「シェアリングネイチャー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本でも徐々に広まりつつある思想ですが、初耳だという人もいるでしょう。そこで、「自然体験が子どもの発達に及ぼす影響」を研究テーマにする心理学者であり、日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員という顔も持つ石﨑一記先生に、シェアリングネイチャーとはどんなものかを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)アメリカ生まれの自然から学ぶ思想シェアリングネイチャーという考え方が生まれたのは1979年。アメリカのナチュラリスト、ジョセフ・コーネル氏が『Sharing Nature with Children』という著書で提唱したものです。これは画期的なものでした。それまでは、子どもを自然に触れさせるにも、「教えましょう」「体験させましょう」という考え方が中心でした。でも、そうではなくて、自然のなかで見たり聞いたり感じたりしたことを、「すごいね」「綺麗だね」と共有するだけでいいじゃないか、と。それで十分に子どもたちは自然の楽しさを味わい、自然の恩恵を享受できると提唱したのです。日本では1990年頃から広まりはじめました。すると、林業関係者や自然環境保全団体、幼児教育や学校教育従事者、福祉関係者、カウンセラーなど、多くの人がその考え方に賛同した。それからは、日本でも着々と浸透しています。国内における活動は、ジョセフ・コーネル氏とライセンス契約を結んでいる日本シェアリングネイチャー協会が中心となっておこなっています。ジョセフ・コーネル氏自身がネイチャーガイドとして活動するなかで発案した「ネイチャーゲーム」をはじめとした自然体験プログラムを通じて、自然を楽しみ、自然と遊び、自然から学ぶよろこびに満たされた生活を送る人々を増やす活動を続けています。おすすめネイチャーゲーム5選ここで、わたしがおすすめするネイチャーゲームをいくつか紹介しておきましょう。1:大地の窓これは、木の葉っぱが落ちる秋から冬の時期にできるもの。全身を落ち葉のなかにすっぽり埋めて、顔だけを出します。すると、自分がどんどん地面の一部になっていく感覚になる。「大地の窓」から森を見ると、普段とはまったくちがった森に見えてきますよ。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)2:落ち葉キャッチ同じ落ち葉の季節なら、これもおすすめ。落ちてきた落ち葉をキャッチする。それだけの遊びです(笑)。でも、これがなかなか面白い。落ち葉って地面に落ちているところは見ても、落ちる瞬間はなかなか見ないものですよね。なんとか捕まえようと、じーっと木を見上げていると、不思議なことに風の通り道も見えてきます。3:木のシルエットこれは、葉が落ちて木の幹や枝のかたちがよくわかる冬にいいですね。全身を使って木のかたちを真似して、どの木を真似したのかをまわりの人に当ててもらうというもの。木の樹形を観察することにもなるし、親子でやればその絆を深めることにもなります。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)4:ミクロハイクこれは年間を通じてできるものです。ところで、みなさんは虫眼鏡って見るものを大きくするものだと思っていませんか?じつは……虫眼鏡は「自分を小さくする」ものなのです(笑)。虫眼鏡を使って自分が小人になった気分で探索をするのですが、これにはコツがあります。上からのぞくのは巨人の視点です。そうではなくて、地面に横になって見る。そうすれば、自分が小人になって、巨大なアリに遭遇したり、コケの大森林を歩いたりできますよ。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)5:フィールドビンゴこれも年間を通じて楽しめますね。日本シェアリングネイチャー協会でつくっているカードもありますが、家庭ではビンゴカードのような3×3マスか4×4マスのカードを用意すればOK。そのカードに、グループで「近くにありそうな自然のもの」を書き込み、見つけた項目に丸をつけていくというゲームです。自分のカードのどのマスに書き込むかも重要ですよ。誰かが「白い花」という項目を言ったとして、すでに白い花を見つけているのなら、ビンゴを出すために重要な真ん中のマスに書いちゃうとかね。さらに面白いのは、グループ全員が納得しないと丸をつけられないところ。たとえば「いいにおい」という項目があって、ママが「いいにおいがする」、子どもが「ほんとだ!」と言っても、パパが「ええ?いいにおいじゃないよ」と言ったらそれはNG。だから、親子のコミュニケーションを育むことにもなる。ちなみに、普通のビンゴでは1列が埋まれば終わりですが、これはたくさん見つけてビンゴをいくつもつくります。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)ネイチャーゲームがなくなることが理想!?真面目な親御さんなら、これらのネイチャーゲームが子どもになにをもたらしてくれるかといったところも気になることでしょう。日本シェアリングネイチャー協会でも、「自然や他者への共感や思いやりが生まれる」「自然や環境への理解が深まる」「自然の美しさや面白さ、不思議さなどを発見できる」「いのちを大切にする心が育まれる」といったことを、その効果として挙げています。たしかにそのとおりでしょう。でも、わたし個人としては、「なにかのためにやる」ものではないと思っています。そうではなく、親子が「共通の体験をする」こと自体に意味があるからです。だからこそ、子どもにやらせるのではなく親自身が楽しむことが大事になる。親子向けのネイチャーゲーム体験イベントでは、最初はだいたい親御さんは子どもにやらせて自分は後ろで腕組みをしている。でも、そのうち親御さんが子どもを押しのけてやるようになる(笑)。こういうイベントは大成功だということです。そして、もっと言えばこういうイベント自体がなくなってもいいのかもしれません。以前、ある地域のネイチャーゲームに欠かさず参加してくれていた家族がいたのですが、しばらくすると来なくなってしまった。でも、あるとき、ネイチャーゲームをおこなっていたところでその家族に偶然出会った。当然、わたしは「よかったら参加しますか?」と声を掛けました。そうすると、お母さんがこう答えたのです。「うちの近くにこんなにすてきな自然があることを知って、日曜日には家族で散歩をしたり食事をしたりしているので、もうネイチャーゲームはいらないんです」と。子どもと一緒に自然を楽しむことをライフスタイルに組み込むことができて、ネイチャーゲームを卒業したというわけですね。誰かがシェアリングネイチャーの普及を推進せずとも、誰もが自然に寄り添って暮らしている――。それが、わたしたちが目指すものなのかもしれません。『人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録』石﨑一記 他 著/日本シェアリングネイチャー協会(2016)■ 心理学者・石﨑一記先生 インタビュー一覧第1回:「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」第2回:「公園遊び」に道具は必要ない――外遊びは「なにもないところ」から始めよ第3回:意外すぎる自然遊びで一番大事なこと――“外遊び”の専門家が語る「シェアリングネイチャー」入門【プロフィール】石﨑一記(いしざき・かずき)1958年7月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大学応用心理学部教授。専門領域は発達心理学、カウンセリング、環境教育、キャリアコンサルティング。動機づけ、自然体験が子どもの発達に及ぼす影響、キャリア発達を研究テーマとする。日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員でもあり、目指す指導は「体験した人が活動を振り返ったとき、そこの自然や参加者同士の表情は覚えているのに、指導者の印象はない」というもの。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月27日子どもに外遊びをさせる身近な場所としては、まず公園が挙げられるでしょう。とはいえ、最近の公園は禁止されている遊びも多いもの。そんななかで、どのような遊びをさせれば、子どもの成長を促すことができるのでしょうか。アドバイスしてくれたのは、「自然体験が子どもの発達に及ぼす影響」を研究テーマにする心理学者・石﨑一記先生です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)「なにかで遊ばせる」という発想をやめる公園遊びをするにも、最近の公園ではいろいろと規則が多くてできない遊びも多いですよね。であれば、「なになにで遊ぶ」という考え方をなくせばいい。そもそも、外遊びは基本的になにもないところからはじめるほうがいいのです。いまの子どもの多くは、「なになにで遊ぶ」に慣れてしまっていて、「どこどこで遊ぶ」ことが苦手です。なにもない公園に行ってもなかなか遊べない。でも、放っておけばいいんですよ。そうしたら、子どもは自分で遊びを見つけますから。そういうときに、親がなにかを用意してしまうと、結局は「なになにで遊ぶ」を助長することになる。だって、子どもなら、葉っぱ1枚あればずいぶん遊べるものですよ。それなのに、親が「公園に行くんだったらフリスビーがいいかな、バドミントンがいいかな」なんて言い出すから、子どもが遊べなくなる。子どもが「ボールがほしい」なんて言っても、そこらにある松ぼっくりでも与えればいいんですよ。そうしたら、子どもはキャッチボールなんかよりよっぽど面白い遊びを考え出します。親は子どもに「なにかで遊ばせる」という発想をまずやめること。そんなことよりも、子どもと一緒にその場にいてあげることに、すでにものすごく価値、意味がありますから。生き物を殺した罪悪感がもたらす道徳性遊具なんてなにもなくても、花を摘んだり、四つ葉のクローバーを探したりするようなことだってできる。アリの行列をずっと眺めているような子どももいるでしょう。子どもにとっては、それは大冒険なのです。そして、なかにはアリなどの生き物を殺してしまう子どももいる。親御さんのなかにも、虫眼鏡でアリを焼いたり、他の虫や生き物を殺してしまったりした経験を持っている人もいるはずです(苦笑)。でも、この残酷さにも意味がある。生き物を殺した後の罪悪感が、やがて小学生以降に発達する道徳性の基礎になるのです。「かわいそうだからやめなさい」と頭から禁止してしまうと、子どもは実感としての「かわいそう」という感覚がわからないまま育ってしまう。ただでさえ、いまは家のなかでおじいちゃんやおばあちゃんが亡くなるといった死に触れる機会がすごく少ない時代です。だからこそ、生き物の死はとても貴重なものとなる。子どもがせっかく捕まえたクワガタが死んでしまったとしましょう。「なんで死んじゃったんだろう」と、子どもはショックを受けてボーッとしてしまう。この体験は、「命は大切だ」と100万回聞かされることよりもよっぽど意味があるものなのです。もちろん、積極的に子どもに生き物を殺させなさいというわけじゃありませんが、生き物を殺した、ペットが死んでしまったというような経験をしている子どもの場合、生き物の死に直面するとそのときの胸の痛みがよみがえってくる。その感覚は、子どもにとって財産と言っていいものですよ。親が与えるべきものは環境と安全話が少し脱線してしまいましたね。公園遊びの話に戻しましょう。幼い子どもの場合、それこそ公園に遊び道具を持っていく必要なんてありません。幼い子どもは、知能の原型となる「感覚運動的な知能を使う」段階(インタビュー第1回参照)。感覚を使って公園の環境自体を味わうことが大切です。たとえば、風や光、植物。あるいは硬さ、柔らかさ。歩くにしても、地面と砂場、落ち葉がたまっているところではその感触がちがいますよね。それから、遊具などに登ったときの視点のちがい。いわゆる、高さですね。そういう豊かな感覚をつかむことがポイントとなります。もう少し大きくなって小学生になると、「目標を決めて挑戦する」とか「目標達成のために工夫する」ということにテーマが変わってくる。でも、この年齢になれば、子どもは自分で自分にいちばんふさわしいテーマを選びます。親が与えるような必要はありません。親が与えるべきは環境であり、安全です。環境という意味で他に親ができることといえば、子どもに合わない公園だと思ったら、別の公園に連れて行ってあげるということ。自分の子どもより大きなお兄ちゃんたちが自転車でワーッと遊んでいるようなところなら、子どもは落ち着いて遊べませんからね。「遊ぶ」ということのイメージを広げるまた、「遊び」という言葉に縛られず、イメージを広げてみるのもいいと思いますよ。たとえば、家のなかでやっていることを外でやる。日曜の朝、ちょっと遅めに起きて冷蔵庫の残り物をバスケットに詰めて持って行って、外で食べる。それだけでも、子どもにとってはすごくスペシャルな体験です。遊ぶと言ったときに、遊び道具を持って行ってレジャーシートを広げて、「さあ、遊ぶわよ!」というのではなく、もっと気軽に考えていいのです。「面倒くさいな」なんてぼやいているパパと、張り切っているママと、はしゃいでいる子どもが一緒にご飯を食べる。その後は夫婦で会話しながら、すぐそばを子どもがたったか走りまわっている。こういうものも含めて、外遊びと考えたらどうでしょうか。そして、なによりも親が子どもと一緒に楽しんであげることです。親が楽しんでいる姿を見て、子どもは「こうやって楽しむんだな」「こういうものに価値があるんだな」と感じる。体験の共有には、話を聞いてもらうことと同じ意味があります。人は誰かに認められたり受け入れられたりしないと生きていけません。子どもの発達には、認められる、受け入れられる体験が絶対に必要なのです。それから、親が楽しむことで親自身のストレス解消にもなる。当然、子どもに優しくできる。そして、「公園に行ったときのママ、大好き」なんて子どもに言われる(笑)。最高じゃないですか。『人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録』石﨑一記 他 著/日本シェアリングネイチャー協会(2016)■ 心理学者・石﨑一記先生 インタビュー一覧第1回:「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」第2回:「公園遊び」に道具は必要ない――外遊びは「なにもないところ」から始めよ第3回:意外すぎる自然遊びで一番大事なこと――“外遊び”の専門家が語る「シェアリングネイチャー」入門(※近日公開)【プロフィール】石﨑一記(いしざき・かずき)1958年7月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大学応用心理学部教授。専門領域は発達心理学、カウンセリング、環境教育、キャリアコンサルティング。動機づけ、自然体験が子どもの発達に及ぼす影響、キャリア発達を研究テーマとする。日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員でもあり、目指す指導は「体験した人が活動を振り返ったとき、そこの自然や参加者同士の表情は覚えているのに、指導者の印象はない」というもの。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月25日家に引きこもっている子どもより、自然のなかを元気いっぱいに駆けまわっている子どものほうが心身ともに健全に育つということは、子育ての専門家でなくとも想像できます。事実、「自然体験が子どもの発達に及ぼす影響」を研究テーマにする心理学者・石﨑一記先生も、「外遊びは子どもの成長に大いに影響を与える」と語ります。ただ、外遊びの効果を引き出すには、「親の関わり方がすごく大事」とも。それはどういうことなのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)親は考え過ぎず、ただそこにある「環境」と関わればいい外遊びについてお伝えする前に、まずは多くの親御さんが持っている誤解を解いておきたいですね。ひとつ、例を出しましょう。以前、親子で参加するサマーキャンプを開催したときのことです。子どもたちが川遊びをしていると、ニジマスが泳いできました。なぜかというと、わたしが事前にニジマスを用意して放流したからです(笑)。それで、子どもたちはどうするか。当然、一生懸命に捕まえますよね。じゃ、なぜ捕まえるのか。ニジマスが泳いできたからですよ。そこにもっともらしい理由なんてありません。でも、教育熱心な親御さんたちほど、ただの遊びに対しても「なぜこれをやるの?」「なんのためにやるの?」と、考え過ぎてしまう。そうではなくて、ただそこにある「環境」と関わればいいのです。まずは親御さんが意識を変えないといけない。この話には続きがあります。ニジマスを捕まえた子どもはどうなるか。困るんです(笑)。経験がないから、どうしたらいいのかわからないんですね。でも、まわりを見渡してみると、魚をさばいている大人がいる。子どもはその人のところにニジマスを持っていき、一緒にさばいてもらう。さらには、たき火をしている人もいる。子どもはさばいたニジマスを焼いて食べる。子どもにとっては最高の遊びです。ところが、「今日の昼食はニジマスですよ、ひとり1匹ずつ捕まえて焼きなさい」と告げられたとしたらどうでしょうか?子どもたちはお昼ご飯を食べるためにニジマスを捕まえなければならない。同じことをやっているようでいて、これはもはや作業です。まったくもって遊びではないですよね。生きること自体もそうですが、子どもにとっての遊びは、つねに自分から環境に対して働きかけないといけないものなのです。そして、それに応じて環境が変化する。それを受けて、また子どもの行動が起きる。つまり、遊びとは行為の連鎖として起こるものです。ところが、親御さんは「外遊びが子どもの情操にいい」などと考えて、いい子に育てるために、子どもの意志とは関係なく外遊びをさせようとする。それでは、単なる作業、あるいは課題ではありませんか。そんなものが面白いわけがない。子どもにどんな遊びをさせるのがいいか——そんな発想をまずやめましょう。外遊びが「知能の原型」をつくるもちろん、結果として、外遊びは子どもの成長に大いに影響を与えます。大きくは4つ。まずは「感覚運動的な知能を使う」こと。これは知的発達段階のいちばん最初のレベルにあたります。イメージや言葉を使わず感覚で外界を受け取って、それに対して運動的に働きかける。これが知能の原型です。これに体験が積み重なることで、やがて、実物がそこになくとも頭のなかでイメージできるようになっていく。そうすると、今度はファンタジーの力を身につけることになる。空想であるとか、絵本の世界を楽しめるようになるのです。リアルの世界に対して自分の体を使って反応する体験が豊かであればあるほど、イメージしたり、ファンタジーを楽しんだり、あるいは目標や夢、理想というものを決めるにも、よりリアリティーを持ってできるようになるのです。それから、2番目には「自律性を育てる」こと。公園の遊具は別ですが、自然というものは子どもが遊びやすいようにできていないですよね。木は子どもの都合を考えて枝を伸ばしているわけではありません。当然、木登りをするにも工夫をしないとならない。頭を使って、試行錯誤し、トライアル・アンド・エラーを重ねることとなる。遊びという場面において試行錯誤できるということ、つまり、やってもやらなくてもいいし、やるにしてもどのようにやってもいいということは、自己決定の要素、自分の意志を活用する場面がすごく多いということです。自分の意志を活用するというのは、人が生き生きとするためのひとつの大きな源泉です。そういうふうにして自分の意志でその遊びに関わったから、木のいちばん上まで登れた子どもは誇らしく感じる。これが3つ目で「有能感を育てる」こと。そして、子どもはその誇らしさを誰かに伝えたい。「ママ!上まで登れたよ!」と言って、ママが「すごいわね」と反応してくれたら、他者との「関係性が養われる」ことになる。これが4つ目。外遊びは、これらの4つがすごく豊かに含まれるものなのです。もっとも重要なことは親が一緒に楽しむこともちろん、外遊びは、みなさんにとってもっと耳慣れた力を伸ばすことにもつながりますよ。自分で決めたことだから夢中になってやり続ける——集中力。試行錯誤しながらいろいろと工夫する——発想力。やり遂げたことで自分を好きになる——自己肯定感。親など他者との関係性を保つために情報や意志の交換をする——コミュニケーション能力、といった具合です。外遊びの効果は枚挙にいとまがない。逆にいえば、こういうものをちゃんと育ててあげないと、せっかくの外遊びももったいないとも言えます。子どもの自律性の発達を妨げるのなんて簡単ですよ。「ああしなさい」「これしちゃ駄目」「こうしたほうがいいんじゃない?」と言うだけでいい。子どもが「やったー!見て!」と誇らしげに言ってきたときに、「そんなの大したことないじゃない」と言えば有能感は育たないし、「後でね」と言ってスマホをいじっていれば関係性が育たない。つまり、子どもに外遊びをさせるにあたっては、「親の関わり方」がすごく大事なのです。それ次第で、同じことをしても、子どもの成長という観点からすれば、まったくちがうものになってしまう。とはいえ、先にお伝えしたように、考え過ぎる必要はまったくありません。外遊びの効果を最大限に子どもにもたらすには、あれやこれやと言わず、子どもと一緒になって親御さんもただ楽しめばいい。それに尽きます。『人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録』石﨑一記 他 著/日本シェアリングネイチャー協会(2016)■ 心理学者・石﨑一記先生 インタビュー一覧第1回:「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」第2回:「公園遊び」に道具は必要ない――外遊びは「なにもないところ」から始めよ(※近日公開)第3回:意外すぎる自然遊びで一番大事なこと――“外遊び”の専門家が語る「シェアリングネイチャー」入門(※近日公開)【プロフィール】石﨑一記(いしざき・かずき)1958年7月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大学応用心理学部教授。