全国の不動産会社の数はコンビニの数より多いといわれています。その中には地元に根付いた家族経営のような店舗から、イケイケの営業を揃えて派手な看板を並べた店舗まで様々です。ほとんどの店の店頭にこれでもかと貼りだされた物件資料のことを、通称「マイソク」といいます。これらを見ると、どの店も相当な数の物件を抱えているように感じますが、実際に問い合わせてみると、既に募集が終わっていたという場合も数多くあるものです(終わっていることの方が多いかもしれません)。そのためこれらは「おとり広告」であるとしてかなり批判されているようです。何故終わってしまった物件が貼り出されているのでしょうか?かつて実際にマイソクを作り、店頭に貼り出していた筆者がご説明します。■ マイソク=店頭に貼り出された資料の正体不動産の物件資料=マイソクには一定の型があります。真ん中から左にかけて間取り図、外観写真と地図、右側に物件概要が記入されている事例が一番多いのではないかと思います。そして必ず下段に不動産会社の情報を記載した細長い部分があり、これを帯(おび)と呼んでいます。不動産会社は売買でも賃貸でも、預かった物件を所定の流通機構に登録して情報を共有化しなければならないのですが、検索して引っかかってきた物件情報を印刷すると、このマイソクの書式で出力されます。この時「帯」にはこの物件情報を登録した会社が記載されていますが、この帯の部分だけ貼りかえれば、いかにも自社の物件であるかのように見せかけることが出来るのです。どの不動産会社もB5、A4、A3の各サイズで貼りかえに使う「帯」を用意しています。このようにして作成した物件資料を貼り出したものが店頭のマイソクです(この会社の場合は帯の部分を折り込んでいます)。自社が預かっている物件だけでは大した数にならないことがほとんどであるため、このようにして他社物件の情報も載せるのです。■ 店頭の「マイソク」の募集が終わっていることが多いのはなぜか?店頭にこうした情報を貼り出すのはなんといっても集客のためです。インターネットを利用した集客が中心となった現在でも、看板を見て入ってくる「飛び込み客」はどうしても欲しいものです。ビルの1階に店を構えた路面店ならまだしも、ビルの上層階に店舗がある場合、このような手段でも取らなければ飛び込み客は来ないでしょう。路上に置かれたこのような看板を、横から見た形から「A看板」と呼びます。お客様の足を止めさせ、店内にまで入らせなければならないのですから、貼り出す内容としては誰もが「ここに住みたい!」と思うような魅力的な決まりやすい物件の情報になります。一方でこのような作業は意外と面倒であるため、案内や追客、契約事務等に負われる営業にとって、店頭のマイソクのメンテナンスなどどうしても二の次三の次になってしまいます。客が来店した時には募集が終わってしまっている、という背景にはこのような事情があります。資料を作成した時には確かに存在しており、悪意をもって終わった物件ばかり並べているのではないことは、かつて業界にいた筆者からも言わせていただきます。■ 「マイソク」がわざと曖昧に作られている理由店頭のマイソクの目的は、あくまでお客様を店内に呼び込むことにあります。そうすればご縁もでき、それによって様々な他物件を紹介することもできるのです。店頭の資料を見て「ああ分かった」と帰られてしまわないよう、どこかぼかして貼り出すのが常です。勝手に現地に行かれないよう住所の枝番を外すというのは大原則で、店頭の資料だけでは物件を特定されないよう様々な工夫をします。物件の全貌を知るのは店内のカウンターにおいてであり、現地へ行くのは営業の案内でなければならないのです。お客様からの問い合わせに対して、物件前で待ち合わせをするという営業スタイルの会社(筆者も所属していた)もありますが、今のところは最初に店舗に来てもらうというのが圧倒的に主流です。■ 「物件数地域1番店」ということはありえない!?makaron* / PIXTA(ピクスタ)今回ご紹介した内容は店頭に貼り出したマイソクだけでなく、インターネット上の情報にも当てはまります。物件情報は業者間で共有されているため、「物件数地域1番店」ということなど本来はないのです(管理棟数が1番ということならあります)。業者選びの際は、店頭に貼り出されたマイソクにまどわされることのないよう、十分に注意してください。(written by 鶴間正二郎)
