昨年「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞を受賞した高瀬隼子さん。待望の新作『いい子のあくび』の表題作は、2019年の作家デビュー直後から何度も改稿を重ねてきた作品だという。「ようやく本になってすごく嬉しいです」と高瀬さんが語る本作の主人公は、人より先に気がつくタイプで、公私ともに“いい子”と思われている会社員の直子。でも、彼女の心の中では、損な役ばかり回ってくることに対しての鬱憤がたまっていて…。「最初は主人公=私のつもりで日常の話を書いていたんですが、改稿を重ねていくうちに、直子がどんどん自分から離れて、ヤバい奴になりました(笑)」と言うように、冒頭で直子は、スマホを見ながら自転車を漕ぐ中学生を見て許せない気持ちになり、あえて自らぶつかり小さな事故を起こす。「ヤバい奴とは思いますが私は直子が好きです。私もルールを守りがちなタイプで、ルールを破る人に対し“羨ましい”と“ずるい”が合体した気持ちがあります。なのでスマホを見ながら移動している人にイラッとする攻撃性もありますが、まっとうな人間でいたいのでぶつかることはしないです(笑)。小説の中で直子にそれを託したのかもしれません」この事故がやがて、奇妙な展開を招くことに…。一方、同僚や恋人の前でも“いい子”として振る舞う直子の日常も描かれ、「歯がゆいけど分からなくもない」と感じる人も多いのでは。ただ彼女、友人によって態度を変える点は結構あからさま。「私も友人によって話題を選ぶことはありますが、直子はそれだけでなく、相手が求める反応をしようとしている。“いい子”といっても、“都合のいい子”かもしれませんね」そんな彼女が“割に合わなさ”に耐えられなくなり、起こした行動の顛末とは?他に職場の上下関係の裏の心理を描く「お供え」と、結婚式嫌いなのに友人の式に招待された主人公を描く「末永い幸せ」を収録。「会社の先輩や友達に“本当はこう思っていたの?”と誤解されるのが怖い2編です(笑)。お世話になった先輩に誤解を与える前に話せるよう、近々ランチの約束をしています」著者本人の本音だと思われかねないほど、現代女性のモヤモヤがリアルに描かれた作品集なのだ。ぜひ。『いい子のあくび』職場では誰より先に備品を補充、友人には話題を合わせ、恋人にも“いい子”と言われる直子。でも“割に合わなさ”への不満は募って…。集英社1760円たかせ・じゅんこ2019年に「犬のかたちをしているもの」ですばる文学賞を受賞。’22年に「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞受賞。他の著作に『水たまりで息をする』など。※『anan』2023年8月2日号より。写真・土佐麻理子(高瀬さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2023年07月30日高瀬隼子さんの芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』に描かれているのは、食べるという行為をめぐる三者三様の向き合い方だ。だが、読んでいるうちに、食は恋愛や働き方、生き方にも通じるものがあるかもしれないと思えてくる。「最初の構想ではごはんのことを書く予定はなかったんです。恋愛と絡めてというのも、あまり意識していませんでした。“好きなもの”より“正解だと思うもの”を選ぶ男性がいて、その二谷みたいな人がつき合うならこういう女性だろうと、頼りなげな芦川さんのイメージが浮かんだんです。もう少し日常生活に寄って立体的にしてみたら、食の好みやライフスタイル的な部分がはっきり見えてきて、このような作品になりました」仕事を要領よくこなすが、食には無頓着な男性社員の二谷。芦川の1つ年下でがんばり屋の女性社員・押尾は、普通にグルメ好きだが、気を遣う食事は苦手。芦川は、片頭痛などで頻繁に早退したり、仕事のミスすら責任を取らないので、普通なら会社のお荷物なはずなのに、職場に手作りお菓子を差し入れたりするため、庇護されるポジションにいる。