専門領域は発達心理学、カウンセリング、環境教育、キャリアコンサルティング。動機づけ、自然体験が子どもの発達に及ぼす影響、キャリア発達を研究テーマとする。日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員でもあり、目指す指導は「体験した人が活動を振り返ったとき、そこの自然や参加者同士の表情は覚えているのに、指導者の印象はない」というもの。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月24日子育てにおける心がけとして常套句のひとつとなっているのが、「褒めて育てる」。常套句になっているくらいですから、実感としてその効果を感じている親御さんも少なくないでしょう。脳科学者の篠原菊紀先生によれば、この言葉は脳科学の観点から見ても正しいのだそうです。では、どんな褒め方がより効果的なのか。「子どものやる気を維持する」ための褒め方を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)やる気アップのために具体的な「行動」を褒める「褒めて育てる」という言葉がありますが、それは脳科学の観点からも大いに有意義なことだと言えます。そもそも「やる気」とはなにかといえば、「行動と快楽の結びつき」です。そして、その結びつきを司るのが脳の線条体(せんじょうたい)と呼ばれる部分と腹内側前頭前野(ふくないそくぜんとうぜんや)です。そして、線条体の最大の特徴として、「予測的な活動をする」ことが挙げられます。なんらかの行動をしたら快楽を与えてあげる。たとえば、子どもが勉強をしたら褒めてあげる。そうすると、子どもの線条体は「勉強をすれば褒められるんじゃないか」と予測するようになります。つまり、褒められるという快楽を得たいがために、勉強に対するやる気がアップするというわけです。ただ、「褒めて育てる」と言っても、「素質」を褒めるのか「行動」を褒めるのかといった議論もあります。自信を失ってしょげてしまっている子どもを励ましたい、子どもの自己肯定感を高めてあげたい——さまざまな場面で褒めることは効果的ですが、勉強好きにさせたい、サッカーがうまくなってほしいといったなんらかの方向性を持って子どものスキルアップを図りたいのであれば、その議論の答えは明快です。線条体は「行動」と快楽を結びつける器官。つまり、ある「行動」をする際の線条体の活動を高めたいと思ったら、その方向性に沿った具体的な「行動」を褒めなければ意味がない、子どものやる気アップにはなかなかつながらないということです。「適当に」気が向いたときに褒めるくらいでいいとはいえ、褒め方には注意も必要です。ここで、イギリスのシュルツという学者がおこなったサルを使った実験を紹介しましょう。シュルツは、どのような条件下なら、サルの脳にドーパミンという快楽物質が出るかを調べました。まずはジュースを舌に垂らす。サルはジュースが大好きですから、ジュースが垂らされた瞬間、ドーパミンが出ます。次に、赤いランプが点灯して、レバーを押すとジュースがもらえるという装置をつくってトレーニングを繰り返しました。当初はどうすればジュースがもらえるのか予測できないので、ジュースをもらったときだけドーパミンが出る。でも、トレーニングを繰り返すうちにサルは学習し、ランプが点灯すると必ずレバーを押すようになります。すると、ランプが点灯しただけでドーパミンが出るようになり、実際にジュースをもらったときにはドーパミンは出なくなるのです。これがどういうことかを理解するために、レバーを押すことを「勉強すること」、ジュースをもらえることを「褒められること」に置き換えて考えてみましょう。つねに子どもを褒め続けてしまうと、子どもが「勉強をすれば褒められるんじゃないか」と予測したときには快楽を感じるが、実際に褒められたときにはそうならなくなってしまうということ。褒められることが、子どもにとってよろこびではなくなるわけです。しかも、褒められそうだと思ったのに褒められなかった場合には、むしろ怒りに転化することもある。大人ならば、給料日に給料が入金されていなかったようなものですから、それも当然ですね。こまめに子どもを褒めることは大事ですが、子どもにとって「勉強したら必ず褒めてもらえる」があたりまえになると、褒めることの効果は薄れてしまうので、注意が必要です。では、どうすればいいかというと、「ギャンブル条件」というものを使ってほしい。レバーを押してジュースをもらえる確率を50~70%にする。ジュースをもらえるときもあれば、そうじゃないときもあるようにするわけです。こうした不確定な状況がギャンブル条件です。そうすると、ランプが点灯したときもジュースをもらえたときも、ドーパミンが出るようになるのです。子どもを褒めることでいえば、それこそサイコロでも振って、褒めたり褒めなかったりする。「間引く」ことが重要なのです。とはいえ、あまり考え過ぎる必要はないかもしれませんね。親御さんも仕事に家事に忙しいでしょうし、子どもが勉強したら100%必ず褒めるなんてことは、やろうと思ってもそうできるものではありません。自然に間引くことができているのではないでしょうか。子どもを褒めることの重要性は知っておいて損はありませんが、あまり意図的にコントロールしようとするのではなく、「気が向いたときに褒める」くらいの適当さが、褒めることの効果を高め、結果的には子どものやる気を維持させることにもつながるのだと思いますよ。『男の子がさいごまでできる めいろ』『女の子がさいごまでできる めいろ』篠原菊紀 監修/KADOKAWA(2018)■ 脳科学者・篠原菊紀先生 インタビュー一覧第1回:記憶力の要は「記憶の仕方」にあり。親が知っておくべき「記憶の脳科学」第2回:子どもの「やる気」と「集中力」を引き出す脳科学的テクニック第3回:子どもの気質をテストで診断。脳のタイプ別「“勉強好き”に育てる方法」第4回:「間違った褒め方」していませんか?子どものやる気を維持させる「褒め方」メソッド【プロフィール】篠原菊紀(しのはら・きくのり)1960年生まれ、長野県出身。東京大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。東京理科大学諏訪短期大学講師、助教授を経て、現在は諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授、地域連携研究開発機構・医療介護・健康工学部門長、学生相談室長。「茅野市縄文ふるさと大使」という肩書も持つ。応用健康科学、脳科学を専門とし、「遊んでいるとき」「運動しているとき」「学習しているとき」など日常的な場面での脳活動の研究をしている。教育関連の他、アミューズメント、自動車産業などとの共同研究も多数。子どものための「脳トレ」に関する著書も数多い。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月22日子どもをやる気にさせる、勉強好きにさせる方法をいろいろと学んで実践しているのに、あまり効果を感じられない——。もしかしたらそれは、選択した方法が子どもの「遺伝的な脳の癖」に合っていないからかもしれません。お話を聞いたのは、脳科学者・篠原菊紀先生。先生によると、同じ方法も「脳の癖によるタイプのちがいによっては効果が半分以下になる」こともあるそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)どんなことに子どもの脳が快楽を感じるのかを知る一般的に「やる気スイッチ」とも呼ばれる脳の線条体(せんじょうたい)と呼ばれる部分が活動している(インタビュー第2回参照)と、ただやる気になるということ以上のメリットがあります。線条体とは、行動と快楽を結びつける器官。つまり、線条体が活動しているということは、いまおこなっている行動が望ましいものだと感じているということです。そして、快楽を感じているために記憶がつくられやすい状態でもある。であるのなら、子どもをやる気にさせ勉強効率を上げるには、それぞれの子どもの脳がどんなことに対して快楽を感じやすいのかということを知る必要があります。これには一種の、「遺伝的な癖」があります。「気質」と言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。たとえば、将来的にマスコミの道に進むような子どもは、もともと新しもの好きな子が多いでしょう。新しい刺激やスリリングな事柄に対して快楽を感じるのです。そういう子どもの場合、新しいことにチャレンジをしたら褒めてあげるとか、チャレンジできる環境を用意してあげると、やる気の維持につながります。一方で、逆にとにかくリスクを嫌う子どももいます。そういう子どもだと、新しいことにチャレンジをしたからといって褒めても、やる気の維持といった効果は半分以下。そうではなくて、「この勉強をしておくとあとで安心だよ、役立つよ」といった、保険外交員のような言葉が効果的です。そうした脳の癖を知るのに、以下のようなチェックテストも役に立ちます。子どもにあてはまる項目、あるいは親御さん自身にあてはまる項目をチェックしてください。というのも、親子が一致していれば親が自分をモデルにして考えればいいし、不一致なら親の思いはすれ違いを生みやすくなると自覚できるからです。【A】~【D】まで、それぞれいくつチェックしてもらっても大丈夫です。【A】□ ヘアスタイルをよく変える□ コンビニやドラッグストアの新製品は必ずチェックする□ 急に新しいことをはじめたくなる□ 進学するならやっぱり都会がいい□ ルールを守るのが苦手□ お金は使うためにある【B】□ 安心、安全が一番□ 疲れやすい□ 人見知りするほうだ□ 友だちと直接話すよりメールのほうが気楽□ 外出するより家にいるほうが好きだ□ 目立つことはあまり好きじゃない【C】□ 「親友」と呼べる友だちが多い□ ドラマや映画を見てつい涙が出る□ 甘いものが大好き□ 人にプレゼントをする、他人をよろこばせることが好き□ 褒められ好きで、褒められるとやる気が出る□ 友だちの誘いはなるべく断らない【D】□ 自分の部屋はいつも整理整頓されている□ 朝ごはんは、毎日決まった時間に食べたい□ バッグのなかには「いざ」というときのアイテムがけっこう入っている□ DVDを借りたら必ず特典映像を見る□ 空気が読めない人やノロノロしている人には我慢できない□ 少しでも太ったら「ダイエット」の文字が頭に浮かぶ子どもの脳の癖に合わせて言葉や環境を選ぶ人の行動特性はこの【A】〜【D】のベクトルの組み合わせになります。チェックの多い上位ふたつぐらいの傾向に留意するといいでしょう。【A】新しものの好きの「新奇探索傾向」感性が豊かでチャレンジ精神旺盛ですが、飽きっぽい傾向もあります。ですから、この傾向を持つ子どもはスタートダッシュが重要。じっくりスケジュールを立てて勉強の準備に時間をかけるとその段階で飽きてしまうことも。宿題でもテスト勉強でも、一気にやらせてしまうのがいいですね。また、子どもが新しいことをはじめたら、なんらかの「ゴール」を設定してみてください。飽きさせないという意味もありますが、達成感は脳の活性化に重要なもので、次なるステップへのモチベーションとなるからです。【B】リスクを嫌う「損害回避傾向」安定を好む心配性で、日本人に多い傾向です。この傾向を持つ子どもは、基本的に習慣的な勉強を苦としません。反面、一度スケジュールが狂うと、「もういいや」と一気にやる気を失う可能性もある。急に割り込む用事にも対応できるよう、勉強のスケジュールには余裕を持たせておきましょう。また、習慣的なことを好むので、次々に新しい参考書や問題集に取り組むのではなく、1冊に決めてじっくり勉強するほうが向いています。【C】承認欲求が強い「報酬依存傾向」この傾向にとっての報酬とは、「まわりから認められているという実感」です。この実感がなくなると不安に陥ってしまいますが、自分を認めてくれる人の前では存分に力を発揮できます。この傾向の子どもが期待しているのは「頑張ったね」「すごいね」という褒め言葉です。家での勉強についてはもちろん、学校での勉強についても話を聞いて、「今日もよく頑張ったね」と褒めてあげてください。【D】完璧主義の「固執傾向傾向」【C】とは逆に周囲の評価はほとんど気にしません。なにかをはじめると完璧にやり遂げないと気が済まず、ものごとに白黒をつけたがる傾向もあります。この傾向を持つ子どもは一つひとつ着実に勉強していくことを好みます。一度に複数のことをするとストレスを感じるので、勉強の優先順位をつけさせるといいでしょう。また、完璧主義ゆえに自己評価が低い一面もあるため、勉強したら「今日できた勉強」を書き出すなどして、勉強の成果を肯定的にとらえられるよう工夫してあげてください。子どもがどういうことに快楽を感じるのか、それに合わせて言葉や環境を選んであげることが大切です。中学入試を受けるにしても、「この学校に行けば世界が開けるぞ」と言うのが子どものやる気アップに効果的なのか、あるいは「あとあと安全だよ」「みんなに褒められるよ」「こんなすごいことができるぞ」と言うのがいいのか。特に気を使いたいのは一見矛盾する傾向がいずれも強いとき。そういう場合、子どもはストレスを抱えやすいので、子どもの「ああでもない、こうでもない」に粘り強く付き合ってあげてください。『男の子がさいごまでできる めいろ』『女の子がさいごまでできる めいろ』篠原菊紀 監修/KADOKAWA(2018)■ 脳科学者・篠原菊紀先生 インタビュー一覧第1回:記憶力の要は「記憶の仕方」にあり。親が知っておくべき「記憶の脳科学」第2回:子どもの「やる気」と「集中力」を引き出す脳科学的テクニック第3回:子どもの気質をテストで診断。脳のタイプ別「“勉強好き”に育てる方法」第4回:「間違った褒め方」していませんか?子どものやる気を維持させる「褒め方」メソッド(※近日公開)【プロフィール】篠原菊紀(しのはら・きくのり)1960年生まれ、長野県出身。東京大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。東京理科大学諏訪短期大学講師、助教授を経て、現在は諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授、地域連携研究開発機構・医療介護・健康工学部門長、学生相談室長。「茅野市縄文ふるさと大使」という肩書も持つ。応用健康科学、脳科学を専門とし、「遊んでいるとき」「運動しているとき」「学習しているとき」など日常的な場面での脳活動の研究をしている。教育関連の他、アミューズメント、自動車産業などとの共同研究も多数。子どものための「脳トレ」に関する著書も数多い。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月20日子どもが勉強に対する意欲を持ってくれない、集中力が続かない……。小さな子を持つ親御さんであれば、そんな悩みを抱えているはずです。その悩みを解消してくれるのは、脳科学者の篠原菊紀先生。「やる気になる」「集中できている」ということはどういう状態なのか、どうすればそうなるのか、脳科学の観点から教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)勉強への集中力が持続する時間は15分まず、集中力が「どのくらい持続するか」という話からはじめましょう。じつは、集中力の持続時間はテストの内容によって異なりますから、一概には言えません。たとえば、クレペリンテスト。就職、転職時の適性検査に採用している企業もありますから、受けたことがあるという人もいるでしょう。1列に並んだ隣り合う1桁の数字をひたすら足し算していくもので、計算能力、集中力などを測定するテストです。このクレペリンテストの場合、だいたい7分くらいを過ぎるとパフォーマンスが落ちて、休憩を挟むとまた上がってくるということが研究結果からわかっています。また、テレビ番組などの映像コンテンツに対する集中力が持続するのはだいたい15分くらい。10分から15分ごとに1回CMが入るというのは、脳科学の観点からすれば正しいのです。そして、肝心の勉強に対する集中力が持続するのもだいたい15分くらいですから、15分をひとつの目安に休憩を挟んであげるのがいいかもしれません。ただ、「手慣れた」科目の勉強への集中力はより長く持続します。20代くらいの若い人のほうが、集中力が続きそうなイメージを持たれがちですが、マサチューセッツ工科大学の調査によると、じつは集中力のピークは43歳くらい。これも、その年齢に至るまでの人生のなかでさまざまな経験を積むうち、知識やノウハウが蓄積し「手慣れ」てくることが関係します。年齢と集中力に関連することとして、もうひとつお話をしておきましょう。ビジネス書等で「朝のほうが勉強や仕事に集中できる」というようなことを見聞きするかと思います。じつは、これも年齢によって変化するもの。中高年層だと午前のほうがパフォーマンスは高い。でも、若者となると、午後~夜のほうが集中できる傾向にある。もちろんこれには個人差もあります。結局のところ、集中できる時間帯というものは人それぞれちがうということです。であれば、集中力を高めるためにはどの時間帯に集中力が増しているのか、集中力が減っているのか――時間によって変化する「やる気曲線」を本人に書かせてみてはどうでしょうか。これには、「この時間帯には集中力が増している」と自己認知することで実際に集中力を高めるという効果が期待できます。もちろん、小さい子どもにあまり遅い時間に勉強させるわけにはいきませんが、今後の学習のためにも知っておいていいことだと思いますよ。「行動」をイメージさせてやる気スイッチを入れる子どもの集中力を高めたいのなら、「集中できている」というのはどういう状態なのかを知っておく必要もあるでしょう。脳科学の観点から説明すると、「集中できている」というのは、脳の線条体(せんじょうたい)という部分が活動している状態。線条体とはいわゆる「やる気スイッチ」です。行動と快感を結びつけている器官で、移動する動物のすべてが持っているものとされます。というのも、行動に快感を感じられなければ、動物は生き抜くことができないからです。わたしたちの祖先が獲物のマンモスを見つけて追いかけはじめた。でも、あっさりと追跡をあきらめてしまったらどうでしょうか。獲物を捕らえることができず、餓死してしまいますよね。追いかけはじめたら、追いかけ続けられなければならないのです。実際にそうして獲物を確保して、生き延びることができた。つまり、一度「やる気スイッチ」が入ったら行動に快感を感じるという仕組みを人間は持っているのです。であれば、子どもを勉強に集中させるためには、「やる気スイッチ」を入れる方法さえ知ればいいということになる。その方法とは、「行動」をイメージさせることです。「勉強しよう」「やる気を出そう」と思って線条体の活動がはじまるのならそもそも苦労はありません。どんなにそう思っても線条体にその命令が届かない、その場合が問題なのです。「やる気を出そう」と思っているときの脳活動を調べると、じつは言語野と呼ばれる部分は活発に動いています。勉強をしないでだらけている子どもに「勉強しなさい」と言うと、「いましようと思ってたのに」なんて答えませんか?それは嘘ではないのです。そういうときには、子どもに、立ち上がって机に向かって歩いて椅子にドンと座って教科書をガバッと開いてガシガシと勉強するというようなことを映像のようにイメージさせる。先にお伝えしたように、線条体は行動と快感を結びつける器官ですから、「行動」をイメージすることで重い腰も浮きやすくなるのです。いま、「ドン」「ガバッ」「ガシガシ」という言葉を使いましたが、オノマトペ(擬声語)を使うと線条体の活動がはじまりやすくなります。また、実際には楽しくないことも口角を上げて取り組めば楽しくなるという話を聞いたことがあるのではないでしょうか。1980年代頃から感情心理学において言われてきたことですが、これは脳科学の点からも正しいと言えること。口角を上げると脳のなかでドーパミンという快楽物質の分泌が盛んになり、記憶効率が高まりスキルアップしやすくなることがわかっているからです。苦手な科目の勉強に取り組む際には、子どもにニコニコしながら楽しそうにやるよう教えてあげる。とはいえ、小さい子どもなら理屈で理解することは難しいかもしれません。であれば、親御さん自身も、面倒なことをニコニコしながらやってみる。そういう姿を子どもに見せてあげてください。『男の子がさいごまでできる めいろ』『女の子がさいごまでできる めいろ』篠原菊紀 監修/KADOKAWA(2018)■ 脳科学者・篠原菊紀先生 インタビュー一覧第1回:記憶力の要は「記憶の仕方」にあり。親が知っておくべき「記憶の脳科学」第2回:子どもの「やる気」と「集中力」を引き出す脳科学的テクニック第3回:子どもの気質をテストで診断。脳のタイプ別「“勉強好き”に育てる方法」(※近日公開)第4回:「間違った褒め方」していませんか?子どものやる気を維持させる「褒め方」メソッド(※近日公開)【プロフィール】篠原菊紀(しのはら・きくのり)1960年生まれ、長野県出身。東京大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。東京理科大学諏訪短期大学講師、助教授を経て、現在は諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授、地域連携研究開発機構・医療介護・健康工学部門長、学生相談室長。「茅野市縄文ふるさと大使」という肩書も持つ。応用健康科学、脳科学を専門とし、「遊んでいるとき」「運動しているとき」「学習しているとき」など日常的な場面での脳活動の研究をしている。教育関連の他、アミューズメント、自動車産業などとの共同研究も多数。子どものための「脳トレ」に関する著書も数多い。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月18日これからの時代には「考える力」が必要とされ、学校の教育内容も以前の詰め込み型から変化していきます。ただ、学習していくためには「記憶力」は欠かせないもの。