演劇集団キャラメルボックスの新作『無伴奏ソナタ』が、5月25日、東京グローブ座で開幕した。本作は、劇団初期の作品に取り組む「アーリータイムス」シリーズの1作目。1987年に発表された同劇団の舞台『北風のうしろの国』のもとにもなり、オースン・スコット・カードの同名SF小説が原作となっている。演劇集団キャラメルボックス『無伴奏ソナタ』チケット情報物語は、政府によりすべての人間の職業が幼少期に決まってしまう時代に生まれた、クリスチャン・ハロルドセンを軸に展開する。クリスチャンは2歳にして音楽の神童と認定され、“メイカー”として生きていくことに。両親からも引き離され、音楽に関するすべての情報が遮断された、森の中の一軒家で暮らすこととなったクリスチャン。そこで、ただひたすら大好きな音楽を作り、演奏をする日々を送っていた。そして30歳になったある日、運命を大きく変えるものが彼の手に渡ってしまう。それは外界の男が持ち込んだ、バッハの『無伴奏ソナタ』が入ったレコーダーだった……。原作はわずか30ページほどの短編というが、脚本・演出の成井豊(共同演出:有坂美紀)が舞台上に表現したのは、ある音楽の天才が辿った壮大な一生の物語だ。「音合わせ」「第一章」「第二章」「第三章」「喝采」という5部構成となっており、前半では“メイカー”としての輝かしい一面が描き出される。しかし後半は音楽を奪われ、決してクリスチャンにとって幸福な時間とは言えない。それでもこの作品に光が失われないのは、どんなに音楽を禁じられても、本当の意味で彼から音楽を奪うことは出来ないということ。そして周囲の人々は、一時でも彼の音楽から幸せを得ることが出来るからだ。クリスチャンを演じた多田直人は、本作で役者として大きなステップアップを果たしたと言える。これまではどこか飄々とした役柄が似合っていた多田だが、音楽に没頭する時の眼差し、そしてそこから溢れるさまざまな感情。激しくも繊細なその演技に、大きく心揺さぶられる。またクリスチャンを監視し続ける“ウォッチャー”を演じた、文学座の石橋徹郎の起用も絶妙。不気味な存在感の中に、どこか切なさをも醸し出し、それがラストで確かな実を結ぶ結果となった。天才と言われる人のことを、市井の人々が理解することはなかなか難しい。しかしそんな市井の人々の何気ない行動が、天才への拍手喝采となり得ることもある。クリスチャンの音楽とは、人生とは何だったのか?悲劇の中に光を見た、感動的なエンディングが忘れられない。東京公演は5月30日(水)まで東京グローブ座にて開催。その後、6月2日(土)から4日(月)まで兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて上演される。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2012年05月28日ザ・ブルーハーツの楽曲に乗せ、夢を見続けたいとあがく大人達の奮闘を追った音楽劇『リンダリンダ』。作・演出を務める鴻上尚史は、この作品でひとりのアーティストを演劇の世界へと引きずり込んだ。その人こそ、ロックバンドSOPHIAのボーカル・松岡充。その後松岡は、ブロードウェイミュージカルの翻訳公演で主役を張るなど、演劇界にとっても欠かせない人材のひとりへと成長した。そして8年ぶりの『リンダリンダ』再演へ向け、松岡に現在の思いを訊いた。KOKAMI@networkvol.11「リンダリンダ」 チケット情報「自分では“第四舞台”のメンバーだと思っています(笑)」。鴻上が約30年に渡って主宰を務めた第三舞台に引っかけ、松岡はそう語る。それほどまでに松岡が鴻上をリスペクトするのには、初舞台の時の演出家という以上の何かがありそうだ。「もうカルチャーショックでした、鴻上さんとの出逢いは。本当に天才だと思いますし、今回はその頭の中を読み切りたいなと。2回目の挑戦だからこそ、ちょっとでも鴻上さんの“神様の目線”に近づきたい。鴻上さんの前で、おこがましくて絶対に言えないですけどね(笑)」。松岡はこれまでに6本の舞台を経験している。それが松岡の糧になっていることは間違いないが、「(初演では)経験値がないのが逆に武器だったと思うんです」とも話す。「やっぱり初恋の良さって、何ものにも代えられないじゃないですか(笑)。でも再演ではそれがない分、いかに高みを目指すのか。そこをテーマとして考えなければと思います」。そのひとつの糸口となるかもしれないのが、初演でも演じたロックバンドのベースを担当するマサオ役。「初演の時はマサオではなく、SOPHIA松岡充でやってしまっていたんです。でもマサオはボーカルではないし、ステージのセンターに立つ人間でもない。今回はそこを強く意識していこうと思います」。初舞台から8年の年月は、松岡にエンタテインメントというものの考え方も変化させたようで、「創り手側のエゴをいかに排除し、観る側の立場にどれだけ立てるか。そういうステージの創り方は絶対に必要だと思います」と語る。この考え方は、演劇界における鴻上の精神とも通じるものがある。コアなファン向けであったアングラ演劇から、誰もが楽しめる演劇へ。鴻上の歩んで来た道は、確実に松岡へも続いている。「舞台を観に行くことって、空港みたいなものだと思うんです。搭乗口に向かって、劇場という飛行機に乗る。それから離陸して、ありがとうございましたって僕らが機体から送り出すまで。そこにあるすべてのドキドキ感を大事するような、そんな作品を創り上げたいなって思います」。公演は6月20日(水)から7月22日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター、7月28日(土)から30日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、8月2日(木)・3日(金)に福岡・ももちパレス大ホールにて開催。チケットは東京公演は発売中、大阪、福岡公演は5月26日(土)より一般発売開始。取材・文:野上瑠美子
2012年05月24日『TRICK』シリーズの脚本家として知られる蒔田光治が、原案用台本を手がけた舞台『飛び加藤~幻惑使いの不惑の忍者~』。伊賀の忍びながら、今は足を洗いひっそりと生きる加藤段蔵が、旅芸人の少女・楓と出会ったことから、彼の隠された過去が明らかになっていくという痛快活劇だ。上演に先がけ、5月16日、都内の稽古場にて会見が行われ、演出の河原雅彦と出演の筧利夫、佐津川愛美、細田よしひこ、三上市朗、涼風真世と、舞台で登場する“手妻”の第一人者・藤山新太郎が登壇した。『飛び加藤~幻惑使いの不惑の忍者~』チケット情報“飛び加藤”こと、実在した伝説の忍者・加藤段蔵を主人公に、『人魚姫』をモチーフにして描かれる本作。それだけでも十分ユニークな内容なのだが、この作品の大きな特徴として手妻の存在がある。手妻とは現代で言うマジックのことで、加藤段蔵は忍者という顔に加え、手妻師としての一面も持っていた人物なのだ。演出の河原は、「今回は手妻あり、殺陣あり、また人間ドラマもしっかりと書き込まれている脚本。作品としてはすごく明瞭ですが、これまでになかったような形のエンターテインメントになると思います」と作品にかける思いを語った。古来より伝わるその手妻の技を、現代へと継承しているのが、本物の手妻師である藤山。本作における手妻指導はもちろん、手妻師役として舞台にも立つ。藤山は「思った以上にセリフが多く、四苦八苦しております」と苦笑いを浮かべながらも、話題が手妻のこととなると一気にプロの顔へ。手妻のひとつとして、世界でも5本の指に入るほど古いマジックである、“植瓜術(しょっかじゅつ)”を本編中に登場させると言う。