大人も子どもも、家族みんなが過ごしやすい家づくりに大切なことってなんだろう? vol.7では、都内とは思えないほど静かでのどかなエリアにある、〈Uhr〉ディレクター・濱中鮎子さん家族の住まいへ。家の中には、名作家具やアートなど、気になるおしゃれなものがたくさん! さっそく子育ても家事もおしゃれもはかどる、理想の住まいのヒントを探ります。profile濱中鮎子さん〈Uhr〉ディレクター大手セレクトショップに勤務後、2018年よりウェアブランド〈Uhr〉を立ち上げる。2021年からはキッズラインもスタート。夫は〈BEAMS〉の〈ピルグリム サーフ+サプライ〉のディレクターを務める泉貴之さん。Instagram:@ayukohamanakaFAMILY:4人家族(パパ・ママ・長女4歳・次女1歳・猫14歳)HOUSE TYPE:ヴィンテージマンション/リノベーションHOUSE DETAIL:築50年/120㎡/3LDK+バルコニーAREA:東京都こだわりの住まいについて大きな樹木に囲まれた空間で、名作家具と豊かな家族時間を「マンション内には区の保存樹林として指定されている大きなケヤキの木が何本もあって、夏は葉のおかげで涼しく、冬は葉が落ちることで太陽がたっぷり部屋の中に差し込みます」。濱中さん家族の住まいは、都会の喧騒から少し離れた場所にある、メゾネットタイプのヴィンテージマンション。バルコニーが3つもある、ちょっとユニークな物件だ。「バルコニーではチョーク遊びをしたり、夏はプールを出して遊んだり、公園に行く時間がなくても気軽にピクニック気分で食事を楽しめたり。家族の憩いの場として活躍しています」インテリアはフォークアート、ミッドセンチュリー、北欧ヴィンテージなど、いろんなジャンルを自在にミックス。家具は時代を超えて愛されてきた、世界の名作を厳選している。「娘たちには小さな頃から家具は大切にするようにと言い聞かせています。なかには、夫が海外から持ち帰ってきた思い出の椅子も。『これ父ちゃんの大事な椅子だよ』と伝えると、『父ちゃんの大事?』と言いながらそっと座ってくれます(笑)。いい家具は暮らしが豊かになるし、将来資産にもなるので、子どもたちと一緒に大切に使い続けたいです」LIVING吹き抜け天井で、のびのび気持ちいいリビング窓の外に見えるダイナミックなケヤキの木と、ピンクのサーフボード、〈ジョージ・ネルソン〉のヴィンテージのバブルランプがアクセントのリビング。「今は子どもが小さいので、テーブルは置かず、走り回ったり、オモチャを広げて遊びやすいレイアウトにしています。リビングは夫婦ふたり暮らしの頃から、娘2人が生まれるまで、家族が過ごしやすいようにその都度アップデートしてきた思い出深い空間です」天井高5〜6mのリビングでは、戸建てのような解放感を味わえる。上に見える小窓は子ども部屋につながっている。〈Peter Hvidt & O.M.Nilsen〉の3人掛けソファは、チークの無垢材を贅沢に削り出したダイナミックなフレームが特徴的。「子どもたちがなにかこぼしてもすぐ洗えるように、また猫の爪研ぎ防止のためにもカバーは必須です」バルコニーのテーマは、“ワイルドガーデン”。植物のチョイスは、ボタニカルブランド〈QUEPASADA〉の金子未由さんが担当。「きれいに整った植物よりも、少し枯れていたり、ちょっと曲がっていたり、ワイルドに生き生きと育つグリーンが好き。わが家のバルコニーは屋根がなく、植物にとってはなかなか過酷な環境なのですが、それでも育てやすいグリーンを試行錯誤して選んでもらっています」〈ウェグナー〉のThe Chair は、濱中さん宅のシンボルチェア。「猫も子どもも平気で座っていますが(笑)、わが家にある名品です。家具はできる限り、価値の変わらないものを増やしていきたいです」天然素材の柳を使用し、職人がハンドメイドでつくり上げたポーランド製のクラシカルな乳母車。「これは遊びに来る子どもたちみんなに大人気! 長女はこれにつかまりながら、はじめて歩けるようになりました」ダイニングとリビングをつなぐ廊下には、〈Peter hvidt & Orla Molgaard Nielsen〉のヴィンテージブックシェルフが。棚上には“花”にまつわるものをディスプレイ。「娘ふたりとも名前に花がついているから、わが家にとって特別なモチーフ」。壁にかけている絵はtokunaga keiichiroさん(左)と、IZUMIDA LEEさん(右)の作品。DININGお気に入りの雑貨やアートに囲まれた、家族と食事を楽しむダイニング〈ジャン・プルーヴェ〉のダイニングセットと、ベニワレンのラグがかっこいいダイニングエリア。「わが家はリビングとダイニングが完全にセパレートしている間取り。リビングは遊んだりリラックスする場所、ダイニングは食事を家族と楽しむ場所。そうメリハリをつけることで、ダラダラ食べすることもありません」。