子どもの記憶力を伸ばしてあげたいと思う親御さんが多いなかで、そのためにはどんな教育が必要なのでしょうか。脳科学を専門とする篠原菊紀先生は、「まず記憶の仕組みを知らないことにははじまらない」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「記憶力がある」ということは「記憶の仕方を知っている」ということ当然ながら、子どもの能力には遺伝が大きく関係しています。IQでいえば、じつは7〜8割くらいは遺伝で説明できてしまうほどです。残念ながら、努力でIQを上げるということはなかなかできるものではありません。ところが、学力となると話は別。遺伝で説明できるのは5割程度に落ちてくるのです。記憶力も同様。記憶力こそ遺伝が大きく影響しそうなものじゃないですか?でも、じつはそうではない。記憶力は、環境、教育による影響を大きく受けるものなのです。つまり、「記憶力がある」ということは、「記憶の仕方を知っている」ということが大きい。なにかを覚えようとするとき、覚えるべきものをただ眺めているのか、そうではなくて記憶するためのスキルを使うのか。復習のタイミングは適切か。これこそ記憶力の本体と考えてもいい。となると、親御さんが気になるのは「記憶の仕方」でしょう。まず、それ以前のスタート地点として、「見れば覚えると思っている」という誤解を排除してあげることからはじめてほしい。人間は、ただ見ただけでものごとを覚えられるようにはできていません。記憶の仕組みをごく簡単に説明しましょう。記憶には大きくわけて2種類の記憶があります。一時的に必要な情報が保持される「短期記憶」。そして、この短期記憶のうち、強い刺激を伴ったり、重要だとされたりした情報が長時間にわたって保持される「長期記憶」となる。勉強における記憶とは、長期記憶でなければ意味がありません。では、そうするためにはどうすればいいか。記憶は繰り返して情報を使わないと脳に定着しません。繰り返しチェックテスト、つまり、復習をする必要があるということです。ただ年がら年中するわけにはいきませんから、どういうタイミングでチェックテストをするのがいいのかということを知る必要もあります。ひとつは記憶の作業をおこなった直後、そして12時間後、1日後、1週間後、1カ月後というふうにチェックテストをする。そうするなかで、どのくらい記憶の作業をしてどういうタイミングで復習すれば覚えることができるのかを知る。これは、親御さんというより子ども自身が知っていくべきことです。「記憶の仕方を身につける」とは、「自己モニターができるようになる」ということでもあります。「僕はこれくらい勉強しないと覚えられない」「こういうタイミングで復習をしないと覚えられないんだ」と子ども自身が知ること。それが、「記憶の仕方を身につける」ための大きなステップとなります。また、チェックテストには大きな意味がもうひとつあります。それは「アウトプットする」ということ。脳には出力依存性というものがあるので、「インプットしよう、記憶しよう」とするだけでは情報はなかなか入っていきません。逆に、「情報を使おう」「表現しよう」とすれば入っていきやすくなる。記憶するために「情報を使う」ことは、「アウトプットする」ことですよね。これが重要になるのです。もちろん、アウトプットの方法はチェックテストだけに限りませんよ。たとえば、覚えたことを友だちに説明する。これもまた、立派なアウトプットです。そもそもの話をすれば、インプットとアウトプットを独立させて考えないほうがいいでしょうね。それらは記憶のネットワークにおいてはセットのものだからです。インプットだけなんて現象は起きませんし、情報をアウトプットしてみないと記憶のネットワーク化はできません。アウトプットできないものは、極論すれば、記憶のネットワークとしては「ない」に等しいのです。記憶すべきことではなく、記憶の「手順」を教える「子どもの記憶力を伸ばしたい」と考えている親御さんに、もう少しアドバイスをしておきましょう。どういうときに記憶の定着が起きやすいかということについて、いくつか研究によってわかっていることがあります。ひとつは「強い刺激」を伴うとき。「感情を絡める」と言い換えてもいいかもしれません。みなさんも、強く感動したことや怒りを感じた出来事ははっきりと覚えているはずです。脳は、強い感情と結びついて記憶されたことは記憶し続けるようにできているのです。つまり、勉強のための暗記という単純な作業にもどこかで感情を絡めてあげると、記憶に定着しやすくなるということ。たとえば、暗記作業中に感じたことをノートに記すということでもいいかもしれません。「感情」に着目して、いろいろと工夫してみてください。それから、「複合する」ということも記憶の定着を促すために重要なキーワード。ある事柄を単体で覚えようとするのは、じつは脳にとってはすごく記憶しづらいものなのです。そうではなくて、覚えようとする事柄にいくつもの別の事柄を絡めてあげると覚えやすくなる。たとえば、鎌倉幕府ができた1185年という年を覚えるにも、それ単体で覚えようするのではなく、同時期にどこでどんなことが起きていたというようなことを絡めて覚える。そうすれば、記憶効率が格段に上がります。これは、単体での記憶が稠密(ちゅうみつ)化してつながりを持ちはじめると、新しく加わったことも覚えやすくなるという脳の仕組みによるものです。そういう意味では、子どもがなかなか暗記できないからといって、親御さんも子ども自身もがっかりする必要はありません。なぜなら、子どもが暗記作業をはじめたばかりのときは、脳のなかにはまだ記憶がまばらにあるだけなのです。それが徐々に増えてつながりを持ちはじめると、量質転化的とでもいいますか、暗記の質が一気に上がる。粘り強く頑張れば、いずれ結果が出ることを知っておくべきだと思います。最後に「寝る前の復習」についてもお話しておきましょう。睡眠の直前に復習すると記憶に定着しやすいということを耳にしたことがある人も多いはずです。ただ、幼い子どもの場合、明るい光の下で机に向かって復習するような必要はありません。というのも、寝る直前に興奮して睡眠の質が下がると記憶の定着が阻害されるからです。子どもなら、布団に入って、その日に勉強した内容を少しだけ思い出しながらそのまま寝る習慣をつけてみる。その程度でいいと思います。『男の子がさいごまでできる めいろ』『女の子がさいごまでできる めいろ』篠原菊紀 監修/KADOKAWA(2018)■ 脳科学者・篠原菊紀先生 インタビュー一覧第1回:記憶力の要は「記憶の仕方」にあり。親が知っておくべき「記憶の脳科学」第2回:子どもの「やる気」と「集中力」を引き出す脳科学的テクニック(※近日公開)第3回:子どもの気質をテストで診断。脳のタイプ別「“勉強好き”に育てる方法」(※近日公開)第4回:「間違った褒め方」していませんか?子どものやる気を維持させる「褒め方」メソッド(※近日公開)【プロフィール】篠原菊紀(しのはら・きくのり)1960年生まれ、長野県出身。東京大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。東京理科大学諏訪短期大学講師、助教授を経て、現在は諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授、地域連携研究開発機構・医療介護・健康工学部門長、学生相談室長。「茅野市縄文ふるさと大使」という肩書も持つ。応用健康科学、脳科学を専門とし、「遊んでいるとき」「運動しているとき」「学習しているとき」など日常的な場面での脳活動の研究をしている。教育関連の他、アミューズメント、自動車産業などとの共同研究も多数。子どものための「脳トレ」に関する著書も数多い。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月16日「子どもの発達に合わせて、そのときにもっともふさわしい教育をする」ことが特徴の「シュタイナー教育」(インタビュー第1回参照)。実際の教育現場ではどのような授業がおこなわれているのでしょうか。東京賢治シュタイナー学校で1年生のクラス担任を務める鴻巣理香先生は、その特徴を「世界とのつながりをとおして学ぶこと」だと語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビュー・校内撮影のみ)記事冒頭画像:東京賢治シュタイナー学校 校内子どもには遊びでも明確な教育の意図がある――シュタイナー教育では1年生を「ならし期間」としているそうですが、一般の学校とどうちがうのでしょうか。鴻巣先生:当校には幼児部もありますが、学校にはいろいろな幼稚園、保育所から子どもたちが入学してきます。ですので、子どもたちの緊張がほどけて「仲間」になるまでには時間が必要です。そのため、最初に取り組むのは、「共同の生活の場」をつくること。一般の学校ではいきなり授業がはじまりますよね。でも、その前の段階が十分にできていないと、まだ幼児の延長上にある1年生は落ち着いて学べません。学びの特徴として、当校の1年生の席は円形になっていることが挙げられます。――それにはなにか大きな意味があるのでしょうか。鴻巣先生:これは「みんなが出会える場所」だということを意識したものです。入学当初の子どもたちが持っているのは「わたしと先生」という感覚。「わたしがみんなの一部」という感覚がまだないのです。だから、みんなが一斉に先生と話そうとする。そこで、「ひとりずつね」「誰かが話しているときは一緒に聞いてね」と話し、聴くことを練習していくなかで、子どもたちは「みんな」になっていくわけです。――いわゆる授業の内容はどんなものですか?鴻巣先生:いまお話した、円形に座ってお話をすることが1日のはじまり。そして、詩を唱えたり、歌を歌ったりします。これがもう授業なんです。椅子をしまって「ライゲン」(ストーリーを語りながら動物などを演じる教師を子どもが真似るリズム遊びのようなもの。※詳しくはインタビュー第2回参照)をすることもあります。お話をしながらいっぱい動くのですが、子どもたちにとっては遊びみたいなものでしょう。でも、教師としては、日本語のリズムで詩を一緒に唱えて覚えさせる、体の大きな動きやこまかい動きを練習させるといった、明確な意図があるものです。そして、これらの活動のなかには「共同でやること」、そして「自分自身が取り組み練習すること」が必ず含まれます。それが1年生にとっての学びなのです。「土台」ができあがれば学習速度が一気に上がる――一般的な授業とは大きく異なるようです。鴻巣先生:もちろん、国語や算数など、一般的な教科に該当する授業もあります。ただ、シュタイナー教育では、最初に学ぶための「土台」をつくることを重視します。先ほどお話したように、これらは子どもにとっては遊びみたいなものですから、親御さんに「今日は学校でなにしたの?」と聞かれると、子どもは「先生と遊んできた」と答える。ですから、親御さん、特にお父さんのなかには心配してしまう方もいますね。「この学校、大丈夫かな」って(笑)。ただ、わたしたちは、子どもがどんな時期なのかということに重きを置いて、人間の成長に合わせた無理のない学びにしているだけのことです。まわりから見ると、3年生まではすごくゆっくり学んでいるように見えるでしょう。ですが、きちんと土台ができあがると、4年生以降ではかなり早く学びが進むのです。――「エポック授業」というものが大きな特徴だと伺いました。鴻巣先生:これは、すべての学年の1時間目におこなわれる110分の授業です。110分というと長く感じると思いますが、1年生だったら最初の45分から1時間くらいは、先ほどお話したライゲンなどをして子どもたちは動いています。そして、30分くらい集中して勉強をする。そして最後の15分は教師の話を聴きます。勉強の内容は、一般の学校の国語、算数、理科、社会にあたる教科です。しかも、2週間から4週間ほどのスパンで、毎日、同じ教科の同じ内容を集中的に学びます。そして、その教科が終わったら、次の教科に集中する。前の教科で学んだことは、1回寝かせます。たとえるなら味噌のようなもので、寝かせて発酵させるわけです。――寝かせることにはどういう意味があるのでしょうか。鴻巣先生:寝かせているのですから、他の教科に取り組んでいるときには、学んだことが頭のなかに出てくることはありません。でも、しばらくたってふたを開けたときには熟成されている。しっかり潜在意識に刻まれ、強化された記憶のなかから「こうだった!」と取り出すことができるわけです。子どもの成長段階をしっかりと見つめる――貴校の授業で特に強く意識していることがあれば教えてください。鴻巣先生:一般の学校で学ぶ内容も、より生活に根差したものとしてとらえるということです。3年生の算数ではものの単位を習います。ただ、それを「紙の上」で終わらせることはありません。1kmを学ぶためには、1mのロープを10本つなげて10mのロープにして、それをみんなで持って実際に測ります。なぜなら、わたしたちのまわりには「世界と切り離されたもの」はなにひとつないからです。世界とのつながりをとおして学ぶことは、実際にそこにあるものの見方――「観点」を学ぶということ。だからこそ、授業でならったもの以外のものを見ても、学んだことをきちんと活かせるようになる。応用が効くと言ってもいいかもしれません。これは「紙の上」だけでの学びでは得られないものです。――一般の学校に通う子どもを持つ親御さんでも生かせる貴校の教育の考え方はありますか?鴻巣先生:まずは、いまお子さんがどういう時期にあるのか、しっかり見てあげてほしいですね。1年生は幼稚園児と比べると大きくなったように見えますが、さまざまな場面でまだ親の支えが必要な段階です。いまの子どもたちには、「できないことはいけないこと」という感覚があるように思いますが、できなくても平気なんですよ。失敗してもまたやってみたらいい。ただ、親が一緒にやってあげる必要があります。そして、もう支えがいらないのか、助けてほしいけど言えないだけなのか、そういうことをきちんと見抜いてあげてほしいと思います。■ 東京賢治シュタイナー学校■ 東京賢治シュタイナー学校幼児部たんぽぽこどもの園■ 東京賢治シュタイナー学校 インタビュー一覧第1回:「点数」で子どもを評価しない――力強い意志を育む「シュタイナー教育」の本質第2回:「模倣となりきり」で想像力が伸びる――感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」第3回:お片づけに“小人さん”が登場!?――「豊かなイメージ」が日々の子育てにも生きる第4回:1年生が「円形の席」で学ぶこと――シュタイナー教育が重視する「学びのベース」【プロフィール】東京賢治シュタイナー学校1994年、30年以上にわたり公教育に携わった鳥山敏子氏が公立学校を退職し、天地人のつながりのなかに生きようとした宮沢賢治の生き方を理想として長野・美麻に若者のための学びの場「賢治の学校」を立ち上げる。その後、ドイツのシュタイナー学校の見学をとおして「子どものための学校」こそ必要だとし、1997年に東京・立川に拠点を移して前身である「東京賢治の学校」を創設。1999年に幼児部、2005年には高等部を開設。2013年より現校名となる。鴻巣理香(こうのす・りか)東京賢治シュタイナー学校教師(1年生クラス担任)。「正直であるというところから人間は真の強さを生み出す」を信念とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月14日ドイツで生まれた「シュタイナー教育」の最大の特徴は、「子どもの発達に合わせて、そのときにもっともふさわしい教育をする」というもの(インタビュー第1回参照)。興味を持つ親御さんも少なくないはずですが、日本でシュタイナー教育をおこなう幼稚園は限られています。そこで、その教育手法を家庭で生かすための方法を、東京賢治シュタイナー学校の幼児部教師・池田真紀先生と学校教師・鴻巣理香先生に教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビュー・校内撮影のみ)記事冒頭画像:東京賢治シュタイナー学校 校内子どもと一緒にまわりの大人も変わる――長く幼児教育に携わるなかで、いまの子どもの特徴として感じることはありますか?池田先生:いまの子どもは「忍耐力」がちょっと足りないかもしれません。すぐに「答え」がほしくなる傾向が強いようです。いわゆる、「間」(ま)のようなものが短くなっているように思います。ただ、それは大人も同じではないでしょうか。――知りたいことがあれば、ネット検索ですぐに答えが見つかる時代です。池田先生:そういう影響もあるのか、親御さんは子どもの「背景」をくみ取るのに苦労しているように感じるのです。子どもが「嫌だ」と言ったら、そのまま「嫌なのね」と受け取ってしまう。本当は、子どもは遊んでほしくてそう言っているのかもしれませんよね。子どもが発信しているものの背後にある、見えない気持ちを察するには、「間」や「立ち止まる」ことが必要です。子どもは大人の姿を模倣しますから、結果的に子どもにも影響を与えているのかなとも思います。――ネットの普及など社会環境だけではなく、親御さんの変化も影響している。池田先生:だからこそ、子どもとはどういう存在なのか、親御さんは学び、子育てを「練習」することが必要な時代なのかなと思います。でも、きちんと子育てに向き合えば、お母さんたちは大切なものをちゃんとつかんでいきます。そうすれば、子育てがもっと楽しくなる。そういうことを、当園に子どもを通わせる3年間で体験してもらいたいと考えています。鴻巣先生:親子が一緒に変わっていけることは、すごく面白いことだと思いますよ。家族にもいろいろ変化がありますよね。高齢になったおじいちゃんやおばあちゃんと同居するようになったり、下の子どもが生まれたり、あるいは引っ越したり。そういう変化のなかで、子どもを支えるまわりの大人も、子どもと一緒に育っていく。大人が変わるのはたしかに大変です。でも、「この子のために一緒に頑張りましょう」というのがわたしたちのスタンス。家か学校か、どちらか任せではありません。そういう意味では、親御さんとのやり取りが多いことが、当校の大きな特徴かもしれませんね。池田先生:幼児部も、「預けて終わり」ではありません。「こういう部分は一緒に協力してほしい」「園ではこうしているからおうちではこうしてみましょう」と、親御さんとは頻繁にやり取りをしています。子どもは「人をとおして」まわりの世界とつながる――シュタイナー教育では、テレビや映像作品、CDなどを排除していると伺いました。それもやはり親御さんと協力しながらしているものでしょうか。池田先生:「排除」というと、ちょっとちがいますね。たしかにそれらは控えてほしいというのがシュタイナー教育のスタンスです。だけど、わたしたちは強制することはありません。最後に決めるのは、結局は親御さん。もちろん、「『ファンタジーの力(インタビュー第2回参照)』を育てるため」という理由をお伝えして、納得したうえで実践してほしいと思っています。でも、決して禁止事項が多い教育というわけではありませんよ。鴻巣先生:ただ、幼い子どもにそれらが必要なのかと大人がちゃんと考えれば、たいがい「いらない」と言います。子どもにテレビを見せている理由を聞くと、「ちょっと忙しくて」「静かにさせたくて」というもの。自分が「本当にいい」と思っているわけではないものを子どもにさせるのは、気持ちが良くないですよね。子どもの発展を考えて、なにが必要なのか、大人になにができるかを考えなくちゃならない。なぜなら、大人が子どもの環境をつくり出し、大人自身も子どもにとっては環境だからです。その観点に立てば、わたしたちがただ「禁止」しているわけではないということがわかってもらえるはずです。――とはいえ、誰しも子どもの頃に見て忘れられない絵本などがあるものですよね。コンテンツの持つ力も、子どもの成長にとって大きいものだと思います。池田先生:もちろん、一様に禁止しているわけではありません。ただ、幼い子どもに絵本を与える場合も、その年齢、発達に合ったものをきちんと大人が選んであげるべきでしょう。難しく考える必要はなく、繰り返しの多い内容で、なおかつお母さんが「これだったらいいな」と思うもので十分です。図書館に行けば1回で20冊も借りられたりするものですが、そうではなくて、お母さんが本当にいいと思ったものをほんの2、3冊借りて、繰り返し読んであげる。そういう体験のほうが、多くの絵本に触れることより子どもの成長には重要なものです。鴻巣先生:「お母さんが一緒に読んでくれた」という体験が大切です。もしかしたら、大人になったときに、その情景は思い出としてははっきりと出てこないかもしれない。でも、大人になっても大好きな絵本があるということの下地には、そういう体験があるはずなのです。子どもは、「人をとおして」まわりの世界やものとつながるものですからね。小さなよろこびの積み重ねが子育てへの意欲を育てる――貴園の教育手法のなかで、家庭でも実践できることがあれば教えてください。池田先生:たとえば、子育て中の親御さんにとっておそらく身近な「おもちゃの片づけ」についていくつか提案できます。いま、どの家庭にもおもちゃが多すぎるように感じます。まず、おもちゃを減らすことをおすすめしますね。たくさんあっても、子どもの本当のお気に入りは一部のはずです。そういうものだけを残して、あとはしまってしまう。「あのおもちゃ、どこいったの?」と聞かれたら、「いまは小人さんに預かってもらってるの」などと伝え、子どもに「ファンタジーの力」を発揮させましょう。そして、片づけるときは、箱にごちゃごちゃにまとめてしまうのではなくて、それぞれのおもちゃの定位置にしまってあげる。電車のおもちゃだったら「ここが車庫」というふうに、おもちゃの「おうち」をつくってあげるのです。そうすれば、子どもはファンタジーの力で内面のイメージを膨らませながら片づけができるようになります。――想像力を育てながら、ものに対する愛着も持てるようになる。池田先生:それぞれのおうちを用意してあげると、おそらく親御さんにも、たくさんのおもちゃが置けないことがおのずとわかってくると思います。しかも、量が減ると片づけが嫌なものではなくなる。数が限られているので、子どもと一緒に片づけるにしても嫌ではないですよね。親が面倒だと思っていることは、子どもにも伝わるものです。子どもはしっかり親を見ているものですから、ものをボンと投げるようなことをすればすぐに真似をする。