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●『マンハント』大抜てきを経て成長事務所スタッフが「鹿児島に美少女がいる」という噂を聞きつけてスカウトし、2008年にデビューした桜庭ななみ。10年の時を経て25歳になった桜庭は、中学生から大人への外見的な変化だけでなく、女優として大きな転機に差し掛かっているとも言えるだろう。ジョン・ウー監督作の映画『マンハント』に大抜てきされたのだ。高倉健主演でも映画化された西村寿行の小説『君よ憤怒の河を渉れ』を、日本映画ファンのウー監督が再び映画化した本作。何者かにはめられて殺人事件の被疑者となったドゥ・チウ(チャン・ハンユー)と、彼を追いながら無実を確信した大阪府警の刑事・矢村(福山雅治)が、事件の真相に立ち向かっていく様を描く。桜庭は、矢村の部下で新人刑事の里香を演じる。桜庭は2013年に台湾の映画『あの頃、君を追いかけた』を観たことがきっかけで中国語に興味を持ち、2015年に台湾へ短期留学。2016年には台湾ドラマ『戀愛沙塵暴』で全編中国語のセリフに挑み、最近も『マンハント』の海外プレミアで通訳なしの取材に応じるなど、今の魅力は「鹿児島の美少女」には収まらない。取材をしてみると、並々ならぬ強い意志と覚悟がその原動力になっていることが分かる。○ジョン・ウー監督は「夢の夢の夢」――日本で撮ったとは思えないスケールの映画でした。そうですね。日本での撮影でしたが、アジアのいろいろなスタッフの方々が集まって下さっているおかげで、日本だけでは実現できないような迫力やアクションのキレにつながっているんだと思います。――ブログを見てきたんですが、結構前に撮り終わっているんですね。ありがとうございます(笑)。撮影は2年前になります。――ジョン・ウー監督作に出演することについて、「夢の夢の夢」と書いてありました。それほどの感激だったんですね。そうですね。それまでもジョン・ウー監督の作品はたくさん観ていたんですが、男らしい物語が多い中でも、女性が輝いているように見えて。監督が描くその「女性の輝き」がすごく好きで、次第に「いつか参加したい」という気持ちが強くなっていきました。――監督とは撮影後も映画祭などで再会したそうですね。映画祭のほかにも、先日北京でイベントがあって、そこでもお話させていただきました。お会いする前は作品の世界観に引っ張られていた印象だったのですが、現場ではすごく穏やかで優しくて。俳優のお芝居の意見を尊重してくださるようなすごく優しい方です。――実際にそういうシーンがあったんですか?終盤にアクションシーンがあるんですが、福山(雅治)さん演じる矢村さんの単独行動だったので部下である里香がそこにいるのはおかしいという話になって。でも、里香は矢村さんを支えたくて、任務を全うしたいとも思っている。だから、「里香がそこにいないのはちょっとさびしいです」と監督にお話したら、その意見を受け入れてくださいました。現場に入ると他の俳優さんもそうなんですが、監督と話し合う時間が設けられていました。――自分の考えや思いを相手の国の言葉伝えられるメリットは役者としてもありそうですね。監督だけではなくて、中国スタッフの方々とも会話できたのは楽しかったですし、コミュニケーションを取ることができて、現場も明るい雰囲気になったのかなと思います。○「武器」を探しに台湾留学――北京のプレミア試写会出席後、ブログには「景色が違いました」という感想がつづられていました。以前の北京と比べてどのような違いを感じたんですか?6年前、2泊3日の仕事で北京に行く機会がありました。その時は中国のことをあまり知らなかったんですが、それからの6年間で中国のことを勉強したり、文化を学んでから実際に北京に行くと、たくさん発見があってすごくキラキラして見えたんです。本当に「景色」が変わって見えました。――最近は語学力が話題になっています。好きな台湾ドラマがきっかけで留学したそうですね。決断力がすごい。時間を無駄にしないように、「武器になるもの」「自信になるもの」を身に着けたかったんです。そう思うようになったのは、実は最近のことで。この世界に入ったばかりの頃は、台本をもらって楽しくセリフを覚えて現場に行くというような感じだったんですけど、周りの俳優さんを見ているとそれぞれの「武器」に感動することがたくさんあって。私も、ただただセリフを覚えて現場に行くだけじゃなくて、自分の強みを見つけないといけないと感じるようになりました。事務所の方々も応援してくれたので、がんばることができたんだと思います。●『西郷どん』『かぞくいろ』地元への思い――台湾の留学はトータルで約6カ月と聞きました。親日家が多いと聞きますが、肌身で感じた国民性はいかがでしたか?「みんなが家族」のような距離感でした。初対面でもすぐに友達になったり、そういう温かさが台湾にはありました。行ったばかりの頃は中国語も全然できなかったので不安もあったんですが、台湾の方々のそういう「優しさ」に引き込まれて、すごく居心地が良い空間でした。それまでは人見知りで壁を作ってしまうこともあったんですが、台湾ではそういうことが全くなかったので不思議ですね。――日本に戻ってきてもそれは続いたんですか?いろいろな人とコミュニケーションを取ろうという気持ちにはなりました。ご飯を食べに行ったりとか。それまでは家で一人でいることが多かったんですが、今は以前よりは外に出るようになりました(笑)。――「仕事の武器」を作ることが目的だったはずが、内面も磨かれていたと。そうなっていればいいです(笑)。○中国語・韓国語の習得法――映画では「友情」も大きなテーマでした。留学中でそんなことを感じる人物はいましたか?ホームステイ先の方とは、台湾に留学して初めてお会いしました。親戚でもなければもともと知り合いでもない関係性だったわけですが、1つ1つすごく丁寧に説明してくださったり、言葉が分からない映画を観ている時でも分かりやすく教えてくださったり、そういうところからも優しさを感じました。「人情」というんですかね? 「心の底から優しい」というのは、こういう人のことを指すんだと実感しました。――事前の勉強や現地での交流で覚えたんですか?ホームステイ先や友達になった方とお話しながら、覚えていきました。まだまだ知らない単語もありますので、これからも勉強していきたいです。――今後も語学力を磨くとして、それを踏まえてどのような将来像を思い浮かべていらっしゃるんですか?海外作品に出演できるように引き続き学んでいきたいです。それから、日本の作品も大好きなんです。小さい時から日本のドラマや映画を見て育ちました。日本の作品にもさくたん出演できるように頑張ります。――出身地である鹿児島を舞台にした大河ドラマ『西郷どん』にも出演中ですね。はい。今は鹿児島が舞台の映画『かぞくいろ』の撮影もしています。――今年は鹿児島と縁がある一年ですね。地元のスターじゃないですか!いえいえ! そう言ってもらえるように頑張ります。■プロフィール桜庭ななみ1992年10月17日生まれ。鹿児島県出身。身長162.5センチ。O型。特技は中国語と韓国語。2008年に映画『天国のバス』でデビュー。2009年にはNHKドラマ『ふたつのスピカ』で主演を務め、劇場アニメ『サマーウォーズ』では初めて声優に挑戦した。その後、2010年の『最後の忠臣蔵』で第35回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、映画新人賞を総なめ。現在、NHK大河ドラマ『西郷どん』に出演中。鄭義信監督の映画『焼肉ドラゴン』(18年初夏公開)、「RAILWAYS」シリーズ最新作で鹿児島を舞台にした『かぞくいろ』(18年公開予定)に出演。
