劇団「ロロ」を主宰する三浦直之が、パルコ・プロデュースに初登場。ももいろクローバーZの高城れにを主演に迎え、新作『最高の家出』を上演する。高城が演じるのは、結婚生活に疑問を抱き、夫のもとから家出する女性・立花箒。そこで現在執筆中の三浦と、初の単独主演に挑む高城に、現在の胸の内を語り合ってもらった。最後にふさわしい、ハッピーな笑顔を見せてくれるはず――高城れにさんを主演に迎えた書き下ろしとなります。創作の経緯を教えてください。三浦もともとは高城さん演じる主人公の“箒”が、現実から虚構に家出する物語を書こう、と思ったのが始まりです。現実の生活に疲れた箒が、家出した先で物語という虚構に出会い、それによって変化し、また違うどこかへと帰って行く。あと今回初めてパルコ・プロデュースのオリジナル作品をやらせてもらうということで、これまで10年以上自分が作ってきた演劇に対する想い、みたいなものも一緒に乗せられたらなと思いながら書き進めているところです。作・演出を手掛ける劇団「ロロ」主宰の三浦直之――高城れにさんを主演に迎えた書き下ろしとなります。創作の経緯を教えてください。高城すごく面白かったです!私自身、箒ちゃんと真逆なところもありますし、一方で同じようなところもある。なんで私の幼少期に抱いていた気持ちを、三浦さんは知っているんだろう? と驚いたくらい(笑)。読み進めていくうちに、箒ちゃんのことがどんどん好きになっていきました。内容的にはファンタジーな部分もありつつ、一つひとつのワードはどれも生活に近しいものばかり。きっと観に来てくださる方にとっても、身近に感じられるような作品になるんじゃないかな、とすごくワクワクしています。――箒は高城さんへの当て書きになるのでしょうか?三浦書き始めた段階では、まだキャスティングは決まっていなかったんです。だから高城さんにやっていただけることが決まり、そこから「高城さんならどんなふうにこの台詞を言うんだろう?」と想像しながらリライトしていった感じです。――ちなみに“箒”という名前が非常にユニークですが、そこに込めた想いとは?高城あっ、聞きたい!三浦実は特に意味はないんですよ。「箒」って口にした時の響きが好きだったっていうのが一番の理由で。ただ『魔女の宅急便』のキキが、箒に乗って生まれ故郷を出て行きますよね?そのイメージはなんとなくあったのかもしれません。――その箒を高城さんに演じてもらうからこそ、期待していることとは?三浦自分のそれまでの生活に疑問を持って家出した主人公が、最終的にどんなふうに笑えるか、みたいなことを考えながら作っている作品です。高城さんって笑っていたり、楽しそうにしている姿が、周りを幸福感に包んでいくような人だなと思っていて。そんな高城さんなら、きっと最後にふさわしい、めちゃめちゃハッピーな笑顔を舞台上で見せてくれるんじゃないか。そこをすごく楽しみにしています。家出は子供がするもの、そのイメージをこの作品で変えたい――近年はショーアップされた舞台への出演が多かったですが、今回のような会話劇ならではの面白さをどんなところに感じていますか?高城やっぱり歌や踊りがない分、目の前の会話に集中して見る、一つひとつのワードに重みがあるっていうのが会話劇だと思うんです。それってつまり、演じる側にとってはプレッシャーでもあるんですが……(苦笑)。その会話が伝わらなければ、なにも伝わらなくなってしまいますから。だからこそ台詞の一つひとつにどんな意味を持たせ、発信出来るのか。今回それが、自分にとっての大きな課題だなと思っています。――執筆していく中で、その会話や登場人物のやり取りとして心がけているのはどんなことですか?三浦箒と、箒が家出先で出会う女性の“アハハ”。このふたりの関係が魅力的に見えるといいなってことは、ひとつ心がけていることです。箒が周りの人に振り回される、その姿が楽しく見えるってことが大事な作品なので、箒はもちろん、箒を振り回す側の人たちも魅力的に見せたいなと。そこは非常に意識して書いているところですね。――高城さんにとっては、本作が初の舞台単独主演となります。高城ももいろクローバーZとしてはもちろん、高城れにとしてお芝居に触れたい、とはずっと思っていました。だからすごく嬉しいですし、自信があるとは言い切れませんが、精一杯頑張りたいなって気持ちはとても強くて。昨年はグループが15周年、自分が30歳を迎える節目の年だったので、そこを経て挑戦するこの舞台で、またひと皮剥けたらいいなと。自分の人生においてこの作品が、宝物のような経験になるんじゃないかと思っています。