子どもたちにとって食事が楽しみな時間になるように、小さな工夫もしているという濱中さん。「気分が上がるように、娘の好きな色の食器を選んだり、たまには新しいカトラリーを取り入れてみたり。人を招いてみんなで食事をするのも喜んでくれます」〈Kai Kristiansen〉の大きな飾り棚には、いろんなテイストの雑貨や器をミックス。収納に悩む大皿は、スタンドを使って魅せるインテリアに。「飾っている白いお皿は、額賀章夫さんの笠間焼。オープンスタジオで購入しました。来客が多いわが家で大皿は必須です!」棚の中段には、愛猫・チャイくんを迎えてから徐々に増えていったという猫雑貨も。可愛い黒猫のティーポットはイギリスのセラミック&ホームウェアブランド〈Otter Potter〉のもの。「手づくりなのでひとつひとつ表情が違うんです。割るのが怖くてお茶を淹れる勇気はなく、見て楽しんでいます(笑)」チャイくんのごはんスペースは、可愛いラグがアクセント。左のカリカリの器は長崎の波佐見焼ブランド〈HASAMI〉のもので、右の水飲みボウルは、水をまろやかにしてくれる天然希土類など、さまざまな鉱石を含む鉱物とバイオセラミックスを焼成しつくられた器。さらなる健康づくりのために、医療分野で注目されている“テラヘルツ”の猫型セラミックプレートも併用。濱中さん宅はどこの壁を見てもアートで賑やか。「主に友人のアーティストさんの作品や、美術館や展示会で購入したポスターなどを飾っています。ダイニングエリアには、Shawn StussyやSerena Mitnik-Miller、Russ Pope、Mayumi Yamaseなどファッションやスケート、サーフカルチャーに関係性の強いアーティストの作品を飾っています」ぐんぐん成長しているダイナミックなセロームは、濱中さん宅のシンボルツリー。「水はあげすぎるよりも忘れるぐらいがちょうどいいそう。水やりを忘れがちな私と、とても相性のいい子なんです(笑)」BEDROOM名作ベッドがかっこいい!アースカラーのリラックス空間落ち着いた色味で統一されたベッドルーム。ベッドは〈ハンス J. ウェグナー〉のヴィンテージ。籐編みのベッドヘッドに、ナイトテーブルが付いたなかなか珍しいモデル。照明はもともとダイニングで使っていた〈ルイスポールセン〉のPH5。「寝室はあまり採光を必要としない空間なのでペンダントライトでも十分。今後はよりベッドまわりを充実させていきたいです」保護猫で4歳の頃に迎えて、今は14歳になった愛猫・チャイくん。昼間の定位置はだれも来ない静かなベッドの上。「もともと猫カフェにいたチャイくん。のちに、持病があり集団生活ができないことがわかり、里親サイトに出されていたところを、私たちが引き取りました。今は持病も落ち着いています。爪を出したことも、シャーッとしたこともなくて、みんなから“神様”と呼ばれているほど穏やかな性格。娘たちが寝静まったあと、お腹を広げて甘えてくる姿がとても可愛いんです♡」寝室の壁付け棚は〈アアルト〉。ポットはサンフランシスコの陶器ブランド〈HEATH CERAIMCS〉のもので、象のブックエンドもアメリカで購入したヴィンテージ品。「飾られている猫の絵はチャイ。これはイラストレーターの花井祐介さんに描いてもらいました」ナイトテーブルに並ぶ3つのオブジェは、〈BEAMS〉のデザインとクラフトの橋渡しをテーマとするブランド〈fennica〉のこけし。「宮城のこけし作家さんに、昔あったデザインを復刻してつくってもらったもの。どこか北欧雑貨のような雰囲気もありますよね」KIDS ROOM親子でときめく、ピンクの子ども部屋「長女のマイブームはプリンセスやピンク色。ピンクのインテリアでも、年齢によって飽きてしまうものではなくて、親子で相談しながら長く使い続けられるものを選ぶようにしています。子ども部屋はあくまで、子どもたちが好きなもの、楽しいものを詰め込んだ空間にしたいですね」。インテリアには、メキシカンな要素もプラスしていて、ラグは白とピンクの配色が珍しいベニワレン。ベッドにかけているハートのキルトは〈SZ Blockprints〉のもの。チラッと見えるブルーのストライプの裏地も可愛い!ベッドサイドテーブルは旦那さんがアメリカで購入し、どうにか持ち帰ってきたという思い出の品。「ここには娘たちの好きな花を飾っています。フラワーベースとして使っているのは、ワインのビン。夫がナチュールワイン好きで、エチケットが可愛いボトルはストックしています」信じられないぐらいお値打ち価格で販売していたという、メキシコの民芸家具“エキパルベンチ”。「衝動買いしたもののずっと置き場所がなくて、ようやく子ども部屋で日の目を見ました!」。ソファの際にちょこんと顔を出す〈Manhattan Toy〉の猫のぬいぐるみや、〈イヴ・サン=ローラン〉のピンクのポスターも可愛い♡サンタさんがプレゼントしてくれた子ども用キッチン。