監督がリフティングの規定回数を設けていて、達成できない子は試合に出さない。リフティング回数より試合経験を積む方が良いと提案しているが聞き入れてもらえない。保護者の中にも回数を重視している方も多く、「できてないのに試合に出すのか」という声も。どうして日本はこんなにリフティングの回数を重要視しているの?と悩むコーチからのご相談です。既定の回数を設けて評価することは、本来のリフティングの目的から外れるのでサッカーのスキル向上が望めないことや、子どもの自信喪失につながると池上正さんは言います。ではどんな改善を行えばいいのか。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<6歳までに脳の神経系発達は90%に!?サッカーの時間にできる未就学児におすすめの脳を発達させるメニューはある?<お父さんコーチからの質問>U‐8年代の指導をしているのですが、リフティングの回数についてのご相談です。監督がリフティングの規定回数を設けていて、できない子は試合に出しません。既定の回数ができていなくても試合経験を積ませる方が良いのでは、と提案しているのですが、改善してくれません。確かにボールコントロールを身につけるのに役立つ練習ではありますが、同じ場所で回数を重ねるリフティングがサッカーの上達に大きく影響するとは個人的にも思いませんし、実際にプロ選手や指導者の方も回数は重要ではないと言っていますよね。監督もですが、保護者の中にもリフティングの回数を重視している方も多く、「できてないのに試合に出すのか」という感じの事を言う方もいます。子どもたちもリフティング練習が好きで、一人でやれる手軽さもあって家でもやっているようですが、海外では日本のようなリフティング練習は無いとも聞きます。プロ選手でも何十回もできない選手もいるようですし。どうして日本はこんなにリフティングの回数を重要視しているのでしょうか。根深い問題だと感じています。リフティング信仰から目を覚まさせるアプローチや、おすすめの練習などはありますでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。欧州や南米の子どもはリフティングをして遊びますが、回数を数えません。しかも、リフティングをするのは基本的に小学生くらいの年代、子どもの間だけです。有名な選手がやっていたリフティングの技を真似して遊びます。ロナウジーニョ(元ブラジル代表)やネルシーニョ(柏レイソル監督)などでしょうか。そして、それらを選手が試合で使っていることを知っているので、自分たちも実際に試合でやるために練習するのです。■規定回数での評価はスキル向上につながらないしたがって、回数を数えてリフティングをするのは日本だけです。コーチに「百回目指せ」とか「千回できた人から試合に出します」などと回数を定められ、その目標に向かって黙々とやります。規定回数があるため、失敗したくありません。失敗しないために、ずっと利き足だけでやる。もしくはずっと同じ蹴り方、例えば全部インステップでやるという状況になりがちです。ボールを扱うスキルを向上させるために始めたはずが、途中で「決められた回数をやる」という本来の目的とは違うものにすり替わっていきます。欧州や南米はそうならないのに、なぜ日本だけがこうなってしまうのか。それは教育が関係しているようです。学校教育の特徴として、テストであれば100点を取ることが求められます。何か数字的な目標があって、そこに向かって突き進む。よって、リフティングも回数が決められてしまうのだと考えられます。スポーツが「評価されるもの」というとらえ方を大人がするので、子どもにとってスポーツをする楽しさがどんどん半減していきます。しかしながら、そうなってしまうと、もとの目的からどんどん離れてしまう。もっと言えば、サッカーでなくなってしまうわけです。スキルの向上は望めないうえに、決められた回数に届かない子どもは「ぼくはダメだ」と自信を失います。回数というわかりやすい指標があるため、子ども同士で比べあってぎくしゃくすることもあります。■スキルを磨くのは試合で使うため例えば、少しボール扱いはスムーズでなくても、空間認知の能力が高くいいところでボールを奪えたり、危険察知能力があってポジショニングが上手な子など、目に見えづらい力を持っている子どもたちがいます。そういう子どもが意欲をなくしたり、悪くすればサッカーから離れるといったリスクも考えられます。先日、中学生が「ヒールリフトを練習したので、見てください」と言ってやってきました。実際、彼はとてもうまくなっていました。「せっかくうまくなったんだから試合で使ってごらんよ」私がそう言うと、彼は「え~っ?」と驚くのです。「いや、何のために練習したの。ヒールリフトってどうしても抜け出せないときに、使うと便利だよね。コーチも練習して使ったよ」彼の反応からは、使う気がないけれど練習したことが伝わってきました。そんな子どもをブラジルのコーチが見つけると、「君はサーカスに行くの?」と言います。練習はあくまでサッカーの試合に出てくる技術を磨くのが目的です。そうすると、リフティングをする場面はどのくらい出てくるでしょうか。百歩譲ったとしても、浮き球のコントロール程度です。それを何千回もできる必要があるでしょうか。フットサル指導者のミゲル・ロドリゴさんも「リフティングは試合で使わない」とおっしゃっていました。立ったまま動かずにボールを何度もリフティングするような場面は、試合にはありません。スキルを磨くのは試合で使うためです。日本の指導者や子どもたちはそこをもっと意識すべきです。■利き足だけでなく、身体のいろんな場所でのコントロールを心がけることよって、リフティング練習は基本、必要ないと思います。ただ、リフティングをさせるのなら、回数を目指すのではなく、試合で使うスキルを向上させることを念頭においてください。まずは、二人でボールを交換する練習をしましょう。パスを受けたらリフティングして返す。ダイレクトで返す。左右交互に使う。もも、肩、頭、胸など身体のいろいろな場所を使ってコントロールすることを心がける。二人でパス交換しながら移動してもいいし、ひとりでやるのなら壁に充てたボールをリフティングする。また、お母さんやお父さんに投げてもらったボールをコントロールして返す。それも可能なら移動してやる。このような練習は、ボールコントロールのスキルだけでなく、身体のバランスをよくするコーディネーションにもつながります。神経系を刺激して自分の思うように身体をスムーズに動かす力を養います。そのためにも右も左もバランスよく使うことが肝要です。私は大学時代、インステップを左右、アウトサイドで左右、インサイド左右からヘディング、そしてまたインステップに戻る練習をひとりでよくやりました。このようにさまざまな蹴り方、運び方を何周もするのは容易いことではありませんでした。ひとりでやるときは、そんな方法もあります。次ページ:指導者が制限をかけるとサッカーの楽しみが減ってしまう■指導者が制限をかけるとサッカーの楽しみが減ってしまう(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)もうひとつ、指導者の視点で言うと、ある意味自分が見てなくてもいいのがリフティング練習です。100回やるよと指示して、できない子にハッパをかける。言い方は悪いかもしれませんが、コーチが楽をできる練習です。そうやって指導者が子どもたちに制限をかけていくと、サッカーの楽しさが減ってしまうでしょう。指導の場面にそぐわないように思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年09月11日6歳までに脳の神経系統が大人の90%に発達すると知り、脳を発達させるメニューを知りたいコーチ。ですが、未就学児に集中させるのは難しいですよね。飽きて一人でほかの事をしだす子もいるし、この年代に教えるにはどうすればいい?というご相談です。今回のご相談に池上さんが提案する、子どもたちが楽しんで取り組める「遊び」の要素を取り入れたメニューとは。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<技術はあるのに「1対1を組み合わせた」単騎攻撃ばかり。連携のイメージをつけさせる指導法を教えて<お父さんコーチからの質問>スクールで未就学児を指導しています。6歳頃までに脳の神経系統は大人の90%にも達すると聞いたので、脳を発達させるためにいろんなことにチャレンジさせたいのですが、いかんせん集中が続かない年代なので、練習にあきたり、一人で違う事を始めることもあります。まだ始めたばかりの子たちで、中にはゲームでの接触を怖がったりして積極的にボールを追えない子もいるのですが、この年代におすすめの練習はありますか?<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。おっしゃる通り、脳の神経系統は6歳頃までにぐんと発達します。このあたりの概論は日本サッカー協会のB級ライセンスを取得する際に学びますね。では、6歳までに発達する90%とはどんなことでしょうか?■遊びの中で身体の動きをスムーズにすることもできる例えば、手の指が一本ずつ折れる。グー・チョキ・パーができる。そのような基本的な動きが該当します。そこから、例えば「右手がグーで左がパーをやってごらん」と言われると、ちょっと難しく感じる子どもが出てきます。さらに、その右手グー、左手パーと違うものを出している状態から「グー・チョキ・パーの順番で変えていこう」となったら、ひとつずつずれていくわけです。(大人でも難しかったりします)そうなると、左右違う動きがなかなかできません。そんな基本的な動きを、遊びのなかで行うだけで、身体の動きはスムーズになります。例えば、鬼ごっこ。鬼ごっこには、本当にいろんな動きが含まれています。鬼が来た。鬼が右に行こうとしたのを見定めて、左に動いてタッチを避ける。もしくはかわすためにしゃがむ。動いている場所に、石とか、椅子とか、何らかの障害物があればそれをよけたり、飛び越えて動く。そんなふうにたくさんの遊びの要素をもったものをメニューに取り入れると、スムーズな動きが自然に身についていきます。■サッカーボールを使った左右バランスの取れた発達を図る方法もまた、幼児期にできるものとしては、サッカーボールを手で使うメニューがあります。右手と左手、両方で交互に投げさせます。右で投げるときは右で投げる姿勢と動きに、左は左のそれになります。6歳くらいで始めると、利き手で投げる動作をたくさんやっていないので、左右どちらも簡単にできるようになります。利き手と逆の手で投げる不自由さを感じないので、子どもは抵抗なく交互に試るからでしょう。ずっと利き手ばかりで投げていると、利き手のほうがスムーズなので逆の手で投げたがらなくなります。これは大人もそうですね。これは、足でも同じことが起きます。6歳以下の幼児の頃から両方の足で蹴ることを遊びの中でたくさんやってみてください。そうすると、左右バランスのとれた発達が図れます。■あまり気負わないこと、大人が義務感をもってしまうと「遊び」が楽しめない少年サッカーでは、小学3年生くらいからコーディネーションのようなトレーニングをしていますね。そんなふうに考えてやってみてください。そして、気をつけたいのは「6歳になるまで90%成長してしまうから、今のうちにいろんなことをやろう」と大人が気負わないことです。あくまでも楽しく遊ばせてあげてください。何かの本に書かれている通りにやらせなくてはと大人が考えてしまうと、遊びでやっているはずが遊びでなくなってしまいます。もっと簡単に考えると、幼児期はスキップくらいで十分です。それより上、小学3年生くらいであれば、スキップしながら手を回す。手を叩きながらスキップする。身体全体をスムーズに動かすメニューですね。ほかにも、サイドステップをしながら手を回したり、道具を使う「ラダー」などさまざまあります。ネットで検索すればたくさん出てくるでしょう。ただし、そういった運動を長い時間やる必要はありません。ちょっと経験するくらいの程度でいいのです。足がクロスするような動きの入ったものも3年生くらいからやるといいでしょう。■遊びの要素はとても重要、「我慢」ではなく楽しくて続けられることを意識して「遊びの要素」はとても重要です。大阪教育大学の先生で「子どもの遊び」の研究をされていた方が、子どもが本当に楽しいと感じたものはいつまででもやると言われていました。ノコギリで丸太を切ることにハマってしまった子どもは、30分くらい一心不乱で切り続けます。幼児の集中力は、興味関心と関連があります。楽しくなれば、ずっとやります。大人は、小さい子はすぐ飽きてしまうと思いがちですが、彼らは集中力がないわけではありません。日本人の「集中力をあげる」というイメージですぐに浮かぶのは「我慢・忍耐力・根性」です。ここを改めなくてはいけません。子どもは楽しいものを提供すれば喜んで取り組みます。サッカーも、最初に一番楽しいはずの「試合」から入らないから、そんなことが起きるのだと思います。多少気が弱いとか、相手とぶつかりそうになったらやめるといった傾向があっても、試合はこんなことなんだよ、ボールの取りあいがあって、点が入るとうれしいよね、ということが伝えられたら子どもは変わっていきます。その点で、年齢が下がれば下がるほど、すべてが楽しいものになっている必要があります。指導者も同様の対象です。「あのコーチとやるのは楽しい」という評価が、コーチのありかたにつながってほしいと思います。ところが実際は「楽しい」よりも「勝たせてくれるかどうか」みたいなことがコーチの評価になりがちです。「積極的にやれ」「逃げるな!」と叱ったりする場面を見ることはまだ多いです。しかしながら、子どもにはそういう面があることを理解しておいてほしいのです。「いま、逃げなかったらどうなると思う?」と問いかけて、解決の方法を子どもと一緒に見つけ出すことが求められます。■「無理しなくていいよ」と言ってあげることが大事(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)じゃあ、どんな練習だったら、怖くないかな?こんなふうに一度やってみる?と、少し強度を下げたり、違う形でやるメニューを提供してみることで、子どもたちは克服できる。3年生、4年生になって、子どもがぐっと変わったりしませんか?そこまで待ってあげましょう。この子は弱気だと決めつけたり、無理やりやらせる必要はありません。サッカーが嫌いになってしまいます。「ぼく、できない」と言ったときに「無理しなくていいよ」と言ってあげること。何回かでできなからといって、その子の一生が決まるわけではありません。長い目で見てあげてください。6歳の子が何かができなければ「じゃあ、来年1年生になったらまたやるか」と言ってあげてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年08月28日帯同するコーチによって下の学年の起用機会、頻度が変わるチーム。積極的に起用してくれるコーチばかりなら経験を積めるけど、起用してくれないコーチの帯同が続くと試合に出られない。これが続くと、試合に出られる学年と出してもらえない学年の子たちで技術にもモチベーションにも差がつく。小学生年代なら均等に出場機会を与えてくれてもいいのでは?と悩むお母さんからのご相談です。出場機会の問題にモヤモヤしたり悩んでいる保護者の方も多いですよね。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<試合多すぎ!なのに上手な子ばかりが延々試合に出続ける不条理を何とかしてほしい問題<サッカーママからのご相談>こんにちは。息子(11歳)のチームの指導者についてご意見を聞かせて下さい。チームには10人以上コーチがいるのですが、監督がいません。コーチは、卒業生のお父さんや、在籍中の子の父親などのボランティアコーチです。子どもたちの人数が多くないので2学年で試合に行くことが多いのですが、下の学年の選手起用機会、頻度が試合に帯同するコーチによって違います。積極的に下の学年を起用するコーチだと、上の学年の試合でも必ず一度は出場させてもらえたりしますが、そうでない方だと、上の学年の試合ではベンチにいるだけ。練習試合でも、数分の出場のみ......ということもあり、試合当日のコーチが誰になるかによって考え方が変わる為、不公平が生じています。それが在籍中何年も続くとたくさん試合経験をした子(学年)と、そうでもない子(学年)に分かれてしまうのです。下の学年の起用に積極的なコーチが担当する学年の子たちはいつも楽しそうですし、たくさん試合経験を積めて上手くなっていますが、そうでないコーチが担当する学年の子たち(息子含む)は、モチベーションが上がらないようで淡々としていますし、出場機会の多い子たちに比べると上手くないです。機会の不公平さに、親の方も何だかモヤモヤした気持ちを抱えてしまいます。監督をたてない方針は構わないのですが、コーチたち全員のまとまった方針がないので育成の面で矛盾が生じていると思っています。まだ小学生なので、出場機会は均等にしてくれてもいいのでは。と感じているのですが、このような状態でも親は黙ってみているべきでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。毎回ご相談のメールだけでは判断が難しいものですが、今回は特に難解な事案ではあります。下の学年の選手を起用する機会や頻度が試合に帯同するコーチによって違っていて、試合当日のコーチが誰になるかによって変わる――という理解を私はしました。そうすると、下の学年の選手もたくさん出場させる人と、そうでない人が入れ代わり立ち代わり現れるわけで、均(なら)せば均等ではないかと感じます。違うのでしょうか。■黙って見守ることがマストではない。何をどう伝えるかがポイントいただいたご相談文だと、息子さんは現在「下の学年」ですね。そして、コーチは息子さんら下の学年を試合に出さないということですね。しかし、その方は今度は息子さんが「上の学年」になったときは、息子さんたちを出場させるということになります。例えば2年間くらいのスパンで言えば、試合の出場時間は同じになりそうな気もします。もちろん、このやり方がいいとは言いません。「小学生なので、出場機会は均等にしてくれてもいいのではと感じている」というお母様のご意見、もっともです。そして、親が黙ってみているべきか?という質問については、黙って見守ることがマストだとは私は思いません。このお母さんのケースでは、誰に対し、何を、どのように伝えるかが課題だと思います。クラブ(もしくは少年団)側が、例えば「みんなで作る、みんなのクラブ」をモットーにして、「みんなで意見を出し合っていいクラブにしましょう」と呼びかけているようであれば、意見はしやすい。しかし、息子さんが所属するクラブは、そんな感じでもなさそうです。では、どうするか。■一人で悩まず同じ意見を持つ保護者を集めようまずは、仲間を作りましょう。同じように、子どもたち全員に試合の出場機会を与えてほしいと考えている保護者を集めるのです。ひとつの要望として「こんなふうに考えてほしい」と話をまとめることが先決です。息子さん個人のことでとどまらないよう、チームの課題として考えてもらわなくてはいけません。次に、クラブの代表の方に要望を伝えましょう。監督は置かない慣習のようですが、ひとつの任意の集団なので一番上に立つ代表格の方はいらっしゃるかと思います。徒党を組むというイメージではなく、あくまでもひとり一人の子どもが楽しくサッカーをするために考えてほしいと伝えるのです。この連載の前回(91)で、『上手な子ばかりが延々試合に出続ける不条理を何とかしてほしい問題』を書いています。お母さんと同じように、子どもが試合に出られない不条理を訴えられています。私はこの記事の文中、「日本の少年サッカーの全員出場させない悪しき慣習には、四つのマイナス面がある」と書き、それを説明しました。サカイクのサイトからこの部分をコピーして渡してもよいかと思います。その際、絶対に感情的になってはいけません。まずは、日ごろボランティアでコーチを務めてくださることに感謝の意を伝え、できれば笑顔で主旨を伝えます。その際、当方の記事以外に、サカイクなどで報じられている他クラブや少年団の実践例や、池上正コーチの本なども添えて渡してもよいかと思います。そのように苦心されても、代表の方やコーチの方々からまったく話を受け付けず「クラブのことはクラブに任せて」と言われる可能性は高いでしょう。そもそも、日本サッカー協会のキッズ指導や、ライセンス取得の際に「試合に全員出場させる」ことは規定化されていません。ルールもなく、罰則もないので、コーチたちは技術が秀でた子どもの出場時間が長くなる傾向があります。したがって、全員を出場させるメリットや、逆に全員をプレーさせないリスクが伝えられていません。このため、多くのクラブにおいて、個人の育成やサッカーの普及、チームの底上げよりも、一つ一つの試合を勝つことにベクトルが向いているのが実情です。でも、だからといって、お子さんを他のクラブに移籍させるとか、サッカーをやめさせたりしないでください。■中学に入るまではなるべく楽しめるようにサポートしてあげること(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)11歳なのですでに上級生です。サッカーを遊びだととらえて、息子さんが中学生になるまでなるべく楽しめるようサポートしてあげてください。ゲーム形式の練習をたくさん行うスクールに通うことも一考です。国内でも海外でも、好きなチームの試合を親子でオンラインやテレビで一緒に観てもいいでしょう。試合に出られないことが、ダメだ、情けない。試合に出られないから上達しない。そんなネガティブな事柄を発信しないほうがいいです。試合に出られず一番残念なのも、焦っているのも息子さん本人です。子どもは親が思っている以上に、いろんなことを感じているし考えてもいます。試合以外の練習でサッカーを楽しむ。ミニゲームや紅白戦を目いっぱい楽しむ。そんな姿がお母さんはとても誇らしい。そんなことを伝えましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年08月19日監督が片っ端からカップ戦に申し込む。空いた休日も練習試合を入れたり試合が多すぎ。それなのに監督やコーチの子、うまい子しか試合に出さない。しかも、家族と過ごすことを前提として設けられている「家庭の日」はスポ少などもお休みの日とされているのに、それも無視。考えを改めてほしいけど、指導者に意見するなんて何事だという空気もあって言いにくいし、ほかに移籍するチームもない。どうすればいい?身も心も疲労困憊。というお母さんからのご質問です。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<コーチの差別的な対応があってサッカーをやめてしまった問題<サッカーママからのご相談>小学5年生の息子がスポーツ少年団に所属していますが、試合が多すぎて困っています。地域のリーグ戦に加え、他チームが主宰するカップ戦に監督が片っ端から申し込み、かろうじて空いていた日も自チームでカップ戦を主宰したり、急遽練習試合をいれたりするので土日がほぼ全て潰れます。地域では毎月第三日曜を「家庭の日」としてスポ少の活動を原則禁止していますが、監督は全く無視です。試合数が多い分、チームのいろんな子が起用される機会があればまだ良いのですが、監督やコーチの子と一部の上手な子ばかりが延々と出場し、そうでない子は最後の数分しか出られません。指導者に物申せば、ますます息子の出場時間が減らされるのが怖くて言えません。