2018年10月31日マンションが建設される際、工事現場周辺に「マンション建設反対!」と書かれた幟(のぼり)が林立しているのは、そんなに珍しい光景ではないように思います。建てる側にとって、どうしても避けて通れないのが、こういった近隣の反対運動に対する対応です。筆者はマンション管理会社から親会社であるデベロッパーに約5年間出向していたのですが、その間にマンション用地の仕入れや近隣対応を担当していた時期もあります。週刊誌ネタになるような反対運動が行われた物件で、担当者として建設地に設置した標識に私の名前が書かれていたこともあれば、近隣説明会で反対派の人々と直に相対したこともあり、実に貴重な経験ができたと思います(二度とやりたくないですが……)。今回は、マンション購入予定の方に必ずチェックしていただきたい「用途地域」についてお話したいと思います。■ 高級マンションが立ち並ぶエリアでも油断は禁物!?戸建てにせよマンションにせよ、せっかく購入した家の周辺でこんな騒動が起きるのは避けたいものです。実はマンションというものは、建てることができる場所がある程度限られているので、それが事前に分かっていれば、無駄なトラブルに巻き込まれる可能性は少なくなるのです。後になって後悔することにならないよう、購入前に周辺環境のチェックは絶対に必要です。極楽蜻蛉 / PIXTA(ピクスタ)自治体が定める都市計画区域は積極的に整備・開発を行う「市街化区域」と市街化を抑制する「市街化調整区域」に分かれ、市街化区域の土地利用は用途地域の制約を受けます。用途地域は全部で12種類ありますが、ざっくりと分けてしまえば「住居系」「商業系」「工業系」の三種類です。住居系の地域は住居としての環境を保護することを最優先した地域で、建ぺい率、容積率、高さ、斜線制限、日影規制などにより、建物の周囲に与える影響が最小限になるよう規制がかかります。このように上部が階段状になっているマンションを見たことがある方も多いと思いますが、これはルーフバルコニー付き住戸をつくるためではなく、日影規制をクリアするためのものです。商業系地域は商業その他の業務の利便を増進することを最優先する地域で、そのため周辺環境に配慮するような規制はほとんどない地域といって良いと思います。工業系地域は主として工業の利便性を追求した地域ですが、軽工業の工場等、環境悪化の恐れのない工場の利便を図る地域である「準工業地域」では住宅や商店も建てることができます。高級マンションが立ち並ぶ駅前が、準工業地域である場合もあるので注意が必要です。■ マンションを建てられる場所はある程度限られているマンションを建てるには、まずはまとまった土地が必要です。そのため、将来マンションに変わる可能性の高いものとしては企業の社宅や福利厚生施設、駐車場、店舗、工場といったものが挙げられます。複数の住戸が土地を提供する代わりに、マンション内に部屋を貰う等価交換というやりかたもあります。そのような場所が周囲にあったら注意が必要です。ここは近隣の反対運動が泥沼化して有名になった場所ですが、もともとは大手電機メーカーの研修施設だった場所です。マンションが完成して入居が完了して以降も周辺の住戸は反対の幟を降ろさず、それが逆に街の景観を破壊していると批判されました。現在騒動は沈静化していますが、隣地には大手火災保険会社の研修施設があり、ここが将来どうなるか気になるところです。こちらは私鉄ターミナル駅の駅前マンションです。全戸南向きで日当たり・眺望良好なマンションですが、目の前が駐車場です。商業地域という事もあって、将来的には間違いなく同じ規模の建物が目の前に建つことになるかと思います。こちらは住宅地の中にあるゴルフ練習場です。筆者は約15年前にこの近隣でマンションの営業をしていましたが、当時から売却の噂が絶えませんでした。今後どうなるかわかりませんが、このような施設は将来マンションに変わる可能性が高いことだけは間違いありません。こちらは鉄道の線路沿いのマンションです。右側の植え込みの中はちょうど地下に潜る場所です。こういった立地のマンションでは日当たりは半永久ではないかと思います。住環境に対する規制が緩い準工業地帯で工場が売却された場合、跡地には周囲より規模の大きなマンションが建つ可能性が高いので注意が必要です。■ 知らなかった、では済まされない。周辺環境は必ず自分で調べようPIXTOKYO / PIXTA(ピクスタ)用途地域については契約時の重要事項説明書に書いてあるはずですから、知らなかった(知らされなかった)という言い訳は通用しません。後になって後悔することにならないよう、住宅を購入する際は自分でも現地周辺を徹底的に調べるようにしてください。それはモデルルームで設備や内装の話をするよりもよっぽど大切なことです。近隣の反対運動に対し、経験豊富な業者側が駆使するテクニックについてはまた別の機会に書きたいと思います。(written by 鶴間正二郎)