家具通販サイト〈わくわくランド〉でも手に入るもので、キッチンスタイルとカフェスタイル、どちらも楽しめる。「オモチャはできるだけ木製のものやリサイクル素材のもの、長く使えそうなものを選ぶようにしています」いろんな布を組み合わせたキュートなカーテン。「可愛い生地を組み合わせて取り付けただけの簡単アイディア。花柄の布は大判のストールです」『あたし、ねむれないの』(カイ・ベックマン作)は、姉妹揃って大好きな絵本。「人形と一緒じゃないと眠れない女の子が、次から次へとベッドに人形を連れてくるお話。絵も可愛くて、内容もおもしろいのでおすすめです!」この静かな家で過ごすのどかな時間を大切にしたいと思えたことで、仕事中心の生活から、“生活の中に仕事がある感覚”でワークライフバランスを上手く保てるようになったと教えてくれた濱中さん。ジャンルミックスのインテリアコーディネートや、家具のセレクトなど、ぜひ参考にしてみてくださいね。
2024年01月28日テクノロジーで気軽な住み替えをサポートする株式会社 property technologies(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:濱中 雄大、証券コード:5527、以下「当社」)の代表取締役社長である濱中 雄大は、学校法人明海大学(浦安キャンパス:千葉県浦安市、理事長:宮田 淳、以下「明海大学」)の不動産学部 不動産会計財務論(教授:山本 卓)に、2023年6月12日(月)外部講師として登壇しました。本講義で代表・濱中は、明海大学の外部講師として登壇するのは2回目となります。また同日、株式会社千葉銀行の「地方創生私募債(愛称:みらいはぐくみ債)」の寄贈式を行いました。■本講義について明海大学 不動産学部は、日本で唯一不動産学を学べる学部であり、不動産会社への就職を目指す方のみならず、起業を目指す方や家業を継ぐ方が在籍しています。本講義は、次世代の不動産業界を支える学生たちに向け、学生のキャリア形成支援や不動産業界のさらなる活性化の一環として行っており、不動産業界を志す学生に当社グループでの活躍の場を提供することなど、明海大学と連携し積極的に取り組んでおります。■当日の様子株式会社千葉銀行の「地方創生私募債(愛称:みらいはぐくみ債)」を通じたホワイトボードの寄贈式が行われ、代表濱中から不動産学部長の中城様へ目録をお渡ししました。寄贈式の様子外部講師として登壇する様子講義をする代表濱中その後、不動産学部 不動産会計財務論を受講している3、4年生を対象に不動産業界のイメージについてアンケートを行い、アンケート結果を基に、代表濱中より「リアル×テクノロジー」によって新たな不動産取引を提供している経営者の視点から講義を行いました。続いて、当社PropTech戦略部CTO金子 健哉と当社グループの株式会社ホームネットの若手営業社員2名を交えてパネルディスカッションを行いました。テクノロジーを活用することで業務効率化を図り、営業社員の成果を出しやすくする仕組みについて、それぞれの視点から話しました。CTO金子、他登壇者人事本部長英、他登壇者また、明海大学向けの選考フローとインターンシップの実施説明を行い、多くの学生の皆さまから応募をいただきました。講義には100名弱の学生の皆さまに聴講いただきました。「リアル×テクノロジー」を実践している当事者の声を届けることによって、テクノロジーを活用する不動産会社という点に興味を持っていただけた様子でした。今後も当社の成長に伴い、未来を担う若者につながる取り組みや地域社会へ貢献できる持続可能な取り組みを広げてまいります。■参加した学生からの声(一部抜粋)「独立したいと考える私にとって、代表の方から直接お話が聞けることが何よりも嬉しかったです。」「今年入社した新卒社員の方にもお話が聞けて、社会人になった自分の姿を想像することができました。」「営業だけでなく、広報担当の方やシステム開発責任者の方からもお話を伺えて、より社内の雰囲気を知ることができました。」「人事本部長の方のお話も聞けて、安心して選考に臨めると感じました。」■明海大学について<明海大学概要>学校名:学校法人明海大学代表者:理事長宮田 淳学長中嶌 裕URL: 浦安キャンパス:千葉県浦安市明海1丁目坂戸キャンパス:埼玉県坂戸市けやき台1-1■株式会社property technologies(プロパティ・テクノロジーズ)について「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」というミッションを掲げています。