アメリカの脚本家レジナルド・ローズの代表作を、西沢栄治の演出で立ち上げるゴツプロ!『十二人の怒れる男』。開幕を約2週間後に控えた稽古場を訪れると、主宰の塚原大助をはじめとする全キャストと西沢が白熱した創作を繰り広げていた。年齢や境遇の異なる12人の陪審員が一堂に会し、父親殺しの容疑で起訴された少年の罪を審議する本作。アメリカのテレビドラマ(1954年)として放送されたのを皮切りに、舞台化や映画化(1957年)が繰り返されているクラシックな法廷劇だ。誰もが少年の有罪を確信する中で、陪審員のひとりが「話し合いたい」と異議を唱える。少年に不利な証言の疑わしい点を再検証するよう彼が働きかけると、他の陪審員が抱えるさまざまな偏見や先入観、無関心が浮き彫りになっていき──。4月中旬からスタートした稽古は、西沢いわく「現代に上演しても違和感のないよう、翻訳を“揉む”時間が長かった」そう。その後、返し稽古でシーンの精度を上げつつラストまで辿り着いたタイミングで取材日が訪れた。見学したのは、初対面の陪審員が席について議論を始める冒頭のシーン。戯曲によれば「今年いちばんの暑さ」らしく冷水器へ一直線する者、煙草に火をつけ一服する者、窓の外を眺める者、カジュアルに雑談する者など、開始5分も経たない12人の登場シーンながらそれぞれのキャラクターが早くも透けて見えた。有罪・無罪を問わず、判決は全員一致でなくてはならない。最初の投票を前に、西沢は流れを止めた。久しぶりに稽古する登場シーンを「懐かしいね」と笑いながら重厚なテーブルを囲むキャストに近づくと「リアルで同じ時間を積み重ねたぶん、打ち解けてしまっていて初めて会った人感に欠けますね」「距離感と緊張感を意識して、もっと他人行儀な感じを出して欲しい」とオーダーする。西沢の演出を経て、初対面のぎこちなさが再び充満する稽古場。異論を唱える陪審員第8号の意見ゼリフをおとなしく聞く流れになると、すかさず西沢が「聞いている間も横でコミュニケーションを図って全体が蠢いているように見せたい」と提案し、キャスト同士で自然とトライ&エラーが始まっていく。中でも合理的で冷静な4号を演じる塚原に、西沢は「セリフの時にボールを持ちすぎだから、相手にすっと投げて」とフィードバックして劇中における議論の活性化を促していた。キャストは塚原(4)のほか、ゴツプロ!メンバーの浜谷康幸(11)、佐藤正和(7)、泉知束(8)、渡邊聡(1:陪審員長)、44北川(6)に加えて、関口アナン(5)、三津谷亮(12)、劇団桃唄309の佐藤達(2)、椿組の木下藤次郎(守衛)、山本亨(3)、ワハハ本舗の佐藤正宏(10)、文学座の小林勝也(9)がキャスティングされている。公演は、5月13日(金)~22日(日)に東京・本多劇場にて。チケット販売中。取材・文:岡山朋代※(カッコ)内の数字は、役名となる陪審員の番号
2022年05月06日新国立劇場にて12月に上演される『あーぶくたった、にいたった』の取材会が開催。演出の西沢栄治と新国立劇場演劇芸術監督の小川絵梨子が出席した。本公演は、1年をかけて創作していく企画「こつこつプロジェクト」から誕生。本企画の意義などについて語り合った。小川芸術監督たっての希望で始まったこの「こつこつプロジェクト」。現在の演劇界は1か月ほどの稽古期間を経て、上演という流れが主流だが、本企画では長い時間をかけて作品を育てていく。2019年3月にスタートし、リーディング公演と3度におよぶ試演を行なってきた。小川芸術監督は、イギリスのナショナルシアターでは、常時大小合わせて200ものプロジェクトが水面下で動いていることを紹介し、「矢継ぎ早に作品を作っていく良さもありますが、じっくりと、時が来たら舞台に上げるシステムが日本でもできないか?と思い企画しました。 時間をかけて作品の強度や豊かさを高めていく作業から、作品への理解度が圧倒的に変わっていきますし、“チームを作る”ことがどういうことか?など、いろんな経験ができると思います。」とその意義を強調。「表に出るか出ないかわからないものに、投資としてお金を払う難しさはあります。でもやはり、とても大事なことだと思っていて。