8月10日(土) から9月1日(日) にかけて、鴻上尚史のプロデュースユニット「KOKAMI@network」(コーカミネットワーク)第20回公演として、舞台『朝日のような夕日をつれて2024』が上演されることが決定した。本作は、鴻上尚史が結成した劇団「第三舞台」の旗揚げ公演として1981年に初演され、再演され続けている鴻上尚史の代表作。サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を下敷きに、ギャグと遊戯の洪水の中でその時代の最先端を反映し変化し続けた作品だ。8回目の上演となる今回は、81年初演から「初めて」上演キャストを一新して上演する。キャストは、2014年上演の本作にも出演し、現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』に出演する玉置玲央、舞台『鋼の錬金術師』シリーズで主演のエドワード・エルリック役を務めた一色洋平、昨年上演の音楽劇『浅草キッド』にて、後輩芸人でコンビを組むも武へのコンプレックスから次第に悲劇へ突き進むことになるマーキー役を好演した稲葉友、2020年の一人芝居舞台『カプティウス』など数々の舞台に出演する安西慎太郎、そして現在放送中のドラマ『恋は湯けむりの中で』や新宿LIVEで上演中の舞台『最果てリストランテ』出演する小松準弥が顔を揃える。東京公演後、大阪公演が9月7日(土)・8日(日) サンケイホールブリーゼで上演される。■作・演出:鴻上尚史 コメントとうとうこの日が来ました。『朝日のような夕日をつれて』は、僕が22歳の時、初めて書いた戯曲で、『第三舞台』の旗揚げ作品として上演した作品です。幸いなことに、その後、2014年まで、計7回も上演することができました。劇団と僕自身の代表作のひとつと評価される作品になりました。男5人が登場する作品で、初演からは大高洋夫、二回目の公演からは小須田康人の二人とずっと一緒に創ってきました。他の役は、何人かは変わりましたが、すべて、「この人と一緒に創りたい」と僕が思った人でした。今回、『朝日のような夕日をつれて2024』では、5人すべてを新しい二十代、三十代のニューメンバーでやることにしました。5人とも、僕が「この人と一緒に創りたい。この人達となら、新しい朝日が創れる」と思った人達です。いろんな人から、「新しい朝日が見たい」と言われてきました。「朝日はとても演技的に難しい作品だから、簡単には、できないんです」とそのたびに答えました。でも、とうとう、上演できるニューメンバーが集まってくれました。劇場でお会いしましょう。とうとうこの日が来ました。<公演情報>紀伊國屋ホール開場60周年記念公演KOKAMI@network vol.20『朝日のような夕日をつれて2024』『朝日のような夕日をつれて2024』ティザービジュアル作・演出:鴻上尚史出演者:玉置玲央一色洋平稲葉友安西慎太郎小松準弥【スケジュール】東京公演:8月10日(土)~9月1日(日) 紀伊國屋ホール大阪公演:9月7日(土)・8日(日) サンケイホールブリーゼ公式サイト:
2024年02月27日鴻上尚史が作・演出を務める舞台『アカシアの雨が降る時』が10月14日(土)から新国立劇場 小劇場で上演される。物語は、桜庭⾹寿美(竹下景子)が倒れたところから始まる。孫の陸(鈴木福)、息⼦の俊也(松村武)が見守る中、目覚めた⾹寿美は自分は20歳の大学生で、陸は自分の恋人で、俊也を恋人の父親だと思いこんでしまう。俊也と陸は医者のアドバイスに従い、⾹寿美の思い込みを否定しないよう、演技を続けることを決意。こうして3人の⾹寿美の青春である70年代を共にすごす旅が始まる――。初演は2021年で、久野綾希子、前田隆太朗、松村武が出演した。鴻上は本作の着想点について「いくつかある」としながら、「久野さんと一度お芝居をやらせてもらって、なんて素敵なコメディエンヌなんだろうと思って。彼女曰くほとんどコメディの芝居をやったことがないというので、じゃあやりましょうと。もう一つは、母を亡くした直後だったんです。自分の中で抱えていたこともあって、母というものを書きたいと思いました」。久野と再演の約束をしていたという鴻上。残念ながら、久野は2022年8月に乳がんで亡くなってしまったが、鴻上は「久野さんは生前『私の代表作だ』と言ってくださっていたそう。すごく嬉しいし、ありがたい。その代表作を再演することは久野さんを忘れないということにも繋がると思って、再演を決めました」と話す。久野の後を継ぐのは竹下景子。「初演のイメージが強いから、二の足を踏むのが当たり前だと思うんですけど、今回引き受けてくださって。稽古が始まってまだ数日ですが、とても“おきゃん”なおばあさんになっていて、素敵です」と鴻上は評する。今回が初参加となる鈴木福については「国民の息子ですからね」と笑いつつ、「陸はなかなか屈折した役。『鈴木福、やるな』と思ってもらえるように、頑張ってもらいたい」。初演から続投する松村武については「彼も劇団の主宰者で演出家なので、何を求めているかをすぐ分かってくれる。物語を俯瞰しブレずにやってくれるのでやりやすい」と話す。観客に対しては「自分で言うのもなんですが、これは名作です。笑いあり、涙あり、歌あり、とても豊かな気持ちになれると思います。劇場でお待ちしています」。東京公演は10月22日(日)まで。その後、兵庫、石川、盛岡、久慈、愛媛、大阪公演も予定されている。取材・文:五月女菜穂
2023年09月25日11月10日(金)は舘野泉87歳の誕生日。ピアノ界のレジェンドが、数えで米寿のバースデー・コンサートを開く(東京オペラシティコンサートホール)。2002年に脳溢血で倒れ、右半身不随に。2年後、「左手のピアニスト」として演奏復帰した。「僕自身の中では何も変わりません。左手だけで弾いているという意識もない。ずっと変わらず、音楽をやっているだけですから」実際に演奏を聴けば、「左手」かどうかが小さなことだとわかる。この人だけの至高の音楽が、今は5本の指に凝縮されて紡ぎ出される。今回はすべて室内楽との共演。ヤナーチェクのカプリチオ《挑戦》、平野一郎《鬼の学校》(2022)、パブロ・エスカンデ《奔放なカプリッチョ》(2023/委嘱作品・世界初演)。なんとも意欲的な舘野ワールド。「ヤナーチェクは大好きな作曲家。《挑戦》は左手ピアノと管楽七重奏という特殊な編成ですが、豪華メンバーが集まってくれました」フルート1、トランペット2、トロンボーン3、ユーフォニアム1。甲斐雅之(fl)、辻本憲一(tp)、新田幹男(tb)ら、各オーケストラの首席奏者など、頼もしい顔ぶれが並ぶ。「ただヤナーチェクはどちらかと言えば内向的な作品なので、コンサートの最後にメンバーにもっと存分に名技性を発揮してもらおうと、同じ編成の新作をエスカンデに委嘱しました。エスカンデとはもう10年以上一緒にやっていて、いつも工夫して面白いアイディアで書いてくれるんです。現段階では《奔放なカプリチオ》という曲名だけもらっています。楽しみですね」そして《鬼の生活》は昨年の委嘱作品の再演。シューベルトの《ます》と同じ編成のピアノ五重奏曲。「僕は鬼の学校の先生の酒呑童子。4人の若い鬼たちが、鬼としての純粋な生き方を勉強していくわけです。脅し方だとか、戦い方、隠れ方……。いろいろな性格の音楽が出てきて面白いですよ。初演以来全国各地で弾いているので、鬼たちの調子もぐんぐん上がっています(笑)」一方で深い悲しみも。3月に最愛の妻マリア・ホロパイネンさんを亡くした。「最後の3週間はフィンランドの自宅で一緒に過ごすことができました。10月に小海で初演する谷川賢作さんの新作の中で、〈To Maria〉というスローバラードの楽章を書いてもらう予定です」そう言って、少し言葉を詰まらせた。ひとときも立ち止まることなく新たな作品に挑む舘野を、天国のマリアさんも微笑みながら見守っているはずだ。米寿記念演奏会舘野泉 バースデー・コンサート11月10日(金) 14時開演東京オペラシティ コンサートホール■チケット情報出演舘野泉(ピアノ)平石章人(指揮)甲斐雅之(フルート)辻本憲一(トランペット)尹千浩(トランペット)新田幹男(トロンボーン)ザッカリー・ガイルス(トロンボーン)野々下興一(トロンボーン)齋藤充(ユーフォニアム)ヤンネ舘野(ヴァイオリン)小中澤基道(ヴィオラ)矢口里菜子(チェロ)ジョナサン・ステファニアク(コントラバス)文:宮本明撮影:石阪大輔
2023年07月18日鴻上尚史が作・演出を手がける『アカシアの雨が降る時』が、10月14日(土) から22日(日) に新国立劇場 小劇場で上演されることが決定した。物語は、桜庭香寿美が倒れた所から始まる。孫の木村陸、息子の桜庭俊也が見守る中、目覚めた香寿美は陸を自分の夫、つまり陸の祖父の名前で呼び、自分は20歳の大学生で、陸は自分の恋人で、俊也を恋人の父親だと思いこみ挨拶した。俊也と陸は医者のアドバイスに従い香寿美の思い込みを否定しないよう、演技を続けることを決意する。こうして3人の香寿美の青春時代(70年代)をともに過ごす旅が始まった――。「家族」という普遍的なテーマを軸に、若者たちの熱気があふれていた70年代(若者たちが抗議活動に参加した「戦車闘争」や、若者のバイブルだった高野悦子著『二十歳の原点』、当時流行した歌やギャグなど)を青年と中年の世代がリアルな現代の悩みを抱えながら体験することで、徐々に変化し、違いを理解し合おうとする姿を描き、2021年の初演時も好評を博した。今回は、主演の桜庭香寿美役を竹下景子、孫の木村陸役を鈴木福、そして桜庭香寿美の息子で陸の父親の桜庭俊也役を松村武が務める。なお本作は東京公演を上演後、兵庫・石川・岩手・愛媛・大阪と巡演する。■作・演出:鴻上尚史 コメントこの作品は、過去と現在と未来を3世代の個性的な登場人物によって描き出す物語です。70年代の記憶に生きる「おばあちゃん」役は、竹下景子さんです。僕自身、青春時代から竹下さんの映画・テレビを見続けてきました。今回ご一緒できるのは本当に嬉しいです。現在を生きるビジネスマンの息子役には、村松武さんです。ものすごく上手い俳優さんです。そして、未来を生きる大学生の孫役は、子役時代から活躍を続ける鈴木福さんです。魅力的な3人のキャストを迎えて今からワクワクしています。初演の「おばあちゃん」役だった久野綾希子さんへの感謝とリスペクトを胸に、魂込めて作品を作ろうと思っています。■竹下景子 コメント『アカシアの雨が降る時』の主人公香寿美さんとは同世代。劇中に登場する歌もギャグも昨日のことのように記憶しています。違うのは社会の出来事に疎かったこと。演劇少女だった私にはベトナム戦争も安保もどこか遠い出来事でした。鴻上ワールドの中で、あの青春を生き直すことができたら。二十歳の私を、50年後の私の体を通してより鮮明に、そしてみずみずしく演じたいと思います。松村武さん、鈴木福さんとの共演も楽しみです。■鈴木福 コメント木村陸役を演じさせていただきます。鈴木福です。初めての3人でのお芝居。鴻上尚史さんの演出のもと、竹下さん、松村さんと、どのようなお芝居ができるのか今からワクワクしています。昨年、初めて立たせていただいた新国立劇場小劇場に戻ってこられることも、とても嬉しく思います。しっかりと稽古を経て、みなさんに素敵な作品を届けられるよう頑張ります!!■松村武 コメント初演に引き続き出演させていただくことになりました。いろんな思いに満ちた、個人的にも忘れ難い大切な作品となりました。新たなお二人の素晴らしい方々とともに、再びこの物語に臨めること、何かとても貴重な機会をいただいたと思っております。とにかく心して、観客の皆さんに丁寧にお届けしていけるよう頑張ります。<公演情報>『アカシアの雨が降る時』作・演出:鴻上尚史【登場人物】桜庭香寿美:竹下景子木村陸(俊也の息子・大学生):鈴木福桜庭俊也(香寿美の息子・サラリーマン):松村武【公演日程】東京公演:10月14日(土)~10月22日(日) 新国立劇場 小劇場兵庫公演:11月3日(金・祝) 神戸朝日ホール石川公演:11月11日(土) 北國新聞赤羽ホール盛岡公演:11月17日(金) 盛岡劇場メインホール久慈公演:11月19日(日) アンバーホール 小ホール愛媛公演:11月28日(火)・29日(水) あかがねミュージアム大阪公演:12月3日(日) 大阪・富田林市すばるホール 2Fホール公式HP:
2023年06月29日鴻上尚史が主宰する「虚構の劇団」で二度上演。劇団を代表する一作として知られる『エゴ・サーチ』が、キャストを一新し9年ぶりに上演される。そこで作演出の鴻上と、小田切美保役で初舞台を踏む吉田美月喜に話を訊いた。本作について、「劇団の中では間違いなく1、2を争うぐらい、自分では気に入っている作品」と語る鴻上。だが初演は12年前。作品の見え方もだいぶ変わってきたようで…。「“エゴ・サーチ”って言葉が当たり前になりましたからね。だから余計に今、この物語は届くんじゃないかなと。また僕らは、インターネットという手に余るツールを得てしまったことで、自分がどう生きるかってことをハードに突きつけられている。実に複雑で、厄介な時代を生きていると思います」吉田は今回の出演をオーディションで勝ち取ったが、「受かったのが不思議なくらい、オーディションでなにも出来なくて…。帰り際、『すみませんでした!』って鴻上さんに謝ったくらいなんです」と振り返る。すると鴻上は、「美月喜さんはね、悔しがり方がすごかったんですよ」とニヤリ。「でもこれだけエネルギーと向上心とガッツがあれば何とかなるかなと。また美保というのが悩みの中に放り込まれる役なので、そこにも合っていたんです」と経緯を明かすと、「本当に運が良かったです!」とパッと吉田の顔に笑顔が戻る。さらに吉田は、「鴻上さんから『演じている時は自分のことを最高の役者だと思って演じ、反省するのは終わったあとにしなさい』と言われたことがすごく印象に残っています。あと鴻上さんって、『ここはこう』と指示するのではなく、『それを自分の言葉で言うとなに?』と聞いてくださる。その会話によって、役にすごく近づけている気がして。稽古場では学ぶことばかりです」と、鴻上に絶大なる信頼を寄せる。その言葉に鴻上は、「だって僕は良い演出家ですから」と大笑い。と同時に、「僕自身、新しい役者とやる時には届く言葉を探す旅になりますし、鍛えられる部分はとても多いです」と続ける。最後に、「生きる勇気や希望を感じられる作品だと思います。この舞台を観ることが、なにか明るい元気のきっかけになってくれたら嬉しいです」と吉田。鴻上は、「役者が変われば違うものになるのは当たり前。初演、再演をなぞるつもりはまったくありませんし、このメンバーで出来るベストなかたちを探っていきたいと思います」と抱負を述べた。取材・文:野上瑠美子