――この作品を通して、お客様にどんなものをお届け出来たらいいなと思いますか?高城自分の居場所ってどこだろう? とか、本当の自分ってなんだろう? と思うことが、私自身今までたくさんありました。きっと多くの方も考えることだと思うので、そんな時にふとこの作品を思い出してもらえたらいいなと。そして観終わったあと、「遊園地みたいな作品だったね」って思ってもらえるような、そんな作品になったら嬉しいです。三浦僕も“遊園地”ってすごくいい言葉だなと思ったので、まずはそこを目指して作っていきたいと思いました。あと“家出”って言うと、子供がやること、みたいなイメージが強いと思うんですけど、僕はそのイメージが変わるといいなと思っていて。30歳になっても、40歳になっても、50歳になっても、何歳になったって家出していい。ここじゃない場所に逃げていいってことを、観に来てくれた人が思えるような作品になるといいなと思います。取材・文:野上瑠美子撮影(高城れに):荒川潤ヘアメイク:竹内美紀代(KIND)スタイリスト:寄森久美子(WONDER STYLE)<公演情報>パルコ・プロデュース2024『最高の家出』作・演出:三浦直之(ロロ)出演:高城れに(ももいろクローバーZ)祷キララ / 東島京板橋駿谷 / 亀島一徳 / 篠崎大悟 / 島田桃子 / 重岡漠尾上寛之【東京公演】2024年2月4日(日)~24日(土)会場:紀伊國屋ホール【高知公演】2024年3月6日(水)会場:高知県立県民文化ホール オレンジホール【大阪公演】2024年3月9日(土)会場:森ノ宮ピロティホール【香川公演】2024年3月14日(木)会場:レクザムホール(香川県県民ホール) 小ホール【宮城公演】2024年3月20日(水・祝)会場:電力ホール【北九州公演】2024年3月23日(土)会場:J:COM北九州芸術劇場 中劇場チケット情報:()公式サイト:
2024年01月12日テレビ東京「午後のロードショー」ではGWスペシャルとして、5月5日(火・祝)本日、堺雅人と仲間由紀恵の共演でおくる異色時代劇『武士の家計簿』を放送する。大河ドラマ「新選組!」で注目され「リーガル・ハイ」や「半沢直樹」が大ヒット。「半沢直樹」では主人公の決めゼリフ「倍返しだ!」が同年の新語・流行語大賞を受賞するなど社会現象ともなり、その後も「真田丸」に主演、『DESTINY 鎌倉ものがたり』『北の桜守』など出演が続く堺さん。「TRICK」「ごくせん」シリーズで一躍ブレイクすると、大河ドラマ「功名が辻」で主演を務め、2005、2006年には連続で紅白司会に抜擢されるなど国民的女優に。2014年からは「相棒」シリーズに参加し、最近では「偽装不倫」や「10の秘密」でみせた悪女ぶりも話題の仲間さん。2人が夫婦役共演を果たし、『家族ゲーム』『悲しい色やねん』などの作品を経て、渡辺淳一の原作を映画化した『失楽園』で日本アカデミー賞、報知映画賞、キネマ旬報賞などの各賞に輝いた森田芳光監督がメガホンを取った本作。幕末、加賀藩に仕える下級武士の猪山直之(堺さん)は、仕事ぶりは真面目でも融通の利かない性格から周囲と歩調を合わせられず浮いた存在となっていた。ある日、直之を心配した周囲の人々は妻をめとらせようと、お駒(仲間さん)との縁談を持ち込む。お駒の父は、武士としてはふがいないが、算術に関しては抜きんでた才能を持つ直之を、優秀な会計士として評価していた。やがてお駒が川で友禅を流していたとき、調査に出向いていた直之と出合い、2人はお互いに好意を抱き結婚する。その頃、藩内では米の不正が横行。不正を見逃すことができず独自に不正の調査を進める直之だが、調査が原因で左遷されかける。だが調査結果をみた上層部は彼の仕事ぶりを評価、藩主の側近として大抜擢され異例の昇進を果たす。一方、お駒が長男を出産、祝いの場で直之は初めて猪山家の財政難の問題を知る。親戚付き合い、養育費、冠婚葬祭と武家の慣習で出世の度に出費が増え、いつしか家計は火の車になっていた。一家の窮地に直之は“家計やり直し計画”を宣言する…という物語。午後のロードショー『武士の家計簿』は、5月5日(火・祝)13時15分~テレビ東京で放送。(笠緒)■関連作品:武士の家計簿 2010年12月4日より全国にて公開© 2010「武士の家計簿」製作委員会