年間20,000件を超える不動産価格査定実績やグループ累計10,000戸超の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、「リアル(住まい)×テクノロジー」で実現する「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来に向け、手軽でユーザーにとって利便性の高い不動産取引を提供しています。<会社概要>会社名:株式会社property technologies代表者:代表取締役社長濱中 雄大URL: 本社:東京都渋谷区本町3-12-1 住友不動産西新宿ビル6号館12階設立:2020年11月16日上場:東京証券取引所グロース市場(5527) 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年06月13日1958年、NHK局員だった金子鮎子さん(88)は、ご婚約直前の美智子上皇后のお姿を撮影できたことが認められて、日本初の女性テレビカメラマンになることができた。順風満帆にみえた金子さんだが、紆余曲折を経て精神障害者支援への道を歩んでいくことになる。【前編】日本初の女性テレビカメラマン明かす「美智子さまご婚約直前の極秘撮影」秘話から続く■社会的に孤立していた精神障害者に寄り添いたかった念願のカメラマンになった金子さんは、事件があれば米国製の16ミリカメラを手に局を飛び出した。1964年の東京五輪では、女子選手村に入り、選手たちのプライベート映像をカメラに収めた。女性として第一線で働く金子さんの姿は、美智子さまと同様に時代の華として、週刊誌などでもたびたび紹介された。順風満帆に思えた金子さんのキャリアに転機が訪れたのは、カメラマン9年目の1968年。広報室へと異動になったのだ。金子さん35歳のときだった。「当時はまだ、労働基準法の保護規定で、女性の深夜労働が禁止されていたんです。キャリアを重ねたら多少お給料は上がるけれど、深夜労働ができない女性は、デスクとしては使いにくい。今なら問題でしょうが、当時は仕方ないと思いました」だが、転んでもただで起きない。これを機に、幼少期から関心があった心理学について学ぼうと、週に1度、仕事帰りに東京カウンセリングセンターに通い始めた。「そこの先生が、うつ病の当事者が集まる会を作ったというので、手伝いに行くようになったんです」ここで出会ったのが、心の病いに苦しむ当事者や、その家族だった。「幻覚や妄想などがある統合失調症は、10代で発症する人も多く、回復までに長くかかります。ひきこもりになると、本人も家族も苦しいし、家族間の関係性も悪くなってしまう。さらに、周囲からは偏見の目を向けられて、社会で孤立していました」幼少期の劣等感が思い出され、人ごととは思えなかった。「人は誰しも、深刻な出来事が重なれば心の病いになりかねません」金子さんは、知り合いの精神科医やカウンセラーなどと一緒に、1971年に障害当事者が集まる「日曜サロン」と、家族が集う「家族会」をオープン。「日曜サロン」は、現在までなんと50年以上も続いている。「心の病気のことって人に話しにくいじゃないですか。だから、心置きなく話せる場所を作れたらと思ってね。じっくり話を聞くだけでも、ご本人や、お母さんの表情が柔らかくなるんです。お母さんは、子どもにつらくあたったりしなくなるし。それだけでも、ずいぶん親子の関係性が変わるんですよ」■精神障害者でも働ける社会へーー株式会社を設立当事者やご家族から厚い信頼を得るようになった金子さん。NHKの勤務がない時間は、精神障害者宅を訪問して話し相手になったり、精神障害者を支援する会で病気のことを学んだり……。「仕事や勉強で手いっぱいで、結婚には前向きになれなくて」金子さんは、結婚より精神障害者と共に歩む道を選び取っていた。そんななか、「働いて自立したい」という精神障害当事者が多いことに気づく。「当時、NHKに入っていた清掃会社にお願いしてまわり、精神障害者の方を数名、雇ってもらったんです。いきなりフルタイムは無理でも、一日数時間から徐々に延ばしたら、長く働ける人もいてね。サポートすれば精神障害があっても、ご本人次第で働けると確信しました」NHKで働きつつも、金子さんの心には、「精神障害者と共に働く会社をつくりたい」という思いが年々膨らんでいった。「私は医師でも保健師でもない。だから“支援”なんていう上から目線じゃなくて、手助けしながら“一緒に”働きたい。ただそれだけでした」1988年、金子さんはおよそ34年勤めたNHKを55歳で定年退職。翌1989年、志を同じくする仲間と共に、精神障害者が働く清掃会社、株式会社ストロークを起業する。障害者は数百円の工賃しかもらえない時代、社会福祉法人などではなく、株式会社にこだわったのは「障害があっても仕事に見合う賃金が支払われるようにしたかったから」と金子さん。社名のストロークには、なでる、さするなどの意味がある。「赤ちゃんでも、スキンシップや周囲からの声かけが多いほどすくすく育つでしょう。