2022年04月08日ピアニスト舘野泉が、恒例の秋のリサイタルを今年も10月22日(金)東京文化会館小ホールで開く。初演曲2曲を含む、彼のために作曲された左手ピアノの作品が並ぶ意欲的なプログラム。舘野に聞いた。2002年に脳溢血で右手の自由を失って以降、早い時期から舘野のために作品を書いてきた一人が吉松隆だ。今回はその代表作でもあるピアノ曲集《アイノラ抒情曲集》(2006)と《タピオラ幻景》(2004)から、舘野が独自に抜粋再構成した組曲を弾く。彼らの共通のキーワード「シベリウス」「フィンランド」が二人を結ぶ。「森と湖。澄んだ空気。静かに過ぎゆくものを慈しみながら。流れゆく時を大事にした曲です」フィンランドの作曲家カレヴィ・アホの《静寂の渦》は、本当は来年のコンサートのために委嘱した作品だった。「興が乗ったらしく、今年の3月に出来上がっちゃった(笑)。シンプルな主題が大きなエネルギーの渦となって広がって、最後はまた、ブラックホールに吸い込まれるように消えていきます」舘野が長く暮らすフィンランドでは多くの現代作曲家が活躍する。舘野は、彼らの国民気質が、孤独に自分と向き合う仕事に向いているのだと教えてくれた。林光の《花の図鑑・前奏曲集》(2005)は、花の名前のついた8楽章すべてに、古今の詩人たちのテキストが添えられている。「中野重治、すずきみちこ、与謝野晶子……。多くは反戦の詩です。左手の作品なのに、高音域(右手側)ばかり、身体をねじって弾かなければならなくて(笑)。難しいですが音楽のメッセージがはっきりしていて興味深いです」京都出身の平野一郎の《鬼の生活》も委嘱初演。「すごくアイディアがある面白い作曲家。全国の伝承文学にも詳しい人です。鬼の〝生活〟って変わってますよね。鬼が大暴れしたり恋をしたり。弾くほうも七転八倒する、でもとても綿密にできている作品です。彼も予定よりずっと早く書いてくれて、鬼シリーズの続編の構想まで出来上がった。次作はシューベルト《ます》の編成の五重奏。来年弾く予定です」11月で85歳。「若い頃に比べたら長時間はできない」というものの、毎日、ときには4時間も集中したままピアノに向かう。「一年一年、自分を見つめながら、できることだけを一生懸命。進んでいくと、またその先が見えてくる。音楽をすることは生きていることの証ですから」音楽への愛と情熱はいささかも衰えることはない。(文・宮本明)
2021年10月04日少年忍者・ジャニーズJr.の川崎皇輝が舞台初主演を務める『ロミオとロザライン』。その川崎と伴走するかのように稽古場で指導にあたっているのが、作・演出を手がける鴻上尚史だ。開幕を約1ヵ月後に控えたタイミングで、鴻上の瞳に映った川崎の座長ぶり、またロミオがジュリエットと出会う前に熱を上げていたというロザラインの存在に着目した狙いを語ってもらった。ロザラインに、弾き飛ばされてしまう演出家像を重ねた──同じタイトルの小説(集英社『ジュリエットのいない夜』に収録されている中編)をお書きになったほど、鴻上さんがロミオ・ジュリエット・ロザライン三者の関係に惹かれる理由はどこにあるんでしょうか?恋愛ものを書こうとする時に、主人公が直前まで別の女性に熱を上げていた設定にすることのすごさを感じたんですよ。『ロミオとジュリエット』は間違いなく世界でいちばん有名な恋愛物語だけど、いまの製作委員会方式だったら絶対に「中止」の指示が飛んだよね。──どういうことでしょう?大好きな女性(ロザライン)が参加するパーティーに行ったのに、ロミオはそこでいきなり別の女性(ジュリエット)を見初めて恋愛を始めちゃうんだよ? 現代だったら打ち合わせの段階でNGが出るでしょう。だってヒーローは、大好きな別の女に会いに行って、ヒロインと出会う。この設定、常人にはちょっと理解し難いと思うんだよね。だからまずそこなの。同じ物語をつくる人間として「どうしてシェイクスピアはそんな設定にしたんだろう?」っていう、素朴な疑問が出発点になっています。それにさ、ロザラインが可哀想すぎない? 戯曲の中であれほどロミオから求められたわりに出演しないしパーティーでも話さないし、どこにいるかさえ記されない。で、いつの間にか忘れ去られている。もし自分がロザラインの立場だったら、こんなに切ない話はないだろうと思うよ。だって自分のことを「好きだ」と言っていた男が、別の女性を追って5日後には死んでいるわけだから。彼女からしてみたら「何なの!?」って話。それが、僕がロザラインにこだわっている理由なんだ。──ただ小説は今回の原作ではなく、この舞台は「ロミオとロザラインとジュリエットの関係から夢想した」書き下ろしの新作なんですよね?そうそう! 小説版の主人公は中年の演出家なのに対して、舞台版はロミオ役を演じる俳優が主人公。小説はその演出家と主演女優の夫婦、ロミオとジュリエットを演じる若い俳優たちの物語だったけど、この舞台では若い3人の関係性を描きます。『ロミオとロザライン』メインビジュアル。カラフルな稽古着に身を包んだ川﨑皇輝(少年忍者/ジャニーズ Jr.)、吉倉あおい(右)、飯窪春菜(左)のメインキャスト3人が並ぶ。舞台のタイトルが小説と一緒だから、(川崎)皇輝ファンの人で、予習のために読んでくれた人がいるみたいなんだけど……中身はまったく異なる新作だから申し訳ないんだよね。「これ、予習しない方がいいよ」と伝えられるものなら、伝えたいと思ってる(苦笑)──小説では劇団の人間模様と劇中劇がクロスオーバーしていきましたが、今回の舞台版では何と劇中劇が交錯していくのでしょうか?舞台版では劇団じゃなくて、『ロミオとジュリエット』のプロデュース公演に集められた俳優やスタッフの人間模様が描かれます。ロミオ役の俳優が、ロザラインの役割に扮する女性演出家を気に入って指名するの。で、彼女を好きになって気持ちを伝える。でも女性演出家は作品の成功がいちばんなので、幕が降りてから……「すべて終わってから考えます」と答えるんだけど、その様子を知ったジュリエット役の俳優が「私を見る目より、演出家を見つめる目の方がロミオは輝いている」「ジュリエットである私をちゃんと見て」ってところから物語が動き出していく。──女性演出家がロザラインの役割になるんですね! 演出だけでなく、プロデュース公演『ロミジュリ』にロザライン役として出演することになるんでしょうか?いや、現実世界では演出家のままだよ。言ってしまうと、眠った時に夢の中でロザラインになるの。起きている時は『ロミジュリ』の演出家。だから劇中では、夢の中・現実・劇中劇という3つの世界が進行していく。──だんだん輪郭が見えてきました! 演出家にロザラインを託したことで、舞台版は小説と比べて三角関係がよりハッキリ際立つ構造になったんですね。いえいえ、それはそもそも別モノなので。彼女は20代後半で気鋭の若手演出家なんだけど、夢でロザラインに扮する時はロミジュリたちと同年代になる。だから徹頭徹尾ロミオとジュリエットの間に入って来ようとするし、ロミオもロザラインの視線を意識しながらジュリエットの方へ走っていく。最初はロザラインの歓心を買うためにジュリエットに話しかけていたのに、演技だった想いがいつしか本気に変わってしまうんだね。──その設定にした狙いはどこにあるんでしょうか?これは俺の“ガワ”の話なんだけど……演出家って、最終的には傍観する立場になっていくんですよ。最初は一緒にひとつの作品をつくるから俳優と共同作業する立場の人間なんだけど、本番の幕が開いたら、あとは俳優に任せるしかないんだよね。その「残された感じ」というか「弾き飛ばされた感じ」がロザラインと重なるんです。皇輝は稽古場で照れるんです──物語の始まりを聞けば聞くほど、主演を務める川崎さんがふたりの女性に挟まれてタジタジしている様子が思い浮かんでしまいます。まさにタジタジしてますよ(笑)。演出家役の(吉倉)あおいも、ジュリエット役の(飯窪)春菜も年上だしね。お姉さまふたりに囲まれて、必死になってがんばっていますよ。──鴻上さんの目から見て、舞台初主演にしてタイトルロールのひとりを務める川崎さんの、俳優としての魅力はどこにあると思いますか?誠実に一生懸命ってとこだね。年上のお姉さん相手に一直線でぶつかっていく。ただ誠実に愛そうとして、必死にあがいている姿が観客の胸を打つことになるんだと思うよ。──若手育成の場として立ち上げられた虚構の劇団をはじめ、公演中止になってしまった『スクール・オブ・ロック』(2020年)の最終審査を見学していた時に強く感じたのが、鴻上さんの“教育者”としての側面でした。今回も若手キャストが揃う中で、彼らをどんなゴールへ導いていこうと考えていらっしゃいますか?「ちゃんとした役者になってもらいたい」に尽きますね。稽古場であの手この手を使って働きかけている最中です(笑)。──川崎さんとは初対面でワークショップをされたとか。鴻上さんの「あの手この手」ぶりが気になります。修飾語が山ほどあるシェイクスピアのセリフを皇輝にぶつけて「これって何を言いたいんだと思う?」と問いかけていますね。朗々といっぱい喋っているけど、結局、伝えたいことは何なのか。いつも「ロミオはどういう感情なんだと思う?」と投げかけている。俳優って、最後は自分から役の気持ちを見つけていかないと伸びないんだよね。「こう動いて」「このシーンはこんな感情だろ?」って演出家がすべて答えを与えてしまったら、俳優はどんどん受け身になってしまう。だから皇輝にはセリフに対する質問をたくさんして、考えてもらっています。──考え抜いた結晶を表に出す川崎さんのセンスは、今のところ鴻上さんにどう映っていますか?よくやっていますよ! 恋愛ものなのでどこまで言っていいのかなぁ……でもわかっているのは「皇輝はそれほど恋愛が得意ではないらしい」ってことだね(笑)。──それは重要な事前情報ですね!あいつ、「このシーンはどういう気持ちか、僕にはわからず途方に暮れています」みたいなことけっこう言うんだよ。そこは「待て待て!」と立ち止まって。ジュリエットは14歳直前、ロミオは16歳ぐらいかな、とても若く、恋愛というものに初めて一直線に飛び込んでいく姿が魅力的なわけだから「恋愛に慣れていないくらいの方がいいと思うよ?」って言いながら稽古してます。──では、すれていない素の川崎さんのままぶつかればよいと?素のまま、っていうか……もちろん、ロミオとしてなんだけど。稽古場で照れるんですよ。そうそう、皇輝って小中高と男子校で。それ聞いて「なに!?」って。──女子に対する免疫が育まれにくいという、あの!まさに! 稽古場は「隣に女子がいるだけで緊張する」って言うんだよね。「女子のいる環境にドキドキする」んだって(笑)。──そんな川崎さんがどんな成長を遂げるか、ファンの皆さんは気になるでしょうね。楽しみにしてほしいですね。もちろん皇輝自身も「ロミオに命かけるぞ」って気合い入れてると思うよ。恋愛慣れしていない皇輝がどれだけ突き抜けられるか、乞うご期待──一方、ロザライン役の演出家に扮する吉倉あおいさんはCM出演やモデルからキャリアをスタートさせ、TVドラマなど映像で経験を積んできました。彼女の舞台俳優としての魅力を、鴻上さんはどのあたりに見出していらっしゃいますか?あおいはね、嘘をやらない潔さがある。本人は「不器用」と言うんだけど、不器用のプラス面は適当な嘘でごまかさないこと。すごく信頼できますね。今日、モノローグの稽古で急に涙があふれ出てきてセリフが言えなくなってしまって。「どうしたんだよ?」って聞いたら、「ジュリエットの部屋で、ロミオがジュリエットとふたりでいると思うと涙が止まらない」って。──嫉妬の感情が吉倉さんの中に降りてきた?自分の中にある真実の感情で演じようとしたんだね。──ジュリエット役の飯窪春菜さんは、2011〜18年にモーニング娘。としてアイドル活動を行っていました。彼女のキャリアは、本作にどんな影響を与えると感じていらっしゃいますか?春菜はさすがアイドルやっていただけあって、ガッツがある。すごく喰らいついてくるし「本気で女優になりたい」ってエネルギーを感じます。──ジュリエットはロミオを翻弄するんですか? それとも、ただそこにいるだけでロミオが惹かれてしまうような存在として描かれるんでしょうか?翻弄するわけじゃなくて、ロミオを大好きになるってことだよね。今日も稽古場でスタッフ全員でキュンキュンしたんだけど、皇輝は恥ずかしいからジュリエットと距離を取ろうとしてしまうんだよ。けど春菜ジュリエットはエネルギーが強いから、ものすごい目力でロミオに視線を送る。これが『ロミジュリ』にはとても大切なんだ。ジュリエットが熱ければ熱いほど、ふたりに訪れる悲劇が際立つから。──そんなふたりに挟まれた川崎ロミオは、どんな結末に向かうんでしょう?タジタジしているのは最初だけ。まあ、そこからどうなるかは、見てのお楽しみですね(笑)──もうひとりのタイトルロールであるロザラインの、ロミオに対する複雑な感情はどのように描かれますか?それもご覧になってのお楽しみ。あおいがどう成長するか、ぜひ見届けてください。──川崎さんもどう突き抜けていくか、早く拝見したくなりました!皇輝のファンは固唾を飲んで「がんばって」と思っている気がするんだけど、日々一生懸命稽古しているから、あたたかい気持ちで見守ってもらえたら。小中高、女子と触れ合ってこなかったあいつがどんなロミオを演じるか。乞うご期待です。取材・文:岡山朋代撮影:源賀津己(メインビジュアルは除く)※川崎皇輝の「崎」は正式にはたつさき舞台『ロミオとロザライン』作・演出:鴻上尚史出演:川崎皇輝 / 吉倉あおい / 飯窪春菜一色洋平 / 二宮陽二郎 / ザンヨウコ / 渡辺芳博大高洋夫【東京公演】2021年7月9日(金)~2021年7月25日(日)会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA【大阪公演】2021年7月30日(金)~2021年8月1日(日)会場:サンケイホールブリーゼチケット情報