2020年05月05日ロロの三浦直之は、演劇になじみのない若い世代に、今最も作品を届けられる作・演出家のひとりだと思う。新作『四角い2つのさみしい窓』は、解散公演に臨む劇団員たち、出産を控えた若い夫婦、そしてユビワとムオクと名乗る不思議な男女の3組が、海沿いの町に建てられたゴーストウォールという名の世界初の「透明な防潮堤」を目指して旅をする中で交差するロードームービー演劇だ。東日本大震災以降、被災した各地域では防潮堤の建設が進められている。その中で、景観に配慮して建てられたアクリル製の防潮堤から三浦が着想を得た。三浦直之は宮城県出身。小学3年生まで、特に被害の大きかった女川町で過ごした。震災時にはすでに東京で暮らしていた三浦は「宮城県の人間だから完全に非当事者ではないですけど、感覚的には非当事者側に近い」と震災との距離感を語った上で、今作に限らず「ずっと震災は僕の中で続いているモチーフ」と想いを込める。「今回もことさら震災を打ち出したいわけではないけれど、僕が生きていく中で、“分断”というのを強く感じていて。“分断”を超えていくのではなく、僕たちを“分断”しているその線を認識した上で共に生きることができないか、という問いは、この作品の中にも込められています」「透明な防潮堤」はそんな“分断”の象徴だ。震災のみならず、経済格差からジェンダーまで、近年、“分断”は社会を語る上で欠かせないワードとなっている。三浦直之の綴る作品は、非日常的な浮遊感とぬくもりを帯びながら、1987年生まれの三浦の社会観や家族観がダイレクトに反映されているところが面白い。たとえば、三浦がここ数年テーマとして取り組み続けている“集団”も、人とのつながりやコミュニティについて強い関心を寄せるミレニアル世代にとっては、共鳴しやすいトピックだ。「劇団って、どうしても主宰である僕が権力を握りやすい。そうしたいわゆる“家父長制”を乗り越えた集団をどうしたらつくれるかをずっと考えている」と構想の背景を明かす。今作でも家族という共同体が重点的に描かれているが、全体を通して浮かんでくるのは“関係性”というキーワードだ。「集団には役割というものがあって。たとえば劇団なら僕が演出家で、俳優たちには俳優という役割がある。でもその役割が固定化されず、状況によって変化したらどうなるだろうって。たとえば、ある場面では僕が父的ではあるけれど、別の場面では僕が子的になり、他の誰かが父的になったり母的になる。そんなふうに集団の中でコロコロと役割を組み替えていくようなコミュニティをつくれないかなということを考えながら作品を書いていきました」三浦直之撮影:三上ナツコロロも旗揚げから10周年を迎えた。メンバーの板橋駿谷が『なつぞら』で脚光を浴びるなど、取り巻く状況は変化期に差しかかっている。三浦もまた「俺はロロを続けなきゃいけないんだって、自分で自分に呪いをかけている部分があったことに、この作品をつくりながら気づいて。その思い自体はポジティブなものだと思っているんですけど、昔ほどそれに執着しなくなっているなとも感じはじめています」と心境の変化を見せる。「この先、ロロの作品で全員が揃うことってちょっとずつ少なくなっていくと思うんです。でも僕は、それでいいと思っていて。今回も駿谷さんはいないですけど、単にいないじゃなくて、“でも、いる”って感じられるような、今ここにいない人もどこかにいて、それも込みで集団って言えるようにしていけたら」何より三浦自身も外部の仕事が続いている。昨年は、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』『逃げるは恥だが役に立つ』と人気原作の朗読劇を手がけ、脚本を担当したドラマ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』も高い評価を受けた。こうした原作ものを手がけたことで「他人が書いた言葉にどう向き合っていくか」に悩んだと言い、たとえば同性愛者の高校生の青春を描いた『腐女子〜』では「自分はゲイではないから、そこに対して変に感情移入した言葉を書くことは、むしろ原作に対して間違った行為なんじゃないか」と苦悩した。非当事者が、当事者の言葉を書く。それは、確かにある種の傲慢さを孕んだ行為だ。けれど、そんな傲慢さを敏感に察知し、真摯に向き合える繊細な感受性があるからこそ、三浦直之のつくる作品は人に優しいのだと思う。「自分は間違えるかもしれない、人を傷つけるかもしれないという怖さは今も続いています。でも、劇団は俳優と一緒につくるものだから。もし僕の言葉に対して違和感があるなら、必ず俳優が言ってくるだろうと信じて頑張って書くしかない」『四角い2つのさみしい窓』は1月19日(日)に阿南市情報文化センター コスモホールで徳島公演を行い、 1月30日(木)から2月16日(日)までこまばアゴラ劇場で東京公演を開催。その後、福島・三重をめぐる計4都市ツアーを予定している。取材・文:横川良明ロロ撮影:三上ナツコ
