戦前から戦中、そして戦後と激動の時代を駆け抜けたブギの女王、笠置シヅ子の半生を生演奏の歌と芝居で描いていく『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE ~ハイヒールとつけまつげ~』。「SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE ~ハイヒールとつけまつげ~」チケット情報マキノノゾミ脚本、白井晃・豊田めぐみ共同演出で、主演の笠置シヅ子を演じるのは、演歌のみならず、アメリカの『SXSW』や国内のロックフェスにも出演する神野美伽。芝居は山内圭哉や星田英利、福本雄樹、鈴木杏樹と実力派が脇を固め、バンドは小原孝(ピアノ)が音楽監督を担い、ASA-CHANG(ドラム)、Satoshi Gogo(ギター)、MUSIC UNLIMITED ORCHESTRA(ホーンセクション)と、これ以上ない布陣だ。全19曲、全曲服部作品を生演奏、しかもほぼフルコーラスで歌唱。そこに芝居も加わり…と、底知れない厚みと深さが期待される本作。時代を追った笠置の歌からは歌謡曲の変遷も辿れるという一面も併せ持つ。「神野美伽と言えば演歌歌手」という印象も強いと思われるが、ジャズやロックなど、ここ数年、さまざまなジャンルの表現に挑んできた。「このお話をいただいたとき、4、5年でやってきたことがとても役に立ったと思います。“どれが神野さんですか?”と問われたら、“全部自分です”と答えられます。芝居の中で歌うという音楽劇は初めてですが、楽しみです」。コンサートさながらの構成で、14歳から67歳までの笠置シヅ子を変幻自在の声色で演じる。「なかには音源が何ひとつ残されていない楽曲もありました。服部良一先生が笠置さんのために書かれたある意味での反戦歌で、笠置さんが歌っていたらしいと云われていたのですが。それをある日、本公演スタッフが譜面を見つけてきたんです。鉛筆書きで、譜面も茶色くなっていて…。その楽曲も本作の大きな軸になっています」。今、なぜ笠置シヅ子なのか。「笠置シヅ子さんという歌手と、服部良一さんという音楽家を通して今の時代に伝えたいメッセージがたくさんあります。それは、こういう歴史があったんだということ。自分の中から沸いてくるエネルギーをがむしゃらに表現すること。そういうものが今の時代には欠けていると感じて」と神野。だからこそ、「この作品によってエネルギーをチャージして、明日からの活力にしてもらいたい」との思いを込める。サブタイトルの「ハイヒールとつけまつげ」は笠置を象徴するアイテム。昨年末に両足の手術をした神野は、この作品に照準を合わせてリハビリに励み、クラシックバレエも始めた。「真っ直ぐきれいに歩く練習もしていますが、自分の引き出しがひとつ、増えた気がします。きちんとしたことを教わった上でステージを動くことで、今後、自分のコンサートも変わっていくだろうと思います」。『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE ~ハイヒールとつけまつげ~』は11月23日(土・祝)から12月1日(日)まで、COOL JAPAN PARK OSAKATTホールで上演。チケット発売中。取材・文:岩本
2019年11月14日「ドラマと同様に穎右さんと笠置さんの恋愛も、最初は周囲から反対されていました」 そう語るのは、評伝『ブギの女王・笠置シヅ子』(現代書館)の著者で、ノンフィクション作家の砂古口早苗さん。 吉本せいの生涯をモチーフにした連続テレビ小説『わろてんか』では、主人公・北村てん(葵わかな)が、跡取り息子の隼也(成田凌)とつばき(水上京香)の結婚に反対して勘当。駆け落ちした隼也は、母を思いながらも遠く離れた地で、妻子と3人で暮らしているという設定だが、物語のモデルになった「吉本興業」創業者・吉本せいさん(享年60)の次男・穎右さんと、昭和のスター歌手・笠置シヅ子さん(享年70)もつらい決断をしていたーー。 「切ないほどの純愛、2人の人生において、それが“最初で最後の恋”でしたから」(以降、砂古口さんによる解説) 昭和18年6月、笠置さんが名古屋「御園座」で先輩役者の楽屋を訪ねたとき偶然出会ったのが、その当時、早稲田の学生でまだ19歳の“社長見習い”だった穎右さん。