2018年02月17日日本の演劇賞を総なめにした伝説の舞台「焼肉ドラゴン」が、舞台でも作・演出を務めた鄭義信初監督作として映画化されることが決定。あわせて、真木よう子、井上真央、桜庭ななみ、大泉洋が出演することも明らかになった。■ストーリー万国博覧会が催された1970(昭和45)年。高度経済成長に浮かれる時代の片隅。関西の地方都市の一角で、ちいさな焼肉店「焼肉ドラゴン」を営む亭主・龍吉と妻・英順は、静花(真木よう子)、梨花(井上真央)、美花(桜庭ななみ)の三姉妹と一人息子・時生の6人暮らし。失くした故郷、戦争で奪われた左腕…。つらい過去は決して消えないけれど、毎日懸命に働き、家族はいつも明るく、ささいなことで泣いたり笑ったり。店の中は、静花の幼なじみ・哲男(大泉洋)など騒がしい常連客たちでいつも大賑わい。“たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる――”それが龍吉のいつもの口癖だ。そんな何が起きても強い絆で結ばれた「焼肉ドラゴン」にも、次第に時代の波が押し寄せてくるのだった。本作は、2008年、日本の新国立劇場と韓国の芸術の殿堂(ソウル・アート・センター)のコラボレーションで製作され、第8回朝日舞台芸術賞グランプリ、第16回読売演劇大賞大賞・最優秀作品賞など日本の演劇賞を総なめにした伝説の舞台「焼肉ドラゴン」の映画化。メガホンを取るのは、舞台でも作・演出を務め、『月はどっちに出ている』『愛を乞うひと』『血と骨』などで数々の脚本賞を受賞し、また演劇界では「たとえば野に咲く花のように」「パーマ屋スミレ」などの脚本・演出を手掛ける鄭氏。今回初の監督を務める。■三姉妹役には真木よう子×井上真央×桜庭ななみ故郷を奪われた6人の家族が時代の波に翻弄されながらも、泣いて笑って、力強く生きる姿を、ユーモアに満ちた描写・印象的な台詞と共に描いていく本作。そんな家族の長女・静花役を演じるのは、「SP」や「MOZU」などに出演する真木よう子。次女・梨花役をドラマ「明日の約束」で主演を務めた井上真央。そして、三女・美花役を、『人狼ゲーム』や『進撃の巨人ATTACK ON TITAN』の桜庭ななみが演じる。真木さんは、「映像化した作品は私の期待を遥かに超えておりこの様な歴史的事実が確かに存在したことを、より多くの方に認識して欲しいと思うと共に、鄭監督の伝えたかった“たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる”というメッセージが作品の終盤には深く皆様の心に突き刺さることになると思います」と本作への自信を見せる。井上さんは「韓国の俳優陣はみな熱量が高く、とても刺激的でした。互いの言葉が通じずもどかしく感じることもありましたが、今作への思いを最後まで共有することができ、忘れることのできない作品となりました」とコメント。また舞台を観劇したと言う桜庭さんは、「在日韓国人一家の苦悩に凄く胸を打たれました」と話し、「完成した映画を観たときは、心の内に暗いものを秘めているひとりひとりが、明るく力強く毎日を送っている姿、家族の絆に感動しました」と映画について語る。また、チャレンジする気持ちで撮影に挑んだと話す桜庭さん。「観ている人にエールを送ることのできる作品になっているので、ぜひ楽しみにしていてください」とメッセージを寄せている。■大泉洋、真木よう子に想いを寄せるも…一方、大泉洋が演じるのは、真木さん演じる静花への想いを秘めたまま、井上さん演じる梨花と結婚する哲男役。舞台「焼肉ドラゴン」の大ファンだと明かす大泉さんは、「映画化のオファーを頂いた際は、非常に光栄な気持ちと共に、歴史的に大きな意味のある作品に参加することへの緊張感がありました」と心境を述べ、撮影については「鄭監督を中心に日本の俳優陣とエネルギーにあふれる韓国の俳優の方々と、言葉が通じなくても素敵な作品にしようとする想いを共有しながら、とても楽しく撮影を行うことができました。現れるキャラクターの誰しもが心に傷を抱えながらも、国や血の繋がりを超えて団結し、明日を強く生きていこうとする姿を、日本と韓国の役者陣が鬼気迫る表情や演技で見せる作品になったと思います」と話している。『焼肉ドラゴン』は2018年初夏、全国にて公開予定。(cinemacafe.net)
2018年01月17日真木よう子、井上真央、桜庭ななみ、大泉洋が、映画『焼肉ドラゴン』(2018年初夏公開)に出演することが17日、わかった。同作は鄭義信が作・演出を務めて2008年に製作され、日本の演劇賞を総なめにした伝説の舞台を映画化。鄭が脚本・監督を務める。1970年代を舞台に、故郷を奪われた6人の家族が関西で焼肉店「焼肉ドラゴン」を営み、時代の波に翻弄されながらも力強く生きる姿を描く。焼肉店の三姉妹、静花を真木、梨花を井上、美花を桜庭、そして常連客で静花の幼馴染の哲男を大泉が演じる。鄭は「『在日』韓国人の……どちらかと言えば、特殊な家族の物語を日本の観客たちがどんなふうに受け止めてくれるか……初演の幕が上がるまで、僕は不安でなりませんでした」と初演時を振り返る。「それが温かい拍手で迎えられ、再演、再々演を重ね、映画化までできたことは感無量としか言いようがありません」と心境を吐露した。韓国でも上演され、オーストラリア、ニューヨークでのリーディングも大きな反響があった同作。鄭は「どこの国に行っても、『焼肉ドラゴン』の劇中の家族たちを、あたかも自分の家族であるかのように迎え入れてくれる観客たちに深く感謝するとともに、新たに映画の中で息づき始めた家族たちも愛してくださるよう、切に祈っております」とコメントを寄せた。○真木よう子コメント『焼肉ドラゴン』という素晴らしい舞台を拝見致しましたので、嘘をなく申し上げますと、映画化にあたり、ワクワクした感覚と舞台とスクリーンの違いがどうなるのかといった懸念が少しもなかったかと言うと嘘になります。しかし、映像化した作品は私の期待を遥かに超えておりこの様な歴史的事実が確かに存在した事を、より多くの方に認識して欲しいと思うと共に、鄭監督の伝えたかった"たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる"というメッセージが作品の終盤には深く皆様の心に突き刺さる事になると思います。一人でも多くの方々に「焼肉ドラゴン」の素晴らしさが伝わることを願っています。