2020年01月08日高評価のうちに放送を終えたNHKドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』。その脚本を手がけた三浦直之主宰の劇団ロロが今年10周年を迎え、『はなればなれたち』が6月22日(土)より吉祥寺シアターで上演される。今作とこれからについて、三浦に話を聞いた。劇団結成10年を迎え、ふだんとは違うプロセスで作品をつくっているという三浦。「ロロでは“こんな感じでやりたい”と俳優に伝え、その場で動いてもらったものをもとに僕が戯曲を書く形が多かった。今回は戯曲を書くことと、空間や俳優への演出とをもう少し切り分けてみようと思いました。脚本家としての僕は納得がいかなくても、とにかく書いて、演出家三浦に渡す。脚本の欠点を演劇として立ち上げたときにどうポジティブなものにできるかも演出家の仕事だから、脚本家三浦の知らない可能性を演出家である自分と俳優とでどうつくっていけるかを考える。それが脚本のリライトにつながる、という形です」。とはいえ、その変化をつくるのは簡単なことではないという。「油断すると脚本家の自分が“こんな話じゃだめだ”って言ってくる。それを振り切って、“俺は演出家だ!”って自分に言い聞かせて毎朝稽古場に向かっていました」。今作にはミュージシャンの曽我部恵一、アニメーション作家のひらのりょうも俳優として参加する。「曽我部さんは僕らより年齢が上だけれど、みんなとフラットに話してくれるし、僕の演出にも柔軟に対応してくれる。ひらのさんは演劇のクリエイションに関わるのが初めてだから、ちょっとしたことにも新鮮に感動してくれる。それが稽古場を和ませてくれます」。さらに客演には、三浦にとってたいせつな役者たちが揃う。「旗揚げ作品から度々参加してくれた多賀(麻美)ちゃん、僕が俳優として参加した作品(『蒲団と達磨』)で出会った大石(将弘)さん、一昨年オーディションで出会った油井(文寧)さん。僕にとって大きな出会いだった人たちといっしょにつくるのが『はなればなれたち』。来年1月の本公演『四角い2つのさみしい窓』では今回出ない亀島(一徳)も加えてメンバーだけでフルスケールの作品をつくる。“四角い2つの窓”って要はロロのことなんです。メンバーとかなり密に向き合う作品になります。窓、つまり透明な壁のように、分断されているけれど、相手が向こう側に見えるイメージがずっとあって。分断されている相手とどうやったらつながれるかを次の公演では考えたい。2作とも集団についての作品にはなるけれど、『はなればなれたち』はこれまでの物語で、『四角い2つのさみしい窓』がこれからの物語になればいいとおもっています」10年の集大成となる『はなればなれたち』の半年後、これからの物語となる次作では、再演を見据えた挑戦も考えている。「『はなればなれたち』では、主人公の〈向井川淋しい〉が30歳手前になるくらいまでの半生を描きます。だから僕や劇団メンバーの実年齢より歳下で物語が終わる。一方『四角い2つのさみしい窓』は実年齢より歳上、40歳手前くらいの物語にしようとおもっています。再演を強く意識して、いまのみんなが演じると少し歳上なんだけど、この先再演するときにその年齢に合うものになる、これから自分たちがなるであろう人たちを意識して書きたいとおもっています」。結成10年目に、数年後の再演を視野に入れた作品が生まれる。観客にとってはうれしいニュースだ。「もしロロが僕のプロデュースユニットだったら、若い俳優を使っていつまでもボーイ・ミーツ・ガールや青春ものを書き続けたっていい。でも劇団となると、みんな歳を重ねていくから、その歳に合わせて新しい何かを書かなきゃいけない。それって僕にとってはすごくポジティブなことです。この世界でどう老いられるかを考えながら、作品をつくっていきたいです」さらに今後の展望について、思いがけない言葉も飛び出した。「最近、外の仕事をたくさんやらせてもらっておもうのは、ロロで作品をつくるのがいちばん楽しいから、僕個人としてはいかにロロだけをやり続けられるかを追求したい。もちろん外の仕事はとても勉強になりますし、共通言語をもたない人にどう言葉を届けるかという機会を与えてもらえるのは大事ですけど、将来的にはロロだけをやるようになりたいとおもいながら過ごす1年でした。そのために、劇団とは別のコミュニティをつくりたい。劇場を持っている劇団もありますけど、それとは別の形で自分たちの場所を持つ方法を探りたいんです。僕ら、ずっと作品で出会いを描いてきた。未知の者同士が出会うことを、作品の外でも実践できるといいなとおもっています」。劇団という形態をポジティブに捉え、作品を生み出し続けるロロ。これからの作品とともに、劇団とは違う形で彼らに出会える機会を楽しみに待ちたい。ロロ『はなればなれたち』は、吉祥寺シアターにて6月30日(日)まで。取材・文:釣木文恵