2021年06月30日7月9日(金)〜7月25日(日)に東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA、7月30日(金)〜8月1日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼにて、鴻上尚史作・演出による、新作舞台「ロミオとロザライン」が上演されることが決定した。主演は、所属する少年忍者での活動をはじめ、ステージ・ドラマ・バラエティなど多彩な活動を展開し、本作が舞台初主演作となる川崎皇輝(少年忍者 / ジャニーズJr.)。共演は、モデル・俳優として活動の幅を広げる吉倉あおい、モーニング娘。卒業後も着実にキャリアを重ねる飯窪春菜、伝説の劇団「第三舞台」を鴻上とともに結成し、劇団解散後も舞台・ドラマ・映画で活躍を続けるベテラン・大高洋夫ほか、一色洋平、二宮陽二郎、ザンヨウコ、渡辺芳博のバラエティに富んだキャストで鴻上の新作舞台に臨む。この度、本作品のイントロダクション(あらすじ)と、作・演出の鴻上と主演の川崎による意気込みコメント、キャストビジュアルが到着した。演劇作品、エッセイ、小説など話題作を送り続け、司会、コメンテーター、ラジオパーソナリティとしても幅広く活動を続ける鴻上の新作舞台、そして少年忍者のメンバーとして人気を博す川崎の舞台初主演作に期待してほしい。<イントロダクション(あらすじ)>ロザラインは、ロミオがジュリエットに出会う前に恋していた女性。ロミオは、ジュリエットに出会った瞬間に、あっと言う間にロザラインのことを忘れたと言う。けれど、もし、ロザラインの気を引くために、ジュリエットが好きだというふりをしていたとしたら。そして演技だった恋が本気になっていったとしたら。残されたロザラインはどう感じるのか……。物語は、『ロミオとジュリエット』を上演する稽古場から始まる。ロミオとジュリエットの間に、いつのに間にか、戯曲では名前しか出てこないロザラインが現れたとしたら。『ロミオとジュリエット』は、予想を超えた物語へと変わっていく。■作・演出:鴻上尚史 コメントいよいよ、『ロミオとロザライン』を上演することになりました。ロザラインは、ロミオがジュリエットに出会う前に恋していた女性です。ロミオとロザラインとジュリエットの三人の物語を僕はずっと夢想していて、小説にも書きました。主演のロミオには、演技に対して、実に熱心に向き合っている川崎皇輝さん。ロザラインには、着々と演技力をつけている吉倉あおいさん。そして、ジュリエットには、演技に対して熱意が溢れる飯窪春菜さん。とても、新鮮で魅力的な三人に集まってもらえました。切なくて、愛おしくて、ワクワクするような物語になると思います。ご期待下さい■主演:川崎皇輝(少年忍者 / ジャニーズ Jr.) コメント今回の「ロミオとロザライン」という作品は僕にとって舞台初主演になります。お話をいただいた時は主演という大きな役割にとても驚きましたが、自分に任せていただけたことへの嬉しさを1番に感じました。この作品は、若い俳優たちのお話をベースに、3つの物語が入り混じって進んでいきます。どのように交錯していくのかも今から楽しみです。鴻上尚史さんに初めてお会いした時、ワークショップをさせて頂き、2時間という短い時間で、自分でも分かるほど成長することができたと感じました。稽古期間も合わせて約2ヶ月間演出を受けられるということで本当に楽しみです。今はまだ不安な気持が強いですが、真っ直ぐお芝居に向き合う今回の北山役のように、僕も頂いた役に真っ直ぐ向き合って行きたいと思います。※川崎皇輝の「崎」は正式にはたつさき【公演概要】「ロミオとロザライン」作・演出:鴻上尚史出演:川崎皇輝(少年忍者 / ジャニーズ Jr.) 吉倉あおい 飯窪春菜一色洋平 二宮陽二郎 ザンヨウコ 渡辺芳博大高洋夫<日程・会場>●東京公演 2021年7月9日(金)〜7月25日(日)・全20ステージ会場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA●大阪公演 2021年7月30日(金)〜8月1日(日)・全4ステージ会場:サンケイホールブリーゼ※各地とも政府などによるイベントの開催規模制限要請、ガイドラインに準じて上演予定。※未就学児入場不可 ※開場は開演の45分前入場料:8,800円(全席指定・税込)チケット発売日:6月19日(土)公式HP: www.romeoandrosaline.com公式Twitter: お問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日 12:00〜15:00)
2021年04月27日恒例の舘野泉バ舘野泉 公演情報はこちらースデー・コンサートが、今年は演奏生活60周年記念ツアーの一環として開かれる(11月10日・東京オペラシティコンサートホール)。脳溢血の後遺症で右半身に麻痺を残したまま、左手のピアニストとして再起したのが2004年。前を向き続ける不屈の姿勢は、コンサート当日に84歳を迎える今も変わらない。プログラム5曲のうち、なんと世界初演の新曲が3曲も並ぶのだから。光永浩一郎(1966~)の《苦海浄土によせる》、新実徳英(1947~)《夢の王国》、パブロ・エスカンデ(1971~)《悦楽の園》の3作品。「苦海浄土から、夢の王国を過ぎて悦楽の園へ。なんだか物語性があるように見えるけれど、作曲家には何も注文もしていません。はからずも自分の気持ちにぴったりのプログラムになりました」光永はすでに舘野のために左手作品を何曲も書いている熊本出身の作曲家・ピアニスト。新曲は作家・石牟礼道子の代表作『苦海浄土 わが水俣病』に由来する。「彼がピアノを好きなことは、作品からもよくわかります。今回も非常に力のこもった作品。〈海と沈黙〉という第3楽章が本当に素晴らしい。静寂が人々に訴えかけるような音楽です」新実の初めての左手作品となる新曲の楽譜は、「舘野泉 左手のピアノ・シリーズ」(音楽之友社)の新刊として11月出版予定。舘野は、取材前にちょうどその巻頭言を脱稿したところだったそう。「そこにも書いたのですが、熟練、熟知、熟達した作曲家の作品です。『夢』といっても、甘い憧れではなく、夢と現実とが錯綜するような音楽です」そして光永同様、すでに舘野と多く協働しているのが、ブエノスアイレス生まれで関西在住のエスカンデだ。「彼の作品はネオ・バロックとでもいうべき、すごく明晰な書き方。これはヒエロニムス・ボスの祭壇画に従って書かれた作品で、スコアにはそれを示す標題が添えられています。天地創造から始まって、アダムとイヴ、悦楽の園、そして地獄。天国と地獄は表裏一体なんですね」他にバッハ(ブラームス編曲)とスクリャービンを弾く。つねづね「両手で弾いても片手で弾いても音楽は音楽。何も変わらない」と語る。それどころか、作曲し尽くされ、弾き尽くされてきた両手作品と違って、左手作品は一作一作のすべてに新しい世界が広がっていると力を込める。くめども尽きぬ、まさに「泉」なのだ。取材中、新実作品にとても運指が難しい箇所があるのだと楽譜を見せてくれた。そこは少し容易な運指で弾ける別案も選択できるようになっているのだが、「意地でも難しいほうで!」とうれしそうに笑う舘野。ピアニストの命である手の故障にさえ敢然と立ち向かう巨匠に、老いという言葉はまったく無縁のようだ。感染症拡大の影響を受けていた活動もいよいよ10月から本格再開。60周年リサイタルは福岡、札幌、藤沢、福島、東京、大阪と全国を巡る。「自分のペース、自分の生き方を思い出して、また音楽を伝えていきますよ」と自然体で語った。取材・文:宮本明
2020年10月20日10月31日(土)~11月23日(月・祝)の期間、紀伊國屋ホールにて鴻上尚史 作・演出の舞台『ハルシオン・デイズ2020』が上演されることが決定した。鴻上が出会った様々な人間と公演するために立ち上げたプロデュース・ユニット「KOKAMI@network」。第18弾となる今回は、絶望と救済、そして希望をテーマに、4人の登場人物が妄想・幻影・虚構と向き合いながら、目まぐるしく物語を展開していく。鴻上作品の中で最も多く上演されている『トランス』のテーマを引き継ぎ、2004年に初めて上演された本作。2011年のロンドン公演を経て、「今だから」届けたい作品として2020年版を上演する。紀伊國屋ホールほか、サンケイホールブリーゼにて大阪公演も開催される予定だ。主演を務めるのは、ミュージカル『フランケンシュタイン』や現在放送中の連続テレビ小説『エール』で注目を集める柿澤勇人。共演には、『恐るべき子供たち』『HAMLET ―ハムレット―』をはじめとする舞台や、TVドラマ出演、執筆活動とマルチな活躍を見せている南沢奈央、連続テレビ小説『なつぞら』や大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』の話題作をはじめ、現在公開中の映画『弱虫ペダル』にも出演している須藤蓮、そして、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト』など数多くのの舞台に出演する一方、シンガーソングライターとしても活躍する石井一孝が集結。実力派俳優の手により、2020年版として新たに彩られる鴻上ワールドに期待したい。◆作・演出:鴻上尚史コメント『ハルシオン・デイズ2020』を上演することに、本当にいろんな思いがこみ上げています。初演は、自殺系サイトで出会った4人の物語でした。2020では、ツイッターの♯(ハッシュタグ)自殺で、出会った4人の物語です。初演はその中の一人が「人間の盾」になりますが、2020では、目に見えない「自粛警察」に戦いを挑みます。素敵なキャストが集まってくれました。優しさとたくましさが両立する柿澤勇人さん、僕とは二回目、知性と実力が光る南沢奈央さん、チャレンジ精神と野望に溢れた須藤蓮さん、色気と安定のベテラン石井一孝さん。間違いなく、刺激的で面白い作品になると思います。劇場でお会いできることを祈っています。◆柿澤勇人コメント出演予定だった、ミュージカルの中止が発表されたすぐに、鴻上さんから一緒に芝居をやろうと声をかけて頂きました。また舞台で芝居が出来るんだ、しあわせだな。というのが率直な気持ちです。この状況下で、役や作品がどんどん失われていった中だったので…今まで10数年演劇をやってきましたが、今までとは違う感覚の嬉しさでした。鴻上さんと、このハルシオン・デイズについてお話した際、とにかく「生きろ!」というメッセージを伝えるためにやりたいと仰っていたのが印象的で、その言葉で自身も更に身が引き締まりました。鴻上さんは、僕のような若造の意見にも耳を傾けてくれて、且つ、導いてくれる、そんな印象です。そして素敵な俳優の方々が集まりました。生きること、命について考えさせられる素敵な作品です。駆け抜けます。◆南沢奈央コメント鴻上さんの作品に出演させていただくのは、4年ぶりになります。どんな影の部分も、テンポよく、むしろ明るく作り出されていく世界観が私はとても好きです。「ハルシオン・デイズ 」は、死を目の前にして表れる"人の本質"が色濃く描かれます。16年前の初演時とは、大きく変化した世の中になりました。捉え方がまったく違うものになるのではと思う一方、時代を問わずに私たちの胸に響く普遍的なメッセージがたくさん込められていると思います。私自身が作品から感じた「生き抜く力」を持ち、「今上演する意味」というのを噛み締めて演じたいと思います。◆須藤蓮コメント半年ほど前に、自身の俳優としての実力のなさ故、二度と舞台に立つことはできないと確信していたものですから、まあ縁がないだろうとぼんやりしていましたので、決まったときは少しギョッとしてしまいました。自分には勿体ないほどの役をいただきましたが、それに見合うところまで、丁寧に鍛錬していきたいです。たった1日先のことすらわからない世の中ですから、この舞台で突然芝居が大好きになることだってあるんじゃないかと期待しています。◆石井一孝コメント『蜘蛛女のキス』というミュージカルでモリーナという愛深きトランスジェンダーを演じたのは10年ほど前だったか。「女言葉や女性としての自然な所作」という設定が難しく、膨大なセリフもなかなか覚えられず、七転八倒の毎日でした。しかし仲間達と絆を重ねあい壁を超えると、女でいたいというモリーナの心が、男の私にも伝わり、生き生きと女を生きられたのだ。今回は哲造というゲイの役。モリーナとは違い、男として男を愛する役ではあるけれど、自分のいつもの言葉とは違うセリフで、難しい役であることは似ていると感じる。けれど今度は最初からうまくいく...気がしている。しかし鴻上さんとは初めまして。「生きる!」というテーマに立ち向かうのはきっと大変な毎日になると思う。でもHalcyon days(穏やかな日々)を少しでも早く迎えられるよう、気を引き締めて挑みたい。<公演詳細>◆KOKAMI@network vol.18『ハルシオン・デイズ2020』公演日程:【東京公演:紀伊國屋ホール】10月31日(土)~11月23日(月・祝)【大阪公演:サンケイホールブリーゼ】12月5日(土)~12月6日(日)<チケット情報>●東京公演一般発売:10月3日(土)AM10:00〜チケット料金:8900円(全席指定/税込)☆U-25チケット:4500円(当日引換券/税込)※25才以下のお客様を対象とした枚数限定チケットです。当日劇場にて開演30分前より指定席券とお引換え致します。(引換時、要身分証提示)※未就学のお子さまはご入場いただけません※当日券は開演の1時間前より劇場受付にて販売いたします●大阪公演一般発売:10月17日(土)AM10:00〜チケット料金:8900円(全席指定/税込)ブリーゼシート:6500円(全席指定/税込/前売・当日共通)※端のお席になります。シーンにより見づらい可能性があります。☆U-25チケット:4500円(当日引換券/税込)※25才以下のお客様を対象とした枚数限定チケットです。当日劇場にて開演30分前より指定席券とお引換え致します。(引換時、要身分証提示)※未就学のお子さまはご入場いただけません※当日券は開演の1時間前より劇場受付にて販売いたします