都会ではきちんと話し合いができるのかもしれませんが、私の地域では監督が偉い立場で、親が口を出すなんて何事だ、という古い価値観があります。移籍も考えましたが田舎のため他に行くチームがありません。せめて日曜日だけでも休ませて欲しいと思っております。私は平日フルタイムで働いており、土日はスポ少の手伝いで身も心も疲労困憊なのですが、世のサッカー少年の親はみんなこんな大変な思いをされているのですか。無理かもしれませんが、監督に何とかわかっていただくための伝え方などはあるのでしょうか。よろしくお願いいたします。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。お母さんの「全員出場させてもらえない」という悩みは、少年サッカーが抱える大きな問題です。公式戦だと固定メンバーになりがちな問題は残しているものの、練習試合は平等にプレーさせるコーチは増えてきています。ところが、このご相談でお母さんは「試合数が多い分、チームのいろんな子が起用される機会があればまだ良いが、監督やコーチの子と一部の上手な子ばかりが延々と出場し、そうでない子は最後の数分しか出られない」と書かれています。ということは、練習試合でも「最後の数分だけ」なのかもしれませんね。サッカーはもちろん、スポーツは試合が一番楽しいに決まっています。しかも、お住まいが地方のほうで、通えるチームがそこしかない、という八方ふさがりな状態です。お母さんのやり切れない思いが伝わり、こちらまで胸が苦しくなってきました。■出場機会の偏りには四つのマイナスがある日本の少年サッカーの、全員出場させない悪しき慣習には、四つのマイナス面があると私は考えます。ひとつは、チーム力の底上げができないことです。上手な子だけが延々試合に出続ければ、出られない子のスキルは上がりません。対人スポーツのサッカーは力が匹敵した相手とプレーすることで成長していくのに、チーム内で実力がくっきり分かれてしまうと、拮抗した場面が生まれません。そうなると、やりがいがあってなおかつ楽しいサッカーからほど遠いものになってしまいます。ふたつめは、小学生は成長とともに体格も運動能力も変わることを、指導者が考えていないことです。そこを加味せず、勝つために低学年のころから足が速い子、体が大きい子ばかり起用すると、あとで伸びてきた選手が経験を積めません。逆に、ずっと試合に出続ける子どもは、一日に何試合もプレーしなくてはいけないので、全力でプレーしなくなります。つまり、走れない選手に育ってしまう。そして、なおかつ、活動過多で、足の甲を疲労骨折する、膝を壊すといった故障を抱えるリスクが上がります。三つめは、人権の問題です。コーチは子どもがサッカーを楽しむという人権を侵害してはいけません。ところが「補欠になったなら、その悔しさをぶつけろ」などと、謎の論理を振りかざします。そんな「俺についてこい」型の指導が根強い日本は、選手よりコーチの意見が強い。そこを緩和するため、以前は「アスリートファースト」などと言われました。この言葉は、スポーツ先進国の欧米では使われません。当然の概念だからです。近頃は日本では「アスリート・センタード・コーチング」と言われるようになりました。文字通り、選手が主役。主従関係が強いままでは、選手は主体的に動けません。主体的に動けないところに、未来につながる本当の意味の成長はありません。四つめのマイナス面は、全員出場をさせる文化でなければ、スポーツは勝利至上主義が過熱してしまいます。そのリスクをとっくの昔に理解しているドイツやフランスと言った欧州のサッカー強豪国は、過熱させないよう配慮して育成してきました。ノックアウト方式のトーナメント大会が少なくリーグ戦文化が根付いていたり、全国大会が実施されないのはそのためです。ブラジルでは、数十年前に全国大会を数年続けたら、ファンタジスタと呼ばれるような面白い選手が輩出されなくなりました。そこで全国大会を廃止したら、ようやくロナウドらが出てきたそうです。■全員試合に出すべき、という考えをまだ理解していない指導者も少なくないそんなこともあって、最近は子どもを全員出場させる指導者は増えつつあります。私が行動を共にしてきた少年サッカーコーチの池上正さんはいま、全国を回って「コロナをきっかけに少年サッカーを変えよう」と環境改善に地道に取り組まれています。と、ここまでご説明したように、少年サッカーは全員試合に出るべきです。お母さんの要望はなんら間違ってはいません。ただ、一方で、そのように考えて実践する指導者は非常に少ないうえに、その指導者たちを育成するコーチングデベロッパーの方々や、都道府県、区市町村のサッカー協会のトップの方もこのことを理解していない方は残念ながら少なくありません。サッカー少年の保護者向けのサイトはほかにもありますが、そのひとつにこんな文章を見つけました。「いつかは誰もが控えになる。そういう可能性があるということを知り、保護者が先に悲観しないのも大事です。保護者の悲観は子どもに移ります。控えで居続けることさえ、全然珍しくないことです。泰然と『時期』を待ってあげてください」これは間違っています。メディアでさえ、新たな価値観に気づいている人は少ないのが実情なのです。■自分一人の力で解決しようとせず、区市町村のサッカー協会にも相談をお住まいの関係上、今の所属先以外でサッカーをする環境はないようです。非常に難しいケースですが、以下にアドバイスをさせてください。まず、「監督に何とかわかっていただくための伝え方はあるか」との質問ですが、これはお母さんだけの力では無理だと思います。例えば、ほかのお母さんと同じ考えの保護者に、上記の私がお伝えしたリスクを説明し、一緒にお願いしに行くことも一案ですが、非常にハードルが高いでしょう。したがって、区市町村のサッカー協会に相談してみてはいかがでしょうか。サカイクの悩み相談をしたらこう言われた、と説明してもいいかと思います。「家庭の日」が定められているにかかわらず、休養を子どもに与えていない点も改善を訴えてはいかがでしょうか。区市町村のサッカー協会は、そのような役目を担っています。ただし、匿名だとスルーされるので、実名で話しつつ監督本人には名前を明かさないことを約束してもらってください。■中学以降も視野に入れ、お子さんに確認してほしいこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)そして、最後になりますが、子どもの意思を確認してください。5年生の今の状態で、満足しているのかどうか。サッカーが楽しいのかどうか。そのうえで、お母さんが「せめて日曜日だけでも休んでほしい」と思っていることなど、伝えてみましょう。中学生でどのスポーツをするかも話しながら、続ける、辞める、ほかのことをする。サッカーは週末の試合だけ休んで、他のスポーツもやる。いくつかの選択肢の中から答えを出してください。理不尽なことを子どものうちから我慢するのもいい経験だ、などとはまったく思いません。理不尽を感じなくなるほうが不幸です。ただ、そのなかで親子で寄り添った時間は大きな宝物になると思います。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年08月05日ゲームは好きだけど、複数人で協力するプレーがまだできない。一人でできるドリブル練習の方が集中できる子どもたち。U‐6世代ならそんなもの?今は個人のスキルを身につけさせた方がいいのか、それとも仲間との協力プレーを意識させる方法はある?と指導者よりご相談をいただきました。先日配信した、「日本での指導の順番が海外とは逆」という記事でお伝えした課題は、サッカーを始めたばかりの年代にも言えるのだそう。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子どもたちに仲間と協力するプレーを意識づけてあげてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<ボールを蹴るのは上手いけど、手で投げたりキャッチが苦手な子が多い。全身をうまく使えるようになる方法を教えて<お父さんコーチからの質問>U‐6世代を指導している者です。まだまだ集中力が続かない年代なので、楽しんでもらうことをモットーにしているのですが、自分が得意でなかったり、あまり好きではないメニューになるとどうしても気が散りがちです。ゲームは好きですが、複数人で協力し合うプレーなどがまだまだ苦手で、一人でできるドリブルなどのほうが集中できるようです。この年代では個人のスキルを身につけさせることが先決でしょうか。仲間との協力を意識させるようになる練習やウォーミングアップなどがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。いただいたメールを読んで、ジェフ時代にオシムさんに言われた言葉を思い出しました。当時私はジェフの普及事業として、ホームタウンにある小学校や幼稚園などを巡回して授業をする「サッカーおとどけ隊」の内容を考えていました。クラブハウスでスタッフと相談していると、オシムさんがやってきたので、「どんなことをしたらいいか考えている」と話したら、一言だけおっしゃいました。「子どもたちにサッカーのやり方を教えるのではなく、サッカーすることを教えなさい」と。■6歳でもプレーを止めて考える時間を与えようサッカーをするといえば、一番楽しいのはゲームです。ゲームをしながら、子どもがサッカーというスポーツを理解していく手助けをしてみましょう。この連載直近の回で「チームの底上げ」や「判断を伴う練習」というテーマでお伝えした、スペインリーグのビジャレアルの育成方法を憶えていますか?日本人コーチの佐伯夕利子さんが育成のトップで活躍されているこのクラブでは、子どもたちにゲームを楽しんでもらいながら、サッカーの成り立ちを理解(認知)させます。考えながら動くことは難しいので、その状況ではどんな選択肢があるかをわかってもらうために「一回止まって考えてみようよ」と呼びかけます。6歳でも、試合を止めて、一緒に考えてみます。一見すると、とても大変そうですが、少しずつやっていくと子どもとさまざまなコミュニケーションがとれるようになります。そんな時間をとれば少しずつ変わってきます。ビジャレアルは、これを3歳児からやっているのですから、日本の6歳児も十分できるはずです。私もこれを実践しています。大阪で「サッカープレーパーク」という無料のスクールを実施していますが、集まるとまずゲームです。様子を見ながら、プレーを止めて対話する時間をつくります。答えは言いません。「どうして、ここにいったの?」「なぜこうなったのかな?」周りを見ていなかった。パスするのを忘れた......ハッキリだったり、ぼそぼそだったり、いろんな声が聴こえてきます。子どもたちの意見は一切否定せず、私の意見も言います。「そうか。オッケー。コーチはね、こうするといいかなって思ったよ。そんなことも考えながらプレーしてごらん」詰問するような言い方ではなく、あくまでリラックスした状態で、伝わりやすい言葉を選んで話します。6歳くらいだと、ボール保持者にぶつかっていく子どももいます。「みんな、知ってる?ソーシャルディスタンス。あるよね?コロナに感染しないようにしてるよね。サッカーもそういうふうにしよう。サッカーの試合、思い出してみて!自分からぶつかっていく人はいないよね」子どもたちはゲラゲラ笑います。全員ではないにしろ、少しイメージできます。ディフェンスが間にいてパスができないとき、どうする?「ドリブルで少し移動してからパスを出す」そんな答えが出てきます。そうやって、子どもが自分で気づいて、自分で学んで理解していくと、パスが早く出始めたり、自分でひとりでドリブルでいってしまうことが減ったりします。■「パスした方がいい理由」を見つけられるように導くサッカープレーパークでは、小学1年生から中学1年生まで一緒にサッカーをします。ある日のこと。小学1年生でドリブルばかりする子がいました。サッカーの初心者では当然です。そこで止めて、私はみんなに声をかけました。「ねえ、君さ、自分の味方がだれか理解していますか?えっと、この子の味方の人?」周りにいた子が一斉に手を挙げました。「ほら、こんなにいるよ」ドリブルをしていた6歳の小学1年生に尋ねます。「君はドリブルしていたね。コーチが前にいたね。右のほうに味方がいるよね。ドリブルをしていた君は、コーチにボールをとられたね。どう?味方にパスする?ドリブルする?どっちのほうがいいと思う?」すると、次にボールをもったとき、その子はドリブルをしながら周りを見たのです。パスもするようになりました。このように頭で理解をさせるのが非常に大切です。コーチの方は子どもたちに「パスしろ!」と言いますが、どうしてパスしたほうがいいのかを子どもたちは理解していません。「ああ、だからパスしたほうがいいんだ!」と子どもたちが納得できるように、その答えを自分で見つけられるような指導をコーチのほうもしていません。そういった指導でも、もし子どもがパスしたとしたら、それはパスをしないと怒られてしまうからだと私は思います。私の孫はいま小学3年生です。先日、通っているサッカースクールの子たちでチームを作って大会に出ました。全員顔見知りではなく、互いに恥ずかしがっていました。孫は特に内気な子で、コーチにベンチから大声で名前を呼ばれるとびっくりしてミスをしてしまいます。ほとんどがポジションが悪くて失敗するのですが、それが重なるとどんどん下を向いていきます。その大会の後、私のプレーパークにもやってきました。私は子どもたちに「ナイス」「お、いいね」とほめることしかしないので、帰宅後に「今日はいっぱいほめられて楽しかった」と母親である私の娘に言ったそうです。リラックスして楽しくプレーしていれば、いいプレーはたくさん出て来るようになります。■褒めながらプレーの幅を広げていく声かけ(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様いわく「協力し合うプレーなどがまだまだ苦手」とのことですが、少しでもみんなで協力してできたことがあったらほめてください。自分でドリブルしてうまくできたことを「すごいね」などとほめてしまうと、それだけしかできなくなります。「ドリブルうまいね。良かったよ。でも、こんなときはどうする?」そんなふうにプレーの幅を広げていくことが指導者の役目です。これまでは、6歳や小学校低学年は個人のスキルを身につけることに重点が置かれていました。でも、決してそうじゃないことがわかっています。みんなでサッカーをすることがどういうことなのか。ここをぜひ理解させましょう。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年07月31日所属したチームのコーチが上手い子とそうでない子をあからさまに差別するので、自信を失ってチームを退団したが、数か月たっても自信が回復しない。サッカーが嫌いになったわけではなさそうだけど、今はほとんどボールも触らないし、こんなときはどうすればいい?子どもに合うチームを探すか、他の道を探すべきか迷っている。というお母さんからご相談です。みなさんならどうしますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとに3つのアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<お前いらなくない?と中傷される中学生のクラブ内いじめ問題<サッカーママからのご相談>小四の息子がいます。運動神経は良い方ではありません。一年から、スクールで遊び程度にサッカーをはじめ、昨年から本人の上手くなりたいという気持ちからチームに入りました。その際にスクールは退会しています。しかしながら、自分から入りたいと言ったのにチームに入団して半年経っても自分から練習をしたりせず、親が言って練習するような状態でした。ですが、しばらくすると自分が成長している実感が出てきたのか、前向きに取り組む様になりました。ようやくやる気を出してくれたと思っていたのですが、所属したチームのコーチが上手な子とそうでない子をあからさまに差別する対応をとることもあり、自信を失ってチームを辞める事となりました。数か月たちますが未だに自信が回復しません。サッカー自体を嫌いになったわけではないようですが、今はスクールにも行っていないし、時々、本当に時々ボールを触るぐらいです。こんな時は、子どもに合いそうなチームを見つけて続けさせるべきなのか、サッカーは辞めて他の道を一緒に探すのが良いのかとても迷っています。なにかアドバイス頂けたら幸いです。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。短いお便りだけなので、正確に把握できないかもしれません。そこを踏まえてお聴きください。■選択肢を限定しているのでは?ご相談のメールから、お母さんはいま、息子さんのことをあまり認める気分ではないのかな?という印象を受けました。「自分から入りたいと言ったのにチームに入団して半年経っても自分から練習をしたりせず、親が言って練習するような状態でした」「今はスクールにも行っていないし、時々、本当に時々ボールを触るぐらいです」そのような言葉から推測するに、息子さんに対して「なんだかなあ」と残念に感じているのではありませんか?間違っていたらすみません。でも、誤解しないでくださいね。お母さんを責めているのではありません。お気持ち、非常にわかります。もっと前向きにやってよ。やる気出してよ。シャキッとしてよ。子どもに対して、そんなふうに思うこと、ありますよね。私にもよくありました。何かに付け、「もう、本当に不甲斐ない!」と思っていました。お母さんがそんなふうに残念な気持ちでいるときに、お母さんだけの思惑で動くのは危険です。お母さん自身が「この状態を早く何とかしたい」と焦ってしまい、冷静に行動できないかもしれません。親が冷静に動けないときはほとんどの場合、子どもの意思や気持ちを尊重できていません。すでにお母さんは「こんな時は、子どもに合いそうなチームを見つけて続けさせるべきなのか、サッカーは辞めて他の道を一緒に探すのが良いのか」と選択肢を限定して、焦っている様子がうかがえます。では、どうしたらいいか。三つアドバイスさせてください。■声に出していなくてもお母さんからの無言の圧力を感じているはずひとつめ。立ち止まってください。お母さんの息子さんへのネガティブな気持ちを、まずは鎮めましょう。スクールにも行かず、自分でボールを蹴るくらいの息子さんが気になるようですが、「息子とサッカーにまつわること」をとにかく気にしない。見ない、聞かない。そう決心して、なるべくサッカー以外のことで息子さんとつながってください。一緒に何か作って食べる。家で映画を見る。同じ本を読む。一緒にゲームをする。何でもいいです。それも難しければ、一時的に息子さん以外のことで自分を忙しくしてください。首都圏などにお住まいならまだコロナの影響で動きづらい状態ですが、そのなかで自分の趣味や好きなことを見つけてください。子育て以外のことに熱中しましょう。そんなふうにお母さんの視線が息子さんから離れることは、彼自身にとってもいい影響を及ぼすはずです。サッカー、どうするの?もうやめるの?続けないの?もし声に出していなかったとしても、息子さんはお母さんからの無言の圧力を感じているはずです(本人に自覚がなかったとしても)。そこから解放されれば、彼自身にも余裕が生まれます。いまは親子ともに精神的な余裕がない状態だと考えられます。すでにお伝えしましたが、そんなときはあまり新しいことを始めたり、決断をしないほうがいいと思います。■自分で決めなさい、と言いながら親が誘導していないかふたつめ。これまでの子育てを少し見直してみましょう。ご相談文に、「所属したチームのコーチが上手な子とそうでない子をあからさまに差別する対応をとることもあり、自信を失ってチームを辞めた」とありましたが、これは、息子さんが「差別だよ。こんなチームにはいたくない。とりあえずやめる」と強く主張し、自分から決心して退団したのでしょうか?もし、お母さんが「もうやめたら?」と働きかけていたとしたら、少しばかり過干渉な部分がなかったか、考えてみてください。この連載で何度か書きましたが、あれこれと世話を焼くことは、過度になると「転ばぬ先の杖」になってしまいます。大人が世話を焼くことは、子どもが自分で考えたり、決心して自分から動く機会を奪います。失敗もしないし、子どもも何も考えなくていいので楽ですが、そこに成長はありません。杖があると、足腰は鍛えられないのです。そして、注意すべきは「自分で決めなさい」と言いながら、「こうしたらいいのに」「これがいいと思うけど」と誘導している場合です。これは私自身もここに気づくのに時間がかかりました。主体的に動く人間になってほしいと思いながら、いつの間にかうまくいくよう誘導していました。ところが、親が「良かれと思って」動くと、あまりうまくいきません。したがって、親は放置する勇気を持たなくてはいけません。私の子どもは二人ともすでに大学生です。今思えば、放置できてこそ、親になれるのかなという気がします。■待っていても子どもが動き出さなかったら?(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後、三つめは、お子さんの気持ちを考えること。ご自分の焦りや感情に向き合うのではなく、「いま、この子はどんな気持ちなんだろう?」と考えてみてください。好きで始めたサッカーがうまくいかなかった。息子さんは大いに傷ついているはずです。傷を癒せるよう、少し休ませてあげてください。「せっかく頑張ろうとしていた矢先だったのに残念だったね。でも、また他のところでやってもいいし、サッカー以外のことをしてもいいよ。いつも応援してるよ」そんな言葉をかけてあげてください。そして、息子さんが自分から動き出すのを待ってください。なかなか動き出さなかったら?もう一度、「いま、この子はどんな気持ちなんだろう?」と観察してください。動き出すペースは人それぞれです。お母さんのペースを押し付けず、「放置する勇気」を奮い起こしましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年07月22日全体的に足元の技術は高いけど、勝負のタイミングでバックパスを選択したり、確実に勝てそうなポイントでしか仕掛けない。「判断力」を養うにはどうすればいいの?というご質問をいただきました。池上さんは、前回の内容でお伝えした、日本での指導の順番が海外とは逆で細かな基本技術から入る事による日本サッカーの課題に通ずると言います。子ども達に判断を伴うプレーを身につけさせるためにはどうすればいいか、スペイン・ビジャレアルFCの育成組織で指導されている日本人コーチのお話なども交えてご紹介します。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子ども達の判断力を養う指導を実践してみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<足元の技術はあるけど勝負のタイミングで判断できない。判断力をつけるためには何をすればいい?<お父さんコーチからの質問>私は街クラブで小1~小4を指導しています。年代により伸びやすい能力があると聞きましたが、今指導している年代で伸びる能力と、おすすめのトレーニングメニューを教えていただけませんか。また、兄弟の影響などで未就学児からサッカーをしている子も何人かいて、足でボールを扱う技術はあると思うのですが、手でボールを投げたりキャッチするような動きは得意でなかったりします。サッカーの技術だけでなく、ほかの運動や遊び経験から得られる動き、身体を自在に動かせることなども大事だと思うのですが、楽しんでできるメニューなどもあればお聞きしたいです。