2019年06月20日6月6日、Apple Store, Omotesandoにおいて、「旅するように生きる、モバイルボヘミアン」と題して、実業家の本田直之氏と、執筆家の四角大輔氏のトークショーが開催された。海外と日本を行き来して自由に生きるお二人のライフスタイルと、それを支えるテクノロジーとの活用法など、21世紀流のライフスタイルを示唆する内容の濃い1時間となった。○「ノマド」はワークスタイルではなくライフスタイルだった四角大輔氏はレコード会社で約15年、アーティストのプロデュースを手掛けた後、2010年にニュージーランドに移住。以来、ニュージーランドの湖畔に住まいを設け、ほぼ自給自足の生活を送りながら、ニュージーランドに9カ月、日本に3カ月程度と、移動しながらの生活を送っている。本田直之氏も同様に約16年のサラリーマン生活の後、2007年にハワイに移住して趣味のサーフィンを楽しみつつ、東京とハワイに拠点を持つ「デュアルライフ」を実践している。お二人とも、海外と日本を飛び回りながら、執筆業やコンサルタント、企業のアドバイザーなどとして八面六臂の活躍をされている。2009年から四角氏はご自分の会社を「レイクエッジノマド」と名付け、本田氏は著書に「ノマドライフ」があるなど、いわゆるノマドとよばれるワークスタイルに精通しているように見えるが、実は現在のノマドという言葉の使われ方には不満があるという。もともと、両氏は仕事をするためにノマドスタイルを取ったのではなく、世界中を飛び回り、自分のやりたいことだけをやりたい場所でやるライフスタイルとして「ノマド」という言葉を使い始めたという。それが、いつの間にか、喫茶店で仕事をするワークスタイルを表す言葉になってしまったというのだ。本田氏は、ノマドライフの次にくるライフスタイルを表す言葉として今回のトークショーのタイトルにもなっている「モバイルボヘミアン」という単語を挙げ、「ノマドはどこでも仕事ができる人だとすれば、モバイルボヘミアンは、仕事と遊びの垣根がなくなっていて、食べるためだけにする仕事がなくなっている状態」だと説明する。そのふたつの最大の違いは、「仕事をしているときは真面目な顔をしているが、仕事と遊びの境がなくなって好きなことをやっているから、ニコニコしながら仕事をしている」ことだという。仕事をどうするかといった働き方を軸にするのではなく、どういう生活を行うか、どう生きるかというライフスタイルを軸に考えた末に、夢を叶えるために日本を飛び出して、趣味と仕事を楽しみながら両立させる本田氏や四角氏のライフスタイルは、まさにモバイルボヘミアンというに相応しいだろう。○アップル製品はライフスタイルデバイス四角氏はもともと大のアップル好きだったが、2008年に日本でiPhone 3GとMacBook Airと「運命的な出会い」をしたという。軽く、どこにでも持ち歩けるMacBook AirやiPhoneの存在のおかげで、机に縛られることなくどこでも仕事ができる自由が得られたのだ。そんな四角氏はアップル製品を「ライフスタイルデバイス」と定義づけた。四角氏は、「アップル製品は単に効率を高めることを追求するのではなく、iTunesなどに代表されるように、使う人のライフスタイルを向上させるところがいい」という。本田氏はもともとザウルスやPalmなどの電子手帳やPDAといったデジタルガジェットを使ってきたが、当時は不十分だったとのこと。それが2007年に移住先のハワイでiPhoneと出会い、大きく変わる。「今はMacBookやiPhoneがあれば、世界中どこでも仕事ができる。世界中を移動して活躍している人は、みんなMacBookやiPhoneを使いこなしている」と、世界中にMacBookやiPhoneを活用しているモバイルボヘミアンがいることを紹介した。四角氏は2008年当時はMacとiPhoneでの仕事の割合は8:2程度だったものが、2015年の現在は5:5程度までiPhoneへの依存度が高まっており、これは今後さらに上がっていくだろうと予想する。