大切に勤めたい」と力を込める橋之助。米吉は、そんな橋之助の真っすぐで思い詰める性分が役にぴったりと見る。「思っていることは口にしなくても伝わると思ってるでしょ。そういうところが播磨と同じ。播磨がちゃんと『お前しかいない』と口にしていればお菊だってあんなことはしない」と役の気持ちを代弁する。「愛する相手にはどこか疑いを持ってしまうのは現代人にも伝わりやすい部分だと思うので。お菊の方でも播磨が好きでたまらないという心をしっかり持って、今はほとんどない橋之助さんとの愛を育んで行きたい(笑)」とユーモアたっぷりに“初役コンビ”の魅力を印象付けた。舞踊劇『芋掘長者』は踊り下手な役として、巳之助がわざとぎこちなく踊る様が笑いを誘う。「隼人君、橋之助君と教える役の人が変われば、教わるこちらの踊りも変わると思うので、そこはダブルキャストの面白さ。最後に全員が出揃って、お客様に顔を観ていただけるのもこの演目で良かったなと。何も考えずに楽しめる作品なので、少しでも明るい気持ちになっていただければ」と心和むひと時を約束した。公演は3月2日(水)から13日(日)まで京都・南座にて。チケット発売中。取材・文:石橋法子
2022年02月24日2月10日(木)より、東京・上野の東京都美術館で、「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」が開催される。ドイツ東部・ザクセン州にあるドレスデン国立古典絵画館は、世界有数の西洋絵画コレクションを誇る絵画館。今回は、その数あるコレクションのなかから、17世紀オランダ絵画の名品約70点が集結した。今回の目玉となるのは、ヨハネス・フェルメール『窓辺で手紙を読む女』の修復プロジェクトと、その修復後の姿である。同作は、ドレスデン国立古典絵画館にて19世紀初頭から早くも一般公開されており、同館の至宝のひとつとして親しまれてきた。1979年、サンフランシスコでの展覧会で、初めてX線調査が行われ、女性の背後の壁にもともとキューピッドの画中画が描かれていることがわかった。その後、2017年から始まった大規模な調査・修復プロジェクトにおいて、この上塗りの手直しが、作者であるフェルメールの没後に行われたものであることが判明。これを受け、所蔵館は上塗りを除去することを決め、約4年もの歳月をかけて、2021年9月、フェルメールが描いた当初の姿がお披露目された。修復後、同作が所蔵館以外で公開されるのは、今回が世界初となる。本展覧会では、修復前(複製)と実際の修復後の作品を並べて展示しているだけでなく、綿棒でニスをぬぐったり、顕微鏡とナイフで上塗りの部分を削ったりした修復作業の様子が、パネルや映像などでわかりやすく紹介されている。これらを見れば、4年もの月日を費やした修復作業が、どれだけ神経をとがらせる途方もないものだったかが、手に取るようにわかる。そうした修復過程を見た後に、実際の作品を見たときの感動といったら――。目の前に立ち尽くし、ため息をつくほかない。「光の画家」フェルメールによる暖かな光が、手紙を読むのに夢中になっている女性を照らす。修復によって現れたキューピッドの画中画は、女性の読む手紙がラブレターであることをわかりやすく示唆する。このキューピッドが塗りつぶされた頃は、レンブラントの作品だとされたというのだから、時の移り変わりというのは面白いものである。長年“自省のキャンバス”と化していたその大きな空間に現れ、ようやく本来の姿を見せたフェルメールの「幻のキューピッド」。一度その目で見て、心の中で「おかえり」と声をかけに来てみてはいかがだろうか。1枚の絵画が、長い歴史とその深みを映し出している。「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」会場:東京都美術館会期:2月10日(木)~4月3日(日)取材・文/飯塚さき
2022年02月10日歌舞伎俳優の市川海老蔵が、「六本木歌舞伎2022 『ハナゾチル』(『青砥稿花紅彩画』より)」の上演を前に取材に応じ、「古典を尊重しながら、新しい角度で楽しんでいただけるものになれば」とアピール。共演する戸塚祥太(A.B.C-Z)に対しては、「身体能力が高いですし、パルクールみたいなものにも挑戦してほしい。まだ伝えていませんけど(笑)」と期待を寄せた。今回「六本木歌舞伎」の題材は『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』。石川五右衛門、鼠小僧次郎吉と並び、古くから人々に親しまれている盗賊5人との活躍を描く名作をベースに、現代を生きる青年(戸塚/浜松屋跡取りの宗之助の二役)が“タイムリープ”し、幕末の盗賊一味と新たなストーリーを織りなす。白波が打ち寄せては消える潔さ、儚さを想起させる“白浪五人男”になぞらえ、散ることを知りながら、咲くことを恐れない桜をイメージし『ハナゾチル』と名付けられた今回。「戸塚さん演じる現代の青年が、その時代の人々とコミュニケーションを取りながら、当時の若者たちのポテンシャルや生きざま、心構えを現代に持ち帰るといったお話しになる予定です。戸塚さんが戸塚さんご本人として登場するので、ファンの皆さんも見やすいはずですし、古典も面白いんだぞと提示できれば。特にEXシアターは、若いお客様が多いので、盛り上がりがダイレクト。花道も感染対策はしっかりしながらも、想像以上に客席と近いので臨場感にあふれると思います」(海老蔵)過去には中山優馬(2017年6月『ABKAI』出演)、三宅健(2019年2,3月『六本木歌舞伎』出演)、Snow Manの宮舘涼太・阿部亮平(2019年11月『ABKAI』出演)との共演経験もあり「ジャニーズ事務所の皆さんは、本当に情熱があり『あきらめないな』といつも思います。歌舞伎は独特な演出方法もあって、それを何十回も稽古する姿には、胸を打たれる」と賛辞を惜しまなかった。三池崇史が監修として参加。日本舞踊の宗家藤間流八世宗家で舞踊・振付・演出と幅広く活躍する藤間勘十郎が演出を担当し、歌舞伎音楽とロック音楽を融合させ、弁天小僧菊之助がたっぷりと歌舞伎世話物狂言の醍醐味を見せる。「勘十郎さんとはもう10年以上のお付き合い。音楽的センス、特にバランス感覚が良くて、脚本を読む力もある。彼なりの世界観に任せ、今回、私は台本も演出もノータッチ」と全幅の信頼を寄せていた。取材・文・写真=内田涼【公演概要】『六本木歌舞伎2022『ハナゾチル』(『青砥稿花紅彩画』より)』脚本:今井豊茂 / 演出:藤間勘十郎監修:三池崇史出演:市川海老蔵戸塚祥太(A.B.C-Z)中村児太郎市川右團次他チケット料金:一等席 14,000円、二等席 10,000円(全席指定・税込)前売開始:12月19日(日)協力:全栄企画株式会社 / 株式会社ちあふる製作:松竹株式会社■東京公演日程:2022年2月18日(金)~3月6日(日)会場:EXシアター六本木お問合せ:Zen-A(ゼンエイ)03-3538-2300(平日11:00〜19:00)主催:株式会社3Top / テレビ朝日/読売新聞社/六本木歌舞伎実行委員会東京公演チケット情報■福岡公演日程:2022年3月11日(金)~3月13日(日)会場:福岡サンパレスホテル&ホールお問合せ:西日本新聞イベントサービス 092-711-5491(平日9:30〜17:30)主催:六本木歌舞伎実行委員会/(西日本新聞社他)■大阪公演日程:2022年3月18日(金)~3月21日(月・祝)会場:フェスティバルホールお問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00〜16:00※日祝休業)主催:読売テレビ/サンライズプロモーション大阪
2022年02月08日東京オリンピック開会式にも出演した市川海老蔵と映画の鬼才・三池崇史がタッグを組み、公演ごとに豪華ゲストを迎える人気企画。今回は海老蔵主演、三池監修のもと、演出に日本舞踊の宗家藤間流 八世宗家の藤間勘十郎、ゲスト俳優にジャニーズグループのA.B.C-Z戸塚祥太を迎える。合同取材の席で戸塚は、初挑戦となる歌舞伎は「高いハードル」としながらも、馴染みのない世代にその良さを伝えるのが「最大の役目」ときっぱり。「歌舞伎のカッコよさを伝えるバトンになりたい」と意欲を見せる。「六本木歌舞伎2022」チケット情報物語は、現代社会を騒がせる強盗団と幕末の江戸で民衆の耳目を集める盗賊一味が、時空を超えて織りなすファンタジックなアクション活劇。題材は「知らざぁ言って聞かせやしょう」の名せりふでもお馴染み、古典の名作『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』。弁天小僧菊之助ら5人の盗賊団の結成から捕縛までを描いた通称『白浪五人男』を、5人の名乗りや立ち廻りといった名場面を活かしながら、新解釈で上演する。本作で戸塚は、現代の強盗団の一員と江戸の呉服屋店主の2役を演じる。「知らざぁ言って聞かせやしょう」の名せりふを聞いた途端、「以前『滝沢歌舞伎』に出演した際、『白浪五人男』の場面があったのを思い出しました。当時は知らないなりにも舞台袖から引き込まれるように見る自分がいて、すごくかっこよかった。名せりふも音の響きが気持ちよく、今でも耳に残っています」と思わぬ巡り合わせを回想する。演じる現代版の弁天小僧菊之助は「オリジナルのように義を尽くすカッコよさや勧善懲悪の部分は足りてなくて、ポーズだけ」。その不完全さが、オリジナルのカッコよさや歌舞伎の魅力を知ることに繋がる糸口となりそうだ。「見せ場としては殺陣になるかなと。ゆっくり見せる歌舞伎の立廻りとリアルなスピードでやる現代版の殺陣も出てくると思うので、常に身体を動かせるようにスタンバイしています」とは頼もしい。海老蔵との共演は夢にも思わず、オファーには「ドッキリを通り越して夢かなと思った」と驚きを隠さない。「歌舞伎を知らない人でも知っている、歌舞伎界をリードしている方。きっと伝統を守るために新しい挑戦をし続けている方だと思うので、人間的な部分も含めて学びたい」と改めて意気込みを口にする。「ゼロから積み上げるつもりで、シンプルにその世界に染まりたい。そうすることで、見たこともない自分が見られると思う。ファンの方には応援してほしいですし、歌舞伎好きの方には、おもしろいヤツがいるなと思っていただけるよう日々精一杯務めたいと思います」。公演は2月18日(金)から3月6日(日)まで東京・EXシアター六本木、3月11日(金)から13日(日)まで福岡・福岡サンパレスホテル&ホール、3月18日(金)から21日(月・祝)まで大阪・フェスティバルホールにて。チケット発売中。取材・文:石橋法子
2022年02月08日1994年5月に演出家・串田和美と十八世中村勘三郎がタッグを組み幕を開けた“コクーン歌舞伎”。古典歌舞伎を現代に通じる新たな解釈を取り入れた斬新な演出で、話題作を生み出してきた同シリーズの第十八弾『天日坊』が2月1日、渋谷・Bunkamuraシアターコクーンにて開幕した。演出・美術の串田和美と脚本の宮藤官九郎によって練り上げられ、河竹黙阿弥の隠れた名作を現代に蘇らせた本作は観る者の胸に刺さり大きな反響を呼び、2012年の初演時、千穐楽には当日券を求める人々が列をなすほど大変好評を博した。<ストーリー>ふとしたきっかけから将軍頼朝の落胤になりすまし鎌倉を目指す法策(後の天日坊)。旅の途中で盗賊・地雷太郎とその妻・お六と出会い、思いもよらぬ自分の運命を知る・・・「俺は誰だあっ!」狙うは天下! 若者たちは壮大な野望と純粋な希いを胸に疾駆する。彼らの人生を賭けた大勝負がはじまる―開幕に際し、法策(後の天日坊)を勤める中村勘九郎、人丸お六を勤める中村七之助、地雷太郎を勤める中村獅童のコメントと舞台写真が到着。【中村勘九郎】法策という人物を一言で表すなら“無”結局最後まで自分が誰なのかわからない。そうした精神的な複雑さに加えて、ずっと出ずっぱりな上に衣裳も重い。もう毎回、ぐったりでした。今まで生きたなかで一番疲れた役です。その法策としてまた生きる。もう一度“無”になってその場その場で感じることを大切に、その一方でビジュアル部分もしっかりと見せていきたいと思います。【中村獅童】前回ご覧くださった方の中には、コクーン史上最高傑作とおっしゃってくださる方もいらして、再演を望む声も多く本当にうれしかったです。その期待に応えられるよう、今回はさらに進化したものをお見せしたいと思います。江戸時代のアウトローのかっこよさを感じていただけたらと思います。【中村七之助】初演はちょうどスカイツリーがオープンした年でエレベータ―を降りたところに浮世絵が飾ってあったんです。マーメイドドレスのようなシルエットで髑髏柄の着物を着た女性の絵を見ると「人丸お六」と書いてあったんです。衣裳や小道具はそれを参考に作らせていただきました。前回は時間的に間に合わなかった部分もありましたので、今回はこだわっていきたいと思っています。以上、第十八弾「天日坊」本公演プログラムより抜粋公演は2月26日(土)まで、東京渋谷のBunkamuraシアターコクーンにて。