時間をかけてちょっとずつ良さを証明し、改善しつつ、世代を超えて続いていってほしいです」と、本企画を継続する重要性を訴えた。西沢は実際に1年におよぶ取り組みを通じて、「芝居の強度が上がっていくし、発見があり、(複数の試演により)1回目の発表ではわからなかったところに到達した気がします」と手応えを口にし、「新国立劇場だけに還元されるのではなく、演劇界に幅広く貢献していくことになると思います」と語る。別役実が執筆した本作は、婚礼を控えた新郎新婦が、まだ見ぬ我が子の将来を想像していく物語。西沢は「かつて日本にいたであろう、絶滅危惧種の小市民、こつこつ日々の暮らしを生きてきた人たちのありようを振り返って捉えてみたいです。『風が出てきた』『運動会が終わったんだよ』というセリフがあるんですが、オリンピック・パラリンピックが終わって、我々は何を見るのか?何を置き去りにしてきたのか?僕なりの日本人論みたいなものにたどり着けたらと思っております」と意気込みを語った。
2021年10月15日各ブックストアがFASHION HEADLINE読者に向けて「今読むべき1冊」をコンシェルジュ。毎週土曜日は、洋書を専門に扱う原宿・外苑前のブックショップ「シェルフ(Shelf)」(東京都渋谷区神宮前3-7-4)が選ぶ書籍をご紹介。■『My Secret Flowers ― Garden & House by Ryue Nishizawa(私の秘密の花―西沢立衛のガーデン&ハウス)』鈴木理策SANNAでも知られる建築家の西沢立衛が、都内の狭小スペースに庭と部屋を積み重ねるかのように設計した個人住宅「Garden & House」。この建物が7年前に竣工したとき、この場を使って内田鋼一・金氏徹平・廣瀬智央・鈴木理策の4人作品を展示し、非公開で開催された「私の秘密の花」展の展示風景と建築を鈴木理策が撮影した写真集。【書籍情報】『My Secret Flowers ― Garden & House by Ryue Nishizawa(私の秘密の花―西沢立衛のガーデン&ハウス)』写真:鈴木理策出版社:True Ring言語:英語・日本語ソフトカバー/100ページ/B4変型発刊:2019年価格:4,900円■Shelfオフィシャルサイトで『My Secret Flowers ― Garden & House by Ryue Nishizawa(私の秘密の花―西沢立衛のガーデン&ハウス)』を購入する
2019年07月27日職場での人間関係、失業、失恋、家族間のトラブルなど、誰しもがいろんな悩みや不安を抱え、ときには壁にぶち当たりながら生きていますよね。一説によれば、「1人の人間が1日に思考する回数は約7万回で、そのうち8割はネガティブな思考をしている」そうです。だとすれば、マイナス思考はむしろ自然なことであり、無理してポジティブになる必要はないのかもしれません。ところが一方で、常に前向きな人もいます。世間で「超一流」といわれている人たちの多くが、なにごとも前向きに考える思考法を手に入れているというのです。そんな超一流の人たちがどんな考え方をしたり、壁を乗り越えてきたのかというエピソードを、クイズ形式で紹介しているのが、西沢泰生さんの『読むだけでポジティブになれる 超一流の人のちょっと深い話』(アスコム)。モヤモヤとした気持ちを解消したり、人生のピンチに役立つ、すぐれたエピソードをご紹介していきましょう。■1:巨匠、黒澤明監督がこだわった「9時5時」の習慣リアリティの追求にこだわって完璧主義を貫いた、日本映画界の巨匠、黒澤明監督。その撮影時間は、意外にも朝の9時から夕方5時までと決まっていたそうです。理由は、スタッフに撮影の準備と後片づけのための時間を十分に与えるため。朝9時にスタートするには、スタッフは早朝5時から準備を開始し、撮影が夕方5時に終わったとしても後片付けに11時までかかったとか。これ以上撮影時間を延長すれば、スタッフの睡眠時間がなくなることを知っていたからなのです。部下の仕事の時間を確保し、休む時間まで考慮する。そして、最高のパフォーマンスを引き出す。これぞ、マネジメントの極意といえそうですね。