本田氏も、「2005年当時にはiPhoneがなかったが、当時10年後の2015年がこのような社会になるとは誰も想像していなかった」と指摘。5年後、10年後がどうなっているかは誰にも予想が付かず、Apple Watchなどのウェアラブル端末も大きな役割を果たすだろうと予想した。○テクノロジーを活用して可能性を広げるお二人とも、自分らしいライフスタイルを追求した上でのノマドスタイル、モバイルボヘミアンとなったわけだが、その実現にはテクノロジーが大きな役割を担っているという。たとえば本田氏も四角氏も、請求書の起票などの事務作業が大の苦手。本田氏はあまりに請求書を溜め込んだ挙句、請求書の代筆業を見つけて、そこにアウトソーシングすることに決めたという。こうしたアウトソーシングは、そういう仕組みを知っているかどうかが分かれ目ではあるが、今はインターネットで簡単に見つけられる。そうやって残った時間を、自分にしかできないことに集中するべきだというのだ。四角氏は「その人にしかできないことに集中していることがアーティスト状態」と表現し、それこそが人間のあるべき姿だと力説する。四角氏はレコード会社勤務時代を例に挙げて、デビュー前のアーティストはライブの準備から物販までなんでも自分でやるが、デビューが決まったと同時に細々した雑務をレコード会社が引き受けてあげると、とたんに創造性が急速に伸びることを紹介。「アーティストに請求書を書かせるわけがない」と、余計な雑務を排除することでクリエイティビティを伸ばすことが大事であることを説明した。また両氏とも、今はiPhoneやMacのようなデジタルガジェットや、インターネットのサービスを駆使することで、以前であれば大きな会社でのプロジェクトでなければできなかったような仕事も、個人がこなせる時代になってきたと指摘。テクノロジーの力を最大限に生かすことで、自分がやりたいことに専念することが大切だと語った。○人生は旅と同じ四角氏は最近、80kmの山道を走破する冒険をおこなってきたばかりだという。この行程では自分であらゆる荷物を持って歩かねばならないため、準備するときにはグラム単位で荷物を厳選し、「あったら便利なもの」を捨て、本当にギリギリ最小限の荷物にまで削ることが重要なのだという。これはお二人のライフスタイルにも共通することで、シンプルに生きるためには物を増やさないことが大事だとする。本田氏は会社を設立するとき、機能を削ることを第一に考え、営業をせず、人を雇わないことを第一に考えたという。これは人を雇うことで上下関係になることを嫌い、人間関係は横のネットワークで、パートナーとして構築したいと考えたからだという。四角氏は「モノも人脈も、本当にこれは必要なのか?と厳選していく。東京に来ている時も時間がないから、本当に会いたい人、本当に会わなきゃいけない人だけに会うよう、厳しく考える」と、絞り込むこと、削ることで身軽なライフスタイルにすることが、生活のモビリティを高めるうえで大切だと説いた。また、本田氏は「人生にはフェイズ(段階)がある」と指摘。お二人とも、15年以上の会社勤めを経て、学生時代から「いつか海外に移住したい」という夢を叶えており、「会社員として頑張るフェイズだってある」と、一足飛びに焦る必要がないことを説明。一方で、「個人の能力も大事だけど、テクノロジーをどう活かすかも大切。若い人のチャンスはとても大きい」と、自分らしさを追求したい若者たちへのエールも忘れなかった。***お二人が実践するモバイルボヘミアンは、必ずしもすべての人が真似できる生き方ではないとは思うが、クリエイティブな仕事をする人にとって、苦手をアウトトーシングしてでも自分の得意分野に専念するというのは、大いに参考になる話だろう。また、たとえば田舎に移住して活動したいと考えている人にとっても、ゼロからその生活を目指すのではなく、人生のある程度までを準備段階とし、その先を自由に生きるというのは、現実に実行可能であり、かつ魅力的な生き方だ。今回のトークショーは、こうした人々にとっても大きなヒントになったと思う。そして、何よりこうした生活を支えるため、デジタルデバイスやテクノロジーを活用するというのが、なんとも現実的であり、説得力のある話だった。テクノロジーによって人間の可能性を広げ、人間らしさや創造性を高めるというのは、まさにアップル製品が目指すところに合致する。MacやiPhoneといったアップル製品の魅力や可能性の新たな一面を見せられたトークショーだった。