○井上真央コメント韓国の俳優陣はみな熱量が高く、とても刺激的でした。互いの言葉が通じずもどかしく感じることもありましたが、今作への思いを最後まで共有することができ、忘れることのできない作品となりました。国境や血の繋がりを越えて、運命を共にすると決めた家族たちの覚悟や、理屈ではない愛がたっぷりと詰まった作品です。早く皆さんのところにお届けできることを私も楽しみにしています。○桜庭ななみコメント舞台『焼肉ドラゴン』の映画に出演させていただきます。最初に舞台を観た時は在日韓国人一家の苦悩に凄く胸を打たれました。そして何度も上演されている舞台なので期待を裏切れないというプレッシャーもありました。完成した映画を観た時は、心の内に暗いものを秘めている一人一人が、明るく力強く毎日を送っている姿、家族の絆に感動しました。今回、私は同じスナックで働いていて奥さんがいる男性と恋に落ちる3女の美花を演じました。難しい役どころでしたが、真木さんや井上さんをはじめとするキャストの方々にアドバイスを頂きながら、チャレンジする気持ちで撮影に挑みました。観ている人にエールを送ることのできる作品になっているので、ぜひ楽しみにしていてください。○大泉洋コメント私自身も舞台『焼肉ドラゴン』大ファンでありましたので、映画化のオファーを頂いた際は、非常に光栄な気持ちと共に、歴史的に大きな意味のある作品に参加することへの緊張感がありました。ですが、鄭監督を中心に日本の俳優陣とエネルギーにあふれる韓国の俳優の方々と、言葉が通じなくても素敵な作品にしようとする想いを共有しながら、とても楽しく撮影を行うことができました。現れるキャラクターの誰しもが心に傷を抱えながらも、国や血の繋がりを超えて団結し、明日を強く生きていこうとする姿を、日本と韓国の役者陣が鬼気迫る表情や演技で見せる作品になったと思います。舞台とはまた違う、映画『焼肉ドラゴン』を是非楽しみにしていてください。(C) 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会
2018年01月17日芥川賞作家・小川洋子の小説「密やかな結晶」が、日本アカデミー最優秀脚本賞・読売演劇賞最優秀作品賞の鄭義信による上演台本で、2018年2月に舞台化されることが決定。主演には、舞台出演は4年ぶりとなる女優・石原さとみを迎えることも分かった。本作は、「妊娠カレンダー」「博士の愛した数式」などで知られる小川氏の同名小説の舞台化。昨日まで存在していたものが今日は消滅している、物もその物にまつわる記憶も全てが跡形もなく消滅している、そんな状況が当たり前となった島に住む小説家、“わたし” を主人公に物語が進む本作。“わたし”を幼いころから世話し見守っているが見た目がずっと20歳位のままである“おじいさん”、小説家の編集者でとある秘密を隠しながらも自分に誇りを持ち、目に見えない恐怖に抗いながら生きている“R氏”、この3人の関係と、島の秩序を取り締まる謎の存在で3人を追いつめて行く秘密警察を中心に、不思議な島で生きる人々を描く物語だ。今回石原さんが演じるのは、消滅が起こる島にひっそりと暮らす小説家“わたし”。「ここ何年もずっと舞台への思いを強く持っていた」と言う石原さんは、「4年ぶりに舞台に立たせて頂けることを心から嬉しく思います!実は今回の『密やかな結晶』は、原作を読み、是非これを舞台化して演じてみたいと思い、お願いした作品です。ですので、特に思い入れが強く、いまはただ実現していく高揚感に浸っています」とコメント。また、おじいさん役を村上虹郎、“わたし”の担当編集者・R氏役を鈴木浩介が演じることも決定。この2人と“わたし”との不思議な三角関係も見どころだ。そのほか山内圭哉、ベンガル、藤原季節、山田ジェームス武、福山康平、風間由次郎が名を連ねる。なお、本公演のチケットは11月25日(土)より一般発売開始。また、ホリプロオンラインチケットにて先行予約も行われる。舞台「密やかな結晶」は2018年2月2日(金)~25日(日)東京芸術劇場プレイハウス (東京・池袋)にて上演。※3月に富山公演、大阪公演、福岡公演あり。(cinemacafe.net)
2017年10月31日アイドルグループ・V6の森田剛が、舞台『すべての四月のために』に主演することが23日、わかった。同作には他、臼田あさ美、西田尚美、村川絵梨、伊藤沙莉、小柳友、稲葉友、池田努、津村知与支、山本亨、麻実れいが出演する。同作は舞台『焼肉ドラゴン』作・演出を務め演劇賞を総舐めにし、映画『月はどっちに出ている』『愛を乞うひと』で数々の賞に輝いた、鄭義信が新たに書き下ろす。第二次世界大戦時の朝鮮半島近くに浮かぶ日本植民地の島で、理髪店を営む朝鮮人一家と、家族を取り巻く朝鮮人、日本人軍人たちを描く。森田が演じるのは、麻美と山本が営む理髪店の次女・秋子(臼田)と結婚する新郎・萬石。実は理髪店一家の長女・冬子(西田)への思いを捨てきれずにいた。それぞれ思いを秘める結婚式の場に日本人軍人の篠田(近藤公園)が、理髪店を日本軍専用とするとの辞令を持ってやってくる。戦時下でもがくひと人の姿から、人間存在の本質をあぶり出し、人生、民族、時代を照射していくという。東京公演は東京芸術劇場 プレイハウスにて、11月11日~29日。また京都公演はロームシアター京都 サウスホールにて12月8日~13日、北九州公演は北九州芸術劇場 大ホールにて12月22日~24日に行われる。○森田剛コメント約1年半ぶりの舞台に、以前からご一緒したかった鄭義信さん作品に出演させていただくということで今から楽しみです。鄭さんが描かれる人々は、辛い状況下でも明るく、生きていくことの逞しさや強さを持っていてとても魅かれます。今回は戦時下の朝鮮半島の小島に住んでいる家族の話ということですが、いつの時代も変わらない家族というものをテーマにしっかり演じていければと思っています。○鄭義信コメント森田君(君などとは失礼かもしれないけれど、やっぱり君って感じなのです)の舞台でのたたずまいを見ていると、僕は木蓮を思いおこします。あの高い梢に白い大きな花を咲かせる木蓮です。僕が描こうとしているのは、歴史の波の中で翻弄されながらも、必死で生きようとする、ささやかな家族の物語です。その中で、彼がどんな花を咲かせてくれるのか、今から楽しみにしています。
