「JFAグラスルーツ宣言」に賛同するチームを認定し、つながりを作ることで、グラスルーツの環境改善を目指すJFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度。引退なし、補欠ゼロ、障がい者サッカー、女子サッカー、施設の確保、社会課題への取り組み、という6つのテーマに、それぞれ賛同するチームが認可を受けています。今回グラスルーツ推進グループの松田薫二さんと荒谷潤さんがお話を聞いたのは、千葉県浦安市に拠点を置くフットサルチーム・バルドラール浦安デフィオの監督兼選手として活動する泉洋史さん。後編では今まで誰もやっていない取り組みを行なっている泉さんの原動力や、今後の展望などを伺いました。(取材・文・インタビュー写真:松尾祐希写真提供:バルドラール浦安)試合中のベンチの様子(提供:バルドラール浦安)<<前編:チャレンジしたくてもできない状況があった。障がいのある子どもたちを主体にチャレンジフットサルに取り組むバルドラール浦安デフィオ<グラスルーツ推進6つのテーマ>■デフサッカーの日本代表や、熱意を持った人が集まった松田:どのような形でメンバーを集めて行ったのでしょうか?泉:最初はデフサッカーの協会でも取り上げていただき、バルドラール浦安に下部組織ができたことを報じてもらいました。ほとんどは健常者のチームで継続的に戦ったことがないメンバーでしたが、元々個人で健常者のチームに入ってもうまくいかずに続かない選手もかなりいたんです。そうした過去の経験も含め、デフを主体としたチームで健常者のリーグ戦に出場することは難しいと思われていましたが、実際にデフサッカーの日本代表クラスの人たちが加入の意思を示してくれましたし、挑戦したいという想いを持った人が集まってくれました。■どんな障がいがあってもフットサルを楽しんでもらいたいのに、閉鎖的だった松田:そこから他の障がいの人が入ってきたと思うのですが、どういう経緯で加入に至ったのでしょうか?泉:僕は浦安の特別支援学級で働いていたのですが、そこでサッカーがやりたくても部活に入れないという例を見聞きしていたんです。特に自閉症や知的障がいの方が多かったので、そこからもう1つの取り組みであるチャレンジフットサルを2015年頃に立ち上げたんです。当時デフィオは聞こえる人と聞こえない人の限定チームみたいになっていて、違和感を覚えていたんです。元々どんな障がいがあってもフットサルを楽しんでもらいたい考えがあり、いろんな人を取り込もうとしているのに、デフィオは閉鎖的な感じになっていたので変えたかったのです。そうした想いを抱いている時に、1人の知的障がいの方が練習参加したいと言ってくれたんです。彼は現在も在籍しているのですが、一緒にやっていく中でコミュニケーションを密にしたり、シンプルに伝え合えば、どんな障がいがあっても一緒にプレーできると実感できたんです。それがきっかけになって、デフだけではなく、いろんな障がいのメンバーがよりチャレンジできる場として、デフィオを捉えられるようになりました。■障がいの有無や重さに関係なくは入れるチームになっていった松田:そこから知的障がいの人たちが増えたのでしょうか?泉:すぐには増えませんでしたが、いろんな障がいの人が集まるチームにしたいという想いは持ち続けていました。その状況から裾野が広がるきっかけになったのが、特別支援学校のサッカー部と繋がったことです。市川大野の特別支援学校と接点ができ、サッカー部の子を対象にフットサルクリニックを実施したんです。そこで練習に行かせてもらい、卒業後にチャレンジできる場があることを伝え、そこから何人かデフィオに入ってきてくれました。知的障がいのメンバーが増えていき、より一層インクルーシブなチームになり、だんだん浸透して、認知されるだけではなく、障がいの有無や重さに関係なく入れるチームになっていきました。■特別支援学校に通う生徒にとって卒業後の受け皿でいたい松田:特別支援学校に通う生徒にとって、卒業後の受け皿にもなっているんですね。泉:そうでありたいですね。デフのメンバーは自分たちでつながって、各地にチームを作れるのですが、知的障がいのメンバーはそれが難しい側面があります。特別支援学校の障がい種別の割合では、知的障がい者を対象とする学校が7割〜8割になっていると思います。