お互いにひと目ぼれだった。 「とはいえ9歳の年の差ですから、姉と弟のような関係でスタート。当初、笠置さんは、穎右さんが自分を女性として真剣に愛していることにしばらく気がつかなかったほどです。それでも、東京でお互いの家を行き来するうちに、一直線に恋の炎を燃えあがらせたのでした」 翌19年暮れには結婚の約束を交わすが、せいさんに結婚を反対される。まだ学生の身、2人は釣り合わない……。反対理由はいくつも挙げられた。 「せいさんは生涯で8人の子どもを産んでいますが、長男は夭折。元気に育ったのは3人の女児と33歳で出産した穎右さんだけでした。その約3カ月後に夫の秦三を亡くしていますから、並々ならぬ愛情をそそぎ込んでいたと思います。しかも彼は母親と同じぜんそくもち。徴兵の対象外になるほど体が弱かった」 昭和20年5月、空襲でお互いの東京の家が焼失し、住む場所を失ってしまうが、東京支社長だった吉本せいさんの弟・林弘高さんが、自宅横のフランス人宅を借り上げてくれ、そこで初めて2人一緒に住むことがかなう。このころには穎右さんの体は結核に侵され、喀血することもあった。 「8月に戦争が終わると、穎右さんは母親に認めてもらおうと、大学を中退し、東京支店の社員として必死に働き始める。笠置さんももっと活躍すれば認めてくれるのではと、作曲家・服部良一さん宅に間借りし音楽に集中しました」 だが、病状は悪化。昭和22年1月、兵庫県の母親の実家で療養することになった。 「このとき、彼女は妊娠していました。お腹を抱えるようにして向かった、東京駅での“お見送り”が2人の最後の時間となったのですーー。笠置さんは、その2週間後に日劇の舞台に立っています。妊娠5カ月のお腹をスカートとショールでカモフラージュしてやりとげました。“引退公演”だからと」 もう仕事は終わった。兵庫にお見舞いに行きたいという笠置さんに、穎右さんは《臨月も近いので、来るにおよばず》という手紙を送る。そのころ、反対していたせいさんは“孫ができるなら”と態度を軟化させる。 「人づてでしたが、笠置さんに何度も『体にきいつけて』『あんじょうしいや』とメッセージを送ったそうです」 しかし、穎右さんは23歳の若さで亡くなってしまう。産院で訃報を聞いた笠置さんは、当時の日記にこう記している。 《全身がぶるぶるとふるえ、お腹の子までも息が止まるのかと思うばかりだった。(中略)穎右がラッパを吹いて、その音色に合わせて自分が歌っている夢をみた》 それから13日後、笠置さんは産気づいた。 「お腹の子の父の死の報が伝えられた“悲しみのどん底”で、32歳の初産に臨まなければなりませんでした」 6月1日朝、笠置さんは元気な女児を出産。穎右さんの遺言どおりエイ子と名付けた。 「吉本せいさんは、赤ちゃんを吉本の籍に入れる提案をしましたが、笠置さんは自分の手で育てる決意をしました。実は笠置さん自身も、両親が結婚を反対され未婚のまま生まれた女性でした。だから、そこだけは譲れなかった。養父母の元で育ち、17歳でその事実を知ったときのショック……。自分の子どもに同じようなつらい体験をさせたくないとの思いが強かったんです」 笠置さんは、穎右さんが生まれてくる子どものためにと遺していたお金以外、吉本からの資金援助を一切受け取らなかった。そして、再び舞台に立つことに。 「娘さんを楽屋において幕あいのたびにオッパイをあげていました。そんな健気な笠置さんに、目いっぱい明るい曲を歌わせたいと服部良一が作曲したのが『東京ブギウギ』」 曲は音楽史に残る大ヒット。笠置さんは、いつしかブギの女王と呼ばれるように。 「今で言うシングルマザー。この当時は子どもがいることを隠すスターが多かったのですが、その力強く生きている姿を、包み隠さず公開したのも笠置さんのスゴいところ。『生まれたばかりの子を手放そうかと考えたけど、笠置さんを見ていて思いとどまりました……』といったファンまで。“ブギの女王”は、戦後で夫を亡くした母親たちに、大きな勇気を与えたのです。そういう意味で、彼女は戦後復興期の象徴的なスターでした」