2017年06月23日女優の南果歩が15日、東京・初台の新国立劇場で行われた主演舞台『鄭義信 三部作 Vol.3「パーマ屋スミレ」』の公開稽古に臨んだ。劇作家で演出家の鄭義信が書き下ろした同舞台は、1960年代半ばの九州のとある炭鉱町で炭鉱事故に巻き込まれた在日コリアンの家族を描いたもの。2012年に新国立劇場で初演されて大きな話題を集め、今回はそのリバイバル公演。初演の演技で高い評価を受けた南果歩、根岸季衣らオリジナルキャストに加え、千葉哲也、村上淳といった実力派俳優も加わる。南は「再演は望まないタイプなのですが、この作品だけはもう一度という気持ちが強く、4年経ってやっと再演することになりました」としながら、「大地に根をおろして生きている女性ということで、すごく魅力的でした。初演は東日本大震災の翌年に公演され、被災した方の応援歌ではありませんが、3.11のことが念頭にあってやっていましたので、今回奇しくも熊本の震災後ということで、見て下さった方々への投げ掛けだけでなく、私自身も生きることを見直す作品です」と話した。その南が挑む同舞台は、3月11日に乳がんの手術を受けてからの復帰作となる。「術後2カ月しか経っていませんが、舞台を念頭に手術を早めに組みました。ですが、精神的な部分で次のことを考える状況になかなかなれなくて、1日1日必死でしたね。こうやって皆さんにお披露目できたことは、2カ月前には考えられませんでした。本当にうれしいです」と復帰に笑顔。また、12日に亡くなった演出家の蜷川幸雄さんについては「2000年の舞台『グリークス』で初めてお会いしました。稽古が厳しいとは聞いてましたが、厳しいだけでなく俳優を心から愛して信じ、『やってみろ』という大きな土俵を目の前に出してくださる方でした。とにかく存在として大きすぎるので、贈る言葉は浮かびませんが、蜷川さんはどの劇場にもいらっしゃると思いますよ」と故人を偲んだ。舞台『鄭義信 三部作 Vol.3「パーマ屋スミレ」』は、5月17日~6月5日(5月23・30日は休演)に東京・初台の新国立劇場 小劇場で公演される。
2016年05月15日新国立劇場で連続上演中のシリーズ“鄭義信三部作”、そのラストを飾る舞台『パーマ屋スミレ』が5月17日(火)に小劇場にて開幕する。劇作家・演出家の鄭義信が「激動の昭和の時代に翻弄された、庶民の姿を描きたい」として発表した三部作のうち、『パーマ屋~』は1960年代半ば、九州のとある炭鉱町を舞台に展開。そこで暮らす在日コリアンの炭鉱労働者の家族や彼らを取り巻く人々の、苦境に負けずに力強く生きる姿を、笑いと涙で鮮烈に綴った物語だ。理容室を営む須美役の南果歩、その姉・初美役の根岸季衣など、2012年の初演とほぼ同じキャストが揃うなか、須美の夫・成勲(ソンフン)役の千葉哲也、その弟・英勲(ヨンフン)役の村上淳が今回の再演に新加入。稽古場では、鄭の熱のこもった指揮のもと、激しくも温かい九州の方言が飛び交っていた。舞台『パーマ屋スミレ』チケット情報床屋椅子がひとつポツンと置かれた理容室、路地にある手押しポンプや共同便所など、稽古場に精密に建て込まれたセットから、1965年の炭鉱町の風情が存分に伝わってくる。理容室の座敷に祖父・洪吉(ホンギル)役の青山達三が横たわった状態で、鄭の合図で一幕の頭から立ち稽古が始まった。語り部となる中年の大吉(酒向芳)が登場し、空間を仰ぎ見ながら少年時代を懐かしむ。その穏やかな口調が引き出す郷愁に、早くもささやかな悲劇の匂いを感じて胸を突かれるが、少年大吉(森田甘路)のけたたましい登場とともに空気は一変。続々と生命力あふれるキャラクターが現れ、嵐のような勢いで観る者を巻き込んでいく。須美の妹夫婦(星野園美、森下能幸)がくりひろげる夫婦漫才調のやりとりに笑わされ、生活臭を漂わせた初美・根岸のたくましさ、不甲斐ない夫に怒声を飛ばす須美・南の気っ風の良さに圧倒される。負けじと声を張ってずる賢くかわす成勲の、千葉が見せる狡猾な表情も失笑せずにいられない。片足を引きずって歩く英勲だけは、村上が静かな笑みに諦観の色をにじませて独特の印象を残していた。ドラマの序盤、駆け抜けるような彼らのやりとりを鄭は楽しそうにみつめながら、「だんだんたっぷりと演じてしまっているから、もっと早く」とテンポの良さの重要性を強調。その一方で、根岸が三段落ちのようにして言葉をたたみ掛け、笑いを誘う場面では、「もっと三回目を長くねばって」と要求する。演出家が好む“くどい笑い”へのこだわりに応えるべく、根岸が何度もシーンを繰りかえし、周囲から爆笑を引き出していた。強烈な言葉の応酬、おおらかな仕種から感じとれるのは人間の底知れぬ強さ、突き抜けた朗らかさだ。だがその後に続く物語は、炭鉱事故で彼らの生活が打ち砕かれる様を厳しく映し出す。それでも鄭は、懸命に生きる人々の姿に必ず“笑い”をまとわせることを忘れない。『焼肉ドラゴン』、『たとえば野に咲く花のように』と続いて話題を集めた鄭義信の人間ドラマ、その最終章もやはり、胸をえぐる衝撃が待ち構えているに違いない。公演は5月17日(火)から6月5日(日)まで。前売りチケット発売中。取材・文:上野紀子
2016年05月06日新国立劇場にて一挙再演する「鄭義信 三部作」の第二弾『たとえば野に咲く花のように』が4月6日(水)より上演される。ともさかりえ、山口馬木也、村川絵梨、石田卓也ら実力派キャストを迎え、1951年の九州の港町を舞台に、戦争の傷を抱えた男女の愛憎を描き出す。初日まで約3週間に迫った3月下旬の稽古場を取材した。舞台『たとえば野に咲く花のように』チケット情報戦争で失った婚約者を想い続ける在日朝鮮人の満喜(ともさか)、自身も戦争の傷を抱え、自分と同じ目をした満喜に惹かれる康雄(山口)、その婚約者のあかね(村川)、康雄の弟分で、あかねにぞっこんの直也(石田)。出口のない四角関係が本作の軸となるが、この日、稽古が行われたのは、物語の終盤、街を出る決意をした康雄とそれを引き留めようとする直也、康雄の心変わりを許せないあかねらの感情が激しくぶつかり合うシーンから、満喜が康雄への愛情をようやく垣間見せる印象的なシーンへとつながるクライマックスの場面。「鄭義信 三部作」の中でこの『たとえば野に咲く~』のみ、鄭以外――2007年の初演に続き、鈴木裕美が演出を務める。稽古から気付かされるのは、鈴木が、鄭による脚本上の登場人物たちの感情の流れ、それに伴い発せられるセリフに対し、絶対的ともいえる信頼を置いているということ。ひとつの言葉が“導火線”となり、相手を刺激し、またそれが次に…という感情の流れに寄り添い、アクションの動きさえもつけていく。鈴木曰くこのシーンの登場人物は「次の一手がどうにもならない=どう生きていけばわからずにいる者たち」。戦争、喪失、貧しさ、また始まった戦争(=朝鮮戦争)に翻弄され、生きることもままならず、やるせない思いが怒りと悲しみに火をつけ、混乱を呼び起こし――激しく爆発する。新たな地へ踏み出そうとする者(=康雄)と、変わってしまったことを受け入れられず、しがみつこうとする者(=直也、あかね)、そのぶつかり合いにさらに翻弄される者(=満喜)。四角関係の極みだが、それぞれの感情が痛いほどに突き刺さってくる。セリフは全編九州弁で、稽古場での鈴木の演出の指示にも九州弁が混じるが、東京でもなく、かといって遠い異国の話でもなく、60年以上前、復興への歩みのさなかのこの国の地方の片隅のコミュニティをしっかりと心に焼きつける。「せからしか(=やかましい!黙れ!の意)」など、その地方のものでなければ耳慣れない言葉がたびたび出てくるのに、すんなりと入ってくるのが不思議だが、やはり、セリフのひとつひとつに寸分の無駄もなく感情が乗せられているからこそ伝わってくる。出口のない感情の生々しいぶつかり合いが彼らをどこに連れていくのか? 公演は4月6日(水)より東京・新国立劇場小劇場にて開幕。取材・文・撮影:黒豆直樹