2015年06月16日映画『武士の家計簿』の大ヒット御礼舞台挨拶が12月15日(水)、東京・有楽町の丸の内ピカデリー2で行われ、主演の堺雅人と森田芳光監督が出席した。今月4日(土)に初日を迎え、公開12日目のこの日で観客動員55万人、興行収入6億円突破の好成績。舞台挨拶を鑑賞中の観客約600人へは、品川神社の「一粒萬倍の泉」と呼ばれる霊水で清められたという5円玉の入った大入り袋が配布された。幕末、家族全員で質素倹約に努め、借金返済に勤しんだ下級武士一家・猪山家の柱・猪山直之を演じた堺さんは「こちらが猪山家です、おあがりください、とあがっていただく気分。これからも多くの人にあがっていただきたい」と晴れやかな笑顔を見せた。同日、スタッフを代表して品川神社へお参りに行った森田監督は「一緒に行ったドライバーが、あるはずの200万円の振り込みがなくて嫌な顔をしていましたが、お金を洗った瞬間に振り込みがあったんですよ」と御利益があったことを証言。堺さんは「早いですね!僕、帰りに寄って行こうかな」と興味津々。森田監督は「そのドライバーは、かなり切迫していたから。(切迫)していないとダメじゃないかな?」と苦笑いだった。一方で年の瀬とあって、今年一年の感想と来年の抱負を司会者から求められた堺さんは、「今年は年明けからこの映画の撮影があって…酷暑と酷寒を行ったり来たりの1年でした。来年は地味に過ごしたいですね」と野心のない穏やかな笑み。森田監督は「来年は自分の力をもっともっとつけて、みなさまに喜ばれる映画をもっと作っていきたい」と張り切っていた。『武士の家計簿』は全国にて公開中。(photo/text:Yoko Saito)■関連作品:武士の家計簿 2010年12月4日より全国にて公開© 2010「武士の家計簿」製作委員会■関連記事:“鯛色”で初日祝い!仲間由紀恵、観客からの声援に「お褒めの言葉、ありがとう」堺雅人インタビュー「幕末の負け側ばかり演じてきて、勝手に三部作って呼んでます」グランプリ女性の強心臓ぶりに森田芳光監督「怖い」シネマプロットコンペ授賞式堺雅人仲間由紀恵の加賀友禅振袖姿にウットリ堺雅人主演!『武士の家計簿』劇場鑑賞券を5組10名様プレゼント
2010年12月15日時代劇ブームと言われる昨今、次々と新たな作品が公開を迎えるが、『武士の家計簿』は風変わりな一作。幕末から明治維新という激動の時代を描きつつも、主人公が刀を抜いて派手なチャンバラを見せるシーンもなければ、尊王攘夷や佐幕などの思想にかぶれて京に上ることもない。とはいえ“異色”という言葉は適当ではない。そこに描かれるのは、あの時代を生きた多くの者の“普遍”と言うべき道――妻を父母を、そしてわが子たちの暮らしを、未来を必死で守ろうとする男の姿である。この愛すべき愚直な男を静かに、淡々と演じるは堺雅人。これまでにも数々の作品で“武士”を演じてきた堺さんだが、主人公・猪山直之の視線を通して何を見たのか――?借り物の価値観ではなく自分の頭で考える“かっこよさ”代々、加賀藩の御算用者、つまり経理のプロとして、“そろばん”でもって仕えてきた直之。火の車となった我が家の家計を前に、節約と倹約…否!“工夫”によって家政を立て直していく。この男から堺さんは「かっこよさ」を感じたという。「この映画、テーマはたくさんあると思うんです。つつましやかな幸せの大切さであったり、節約という部分だったり。でも、僕自身が一番惹かれたのは、借り物の価値観ではなく、自分の頭で判断して責任を取っていく、ということ。武士だから、我が家は代々こうだから…ではなく、自分たちの範囲のことを自分たちで決めて答えを出すというその姿が、非常にかっこよかったんですね。そこに大人の成熟した男というものを感じました」。父親を演じること自体はこれが初めてではない。にもかかわらず「父であることを強く考えさせられた」と堺さん。先にも述べた「自分の価値観」、「責任」という言葉を使ってこう説明する。「僕は父親じゃないからまだ分からないけど、おそらく実際に父親になっても『父親とは何で、どうあるべきか?』なんてさっぱり分からないと思うんですよ。特にいまの世は、これまであったものを否定し続けて、参考にするお手本があまりにもなくなり過ぎてて、正しい父の形なんて、誰も分からなくなっている。それでも、そのときの材料で自分で考えて責任とっていくしかない。それでダメだったら謝るしかないんですよね。少なくとも誰かの価値観で“父親”であろうとするのではなく、自分で家族のあり方を決めるしかない。そういう部分での直之の毅然とした態度は憧れましたし、それはなかなかできることじゃないな、と。