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。サッカー少年で、ボールをうまく投げられない子どもが多いという話はよく聞きます。この連載でも、昨年2月に掲載された「ボールが投げられない、腰より高いボールが怖い子どもたちが飽きずにできる動きを教えて」という記事で、類似した相談を受けています。そのときにも紹介していますが、練習の中に「バルシューレ」を取り入れることを勧めています。■サッカーの要素もたくさん含まれる「バルシューレ」「バルシューレ」とは直訳すると「ボールスクール」(Ball school)。ボールゲーム教室という意味ですが、実際は子どものための運動プログラムのことです。ドイツのハイデルベルク大学スポーツ科学研究所で開発されました。ほとんどが試合形式なので、子どもたちは楽しく入っていけます。野球のボールからバランスボールまで、大小さまざまなボールを扱います。私もバルシューレのテキストを持っていて、そこから選んだメニューでトレーニングの導入部分などに活用しています。子どものボールゲーム導入プログラム(特定非営利活動法人・バルシューレジャパンのページにリンクします)また、バルシューレには、サッカーの要素がたくさん含まれます。例えば、ネット越しでボールを使ったパス交換をした後は、それを「足でやってみよう」という展開になったりします。ボールを相手の体に当てる鬼ごっこもあります。手で当てるときは、当たっても痛くないよう風船を使います。それを足でもやります。いわゆる発展形ですね。そのように発展させるのは、手も足も使うことで身体の機能がバランス良く高めるためでしょう。■身体をイメージ通りに動かすことができれば全体的なプレーの質もアップ身体の神経系は小さなときからどんどん鍛えられます。どんなスポーツも、自分が思った通りに動けるよう、バランスよく体の機能を向上させなくてはいけません。これが「コーディネーション」です。自分の体をイメージ通りに動かすことができれば、スキルはもちろん全体的なプレーの質もアップします。そこから、もっと素早く動く、もっと高く跳ぶ、もっと強く蹴るといったことができるようになるのです。さらにいえば、バルシューレがいいのは、遊び感覚でやっているあいだにいろいろな能力が身につく点です。そして、それはあくまでも手取り足取り教えられてやるものではなく、基本的に「自己学習」です。例えば、手でボールを「投げる」という動作は、子どもが自由にどんどん投げていくことで、自分でいろんな動きを獲得していきます。遊びの中で、どんどん投げていると、勝手にフォームが良くなると言います。教えられたわけでもないのに、なぜそうなるかは、研究の結果でも明らかになっています。つまり、根拠があるわけです。■サッカーは「どう蹴るか」が目的ではない一方で、指導者の皆さんの多くは、練習メニューが気になるようです。練習メニューや練習のやり方を一生懸命学ばれています。「基礎基本」をとても大事にします。ですが、サッカーは「どう蹴るか」が目的ではなく、どんなタイミングでどんなボールを蹴ってチャンスにするかが重要です。蹴り方は自由でいい。そこから少しずつ選手自身が修正していくものだと考えます。もっと自由な発想をしていきましょう。バルシューレにも、そんな自由な要素がちりばめられています。サッカーのメニューばかりを追い求めずに、バルシューレの成り立ちを学んでみましょう。ご相談者様が「子どもが手を使えない」ことに注目してくださったことは、素晴らしいと感じます。キーパー以外は足でプレー出来れば十分だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、前述したように、全身のコーディネーションという側面から考えると、バルシューレを活用して投げる動作をたくさんやることはサッカーの上達にもつながります。■最近推奨されている「ダブルスポーツ」とは(写真はサカイクキャンプ。お互いにボールを投げ、キャッチする練習)もっといえば、サッカーの上達しか考えられないのは、もったいないと思います。スポーツする意味は、スポーツによって人生を豊かにできるからです。サッカーならサッカーばかり。野球なら野球だけしかしない。そんな子が日本では目立ちますが、いまは「ダブルスポーツ」といって、シーズナブルに複数のスポーツをすることが奨励されています。ひとつの種目だけしているとほかのことができないのは、あまり幸せではありません。Jリーグのジュニアユースチームのなかには、家族旅行をしたことがない選手や、海水浴に行ったことがない子どもがいっぱいいました。つまり、サッカー漬けなのです。それでは、その人のスポーツ人生は豊かとはいえません。サッカーの練習のみではなく、今日はバルシューレ、週末はチームでハイキングに行く、そんな将来だと、とても豊かになりますね。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年07月17日全体的に足元の技術は高いけど、勝負のタイミングでバックパスを選択したり、確実に勝てそうなポイントでしか仕掛けない。「判断力」を養うにはどうすればいいの?というご質問をいただきました。池上さんは、前回の内容でお伝えした、日本での指導の順番が海外とは逆で細かな基本技術から入る事による日本サッカーの課題に通ずると言います。子ども達に判断を伴うプレーを身につけさせるためにはどうすればいいか、スペイン・ビジャレアルFCの育成組織で指導されている日本人コーチのお話なども交えてご紹介します。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子ども達の判断力を養う指導を実践してみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<同学年でもレベル差があってデコボコ。チームの底上げを図る練習メニューはある?<お父さんコーチからの質問>はじめまして。指導年代はU-12です。よく言われる「判断を伴う練習」について教えてほしいです。足元の技術はレベルが高い子が多いのですが、ゲームになるとボールを前へ進めていい場面なのに後ろに下げたり、「今だ」という場面でも確実に勝てそうな勝負にしか挑まない子が多いのです。失敗するのが怖いという側面もあるとは思いますが、どんな場面なら前進させていいかの理解も不足しているのかなと感じています。もっと積極的に仕掛けてもいいのに......と思っているのですが、どんなトレーニングや声かけをすれば状況の理解を深めたり、積極的になれるものでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。「判断を伴う練習はどんなことをすればいいか」というご質問ですが、これはぜひ前回の記事もともにご参考いただけるとより分かりやすいかと思います。前回の相談は「チームの底上げ」でしたが、そのためにはサッカーの成り立ちを理解(認知)したうえで判断力を養うべきだとお話ししました。■判断を伴う練習の前に「認知」を高めよう。「場面」を描かせる学びが必要日本は育成する「順番」が欧州と違うこと。「認知→判断→行動(プレー=技術指導)」と教えなくてはいけないのに、細かな基本技術から入るため、認知、判断の指導がスムーズにいかないという日本の少年サッカーの課題でもあります。2対1の状況であれば、自分がゴールに向かったほうがいいのか、味方にパスしたほうが得点の可能性が高いのか。では、いつどんなタイミングでパスするといいのか。そんな認知する力から教えましょうと伝えました。そう考えると、質問された「判断を伴う練習」に入る前に、まず認知力を高めなくてはいけません。それは、いきなり実練習でなくても、座学でもいいのです。ホワイトボードに「こんな状況のとき、みんなはどう考える?」「後ろに下げる?」「自分でいっちゃう?」「右と左どっち?」などと問いかけて、考えさせます。いきなり答えをいって説明すると、子どもはイメージできないので、頭に場面を描きやすいように段階的に教えます。そういう学びもサッカーには必要です。判断を伴うのであれば、ボールにかかわるのはひとりではないという前提になります。シュートかパスか?という判断。その際にパスするための情報は何があるか?味方の位置は、どうなのか。自分よりもシュートが入る可能性高い空いている味方、マークの位置、ボールをコントローしている足、体の向きと、さまざまな「情報」があります。これを習得するには、ジグザグドリブルや対面パスといったクローズドスキルではなく、2対1、3対2、3対3など、数的優位を作れたり、作れなかったりする少人数の対人練習をやっていくことが肝要です。■脳と身体が繋がるように、子どもたちに「どうする?」と問いかけ想像力を引き出すこのように、できるだけ早く対人のトレーニングをする。子どもがサッカーの練習に集中できる時間は概ね1~1時間半ほどです。決まった時間を生かすためにも、導入を丁寧にやることを心がけてください。例えば、3対1。自分がボールを持っていて、目の前に相手守備が立っている。真横に味方がいる。その逆サイドの5メートル前方、つまりゴールが近いところにもうひとり仲間がいる。「どっちにパスする?」「自分はどうする?」という質問を投げます。多くの子どもは、ゴールに近いほうの味方へのパスを選びます。次は、自分をマークしている守備との距離の問題です。パスをしようと思ったら、味方のほうに相手守備が動こうとした。そうなったら、自分がフリーになる。ドリブルで進んでいくと、今度は自分のほうに寄って来た。さあ、どうする?どのタイミングでパスをする?そのうちに真横にいた違うサイドの味方のほうがゴールに近くなった。さあ、どうする?このようにして、子どもの想像力を引き出してあげます。そんなことを毎回すれば、間違いなく判断できる子が育ちます。スペインのビジャレアルCF育成部でコーチをしている佐伯夕利子さんが、子どものボール回しの様子をフェイスブックに投稿しています。ぜひ一度チェックしてみてください。見事にパスをつないでいます。佐伯さんの解説に、そこに登場する5歳の子どもたちは「選ばれし子ではない」とあります。つまり、セレクションをするなどして、上手な子を集めているわけではないということです。では、どうしたら、ビジャレアルの子どもたちのように、認知して、判断できる力が養われるのか。それは、丁寧にコーチたちが子どもと向かい合っているからです。「いま、なぜそこにパスをしたの?」「いま、どうしてドリブルしたの?」そんなふうにいつも聞き返します。このように対話することを「フィードバックする」と言いますが、いまなぜこうしたのかを3歳の子にも聞き返す。脳と身体がつながるようにトレーニング組み立てられています。試合前のロッカールームでも、コーチは5歳の子に質問をします。「どんな試合がしたい?」「今までやってきた練習は、どういうものだったかな?」「今日は何を試したい?」これが日本だったら、どうでしょか?「絶対勝つぞ」とか「こうやるぞ」とコーチが率先して話していないでしょうか。アドバイスの内容も、コーチたちのきめつけばかりではないでしょうか。■子どもは目の前に「問い」があるからこそ考え始める(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)子どもは、目の前に「問い」があるからこそ、考え始めます。そして、大きくなったらあらゆることを自問自答できるようになります。もし、みなさんが本当に子どもたちに自分で考える力や判断する力を養ってほしいと思っているのなら、子どもへの「問い」を増やしてください。私は今、大阪の地域総合型スポーツクラブ「岸和田FC」で、アドバイザーを務めています。「指導者のレベルを上げたいので、来てください」と言われて始めました。先日、佐伯さんの映像を見せたら「こんな指導に変えたい」とみなさんおっしゃっていました。認知、判断、行動の順番で教えていく。こういう練習に変えたい、と。私は「このクラブがそうなったとしたら、きっと日本初なので頑張ってください」と伝えました。しかしながら、映像を見た後に「こんなに我慢できないなあ」とひとりの方がつぶやかれました。正直な感想だと思います。「そうなんですよ。ビジャレアルのコーチたちも、答えを言いたくて仕方がない。でも、我慢している。答えを言ってしまったら、子どものためにならないと考えているんですよ」と私は話しました。佐伯さんの映像も、3年かけて彼らがいいコーチであろうと葛藤と闘って成し遂げた映像なのです。判断力を養うためには、子ども達への問い掛けを増やすことを実践してみてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年06月19日身長差やサッカーの理解度の差があって同じ学年でもレベル差が大きい中学年の指導に悩むコーチから、チームの底上げを図れるトレーニングメニューなどはある?とご相談をいただきました。池上さんは、これまで見てきた中で欧州の子どもはそれほどレベル差がついてないといいます。その原因は、日本とは真逆の「指導の順番」なのだそうです。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、チームの底上げを図ってください。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<U-10でどこまで守備戦術を教えて良いもの?指導のコツがあったら教えて<お父さんコーチからの質問>いつも連載拝読しています。私は少年団でU-10 、U-12の指導をしている者です。先日別の記事で、小学校中学年ぐらいは一番デコボコしているとありましたが、まさしく私のチームも同じ状況なので、指導面でのアドバイスが欲しくご相談させていただきました。体の成長速度は個々の成長速度があるので何ともし難いですが、この学年へのトレーニングメニューで、チームの底上げを図れるものであったり、もしくは練習や試合でのチーム分けの工夫などがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。日本の子どもたちはなぜ、そんなにデコボコが目立つのか。それは、小学校中学年くらいだと、体の大きさや運能能力の違い、サッカーへの理解度の違いがあるから仕方がない――私たち指導者はそんなふうに考えてきました。■欧州の子どもたちは日本ほど同年代でのレベル差がないところが、スペインなど欧州の子どもはそこまでデコボコではありません。よく見ていると、欧州の子どもたちは、相手とぶつからないようにプレーします。日本のように「相手に押し負けるな」とか「コンタクトで負けるな」などという声はコーチから一切出てきません。なぜなら、幼稚園児くらいのころから「どこでボールをもらうといいかな?」とコーチらに導いてもらえるので、相手から離れてボールを受けることが身についています。日本の子どものようにボールを奪いに来る相手を体で押さえてコントロールするのではなく、フリーな状況でパスを受けます。そして、そのことを学んで身に着けるためのトレーニングを、幼稚園児のころからたくさん積むのです。その際、守備をする側は、攻撃をしてくる相手のパスカットを狙います。相手に体をぶつけるようにして足元のボールをガシガシと奪いにきません。つまり、トレーニング全体に、ボディーコンタクトがないのです。それはなぜでしょう。ひとことで言うと、育成する「順番」が日本と違うからです。「認知→判断→行動(プレー)」欧州の子たちは、この順番で育てられます。例えば、3~6歳、もしくは小学校低学年までの間に、まず「認知する力を」養います。自分がボール保持者だとしたら、味方がどこにいるか認知します。例えば、2対1の状況で、自分がドリブルでゴールに向かったほうが点が取れるのか、味方にパスしたほうが得点の可能性が高いのか。そのとき、守備をする相手選手の位置によって、いつパスをしたほうがいいのか。それが認知する力です。どこが空いてる?誰がチャンス?――そういうことを彼らは10歳くらいまでに見極められるようになります。見極められるようになったら、判断してプレーします。相手選手がパスをしたい味方との間に立っているから、ドリブルでボール1個分ずらしてからパスを通す。自分で縦に突破すると見せかけて、相手が自分に近づいた瞬間、相手をあざ笑いようにスルーパスを通す。そういった判断ができるようになります。この1.認知、2.判断ができるようになったら、最後の3.行動(プレー)の指導に入ります。プレーはつまりはスキル、技術です。それは「今の判断は良かったね。あとはコントロールを磨いていこう」というような声掛けです。トラップをミスしたり、パスがそれたりして正確にできなかったとしても、しっかり認知をし、タイミングよく判断ができているのだから、あとは技術を磨けば済むことです。■日本の子どもたちにレベル差が生まれてしまう理由ところが、日本の子どもたちは、これを逆にした順番で指導されています。1.行動、2.判断、3.認知で教えられているのです。サッカーボールに出会ったら、まずインサイドキックを教えます。コーンドリブルをします。リフティングもですね。かなり長い時間、クローズドスキルに割かれています。それらをやってから、小学校中学年くらいになってから、コーチにこう言われたりします。「ただ蹴るだけじゃだめだ」「まわりをよくみて」「スペースを探せ」「ボールをもらえる位置にいないから、いつまでたってももらえないでしょ?」そこで子どもたちは非常に混乱します。そこで格差、つまりデコボコも出てきます。日本のトレーニングは、本来は最後に指導したほうがいい「行動」、技術練習から始めているので、なかなかうまくいかない。ジュニアの世界大会で日本の子どもたちが優勝して「日本の子どもは足元の技術がうまいですね」と欧州のコーチに褒められます。足元の技術から始めているので、うまいのは当然です。ただし、そのあとはどうでしょうか?ユース年代、成人してからと、上に行くほど世界との差が開いていないでしょうか。私の大学の先輩である祖母井秀隆さんは1970年代、すでに「見て、考えて、判断して、プレーする」という段階を踏んで指導すべきだ、とおっしゃっていました。脳科学的にもそれが正しいのだとおっしゃって、私も納得出来ました。それから40年以上経過しましたが、日本はいまだ指導の順番は逆行したままです。■認知、判断力をつける練習メニュー(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様は、ぜひ前述した三つの順番を意識した練習に変えましょう。具体的には、ミニゲームや2対1といったオープンスキルのメニューをたくさん行って、子どもたちの認知・判断の力を鍛えてあげてください。ぶつかれ、負けるな、などと言ってはいけません。スピードやパワーを求めず、ゆったりとした状態でサッカーの成り立ちを伝えてください。「どこを見てた?」「どうしたらいい?」と子どもたちに質問して、考えさせるのです。認知・判断力はそうやって試行錯誤しながら自分で獲得するものです。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年06月12日強豪校へ行った兄にようになることがモチベーションの次男。楽しそうにサッカーしているけど、チームメイトとのレベル差もあり、最近ではスクールを辞めたいようなことを口にすることも。運動神経あまりよくなく、兄のように強豪校へ進む進路は無理そうだけど、進路についてどう話せばいい?前向きにさせるか、違うことにモチベーションを持たせるか......。と悩むお母さんよりご相談をいただきました。みなさんならどうしますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんへ3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<グローブがなく素手でGKを務めた息子。Bチームは面倒見てもらえないのか問題<サッカーママからのご相談>10歳の息子ですが、強豪校に行った兄を目指し、週1だけクラブチーム下部組織のスクールに通い始めました。最初はモジモジしていましたが段々と意欲的になり、今では早く行ってグランドの端っこで仲間とアップしています。楽しそうにしているのですが、たまに「今日は3人に突っ込まれ削られた」など不満を口にします。チームメイトとレベルがかなり違う(息子が下手)のは親もわかっているので、プレーがうまくいかなかったことは仕方ないと思うのですが、息子にとってはスクールでの不満が帰宅してから寝るまで続いている感じです。それに対して私は「サッカーの中での事はサッカーで解決しなさい!」とか「仕方ないよ」としか言えなくて。最近は「所属チームだけでいいかな?」と、スクールを辞めたい様な事も口にします。前向きにさせる様にするには親はどうしたらいいのか悩んでいます。兄は6年時にJrユース合格の為準備としてスクールに通い始めましたが、兄弟で運動神経は全く違う(今回相談している弟は鈍い)ので下部ジュニアユース→他県強豪校という進路は無理そうに思います。ですが、兄の様になる事だけがモチベーションの子に、どうやって進路を話したら良いかも不安がありご相談しました。息子を前向きにさせる方向がいいのでしょうか、それとも違うモチベーションを持たせるのがいいのでしょうか。アドバイスよろしくお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。お母さんからのメールには、以下のような問いがありました。前向きにさせる様にするには親はどうしたらいいのか。息子を前向きにさせる方向がいいのでしょうか。それとも違うモチベーションを持たせるのがいいでしょうか。いずれも「○○させる」が並んでいます。まずは、お母さんの中から、この「○○させなくては」「○○させるべき」「○○させたい」という欲求を追い出してください。■子どもが自分から頑張るために、親はどうすればいいか私も長男が小学校低学年のころはそんな言葉ばかりを頭に思い浮かべていました。「宿題をやらせるのはどうしたらいいか」「サッカーの自主練をやらせるにはどんな方法があるだろう」ところが、親が「こうさせるぞ!」と頑張れば、頑張るほど、うまくいきません。子どもから「嫌だ!」と反発されたり、渋々取り組んだとしても、しょせん親(他者)から言われてやることなので成果が上がりませんでした。では、どのようにしたか。何十万人もの子どもにサッカーを教えながらコーチたちを導いてきた池上正さんや、脳科学の専門家、成果を上げている教育現場の人たちの話を参考にしました。すべての人が口をそろえておっしゃったのは「放っておけばいい」でした。そして、実際に放っておくと勝手に自分で自分の道を選び、そこに向かって努力を始めました。つまり、成長が始まったのです。したがって、お母さんも次男さんを、まずはほったらかしにしましょう。こうさせたい、などと考える。それはいわゆるコントロールしようとする行為です。前向きにサッカーに取り組んでほしいなら「いつでも応援しているよ。できることがあったら言ってね」とひとこと言ってあとは黙っていればいいことです。「私が干渉したままでは、息子は成長しない」ぜひそのように考えてください。■兄弟であっても違う個体なので、上の子の経験に縛られないようにしようそもそも第一子は、兄姉がないぶん可視化できる見本はないし、親も最初の子どもなので知見、経験がない。それは一見ディスアドバンテージに映ります。が、その実、子どもも親も何かの前例や価値観に縛られることなく、その子らしい道を自由に模索できるアドバンテージでもあると思います。第二子は兄や姉の姿が良くも悪くも見本になり、親のほうも、上の子の経験に良くも悪くも縛られがちです。要するに、比べてしまう。これはストレス以外の何物にもなりません。日本の子育てには「切磋琢磨する」とか「きょうだいで競い合って」という表現がありますが、そうしたいかどうかは子どもが決めることです。