そんなプラスのストロークを、もらうだけじゃなく、障害があってもこちらから発信して社会の役に立ちたい。社名にはそんな思いを込めたんです」金子さんの熱意を目の当たりにし、応援団は増えていく。「NHK時代の仲間や地域医療に関わってきた医師、たくさんの支援仲間、そして他界する直前だった父も株主になってくれて。起業を後押ししてくれました」一方、美智子さまは、1989年に昭和天皇が崩御し現在の上皇陛下が天皇に即位されたことで、初の民間出身の皇后になられる。新しい時代の扉は開きつつあった。■村木厚子さんらと実現した障害者雇用の道金子さんは、清掃会社でアルバイトをしながらノウハウを学んだ。しかし、簡単に事は進まない。「働きたい思いはあっても、社会経験がなかったり、薬を服用しているせいで朝起きられなかったりする人も少なくありません。『睡眠薬を飲んだので、明日は起きられません』と夜中に電話がかかってくることもあります。ですから私は事務所で寝泊まりして、急に休む人が出た場合は、代わりに現場に入る準備をしていました」事なきを得たからよかったが、金子さんは脳梗塞で倒れる71歳まで、事務所で寝泊まりする生活を送っていたという。みずからの命を削りながらも、金子さんは、精神障害者の人たちが働けるようになるまで「待つ」ことを諦めない。「一日数時間、週に数回のシフトから始めて、慣れたら入る時間や回数を増やしていく。そうすると、うまくいく場合が多い。調子が悪いときは、調子のいい誰かが入る。サポートがあれば、障害があっても職を失わず働き続けられるんです」金子さんの愛情は、障害当事者にもしっかり伝わっていった。勤続27年目のスタッフで統合失調症の持病がある只隈光人さん(65)は、こう振り返る。「入社してしばらくは、調子が悪いとすぐに仕事を休んでいました。でも金子さんは一度も怒らず、『仕方ないわね』とカバーしてくれた。でも、私が休むと、日ごろから無理をしている金子さんの負担がさらに増えてしまう。そう気づいてから仕事を休まなくなりました」とはいえ、一企業ができることには限界がある。金子さんの目標は、精神障害者の人たちが当たり前に働き、自立できる社会の仕組みをつくることだった。そのために、次々と各方面に働きかけた。「通称“職親会”といって、精神障害者の社会復帰のために働く場を提供してくれる小さな事業者(職親)の集まりがあるんです。こうした職親の取り組みを広く紹介したり、2000年からは2期にわたって厚生労働省主催の委員会の一員になり、どうやったら精神障害者が就労できるか、具体策を示して民間企業へ雇用を働きかけたりしました」当時から一定規模以上の企業は、身体・知的障害者を雇用せねばならない義務があった。しかし、精神障害者に関しては理解が進まず、雇用義務から外されていたのだ。さらに金子さんは、障害者雇用に道を開いた、当時厚労省の局長だった村木厚子さんの勉強会にも積極的に参加した。「いろんな障害者支援のグループの方々が夕方、厚子さんの局長室に集まって意見交換するんです。厚子さんは、こちらの意見にも熱心に耳を傾けてくださって、精神障害者の雇用を増やすために一緒に考えてくださいましたね」これらの勉強会を経て、2006年には「障害者自立支援法」が成立。障害者雇用促進法も改正されて、2018年ようやく企業での精神障害者の雇用も義務化されたのだ。「長い道のりでしたが、やっとスタートラインに立てた。そんな気持ちでしたね。私が起業したころは、ハローワークの人に『精神の病気を治してから来てください』と言われる時代でしたから」金子さんの脳裏には、これまで泣き笑いしながら共に働いてきた仲間たちの顔が浮かんでいた。■天皇皇后両陛下に謁見。陛下は驚かれて……64年前、正田邸で出会った若かりし日の美智子さまと金子さん。2021年12月20日、時代を経て2人の人生が再び“接近”する出来事があった。金子さんが、福祉の道で貢献した個人や団体に送られる「第73回保健文化賞」を受賞したのだ。同賞の受賞者は天皇皇后両陛下に謁見することが慣例となっており、金子さんは今上陛下と雅子さまにお会いすることができた。「陛下にこれまでの取り組みを申し上げると、陛下は、『それは大変でしたね……』と、私の話に熱心に耳を傾けてくださいました」天皇陛下の福祉へのご関心の高さは、母である美智子さま譲りなのかもしれない。ご成婚の年である1959年7月に、母子愛育会をご訪問されたときから、美智子さまの福祉施設へのご訪問は始まった。それから、半世紀以上にわたって、全国の福祉施設や病院を訪問され続けた。こうしたお姿が、国民にとって御簾の向こうにあった皇室を身近なものにしたことは間違いない。「美智子さまが訪問された病院を、直後に、厚労省の委員として視察に行ったこともありました。美智子さまも障害者の支援に、ずっと熱心でいらっしゃいました」お代替わりもあって、残念ながら美智子さまにお会いすることはかなわなかったが、お志を継がれた天皇皇后両陛下に、金子さんはこれまでの活動をご報告できた。「陛下には、美智子さまをご婚約内定前に撮影させていただいたお話もさせていただきました。そうしたら『ほぅ』と驚いていらっしゃったわね(笑)」皇室の扉を国民へーー。就労の扉を精神障害者へーー。64年前、夢と希望を胸に抱いて、同じ部屋でひとつの時を共有した2人の女性たちは、とびきりの勇気と優しさで、固く閉ざされていたドアを開いたのだ。