2020年09月14日司会をつとめる番組を通じて、多くの外国人のお話を聞いてきた鴻上尚史さん。私たちにとっては当たり前でも、外国人観光客からするとカルチャーショックを受ける東京の光景は意外と多くある模様。なかでも驚きのエピソードを鴻上さんが教えてくれました!日本だから成り立つ、「おまかせ」と「食べ放題」の衝撃。「飲食店で、『おまかせで』と注文することがあると思います。でも、それを海外の方に言うと驚かれることがしばしば。どうやら、『どんな食事が出てくるかわからない』『残り物を出されるかも?』と、警戒するよう。日本人の良心に基づいたオーダー方法なのかもしれません」。また、食べ放題や飲み放題も、海外ではあまり見かけないそう。「理由はとても簡単で、どれだけ食べて飲むかわからないからです。とあるロシア人は、『お店のお酒がなくなってしまう』と言っていましたから(笑)。外国人ほど多く食べられない人が多く、アルコールにもそこまで強くない日本人だからこそ、上手くいくのでしょう」温かい便座ときれいな公衆トイレの数に驚き!日本にやってきた外国人が買っていくものの一つに、温水洗浄便座がある。「まず、ほとんどの人が座った時にお尻が温かい、その気遣いに感動します。お尻を洗う機能も、最初は必要ないと言いながら、次第にその快適さにやみつきになってしまう人が多い。とはいえ、世界での売り上げはそこまで伸びていないのが実情。大きな理由の一つが、海外では硬水の地域が多く、ノズルに石灰が詰まり故障しやすいことです。もう一つトイレにまつわることでいうと、公園やサービスエリアなど、きれいな公衆トイレがたくさんあることに喜ぶ観光客が多くいます。コンビニなど気軽に貸してくれるお店が多いことも、すごく珍しいんです」昔の“寿司・天ぷら・すき焼き”が“ラーメン・寿司・チェーン店”に。最近ハマっている食べ物を聞くと、寿司よりもラーメンを一番に挙げる外国人が増えていると鴻上さん。「スープや麺の味が店ごとに違うバリエーション豊かなラーメンは、探究のしがいがある料理のようです。比較的薄味のものが多い日本食の中、濃厚な味をしており、がっつりとしていて“食べた感”が得られるところも、他の麺類に比べて愛されている理由でしょう」。また、吉野家や松屋といったチェーン店にも観光客が増えている模様。「ワンコインで、美味しくてお腹がいっぱいになる量の食事ができることに驚くようです。特に、ゲストハウスに泊まるなど滞在費を節約したいという旅行者にとっては、嬉しい存在となっています」ヴィーガンたちが喜ぶ精進料理に、熱い視線が集中。もともと人気の観光スポットであったお寺に、以前とは違う目的でやってくる人が増えているという。「これまでは、建築デザインや座禅体験、境内にある屋台などを楽しみにしている人が多かったのですが、最近は、精進料理を食べに来る観光客が目立つようになりました。というのも、さまざまな料理を楽しめることで人気の日本ですが、肉や魚を食べないベジタリアン、さらに卵や乳製品、はちみつなども口にしないヴィーガン向けの料理が食べられる場所は、まだまだ少ないのが現状です。その点、動物性食材を使わない精進料理は、彼らにとって食べられるケースが多く、熱い視線が注がれています」こうかみ・しょうじ作家、演出家。『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン~』の司会を担当。虚構の劇団『日本人のへそ』が5/15~、舞台『スクールオブロック』が8/22~公演。※『anan』2020年4月15日号より。イラスト・佐久間 薫取材、文・重信 綾瀬尾麻美(by anan編集部)
2020年04月12日「子どもの絵本をどう選んだらいいのかわからない……」「自分が気に入った本ばかり読んでいて、親が読んでほしい絵本を手にとってくれない」「オススメの絵本が知りたい!」このように、読書に関するお悩みを抱えてはいませんか?今回は、「本選びのプロ」である書店員さんに、「書店の活用方法」「絵本選びの極意」そして「書店員おすすめの1冊」をお伺いしました。子どもを本好きにする、書店の活用方法今回、お話を伺ったのは、丸善 丸広百貨店飯能店にお勤めの福島さん。福島さんは、子どもと書店へ行くときに大切なのは「時間がたっぷりあるときに行くこと」だと言います。書店へ行くときは、時間に余裕を持って「基本的なことですが、子どもと書店へ行くときに大切なのは、時間がたっぷりあるときに行くことです。私たちの書店でも、時折、パパ・ママから『どの本にするの!?早く決めて!』と急かされて泣き出してしまうお子さんを見かけます。しかし、それはお子さんにとって酷な話です。膨大な量の本の前で(我が書店では、児童書だけでも3万冊は置いています)突然「どれでも選んでいいよ」と言われると、子どもは喜びながらも『なんでも買ってもらえるなら、なるべく豪華な本がいいかな』『読みたい本はあれなんだけど、ここは、うーん……』などと悩んでしまうもの。そんななかで『早く決めなさい!』と急かされると、放心状態になってしまいます。まずは、お子さんがよく吟味して本を選べるよう、じっくり待ってあげましょう」特に、絵本は厚さが薄いため、表紙が見えない状態で棚に陳列されると、途端に輝きが損なわれてしまう悲しい側面があるのだそう。本当はなるべく表紙を見てほしいものの、スペースの都合上、どうしても多くの本は棚に入ることになってしまうと福島さんは言います。親御さんは、極力たくさんの絵本を棚から引き抜いて、お子さんに表紙を見せたり、パラパラとめくってみせたりしてあげるといいですね。まずは、子どもの興味に付き合うまた、本を選ぶときには、その子が興味を抱いている本を選ぶことが大切だと福島さんは言います。「本選びに限った話ではありませんが、何をするにも無理強いは絶対にNG。子どもが本を嫌いになってしまう可能性が高まります。子どもの興味の発露を待ちましょう。以前、3歳になったばかりの男の子のお母様に、『この子、てんとう虫が好きなのですが、てんとう虫の本を何冊か出してくれませんか?』と声をかけられたことがあります。書店員の腕の見せ所!物語、写真絵本……とありったけのてんとう虫の本を用意しました。しばらく経った頃、『今度はコアラに興味が移ったようで、コアラの本を……』とお母様。私もとことん付き合います。なんでも、庭でてんとう虫を見つけたことがきっかけでてんとう虫にハマり、上野動物園でコアラを見てからはコアラに夢中になったのだとか。お子さんの興味は生活に密着していて、子どもの知的好奇心の豊かさに感激しました。またしばらく経った頃、『今度は、カワウソを好きになったので、カワウソの本を……』。お母様の郷里の旭山動物園でカワウソを見てから、カワウソにのめり込んでしまったのだそう。さあ腕まくり!旭山動物園の飼育係から絵本作家になったあべ弘士さんの『かわうそ3きょうだい』(小峰書店)のシリーズに、アーノルド・ローベルとナサニエル・ベンチリーの『かわうそオスカーのすべりだい』(好学社)などなど……。あらゆる本をご用意しました。子どもの興味は、このようにどんどん広がっていきます。大切なのは、その好奇心にとことん付き合うこと。そうすることで、読書の幅もみるみる広がっていきます。私たち書店員も、日々勉強しています!ぜひ、気軽に書店員に声をかけてみてくださいね」子どもの興味はコロコロ変わるもの。子どもを本好きにするためには、「この間○○の本を買ってあげたばかりなのに」などと怒ることなく、子どもの興味にとことん付き合ってあげることが大切なのです。その際には、書店員さんに相談するなど、書店を有効活用したいですね。絵本はどうやって選ぶべき?「絵本の選び方がわからない」という親御さんも多いことでしょう。福島さんは、以下のようなロングセラー作品をひとつは持っておくことを勧めています。『エルマーのぼうけん』ルース・スタイルス・ガネット 作/ルース・クリスマン・ガネット 絵/渡辺 茂男 訳(福音館書店)『ひとまねこざる』H.A.レイ 著/光吉 夏弥 訳(岩波書店)『はらぺこあおむし』エリック・カール 作/もりひさし 訳(偕成社)『ぐりとぐら』中川 李枝子 作/大村 百合子 絵(福音館書店)『だるまちゃん』シリーズ 加古 里子/作(福音館書店)『こぐまちゃん』シリーズ わかやま けん/作(こぐま社)「ほかにもいろいろありますが、上記のようなロングセラー作品を、ひとつは持っておくのがおすすめです。幼稚園・保育園に行くと必ずと言っていいほどお目にかかる本ですから、お友だちと知っていることを共有する喜びも味わうことができますよ。ロングセラー作品以外でも、ワクワクするような楽しい物語、ことばあそびの絵本、いつまで見ていても飽きない繊細で緻密な作品(安野光雅さんによる福音館書店『もりのえほん』『旅の絵本』など)、起承転結が明確な昔話絵本なども、子どもに愛されますね」また、以下のような優れたブックリストを活用することもおすすめだそう。『本へのとびら――岩波少年文庫を語る』宮崎 駿 著(岩波書店)『子どもと本』松岡 享子 著(岩波書店)『そして、ねずみ女房は星を見た』清水 眞砂子 著(テン・ブックス)しかし、何よりも大切なのは、子どもの興味を尊重することだと福島さんは言います。「無口な子、おしゃべりな子、素直な子、反発する子……。大人と同じく、子どもの個性も十人十色です。我が子にいろいろな望みをかけるのは親として当然かもしれませんが、子ども自身のペースを尊重することを大切にしましょう。本は、賢くなるために読むものではありません。特に幼いうちは、自分の読みたいものを純粋な楽しみのために読めばいいのです。主人公に寄り添って冒険をして、ハラハラ・ドキドキしたり、ともに涙を流したり、苦しみを乗り越えたり、喜びに胸を高鳴らせたり……。そういった経験は、実学というところにつながると私は思います」絵本選びについて悩んでしまう親御さんは多いことと思いますが、福島さんいわく、はじめは、子どもの読みたい本を買ってあげればいいのだそう。「その際は、親が「読ませたい」と思う本も同時購入し、本棚にさしておくと良いでしょう。必要なときが来れば、本は開かれると私は思っています」書店員オススメの1冊子どもが読みたい本を読ませてあげるのが一番だと話す福島さん。そんな福島さんが、ある印象的なエピソードをお話しくださいました。売り物ではない本を『欲しい!』と手放さない少年がいた「『あまがえるのかくれんぼ』(世界文化社)は、当初、園向けの直販商品でした。著者のかわしまはるこさんは、我が丸善書店のある街、埼玉県飯能市にお住いの絵本作家です。ご縁があってご本人にお会いしたのがきっかけで、『地元の絵本作家さんにこんな素敵な人がいます』と店頭にコーナーを設け、非売品としてソフトカバーの『あまがえるのかくれんぼ』をご紹介していました」そんなある日、一人の少年が「この本が欲しい!」とレジに持ってきたのは、非売品の『あまがえるのかくれんぼ』。「『この本は売り物じゃないのよ』彼のお母様と一緒に説得しようとしましたが、少年は本を離しません。ふと見ると、その子のTシャツにも靴にもかえるの絵。『本当にかえるの絵本が欲しかったのだな』と感じた私は、かわしまさんから自分用にと頂いていた1冊を、彼にプレゼントすることにしました」その後、彼を皮切りに、子どもたちから、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんまで、何人ものお客様がひっきりなしに「この本が欲しい」と言いに来るようになったのだそう。福島さんは「この本は非売品で……」と断り続けることにやるせなさを感じていたと言います。そこで、出版のために行動を起こすことを決めたのだとか。「こんなにもたくさんの人に求められる本なのだからと、署名活動をし、ハードカバー化してもらえるようお願いすることにしました。その結果、なんと、たった1ヶ月の間に419人もの署名が集まったんです。署名を世界文化社さんにお送りしたところ、すぐに会議にかけてくださり、この本の出版が決まりました」署名活動を始めた際、「うまくいくか、いかないかは考えなかった」と福島さんは語ります。こんなにもたくさんの人の心を動かす本を、多くの人の手に届けたい一心だったそう。「きっかけがどうであれ、本自身の持っていた力だと思っています」非売品でありながら、多くの人の心を動かし、惹きつけた『あまがえるのかくれんぼ』。ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。『あまがえるのかくれんぼ』 舘野 鴻 作/ かわしま はるこ 絵(世界文化社)⠀小さなあまがえるのラッタ、チモ、アルノーは今日もかくれんぼをして遊んでいます。すると、ラッタの体の色が変わってしまい……。生物画家のかわしまはるこさんは、約10年間もあまがえるを飼育・観察していらっしゃるそう。繊細で美しく、愛にあふれた絵は、見る者の目を楽しませてくれます。さらに小学館児童出版文化賞受賞作家の舘野鴻さんによる文章はあたたかく、不安を乗りこえ成長していく小さな3匹の心の変化を鮮やかに描き出します。豊かな物語を楽しみながら、カエルの生態についても学べる貴重な一冊です。⠀***お子さんを本好きにするために大切なのは、無理強いをしないこと、そして、お子さんの興味にとことん付き合うことです。お子さんに「読ませたい」本はそっと本棚にさしておき、お子さんが「読みたい」本は積極的に読ませてあげましょう。