おもちゃの数が多くて大きな箱にまとめてしまっているような状況だと、親もどうしても乱暴に扱ってしまいがちです。――最後に、子育てに奮闘する親御さんにアドバイスを頂けますか。池田先生:いまの社会で子育てをしていると、忙しい日々につい流されがちだと思います。でも、あたりまえですが、子どもの幼児期というのは絶対に戻ってこないもの。だからこそ、大事にしてほしい。そのためにも、親御さんにはほっとできる自分の時間を1日に1回でもつくってほしいですね。その時間に、「あんな顔が見られてうれしかったな」「一緒に買い物に行けて良かったな」と、子どもとの出来事を振り返る。子育てって「大変」とばかり言われますが、そうではないはずですよ。そういう小さなよろこびを積み重ねることで、忙しくても大変でも「明日も頑張ろう!」と思えるのではないでしょうか。右:池田先生、左:鴻巣先生■ 東京賢治シュタイナー学校■ 東京賢治シュタイナー学校幼児部たんぽぽこどもの園■ 東京賢治シュタイナー学校 インタビュー一覧第1回:「点数」で子どもを評価しない――力強い意志を育む「シュタイナー教育」の本質第2回:「模倣となりきり」で想像力が伸びる――感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」第3回:お片づけに“小人さん”が登場!?――「豊かなイメージ」が日々の子育てにも生きる第4回:1年生が「円形の席」で学ぶこと――シュタイナー教育が重視する「学びのベース」(※近日公開)【プロフィール】東京賢治シュタイナー学校1994年、30年以上にわたり公教育に携わった鳥山敏子氏が公立学校を退職し、天地人のつながりのなかに生きようとした宮沢賢治の生き方を理想として長野・美麻に若者のための学びの場「賢治の学校」を立ち上げる。その後、ドイツのシュタイナー学校の見学をとおして「子どものための学校」こそ必要だとし、1997年に東京・立川に拠点を移して前身である「東京賢治の学校」を創設。1999年に幼児部、2005年には高等部を開設。2013年より現校名となる。池田真紀(いけだ・まき)(写真右)東京賢治シュタイナー学校幼児部教師(クラス担任)。「古くならないいまの時代に合ったシュタイナー教育」を目指す。鴻巣理香(こうのす・りか)(写真左)東京賢治シュタイナー学校教師(1年生クラス担任)。「正直であるというところから人間は真の強さを生み出す」を信念とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月12日ドイツで生まれた「シュタイナー教育」(インタビュー第1回参照)を、幼稚園から一般の高校にあたる高等部まで、15年間の一貫教育でおこなう東京賢治シュタイナー学校。その幼児部「たんぽぽこどもの園」ではどのような活動をしていて、それらは一般の幼稚園とどうちがうのでしょうか。幼児部教師の池田真紀先生に、まずは1日のスケジュールから教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビュー・校内撮影のみ)記事冒頭画像:東京賢治シュタイナー学校 校内紙芝居や絵本でなく「素話」である意味――たんぽぽこどもの園では、子どもたちがどんな活動をしているのか、1日のスケジュールを教えてください。池田先生:8時15分から8時半までの間が登園時間で、その後、室内で「自由遊び」があります。お絵描きやごっこ遊び、積み木遊び、それから針でなにかを縫うといった手仕事など、さまざまな遊びをします。この時間では、大人から指示されて決められた遊びをするのではなく、子どもが遊びを生み出していくことが大切です。子どもたちは、自分が想像したものを、丸太、積み木、布、木、木の実といった、お部屋にあるさまざまな素材を使ってかたちにしていき、さらに友だちと一緒におこなう体験をしていきます。たとえば、おうちをつくって家族ごっこ、オリジナルの物語による人形劇ごっこといった具合です。代々、子どもたちの中で伝承されて、毎年やるのはお祭りごっこですね。お囃子や獅子、白狐の格好をした子どもたちが、テーブルの上に乗って演じます。まるで本当のお祭りを見ているみたいでとても楽しいですよ。また、3歳から6歳までの子どもが同じ部屋で過ごしますから、兄弟のように関わり合う姿には温かいものがあります。10時になったら、おもちゃなど使ったものの「お片づけ」。その後は「ライゲン」という活動をします。――そのライゲンというのはどんなものですか?池田先生:一般の幼稚園でいうところの、「リズム遊び」に近いものですね。内容は季節を取り入れたもので、歌や音、言葉とともにその物語のなかで想像しながら教師とともに動きます。たとえば、教師がハトになったらハトに、ネズミになったらネズミにと、みんなで輪になって教師の模倣をします。7歳までの子どもは、模倣することであらゆることを身につけることができます。それも、どのような思いでその行為をしているのかという内面のありようまで模倣する。また、ライゲンでは、みんなで「中心に集まる~広がる」「ジャンプ~小さくなる」などの対の動きも取り入れます。それは、「収縮と拡散」「静と動」というリズミカルな動きの体験です。こういった動きも教師と一緒にすることで、子どもたちの体が健全につくられていくのです。――なるほど。スケジュールの続きを教えてください。池田先生:11時になったら「お弁当」の時間。そして、今度は外での「自由遊び」をします。子どもたちはとてもダイナミックに遊びます。のぼり棒にロープを横にかけると、そこはお猿島。てっぺんにはかわいい子ザルに扮した子どもがいます。ブランコも子どもたちは大好き。ふたつのブランコに板を渡すと、何と6人乗りの宇宙船に。ジャングルジムにも板をかけて、2階建てや屋根付きのおうちをつくります。その他、鬼ごっこ、縄跳び、竹馬、砂山つくり、泥だんごやごちそうつくり、などなど、とにかく体を動かし、感覚をフルに働かせて遊ぶ時間です。1時間ほど遊んだら、またおもちゃをすべてもとの場所に戻して、お部屋に入ったら「お着替え」です。みんなが着替え終わるまでお絵描きをして待って、最後に「お話」の時間がある。これは、「素話」です。紙芝居や絵本を見せるのではなく、教師が子どもたちを見渡しながらお話をするということですね。――それにはどんな理由があるのですか?池田先生:わたしたちは「ファンタジーの力」と呼びますが、幼い子どもは、たとえば、雲を大好きなクマに見立てるなど、強い想像力を持っています。教師の素話によって、子どもはたくさんのイメージをつくることができる。そのイメージを大切にすればするほど、内側の世界が豊かになり、その後の思春期における内面形成、思考形成の土台になるのです。お話は10分から15分程度。そして、13時半に降園となります。【たんぽぽこどもの園の1日】08:30 登園、自由遊び(室内)10:00 片づけ、ライゲン11:00 お弁当、自由遊び(戸外)12:30 片づけ・着替え、お話13:30 降園東京賢治シュタイナー学校 校内決まったリズムと繰り返しが健康な体をつくる――このスケジュールはずっと変わらないものですか?池田先生:いえ、わたしたちは「1週間のリズム」と呼びますが、曜日によって少しだけ内容が変わります。たとえば、火曜日は「自由遊び」の時間に「にじみ絵」という絵の具を使った活動、水曜日はライゲンの代わりに「オイリュトミー」という身体表現をします。【たんぽぽこどもの園の1週間のリズム】月曜日:お散歩火曜日:にじみ絵水曜日:オイリュトミー木曜日:みつろう粘土金曜日:お掃除池田先生:でも、朝の自由遊びを、日によって10時までにしたり11時までにしたりするといったことはなく、1日の基本的な流れはずっと一緒ですね。なぜかというと、子どもは「繰り返す」ことで「安心感」を得るからです。いつもより自由遊びの時間が長いなど、やることが変わると子どもはドキドキして不安になってしまう。毎日、同じリズムで子どもが安心して過ごせることは、気持ち良く呼吸できて、脈拍が整うことにもなります。このリズムと繰り返しが、健康な体をつくっていきます。――オイリュトミーとはどんな活動なのでしょうか。池田先生:オイリュトミー用のドレスを着て、専科の教師の話を聴きながらいろいろな動きをするというものです。幼児においては、体を生き生きとさせる効果があります。――ライゲンとのちがいはどういったものになりますか?池田先生:オイリュトミーは、たとえば、言葉なら「く」や「う」の動き、音程なら「ラ」や「ミ」の動きというふうに手や腕の位置、動きが決まっています。一方、ライゲンにはそういう決まりはありません。言葉で説明するのは難しいのですが、ライゲンはイメージしながら動くものですね。スケジュールはただの時間の区切りではない――一般の幼稚園との大きなちがいはどこにあると考えていますか。池田先生:一般の幼稚園も、スケジュールは決まっているかと思います。ただ、わたしたちの園では、それによって「なにが子どもにもたらされるか」という観点をとても大切にしています。どうして絵本ではなく素話にするかということもお伝えしましたが、わたしたちの園でおこなう内容には、一つひとつに意味があります。お片づけもそう。お片づけはみんなが取り組みます。それも、年少さんはひもを巻く、年長さんは大きな積み木を運ぶというふうに役割が決まっている。毎日その時間になると、お部屋中に広がったおもちゃを決まった場所に戻してあげて、お部屋が綺麗になり、全員が「気持ち良くなった」という体験をする。この体験は、一人ひとりに「収縮と拡散」の心地よいリズムを与えます。シンプルですが、すべての行為に意味があるのです。■ 東京賢治シュタイナー学校■ 東京賢治シュタイナー学校幼児部たんぽぽこどもの園■ 東京賢治シュタイナー学校 インタビュー一覧第1回:「点数」で子どもを評価しない――力強い意志を育む「シュタイナー教育」の本質第2回:「模倣となりきり」で想像力が伸びる――感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」第3回:お片づけに“小人さん”が登場!?――「豊かなイメージ」が日々の子育てにも生きる(※近日公開)第4回:1年生が「円形の席」で学ぶこと――シュタイナー教育が重視する「学びのベース」(※近日公開)【プロフィール】東京賢治シュタイナー学校1994年、30年以上にわたり公教育に携わった鳥山敏子氏が公立学校を退職し、天地人のつながりのなかに生きようとした宮沢賢治の生き方を理想として長野・美麻に若者のための学びの場「賢治の学校」を立ち上げる。その後、ドイツのシュタイナー学校の見学をとおして「子どものための学校」こそ必要だとし、1997年に東京・立川に拠点を移して前身である「東京賢治の学校」を創設。1999年に幼児部、2005年には高等部を開設。2013年より現校名となる。池田真紀(いけだ・まき)東京賢治シュタイナー学校幼児部教師(クラス担任)。「古くならないいまの時代に合ったシュタイナー教育」を目指す。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月10日「シュタイナー教育」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ドイツで誕生した教育思想ですが、おそらく多くの人にとって耳慣れないものでしょう。日本でシュタイナー教育をおこなう東京賢治シュタイナー学校の取材をとおして見えてきたのは、一般常識や他人の意見でぶれることのない、力強い「意志」を育てる教育でした。同校幼児部教師・池田真紀先生(写真右)と、学校教師・鴻巣理香先生(写真左)にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビュー撮影のみ)ドイツで生まれ日本の風土に合わせて発展――そもそも、「シュタイナー教育」とはどんなふうにはじまったものでしょうか。池田先生:もともとはオーストリアの哲学者であるルドルフ・シュタイナー氏がはじめた教育です。当時は第一次大戦のさなか。「健全な人間が育たないと健全な社会には変えられない」という、社会運動の一端としてはじめられたそうです。鴻巣先生:当時のドイツの普通教育は、いまの小学4年生くらいまで。その後は、上の学校に進むのか、あるいは社会に出て徒弟制度のなかで働くのか、その時点で決めないといけませんでした。その頃、シュタイナーの講演を聴いた大きなタバコ会社の社長が、彼に「学校をつくってほしい」と依頼しました。従業員のほとんどはごく短い期間の普通教育を受けただけだったということもあり、従業員たちが「子どもたちには彼らに合う場でしっかり学ばせてあげたい」と社長に要望したのだそうです。そうして、はじめてのシュタイナー学校が誕生しました。池田先生:その後、日本に伝わった当時は、ドイツでの手法をそのまま踏襲していたようです。でも、日本のなかでそれぞれの学校や幼稚園が試行錯誤しながら、その地域に合ったシュタイナー教育をおこなうようになっています。ただ、根本となる「人間」とはなにか、というとらえ方は、どこのシュタイナー教育も同じものです。子どもたちの年齢と成長に合った教育――その根本である、シュタイナー教育の特徴というとどんなものになるのでしょうか。池田先生:「子どもの年齢や発達にふさわしい教育を与える必要がある」という発想ですね。まだ合わないものを早くさせたり、逆に必要なことをさせなかったりということではなく、そのときそのとき、成長を続ける子どもに合ったカリキュラムを組んでいます。鴻巣先生:シュタイナー教育は1919年にはじまり、2019年に100周年を迎えます。でも、100年たったからといって、子どもが育っていくために必要なものは変わりません。子どもの年齢、成長に合ったものを手渡していくということが、シュタイナー教育のいちばんの特徴だと思います。当校の教師は、一般の公立校や私立校で教師をしていた者がほとんどですから、一般の学校とのちがいをよくわかっています。そのちがいとは、人間のとらえ方、発達に関する観点ですね。幼児期に体ができてはじめて勉強ができる――シュタイナー教育では、0〜7歳、7〜14歳、14〜21歳という7年単位で人間の成長をわけて考えているとのこと。実際に、7年が区切りになっていると感じますか?鴻巣先生:本来、人間の成長はひとつながりのものです。でも、学校制度のなかでここからは上の学年だというふうにわけざるを得ません。そういうなかで子どもたちをどう発展させるかというところは、学校であり教師が工夫するしかない。わたしたちの教育は、幼児だからここまで、1年生だからこれをやる、2年生だからこれをやると押し付けるものではありません。もちろん、各学年で取り組むべきカリキュラムはあります。それは、それぞれの「時期に合っている」もので、「彼らの成長を助ける」ものだということです。池田先生:7歳を例にすると、「歯が抜ける」ことが大きなサインとなります。乳歯が抜けるのはだいたい1年生の前後です。それが、シュタイナー教育では、「きちんと体ができた」「勉強ができるようになった」というサイン。0歳から7歳までのあいだは、勉強させるのではなく、きちんと体をつくってあげることが大きなテーマなのです。鴻巣先生:乳歯が抜けると、すでにその下には永久歯が準備されていますよね。ということは、体のなかでもっとも硬いものをつくっていた大きな力が余っているということ。その力を使って「覚える」ということが可能になる、とシュタイナー教育では考えているのです。一般の学校だと、1年生になるといきなり勉強に入ります。でも、まだ体ができあがっていない幼児の名残がある状態では、「覚える」ことがすごく難しいのだと私たちは見ています。シュタイナー教育が育む自分を信じる力――シュタイナー教育を受けた子ども、そうでない子どもで、その後にどんなちがいが出るものでしょうか。鴻巣先生:卒業生がよく口にするのは、「根拠のない自信がついた」ということ(笑)。それは、小さい時期を競争しないで育っているからだと思います。もちろん、高等部など上の学年に進めば切磋琢磨することも必要ですが、基本的には「この子は100点、この子は50点」というふうに点数で子どもを評価しません。そうすると、「これは自分がしっかりできる」「この子はこういうことが上手だから教えてもらおう」という考えが身について、なにかが「できないから責められる」という経験がないのです。それが「根拠のない自信」につながっているのではないでしょうか。――とはいえ、大学進学などを考えれば、競争も必要になってきます。鴻巣先生:当校の卒業生たちは、「点数」で進路を選びません。偏差値がいくつだからこの大学に行くというようなことはしないのです。「○○先生がいるから」「学びたいことを学べるから」と明確な志望理由を持っていますし、進学しない子にもきちんと理由がある。そして、「ちがう」と思ったら、また戻って自分がやるべきこと、やりたいことを探している。その「へこたれない力」は、本当にすごいと思いますね。もちろん、卒業後に夢を持ちながらもまだ中途半端な状態にある子もいます。若者ですから、そういう時期があって当然でしょう。ただ、そんな子も、「いまの仕事が一生の仕事ではないけど、学ぶところがあるからいまはこれをやる」というふうに、自分が立っている位置をきちんと理解しています。池田先生:当校の教師が、いろいろな生き方を認めていることも大きいかもしれません。普通だと、高校卒業の時点で進学先や就職先など送り出す先が決まっていないと、教師も心配しますよね。でも、当校の教師はいろいろな可能性を認めて待ってあげている。それで、「先生たちは自分をちゃんと受け止めてくれている」「ひとりじゃないんだ」「やっていける」と感じているのではないでしょうか。■ 東京賢治シュタイナー学校■ 東京賢治シュタイナー学校幼児部たんぽぽこどもの園■ 東京賢治シュタイナー学校 インタビュー一覧第1回:「点数」で子どもを評価しない――力強い意志を育む「シュタイナー教育」の本質第2回:「模倣となりきり」で想像力が伸びる――感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」(※近日公開)第3回:お片づけに“小人さん”が登場!?――「豊かなイメージ」が日々の子育てにも生きる(※近日公開)第4回:1年生が「円形の席」で学ぶこと――シュタイナー教育が重視する「学びのベース」(※近日公開)【プロフィール】東京賢治シュタイナー学校1994年、30年以上にわたり公教育に携わった鳥山敏子氏が公立学校を退職し、天地人のつながりのなかに生きようとした宮沢賢治の生き方を理想として長野・美麻に若者のための学びの場「賢治の学校」を立ち上げる。その後、ドイツのシュタイナー学校の見学をとおして「子どものための学校」こそ必要だとし、1997年に東京・立川に拠点を移して前身である「東京賢治の学校」を創設。1999年に幼児部、2005年には高等部を開設。2013年より現校名となる。池田真紀(いけだ・まき)(写真右)東京賢治シュタイナー学校幼児部教師(クラス担任)。「古くならないいまの時代に合ったシュタイナー教育」を目指す。鴻巣理香(こうのす・りか)(写真左)東京賢治シュタイナー学校教師(1年生クラス担任)。「正直であるというところから人間は真の強さを生み出す」を信念とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月08日現在、白梅学園大学子ども学部の教授として、子ども教育のプロフェッショナル養成に携わる増田修治先生。その名を教育界に広めたのは、小学校の教員だった時代にはじめた「ユーモア詩」というものでした。その独特の試みは、2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』で取り上げられ、大きな反響を呼びました。「ユーモア詩」とは一体どんなもので、子どもたちにどういう影響をもたらすものなのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)学校にこそ「笑い」が必要みなさんは、学校とはどういうものだと考えていますか?教師も子どもも真面目で一生懸命に勉強をするべき場所――そんなふうに思っていないでしょうか。教師を長くやっていると、教師こそそのように思い込み、「学校はこうあるべきだ」「子どもはこうあるべきだ」という考えにとらわれてしまいがちです。かつてのわたしもまた、そういう教師になってしまっていました。でも、その思い込みを完全に打ち破ってくれたのが「ユーモア詩」だったのです。じつは、これは偶然に発見したもの。わたしがある小学校で4年生の担任をしていた頃、ひとりの男の子が書いた詩を学級通信に載せたのです。それは、「おなら」という詩でした。おなら国広伸正(4年)だれだっておならは出る。大きい音のおならを出す人もいれば小さい音のおならを出す人もいる。なぜ、音の大きさが違うのだろう。きっとおしりの穴の大きさが違うんだ。わたしはこの詩を見たとき、正直、「ばかじゃないのか」「くだらないことを書いて」と思いました(笑)。でも、事前に「どんな内容でも学級通信に載せる」と約束していたため、載せないわけにはいかない。そして、どうなったかというと……この詩を見た子どもたちは15分も笑い転げているんです。じつはこの頃、わたしのクラスは子ども同士の関係があまりうまくいっていませんでした。でも、この詩でみんなが笑い転げている。なかには、「マヨネーズの星型の部分をお尻にはめたらどうなるのか」なんてばかなことを言う子どももいました(笑)。そのとき、気づいたわけです。「子どもたちは笑ってつながりたいんだ」「学校にこそ笑いが必要なんだ」と。子どもはうんちやおしっこ、おならの話が大好きですよね。その子どもたちの「面白い」「楽しい」という感覚に教師が近づかなかったら、彼らといい関係が築けるわけがありません。そうして、はじめたのがユーモア詩でした。ルールはありません。なにをどう書いてもいい。そして、そのうち、ユーモア詩がびっくりするような出来事も引き起こしました。そのきっかけとなったのが、この詩です。弟ってすごい?並木勝也(4年)こないだ弟が外を走っていました。弟が「ぼく、すごいのできるよ!」と言いました。弟は走りながらぼうしやクツもぬぎました。そしてクツ下もぬげてズボンもぬげました。それから弟はぼくに「まっ、お前じゃできねーな。」と言いました。そんなのやりたくねーよ!これを見て、わたしは並木君に「面白い、見てみたい」と言いました。並木君の弟は当時、年長さん。服を全部脱いで裸になって「すごいでしょ?」