沢木耕太郎のベストセラー小説『春に散る』を、現代日本映画界を代表するひとり、瀬々敬久監督が佐藤浩市と横浜流星のダブル主演で映画化。いよいよ8月25日(金) に公開される。ここ数年秀作が続出するボクシング映画、である。さすがに食傷気味では、と敬遠してはいけない。観終わって「スゴい」ときっと思われるはず。名優たちの演技も出色。心に残る作品です。『春に散る』この原作小説、実は晩年の高倉健を主人公にした映画のシノプシス(あらすじ)として書かれたものが骨格になっているという。その時、映画化は見送られたが、主人公の年齢を多少下げた設定にして、新聞小説として書かれ、ベストセラーになった。不当な判定で敗れ、失意のうちにアメリカにわたった元ボクサーの主人公・広岡仁一は、ボクシングの世界ではチャンピオンになれなかったが、ホテル経営者として成功。40年ぶりに帰国する。心臓の病気を抱え、リタイアして、日本で余生を安穏に暮らそうと考えていたのだが、若いボクサー黒木翔吾との出会いが、彼の、闘う男の魂に再び火をつける。広岡を佐藤浩市、翔吾は横浜流星が演じている。酒場の諍いから、表に出ての殴りあいになり、一発であっさりと相手を叩きのめす佐藤の演技は、実に様になっている。翔吾に教えを請われ、渋々トレーナーを引き受ける。最初は「やめとけ」と冷ややかだった彼が、どんどんのめり込んでいく。高倉健が演じたら、もっとストイックなヒーローで、全てを後ろ姿に表し、若者はその背中を追う、といった形になったかもしれない。が、この映画の展開はそうはならない。原作にない「年寄りはムチャクチャなんだよ」というセリフは、佐藤の現場でのアドリブだそうだが、翔吾と一緒にのたうち回り、自己矛盾を抱えたまま、もがきあがろうとする姿が佐藤の演じる広岡像だ。広岡の帰還は、さまざまな人間たちの人生に波風を立てる。例えば、彼がかつて所属したボクシングジムを親から引き継いだ令子。27年ぶりにスクリーンに登場の山口智子が演じる。映画は多くを語らないが、おそらく、かつて広岡の事が好きで、渡米前後にひともんちゃくあったのだと想像できる。さらに、かつてこのジムで「三羽烏」とよばれていた元ボクサーの健三(片岡鶴太郎)と次郎(哀川翔)。疎遠になっていた実兄の娘(橋本環奈)。翔吾とリングで相まみえる大塚(板東龍太)、チャンピオンの中西(窪田正孝)。翔吾の母(坂井真紀)……。沢木耕太郎の著書のタイトルに『世界は「使われなかった人生」であふれてる』というのがあった。映画で「ありえたかもしれない人生」「使われなかった人生」に思いをはせるエッセイ集だ。本作も一本の映画になりそうな「使われなかった人生」であふれている。それぞれの登場人物がわずかなシーンだけでも印象的にきっちりと描写される。そういえば、瀬々敬久監督の代表作ともいえる『64-ロクヨン-』もそうだったなあと思い出す。そんな人間ドラマに加えて、あえて「スゴい」といわせてもらいたいのがボクシングのシーンだ。ボクシング指導と監修にあたったのは、松浦慎一郎。ボクシング界の功労者に贈られるエディ・タウンゼント賞を受賞した名トレーナー。横浜流星も窪田正孝も、彼のトレーニング指導を受けた。流星からは「今まで松浦さんが作ったことのないボクシングシーンにしてください。 そして、 プロから見てカットでごまかしていると思われないようにしてください」 と真剣な眼差しで頼まれたという。特にクライマックスの世界戦では、全12ラウンドを4日間にわたって撮影。実際のプロの試合でセコンドを務めたことのある片岡鶴太郎いわく「全くウソがない。本物の世界戦としての、肉体とスキルになっていた」。松浦慎一郎が手がけたこれまでの作品は、『百円の恋』『あゝ、荒野』『ケイコ 目を澄ませて』。えーっ、ここ数年、「スゴい」といわれたボクシング映画、そのほとんどに関わっているんじゃないの。そうなんです。このうちの1本でも観た方なら、ボクシング・シーンのリアルさ、わかっていただけると思う。そのなかでも、1.2の迫力です。文=坂口英明(ぴあ編集部)(C)2023 映画『春に散る』製作委員会
