「日本人は、寒さを我慢したほうが体が鍛えられるとか、健康になると考える傾向があり、実際9割以上の人が寒い家に住んでいます。ところが、寒い住環境は健康寿命を縮めることがわかってきたのです」住環境と健康の関係に詳しいジャーナリストの笹井恵里子さんはこう話す。「2002年から高知県梼原町で、住居と健康の関係についての疫学調査が実施され、寒い住環境は、睡眠の質、筋肉量、脳の働き、血圧、コレステロール値といった、生活習慣をはじめとした健康に影響を及ぼすことがわかったのです」室温が私たちにどのような影響を与えているのかをしっかり理解してもらうためにも、クイズ形式で説明してみよう。【Q1】快眠のために必要な寝室の湿度は?正解は40%。「温度と湿度は連動しており、温度が下がると湿度も下がり、湿度が低く空気が乾燥していると、のどが渇きやすくなり、いびきをかきやすくなります。慶応義塾大学の伊香賀俊治教授らの研究では、寝室の湿度が40%以下になると中途覚醒が2.9倍、いびきが1.6倍増え、睡眠の質が2.5倍悪くなることがわかっています」【Q2】寒い家に住む人は暖かい家に住む人に比べてどれくらい頻尿になりやすい?正解は1.6倍。「前述の伊香賀教授によると、12度未満の家では過活動膀胱(頻尿)の症状が1.6倍多く出るそうです。部屋が寒いと、体が冷えて尿意を催しやすくなるからです。冷えは万病のもとともいわれていますから、最低でも室温12度は維持してほしいですね」(笹井さん・以下同)【Q3】感染症対策に適度な室温と湿度は?正解は室温22度、湿度50〜60%。「感染症対策の観点でいうと、室温22度、湿度50〜60%で、インフルエンザウイルスの生存率が下がることがわかっています。ノロウイルスや新型コロナウイルスの対策としても、室温と湿度には注意したいものです。湿度が関係するのは、感染症対策だけではありません。湿度30%未満の介護施設は30%以上の施設に比べて要介護度が2倍悪化しやすいこともわかっています」【Q4】健康寿命を延ばすために保ちたい脱衣所の室温は?正解は14度以上。「日本のおうちの中でいちばん寒いのは脱衣所といわれています。近年、注意喚起されているヒートショックを避けるためにも、脱衣所の室温は低くても14度を維持したいところ。18度を下回るほど転倒やけがなどのリスクが高まるとされています。室温が1度上がると健康寿命が2年延びることがわかっています」【Q5】コスパが高い暖房器具は?正解はエアコン暖房。「オイルヒーター、ガスファンヒーター、電気ストーブ、エアコンなどさまざまな暖房器具がありますが、低コストで空気の質も保ってくれる暖房器具はエアコンです。オイルヒーターが消費する電気を1とすると、エアコンは同じ量で3倍の熱を発生させることができるといいます。最近はエアコンと空気清浄機が一体化しているものもありますから、非常に効率のよい暖房器具となっています」こうした結果を踏まえて、笹井さんは、温度に敏感になることの大切さを訴える。そのためにも、部屋に温湿度計を設置してみるといいという。頻繁に温度を確認することで、肌感覚がつかめるようになるのだそう。「女性自身」2020年12月1日・8日合併号 掲載
2020年11月27日日本人は寒さを我慢したほうが体が鍛えられると考える傾向にあるが、寒い住環境は、さまざまな病気に影響を与えているという。感染症に対する影響から、脳神経、血圧に対する影響、睡眠への影響、コスパのいい暖房方法などを知って、適度な室温で健康に暮らして、長生きしようーー!「日本人は、寒さを我慢したほうが体が鍛えられるとか、健康になると考える傾向があり、実際9割以上の人が寒い家に住んでいます。ところが、寒い住環境は健康寿命を縮めることがわかってきたのです」住環境と健康の関係に詳しいジャーナリストの笹井恵里子さんはこう話す。「2002年から高知県梼原町で、住居と健康の関係についての疫学調査が実施され、寒い住環境は、睡眠の質、筋肉量、脳の働き、血圧、コレステロール値といった、生活習慣をはじめとした健康に影響を及ぼすことがわかったのです」室温が私たちにどのような影響を与えているのかをしっかり理解してもらうためにも、クイズ形式で説明してみよう。【Q1】室温が5度下がると、脳神経は何歳衰える?正解は10歳。「部屋が寒いと、服を着込み、背中を丸めて動かなくなります。これでは運動量が減り、脳への刺激も少なくなります。一方、部屋が暖かいと薄着で活動的になり、脳への刺激も活発になります。梼原町の調査では、室温が1度下がるだけで脳年齢2歳、5度で10歳衰えるということがわかっています。梼原町の脳神経外科医の内田泰史先生は、『寒さは体にとってストレス。ストレスを減らすことが脳神経を若く保ち、結果的に認知症の予防にもつながる』と明言しています」(笹井さん・以下同)【Q2】室温が20度から10度下がると、80代の血圧はどれくらい上がる?正解は約12mmHg。「若いころから寒い家に住んでいるから体が寒さに慣れている、という方がいますが、グラフにも示されているように、高齢者になるほど血圧が高まる傾向にあり、80代の女性では室温が10度下がると血圧が11.6mmHg高くなります。また、高齢になるほど動脈硬化も進んでいますから、寒いほど血管の柔軟性も衰え、影響が強く出ます。イギリスの調査でも、室温が9〜12度になると心血管疾患のリスクが上がることがわかっています」【Q3】国土交通省が行った調査の2,190世帯の寝室の平均室温は何度だった?正解は12.8度。「2018年にWHOは、冬の室温18度以上を強く勧告しました。ところが、国土交通省が2190世帯を対象に行った調査では、居間の平均温度が16.8度、脱衣所は13度、寝室では12.8度でした。日本の住環境は、世界水準からみても、とても寒いのです。12度を下回ると、血圧上昇、心疾患リスクなど、強く負の影響が表れてきます。さらに自律神経の乱れ、アトピー性皮膚炎や鼻炎も出やすくなります」【Q4】冬に室内の熱は窓から何%出ていく?正解は約60%。「建物で外と内の温度伝達が最も盛んなのが窓です。窓枠のアルミとガラスは伝熱性が高く、58%の熱を放出します。防寒対策として、窓を二重にする、高性能窓に取り換えるなどの方法もありますが、低コストでてっとり早い方法は、プラスチックの気泡シート(気泡緩衝材)を窓に貼って、窓からの放熱を防ぐことです」ほかにも、カーテンを厚手のものにする、雨戸を閉める、暖房器具を窓側に置く、などがあるそう。【Q5】一年を通して学習効率が最も高い室温は何度?正解は25度。「東京大学名誉教授の村上周三氏の研究により、冬場の室温を22度から1度上昇させたことで、子どもの学習効率は10.2%、23度から1度上昇させると4.7%向上することがわかっています。大人の仕事効率についても同様で、一年を通して室温は25度に近いほど、能率がよくなります」住環境を暖かく保つ工夫をして、健康寿命を延ばそう。「女性自身」2020年12月1日・8日合併号 掲載
2020年11月27日