2020年01月12日鴻上尚史が作・演出、中山優馬が主演を務めるKOKAMI@network vol.17「地球防衛軍苦情処理係」が現在上演中。その公演レポートをお届けする。【チケット情報はこちら】本作は、定期的に怪獣の襲撃を受けるようになった近未来の地球を舞台に、人類を守るために創設された地球防衛軍……の「苦情処理係」に集まる人々を描いた新作。主人公で苦情処理係の新人・深町を演じるのは、鴻上と2度目のタッグとなる中山優馬。その同期・遠藤を原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズ Jr)、先輩・竹村を矢柴俊博、同期・日菜子を駒井蓮、上司・瀬田を大高洋夫が演じる。苦情処理係は、地球防衛軍が怪獣と戦うことで被害を受けた住民達から出る「家が地球防衛軍のミサイルでやられた。弁償してほしい」などのクレームを処理することが仕事。日々対応に追われるメンバーは、時に内容に疑問を感じつつも、人のためになると信じてクレームを受け続ける。ある日、地球防衛軍が苦戦する怪獣の前に謎の巨大生物が現れる。後に「ハイパーマン」と命名されるその巨大生物は戦って怪獣を追い払うが、その巨大さゆえに戦いの中で建物や人に被害が及び、「迷惑」というクレームが殺到する。地球のために戦ったハイパーマンへの感謝もリスペクトもない声に日菜子は激怒。深町にある計画を持ちかける――。開幕前の囲み取材で鴻上が「今は、SNSなんかでみんなが正義の使者になっているというか、 みんなが自分を主張する時代になったなと感じたのが始まり」と話したストーリー。本作でも、登場人物たちの語る正義はそれぞれが理解できるもので、けれどその全てを通すのは現実的に不可能なものでもある。劇中の応酬に「じゃあどうすればよかったの?」と思わずにはいられない、けれど覚えのあるやり取りだ。とはいえシリアスな作品というわけではなく、怪獣の戦闘シーンは演劇の楽しさ満載で、今回は多めだというダンスシーンも華やか。職場のシーンはやり取りが面白く、恋のシーンはロマンチック。登場人物ひとりひとりが生き生きとしていて、彼らを見ていると、人は浮かれもすればヤケクソにもなる生き物で、それが言動に直結するということをやさしく思い出せる。けれどその“一時の感情”から生まれる言動こそ世のクレームの対象になりがちなのだ。では正義とは何なのか?真実とは?愛とは?エゴとは?彼らの迷いはどう結着するのか、ぜひ劇場で確認してほしい。公演は11月24日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA、11月29日(金)から12月1日(日)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。取材・文:中川實穗
2019年11月06日鴻上尚史が作・演出を務める新作舞台『地球防衛軍 苦情処理係』が2019年11月2日(土)から紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演される。主演は、昨年8~9月に上演された舞台『ローリング・ソング』で鴻上と初タッグを組んだ、中山優馬。どんな舞台になるのか。鴻上と中山に話を聞いた。【チケット情報はこちら】物語の舞台は、タイトルの通り、人類を怪獣や異星人から守るために戦う“地球防衛軍”というエリート組織の中にある、“苦情処理係”。「私の家は、地球防衛軍のミサイルで壊された。弁償しろ」などと激しいクレームにさらされながら、日々“正義の戦い”とは何かを苦悩して…。現在、脚本を絶賛執筆中の鴻上。物語の着想を得たのは「SNSなんかで、みんなが正義の使者になっているというか、みんなが自分を主張するという時代になったなと感じたのが始まり」だという。鴻上は「僕の作品なので、どこか社会性があって、単なるファンタジーで終わる話ではない。2時間ひたすら苦情処理をする話ではないです」と笑う。すでにプロットを読んだ中山は「(脚本の設定の)目の付け所がすごい。地球防衛軍だけでもすごいのに、苦情処理だなんて。役者が動いて、どんな物語になっていくのか、楽しみ」と期待を寄せていた。ふたりは、前作『ローリング・ソング』で初タッグを組んだ。鴻上は、中山について「とても良かった。すごく熱心にやってくれたし、芝居に対する態度が真面目だった。今回は優馬がひとりで引っ張る面があるが、気負いすぎず、優馬のいろいろな多面性が出せれば面白いかな」。一方、中山は「スピード感があって、毎回スリリングな舞台で。本番はすごく緊張した」と前作を振り返りつつ、「鴻上さんの指示は分かりやすいし、毎回課題をくれる。目標ができるので、やっていて楽しい」とも語っていた。最後に本作への見どころを聞いた。中山は「いろいろな顔、いろいろな感情を出していきたいと思う。鴻上さんの書いた物語は、間違いなく面白いと思う。だって、地球防衛軍の苦情処理係ですから」。鴻上は「笑いがあって、ダンスも、もちろんファイティングもある。お芝居の楽しさや面白さを、ギュッと集めた作品。間違いなく面白いものにするので、見に来ていただければ」と話した。出演者は中山優馬、原嘉孝(宇宙 Six/ジャニーズ Jr.)、駒井蓮、矢柴俊博、大高洋夫ほか。東京公演は11月24日(日)まで。大阪公演は11月29日(金)~12月1日(日)、サンケイホールブリーゼにて。
2019年09月13日今年2019年は日本とフィンランドの国交樹立100周年。関連の音楽公演も数多く催されるが、メインイベントが5月、記念年の親善大使を務めるピアニスト舘野泉とラ・テンペスタ室内管弦楽団の来日公演だ(東京、札幌など全国5都市)。開催に先立ち、3月に東京・南麻布のフィンランド大使館で、舘野らが出席して、概要発表の記者懇親会が行われた。【チケット情報はこちら】舘野は現在82歳。50年以上もヘルシンキに住み、フィンランド政府から終身芸術家給与を授与された、まさに両国の文化交流を象徴する音楽家。「両国は音楽での繋がりが強い。シベリウスはじめフィンランドの音楽を早くから日本に紹介した指揮者の渡邉暁雄さんも今年が生誕100年。運命的なものを感じる」(舘野)5月25日(土)東京オペラシティでの東京公演は、舘野が弾く左手のピアノための協奏曲2曲を軸に、フィンランドの4曲と日本の1曲で構成されたプログラム。2002年、舘野は脳溢血で倒れた。右半身に麻痺が残ったが、2年後に「左手のピアニスト」として復活を遂げる。以降、彼のために、10か国の作曲家から100曲を超える左手用のピアノ作品が捧げられてきた。その一連の作品の中で最初に書かれた協奏曲が、今回も演奏されるペール・ヘンリク・ノルドグレンの「左手のためのピアノ協奏曲第3番~小泉八雲の『怪談』による《死体にまたがった男》」。舘野が2004年に初演したタイトルどおり小泉八雲の怪奇文学に基づく作品。「恐怖や絶望を深く表現しながら、最後は静かに、平和が何もかも飲み込んでゆくような美しい音楽。人間の持つさまざまな力を感じる」(舘野)もう1曲、熊本を拠点に活動する光永浩一郎の「左手ピアノと室内管弦楽のための《泉のコンセール》」は2017年初演。「とてもピアニスティックな作品を書く人。ピアノに惚れ込んでいて、まるでピアノが彼の人生の一部。熊本の震災の直前に依頼し、震災を挟んで完成した作品には、混乱や苦痛、絶望も描かれるが、最後には明るい、生きる希望に変わる。それが見える音楽」(舘野)弦楽オーケストラ『ラ・テンペスタ』は3度目の来日。舘野とともに会見にも出席した息子ヤンネ舘野が、1997年にヘルシンキ音楽院の同級生たちとともに創設。卒業後も各自の仕事の合間を縫って活動を続けているが、今回のツアー資金をクラウドファンディング Readyfor.jpで募るなど苦労も多い。そんな彼らに「若い人たちの心意気を感じる」とうれしそうに語る舘野は父親の顔だ。舘野が館長を務める南相馬市民会館で、東日本大震災後に外来オーケストラとして初めて公演したのは彼らだったという。今回、光永作品のみ日本の管楽器奏者10人が加わる。なお、4月14日(日)には、この日の会見が行なわれたフィンランド大使館が初めて一般公開されるイベント「Feel Finland」(要事前登録)がある。公演ともども、100年の友好を体感するチャンス!取材・文:宮本明
2019年04月05日鴻上尚史が作・演出の舞台『ピルグリム2019』が2月22日(金)より東京・シアターサンモールほかで上演される。本作品は、鴻上が1989年に劇団「第三舞台」の作品として手がけた作品で、2003年には新国立劇場にてシリーズ「現在へ、日本の劇」のオープニング公演を飾っている。今回、虚構の劇団第14回公演として上演することが決まった。出演する秋元龍太朗と、鴻上に話を聞いた。【チケット情報はこちら】秋元が演じるのは、主人公の売れない作家・六本木と同居している、ゲイの直太郎。初演は勝村政信、2003年は山本耕史が演じた役だ。秋元が初めて鴻上の演出を受けた舞台『もうひとつの地球の歩き方』(2018年)では、「普段の自分のイメージと割と近い役柄」だったが、今回の直太郎は違う。秋元は「今回、鴻上さんからガッツリ試練を与えられたと感じた一方で、役者としての次のステップを用意してくれたと思った」と話す。「鴻上さんの演出は、新しい自分を知っていくような感覚になる。前回は常にいっぱいいっぱいだったけれど、今回はふっと楽になれる瞬間がある。他の舞台に出ていても、鴻上さんの言葉を思い出すようなことがたくさんあった。ひとつひとつの言葉が少しずつ自分のものになっているような気がする」対して鴻上は「続けて一緒にやるということは、次に行きたいから。いろんな面の龍太朗と一緒に遊べたらすごくいいなと思っている。舞台で経験を積んで、自分の中の水準ができて、その上で、舞台上で遊べるようになると、鬼に金棒だと思う」と、秋元に期待を寄せる。およそ16年ぶりの上演。社会情勢も変化し、平成という時代が終わろうとしている。2019年版を上演するにあたって、鴻上は「16年前はまだ、人と人がつながること、目に見えないネットワークがあることが希望だった。けれど、今はインターネットとスマホによって、かつての希望から重荷や苦痛になった。つながることがかえって、孤独や寂しさをあぶり出すことになった」と話す。物語の枠組みは変わらないものの、きっと“2019年らしさ”が上手に入り混じった演出で、鴻上らしい作品になるのだろう。最後に鴻上は「龍太朗ファンの人から、昔の『ピルグリム』を見たことがある人、どうやって集団で生きていったらいいんだろうなと悩んでいる人も含めて、幅広い年齢の方に見てもらえたら」。秋元は「僕もいろんな人に見てほしい。例えば30年前の『ピルグリム』の初演を観ていた方にも、30年経った今、作品をもう1度見てもらいたい」と語った。東京公演は2月22日(金)~3月10日(日)、大阪公演は3月15日(金)~17日(日)に大阪・近鉄アート館、愛媛公演は3月23日(土)・24日(日)愛媛・あかがねミュージアム あかがね座にて。チケット発売中。文・写真:五月女菜穂