2022年02月02日歌舞伎の世界を近くの映画館で手軽に楽しめるシネマ歌舞伎を、毎月上映する《月イチ歌舞伎》が2022年度も開催されることが決定した。この度、2022年4月から2023年1月まで上映される幅広いラインナップが発表された。この《月イチ歌舞伎》では、毎月1週間ずつ(新作は3週間)シネマ歌舞伎が上映される。ラインナップは古典の名作から漫画原作の話題作、華やかな舞踊まで、多岐にわたっており、自分の興味などに合わせて、好きな作品を近くの映画館で気軽に、低価格で歌舞伎の世界を楽しむことができる。《月イチ歌舞伎》開催にあわせて2月4日(金)よりお得な特別鑑賞ムビチケカード3枚も発売される。『桜姫東文章』今回の幕開けは、片岡仁左衛門・坂東玉三郎が出演した奇跡の舞台、最新作シネマ歌舞伎『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)』に決定。上の巻は4月8日(金)、下の巻は4月29日(金)に全国で公開される。続いて、現代に通じる若者の孤独と狂気を描いた仁左衛門出演の『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』、幸福感あふれる上方歌舞伎の名作に仁左衛門・玉三郎が出演した『廓文章吉田屋(くるわぶんしょうよしだや)』と、仁左衛門&玉三郎の魅力をたっぷり堪能できる作品が並ぶ。仁左衛門はぞっとするほど残酷な悪役から品のいい色男まで、玉三郎は道ならぬ恋に身を落とす姫君から健気な傾城まで、多彩な役柄をそれぞれ華麗に演じ分けるふたりに注目だ。また、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で話題の三谷幸喜による作・演出で、同作に出演の市川猿之助・片岡愛之助・坂東彌十郎・市川染五郎も出演する人気歴史漫画原作の『三谷かぶき月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち』や、11月1日のジブリパーク開園にちなんで、スタジオジブリ関連作品初の歌舞伎化で評判となった宮崎駿原作の 『新作歌舞伎風の谷のナウシカ』をラインナップ。人気少年漫画「ONE PIECE」を歌舞伎化した話題作『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』とあわせて人気漫画原作の新作歌舞伎が3作上映される。さらに、奇才・野田秀樹の作・演出、中村勘三郎出演の『野田版鼠小僧』、勘三郎渾身の舞台を収録した古典の名作『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみしし)』、玉三郎が中村勘九郎、中村七之助とともに出演した美しさと迫力あふれる『二人藤娘(ににんふじむすめ) /日本振袖始(にほんふりそではじめ)』と、バラエティに富んだシネマ歌舞伎が盛りだくさんとなっている。《月イチ歌舞伎》上映作品一覧4月8日(金)~4月28日(木) 『桜姫東文章 上の巻』※新作4月29日(金)~5月19日(木) 『桜姫東文章下の巻』※新作5月20日(金)~5月26日(木) 『女殺油地獄』(仁左衛門)6月24日(金)~6月30日(木) 『廓文章 吉田屋』7月22日(金)~7月28日(木) 『野田版 鼠小僧』8月12日(金)~8月18日(木) 『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』9月30日(金)~10月6日(木) 『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』10月21日(金)~10月27日(木) 『新作歌舞伎風の谷のナウシカ 前編』11月11日(金)~11月17日(木) 『新作歌舞伎風の谷のナウシカ 後編』12月2日(金)~12月8日(木) 『春興鏡獅子』2023年1月6日(金)~1月12日(木) 『二人藤娘/日本振袖始』《月イチ歌舞伎》(2022)公式サイト※上映館等の詳細はこちらをご確認ください。
2022年02月02日「一世一代と銘打たせていただきました」。歌舞伎俳優の片岡仁左衛門が「義経千本桜渡海屋・大物浦」で渡海屋銀平実は新中納言知盛を勤めるのは、この『二月大歌舞伎』が最後となる。「役者には完成というものはないですし、まだまだ勉強したい、まだまだやりたいんですけれど、いかんせん体力がきつい。20kg近い衣裳を身に着けますのでね。この次やらせていただくチャンスがあっても、果たして1ヶ月間自分の納得いくやり方ができるかどうか、お客様に対して恥ずかしくない芝居ができるかどうか。(最後だと)謳っておかないと役者はどうしてもまたやりかねないので自分でブレーキをかけました。今回が最後と言えば、”次でええか”と思っていたお客様にも来ていただける。それを狙ってます(笑)」と語る。『義経千本桜 渡海屋・大物浦』(H29.3歌舞伎座)銀平実は知盛=片岡仁左衛門(C)松竹源氏への復讐を遂げようと凄まじい執念で源義経に迫る知盛。初演は平成16年4月の歌舞伎座だった。「知盛を勤めた先輩方は既にいらっしゃらない。紀尾井町のおじさん(二世尾上松緑)と河内屋のおじさん(三世實川延若)を参考に、私なりにアレンジさせていただいて、私の型を作り上げました。ですからこの狂言には愛着を感じております」と語る。物語を重視する大阪と、役者の見せ方を大事にする東京と、双方のやり方をミックスして知盛を描いてきたという。大物浦の瀕死の知盛が、自身に刺さった矢を抜き、その血で喉を潤す場面も凄まじい。『義経千本桜 渡海屋・大物浦』(H29.3歌舞伎座)銀平実は知盛=片岡仁左衛門(C)松竹「これは東京の先輩方はなさらない、河内屋のおじさんはなさっています。薙刀を舐める型もあり、どちらかにしようと思っています。壮絶な雰囲気を何とか出したいですね」。東西をミックスした、いわば「仁左衛門型」の知盛だ。「今回で消えるかもしれませんから、せいぜいよく見といてください(笑)。こればっかりはなさる人が(どの型で勤めるか)選ぶことなので、こちらの方から売り込むものではないんです。(仁左衛門型で)勤めたいと言ってくれる方が現れればもちろん伝えようと思います」。『三月大歌舞伎』で勤める『河内山』の河内山宗俊についても触れた。「これも好きな狂言です。私が勤めるときは必ず『質見世』の場から上演することにしているんですね。そうでないと初めてご覧になるお客様には、台詞だけでは何が起きているのかわからないと思いますので」。河内山宗俊は幕府お抱えのお数寄屋坊主。上野寛永寺から使わされた北谷道海という高僧に化け、単身松江候の屋敷へと乗り込む。『河内山』(H27.1大阪松竹座)河内山宗俊=片岡仁左衛門撮影:福田尚武「どんな悪人であっても、河内山がご直参であることを頭に置いておかなくてはなりません。下品にならないように。人間の大きさが出るように。かといってことさらに大きく見せるのではなく、今までの積み重ねを自然に出せればと思いますね」。悪に強きは善にもと、という河竹黙阿弥らしい七五調の台詞で知られる。「七五調で気をつけないといけないのは、言葉のリアルさを失いやすいことなんです。下座に乗って同じリズムで言うと、お客様が言葉の中から受け取れる意味が少なくなりがちなんですよ。リズムの運びを変える、緩急をつけることで頭に入ってくる言葉の意味が増えると思っていますので、そこは気をつけたい」。『河内山』(平成24年2月新橋演舞場)河内山宗俊=片岡仁左衛門(C)松竹勤めるたびに台本を読み込み、どういう人物か、何が起きているのかが分かりやすく伝わるよう腐心する。「役が決まるとまずは映像を見てみる。そうすると自分でも分かりにくいところが出てくるので、そこから台本にチェックを入れていきます。自分で分からなかったらお客様も分かりにくいはず。お客様に分かっていただかないと値打ちがないですから。イヤホンガイドもありますが、できれば私の言葉でストレートにお客様の気持ちに訴えられればと思います」。片岡仁左衛門(C)松竹『二月大歌舞伎』は2月1日(火)から25日(金)まで、『三月大歌舞伎』は3月3日(木)から28日(月)まで、東京・東銀座の歌舞伎座にて。取材・文:五十川晶子
2022年02月01日冬景色の中に時折春の兆しを目にする如月。歌舞伎座では義太夫狂言の傑作から世話物、新歌舞伎、歌舞伎舞踊など芝居好きにはこたえられない狂言が揃った。第一部一幕目は新作歌舞伎の人気狂言『御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)』。次期将軍と目される徳川綱豊卿の別邸ではお浜遊びが行われている。そこへ見物したいと願い出たのが元赤穂浪士の富森助右衛門。そのわけとは。ふたりの台詞のやりとりに緊迫感がみなぎって……。真山青果の代表作『元禄忠臣蔵(げんろくちゅうしんぐら)』の一幕だ。中村梅玉の綱豊、尾上松緑の助右衛門、中村東蔵の新井勘解由、中村魁春の江島。二幕目は獅子物と呼ばれる歌舞伎の舞踊の一つ『石橋(しゃっきょう)』。唐の国の清涼山にある聖なる石橋に、獅子の精達が顕れる。牡丹の花と戯れて、やがて力強い獅子の踊りを見せる。能の「石橋」から材を得た舞踊。獅子の毛ぶりなど躍動感たっぷりの踊りが見どころだ。中村錦之助ほかの出演。第二部一幕目は『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』。早春の候、工藤祐経の館に現れた曽我十郎と曽我五郎の兄弟。父の敵を前にいきり立つふたりを静御前が諫める。やがて三人は春の七種の行事を織り込んだ、美しく春らしい踊りを踊る。二幕目は歌舞伎三大名作の一つ『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』の二段目『渡海屋・大物浦』。渡海屋銀平の船問屋で、九州へと落ちのびる源義経の一行が船出を待っている。この銀平、実は平知盛。平家再興をもくろみ、亡霊の姿を借り海上で義経たちを討とうとする。悪鬼のような凄まじい闘いの末、壮絶な最期を遂げる。片岡仁左衛門が渡海屋銀平実は平新中納言知盛を一世一代として勤める。第三部一幕目は『鬼次拍子舞(おにじひょうしまい)』。京の外れの山中で山樵(やまがつ)に身をやつした男がひとりの白拍子と出会い、ともに踊り始めるが、白拍子は色仕掛けで男から笛を奪おうとする。男は実は主の源義朝を殺害した長田太郎で、その功により平家の大名となっていた。白拍子と長田の問答は虫づくしの歌詞となっており、手踊りから立廻りへと展開していく古風さにあふれた洒落た舞踊劇だ。中村芝翫の山樵実は長田太郎、中村雀右衛門の白拍子。二幕目は『鼠小僧次郎吉(ねずみこぞうじろきち)』。刀屋新吉と芸者のお元は恋仲だが、横恋慕する侍から大金百両と大事の刀を奪われてしまう。心中を決意したふたりを止めに入った稲葉幸蔵。この男が義賊と名高い鼠小僧だった。河竹黙阿弥が五代目尾上菊五郎に書き下ろした人気作。六代目、そして当代の菊五郎も演じてきた音羽屋ゆかりの狂言だ。尾上菊之助の稲葉幸蔵、中村雀右衛門の大黒屋抱え松山、中村歌六の辻番与惣兵衛。今月もひきつづき客席は間隔を開けた2席並びの配置となっている。チケット入手の際には確認を。※第三部『鬼次拍子舞』に出演を予定していた中村芝翫は新型コロナウイルス感染症 「陽性」であることをうけ、当面の間休演。「山樵実は長田太郎」役は坂東彦三郎が務める。(最新情報は歌舞伎美人ホームページ にてご確認ください 。文:五十川晶子『二月大歌舞伎』2022年2月1日(火)~2022年2月25日(金)会場:東京・歌舞伎座