依存体質の芦川を快く思っていない押尾は、彼女を表立って非難する代わりに、〈二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか〉と持ちかける。やがて、芦川が配った差し入れにまつわる、ある事件が起きる。美味しいと思えるかは、関係のリトマス試験紙。作中では、持参したお弁当やカップ麺を食べるランチタイムや、二谷と押尾が会社帰りに誘い合わせておでん屋に寄ったりする場面が登場。ありふれた食の光景が描かれながら、ほとんど和気あいあいとならないのが面白い。「特に押尾に関しては、職場の会食など“人と食べるごはんは美味しくない”と思っているキャラとして書いてしまって、すごく反感を買いそうだと不安だったんです。ところがSNSに上がった感想などを見ていると、押尾に共感してくれる人が結構いたので、むしろ私自身が驚きました」二谷は、食べることすら面倒に思っているふしがある。しかし、芦川とつき合い始めて、それほど望んでもいない手料理を一緒に食べなくてはいけない羽目に。「美味しいね」と言い合うコミュニケーションも含めて、人と食べることも大事だという刷り込みは根強く、それをだんだんと重荷に感じていく変化もリアルだ。「日常的に料理をするのが苦ではない芦川さんは、職場ではきちんとした家庭的な人と思われています。私も彼女と同僚なら、『偉いね』とか言ってしまいそう。食生活を見て、『この人はこういう人だ』と判断してしまうことは、結構あると思うんですよね。私も学生時代に、ぬか床まで持っている料理上手な友人がいて、よくみんなで彼女の家に押しかけ、ごはんを食べさせてもらいました。彼女の恋愛観とか全然聞いたこともないのに、『結婚早そうだな』とか勝手な偏見を持っていたのを反省しています。“ちゃんとした”食事への強迫観念もあるのでしょうか」また、最近の悩みは「この小説を書いたせいか、にわかにごはんに誘われなくなった」ことだとか。「今度帰省する予定があるのですが、久しぶりに地元の友人に会おうよと連絡したら、『ごはんじゃなくていいよ』『ごはん以外がいい?』という返信が来たり(笑)。『ううん、ごはん行こう!』と必死に返しています。ただ、夫はともかく、親しい友達でも、遊ぼう、会おうはイコールごはんに行こうという意味ですよね。だって、ごはんを禁止にしたら、どういうふうに会えばいいのか。公園のベンチで延々話ってできるかな、ハードル高いなと思ってしまいます」ところで、高瀬さん自身の食に対するスタンスはどうなのだろう。「昼間は、事務職をしているんですね。私の中にも『しっかり食べなきゃ』というような、ごはんに対する義務感があるので、仕事が忙しい時期は、二谷みたいにお腹が満たされればいいという気持ちにもなります。エネルギーゼリーで1食クリアするのも嫌いじゃないです。反対に、押尾のように、美味しいお店を探して食べに出かけるのも好きです。コロナ禍前、仕事が忙しくない時期の、18時、19時に退社できるような日には、ひとりで気軽に居酒屋にも行きましたし、よく友達と食事もしていました」美味しく食べられるかは、人間関係のリトマス試験紙のようだ、と高瀬さん。「あまり好きじゃない人と食べると噛んでも飲み込めないし、味がしません。水やお酒で流し込んで、なんとか自分のお皿を空にすることが目的になってしまうので、つらいですよね。とはいえ、そういう人とでも一緒に食事をする時間を持つというのであれば、何らかの関係を持ち、その関係性を維持したいと思っているということでもあると思います。だから、苦手な人でも食事中は態度に出さないでしょうし、相手の話を聞いてニコニコしたり相づちを打ったり、その場をうまくやり過ごすための体裁を整える方にエネルギーを使ってしまうのかも。食べたり味わったりすることに使うエネルギーを残すのが下手なのかもしれないと、いま話しながら思いました」それだけ、一緒に食べて美味しいと思える関係、食べながら「自分はいまリラックスしているな」と感じられる相手は、貴重。「思うんですが、夫とか、本当に親しい誰かとふたり、向かい合わせでちょっと高級なフランス料理などを食べに行くと、美味しくてテンションが上がって、定食屋やうどん屋で食べているときと話す内容も、明らかに変わる気がするんですね」定食屋では「毎日だるいな」「スーパーでトマト買って帰りたい」とか卑近な話しか出てこないかもしれない。