2023年08月21日沢木耕太郎の小説『春に散る』が映画化。佐藤浩市×横浜流星のW主演映画『春に散る』が、2023年8月25日(金)に公開される。沢木耕太郎の傑作小説『春に散る』映画化ノンフィクションの『深夜特急』三部作をはじめ、数々のベストセラーを世に放ってきた沢木耕太郎の『春に散る』は、朝日新聞での連載時から大きな話題を呼んだ傑作小説。沢木耕太郎が半生をかけて追い続けてきた、“ボクシングを通じて〈生きる〉を問うこと”をテーマにした作品だ。新田次郎文学賞を受賞した1981年の『⼀瞬の夏』、そして2005年の『カシアス』に続く、集大成ともいえる物語となっている。2人のボクサーの“再起”をかけた戦いを通して〈生きる〉を問う『春に散る』の主人公は、不公平な判定で負け、渡米し、40年振りに帰国した元ボクサーの広岡仁一と、偶然飲み屋で出会い、同じく不公平な判定で負けて心が折れていたボクサーの黒木翔吾。仁一に人生初ダウンを奪われたことをきっかけに、翔吾は仁一にボクシングを教えて欲しいと懇願する。やがて二人は世界チャンピオンを共に目指すことになり、“命を懸けた”戦いの舞台へと挑んでいく。佐藤浩市×横浜流星がW主演主人公の仁一、翔吾を演じるのは、佐藤浩市と横浜流星。再起をかけた二人の男たちを、どう演じるのか期待が高まる。主人公・広岡仁一…佐藤浩市元ボクサー。不公平な判定によって負け、渡米したが40年ぶりに帰国。偶然飲み屋で出会った翔吾を導くことで、人生に尊厳を取り戻そうとする。演じるのは『64−ロクヨン−』、『Fukushima 50』などにも出演する佐藤浩市。主人公・黒木翔吾…横浜流星ボクサー。不公平な判定で負けて心が折れていたものの、仁一と出会う。仁一に「あんたのボクシングを教えて欲しい」と懇願するも一度は断られるが、諦めかけていた夢に再度挑戦することに。世界チャンピオンをともに目指す。翔吾を演じるのは『流浪の月』『アキラとあきら』『線は、僕を描く』など話題作への出演が続く横浜流星。格闘技経験も豊富な横浜流星が、ほとばしる情熱をどのように表現するのかも見所の1つ。真田令子...山口智子仁一がかつて所属していた真拳ジムの現会長。仁一に恋心を抱いていた。広岡佳菜子...橋本環奈翔吾の恋人で、仁一の姪。人生を賭けた戦いに挑む仁一と翔吾を見守る。藤原次郎...哀川翔世界チャンピオンをともに目指した、仁一の昔のボクシング仲間。刑務所から出所したばかり。佐瀬健三...片岡鶴太郎仁一の昔のボクシング仲間。仁一と翔吾の挑戦を支える。大塚俊...坂東龍汰東洋太平洋チャンピオン。翔吾の対戦相手。宿命のライバル役に窪田正孝中西利男…窪田正孝絶対王者として名を轟かせる世界チャンピオンの天才ボクサー。仁一と翔吾の前に立ちはだかる最大のライバル。中西を演じる窪田正孝は、『64−ロクヨン−』で佐藤浩市とは同僚の刑事役として共演しているが、横浜流星とは初共演となる。また、窪田正孝は映画『初恋』でもボクサー役を演じており、『春に散る』でのアクションにも注目だ。監督は瀬々敬久監督は、『糸』『ラーゲリより愛を込めて』など人間ドラマの名手である瀬々敬久。『64−ロクヨン−』をはじめ、これまでに何度もタッグを組んできた佐藤浩市と、瀬々とは初タッグとなる横浜流星とともに、〈生きる〉を問う感動ドラマを映し出す。横浜流星ボクシングプロテストに合格ボクサー役を演じた横浜流星が、ボクシングのプロテストを受験し、C級ライセンスに合格。