2022年02月01日今年で17年目を迎える中村屋一門恒例の全国巡業公演。歌舞伎俳優の中村勘九郎、中村七之助がリモート会見で見どころを語った。2022年春は『春暁特別公演』に加え、勘太郎、長三郎の子役を交えた『陽春特別公演』の2公演を上演する。生の歌舞伎の楽しさに触れ「元気になってお帰りいただきたい」と声を揃えるふたり。歌舞伎のいろはを解く「歌舞伎塾」や素顔が垣間見られる人気の「トークコーナー」を交えた構成で、演目にも趣向を凝らす。「中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2022」「中村勘九郎 中村七之助 中村勘太郎 中村長三郎 陽春特別公演2022」チケット情報『春暁特別公演』で勘九郎はお家芸「高坏(たかつき)」に出演する。花見の席で大名から高坏を買うよう命じられた次郎冠者(勘九郎)。しかし、それが何か分からず「高坏買いましょう」と声を張り上げて歩き出すと、そこへ高足売が現れて……。下駄でタップという趣向が楽しい軽妙洒脱な舞踊劇だ。「祖父の十七代目中村勘三郎が今の演出、振りにしたもので、中村屋にとっても大切な演目のひとつ。華やかな作品でお花見気分を味わって」と勘九郎が陽気に盛り上げる。七之助が勤めるのは心中物「隅田川千種濡事(すみだがわちぐさのぬれごと)」。四世鶴屋南北作「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」(通称「お染の七役」)の大詰めを長唄の舞踊劇に仕立てたオリジナル演目で、七之助はお染、久松、お光、土手のお六の4役を踊る。「歌舞伎のエンターテインメント性を生でご覧いただける絶好の機会」であると同時に、男女の演じ分けや早替りなど役者、七之助の魅力を存分に堪能できる。続く『陽春特別公演』は勘太郎、長三郎の幼い兄弟が清元で踊る「玉兎」で幕が開く。息子の成長を見守る勘九郎は「何より芝居好きなのが嬉しい」と目を細める。ふたりともすでに踊りは入っているが、「今回はひとりで踊るものをふたり用に変える構成」につき、ブラッシュアップした内容でお届けする。また、今公演では勘太郎、長三郎がイラストを担当した手ぬぐいなどの公演記念グッズを初めて販売することも明かされた。打って変わり、勘九郎と七之助は清元を代表する名作怪談舞踊劇「かさね」を。腰元かさね(七之助)が最愛の与右衛門(勘九郎)に鎌で殺されたことに始まる因果因縁の物語。「男女のドロドロした部分や清元の名文句、名調子、その美しさも見せる。現代の女性にもドラマティックに観ていただけます」と勘九郎。最終的には顔が醜くなり足が折れどん底に突き落とされるかさね。七之助は「女性としてすべてが崩れる様を見せられたら」と語り、踊りでは勘九郎と阿吽の呼吸で魅了する。「互いが磁石のようにべったり引っ付いたり、拒絶し合ったり関係性にメリハリを付けるのが効果的で、そこが踊りの面白さ、深さになってくる。『玉兎』とはガラッと違う踊りを楽しんでいただきたい」とアピールした。『春暁特別公演』は3月6日(日)から26日(土)まで奈良、滋賀、兵庫ほか全国16か所にて、続く『陽春特別公演』は3月30日(水)から4月4日(月)まで大阪・フェニーチェ堺大ホールほか全国5か所にて。チケットは両公演、1月15日(土)10時よりプリセールを実施。取材・文:石橋法子
2022年01月14日ユネスコ無形文化遺産に登録された日本の伝統芸能のうち、歌舞伎、文楽、能楽、雅楽、そして沖縄の組踊(くみおどり)を一同に集めた展覧会、『体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界-』が3月13日(日)まで東京国立博物館 表慶館で開催されている。鑑賞者が再現舞台に上がり、その空間も堪能できる体験型の展覧会だ。ユネスコ無形文化遺産とは、口承伝承や芸能、社会的慣習、祭礼行事、伝統工芸技術など、無形の文化遺産を国際的に保護することを目的に、2003年に誕生したもの(正式なスタートは2006年の条約発効から)。日本からは、田植踊や田楽、神楽など、現在22件がユネスコ無形文化遺産として登録されている。同展は、このユネスコ無形文化遺産にも登録されている伝統芸能から、代表的な5つの歴史と美、そして受け継がれてきた「わざ」を紹介していくもの。歌舞伎、文楽、能楽、組踊の舞台、雅楽の順で、それぞれの衣装や小道具、資料映像を展示する。また、それぞれの舞台をほぼ原寸大に再現しており、その一部は鑑賞者が自由に上がることができるのも特徴だ。『金門五山桐』舞台装置の再現第一章「歌舞伎」では、舞台で使われる小道具や、江戸時代の錦絵、実際に使用されている衣装などから、歌舞伎の歴史と面白さを紹介する。再現展示は、大盗賊・石川五右衛門が主人公の『金門五山桐』の、南禅寺山門の舞台装置。天井から垂れ下がった桜など、細かいところまで作り込まれており、鑑賞者は舞台に上がりこんで細部まで鑑賞することができる。役柄によって細かく変わる歌舞伎の隈取を浮世絵の展示を用いて解説また、日本最古の映画で国の重要文化財にも指定されている『紅葉狩』(1899年)も展示室内で上映。明治時代の名役者と謳われる九代目市川団十郎と五代目尾上菊五郎の演技が見られる貴重な映像は必見だ。第二章の「文楽」は、大阪で生まれた伝統芸能で浄瑠璃(語り物音楽)に合わせて人形が演技を行うもの。3人がかりで一体の人形を操作し、細やかな表情や繊細な動きで人々の心をひきつける。同展では、実際に使用されている人形や、人形の頭部などを実際の映像とともに展示。人形を操作しやすくするため、穴が随所にあけられている衣装や、演目によって変わる頭部など、めったに見られないものが並ぶ。文楽で使用されている衣装。背中と脇に穴が空いている演目により挿げ替える人形の頭部再現された文楽の舞台は、裏側から見ると黒衣がどのように人形を操っているかがよくわかる。実際の舞台ではわからないことも把握できるのが、この展覧会の醍醐味だ。正面から見る『義経千本桜』の再現裏側から見る『義経千本桜』続く第三章は、室町時代に観阿弥・世阿弥父子が、猿楽を元に大成させた「能楽」。能楽とは、能と狂言をあわせた呼び方。厳粛で優美な歌舞劇、仮面劇の能と、笑いの要素の多い狂言は、どちらも猿楽をルーツに持つ兄弟のような関係にある。この3月に国立能楽堂にて初公開となる復曲能(現在は上演されていない演目を復活上演させた能のこと)『岩船』の記録映像や装束、能面、楽器などが公開されている。能で使用される面大胆な意匠の能装束第4章は、琉球王朝から伝わる「組踊(くみおどり)」。琉球王朝は、遠方から来た使者をもてなすため、踊奉行を置き、長期滞在する客人をもてなしていた。そのなかで18世紀に生まれたのが、歌や舞を折り込みつつ進行する音楽劇「組踊」だ。展覧会では、この舞台の再現とともに、紅型(びんがた)の衣装や小道具を紹介していく。組踊「銘苅子(めかるしー)」の天女組踊に使われる花笠そして最後の章は「雅楽」。5〜9世紀にかけて、中国や朝鮮から伝来し、日本で整理・集成した古代の宮廷芸能の雅楽は、器楽演奏のみの「管絃」と、舞をともなう「舞楽」など、他の伝統芸能とは異なる独特な形態を持っている。展示されている豪華絢爛な装束は、すべて宮内庁式部職楽部で実際に使われているものだ。また、国立劇場で上演された宮内庁式部職楽部出演の雅楽公演の映像も見ることができる。雅楽の装束と小道具・小道具大陸の文化も感じさせる雅楽の装束同展をきっかけに、奥深い伝統芸能の世界を触れて、楽しんでみよう。取材・文:浦島茂世『体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界-』2022年1月7日(金)~3月13日(日)、東京国立博物館表慶館にて開催
2022年01月12日アイドルグループ・A.B.C-Zの戸塚祥太が23日、都内で行われた『六本木歌舞伎2022』制作発表会見に、歌舞伎俳優の市川海老蔵とともに出席。歌舞伎初挑戦の意気込みを語った。第4回となる今回の『六本木歌舞伎』は、十三代目市川團十郎白猿襲名を控えている市川海老蔵、そして、アクロバットやダンスなど華麗なパフォーマンスを得意とするA.B.C-Zの戸塚祥太らが出演。戸塚は歌舞伎に初挑戦となる。戸塚は、冒頭の挨拶でマイクのスイッチを入れ忘れ、「すみません、緊張していてマイクがオフになっていました」と照れ笑い。「自分がまさか市川海老蔵さんのお隣に立てる日が来ると思ってなかったので、すごく気持ちが昂っていて、高揚していて、いろんな感情が入り混じっているのですが、これまでやったことがない歌舞伎への挑戦、しっかりと体に叩き込ませて、自分に与えられた役割を全うしていきたいと思います」と決意を語った。また、歌舞伎に対するイメージについて、「日本の宝、伝統芸能、代々受け継がれてきたものという印象です」と述べ、「ここから知らないこともさらに勉強していって、いただいた役をしっかりできるように歌舞伎の世界に染まっていきたいと思っています」と気を引き締めた。『六本木歌舞伎』への出演が発表されてからA.B.C-Zのメンバーから何かリアクションはあったか聞かれると、「メンバーからは今のところまだ何もいただいておりません。今後たぶんどしどし来てくれると思う。メンバー、コメント募集してますよ!」とメッセージを送り、笑いを誘った。『六本木歌舞伎2022』東京公演は2022年2月18日~3月6日にEXシアター六本木にて、福岡公演は3月11日~13日にサンパレスホテル&ホールにて、大阪公演は3月18日~3月21日にフェスティバルホールにて上演する。題材として取り上げるのは、『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』。この作品をベースに、歌舞伎音楽とロック音楽を用いながら、弁天小僧菊之助が歌舞伎世話物狂言の醍醐味を見せる場面をはじめ、時空を超えて、現在社会を騒がせる窃盗団と幕末の江戸市中において人々の耳目を集めた盗賊一味が織りなす物語となる。
2021年12月23日11月11日よりTBS赤坂ACTシアターにて、『赤坂大歌舞伎』が開幕。出演者コメントと舞台写真が公開された。赤坂大歌舞伎とは、十八代目中村勘三郎の「芸能の街・赤坂で歌舞伎を!」という一言から2008年にスタートし、誰にでも親しみやすい演目で幅広く人気を博してきた名物シリーズ。2013年からは中村勘九郎、中村七之助兄弟が亡き父の遺志を継いで公演を続け、さらなる進化を遂げてきた。今回上演される演目は『廓噺山名屋浦里(やまなやうらざと)』、『越後獅子(えちごじし)』、『宵赤坂俄廓景色(よいのあかさかにわかのさとげしき)』の3作。『廓噺山名屋浦里』は、江戸時代に名を馳せた花魁「扇屋の花扇」にまつわる実話で2015年、このTBS赤坂ACTシアターにて、笑福亭鶴瓶が落語として披露。その翌年には「この落語を歌舞伎にしたい」と熱望した中村勘九郎が、中村七之助らとともに、八月納涼歌舞伎の一演目として舞台化し、大きな話題となった。以来、再演を待ち望む声も多いこの作品が、ゆかりの地TBS赤坂ACTシアターで、5年ぶりの上演を果たす。『越後獅子』は長唄にのせて、手おどり、足拍子、布さらしと、様々な踊りの表現を披露。舞台を締めくくる『宵赤坂俄廓景色』は、今回の赤坂大歌舞伎ならではの趣向を取り入れ、赤坂がかつて花街だった時代を想起させるような、華やかな作品となる。現在赤坂Bizタワーにて『赤坂大歌舞伎』のフォトスポットも設置されている。記念すべき第1回公演に出演の中村扇雀をはじめ、片岡亀蔵、中村虎之介、中村鶴松と魅力溢れる顔ぶれに加え、勘九郎の長男、中村勘太郎(10歳)と次男、中村長三郎(8歳)が『赤坂大歌舞伎』に初登場。勘九郎は、「赤坂大歌舞伎を見てくださった方々からは、わかりやすかった、という感想をよくいただきます。今は歌舞伎を見たことがない方が多いので、少しでも多くの方々に歌舞伎の世界を感じていただければいいなと思います」とコメント。七之助も「今回の演目は、どれ1つとして予習をしてくる必要はありませんので、なにも考えずにお席に座ってくだされば大丈夫です。わたしたちもお客様の反応をダイレクトに感じさせていただきます」と意気込みを語った。出演者コメント●中村勘九郎平成20年に父が赤坂大歌舞伎をはじめ、一回り、あっという間ですけれど、また赤坂に大歌舞伎開催できることをとても嬉しく思います。●中村七之助4年ぶりの赤坂大歌舞伎。こういう状況下で開催が出来たことがとても嬉しいです。●中村扇雀歌舞伎は敷居が高いという方が多いですが、赤坂大歌舞伎ではそんな敷居を乗り越えられるような、どなたが見ても楽しめるような歌舞伎をやろう と演目を選び、その結果、多くの新しいお客様に見ていただけました。初めて歌舞伎をご覧になる方も楽しめて、最後にはあっと驚く仕掛けもあるので、歌舞伎にご縁のなかった方も、コロナが落ち着いてどこかに出かけようという時は「赤坂大歌舞伎」に足を運んでいただきたいと思います。■公演概要TBS開局70周年記念赤坂大歌舞伎日程:2021年11月11日(木)~11月26日(金)会場:TBS赤坂ACTシアター(東京都港区赤坂5-3-2 赤坂サカス内)一、『廓噺山名屋浦里』出演:中村勘九郎中村七之助 中村虎之介中村鶴松片岡亀蔵中村扇雀原作:くまざわあかね脚本 :小佐田定雄演出:今井豊茂美術:中嶋正留二、『越後獅子』長唄囃子連中出演:中村勘太郎『宵赤坂俄廓景色』長唄囃子連中出演:中村勘九郎中村七之助 中村虎之介中村長三郎中村鶴松片岡亀蔵中村扇雀