2018年03月19日西日本で最も人口の少ない町・京都府笠置町を舞台に、東京五輪の新種目として注目を集めるスポーツクライミング、ボルダリングとロックがコラボを果たす青春映画『笠置ROCK!』のクラウドファンディングがスタート。女子高生が学校の校舎を登るCMで話題を呼んだ“岩ガール”大場美和が、映画初出演でヒロインを務めている。売れないロックミュージシャンの裕也(古舘佑太郎)は、ロックフェスの下見に笠置町を訪れる。が、そのロック(Rock)フェスとは音楽ではなく、岩(Rock)を登るボルダリング大会のロックフェスのことだった…。肩を落とし町を去ろうとする裕也は、ボルダリングに打ち込む町の女子高校生・瑞希と出会う。西日本一人口の少ない町、笠置町。過疎が進み、元気のない町のためにがんばる彼女に惹かれ、ボルダリング大会に出場することになった裕也は、突拍子もない行動で町の人たちを巻き込んでいき…。人口約1,400名、西日本で一番人口の少ない町(日本全体では2位※2015年現在)の笠置町。京都府の南東部に位置し、2015年には“出生率0 ”が全国ニュースに取り上げられ、過疎の一途をたどっている町は、実は関西では希少な天然岩のボルダリングエリアがあり、多くの愛好家が集まることでも知られている。そんな町で、東京五輪の新種目にもなったボルダリングの映画を制作。本作で初主演を務めるのは、入江悠監督の『日々ロック』などで快演し、役者としても注目を集めるミュージシャンの古舘佑太郎。ヒロインには、アジアユース二冠のプロクライマー、大場美和。映画初出演となる大場さんは劇中でボルダリングシーンに挑戦、元気のない町のためにがんばるヒロインを演じる。また、ライバル役に、米CNN「The Tokyo Hot List:20 People to watch 2010」に選出されたモデルで俳優の尚玄。さらに、笠置町民の約4分の1にあたる約300名が出演し、脇を固めている。音楽は、主題歌・BGM・劇中歌全てを、2016年満を時してメジャーデビューを果たした「ココロオークション」が製作。夏の三部作と呼ばれる青春MVが話題を呼び、そのロケ地が笠置町という縁から本作の楽曲を担当することになった。監督を務めるのは、本作が劇映画デビュー作となる馬杉雅喜。「ショートショート フィルムフェスティバル」や「48 Hour Film Project」などで賞を受賞し、WOWOWの「ノンフィクションW」に取り上げられるなど、注目の若手監督。当初8名しかいなかったという映画参加者を、笠置町内を1軒1軒チラシを持ち歩いて回り、「一緒に映画を作りましょう」と呼びかけた結果、300名弱の人たちが参加することになったという。「この映画は、(町に)可能性を感じて欲しくて作りました」と馬杉監督。「2016年、町に元気が出るような映像を作ってほしいとお話をいただき、町のことを調べていくうちに、人口のことや過疎の現状などの問題を知りました。当初は『町を変える映画を作ろう』と思って進めていたものが、そうではないと考えをあらためました。そこらへんは劇中に表現しています。過疎に歯止めをかけるには、産業を生むとか、若者に足を運んでもらい、定住を促すとか色々あると思いますが、その前に変化に耐えられるかだと思います」と語る。「人が少なければ少ないほど、コミュニティが別れ、一体感を失い、もろくなる。一番の問題は潜在的な“あきらめ”だと思いました。大事なことは町の未来に可能性を感じること。50分ほどの短い、小さな映画ですが、“自分の町を誇る”その小さい火を一人でも多くの人に灯せればと思っています。そのために、一人でも多くの人に、一回でも多くこの映画を届けられるよう、がんばりたいと思っています。『いい町ですよね』と言われて『そうやろー! この町はな、あれやこれや…』って話してくれる町は、すごく素敵だと思うんです」。なお、クラウドファンディングで募った資金は、20%が国内外の映画祭へ応募、70%が映画館などでの上映、10%は笠置ボルダリングエリアの維持・清掃費用などの応援資金に当てられる。(text:cinemacafe.net)
2017年03月27日