ご相談文を読んだだけなので想像の域ですが、ご長男は、おそらく小さいころからサッカーが得意で自分からどんどん取り組んで強豪校への道も自分で選んだのだと思います。したがって、親のほうもただ見守っていればよかったでしょう。ところが、次男は長男とは違う個体です。違っていて当然。でも、親は迷う。お母さんはいままさに「子育ての森」で迷子になっています。■子どもをコントロールしないで見守ることでは、どうするか。以下の三つを参考にしてください。1.コントロールしようとしない。冒頭でも伝えましたが「○○させる」とは考えないこと。「この子、どんな大人になるかなあ」とゆったり構えてください。子育ては、飯の食える一人前の大人に育てることが第一目標です。サッカーで強豪校に行く、名門のジュニアユースクラブに行く。これはプロセスにおける名誉かもしれませんが、実際はあまり重要なことではありません。例えば、本人が生きがいを見つけて気持ち良く人生を歩む。そんな姿を思い浮かべると、サッカーで試合に出られようが出られまいが大したことではない――親はそう思って見守ったほうがいいと思います。子どもはこのことに懸命になるでしょうけれど、親はそのカオスに巻き込まれることなく離れて見守ったほうがいいのです。子どもは必ずや、のちにお母さんがそのような達観した姿勢で置いてくれたことに感謝するはずです。「いろいろうるさくいわずに放っておいてくれて助かったよ」と。2.「言わなきゃ」よりも「聴かなきゃ」「サッカーの中での事はサッカーで解決しなさい!」とか「仕方ないよ」としか言えなくて。とあります。お母さんがおっしゃっているように、どちらの言葉も意味がありませんね。お母さんだけじゃないです。みなさん「親だからきちんといいアドバイスをしよう!」と思い込んで、空回りしがちです。そうではなく、お子さんの話を聴いてあげてください。別にじっくりじゃなくてもいい。「どんな気持ちだったの?」「どう?大丈夫?サッカー、楽しい?」質問をすると、次男君が自分の気持ちと向き合える機会が作れるかもしれません。■子どもの気持ちを親が決めつけていませんか(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)3.兄弟を比べない自分の中で比べたくなります。でも、比べないこと。比べるのなら、いいところを必ず探してあげましょう。お母さんだって、よそのお母さんと比べられると嫌ですよね?子育てがうまく行ってない人の99%が、きょうだいで比べたり、よその子とわが子をよく比べます。「うちはこんなんだよ。Aさんちの息子さんはいいなあ」と。お母さんの言うように「兄の様になる事だけがモチベーション」だとしたら、もしかしたら親御さんの態度も関係しているかもしれません。「サッカー、楽しい?楽しいなら続ければいいと思うし、そう思えないなら違うことをしてもいいよね」と伝えてください。子どもの気持ちを決めつけていないか?子どもの力を信じているか?ご自分の子育てを、少しとらえなおしてみましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年06月11日自分は彼の理想には程遠いのだと知って、ショックを受けていませんか?好きな人の理想とは違っていても、決して諦める必要はありません。明るく乗り切るためには、どのような方法が効果的でしょうか。彼の理想に近づく努力をする理想の正反対だと知ったところで、好きな男子のことを簡単に諦められるわけではありませんよね。少しでも距離を縮めたいのならば、思いきってその理想に近づいてみればいいのです。例えば好きな男子の理想が、ナチュラルメイクより派手なメイクの女子がお好みというのならば、メイクをひたすら勉強してみましょう。逆に、派手なメイクよりナチュラルメイクの方がお好みならば、普段のメイクを抑えてみてください。好きな男子の反応をうかがいつつ、少しずつ理想に近づいてみるのです。とはいえ理想に近づくためには、正反対の自分に生まれ変わらなければなりません。今までの自分のこだわりなども一掃する必要があるので、抵抗がありますよね。しかし、決して無駄なことではないのです。好きな男子と距離を縮められるだけではなく、自分の新たな一面も見つけられるからです。彼を本気で好きならば、努力する価値は大いにありますよ。あえて自分を貫く好きな男子の理想とは違うのだと割り切って、自分は自分なのだと言い聞かせてみましょう。中途半端な気持ちで理想に近づこうとして空回りするよりも、堂々としている人の方が好感度が上がりやすくなります。ありのままの自分で好きな男子と接して、作り物ではない本来の自分を理解してもらいましょう。自分を貫くことは、好きな男子の理想像を無理に演じる必要がないので、心身ともに楽ですよ。理想は理想!誰しも理想は持っています。そして、その理想にはなかなか手が届かないものです。好きな男子の理想像も、話のネタに出してみたとか、簡単に理想が叶うわけではないのだと知った上でのことかもしれません。つまり、真に受ける必要はないということです。もちろん、理想通りの人と出会えるのならば本気でアタックしに行くでしょう。しかし、その確率は決して高いとは言えません。理想はどんどん高くなっていくものなので、運命的な出会いでもなければ理想の人を見つけるのは困難です。理想の人が見つからないうちに、彼にアタックしてみませんか?正反対は嫌いというわけではない理想と正反対だからといって、あなたの全てを否定しているわけではありません。「彼にとって私は嫌いなタイプなんだな」と勘違いしてしまうのはもったいないですよ。彼の理想像に近づいてみるもよし、ありのままの自分でアタックするもよしです。自分に自信を持って、好きな男子と接してみてくださいね。
2020年06月04日人数が増えてチーム分けをしたところ、Aチームは試合で優勝するのに息子が入ったBチームは大差で負けるのもざらで、最近は下を向いて走るように。2チーム同時で試合になった時は、キーパーグローブはAチームの子だけがつけて、Bチームでキーパーを任された息子は素手で試合に......。コーチに「Bチームの子たちにも指導してほしい」と言ったけど、「親の機嫌はとらない。指導は全体を優先する」との答え。サッカーを楽しんでプレーしてもらいたいから、移籍も視野に入れるべき?とのご相談をいただきました。皆さんならどうしますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんへ3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<献身的で頑張り屋だけど覇気がない息子をどうすればいいか問題<サッカーママからのご相談>長男(9歳)が少年団でサッカーをしています。 楽しくサッカーしてましたが、人数が増えて試合によってはAチームBチームに分けて出場するようになりました。チーム分けがなかった時は勝負所で先発してましたが、AチームBチームで分けられるとき息子はBチームです。 親的にはどちらでもいいし 「やる場所でベストを尽くそう、楽しくやろう」と言ってきました。ですが、 チームメンバーは固定で入れ替わりもなく、少し前の試合でもAチームは優勝してBチームは最下位。10-0で負けるのもざらという状況が続き、息子が下を向いて走るようになりました。さすがに可哀想になりコーチに『チームは固定ですか?Bチームの子どもたちにも足りない部分を教えてあげて下さい』と伝えたのですが、『個人差があるし先をみてください。親の機嫌はとりません。個人も見ますがチーム全体を優先します』という返事でした。その後も状況は変わらず息子は下を向いて走ってます。少し前の試合ではAチームとBチームで同時進行の試合になり、一つしかないキーパーグローブはAチームの子が身につけ、Bチームでキーパーを務めた息子は素手でした。前なら他チームに借りたりしてたのですが......。チーム編成も実力はみな息子と似たり寄ったりのレベルに見えるのですが、このままだとサッカーを楽しめなくなってしまいそうです。息子には「辞めてもいいよ、移籍してもいいよ」と伝えています。どうしたものか悩んでいます。アドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。いただいたメールの文章だけでは詳しいことがわからないため、こちらの想像の域でお話しします。そのことを踏まえたうえで参考にしてみてください。結論から言うと、現時点で移籍する必要はないと思います。■チーム編成は改善した方がいいけれど、コーチの「先を見て」は間違いでもないその理由は、息子さん自ら「チームを替わりたい」とお母さんに相談に来ている形跡がないからです。9歳ということは、小学4年生。もしかしたら3年生でしょうか。コーチの方がおっしゃった「個人差があるし、先を見てください」というのは間違ってはいません。とはいえ、気になるのは、Aチームが優勝でBチームが最下位という点です。Bチームがかなりの大差で負けることもあるようです。ということは、チーム内でかなり実力差がある。それは、おそらくチームの底上げができていないからでしょう。大会や試合によって、同じ実力で2チーム編成したり「今日は名前の五十音順でチームを作ろう」などと実力に関係なく分けるチームは増えているようです。その点からすると、もう少しコーチの方に勉強してほしいとは思います。ただし、このチーム全体の「底上げ」は、指導者にとっても悩みどころです。少なくない数の方が「力の差が大きくて」と話します。それも、3~4年生の中学年くらいの担当者から聴くことが多いです。なぜなら、低学年ならまだそんなに試合も多くないし、ボールを追うのが楽しいばかりで、高学年になると体格や運動能力の差が縮まってきて、力が平たんになっていきます。一番デコボコが目立つのが、中学年という息子さんの年齢グループなのです。しかも、息子さんのチームは急に人数が増えてきた、と書かれています。上手な子、少しまだ遅れている子など、人数が多ければおいほど濃淡ははっきりしてきます。したがって「先を見る」姿勢は、保護者にとっても重要な時期なのです。■お子さんがサッカーを楽しめないのは「チームのせい」だけなのかそこで、お母さんに三つアドバイスします。ひとつめは、「かわいそう」という感情を自分の中でコントロールしてください。「さすがに可哀想になりコーチに『チームは固定ですか?Bチームの子どもたちにも足りない部分を教えてあげて下さい』と伝えた」と書かれていますね。このあたり、お母さんのかわいそうに感じる気持ちはわかるのですが、親のわが子に対する「かわいそう」という感情が子どもにプラスの成長をもたらすことはほぼ皆無です。例えば「0-10で大敗してしまう」このことが「かわいそうだなあ」と一瞬感じるでしょう。血を分けた親ですから、子どもの身の上に起きたネガティブな出来事に対してそう感じてしまうのは仕方がありません。でも、力の差があるのだから、大差がつくのは仕方がないこと。大人はきちんと受け止めなくてはいけません。もっといえば、スポーツに勝敗はつきものです。その残酷さを乗り越えて、「1点決めてやるぞ」とサッカーを楽しむ態度が少年サッカーでもっとも必要なものではないでしょうか。二つめ。息子さんには、スポーツの残酷さを乗り越えて、「1点決めてやるぞ」とサッカーを楽しむ態度が今のところ見えません。これは、息子さんだけの責任ではないし、指導者にも問題はありそうです。しかしながら、親御さんも、劣勢な試合状況であろうBチームの試合で「下を向いて走っている」息子さんに対し、同情しただけで終わってしまってはいけないような気がします。移籍するか、しないか、といった拙速な判断を彼に求める前に、お母さんは「負けているからと言って下を向いて走ってもいいのかな?」とサッカーを楽しむことを求めてみませんか?サッカーを楽しめないのはチームのせいだ。お母さんの考えは一理あるかもしれませんが、まずは何か努力や工夫をしてください。親として、今の状況で息子さんが息子さんらしくサッカーに取り組めるようになる道はあるはずです。いろんなことをして、本人も頑張ってみたけれど、やはりこのチームではやりたくない。息子さんが自らそう言ったら、そこでまた考えればいいことです。■キーパーグローブの件はチームに対して進言しよう(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後の三つめ。「AチームとBチームで同時進行の試合になり、一つしかないキーパーグローブはAチームの子が身につけ、Bチームでキーパーを務めた息子は素手だった」とあります。このことを、お母さんはきっと「AチームとBチームの扱われ方の格差」の実情として書かれたのだと思います。しかし、ここでこそ、お母さんはチームに対し、クレームを言うべきです。グローブなしにキーパーを務めることは危険を伴います。4年生くらいであれば、パワーのある子は強いシュートを打ってきます。突き指や骨折などけがをする可能性があります。AとBが同時進行でやるかもしれないことは大人は予測できたことですし、2チームで参加するなら2つ用意して当然です。危機管理のなさを指摘すべきです。どうか、感情的にならず、冷静に息子さんのサッカーを見守ってあげてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年05月20日文:池上彰(ぴあアプリ版連載「池上彰の 映画で世界がわかる!」から)新型コロナウイルスの感染が拡大するにつれて、新規の映画上映が次々に延期になっています。このコーナーで取り上げようと考えている映画もいつ上映されるか見通しが立たなくなっています。こうした状態は、とりわけ各地のミニシアターに深刻な影響を与えています。上映を自粛しているからです。しかし、こんな状態が続いたら、ただでさえ経営基盤が弱いミニシアターは深刻です。いずれコロナ禍は収束するでしょうが、収束したら映画館がなくなっていた、なんてことになったら大変です。たとえばドイツのメルケル首相は、3月18日の国民へのメッセージの冒頭で「何百万人もの人たちが働きに出ることができず、子どもたちは学校や保育所に行くことができませんし、劇場・映画館・商店は閉まっています」と語りかけています。「劇場・映画館・商店」の順番です。日本の政治家とは優先順位が大きく異なると思いませんか。さらに3月23日にはドイツの文化メディア担当大臣が、「アーティストは、いま生きるために必要不可欠な存在である」と言って生活支援金を支給すると声明しました(「ハフィントンポスト4月17日」)。そう。生きるために必要不可欠なのです。映画だって、不要不急の産業ではないのです。たしかに“不急"ではないこともあるでしょうが、けっして"不要"ではないのです。連日コロナのニュースばかりを見聞きしていると、心がすさんできます。悪夢にうなされる人も増えているそうです。こういう悪夢は"コロナ悪夢"と呼ぶのだそうです。日本全体がウツ状態になっている気がします。こんな状態が続くと、人間性が失われていくのではないでしょうか。"自粛警察"のような行動を取る人が出て来ると、まるで戦時中にお上に従わない人を"非国民"と呼んだ、そんな空気の復活を感じて怖くなります。人間が人間であるためには、笑ったり、泣いたり、怒ったり、という人間的な感情の発露が絶対に必要だと思うのです。それができないとき、人間は“緩慢な死”に向かうのではないでしょうか。笑いは免疫力を高めるという調査結果もあります。映画館存続のためにいまできること映画館が営業できなくなっていることに危機感を抱いている人たちは、とりわけミニシアターを存続させるためのクラウドファンディングを始めています。心強いことです。いま映画を観ることができなくても、観られるようになったときに観られる鑑賞券を事前に販売するという取り組みもあります。こうした行動に協力し、なんとか映画の火を消さないようにしたいと思います。連休が明けてから、感染者が少ない県では、感染防止対策を取り、観客席の間を空けて、一度に入場できる客を減らしながら開館するシアターも出て来ました。マスクをかけ、飛沫感染にならないように映画の反応は控えめにしながら、ささやかな人間性回復を図る。それをやってみましょう。私も、いつ上映が始まるかわからない映画が多い中で、上映日が決まったときに備えて、映画の解説を書き溜めておきます。プロフィール池上 彰(いけがみ・あきら)1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。
2020年05月18日新型コロナウイルスの影響で長期のチーム活動停止を経て、活動を再開するときに注意すべきことは。それぞれの自主練強度も違えばモチベーションも異なるみたい。再開後の練習強度、子どもたちへの接し方、どうすればいい?とご相談をいただきました。同じことで悩んでいる指導者の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが指導者の皆さんに5つのアドバイスを送ります。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<楽しみながら判断力をつけさせるメニューや考えて動けるようにする声かけはある?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。街クラブでU-10 、U-12の指導をしています。この度の新型コロナウイルスの影響でチーム活動を停止しているのですが、再開後の練習についてご相談させていただきたくご連絡いたしました。チームでの活動ができないので、オンラインツールを使って自宅でできる課題を出してはいるのですが、住環境によって十分にできなかったりします。また健康で安全な環境でサッカーを再開できることが何より幸せなことだとは思いますが、こんなに長い期間チーム活動ができないのは初めての経験なので、再開後に集まった時に体力の低下や停止中の過ごし方で子どもたちのレベル差が開くのではないかと少し心配でもあります。中にはサッカーへのモチベーションが下がっている子もいるようです。長期間チーム練習ができず、再開後にこれまでと同じ練習をしたらケガのリスクが高まるのではという不安もあります。池上さんにとってもこのような状況は初めての体験かもしれませんが、再開後の練習の強度や子どもたちへの接し方など、指導者としてどんなことをすればいいか参考になるご意見をいただけませんでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。とてもグッドタイミングな質問ですね。5月14日、政府から39県における緊急事態宣言の解除が発表されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため重点的に対応している13の特定警戒都道府県でも、茨城や愛知、福岡などの5県は解除になります。あとは、東京や神奈川、千葉、埼玉といった首都圏や、私が住む大阪府が残っています。■「休んだ分を取り戻そう」とやりすぎないように解除エリアの小学生は「またサッカーができる!」と笑顔でいっぱいだと思います。そこで、再開において指導者が留意したい5つのポイントをお伝えいたします。1.「休んだ分は取り戻そう」とやり過ぎないように子どもにとっては待ちに待ったサッカーとの再会です。張り切っています。指導者の皆さんも同じ気持ちでしょう。しかし、休んだ分を早く取り戻そうなどと考えないでください。「やり過ぎ」に注意してください。つい長めに練習したり、体力が戻っていないのにハードにやってしまうと、けがや体調を崩す原因になります。特に、子どもたちが練習後に自分たちで「もっとやりたい!自主練だ!」となった場合は、大人がやめさせましょう。「やりたい気持ちはわかるけど、その情熱は次に残しておいてね」と伝えましょう。これは普段でも同じですが、子どもが「もっとやりたい」と言い出すくらいの練習量、強度のほうが、あとで振り返ると成長しているものです。2.「次の大会」から逆算して練習しないように多くのコーチは、練習が再開されるとまず考えるのが「次の大会はいつか」ということでしょう。「いついつが大会だから、そこから逆算するとあと○日しかない。だとしたら、セットプレーの守備だけでもやっておこう」そんな発想になってほしくありません。少年サッカーは、育成期の指導です。チームの結果よりも、個人がどう伸びていくか。そこを見る場所です。大会はあくまでもチームとしての結果です。大会があるのなら「よし、試合でこんなことを試してみよう」「君の課題にして取り組んでみよう」などと、ひとり一人が目標を見つけられるよう導きましょう。子どもが大会で他のチームと力試しをすることを目標にするのは自然なことです。大会を使いながら個人も考えてあげてください。3.走り込みはさせない中学生くらいから心肺能力を育てていく時期ではありますが、小学生から走り込みをやらせるのはやめましょう。私も大学時代に1週間何もしないと、練習に復帰したら息が切れるという経験をしたことがあります。小学生で息が切れることはそんなに経験したことはありません。全員が同じことできないかもしれませんので、もしできなくても決して悪いことではなく、すぐに追いつくことを伝えてください。そもそも、少年スポーツや育成期にバーンアウトしてしまうのは、日本のスポーツの大きな課題です。決してやりすぎないことを心にとめておいてください。■練習再開前に事前のヒアリングをして状況を確認しよう4.ひとり一人事前にヒアリングをしよう自粛生活は、長いところだと、3か月近くに及んだところもあるでしょう。長期間、強度の高い運動をしていないと思いますが、その程度は少なからずばらつきがあるはずです。各々に電話やオンラインで「何してたの?体調は?」と状況を聞いてあげるとよいでしょう。復帰直後は、決して無理をさせず個々に応じた指導を心がけてください。5.少年サッカーも「新しい生活様式」を私たちはしばらくの間、コロナウイルスと付き合っていかなくてはなりません。しばらくは「コロナ前」には戻れないと考えたほうが良さそうです。少年サッカーにおいても、まさに「新しい生活様式」を志向しなくてはいけません。■少年サッカーの適度な練習時間と頻度とは(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)指導者の皆さんも、休みの間にいろいろ考えておられることでしょう。誰が主役なの?育成とは何か?スポーツとは?そういったことを考えながら、小学生年代でやっておくことは何かということを勉強しなおしてもらえたらと思います。「小学生がサッカーをするのは週に2回でいい」私が以前から話していることです。90分ずつ週に2回まで。自粛しながら、気を付けながらサッカーに取り組むのなら、この頻度で十分だと思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年05月15日チームメイトの自己主張が強く自分のプレーができていなくて、練習中の覇気がない息子。嫌なこと、気になることを主張できればいいけれど、息子は内気な性格で、個性の強いチームメイトには息子が萎縮していることは伝わらないし保護者も気づいてない。自信を持ってプレーしてもらうためには環境を変えるべき?というお悩みをいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんへ3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<どうすればスイッチが入るの?息子のサッカーに疲れてきた問題<サッカーママからのご相談>こんにちは。小二の息子のことですが、地元のクラブチームを辞めて移籍するか悩んでます。理由はチームメイトの自己主張が強くて息子が自分のプレーができていなくて、練習中の覇気がないのです。