2021年11月12日今年も、南座で京の年中行事「當る寅歳 吉例顔見世興行」の幕が開く。コロナ禍に安全安心の観劇環境を提供するため、客席数を60パーセントに減らし三部制各2演目での上演だ。第一部は坂田藤十郎三回忌追善狂言として『晒三番叟(さらしさんばそう)』『曽根崎心中』、第二部は『三人三吉巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』に、片岡仁左衛門の『身替座禅(みがわりざぜん)』。そして第三部は松本幸四郎と片岡愛之助の『雁のたより』と『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』。幸四郎と愛之助が出席し、取材会が行われた。「當る寅歳 吉例顔見世興行」チケット情報まずは上方歌舞伎の名作『雁のたより』。有馬温泉を舞台にした恋の騒動を描く物語で、髪結の三二五郎七(さんにごろしち)を演じる松本幸四郎。開口一番「誰よりも驚いているのは僕だと思います。(配役の)お話をいただいて、断らない自分の勇気を褒めたたえてあげたい(笑)」。三二五郎七は坂田藤十郎、中村鴈治郎らが演じて関西ではなじみのある、コテコテの大阪人の役だ。「東京の俳優がやるのは無謀なことと認識している上で、自分は上方俳優だと思い込んで勤め上げたいと思っています。二枚目でありながら三枚目という三二五郎七の生活感が出るように、たくさん笑っていただけるような役を目指して頑張ります」。この演目で、片岡愛之助がかつては幸四郎が演じた若旦那役を初役で演じる。「すっかり上方俳優の幸四郎さんと一緒に芝居ができること、上方俳優としてすごくうれしく思っております(笑)」。また、今回は片岡仁左衛門の監修で、昭和26(1951)年、十三世仁左衛門の襲名披露公演で上演した際の演出となる。愛之助は「前に成駒家さんの型で若殿を勤めさせていただきました。今回は私の家の本で、成駒家さんとは少し違うようなので非常に楽しみです」。2作目は、日本を魔界に変えようとする蜘蛛の精と源氏の大将・源頼光らの戦いを描く『蜘蛛絲梓弦』。幸四郎は「年の最後に見納めとして観ていただく歌舞伎狂言としては最たるもの。その中で凛とした頼光を勤めたい」と話す。見どころは愛之助の五役変化。蜘蛛の精をはじめ、小姓、太鼓持、座頭、そして女方の傾城・薄雲太夫まで、キャラクターのまったく違う五役を早替りで演じ分ける。「南座の劇場に合った出入りをしたいと考えております。楽しみにしていただければ」。愛之助は今年5月に父・片岡秀太郎を亡くした。「父のいない顔見世は初めてですけれども、いまだに信じられない感じで、不思議です。天国から見守ってくれているんじゃないかと思っているので、すべての役を一役一役、しっかりと勤めたいです」。公演は12月2日(木)から23日(木)まで、南座にて。チケットは11月10日(水)一般発売開始。一般発売に先駆け、11月6日(土)10:00より先行先着プリセールを実施。取材・文:高橋晴代
2021年11月05日2022年1月に東京・新橋演舞場にて上演されることが発表された新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』。大ヒットした映画の歌舞伎化とあって大きな話題を呼ぶなか、一部の歌舞伎ファンからは批判を浴びているのだ。各メディアによると、原作は、お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣(41)が製作総指揮などを手掛けたアニメーション『映画 えんとつ町のプペル』。主人公のプペルは歌舞伎俳優の市川海老蔵(43)が演じ、玄(げん・絵本ではルビッチ)は市川ぼたんと堀越勸玄が交互に演じると報じられている。また海老蔵は意気込みについて次のようにコメントしたという。「西野さんとはご縁があり、『現代の世では難しくなりつつある、信念と共に諦めない想いを歌舞伎として描きたい』と熱望させて頂きました。この作品によって、皆さまに少しでも前向きな思いや勇気づけられましたらうれしく思います」展開するオンラインサロンの会員数が5万人を超えるなど、一部で絶大な人気を誇る西野。それだけに彼の代表作の歌舞伎化には多くのファンが快哉を叫んだ。《確かにこれはヤバい。やっと発表されて嬉しい。》《西野さんの惜しみないエンタメ魂にワクワク堪らん》しかし、いっぽうで歌舞伎文化を愛する人からは批判の声も……。「公開された公演ポスターには海老蔵さん、ぼたんさん、勸玄さんの3人の名前が同じ大きさで並んでいます。しかし、歌舞伎界の常識では、まだキャリアも実績もないぼたんさんと勸玄さんが海老蔵さんと同じ大きさで同列に名前が並ぶのは異例なんです。いくらお子さんとはいえ、“さすがにちょっと……”と困惑するファンは少なくありません」(芸能関係者)歌舞伎ファンが困惑する最たる例はチケットの値段だ。SS席から7段階にランク分けされている座席だが、SS席は3万円。2階最前列のS席も2万円という設定だ。しかし、3万円ほどのチケットはなかなかお目にかかれないという。たとえば、東京・歌舞伎座で2021年10月現在上演中の「十月大歌舞伎」で、最も高額な一等席で1万5千円。大阪・松竹座で上演中の「十月花形歌舞伎GOEMON」の一等席は1万4千円と、プペルの半額だ。こうした業界の“常識”を覆すプペルに違和感を表明する歌舞伎ファンが続出している。《プペル歌舞伎のチケット、普段の歌舞伎の倍額くらいでビビる》《なぜこの値段設計なんだろ?肌感覚的に違和感が拭えない》《プペル歌舞伎で歌舞伎クラスタの方たちが「(自分の)贔屓が関わりませんように」って言ってるのが全てを物語っている》話題作の歌舞伎化。意気込みで語った「前向きな思い」は届けられるだろうか。
2021年10月06日大看板から花形、若手まで賑やかな顔ぶれが揃い妍を競う10月の歌舞伎座。演目も、洒落た歌舞伎舞踊に時代狂言、抱腹絶倒の世話狂言と、バランスよく贅沢な狂言建てとなっている。第一部一、天竺徳兵衛新噺小平次外伝御家追放となった小平次は女房のおとわと故郷の小幡で暮らしていた。ところが小平次が留守の間におとわは馬士の多九郎と不義密通を。ある日、多九郎は邪魔になった小平次を殺そうと毒薬を手に入れる。三代猿之助四十八撰の内の一つで、実在の人物天竺徳兵衛を描いた物語に四世鶴屋南北『彩入御伽草子』の小平次の怪談を取り入れた歌舞伎らしい荒唐無稽さ溢れる一本だ。今回は小平次の物語に焦点をあて、早替り、幽霊の仕掛けを盛り込んでスピーディーに展開していく。二、俄獅子多くの人々で賑わう江戸の吉原の様子を描いた長唄舞踊だ。洒落た歌詞に合わせ、粋でいなせな鳶頭に華やかな芸者が登場。芸者や太鼓持ちが仮装をし踊りながら練り歩いた、吉原の三大行事のひとつ「吉原俄」を思わせる。江戸の廓の風情と獅子物の面白さを味わいたい。第二部一、時平の七笑平安時代。左大臣の藤原時平は謀反の疑いをかけられた右大臣の菅原道真をかばうが、ついに道真謀反の証拠が。道真は時平に天皇の守護を頼み去っていくが、ひとりになった途端時平は、こらえきれずに笑い出し……。『菅原伝授手習鑑』でも敵役として描かれる藤原時平が、ここでは前半いかにも善人といった様子で登場する。ひとり肩をふるわせてさまざまな笑いを見せる場面がみどころのひとつとなる。二、太刀盗人田舎者の万兵衛から、黄金造りの太刀を盗むすっぱの九郎兵衛。万兵衛が騒ぎ立てるが、太刀は自分のものだと言い合う。本当の持ち主を見極めるため問答に。九郎兵衛は先に問に答える万兵衛の様子をこっそり盗み聞きするのだが……。「松羽目物」のひとつで、田舎者の万兵衛とスリの九郎兵衛のふたりが一拍ずつ遅れて踊る趣向にワクワクさせられる。第三部一、松竹梅湯島掛額本郷駒込の吉祥院へ、「紅長(べんちょう)」の名で知られる紅屋長兵衛たちが木曽の軍勢から逃れてくる。一方八百屋お七は小姓吉三郎との叶わぬ恋を嘆いている。紅長はお七をつけ狙う源範頼の家来からお七を匿うため欄間へ隠してやる。だが雪の夜、吉三郎に会いたい一心で、お七は火の見櫓へ上り木戸を開けさせるために鐘を叩く。紅長は、かけると身体がぐにゃぐにゃになる“お土砂”を使ってお七の恋を助ける。この「吉祥院お土砂の場」に抱腹絶倒だ。「火の見櫓の場」ではお七が「人形振り」で吉三郎への思いの丈を表現する。二、喜撰桜満開の京都へ現れた喜撰法師。法師は茶汲み女お梶に見とれ二人のクドキに。ほろ酔い気分の喜撰は迎えにやってきた大勢の所化たちと賑やかに踊り庵に帰っていく。『六歌仙容彩』は天保2(1831)年初演の変化舞踊。なかでも「喜撰」は、桜の枝を錫杖に見立ててのチョボクレや住吉踊りなど、洒脱で軽やかさが人気の舞踊だ。文:五十川晶子『十月大歌舞伎』2021年10月2日(土)~2021年10月27日(水)会場:東京・歌舞伎座