日本ボクシングコミッション(JBC)が開催する実技(スパーリング)テスト、筆記テストを含むプロテストに合格することで、プロボクサーになるために必ず通る道である「ボクサーライセンス」を取得することができる。横浜流星は、役を演じるにあたり「自分自身がプロボクサーになる必要があった」という思いが強く、プロテストの受験を決意したという。主題歌はAI「Life Goes On」主題歌は、AIが書き下ろした「Life Goes On」。“命があるありがたみ”と、“リスクを冒してでも自分が満足する行き方”といった、物語のテーマを表現したい、と思いながら楽曲制作にあたったという。挿入歌はIO新曲「Sequence」また、挿入歌には、国内屈指のヒップホップクルー:KANDYTOWNに所属するIOの新曲「Sequence」を採用。劇中では、ラストシーンとなるボクシング世界戦にて、黒木翔吾の対戦相手であるチャンピオン・中西利男の入場シーンで使用される。【作品詳細】映画『春に散る』公開日:2023年8月25日(金)出演:佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、坂東龍汰、松浦慎一郎、尚玄、奥野瑛太、坂井真紀、小澤征悦、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子監督:瀬々敬久原作:沢木耕太郎『春に散る』朝日新聞出版刊製作:映画『春に散る』製作委員会配給:ギャガ
2022年10月08日朝日新聞での連載時から大きな話題をよんだ沢木耕太郎の最高傑作小説『春に散る』(朝日新聞出版)が、佐藤浩市と横浜流星のダブル主演で映画化されることが決定した。ノンフィクションの傑作『深夜特急』三部作をはじめ、数々のベストセラーを世に放ってきた沢木耕太郎が、半生をかけて追い続けてきたテーマは、ボクシングを通じて〈生きる〉を問うこと。新田次郎文学賞を受賞した『⼀瞬の夏』、『カシアス』に続き、『春に散る』はその集大成ともいえる作品となっている。主人公は、不公平な判定で負けアメリカへ渡り40年振りに帰国した元ボクサーの広岡仁一と、偶然飲み屋で出会い、同じく不公平な判定で負けて心が折れていたボクサーの黒木翔吾。仁一に人生初ダウンを奪われたことをきっかけに、翔吾は仁一にボクシングを教えて欲しいと懇願。やがてふたりは世界チャンピオンを共に⽬指し、“命を懸けた”戦いの舞台へと挑んでいく。翔吾を導くことで人生に尊厳を取り戻そうとする仁一を演じるのは、佐藤浩市。仁一と出会い、諦めかけていた夢に再度挑戦する、翔吾を演じるのは横浜流星。監督は、『ラーゲリより愛を込めて』が公開待機中の瀬々敬久。『64−ロクヨン−』のほか、これまでに何度もタッグを組んできた佐藤浩市と、初めて起用した横浜流星。ふたりの生き様をスクリーンに映し出す。クランクインを前に、主演ふたりと監督、原作者、プロデューサーより、コメントが寄せられている。コメント佐藤浩市生き様があっても生き方が見えない漢たちが,自身のこれからと最後を賭けて同じ船に乗る。例えそれが泥舟だと判っていても。世代が違うと異人種であるかのように距離を置く人達もいる昨今、世代を超え拳ひとつで明日の階段を登ろうとする漢たちの映画になると信じて臨みます。横浜流星僕は人生を生きてく上で、一度しかない人生だから後悔しないように今を全力で生きようと心に刻み生きています。脚本を読んだ時、シンパシーを感じましたし、燃えつきることが出来ず後悔し、ボクシングしか無い人生の2人が出会い、もう1度命を懸けて挑戦する姿は心を揺さぶられました。ボクシングを出来ることや、監督、プロデューサーから熱い想いの綴った手紙を頂き、胸が高鳴り、出演したいと思いました。今ボクシングを1から学んでますが、芝居と格闘技、心から好きなものを仕事でできる幸せを噛み締めながら、翔吾が言っていたように今しか無い一瞬の光を掴めるよう、燃え尽きます。