知的な障がいはありながらも、身体は健康でエネルギーに溢れる若者にスポーツに取り組む場は必要だと考えているので、僕たちは受け皿になりたい。最初はチャレンジフットサルから入り、もっとやりたいとなればデフィオに入ってもらうのが理想です。なので、そういうピラミッドは作りたいですね。松田:精神障がいの方も加入されていますが、どういう経緯で入ってこられたのでしょうか?泉:チームの存在が認識されたことで、聴覚障がいの方と知的障がいの方の交流試合が行われるようになったんです。横のつながりができたことで誘う機会が増え、知ってもらう契機になりました。千葉県3部リーグで戦っていることや、メンバーがデフサッカーのW杯に出場している経歴も含め、ちょっとずつ関心を高めることができた結果だと思います。■これまでに誰もやってない取り組みを行う原動力松田:今まで誰もやっていない取り組みを行なっている泉さんの原動力を教えて下さい。泉:自分はトップリーグでプレーしたかったという想いを持ちながら、夢を叶えられませんでした。ただ、自分の中では本気のチャレンジが自分なりにできたと思っているんです。目標には届かなかったですけど、その時に特別支援学校の教員をやるという夢もあり、その二つの本気の想いがあって新たなチャレンジに繋がる原動力になったと感じています。やりたい事を本気でチャレンジしたからこその経験が、自分だからできる楽しさや、新しいチャレンジをして新しい人と出会う楽しみになりました。自分の想いを形にできた時の喜びもモチベーションになっています。■自分と特徴が違う人に対して最初から違和感を持っていなかった松田:障がいのある人にいきなり向き合うことはそう簡単ではないと思いますが、向き合う上で影響を与えた出会いなどはあったのでしょうか?泉:自分の祖父が車椅子を使って生活をしていたからなのかもしれません。徐々に神経が麻痺する病気を患っていて、体が動かなくなる姿を見てきました。母がそれを介護していたんですが、祖父の繋がりで子どもの頃に失語症の人たちのコミュニティーで遊ぶ機会があったんです。なので、自分と特徴が違う人に対して最初からそんなに違和感は持っていませんでした。教員の勉強をする中でも自分の行動が誰かのためになるという喜びを学んだのですが、人生の中で実際に感じてきたからこそ、今の選択をしているのだと思います。■最初はインサイドキックもできず「辞めたい」と言っていたメンバーが......松田:デフィオやチャレンジフットサルを通じて、一番嬉しかった経験談を教えて下さい。泉:一番は市川大野の特別支援学校のサッカー部から上がってきたメンバーの成長ですね。彼らは知的障がい者なのですが、最初はインサイドキックができない状況で入ってきて、「辞めたい」「辛い」と言いながらも、なんとか続けてくれました。どんなメンバーでも良さがあります。「それぞれが特徴を生かして、チームの勝利に挑戦する」という言い方をよくするのですが、そのメンバーが得点を取って3部リーグの試合に勝つことができました。その時が一番嬉しかったですね。今思い出しても泣きそうになるんですけど、本当に嬉しくて、彼が頑張ったこともそうなのですが、周りのメンバーも認めてくれたんです。できることを信じてくれて、仲間も生かしてくれた。それで得点が取れて勝てた。なので、障がいの有無に関わらず、お互いの良さを高めていけると感じました。それを感じた瞬間が一番嬉しかったですね。松田:できないことにフォーカスするのではなく、できることにフォーカスしてお互いが理解して戦う。そこは障がい者サッカーにあって、健常者が忘れているところなのかもしれませんね。泉:多様性を強みにまで昇華させられれば、デフィオの価値が上がるというか、存在意義がもっと出てくるはずです。アプローチの方法を示し、違いを受け入れて戦うことができる点を証明したい。そこまで魅力を高められれば良いですね。■多様性を活かし勝利を追求していくバルドラール浦安デフィオの監督兼選手として活動する泉洋史さんチームの活動や今後の展望を語ってくれました(C)松尾祐希松田:今抱えている課題や将来に向けての目標はありますか?泉:デフィオは勝利を目指すという目標に関して言えば、3部でなんとかやっている段階です。まだまだ多様性を強さに発展させられてはいないんです。障がいのあるメンバーがゴールを決めた。数試合勝利できた。などはありますが、県リーグ3部の中で継続的に勝利し、2部への昇格争いはできていません。多様性を強さに変えていければ、一般のチームに対しても魅力溢れるチーム作りのロールモデルになっていけると考えています。現在はなかなか勝てていませんが、、ブレずに多様なメンバーと共に勝利を目指していきます。