2016年03月25日戦後日本が復興、高度経済成長を遂げていく陰で、差別や故郷を離れた寂しさの中、たくましく生きる在日コリアンたちを描いた鄭義信の三部作が新国立劇場にて一挙再演される。第1弾として、万博開催前後の関西で、焼肉屋を営む一家の悲哀をつづった『焼肉ドラゴン』が3月7日(月)に開幕する。初日まで3週間を切った稽古場は日韓の俳優たちの熱気に包まれていた――。舞台『焼肉ドラゴン』チケット情報稽古場には本番と同じセットが組まれているが、細部に至るまでリアリティが追求されており圧巻!錆びかけた看板、シミで汚れた壁、手前の道は見るからに水はけが悪そうで泥っぽく、湿気やドブ川のニオイまで伝わってきそう。精緻に作りこまれているが、リアルであるがゆえになおさらもの哀しい…。アボジ(=父)役のハ・ソングァン、オモニ(=母)を演じるナム・ミジョンをはじめ、キャストの約3分の1が韓国人俳優であり、通訳を介して日本語、韓国語が飛び交う。ちなみに自ら演出を務める鄭は、韓国人俳優であろうと一切の容赦なく、日本語のセリフの言い回しや間について細かく指導をし、何度も同じシーンを繰り返す。これこそ、俳優たちが制作会見時から口にしていた鄭の「しつこく粘着質の演出」である。狭い空間、近い人間関係の中で展開していくドラマは嫌でも濃厚にならざるを得ない。長女・静花(馬渕英里何)は韓国から日本へ来た青年(キム・ウヌ)と婚約するが、次女・梨花(中村ゆり)の夫の哲男(高橋努)は静花に今でも恋心を抱いており、それを知る梨花は常連客の日白(ユウ・ヨンウク)と関係を持つ。三女の美花(チョン・ヘソン)の恋人は妻ある日本人……。「ないものねだりや!」と怒りを込めて叫ぶ母。「結局、男なんか似たり寄ったり」 と嘆息する三女。それでも身を寄せ合い生きる彼女たちは誰かを求めずにいられない。そんな激しい感情のぶつかり合いの中で、ひときわ強い存在感を放つのは、母を演じるナム・ミジョンと父を演じるハ・ソングァンのふたり。ナムが「お母ちゃん、絶対に許さん!」と“肝っ玉母さん”という表現がぴったりの“熱”を見せる一方で、父は、静かにそこにいるだけで一家の大黒柱としてのぶれることのない強さを見せつける。「古い話をしてえぇですか… ?」。三女との結婚の挨拶に来た男を前に、静かに自身の半生を語り始める父。「働いた、働いた…また働いた――」 。片言の日本語に哀愁がにじむ。明るく楽しい人生が描かれているわけではないのに、全力で生きる彼らのエネルギーゆえか、登場人物たちの姿は滑稽で、全体を通して笑いであふれている。そして、心に深く突き刺さる。この圧倒的なエネルギーをぜひ舞台で感じてほしい。公演は3月7日(月)から27日(日)まで東京・新国立劇場 小劇場にて。兵庫公演あり。チケットは発売中。取材・文・撮影:黒豆直樹
2016年02月26日新国立劇場にて過去に上演され、戦後まもない日本社会でたくましく生き抜く人々の姿を在日コリアンの視点を絡めて描き、大きな反響を呼んだ鄭義信作の『焼肉ドラゴン』『たとえば野に咲く花のように』『パーマ屋スミレ』。この3作が3月から6月にかけて新国立劇場で一挙再演されることになり、1月19日に制作発表会見が行われた。鄭義信三部作 チケット情報会見には鄭義信、新国立劇場芸術監督の宮田慶子、『焼肉ドラゴン』からナム・ミジョン、ハ・ソングァン、馬渕英里何 、中村ゆり、高橋努、『たとえば野に咲く花のように』から演出の鈴木裕美、ともさかりえ、山口馬木也、村川絵梨、石田卓也、『パーマ屋スミレ』から南果歩、根岸季衣、村上淳、千葉哲也の総勢16名が出席した。『焼肉ドラゴン』と『パーマ屋スミレ』は鄭が自ら演出も務め、今回の三部作連続上演を「光栄の至り」と喜びをかみしめる。3作ともキャストの一部を入れ替えての上演となるが「新たな、錚々たるキャストのみなさんと新しく作るということで、喜びと不安、期待でいっぱいです」と意気込みを口にした。『焼肉~』はすでに本読み稽古がスタートしており、初演時に客席で鑑賞し、感動に打ち震えたという馬渕は、エネルギーあふれる脚本との格闘に「読んでるだけでボロボロになります(苦笑)。嬉しくて仕方ないんですが、本を開くと疲れます…」と苦笑いしながらも、「この作品の一員になれる幸せを噛みしめつつ、初演、再演以上の新しい『焼肉ドラゴン』を作れるよう稽古を重ねたい」と力強く語る。『たとえば野に咲く~』主演のともさかは「新国立劇場も鄭さんの作品も(鈴木)裕美さんの演出も初めての“初めて尽くし”です」と緊張の色を浮かべ、「どんな新しい景色が見られるか、楽しみ半分、恐ろしさ半分です」と語る。初演に続いて演出を務める鈴木は「演劇、俳優の力を信じている本だと思います。どの人物も美しさと頭の悪いところが、両方とも描かれている」と改めて鄭の作品の魅力を語った。4年前の『パーマ屋~』初演以来「誰よりも再演を熱望してきた」と自負する南は感慨もひとしおのよう。「鄭さんは『アジアで二番目にしつこい演出家』とご自分で仰ってましたが、北半球で一番ではないかと思います(笑)」とキッパリ。これには鄭も「アジアで一番になるように頑張りたい(笑)」と応戦。南はさらに「人生を懸けてもいいと思えぶつかりがいのある山で、役者にとって最高の幸せであり、不幸であり(笑)、試練!今後、こういう役に出会う機会はないかもしれないという思いで一期一会を感じています」と本作への特別な思いを吐露し、並々ならぬ意気込みをうかがわせた。『焼肉ドラゴン』は3月7日(月)から27日(日)、『たとえば野に咲く花のように』は4月6日(水)から24日(日)、『パーマ屋スミレ』は5月17日(火)から6月5日(日)まで、新国立劇場小劇場にて上演。なお、チケットぴあでは三部作特別割引通し券を1月21日(木)まで発売中。
2016年01月20日日本の戦後、その大きな転換期となった1950、60、70年代それぞれを、市井に生きる人々の目線から描き出す、鄭義信が過去に新国立劇場に書き下ろした三作の一挙再演が今春に決定した。万博に浮かれる60年代が舞台の『焼肉ドラゴン』(2008、11年)、戦後まもない中で再生を模索する人々を描く『たとえば野に咲く花のように』(07年)、そして1970年代、石炭から石油へと転換するエネルギー政策に翻弄される人々が主人公の『パーマ屋スミレ』(12年)。だが、最初から連作の企画だったわけではなく、鄭自身も「最初に書いた『たとえば~』は、「三つの悲劇―ギリシャから」というギリシャ悲劇の翻案に三人の劇作家が取り組むという企画のために書いたもの。演出も鈴木裕美さんでした。だから、続く『焼肉~』、『パーマ屋~』と合わせて「三部作」と呼ばれるようになるとは、僕自身思ってもいなかった」と言う。新国立劇場 鄭義信 三部作さらに、それぞれの創作・初演を振り返り「再演を重ね、韓国公演も実現した『焼肉~』は思い入れの強い作品。日本では、ある種のノスタルジーを抱いて年齢が高めの観客が支持してくださったのに対し、韓国では若者から大きな反響があった。