おでん屋や居酒屋は、溜めていた本音を吐き出すのが似合うから、つい愚痴が多くなる。「けれど、ちょっとお金をかけて美味しいものを食べに行くときは、『小説を今後も頑張っていきたい』みたいな、いつもと違う未来形の話ができる気がします。そういう意味で、自分の目の前にあるごはんで自分の意識が少し変わって、結果として自分はこんなこと考えてたのかとか、逆に相手からも普段聞けない話が聞けたとか、味覚以外の恩恵も受けるのかなと。美味しいごはんというのは、いろいろな意味で、自分の中に潜む何かを発見するための媒介になるのかもしれませんね」『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子著ラベル制作会社に勤務する二谷と押尾の視点で進む。食べる、作るという本来自由で楽しい行為が、同調圧力ともなり、他者をコントロールする術となり、弱いはずの芦川さんだけが、職場でも二谷との交際でも居場所を広げていく。奇妙な人間関係の結末は。講談社1540円たかせ・じゅんこ1988年、愛媛県生まれ。作家。2019年、「犬のかたちをしているもの」ですばる文学賞を受賞。’22年、「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞受賞。※『anan』2022年10月19日号より。写真・山越翔太郎(TRON)取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年10月18日第167回芥川賞と直木賞が20日に発表され、芥川賞は高瀬隼子氏『おいしいごはんが食べられますように』、直木賞は窪美澄氏『夜に星を放つ』が受賞。高瀬氏は2回目の候補、窪氏は3回目の候補で受賞となった。この後、都内のホテルで受賞会見に臨む。受賞者には正賞として時計、副賞として賞金100万円が贈られる。芥川賞はこのほか、小砂川チト氏『家庭用安心坑夫』、鈴木涼美氏『ギフテッド』、年森瑛氏『N/A(エヌエー)』、山下紘加氏『あくてえ』がノミネート。直木賞はこのほか、河﨑秋子氏『絞め殺しの樹』、呉勝浩氏『爆弾』、永井紗耶子氏『女人入眼(にょにんじゅげん)』、深緑野分氏『スタッフロール』がノミネートされていた。
2022年07月20日オンラインで学ぶアーユルヴェーダレッスン2021年4月18日(日)、庄司いずみベジタブル・クッキング・スタジオにおいて、『高瀬媛子さんの”美をつくる” オンライン・アーユルヴェーダレッスン/春の食事法と暮らし方』が開催される。講師は女優の高瀬媛子氏が務める。同レッスンでは、アーユルヴェーダの知恵や知識を取り入れて、季節に応じて心身を整える方法と、美をつくる料理をレクチャー。レシピや調理のテクニックだけでなく、アーユルヴェーダの知恵や食材に関する知識もしっかり学ぶことができる。開催時間は14:00から15:00まで。レッスン料は2,750円(税込み)。メニューは「ライスクレープ」と「アチャール」の2品を予定している。申し込みは、庄司いずみベジタブル・クッキング・スタジオのホームページ「教室申し込み」ページにて受け付けている。アーユルヴェーダライフを送る高瀬媛子氏スパイス料理研究家で女優の高瀬媛子(たかせあきこ)氏は、2010年からアーユルヴェーダライフをスタート。2020年秋に愛媛県西条市に移住し、アーユルヴェーダの知識を活かした「やまのカレー」を週に1回オープンしている。CMや映画など、活躍の幅は広い。(画像はプレスリリースより)【参考】※庄司いずみベジタブル・クッキング・スタジオ※高瀬媛子オフィシャルブログ
