著者撮影先月、野球の「U-18ワールドカップ」が日本で行われた。日本は決勝でアメリカに敗れて惜しくも世界一を逃したが、早稲田実業の清宮幸太郎選手ら夏の甲子園を沸かせた球児たちが世界を相手に熱い戦いを見せた。そして、10月8日からは「U-15アジア選手権」が再び日本を舞台に開催され、東南アジアからタイが出場する。同大会は2000年の第1回大会から2年に一度をベースに開催されており、今回が第8回大会。静岡県伊豆市の志田スタジアムに日本、台湾、韓国、中国、パキスタン、タイの6カ国が集って15歳以下の野球アジアナンバーワンが争われる。著者撮影タイ代表チームを率いるのが、日本人の青山功監督。タイ野球を育ててきた「タイ野球の父」とも言える存在だ。高校時代は山梨県の高校で強打の捕手として鳴らした青山さんは1990年、大学卒業後に就職のためタイへやってきた。当時のタイは、野球不毛の地。それでも、「とにかく、純粋に野球がやりたかった」という青山さんは、日本人駐在員などを集めて「ジャパニーズ・ベースボール・クラブ」という野球チームを自ら立ち上げた。ちょうどその頃、日本の普及活動によってタイに野球が伝えられ、1993年には「タイ・アマチュア野球連盟」が設立。翌年の広島アジア大会を目指して初の野球タイ代表が結成されることになり、立ち上げから青山さんも深く関わった。もちろん、当時のタイに野球経験者はいなかった。青山さんは仕事の合間を縫って大学の運動部をひたすらまわり、選手をスカウト。やり投げなど、野球につながる要素のある競技の選手を見つけて、手当たり次第に声をかけた。著者撮影当時のタイではバットを持って歩くだけで不審者扱いされたというから、野球のナショナルチームを作ることの難しさは想像できる。どうにか選手候補はかき集めたものの、全てはゼロからだった。タイ陸軍の演習場で行われたという初めての練習は、みんなで特設マウンドを作るところから始まった。グローブが配られると選手たちのほとんどは右手にはめようとして戸惑い、ボールを手にすれば不思議そうに匂いを嗅ぐ者もいたという。ルールも実践しながら、一から地道に指導した。タイ野球の歴史はそこから始まった。著者撮影著者撮影青山さんは、その後もタイ野球の発展に関わり続けてきた。タイ代表監督なども歴任したが、次第に限界を感じるようになった。大人に一から野球を叩き込んでも限界があると考えた青山さんは、2001年にタイ初の少年野球チーム「バンコク・サンダース」を結成。子供たちに一から日本野球を伝えることに力を注ぐようになった。国籍は関係なく、「野球をしたい子はみんな集まれ!」というスタンス。現在は日本人35名、タイ人25名ほどの小中学生がチームに所属している。著者撮影著者撮影そして、今大会のU-15タイ代表チームも15名中9名がバンコク・サンダースのメンバー。青山さんの功績もあって少しずつ地方にも野球チームが生まれており、残りの6名はセレクションによって他のチームから代表入りしている。前回のインド大会ではタイは1勝もすることができなかったが、今大会へ向けて青山監督は手応えを感じているという。「今大会の目標はずばり、ランキングでタイの上に位置するパキスタンと中国に勝つこと。今の両チームがどんな状況かはわかりませんが、前回大会を見た印象では今のタイならいい試合ができるのではないかと。上位国に勝って、一つでもランキングを上げたいと思います」著者撮影バンコク・サンダースを卒業したあとに野球を続ける環境がないことなど、まだまだタイ野球には問題が山積している。前回のWBC(ワールドベースボールクラシック)予選には参加できたものの、次回大会ではタイに代わって急成長するパキスタンに参加資格が与えられることが決まった。苦しい状況下だからこそ、国際大会でタイ野球の存在感を示す必要がある。青山さんによって「日本野球」が叩き込まれたU-15タイ代表が、日本でアジアの強豪国に挑む。(text : 本多 辰成 )スポーツコラム「スポーツが繋ぐ! 東南アジアと日本の新時代」>その他の記事はこちら