国や政治に翻弄され、離散していく劇中の家族に、韓国で今まさに問題となっている家族の崩壊という社会現象を重ねて観てくれたんです。『パーマ屋~』は執筆時に苦労しました。戯曲の残り3分の1くらいのところでピタリと筆が止まって。悲劇的な展開とラストを書くことに、心のどこかで迷いや抵抗があったんだと思います。でも当時の、激しい時代の流れを描くためには、なんらかの犠牲がどうしても必要だと腹をくくった。結果、別離や旅立ちを希望として表現することが多い僕の作品には珍しく、“留まる決断”を下すヒロインが生まれたんです」とも。『焼肉~』『たとえば~』はほぼ全キャストが刷新。続く『パーマ屋~』も一部の俳優が変わり、単なる再演ではない進化が見込まれる。「俳優が変われば、必ずそこに新たな化学反応が生まれる。演劇は人と人との関係性、その繋がりから生まれるものですから。だから演出家の僕が新しくするというより、作品が勝手に新しくなっていく、その作用に身を委ねていこうかなと、今は考えています。特に一番手の『焼肉~』は、韓国人キャストも含め、初めてご一緒する方も多いので、何が起こるか興味津々です。」という鄭の言葉を信じ、生きようと足掻き、生命を燃やす登場人物たちとの再会に期待したい。なお、インタビューの全文はチケットぴあサイトに掲載。チケットぴあでは一般発売に先がけ、1月12日(火)より特別割引通し券「三つの名舞台-鄭義信 三部作-」を発売する。取材・文:尾上そら【公演情報】会場:新国立劇場小劇場(東京都)「焼肉ドラゴン」3月7日(月) から27日(日)「たとえば野に咲く花のように」4月6日(水) から24日(日)「パーマ屋スミレ」5月17日(火)から6月5日(日)
2016年01月08日観月ありさが主演を務める舞台『GS 近松商店』(9・10月、大阪・新歌舞伎座にて)の上演が決定した。新歌舞伎座新開場5周年を記念して上演する今作は、近松門左衛門の名作「女殺油地獄」「曽根崎心中」をモチーフに鄭義信が書き下ろした現代劇。2008年上演の「焼肉ドラゴン」で国内の演劇賞を総なめにした鄭が自ら演出も手がける。県道脇にある寂れたガソリンスタンド(GS)を切り盛りしている人妻とその家族。ある事件をきっかけに人妻の元に通うようになった若者を中心に、関西地方のとある田舎町に巻き起こる愛憎劇。平凡な日常を滑稽に描きつつ、現代人の孤独と不安を拡張し「生きるということは」を問いかける。ガソリンスタンドを営む主人公・菊子を演じる観月は関西弁の台詞に挑戦する。「鄭さんに演出していただくことで新しい自分の発見に繋がると思っています」と意気込みを語っている。共演は渡部豪太、小島聖、姜暢雄、朴路美、みのすけ、星田英利、山崎銀之丞、升毅、石田えりら。チケット一般発売は8月1日(土)予定。■新歌舞伎座 新開場五周年記念『GS 近松商店』日時:2015年9月27日(日)から10月14日(水)まで場所:大阪・新歌舞伎座料金:1階席:9,500円/2階席:5,000円/3階席:3,000円/特別席:11,000円作・演出:鄭義信出演:観月ありさ、渡部豪太、小島聖、姜暢雄、朴路美、みのすけ、星田英利、山崎銀之丞、升毅、石田えり ほかチケット一般発売日:8月1日(土)午前10時より新歌舞伎座ほか各種プレイガイドにて発売予定問い合わせ:新歌舞伎座 06-7730-2121(午前10時から午後6時まで)
2015年04月23日この11月、新橋演舞場で上演される山田洋次演出の舞台『さらば八月の大地』は、終戦間近の満州で映画づくりの夢を追う人々を描く物語。主役の中国人助監督を演じ、昨年2月の襲名以来初の現代劇に挑むこととなる勘九郎に話を訊いた。『さらば八月の大地』チケット情報戦時中の満州に生きる男を演じるため、稽古に入る前から戦争に関する資料を読み込むなど役づくりに余念がない勘九郎。さらに、満州を知るにあたって彼には心強い助っ人がいるのだという。「うちには小山三さんという93歳のお弟子さんがいるんですが、彼はかつて私の祖父とともに満州へ慰問に行っているんです。だから小山三さんからその時の話を直接聞いています。当時は歌舞伎俳優が来るということで待遇もすばらしく、街並みも素敵だったそうです。ただ日本人にとってはいい場所でも、中国の方の思いはまた違ったかもしれません。私は今回中国人を演じますから、そんなところを想像しながら役に挑みたい」勘九郎演じる張と篤い友情を築くこととなる日本人役の今井翼とは初共演となる。「制作発表記者会見でほぼ初めてお会いしたのですが、その数日後、初めて行ったレストランでまた翼さんに会ったんです。お互いあまりの偶然に笑いながら『頑張ろう』と言い合いました」と不思議な縁を語る勘九郎。「翼さんはフラメンコなど、いろんなところに目を向けてらっしゃるのが素敵ですよね。僕も歌舞伎だけでなくこうして現代劇に出演させていただいたり、面白いことにはどんどんチャレンジしたいと思っているのが似ているかな」とふたりの共通点に言及した。脚本を担当する鄭義信は、勘九郎にとって特別な思い入れのある相手。「僕が読売演劇大賞の杉村春子賞をいただいたとき、大賞が鄭さんの『焼肉ドラゴン』だったんです。それをきっかけに鄭さんの作品を観るようになりました。人間の深いところを描く方ですよね。今回ようやく彼の脚本で演じることができるのはうれしい限り」。また、演出の山田洋次は自身も満州からの引き揚げ経験をもつ。「山田監督の思いをしっかりと受け止めて、実際に戦時中や戦後の記憶がある方たちから、戦争を知らない若い方たちまで、心に響く作品をつくることができたら、と思います」。さまざまな人の気持ちを背負いながら難役に立ち向かう勘九郎の雄姿をぜひ目撃したい。公演は11月1日(金)から25日(月)まで東京・新橋演舞場にて。チケット発売中。取材・文/釣木文恵
2013年10月23日海外の演劇人とともに現代につながる普遍的なテーマを探り、新作を作り上げる新国立劇場のシリーズ企画「With-つながる演劇-」。ウェールズ(イギリス)編「効率学のススメ」に続く第2弾は、在日コリアンの劇作家・鄭義信が書き下ろし、韓国国立劇団の芸術監督で日韓ワールドカップ開会式の演出も務めたソン・ジンチェク演出の「アジア温泉」。俳優は、日本から勝村政信、成河、千葉哲也、梅沢昌代ら、韓国からはキム・ジンテら、日韓両国から11名ずつ出演する。5月10日の開幕に先駆け、8日夜に行われた公開舞台稽古の様子を取材した。舞台「アジア温泉」ソン・ジンチェクは、韓国の伝統芸能の手法を現代劇に生かした演出家として知られる。“マダンノリ(マダン=広場、ノリ=劇、遊び)”という祝祭的スタイルに則った本作にも俳優自身による楽器演奏、仮面を用いた舞踊、巫女的存在が司る神事的儀式などが盛り込まれ、賑々しくもどこか神聖な空気が漂う。またロビーにはチヂミ、射的、足湯・手湯などの雑多な屋台が立ち並び、お祭り気分を劇場全体で盛り上げる。舞台は、アジアのどこかにある島。温泉が湧き出したこの小さな島にリゾートホテルを建設しようと、カケル(勝村政信)とアユム(成河)の兄弟がやって来る。