と自慢げに言う彼を、わたしは「すごいね、たいしたものだね」と褒めまくりました。その2週間後、並木君が「弟が技に磨きをかけたから、また見てほしいそうです」と(笑)。もちろん、見に行きましたよ。今度は服を全部脱ぐまでの時間が大幅に短縮されていた。わたしは「もう名人芸だね」と大絶賛しました。じつは、並木君の弟は、保育園ではちょっと問題がある子どもでした。ところが、小学校に入学したらきちんと座って真面目に授業を受けている。「僕は小学校の増田先生に褒められた、できるはずだ」と思ったそうなんです。そうして、6年生になったらなんと児童会長になっちゃった。わたしは、ただ裸になることが早いと褒めただけ。それなのに、子どもにとってはそれが自信になる。どんなにばかばかしいことでもいいんですよ。「いいよね、面白いよね」と言ってあげることが、その子どもを認めてあげることになる。大人は、子どもがいわゆる「いいこと」をしたときにだけ褒めますよね。そうすると、子どもはその「枠」のなかにしかいられなくなる。自己肯定というのは、「いいこと」のようなプラスのことだけに働くものではいけません。マイナスのことも含めて、「あなたはそのままでいいよ」と言ってあげなければ、本当の自己肯定感は育たないのです。子どもの本音を知り観察眼や表現力を伸ばすユーモア詩が影響を与えるのは、子どもだけに限りません。親同士、親子の関係も変えていきます。たとえば、この詩もそういうきっかけになりました。ボディービルダー長川翼(3年)この前テレビで、ボディービルダーの大会をやっていた。さっそくぼくとお兄ちゃんは、服をぬいでパンツ1枚になり、ボディービルダーのまねをした。それを見ていた父ちゃんは、「それじゃダメダメ!」と言いながら、けつにパンツをくいこませて歩いていた。おかしくておかしくてみんなで大笑いした。でもこれで終わるわけがない。最悪なのは母ちゃんだ。とても人に見せられないパンツ1枚のかっこうで、ボディービルダーのまねをしていた。あれでも一応女なんだろうなー。すごい家族ですよね。でも、内容が内容だけに、掲載前にお母さんに掲載の許可をもらいにいったんです。すると、「先生、うちはもう確認はいりません、あきらめました」と。このあとの長川君の言葉の輝きといったらなかったですね(笑)。そして、あるとき、父兄にユーモア詩の感想を寄せてもらったのです。すると、なんと7人ものお母さんが長川君の詩に言及しているではありませんか。「わたしは長川君のお母さんを尊敬しています、あんなことを書かれたらわたしなら生きていけない……」と(笑)。こうして、親同士のつながりも深まることにもなりました。さらには、お父さんと子どもの関係も変わった。共働き家庭が増えているとはいえ、仕事に忙しいお父さんはどうしても子育てはお母さんにまかせがちです。たまに子どもに学校の話を聞くにしても、「どうだ?頑張っているか?しっかり勉強しているか?」というような内容になってしまう。もちろん、子どもからすれば面白くありません。でも、ユーモア詩を目にすれば変わる。「●●君って面白いな、どんな子なの?」「ところで、おまえはどんなことを書いているの?」と、お父さんが子どもの友だち関係を知り、親子のコミュニケーションをしっかり取れるようにもなるのです。もちろん、「ちゃんとしたもの」を書こうとしなくていい自由な表現のなかで、言葉による表現力も格段に上がっていきます。わたしは作文の指導なんてしませんでしたが、作文の全国コンクールで優秀賞を取る子どもも出てきたくらいです。ユーモア詩は、家庭ですぐにでもできるものです。ここにあるような詩を例に見せて、子どもに自由に書かせればいいだけ。ただ、「なにを書かれても絶対に怒らない」と約束してあげることがルールになる。普段の会話ではなかなか出てこない子どもの本音を知り、観察眼や表現力を伸ばすことにもつながるはずです。『遊びにつなぐ! 場面から読み取る子どもの発達』増田修治 著/中央法規出版(2018)■ 子ども教育のエキスパート・増田修治先生 インタビュー一覧第1回:クイズで育む!?子どもの「人生を決める」非認知能力の伸ばし方第2回:非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?第3回:子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」第4回:“おなら”に“裸”、なにを書いてもOK!?「ユーモア詩」が伸ばす子どもの力【プロフィール】増田修治(ますだ・しゅうじ)1958年3月8日生まれ、埼玉県出身。1980年、埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として埼玉県朝霞市内の小学校に勤務。「ユーモア詩」に取り組み、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図るとともに、楽しい学級づくり、保護者とのコミュニケーションづくりをおこなう。2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』が放映され反響を呼んだ。2008年3月末で小学校教諭を退職し、同年4月より白梅学園大学准教授。現在は同大学子ども学部子ども学科教授。『小1プロブレム対策のための活動ハンドブック』(日本標準)、『「いじめ・自殺事件」の深層を考える—岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として—』(本の泉社)、『先生! 今日の授業楽しかった!—多忙感を吹き飛ばす、マネジメントの視点—』(日本標準)など教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月04日あまり好ましくないとされる、日本人の国民性として挙げられるもののひとつが「コミュニケーション能力の低さ」です。人前でのスピーチなどは大人でも苦手だという人も多いのではないでしょうか。しかし、そういう「自己表現」の力が役立つのは、なにもスピーチやプレゼンテーションの場だけではありません。子ども教育のプロフェッショナル養成に携わる増田修治先生は、「自己表現力が子どもの『自立』にも関わる」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)「自立」とは自己表現により周囲に助けてもらうこと日本人は、「表現力に乏しい」と評価をされることが多い民族です。これには、もともとの国民性も影響していると見ることができますが、教育によるところも大きいはず。いまの日本の教育は、「自己表現力」も含めてさまざまな「自己〜」が育ちにくいものなのです。たとえば「自己肯定感」もそのひとつかもしれません。日本人の自己肯定感の強さは先進国で最低という調査結果が出ています。いくつかの理由がありますが、子どもたちに「なんでもしっかりできる子がいい子」だというプレッシャーがかかっていることも要因のひとつ。親も含めて、多くの大人が暗黙のうちにそういう評価基準を持っていませんか?そうすると、少しでも失敗すると、子どもは「自分はいい子じゃない」と思ってしまう。これでは、自己肯定感が弱くなるのも当然ですよね。でも、「なんでもしっかりできる子」はどこかで無理をしているものです。それに、そういうしっかりした子どもであっても、ずっと壁にぶつからないで生きていけるということはあり得ません。どんな人間であっても、人生のどこかで大きな壁にぶつかるものです。でも、そのときに「どうすべきか」という手段を知らなかったらどうでしょうか?立ち上がって再び力強く人生を歩みだすということが難しくなるでしょう。大事なことは、「なんでもしっかりできる子」に育てることではありません。壁にぶつかってもいいけれど、そのときに大切となるのは、きちんと「自己分析」ができること。勉強中にどうしてもわからないことがあったとしましょう。そのとき、自分の力を測り、区分けし、「ここまではできるけれど、ここからがわからないから教えてほしい」と周囲に助けを求められるかどうか。そこが重要になる。大人だって、ひとりで生きているわけではありませんよね。誰もがいろいろな人に助けてもらって生きている。「自立」するということは、人の力を借りないことではなく、むしろ、「うまく人に助けてもらう」ことなのです。そして、そのときに必要とされるのは、自分の置かれた状況を自分の言葉で語って助けを求める、それこそ「自己表現力」ではないでしょうか。話を聞いてもらった経験が多い子どもだけが、話を聞ける子どもになるその自己表現力を伸ばしてあげるためにも、子どものもっとも身近にいる大人である親が子どもとしっかりコミュニケーションを取るべきです。きちんとコミュンケーションが取れるということは、その時点で良好な関係ができていることでもあり、親子間の「応答性」が育っているということになる。ひとりがしゃべって、もうひとりはずっと黙って聞いている。こんなものはコミュニケーションでもなんでもありません。コミュニケーションとは、相互が話して聞く、応答を指すもの。その応答によって互いを知り、感情を共有したりするなかで、子どもの自己表現力が養われていきます。でも、残念ながら、それができていない親御さんも目立ちます。ここで、わたしがスーパーで目撃した出来事を紹介しましょう。お母さんが、「今日は好きなアイスクリームを食べていいから、決めておいてね」と言って、アイスクリームボックスの前に子どもを置いていきました。子どもはブツブツとなにやらひとりごとを呟いています。ちょっとだけ耳を傾けてみると、「どうしようかな、バニラにしようかな、チョコにしようかな」と悩んでいるようです。しばらくして、「よし、バニラにしよう」と言った。決まったのかと思いきや、今度は「コーンにしようかな、カップにしようかな」とまた悩んでいる(笑)。そして、「カップはけっこう食べているからコーンにしようかな」「コーンにしてチョコをトッピングすれば両方食べられるな」なんてことを言っているところに、お母さんが買い物を終えて戻ってきた。すると、お母さんが言いました。「なにやっているの!まだ決まらないの?じゃ、これでいいでしょ」と。そんなことでは、いままで子どもが悩みながら考えていたことが一瞬でパーです。子どもの頭がいちばん働いているのは、悩んで考えているとき。親は子どもとしっかりコミュニケーションを取って、その考える時間を保証してあげる必要がある。それが、自分の考えをしっかり表現する力のみならず、「自己選択」して生きているという実感を子どもに持たせることになり、ひいては、自己肯定感を育むことにもなるのです。親はよく「ちゃんと先生の話を聞きなさい」と言いますよね。でも、親が子どもの話を聞いていなかったら、話を聞ける子どもにはなりません。話を聞いてもらった経験が多い子どもだけが、話を聞ける子どもになるのです。小さい子どもは「あれなに?」「これなに?」と親にいっぱい話しかけると思います。そのとき、きちんと話を聞いて「あれはこうだよ」と丁寧に答えてあげる。すると、そのコミュニケーションのなかで、子どもは「話を聞いてもらえることが心地良いこと」だとわかってくる。だからこそ、「人の話もちゃんと聞こう」という人間に育つのです。また、そういう子どもでなければ、学力だって伸びていきません。小学校で授業をきちんと聞けない子どもは、大半が周囲からこぼれてしまうものですからね。そして、きちんと話を聞く姿勢は、学力を伸ばすだけにとどまらない。多くの人の言葉に耳を傾けるのですから、当然、人間性も同時に育っていくのです。『遊びにつなぐ! 場面から読み取る子どもの発達』増田修治 著/中央法規出版(2018)■ 子ども教育のエキスパート・増田修治先生 インタビュー一覧第1回:クイズで育む!?子どもの「人生を決める」非認知能力の伸ばし方第2回:非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?第3回:子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」第4回:“おなら”に“裸”、なにを書いてもOK!?「ユーモア詩」が伸ばす子どもの力(※近日公開)【プロフィール】増田修治(ますだ・しゅうじ)1958年3月8日生まれ、埼玉県出身。1980年、埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として埼玉県朝霞市内の小学校に勤務。「ユーモア詩」に取り組み、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図るとともに、楽しい学級づくり、保護者とのコミュニケーションづくりをおこなう。2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』が放映され反響を呼んだ。2008年3月末で小学校教諭を退職し、同年4月より白梅学園大学准教授。現在は同大学子ども学部子ども学科教授。『小1プロブレム対策のための活動ハンドブック』(日本標準)、『「いじめ・自殺事件」の深層を考える—岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として—』(本の泉社)、『先生! 今日の授業楽しかった!—多忙感を吹き飛ばす、マネジメントの視点—』(日本標準)など教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月03日これからの子どもたちに必要とされるのは、テストだけでは測ることができない力――「非認知能力」だとされています。もちろん、将来の夢を子どもが叶えるためには、いわゆる学力である「認知能力」も必要でしょう。ただ、子ども教育のプロフェッショナル育成に携わる増田修治先生は、「認知能力を育むためにも非認知能力が重要」だと語ります。まずは、現在の教育現場が直面する問題から語ってもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)日本の教育が抱える「見えない貧困」問題いま、日本の教育は「貧困」という大きな問題に直面しています。「世帯収入が高いほどその家庭の子どもの学力も高い」という調査結果は、ニュースなどを通して耳にしたことがある人も多いことでしょう。貧困にはふたつの種類があります。ひとつは「絶対的貧困」で、もうひとつが「相対的貧困」。絶対的貧困にあたるのは世帯年収が約60~70万円を下回る世帯。月収が5万円以下で、食べものや着るものにも困るほどです。一方の相対的貧困は、世帯年収が120万円ほどの世帯。この相対的貧困は「見えない貧困」ともいわれていて、わたしは大きな問題だととらえています。この世帯の子どもは、食べものは食べているし衣服に困るほどではない。つまり、見た目は普通なのです。でも、その世帯の子どもたちは、さまざまな機会を奪われている。どんな機会かといえば、サッカーをしたくてもサッカーシューズは買ってもらえないし、バレエを習いたくても月謝を払ってもらえない。当然、学習塾に行くこともできません。この相対的貧困にあたる世帯の割合が、いまの日本ではどんどん増加しているとされています。「子ども食堂」というものを聞いたことはありますよね。貧困世帯の子どもたちを集めて食事を与え、同時に勉強も見てあげるという社会活動です。そこに来る子どもたちは、やはり学力が低い傾向にある。貧困世帯の子どもは、先にお伝えしたように学習塾には通えません。となると、自分で勉強しなければならない。でも、学習教材など自分で勉強できる環境が整っているわけでもないわけです。となると、その子どもにとって勉強できる唯一の場所は学校です。ところが、子ども食堂に来る子どもたちのなんと約8割が学級崩壊を経験しているというではありませんか。学級崩壊したクラスでは、まともに授業を受けることができません。そういう子どもたちは、勉強する機会を完全に奪われているのです。逆に、学級崩壊によって勉強する場所がないから、子ども食堂に通っているとも言えます。非認知能力の育成に欠かせない、子どもの声に耳を傾ける姿勢では、貧困家庭に育つと学力を伸ばすことができないのかというと、そうではありません。貧困世帯の子どもにも、貧困ではない世帯の子どもと遜色ない学力を持つ子どもたちがいます。彼らの共通点はなにかというと、「非認知能力が高い」ことです。非認知能力には、「朝ごはんを毎日食べる」といった生活習慣、「毎日の勉強時間の目安を決めている」といった学習習慣、あるいは、つらいことや困ったことがあったときに学校の先生に相談できるなどのコミュニケーション能力といったものも含まれます。これらは、一般的には貧困ではない世帯の子どものほうがしっかりと身につけている傾向にあるのですが、貧困世帯に育ちながら学力が高い子どもも、こういった基本的な習慣、非認知能力を身につけているのです。これがなにを表しているかというと、「非認知能力が認知能力を発達させる」ということです。2000年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ジェームズ・ヘックマンらは、40年にわたる長期追跡調査の分析により、「非認知能力がその後の認知能力の発達を促し、その逆は確認できない」と結論づけました。非認知能力が高い子どもはテストの点数もあがるが、テストの点数がいいからといってその子どもの非認知能力が伸びるわけではないのです。となると、今後の乳幼児教育や小学校教育は大きく変わっていく必要があります。いつまでもテストで高得点を取ることだけが素晴らしいと評価する教育では駄目なのです。もちろん、これは学校などの教育現場だけの問題ではありません。家庭教育も、「非認知能力を伸ばす」ことを意識しておこなうべきでしょう。とはいえ、身構えるような必要はありません。大事なのは、「子どもの話をきちんと聞く」こと。教育に熱心な親ほど、子どもの言うことに耳を貸さず、「これが子どものためになるんだ」と勉強や習い事を押し付ける傾向にあります。それでは、まったくの逆効果。まずは、「なにかやりたいことある?」と子どもに聞いて一緒に考えること。そのなかで、互いに折り合いをつけていくべきでしょう。宿題ひとつ取っても、「●時になったから宿題をやりなさい」では駄目。「何時になったら宿題に取り掛かれる?」と子どもに聞いてください。そうして決めた時間は、親が決めたものではありませんよね?これはつまり、子どもに選択権を渡しているということ。そうすれば、親からすれば「あなたが決めたことでしょう?」と言えるし、子どもからすれば「自分で決めたのだからやらなくちゃ」と、自発性や意欲、責任感を養うことにもなる。多くの親は、その過程を省いてしまっているように感じます。そうではなくて、親と子どもそれぞれが納得する「一致点」をつくるコミュニケーションをたくさん取ってください。そういったことが、子どもの非認知能力を育んでいくのですから。『遊びにつなぐ! 場面から読み取る子どもの発達』増田修治 著/中央法規出版(2018)■ 子ども教育のエキスパート・増田修治先生 インタビュー一覧第1回:クイズで育む!?子どもの「人生を決める」非認知能力の伸ばし方第2回:非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?第3回:子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」(※近日公開)第4回:“おなら”に“裸”、なにを書いてもOK!?「ユーモア詩」が伸ばす子どもの力(※近日公開)【プロフィール】増田修治(ますだ・しゅうじ)1958年3月8日生まれ、埼玉県出身。1980年、埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として埼玉県朝霞市内の小学校に勤務。「ユーモア詩」に取り組み、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図るとともに、楽しい学級づくり、保護者とのコミュニケーションづくりをおこなう。2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』が放映され反響を呼んだ。2008年3月末で小学校教諭を退職し、同年4月より白梅学園大学准教授。現在は同大学子ども学部子ども学科教授。『小1プロブレム対策のための活動ハンドブック』(日本標準)、『「いじめ・自殺事件」の深層を考える—岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として—』(本の泉社)、『先生! 今日の授業楽しかった!—多忙感を吹き飛ばす、マネジメントの視点—』(日本標準)など教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月02日テストで測ることができる力を「認知能力」、テストで測ることができない力を「非認知能力」と呼ぶことは見聞きしたことがあるかもしれません。でも、非認知能力が具体的にどういうものか、なかなか明確にイメージしにくいのも事実。それがどんなもので、なぜいま必要とされるのか――。教えてくれたのは、子ども教育のプロフェッショナルを養成している白梅学園大学の増田修治先生です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)非認知能力とは能動的な心情を自分のなかにつくり出せる力「非認知能力」がどういうものかを知ってもらうため、まずは次のクイズに挑戦してみてください。Q:次の野菜や果物は水に浮くか、沈むか。1.ピーマン2.キュウリ3.ナス4.バナナ5.リンゴ6.ニンジン7.ジャガイモこれは、わたしが4歳児に出したクイズです。水槽を用意して1から順に、実際に答えを確かめながら進めました。ピーマンは……水に浮きますよね。4歳児も多くが正解しました。ところが、次のキュウリは子どもたちの答えがけっこうわかれた。正解は次のナスも含めて浮く。大人であれば、料理中にこれらを洗うときに水に浮かぶ様子を見たことがある人も多いでしょう。それでは次のバナナとリンゴは?このふたつも浮くんですね。では、子どもたちはニンジンについてはどう答えたでしょうか。それは「浮く」でした。なぜそう思うのかと聞いたら「これまでの全部が浮くから」と。子どもたちはちゃんと考えているんです。これまでの正解を聞いて、「野菜や果物は水に浮く」と考えたわけです。でも、答えは「沈む」なんですよね(笑)。