2人の命を懸けた挑戦をする姿を見て、皆さんに何か挑戦する勇気を与えられたら良いなと思っています。瀬々敬久監督十代後半から二十代前半にかけて沢木耕太郎さんのノンフィクションの幾つかを夢中になって読んだ経験があります。それらは、「老人と青年」が主人公として描かれ、「命と使命」についての葛藤の物語であり、「永遠と一日」の感受性が、常に描かれていました。老齢に差し掛かってしまった今、もう一度あの時間を『春に散る』を通して生き直してみたいと思っています。佐藤浩市さんと横浜流星さんという二人の役者に託して。昭和から映画の現場の様々を生きて来た佐藤浩市さんの繊細と豪胆。そして今回は、亡父、三國連太郎さんや息子の寛一郎くんとの実人生も、劇中の横浜流星さんとの疑似父子の中に深い影を落としてくるような気がしています。一方の横浜流星さんにはずっと以前から注目していました。彼の一本気な眼差しが、現在この瞬間だけを生きようとする若者像にぴたりとはまる気がしています。二人のそういう今の佇まいと立ち向かい方を映画に刻み残していきたいと思っています。そういえば、沢木耕太郎さんの著作のタイトルを思い出しました。『流星ひとつ』、今回のキャスティングもまた、沢木耕太郎さんに導かれたのかもしれません。沢木耕太郎(原作者)〈理想の日々を描く〉人は、どのように生き切ればよいのかということが心に浮かぶようになったとき、初めて自分はどのように死に切ればいいのかと考えるようになるのかもしれない。私はこの『春に散る』という小説で、ひとりの初老の男に、生き切り、死に切れる場を提供しようとした。それはある意味で、同じような年齢に差しかかった私たちにとって、人生の最後の、ひとつの理想の日々を描くことでもあっただろう。私は映画の制作スタッフに『春に散る』というタイトルと広岡という主人公の名前を貸すことに同意した。しかし、同時に、それ以外のすべてのことを改変する自由を与えることにも同意した。というより、むしろ、私がその一項を付け加えることを望んだのだ。文章の世界と映像の世界は目指すところの異なる二つの表現形式である。映画の制作スタッフが、広岡をどのように生き切らせ、死に切らせようとするのか。あるいは、まったく別のテーマを見つけて提示してくれるのか。楽しみにしている。プロデューサー 星野秀樹日本の美の象徴である桜は散り際が美しい、人生においてもそうあれたら幸せではないか。原作を読んだとき、ラストの二人の選択に温かい涙が零れました。本作は人生最良の〈一瞬の一年〉を活劇映画にし、未来の日本へ願いを託す〈最後にして最高の勝負〉を描きます。『春に散る』2023年公開
2022年10月05日法人向け社食サービスを提供しているおかんは3月28日、2016年の事業構想について発表した。2012年に設立され、今年で4年目となる同社。設立当初は個人向け惣菜宅配サービスを事業展開していたが、現在では法人向けサービスが主軸となり、約300拠点で導入されるまでに成長した。同社の代表取締役CEOを務める沢木恵太氏は、「前年比で約320%成長している。今後も成長の角度を緩めずに導入拠点を増やしていきたい」と意気込みを語った。○「オフィスおかん」を支えるパートナーの存在おかんでは、オフィス向けの置き食品サービスである「オフィスおかん」を提供している。同サービスは、契約企業のオフィス内に設置した冷蔵庫・専用ボックスに惣菜やご飯などの食品を定期的に提供するサービスとなっている。月に2~4回程度、契約企業に商品を補充していく同社の流通サービスを支えているのが、製造パートナーの存在である。工場を持っていない同社の惣菜を製造しているのが、岩手・静岡・新潟・福井・福岡の全国5カ所の惣菜メーカーだ。