2015年10月07日とにかく暑かった2015年の8月。検索ワードの急上昇ランキングでは炎天下で熱闘が繰り広げられた「甲子園」がトップにランクイン。陸上のワールドカップ「世界陸上」も注目を集めた。アツかった話題を振り返ってみよう。あ、「堀北真希」(2位)さんと「山本耕史」(4位)さんもアツアツでした。おめでとうございます。○高校生の活躍に沸いたスポーツ先月(7月)2位にランクインした「高校野球」に続き、今月は「甲子園」が1位に。地方大会が終わり、全国大会が行われる甲子園に関心が集まったことが分かる。中でも話題になったのが関東第一の外野手「オコエ瑠偉」(検索ランキング 9位)選手だ。高校生離れしたプレーで関東第一高校ベスト4進出への推進力となった。パフォーマンスばかりでなく、父親がナイジェリア人ということで人目を引く外見も注目され、マスコミの報道も過熱。TBS(東京放送ホールディングス)が取材要綱違反で大会本部から取材証の返却を求められるという事態も起きた。高校野球の決勝戦が終わった甲子園では、8月27日から第27回 WBSC U-18 ベースボールワールドカップが開催された。今大会もう一人の"規格外"として注目された早稲田実業の1年生 清宮幸太郎選手や、先発完投の連続で仙台育英を決勝に導いた佐藤世那選手らと共にオコエ選手も代表入り。去る9月6日に行われた決勝では米代表に惜敗する結果となったが、走攻守に活躍を見せたオコエ選手は大リーグのスカウトからも熱い視線を集めていたそうだ。将来の活躍が期待される。一方、陸上競技の祭典「世界陸上」(3位)ではジャマイカのウサイン・ボルト選手が3種目(100m/200m/400mリレー)で2大会連続3冠を達成したが、これに劣らず注目された現役高校生の日本人選手がいた。7月の陸上世界ユース選手権でボルトの男子200m大会記録(2003年)を破り、日本人最年少で世界陸上への出場を決めたサニブラウン・ハキーム選手だ。大会出場時点で16歳。残念ながら世界陸上でのメダル獲得はならなかったが、若い選手にとって大舞台の経験は力になるはず。来年のリオデジャネイロ五輪ではどんな走りを見せてくれるのだろうか。○肝を冷やした火の災い8月は火難の月だったかもしれない。「桜島」(8位)では山体の膨張や火山性地震など火山活動の活発化により、噴火警戒レベルが4に引き上げられ、地域住民が避難する事態となった。ランキングには入っていないが、JR沿線でケーブルが燃える不審な火事が相次ぎ、神奈川県の相模原市では米陸軍施設で爆発火災が発生した。中でも衝撃的だったのが、8月12日深夜、中国天津で起きた倉庫の爆発事故だ。現場の倉庫にはシアン化ナトリウム・硝酸アンモニウム・硝酸カリウムなどの危険物が大量に保管されており、それを知らずに消火作業に当たった消防隊員が放水したことが二次的に被害を拡大させたと伝えられている。隊員への教育が行われていなかったとか、そもそもこれだけの危険物保管の届け出がなかったという指摘もあるが、改めて真実が明らかにされることはないだろう。微博(ウェイボー / Twitterのようなサービス)では被害の様子を伝える書き込みや写真が当局によって次々に削除されたという。8月下旬には、まだ行方不明者がいるにも関わらず爆発の跡地を「海港エコ公園」にする計画が発表された。今年11月着工、来年6月に完成予定で、近隣には幼稚園や小学校も建設されるという。これには中国国内からも批判の声が上がり、中国のネットユーザーが政府を皮肉るコメントが日本のWeb系メディアでも多数引用されている。爆発事故に関する書き込みは取り締まりできても、批判や皮肉は技術的に捕捉しにくいのか、あるいはあえて適度に批判させることでガス抜きをすることが目的なのか。