まだ結婚もしてないのにそんなこと考えてどうするんだ?と思いつつ(笑)、父親であることについて考えました。(父親を演じることに)もうそんな歳なのか…と喜びと戸惑いと半分半分ですけど(苦笑)」。2004年の大河ドラマ「新撰組!」では、新撰組隊士の山南敬助を、同じく大河ドラマの「篤姫」では将軍・家定、そして今回の加賀藩士。激動の幕末の時代を描いた作品で全く身分の異なる人物をこれまでに演じてきた。それぞれの役を演じたことで武士という存在やこの時代を見つめる視点に変化は?「いろんな武士がいるんだなってことは改めて感じましたね。時代も切り取り方によって、いろんな顔を持っていて、歴史の豊かさというのを実感しました。変わらない部分ということで言うと、山南(新撰組)も家定(徳川家)も、今回の直之(加賀藩)も、幕末における“負け側”の人間なんですよ。数年かけてこちら側(=賊軍)をやり続けてきたのがおもしろいなぁ、と。つまり、見通しのきかない時代において、間違った選択をしちゃった人たちなんです(笑)。直之も、自分の家の財政は立て直しましたが、加賀藩の藩論を佐幕に持っていったことについては、“御次執筆”という立場にあったこの人の責任が随分あると思うんです。その後、石川県(旧加賀藩)はかなり大変な目に遭うわけですしね。見通しのきかない時代に“分かったフリ”をすることなく自分で判断したという点では家定も山南も直之も同じ。自分の中で勝手に『三部作』と呼んでます(笑)。その最後を飾るにふさわしい人物、作品だったと思うし、自分の中で幕末という時代の変わらない部分ですね」。「歴史を学ぶと“現代の価値観が一番”という視点がひっくり返る」現代から遡ることおよそ150年。これを長いと見るか“たったの150年”と見るかは人それぞれだろうが、当然のことながら時代と共に人々の価値観も変化する。時代劇に限らず現代劇、戦時中、戦後など様々な時代の物語に身を置いてきたからだろうか?堺さんの“価値観”に対する視点は興味深い。「作品を通じて歴史を学んでいくと『現代の価値観が全てだ』という視点がひっくり返ることがあるんですよ。それはすごく楽しいことでもあって。例えば、父親が死んだ日も直之は帳簿をつけている、というシーンが出てきます。ここで『やらなくちゃいけないことがあるのは分かるけど、あなた個人の気持ちはどうなの?』という風に考えるのは、実は“近代的な自我”なんですね。直之としては、親が死のうがなんだろうが、やるべきことをやらなくちゃいけない、つつがなく葬儀を終えないといけない。個人の感情は後回しなんです。僕は、その姿はやっぱりかっこいいと思っちゃいました。(近代的な価値観で)『あなたらしく父親を看取りなさい』って言われたら実は困るけど『やらなくちゃいけないことをやりなさい』と言われると、何かやれる気がする。『俺が俺が』という価値観に毒された感覚に、直之の生き方が心地よく沁みこんできましたね。この時代、個人の考えがないがしろにされたり、好きな職業に就けなかったり、女性が虐げられたりして、それはもちろんマイナス面ですが、ある意味、何も考えずに就職できて、『自分とは何か?』なんて考えずに一生を終えることができたとも言える。いまの価値観が一番だと考えると、過去から現在に“悪い時代”から“良い時代”に一直線に時間が進んでいるよう思えてしまうけど、実はいまが良いとは限らない。そういうことが見えてくるんです」。静かに淡々と…それは劇中もインタビュー中も変わらない。とはいえせっかくの幕末。一度も派手に斬り合うことがなかったのは、演じている本人としては少々物足りなかったのでは?「いやぁ(笑)、この人生や時代を高らかと謳い上げずに淡々と、というのが楽しかったです。結構好きですね、淡々とするのは」。“自分らしさ”第一の時代に淡々と、飄々と役に染まる――。逆説的だがそれこそが堺雅人の堺雅人たるゆえんなのだ。(photo:Yoshio Kumagai)■関連作品:武士の家計簿 2010年12月4日より全国にて公開© 2010「武士の家計簿」製作委員会日輪の遺産 2011年公開■関連記事:グランプリ女性の強心臓ぶりに森田芳光監督「怖い」シネマプロットコンペ授賞式堺雅人仲間由紀恵の加賀友禅振袖姿にウットリ堺雅人主演!『武士の家計簿』劇場鑑賞券を5組10名様プレゼント堺雅人と仲間由紀恵が夫婦で節約に奮闘!『武士の家計簿』試写会に35組70名様ご招待ちょんまげが似合う俳優ランキングは大混戦!大沢たかおが錦戸亮を抑え1位
2010年12月02日