先祖代々伝わる土地をよそ者に売るまいとする島の古老・大地(キム・ジンテ)と彼らは対立するが、アユムと大地の娘・ひばり(イ・ボンリョン)が道ならぬ恋に落ち……。と、「ロミオとジュリエット」になぞらえることができそうな物語の中に、異なる認識や文化に生きる様々な事情を抱えた人々の悲喜こもごもが描かれる。金銭でクールに土地をやり取りしようとする人々に対する大地の「そもそも土地は売り買いするもんやない!」という台詞などから現実に横たわる問題を彷彿せずにはいられないが、作り手が意図するものは日本と韓国という二国に限定したものではないのだろう。それは「大地」「フユ」「かめ」「ひばり」といった何者にも限定されない登場人物の役名、またなにより「アジア温泉」という広大なイメージを持つタイトルからも見てとれる。とはいえ、日本と韓国の境界線に生きる作家・鄭義信の俯瞰的で公平な視点から、観客が現実問題にフィードバックして気づかされるものも多々あるはず。まずは互いを知ること――あまりに初歩的だが大きな一歩となる力強い道しるべが、絶望における一筋の光のようにまばゆく投げかけられる。公演は5月26日(日)まで、東京・新国立劇場にて。チケット発売中。取材・文:武田吏都
2013年05月13日11・12月に東京、大阪で上演された、草なぎ剛主演の日韓合作舞台『ぼくに炎の戦車を』の韓国公演が来年1月30日から、ソウル・国立劇場 ヘオルム劇場で開催される。韓国公演に向けて、草なぎからメッセージが寄せられた。草なぎ剛「舞台『ぼくに炎の戦車を』を、韓国でも上演できることを嬉しく思います。韓国映画をきっかけに韓国に興味を持ち、ハングルを一生懸命に勉強してきましたが、そのハングルを生かして韓国の舞台に立つことは大きな夢であり、目標でもありました。まさに僕にとっては新しい挑戦ですし、僕の人生の中でもとても大きな意味を持つ舞台になると思います。僕が演じる主人公・柳原直輝という存在は、純粋でまっすぐな人間です。その力は国境や立場、身分の違いといった、あらゆる壁を少しずつ崩していきます。そんな柳原直輝が登場する舞台『ぼくに炎の戦車を』は、人間の持つやさしさや、暖かさが込められた作品ですし、劇中同様にチャ・スンウォンさんとも強い友情を育むことができました。韓国のみなさんにも、一生懸命生きている人々の姿から、何か感じていただければと思います」作品は、2008年に『焼肉ドラゴン』で数々の演劇賞に輝いた鄭義信の新作。およそ100年前、日本統治下の朝鮮が舞台。朝鮮文化に高い関心を寄せる青年教師・柳原直輝と放浪芸人・淳雨(スンウ)の友情を軸に、ふたりを取り巻く人々の人間模様をダイナミックに描いて好評を博した。作品の故郷での“凱旋公演”に注目が集まる。公演は、韓国・ヘオルム劇場にて2013年1月30日(水)から2月3日(日)まで。チケットは発売中。インターネットでの販売はなく、電話、コンビニでの取り扱いのみ。
2012年12月14日2002年にラジオドラマ化、2007年にはフジテレビ系列でドラマ化され話題となった、畠中恵のベストセラー小説『しゃばけ』が、来年4月赤坂ACTシアターにて初の舞台化決定。虚弱体質で外出もままならないが明晰な頭脳で怪事件の謎を解く若だんなと、若だんなの手足となって探偵活動をする妖怪たち……。一見、おどろおどろしい世界を独特のユーモアで舞台上に再現するのは、『焼肉ドラゴン』で第8回朝日舞台芸術賞グランプリ、第16回読売演劇大賞 大賞・最優秀作品賞など数多くの演劇賞を総なめにし、話題作を生み続けている脚本・演出家の鄭義信。主演の一太郎には、テレビドラマ『浅見光彦シリーズ』の主演を務め、NHK『サラリーマンNEO』では三枚目役を演じるなど俳優活動のみならず、バラエティ番組の司会までこなし、近年では絵本作家としてもデビューするなど幅広い活躍をみせる沢村一樹。本作品で、2002年上演の『ゴーストニューヨークの幻』以来、約11年ぶりに舞台に立つ。舞台化にあたって、脚本・演出家、主演コンビから以下のようなコメントも寄せられている。鄭義信(脚本・演出)「一見、おどろおどろしい世界を持つ『しゃばけ』ですが、ミステリーのおもしろさ、江戸の粋な情緒、そして、ファンタジーとしての奇想天外さ……『しゃばけ』につまったモザイクのような要素は、映像よりも舞台でしか再現できないのではないかと思いました。妖怪たちが舞台を所狭しと駆け回り、歌い、踊る……いわば、妖怪版「歌う狸御殿」。沢村さんとの共同作業でどんな「若だんな」が生まれるか今から楽しみです」沢村一樹(主演)「約11年ぶり、2度目の舞台。僕に出来る事は、とにかく一所懸命に取り組む事。一人でも多くの方を「日常」から「しゃばけの世界」へ引き込めるよう頑張ります!赤坂アクトシアターというタイムマシンで、江戸の夜へと繰り出しましよう!」■アトリエ・ダンカン プロデュース『しゃばけ』原作:畠中恵(新潮社刊)脚本・演出:鄭義信出演:沢村一樹ほか東京公演2013年4月20日(土)~29日(月・祝)赤坂ACTシアター大阪公演2013年5月7日(火)~12日(日)新歌舞伎座他、地方公演あり
2012年11月09日草なぎ剛の主演舞台『ぼくに炎の戦車を』が11月3日、東京・赤坂ACTシアターにて開幕した。舞台『焼肉ドラゴン』で数々の演劇賞を受けた作・演出の鄭義信が書き下ろした日韓合作舞台で、かねてより韓国通として知られる草なぎと、韓国の人気俳優チャ・スンウォンの共演が注目の的。初日前日に行われた会見には草なぎ、チャ、広末涼子、香川照之の豪華キャストが登場し、日韓の俳優が力を合わせた大作への思いを語った。『ぼくに炎の戦車を』チケット情報「韓国の俳優と一緒に初めてちゃんと演技をして、毎日が刺激的」と言う草なぎについて、チャは「ビッグスターなのに謙虚でとても誠実な人。稽古のために1か月間一緒に過ごしてみて、なぜ草なぎさんが長い間多くの人々に愛されているのかがあらためてわかった」と絶賛。この発言を草なぎ自らが通訳し、「スゴイ!」と驚くチャとハイタッチする息の合った姿が会場を沸かせた。物語はおよそ100年前、日本統治時代の朝鮮を舞台に展開。草なぎは朝鮮文化に高い関心を寄せる青年教師・柳原直輝に扮し、チャ・スンウォン演じる放浪芸人・淳雨(スンウ)と友情を深めていく。直輝の妹・松代(広末)とその夫である清彦(香川)の心のすれ違いや、実在する放浪芸の集団・男寺党(ナムサダン)の芸人たちの厳しい生活など、時代に翻弄されながらも強く生きる人々の人間模様が涙と笑いで色濃く描かれている。「僕とチャ・スンウォンさんの気持ちが深く、熱くぶつかりあうシーンがたくさんあって、思った以上に良い舞台になっていると思います」と自信の笑顔をみせる草なぎ。劇中、ふたりが中秋の名月を眺めながら義兄弟の契りを交わすシーンは清々しく心に残る。韓国の伝統芸であるサムルノリや皿回しなど、男寺党の芸が披露される賑やかなシーンの数々もみどころだ。日本語と韓国語の台詞が飛び交うなか、草なぎ同様に多くの韓国語の台詞をこなす香川は「韓国の俳優は心も身体もパワーがあって引っ張ってもらっていると感じます。