不満や批判も化学薬品で汚染された土壌と共に埋め立てられ、巨大爆発事故は歴史的になかったことになる日が来るのかもしれない。○番外 : 「暑い」と検索してみたら今年の夏は暑かった。東京では7月中旬から8月下旬までほとんどが最高気温30度を超える真夏日だった。こうした暑さは検索行動に反映されるのだろうか。急上昇ランキングには入っていないが、「暑い」の検索ボリュームを過去5年分に渡って比較してみた。東京の猛暑日・真夏日の日数 (東京管区気象台の資料による)2011年から2015年まで、7月8月それぞれの東京における検索ボリュームを比較してみると、2015年の平均値がダントツで多いことが分かる。実際に、猛暑日の日数は昨年より2倍以上も多かった。だが、気温の上下が検索ボリュームと比例するわけではないようで、検索量が最も多かった8月1日の最高気温は35度、最高気温が38度と最も高かった8月7日の検索量はそれより3割以上も少なくなっている。また、猛暑日・真夏日の日数自体は2013年の方が多く記録されているが、それよりも相対的に今年の検索量が多かった。「◯◯とは」などの解説や知識を求めて検索を利用するのではなく、「暇」「眠い」などの感情や感覚を検索する人が増えているというが、2013年と2015年の結果はそれを裏付けるものといえるだろう。また、感情で行う行動だけに、その変動は事象と関数的に結びついているわけではないことも読み取れる。スマートフォンの浸透により検索が「機能を果たすツール」というより「個人に密着した情報窓口」へと役割を広げている。
2015年09月12日伊坂幸太郎の“最強傑作”と評される小説を、満を持して映画化した『グラスホッパー』。先日、生田斗真、浅野忠信、山田涼介に続き、麻生久美子、波瑠、菜々緒、吉岡秀隆ら豪華共演者が発表された本作の主題歌を、歌手・YUKIが手掛けたことが明らかになった。殺された恋人の復讐のため、裏組織に潜入した元教師・鈴木(生田斗真)。人を絶望させる力を持ち、自らも精神を病む自殺専門の憂える殺し屋・鯨(浅野忠信)。驚異的な身体能力を持つ、孤独な若き殺し屋・蝉(山田涼介)。ハロウィンの夜、渋谷スクランブル交差点で起きた事件をきっかけに、心に闇を抱えた3人の男の運命が交錯する…。生田さんを筆頭に、若手注目株からベテラン俳優まで多彩な顔ぶれが勢ぞろいする本作をより盛り上げるのが、アーティストとして息の長い活躍を見せながらも、常にフレッシュな魅力を放つYUKIさんが書き下ろした楽曲「tonight」だ。闇のような世界の中で亡き婚約者の復讐だけを願う、生田さん演じる“鈴木”の再生への一歩に光を当てるドラマティックな楽曲となっている。今回の主題歌決定に当たっては、「どこか孤独な世界観を持つこの映画の最後に、孤独と乾きの先にある“何か”を皆さんに感じてもらえる様な楽曲を」という水上プロデューサーを始めとする製作側の強い願いがあり、原作者である伊坂さんにもアイディアを求めたうえで、YUKIさんへのオファーを出したそう。YUKIさんは、楽曲依頼を受けた当時の心境を「原作を読んで、男たちのハードボイルド物語と理解していましたので、本当に私でいいのかと思いましたが、そこを変化球で来たのには何か理由がありそうだぞ!面白そうだぞ!と思い、喜んでお引き受けいたしました」とふり返るとともに、「生きていてもいなくても、哀しくて辛そうな人たちばかりがスクリーンにいたので、もう辛い時は過ぎたよ、終わったんだよ、雨はもう上がったんだよ、と肩を抱いてあげるような気持ちを込めて作りました」と、楽曲・歌詞に込めた想いを語っている。主題歌が入った本作を改めて観賞した伊坂さんは、「YUKI さんの音楽を聴いていると、優しい気持ちに包まれて、むしろ僕はそれに怖さすら感じてしまうのですが、この映画は物騒で怖いことばかりが起きるので、最後にこの歌が流れることで、本当に救われた気持ちになりました」と絶賛。