2022年06月12日現在妊娠10ヵ月の<Uhr(ウーア)>ディレクター・濱中鮎子さん。期間限定のマタニティ期のファッションを存分に楽しんだり、インナーやボディケアにこだわったり……。常にポジティブに楽しむことを大切にする彼女が、日々大きくなる愛おしいお腹のベビーと過ごすマタニティライフに密着しました。name:濱中鮎子さんjob:Uhr ディレクターInstagram:@ayukohamanakaセレクトショップを退社後、自身のブランド<Uhr>を立ち上げる。出産を機にサスティナブルな子ども服も展開スタート。2022年1月末に第2子出産予定。CONTENTS1.マタニティファッションのこと2.マタニティ期のおしゃれのこと3.マタニティインナーのこと4.ベビーアイテムのこと5.ボディケアのこと6.マタニティ期におすすめの飲み物7.出産までにやりたいことMaternity life #01インパクトのあるスタイリングを<マタニティファッションのこと> < Coordinate_01 >統一感の出るカラーコーデ「臨月に入ってびっくりするくらいお腹が出てきたので、そのお腹のインパクトに負けないようなドレスを選びました。昔からずっと着ている<ISA ARFEN>のドレスと古着のアウター、<THE ROW>のシューズでグリーン×ブラックのトーンでまとめて、統一感を出しています」< Coordinate_02 >ビッグシャツで軽さをプラス「長年愛用している<NEEDLES>のレオパード柄のコートを主役に、中は<Uhr>のカーディガンと<R JUBILEE>のニットパンツをセットアップのように着ました。ニットパンツが裾でたるむ感じが気に入っています。きれいなイエローの<Uhr>のビッグシャツは、ほどよい透け感があり、お腹をすっぽり包みながらも軽さをプラスしてくれます」< Coordinate_03 >ストレッチ素材で着心地も重視「<Uhr>のVネックのカーディガンは、1枚で着て胸元をすっきりと見せてもいいのですが、フリルなどディティールのあるものを合わせると、表情が変わって楽しいです。同じく<Uhr>のストレッチ素材のタイトスカートは、妊娠中1枚あるととても便利。ボリュームたっぷりの<FABIO RUSCONI>のブーツに合わせて楽しみます」Maternity life #02期間限定のスタイルを楽しむ<マタニティ期のおしゃれのこと> 気分もファッションもポジティブに「“これしか着られない”というマインドではなく、普段着ているものを違ったスタイリングで着られる今だけ限定のスタイルを楽しむように考え方を持っていきます。もちろん臨月近くなってくると、ボトムス不足になりますが、それでもちょっと普段と違う体も受け入れて、楽しむようにしています。お腹がわかりにくいスタイルではなくわかりやすいアイテムも取り入れて、なにかとネガティブになりがちなマタニティ期を、ファッションからポジティブに乗り越えたいと考えています!」Maternity life #03やさしい素材感と満足な機能性<マタニティインナーのこと> 素材やカラーにもこだわってチョイス「<Emilyweek>からマタニティランジェリーが新たにデビューしていて、そちらを愛用しています。締め付けがなく、妊娠掻痒になり全身かゆくて仕方なかった私にも大丈夫なやさしい素材感です。産後の授乳期にも使えそう。色もシックで落ち着いていて好みです」Maternity life #04ひとり目の経験を活かして<ベビーアイテムのこと> 長女とのリンクコーデを楽しみに「上の子が2歳なのでお下がりがメインになりそうなのですが、<ル・プティ・ルカ・デュ・テルトル>のキルトは、マットやお布団としても使えるので新たに購入しました。<ミーシャ&パフ>のブルマも新調。肌着類はオーガニックコットン素材のものを。上の子のとき必要だったもの、そうでなかったものなどがわかったので、まずは最小限で準備をしています。ロンパースなどは<プチバトー>で揃えています(お洗濯してもへたらないので!)。あと人気の<シリーサイラス>のタイツは長女とお揃いのものを準備しています。姉妹予定なので、お揃いスタイルも楽しみたいとワクワクしています!」Maternity life #05さまざまなトラブルに対応!<ボディケアのこと> 妊娠線対策&保湿におすすめ!