2019年02月15日作・演出が鴻上尚史、作詞・音楽監修が森雪之丞の豪華タッグで贈る新作舞台「ローリング・ソング」。転がり続ける人生の中で、胸の中に鳴りやまない音楽への夢を、三世代の男達があがきながら歌い上げていく物語だ。20代のミュージシャン役にはジャニーズの中山優馬、40代の元ロッカーにして現在は納豆売りの男役にはロックバンドMICHAELの松岡充を各々キャスティング。そして、60代の結婚詐欺師役を演じるのが、日本を代表する俳優&歌手の中村雅俊だ。【チケット情報はコチラ】中村が鴻上の舞台に出演するのは約10年ぶりだという。「お互いの舞台やライヴをよく行き来して、一緒にやろうとずっと言っていたので、遅いよという感じ(笑)。鴻上さんの舞台は、前回の『僕たちの好きだった革命』もそうでしたが、実にきめ細やか。台詞にふさわしいキーの高さ、メロディ、ニュアンスなどが細部まで的確なんです。さらに全体を見渡し、観客を一瞬たりとも飽きさせない構成力を備えているのも素晴らしい。今回は稽古の度に台詞に直しが入っていて、鴻上さんの真剣さがひしひしと伝わってきますね。詐欺師役はこれが初めてですが、俳優の演じる仕事と共通する部分もあり、台詞を本音か嘘かわからなくなる瞬間があるのが面白い」今回は音楽劇ということで、歌が重要な役割を果たすが、歌謡界の大御所・森が手がける音楽の聴きどころを尋ねると、「舞台全体で7~8曲あって、僕が歌うのは2曲。1曲目は、自分が口説く納豆売りの母親・久野綾希子さんとのコミカルなデュエットです。彼女との共演は久々ですが、さすがは劇団四季の出身で歌がお上手。もう1曲は、『あゝ青春』。43年前に松田優作さんと共演したドラマ『俺たちの勲章』のテーマ曲でした。どちらも百戦錬磨の森さんらしい、鴻上さんの舞台の流れに合った巧みな作詞と選曲だと思います」音楽への夢を持ち続けることへの喜びや不安を描いた今回の舞台。過去に多くのヒット曲を残してきた中村だが、自身の20代と40代を振り返りながら、共演の中山&松岡に対する印象を次のように語る。「プロになるのも売れ続けるのも難しい音楽の世界で40年以上やってこられた自分は、本当に幸せでした。20代は膨大な時間があって、将来なんて全く考えなかった。その後、場数を踏んで得たキャリアを周りにどう還元するかを意識したのが40代。60代はそれがもっと熟成するけれど、今度は体力の問題が出てきて(笑)。この点、優馬も松岡君も、僕とは音楽的にも俳優的にもタイプが違う。優馬は稽古段階から台詞をひとつもとちらない集中力の高さが凄いし、松岡君は台詞の喋り方も“ミュージシャンそのもの”なのが魅力だと思います」公演は8月11日(土・祝)から9月2日(日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて。その後、福岡、大阪を巡演する。取材・文:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)
2018年07月27日作・鴻上尚史×演出・菜月チョビ『パレード旅団』が上演中だ。OFFICE SHIKA REBORN 「パレード旅団」チケット情報本作は、OFFICE SHIKA PRODUCEによる新シリーズ「OFFICE SHIKA REBORN」の第一弾。「名作は、死なない」のキャッチフレーズのもと、これまでの名作戯曲を上演していくシリーズとなる。その1作目である『パレード旅団』は、本作で演出を務める劇団鹿殺し座長の菜月チョビが“初めて目にした「演劇」”という鴻上尚史の戯曲。現在59歳の鴻上が27歳のときに原型を書き、その10年後の1995年に鴻上主宰の劇団「第三舞台」(2012年解散)で上演された作品だ。舞台は、「いじめにさらされている中学生の世界」と「崩壊にさらされているある家族の世界」、そのふたつの世界を往復するように進行し、キャストは“ある少年の家に全国から集まったいじめられっ子7人”と、“洪水で流される家の中に閉じ込められたバラバラの7人家族”の2役を演じる。ダンスや歌、布を使った水の表現、大きな扇風機でつくり出す台風の表現など鴻上戯曲テイストを感じる演出を、菜月ならではギラリとした味付けでみせていく世界。そこに登場する7人+2人の人物たちのやり取りは、2017年に上演するうえでのアレンジも加えられてはいるが、これが約30年前に生まれた物語だと思うとある種の絶望を感じるほどに現代に響くものだ。中でも、いじめられっ子の少年の「復讐、しませんか?」や、父親の「今日かぎり、父さんは父さんをやめようと思う」という台詞は印象的。そこの言葉を発端に、物語が動きだす。全く違う軸で展開するふたつの世界が徐々に近づいていくかのように、世界間の往復テンポも少しずつ上がっていき、ある瞬間、交差する。そのとき、思いもよらない光景がそこに広がった。その光景は、菜月の描く世界とも鴻上の描く世界とも感じられる、演劇ならではの鮮烈な魅力を放っていた。公演は、犬のポチ役を伊藤今人が演じる「踊る犬組」、菜月が演じる「歌う犬組」があるほか、葉丸あすか(柿喰う客)が演じる婚約者役を「日替わり婚約者」として七味まゆ味(柿喰う客)やファーストサマーウイカ、有田杏子(劇団鹿殺し)が演じる日も設定されており、さまざまなバージョンが楽しめる。『パレード旅団』は12月17日(日)まで東京・シアターサンモール(終了)、12月21日(木)から24日(日)まで大阪・ABCホールにて上演。撮影・取材・文:中川實穗
2017年12月18日鴻上尚史のプロデュースユニット「KOKAMI@network」の第15 回公演『サバイバーズ・ギルト&シェイム』が、11月11日に開幕した。KOKAMI@network『サバイバーズ・ギルト&シェイム』チケット情報「サバイバーズ・ギルト」とは、戦争や災害、事故、事件から奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して感じる罪悪感のこと。日本では特に3.11(東日本大震災)で広く浸透した。本作のタイトルにはそれに日本人ならではの「生き延びた恥ずかしさ(シェイム)」が加わっている。物語は、戦場から1年ぶりに故郷に戻ってきた主人公が母親に「母さん。僕ね、死んじゃったんだ」と告白することから始まる。主人公の水島明宏を演じるのは、本作で初主演を務める山本涼介。明宏が所属していた大学の映画サークルの先輩・夏希を演じるのは南沢奈央。さらに、身体が弱い明宏の兄を伊礼彼方、明宏の所属する部隊の上官・榎戸を片桐仁、明宏の母親を長野里美、その婚約者・岩本を大高洋夫が演じる。明宏が本当に幽霊として戻ってきたのかそうでないのかは、明かされないまま物語は進んでいく。とぼけた母親は息子の帰宅を喜び、堅物の兄は「戦場に戻れ、非国民!」と非難する。そこに母親の婚約者や、明宏の上官まで現れると混乱状態に。そんな中で明宏は「生きた証を残したい」と夏希に出演を頼みこみ、最後の映画撮影に挑む。“抱腹絶倒の爆笑悲劇”と銘打たれた本作。登場人物それぞれの個性は強烈で、ちょっとした会話にいちいち笑わされてしまう。中でも片桐が巻き起こすハチャメチャなやり取りには何度も爆笑が起きていた。その一方で、そんな彼らがそれぞれの理由で抱えている「自分が許せない」という感情。それは懺悔のように吐露したところで終わらない感情だが、物語の中で少しずつ溶かされ、温められ、さまざまに昇華されていく。「映画の撮影が終わるまで」をひとつの支えのようにして進んでいく彼らの結末を、ぜひ劇場で見届けてほしい。笑いながらも泣けてしまうし、泣きながらも笑ってしまう。そんな演劇ならではの体験ができる作品『サバイバーズ・ギルト&シェイム』は、12 月4 日(日)まで東京・紀伊國屋ホールにて。取材・文:中川實穗
2016年11月17日作家・演出家である鴻上尚史のプロデュースユニットKOKAMI@networkの第15回公演『サバイバーズ・ギルト&シェイム』が11月に上演される。主演は、『仮面ライダーゴースト』の仮面ライダースペクター/深海マコト役などを演じた山本涼介。鴻上と山本に話を聞いた。KOKAMI@network vol.15『サバイバーズギルト&シェイム』チケット情報鴻上書き下ろしの新作である本作。「サバイバーズ・ギルト」とは、戦争や災害、事故、事件などに遭いながら奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対してしばしば感じる罪悪感を表す言葉。鴻上は本作が生まれた背景について「“サバイバーズ・ギルト”という言葉、生き残ったことへのいろんな想いについて、ずっと考えていました。具体的にはやっぱり3.11。それまでもそういうことはあったけど、国民として“サバイバーズ・ギルト”にどう向き合えばいいんだろうっていうことを、みんなが考えだしたのはやっぱり3.11以降なんじゃないかなって思うんですよね。“シェイム”って足したのは、日本人らしく生き延びた恥ずかしさもあるだろうってことで。このタイトルで作りたい作りたいと思ってて、やっと作品になりました」と語る。それを“抱腹絶倒の爆笑悲劇”と表現するのは「悲劇的な状況をどれだけ笑える状況にするかっていうのが、表現の力だったり、芸術や芸能のやるべき仕事だと思っているから」(鴻上)。山本は舞台初主演。「台詞が出ない夢を見ます(笑)」とプレッシャーを感じながらも「共演者のみなさんは、僕にはまだできない芝居をする方々。観て学びたいですし、この舞台を通してたくさんの“初めて”を経験していきたい。一個一個大事にできたら」と意気込む。そんな山本に鴻上は「涼介の仕事は、野球でいえばピッチャーとしてとにかく一生懸命球を投げること。周りの守備たちはベテランなのでどんな球が飛んできても処理する。だから観客は一生懸命投げる涼介の姿に一番感動するんだよ」と話す。山本が演じるのは、戦場から「死んじゃった」と帰ってきた主人公。天国に行かずに故郷に戻った理由は、大学で所属していた映画研究会で納得できる映画がまだ撮れていないから。南沢奈央をヒロインに最後の映画を撮ることを決意する。「人に対してまっすぐぶつかる人。自分とそこまでかけ離れてないので、自身にあるもので活かせるところは活かしていきたいですね」(山本)。「テーマは「生きる」ってことかなあ。「サバイバーズ・ギルト」に苦しんでいる人もいない人もみんないろんな意味で生きのびて苦労してると思うんです。そういう時に、深刻に悩むんじゃなくて笑い飛ばせる力を少しでも与えられる作品になれば。」(鴻上)公演は、11月11日(金)から12月4日(日)まで東京・紀伊國屋ホールにて。取材・文:中川實穗
2016年10月18日1988年の第三舞台第20回公演として誕生した鴻上尚史作・演出の『天使は瞳を閉じて』。以来、さまざまなバージョンで披露されてきたこの作品が、鴻上率いる「虚構の劇団」で5年ぶりに上演される。放射能に汚染されて誰もいなくなった地球に天使だけが残された──。そんな物語の設定が、リアルに感じられた5年前。あれから5年で何が変わったのか。ユタカ役で客演する上遠野太洸と鴻上が、上演に向けての意気込みを語った。【チケット情報はこちら】鴻上は今回の上演を決めた思いをこう語る。「この作品は、もともと、チェルノブイリ原子力発電所事故が起こったあとに、地球上から人類がいなくなったらどうなるんだろうと着想したものでした。それが、5年前の上演では、上演を決めたあとに東日本大震災が起こって、思いがけず日本の状況にシンクロしてしまった。それから5年、この間に忘れられてしまったこともあるのではないか。本当に意味のある5年だったのか。今上演したらどう感じてもらえるのか。そんな興味があって、もう一度やろうと思ったんです」。そこに客演として呼ばれた上遠野は、誰もいなくなったと思われた地球上で、透明な壁に守られて生きている人間のひとりを演じる。この作品では彼らの格闘を細かい心理描写で描いていくとあって、今、人間の内面を表現することへの苦悩と喜びを感じているようだ。「たとえば怒る場面があったとして、その怒りは悲しみから生まれているものなのかとか、そこに付随するものまで考えさせられる。だから、感情というものを今までよりも深く見つめられるようになってるんです。それをどう表現して伝えていけるのか、これからの稽古でもっと高めていきたいですね」。鴻上から見ても、上遠野の成長ぶりは著しい。「太洸が演じるユタカは、意識的にも無意識的にも自分を持て余し、自分と周りを傷つけながら引っ掻き回すという役なので、演技力のあるイケメンでないと(笑)、説得力がない。それに、太洸はとても熱心で努力家だから。演出家としてはやっぱり、必死になってやってくれる人だと、一緒に手を取っていける。彼の参加によって劇団員にもいい化学変化が起こってくれるといいなと思っています」。新しいユタカの存在が、きっと新しい『天使は瞳に閉じて』につながるだろう。歴代の作品を観てきた人も初見の人も、ぜひ目撃してほしい。これが今の“テントジ”だ。『天使は瞳を閉じて』は8月5日(金)から14日(日)まで東京・座・高円寺1で上演。その後、愛媛、大阪、東京を周る。取材・文:大内弓子