「最後のYUKI さんの曲まで含めて、この映画という作品なんだと感じましたのでそこまで聴いてもらえれば」と、映画の魅力を十二分に後押しする名曲に満足している様子が伺えるコメントを寄せた。YUKIさんの伸びやかな歌声が響く「tonight」が収録された新予告映像&新ビジュアルも、公式サイトにてお目見えとなった本作。見るものすべてを映像の中へ引きずり込むという、“巻き込まれ型”の一大エンタテインメントの公開が待ち遠しいばかりだ。『グラスホッパー』は11月7日(土)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2015年09月02日エース小笠原慎之介の投打にわたる活躍により東海大相模の優勝で幕を閉じた第97回全国高等学校野球選手権。同大会終了後に、第27回WBSC U-18ベースボールワールドカップの代表選手20名が発表された。投手は大会ナンバーワン左腕・小笠原慎之介、小笠原と決勝で投げ合った仙台育英の佐藤世那、夏の甲子園は不出場ながら今春のセンバツで活躍した県岐阜商の豪腕・高橋純平が選出。野手では、夏の大会を盛り上げた、関東第一のオコエ瑠偉、早稲田実業の清宮幸太郎らが代表入りを果たした。侍ジャパン壮行試合 チケット情報第27回WBSC U-18ベースボールワールドカップは8月28日(金)から9月6日(日)まで、兵庫・阪神甲子園球場ほかで開催。同大会に先立ち8月26日(水)、「侍ジャパン壮行試合 高校日本代表(U-18) 対 大学日本代表」を阪神甲子園球場で開催する。<U-18ベースボールワールドカップの代表選手>■投手11 佐藤世那(仙台育英高)12 成田翔(秋田商業高)15 高橋樹也(花巻東高)16 小笠原慎之介(東海大相模高)17 上野翔太郎(中京大中京高)18 高橋純平(県岐阜商業高)19 森下暢仁(大分商業高)20 勝俣翔貴(東海大菅生高)■捕手9 伊藤寛士(中京大中京高)22 郡司裕也(仙台育英高)27 堀内謙伍(静岡高)■内野手1 平沢大河(仙台育英高)2 津田翔希(浦和学院高)3 清宮幸太郎(早稲田実業高)5 宇草孔基(常総学院高)6 杉崎成輝(東海大相模高)10 篠原涼(敦賀気比高)■外野手7 豊田寛(東海大相模高)8 オコエ瑠偉(関東第一高)21 舩曳海(天理高)
2015年08月21日俳優の生田斗真が主演を務める映画『グラスホッパー』(11月7日公開)の追加キャストが8日、発表された。本作は、作家・伊坂幸太郎氏が手がけ、発行部数120万部を突破したベストセラー小説が原作。殺された婚約者への復讐のため、裏社会に身を置く元中学教師・鈴木を生田が演じ、対象者を自ら死に追い込む"自殺屋"鯨役に俳優の浅野忠信、孤独な若き殺し屋・蝉を山田涼介が演じることがすでに発表されている。映画では、裏の世界でもがく彼らの姿が描かれる。今回発表された配役では、鈴木を追う裏社会のヤンキーセレブ・比与子役に、女優としての活躍も目覚ましいモデルの菜々緒。そして、謎の主婦・すみれ役を麻生久美子、鈴木の婚約者・百合子役を女優の波瑠が務めることが明らかに。さらに、鯨、蝉に続くもう一人の殺し屋"押し屋"槿(アサガオ)役を吉岡秀隆、ニヒルな裏社会の交渉人・岩西役に村上淳、鯨の父役に宇崎竜童、裏社会のドン・寺原会長役に石橋蓮司、寺原会長の息子で"イカれた二代目"寺原Jr.を金児憲史が演じる。メガホンをとるのは、『脳男』(2013年)に続き生田とタッグを組む瀧本智行監督。脚本を『あなたへ』(2012年)で知られる青島武氏が務める。(C)2015「グラスホッパー」製作委員会