あくまでも親の見解ですが。息子は内気な性格ですが、 後から入ってきた仲間には声かけてあげたり、チームメイトの為に献身的に走り、キーパーをやらされても頑張る子です。自分で嫌なことや気になることを主張できればいいのでしょうが、個性の強いチームメイトには息子が萎縮していることは伝わらないし、その親たちも自分の子どもの活躍しか関心がないのです。私も彼らには言えません。自信を持って楽しくプレーしてもらうためには環境を変える事が良いのか、今の環境で頑張る事が良いのか悩んでいます。息子には自分の考えを伝えた上で他のチームの無料体験の話をしたら嬉しそうに「行く」と答えましたが、4月から小学2年生になったばかりなので どこまで理解できているか疑問です。どうしたらいいか、アドバイス頂けるとありがたいです。宜しくお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。スポーツは、プレーする子どもの性格が、プレーの志向(守ってしまいがち、攻撃にあがっていく)や競技中の態度に色濃く現れます。時には生い立ちや、親や指導者にどう育てられているかまで投影されることもあります。結果ばかりを求める大人に育てられている子は、本人も無意識なうちに安全なプレーを選択したり、ミスをするとわざと転んでみたりします。叱られることを回避したいし、自分でもミスを受け止められないわけです。このことはスポーツ全般にわたって言えることですが、集団競技の中でも選手個人の意思で判断してプレーせざるを得ないサッカーではより関連性が高い気がします。と前置きはさておき、息子さんの話をしましょう。いいところをたくさん持っている。これからが楽しみな男の子です。■保護者の「心配」が子どもにとって「転ばぬ先の杖」になる可能性内気な性格で、後から入ってきた仲間には声かけてあげたり、チームメイトのために献身的に走って、キーパーをやらされても頑張る――。息子さんの姿を、よく見ているし、理解しておられますね。ぜひ、彼の、やさしく、献身的なマインドを大事に育ててあげてください。「自分で嫌なことや気になることを主張できればいいのでしょうが、個性の強いチームメイトには息子が萎縮していることは伝わらない」と書かれています。個性の強い、とうまく表現してくださいましたが、まだ2年生になったばかりのちびっこギャングたちです。他者の気持ちを慮ったり、自分自身をメタ認知(自分を俯瞰で見るように理解する)するにはまだまだ数年かかります。そのギャング集団の中で、お子さんはきっと少し周りより精神的な成長が早い。早熟なのでしょう。もちろん内気な性格でもあるのでしょうが、仲間に気を遣ったりしてやさしくできるのは、ひとつの大きな才能です。でも、お母さんは、息子さんがやさしいゆえに少しばかり苦しんでいるように見える。それがお辛いのでしょうね。だからといって、チームを変えれば解決することでしょうか。新しいチームなら、彼のキャラクターをみんなが理解して、彼に自信を与えてくれるでしょうか。必ずしも、それは確約されないでしょう。「息子をわかってあげてほしい」「嫌なことはしないでほしい」「自信をもって楽しくプレーさせてほしい」お母さんは、周囲にそう願っている。したがって、環境を変えるべきか否か悩んでいる。気持ちはすごくわかります。ですが、その思考は、世にいう「転ばぬ先の杖」です。うまくいくように、わが子に良かれと思って、転んで大けがをする前に親や周囲の大人が杖を渡す。お母さんは、杖を渡したいですか?ただし、わずか7歳の子どもが杖をついて歩き続けたら、どうなるでしょうか?子ども時代は、友達とけんかしたり、挫折を味わったりと、転んでも自分の足で立ち上がって前に進む力をつける時期です。さまざまな経験を糧にして脚力を強化しなくてはいけません。それなのに、ずっと杖を持たされていたら、彼の脚は鍛えられません。今まで取材してきて、そういう子をたくさん見てきました。杖を渡すお母さんも見てきました。アドバイスを求められると、このように杖の話をします。すると、なかには「無駄な挫折は必要ない」とおっしゃる方もいます。私は無駄な挫折などないと思っているし、無駄かどうかは本人が決めることです。少なくとも、味わう前から決めることではないでしょう。■子どもがまだ幼くて自己決定できないことを、親が代役で決めなくていいそのようなことを踏まえて、お母さんに、三つアドバイスをします。ひとつめ。お母さんが息子さんのことを考えるとき、ぜひ、主語を息子さんに転換してください。「ぼくの個性をみんなにわかってあげてほしい」「ぼくに嫌なことはしないでほしい」「ぼくは自信をもって楽しくプレーしたい」そのように、息子さんが自分で考え、その欲求を叶えるために自分で行動に出るまで、お母さんは黙って見守ってあげてください。「見守って」というと、みなさん「我慢しろってことですよねえ。我慢するのって辛いんですよ」とおっしゃいます。でも、私は我慢を強いてるわけではありません。考え方を転換してほしいだけです。「自信を持って楽しくプレーしてもらうためには環境を変える事が良いのか、今の環境で頑張る事が良いのか」と迷っていた。でも、よく考えれば、それは息子が自分で考えて解決することだ、と。「どこまで理解できているか疑問」お母さん自身、率直な気持ちを書いていらっしゃるように、子どもがまだ幼くて自己決定できないことを、親が代役で決めなくていい。これが二つ目です。そして、三つ目。委縮している息子さんを、頑張れ、頑張れと心のなかで応援し続けてください。お母さんが「頑張っているのに、そんなにきつく言われて......」と同情すると、そこに「かわいそう」という感情が生まれますよね。「かわいそう」が生まれると、血のつながった親ですから、何とかして助けてあげたくなる。杖を与えたくなる。感情に負けて杖を与えてしまうと、子どもの成長を阻んでしまいます。したがって、息子さんをぜひ厳しく育ててください。日本では「厳しく育てる」というと、怒鳴ったり、叱って罰を与えることだと考える人が多いですが、それは違います。何かをやらせようと怒鳴るのでは、お尻をたたいてやらせること。無駄なコミットです。甘やかしだと私は思います。■見守ることは、ある意味厳しさでもある(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)見守ることは、ある意味、厳しさです。弱音を吐いてきたら「どうしたらいいか考えてごらん」と言ってあげればいい。今のところ、お子さんは今のチームがすごく嫌なわけではなさそうです。いま、コロナの影響でサッカーが思うようにできないのではないでしょうか。いい機会です。少し落ち着いて考えてみてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年05月13日未就学〜小学6年までを指導している。まずはサッカーというスポーツを楽しんでもらうことを前提に、年代が進むにつれ考えて動くプレーを身につけさせたい。おすすめのメニューや声かけはある?とのご相談をいただきました。今回も、これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが練習メニューや声かけをアドバイスします。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<試合ばかりで練習がつぶれる。技術は試合だけで身に付くの?練習を削ってでも試合を重視するべきか教えて<お父さんコーチからの質問>こんにちは。街クラブで未就学児から小学6年生までを教えています。年代ごとに教えなければいけないことはあると思いますが、まずはサッカーというスポーツを楽しんでもらう事と、学年が進むにつれて、考えて動くプレーを身につけさせたいと思っています。楽しくやりながら、状況を判断して動けるチームにする練習や、自分で考えて動けるようになることを意識させるために伝えるべき言葉(説明)などがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。サッカーというスポーツを教えてあげることが肝要です。そして、それをなるべく早く、低学年でも、幼児からでも伝えてください。■全員がプレーに関わった実感を持てると楽しくなる小さいときは、体格や運動能力の違いが大きいため、他の子より少しできる子がひとりでドリブルをしてゴールを奪う。ボールを持ち続ける。そんな場面がよく見られます。ですので、子どもたちには最初にこう声掛けしてください。「サッカーってみんなでパスをつないで協力してゴールを奪うスポーツですよ。誰かひとりだけが頑張るスポーツではないよ。もしひとりの子の力で点が取れたとしても、それはいいチームじゃないよ」そのことをまずわかってもらったうえで、みんなの力を結集して点を取るためにはどうするか、を伝えていきます。「味方を助けるためにどこへ動く?」「パスをもらうためには?」「得点するためには、どこに行く方がチャンスになる?」そういうところからスタートしましょう。ボールを持っている子は周りをまず見ること。どこにパスすれば点を取れるか、ゴールに近づけるか考えること。相手がやってきて、ボールを取られそうになるかもしれないので、そうなる前に助けてくれる人がいるとしたら誰を使うかを考えましょう。そんな順番でサッカーを学んでもらいます。みんなが味方を使うことを考えられるようになれば、みんなにパスがいきます。そうすると、断然サッカーが楽しくなります。ゲームでない練習、例えば「とりかご」をするときは、10本パスを回すと得点がもらえる。そんなふうに、ちょっとした仕掛けをします。単なる練習にせず、そんなふうにやるだけで子どもたちは大喜びします。みんなにパスが来るから楽しい。そんな感覚をぜひ身に付けさせてください。自分が出したパスが通ると楽しくなる。それがゴールにつながればもっと嬉しい。もちろんゴールを決めてもうれしいのですが、そこにコミットしたという実感を全員が持てることが一番重要です。■FCバルセロナの指導で定義される「いいポジション」とはそこまでもっていくには、最初の段階では流れを止めて説明する必要があります。学年が下がれば下がるほど、ゆっくり説明します。「はい、ストップ。いま、こんなところにみんないたよね。そこにいてパスはもらえますか?」そんな問いかけをして考えさせます。これは、文句とか叱るといったことではありません。スペインでは、質問することを「フィードバック」という言い方をします。このフィードバックでどんな言葉を使うかがとても重要です。例えば「どうしてそんなところにいるの?」は、それは間違ってますよ、と否定することになります。大人なので「いいポジション」は1か所ではないことを理解していますが、具体的にいうといったいどんなポジションなのかをわかってもらう必要があります。FCバルセロナの育成で「いいポジション」とは、「それは自分とボールの間に相手選手がいないから線が引けるね」というふうに説明しています。そのうえで、そこに「顔を出しなさい」と声をかけるわけです。と同時に「でも、ボールに線を引けるところはいっぱいあるよね。できれば、ボールよりも前(ゴールに近いほう)でパスをもらうことを推奨します。ボールを下げないように指導します。例えば、「ボールより前に線が引けるところはどこ?」という言い方をします。このように、ボールをもらえるポジションはいっぱいあります。どこが正しいか、は誰にも決められないと私は思います。しかしながら、日本の指導者は、「もう少し右だよ」と言って一歩の差を指摘するコーチは少なくありません。フリーズさせて(プレーを止めて)「そこじゃもらえないでしょ。あと1メートル動かなきゃ」とアドバイスします。そうではなくて、スペースに出せばいいので、そういう練習をすればいいのです。やりながら互いに理解を深めていけば、悪いポジションにいることがわかってきます。中田英寿さんが現役時代、試合中も誰もいないスペースにスルーパスをよく出していました。味方が反応せず、外に出たり、相手に取られるのですが、それでもそのスペースがあるよと仲間に伝えたかったのだと思います。見ていると、日本は低学年でパスを使うゲームや練習をほとんどやらせません。メニューが個人技術、クローズドスキルに偏っている気がします。「ゲームをたくさんやらせましょう」という話をすると、ゲームではスキルが上達しないのではないかと不安そうです。それなのに、試合になると練習していないことを要求したりします。子どもは戸惑います。スペイン在住の育成コーチでJリーグ理事でもある佐伯夕利子さんがフェイスブックで発信している3~5歳くらいの練習動画と彼女の文章に驚かされたことがあります。小さな幼児が、どんどんパスを回してゴールを奪っていました。俗な言い方ですが「サッカーになっている」わけです。■育て急ぐのか、勝ち急ぐのか......。日本と海外の指導者の違い(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)佐伯さんは「3歳児には3歳児なりの考え方がある」と書いています。だんごになることもある。成長段階ではそうなることを理解しなくてはいけません。「年少さんだからだんごでも仕方ないよね。年中になるとこんなふうになったらいいかな」そんな展望を指導者が持っておく。そのうえで、ゆっくりとサッカーの本質を伝えていきます。コーチたちがゆっくりと問いかけをしながらやります。決して「だんごはサッカーじゃない」といった言い方はしません。「みんなここにいるけど、どうかな?味方もいるし、相手もいるよ。とられないところってどこかな?」そんなやり取りを佐伯さんたちはいっぱいしてきたと思います。3歳は3歳なりに意見がある。すぐに答えをいうのでなく、ダメでしょではなく。「ぼくはここがいいと思った」と言えば、「オッケー。なぜそこがいいのかな?」と常に彼女たちスペインのコーチはやさしく対話します。常にやさしいのです。日本のコーチの指導は性急に見えます。とても急いでしまう。育て急ぐのか、勝ち急ぐのか。両方かもしれません。ぜひそのような哲学的な部分も見直しながら、ゆっくり指導してください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年04月24日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■小学生年代でヘディングの「練習」は必要なのかみなさんは、幼児から小学生までのヘディングについて、どうお考えですか?私はずっと以前から子どもを指導する際にはヘディングの練習はやらせていません。1990年代にドイツ留学し、その際に子どもにやらせていなかったこともありますし、「止める」「蹴る」の技術がサッカーでまずやるべきことだという認識や、「こんなに小さい頭では脳にあまり良くないのではないか」という危惧もあったからです。その後、2008年に池上正さんが上梓された『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』を読み、「やはりヘディングはさせてはいけなかった。良かった」と自分が間違っていなかったことに安堵した記憶があります。12年前にみなさんの手に渡ったその本には、こう書かれていました。7~8歳では浮いたボールが蹴れません。ボールが空中に上がらないのだから、ヘディングを練習する必要はありませんね。実は、私もこの考え方に出会ったのは20数年前です。それまでは、幼児にヘディングをやらせていました。ある方との出会いが私に、大人も進化しなくてはいけないことを教えてくれました。その方は、以前ジェフのゼネラルマネジャーを務めていた祖母井(うばがい)秀隆さん(現フランス・グルノーブル社長)です。(中略)私はYMCAにいたのですが、その祖母井さんにアドバイザーとしてYMCAに来てもらったのです。ヨーロッパの少年サッカーの指導法を教えていただいたのですが、幼児はもちろん小学生でもヘディングするなんてありえないと言われました。「今まで、おれら何やってたんだ?」と大ショックでした。すぐに変えました。全国のYMCAのサッカースクールのカリキュラムをすべて変更しました。出典:サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法「今日から、ヘディングはなくなります」と池上さんが発表すると、コーチからは大ブーイングだったそうです。でも、「間違っていたら変えなくてはいけない」と池上さんらが強く主張してYMCAは小学生にヘディングを教えることをやめたそうです。08年時点で20数年前とおっしゃっているので、1980年代のことです。ところが、日本で小学生にヘディングの練習をさせる指導者はなくなりません。先日も、ヘディングが原因と疑われる硬膜下血症の治療をしている小学生の話をきいたばかりです。■イングランドではユース年代の練習でヘディング制限するガイドラインを発表イングランドサッカー協会は先月、ユース年代の練習でヘディングを制限するガイドラインを発表しました。11歳以下の子どもたちは原則禁止。12〜18歳の年代でも最小限に抑え、段階的に増やすようにと伝えています。試合中のヘディングは従来通り可能です。ただし、池上さんが本に書かれていたように、7~8歳では浮いたボールが蹴れないので、ボールが空中に上がらないため試合でもヘディングをすることは、ほぼありません。イングランド協会が子どものヘディング禁止を決めたのは、同国のグラスゴー大学が昨年、元プロサッカー選手を対象にした調査で、認知症やパーキンソン病など脳の病を発症して亡くなる確率が一般の人に比べ3.5倍高くなるという結果を発表したことがきっかけになったと言われています。ガイドラインでは、ヘディング練習が段階的に制限される年代の12歳以下は「月に一度の練習で最大5回」まで。13歳以下は「週に一度の練習で最大5回」まで。14〜16歳の年代は「週に一度の練習で最大10回」まで、18歳以下でさえ「可能な限り減らすように」と通達しています。日本サッカー協会は現時点で、ヘディング練習に関する具体的な制限は設けていません。12歳以下の指導では、ヘディングを教えるときは「生え際のところに首を固定して、ボールに当てる」といったやり方が紹介されています。子どもの脳への影響は語られていません。そもそもボールは浮かないのですから、練習を禁止にすべきです。そうすれば、胸やももで体を入れてコントロールすることを覚えます。それでは、ごく一部とはいえ、日本の指導者がなぜ子どもに、脳へのリスクの高いヘディングを教えてしまうのか。それは二つの理由が考えられます。1.危険だという認識がない2.認識があっても、体の大きな子どもがヘディングを覚えることで得点源になるため勝利に近づくことができる。日本の少年サッカーの指導法は近年、少しずつ変化を遂げています。とはいえ、技術や戦術にばかりエネルギーを注ぐあまり、いかに安全な競技環境にするか、いかに子どもたちにスポーツマンシップを伝えるかといった「勝利にかかわらない部分」が置き去りにされていないでしょうか。■情報のアップデートには迅速に対応しなければならない(写真は少年サッカーのイメージです)日本サッカー協会の指導者ライセンス取得の講習内容は、4年に一度見直します。ただ、情報が書き換えられる部分についてはもっと迅速に対処すべきだと感じています。日本サッカー協会の指導者ライセンスを取得したサッカー指導者は医学的なこともおさえながら指導しています。例えば、中学生年代など身長が急激に伸びる時期(PHV年齢※Peak Height Velosity)には、身長の伸びと同時に内臓も肺も大きくなります。PHV年齢は女子が11歳。男子は13歳ごろですね。その時期には持久力系のトレーニングが必要になります。ただ、単にランニングさせて走らせるやり方ではサッカーの技術との関連性がなくなってしまいます。ボールを使う練習の中で、心肺機能にも負荷を与える練習を意識的に行う事は欧州ではずっと以前から常識です。ところが、ここでも日本は遅れています。単調なランニングをさせるコーチは少なくありません。ヘディングの指導も然りです。間違っていたら、変えなくてはいけません。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年03月25日窪田正孝が三池崇史監督と2008年のドラマ「ケータイ捜査官7」以来、約10年ぶりにタッグを組んだ『初恋』がついに公開。早くも鑑賞者からは、「窪田正孝に惚れた」「結婚して」「全力の俳優スペックが堪能できる」など、新型コロナウィルスを吹き飛ばすかのような熱い絶賛の声が止まらない。さらには「キャスティングの勝利」「ベッキーがヤバい」「染谷くんがいいキャラ」といったキャスト陣の濃さと、「パンチ効きすぎ」「『ミッドサマー』より血なまぐさい」といったバイオレンス描写に、“こんな初恋みたことない”と“騙された”人が続出している様子だ。世界が夢中になる三池ワールドの真骨頂カンヌ国際映画祭、トロント国際映画祭に続いて異例の全米先行公開となり、世界30以上の映画祭から招待されている本作。窪田さん演じる孤高の天才ボクサー・レオが偶然出会ったのは、借金のカタにヤクザに囚われているモニカ(小西桜子)。この若いカップルが偶然が重なりドラッグがらみで逃避行する、というベースラインはかつてクエンティン・タランティーノが脚本を手がけた『トゥルー・ロマンス』(’93)の三池版と言われている。また、激しいカーチェイスシーンや、バイオレンスの中を生き抜くピュアな男女の組み合わせには『ベイビー・ドライバー』(’17)のようという声も。だが、もとをただせば、タランティーノ監督作品をはじめ、最近の『ジョン・ウィック:パラベラム』なども大きく影響を受けているのは日本のヤクザ映画だったりする。本作と同じ東映配給の『孤狼の血』(’18)の大ヒット&高評価は記憶に新しいところだが、カンヌをはじめ、海外で本作が受けているのは三池監督らしい濃厚なバイオレンスとブラックジョークとともに、いまや絶滅危惧種となった“仁義”をきっちり通すヤクザの生き様をも描いてみせているから。確かに三池監督初のラブストーリーであり、「さらば、バイオレンス」と銘打たれているものの、それは真っ赤なウソ!?開始早々、窪田さんのボクサー姿に油断していたところに登場する、PG12ギリギリのシーンからもそれは明らかだ。窪田正孝の魅力もがっつり堪能「死んだ気になりゃ、やれるはず」そんな三池監督と、駆け出しのころオーディションから見出された窪田さんが満を持しての再タッグ!近年は原作ものの実写化を数多く手がけてきた三池監督が、久々の完全オリジナル作品で主演に選んだのが彼だった。才能溢れるボクサーながら天涯孤独、「これしかねぇから」とボクシングにしがみつくも、勝利を手にしてもその喜びをおくびにも出さない、ある意味“感情が死んでいる”青年を熱演する。「挑戦してみたかった」という念願のボクサー役だけあり、撮影1か月前から作っていったという肉体美とストイックなトレーニングの成果を覗かせる窪田さん。しかし、演じるレオは負けるはずのなかった相手との試合でまさかのKO負け。さらに病院での検査により、余命幾ばくもないことが分かる。すべてを失ったと思っていた、そんな日に出会ったのが、映画初出演というイノセントさがハマる新星・小西桜子が演じるモニカだ。彼女の不遇を知り、力になりたいと思うようになるレオ。しかも、彼女はヤクザのドラッグを持ち逃げしたと疑われ、彼らと、抗争相手のチャイニーズマフィアからも追われることになってしまう。「この拳で彼女を守る」。『HiGH&LOW』のスモーキーのようなダウナー系の窪田さんが、性被害者でもある彼女の思いを受け止めガチギレた瞬間に、多くの窪田ファンが歓喜の声を上げるはず。初恋を知ってからの彼の変わりようこそ、熱いのだ。「ベッキー覚醒」個性が暴走するキャラクターたちも見逃せない三池ワールド全開の中、強烈な個性で2人の初恋をかき乱す面々も見逃せない。そもそもモニカが追われる身となったのは、“ヤクザに見えない”ヤクザの策士・加瀬(染谷将太)が悪徳刑事・大伴(大森南朋)をそそのかし、組のドラッグを横取りしようとしたことが始まり。その渦中で恋人(三浦貴大)を殺された女性ジュリ(ベッキー)が怒り狂い、彼らに復讐しようとする。また、加瀬の策略により、すべてはチャイニーズマフィアの仕業と思い込まされてしまうのが、武闘派ヤクザ・権堂(内野聖陽)だ。東映任侠映画の高倉健のような昔気質の権藤は弟分・市川(村上淳)を引き連れ、チャイニーズマフィアと共存共栄しようとするトップの意向を気にする組長代行(塩見三省)が止めるのも聞かず、筋を通すために繰り出していく。日本映画界が誇るヤクザの本分を「めんどくせー」と言い放つ、姑息だが、どこかとぼけた染谷さん演じる加瀬が、銃で撃たれた後の姿にはドン引きしつつも目が離せなくなること必至。そんな加瀬とコンビを組むことになる、大森さん演じる大伴刑事の堕落っぷりもお見事。それぞれの思惑が決して交わらず、愛憎入り乱れた群像劇の決着の場が、郊外のホームセンターなのもシュールだ。何より、触れる者全員が大ケガしそうな、ベッキーの凄みあるキレっぷり!バラエティタレントとか昨今のスキャンダルとか、すべてぶっ飛ぶ彼女の覚醒は必見。さらに、チャイニーズマフィアの刺客で、“高倉健ファン”のチアチー役を演じるディーン・フジオカの実妹・藤岡麻美もキレのいいアクションを披露しており、今後注目を集めそうだ。『初恋』は全国にて公開中。(text:Reiko Uehara)■関連作品:初恋(2020) 2020年2月28日より全国にて公開Ⓒ2020「初恋」製作委員会