2021年10月02日歌舞伎俳優市川九團次プロデュースブランド【Re;sonate(リゾネイト)】わずかな動きを振動エネルギーに変えて宝石が揺れ続ける【ダンシングストーン】が世界中で大ヒットしている株式会社クロスフォー(本社:山梨県甲府市、代表取締役社長:土橋秀位、東証ジャスダック上場<証券コード7810>、以下「クロスフォー」)が、歌舞伎俳優・市川九團次さんプロデュースによる日本の伝統文化をテーマにしたジュエリーブランド【Re;sonate(リゾネイト)】が本格デビュー。11月からは全国催事での導入スタートを予定。歌舞伎俳優市川九團次プロデュースブランド【Re;sonate(リゾネイト)】プロデューサーである市川九團次さんインタビュー動画ブランドコンセプト伝統と革新の融合。本物を知る大人の女性に贈る、上質さの中に“華やかさ”と“粋な遊び心”を感じさせるジュエリー。ブランド名であるRe;sonateに込めた想いReは繰り返しを表し、sonateは器楽を使った音楽(奏鳴曲:ソナタ)のこと。音楽と同じように、長きに渡って人々を魅了する優れた物語は、見るたびにそして、見る人の状況や心境によって異なる輝きを放ち続ける。Re;sonateは歌舞伎などの日本の伝統文化をテーマに、身に着ける方の心に直接語り掛けるストーリー性のあるデザインを展開するジュエリーブランドです。全国の催事での導入も決定!”身を焦がすほどの愛に生きた女性”がテーマの【恋蛍】など新シリーズも続々。京鹿野娘道成寺の清姫をテーマにした【情念】妹背山婦女庭訓の雛鳥をテーマにした【覚悟】6月のプレローンチに発表した、Re;sonate第一弾シリーズ【花ひらく】のみクロスフォーオンラインショップでも取り扱っておりますが、Re;sonateブランドの商品は現時点で、全国のジュエリー催事のみでの取り扱いとなっております。11月からは全国催事での導入も決定し、すでに発表している【花ひらく】シリーズの他に、恋い焦がれる女心を蛍の火に例えた【恋蛍】シリーズ、歌舞伎演目の中でもその益荒男ぶり画際立つ男性をテーマにした【千両役者】シリーズ、日本における神話の中から代表的な神様をモチーフにした【天地開闢】シリーズ、歌舞伎の中でも大役とされる3人の姫をモチーフにした【歌舞伎三姫】シリーズなどが店頭に登場いたします。公式インスタグラムでは今後の催事情報を発信するほか、隈取タイニーピンのプレゼント企画も実施中!Re;sonate公式インスタグラムでは、今後の新商品や全国の催事情報を発信。なお、ブランドの本格デビューを記念して、9月27日(月)~10月11日(月)まで、Re;sonate公式インスタグラムでは歌舞伎の隈取タイニーピン(非売品)プレゼントキャンペーンを実施中。歌舞伎と言えば、見得。そして目ヂカラ。その目にダンシングストーンをあしらい、わずかな動きで目がキラキラと輝くユーモアあふれるタイニーピン。動画内でも九團次さんが着用されているものと同じデザインで、歌舞伎ファンにはたまらない逸品です。目がダンシングストーンに!プレゼントの隈取タイニーピン(非売品)動画動画内で九團次さんも着用している隈取タイニーピンプレゼントキャンペーン応募方法①Re;sonate公式インスタグラムをフォロー( )②キャンペーンの投稿をリポストするだけで応募完了!※10月中旬を目途に当選者様へは発送致します。instagram投稿 : プロデューサーを務める市川九團次市川九團次プロフィール1972年4月4日千葉県野田市生まれ。1998年坂東竹志郎を名乗り初舞台。2005年四代目坂東薪車襲名。2014年市川海老蔵門下となり、市川道行を名乗る。2015年市川九團次を襲名。市川海老蔵一門として全国並びに世界各国で公演を行うほか、2016年には九團次として初めての自主公演「九團次の会」を開催し、3年目となる2018年には全国11か所にて13公演を勤め上げた。テレビCMやバラエティ番組にも多数出演するほか、歌舞伎をより多くの人に知ってもらいたいと、学生や一般の方へのワークショップを行うなど、歌舞伎以外でも幅広く活躍中。≪出演・受賞歴など≫・・・ライザップ(CM)/日本テレビ「News Every」特集ナレーション担当/雑誌「GINGER」WEBサイトにてレシピ連載/市川海老蔵「古典への誘い」/ドラマ「あの子が生まれる」(フジテレビオンデマンドFOD)/十三夜会賞奨励賞受賞(2005年)/咲くやこの花賞受賞(2006年)/十三夜会賞奨励賞受賞(2011年)■株式会社クロスフォー会社概要会社名:株式会社クロスフォー代表取締役社長:土橋秀位東証JQS上場:<証券コード7810>所在地:〒400-0043山梨県甲府市国母7-11-4設立: 1987年8月事業内容:ジュエリー・アクセサリーの輸入・製造・販売URL: オンラインショップ: 1980年に宝石輸入販売会社として山梨県甲府市に誕生。宝石の中に十字の輝きを持たせるクロスフォーカットを開発(特許取得)。2007年には香港子会社を設立し海外進出を果たし、2010年にさらなる研究を重ね、特殊な構造で石が揺れ続ける独自技術のダンシングストーンを開発(特許取得)。その技術と品質は様々なブランドから高い評価を得て、今ではダンシングストーンは世界中で愛されるまで成長しております。 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2021年09月27日歌舞伎を全国の多くの人々に伝えたい、楽しんでもらいたいという思いから、2020年にスタートしたのが「伝統芸能華の舞」公演。昨年に引き続き今年も、市川右團次、市川右近親子共演による開催が決定した。演目は、楠木正成二題として能楽から『楠露』、素踊り『楠公』、そして歌舞伎十八番の内『鳴神』だ。「今年は、これぞザ・歌舞伎といえる歌舞伎十八番の『鳴神』と、そしてもう一つは楠木正成に縁ある舞踊の演目から選びました。私が子供のころ、父(日本舞踊飛鳥流宗家・飛鳥峯王)と踊った『楠公』を素踊りでご披露します。楠木正成を私、息子の正行を右近、そして市川海老蔵さんの一門の方々のお力をお借りして皆様にお目にかけたい。勇壮な湊川の合戦、桜井の別れという有名な物語もあり、ドラマチックな一幕になると思います。また素顔と紋付袴で踊るという、歌舞伎の本公演ではなかなか上演されない素踊りの面白さもお楽しみいただけたらと」。この『楠公』には特別な思い入れがあるという。「正成の息子正行は、自分も合戦に行きたい、でも父に、お前は河内へ戻り、必ずやいつか朝敵を倒してくれと諭されて親子は別れます。僕が父とこの踊りを踊ったのは、ちょうど僕自身が東京へ単身上京したころでした。父と別れる時の正行の気持ちが僕にはとてもよくわかった。彼(右近)は私とは状況は違いますが、逆に彼にしかできない表現を持っていると感じています。厳しい稽古にも弱音吐かず、自分の感情を内へとためながら、自然と表に情感がにじみ出てくるような、そういう演技をする。彼の方が芯の強い正行ができるかもしれません。彼が持っているものを引き出して上げられればと思います。今回は藤間勘十郎さんの振付で踊ります」。もう一幕は歌舞伎十八番『鳴神』だ。「鳴神上人は高僧ですから品格や気位が大事です。ですが同時にチャーミングなところもあるんです。蜘蛛の絶間姫の色仕掛けにかかってしまったり、それを知って猛り狂ってしまったり。生きる雷となって姫を追いかけていくその変わり目など、一人の中にいろいろな面が見え隠れする。それが描ければと思います」市川笑三郎の蜘蛛の絶間姫など、澤瀉(ワ冠)屋の俳優たちとの共演は久しぶりだ。「今回はそれも楽しみなんです。海老蔵さんから、どなたと演りたいですかと尋ねられ、今回に限らず、三代目市川猿之助の下で40年、一つ釜の飯を食べて修行してきた澤瀉(ワ冠)屋の皆さんと芝居できることがかなうならと。海老蔵さんも『そうですよね』ということで、ご一緒できることになりました。息子は澤瀉(ワ冠)屋ですから親子で屋号は違いますが、澤瀉(ワ冠)屋さんと決して仲が悪いわけじゃないですよ(笑)」。右近も今回の巡業に際して、「今までは衣裳を着けて化粧もしていたけれど、素踊りではお化粧しないので、大変だなと思います。緊張しています。『鳴神』では鳴神上人は六方の引っ込みとかカッコよくて僕もやってみたいです」と語った。昨年は3月に行われるはずがコロナ禍のため10月に再スタートを切るというイレギュラーな巡業となった。「今年も感染対策を万全にしてお客様にご迷惑をかけないようにと、とにかく覚悟の巡業です。そして各地でお客様に勇気と元気をいただき、こちらからも皆様に勇気と元気を送り、気のキャッチボールをしながら、その時だけの感動の空間を共有できればと思います」と右團次。10月14日の佐世保市での公演を皮切りに、全国16会場で22公演が行われる。取材・文:五十川晶子『伝統芸能 華の舞』チケット情報
2021年09月17日日本が誇る伝統芸能、歌舞伎をより多くの人々に届けようと昨年誕生、コロナウイルス禍による延期を経ながらも全国9か所を巡った公演「伝統芸能華の舞」が、今年も10月14日に開幕する。市川右團次、市川右近親子が「伝統芸能 華の舞」の魅力について語った。まずは昨年のツアーについて、「ほとんどの公演が春から秋に順延となってしまいましたが、無事に各地をまわることが出来ました。息子と共演した『連獅子』は一昨年のラグビーワールドカップ2019開幕式でも踊りましたので、親子で1年以上『連獅子』に関わり、息子にとっても成長の糧となったと思います」と、手応えを語る右團次。歌舞伎舞踊の様々な色を見せた昨年から一転、今年は“ザ・歌舞伎”と言うべき荒事の代表作『鳴神(なるかみ)』を中心に据え、右團次は鳴神上人を演じる。「役の品位を大切にしつつ、高僧ならではのチャーミングさ、雲の絶間姫に騙されて猛り狂う、その変わり目を大切に演じられたら」。かつて澤瀉屋一門で“同じ釜の飯を食べた”笑三郎さんが雲の絶間姫を演じることになり、久々の共演が楽しみだという。『鳴神』の前には、“楠木正成二題”と称して能楽『楠露(くすのつゆ)』と素踊り『楠公(なんこう)』を上演する。右團次のほか右近、大谷廣松、市川弘太郎らが出演。後者は右團次にとって思い出の演目だ。「子供の頃、舞踊家の父と一緒に何度か『楠公』を踊ったのです。その頃僕は(三代目市川)猿之助(現・猿翁)の部屋子になって上京しており、父とは離れて住んでいましたので、父・楠木正成と別れる正行の気持ちが分かる部分もありました。今回は立場を変え、僕の正成、息子の正行で踊らせていただきます。彼と僕とでは持ち味が違うので、彼の光るものを(稽古で)引き出していけたらと思っています」今回は役の扮装をしない“素踊り”というスタイルでの上演。それまで神妙な面持ちで父の話を聞いていた右近は、本作への抱負を聞かれ、「今までは衣裳を着て、お化粧をして踊っていましたが、今度はそれ無しで踊るので、大変だろうと思います」とコメント。右團次は「(衣裳などが無いと)分かりにくいのでは、と心配されるかもしれませんが、勇壮な合戦の場面もあればドラマティックな親子の別れの場面もあり、とても分かり易いと思います」と自信を覗かせた。緊急事態宣言下ということもあり、この夏は家で一緒に過ごすことが多かったという右團次親子。最近、家の中で卓球をするようになり、ついつい熱くなっているそう。「普通の(親子)関係だとは思いますが、稽古に入ると、やはり力が入ります。息子は厳しい稽古でも弱音を吐かない子で、感情を自分の中で貯めながら、それが表に滲み出てくるような演技をしていると思います。今回もそういう彼らしさが出てくるといいなと思っています」と右團次が息子への期待を語れば、右近からは父について「立ち回りとかがかっこいい役者だと思います」とリスペクトの言葉が。「(父の指導は)優しいです」と言いつつも、右團次から「(率直に)言っていいんだよ」と言われると「怒ると怖いです」と付け加え、場が和む一幕も。質疑応答の中では、コロナ禍の中での全国巡業についての思いも問われ、右團次は「覚悟の巡業です。万全の対策で、各地のお客様にご迷惑をかけないよう努めます」と表情を引き締めつつ、「舞台を勤める僕らと、拍手をくださるお客様たちの間で勇気、元気のキャッチボールを行い、一回きりしかない感動の空間を共有できれば」と公演の意義をアピール。最後に、「(今回は)歌舞伎のいろいろな部分を御覧いただける内容です。巡業ということで僕らのほうから皆様のお側に参りますので、歌舞伎がお好きな方にも、初めての方にもいらしていただけましたら嬉しいです。歌舞伎の上演劇場での公演より入場料も手ごろですし、時間的にも多少短く、見やすくなっています。この機会に歌舞伎に親しんでいただければと思っています」と右團次が熱く語れば、右近も「よろしくお願いします」と力強い挨拶で会見を締めくくった。公演は10月14日から全国各地にて。各会場によりチケットの発売日が異なるため、最新情報は公式サイト( )にて。