2015年07月08日生田斗真が『脳男』の瀧本智行監督と再びタッグを組み、伊坂幸太郎の“最強小説”とされるベストセラーの映画化に挑む『グラスホッパー』。浅野忠信、山田涼介(Hey! Say! JUMP)といった豪華キャストが出演することでも注目を集める本作の公開日が、11月7日(水)に決定。併せて“超ティザー版”ビジュアルが解禁された。渋谷スクランブル交差点――。ハロウィンの夜、仮装した若者たちや通行人をも巻き込んだ凄惨な事故が発生する。教師の鈴木(生田斗真)は、この事故で愛する恋人・百合子を失った。その事故が意図的に仕組まれたものだと知った鈴木は、彼女の復讐のため裏社会の組織に潜入。だが、自らも闇の組織に命を狙われることに…。原作は、120万部を超えるベストセラーとなった伊坂幸太郎の同名小説。生田さん演じる主人公・鈴木に相対するキャラクターとして、人の意識を暗黒に導く力を宿す「自殺専門」の殺し屋・鯨(浅野忠信)や、鯨を追う驚異的な身体能力を持った殺し屋・蝉(山田涼介)が明らかにされており、抜群の演技力を誇る俳優同士のかつてないコラボレーションが実現する。また、監督を務めるのは、生田さんと『脳男』に続くタッグとなり、骨太な演出に定評のある瀧本智行。脚本は『あなたへ』で日本アカデミー賞「優秀脚本賞」を受賞した青島武と、スタッフも盤石の体制となっている。今回解禁となったビジュアルは、物語の発端となる事件が起きた渋谷スクランブル交差点をバックにしたもの。だが、交差点を真上から捉えたふだん見慣れないアングルは、まるで全く知らない場所であるかのようにも見える。「この街は、人を凶暴にする」という意味深なコピーも気になるところだ。ある事件をきっかけに、心に闇を抱えた3人の男が交錯する様を描く、極上のサスペンスストーリー。数々の小説が映像化された伊坂作品の中でも、最高傑作となりそうな予感の本作に、これからも注目していて。『グラスホッパー』は11月7日(土)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2015年03月06日ベストセラー作家・伊坂幸太郎のデビュー作を舞台化した『オーデュボンの祈り』が、9月30日(金)に東京・世田谷パブリックシアターにて幕を開ける。キャストとして名を連ねるのは、主人公の伊藤を演じる吉沢悠など個性派12人。初日前日の29日(木)には公開舞台稽古が行われ、演出のラサール石井と全キャストが囲み取材に応じた。『オーデュボンの祈り』チケット情報コンビニ強盗を起こした伊藤は、いつの間にか見知らぬ島に連れられて来ていた。その“荻島”は仙台沖に浮かぶ離島で、150年という長きに渡り、外界との交流を絶ってきたらしい。それだけに島で暮らすのは不可思議な人々ばかり。しかも外界にはない、独自のルールが存在している。そんな中、島の住人・日比野(河原雅彦)の案内で、かかしの優午(筒井道隆)のもとへとやって来た伊藤。人間の言葉を話し、未来が予知できるという優午であったが、その後、何者かによって殺されてしまう。ファンタジー的な世界観の中に、ミステリー要素を取り入れた本作。現実と非現実をさまよっているかのような“荻島”は、もともと、活字だからこそ表現できた場所に違いない。だがシンプルでありながら想像力をかき立てる舞台装置。キーワードの鳥を効果的に表現した背景幕の映像。ブレヒト幕(=左右に動く幕)を使った素早い舞台転換。それら演劇ならではの手法が化学反応を起こし、荻島という魅惑の地を、見事舞台上に現出させている。それはもちろん、演劇を知り尽くした演出家だからこその成せる業。一番の見どころとしてラサールは、「この難物な伊坂ワールドを、どれだけ僕たちが演劇化しているか」と語っていることからも、その力の入れようをうかがうことができる。そして荻島をより魅力的に彩っているのが、キャストたち。その役柄同様、まったくと言っていいほど個性の異なる面々だが、それらが組み合わさったときに奏でられるメロディの心地よさに、正直驚かされた。