「今回の妊娠で妊娠掻痒になり、お腹や足、背中など体中を掻きむしってしまい、いろいろなものが使えなくなりましたが、最初の妊娠でも使っていた、<ソンバーユ>のクリームがいちばん体に合っていました。妊娠線対策などにもおすすめです。あと<Waphyto>のルブリカントはデリケートゾーンに使える保湿セラム。妊娠中はトラブルが起きやすいデリケートゾーンにもベタつかず使えておすすめです」Maternity life #06リラックスできるものを中心に<マタニティ期のおすすめの飲み物> 気持ちが落ち着くルイボスティと生姜のはちみつ漬け「普段コーヒー一辺倒な私ですが、<マリアージュ フレール>のルイボスティーシリーズにとても癒され、飲むと気持ちも落ち着いて助けられました! 写真右のマルコ ポーロ ルージュ カフェインフリー ルイボスティーは、甘すぎず香りを楽しめます。キャンプにも持参したほどお気に入り。写真中央のカリソン® フレーバード ルイボスティーは、南仏プロヴァンス地方の伝統菓子「カリソン」のアーモンドや甘いフルーツの香りが◎。パッケージも可愛いし、味もおいしくてよく飲んでいます。生姜がたっぷり入った、生姜のはちみつ漬けは<成城石井>で購入。お湯で溶いて飲んだりして、体を温めています」Maternity life #08産後のことを考えながら<出産までにやりたいこと> 長女との時間を大切にしたい「上の子との時間をきちんとつくって楽しみたいです。あとは、気分の上がるバッグを買うこと! 産後外出できるときの楽しみになります」\\こちらの記事もおすすめ!//マタニティパンツ、みんな買ってる? 上手な選び方&おすすめ最旬20選おしゃれに残そう! マタニティ&ニューボーンフォトの人気出張カメラマン
2022年01月26日ファッションや料理の世界で活躍する飼い主さんの猫を紹介。愛してやまない相棒の存在が、クリエイションの源です。イームズの椅子を愛する目の肥えたオシャレボーイ!チャイ坊さん(♂8歳)Instagram ID:@ayukohamanaka海外の写真集が並ぶ本棚の前で幸せそうに寝転がるチャイ坊くんは、ベニワレンラグとクッション、イームズの椅子がお気に入りの場所。それもそのはず、飼い主さんはファッションディレクターの濱中鮎子さん。猫とオシャレなライフスタイルをキープするコツは?「チャイは、私が里親になった時にはもう大人で、おもちゃで遊びませんでした。なので、猫グッズは必要最低限のものだけ。そうすると空間が崩れません。でも、ラグをかじられたって全然平気です。ラグは新しいものを買えても、チャイの代わりはいませんから」帽子ブランドのデザイナーからのプレゼントを試着。「夏は、麦わら帽をかぶったチャイと海に出掛けたいです」“かわいい”と“美味しい”。猫×お菓子、最強の組み合わせ!ボナさん(♀3歳)Instagram ID:@higuccini由来はフランス語の「ボナペティ」と、料理家の猫らしい名前のボナさん。飼い主の樋口正樹さんは、ボナさんと一緒にお菓子レシピ本『バビブベボナさん』を作った。上の写真のように、コーヒーゼリーの上にのったソフトクリームと猫型のサブレが、今にも傾きそうなところを見つめていたり、ボナさんとお菓子が絶妙なタイミングで撮影されている。「撮影は1日1品。余裕をもって2か月ほど時間をかけました。後半は、撮られることにすっかり慣れて、お菓子が焼き上がる頃を見計らい、椅子にスタンバイしてくれてました」お菓子作り用に常温で置いた卵を見張り中。「ボナはいつもおとなしくしてくれて、なんだか頼りにもなります」※『anan』2019年5月15日号より。取材、文・小泉咲子協力・anicas(by anan編集部)
2019年05月10日神奈川県横浜市の横浜中華街で11月1日~30日、「第8回美食節 横濱中華街フードフェスティバル」が開催される。○お得な「ガチャポン」も登場同イベントは、横浜中華街の魅力をより多くの来場者に知ってもらうために開催される。8回目となる今回のテーマは「食・遊・感・喜」。30日の18時30分から21時にローズホテル横浜2階「ザ・グランドローズボールルーム」で行われる「コラボレーションディナー」(参加費用1万2,000円/定員300人、申し込み多数の場合は先着順)では、横浜中華街プロデュースによるフルコースディナーが一夜限りのスペシャルメニューとして登場する。1日の12時から15時まで中華街パーキングで実施される「点心品評会&点心フェア」(参加費用1,500円)では、各店舗自慢の点心を出品する。さらにこの季節しか食べることができない食材「上海蟹」を堪能できる「上海蟹フェア」(各店舗ごとに開催日時が異なる)や、21日14時と22日10時/14時からの3回にわたり行われる料理教室「親子でチャレンジ! 本格中華のすすめ。」(親子2人1組1,500円・子どもひとり追加につき500円増)などが開催される。また期間中を通じて、中華街の新しい楽しみ方を提案する「チャイナタウンcafe&barフェア」や、中華街の案内所「ChinaTown80」において参加店舗で利用できる500円分のチケットや賞品などがもらえる「好吃ガチャポン」(1回500円)も展開する。(C)横浜中華街発展会協同組合