これは何もない砂の上に種を置き、布をかぶせると一瞬にして蔓が伸び、瓜ができてしまうという芸。藤山が「非常に珍しい手妻で、お客さまも生まれて初めて見る芸だと思います」と言うだけに、こちらも大きな見どころになることは間違いない。共演者たちが「非常にパワフル」と口をそろえる加藤役の筧は、会見の場でもその熱い役者魂を披露。ふたつのコップの間に閉じた扇子を挟み、その上に手ぬぐいを乗せコップごと持ち上げるという手妻“相生茶碗(あいおいぢゃわん)”を実演してみせた。「タネは意外とアナログですが、いかに演技と話術で見せていくかが重要」と筧が語るように、彼が「筧パワーです!」と雄たけびをあげると、見事コップは手ぬぐいに吸いつけられるように空中へ。その後披露された藤山の手妻とともに、舞台への期待感をグッと高める一幕となった。公演は6月10日(日)から26日(火)まで東京・シアタークリエで開催。その後、大阪、石川、福岡と各地を回る。チケットは発売中。なお、チケットぴあでは「手妻ショー」付チケットを5月18日(金)午前10:00より販売する。対象公演は6月24日(日)13:00開演のシアタークリエ公演のみ。ショーの所要時間は約30分を予定。取材・文:野上瑠美子
2012年05月17日劇団モダンスイマーズの蓬莱竜太が、オリジナル新作『ハンドダウンキッチン』を発表。演出家として、初めてパルコ劇場に進出する。5月12日の初日に先がけ、前日11日に、マスコミ向けの公開リハーサルを実施。出演者による会見も行われた。『ハンドダウンキッチン』チケット情報物語は北アルプスのふもとに位置する、小さなレストラン“山猫”を舞台に展開する。決して便利とは言えない立地ながら、カリスマシェフ・七島誠が作り出すほかでは味わえない料理目当てに、山猫には連日多くのファンが詰めかけていた。そこに東京の有名レストランを辞めた若きシェフ・関谷直也がやって来る。七島に新たな夢と、シェフとしての本当の生き方を見出して。しかし関谷が山猫で目にしたのは、人気店とはほど遠い現状だった……。仲村トオル演じる七島は、カリスマシェフと呼ばれながらも料理をしない。厨房でタバコを吸い、賭け事に興じる。ある意味、嫌悪感すら抱かせるような人物だ。だが不思議と、彼の言うことに耳を傾けずにはいられない。それは彼が発する「売れている店が正しい」「客は星(ランク)に群がる」という言葉を、完全に否定することができないからだろう。そしてこれは決して料理の世界だけに言えることではない。演劇にも、さらには世の中にあふれる事象すべてに共通して言えること。そんな思いを、作家は七島の姿を借りて痛烈に訴える。柄本佑演じる関谷は、山猫がギリギリで保ってきた均衡に一石を投じる存在だ。関谷の言うことは正論である。正論ではあるが、それを素直に受け止めることはなかなか難しい。登場人物たちが、そしてこの物語を見守った観客が、ここからどんな答えを導き出すのか。ラスト、作家は大きな課題を見ている我々に投げかけた。会見には、仲村、柄本のほか、七島誠の姉・梢役のYOUと、誠の店で働く山田役の中村倫也も登場。稽古の印象について仲村が、「皆さんプロ意識が高く、今までで最も順調で充実した稽古場でした」と語ると、「プロデュース公演ではチームワークを築くのが難しい。でも今回は本当に素敵な方々が集まり、蓬莱さんを中心に、いい緊張感と距離感のなかで作品を仕上げることができました」と中村が続ける。そんな中村の言葉に同世代の柄本は、「倫也さんはしっかりしてるなぁ」と感心しきり。するとYOUからは「佑はお子ちゃまだからね(笑)」とのツッコミが。現場は笑いに包まれ、こんなところにもチームワークのよさが垣間見えた瞬間だった。公演は6月3日(日)まで東京・PARCO劇場にて上演。その後、6月5日(火)に福岡市民会館大ホール、6月9日(土)・10日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホール、6月14日(木)に愛知県産業労働センター大ホールと各地を回る。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2012年05月14日ザ・ブルーハーツの楽曲を全編に散りばめた、鴻上尚史作・演出による音楽劇『リンダリンダ』。2004年に初演された本作が8年ぶりに再演される。5月8日、記者発表が都内にて行われ、鴻上ほか主要キャストの松岡充、伊礼彼方、星野真里、丸尾丸一郎、高橋由美子、大高洋夫が登壇。松岡と大高以外は、再演からの新キャストとなる。KOKAMI@networkvol.11「リンダリンダ」チケット情報物語は存亡の危機を迎えたロックバンドのメンバーと、それを取り巻く人々との、夢をかけたある無鉄砲な計画の行く末を描くもの。再演では新たに、昨年の東日本大震災から現在に至るまでの日本の状況を反映させる。鴻上は再演を決めた理由として、「世界的に名の知られたミュージカルはすべて再演され、ブラッシュアップを繰り返しながら成長していくもの。これは音楽劇ではありますが、同じように育てることで絶対いい作品になっていくと思います」と語った。バンドメンバーでベースを担当するマサオ役は、初演同様SOPHIAの松岡が演じる。松岡にとっては初舞台だった今作について、「この作品にかける思い入れは誰よりも強いと思っています。あれからの8年間で成長した部分を無駄にはしたくないですし、お客さまに納得していただくのはもちろん、自分のなかで納得できるものにしたいですね」と再演に向け力強い抱負を述べた。ザ・ブルーハーツへの思いを誰よりも興奮気味に話していたのは、かつて彼らのコピーバンドをしていたという伊礼。「こうやってまた違うかたちで、ザ・ブルーハーツに出合えたことに運命を感じています。もう楽しみで楽しみで夜も眠れないくらい!」と気合いは十分のよう。初の音楽劇への挑戦となる星野は、「一番好きなザ・ブルーハーツの楽曲は?」との質問に、劇中でも披露する『キスしてほしい』をチョイス。すると伊礼は「誰にキスしてほしいの?」とニヤニヤ。そこですかさず松岡が「そういうことじゃないでしょ?(笑)」と返し、会場が笑いに包まる場面も。松岡の「稽古が楽し過ぎる」という言葉を裏づけるような、カンパニーの仲の良さを垣間見た瞬間だった。また初演を振り返って鴻上は、「客席には松岡くんのファンから、演劇、ミュージカル、ブルーハーツのファンがいた。それらの人たちが混在した、カオスのような客席がすごくおもしろくて!今回もまたそうやって、いろいろなファンの人たちで客席が埋まると素敵だなと思います」と、幅広い客層に向けアピールした。公演は6月20日(水)から7月22日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター、7月28日(土)から30日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、8月2日(木)・3日(金)に福岡・ももちパレス大ホールにて開催。チケットは東京公演は発売中、大阪、福岡公演は5月26日(土)より一般発売開始。取材・文:野上瑠美子