「全国各地に惣菜をつくるメーカーはたくさんあるが、地方だと人口が減少傾向にあり、マーケットがシュリンクしている。そのため、地方のメーカーは、工場のリソースがどんどん下がっているという課題がある。そこで、余っているリソースで私たちの商品をつくってもらい、オフィスという新しいマーケットで販売している」(沢木氏)直近では、奈良のメーカーを候補に、製造パートナーの拡大を検討しているという。○「オフィスおかん」を拡充2016年、同社が掲げる事業構想の1つとして、「オフィスおかん」の拡充が挙げられた。これまで同社は、東京23区に限定して販売を行ってきたが、4月1日からは京葉地域の浦安・市川地区へも拡大していくという。同地区への導入の理由を、沢木氏は次のように説明した。「これまでサービス導入いただいている企業の特徴の1つに、『立地が悪くて近くに食事をする場所がない』という理由がある。特に湾岸エリアはその傾向が強く、顧客が増えている状況にある。その中でも、浦安・市川地区はさまざまな物流系の企業が拠点として構えており、引き合いが多いため、まずはこのエリアから拡大していくことに決めた」(沢木氏)同地区以外にも、横浜や多摩での展開、ゆくゆくは大阪や名古屋など12大都市圏への展開も視野に入れて検討しているという。今期(11月が期末)の目標は、600拠点へのサービス導入となっている。○"食"以外の新しいサービスの開発「オフィスおかん」の拡充とともに、"食"以外の新しいサービスの開発についても、構想が語られた。それは、「ヘルスケア分野の強化」と「BtoE(Business to Employee)プラットフォームの構築」である。「ヘルスケア分野の強化」について具体的には、「ワーク・フード・バランス改善プロジェクト」の実施が挙げられた。同プロジェクトは、食事は心身のコンディションに大きな影響を及ぼす要素であるということを、従業員を雇用する側である企業に対して、啓発していく取り組みとなっている。これは、同社単独での取り組みではなく、社会人・企業・団体など周辺関係者が一体となった活動として広げて行きたいというのが同社の狙いである。同プロジェクトは現在準備中で、詳細は5月に発表される予定となっている。また同プロジェクト以外に、丸の内地区において、健康増進に関する実証実験の実施も予定されているという。こちらも同社単独ではなく、他社と協業しながら、「どのような取り組みを行えば健康が増進されるのか」といった観点で、健康増進に関する活動が「役立っているのかどうかの証明」を行っていくとしている。「いずれは、働いている中で無意識のうちに、食事のサポートがされ、適切な食事が摂れるような世界観をつくっていきたい」(沢木氏)○BtoEサービスのプラットフォーム化「BtoEプラットフォームの構築」については、まずは同社が提供してきたスマートフォンアプリをオープン化することを検討しているという。同社のスマートフォンアプリには、同社が提供する各商品の栄養成分やアレルギー情報といった情報が提供されているほかに、商品をアプリ上で購入できる決済機能が搭載されている。また、商品のリクエストなど、利用者が要望を送信できるコミュニケーション機能も搭載されており、マーケティングツールとしての役割も担っている。今後は同社以外の商品も含めて、「オフィス内での経済活動がアプリやプラットフォーム上で完結するようなサポートを行っていきたい」と沢木氏は語った。「提供するサービスは、衣食住・医療・教育の生活インフラにフォーカスして、さまざまな企業と協業して、パッケージ化させていきたい」(沢木氏)