【公演概要】伝統芸能華の舞演目一、楠木正成二題・能楽 独調『楠露(くすのつゆ)』・素踊り 『楠公(なんこう)』市川右團次市川右近市川弘太郎大谷廣松他二、歌舞伎十八番の内『鳴神(なるかみ)』鳴上上人市川右團次所化白雲坊大谷廣松所化黒雲坊市川弘太郎雲の絶間姫市川笑三郎日程:10/14(木) 長崎アルカスSASEBO大ホール16:00開演特等席:8,000円一等席:6,800円二等席:5,000円三等席:4,000円チケット発売中問い合わせ:Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)10/15(金) 鹿児島鹿屋市文化会館19:00開演全席指定:6,000円チケット発売中問い合わせ:鹿屋市文化会館TEL:0994-44-5115(9時~17時30分)10/23(土) 東京北とぴあさくらホール①13:30開演/②18:00開演S席:6,500円A席:5,000円B席:3,000円チケット発売中問い合わせ:北区文化振興財団TEL:03-5390-1221(平日9時~17時)10/26(火) 広島JMSアステールプラザ13:30開演全席指定:6,500円チケット発売中問い合わせ:グッドラック・プロモーション(株)TEL:086-214-3777(平日10時~17時)10/27(水) 香川レクザムホール(香川県県民ホール)小ホール13:30開演全席指定:6,500円チケット発売中問い合わせ:グッドラック・プロモーション(株)TEL:086-214-3777(平日10時~17時)Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)10/29(金) 京都南座14:00開演10/30(土) ①11:00/②15:00開演一等席:9,500円二等席:7,000円チケット発売中問い合わせ:キョードーインフォメーションTEL:0570-200-888(11時~16時 ※日祝休業)Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)10/31(日) 兵庫兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール①13:30/②17:00開演全席指定:7,800円チケット発売中問い合わせ:キョードーインフォメーションTEL:0570-200-888(11時~16時 ※日祝休業)11/1(月) 石川北國新聞赤羽ホール14:00開演S席:6,000円A席(バルコニー席):5,500円チケット発売中問い合わせ:2021ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭実行委員会(石川県芸術文化協会内)TEL:076-263-6080(平日10時~18時 土日祝休み)11/6(土) 岐阜バロー文化ホール(多治見市文化会館)①12:00/②15:30開演※2回公演に変更になりました ※1回目の公演時間が変更になりました一等席:8,000円二等席:6,500円チケット発売中問い合わせ:CBCテレビ事業部TEL:052-241-8118(平日10時~18時)Zen-A(ゼンエイ) TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)11/9(火) 埼玉和光市民文化センターサンアゼリア13:30開演特等席:8,000円一等席:6,800円二等席:5,000円一般発売日:9/18(土)問い合わせ:Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)11/12(金) 東京府中の森芸術劇場どりーむホール13:30開演特等席:8,000円一等席:6,800円二等席:5,000円一般発売日:9/18(土)問い合わせ:Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)11/14(日) 愛知岡崎市民会館あおいホール14:00開演一等席:8,000円二等席:6,500円一般発売日:9/18(土)問い合わせ:岡崎市民会館TEL:0564-21-912111/18(木) 千葉君津市民文化ホール13:30開演特等席:8,000円一等席:6,800円二等席:5,000円一般発売日:9/18(土)問い合わせ:Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)11/20(土) 静岡三島市民文化会館13:30開演全席指定:6,500円チケット発売中問い合わせ:三島市民文化会館TEL:055-976-445511/21(日) 神奈川クアーズテック秦野カルチャーホール(秦野市文化会館)13:30開演特等席:8,000円一等席:6,800円二等席:5,000円チケット発売中問い合わせ:Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11時~19時)11/23(火・祝) 大阪南海浪切ホール①13:30/②17:00開演特等席:7,000円一等席:5,500円二等席:4,000円三等席:2,500円チケット発売中問い合わせ:浪切チケットカウンターTEL:072-439-4915(平日10時~20時 休館日:毎月第3月曜日とその翌日、敬老の日の前3日間)※ロビー開場60分前、本開場30分前制作:株式会社3Top制作協力:全栄企画株式会社/株式会社ちあふる協力:松竹株式会社公式サイト: 総合お問い合わせ:Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300(平日11:00〜19:00) 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2021年09月16日『眠狂四郎』シリーズを始めとする大映時代劇の花形スター、市川雷蔵。その歌舞伎役者時代にスポットをあてた『歌舞伎役者 市川雷蔵』が、このほど、中央公論新社から出版された。著者は演劇ジャーナリスト、大島幸久さん。1969年に逝去してから50年以上過ぎても”雷様”と慕うファンは多い。大映映画は毎年のように、大規模な回顧上映が行われていて、雷蔵出演作品は人気プログラムだ。そこで観てファンになった若い人も相当数いるという。映画俳優としての雷蔵については、多くの著作や写真集が出版されているが、歌舞伎役者の雷蔵は著作が見当たらない。関西歌舞伎の名門、市川寿海の芸養子となり、八代目市川雷蔵を襲名してまもなくの映画界への転身、その理由など、まだ知られていない謎を探ろうという企画だ。著者の大島さん自身は、歌舞伎時代の生の舞台は観ていない世代だが、文献資料だけでなく、当時を知る先輩ジャーナリストや演劇評論家、関係者に取材し、まとめた。映画俳優時代も、オープンしたばかりの日生劇場で歌舞伎公演を行うなど、舞台に立って活躍していたが、その頃の写真も多く収録されている。これが実に二枚目。歌舞伎役者時代はほんの8年間だが、さぞかし雰囲気のある役者だったと想像される。同じように、歌舞伎界から転身し、映画スターになった萬屋錦之介は、雷蔵とも親しく、交流があった。「きれいでしたからね。何ともいえぬ色気があって……ことに歌舞伎の白塗りなんかのとき……」と後年コメントを残している。その錦之介を始め、歌舞伎時代の仲間でもあった坂田藤十郎ら、名優たちとのエピソードは、とても興味深い。『歌舞伎役者市川雷蔵 のらりくらりと生きて』大島幸久著 / 中央公論新社 / 2,200円(税込)ぴあアプリ「水先案内人」大島幸久さんのおすすめ演劇公演はコチラ
2021年09月14日中村勘九郎、中村七之助を中心に、中村屋一門が2005年より毎年行う全国巡業公演『錦秋特別公演』が10月より全国15カ所で開催される。昨年はコロナ禍によりやむなく中止。今年の巡業は中村勘太郎、中村長三郎が初めて参加した春公演に次いで2度目となる。「昨年伺えなかった土地に春と秋、2回に分けて伺えるのがうれしい」と勘九郎。七之助は「待っていてくださる方がいることがありがたい。春公演ではたくさんの拍手に、役者は居てもいいんだと思えた」と振り返る。それぞれ感謝の思いを胸に、合同取材会で秋公演への想いを語った。「中村勘九郎 中村七之助 錦秋特別公演 2021」チケット情報演目は『浦島』『甦大宝春日龍神(よみがえるたいほうかすがりゅうじん)』『トークコーナー』の全3つ。昔ばなしの後日談を舞踊化した『浦島』は成長株の鶴松が勤める。勘九郎は「歌舞伎を初めて観る方にはストーリー性も分かりやすく曲調も華やか。二枚扇というお扇子を使って踊るテクニカルな踊りは目にも楽しい」と解説。生前、父である中村勘三郎(18代目)が勘九郎の浦島をひどく気に入っていたと言い「鶴松にもしっかり継承できれば」と語る。『甦大宝春日龍神』は春日大社「第六十次式年造替記念」として2014年に創作された奉納舞踊。前半は春日の野の四季折々の素晴らしさを芝居仕立てで踊り、後半は龍神、龍女が荒々しく舞い踊る。「神がかったものに触れることによって、神秘的な思いになっていただければ」と勘九郎。七之助も奉納当日に、龍神の存在を感じるような出来事があったと明かす。「水の神様なので当日は雨だろうと話していたら、踊っている間は降らなかったのに踊り終えた瞬間に土砂降りの雨が降ってきた。野外だったので、兄と二人で『願いが通じたね』と。そういう摩訶不思議な現象が起こったりする。今回はとくに世の中が平穏無事であることを強く思いながら踊りたい」。最後の「トークコーナー」はスーツ姿の2人が等身大の素顔を垣間見せる人気コーナー。2年ほど前から定番だった七之助への結婚に関する質問がパタリと止んだ。「お客様も諦めたのかな」と勘九郎。当の本人は、結婚願望はないと言うが「こればっかりは分からないですよね。理想? 考えたこともないですけど、芝居が好きってことかな。同じものを楽しめる人だったらいいなと思います」。芝居は「心の栄養」とは勘九郎。「辛い状況が続くなかで、歌舞伎という非現実の世界へ飛び込むことによって、少しでもお客様を癒すことができればうれしい。感染対策を徹底して安心安全にご覧いただくというのが私たちの想いです」。七之助も「舞台で得た感動を明日への希望につなげていただければ幸いですし、僕らがやる意味もそこにある」と決意を語った。公演は、10月5日(火)東京・品川きゅりあん大ホールを皮切りに、全国を巡演。チケット発売中。取材・文:石橋法子
2021年09月01日歌舞伎俳優の市川海老蔵が8月20日、都内で取材に応じ、9月4日から全国16会場で上演する「市川海老蔵 古典への誘(いざな)い」に向けた意気込みを語った。演目は『通し狂言命懸歌舞伎ノ道筋三升先代萩(みますせんだいはぎ)』で、仙台藩伊達家のお家騒動を題材にした「伽羅先代萩」がモチーフになっている。「伝統芸能を分かりやすく、多角的に味わっていただきたい」と海老蔵が企画した本公演で、2012年の開始から10年目に突入。「もともと七代目市川團十郎がやろうとしていたこと。市川團十郎の思想を組み込み、新しい形での『先代萩』をお見せできれば。本興行ですけど、かなり条件が厳しいなかでの自分としての挑戦、そして実験。そのような形での公演になるかなと思います」と決意を新たにした。我が子を犠牲にして忠義を尽くす乳人政岡をはじめ、歌舞伎の様式美と荒事で魅せる荒獅子男之助、妖術使いの大悪人仁木弾正など、善人悪人を織り交ぜた主要な七役を早替りで勤めることに。海老蔵は「早替わりもですけど、僕の中で一番の見どころは女形。乳人(めのと=乳母)政岡は大変重要なお役ですし、立役専門なので、女形のハードルが高くなっている。そういう面は演出も含めて、見てもらいたいなと思います」とアピールした。一方、感染症対策として「宙乗りはできませんし、廻り舞台もない」といい、「あくまで歌舞伎的な二次元、平面的な演出の中でどこまでやれるかもひとつの見どころ」。延期になっている襲名についても触れ「本来は市川團十郎白猿になっていたはずなので、『古典への誘い』も一区切りでやめていた可能性も。それが10年目を迎えて、公演ができるのは意義あること」と語っていた。また、先月23日に開催され、自身も「暫(しばらく)」を披露した東京オリンピック開会式が話題にあがると、「大変光栄なことだと思います」と感慨ひとしお。「世界中がパンデミックで戦っている中、いろんな反対意見、やらなきゃいけないという意識の人もいるので、そこに参加したのは複雑ではありますね。もろ手を挙げて喜べることではないですが、歌舞伎俳優、日本の伝統文化に携わるひとりとしては、大変役目の大きな仕事だったと思います」と振り返っていた。取材・撮影・文:内田涼公演情報『市川海老蔵 古典への誘(いざな)い』出演:市川海老蔵、市川右團次、片岡市蔵、市川九團次、大谷廣松、市川右近ら演目:通し狂言命懸歌舞伎ノ道筋(いのちがけかぶきのみちすじ)三升先代萩(みますせんだいはぎ)市川海老蔵七役早替り相勤め申し候【北海道】2021年9/4(土)・9/5(日)会場:札幌文化芸術劇場hitaru【宮城】2021年9/7(火)会場:東京エレクトロンホール宮城【岩手】2021年9/8(水)会場:盛岡市民文化ホール【秋田】2021年9/9(木)会場:秋田市文化会館【新潟】2021年9/11(土)会場:長岡市立劇場【群馬】2021年9/12(日)会場:高崎芸術劇場【愛媛】2021年9/14(火)会場:愛媛県県民文化会館【高知】2021年9/15(水)会場:高知県立県民文化ホール【愛知】2021年9/17(金)会場:愛知県芸術劇場大ホール【兵庫】2021年9/18(土)会場:神戸文化ホール【大阪】2021年9/19(日)会場:フェスティバルホール【広島】2021年9/22(水)会場:ふくやま芸術文化ホール【岡山】2021年9/23(木・祝)会場:倉敷市民会館【鳥取】2021年9/25(土)会場:とりぎん文化会館(鳥取県立県民文化会館)【島根】2021年9/26(日)会場:島根県民会館【熊本】2021年9/27(月)会場:市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)チケット情報