2012年05月09日言葉や文化を越えたパフォーマンスを武器に、国内外で活躍するサイレントコメディー・デュオ、が~まるちょば。彼らが結成当時から目標のひとつとして掲げ、近年ではすっかり定着しつつある大規模な全国公演を、4年連続で今年も敢行する。そこで、が~まるちょばのケッチ!(=赤いモヒカン)とHIRO-PON(=黄色いモヒカン)のふたりを直撃し、意気込みを聞いた。が~まるちょば公演のチケット情報今回の全国公演、実はこれまでにない構成となっている。主に長編作品を上演する『が~まるちょばサイレントコメディー JAPAN TOUR 2012』と、テレビやストリートでもおなじみのモヒカン・スーツスタイルでのショー『That’sが~まるSHOW!』の2演目で全国を巡るのだ。その意図をケッチ!は、「これまで『~が~まるSHOW!』は公演の中の1パートだったんです。でもこれだけをもっと見たいというお客さんの声があると同時に、僕らももっとやりたいと思った。その両者の思いが合致して、こういった形になったんです」。気軽にが~まるちょばの世界を堪能でき、また観客参加型のネタが多いのも、広く『~が~まるSHOW!』が人気の理由だろう。そんな『~が~まるSHOW!』、やる側の魅力を尋ねると「アドリブがきくところ(笑)」とHIRO-PONが即答。「まさにガチンコ勝負ですし、お客さんにはライブならではの生き生きとした感覚をより楽しんでもらえると思いますよ」と続けた。一方『サイレントコメディー~』で上演されるのは、2001年に初披露された西部劇。パントマイムをやる上で重要なのは、「見る側が持っているイメージを借りること」だとHIRO-PONは言う。つまり認知度の高い“西部劇”は、サイレントにしやすい素材なのだ。「でも……」とはケッチ!。「かと言ってなにかひとつの映画などに集約してしまうと、逆にそれが足かせになってしまうことがあります。だから『それ西部劇でよくあるよね』っていう、みんなが知っているであろうエッセンスだけを取り入れて作ろうと心がけました」。さらにHIRO-PONはこう明かす。「ツアーでやった長編の中では、今までで一番古い作品。そういった意味で原点回帰と言いますか、が~まるちょばの初期衝動が垣間見える作品だと思います」。彼らが自分たちの作品について語る時、まず「ほかでは見られない」ということを挙げる。特に長編の場合、「言葉を使わず、はっきりとストーリーをわからせ、しかも笑えるものはほかにない」と。彼らのその揺るぎない自信と、パントマイムの可能性を模索し続ける情熱は、今年もまた全国の観客を笑顔へと変えていくことだろう。『が~まるちょばサイレントコメディー JAPAN TOUR 2012』は8月31日(金)のKAAT神奈川芸術劇場を皮切りに、宮城、広島、高知、大阪、福岡、新潟、札幌、名古屋、静岡、東京と各地を回る。また、『That’sが~まるSHOW!』は9月1日(土)にKAAT神奈川芸術劇場、その後石川、静岡、東京ほかにて上演される。取材・文:野上瑠美子
2012年04月26日演出家の鴻上尚史率いる「虚構の劇団」が、次なる演出家との出会いを求めた企画「虚構の旅団(りょだん)」をスタートさせる。その第1弾として鴻上は、全幅の信頼を寄せる木野花を指名。そこで、鴻上と木野に現在の思いを訊いた。虚構の劇団番外公演虚構の旅団vol.1「夜の森」チケット情報企画のきっかけとして鴻上は、「僕はいい意味でも悪い意味でも、役者を愛し過ぎてしまうところがある。だからちょっと、僕以外の目で見てもらう必要があると思ったんです」と明かす。そんな時、鴻上の頭にパッと浮かんだと言うのが木野。木野は外部の目から見た虚構の劇団について、「虚構(の劇団)は鴻上さんの劇団だから、良しにつけ悪しきにつけ、仕上がっちゃうという不幸がある。自分たちで手探りするところに、役者の成長ってあるのに」とズバリ。その言葉に鴻上が深くうなずく中、木野はこう続ける。「それがもったいないと思うところでもあり、私が若い連中とやるのが好きということもあり、引き受けさせてもらうことになりました」。役者を愛するという点では、木野も鴻上と同じ。しかし決定的に違うのは、木野が「ライオンが子供を崖に落とすように」演出するのに対し、鴻上は「崖の下に一応マットを置いておく」ということ。だからこそ鴻上は「木野さんの演出で這い上がってこられたら、役者として絶対に一皮剥けるはず」と大きな期待を寄せる。上演する『夜の森』は、かつて木野が若い役者の育成を目的に立ち上げた「木野花ドラマスタジオ」の卒業公演用に書き下ろしたもの。元はスタジオの生徒に当て書きされた作品だが、今回木野は「エチュードをやりつつ、虚構の役者に合わせて変えていこうと思っています。そして私としても一度やっているものなので、これをいかに壊せるかが課題。しかも無意味に壊すのではなく、虚構でやるからこそこうなったという必然的な舞台が見つかったらいいですね」と、本作への意欲を覗かせた。さらに木野は、「若い役者への演出は、未熟である分、より頭を使わされる」と言う。そこが木野にとって大きな魅力であり、同じベテラン演出家である鴻上としても、共通する思いなのだろう。ちなみに本作、鴻上は完全にノータッチ。だが誰よりもこの作品を楽しみにしているのは鴻上自身のようで、「4年間鴻上がつき合ってきた虚構のメンバーたちが、木野花ワールドでどのような花を咲かせるのか、非常に楽しみ」と目を輝かせる。鴻上&木野のWテイストで味わう、一度で二度おいしい舞台。今からその開幕が楽しみでならない。公演は4月5日(木)から15(日)まで東京・新宿シアターモリエールにて開催。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2012年03月08日昨年、『ザ・シェイプ・オブ・シングス~モノノカタチ~』が向井理主演により舞台化されるなど、日本でも注目を集めている気鋭のアメリカ人脚本家、ニール・ラビュート。そんな彼が書いたちょっとブラックなラブコメディ、『カワイクなくちゃいけないリユウ』の上演が決定。初共演を果たす、村井良大と植原卓也に話を聞いた。「カワイクなくちゃいけないリユウ」 チケット情報登場するのはグレッグとステッフ、ケントとカーリーの2組のカップルのみ。ある日、些細なことをきっかけに、ステッフはグレッグへの怒りを爆発させ……というのが話の始まりだ。「たったひと言が原因で、ここまで怒りが膨れ上がるカップルっていうのもおかしいですよね(笑)。でも男女のすれ違いって、実際こういう小さなことから始まるんだろうなと。ちょっと哲学的な感じもしますね」(村井)、「僕は改めて、女性って強いな、怖いなって思いました(笑)。でも見た目とかをすごく気にする、そういった点はかわいらしいですよね」(植原)。村井演じるグレッグと、植原演じるケントは、職場の同僚にして親友という役柄。だがふたりの性格は大きく異なる。「グレッグってこの中で一番主張しない人というか、周りに影響をされて、結果少しずつ崩れていくような人。だから稽古場や本番でも、周りのキャストの方にいい意味で助けられながら、感じながら、演じていけたらいいのかなって思いますね」(村井)、「ケントはすごく自由ですし、自分勝手ですし、結構ひどい奴だなって(笑)。ただこういうチャラさをストレートに表現する役を今までやったことがなかったので、そこはすごく楽しみですし、勢いよくやれたらなって思います」(植原)。客席数約400の小さな劇場で、たった4人の役者が繰り広げる、激しい会話劇。しかもステージを取り囲むように客席が配置されるので、観客はより濃密な劇空間を楽しむことができるはずだ。「僕らとお客さんの距離が近いので、すごくリアルですし、会話劇ならではの熱も伝わりやすいんじゃないかなと。笑える部分もたくさんあるので、ぜひ多くの方に楽しんでいただけたらなと思いますね」(村井)、「やっぱり言葉で勝負していくしかないと思うので、絶対に気合いは入りますよね。まわりが全て客席なので、寝ぐせにも気をつけないとなって(笑)。作品としてはすごくエッジの効いたものになると思いますし、僕らと同年代の方はもちろん、幅広い世代の方に楽しんでいただけたらなと思います」(植原)。公演は6月2日(土)から10日(日)まで東京・新国立劇場小劇場、6月23日(土)・24日(日)まで兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて開催される。東京公演のチケットは3月17日(土)より、兵庫公演は5月13日(日)より一般発売する。なお、東京公演はチケットぴあにて先行抽選の予約を3月13日(火)午前11時まで受付中。取材・文:野上瑠美子