2020年03月06日サッカーが上手い下手でマウンティングする言動がチームの中に広がっている。コーチもだけど、子どもたちの中にも。親としてはサッカーが上手くなるのもだけど、小学生に大事なのは技術だけでなく態度や思いやり、協力的な部分だと思っている。ボランティアコーチだから教育的な指導を求めすぎるのも難しいのか......、とモヤモヤする気持ちを抱えるお母さんからご相談をいただきました。皆さんならどうしますか。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとに3つのアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<息子は人見知り?試合に出ても練習に参加しません問題<サッカーママからのご相談>小学生サッカーチームで兄弟ともにお世話になっていました。兄は卒団し、弟(11歳)はまた違う指導者にメインで指導してもらっています。元々、指導者によって考え方が違うため、なんとなくまとまりがないチームであることは分かっていましたが、最近特に上手い下手でマウンティングする言動がコーチ、子どものなかにまで広がっているように感じます。とてもあからさまです。もちろんサッカーが上手くなって勝ちを取りに行くのも大切だけど、それは一部ではなくみんなでそうするべきだと思うし、小学生のサッカーに一番重要なのは、態度とか、相手をおもいやるとか、みんなで協力するとかそういうソフトな部分なのではないかと思い、モヤモヤし続ける日々です。子どもはこのチームで卒団までやりたいようですし、そうなると、親から言えることはなにもなく。ボランティアコーチでまとめてもらっていますので、教育的な部分を求めすぎるのも難しいのかと思いながらもそれでも指導する立場なのに......とモヤモヤがとまりません。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。「上手い下手でマウンティングする言動」が具体的にどういったものなのかがわからないので、はっきりしたことは言えませんが、お母さんの感覚でそう思えてしまう。しかも「あからさまに」と書かれているので、看過できない問題であることは確かだと感じます。■サッカーの力の差で仲間を従わせるのはスポーツマンではない私の知っている少年団でも、似たようなことがありました。「一番足を引っ張っているヤツをみんなで指さしてみて。イチ、ニッ、サン!」そのように音頭を取って、子どもたちに指をささせる。そんなコーチがいました。その方の夢は「Jリーグ選手を少年団から輩出すること」で、長く"高学年だけを"見てきた自分にはそのくらいの指導力があると言うのです。すると何が起こったか。小学校の掃除の時間に、レギュラークラスの子が自分の掃除当番をベンチスタートの仲間にやらせたり、下校時にランドセルを持たせるといったマウンティング行動が目立つようになりました。しまいには、そういったことに交わっていない子どものお母さんが、担任教師からこういわれたそうです。「サッカー少年団の子どもたちのなかで、主従関係ができてしまっている。力の強い子が弱い子を家来のように扱っているというか。度を超すといじめにならないか心配です。サッカーのコーチはちゃんとした人が教えているのでしょうか?」そのお母さんは「ちゃんとした人かと言われれば、全く違います。すぐに怒るし、何試合やってもずっと同じレギュラーメンバーを出し続けて、2点差以上開かないと絶対交代させません」とありのままを担任に伝えました。担任は家来のように仲間を扱っていた子たちに「サッカーの力の差で仲間を従わせるのはスポーツマンではない」と叱ってくれました。以来、そういったことはなくなりましたが、ほかにもそういった話はよく聞かれます。■モヤモヤする現状を改善するための3つの方法結論から言うと、お母さんの「モヤモヤ」は、正当な感覚です。三つアドバイスしますね。まず、できればマウンティングをやめていただく努力をしてほしいです。ほかの保護者に意見を聞いてみましょう。同意見であれば、コーチに対してやめてほしい言動を伝えましょう。その際は、いつもお世話になっていて感謝している旨をまず伝えてから話します。それでも伝わらなければ、クラブの代表の方に話します。ふたつめ。他の保護者から後方支援を受けられなさそうであれば、息子さんが傷ついていないかだけでも話を聞きましょう。また、どう感じているのかを聞いても良いでしょう。お母さんはよくないことだと思っていると伝えたほうがいいと思います。よく、コーチのことは悪く言うななどとおっしゃる方がいますが、あくまで主体は子どもです。少年スポーツは大人のメンツや名誉のために存在していません。三つめ。よろしくないコーチだとしても、最終学年まで同じチームで続けてきたお子さんの気持ちは汲んであげましょう。決して、他のチームへ移籍しようといったことは言わずに最後までプレーさせてあげましょう。■子どもの「見本」になる大人か「反面教師」になる大人かの区別をする力も必要「ボランティアコーチでまとめてもらっていますので、教育的な部分を求めすぎるのも難しいのか」と書かれていますが、まったくそんなことはありません。社会の一員として子どもを教えている以上、責任はあります。ぜひ視点を変えてください。「教育的かどうか」というよりも、「大人として正しい言動かどうか」で判断してください。子どものスキルが未熟か成熟しているかによって態度を変えたり、未熟な子に対して強い態度に出るのは大人として失格です。私がそういったことを言ったり書いたりすると、「コーチをしたこともないくせに」とおっしゃる方がいますが、その言葉も意味が分かりません。コーチとしたら、子どもは個々で能力差もあって大変ですね。イライラして子どもに当たりたくなる気持ちはよくわかりますと言ってほしいのかもしれません。大人には、子どもたちが生きていくうえで「こんな大人になりたい」と思える見本になる人と、その逆である「反面教師」になる方がいらっしゃいます。その区別をする力もこれからは必要です。■パワハラ、セクハラがなくならないのは親たちの考えも原因(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)以前、私の子どもが在籍した少年団にも、モヤモヤするコーチがいました。よろしくないのでは?と他のお母さんたちに話したら、ひとりのお母さんはこう言いました。「うちは、大人の言うことは基本的にちゃんと聞くようにしつけてあります。長く生きている人には、それだけの長があるということなので」かなり驚きました。そういう考えの方もいらっしゃいます。だからパワーハラスメントも、セクシャルハラスメントもなくならないのだと思いました。「ママはおかしいと思うよ。あなたは影響されないでね。(マウンティングされている)お友達を支えてあげて」それだけはぜひお子さんに伝えてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年03月04日試合の2時間前からアップさせる指導者。アップ時間が長すぎて子どもたちは試合前に体力消耗してしまっている。休憩ありとはいえ1時間45分程のアップは長すぎない?適切なアップ時間ってどのぐらい?とご質問をいただきました。今回も、これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんがアドバイスを送りますので参考にしてください。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<「楽しければ強くならなくていい、レギュラー外して」という選手に勝つ喜びを教えるにはどうしたらいい?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。指導者でなく保護者なのですが、子どもたちが心配なので相談させてください。スポーツ少年団で、息子がサッカーをしています。指導者はボランティアの監督、コーチです。チームの悩みですが、試合前のアップが明らかに長いと思っています。11時からの試合開始だと9時からアップを開始して試合開始の15分程前までアップをしています。明らかにアップが長く、子ども達は試合前に体力を消耗してしまっています。さすがに夏場は「猛暑なのでこのままでは、子どもは試合前に倒れてしまいますよ」と、保護者代表から相談を持ち掛けて改善は図られました。いくら寒い時期になったとはいえ、休憩ありでも1時間45分程のアップは長いと思うのですが、少年サッカーの試合前アップは、どれくらいが適切なものでしょうか?<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。1時間45分のアップ(練習)では、休憩もあるでしょう。全体像が見えないとはっきりしたことは言えないのですが、こちらの想像の範囲での話だとご理解いただいたうえでお聞きください。■「アップ」だけと考えるなら長いが、指導者には別の意図があるかも結論から申し上げましょう。アップの適切な時間を尋ねているのなら、1時間45分は長いと思います。ただし、それがトレーニングの一環であれば、試合前に行うという状況であっても問題はないと感じます。小学生は、練習試合や大会の際のウオーミングアップを、練習も兼ねて長く行う場合もあります。そもそも活動が週末だけだったり、もしくは週に行える練習時間はそう多くないという理由でやっている指導者もいます。そういうことはあるだろうと想像します。人数も、一日に何試合行うのかもわからないので何とも言えないのですが、試合で子どもがどれくらいの時間プレーするかを考えると、指導者にとってはひとつの工夫でしょう。一人当たりの時間がそんなに長くないので、アップの時間に練習をさせようというわけですね。そういうことを考えて時間を過ごしているのかもしれません。例えば、冬場で寒い時期であれば「最初に練習するよ」と1時間くらい練習をさせます。試合は前後半交替で出るから、というならまったくおかしいことではありません。指導者として、活動量を増やすという意味で考慮する必要はあります。■試合前のウォーミングアップの適切な時間一方、「どれくらいが適切な時間か」という質問もありました。純粋に試合前のアップだとしたら、子どもたちは20分程度で温まります。その程度の時間で問題ありません。体温を上げて、各部位の関節の可動域を広げるだけで十分なわけです。その時間を指導者がどういう目的で指導しているか。それによって見方は変わるとしか申し上げられないのが実際のところです。違う視点から言うと、ご相談の文章を読んでいてひとつ疑問がありました。「11時からの試合開始だと9時からアップを開始して試合開始の15分程前までアップをしています」「明らかにアップが長く、子ども達は試合前に体力を消耗してしまっています」この二つです。15分前まで行うことは特に問題ではありません。ごくごく普通のことです。また「体力が消耗してしまっている」という心配は、親御さんたちからから見て「試合に勝つためにはマイナスだ」という感覚でしょうか?もし、そうでなかったら聞き流してくださいね。■指導者、保護者間のコミュニケーションがネガティブな疑問解消につながる子どもたちが試合に勝ちたいのは当然ですし、その心は育てなければいけません。が、その気持ちをどう成長させるかが大人の役割です。目の前の試合で一喜一憂するのではなく、おおらかな気持ちで応援してあげてもらいたいと思います。例えば「アップしすぎたから負けた」というような見方ではなくて、この試合、もっといえば、その日の活動機会をどう生かすか、という視点で考えてはいかがでしょうか。また、保護者側からは「もし夏場なら倒れてしまいます」と話されたようですが、もう少し指導者からコミュニケーションがとれたらいいのかもしれません。保護者は、指導者の考えになかなか触れられません。疑問が出てくると、ネガティブなほうに考えていってしまいがちです。私は指導者の方々に「保護者とコミュニケーションをとってくださいね」といつも話します。円陣を組んで子どもに話すのを、保護者に聞いてもらう。その試合や練習、もっといえばその時間を何の目的をもって過ごすのかを一緒に聞いてもらうわけです。そこを理解してもらえば「ああ、コーチは練習の一環でやっているんだな」などと納得してもらえます。■大事なのは時間の長さではない(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談の文章を読む限りでは、そんなに深刻な問題ではなさそうです。子どもたちが楽しく、熱中して取り組んでいるのであればまったく問題はありません。時間の長さを計るよりも、子どもたちの表情や動きを見てあげてください。例えば、しごきのような、理不尽な練習内容であれば、逆に子どもたちから苦情が出るはずです。決してそういったものでないのならば、親御さんたちもぜひ見守ってあげてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年02月21日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■練習の「意味」ではなく「やり方」の質問ばかり。反復練習にこだわる日本人以前、ドイツ人のコーチからこんな話をされました。「タカハシ、ドイツに視察に来る日本人コーチは、ぼくらがやっている練習メニューを一所懸命にノートに書きつけている。どうしてそんなことをするんだろう?意味がわからない」聞けば、4対4を行うと「いつもこのグリッド(範囲)で行うのですか?」とか「何分くらい?」「ワンタッチではやらないのですか?」と練習のやり方に関する質問に終始するそうです。「彼らの質問はおかしいよ。その時のそのチームの課題を改善するためにのみメニューは創られるのだから、それを正確に書き写しても彼らには何の意味もない。私がどんな課題に対して、どんな意図でその練習をしているかを聞かれるのならば話す意味があると思うけどね」加えて、ドイツでは育成年代であろうとも、毎日同じ内容の練習はやらない。そこについても日本人コーチは驚きます。私もドイツに行ったとき、驚きました。日本では、例えば1週間のサイクルである程度同じ練習を繰り返すことが多い。いわゆる、反復練習ですね。この反復練習は、意識を高く持てない場合、何も考えずにトレーニングすることになり易い。曜日ごとにほぼ同じメニューをしばらくの間繰り返すので、そこに"慣れ"が生じることで、練習の質が落ちる可能性があるのです。反復練習にこだわるのは、学校でドリル学習を多くやらされてきたからなのか?と考えたりします。同じスポーツで、野球も素振りという反復を繰り返します。これは自分のよい形を探し、定着させる目的があるのでしょうが、米国では素振りはしないそうです。素振りをしている日本人選手に、メジャーの選手が「空振りの練習をしてどうするのだ?」と不思議そうに言った、という話は有名です。私たち指導者は「何のためにこの練習をするか」をもっと考え、そのことを子どもたちに伝えなくてはいけません。と同時に、「いつも頭を使って考えてやる練習」をやっているかも見直すべきです。育成年代の試合を観に行くと、最近はコーチたちが「自分で考えろ」と叱咤激励している場面に出会います。ですが、その前に大人が工夫しなくてはいけません。子どもたちに自分たちで考えるベース作りをする。間違っても、何をしても叱られない空気を生み出す。考えないとできない練習メニューにする。飽きずに意欲的に取り組めるようにしてほしいと思います。■上達のイメージは「らせん階段」海外では子どもが練習中に改善提案してくることもさらに、もうひとつ。みなさんの頭の中にある上達するイメージを変えてください。従来の日本のサッカー指導は「組み立てていくイメージ」でした。まっすぐの階段を一段一段昇っていくイメージです。最初にドリブルをやって、ひとりでボールを運んでゴールできるようにします。ドリブルができたら、次にドリル練習でキックを改善。次はトラップ練習、そしてパス練習と、スキルトレーニングがすべて段階的です。これは、ゲームを中心に行い、その中で出た課題から総合的にスキルを高めていくドイツとはかなり違います。この「総合的にスキルを高める」イメージは、ドイツの哲学者ヘーゲルが提唱した「物事のらせん的発展の法則」と似ています。例えば、サッカーを始めた小学1年生が、らせん階段をゆっくり登っていく姿を見ている。そんな想像をしてみてください。真上から見ると、1年生はひとつの円をぐるぐる回っているようにしか見えません。ちっとも上に進んでいないように見えます。ところが、角度を変えて横から見ると、少しづつ確実に、上へ昇っていることがわかります。このらせん階段の話は、池上正コーチも著書で説明しています。ゲームを軸に、その日ここが足りないなと思ったらそのトレーニングを足す、という考え方もドイツの育成と同じです。ゲームばかりしていて上手くなるのですか?といぶかしげな指導者は多いのですが、技術を切り出してみるのではなく、全体像で見てあげることが重要です。FCバルセロナの現地スクールで長年コーチを務めた村松尚登さんも、自身の著書で「スペインの育成は氷の塊を削っていく作業」だと語っています。スペインでは、選手が練習の途中で「ナオト!この練習、こうしたほうがいいんじゃないの?」とどんどん提案してくるそうです。ただし、日本では指導者と選手、教師と生徒の関係が主従的なので、子どもたちはそんなふうに教育されていません。したがって、大学教員になってドイツ留学した私は、帰国してからの1年間は毎日メニューを変えて練習してみたのですが、残念ながらチームは強くなりませんでした。選手たちの多くは高校までに、説明された練習の意図を理解してトレーニングに主体的に取り組む経験をしていないため、日々の変化についてこれなかったのです。私の力不足もあったと反省しています。唯一、試合前日の土曜日をもオフにしたのは奏功しました。学生たちは自分たちで課題を持って自主練を始めたことでうまくなりました。■学校でも「当たり前」を見直す動きが。サッカーも......(写真は少年サッカーのイメージです)最近は、日本サッカー協会が勧めるマッチ・トレーニング・マッチ(MTM)の実践をするコーチも出てきましたが、まだまだ少数派。街クラブをのぞくと、対面パスから練習が始まるチームは少なくありません。ぜひ、上達のイメージを、普通の階段から、らせん階段に転換してほしいと思います。ヘーゲルは、らせん階段を昇るのは「進歩・発展」しているけれど、もともといた場所に戻るようにも見えるため、それを「復活・復古」と意味づけします。この2つの視点を組み合わせ「物事の発展はただ発展するのではなく、古いものが新たな価値として復活してくる」と定義しました。社会の発展は、例えば手紙がメールになり、SNSになったように、意味は同じでも形を変えて進化することを私たちに教えてくれています。ちなみに、計算ドリルや漢字ドリルといったドリル学習をやめる小学校も出てきています。「当たり前」を見直す動きは、あらゆる場所で始まっています。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年02月12日映画『ファンシー』の公開記念舞台あいさつが8日、東京・新宿のテアトル新宿で行われ、永瀬正敏、窪田正孝、小西桜子、廣田正興監督が出席した。廣田正興監督の長編デビュー作となる本作は、廣田監督が約20年間の構想期間を経て、山本直樹原作の短編『ファンシー』にオリジナル要素を大幅に付け加え、現実とファンタジーの狭間で揺れ動く男女3人の関係性をスリリングに描いたもの。元彫師の郵便屋(永瀬正敏)、ペンギン(窪田正孝)、月夜の星(小西桜子)の3人が、それぞれの愛を探し求める。前日が公開初日ということで、この日は公開記念舞台あいさつが行われ、本作で長編デビューとなった廣田監督と20年来の知り合いだという永瀬は「監督が商業デビューするならこの作品でと仰っしゃり、その際は出てくださいと言われたので軽く『いいよ』と言ってしまいました(笑)。約束を守れてよかったですし、監督が諦めない気持ちをずっと持ち続けていて素晴らしいと思いました。今回はお声を掛けていただいて即決でしたね」と廣田監督の夢が叶って満足そうだった。窪田は「原作にもありますけど、とにかく冷やしました。冷やしすぎて現場で高熱になり、撮影を一瞬止めてしまいました(笑)」と苦笑い。窪田と初めてガッツリ芝居をしたという永瀬は「人類を超えていますからね。鳥類を世界で演じられるのは2人か3人しかいないんじゃないんですか。自分のペンギン像を持っていて、ペンギンんにしか見えませんでしたよ」と絶賛すると、窪田も「永瀬さんとの共演は背筋がピリッとしました。すごい緊張もあったんですが、それを感じさせないように現場で努めてくださいました」と永瀬の心遣いに感謝しきりだった。廣田監督と同様に商業映画デビュー作となる小西は「映画で見ていた方々だったので緊張しました。こんな日が来るとは思わなかったですね」と喜び、「窪田さんは本当に優しくしていただいて、最初からフランクに話しかけてくださったので緊張がほぐれました。永瀬さんも優しくて、初めての映画がお2人がお相手で心から良かったと思います」と感謝の言葉。小西について永瀬が「原作から飛び出たような感じでピッタリだと思いました。最初が僕っていうのはすみませんね。もうちょっとイケメンの若い方が良かったかな(笑)」と自虐的に語り、窪田も「本当に真っ直ぐさでは誰にも負けないんじゃないかな。何者でもない透明な桜子ちゃんの心がそのまま役に浸透していて、それを真正面で受けた時に汚れたと思いましたね。汚れている俺がダメだと思ったし、真っ直ぐな桜子ちゃんに救われました」と賞賛していた。