それでは、最後のジャガイモはどうでしょう?答えは……「沈む」です。「野菜や果物は水に浮く」という仮説は正しくありませんでした。でも、別の仮説が浮かんできませんか?そう、基本的に地下にあるものは水に沈んで、地上にあるものは浮くのです。そして、このクイズの後、子どもたちは家に帰ってお風呂にいろんな野菜や果物を浮かべてみた。これが、簡単に言えば非認知能力です。このクイズで、なにが浮く浮かないといった知識を教えようとしたわけではありません。子どもたちはクイズをとおして、自分の頭でうんと考えた。そして、「面白い」だとか「やってみよう」「調べてみよう」という気持ちになった。こういう能動的な心情を、自分のなかでつくり出せる力――それが非認知能力なのです。AIの発達が進むこれからに求められる非認知能力いま、この非認知能力が「子どもたちの人生を決める」とも言われています。というのも、時代が大きな曲がり角にきているからです。これからは人工知能、いわゆるAIが社会を大きく変えていきます。そして、そのAIをどういう方向で使っていくかを考えられる人間が必要とされる。AIの時代になるからこそ、これまでとちがった角度からものを見ることができる、あるいは新しいものや発想を生み出せる力が求められるのです。それこそ、テストでは測ることができない、非認知能力そのものでしょう。また、オックスフォード大学の研究によると、「AIの発達によって今後10年で現在の約47%の仕事が自動化する」との試算が出ています。たとえばですが、バーテンダーの仕事は77%の確率でなくなるとか。他にもスポーツの審判員やレジ係、データ入力係、集金人などもなくなる仕事だとされています。これは遠い未来の話ではありません。現在進行形ではじまっているものです。いま、「スマートガスメーター」の導入が全国で進んでいることをご存じですか?これは、ガスの使用量を無線通信回線で把握するというメーター。つまり、これまで検針員がやっていた仕事がなくなるということです。なくならない仕事は、教師や保育士など人間相手の仕事、それからデザイナーといった創造性が必要な仕事などに限られてきます。単純な仕事は基本的にどんどんなくなるので、これからは自ら仕事を生み出すような人間になっていかないとならない。それがいいかどうかはともかく、そうならざるを得ないのです。それこそ、他人とどう接するか、どういう新しい発想を持って創造性を発揮するかといったことは、なかなか点数にできるものではありません。それらはまさに、非認知能力だということです。重要性を増している幼少期における非認知能力を伸ばす教育ここで4歳の子どもを対象におこなわれた「マシュマロ・テスト」と呼ばれる実験をご紹介しましょう。その内容は、子どもにマシュマロをひとつ渡して「食べずに15分待てばもうひとつマシュマロをあげるよ」と告げるというもの。すると、2個目をもらえるまで我慢できる子どもと、我慢できずに食べてしまう子どもにわかれた。この実験でわかるのは、「自制心」が育っているかどうかということ。自制心も重要な非認知能力です。そして、実験はこれで終わりではありません。その後の追跡調査により、2個目をもらえるまで我慢できる自制心がある子どもは、少年期には学力が高くて誘惑に強い、青年期には教育水準が高くて肥満率が低い傾向にあることがわかりました。一方、我慢できずに1個目のマシュマロを食べてしまった子どもは、対照的に学力が低い、肥満率が高いといった結果が出たのです。【マシュマロ・テストの追跡調査結果】これは、4歳時点における自制心という非認知能力の有無が、その後の人生を大きく変えたということに他なりません。まだ幼い4歳でのちがいとなると、「非認知能力の優劣は遺伝的に決まっているのか」という疑問を持った人もいるでしょう。でも、そうではありません。「幼少期における教育」の重要性が高いということです。そして、今後は非認知能力を伸ばすための教育がより重要となるとわたしは考えています。このマシュマロ・テストで2個目をもらえるまで我慢できた子どもというのは、「先を見通して考える」ことができたということ。言い換えれば、ものと時間などの「つながり」が見えているということです。ところが、いまはそういった「つながり」がどんどん見えなくなっている、あらゆるものが「ブラックボックス化」している時代なのです。たとえば、自動車もそう。むかしの自動車はいまのものより構造がはるかに単純で、整備士にはなにがどうなって自動車が動くということがすべて見えていた。でも、数多くの複雑な電子部品が使われているいまの自動車だとそうはいきません。整備士にも理解できていない部分が多く、調子が悪い部分を基盤ごと取り替えるということになる。こういうことがあらゆるものにおいて起きているため、「つながり」というものが見えにくくなっているのです。読者のなかに、子どものころに時計やいろいろなものを分解してもとに戻すのが好きだったという人はいませんか?わたしがそうで、たいてい部品が余っちゃって捨てることになっていましたけどね……(笑)。ただ、それは子どもにとって大切なことなのです。非認知能力なんてものが知られていなかったむかしは、そういうふうに自然に「つながり」を知って非認知能力を伸ばす環境にありました。ところがいまはそうではない。だからこそ、意図的に非認知能力を伸ばすよう働きかけをしていく必要があるのです。『遊びにつなぐ! 場面から読み取る子どもの発達』増田修治 著/中央法規出版(2018)■ 子ども教育のエキスパート・増田修治先生 インタビュー一覧第1回:クイズで育む!?子どもの「人生を決める」非認知能力の伸ばし方第2回:非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?(※近日公開)第3回:子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」(※近日公開)第4回:“おなら”に“裸”、なにを書いてもOK!?「ユーモア詩」が伸ばす子どもの力(※近日公開)【プロフィール】増田修治(ますだ・しゅうじ)1958年3月8日生まれ、埼玉県出身。1980年、埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として埼玉県朝霞市内の小学校に勤務。「ユーモア詩」に取り組み、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図るとともに、楽しい学級づくり、保護者とのコミュニケーションづくりをおこなう。2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』が放映され反響を呼んだ。2008年3月末で小学校教諭を退職し、同年4月より白梅学園大学准教授。現在は同大学子ども学部子ども学科教授。『小1プロブレム対策のための活動ハンドブック』(日本標準)、『「いじめ・自殺事件」の深層を考える—岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として—』(本の泉社)、『先生! 今日の授業楽しかった!—多忙感を吹き飛ばす、マネジメントの視点—』(日本標準)など教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月01日ソニーが運営する科学教育発展のための助成財団「ソニー教育財団」。小中学校教員たちの支援が主な活動ですが、日本が世界に誇る大企業が運営するだけに国際的な活動もおこなっています。その狙いは、先生たちに狭い教育現場から海外にも目を向けてもらうこと、そして、日本では遅れていると指摘される「STEM教育」を取り入れること。公益財団法人ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さんにそれらの活動内容を語ってもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)日豪の教員同士の交流により理科の授業の質を上げるグローバル化の波が押し寄せる時代ではありますが、学校現場という狭い世界で働く先生たちが海外に目を向けるということはなかなかできるものではありません。そこで、わたしたちは国際交流にも積極的に取り組んでいます。国際的な活動にはさまざまなものがありますが、毎年おこなっているのがオーストラリアの先生たちとの交流です。オーストラリアには、ASTA(Australia Science Techers Association)という、科学の先生たちの全国的な研究組織が存在します。わたしたちが支援しているのは、そのASTAの先生と日本の先生による相互訪問。日本の先生は、ソニー教育財団が支援する熱心な理科教員の集まりである「ソニー科学教育研究会」(SSTA)(インタビュー第2回参照)に所属する先生たちです。日本の夏休み期間中に、日本の先生たちをオーストラリアにお連れして、オーストラリアの小中学校で、実際に日本でおこなっている実験などの理科の授業をしてもらう。また、南半球のオーストラリアが春休みとなる10月には、逆にオーストラリアの先生たちに日本に来てもらって、日本の小中学校で授業をしてもらいます。日本とオーストラリア、それぞれの学習方針や授業内容のちがい、子どもたちのリアクションを目の当たりにし、日豪の先生同士でのディスカッションをとおして、互いの授業の質をさらに高めてほしいと考えています。なかには、これまで一度も海外に行ったことがなく、「天地がひっくり返るほど人生観が変わった」なんて感想を言ってくれる日本の先生もいますよ。オーストラリアで受けた衝撃を、ぜひ今後の授業に生かしてほしい。画像提供:ソニー教育財団(本記事冒頭画像も同財団提供「オーストラリアとの交流」)これからの「もっと面白い時代」に生きる子どもたちを大切に育てるこの交流活動の相手国にオーストラリアを選んだことには、先生たちの長期休暇が重ならない南半球の国だからということの他にも理由があります。それは、オーストラリアが「STEM教育」に非常に力を入れている国だからです。STEMは、「Science, Technology, Engineering and Mathematics」の略。つまり、STEM教育とは、「科学、技術、工学、数学の教育分野を総称するもの」です。もともとは、2000年代にアメリカではじまった教育モデルです。これまでのオーストラリアはどういう国だったかというと、完全な資源立国でした。たとえば、石炭の輸出量は世界でも群を抜いています。そして、その主な輸出先の中国が不景気になると、オーストラリアの経済にも大きな悪影響を及ぼすとも言われるのです。そういう意味では、経済基盤が不安定な国でもある。そこで、オーストラリアは国を挙げてSTEM教育に取り組み、資源立国から工業立国、あるいは科学立国、IT立国に変わろうとしているのです。じつは、日本の夏休み中に日本の先生をオーストラリアにお連れするときは、オーストラリアの「ナショナル・サイエンス・ウィーク」というものにあたります。この1週間、オーストラリアでは国内各地で科学をもっと身近に感じられるような約1000ものイベントが開催されます。イベント会場ではなく、学校でも化学記号がデザインされたTシャツを先生たちが着ているなど、なかなか面白いんですよ。日本では「理科離れ」が問題視されて久しいですよね。文科省による平成16年版「科学技術白書」で、一般市民の科学リテラシーが他の先進諸国と比較して極めて低いことも指摘されています。それには、理科・科学というものがどこかとっつきにくい、身近なものではないという思い込みも、要因のひとつとなっているのかもしれません。理科・科学というものは、この世界のあらゆるものを研究対象とします。本来はもっと身近なものであるはずなのです。その感覚を子どもたちに持たせることが必要なのではないでしょうか。先に述べたオーストラリアのナショナル・サイエンス・ウィークにおこなわれるイベントのなかには、天文写真のコンテストや、ガラスアートと科学を関連づけたワークショップなど、アートの要素を取り入れ、科学をより身近に感じさせようという工夫が見られます。そういう意味では、ただのSTEM教育ではなく、アート(Art)を盛り込んだ「STEAM教育」こそ、これからの日本で求められるものなのかもしれません。たとえば、先進的なサービスを提供するウェブページを作成するにも、デザインというアートの要素は絶対に欠かせないもの。STEMとアートは切っても切れないものなのです。それに、これはあくまでわたしの“個人的な感覚”ですが、STEMからは「スチール(鋼)」に近い硬い印象を受けます。でも、STEAM(スチーム)だとどうでしょう?そのまま「蒸気」のような温かい印象を受けませんか?それこそ、アートが加わることでSTEMがもっと身近になる気がするのです。ソニーは、2018年の7月に「ソニーSTEAMスタジオ2018」というイベントを開催しました。「教育をエンタテインメントにすれば、未来はずっと面白くなる」というメッセージのもと、ソニーのグループ会社が開発したプログラミング教材(インタビュー第2回参照)、多くの方にもおなじみであろう犬型エンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」などに子どもたちに触れてもらうというものです。おかげさまで、このイベントに参加した子どもたちと保護者の方からは多くの反響の声が寄せられました。AIやロボット工学の発達により、これから間違いなくもっともっと面白い時代が訪れるでしょう。その時代に生き、受け皿となる子どもたちをもっと大切に育てていかなければなりません。そこに、わたしたちが地道に続けている活動が少しでも役立てればうれしいですね。■ ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さん インタビュー一覧第1回:ソニーが“子ども投資”を59年間も続ける深い理由第2回:世界のソニーが手がける「プログラミング教育サポート」第3回:卒業生400人、みんな理系じゃないから面白い。ソニーの凄すぎる自然教室の全貌第4回:日本人教員がビックリするのも納得。豪州が取り組むSTEAM(スチーム)教育の凄さ【プロフィール】高野瀬一晃(たかのせ・かずあき)1954年1月18日生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。1990年、ソニー株式会社入社。資材調達のエキスパートとして1993年からドイツ、ハンガリー、フランス、スウェーデンなどヨーロッパ各国に赴任。2005年に本社へ復帰し、DI事業本部、テレビ事業本部の資材部門部門長、調達本部本部長、調達担当役員(SVP)などを歴任し、2015年に定年退職。その後、公益財団法人ソニー教育財団理事長を務める。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年11月24日日本が誇る世界的大企業・ソニーが運営する科学教育発展のための助成財団「ソニー教育財団」。主な活動は小中学校教員たちの支援ですが、なかにはソニー教育財団が直接的に子どもに学習の場を提供するものも存在します。それらはどんなことを目指したものなのでしょうか。公益財団法人ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さんにその目的を語ってもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)身近なものですごいものをつくる喜びを味わう「ものづくり教室」ソニー教育財団では、「ソニーの教育助成論文」や先生たちの研修会、プログラミング教材の貸し出しなど、さまざまなかたちで小中学校の先生たちの支援をしています(インタビュー第1回、第2回参照)。そういった間接的なサポートのほか、わたしたちが直接的に子どもたちに学習の場を提供する活動もおこなっています。そのひとつが、「ソニーものづくり教室」という工作教室。子どもたちが自分の手でものをつくる楽しさを味わい、科学への興味、関心を深めて自ら学ぶ意欲を持つことを目指しています。開催場所は全国のソニーグループ関連の施設や近隣の学校。年間に約40回開催し、計1500人ほどの子どもたちが参加してくれています。2018年は、これまでに青森、山形、宮城、千葉、長野、静岡、京都、山口、長崎、大分、熊本などで開催してきました。講師は、ソニーの技術者や「ソニー科学教育研究会」(SSTA)の先生です。なにをつくるかというお題を考えてくれるのも彼らです。お題は、たとえばタッパーウェアのようなブラスチックケースを使ったICレコーダーや、ペットボトルを使ったヘッドホンなど。100円ショップですべて手に入るような身近なものでも、その仕組みを知り、工夫次第ですごいものがつくれる。それこそ、科学の醍醐味ではないでしょうか。画像提供:ソニー教育財団「自然漬け」のなかで知る自分のなにかが変わる感覚また、「科学の泉—子ども夢教室」もわたしたちが直接的に子どもたちに学習の場を提供している活動のひとつ。これは、2000年にノーベル化学賞を受賞された白川英樹先生を塾長に、小学5年から中学2年までの28人の塾生と7人の現役教員でもある指導員が寝食をともにしながら「自然に学ぶ」サマーキャンプです。スマホやゲーム機の持ち込みはもちろんNG。5泊6日の間、子どもたちにはそれこそ「自然漬け」になってもらいます。今年は、新潟の当間高原でおこないました。白川先生は学生時代に山岳部に所属されていたこともあり、82歳になったいまも背筋はしゃきっと伸びているし、山歩きが大好き。そして、子どもたちのことも大好きなんです。メインの活動は、大自然のなかでさまざまな生きものに触れ、学年の異なる4人ひと組のグループで研究報告をするというものです。テーマは与えられるのではなく、子どもたち自身で決めて探求します。2018年のものを例に挙げると、カエルやカマキリ、トンボ、カナヘビ、メダカなどの生物について、運動能力、生息環境、食物としているもの、解剖による臓器の位置といったさまざまな視点からそれぞれの特徴をとらえ、研究成果を発表してくれました。画像提供:ソニー教育財団(本記事冒頭画像も同財団提供「科学の泉」)ただ、白川先生は、この活動によって子どもたちに自然科学の知識を得てもらおうとしているわけではありません。そうではなく、5泊6日の間に「自分のなかになにかを発見」してほしいと願っています。虫を触ったことがなかった子どもが触れるようになった、そんなことでもいいのです。周囲の自然や初対面の人といった「環境」のちがいによって自分のなにかが変わる感覚——それを知ることが、子どもの成長に大きく関わるのですからね。この活動は、2018年で14年目になりました。教室の卒業生は約400人になり、同窓会と言いますか、年に1回、ホームカミングデーのようなイベントもおこなっています。初期の卒業生はとっくに社会人。本当にいろいろな人間がいて、これが面白いんですよ。「科学の泉」の卒業生ですから、理系の道に進んだ人間が多いかというと、4割程度は理系ではありません。なかにはバレリーナになった、東大を出てお笑い芸人になったという卒業生もいます。そして、白川先生は「これがいいんだ」とおっしゃる。「みんな理系に進む必要はない」と。科学とひと言で言っても社会科学、人文科学といろいろなものがあります。自然科学だけが科学ではありません。それは人間も同じこと。「この世にはいろいろな人がいるからいい、それが望むところだ」。これが白川先生のお考えなのです。■ ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さん インタビュー一覧第1回:ソニーが“子ども投資”を59年間も続ける深い理由第2回:世界のソニーが手がける「プログラミング教育サポート」第3回:卒業生400人、みんな理系じゃないから面白い。ソニーの凄すぎる自然教室の全貌第4回:日本人教員がビックリするのも納得。豪州が取り組むSTEAM(スチーム)教育の凄さ(※近日公開)【プロフィール】高野瀬一晃(たかのせ・かずあき)1954年1月18日生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。1990年、ソニー株式会社入社。資材調達のエキスパートとして1993年からドイツ、ハンガリー、フランス、スウェーデンなどヨーロッパ各国に赴任。2005年に本社へ復帰し、DI事業本部、テレビ事業本部の資材部門部門長、調達本部本部長、調達担当役員(SVP)などを歴任し、2015年に定年退職。その後、公益財団法人ソニー教育財団理事長を務める。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年11月22日日本が誇る世界的大企業・ソニー。その巨大企業は、じつは科学教育発展のための助成財団を運営しています。その助成財団「ソニー教育財団」は1959年から大本となる活動を開始し、現在ではその活動の幅を大きく広げています。公立校の教員が抱える問題の解決のため、また、2020年から小学校ではじまるプログラミング教育必修化のサポートのため、ソニー教育財団がおこなっている活動について、理事長・高野瀬一晃さんにお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)大小さまざまな規模の研修で教員のネットワークづくりを支援わたしが理事長を務めるソニー教育財団が小中学校の先生の助成をはじめたのは、1959年から。理科の先生から理科教育論文を募り、優秀な論文を執筆した先生に助成金やソニー製品を贈呈するという「ソニー小学校理科教育振興資金」です(インタビュー第1回参照)。すると、その活動が新たな展開を生みました。1963年、優秀な論文を執筆して受賞した先生が所属する学校が「ソニー理科教育振興資金受賞校連盟」というものを組織し、先生同士でネットワークをつくって互いに切磋琢磨していこうという動きが起きたのです。そこで、その先生たちの研修などに必要な費用をソニーが提供することにしました。「ソニー理科教育振興資金受賞校連盟」は、「ソニー科学教育研究会」(SSTA)と名称を変え、理科教育に関心のある先生ならだれでも参加できる会として、現在も活動を続けています。会員の先生の数は、いまでは約2000人。みなさん、理科教育に本当に熱心な先生たちです。SSTAの会員の多くは公立校の先生。