2012年03月02日本年1月5日より、NY、ロンドン、香港を巡る『THE BEE』ワールドツアーを行ってきた野田秀樹がついに帰国。2月24日(金)から東京・水天宮ピットにて行われる〈English Version〉〈Japanese Version〉の連続上演を前に、2月22日、都内にて両バージョンのキャスト6名と共に記者発表会を開いた。『THE BEE』公演情報『THE BEE』とは、同時多発テロに衝撃を受けた野田が、筒井康隆の短編小説『毟(むし)りあい』を題材に創作した舞台(共同脚本:コリン・ティーバン)。妻子を誘拐されたサラリーマンが、自らも犯人の妻子を人質にとり、犯人との心理戦を繰り広げるという衝撃作だ。2006年にロンドンで初演され、翌年にはロンドンバージョンと日本バージョンを東京で上演。“報復の連鎖”という本作のテーマと、現実の世界情勢とがリンクし、大きなセンセーションを巻き起こした。この度のワールドツアーを実現させたのは、「9.11事件から10年後のニューヨークで『THE BEE』を上演したい」という野田の強い思い。現地では高い評価を受け、野田は「この芝居が持っている、世界共通で抱えている問題に対し、興味を持ってもらえたことは大きな手ごたえ」とワールドツアーを振り返った。そして凱旋公演となる〈English~〉でサラリーマン・井戸役を演じるのは、英国の実力派女優キャサリン・ハンター。すでに野田作品には欠かせない存在であり、野田との舞台づくりを「私のキャリアにおけるハイライト」とまで言い切る。そして〈Japanese~〉で井戸に監禁される犯人の妻役を演じるのは、宮沢りえ。「野田さんを信じているので、何も不安はありません。この作品から自分の想像を超えるような自分に出会いたい」と、本作にかける熱い思いを語った。ほかに〈English~〉にはグリン・プリチャードとマルチェロ・マーニが、〈Japanese~〉には池田成志とコンドルズの近藤良平が参加。野田は、両バージョンに異なる役柄で出演する。また〈Japanese~〉はNODA・MAP番外公演として、国内ツアーも実施。東京のあと、大阪、北九州、松本、静岡の計5か所を巡る。NODA・MAPとしては初の試みであり、「自分が見失っていることというのは、必ず(地方など)そういったところで発見できるもの。だから今回のような企画をやれることは非常に幸せ」と、野田自身20年ぶりとなるツアーに大きな期待を寄せていた。取材・野上瑠美子ジャパンツアーのチケットは2月25日(土)10:00より一般発売する。なお、チケットぴあでは東京公演と大阪公演の先行抽選の申し込みを2月23日(木)11:00まで受付。
2012年02月22日2007年の初演時に大好評を博した、演劇集団キャラメルボックスの人気作『トリツカレ男』(原作:いしいしんじ『トリツカレ男』<新潮文庫刊>)が、2月16日、東京・赤坂ACTシアターにて再演の幕を開けた。演劇集団キャラメルボックス『トリツカレ男』チケット情報イタリアの片田舎で、レストランのウエイターとして働くジュゼッペ。彼は何かひとつのものにハマると、その何かにとことん“トリツカレ”てしまうことから、周囲からは「トリツカレ男」と呼ばれていた。これまでに彼を魅了してきたのは、オペラに探偵、昆虫採集に外国語と、ジャンルはさまざま。三段跳びに至っては、なんと世界記録をも打ち出してしまったほどだ。そんな彼の前に、ひとりの少女・ペチカが現れる。母親の病気療養のためロシアからやって来たペチカに、一瞬にして心奪われてしまったジュゼッペ。“恋”にトリツカレたジュゼッペは、相棒であるネズミのトトと共に、ペチカを幸せにすべく奔走するのだが……。楽しくて、切なくて、そして心あたたまる、これぞ演劇集団キャラメルボックスといった作品。劇中、キャラメルボックスが得意とするダンスシーンに、陽気なイタリアを象徴するようなパフォーマンスなどが織り込まれ、観ているだけでワクワクするような、エンタテインメント性が高い作品に仕上がっている。主人公のジュゼッペを演じたのは、初演に引き続き劇団員の畑中智行。真っすぐに突き進む愛すべき青年役を、高い身体能力と豊かな感情表現により好演した。ヒロインのペチカ役には、キャラメル初参加となる星野真里。見た目のかわいらしさはもちろん、ペチカの複雑な心情を要所、要所ににじませ、観客の心をグッとつかむ愛らしいヒロイン像を作り上げた。ネズミのトト役には、こちらもキャラメル初参加となる金子貴俊。元々金子が備えているキュートなキャラクター性が、トトという役柄と見事にマッチ、その存在をしっかりとアピールして見せた。また観客の大きな笑いを誘っていたのは、インコのニーナ役の渡邊安理とギャングのボス・ロミオ役の阿部丈二。セリフの間やトーン、予測不可能な動きに加え、衣裳の派手さも目を引く。そんなふたりの演技は時に過剰とも思えるのだが、本作には不思議とピタリとハマり、逆に大きな魅力へと繋がっていた。脚本・演出の成井豊が、本作のテーマとして掲げるのは「人を好きになるということ」。その願いは、観客の心に確実に届いているはずだ。公演は同所にて2月29日(水)まで開催。その後、名古屋、大阪を回る。チケットは発売中。文:野上瑠美子
2012年02月17日東京・六本木 ブルーマンシアターにて、ロングラン上演中の『BLUE MAN GROUP IN TOKYO』。3月31日の千秋楽が近づき、さらなる盛り上がりを見せている中、2月14日のバレンタインデーに特別ゲストの国生さゆりが来場した。『BLUE MAN GROUP IN TOKYO』チケット情報小雨のぱらつく寒いバレンタインデーとなった、この日の東京。だが観客の中にはカップルの姿も多く見られ、会場は開演前から熱気を帯び始める。そしてブルーマンの3人が登場、ペンキをかけたドラムを打ち鳴らすおなじみの「ペインド・ドラミング」が始まると、観客は一気にブルーマンワールドへ。幻想的でダイナミック、さらには笑いをも加味した独特の空間が広がっていく。続いて披露されたのは、人気パフォーマンスの一つである「マシュマロキャッチ」。投げたマシュマロを次々と口でキャッチするというもので、数が増えるごとに観客からは大きな拍手が巻き起こる。またショーの中盤には、ブルーマンの3人が客席へ。観客に興味津々のブルーマンだが、中でも彼らの目に留まったのは、特別ゲストである国生。彼女とマシュマロキャッチを始めるのかと思いきや、用意していたのはなんとチョコレート。バレンタイン限定の「チョコレートキャッチ」が成功し、国生からは満面の笑みがこぼれていた。また『BLUE MAN~』の大きな楽しみのひとつが、観客参加型であるということ。「フィースト:食事」では観客の一人が舞台上に上がり、ブルーマンとともに息の合ったパフォーマンスを繰り広げる。合間には国生の大ヒット曲である『バレンタイン・キッス』が流され、こちらもバレンタイン限定の特別バージョンとなった。そして終演後に行われた囲み取材では、この日の朝に入籍届を出したばかりの国生に、ブルーマンから青いバラの花束のプレゼントが。嬉しいサプライズに、国生の感激もひとしおといったようす。さらにショーの感想を聞かれると、「アトラクション的というか、お客さま参加型ですごく楽しいですね。だって何の打ち合わせもしていないのに、お客さまが自然とおもしろいことをしてしまう。ブルーマンさんはしゃべりもしないですし、目線ひとつでそれを促すというのは、やっぱりエンタテインメント性がすごく高いんだと思います」と興奮気味に語った。さらに「結婚した日にふたりで観させていただいた舞台なので、とてもいい記念になりました!」とコメント。入籍という思い出深い日が、ブルーマンとの共演により、さらに忘れ得ぬ1日となったようだ。取材・文:野上瑠美子『BLUE MAN GROUP IN TOKYO』のチケットはぴあにて3月30日(金)まで発売中。