2015年10月30日翌日、会社の帰りに鮎子に揺れる気持ちを打ち明けることにした。日が暮れるのが早くなり真っ黒な夜がそこまで来ている。街路樹は寒そうに北風に揺れている。ふたりはコートの襟を立てながら駅に続く道を足早で歩いた。桃香は今の気持ちを鮎子に話した。鮎子はいつもとちがってしょんぼりしているようだ。桃香はひと息ついて話しかけた。「慎ちゃん、私のこと好きなのかな? 私は好きだけど、恋っていうのかどうかわかんないんだ。怪我で殻に綴じ込もてったから引っ張りだしてあげたかった。お世話してあげたいっていう感じ。でも冬馬はグイグイ引っ張ってくれる感じで、こんな人の奥さんになると何かあっても安心なのかなあって思うの」鮎子は前を見て歩きながら桃香の迷いを黙って聞いていたが、だんだん顔つきがこわばり、歩くのをやめて立ち止まった。「いいかげんにしてよ。どれだけモテ女気取ってんのよ。冬馬君がいいか、慎吾がいいかなんて、人の気持ちをもてあそばないで。それでなくても慎吾はやっと明るさを取り戻したところなの。桃香が離れて行ったら、人を信用しなくなって暗いあの子に戻っちゃう。こんなことになるなら、最初から慎吾にやさしくしないでくれたほうがよかった」「鮎子、そんな…そんなつもりじゃ」「うわべだけのやさしさなんて、慎吾に見せないで。あの子は私たちが思う以上に怪我で傷ついてたんだから。夢を失いかけてたけど、桃香のおかげでゆっくり元気になろうとしてるんだから。今さら突き落とすなんてひどいよ」「じゃあ、私に無理して付き合えっていうの?」桃香の口から、絶対に言ってはいけない言葉が出てしまった。遅かった。冷たい空気が氷点に達し、ピリっと固まったような気配。頬を冷たい風がチクリとさしにくる。まずいと思ったが鮎子は唇をキュっと結んで怒りを抑えていた。(続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年03月02日週末、桃香は鮎子と一緒に自由が丘にいた。木枯らしが首筋を撫で、キュっと首をすくめたくなる。そろそろ冬の足音が聴こえる。「かわいい帽子買って帰ろうか。おそろにしようよ。白いファーがたっぷりついたのどうかな。あったかいよ。うさぎになろうよ。二人で」とガールズトークがはずむ。買い物のあとは、慎吾のバイト先のコミックカフェ見学の約束だった。店に入ると慎吾は黙々と接客仕事をこなしていた。必要最小限のことしか話さないがまじめに取り組んでいる様子だ。客がコミックを探していると、一緒に棚を見回して一生懸命探している。狭い通路を行ったり来たり動き回っている。左脚が動きにくい事は、知っていなければわからない程度だ。1時間だけふたりはオープンスペースで恋愛コミックを読みながら慎吾のバイト終了時間まで待った。コミックに出てくる瞳キラキラの恋する乙女に我が身を重ねて。作品のシーンに合わせたBGMが自然に桃香の頭の中を流れる。音楽にたずさわっていると音がないコミックでもまるで映画のように感動が広がる。嬉しいシーンには小リスがどんぐりを持って弾むようなメロディ。悲しいシーンでは心を締め付けるマイナーなバラード。桃香は夢中でページをめくる。いつか自分もこんな恋をするのだろうという予感がした。慎吾のバイト終了後、桃香は自由が丘ツウのところを見せたくてふたりを誘った。「パンケーキ専門店あるの。そりゃもう、こってりクリームやフルーツが乗ったすっごいパンケーキ! 食べようよ、3人違う種類頼めば3つの幸せじゃん!」鮎子はバイト先にしか行かない慎吾にいろいろな所へ出かけて行って欲しかったが、この3年間は誘う事すら躊躇していた。桃香の誘いがきっかけで慎吾が外へ出ればいいと思った。「行く! 慎ちゃんも行こう」と慎吾の腕を引っ張った。慎吾は少し下を向いて考えたが「ねえちゃん、おごってくれる?」と小さな声で答えた。「もっちろん、高給取りのOLですから。ゴチするわ」と鮎子はうれしそうだった。客層は女性100%のキラキラした店内。バニラの甘い香りが鼻先をつつく。3人はでかいパンケーキにキャアキャア言いながらさっき読んでいたコミックの話に花が咲いた。慎吾は休憩時間に女性向けのコミックも目を通しているので、ストーリーがだいたいわかる。漫画家の名前や過去作品までスラスラ言う慎吾に「慎ちゃん、それってオタクっていう領域よね」と鮎子が突っ込みを入れる。桃香はやりとりを楽しく傍観する。(続く)【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2014年12月23日