2016年03月29日●職場環境、各社ではどのような工夫が?今年の12月からストレスチェック制度が施行されるなど、現在政府は、企業の「健康経営」を推し進めている。人事部門や総務部門などバックオフィスの担当者は、これまでの採用活動や従業員の給与・社会保険の管理、勤怠管理といったような業務を超えて、オフィス環境の改善や従業員の満足度を高める仕事が求められてきている。オフィスに調理済みの惣菜やご飯などを提供するサービス「オフィスおかん」を運営しているおかんでは、バックオフィス担当者を対象に、情報交換を目的とした「おかんの井戸端ランチ会」を定期的に開催している。これまで、「女性が働きやすい会社の"環境"と"制度"」や「オフィス環境から考える健康」などをテーマに開催してきたおかんは10月27日、「社内コミュニケーションで健康職場を創出!」をテーマに、3回目となる「おかんの井戸端ランチ会」を開催した。毎回ゲストスピーカーが呼ばれる同イベント。今回はソーシャルメディア事業を展開するガイアックスで従業員のために食堂を立ち上げた荒井智子氏と、WEBマーケティング事業を展開するジオコードの社長室 広報担当を務める加藤康二氏が登壇。両社の取り組みについて紹介してもらった。○従業員の健康を考えて創設された「まいにち食堂」ガイアックスでは、荒井氏が立ち上げた「まいにち食堂」や、拠点を超えた社内交流を目的とした「FantaGXプロジェクト」など、さまざまな取り組みが行われている。「まいにち食堂」は今年の9月から始まったプロジェクトで、まだ食堂の設備はなく、ケータリングで従業員にランチを提供している。「まいにち会社で皆とランチを食べよう」をテーマに、1日に30名くらいのスタッフとランチを行っているという。「従業員の心身の健康と、私自身が食に関わりたいという気持ちから、立ち上げました」(荒井氏)「FantaGXプロジェクト」では、東京、仙台、福岡、沖縄、フィリピンの各拠点を横断してチームをつくり、1年間チームごとにポイントを稼いで競い合うというプログラムを実施している。「"FantaGX"は"Fantastic"な"GX(ガイアックスの略)"をつくりたいという意思でつくられたプロジェクトです。これまでも合宿などで、他拠点のメンバーと交流することはありましたが、その後の関係が続かず、他拠点のメンバーが東京に来ても社内の人間のように感じられないといった課題がありました」(荒井氏)この「FantaGXプロジェクト」でチームをつくったことによって、チーム内のメンバーがお互いに出張があった時に、飲みに行くようになり、継続的な関係性が構築できるようになったという。そのほかにも、同社ではワークライフバランス推進室やLGBT支援といった従業員による自主的なプロジェクトが進められている。○サッカー観戦した後には「サッカー休暇」ジオコードでは、サッカー日本代表戦がある時には仕事を休んで、部署を越えて応援する「サッカー休暇」が設けられている。「仕事以外に熱中することの大切さを学んでもらいたいという目的で設定しています。仕事をやめてまで皆で応援したご褒美として、観戦した翌日などに休暇が取れるようにしています」(加藤氏)このサッカー観戦によって、社内のコミュニケーションが活性化し、一体感が創出されているという。そのほかにも忘年会の余興をチームごとの対抗戦にし、優勝チームには賞金を出すなど、ここでも"熱中すること"にこだわった制度が設けられている。また、休憩時間に軽食を配布するなど、従業員の健康面に配慮した制度も取り入れられている。●きっかけとその効果は?○取り組みが始まったきっかけは?もともと「生きることに近い仕事をしたと思っていた」と語る荒井氏。ガイアックスで営業として働きつつも、食に関するサービスを提供したいとう思いから、上司に相談したという。「上司は、『やりたいことがみつかるのはすごいことだ』と応援してくれました。