2012年02月15日作・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と、女優・広岡由里子との演劇ユニット「オリガト・プラスティコ」。その第5弾となる『龍を撫でた男』が、2月3日(金)、東京・本多劇場にて初日の幕を開ける。初日前日の2日、通し稽古が行われた。『龍を撫でた男』チケット情報精神病医の佐田家則は、妻の和子とその弟・秀夫、義母との4人暮らし。かつて事故でふたりの子供を亡くしており、そのショックから義母は精神に異常をきたしてしまっている。正月、そんな佐田家を訪れた、家則夫婦の知人で劇作家の綱夫と舞台女優の蘭子兄妹。綱夫は和子に、秀夫は蘭子に気があり、また蘭子と家則はちょっとワケありの様子だ。5人の思惑が交錯する中、「異常心理学会創立準備委員」と名乗る男たちまでもが現れて……。作・福田恆存、演出・KERAという、なんとも意外かつ、ワクワクする組み合わせが実現した。福田は評論家としても著名なだけに、硬い文章を想起する人も多いかもしれない。だが『龍を撫でた男』というタイトルからも分かるように、その文体はどこかユーモラス。さらに人間という愚かな生き物に対する優しい眼差しが、セリフの端々から感じることができる。恐らくKERAが本作に惹かれたのも、そんな点にあったのではないだろうか。そしてKERAは、その福田の世界観を過度に現出させることなく、それでいて行間には彼らしい過剰さもしっかり忍ばせる。もちろんそれを体現できる、KERA作品おなじみの役者陣が担ったものの大きさは言うまでもない。夫として、そして精神病医として妻を見守り、そして苦悩を募らせていく家則を演じるのは、山崎一。彼の中に積み重ねられていった、佐田家の負の要素。それゆえの微妙な変化を見せられるのは、やはり山崎の高い演技力あってこそだろう。和子役の広岡由里子、綱夫役の大鷹明良、蘭子役の緒川たまきは、感情の起伏、間合い、話し方など、正気と狂気の境界線上にいる人間ならではの見せ方が絶妙。狂気をさまよう人間の、切なさまでもが伝わってくるようだ。また秀夫演じる赤堀雅秋は、いい意味での気持ち悪さを醸し出し、その存在を強く印象づけた。本作の登場人物たちは、山崎演じる家則以外、何かしら皆精神を病んでいる。ゴーリキーの『どん底』の歌詞のように、暗い牢屋の中で、鉄の鎖に捕らえられてしまっているのだ。だが果たして牢屋にいるのは自分なのか、相手なのか。そして人生で真に望むべきものは、新しい冒険なのか、日々の繰り返しなのか。狂気と正気の差はまさに紙一重。辛辣なラストに、その答えを見た気がした。公演は同劇場にて2月12日(日)まで。チケットは発売中。文・野上瑠美子
2012年02月03日脚本家、演出家、放送作家、俳優など、ともに様々な肩書きを持つ福田雄一とマギー(本名・児島雄一)。このふたりの雄一(=U-1)が共同で脚本・演出を担うユニット『U-1グランプリ』の2年ぶりとなる公演が決定した。U-1グランプリ case04『宇宙船(スペースシップ)』公演情報「僕らの関係性において、“イヤだと思うことが一緒”ってことがすごく大きいんですよね。だからこそふたりでやるのはすごく楽しい」と福田が言えば、「この信頼関係は、回を増すごとに厚くなっていますからね。お互いの使いこなし方を、お互いが非常によく理解している(笑)。だからやってて全然飽きない」とマギー。そんな彼らがこだわり続けているのが、“コント”という形態だ。「やっぱり僕ら、コントが一番好きなんですよね。おもしろいことって思いついても、それを成立させるのは意外と難しい。でもコントだと、わりと軽いタッチでできてしまうというか」(福田)。「一番おもしろいと思ったことをダイレクトに、最短距離で伝えられるのがコントだと思うんです。産地直送、みたいなね」(マギー)。2007年『取調室』、2008年『厨房』、2010年『職員室』(2010年) に続く新作は、『宇宙船(スペースシップ)』と題して、ワンシチュエーション・コント集を展開する。「今って時代的に、“オモシロ気”なものにみんなが食いつきやすいと思うんです。で、宇宙船って、なんかオモシロ気じゃないですか?ただ設定をリアルにすると発想は飛ぶんですけど、逆に設定をファンタジーにすると発想は小さくなる。だから宇宙船の中で、ものすごく細々とした話になるんじゃないかなと思う(笑)」(福田)。「宇宙船内の壁紙の色はどうする? とかね(笑)」(マギー)。また『U-1グランプリ』には、ジョビジョバ(=マギーがリーダーを務めたユニット。現在は活動休止中)のメンバーが出演するという楽しみも。今回は坂田聡が参加、マギーとの久々の共演に期待が高まる。しかしそれ以上に売り文句となりそうなのが……。「福田さんが出るってことですね。変な味わいがあって、これがおもしろい」(マギー)。「ただ全然セリフが言えないんですよ。だから行き当たりばったりで(笑)」(福田)。「上手なんですよ、うまい具合に間を外したりしますから。だからいい共演者ではあるんですけど、誰にとってもいい共演者ではない(笑)。つまり福田雄一のコントローラーを天からもらったのは僕だけっていう、変な自負はありますね(笑)」(マギー)。そんな福田が、今回は"演技派"として挑むと言う。いろいろな点で見逃せない舞台となりそうだ。U-1グランプリ case04『宇宙船(スペースシップ)』は、4月25日(水)から5月6日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERにて上演。チケットは2月25日(土)に一般発売開始。取材・文:野上瑠美子
2012年01月24日いのうえひでのり演出、古田新太主演で今再び甦る、伝説的ミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』。その熱狂的なファンでもある彼らが、いかに作品と対峙しているのか。11月某日、都内にある稽古場を訪れた。「ロッキー・ホラー・ショー」チケット情報「デタラメはデタラメなんですけど、やっぱり楽曲が素晴らしいなっていうのは改めて思いましたね。後半のバラードとか、コーラスが恐ろしくきれい。感動する要素は何もないんですけど(笑)、音楽の力のみで無理矢理感動させる。でも『ロッキー~』と言えばやっぱり、前半の『タイム・ワープ』と『スイート・トランスヴェスタイト』。盛り上がり的にはここが一番」そう古田が語る『タイム・ワープ』の導入部分から、この日の稽古はスタートした。笹本玲奈演じるジャネットと、中村倫也演じるブラッドが、古田演じるフランク・フルターの城へと足を踏み入れてしまうシーンである。商業ミュージカル界のヒロインと、ストレートプレイ界のホープ。この2人がアングラ臭漂う本作にどう挑むのか、正直不安もあった。しかし逆に若く、すれていない2人の存在が、この作品世界ではいい意味で異彩を放つ。そしていのうえの演出は徹底して細やか。「ここ2歩で振り返って」といった動きの指示から、「倫也は素直過ぎる。もっとカッコつけてるぜ!