またそれぞれが、個々としての存在感も十分に発揮。自らの存在意義と真っすぐに向き合った伊藤役の吉沢。かかしに優しさと哀しさの感情を吹き込んだ筒井。ひょうひょうとした中に悲哀をにじませた日比野役の河原。ほかにも石井正則、小林隆、陰山泰など、実力派たちがしっかりと脇を固めている。やがて、荻島に足りなかったピースがはまり、“大切なもの”が島を満たしていく。だが物語はそれで終わりではない。ラサールはこう語る。「伊坂さんの作品には、どこか読者に対して放りっ放しのようなところがある。だからそこはお客さま自身にお考えいただきたいですね」と。観客それぞれに芽生えた感情のピースをもって、真のラストを迎える『オーデュボンの祈り』。その画はさまざまなれど、爽やかな風が吹いていることは間違いないだろう。石井光三オフィスプロデュース『オーデュボンの祈り』は、9月30日(金) から10月12日(水)まで東京・世田谷パブリックシアターで上演。その後、札幌、大阪、仙台の各都市をまわる。チケット発売中。取材・文:野上瑠美子
2011年09月30日伊坂幸太郎のデビュー作を舞台化した「オーデュボンの祈り」の公開稽古が9月29日(木)、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで行われ、主演の吉沢悠を始め、筒井道隆、河原雅彦、石井正則、小林隆、武藤晃子、小泉深雪、寺地美穂、町田マリー、春海四方、玉木玲央、陰山泰のキャスト総勢12名と演出を務めるラサール石井が出席した。コンビニ強盗を起こした男性、反対のことしか喋らない元画家、殺人を許された男、地面の音を聞く男、人語を話し未来を語る案山子らの物語が少しずつ交錯。150年前より外界との交流を絶ち、鎖国状態にある島でそれぞれの運命が動き出す。明日からいよいよ東京公演の開幕となるが、「だいぶバタバタしています」とラサールさんは苦笑い。「ついこないだまで感触は豆腐を握っているようだったんですが、いまはこねたソバ、明日には野球の軟球くらいになっていると思います」と手応えを明かす。吉沢さんは「ラサールさんのビジョンがあり、みなさんの意見も取り入れつつ作り上げていってます」と現場の様子を明かした。ほぼ出ずっぱりで、セリフの量も膨大ということだが「原作を読んだ方も『どうやって舞台に?』と期待されていると思いますが、演劇的な表現を楽しんでほしい」と自信をのぞかせた。キャストの意見を取り入れつつということで、現場での変更もかなり多いようで筒井さんは「楽しんでやってます。結構、変更が多いのでそれに対応しきれず…(苦笑)。何とかご要望にそえられるようにしたいです」と意気込みを語った。東京、北海道、大阪に続き、伊坂さんの故郷であり、物語の舞台からもほど近い仙台での公演も行われる。キャストなどの概要が決定した後に、現地の受け入れの意向も確認した上で「『行きたいね』、『行こう』ということになった」(ラサールさん)という。改めてラサールさんは「ことさらに(震災を)意識する必要はないですが、とはいえ、観る側もやる側も意識せずにはいられないと思います」と語り、作品で掲げられる“future(未来)”という言葉に触れ「未来に向かって祈る、希望を持つということを伝えられたら」と思いを明かした。「オーデュボンの祈り」東京公演は9月30日(金)から10月12日(水)まで世田谷パブリックシアターにて。北海道公演は札幌市教育文化会館にて10月19日(水)、大阪公演はサンケイホールブリーゼにて10月22日(土)、23日(日)、宮城公演は10月25日(火)、電力ホールにて開催。
