子ども以上、大人未満。親や教師が描く他人の物語から自分の物語を生きはじめる分岐点。その記憶は、眩しくキラキラ光っている人もいれば、暗く混沌と濁っている人もいるかもしれない。誰もが理想と現実の狭間で、この先の人生をどう生きるのかを考えながら過ごしていたあの頃。新進気鋭の24歳。枝優花(えだ ゆうか)監督が、人生で初めて撮った長編映画「少女邂逅(しょうじょかいこう)」は、彼女が14歳の時に受けたイジメの経験をきっかけに生まれた作品だ。この映画は、クラウドファンディングで集めた資金に合わせて、彼女が私財を投じてつくった自主制作映画でありながら、第42回香港国際映画祭、第21回上海国際映画祭と海外の大規模な映画祭で正式招待上映を果たすなど異例の快挙を成し遂げている。SNS上では、公開前から映画に関する投稿が盛り上がり、6月30日に東京の新宿武蔵野館で一般公開された後は、連日多くの感想がタイムラインに飛び交っている。その反響は10代、20代の女性を中心に、年齢、性別を越えて広がり続けている。新宿武蔵野館では、盛況を受けて8月10日まで上映期間の延長が決定。これから、関西を初めとする全国20以上の映画館で順次上映することが決まっている。そんな喧騒のなか、この映画を撮影した背景と、そこに込められた思いについて、枝監督に改めて話を聞いてみた。枝監督の取材第一弾▶︎「私達の世代で邦画の全盛期をもう一度つくりたい」。24歳の映画監督 枝優花が今、人生を賭けて撮る映画映画「少女邂逅」あらすじいじめをきっかけに声が出なくなった小原ミユリ。自己主張もできず、周囲にSOSを発信するためのリストカットをする勇気もない。そんなミユリの唯一の友達は、山の中で拾った蚕。ミユリは蚕に「紬(ツムギ)」と名付け、こっそり大切に飼っていた。「君は、私が困っていたら助けてくれるよね、ツムギ」 この窮屈で息が詰まるような現実から、いつか誰かがやってきて救い出してくれる――とミユリはいつも 願っていた。ところがある日、いじめっ子の清水に蚕の存在がバレ、捨てられてしまう。唯一の友達を失って絶望するミユリ。 そんな中、通う学校に「富田紬(とみたつむぎ)」という少女が転校してくる…(オフィシャルサイトより)少女というテーマに特別なこだわりはない少女邂逅の主人公は2人の17歳の少女である。枝監督は、学生時代からこれまで、『美味しく、腐る。』『さよならスピカ』といずれも少女を主人公にした映画を撮り続けて来た。去年アイドルグループSTU48のデビューシングル「暗闇」のMVの撮影も担当。また現在、「溺れるナイフ」等の作品で知られる山戸結希監督主催のオムニバス映画企画「21世紀の女の子」にも参加しており、現代の少女のリアルを描く名手として認知されていることも多いように思える。ところが、彼女に「少女」というテーマへのこだわりについて話を聞いてみたところ意外な答えが返って来た。良く誤解されがちなんですが、実は「少女」というテーマに対して特別な思い入れがあるわけではないんです。個人的には、「女の子としての幸せ」とか「女の子としてどう生きるか」みたいな話にはあまり共感出来なくて、それよりも「人としてどう生きるか」を考えることが大切なんじゃないかと思っています。 男や女、大人や子ども。私達はつい人を勝手にラベリングしてカテゴリーに分けて判断してしまいがちだが、彼女は、この時代に人を年齢や性別で勝手に線引きして考えてしまうことはナンセンスだと語る。個人的な興味関心としては、男女関係なく、14歳くらい思春期の多感な時期の人間の内面に何故か惹かれるということはあります。たまたま、私は女なので、男の子のすべては描けないなと思って、少女を主人公にした映画を撮って来ました。一方で、「少女邂逅」がInstagramやTwitterなどのSNSで話題になってからは、熱心な10代の女性ファンが急増した。彼女が時に自身の内面や葛藤も綴るInstagramでは、ある時期を境に10代の女性ファンからDM(ダイレクトメッセージ)で人生相談をされる機会が多くなったと言う。初めは映画業界に関する相談が多かったのですが、何故かだんだん、部活の悩みとか、進路の悩みとか、プライベートな相談がくるようになりました。そんな大事なこと私に相談して大丈夫?と思いながら、逆に親とか友達には相談出来なくて、勇気を出して連絡をくれたのかなと思って出来る限り返信すようにしていました。そして、よくよく思い返してみると、どの悩みも過去に自分が歩んできた道に通じているところがありました。かけがえのないものとの出会いによって人生はつくられていく今って、スマートフォンやSNSで常に誰かとつながっているので、放っておいても、勝手に他人の意見が耳に入ってくる状態じゃないですか。自分がなんとなく思っていることでも、実は気づかない内に他人の意見や世間の意見に染まっているものだったりして。そこに本当に自分の意志はあるのかなと。自由に意見が言えるようにみえて、実は本当に言いたいことは言いづらい空気があって、そんな環境で育った子達は「自分はどうしたいか」という意思が驚くほど弱いと感じることがあります。そう話す彼女も、かつてはまわりの目を気にして、言いたいことが言えない少女だった。そんな自分を変えてくれたのが、他人の目を気にせず夢中になれる映画と、自分の才能に気づかせてくれる大人達との出会いだったと言う。映画「少女邂逅」の公開前に開催された写真展では、入り口付近に展示されたパネルにこんなセリフが書かれていた。