ってトーンで」などの感情表現まで、ひとつひとつの画を吟味するかのように芝居を形作っていく。そして「タイム・ワープ」は本作一番のダンスナンバー。リフラフ役の岡本健一やファントム役のアンサンブルキャストが入り混じり、まさにこれこそ『ロッキー~』と言うべき世界観を見せつける。チャーミングなナレーター役の藤木孝に思わずニヤリとさせられ、さらにファントムの中にはROLLYの姿も!古田いわく、「今回ROLLYは陰コーラスで頑張ってくれています。プロのミュージシャンなのに……(笑)。またそこかしこにファントムとしても出て来ますので、それもお楽しみに」「タイム・ワープ」から、ついにフルターの登場ナンバー「スイート・トランスヴェスタイト」へ。10センチ近いヒールを履き、パワフルに歌い上げる古田の存在感は、圧巻の一言。怖いもの見たさに近い魅力のような……。本人にその原点を訊くと。「やっぱりティム・カリー(ピクチャー・ショー版の主演俳優)ですよね。すごくブサイクだし、気持ち悪いし(笑)、でもチャーミングっていう。その感じをうまく出せたらなと思います」大の大人たちが、真剣に、そして壮大に作り上げる『ロッキー・ホラー・ショー』。観客も祭り気分で、大いに盛り上がりたい。公演は12月9日(金)のKAAT神奈川芸術劇場ホールを皮切りに、福岡・大阪を回り、2月に東京にて上演。チケットは一部を除き発売中。なお、神奈川公演では限定日のみ終演後にトークショーを行う。また『ロッキー・ホラー・ショー』日本語版の初CD化が決定し、劇場にて先行発売する。取材・文:野上瑠美子
2011年11月28日11月11日(金)開幕の舞台『ヴィラ・グランデ 青山~返り討ちの日曜日~』で、山田優が初舞台を踏む。稽古に励む本人を直撃し、現在の心境を訊いた。「ヴィラ・グランデ 青山~返り討ちの日曜日~」公演情報幼少期からダンスや歌のレッスンを重ね、ファッション誌の表紙を華やかに飾り、近年では女優として幅広い役柄をこなす。そんな彼女がこれまで舞台に立ったことがないというのは、不思議なくらいだ。「やりたいとはずっと思っていたんです。舞台を観るのは大好きなので。登場人物の感情を同じ空間で一緒に感じられるというのが魅力ですよね。ただ、好きだからこそ、なかなか決心できずにいました。それでも今回のお話に関しては、絶対にやった方がいい!って。そこに迷いはなかったですね」。彼女を初舞台へと導いたのは、『のだめカンタービレ』で共演した竹中直人。山田の出演には彼の強いプッシュがあったとのことだが、その理由のひとつは、「映画版の舞台挨拶のとき、私がすごくテンパっていたのが面白かったらしくて(笑)」。とはいえ、舞台を深く愛する竹中のこと。彼女に才能を感じなければ声をかけることはなかっただろう。そしてもうひとつ、山田の背中を押したものに、本作で作・演出を担う倉持裕の存在がある。「私自身ずっとやらせていただきたいと思っていた演出家さんでしたし、周りの人からも『初舞台は倉持さんの作品がいい』と言われていました。今回の台本もすばらしいのですが、この面白さをどうやればお客さんに伝わるのか、演じる難しさも感じているところです」。物語の舞台は、バブル末期に建てられたマンション“ヴィラ・グランデ 青山”。民谷(竹中)が、20年来の友人でありながら3年前に仲違いしてしまった陣野(生瀬勝久)を呼び出したところから始まる。山田が演じるのは、このマンションの住人・津弓の役。「津弓は、気を遣ったり、人に優しくすることで自分の生きがいを感じたりする女性。私も人に何かしてあげたいって気持ちは強い方なので、津弓と似てる部分があるな、と。竹中さん、生瀬さんとの3人のシーンが多いんですが、とにかくおふたりが面白いので、私はあえてニュートラルでいたほうがいいような気がしていて(笑)。今はなんとなくフワーッと、相手役の方と向かい合ったとき、すぐ自分も変えられるようなスタンスでいたいなと思います」。女優の仕事は好きですか?と聞くと、「好きです!」と即答。「すごく難しくて、まだまだ自信はないですけど、勉強になりますし、何より面白いので続けていきたいなと思っています。舞台も年に1回とか、コンスタントに続けていけたら……。今回の出来次第ですけどね(笑)」。笑みを浮かべながらも、瞳の奥には強い意志が宿る。新たなる舞台女優の記念すべき第一歩に注目したい。11月27日(日)まで東京・シアタークリエで上演された後、大阪、静岡、長野、金沢、広島、福岡、長崎、名古屋の各地に巡演する。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2011年10月25日台本・坂手洋二、演出・流山児祥により2009年に上演された、ブロードウェイミュージカル『ユーリンタウン』。座・高円寺1のこけら落としとして上演され、紀伊國屋演劇賞団体賞に輝くなど、その年の演劇界で一際大きな注目を集めることとなった。そんな『ユーリンタウン』の再演が早くも決定。キャストも新たに、10月14日、同じく座・高円寺1にて初日の幕を開けた。『ユーリンタウン』チケット情報世界的な水不足のため、節水を余儀なくされた近未来のある街。用を足すためには公衆トイレを使用せねばならず、しかも有料であるため、貧民街で暮らす人々にとってはたまったものではない。“立ちション”をしたならば、警官のロックストック(別所哲也)らによって即逮捕。恐怖の「ユーリンタウン」へと連行されてしまう。そんな中、すべてのトイレを管理しているUGC社の社長クラッドウェル(塩野谷正幸)が、トイレ使用料の値上げを断行。それに反発したトイレ管理人助手のボビー(今村洋一)は、貧民街の人々とともに革命ののろしを上げる。きらびやかで美しい、誰もが幸せに満ちた世界。そんなミュージカルを『ユーリンタウン』に期待して行くと、観客は大きく裏切られることになる。まずタイトルは直訳で「小便の街」。開始早々にハッピーエンドではないことが告げられ、ミュージカルなのに歌えなかったと登場人物が愚痴り出す。何ともミュージカルらしからぬミュージカルなのだが、その猥雑で、底知れぬ熱量を秘めた群衆たちがハーモニーを奏でた瞬間、全身に鳥肌が立ち、観客は一気にこの世界に引き込まれてしまうのである。ロックストック役の別所は、これまでにない魅力的な“悪”を好演。狂言回しとして観客へのアピールもたっぷりと、劇場を大いに盛り上げた。警官バレル役の清水宏は、飄々とした演技で作品にリズム感を与える。前作から引き続きの参加となる塩野谷は、さすがの存在感。コミカルさに狂気を同居させ、資本側のいやらしさと苦悩を体現した。また舞台下手に配された生バンドの効果は絶大。三谷幸喜作品の常連でもある萩野清子が音楽監督を務め、4ピースとは思えないほどのエネルギッシュな演奏で魅せた。前出の通り、本作にハッピーエンドは用意されていない。群衆たちは高い理想を掲げ、革命を成功させるが、現実はそううまくいかないのだ。しかしその失敗から学ぶか、学ばないか。どちらを選択すべきなのか、観る者に痛烈に訴えるラストが印象的だった。公演は同劇場にて10月30日(日)まで上演。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2011年10月17日演劇集団キャラメルボックスの新作にして、人気シリーズ「成井豊の世界名作劇場」の第3弾が、10月13日、東京・あうるすぽっとにて初日の幕を開けた。これまでに成井は、本シリーズでシェイクスピアに材をとった『僕の大好きなペリクリーズ』、エドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』と、世界的な名戯曲に挑んできている。そんな彼が今回チョイスしたのは、なんとドイツ人作家エーリッヒ・ケストナーによる児童文学『飛ぶ教室』。