2011年09月29日仙台在住の人気作家・伊坂幸太郎の短編小説「ポテチ」が、これまで伊坂作品の実写化を数多く手掛けてきた中村義洋監督の手で、濱田岳主演でオール仙台ロケにより映画化されることが決定!同じく、過去の伊坂作品の音楽を担当してきたミュージシャンの斉藤和義が音楽を担当することも明らかになった。現在も仙台在住であり、その作品の多くが仙台を舞台に展開する伊坂作品。これまでも『アヒルと鴨のコインロッカー』、『ゴールデンスランバー』などが映画化されてきた。中村監督は先述の2作に『フィッシュストーリー』を手がけてきたが今回、“伊坂×中村”組とも言えるおなじみのメンバーが集結!『アヒルと鴨…』をはじめ、中村作品の象徴とも言える濱田岳が主演を務め、『フィッシュストーリー』、『ゴールデンスランバー』に続き、斉藤和義が優しいメロディで物語に彩りを加える。原作は短編集「フィッシュストーリー」(新潮社刊)所収の一篇で、全く同じ日に同じ病院で生まれながらもスターのプロ野球選手と凡人という全く違う人生を送ることになった2人の男を中心に、目に見えない絆に結ばれた人々が、運命に翻弄されつつも生きていく姿を描く。3月11日の東日本大震災を受けて伊坂さんと中村監督は「いままでの恩返しとして、現在の仙台の姿を通してみなに勇気を与えて、復興の後押しをしたい」との思いから本作をオール仙台ロケで映画化することを決意。60分の中編映画として来年の春に公開される。「『ゴールデンスランバー』で映画化はやりきったという思いがあった」という中村監督だが、震災後の5月に伊坂さんから映画化の相談を受け「3.11以降、何度か救援物資の運搬などで東北に足を運ぶなかで、映画監督として元気を与える作品を送りたい、という気持ちが強くなっていたこと、そして過去の作品でお世話になった仙台という街にまだ御礼ができていなのでは、という想いもあり、『ポテチ』の映画化に取り掛かることに迷いはありませんでした」と経緯を説明。「気負うことなく、街で暮らす普通の人たちの生活、息遣いを作品の中で表現したいと思いますが、『撮影に来てくれるだけで嬉しい』と言っていただいている仙台のみなさんの気持ちに応えるためにも、いま現在の仙台の街並を映していきながら、仙台に限らず、映画を観た人すべてに、少しでも勇気を与えられるような作品にしたいと思います」と意気込みを語る。伊坂さんは「最近は、自分の小説が映画化されることに抵抗があったのですが、ただ、3月の大きな地震のあと、そういったこだわりが些末なことに感じられた瞬間がありました。不安な日々を過ごしている中、『中村さんが映画化した『ポテチ』を観たかったな』と思ったりもしました。数か月前、僕のほうから映画化のことを相談した際、中村さんからは『いいですね。やりましょう』とすぐに返事があったものの、まさかこんなに早く撮影に入るとは想像もしておらず、驚いています。きっと、多くの人たちが損得を抜きにして行動してくれた結果ではないかな、と想像します。曲を斉藤和義さんが作ってくれると分かったときには、本当に嬉しかったですし、キャストを少し聞いただけでも、胸が躍りました。完成が楽しみです」と期待を寄せる。仙台を「僕にとっては思い出深い場所」と語る濱田さんは、「またいつかみなさんが映画を観られる状況になったら、一分でも、一秒でも、あの日のことから離れて、心の底から楽しんでもらえる作品にしたいです」とクランクインに向けて思いを明かしてくれた。斉藤さんは震災後、いち早くチャリティーライブを実施し、秋には被災地でのツアーも控えるなど、被災地のために積極的に活動してきた。「このチームとの仕事は毎回『仕事』を忘れて修学旅行に行くような雰囲気なので、今回もとても楽しみにしています。仙台の“今”を監督がきっと素敵な画に撮ってくれると思います。それに負けないよう頑張ります」と気合十分。8月下旬にクランクインし、9月中旬のクランクアップを予定しており、それぞれの思いが作品としてどのような結晶になるのか。原作ファンならずとも楽しみなところだ。『ポテチ』は2012年春、全国にて公開予定。■関連作品:ポテチ 2012年春、全国にて公開
2011年08月17日