黒澤監督が、名作を量産できた理由のひとつがわかった気がします。■2:ドクター・中松の発明がすべて成功している理由数々の発明を生み出した、ドクター・中松はまさに天才。「いままでに失敗したことはありますか?」と問われると、「自分の発明はすべて成功している」といい切ってしまうほど。その発言の真意とは、「成功するまでギブアップしない」ということなのです。「現段階で失敗していても、そこで終わりではなく、粘り強く工夫し、必ず成功までもっていく」というのが発明家の極意。エジソンも「成功するための確実な方法は、どんなときももう1回だけ試してみると思い続けること」といっています。画期的な掃除機で人気のダイソンも、試作品が完成するまでにかかった歳月は15年。それまでに作った失敗作の数は5,125個。ケンタッキー・フライド・チキンのカーネル・サンダースが、融資先の企業を求めて売り込みを続けた企業の数は、なんと1,009社。1、2回の失敗なんて、まさに序の口。「失敗なんてない、あるのは成功につながる経験だけ」。そんなふうに出来事を受け止め、成功するまで工夫してチャレンジし続けましょう。■3:帝国ホテルのバーテンダーが2杯目のグラスを置く場所究極のもてなしで客人を迎える帝国ホテル。バーの居心地のよさも格別です。ここのバーテンダーは、1杯目のグラスはお客が手に取りやすい右斜め前に置くそうですが、2杯目はいったいどこに置くのでしょうか。答えは、1杯目のグラスが置かれていた位置。人間ならだれしも無意識に飲みやすい場所や置いておきたい場所に置くもの。それを観察し、当たり前のようにさりげなくその位置に置く気配りができれば、人の心をとらえることができるというわけです。さすがは、帝国ホテル。配慮の行き届いた接客術の真骨頂といってもいいでしょう。■4:ピカソが3分で描いたスケッチが5,000フラン?ある婦人がピカソに「私のスケッチを描いてくださいませんか? お値段は言い値でけっこうです」と声をかけたところ、3分ほどで描きあげられた絵の値段はなんと5,000フラン(今の相場で約40万円)。高額すぎると憤慨する婦人に、ピカソが告げたひと言とは――。「私はここまで来るのに、生涯を費やしているのです」生涯に15万点もの作品を生み出したピカソは、「もっとも多くの作品を残した画家」としてギネスブックにも載っているほど多作な芸術家。その膨大な積み上げがあるからこそ、3分の絵にも価値があると自信をもっていえるのでしょう。ちなみに、正岡子規が36歳で他界するまでの16年間で詠んだ俳句は2万3,647句。エジソンの死後に見つかった、アイデアがぎっしり書かれたノートの数はなんと約3,500冊。日々の膨大な積み重ねが、圧倒的な自信につながることを証明していますね。■5:漫画家、赤塚不二夫の「2度目だから」という思いやりいわずと知れたギャグ漫画『天才バカボン』の生みの親、赤塚不二夫さん。描きあげた原稿を編集者に渡したあとに事件が発生したことがあるといいます。なんと編集者が、原稿をタクシーに置き忘れてなくしてしまったというのです。それを聞いた赤塚さん。まったく怒ることなく、「ネーム(脚本のようなもの)があるからまた描ける」といい、さらにこう続けます。「まだ少し時間がある。飲みに行こう」と。そして編集者を気遣い、飲んで帰ったあと、同じ話を数時間かけて描きあげたそうです。そして、編集者に手渡すときに「2度目だから、もっとうまく描けたよ」といったのです。ファンからも出版関係者からも愛されていた彼の葬儀には1,200人が参列したとか。いかに慕われていたか、よくわかるエピソードですね。失敗をしたらつい責めてしまいたくなりますが、そんなときにも周囲を気遣える人こそ、本当に優しい人なのかもしれません。*悩んだり、つまづいたりしたとき、自分とは異なる発想を知ることで、思わぬ解決策が見つかることがあります。身近な人と話すことも大事ですが、超一流の人の考え方に触れることもひとつの方法です。大いに活用しましょう。(文/山本裕美) 【参考】※西沢泰生(2016)『読むだけでポジティブになれる 超一流の人のちょっと深い話』アスコム
2016年06月06日