ガイアックスを離れなければいけないのかなと思っていましたが、やりたいことは"働く人を健康にすること"でしたので、『まずは自分が所属している会社のメンバーを健康にできるように、社内に向けてサービスを開始してみるといいんじゃないか』と上司から言ってもらえ、まいにち食堂をオープンすることができました」(荒木氏)現在は仕入れから仕込み、運送、料理などすべて一人で担当しているという荒木氏。「学校には、疲れたり嫌なことがあったりした時に話をして元気を取り戻せる食堂や保健室のような場所がありますが、会社にはストレスがあるわりにそういう場所が少ないと思います。保健室のような食堂をつくりたいと思っています」(荒木氏)加藤氏は「会社が大きくなるにつれて、コミュニケーションが薄れていった」と語る。「もともとサッカー好きが多かったことと、ワールドカップは世界中で有名なイベントなので、興味がない人も巻き込みやすいかと思い、サッカー休暇制度を始めました。サッカー観戦をきっかけにコミュニケーションが生まれるようになり、事業にもプラスになったと実感しています」(加藤氏)軽食サービスはこの9月から導入された制度だという。「当社は毎年1回、全社員強制的に新しく追加したい福利厚生を2つ提出してもらっています。提出された内容は、社長や取締などを含めたマネージャーミーティングで検討・選定しています。軽食サービスは社員から出された案を採用したもの。自分たちの働く環境は自分たちでつくれるようになっています」(加藤氏)○社内環境はどう変わったのか?このような両社の取り組みによって、どのような変化があったのか?「最初の1カ月は仲の良いいつもコミュニケーションを取っているメンバーが来ていましたが、今では全く話したことがなかったメンバーが毎日来てくれています。違う事業部のメンバーが顔を合わせて、毎日コミュニケーションを取れるような場所になっています」(荒井氏)さらに荒井氏は、より皆が健康管理に興味を持ってもらえるように、食べることへの興味をもってもらえるような努力をしているという。「食事は毎日必要なもの。でも、仕事をしていて忙しいと、ついかけこんで食べるような生活になってしまいます。皆が健康管理に興味を持つように、おいしい食で自分の身体と向き合ってもらいたいと思っています。そのために、料理の仕方や収穫時の様子なども含めて、伝えるようにしています」(荒木氏)加藤氏は皆でサッカー観戦をすることによって、「もともと元気で明るい会社がさらに雰囲気が良くなった」と話す。また、従業員発案の軽食サービスが導入されたことによって、どんどん追加要望が寄せられているという。○"強制"ではなく、社員が"選べる"体制にランチ会の参加者から次のような質問があった。会社が考えた取り組みに対してやりたくない人へのフォローはどうしているのか?加藤氏は「正直サッカーが好きじゃない、見たくないという社員はいます。ただ、サッカー休暇制度は強制的なものではなく、任意にしているので、そこまで問題にはなっていません」と話す。荒井氏は「以前は合宿を全員参加にしていましたが、100人以上が納得する施策をつくることは不可能。全員の意見を聞いていくと、結果中途半端なものになってしまいます。参加を任意にしたことで、全員の心持ちを楽にすることができました」と話す。それでも、両社のイベント参加率は高いという。「『行かなきゃいけない』がなくなると、みんな楽しそうだと思って行ってみたくなるもの」と荒井氏は言う。重要なことは"風土づくり"であって、風土がつくれていれば、自然と皆が同じ方向に向かっていくのだろう。おかん 代表取締役CEOの沢木恵太氏は「当社のサービスをいろいろな企業さまが導入していただいていますが、うまくサービスを利用している企業とそうでない企業があります。福利厚生などは従業員のための取り組みですので、その意図をきちんと従業員へ伝えられているかどうかが重要です」とコメントした。
2015年11月04日