“この世界で、何らかの接点を持つ人と出会う確率は24万分の1だという。そして友人と呼べる人と出会う確率が2憶4000万の1。さらに親友と呼べる人と出会う確率は24憶分の1。思いがけない巡り会いが何度も何度もやってくる”映画のタイトルに入っている「邂逅=かいこう」とは「思いがけない巡り会い」を意味する言葉だが、この言葉にはどんな思いが込められているのだろうか。映画は一番「人を映すことが出来る」メディアだと思うから実は映画に関して自分のなかで納得できたという経験がまだ全然ないんです。作品が公開されて多くの人が観てくださって、時に褒めてもらえるのはもちろん嬉しいんですけど、それで満たされるということはまったくないです。何が正解とかもないと思うのですが、逆になかなか手ごたえを感じられないから、ずっとつくり続けてこれたのかもしれません。 写真、ドラマ、MVと様々な領域でマルチに活躍しながらも、映画に対して特別な思い入れをもつ彼女。最近友人との会話のなかで、何故自分がこんなにも映画に惹かれるのかの理由が少し分かったらしい。映画って一番「人を映すことが出来るメディア」なのかなと。私は、一言では説明できないような人間の感情とか、関係とか、曖昧なものに興味があるんですが、映画は人間のエモーショナルなところを一番削ぎ落さずに表現出来るメディアな気がしています。そんな映画のなかで、人の人生や心を撮っていくことが自分にとって楽しいのかもしれないと思いました。少女邂逅Websiteいじめをきっかけに声が出なくなった小原ミユリ(17)。そんなミユリの唯一の友達は、「紬(ツムギ)」と名付た蚕だった。ある日、いじめっ子の清水に蚕の存在がバレて、山中に捨てられてしまう。唯一の心のよりどころを失って絶望するミユリ。ところが、その次の日、ミユリの通う学校に「富田紬(とみたつむぎ)」という少女が転校してくる…若手映画監督・ミュージシャンの登龍門となっているMOOSICLAB2017観客賞受賞。主演にはミスiD2016グランプリの保紫萌香(ほしもえか)、ファッション雑誌『装苑』等でモデルとして活躍するモトーラ世理奈(せりな)。音楽には「転校生」名義で活動していたミュージシャン・水本夏絵が参加。第42回香港国際映画祭および第21回上海国際映画祭正式招待作品。6月30日から新宿武蔵野館にて一般公開がスタート。反響を受けて2度の期間延長を経て、8月10日までロングラン上映中。8月中旬からは、関西、中部、東北地方など全国で順次公開予定。▶︎オススメ記事・「私達の世代で邦画の全盛期をもう一度つくりたい」。24歳の映画監督 枝優花が今、人生を賭けて撮る映画・「今の時代、性別は一人ひとり違っていいはず」。アートやファッションで「多様な性のあり方」を発信する18歳All photos by Yuki NobuharaText by yuki kanaitsukaーBe inspired!
2018年08月01日香港映画祭にインディーズ映画ながら異例の選出をされた話題の作品『少女邂逅』が、6月30日から新宿武蔵野館、イオンシネマ板橋ほか全国順次公開。©2017『少女邂逅』フィルムパートナーズ『少女邂逅』は、若手映画監督・ミュージシャンの登龍門となっている「MOOSICLAB2017」に向けて製作された作品。同映画祭では全7回の上映をすべて満員で終え、観客賞を獲得した。2017年5月に公開された特報予告編は総再生数162万回を突破し、国境を超えてアジア圏を中心にSNSでも話題沸騰となっている。監督を務めたのは、大学生時代の2013年『さよならスピカ』が早稲田映画祭りで観客賞、審査員特別賞を受賞した枝優花。主演にはミスiD2016グランプリに輝き、歌手・大森靖子にも存在感を絶賛された透明感を放つ美少女・保紫萌香と、RADWIMPSのアルバム『人間開花』のジャケット写真が話題になり、ファッション雑誌『装苑』の所属モデルでもあるモトーラ世理奈。200人以上の応募者の中から選ばれた2人に華を添える音楽には「転校生」名義で活動していたミュージシャン・水本夏絵が参加。©2017『少女邂逅』フィルムパートナーズ弱冠23歳の新鋭監督・枝優花が手掛けた本作の原案は、14歳の頃の実体験だ。いじめをきっかけに声が出なくなった小原ミユリ(保紫萌香)は、自己主張もできず、周囲にSOSを発信するためのリストカットをする勇気もない。そんなミユリの唯一の友達は、山の中で拾った蚕。ミユリは蚕に「紬(ツムギ)」と名付け、こっそり大切に飼っていた。「君は、私が困っていたら助けてくれるよね、ツムギ」この窮屈で息が詰まるような現実から、いつか誰かがやってきて救い出してくれる――とミユリはいつも願っていた。ある日、いじめっ子の清水に蚕の存在がバレ、捨てられてしまう。唯一の友達を失ったミユリは絶望するが、その次の日、ミユリの通う学校に「富田紬」という少女(モトーラ世理奈)が転校してくる――。©2017『少女邂逅』フィルムパートナーズいじめによって“場面緘黙症”となり、声が出なくなってしまった監督自身の経験を軸に、2017『少女邂逅』フィルムパートナーズ蚕のように容姿も中身も変容する少女たちの残酷でありながら、まばゆい青春映画を完成させた。一般公開前から国内外で話題沸騰の本作。ぜひ劇場に足を運んでみては?【作品情報】『少女邂逅』監督・脚本・編集:枝優花出演:保紫萌香、モトーラ世理奈公開日:6月30日 新宿武蔵野館、イオンシネマ板橋ほか全国順次公開配給:SPOTTED PRODUCTIONS
2018年05月03日