じつは、公立校の先生たちはひとつの問題を抱えています。異動があっても市町村内の別の学校に行くだけということがほとんど。市町村外に異動することがあっても、都道府県内の異動にとどまります。すると、先生たちは他の都道府県の先生とのネットワークをほとんど持つことができないのです。しかも、教員独特のメンタリティーなのか、なにか授業で問題が起きたとしても、同じ市町村内の先生にはアドバイスを求めにくいらしい。おそらくは、互いにコンペティターだと認識しているのでしょう。その問題を解決するため、わたしたちはSSTA会員の先生を対象とした3泊4日の全国特別研修会というものを開催しています。集まるのは全部で約100人の先生たち。そこで、たとえば北海道、青森、広島、福岡の先生がグループとなって授業の単元(学習活動の題材)開発をおこなってもらう。こうして、先生たちは「同じ釜の飯を食った」仲になる。全国に先生同士のネットワークができ、先生たちは互いにアドバイスを求めたり、アドバイスをしたりできるようになるわけです。また、全国特別研修会の他にも、全国を4つのブロックにわけておこなう「ブロック特別研修会」や都道府県単位の支部ごとの研修会も実施しています。これらにより、草の根運動ではないですが、学校現場の授業の質を上げることに貢献できていると自負しております。プログラミング教育のキモはプログラミング言語習得ではないこういった先生たちの研修のサポートの他に、ソニー教育財団では新たな試みをはじめています。わたしはもともとソニー株式会社では資材調達に携わってきました。ビジネスの現場に長く身を置いてきた立場からも、今後のソニー教育財団がどういうミッション、ビジョンを共有し、どこに向かって活動すべきかを考えています。ソニー創業者の井深大の考えも高く掲げながらも、未来志向が必要だと思うのです。その未来志向のなかではじめたのが、プログラミング教育のサポート。いま、日本のビジネスの現場にはソフトウェアエンジニアが圧倒的に不足しています。そのため、2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されるのですが、問題はそれを教える先生たちにそのスキルや指導経験がないということ。そういう先生たちを、なんとかサポートしなければなりません。たまたまではあるのですが、ソニーでは異なるグループ会社がそれぞれにプログラミング教材を開発しました。ひとつは「MESH(メッシュ)」というもの。これは、人感センサーや光センサーなど、さまざまなセンサーやスイッチ機能を持ったブロック形状の電子タグとアプリを組み合わせ、プログラミングすることでいろいろなアイデアをかたちにできるというものです。画像提供:ソニー教育財団もうひとつは、「KOOV®(クーブ)」。こちらは、子どもたちの大好きなカラフルなブロックと電子パーツで動物やロボットなどのかたちをつくり、そこにアプリからプログラムを転送することで、自分でつくった作品を動かすことができるというものです。(本記事冒頭画像もKOOV)画像提供:ソニー教育財団わたしたちは、これらをSSTAの先生たちに無償で貸し出し、プログラミング教育に役立ててもらっています。その授業はたとえばこんな内容です。教室にゴミが散らかっているという問題があるとしましょう。そこで、MESHをつかってみんながちゃんとゴミ箱にゴミを捨てるようにするための方法を子どもたちに考えてもらう。たとえば、ゴミ箱を開けると、ゴミ箱のなかの光センサーが反応して、あらかじめ録音していた「きちんとゴミを捨ててくれてありがとう」という音声が流れるようにするとか。MESHもKOOV®も直感的に使えるビジュアルプログラミングを採用しているので、プログラミングの専門的な知識がなくても問題ありません。重要なのは、「○○すれば△△が起きる」といった、プログラミングの基本的な考え方を身につけることです。プログラミング教育というとコンピューター言語を覚えるといったイメージをするかもしれませんが、その根本となる考え方、「論理的思考」を身につけることが、重要なプログラミング教育だと思うのです。■ ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さん インタビュー一覧第1回:ソニーが“子ども投資”を59年間も続ける深い理由第2回:世界のソニーが手がける「プログラミング教育サポート」第3回:卒業生400人、みんな理系じゃないから面白い。ソニーの凄すぎる自然教室の全貌(※近日公開)第4回:日本人教員がビックリするのも納得。豪州が取り組むSTEAM(スチーム)教育の凄さ(※近日公開)【プロフィール】高野瀬一晃(たかのせ・かずあき)1954年1月18日生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。1990年、ソニー株式会社入社。資材調達のエキスパートとして1993年からドイツ、ハンガリー、フランス、スウェーデンなどヨーロッパ各国に赴任。2005年に本社へ復帰し、DI事業本部、テレビ事業本部の資材部門部門長、調達本部本部長、調達担当役員(SVP)などを歴任し、2015年に定年退職。その後、公益財団法人ソニー教育財団理事長を務める。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年11月20日真空管電圧計の製造からスタートして日本を代表するAVメーカーに成長。現在はAVやゲームのハードウェア製造にとどまらず、音楽、映画、金融など多種多様な事業を展開するソニー。その、世界に誇る巨大企業は科学教育発展のための助成財団を運営しています。その助成財団「ソニー教育財団」が設立された経緯、その主な活動内容について公益財団法人ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さんにお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)ソニー創業時から教育振興の重要性を説いた創業者・井深大現在のソニー教育財団という名称になったのは2011年からですが、その大本となる教育助成活動がはじまったのは1946年の創業から13年後の1959年のこと。じつは、ソニーの創業者である井深大は、創業時の『設立趣意書』のなかですでに教育振興の重要性を説いているのです。当時、まずはじめたのは「ソニー小学校理科教育振興資金」というものでした。とはいえ、教育の助成をするにも会社の資金に余裕がないとできるものではありません。ソニーの経営が軌道に乗ることとなった大きなきっかけは、トランジスタラジオ、それからテープレコーダーのヒットでした。当初のテープレコーダーは軍が使っていたような大型のものです。それを小型化し、コンシューマー向けのものを開発した。最初の主なお客は裁判所でした。裁判記録をつくるため、速記に代わってテープレコーダーが採用されたのです。ただ、裁判所といってもそんなにたくさんあるわけではありませんよね。では、次の大きなお客はというと、これが学校だった。1950年から1960年ごろにかけては、NHKが学校向けの教育放送をスタートし、学校では映像や音の活用が加速化するなど「視聴覚教育」が盛んになった時期です。わたしが中高生の頃にもLL教室などにテープレコーダーはありましたが、当時はもっと幅広い使われ方をしたようですね。こうして、学校がテープレコーダーを導入してくれたおかげで、ソニーは大きな利益を得ることができました。そして、その利益をどうしたか。井深大は「学校から頂いた利益は学校に還元しよう」と考えたのです。画像提供:ソニー教育財団こうしてはじまったのが「ソニー小学校理科教育振興資金」でした。現在も「ソニーの教育助成論文」として続いています。これは、小中学校の理科の先生から理科教育論文を募り、優秀な論文を執筆した学校に助成金やソニー製品を贈呈するというもの。論文の内容は、たとえば「てこの原理をこういうオリジナルの手法で教えている」というような授業内容についてのもの、あるいは「いま授業で抱えているこういう問題を解決するために今後はこんなことを試してみたい」といったPDCAサイクルのような、先生方が日常的におこなっているアイデアや工夫についてのものです。子どもたちではなく学校、先生に助成金を贈るということには、明白な理由があります。テープレコーダーが大きな利益をもたらしてくれたとはいえ、資金は限られていました。そういう状況において、どうすればより多くの子どもたちの教育を支援できるでしょうか。答えは、「先生を支援すること」です。50人の子どもではなく、50人の子どもを教えている50人の先生たちに資金を使う。そうすれば、2500人の子どもたちの教育に資金が有効活用できます。こうして、学校の先生たちを支援するというかたちとなったのです。子どもの「科学する心」の芽生えを大人にも共有してほしい当初、小中学校を対象にはじまったこの活動も、現在では幼稚園、保育所、認定こども園にまでその対象を広げています。幼稚園等から募集するのは「『科学する心』を育む保育実践」をテーマとした論文です。「科学する心」とは、わたしたちは7つの項目で定義づけていますが、ここではかいつまんで説明しましょう。幼い子どもにとって身近な生きもののひとつに、ダンゴムシがいます。はじめてダンゴムシに触れ、どんどん集める子どももいれば、なかには半分に折って殺してしまうような子どももいるでしょう。でも、そういうことを子どもがしなくなるためには、大人が「殺しちゃ駄目」と言うのではなく、子ども自身が実感として「命の大切さ」を感じる必要がある。植物学とか動物学といったものだけではなく、道徳に近いようなものも含めて理科をとらえる心――それを、わたしたちは「科学する心」だと定義づけています。そして、子どもの「科学する心」が芽生える瞬間をぜひ大人も共有してほしいのです。そのためにはじめたのが、『「科学する心」を見つけようフォトコンテスト』です。これは、子どもが探求し感動した姿をとらえた写真を募集するというもので、2018年でもう12年目になりました。じつは、カメラを通して見ると、普段は気づかなかった子どもの表情に気づくこともあるものです。自然など周囲のものに触れて、子どもは「これってなんだろう?」「不思議だなあ」といった豊かな表情を見せてくれます。それは、まさに知的好奇心の表れです。幼児の頃には、たとえば九九のようないわゆる勉強をすることよりも、興味を持ったものにぐっとのめり込む、遊び込むことが、のちのちの学習能力を高めることになると思うのです。知能指数などでは測れない集中力や興味関心の強さといった非認知能力が、引いては認知能力を高めていくのではないでしょうか。そのためにも、子どもが周囲のものに興味を持つ瞬間、「科学する心」の芽生えの瞬間を、ぜひ親御さんもしっかりと見つめてあげてください。■ ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さん インタビュー一覧第1回:ソニーが“子ども投資”を59年間も続ける深い理由第2回:世界のソニーが手がける「プログラミング教育サポート」(※近日公開)第3回:卒業生400人、みんな理系じゃないから面白い。ソニーの凄すぎる自然教室の全貌(※近日公開)第4回:日本人教員がビックリするのも納得。豪州が取り組むSTEAM(スチーム)教育の凄さ(※近日公開)【プロフィール】高野瀬一晃(たかのせ・かずあき)1954年1月18日生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。1990年、ソニー株式会社入社。資材調達のエキスパートとして1993年からドイツ、ハンガリー、フランス、スウェーデンなどヨーロッパ各国に赴任。2005年に本社へ復帰し、DI事業本部、テレビ事業本部の資材部門部門長、調達本部本部長、調達担当役員(SVP)などを歴任し、2015年に定年退職。その後、公益財団法人ソニー教育財団理事長を務める。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年11月18日手や指のほか、体を使って遊びながら歌う「手遊び歌」。音楽による幼児教育研究を専門とする高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授・岡本拡子先生によると、手遊び歌には、子どもの成長に欠かせない要素がたくさんあるのだそう。ここでは、体を使って子どもの想像力をアップさせる「手遊び歌」として、先生が特におすすめするものを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)子どもの心を捉える「意外性」手遊び歌は、体を使った遊びを伴うことで、子どもの想像力を育むものが多いという特徴があります。そして、子どもが好むのは、「変化」と「繰り返し」が含まれるもの(インタビュー第3回参照)。ただ、なかにはただの変化と繰り返しでは終わらないものもあります。『キャベツのなかから』という手遊び歌もそのひとつ。キャベツのなかから青虫が出てくるという内容で、親指を「お父さん青虫」に見立てるところから歌詞がはじまります。親指がお父さんを示すということは日本の文化ですから、みなさんもその後の歌詞は予測できますよね。子どもたちもそれは同じです。2番は人差し指を使って「お母さん青虫」。その後はお兄さん、お姉さん、赤ちゃんと続いていきます。でも、この歌のいいところはそのままで終わらないところ。最後は全部の指を使って、なんと「ちょうちょ」になっちゃう!この「意外性」が素晴らしくて、子どもたちが絶対に大好きになる歌です。とはいえ、こういった意外性は、子どもがある程度の年齢にならないと楽しめるものではない。そこで、子どもの年齢別にわたしがおすすめする手遊び歌をご紹介しましょう。こどもの年齢が上がるほど歌詞の内容や動きの面白さに目が向く◆0~1歳児向け『おやゆびねむれ』/作者不詳(わらべ歌)まだ小さな子どもには、互いに体を触れ合って遊ぶ歌がよいでしょう。この歌は、親指から順に指を1本ずつ折り曲げたり伸ばしたりしながら歌います。子どもが泣いてぐずっているときや、子どもを寝かしつけたいときにもおすすめですよ。歌うというよりも「語りかける」ように、穏やかに優しい口調でゆっくりと歌いかけてあげましょう。子どもは自然に心が落ち着いて、泣きやんだり眠ったりするはずです。歌いながら親子で触れ合うことで、子どもはお父さんやお母さんの温もりを感じながら安心感を得ることができます。◆2~3歳児向け『ずっとあいこ』/作詞・作曲:阿部直美手遊び歌には指で数を数えたり、グーチョキパーを用いて遊んだりする歌が多いというのもひとつの特徴です。これはその典型のものですね。ただ、それらは「数を覚える」とか、「ジャンケンのルールを覚える」といったような学習効果を期待して歌うものではありません。親子で一緒に歌いながら遊ぶことで、生活のなかで用いる数やジャンケンに親しんだり、自然にそういったあらゆる文化に興味関心を持ったりするようになるというものです。まだ幼い子どもにとっては指を1本ずつ動かすのは少し難しいかもしれませんが、うまくできなくても、楽しんで遊ぶことが大切ですよ。◆4~5歳児向け『くいしんぼうのゴリラ』/作詞・作曲:福尾野歩年齢が上がってくると、子どもの興味は歌詞の内容や動きの面白さに向かうようになります。歌詞の意味をきちんと理解し、描かれた場面を想像することで楽しくなってくる——そんな手遊び歌が数多くつくられています。この歌では、動きがユニークなゴリラが、バナナやレモンなど身近な食べものを食べたときの様子が表現されています。子どもと一緒にイメージを共有して楽しんでみましょう。また、登場する食べものを別の食べ物に置き換えて、オリジナルのものにしてみれば楽しさも倍増すると思いますよ。動きの面白さという点でいえば、『ポキポキダンス』もおすすめ。これは『Hokey Pokey(ホーキーポーキー)』というアメリカの民謡が由来の手遊び歌。動きが激しいものですので、年長さんくらいの子どもが好みます。この歌のいいところは、頭やお尻など自分の体に触れながら、その部位の名称を歌うところ。遊びのなかで、子どもが自分の体に目を向ける、意識することにもつながるはずです。それぞれ有名な歌ですので、『YouTube』などの動画共有サイトにはいくつも動画がアップされています。検索してぜひお子さんと一緒に遊んでみてください。『感性をひらく表現遊び―実習に役立つ活動例と指導案 音楽・造形・言葉・身体 保育表現技術領域別』岡本拡子 著/北大路書房(2013)■ 音楽教育のエキスパート・岡本拡子先生 インタビュー一覧第1回:幼少期における音楽体験の意味――「音楽という環境」を通し子どもの感性を伸ばす第2回:子どもの感性を育む「歌と五感」――幼い子どもの成長につながる歌ってどんな歌?第3回:「手遊び歌」が子どもにもたらすもの――楽しく歌うことが「学びの姿勢」につながる第4回:【年齢別おすすめ】子どもの想像力がアップする!5つの「手遊び歌」【プロフィール】岡本拡子(おかもと・ひろこ)1962年8月25日生まれ、大阪府出身。大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程音楽教育専攻修了。聖和大学大学院教育学研究科博士後期課程幼児教育専攻満期修了。聖和大学助手、美作大学短期大学部講師などを経て、現在は高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授。大学在学中より幼稚園や小学校などで「歌のお姉さん」として活動。その後、子育てをしながら大学院で幼児教育を学ぶ。現在は保育者養成に携わりながら、幼児やその保護者を対象としたコンサートや保育現場でのコンサートをおこなうほか、子どもの歌の作詞・作曲を手がける、保育者研修の講師を務めるなど、幅広く活躍する。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年11月05日「手遊び歌」というものを聞いたことがあるでしょうか。手や指のほか、体を使って遊びながら歌う歌のことです。その名前は知らずとも、そう聞けば「ああ、あれね」とわかる親御さんも多いでしょう。音楽による幼児教育研究を専門とする高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授・岡本拡子先生によると、手遊び歌には、子どもが成長するために欠かせない要素がいくつもあるのだとか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)ただのグーも子どもにはひげやこぶ、鼻に見える「手遊び歌」とは、手や指での遊びを伴った歌のこと。もともとは、子どもたち自身がつくって歌い継がれてきたわらべ歌の一種です。みなさんにもおなじみの『通りゃんせ』『かごめかごめ』『はないちもんめ』なども、手だけではなくて体全体を使うものではありますが、そのひとつだと言えるでしょう。手遊び歌は、体を使う遊びを伴うわらべ歌の現代版です。そして、いまではだんだん大人が提供するものも増えてきました。そのため、「大人の都合」による歌もあります。有名なところだと『ひげじいさん』もそのひとつ。歌詞の最後は「手はお膝」です。つまり、幼稚園や保育所の先生が「手は膝に置いてちゃんとお話を聞きましょうね」というときに子どもたちに歌わせるのです。そういう点ではわたし自身はあまり好きではないのですが、それ以上に素晴らしい点もあります。わたしたち大人にとっては、手を握ったグーはただのグーかもしれません。でも、子どもたちにとっては、歌詞に合わせてグーはおじいさんのひげにもこぶにもなるし、てんぐの鼻にもなる。これが子どもの世界の面白いところ。泥団子をお菓子に見立てるのと同じように、手を使っていろいろなイメージをするのです。また、「繰り返し」が多いのも『ひげじいさん』の特徴でしょうね。子どもって、とにかく繰り返しが大好き。歌ではありませんが、童話の「おおきなかぶ」もそう。大人からすれば、「しつこい!」と感じるほど同じフレーズが繰り返されます(笑)。でも、子どもたちはそれをすごくよろこぶ。子どもにとっての手遊び歌の魅力というと、「変化」と「繰り返し」だと言えるでしょうね。小学校に入学してからの学びの姿勢につながる子どもの教育に熱心な親御さんであれば、手遊び歌が脳の発達を促すだとか、そういうことも期待されているかもしれません。ただ、残念ながら、現状ではそういう実証的な研究結果は得られていません。でも、だからといって手遊び歌になんの意味もないのかといえば、そうではないとわたしは考えています。先に挙げた『ひげじいさん』のような歌なら、間違いなく子どもたちの想像力を伸ばし、感性を育てることにも大いに役立つでしょう。そして、手遊び歌とは、わたしは「文化を学ぶ」ものだとも思っています。ひとつ例を挙げましょう。『ピクニック』という比較的新しい手遊び歌があります。手をお皿に、指をようじやお箸、フォークに見立てて、たこ焼きや焼きそば、スパゲティを食べるという内容です。この手遊び歌を通じて、子どもたちはお皿に乗っている食べもののイメージを膨らませつつ、自然に食べものの名前や食器の使い方を学ぶ。これは、文化を学んでいることに他なりませんよね。また、この歌では、人差し指がたこ焼きを食べるためのようじと「1」という数字のふたつを表します。国によっては親指で1を表すなど、指での数の数え方はまったく異なります。それこそ、日本の文化を学んでいるのです。加えて、手遊び歌のいいところは、基本的に親やまわりのお友だちと一緒に歌うところ。それこそ、呼吸を合わせなければうまく遊ぶことができません。ひとつ、面白い遊びを紹介しましょう。みなさん、有名な『あんたがたどこさ』はご存知でしょう。誰かと一緒に向かい合って歌いながら、歌詞の「さ」の部分で互いの両手を合わせてみてください。さて、うまくできたでしょうか?「さ」を意識するあまり、意外にタイミングが合わなかったという人もいるのではないですか?それでは、今度は曲のリズムに合わせてふたりで体を揺らしながらやってみてください。どうでしょう、今度はきっちりタイミングが合ったのではないでしょうか。これは、ふたりの呼吸、リズムをきちんと合わせられたからです。子どもは、このように他人と同じことをすることを好みます。おもちゃなどの取り合いになるのはそのため。お友だちと同じものを持ちたい、同じことをしたいという欲求があるからです。