「なぜ児童文学?」と思われる人も多いかもしれないが、成井にとっては前2作同様、非常に思い入れの強い作品。そんな彼の情熱は、舞台上の役者たちの身体を通し、観客に忘れ得ぬ感動を残してくれた。キャラメルボックス『飛ぶ教室』チケット情報舞台はドイツにある、ヨハン・ジギスムント高等中学校。マルチン(多田直人)を中心とする仲良し5人組は、仲間のジョーニー(井上麻美子)が書いた『飛ぶ教室』という芝居をクリスマスに上演しようとしている。その練習に励む5人だったが、ある日クラス全員分の書き取り帳が、実業学校の生徒たちに奪われる事件が起こり……。まさにキャラメルボックスと言うべき作品である。仲間との友情、恩師に対する尊敬、親子で育まれる愛情。そんな人間にとってとても基本的な、と同時にとても大切な感情を、優しく、そして素直に描き出している。キャラメルボックスが芝居を作る上で、常に掲げてきたであろうキーワードが、“永遠の青春”。本作はまさに青春そのものであり、キャラメルボックスとこれ以上ないほどの相性のよさを見せている。今回は学園ものということもあり、キャラメルボックスの中でも若手を中心にキャスティング。マルチン役の多田は、近年主役としての安定感がぐんと増し、本作でも物語に一本芯を通すような心強さをもたらしている。またストーリーテラーでもあるケストナー役の左東広之や、ジョーニー役の井上が、元気で明るい作品の世界観を体現。またマチアス役の筒井俊作は、愛嬌たっぷりにコミカルなキャラクターを演じ、客席の笑いを誘う。そして大きな愛で生徒たちを包み込むベク先生を演じたのが、青年座の大家仁志。役柄そのままの存在感を発揮し、作品に味わいという奥行きを与えていた。公演は同劇場にて10月23日(日)まで上演。その後、東京・かめありリリオホールにて10月29日(土)・10月30日(日)、福岡・北九州芸術劇場中劇場にて11月5日(土)・11月6日(日)にて公演が行われる。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2011年10月14日大ヒットドラマ『大奥』が再び舞台化されることとなり、10月2日、東京・明治座にて初日の幕を開けた。タイトルに『大奥 第一章』とあるように、大奥の誕生にいたる物語を描いた本作。ドラマ版と同じく春日局役を松下由樹が、江与(または“江”)を木村多江が演じる。『大奥第一章』チケット情報ある事件をきっかけに夫から離縁され、我が子とも引き離されてしまったふく(=のちの春日局)。しかし二代将軍の徳川秀忠(原田龍二)とその正室・江与との子・竹千代(=のちの家光)の乳母に登用されたのをきっかけに、竹千代を守ることこそがふくの生きがいとなっていく。だが江与は我が子を奪われたとして、ふくを目の敵に。その確執は、次男・国松(のちの忠長)の誕生で決定的となり……。まず幕開けで目を引くのは、まるで金雲たなびく屏風絵のような、絢爛豪華な舞台美術。そしてそこに総勢20名以上もの女たちが列をなして登場し、大奥の世界観を観客に強く印象づける。また役者たちが身に纏う、きらびやかな衣裳にも注目。これらは京都の職人が丹精込めて製作した一点物で、舞台衣裳の総額はなんと2億円を超えるとか。まさに大奥を彩るにふさわしい舞台が用意されたと言える。そして大奥と言えば、女たちの戦いが最大の見もの。三代将軍の世継ぎ問題を背景に、乳母(=春日局)と実母(=江与)の壮絶なバトルが展開される。だがそこにあるのは、単に憎しみの感情だけではない。ふたりとも母として子を思う気持ちが強過ぎたゆえの結果であり、それがまた物語に深い感動を与えている。春日局演じる松下は、初座長として堂々たる姿を披露。舞台をしっかり締める、圧巻の存在感を発揮する。江与演じる木村は、どれだけ意地悪な行動をとっても嫌味にならない。それは彼女本来の品のよさゆえであり、正室役にふさわしい。またテレビ版でもおなじみの奥女中トリオ“大奥スリーアミーゴス”からは、鷲尾真知子と山口香緒里が参加。緊張感のある物語のなか、彼女たちの軽妙なやり取りが、大いに客席の笑いを誘っていた。公演終了後には、松下、木村が出席しての会見も。座長としての意気込みを訊かれた松下は、「座長というより、みんなの力があってでき上がっていくのが舞台」とチームワークのよさをアピール。木村は「この皆さんとご一緒できて嬉しい。最後まで座長についていきます!」と本作にかける熱い胸の内を明かした。公演は、10月2日(日)から27日(木)まで明治座にて、11月4日(金)から27日(日)まで中日劇場にて。チケットはいずれも発売中。(取材・文:野上瑠美子)
2011年10月03日ベストセラー作家・伊坂幸太郎のデビュー作を舞台化した『オーデュボンの祈り』が、9月30日(金)に東京・世田谷パブリックシアターにて幕を開ける。キャストとして名を連ねるのは、主人公の伊藤を演じる吉沢悠など個性派12人。初日前日の29日(木)には公開舞台稽古が行われ、演出のラサール石井と全キャストが囲み取材に応じた。『オーデュボンの祈り』チケット情報コンビニ強盗を起こした伊藤は、いつの間にか見知らぬ島に連れられて来ていた。その“荻島”は仙台沖に浮かぶ離島で、150年という長きに渡り、外界との交流を絶ってきたらしい。それだけに島で暮らすのは不可思議な人々ばかり。しかも外界にはない、独自のルールが存在している。そんな中、島の住人・日比野(河原雅彦)の案内で、かかしの優午(筒井道隆)のもとへとやって来た伊藤。人間の言葉を話し、未来が予知できるという優午であったが、その後、何者かによって殺されてしまう。ファンタジー的な世界観の中に、ミステリー要素を取り入れた本作。現実と非現実をさまよっているかのような“荻島”は、もともと、活字だからこそ表現できた場所に違いない。だがシンプルでありながら想像力をかき立てる舞台装置。キーワードの鳥を効果的に表現した背景幕の映像。ブレヒト幕(=左右に動く幕)を使った素早い舞台転換。それら演劇ならではの手法が化学反応を起こし、荻島という魅惑の地を、見事舞台上に現出させている。それはもちろん、演劇を知り尽くした演出家だからこその成せる業。一番の見どころとしてラサールは、「この難物な伊坂ワールドを、どれだけ僕たちが演劇化しているか」と語っていることからも、その力の入れようをうかがうことができる。そして荻島をより魅力的に彩っているのが、キャストたち。その役柄同様、まったくと言っていいほど個性の異なる面々だが、それらが組み合わさったときに奏でられるメロディの心地よさに、正直驚かされた。またそれぞれが、個々としての存在感も十分に発揮。自らの存在意義と真っすぐに向き合った伊藤役の吉沢。かかしに優しさと哀しさの感情を吹き込んだ筒井。ひょうひょうとした中に悲哀をにじませた日比野役の河原。ほかにも石井正則、小林隆、陰山泰など、実力派たちがしっかりと脇を固めている。やがて、荻島に足りなかったピースがはまり、“大切なもの”が島を満たしていく。だが物語はそれで終わりではない。ラサールはこう語る。「伊坂さんの作品には、どこか読者に対して放りっ放しのようなところがある。だからそこはお客さま自身にお考えいただきたいですね」と。観客それぞれに芽生えた感情のピースをもって、真のラストを迎える『オーデュボンの祈り』。その画はさまざまなれど、爽やかな風が吹いていることは間違いないだろう。石井光三オフィスプロデュース『オーデュボンの祈り』は、9月30日(金) から10月12日(水)まで東京・世田谷パブリックシアターで上演。その後、札幌、大阪、仙台の各都市をまわる。チケット発売中。取材・文:野上瑠美子