2021年08月23日八月花形歌舞伎は、古典の通し上演や、歌舞伎の様式美に溢れる狂言、そして盛夏にふさわしく怪談など、賑やかな演目が出そろう。第一部は『加賀見山再岩藤』。「三代猿之助四十八撰」屈指の人気作で「骨寄せの岩藤」の通称で知られる。御家騒動が起きた多賀家当主の大領は愛妾・お柳の方に心奪われており、御家は様々な陰謀に巻き込まれている。これらすべて側室・お柳の方と、その兄・弾正が仕組んだことだった。一方、二代目尾上となった召使いのお初の前に、突如岩藤の亡霊が現れ……。岩藤のエピソードに焦点を当てた「岩藤怪異篇」として上演する。第二部一幕目は怪談噺『真景累ヶ淵』。富本節の師匠豊志賀は、20歳ほど年の離れた弟子の新吉と恋仲になるが、顔に腫れ物ができる病にかかってしまう。新吉と若い娘お久の仲を勘ぐっては嫉妬に狂って……。三遊亭円朝の人情噺を脚色した作品。怖ろしい豊志賀の執着や、男と女の複雑な心情を描くゾッとするような怪談噺だ。二幕目は『仇ゆめ』。川のほとりにすむ狸が島原の深雪太夫に恋をする。ある日太夫が憧れている舞の師匠の姿に化け、秘めてきた恋心を伝えて大喜びする太夫と連れ舞をするのだが……。恋に落ちた狸の気持ちをユーモラスな踊りで見せる前半から、後半では一途な狸の思いと姿、それに応える太夫のやさしさがしっとりと描かれる。第三部一幕目は『義賢最期』。勇将木曽義仲の父・義賢の壮絶な最期が描かれる本作。組んだ戸板の上で立ったまま倒れる「戸板倒し」や「蝙蝠の見得」、直立のまま倒れ込む「仏倒し」などの激しい立廻りは歌舞伎ならでは。源氏再興を願い、一人で平家に抗う義賢の覚悟が胸に迫る。迫力に満ちた義太夫狂言の名作だ。二幕目は舞踊が二本。『伊達競曲輪鞘當』と『三社祭』。華やかな吉原仲之町で不破伴左衛門と名古屋山三という因縁のふたりが、吉原で再会を果たす。荒事味あふれる伴左衛門と、和事味漂う山三による「渡りぜりふ」は聴きどころ。また、ふたりの個性が際立つ衣裳や、当時のかぶき者達の風俗を題材としたといわれる両手両足を優雅に大きく動かす「丹前六方」など、歌舞伎の様式美に富んだ『鞘當』。もう一本は躍動感と洒落っ気に富んだ清元の舞踊。浅草の三社祭を素材とした『弥生の花浅草祭』の一場面だ。浅草近くを流れる宮戸川(隅田川)のほとりではふたりの漁師が網を打っている。悪玉と善玉がふたりに乗り移り……。それぞれ「悪」と「善」の面をつけたふたりが、悪尽くし、善尽くしの振りを踊る展開が最大のみどころだ。今月も三部制、座席は一部を除いて前後左右を開けた千鳥方式になっている。なお、第一部『加賀見山再岩藤』「岩藤怪異篇」に出演を予定していた市川猿之助が新型コロナウイルス感染のため当面の間休演、坂東巳之助が代役を勤めることが発表されている。取材・文:五十川晶子『八月花形歌舞伎』演目【演目】第一部三代猿之助四十八撰の内「『加賀見山再岩藤』岩藤怪異篇」第二部一、『真景累ヶ淵』豊志賀の死二、「仇ゆめ」第三部一、 源平布引滝『義賢最期』二、『伊達競曲輪鞘當』『三社祭』2021年8月3日(火)~2021年8月28日(土)会場:東京・歌舞伎座
2021年08月03日昨年の南座「吉例顔見世興行」以来、関西で今年初となる大歌舞伎の幕が開いた。大阪松竹座の「七月大歌舞伎」。コロナ禍で「待ってました!」の大向うの掛け声はなくとも、俳優も観客も熱い思いでこの日を迎えた。昼の部は、妖刀をめぐる物語で歌舞伎の様式美にあふれた夏芝居『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』。そして片岡仁左衛門、片岡孝太郎、片岡千之助の松嶋屋三世代がそろう粋で華やかな舞踊『お祭り』。夜の部は、明り取りの天窓の演出が印象に残る、血のつながりを越えた家族の情愛を描く『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』「引窓(ひきまど)」。そして男女の悲恋と親子の情愛を描いた上方和事の代表作『恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)』「新口村(にのくちむら)」。この『伊勢音頭』と『引窓』に、「大阪が好き」と公言する松本幸四郎が東京から出演、意気込みを語った。「七月大歌舞伎」チケット情報「上方のお芝居は僕の好きな人間味あふれるお芝居が多いように思います。客席の反応もストレートで、楽しませてほしいという積極的な気持ちを感じて、とても刺激になります」と、大阪への愛を口にする幸四郎。今回の役を演じるのはどちらも2度目だ。『伊勢音頭』は主人公の侍・福岡貢役で「絵的にとても素敵な芝居で、憧れの役でした。怒りや悲しみ、喜びなどの感情をどれだけドラマチックに動かせるかがテーマです」。『引窓』では追われる身の濡髪長五郎。「大好きなお芝居です。長五郎は強い思いを持ちながらもそれを言わない。自分の気持ちを言うまでの思いを、お客様にどうやって伝えきるかを大切に演じたいです」。ただ、観ていただきたいのは自分の演技以上に、何よりも「歌舞伎です」と強く言う。「上方色のとても強い、歌舞伎を観た実感がある演目です。やっとこの日が来たので、しっかりと歌舞伎をしたい」。現在、他劇場では定員100%で販売する劇場もある中、客席をあえて50%のままに、さらに通常なら昼夜それぞれ三幕構成が多いが、今回は二幕構成にして上演する。また「共演者同士舞台の上でしか会えないんです」。それらはすべて、お客様に安心して劇場に来てもらうため、そして歌舞伎を守っていくための対応と、苦しい中でも劇場は姿勢を崩さない。「お客様も強い思いがあって劇場に足を運んでくださっている。そういう皆さんのお目があったからこそ、初日の幕が開きました。まったく世界が変わった中で、久しぶりに大阪松竹座での歌舞伎。ここから関西でも歌舞伎が開き続けていくと思います。その瞬間を見届けに来ていただきたいです」。公演は7月18日(日)まで、大阪松竹座にて上演中。取材・文:高橋晴代
2021年07月09日今月の歌舞伎座は、親しみやすい対話劇や華やかな舞踊劇、世話物の傑作から歌舞伎十八番まで、見逃せない狂言が揃った。第一部の一幕目は『あんまと泥棒』。あんま秀の市が高利貸をして金を稼いでいるとの噂を聞き、秀の市の家へ押し入った泥棒の権太郎。しかし、秀の市はのらりくらりととぼけるばかり。やがてふたりで酒を飲み始めると秀の市が権太郎に説教を始め。登場人物は秀の市と権太郎だけ。一癖も二癖もあるあんま秀の市と、気のいい泥棒権太郎の人間性が巧みに描かれたユーモラスな一幕だ。二幕目は『蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)』。源頼光主従の土蜘蛛退治を題材にした変化舞踊作品。6役早替りが目にも鮮やかだ。本性を顕した女郎蜘蛛の精が頼光や家臣たちと繰り広げる立廻り、千筋の糸を繰り出すクライマックスまで、見どころたっぷり、変化舞踊の醍醐味を堪能できる華やかな一幕。第二部の一幕目は、『新古演劇十種の内 身替座禅(みがわりざぜん)』。大名の山蔭右京は恐妻家なのに大変な浮気者。愛人の花子と逢引したいけれど奥方玉の井が外出を許さない。そこで右京は邸内の持仏堂で一晩座禅をすると嘘をつき、家来の太郎冠者を身替りに立てて花子のもとへ向かう。しかし奥方玉の井にこのことがばれてしまい……。夫婦のやり取りが可笑しみを誘う松羽目物の人気作だ。二幕目は『御存 鈴ヶ森(ごぞんじすずがもり)』。東海道、品川宿付近の鈴ヶ森は刑場に近く、夜になると無頼の雲助たちの溜まり場となる。そこへお尋ね者の美少年・白井権八が通りかかるが、襲い掛かる雲助たちを見事な刀さばきで斬り払っていく。その様子を駕籠の中からじっと見つめていたのが江戸随一の侠客・幡随院長兵衛だった……。権八と雲助たちのユーモラスな立廻りや、長兵衛と権八の再開を約束するやりとり、底知れない闇に包まれた江戸の情景など、鶴屋南北らしさあふれる名作。第三部は『雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)』。歌舞伎十八番の魅力が凝縮された壮大な物語だ。二世市川團十郎により初演され、歌舞伎十八番の『毛抜』、『鳴神』、『不動』の3作品が織り込まれた成田屋ゆかりの通し狂言。天下を揺るがす大悪人を懲らしめようとヒーローたちが大活躍する勧善懲悪の物語に、豪快な荒事芸、早替りや空中浮遊と、歌舞伎ならではのスペクタクルあふれる一幕だ。座席は今月も一部を除いて千鳥型。また第三部は公演期間が異なるため注意が必要だ。取材・文:五十川晶子『七月大歌舞伎』演目【第一部】11:00開演一、『あんまと泥棒』二、『蜘蛛の絲宿直噺』【第二部】14:30開演一、『新古演劇十種の内 身替座禅』二、『御存 鈴ヶ森』※『御存 鈴ヶ森』について、中村吉右衛門が出演を予定していた偶数日を含め、中村錦之助が全日程を勤めます。【第三部】17:40開演通し狂言『雷神不動北山櫻』第一部・第二部:2021年7月4日(日)~2021年7月29日(木)第三部:2021年7月4日(日)~2021年7月16日(金)会場:東京・歌舞伎座