2020年02月09日息子が2人のチームメイトから暴言を吐かれている。「きもい」「おまえは消えろ」とコーチがいない時に言ってくる子たち。「言い返せ」と言っているが相手は口が達者で「口では勝てない」とのこと。中学に行っても同じチームなので同じようなことが続くのでは、という心配ともう6年生なので自分で解決しないといけない年齢だなぁという感情で揺れているお母さんからご相談をいただきました。皆さんならお子さんがそのような状況にあったらどうされますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験に基づいたアドバイスを送りますので参考にして下さい。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<人手不足で3学年一緒の活動に。チーム混乱の少年団をやめるべきか問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。今、悩んでいる事があり相談させてください。息子が2人のチームメイトから暴言を吐かれています。チームメイトはコーチが近くにいる時は至って普通に、楽しく過ごしているのですが、コーチがいない時に「お前は消えろ」「きもい」など、急に言ってくるようです。私が息子に「ちゃんと言い返してるの?」と聞くと、息子なりに言い返しているようですが、その子たちは口が達者らしく「なかなか口では勝てない」と言っています。チクリだ、とか言われるのが嫌なので息子からコーチに言う選択肢はないようです。私がコーチに相談しようかな?とも思ったのですが、もう6年生なので、自分でどうにかしないといけないよなぁ、とも思っています。ほかのチームメイトとは仲良く楽しくしていて特定の2人だけがいつもコーチがいなくなると文句を言ってくるようです。その子たちは中学に行っても同じチームなので今後も同じような事が続くのでは、とすごく悩んでいます。親としてどうすればいいでしょうか?「言い返せ」だけでなく具体的な方法をレクチャーできればいいのでしょうが、どんなことをすればいいのか、何を助言すればいいのかなどがわからなくて......。アドバイスいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。いただいたご相談の文章だけでは、実際どの程度息子さんが傷ついているか、困っているかという窮状は正確に把握できません。よって、こちらの推測でお答えするという前提でご理解くださいね。■親の前ではいい子なのに......という子はいるお母さんの悩みはよくわかります。私も似た経験をしました。息子が小学3年生。サッカーではありませんが、わが家で同級生とカードゲームをして遊んでいました。最初は楽しそうにやっていましたが、同級生が突然声を荒らげ「おまえ、バカか」と息子をなじり始めました。「脳みそない」「もう遊ばない」と暴言が続きます。息子は黙って下を向いていました。二人は2階のリビングで、私は吹き抜けになっている3階の仕事場にいました。「どうしたの?」私が声をかけたら、息子をなじっていた同級生は本当にびっくりした顔でこちらを見上げました。私が仕事場にいたことに気づいていなかった。だから、息子に暴言を吐いていたわけです。いつもはとてもいい子で、お母さんは非常に教育熱心。早くから大手の塾に通い、遊んでいて「早く帰ってきなさい」と電話があると、息子さんは血相を変えて帰っていきました。彼が帰宅した後、息子に気持ちを聴いたら「少し悲しいけど、別に大丈夫。いつもあんなふうになるわけじゃないから」と言いました。私は息子を抱きしめて「そうか。じゃあ、嫌なことがあったときは言ってね。力になるよ」と伝えました。■お母さんに捧げる3つのアドバイスそこで本題。お母さんには三つアドバイスがあります。まず、チームメートからの「消えろ」「キモい」は、ある意味「いじめ行為」です。みんなでふざけているなかで、「おまえ、もー、消えろよお~」とか「キモいんだよ~」とげらげら笑い合っている、という状況ではありませんよね?であれば、息子さんが暴言を吐かれていることを最初に知ったときの対応。つまり、お母さんの初期対応(初動)は、お子さんのこころに寄り添うことが必要です。「そうなの?それはつらかったね。どんなときに言われたの?どんな気持ちだった?」そのように尋ねて、彼の怒りや辛さ、もしかしたら上手く言い返せなかった自分への情けなさなどさまざまな感情を吐き出させてあげること。今からでも遅くないので、まずは息子さんの辛さに共感してあげてください。「ちゃんと言い返してるの?」は、非常に抽象的です。消えろとか死ねなどと言われたら、同じように消えろ、死ねと言え、ということではありませんよね?おそらくお母さんの「言い返す」は、「そういうの、やめてよ」とか「言わないでよ」というものかと思います。そのあたりが「ちゃんと言い返して」では伝わっていないかもしれません。息子さんなりに、暴言を無視するとか、「やめろよ!」と忽然と向かって行けたらいいのですが、それができる子をいじめっ子たちは標的にはしません。息子さんはきっと優しいお子さんなのでしょう。■お母さんに捧げる3つのアドバイスふたつめ。「チクリだ、とか言われるのが嫌なので息子からコーチに言う選択肢はないようです」とあります。お子さんがそのように話したのなら、そこでお母さんから息子さんに人生において大切なことを伝える良い機会です。「いじめられていることを大人や周囲の人に伝えるのは、チクリではないよ」=これは正義のとらえかた。「自分でやめてほしいと言ってもやめないのなら、どうしたらやめてくれるか、お母さんと一緒に考えない?コーチに相談するのはひとつの選択肢だよ」=こちらは課題解決能力。「あなたが我慢していても、ほかの子も言われて嫌な思いをしているかもしれない。そうすると、ストップがかからないね。誰かが勇気を出して解決したほうがいいと思うよ」=「同調圧力」のマイナス面を教える丁寧に問いかけて、息子さんの意見を聴きながらそんなことを話してください。暴言を吐かれたことはお子さんにとって辛い出来事ですが、お母さんはそこに共感しながらも子どもとは違う視点で物事を見るようにしましょう。例えば、お子さんに「消えろ」「キモい」と言ってしまう二人のお子さんは、どんな家庭で育っていますか?いじめる子は寂しかったり、親御さんから管理されていたり、過度に干渉されていたり、要求が高かったりと、重いストレスを背負ってるケースがほとんどです。問題が起きるときは、必ずそこに背景があります。ぜひ大人として、起きた事象を俯瞰で見る習慣をつけてください。理想は「社会で子どもを育てる」という視点を持てるといいですね。息子さんに「あの二人はこうだから」などと悪口を言うのではなく、そこはスルーしてご自分の胸にしまったうえで、彼らを攻撃するのではなく、この問題を息子さんが自分の力でどう解決できるかを一緒に考えてあげてください。■親は子どものけんかしゃしゃり出ないこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめは、子どものけんかに親がしゃしゃり出ないこと。「私がコーチに相談しようかな?とも思ったのですが、もう6年生なので、自分でどうにかしないといけないよなぁ、とも思っています」は、その通りです。ただ、6年生だから、ではなく、何年生でも自分でなんとかしてもらいましょう。息子さんがコーチに相談したと報告してきたら、それを受けて、お母さんからコーチに息子の相談を聴いてもらったお礼かたがた家での様子などを報告する。その後の息子さんやチームメートの様子もそのときに尋ねればよいかと思います。「親としてどうすればいいでしょうか?言い返せだけでなく具体的な方法をレクチャーできればいいのでしょうが、何を助言すればいいのか」とあります。が、ここまで三つのアドバイスを読んでもうお気づきですよね。親の役目は「言わなきゃ、より、聴かなきゃ」です。そういえば、息子は暴言を吐いた子とはずっと仲良しです。大学生になって、道で会うとその子は私にもあふれる笑顔で挨拶をしてくれます。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年02月07日サッカーも勉強もからっきしダメな息子。去年転校してサッカーチームに入ったけど、運動が得意じゃないから下手だしコーチの言っていることもしっかり理解しているんだか......。近々試合があるけど、親子ともども知り合いがいないから孤独な観戦になりそう。ダメ親かもしれないけれど「ぼっち」が嫌で観戦に行かないのはアリ?とご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、「ベンチにいるわが子を見ていられなくて試合中に帰宅した」というご自身の経験などをもとに、あなたに寄り添ったアドバイスを送りますので、参考にして心を軽くしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<サンダル履きで態度も横柄な監督を"名誉棄損"で訴えたい問題<サッカーママからのご相談>二歳まで一緒に暮らしていましたが、離婚後、私の病気などの事情で6年間元夫の母が育ててきました。元夫は育児にかかわる人ではなく、元姑の育児の仕方が理由なのか、運動だけでなく勉強の方もからっきしです。色々な事情があったのですが、2019年の4月から転校して私と一緒に暮らしています。昨年7月からサッカーのチームに入りましたが、はっきり言って下手です。運動が得意でないうえに、勉強も全然ダメなのでそもそもサッカーの動きを理解してないように思います。コーチの指導内容もちゃんと理解できているのかどうか...。今度、試合があります。息子は出場しないと思いますが、親子共々知り合いがいないので、ポツンと孤独な観戦になるのは間違いありません。子どもっぽい考えかもしれませんが、「ぼっち」になりたくなくて試合観戦に行きたくない、息子にサッカーを辞めてもらいたいとまで思っています。こんなダメ母ですが、親が行きたくないから、で試合を観戦に行かなくていいと思いますか?島沢さんにもそんな時はあったのでしょうか。何かアドバイスをお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。わたくしめにも、そんな時があったのかって?もちろんです!いや、威張って言うことでもありませんが、そんな時もありました。■見に行かない自分はダメ母なのか、という苦しさまずは小学生時代。少年団で1学年上のチームに呼ばれるときがあったのですが、そのチームを指導していたコーチは、息子の学年の担当コーチであるわが夫と、少しばかり違う指導法の方でした。ともに何かしら齟齬があったかもしれないのですが、ストレートに言えばそのことで息子は試合に行っても起用されませんでした。一日に練習試合を3つほどやる遠征なのに出場時間ゼロ分。見ていて非常につらかったです。本人が「コーチ、(試合に)出して」と言うと、「おまえのお父さんに、どうしたら試合に出られるか聞いておいで」と言われていました。そんなことがあって、試合を観に行かないことが何度かあったと思いますし、試合途中でベンチにいる息子を見ていられなくて帰宅したこともあります。中学生になってジュニアユースに入ると、なかなか試合には出られませんでした。都大会など大きな大会やリーグ戦の佳境になると、ほかのお母さんたちからメールが来るわけです。「子どもたちのためにも、親も一丸にならなくてはいけないから観戦に来てください」「打ち上げは都合のつく方はぜひ参加してください」50人中試合に出られるのはせいぜい15人ほど。それでも20数人は行かれていたようです。聞けば「高校進学のためクラブ推薦をもらわなくてはいけないから、わが子がBチームでもユニホームを着ていなくてもコーチに応援来ていますよ、という姿を見せなくてはいけない」と言うのです。息子は、高校は受験して入る予定のグループ(50人中わずか3人でしたが)だったので、非常に驚かされました。なによりも、子どもたちのためという名目で強制されている感があり、ほとんど行きませんでした。ただし、自分の中では常に葛藤がありました。めげずにベンチにいる姿を見守ってやるべきではないか、チームの他の子たちを応援してあげるべきではないか......。お母さんと同じ「私はダメ母なのか」という苦しさですね。■子どものサッカーでそんなに悩むことはないそんな話を、仕事で取材したサッカーコーチに吐露したら「息子さんのチーム、面白いサッカーやってるの?」と尋ねられました。「いいえ、大きく蹴ってばかりで面白くないです」「じゃあ、見ても楽しくないね」会話はそれだけです。理屈では、いまだに何が正しいのかわかりません。ただ、私は楽になりました。そこから、時間や心に余裕があるときや、息子に「観に行こうか?」と尋ねたときに「来て。出番があるかもしれないよ」と本人が希望したときなどに行きました。今となれば、たかが子どものサッカーであんなに悩む必要もないのになあと思っています。ただし、下手だから見たくないと思ったことはありません。息子は走るのが苦手で地面ばかり見ている子でしたが、ダメダメでも、試合に負けても、サッカーをしている姿を見るのは楽しかったです。ダメダメを見ていたので、途中で行かないときがあっても、ジュニアユースで試合に出られたときは「すごいね!よく頑張ったねえ」と一緒に喜んであげることができました。■観戦に行くのがストレスなら行く必要なし。その代わり......そこで結論です。無理に見に行く必要はないでしょう。嫌なことをやれば、お母さんもストレスがたまります。その代わり、息子さんがサッカーに行きたいというのであれば、行かせてあげてください。こころのなかで「サッカーを辞めてもらいたい」と考えたとしても、それを口に出すのはアンフェアです。お母さんに嫌なことを回避する権利があるように、子どもにも人権があります。環境が許す限り、好きなことをする、学び、成長する権利です。親はその権利を行使することを、可能な限り支えなくてはいけません。サッカーを取り上げないでください。試合に行かないぶん、心を込めてお弁当をつくり、疲れて帰ってきた夜にお風呂を沸かしてあげて、おいしい夕ご飯を用意してあげればいいと思います。■あなたはダメママじゃない!息子さんにしてあげればいい、ただ一つのこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)もうひとつ。見に行かなくていいので、話は聞いてあげましょう。様子は見られないのですから、報告は聞いてあげてください。試合に勝ったか、何点決めたかといったものではなく、ただひとこと「今日、楽しかった?」と聞いてあげましょう。楽しかったと言えば、そのことを一緒に喜んであげてください。悔しいことや悲しいことがあったのなら、そのことを一緒に悔しがり、悲しむこと。でも、お母さんは大人なので、次にどうしたらいいかな?と導くことはしてあげましょう。そのうち、子どもが「次の試合はねえ」と話したり、サッカーの話を始めたら、Jリーグを見に行ったり、テレビで日本代表の試合を一緒に見てもいい。少しずつ歩み寄れるといいですね。まだ小学年です。そして、お母さんのところに来てまだ1年経っていません。サッカーも始めたばかりです。少しずつ距離を縮められるといいですね。息子さんは勉強やスポーツの発達が少し遅れているだけです。ダメな子ではないし、お母さんもダメなママではありません。こうやって、私のところに相談に来てくれました。誰でもできることではありませんよ。それなのに、お母さんは自分と真剣に向き合っている。それだけで、息子さんは幸せなお子さんだと私は思います。焦らず、ゆっくり、ぼちぼちいきましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年01月08日ジャーナリストの池上彰氏が6日、都内のホテルで行われた「第67回菊池寛賞」の贈呈式に出席し、高校時代にラグビー部に所属していたことを明かした。今年は、ラグビーワールドカップで活躍した日本代表チームが受賞。選考顧問を務める池上氏は「こんなにも日本にラグビーファンがいたのかとビックリする状態になりまして、『実は昔やってたんだ』とカミングアウトする人たちがにわかに出てきましたね」と、社会現象の影響を振り返った。そして、「実は私も、高校時代にラグビー部にちょっとおりまして。補欠の上にタックルの練習をしてるうちに腰を痛めてしまって、結局ダメになったってことをずっと悲しい歴史として封印してきたんですが、今回の活躍を見て『実は私も…』とカミングアウトして、みんなからビックリされるということがありました」と、自身もその1人だったことを明かした。また、「テレビを見ていて『これはノックオンと言って…』とか、思わず解説したいという欲求を満たされることができて、大変楽しかったなと思っております」とご満悦の様子。さらに、「なんと言っても日本代表チームというのは多様性ですよね。日本国籍を持ってなくても日本チームなんだよということで一丸になれば、これだけのことができるんだと、これからの日本をあり方というのを本当に体現しているのではないかと思いました。私たちを勇気づけてくれましたし、日本のこれからのゆく道というのを示してくださったような気がします」と賛辞を送った。「第67回菊池寛賞」には、ラグビー日本代表のほか、NHK Eテレの子供向け番組『おかあさんといっしょ』、作家の浅田次郎氏、バレリーナの吉田都氏、『[証言録]海軍反省会』を結実させた海軍史研究家の戸高一成とPHP研究所が選ばれた。
2019年12月07日2010年12月6日にオープンしたサカイクは、今日で10年目を迎えました。この10年目という節目に、あらためて読者のみなさんにお願いしたいことがあります。■子どもの楽しいを大人が邪魔しているオープン最初の月はわずか4,000人しか訪れなかったサイトも、今では月間40万から50万人の方々にご利用いただいています。これまで支えてくださった読者の皆様、取材にご協力いただいた皆様、制作パートナーの皆様、そして我々の考えに賛同いただきサポートしてくださっているスポンサー企業の皆様、すべての方々に心よりお礼申し上げます。サカイクは「自分で考えるサッカーを子どもたちに。」をスローガンにしたジュニアサッカーの保護者向けメディアです。サカイクをオープンさせる前、調査として様々な大会現場に足を運びました。プレーが途切れるごとにグラウンドに大声が響き、子どもたちはボールではなくその声の主を目で追いかける。コーチはベンチから指示を出し、指示通りに進まなければ 怒鳴り声をあげる。「シュートだよ!」 「パスだパス!」 保護者も大声で子どもたちへ激を飛ばす。試合が終われば罰走や反省会。そんな環境でプレーしている子どもたちの顔は、決してサッカーを楽しんでいるようには見えませんでした。『子どもの「サッカーが楽しい!」を大人が邪魔しない世界をつくっていきたい』そんな思いからサカイクはスタートしました。子どもが好きではじめたサッカーなのに、周囲の大人たちは余裕をなくし、目の前の結果にこだわってしまう。一生懸命やればやるほど子どもたちは追い詰められていく。子どもからサッカーの本当の楽しさを奪っているのは、周囲の大人たちが作り出す環境にあるのではないか...。■サカイクを読んで欲しい人には届かない「子どもが心からサッカーを楽しむことが、やる気につながり、子どもの自立や成長を導く。大人がやらせるではなく、子どもが自発的にプレーし、成長していける環境をつくっていくためには?」サッカーの現場で起きる問題はサッカーの世界、スポーツの世界だけの問題ではなく、子どもたち自身の問題、そして親やコーチ、周囲の大人の問題、広く社会の問題に直結しています。様々な問題に関する情報、考え方や解決の方法を伝えていくことで、変わるきっかけにしてもらいたい。サカイクはこの10年間で約13,500本の記事を配信し、300万冊以上のフリーマガジンを配布してきました。オープン当初は、子どもファーストな考え方に批判的な意見をいただくこともありましたが、おかげさまで、多くの賛同者を増やすことができました。少しずつですが、少年スポーツの価値観や、スポーツや子育てに対する考え方が変わってきていることを日々実感しています。しかし、残念ながら今でもスポーツ界の悲しいニュースは後を絶ちません。指導者による暴力・暴言は根強く残り、九州のあるバレーボールチームでは、指導者の体罰を保護者が隠蔽していたというニュースもありました。目に見える数は少なくなったのかもしれませんが、未だに変わらない現実が至るところに存在しています。まだまだ変えていかなければなりません。ただ、そのためには、私たちの力だけでは実現できません。なぜなら本当に変わってほしい人は、なかなかサカイクを読んでくれないからです。変えていくためには現場に関わっていらっしゃる皆さんの力が必要です。皆さんの声で発信し、賛同者を増やしていくことが大事なのです。■サカイクをみんなのハブに。10年目のアクション2017年4月、サカイクは、子どもが心からサッカーを楽しむための「サカイク10か条」を作成しました。子どもを「勝たせたい」「うまくさせたい」よりも先に、大人が大切にしてほしい"10の心得"です。子どもが心からサッカーを楽しむための「サカイク10か条」1.子どもがサッカーを楽しむことを最優先に考えよう2.今日の結果ではなく、子どもの未来に目を向けよう3.子どもの力を信じて、先回りせずに見守ろう4.子どもは小さな大人ではないことを理解しよう5.コーチやクラブの考えを聞いてみよう6.ダメ出しや指示ではなく、ポジティブな応援をしよう7.あなたが子どもの良いお手本になろう8.子どもの健康や安全に気を配ろう9.サッカー以外のことを大切にしよう10.笑顔で子どもとサッカーを楽しもうチームなどで配っていただけるよう、サカイクのサイトからPDFをダウンロードできるようになっています。すでに多くのチームが保護者会や大会現場などで配布してくださっています。「サカイク10か条」のダウンロードはこちら>>以前、サカイクでもおなじみの池上正さんが「サカイクをうまくハブに使えばいい」という話をしてくださいました。面と向かって言いにくいことも「サカイクにこう書いてあるよ」とか、記事をシェアするだけでも目にしてもらえる機会になりますし、それが考えを変えるきっかけになるかもしれないと。サカイク10か条は、メールやLINEでシェアしていただいても、チームのホームページからリンクしていただいても構いません。ぜひ、自由に使っていただき、この考えを一緒に広めていっていただきたいのです。サカイクは10年目のアクションとして、この10か条を多くの方に知っていただくことと、サカイクの考えに賛同いただける方をパートナーとして迎え入れ、さらに活動の幅や影響力を大きくしていきたいと考えています。また、サッカー界だけではなく、他競技とも連携していき、日本のスポーツ界全体を変えていくアクションにつなげていきます。そのためには、現場のリアルにもっと向き合っていかなければなりません。今後はさらに皆さんの意見や考えについても話を聞かせていただく機会を増やしていくつもりです。ぜひ、ご協力ください。そして、サカイク10年目の2020年は東京オリンピックの開催年でもあります。日本人のスポーツに対する価値観や考え方が大きくパラダイムシフトする年になるかもしれません。この絶好のタイミングに、もっと多くの子どもたちが心からサッカーを、スポーツを楽しめる環境をつくっていけるよう、一緒に取り組んでいきましょう。