台詞の半分以上が韓国語なのは厳しい壁でしたね」と充実の表情で稽古を振り返った。その香川が「毎回、無条件に泣ける」と強く推すクライマックスが、チャが命綱なしに挑む綱渡りのシーンだ。1年かけてやっと身につくといわれる技を1か月の集中稽古で習得したチャは「毎晩、綱渡りの夢を見ていた」と苦笑い。本番では、緊張と興奮を役者と観客が共有する、まさに演劇でしか味わえない大きな感動が劇場を包み込んだ。「国籍がどうということではなく同じ時代に同じ土地で生きた人たちの愛情、友情、命の尊さを感じ取っていただけたら」と広末。すべての登場人物を生き生きと描き上げたところに、鄭義信の人間をみつめるあたたかな視線が感じとれる。「明日から頑張ろうという気持ちになれる舞台」(草なぎ)の言葉どおり、一歩踏み出す勇気を与えてくれる秀作だ。公演は12月1日(土)まで赤坂ACTシアターにて、12月8日(土)から11日(火)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演される。チケットは一部を除き発売中。取材・文:上野紀子
2012年11月05日11月3日(土)、東京・赤坂ACTシアターで草なぎ剛主演の舞台『ぼくに炎の戦車を』が開幕する。『焼肉ドラゴン』『パーマ屋スミレ』など日本と韓国の狭間で揺れる人々を描き続ける鄭義信(チョン・ウィシン)作品に、韓国語も堪能な草なぎが初めて挑むことでも注目されている。共演はチャ・スンウォン、広末涼子、香川照之ら日韓の実力派俳優が集結。本番が迫る10月某日に稽古場を訪ね、香川に話を訊いた。『ぼくに炎の戦車を』チケット情報『犬、走る DOG RACE』『OUT』『刑務所の中』と、映画の脚本家としての鄭と仕事をしてきた香川。約3年ぶりのストレートプレイへの出演を決意したのはやはり「鄭さんの脚本の力でしょうね」と語る。香川演じる清彦は韓国人と日本人の間に生まれた男。妻を亡くし、そのことで子どもに恨まれている。経営する店で日本人官僚を出迎える一方で、こっそり韓国の放浪芸の集団・男寺党へ資金提供を行う。この複雑な役に対する彼のアプローチは明快だ。「要はどれだけ苦しみを抱えているか。今回はとくに、鄭さん自身が在日韓国人として生きる中で分断されているものを想像できるか、それだけです。僕自身の人生の中で引き裂かれたものや苦しさと、この役とのチューニングを合わせれば済むことです」。一筋縄ではいきそうもない役について、こともなげに語る香川。そこには今年6月、46歳で初めて歌舞伎の舞台に立ったことも大きく影響しているのだという。「肚は据わりましたね。あんなにキツいことはないです。でもそれを通過して、なんとか生き延びた。そのことで演技に影響があるとすれば、たいていの役を飲みこめる立場にはなりました」。これまで積み上げてきた経験。そして歌舞伎というものと対峙し、乗り越えたこと。香川の演技を支えるのは、どうやら人生そのものらしい。「映画や演劇のような“ごっこ”を、“夢を与える”なんてきれいごとの上でやらせてもらっている。ならば真剣に、自分の味わってきたことを架空の人物に入れてみる。それが好きなんです。好きというか、それしかできない」と語る香川。ここまで全身全霊で役にぶつかる役者も、そのことをさらけ出す役者もそうそういるものではない。「とかくこの仕事はプライドが積み上がりやすいんです。でもある時、自分は100人いたら100番目、200人いたら200番目だと心底思えた。プライドを捨てたらどんな演技でも、いや、どんな生き方でもできると思う」。香川自身の生き方が注ぎ込まれた演技を見届けたい。公演は11月3日(土・祝)から12月1日(土)まで東京・赤坂ACTシアターにて、12月8日(土)から11日(火)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演される。チケットは一部を除き発売中。取材・文:釣木文恵
2012年11月01日2008年、日韓合同公演『焼肉ドラゴン』の作・演出を手がけ、その年の名だたる演劇賞を総なめにした鄭義信。新国立劇場の財産演目として昨年も再演された『焼肉ドラゴン』に続き、鄭義信が再び演出も兼ね、同劇場に新作を書き下ろす。新作のタイトルは『パーマ屋スミレ』。3月5日(月)の初日に向けて奮闘する稽古場を、2月某日、訪ねた。作品は1965年、九州の炭鉱町で暮らす在日コリアンの炭鉱労働者とその家族の物語。ある日、炭鉱事故に巻き込まれ、訴訟を抱え必死に戦いながらも、石油へのエネルギー転換でやがて彼らが置き去りにされる日本の陰の歴史を描く。有明海を望む“アリラン峠”の集落のはずれにある「高山厚生理容所」には、元美容師の高山須美(南果歩)と再婚した張本成勲(松重豊)とその家族が住んでいる。貧しいながらも、須美は明るく騒がしく姉・初美(根岸季衣)や妹・春美(星野園美)らと力を合わせて暮らしていたが、炭鉱の爆発事故で成勲や春美の夫・大杉昌平(森下能幸)が一酸化炭素中毒患者になってしまう。彼女たちは生活を守るため、そして生き抜くために壮絶な戦いを始めて……。この日の稽古は第6場、物語がシリアスな方向に大きく展開する場面だ。餅をつき、須美と初美がリズミカルに丸めて振る舞うというシーンから始まり、本物のつきたての餅もスタッフから用意された。南と根岸が丁々発止のセリフのやりとりをしながらも、口の中にちぎった餅をポンポンと入れていく胸がすくような食べっぷりにそこかしこで笑いが起きる。台本自体が面白いため、演出をつけずに通しただけでも楽しく観られるのだが、ここからが“世界では2番目、アジアでは1番しつこい演出家”を自称する鄭義信の本領発揮。前述のシーンだけでも、餅をつく速度、炭鉱労働者・木下役の朴勝哲が餅をつく長さ、南が話す説明ゼリフの視線の置きどころや、根岸らしいアドリブのセリフの効果的な入れどころ、人の突き飛ばし方や突き飛ばす長さ、足の悪い成勲役の松重への歩き方指導と、細かい指摘は枚挙にいとまがない。自然な芝居の流れと間、そしてリアルな描写に徹底的にこだわり、俳優の無意識の動作をすべて生活に結びついた動作に変え、セリフと動作をしっかりと意味づける。そうした小さな指摘をひとつひとつ直すごとに、“アリラン峠”に暮らす人々の生活がビックリするほどの鮮やかさでより具体的に立ち上ってくるから不思議だ。大変なのはキャスト陣。つきたての餅という消えモノや多くの小道具を操るだけでもてんてこまいなのに、そこに鄭義信の微に入り細を穿つ演出が加わり、さらに芝居が変わる。第6場ほぼ出ずっぱりの南と根岸は、多くなるきっかけに少々頭を混乱させながらも必死に演出に食らいつく。そんな南にスタッフが、もう一度本物の餅を用意したほうがいいかと尋ねると「食べられるものは全部食べます!」とニッコリ。キャストのガッツと、スタッフ、鄭義信への全幅の信頼感がうかがえる瞬間だった。同作品は新国立劇場 小劇場にて、3月5日(月)から25日(日)まで上演。チケットは発売中。
2012年02月23日