2011年09月30日サイレントコメディー・デュオ“が~まるちょば”が、9月9日(金)、KAAT神奈川芸術劇場を皮切りに、毎年恒例の『JAPAN TOUR』をスタートさせた。赤いモヒカンのケッチ!と、黄色いモヒカンのHIRO-PONによる2人組・が~まるちょば。パントマイムの世界に新しい風を呼び込み、いまや世界中から注目されている大人気デュオで、今年のツアーでは2か月以上をかけ、全国31会場を巡る。『が~まるちょば サイレントコメディー JAPAN TOUR 2011』のチケット情報舞台は3部構成。冒頭の「が~まるSHOW」では、おなじみのトランクを使ったパントマイムのほか、が~まるちょば流のネタが次から次へと繰り出されていく。抜群のコンビネーションと上質のパントマイム。そしてその場の空気を瞬時に読み、アドリブを連発、笑いに転化していくそのセンス。幕開け数分にして観客は、一気にが~まるちょばの世界へと引き込まれてしまうのである。そして観客参加型とも言えるが~まるちょばライブだけに、時に観客が、出演者のごとく舞台へと引き込まれてしまうことも…。そこはぜひ気後れせず、グッと前のめりになって楽しんでしまうのがベスト!ともあれ、2人のかっこうの餌食となってしまうので、くれぐれも遅刻はしないようご用心を。続いては、ショートスケッチ(=短編作品)の「マジシャン」。これぞ"サイレントコメディー・デュオ"という彼らの肩書きを象徴する作品。パントマイムとはまた違う、サイレントならではの笑いの面白さを存分に堪能することが出来る。そしてラストを飾るのが、今回のツアーの目玉とも言える新作長編「Hello Goodbye」。長編としては実に5年ぶりの新作であり、2人が大好きだと言う"サイエンス・フィクション(SF)"がテーマとなっている。爆弾犯(ケッチ!)と、それを追う刑事(HIRO-PON)との攻防を物語の軸に、恋愛、ヒーロー、SFなどさまざまなテイストが織り込まれ、非常にドラマ性の高い仕上がり。しかしそもそも演じ手は2人のみ、しかもパントマイムによるサイレント芝居である。だがそれがマイナスではなく大きなプラスへと働くのは、彼らの高い表現力に加え、音楽や照明の絶妙な効果ゆえ。何よりサイレントであることが観客の想像力を大いに駆り立て、至極の劇空間を生み出しているのである。短編から長編まで、が~まるちょばだけが生み出せる多層的なサイレントコメディー。世界が認める才能を、このツアーを機に、ぜひ生で体感してみて欲しい。現在、チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2011年09月09日初演以来4回目の上演となる劇団☆新感線『髑髏城の七人』が、大阪公演を経て、9月5日(月)、東京・青山劇場にて幕を開ける。本作では、これまでのキャストを大胆に一新。通称“ワカドクロ”と言われ、小栗旬、森山未來、早乙女太一など、人気と実力を備えた豪華若手俳優陣による共演が大きな話題となっている。チケット情報豊臣秀吉の天下統一を目前に、あるひとりの男が関東制覇を企んでいた。その名を天魔王(森山)。関東髑髏党を率い、目的のためには手段を選ばないという男だ。そんなある日、髑髏党に村を襲われ、危機一髪の兵庫(勝地涼)らを救ったのが、捨之介(小栗)なる若者。彼らは髑髏党の襲撃で身よりのなくなった娘たちを連れて関東一の色里・無界の里へ。そこで里を取り仕切る無界屋蘭兵衛(早乙女)や極楽太夫(小池栄子)、沙霧(仲里依紗)らと出会い……。これまで同一キャストが演じてきた捨之介と天魔王役を、小栗と森山のふたりが演じたことで物語はより明確になった。さらにキャストの年齢層がぐっと下がったことで、非常にテンポと切れ味のいい新たなる『髑髏城~』へと仕上がった。小栗の捨之介は、軽やかさと同時に主役としての堂々たる存在感をも発揮。それは「舞台は日々進化していくもの。自分も日々進化出来るよう頑張っていきます」との言葉通り、常に高みを目指す姿勢が自然と舞台上にも表れるのだろう。森山の天魔王は、ひりひりするほどの狂気と執念が滲み出るような演技で、作品に深みと厚みをもたせていた。ステージは、奥行きのある青山劇場をフルに使った傾斜舞台。近作によく見られた大がかりな舞台装置や映像などは極力抑え、非常にシンプルな構造となっている。その理由は、舞台を埋め尽くす縦横無尽なキャストたちの動き。特に殺陣シーンの迫力、美しさは過去最高とも言えるほどで、なかでも2度目の新感線となる早乙女の殺陣は圧巻。彼独自の舞に新感線流を融合させた、力強くも華麗な殺陣を披露してくれる。森山はこう語る。「通称“ワカドクロ”と言われるだけあり、突っ走りながらもブレにブレ、揺れに揺られて最終的には大きなうねりとなって大阪公演を終われたような気がします。東京公演では、さらに大きなエネルギーをお客さまに届けられれば」。小栗や森山が発する若いエネルギーと、新感線というベテラン劇団のエネルギー。この2つのエネルギーをもってして、至極の演劇空間が生まれないはずはないのである。公演は10月10日(月)まで。取材・文:野上瑠美子
2011年09月05日2008年の『幸せ最高ありがとうマジで!』でパルコ劇場初登場を飾った本谷有希子が、3年ぶりに同劇場へと帰ってくる。ヒロインを演じるのは、これが初舞台の長澤まさみ。本谷はこれまで永作博美や小池栄子、りょうなど名立たる女優陣と共に舞台を作り上げてきた。しかも彼女が描くのは、同じ女性から見ても非常に面倒くさい――男性にとっては時に非常に愛おしくもある――女の姿。そんな女を演じた時、すべての女優はこれまでとはまた違う一面を見せる。それだけに長澤まさみという女優にいかなる化学変化が起こるのか。リリー・フランキーに成河(チョウソンハ改めソンハ)、安藤玉恵、吉本菜穂子ら共演者の顔ぶれと共に、非常に期待は高まる。ワークショップオーディションの写真そんな本谷待望の新作舞台『クレイジーハニー(仮題)』だが、実は出演者はこれだけではない。大規模なオーディションを実施し、その応募総数は約1000名。1次審査で200名に、2次審査で24名にまで絞られ、ワークショップオーディションという形でここから約10名が選出されることになったのだ。そのワークショップ最終日。本谷は参加者を前に、自分が惹かれるものについて「人の心が面白い。それが理解出来ないとさらに面白い」と語った。そこで本谷がエチュードのテキストとして選んだのが、怪談『予言猿』。服の裾を掴まれた人は死ぬという猿がおり、飼い主である八百屋夫婦の娘もその予言で死に、最後には主人が猿を洗い殺してしまうという話だ。本谷はその「“猿を洗い殺す”という聞いたことのない状況にワクワクする」と話し、物語ラスト部分を3人ずつ、5組の役者に演じさせた。5組の即興芝居はもちろんそれぞれ違うのだが、やはり“猿を洗い殺す”主人の演技に、最もその特徴が表れたと言える。妙にテンションの高い者がいれば、その逆もおり、笑い、怒り、悲しみなど、人の心の移り変わりが多様な表現で提示される。若い役者が多いため荒削りな部分も多いが、それも含め本谷は楽しんでいたようだ。残りの9人に渡されたのは、ふたりの人物が登場する別のテキスト。役者は約30分のうちにせりふを覚え、即発表しなければならない。役者たちはそれぞれキャラクターを作り、覚えられなかった部分については必死にアドリブを繰り出す。追い詰められた状況下での役者の転がり方が分かり、こちらも非常に面白い。ワークショップは終わり、結果10名が合格、出演が決まった。大規模なオーディションという試みから、本谷はいかなる新しい武器を手に入れたのか?その答えは8月のパルコ劇場で明らかになる。公演チケットは6月発売を予定。取材・文:野上瑠美子
2011年04月27日