2019年12月06日運動神経が悪くて体操やスイミングも、3つか4つぐらい年下の子より下手なほどの息子がサッカーをやりたいと言い出した。きっと試合には出られないだろうし、今より劣等感を持たせたくない。でも、楽しさ重視のスクールは通わせるメリットが見いだせない。夫婦ともにスポーツができないし、近所の友達付き合いもないのでプライベートでサッカースキルを上げてやることもできない。さらに、親の私自身が「スポーツの得意な子の親」の雰囲気が苦手......。どうしたらいい?とご相談をいただきました。すべての項目が、ではなくても共感される親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、アドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<チームで一番上手いから?息子が努力しないんですけど問題<サッカーママからのご相談>息子(10歳)は運動神経が悪く不器用な子です。器械体操とスイミングを二年程習っていますが、どれも3、4歳下の子より下手なくらいです。最近サッカーがやりたいと言い出し、本人が望むならやらせてあげたい気持ちもありますが、団体競技で、なかでも人気のスポーツであるサッカーをやらせることに親としては抵抗があります。絶対ということはないかもしれませんが、監督やチームの温情以外では試合には出られないだろうし、そのような中でも試合を見ないといけないと思うと耐え難いです。そもそもスポーツが得意な子や親御さんの雰囲気が、親の私自身が苦手で、息子も年下や気の強い子どもにいじめられるのでは、という心配もあります。サッカーを始めることで、「自分は出来ないんだ」と今以上に劣等感を持ってしまうのではと子どもが実感してしまうことが人格形成上心配でもあります。一方で、楽しさ重視のスクールにはお金と時間をかけて通うメリットが感じられません。私たち夫婦はサッカーやスポーツは出来ませんので相手をしてあげることもできませんし、近所での友達付き合いもないので、スクールにいれるほかなく。色々と矛盾しているのですが、子どもがこれ以上スポーツが苦手にならず、嫌いにならず、サッカーに参加したりスクールや少年団に入る前に、サッカーに関する基礎が身に付けられる方法はないでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。ご相談文を読んで、お母さんはお子さんをとても愛しているのだなあと感じました。なぜなら「運動神経が悪く不器用な」息子さんに、器械体操とスイミングを習うことを許可しています。文中に「サッカーをやりたいと言い出した」とあるので、器械体操もスイミングも通いたいと言い出したのは息子さん本人なのだと推測します。「下手なんだからやめなさい」「やっても無駄」と出来栄えだけを見て辞めさせることもできるのに、お母さんはそれをずっと見守ってきた。「本人が望むならやらせてあげたい」と書かれているように、子どもの気持ちを尊重する子育てをやってきた。とても素晴らしいと思います。■子どもの「好き」を優先させましょうところが、今度はサッカーをやりたいと言ってきた。サッカーは体操や水泳とは少し勝手が違う。試合に出る、出ない。試合に勝つ、負ける。先の2競技よりも、子どもがシビアな局面にさらされる。試合に出られないのでは?いじめられるのでは?劣等感をもつのでは?お子さんが傷つくと、同じように痛くてたまらず混乱するタイプの親御さんにとって、少年サッカーは(ところによって)ハードな要素がてんこ盛りです。そのため、お母さんが貫いてきた「本人が望むことをやらせてあげたい」子育ての軸が揺らいでしまったのではありませんか?どこかのチームに入る前に、息子さんに基礎的なスキルをつけさせて、入っても苦労しないよう準備させよう。ところが、最近のスクールときたら「楽しさ重視でお金と時間をかけて通うメリットが感じられない」こんなんじゃ、ダメじゃん、ってなりますよね。どこかに、サッカーの家庭教師とかないのかな?何かいい方法はないのかな?と、一所懸命に考えて私にメールをしてくださったのでしょう。しかしながら、今の子育てのベクトルがゆがんだ状態で突き進んではいけません。ちょっと立ち止まってみませんか。ここは、ぜひお子さんの「好き」を優先する子育てに戻りましょう。そこがお母さんの原点だと私は思います。■子ども時代の挫折や失敗などかすり傷以下原点に戻らなくてはいけない理由は、「転ばぬ先の杖」のリスクです。昨今は、サッカーやったら?野球やったら?スイミング行ったら?と、親の思惑に振り回されて自分が一体何が好きなのかさえわからなくなっている子どもが少なくありません。大学生にしても、就職する前に自分の好きなこと、やりたいことが見つからない。それは好きだと感じる機会や、やりたいことかどうかを確かめる冒険をしていない。いろいろな経験を積ませてもらっていないからです。つい最近も「何の資格取ったらいい?」と大学生の息子に尋ねられ「自分の意思がないんです」と困惑するお母さんの相談に乗りました。このような場合、親がわが子に、あれはダメ、こっちをやれと指示命令してきたことが往々にして影響しています。そんなふうに指示してしまうのは、子育てのベクトルがゆがんでいるからです。「子どもに決めさせた方がいいのかもしれないけれど」「好きなことをさせてあげたほうがいいかもしれないけれど」「余計な口出しはしないほうがいいかもしれないけれど」多くの親御さんが、「子育てに大切なこと」を知っています。つまり、正論は理解しているのです。ところができない。私も同じ道をたどっていているので、痛いほどわかります。転ばぬ先の杖を渡してしまうのは、親自身が子どもが失敗したり、苦労する姿を見たくないからです。お母さんも「そのような中でも試合を見ないといけないと思うと耐え難い」と書かれています。お母さんは、ぜひ達観する力をつけてください。目の前の子どもではなく、私はこの子の人生を応援するのだ。そんなふうにマインドセットを変えましょう。子ども時代の挫折や失敗などかすり傷以下。逆に、早期の栄光や名誉がその先の人生を狂わせることだってあるのですから。子どもが試合に出られず、途中でサッカーが嫌になれば、やめるでしょう。もっと試合に出られそうなチームへ行きたいと言えば、一緒に考えてあげればいい。でも、子どもがそこで仲間と続けたいと言えば「ああ、そうなんだね。じゃあ、頑張って」と送り出せばいい。試合を見たくないなら見に行く必要はありません。当番などがないクラブを選べばいいし、行きたいチームにそれがあるなら、当番のときだけ行けばいいのです。■「転ばぬ先の杖」が奪う、子どものエネルギー(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後に。転ばぬ先の杖は、前述した大学生のように、自分で考える力を養えない、段取り力がつかないといったさまざまなリスクをもたらします。そのなかでも、自分の好きを見つけて取り組むエネルギーを奪うリスクが一番怖いと感じています。「好きだ」と感じて、それを「やってみよう」と前に踏み出す。そこにはエネルギーが必要です。ところが、お子さんはそんなエネルギーをすでに持っています。3つも4つも下の子より体操も水泳ができなくても、今度は「サッカーしたい!」と言い出した。いい。とてもいい。彼が、楽しさ重視のスクールに通いたいと言うなら、無理のない範囲でやらせてあげてください。お金と時間をかけて通うメリットはあります。ただ、体操と水泳、サッカーはやり過ぎだから、どれかひとつはやめるように。何かを得るためには、何かを失うことだということを学ぶ機会にもなります。お子さんの意思を尊重できる、肝っ玉母さんになってください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2019年11月19日現在、月ごと配信されるデジタルカレンダーが好評発売中の俳優・窪田正孝。この度、“窪田正孝×写真家・齋藤陽道”のコラボ5作目となる最新カレンダー「窪田正孝×写真家・齋藤陽道 カレンダー2020」の発売が発表された。主演を務めた4月期ドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」や映画『東京喰種トーキョーグール【S】』が注目され、『初恋』、連続テレビ小説「エール」と今後も話題の作品が公開・放送を控える窪田さん。先日は、女優・水川あさみとの結婚を発表したことも話題に。今回発売が決定したのは、約2年ぶりとなる待望のポスタータイプ&卓上タイプのカレンダー。一昨年度に発売されたL.A.で撮影したカレンダーの印象とはまた異なり、今回はフランス・パリの様々な地で撮影、そこに映える華やかなビジュアルが凝縮。カフェやパン屋、エッフェル塔、コンコルド広場、パレ・ロワイヤルなど歴史的で趣ある建造物や数々の芸術的な観光名所などでも撮影されており、大人の魅力が漂う。そして衣装にもこだわった今回。ファッションの都パリの街並みにフィットするイメージのものを目指し、窪田さん自らも一着一着を選び抜き、決めていったという。ナチュラルでエレガントな装いや、シンプルな上に上品さを兼ね備えた落ち着いた色合いを取り入れた“パリジャン・シック”なスタイリングも必見。本カレンダーの撮影の様子が覗けるメイキング映像も到着しており、パリの美しい町並みとともに様々な表情を見せる窪田さんの姿が。さらに、窪田さんがカメラを構える様子も確認できる。また今回の発売決定に伴い、カレンダーの表紙カットと収録候補のカット、メイキングスチールと計5点のビジュアルも公開された。「窪田正孝×写真家・齋藤陽道 カレンダー2020」は12月21日(土)発売。(cinemacafe.net)
2019年11月01日何年も同じ学校の友達とサッカーをしているのに、小3でまだチームに馴染めなず、極端にミスを怖がる息子。馴染めなさは、サポートコーチをしている私に息子のチームメイトが「点とってハイタッチに行っても喜んでも笑ってもくれない」と言ってくるほど......。これまで口調は悪いながらも息子と色々話してきたつもりだったが、自分の育て方が厳しすぎたのか。サッカーをやめたいとは言わないから、自分が原因ならコーチをやめ、チームと距離を取った方がいいのか......とお悩みの親御さんからご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、アドバイスを送ります。お父さんが変われば息子さんも変わります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<負傷者を起用してまで勝ちたがる監督。出場できない息子が不憫で連れ帰った問題<サッカーパパからのご相談>小3の息子は年中からサッカーを初め、小学校入学からは通っている小学校の少年団に所属しています。私はその少年団のサポートコーチもしています。今回は、引っ込み思案で未だにチームに馴染めない、そして極端にミスを怖がるのをどうしたらいいかご相談させてください。私の育て方が厳しすぎたのか、引っ込み思案な子で、未だに誘われないとチームの輪に入れません。この間、チームの子に「○○くんは、僕が点をとってハイタッチにいっても喜んでくれないし、笑ってもくれない」と言われてしまいました。あと、極端にミスをすることを嫌います。そもそも運動はダメな子で、足も遅くチーム内でダントツで最後。でも、練習はまじめにやっていてやる気もあるように見えるし、それなりに成長していてうまくなっているように見えるのですが、試合ではまったく力を発揮することができません。「練習でできていることが試合でもできればもっと試合に出してもらえるはずなんだけど」と毎試合思って、残念でなりません。これまで、口調は悪いなりにも息子といろいろな話をしてきたつもりですが、これ以上同じことを何度も言うのもよくないかなとも思い始めています。それでも、これまでサッカーをやめたいとは言ったことがありません。私がわからないのが1.同じ学校の子ばかりのチームの輪に、3年生でまだ入っていけないこと2.練習でできることが試合でできないこと3.試合で闘争心がまったく見えないこと4.そんな状況でもサッカーをやり続けたいということです。正直、どう息子と向き合っていいのかわからなくなってきています。自分が原因なら自分がコーチをやめ、距離をとったほうがいいのかもしれないとも思っています。アドバイスをいただければ幸いです。よろしくお願い致します。<島沢さんのアドバイス>お父さん、よくぞ相談してくださいました。ありがとうございます。NHKのチコちゃんなら他人事。笑っていられるけど、ご自身のことです。シマザワさんに叱られる。おまえがダメだと怒られるだろうと思いながらも、八方ふさがりになってメールをくださったのでしょうね。■厳しすぎるのではなく、構いすぎている結論から申し上げて、お父さんの子育ては「厳しすぎる」のではなく、「構いすぎ」ていて、少し間違っています。誘われないとチームの輪に入れないのは、その子の性格もあるかもしれません。ただ、仲間が点をとってハイタッチにいっても喜ばないのは、サッカーを楽しめていない証拠だと思います。それは怖いお父さんの目があるからです。極端にミスを怖がるのも、お父さんが怖いからです。試合で力を発揮できないのも、ミスをしたらどうしようと委縮するからです。「練習でできていることが試合でもできれば、もっと試合に出してもらえるはずなんだけど」と毎試合思って、とありますが、その理由を考えましょう。そのことを子どもがダメなやつだから、で終わらせてはいけません。試合でできないのは、前述したようにミスを恐れて萎縮し身体も頭も動かなくなるからではないでしょうか。もっといえば、練習でやったことがすぐに試合でできるなんて思ってはいけません。できないから、練習を続けるわけです。「これまで、口調は悪いなりにも息子といろいろな話をしてきたつもり」とあります。口調が悪いのは直しましょう。感情的になると人は口が悪くなります。感情的な親の話は、子どもの心に入りません。また、息子さんが話をしたのではなく、ほとんどお父さんがお説教をしていたのではありませんか。彼の気持ちを傾聴することが重要です。■お子さんが抱えている二つの「怖い」という感覚お父さんがわからないという以下の四つのことに答えます。1.同じ学校の子ばかりのチームの輪に、3年生でまだ入っていけないこと⇒集団ですぐに慣れるかどうかは個人差があります。ほかの子ができているからその子もできるわけではありません。2.練習でできることが試合でできないこと⇒上でご説明したとおりです。3.試合で闘争心がまったく見えないこと⇒闘争心は、本人が「サッカーをうまくなりたい!」「勝ちたい!」と自己決定して初めて湧き上がってくるものです。父親の目に委縮している息子さんに期待するのほうが間違っています。4.そんな状況でもサッカーをやり続けたいということ⇒これは二つ考えられます。お父さんが怖くてやめたいと言えない。もうひとつは、お父さんが自分から離れてゆくのではないかという「置き去られ恐怖」です。この「言うことを聞かないと、親が自分から離れていくのではないか」というこの感覚は、虐待を受けてる子どもに多く見受けられるものです。叩かれても、蹴られても、児童相談所に引き取られると、「おうちに帰りたい」と訴える子どもは多いのです。一番良いのは、お父さんがコーチを辞めることです。ほかにもコーチがいて事情が許すなら、理由を言って辞めたほうがいいです。息子さんと離れましょう。試合を観に行くのもやめましょう。そして、お父さんは充電しましょう。子育てを勉強し直しましょう。今の親世代が受けたポピュラーな子育ては、子どもを抑圧し、叱って、怒鳴って、「だからおまえはダメなんだ」と脅す教育です。ところが、時代の流れに伴い、それらは1990年前後から本格的に見直されつつあります。少し的を外せば、児童虐待につながるという危険性がはらんでいるという深刻な理由もあります。よって、みなさん学びなおしています。夫婦で話し合ったり(時に罵り合ったり)、他人のよい子育てを見習ったり、その逆で反面教師にしたり。そうやってみなさん、どうしたらわが子が成長できるのか。わが子の人権を守って親として寄り添えるのかを懸命に考えています。が、お父さんはどこかでブラックホールに落ちてしまったんでしょうか?それとも、他人にアドバイスを求めるのが苦手ですか?■息子さんのこころが心配。お父さんが変われば息子さんも変わる(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)もし、何か思い当たることがあるのなら、例えば『サッカーで子どもを伸ばす11の魔法』や『叱らず、問いかける』といった池上正コーチと私が作った本がひとつお勧めです。ほかにもサッカーと子育てを絡めた本はたくさんあります。良本もありますが、小難しい横文字が並ぶばかりで、わかりやすい実践が書かれていないこともあるのでお金の無駄になるかもしれません。気をつけましょう。そして、サカイクでの学びもぜひ続けていってください。息子さんはおそらく、こころが壊れそうな深刻な状況だと察します。私がそう思ったのは、息子さんが、仲間が点をとってハイタッチにいっても喜ばないし、笑わないという事実からです。お父さんが怖くて委縮しても、仲間が点をとってみんなが笑っていたら、自然に笑顔がこぼれるのが子どもだし、人間の自然な感情です。でも、そんなナチュラルな感情の回路が、すでにプツンと切れてしまっている。そんな状態になってもサッカーを続けなくてはならない息子さんが、私はとてもかわいそうに思います。ピンチはいつもチャンスの種。ここは、お父さんが父親として、人として成長するチャンスです。お父さんが変われば、息子さんは変わります。明らかに上手くいってないのに、自分は何ひとつ手法を変えず、子どものせいにする人にわが子を伸ばすことはできません。ぜひ一度息子さんのサッカーから離れて、家や日常での接し方や考え方を学びなおしましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2019年10月23日いつもは指導者の皆さんからのご相談にお応えしている本連載ですが、今回は番外編としてこの夏池上さんがドイツで視察してきた内容をお伝えします。ジュニア年代が一番多く、年齢が上がるとともにプレー人口が減るピラミッド型の日本と違い、ドイツは子どもから始めたら大人までやめるプレーヤーがほとんどいない、逆三角形に近い。なぜならサッカーを好きでい続けられる環境や、プレーができる受け皿があるからです。「日本とは環境が違う」という方もいらっしゃるかもしれませんが、サッカー大国ドイツの育成には、日本の指導現場でも参考にしたいこと、取り入れたい姿勢があります。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<熱くなりすぎて喧嘩してしまう子への対応を教えてください■普段の練習一つとっても、上達に差が出る要因がある夏の終わりに、ドイツの育成現場を視察してきました。今年で3回目。ドイツで長年育成コーチを務めている、サカイクでのおなじみの中野吉之伴さんが、案内係を引き受けてくださいました。今回あらためて感じたのは、子どもたちが何かに煽られて必死でやっている感じがまったく見受けられないことです。ここは日本の小中高校生と大きく違ところです。小学生が、左右の足で交互でボールを蹴るような練習をしていたときのことです。全員、交互に蹴っていました。日本で似たような練習をすると、左足は得意じゃないから、右で蹴る、という子が必ずいます。日本の子は自分が下手なのを見せたくないわけです。ところが、ドイツにはいませんでした。みんな練習をやる意味をちゃんと知っているからです。冒頭で伝えたように、そんなに必死に全力でやっているようには見えませんが上手くなるためにできないことにも挑戦する姿勢が見受けられるのです。いかがでしょうか。言われたことをきちんと理解してやっている子ども。うまくやらないとコーチから刺激を受けながら、煽られながらやっている子ども。私は、相当差が出るように思います。■右足しか使わない日本人、上手くいかなくても左右を使うドイツの子小学校高学年の練習に、ひとり日本人の子どもが入りました。このときはロングキックの練習で、時計回りで走ってきて蹴る、その逆に回ってきて蹴るといった動作を4か所に分かれて行っていました。反時計回り、つまり左から回ると、蹴るなら右足になります。逆だと左足になる。そうすると、ドイツの子はコーチに何も言われなくても左右使います。でも、日本の子どもは時計回りのときも右足で蹴ってしまうことがあったのです。動作がつながらないのでなんとなく不自然です。これはその子の個人的な問題ではありませんでした。その時に参加していた他の指導者の方にも聞いたのですが、上手くできないことが恥ずかしいとか、叱られるとかというプレッシャーからか、できないことを隠してしまう傾向は多くの日本の子どもに見られるということでした。この練習で、右利きらしいドイツの子は左足をうまく使えない子が何人もいました。でも、失敗して照れくさそうだったり、暗い顔をしたりする子はひとりもいません。つまり、「うまくできないことが恥ずかしい」と思っていないのだと感じました。ただ、ただ、楽しそうに、でも、熱中してボールを蹴る。次はこう蹴ってみよう、もうちょっと体をたてて、軸足を踏ん張ってなど、自分でいろいろ考えながらやっているのだと思います。■「そんなの無理!」日本の子たちが難しい課題にチャレンジしない理由中学生の練習でも、すごくよくチャレンジする姿が目につきました。ディフェンスの裏をとってゴール前に抜けだして、こんなふうにシュートしてごらん、とコーチが一度デモンストレーションをしたら、それをひとり3回ずつくらいやります。その後に、コーチが「じゃあ、ここからは自分たちで考えてやってごらん」と言います。そうすると、ドイツの子どもたちは、コーチに教えられたかたちではひとりもやりません。日本の中学生に「ここからは自分で考えてごらん」と言っても、きっとコーチが見せたかたちを繰り返す子が大半だと思うのです。そして、もしかしたら、そもそも「自分で考えてやってごらん」というコーチが少ないのかもしれません。日本で「こんな練習をします!」と子どもたちに言うと、「いや、ぼくはそれは上手くないから、こっちをやりたい」言ったりします。特に難しい課題を与えられると、「よし、じゃあがんばるぞ」という感じになりません。「そんなの無理!」のほうが、圧倒的に多いのです。つまり、根本的にサッカーと向き合うベースが違います。そのことを、一緒にドイツを訪れた日本人のコーチたちに話したら、みなさんうなずいていらっしゃいました。ほかにも、3対2をやると、2人チームの方が、一人少ないから勝てるわけないよ!と言って真剣に取り組もうとしないことがあります。少しでも難易度が高いと、チャレンジしなくなってしまいます。きっと普段から、少し難しいことをやって失敗すると、何か言われたり、言われないまでにもなんとなく嫌な雰囲気になる。ダメだったね、というネガティブな空気を恐れながら生きてきたのだと思います。恐らく日本の大人たちが、うまくできないことを、悔しいとか、恥ずかしいと感じることを、子どもたちのモチベーションにしてきたのだと考えます。怒鳴ったり、声を荒げるといった方法しか知りません。そのことによる悪い副作用が、失敗を恐れてチャレンジしたがらないマインドを作って来たのではないでしょうか。ドイツでもコーチはポイントをアドバイスするほかは、子どもと楽しそうにトレーニングをしていました。■同じ年数サッカーをしているのに、日本とドイツの強さに差が出るのはなぜ?(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ところで、私はここ数年、自分が住んでいる町の中学校で部活動の外部コーチをしています。中学生たちに「ドイツと日本はどっちが強い?」と聞くと、全員が「ドイツ」と答えます。サッカーを始めた年齢は同じくらいなのに、どうしてだと思う?そんな質問をしてから、前述した右足と左足の話をしました。「叱られたり、強制的にやらされたりした人たちと、自分で考えて自分から熱中している人たちが、同じ時間サッカーをやっていると、違いは出てくるね」そんな話をしました。しかも、ドイツの選手たちは18歳くらいまで、週2回か3回しか練習をしないし、週1試合しか試合もやらないのです。大人の方も、なぜ違いが出るのかを真剣に考えてみてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2019年10月21日