そうして他人と同じことをすることによって、子どもたちは「人とつながっている感覚」を育み、社会の一員として育っていくのです。はっきりとした研究結果としては示されていないものの、手遊び歌には、コミュニケーション能力や言語能力などさまざまな力を伸ばすという側面も確かにあるでしょう。でも、なにかの力を伸ばすために子どもに歌わせる、というのではなく、生活のなかで楽しみながら歌うだけで十分なのです。それがやがては、小学校に入ってからの学びの姿勢につながるのではないでしょうか。『感性をひらく表現遊び―実習に役立つ活動例と指導案 音楽・造形・言葉・身体 保育表現技術領域別』岡本拡子 著/北大路書房(2013)■ 音楽教育のエキスパート・岡本拡子先生 インタビュー一覧第1回:幼少期における音楽体験の意味――「音楽という環境」を通し子どもの感性を伸ばす第2回:子どもの感性を育む「歌と五感」――幼い子どもの成長につながる歌ってどんな歌?第3回:「手遊び歌」が子どもにもたらすもの――楽しく歌うことが「学びの姿勢」につながる第4回:【年齢別おすすめ】子どもの想像力がアップする!5つの「手遊び歌」【プロフィール】岡本拡子(おかもと・ひろこ)1962年8月25日生まれ、大阪府出身。大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程音楽教育専攻修了。聖和大学大学院教育学研究科博士後期課程幼児教育専攻満期修了。聖和大学助手、美作大学短期大学部講師などを経て、現在は高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授。大学在学中より幼稚園や小学校などで「歌のお姉さん」として活動。その後、子育てをしながら大学院で幼児教育を学ぶ。現在は保育者養成に携わりながら、幼児やその保護者を対象としたコンサートや保育現場でのコンサートをおこなうほか、子どもの歌の作詞・作曲を手がける、保育者研修の講師を務めるなど、幅広く活躍する。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年11月04日幼いお子さんをお持ちの親御さん、親子で一緒に歌を歌っていますか?音楽による幼児教育研究が専門の、高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授・岡本拡子先生によると、子どもにとって歌は親とのつながりを感じられるもの。親は子どもと一緒にたくさん歌を歌ってあげるべきなのだそうです。では、幼い子どもの成長につなげるために、いったいどんな歌を歌えばよいのでしょうか。まずは、子どもが歌を歌うことの意義から語っていただきました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)歌は人間的成長に欠かせないもの子どもが歌うことにはたくさんのメリットがあります。ただ、わたしとしては「メリット」という言い方はあまり好きではないんですけどね。というのも、いいことがあるから人は歌うわけではないからです。歌うときには声を使います。そして、声を使うということは体を使うということですから、歌うという行為は人間のプリミティブな欲求、本能に根ざしているものと言えるからです。歌というものが生まれた当初は、おそらく、伝達やコミュニケーションのために、そのうち儀式や神事などに使われたのでしょう。それから、気持ちの高揚や感情を表すひとつの手段として、また、人の楽しみとして使われていった。それが歌なのです。では、子どもの歌となるとどうでしょうか。まず、どこからが歌でどこからが歌ではないのか、ということを考えてみてください。たとえば、子どもがお友だちの家に遊びに行ったときに言う「ひーろーちゃん、遊びましょ」。これは歌でしょうか、歌ではないでしょうか。遊びの輪に入れてもらうときの「いーれーて」「いーいーよ」、あるいは数を数えるときの「いーち、にーい、さーん、しーい」はどうでしょう。これらには決まったリズム、メロディーがあるとも言えますよね。子どもたちは、誰かがつくった歌を歌うだけではなくて、遊びのなかでどんどん気持ちが弾んでくると、たくさんの「歌」を歌っているのです。これらも歌であり、音楽の入り口と言えるでしょう。そして、お母さんなど周囲の大人も子どもと一緒にたくさん歌ってあげるべきだと思います。それにはふたつの理由があります。ひとつは、子どもにとって、歌は親とのつながりを感じられるものだからです。親が乳幼児をあやす際に自然に発する高い音域で抑揚のある「マザリーズ」と呼ばれる話し方で話すと、子どももそれに応えて声を発しますが、じつはその声の波形やリズムは親のそれらとまったく同じなのです。その時点で、親子の音楽的なやり取りははじまっていると言っていいでしょう。それはコミュニケーションというより、「情動の交流」と呼ぶべきものです。子どもが明確に歌と呼べるものを歌うようになるのは1歳頃からですが、それ以前にも赤ちゃんはリズミカルに歌っています。そうして親と「歌」を交わすことで、子どもは親とのつながり、親と通い合っていることを無意識のうちにも感じるのです。それから、親など周囲の大人が子どもと一緒にたくさん歌ってあげるべきもうひとつの理由は、歌が人間的成長に欠かせないものだからです。誰かと一緒に歌を歌う際に重要なのは、呼吸を合わせることですよね。そして、人が呼吸を合わせることが求められるのは歌うときだけではありません。会話のなかでどう相づちを打つかといったことも、人と呼吸を合わせることのひとつでしょう。人は必ず社会のなかで生きていくもの。だからこそ、人との関わりのなかで、「自分が社会の一員なんだ」と感じることは、子どもの成長に絶対に欠かせないものです。人と呼吸を合わせることが求められる歌というものは、そういう社会性を育むことに大きな役割を果たすものだとわたしは考えています。また、親が子どもと一緒に歌えるということは、親子関係がいい状態にあるというサインでもあります。怒ったりイライラしたりしているときには大人は歌いませんよね。歌を歌うということは親がリラックスしていることの証なのです。子どもが健やかに育つためにも、親がそういう心の余裕を持てるような家庭、社会であってほしいですね。歌だけではなく五感が総合的に子どもの感性を育むでは、どういう歌が子どもの成長につながるのでしょうか。幼い子どもの場合、子どもの認知能力や発達ときちんと合っているものである必要があります。簡単に言えば、子どもが「表現できる歌」であるべきでしょう。日本には「わらべ歌」という、子ども自身がつくって歌い継がれてきた歌があります。それらの多くは、日本語のリズムや抑揚に合わせてつくられた音域が狭いもの。子どもにも無理なく発声できて、話しはじめたばかりの子どもでも、しゃべることの延長のような感じで歌えます。幼稚園や保育所の年少さんくらいの子どもの場合だと、有名なところでは『ちょちちょちあわわ』『東京都日本橋』など、赤ちゃんでも一緒にできる手遊び歌がいいでしょう。それから、年少さんの子どもでも歌詞の意味が理解しやすいもの。たとえば、『ぞうさん』『おつかいいありさん』『やぎさんゆうびん』など。これらは、動物に「さん」をつけて人間のように扱っているので、子どもが内容を理解してイメージしやすいのです。最近の保育の現場を見ていると、子どもには難しい歌を歌わせていると感じることもあります。なかには、「大人にも難しいんじゃないかな?」と思うような歌もあるくらい。それに、大人が聴いてうれしい歌も多いですね。子どもの歌と言いながら、大人にウケる歌です。そうではなくて、もっと子どもの発達に目を向けて、それに合った歌を歌わせてあげてほしいですね。そして、大切なのは、いろいろな歌を歌うより、子どもが大好きな歌を(作詞・作曲という意味ではなく)つくってあげること。季節に関する歌なんていいですね。夏になったら、あなたのお母さんが必ず歌ってくれた歌があるとしましょう。子どもの頃の記憶というのは、歌と密接に結びついているものです。すると、大人になっても夏がくるたびに、お母さんの歌とともに、お母さんと散歩したときに見た景色やそのときの草の匂い、つないでいた手の感触といった五感がよみがえってくる。それらのさまざまな感覚こそが、あなたが大人になるための感性を育んでくれたのです。『感性をひらく表現遊び―実習に役立つ活動例と指導案 音楽・造形・言葉・身体 保育表現技術領域別』岡本拡子 著/北大路書房(2013)■ 音楽教育のエキスパート・岡本拡子先生 インタビュー一覧第1回:幼少期における音楽体験の意味――「音楽という環境」を通し子どもの感性を伸ばす第2回:子どもの感性を育む「歌と五感」――幼い子どもの成長につながる歌ってどんな歌?第3回:「手遊び歌」が子どもにもたらすもの――楽しく歌うことが「学びの姿勢」につながる第4回:【年齢別おすすめ】子どもの想像力がアップする!5つの「手遊び歌」【プロフィール】岡本拡子(おかもと・ひろこ)1962年8月25日生まれ、大阪府出身。大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程音楽教育専攻修了。聖和大学大学院教育学研究科博士後期課程幼児教育専攻満期修了。聖和大学助手、美作大学短期大学部講師などを経て、現在は高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授。大学在学中より幼稚園や小学校などで「歌のお姉さん」として活動。その後、子育てをしながら大学院で幼児教育を学ぶ。現在は保育者養成に携わりながら、幼児やその保護者を対象としたコンサートや保育現場でのコンサートをおこなうほか、子どもの歌の作詞・作曲を手がける、保育者研修の講師を務めるなど、幅広く活躍する。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年10月31日「子どもには情緒豊かな人間に育ってほしい」と、多くの親御さんが願っているはずです。そのために重要となるものといえば、やはり芸術でしょう。その芸術のなかでも音楽による幼児教育研究を専門とするのが、高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授・岡本拡子先生。2018年4月に新たな幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領、保育所保育指針が導入された背景、そして幼少期における音楽教育の意義とはどんなものなのかということについてお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)「連続性」の視点で新たに示された「10の姿」2018年に改訂・改定された幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領、保育所保育指針では、新たに下記のような「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」が示されました。【幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)】1. 健康な心と身体2. 自立心3. 協同性4. 道徳性・規範意識の芽生え5. 社会生活との関わり6. 思考力の芽生え7. 自然との関わり・生命尊重8. 数量・図形、文字等への関心・感覚9. 言葉による伝え合い10. 豊かな感性と表現これまで、幼児期の教育における保育の内容は「5領域」と呼ばれるもので示されてきました。5領域とは「健康・人間関係・環境・言葉・表現」の5つ。ちょっとあいまいでわかりづらいかもしれませんね。ただ、それはあえてあいまいにしたからなのです。5領域導入以前の幼稚園では、小学校の教科と対応しているような言葉で指針を示していました。「音楽リズム」や「言語」、「絵画製作」といった具合です。小学校の教科でいえば、それぞれ音楽、国語、図画工作に対応するということは、誰の目にも明らかですよね。すると、「幼稚園は小学校の準備をする場所なのか」と一部から批判の声が挙がりました。幼児期の子どもは、小学生のように教科ごとになにかを学ぶわけではありません。子どもにとっては、歌でも砂場遊びでもあらゆる活動が学びです。そのため、小学校の教科に対応しないかたちの少々あいまいにも感じられる5つの観点から保育内容が示されてきました。ところが、今度は別の問題が出てきてしまいました。小学校の先生からすると、5領域と言われても、それがどんなものなのかわかりづらいのです。わざわざそうしたのですから、当然と言えば当然です。でも、現在の教育現場でその重要性が声高に叫ばれているのが「連続性」というもの。現在、日本の教育は、幼児期から大学まで共通した言葉で語り、一貫した教育をおこなおうとしているのです。幼児期の保育内容が小学校の先生にとって理解しづらいものだということは、連続性という点からすれば大きな問題です。とはいえ、幼児期の教育はやっぱり5領域の視点からとらえたい。そうして、5領域の内容を誰もが理解しやすい言葉でさらに具体的に示したものが「10の姿」だというわけです。大人がやるべきことは子どもが学ぶための「環境」を用意することこの「10の姿」のなかでいえば、わたしの専門は10番目の「豊かな感性と表現」にあたります。大学では声楽、大学院修士課程では音楽教育、そして大学院博士課程で幼児教育を学びましたので、幼児教育のなかでも音楽と表現や音環境に関わるものがわたしの専門です。いま、保育現場にいる身として強く感じることはふたつ。ひとつは、いまの子どもの周囲にはものがあふれているということ。そして、もうひとつは同じように「音があふれている」ことです。いまの時代、いつもテレビがついていて、ゲームの音やさまざまな機械音が常にしています。本当の静けさはあえてつくらないとありません。ただ、人間の耳というものは都合よくできていて、聞きたくない音を脳の中でカットすることができます。「ルビンのつぼ」はご存じでしょうか?見方によって、向かい合っているふたりの顔にも、あるいはつぼにも見える絵です。人間は、見たいものだけを見て、見たくないものは背景に押しやっていくもの。それは、音においても同じことです。聞きたい音だけを聞いて、聞きたくない音は背景に押しやるので、騒音のなかにいても意外と平気なのです。ところが、幼い子どもはまだそれがうまくできません。子どもにとってはあらゆる音が全部同じ圧力で聞こえるため、いまは子どもにとって非常にストレスフルな時代だと思います。ではどうすればいいかというと、それは「音を選ぶ」しかありません。見ていないときにはテレビは消すとか、あるいは逆に風や雨など自然の音に耳を傾けるとか、意図的に音を選ぶということを子どもに教えてあげてほしいのです。これは、ただ音によるストレスを軽減するためだけのものではありません。子どもの教育にもつながるものです。暮らしのなかでストレスを感じる音というと、たとえばドアを乱暴に閉める音があります。そういう行為をする子どもって、どうでしょうか。ドアは静かに閉めて、ものを人に渡すときにもテーブルに「ドン!」と投げ置くのではなく、相手に「はい、どうぞ」と言って静かに手渡す子どもに育ってほしいですよね。音を選ぶということは、ドアの閉め方やものの扱い方などを通して子どもを教育するということでもあるのです。このように、幼児期の教育というのは、ものや人など、周囲の「環境」を通しておこなうものです。砂場遊びをするなら、砂が環境です。そこに水という環境が加われば、子どもは泥んこになって遊ぶうちにお団子をつくれることに気づくでしょう。最初から「砂に水を入れてこうするとお団子ができますよ」と教えてはならないのです。知識や技術を教えるのではなく、子どもがものや人と関わるなかで自ら気づくことが本当の学びなのですから。そのため、大人がやるべきことは、子どもが学ぶための環境を用意してあげることだとわたしは考えています。赤ちゃんにとっての環境を例に挙げてみましょう。赤ちゃんは最初に口のまわりが発達します。だから、なんでも口に入れて舐めようとする。でも、口に入れてはいけないものもありますよね。そこで「これは口に入れちゃ駄目」とものを取り上げるのではなく、そういうものは最初から排除しておくのです。これも環境を用意するということです。そして、「音楽も環境」のひとつです。ここでお伝えしておきたいのは、「音楽教育」と「音楽家教育」は別のものだということ。音楽家教育はピアニストなど音楽の専門家に育てるための教育で、幼いころからフィギュアスケートを習わせるようなものですね。一方、公教育における音楽教育は「音楽という環境を通した教育」です。確かに音楽教育でも音楽の知識や技術を教えますが、それに重きを置いたものでは決してありません。歌を歌う、聴く、楽器や周囲のもので音を出すといった音楽を通して子どもの感性を磨くことを重視したもの——それが、子どもの成長に欠かせない音楽教育なのです。『感性をひらく表現遊び―実習に役立つ活動例と指導案 音楽・造形・言葉・身体 保育表現技術領域別』岡本拡子 著/北大路書房(2013)■ 音楽教育のエキスパート・岡本拡子先生 インタビュー一覧第1回:幼少期における音楽体験の意味――「音楽という環境」を通し子どもの感性を伸ばす第2回:子どもの感性を育む「歌と五感」――幼い子どもの成長につながる歌ってどんな歌?第3回:「手遊び歌」が子どもにもたらすもの――楽しく歌うことが「学びの姿勢」につながる第4回:【年齢別おすすめ】子どもの想像力がアップする!5つの「手遊び歌」【プロフィール】岡本拡子(おかもと・ひろこ)1962年8月25日生まれ、大阪府出身。大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程音楽教育専攻修了。聖和大学大学院教育学研究科博士後期課程幼児教育専攻満期修了。聖和大学助手、美作大学短期大学部講師などを経て、現在は高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授。大学在学中より幼稚園や小学校などで「歌のお姉さん」として活動。その後、子育てをしながら大学院で幼児教育を学ぶ。現在は保育者養成に携わりながら、幼児やその保護者を対象としたコンサートや保育現場でのコンサートをおこなうほか、子どもの歌の作詞・作曲を手がける、保育者研修の講師を務めるなど、幅広く活躍する。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年10月30日もう夏のボーナスは出ましたか? 幸い(?)まだ使いきっていない人は、“家電タレント”が『女性自身』読者のために厳選した、家電の購入を考えてみては? 紹介するのは、俳優・タレントとしてドラマや映画などで活躍するかたわら、熱い家電愛を披露し、家電王子として人気の細川茂樹(44)。キーワードは「自慢」だ。 【精米機】エムケー精工小型家庭用精米機「RICELON」 「精米機は実際使うと感動します。お米は一度精米すると、次第に劣化しますが、これで精米しなおすと、おいしさがよみがえります。この最新型は0.5合から対応できるという圧倒的なコンパクトさなので、おひとりさまでも便利。ペットボトルサイズなので場所もとりません」(細川・以下同) 【ヨーグルトメーカー】タニカヨーグルティアS 「あまたのヨーグルトメーカーのなかでも最上位機だと思っています。最初のモデルは’71年に誕生したので、僕と同じ歴史が。幅広い温度調節機能があり、味噌や甘酒まで簡単につくることができます。『レシピどおりにつくれば、まず失敗しない』と、信頼しています」 【送風機】ボルネードサーキュレーター6303DC 「ボルネード社は飛行機のプロペラを作っていた米国の会社です。5月末に出たばかりのこの製品は、よりパワフルになったうえ、音はかなり静かになりました。消費電力も少ないし、コンパクトでスタイリッシュ。アンティーク風のファンもかなりかわいい」 【アイロン】ティファール2in1 スチーム アンド プレス 8630 「ティファールというと鍋が有名ですが、アイロンでも実績が。わが家には4台アイロンがあり、それぞれいい仕事をしますが、特にこの製品は洋服をつるしたままシワを取ることができるので、毎日使っても苦になりません。スチームアイロンは除菌も簡単にできます」 家電選びは「“5つのJ”をポイントにしています」と語る細川。5つのJとは時短・除菌・自動・実績・自慢だという。 「その製品のおかげで、どれだけ手間や時間が省けるか(時短)、パーツを取り外したりして手入れが可能かどうか(除菌)、などを選ぶ際の基準にするのです」 ますます進化を続けているロボット掃除機や、しゃべる冷蔵庫は「自動」、製品の故障が少なく評判がいい場合は「実績」があてはまる。 「『自慢』は、ほかの人に自慢できたり、胸をはってススめることができる製品かということですね。家電選びで悩んだら、この5Jを思い出してください」
2017年06月24日俳優の細川茂樹が28日、東京・有明の東京ビッグサイトで行われた、英映画『007 スペクター』の特別トークイベントに出席した。12月4日から全国公開する本作は、ジェームズ・ボンドが活躍するスパイ映画『007』シリーズ最新作。30日から11月8日まで開催する「第44回東京モーターショー」では、ボンドの"相棒"とも言えるアストンマーティンの限定モデル「DB9 GT ボンド・エディション」を、WOWOWブースで日本初披露する。黒のタキシード姿で登場した細川は、世界限定150台生産&日本入荷10台というプレミアモデルを前に、「いつもは隣りに家電があるけど、今日は憧れのボンドカーと一緒なんて光栄中の光栄。かなりテンション上がってます!」と大興奮で、「かなり完成度が高い作品。男性はもちろん、女性も紳士的なボンドを楽しんで」とアピールした。『007』シリーズのDVDを全巻所持し、正月に必ず見直すほどの大ファンだと言う細川は、「憧れのヒーロー。ボンドがつけてるアイテムは、すべて身に付けたいと、オメガやアストンマーティンを買った。お酒はどこ行ってもマティーニを飲んでましたね」と告白。最後は、「(ボンド役は)俳優としてうらやましい……。日本版の『007』があれば、お金はいらないからやりたい」と熱い想いを吐露していた。なお、WOWOWでは、11月28日の放送イベント「TOUCH!WOWOW2015」内で、本作とコラボレーションした特集「ジェームズ・ボンドに愛をこめて」を実施する。
2015年10月29日