2016年07月25日●早期の黒字転換を視野にシャープと鴻海科技集団が、4月2日、大阪・堺市の堺ディスプレイプロダクトにおいて会見を行い、鴻海科技集団の中核企業である鴻海精密工業による、シャープの買収について正式調印した。今後、シャープは、台湾の鴻海(ホンハイ)傘下で経営再建を図っていくことになる。シャープは3月30日に、第三者割当による新株式(普通株式及びC種類株式)を発行し、これを鴻海が取得することを正式に発表。今回の正式調印により、鴻海は約3,888億円を出資し、シャープの発行株式において66.07%の議決権を獲得。シャープを買収することが正式に決定した。契約条項のなかには、2016年10月5日までに出資が実行されず破談となった際にも、鴻海はシャープの液晶ディスプレイ事業を購入する権利を得ることが盛り込まれているが、鴻海科技集団・郭台銘会長兼CEOは、「実際に破談になることは、99.999%ない。その要因が見当たらない。だが、万が一のことを考えて、文言として、この条項を入れている」と説明した。鴻海は、なんとしてでもシャープの液晶ディスプレイ事業を手に入れたいとの姿勢が見え隠れする。会見でも、「シャープのIGZOは世界トップの技術である」、「コスト削減や小型化が可能な技術であり、私がエンジニアであれば、IGZOを押したい」などと発言。また、会見場に設置された85型の8Kディスプレイを指さしながら、「8Kディスプレイは、66歳の私でも若々しく映し出してくれる。2020年の東京オリンピックでは、世界中の人たちがこの技術を使ってオリンピックを楽しむことができる。これを、シャープと一緒に世界中に紹介できることを誇りに思っている」とした。その一方で、有機ELにも投資していく姿勢を強調。「ディスプレイ産業は、技術変化の重要なタイミングに入っている。日本において、新たな技術開発に投資したい。これに躊躇するわけにはいかない。競争の土俵が変わるタイミングにおいて、新しい技術に目を向けていく必要がある。次世代技術で勝つのは、いち早く動いた企業である」と述べた。シャープでは、今回調達した資金の使途について、有機ELの事業化に向けた技術開発投資や量産設備投資などで2,000億円を計画している。だが、「有機ELには様々な情報があり、専門誌でも技術的詳細を理解せずに情報を掲載している。70%~80%は間違った情報が出ている。将来は、IGZOが60%、有機ELは40%の比率になる。有機ELはトップクラスで使えるものは少ない」とし、有機ELよりもIGZOを優先する姿勢をみせた。なお、シャープは2月25日に、鴻海が提案していた経営再建策を受け入れることを取締役会で決議。この時点で出資規模が約4,890億円としていたが、シャープが提出した偶発債務に関する調査を行うことを理由に、鴻海側が正式契約を保留。それに伴い、経済環境の悪化、シャープの業績の下方修正など、出資条件を1株当たり118円であったものを88円へと見直した。結果として、約1,000億円を減額する形となった。鴻海の郭会長兼CEOは、「3,888億円の出資額は、今日、正式に契約をしたものであり、今後、減額することはない」と語った。ちなみに、シャープは保証金として1,000億円の前払いを得ており、これは破談になった場合にも返却する必要はない。郭会長兼CEOは、「これは、シャープの再建に対して、いかにコミットしているのかを示すものである。次世代IGZOや有機ELなどのディスプレイ技術、カメラモジュールやセンシング技術にも投資をしていく」と発言。シャープの高橋社長も、「この1,000億円は成長分野に投資をしていく。もちろん、ケース・バイ・ケースでほかのところに使うこともあるだろうが、できる限り運転資金に使うことは避けたい」と語った。一方、シャープの黒字化については、「2年と思っていても、日本人の文化では4年だというだろう」などとし、「日本人はシャープのブランドが好きであり、シャープブランドを日本人がサポートするように、鴻海もシャープブランドをサポートしていく。これにより、優れたシャープ製品が登場し、多くの人に購入してもらえれば、短期間で黒字化することを保証できる」(郭会長兼CEO)などとし、早期の黒字転換を視野に入れていることを示した。●シャープのブランドと雇用は○シャープの歴史では異例の会見今回の会見は、土曜日に開催されたことや、ここ数年、シャープの主要な会見が東京で行われていたことに当てはめると、異例のものとなった。会場が、すでに鴻海が出資している堺ディスプレイプロダクツで行われたが、これまで報道陣にはほとんど公開されなかった建物だ。そうした点も含めて、今回の会見が、鴻海主導で進められたことを強く感じざるを得なかった。鴻海科技集団の郭台銘(テリー・ゴー)会長兼CEOは、次のように語る。「105年の歴史を持つ日本の企業を、なぜ、台湾の企業が買収するのか。それは、世界がフラット化しており、企業は国境がない事業体になってきている点があげられる。すべての会社の共通目標が、世界中にいる株主に対する利益の最大化である。シャープは、日本の企業ではなく、グローバルな企業である。鴻海も台湾企業ではなく、中国企業でもない。グローバル企業である。今回の案件は、グローバル企業同士が、独自のリソースを持ち寄り、お互いに補完し合うことで、成功につながる。これがわかったからこそ、出資した。鴻海とシャープは、文化的な違いがある。だからこそ、うまくいくと考えている。両社の違いこそが資産である。これは物理的な境界があるということではない。鴻海には100万人以上の従業員がおり、国籍は様々。シャープにも世界各地で様々な人が働いている。こうした人たちを融合できる。まずは、シャープが先進的な技術を活用し、スピーディに、コスト効果が出る形で、最高の品質を持つ製品を市場投入するための支援に集中する。それにより、シャープが再び、先端的なコンシューマ向けのグローバルブランドになれるようにサポートしていく」シャープの高橋興三社長も、「鴻海が保有する世界最大の生産能力、グローバルな顧客基盤と、シャープが持つ革新的で、実績のある技術と開発力の融合を図ることができる。販売量の拡大、新たなサプライチェーンや製造能力の活用など、グローバルに競争力を強化できる。だが、そうしたことを遥かに超えるポテンシャルを持った提携であると感じている。鴻海からは、買収ではなく、出資であるという言葉をもらっている。お互いの企業文化を尊重し、認め合うことで、両社が持つ創意の遺伝子と、ベンチャースピリットの融合を図り、アジア初の新たなプロダクトイノベーション、開発、製造企業の姿を示していきたい。さらに、鴻海とともに、日本および世界の様々な企業と連携することで、共同研究開発を積極的に進め、技術開発を促進することで電機産業の発展に貢献していく」とする。気になるのは、シャープブランドの維持と雇用の継続である。シャープの高橋社長は、「今後もシャープブランドを維持し、世界中の顧客に向けて、新たな価値を提供していく。また、従業員の雇用を原則として維持し、従業員が将来のチャンスを広げるとともに、シャープの企業としての一体性も維持していく」と語る。郭会長兼CEOは、「シャープの従業員にとって、今日という記念すべき日は、すばらしい一日になる。シャープが今後100年にわたって繁栄することに向け、新たな一歩を踏み出していただきたい」とし、「若い人材にも適職とチャンスを与え、シャープに残ってもらうようにしたい。適切な責任とポジションを見つけるように努力する」と述べた。さらに郭会長兼CEOは、「鴻海では毎年、個人の成績を理由にしてレイオフする人員が、3~5%に達している」としたが、「日本においては、最善を尽くして雇用を維持したい」と述べつつも、組織変更や人材の再配置などに取り組む姿勢をみせた。「シャープには、技術の統合がうまくできていないという課題がある。それは、シャープ全体を見渡す人がいないのが理由。シャープはディスプレイの技術には優れているが、スマートフォンでは後れを取っている。これはスマートフォンのチームに優秀な人がいないわけではなく、適材適所に人材が配置されていないことが原因。複数のチームを管理する役職が必要だ」(郭会長兼CEO)。●「目のつけどころがシャープ」を維持できるか今回、台湾企業による最大の買収に対する課題についても、郭会長兼CEOは触れた。「ある人から、鴻海は、網にかかったイワシの群れに入った、一匹のナマズのようである、という例え話を聞かされた。そのイワシは、狭いなかを賢明に泳がなくては、そのナマズに喰われてしまう。だが私は、鴻海がナマズだとは思っていない。変化のための触媒であると思っている。私たちがシャープに変化を促すことができなければ、グローバルの競合他社が、私たちを生きたまま食べてしまうだろう。つまり、我々も賢明に泳ぎ続けなくてはならない。中国の古い格言に、『高い山に向かうときに注意しなくてはいけないのは、明確なロードマップを持たないこと』というものがある。私自身、ロードマップを持っていなければ、この重要な投資をするためにここまで労力をかけ、長い道のりを辿ってくることはなかった。再建の方向性は明確である。私は明確なロードマップを持っている」(郭会長兼CEO)。また、これまでアップルとの緊密な関係によって成長を遂げてきたことを振り返りながら、「私たちは、世界で最も優秀な企業と仕事をしていることを誇りに思っている。だが、最も優秀な企業は、最も難しい顧客ともいえる。厳しさを持たないとベストな企業になることはできない。常に顧客からの挑戦を受け続けたことが、鴻海が、この業界でリーダーになれた要因だ。この顧客の存在が、常に上を目指すことにつながり、それによって、さらなる成長を遂げることができた」などとした。会見では、シャープを評価する発言が、郭会長兼CEOから、何度も聞かれた。「シャープといえば品質である。中国科学院のフェローをしている友人は、米国での客員研究員の仕事を終えて、北京に戻ってきたときにシャープの冷蔵庫を購入した。それが1986年のこと。30年後のいまも問題なく動いているという。シャープの技術者には不屈の精神がある。この技術者たちの精神が、シャープがいいときも悪いときも支えてきたといえる。私は2012年に、堺ディスプレイプロダクツに出資したが、その間も、ディスプレイの技術進化させてきたことには、尊敬の念をいだいている。イノベーションを続け、技術と品質に挑み続けている企業である。鴻海は、どうしたらシャープのように、100年の歴史を積み重ねられる企業になるかを学んでいきたいと考えている。現在、鴻海は42歳。まだ先は長い。100年の歴史を積み重ねることは容易ではない。私たちも学んでいきたい」(郭会長兼CEO)。そして会見場のスクリーンに、シャープ創業者である早川徳次氏の写真を映し出しながら、言葉を続けた。「早川徳次氏が生んだイノベーションに対する意思は、いまでもシャープの社員の間に息づいている。初のシャープペンシル、ラジオ、電卓のほか、白物家電の参入などを通じて、長年にわたり、イノベーションを起こす企業であることを証明してきた。また、シャープは液晶ディスプレイ業界における重要な生みの親の1社であり、いまでも世界の最先端を走っている。その技術はスマートフォンやタブレット、PCで幅広く利用されている。シャープは、液晶技術をコンシューマ製品に初めて搭載した企業であり、そのリーダーシップにより、全世界の数億人がテレビを視聴する喜びが高まった。こうしたイノベーションのDNAがあるから、私はシャープが大好きである。シャープは、技術のイノベーターであり、リーダーとして果たしてきたことに敬意を表する」(郭会長兼CEO)。会見に同席した鴻海科技集団・戴正呉副総裁は、「ニトリホールディングスに売却が決定している大阪・阿倍野区のシャープ本社ビルは、シャープの歴史にとって重要な場所である。できれば買い戻したい」と発言。「それが無理ならば、隣に68年の歴史を持つ1,800平方メートルの面積を持つ場所がある。この建物に最上階に、シャープ創業者である早川徳次氏の博物館を必ず作りたい」と語った。今回の正式調印では同時に、早川徳次氏ゆかりの地に、高齢化社会に貢献する実験的なスマートホームとして、「早川徳次記念館」を建設することに関して、鴻海が資金面で支援することを約束する覚え書きの調印も行っている。郭会長兼CEOは、「私はシャープが、今後100年間もイノベーションを進め、世界中で、成功を積み重ねることができるようにフルサポートすることを約束する。そして、私たちは、さらなる高見を目指すことを恐れずに進んでいきたい」と語る。いよいよ鴻海の傘下で、スタートを切ることになったシャープ。新たな体制下において、早川徳次氏が生んだイノベーションに取り組むDNAや、「目のつけどころがシャープ」という言葉に代表される、シャープらしいスピリットが維持できるのかが、今後の注目点といえよう。
2016年04月04日KOKAMI@netwaork vol.14『イントレランスの祭』がまもなく幕を開ける。イントレランスとは不寛容の意味。作・演出の鴻上尚史が、不寛容になっている今の時代を、地球人に憧れる宇宙人と、宇宙人を愛した地球人の物語に託した。彼らの愛と戦いの日々から見えるのはどんな風景か。宇宙人を演じる岡本玲とともに、稽古が進む今の思いを聞いた。KOKAMI@netwaork vol.14『イントレランスの祭』チケット情報『イントレランスの祭』は4年前、鴻上率いる「虚構の劇団」の第8回公演作品だ。それを再び「KOKAMI@netwaork」で上演することにしたのには、鴻上のこんな思いがある。「世の中がどんどん不寛容になっているなと感じた4年前より、状況はシビアになっている。だから、今やる意味がすごくあるのではないかというのがひとつ。そして、僕が若いヤツを育てている『虚構の劇団』ではなく、すでに育った役者さんたちを呼んでやることで、また違うものが見えるだろうと思ったんです」。そこで、地球人を演じる風間俊介の相手役となる宇宙人役にと声をかけたのが、岡本玲。風間とは朝ドラ『純と愛』で兄妹役を演じ、鴻上ともかつてラジオ番組で共演経験がある、信頼のおける女優である。岡本のほうも鴻上の舞台への出演は念願だったという。「鴻上さんの作品は、テーマはいろいろあるんですけど、観ると必ず元気になって帰れる。だから、私も、エネルギーを与える側になりたいとずっと思っていたんです」。演じ手が変わったことで、同じ戯曲でもやはり変化はあると鴻上はいう。「これは人間がぶつかっていく話。一人ひとりの人間が鮮明になればなるほど、ぶつかり度合いも大きく深くなっていきますし、演劇って結局人間を見せるものなので、より面白くなっていると思います」。だから岡本も燃えている。「私自身は演じながら、人間社会って煩わしいな、もっと笑って許し合えたらいいのにって思ってるんですけど(笑)、その煩わしさを表現するには、もっともっと繊細に演じていかなければなと思うんです」。しかし、鴻上作品のこと、不寛容な社会を切り取るだけでは終わらない。「世の中にはいろいろ問題があるけど、それでも生きていこうよと、やっぱり絶望じゃなく希望を描きたいんです」(鴻上)。「この作品を観ると、日常でイヤな人とか事柄に出会っても、いろんな人がいていろんなことが起こるから世の中面白いんだって、寛容になれるんじゃないかなと思うんです」(岡本)。日常を変えてくれるような演劇の力を、きっと体感できるだろう。公演は4月9日(土)に東京・全労済ホール/スペース・ゼロにて開幕したのち、4月22日(金)から大阪・シアターBRAVA!