2021年03月27日今、注目の女の子を紹介する『anan』で連載中の「イットガール」。今回はモデルの高瀬真奈さんです。透明感溢れるルックスで注目の的!自然体なキャラクターも魅力。吸い込まれるような透明感の持ち主で、雑誌や広告で活躍。「自分に自信がなかったけど、ものづくりの現場に関われたら、という思いでこの世界に飛び込みました」。SNSでの発信力の高さも支持を集める理由。「いいものを人と共有することが好きなんです。最近興味があるのは環境のこと。サステナブルなファッションにも関心があり、先日パリコレで『ステラ マッカートニー』のショーを観てきました。人が地球に目を向けるきっかけになるような情報発信をしていきたくて、目下勉強中!」温めて使うと最高に気持ちいい!カレリアンソープストーンというマッサージ用の天然石。かわいくて優秀。旅が好き。写真が好き。フィルムカメラを持ってあちこち旅しています。映像にも興味アリ!今年の目標はハーフマラソン出場。最近ランにハマっていて、走るとマインドが満たされていくのを感じます。たかせ・まな1999年生まれ。『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の人気コーナー「ゴチになります!」のゴチアンバサダーに就任。最新情報はInstagram(@manatakase_)で。※『anan』2020年4月29日号より。写真・土佐麻理子文・間宮寧子(by anan編集部)
2020年05月05日愛と性と生殖という、女性がいつか直面する問題に切り込む意欲作、高瀬隼子さんによる小説『犬のかたちをしているもの』。「セックスをしないでも仲のいい、同棲中のカップルというのがまず浮かんできたんです。展開はそのつど考え、『こうだったらもっとつらいだろうな』と薫が思うような状況に、少しずつ追い込んでいきました」高瀬隼子さんの『犬のかたちをしているもの』の主人公は、〈わたし〉こと間橋薫(まはしかおる)。卵巣の病気をきっかけに性交に抵抗を感じるようになり、それで別れた恋愛も経験している。〈セックスしなくなるよ、わたし〉と言う薫に、いまの恋人・郁也は〈薫のこと、好きだから大丈夫〉と答えてくれた人。実際、セックスレスになってからの方がずっと長い。そんなある日、郁也は、自分との子を妊娠している〈ミナシロさん〉という女性に、薫を引き合わせる。ミナシロさんから「産むけれど、薫と郁也にもらってほしい」と告げられ、薫はあらためて、愛や子どもを持つことの意味を考え始める。「薫、郁也、ミナシロさん…、それぞれの立場に身を置いてみたら、どの葛藤も困惑もわかるというか、彼女たちが『こうなったかもしれない自分』に思えたんです」郁也とミナシロさんは金銭を介した性のみの関係で、ふたりの間に愛はない。それでも、薫の気持ちは千々に乱れる。また、ミナシロさんの数々の言葉にハッとする読者も多いだろう。たとえば〈わたしは子どもを育てないけど、産むわけだから、なんか、クリアした感じ〉。出産も、女性自らが望んで、というだけでなく「なんとなくそうすべき」と思いがちなことだ。女性というだけで、当たり前のように課されてきた役割やタスクへの違和感を問いかけてくる。「子どもの頃から友だちが『いつか結婚したい、子どもが欲しい』と無邪気に言うのがよくわからなかったんです。それは自分の親とかを見ていて、ひとつの理想として『あんな人生が欲しい』という意味なんでしょうが、『子どもがいる人生が欲しい』と『子どもが欲しい』は、重なる部分はあっても、実は別の話という気がするんですよね」本書には、女性にとってのたくさんの問題提起が含まれている。「読者からの感想を見て、確かに女性の苦しさを書いていたのだとあとから気づきました。これからもそうしたテーマで書いていきたいです」たかせ・じゅんこ1988年、愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒。2019年、本作で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。次回作は、歩きスマホの問題にもの申す作品になる予定。『犬のかたちをしているもの』愛のあるセックスとは何か。したくない気分の相手に性行為を求めるのは愛と呼べるのか。性なき愛は可能か。自問自答しながら読みたくなる。集英社1400円※『anan』2020年4月15日号より。写真・土佐麻理子(高瀬さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2020年04月10日