2018年10月29日家を「借りる」と「買う」どちらが得か?という議論が、不動産業界には……いえ、世の中には昔からありますよね。この問題、筆者が不動産業界に入った19年前から(恐らくもっと以前からあったでしょう)盛んに議論されていましたが、いまだに結論が出たという話を聞きません。TATSU / PIXTA(ピクスタ)■ 「借りる」「買う」どちらが得か?問題のカラクリkou / PIXTA(ピクスタ)この問題のベースとなっているのは「“家賃”を払い続けるのと“住宅ローン“を払うのとどちらが得か?」ということで、大抵の場合、それぞれ発生する費用の合計をシミュレーションして比較しています。まだ紙の媒体が不動産情報の中心だった時代の話です。同じ出版社で賃貸向けと売買向け、2つの情報誌を出していましたが……、KAORU / PIXTA(ピクスタ)賃貸の情報誌では「借りる方が少しだけ得」、一方、売買の情報誌では「買った方が少しだけ得」というまったく異なる結論を出していました。一生の間に必要となる住宅関連の支出の合計は簡単にシミュレーションできるようなものではなく、前提条件を少し変えればまったく違う結論となります。つまり、立場が変われば結論も変わるのです。■ 設備やインテリアのグレードに大きな差はある?freeangle / PIXTA(ピクスタ)入居者が頻繁に入れ替わることを前提とした賃貸住宅に対し、分譲住宅は入居者が永住することが前提となります。そのため設備や内装等についていえば、分譲の方が長持ちする仕様となっていることが多かったように思います。特にクロスについては、ランクが全然違いました。賃貸の場合、入れ替わる度に何らかのリフォーム工事が入りますし、何かあれば退去した時交換すればいい、という意識がどこかにあるのかもしれません。■ 分譲マンションで発生する費用って?hug++ / PIXTA(ピクスタ)分譲マンションの場合、毎月発生する住宅ローン返済、管理費、修繕積立金等の他、故障等による設備の修理は当然のことながら全額自己負担です。分譲マンションには専有部と共有部があり、雑把に分けると玄関の内側で起こったことについては自己負担です。厄介なのは配管やインターホンといった、専有部と共有部両方にまたがる部分のトラブルで、原因がどちらにあるかによって負担額も変わってきます。専有部と共有部の細かい区分けについては管理規約に必ず記載がありますので、購入前にチェックしておくとよいでしょう。■ 賃貸住宅は、実は家主にとって厳しい時代にABC / PIXTA(ピクスタ)賃貸住宅の場合、賃料と共益費を毎月払いますが、消耗品関係を除き設備の故障については原則として家主負担となっています。また退去時における原状回復に際しても、「国土交通省ガイドライン」や「東京都住宅紛争防止条例(東京ルール)」により、自然損耗や経年劣化については借主は負担しなくてよいとされています。そのため、退去に伴うリフォーム工事についてもその大半を負担しなくてはならないなど、家主にとって厳しい時代となってきたように感じます。■ 賃貸住宅はまだまだ高齢者に厳しいのが現実foly / PIXTA(ピクスタ)賃貸住宅を語る上で、どうしても避けて通れない問題があります。賃貸物件の営業をやっていた時代に痛感しましたが、「高齢者に非常に厳しい」というのが日本の不動産業界の現状です。高齢者の場合、現役世代と違って収入が限られるということと、室内で万一のことが起きる可能性がある、ということが原因として挙げられます。高齢者を受け入れる物件はかなり限れられますし、仮にOKという場合でも内容のいい親族が保証人となり、かつ近くに住んでいなければならない、などといった厳しい条件が付きます。freeangle / PIXTA(ピクスタ)そして既にリタイアされた方の場合、年金だけが収入とみなされます(預金残高は考慮されないことが多い)。年金の金額だけで借りられるレベルの部屋というものは、高齢者が暮らしやすいようなものとは決して言えないでしょう。家は「買う」「借りる」どちらが得か、という問題は、おそらく今後も永久に決着はつかないでしょう。しかし「どちらがいいか」ともし聞かれたら、「リタイアするまでに、どこかで買っておいた方がいい」というのが筆者の結論です。(written by 鶴間正二郎)