、4月29日(金・祝)から東京・よみうり大手町ホールにて上演する。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2016年03月28日シャープは25日、臨時取締役会を開き、台湾の鴻海グループを割当先とする4,890億円規模の第三者割当による新株式発行を決議。同グループ傘下での再建を正式決定した。新たに発行される株式は、鴻海精密工業とその子会社であるFoxconn Limited、Foxconn Technology Pte. Ltd、SIO International Holdings Limitedが引受け、4社による持ち株比率は65.56%となる。調達した4,890億円のうち2,000億円を、有機ELパネルの事業化に向けた技術開発や設備投資に活用。スマートフォンなどへの採用で、急速な需要拡大が見込まれるなか、同社独自のIGZO技術と高精細を実現するLTPS技術を生かして、2017年中ごろまでに試作ラインを立ち上げ、2018年初頭の量産開始を目指す。また、1,000億円を中型液晶を中心とした高精細化や歩留まり改善、次世代技術開発投資に。さらに450億円をIoT分野における研究開発や金型投資に活用し、人工知能(AI)とIoTを組み合わせた「AIoT」機能を搭載したコミュニケーションロボット、液晶テレビ、調理家電といった新規商品を創出するという。経営不振のシャープを巡っては、鴻海精密工業と日本の官民出資のファンドである産業革新機構がそれぞれ再建案を提案し、シャープがどちらの陣営による再建案を受け入れるか注目されていた。シャープによると4,890億円という出資規模、ディスプレイデバイス事業の競争力強化が期待できること、世界トップクラスの電子機器受託製造サービスを提供する鴻海の技術により、生産性やコスト競争力の強化が見込めること、経営の独立性や一体性の維持、従業員の雇用維持といった項目に対しても強いコミットメントが得られたとして、鴻海精密工業による再建案を受け入れたとしている。
2016年02月25日鴻上尚史が旗揚げした「虚構の劇団」の第11回公演がまもなく幕を開ける。『ホーボーズ・ソング~スナフキンの手紙Neo~』という、“さすらう人たちの歌”を意味するタイトルを掲げた新作は、どんな世界になるのか。鴻上の創作の過程に、劇団だからできること、劇団ならではの面白さが、改めて見えてきた。虚構の劇団 チケット情報「虚構の劇団」に新作を書こうとしたとき、鴻上に映ったのは、「わさわさし始めて、どこに行くのかわからない感じの」今の日本の姿だった。「世の中全体がさすらってる感じがしてるぞと、さすらい人という意味のホーボーという言葉が浮かんだんです」。そして書いたのは、“賛成派と反対派に分かれて内戦を続ける日本”の物語だ。「今、安保法制のことで揉めているけれども、じゃあ、本当にふたつに分かれて戦いが始まったらどうなるのかと興味が湧いてきたんです」。といっても、安保法制のことを描くわけでも、警鐘を鳴らすわけでもない。「作品を作ることでそのパラレルワールドを覗いてみようということですね。そういう思考実験は、稽古初日に台本があればいいという(笑)、劇団だからできること。鴻上が今この時点で何を考えているのかということをリアルタイムで観られるのが、虚構の劇団の新作だというわけです」。劇団を立ち上げて8年目。劇団員たちに課すものも高くなってきた。「たとえば、ふたつに分かれて戦う軍隊の片側のリーダーを演じる三上(陽永)。僕の作る芝居なので、内戦といってもただ深刻なだけにはならず、歌も踊りも笑いもあるわけで、そこを目指しながら、ある権威みたいなものを真っ当に表すことが果たしてできるのか。また、戦いの話なので、過去の虚構の劇団作品以上に、けっこうなファイティングもある。だから、ちゃんと見せられるものにするために、稽古中はもうカリカリしてるんですけど(笑)。でも、彼らに書く脚本は、僕の役者に対する挑戦状。鴻上の言葉、鴻上の演出を全身で引き受けて、必死にあがいて何とかしようとする姿は、感動的かなと。みなさんにもそれを目撃していただければなと思っています」。客演に迎えるオレノグラフィティと佃井皆美が劇団員に与える刺激にも期待しながら、「こんなやっかいな時代だけど、明日も生きていこうと思ってもらえるような芝居」を今回も目指す。今年7月にオープンしたばかりの「あかがねミュージアム」での新居浜公演は、「故郷でやる初めての芝居」。ほか2か所の四国公演と、東京、大阪公演で、「しんどい分、面白い」という新作を披露する。各地公演ともにチケットは好評発売中。取材・文:大内弓子
2015年08月19日Lemonade Labは4日、台湾の鴻海精密工業の子会社FIH Mobileと複数の個人投資家から総額580万米ドルの出資を受けたと発表した。同社はFIHの生産能力を活用し、出資を元手に年内にウェアラブルデバイスの提供を目指す。Lemonade Labは、自転車ロードレースの国内トップカテゴリーで活躍する加地邦彦氏とソフトバンクグループの孫正義代表の実弟、孫泰蔵氏によって設立された会社。本社は米国ボストンにあり、国内には港区西麻布にサテライトオフィスを構える。同社では、複数のセンサーからデータをリアルタイムに取得、高度な解析を可能にし、スポーツシーンに革新をもたらすデバイス・サービスの創出を目指しており、当初は、自転車やランニングのトップアスリート向け商品の開発を進め、スポーツ愛好家に広く受け入れられる製品とサービスを提供したい考え。そのために、第一線で活躍するアスリート、コーチとともにスポーツを研究し、ウェアラブルデバイスの核となるコーチング機能の品質向上に役立てていくとしている。今後は、FIHからの出資、FIHの持つ生産能力を活用し、年内に日本、台湾、米国、フランスでデバイスの導入を目指す。
2015年08月04日NECは4月27日、台湾の電子機器受託生産(EMS)事業者である鴻海グループとデータセンター事業での協業に合意したと発表した。これにより、鴻海は台湾内に設置した鴻海 高雄データセンターにNECのSDN製品や運用管理ソリューションを採用した。今回、鴻海が採用するNECのSDN関連製品・ソリューションは、SDN対応製品「UNIVERGE PFシリーズ」と「クラウド管理基盤ソリューション(MasterScope<日本名WebSAM<)」。NECは「NEC神奈川データセンター」でSDNを実運用しており、同センターで培った運用管理ノウハウなど、これまで国内外200システム以上にSDNを導入した実績を生かし、鴻海のデータセンター運営を支援する。鴻海はNECと協業することで、先進的なIaaS基盤を構築しデータセンター事業の強化を図る。
2015年04月27日ニフティは、クララオンラインが中国にて提供しているパブリッククラウドサービス「鴻図雲(ホンツーユン)」に共同提供社として参画し、4月16日(木)からサービス提供開始したと発表した。これは、同社が海外で提供する初のクラウドサービスとなる。同サービスは、ニフティクラウドの安定したインフラ基盤とクララオンラインの中国におけるビジネスノウハウを組み合わせることで、中国でもニフティクラウドと同じパブリッククラウドを利用できるサービス。中国の5つの通信キャリアとのBGP接続による中国全土へのインターネット接続性と、環境の違いに対する技術面およびビジネス面でのサポートを提供する。これらのサービスは、既に本田技研工業(中国)、タニタ上海といった企業がサービスを利用している。現在、中国で、ITビジネス市場の成長に伴ってクラウドサービスが急速に普及しており、これまで、「鴻図雲」をインフラ構築・運用の面で支援。今回、中国で安定稼動し、導入実績のある「鴻図雲」に共同提供社として加わることで、サービス促進を図るという。今後は、クララオンラインとの協業をより強化し「鴻図雲」のソリューション拡大を図り、中国でのビジネスを強力に支援するとしている。
2015年04月23日作・演出家、鴻上尚史の書き下ろし作『ベター・ハーフ』に真野恵里菜が挑戦している。それぞれのベター・ハーフを探し求めて、4人の登場人物が密接に絡み合いながら進むこの物語に、「芝居がしたくて2年前にハロー!プロジェクトを卒業した」という真野の“女優魂”が燃えているようだ。演出家と女優がその濃密な芝居を語った。舞台『ベター・ハーフ』チケット情報ずっと前から芝居が、それも舞台が好きだったという真野。なかでも、2013年の『キフシャム国の冒険』を観て以来、鴻上作品への出演は夢のひとつになったそうだ。「テンポのいい会話のやりとりがあって、ダンスもあって、まさに演劇という世界。そこに私も入ってみたいと思ったんです」(真野)。その思いは、実は鴻上も直に受け取っていた。「真野ちゃんは『朝日のような夕日をつれて2014』も観に来てくれたんですけど、劇場を出るときに、“私をキャスティングしろ”っていう目で僕を睨んで帰って行ったんですね(笑)。そして僕は、そういう野心のある人が好きなんです。それぐらいエネルギーのある人でなければ、芝居を作るというとても大変なことを、最後までくじけずにやれませんから」(鴻上)。稽古に入って1か月。実際、真野のほか、風間俊介、中村 中、片桐 仁による4人だけの芝居は想像以上にエネルギーが必要で、「家に帰って気づいたら寝落ちしている」(真野)ほど疲れるのだという。鴻上曰く、「世の中がギスギスしてきた今、人間と人間がコミュニケートし、つながるとはどういうことなのかを描きたかった」という作品である。それぞれがいっぱいしゃべって、喧嘩もする。「人と話すことって大事なんだなと感じます。それに、役として本心を相手にしっかり伝えられたときは、本当に嬉しくなるんです。だから、どういう芝居をすればちゃんと伝わるのかって一生懸命考えていて。こんなに芝居に打ち込めるなんて、ハロプロを卒業した意味がここにあったなっていう気がしています」(真野)。本心をさらけ出すような芝居に、「アイドル真野ちゃんに抱いている幻想を壊すかもしれない」と鴻上。しかし、「みなさんの心を引っ掻き回したい(笑)」と真野はたくましい。さらには、その会話劇のなかにダンスや中村 中の歌も加わる。「4人がぐじゅぐじゅしているのを(笑)、どうせなら楽しくお見せしたい。最終的には、明日も生きていこうと思ってもらえたらいいなと思うんです」と鴻上は締めくくる。演劇の醍醐味はもちろんのこと、生きていく力も、この舞台は与えてくれそうだ。舞台『ベター・ハーフ』は4月3日(金)から20日(月)まで東京・本多劇場、25日(土)・26日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼ、5月3日(日・祝)から5日(火・祝)まで東京・よみうり大手町ホールにて上演。各会場ともチケット好評発売中。取材・文:大内弓子
2015年03月27日鴻上尚史が主宰を務める、「虚構の劇団」の第8回公演『イントレランスの祭』が、10月30日(火)、東京・シアターサンモールで開幕する。今回書き下ろす新作のテーマに“イントレランス=不寛容”を掲げた鴻上に、作品にかける思いと劇団の今について話しを訊いた。虚構の劇団『イントレランスの祭』チケット情報現代における殺伐さ、許容範囲の狭さを、身に沁みて感じていたという鴻上。「たぶん不寛容になるには、それなりの理由があると思うんです。なぜちょっとした“異物”に対し、人はイラっとしてしまうのか。そしてイラっとする側、イラっとさせる側にもそれぞれ人生があって。そこを抽象論にならないよう、いかに演劇的におもしろく描けるかを考えました」。鴻上はその“異物”を、今回“宇宙人”というかたちで劇中に登場させている。それは物語を抽象論にしないことに加え、「個別の問題を扱っているとは思われたくなくて。具体的な事象ではなく、なぜ人は不寛容になるのか。差別そのものをあぶり出すためには、宇宙まで飛んでしまった方がいいだろうと思ったんです」と話す。一見すると非常に重いテーマ。だが作品には、鴻上らしい笑いが随所に盛り込まれている。「深刻に悩んで解決するなら、いくらでも深刻にします。でも深刻にすることで、事態は余計深刻なものになるんじゃないかと。だったら悩みのあまりの重さに思わず笑ってしまうとか、突き放して笑うってことの方が可能性はある。そもそも僕は、笑いのない芝居以前に、笑いのない人生は嫌なんですよね」。前作『夜の森』では、「虚構の旅団」と題し木野花に演出を託した鴻上。劇団メンバーにとってこの舞台は、「嵐のような経験だったのでは」と笑う。「俳優の根本を突きつけられましたからね。その傷がどれだけ癒えているのか……(笑)。ただ“虚構の劇団”っていう枠組みで芝居ができることの嬉しさやありがたさ、貴重さということは、強く実感できたんじゃないかと思います」。2名のメンバーが離脱したが、新たに2名の研修生が参加。キャラクターの厚みが増し、鴻上自身「だからこそ書けた脚本」と語る。劇団として「虚構の劇団」は、次なるステップへ踏み出す時期に来たのではないだろうか。「そう感じますね。鴻上の旗のもとにという意識から、自分がこの集団で何ができ、この集団はどこを目指しているのかという意識に変わってきた。彼ら彼女らが自分を主体に考えられることが一番大事だし、本作がその布石になればいいなと思います」。公演は10月30日(火)から11月11日(日)まで東京・シアターサンモールにて、11月23日(金・祝)から11月25日(日)まで大阪・ABCホールにて上演される。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2012年10月17日