2021年07月04日抜け目のないあんまと、どこか憎めない泥棒の丁々発止のやりとりがユーモラスな『あんまと泥棒』が、歌舞伎座『七月大歌舞伎』に登場する。1951年にNHKラジオドラマで放送された村上元三の脚本をベースにした登場人物ふたりだけの対話劇だ。尾上松緑が泥棒権太郎、あんま秀の市を市川中車が勤める。中車が秀の市を勤めるのは今回が4度目。初めて勤めたのは平成27年の明治座、泥棒の権太郎は市川猿之助だった。「45分間目をつぶりっぱなしというのは、どういう世界観なのだろうと思っていました。映像ならシーンを切り貼りしてつなげていけますが、舞台では実際に声を耳で聞くしか手段がないので、相手の言葉にとても敏感になりましたね。初役では権太郎が四代目(市川猿之助)でした。呼吸や間の感覚が近くて血縁というものを感じました。逆に2度目はこんぴらで愛之助さんと、3度目が歌舞伎座で(尾上)松緑さんと、音羽屋さんとの色の違い、松緑さんと僕との差異が面白かったですね」この差異こそがこの作品の本質なのではないかと、気づいたと語る。市川中車「松緑さんの素の姿というのは、まじめで後輩やお弟子さんたちの面倒見のよい、実に好い人。そういう印象が僕の中にあるんです。権太郎の持っている人品の好さが松緑さんに内蔵されているように感じました。僕ら小中高では暁星(学園)の先輩後輩でもありますし。今回もまた松緑さんの息遣いを感じながら勤めたいと思います」中車が最初に映像で観た秀の市は中村嘉葎雄のそれだった。「嘉葎雄さんのひょうひょうとした感じ、動き、これをお手本にしたいと思っていたのに、頭のどこかで“歌舞伎らしくしなきゃ”と力が入っていたのでしょう。もう一度勉強しなおして、リアルな芝居の面白味を素直に出していきたいと思っています」また昨年11月に市川猿之助の五役早替りで話題となった華やかな舞踊劇『蜘蛛の絲宿直噺』もこの七月大歌舞伎で再演される。中車は初役で渡辺綱を勤める。『七月大歌舞伎』チラシ「昨年8月に再開して以来、歌舞伎座では三部制を敷いていますが、一部のうち二演目両方に出演するのは久しぶり。一演目だけに出演というペースに慣れて来たところなので、大丈夫かな、まずそこからですね(笑)」この4月には猿翁十種の内『小鍛冶』で猿之助と出演したことも大きな転機となったという。能から取った所作事だ。「終始四代目にひっぱってもらいながら共に鍛冶の相槌を打つ、これはもう僕にとってはかけがえのない時間でした。ところがどれほど稽古しても、それでも舞台本番で何かしら間違えてしまうんです。ふたりでトンテンカンテンとやっていると三味線や鳴物の音がずれて聴こえることがあって、僕が間違ってしまって。四代目とクルリと位置を入れ替わるとき、”すみません!”と小声で謝ると、四代目が”え~~~~!”と(笑)。それでも何も間違えていないかのようにフォローし合う。これに痺れて痺れて。父(市川猿翁)と(市川)段四郎の叔父とが踊ったときもこういう瞬間があったのかなと想像しましたね。ふたりで相槌をトンテンカンテンと打ち合う、行のような不思議な時間でした」僕の中に間違いなく歌舞伎の血が流れている歌舞伎の世界に入り、丸9年。時代物、世話物、古典に新歌舞伎、様々な演目に出演してきた。「時代物の修業を経ていない役者が世話物を演るわけですから、問題点が噴出してしまいました。よりどころとなる型がない状態では、どんなに稽古しても大海原で迷っている船のようなもの。稽古する膨大な時間を絞り出せるのなら、時代物の方が世話物よりは安定したものになるとは思います。でも今は両方とも難しいと感じている段階で、何ひとつ会心の出来と思えるものがない。この苦しみは僕だけに特有のもので、これはずっとついて回るものだと覚悟しています。そしてとにかく舞台に立ち続けていくしかない。そう思っています」その苦しみの中にあっても、歌舞伎の舞台の上にこそ生きている実感があるという。「歌舞伎の初舞台の演目が『小栗栖の長兵衛』でした。百姓長兵衛の僕が簀巻きにされて舞台に寝そべっている場面があります。ふと上を見上げると、曾祖父(初代市川猿之助)と祖父(三世市川段四郎)の二人の大きな写真がバトンに吊るされているのが見える。次の幕の『口上』で披露するためのものです。それを真下で横たわって眺めているとき、“ああ、俺は生きている”と感じました。市川中車それに『小鍛冶』でも従弟である四代目と相槌を打っているときも、先の猿翁さん、中車さん、段四郎さんが“舞台に居るなあ”と感じるんですよ。彼らが聴いてくださっているとね。もしも子供のころから歌舞伎俳優として育っていたら、そこまで思わなかったかもしれない。でも今の僕にとっては形に残る映像作品よりも、日々消えていくこの歌舞伎の舞台の方が生きているという実感がある。これはやはり僕の中に間違いなく歌舞伎の血が流れているからだと思いましたね」コロナ禍で以前のような歌舞伎座の雰囲気はまだまだ戻ってきていない。「去年のコロナ自粛期間中は、その前から始めていた日舞の稽古をずっとやっていました。体ができていないと動けませんのでね。今思うのは、大向こうさんだけでも戻ってきてくださったらなあと。声がかからないのは僕だって寂しいのですから、大先輩方はさぞかし寂しい思いだろうと思います。義太夫さんが黒い前垂れで口を覆っていますが、あれも苦しいだろうと思いますね。早く何とかしてあげたい」コロナ禍でなければ今年の夏、歌舞伎座の舞台にも、舞台から見える客席にも、違う景色があったかもしれないとも。「良くも悪くもこの夏はザワザワした雰囲気になるでしょう。でも僕らは毎日歌舞伎座で粛々と歌舞伎をやるだけです。毎日寸分違わず同じ時間に楽屋へ入り、ミリ単位の違いに神経をとがらせて正しい位置を狙い、一人ひとりがそれぞれの家や歴史を背負って毎日舞台に立つ。それをその日いらしたお客様がご覧になって帰っていく。その一日限りの交差がなんとも面白いですよね。歌舞伎の醍醐味だと思いますね。コロナ禍の前の状態に一日も早く戻すためにも、いつも通り、ぶれずにしっかりと勤めなければと思っています」中車の出演する『あんまと泥棒』『蜘蛛の絲宿直噺』は七月大歌舞伎第一部で上演される。上演期間は、一部と二部は7月4日(日)~29日(木)、第三部は7月4日(日)~16日(金)までと異なっているのでご注意を。取材・文:五十川晶子『七月大歌舞伎』演目【第一部】11:00開演一、『あんまと泥棒』二、『蜘蛛の絲宿直噺』【第二部】14:30開演一、『新古演劇十種の内 身替座禅』二、『御存 鈴ヶ森』※『御存 鈴ヶ森』について、中村吉右衛門が出演を予定していた偶数日を含め、中村錦之助が全日程を勤めます。【第三部】17:40開演通し狂言『雷神不動北山櫻』第一部・第二部:2021年7月4日(日)~2021年7月29日(木)第三部:2021年7月4日(日)~2021年7月16日(金)会場:東京・歌舞伎座
2021年06月20日カウンターはレストラン、テーブル席はビストロ既視感のある料理ながら、想像を超える味わいシェフの世界観、「心地よいちぐはぐ」を楽しむレストランとビストロが両立?!常道を超えていく新世代シェフのお店へレストランであり、ビストロでもある画期的な新スタイル縦長なお店で、一番奥がキッチン。「臨場感のあるカウンターがいいな」と勝手に座ってはいけません。【ars】には2つの顔があり、カウンター4席は完全予約制で11,500円(税込)のコース料理を提供するシェフズテーブル。でも、テーブル席はアラカルトで楽しめるビストロなのです。カウンターはコース料理のみで要予約。テーブル席のアラカルト料理は500円0時にレストランとして利用することもできれば、普段の食事、あるいはちょっとつまみながらワインを飲みたいなとふらりと立ち寄ったり、気の置けない仲間とアラカルトで前菜やメイン数品を頼んでカジュアルに楽しんだり……。1つの空間の中に、レストランとビストロ、2つの顔を持つお店なのです。今回は、特別感のあるカウンターのお料理を中心に紹介します。丁寧な仕事と探究心で、クラシックとモダンが調和する個性的な皿へ昇華オープンキッチンを目の前に、クリテイティブな料理を楽しめる完全予約制のカウンター席カウンターは9品11,500円のコースのみ、要予約伝統と革新が共存するパイ包み焼き、フォアグラのお皿多彩なワインで楽しむペアリング厚みのある個性的な木のカウンターエリアは、紫とゴールドの菊花模様の壁紙も印象的。たった4席ということもあり、シェフズテーブルに招かれたような特別感があります。完全予約制のこの席では9品11,500円のコース料理のみを提供。オーナーシェフ・髙木和也さんの信念でもある、クラシックとモダンが調和するガストロノミーを、調理風景を見ながら臨場感たっぷりに堪能することができます。『パイ包み焼き』オマール海老のパイ包み焼き ビスクソースパイは芳ばしくサクサクの焼き上がり、フィリングはしっとり。絶妙な火加減で楽しませてくれます「僕の料理の特徴は、まず既視感のあること。でも、食べると“あれ?想像していたのとは違う”と感じてもらえるような食感や味わいにしています」と話す髙木シェフ。スペシャリテのパイ包み焼きは、パイはサクサク、中身はしっとりジューシーで食べた人を魅了します。「パイとフィリングの火入れ加減をジャストなタイミングで両立させるのが難しいんです」。確かに、パイが生焼けだったり、フィリングがパサついていたりするパイに遭遇したことが何度かある。「フレンチ料理人の腕を試される一品。これを極めたいと思いました」と髙木シェフ髙木シェフ自身も、レストランを食べ歩くなかで改めてパイ包み焼きの難しさを痛感。食べる人をがっかりさせないために修練を積まなければと、どんなに忙しいときでも火入れに失敗しない方法を編み出したそうです。そういった、探究心の強さもシェフの魅力であり、実力として確実に蓄積されているのです。『フォアグラのテリーヌ』フォアグラとパン・デピスのメレンゲ 菊芋のピュレとデコポン脂っこいというフォアグラのイメージからは程遠く、軽やかな食感フランスの出汁、フォンを引くのも決して手抜きをせず、一つ一つ丁寧に基礎を固めて、ブレない土台を作る髙木シェフ。その上で、教わってきたことを鵜呑みにするのではなく、なぜそうなのかを検証し、試行錯誤を重ねて新たな美味を再構築していくそうです。そんな中で生まれたもう一つのスペシャルテがフォアグラのテリーヌ。「【レフェルヴェソンス】や【ラ・フィネス】で働いていたとき、血抜きの仕方や火入れの温度、時間などシェフと一緒に実験的に色々試していました」と髙木シェフ。パン・デピスに入っているシナモン、ナツメグ、クローブなどのスパイスを使い、薄い板状にしたメレンゲでデコレーション修業時代の経験をもとに独自に編み出した「現段階ではこれがベスト」という火入れで、自信を持ってスペシャリテとして出しているフォアグラのテリーヌ。相性の良いパン・デピスは、「軽やかに味わっていただきたいから」とメレンゲに仕立てられています。濃厚な味わいながらも驚くほどライトな食後感。「脂を酸化させないこと、これも胃もたれしない重要なポイントなんです」。見えないところまで徹頭徹尾の配慮と手間暇で食材のよいところだけを引き出してくる髙木シェフ。美味しさへの飽くなき探究心に頭が下がります。『前菜3点盛』コースの2皿目、カニクリームコロッケ・竹炭のチュイル・馬肉のタルタル「既視感がありながら予想を裏切る味わいを目指している」というシェフの言葉がよくわかるのが前菜の3品。丸いコロッケは、「カニクリームです」と言われて口に入れると、クリームがとろーりではなく、ほぼカニ!新玉ねぎのムースを竹炭でコーティングした葉巻のような一品は見た目もユニークで既視感というより独創的な一品ですが、馬肉のタルタルは、昆布締めにしている意外性、旨みに、生ではなく固めた卵黄を散らしたり、山椒の葉で日本の季節感をプラスするなど遊び心にあふれています。髙木シェフが実際に飲んでおいしい、料理に合うと思ったワインたちフランスを中心にしながらも、イタリア、スロベキア、ポーランドなど価格も味わいも多様なラインナップワインは、カウンターのコース料理ならペアリング(基本は6種・6,600円、+1,900円でシャンパーニュ)がオススメです。既成概念にとらわれず、料理を作った髙木シェフ本人がセレクトするので、説明にも熱が入ります。フォアグラには日本酒、寺田本家の「醍醐のしずく」を合わせてくるあたり、お酒好きならきっと話が盛り上がるでしょう。いろいろな要素が混在しながらも不思議にまとまりを見せる飽きのこないインテリアインテリアも料理も、「心地よいちぐはぐ」をテーマにしているとのことで、確かにじっくり店内を見回してみると、椅子の色が違っていたり、洋と和が混在していたり、ビストロは大理石風のテーブル、カウンターは木などいろいろな要素がミックスしているけれど、一つの世界観ができあがっています。料理も、流行りだけを追いかけるのではなく、古典を踏まえた丁寧な仕事を重ね、なおかつ、そこに現代的な視点、科学的な理論、現代の調理器具などを総動員。「いいとこ取り」の工夫で美味しさを進化させています。既成概念にとらわれず、当たり前を超えて常にベストなものを追求、調和させて世界観を膨らませていく髙木シェフの今後の料理、活躍が楽しみでなりません。シェフプロフィール:髙木 和也1985年、千葉県生まれ。西麻布の【L’Effervescence】で部門シェフ、新橋の【Restaurant La FinS】でスーシェフなど、都内の星付きレストランで研鑽を積む。その後、渋谷の【Calie】と表参道の【L’Evol】で料理長を務めた。33歳からは独立のための店舗経営の勉強を兼ねて、レストランコンサルタントの会社で働き、30店舗以上の新店舗プロデュースに関わり、退社後も個人コンサルタントとして活躍。2021年4月、独立を果たす。ars【エリア】人形町/小伝馬町【ジャンル】フレンチ【ランチ平均予算】2000円【ディナー平均予算】15000円【アクセス】人形町駅 徒歩3分
2021年06月09日