2018年04月13日マンションをはじめマイホームというものは、人生でそう何回もない大きな買い物です。そのため検討する場合はどうしても慎重になり、「もう少し他の物件も見てからにしよう」ということで、結論を出すのを先に先に延ばしにしがち。そんな客に「買います!」と言わせるための、不動産営業マンのテクニックについてお話したいと思います。ABC / PIXTA(ピクスタ)■ 「御用聞き」では、マンションは売れないmy room / PIXTA(ピクスタ)確かに「わかりました。買います」と言うのは清水の舞台から飛び降りるほどの勇気がいるもので、筆者も自身のマンションの申込書を書いている時、背中に汗が流れたことを今でも覚えています。しかしマンションを売る側からすると、お客様の気持ちを尊重し過ぎると誰も買ってくれないことになります(こういった営業を「御用聞き」と呼んでいました)。売るためには、清水の舞台を前にして足がすくんでいる人の背中をそっと押してあげる(早い話が突き落とす!)ことが必要なのです。モデルルームには来場したお客様の気持ちを盛り上げ、最終的に「わかりました。買います」と言わせるための様々なテクニックがあります。■ 競馬の騎手と同じ!? 「内容のいい」お客様ほど、腕のいい営業がつくGraphs / PIXTA(ピクスタ)モデルルームを訪れると接客コーナーに通され、そこでまずアンケートを書くことになりますが、お客様の内容がいい(医者・弁護士・一流企業勤務など)場合ほど腕のいい営業が担当することになります。マンションは一室売るのも大変であるからこそ、そういったお客様は絶対に決めなければならないからです。ですので、成績のいい営業は次々といいお客様が割り当てられ、そうでない営業はその逆になります。勝てば勝つほど強い馬の騎乗依頼が来る競馬の騎手のような世界でした。■ セールストークは必ず「今が買い時です!」からスタートするPIXTOKYO / PIXTA(ピクスタ)そうして商談がスタートするのですが、私がいた会社の場合は必ず「今が買い時です!」という話題からスタートするように決まっていました。景気がいい時はまさにその通りなのですが、そうでない場合はどうするかというと……、不景気の時は政府が景気刺激策を取りますが、大抵の場合は住宅政策がその柱となります。税制上の優遇措置等、様々な手が打たれるため「住宅を買いやすくするため政府がこれだけのことをやってくれるのに、これを使わない手はないでしょう」という話法を使いました。■ 優秀な営業ほど、部屋を見せない!?チンク / PIXTA(ピクスタ)通常は物件について一通り説明をしてから「それでは部屋を見ましょう」ということになるのですが、優秀な営業ほど簡単には部屋を見せません。一度見せてしまうと、そのまま帰られてしまう恐れがあるからです。筆者がとある完成物件の棟内モデルルームにいた時、部屋を見に来たお客様を相手に3時間マシンガントークを繰り広げた挙句、「今日はもう暗いからまたにしましょう」と相手に言わせて、再来場のアポイントを難なく取ったスゴ腕の営業マンもいました。■ 業法違反にならなければ、何でもアリ!?Graphs / PIXTA(ピクスタ)ある程度検討の進んでいるお客様については、決断してもらわなければなりません。そのような方の来場予定がある時は、その時間に合わせて他のお客様も呼び込み、接客ルームをできるだけ満卓に近い状態にします。ここがガラガラでは、お客様の気持ちが盛り上がりません。賑わっているように見せかけるために、単なる通行人に声をかけて引っ張り込んだこともあります。また「早くしないと部屋がなくなる……」という気持ちを煽るため、接客ルームの壁に貼ってある価格表のバラの位置をその時の状況に応じて変えることもあります。法令により、不動産業者がやってはならない事項が定められていますが、接客ルームのバラについては対象外ですから特に問題ないのです。Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)最後に。お客様に「買います」と言わせるために業者はあの手この手を尽くします。「営業が商談中に席を外した」「携帯でどこかへ電話をかけた」「かかってきた電話に出た」……。一つ一つの動きにすべて裏があると思って下さい。マンションを買うのも大変ですが、売る方も大変なのです。新築マンションの購入を検討している方は、営業マンの言動に惑わされずに、納得のいく物件を選んでください。(written by 鶴間正二郎)
2018年04月06日