2022年02月14日「JFAグラスルーツ宣言」に賛同するチームを認定し、つながりを作ることで、グラスルーツの環境改善を目指すJFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度。引退なし、補欠ゼロ、障がい者サッカー、女子サッカー、施設の確保、社会課題への取り組み、という6つのテーマに、それぞれ賛同するチームが認可を受けています。今回グラスルーツ推進グループの松田薫二さんと荒谷潤さんがお話を聞いたのは、千葉県浦安市に拠点を置くフットサルチームバルドラール浦安デフィオの監督兼選手として活動する泉洋史さん。グラスルーツ推進パートナーとしてどんな活動をしているか伺いました。(取材・文:松尾祐希写真提供:バルドラール浦安)チャレンジフットサルでの集合写真(提供:バルドラール浦安)<グラスルーツ推進6つのテーマ>■障がいのある子たちを主体としたチャレンジフットサルなどの活動も松田:バルドラール浦安の下部組織としてデフィオは活動されていますが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。泉:私たちはインクルーシブのチームとして活動しています。2014年に立ち上がったチームで、今は聴覚障がい者、知的障がい者、精神障がい者、視覚障がい者、健常者が在籍しています。その中で私たちのチームは主に2つの活動を行っています。1つ目は健常者のリーグにチャレンジする競技活動。2つ目は障がいのある子どもたちを主体としフットサル教室を主催する社会貢献活動です。私たちは競技と社会貢献の両方をやっていきたいと考えています。■チャレンジしたくてもできない状況があった2014年のチーム立ち上げ当初(提供:バルドラール浦安)松田:なぜデフィオやチャレンジフットサルの取り組みをされようと思われたんですか?泉:障がいのある方がチャレンジしたくてもできない状況があると知ったからです。聴覚障がいの方がプレーするデフサッカーの存在を知り、一般的な健常者のチームではなかなか馴染めないという声や、健常者のリーグにエントリーしたくても耳が聞こえない理由で受理されない事例があったみたいなんです。そうした現状を変えたいという気持ちでチームを立ち上げました。また、元々自分はバルドラール浦安のセカンドチームでトップ昇格を目指してプレーしつつ、特別支援学校の教員免許を取るために学校へ通っていたんです。そこで耳が聞こえない友人ができ、それがきっかけで聴覚障がい者のフットサルがあるというのを知りました。バルドラール浦安でトップチームを目指してやっていく夢を追いながら、仕事では特別支援学校の教員になりたい。自分が持っている二つの夢が合わさった世界があるかもしれないと気が付き、そこから関心を持つようになったんです。いろんなイベントに足を運び、チャレンジがしたくてもできない人がいることを知りました。今後の活動目標として、障がいがある人と健常者が一緒にプレーできる場をもっと作りたいと思うきっかけになりました。■聞こえる人、聞こえない人をセパレートしたら意味がないと思った松田:その中でバルドラールの下部組織としてチームを作られたのはどういう経緯だったのでしょうか?泉:実はバルドラールでチームを作ろうとは思っておらず、イベントで知り合った方々と一緒に、チームを作ろうという構想を立てていました。ただ、タイミング的にはFリーグでの挑戦を終えてからと思っていました。しかし、引退を決めた時にトップチームのコーチ就任を打診され、チームを立ち上げるのであれば、このコーチの経験が活きると思ったので、1年間やらせてもらいました。そこで経験を積んだので、いよいよチームを立ち上げようとなった時にその想いをクラブの方に伝えたら、浦安で立ち上げないかと言ってもらったんです。松田:バルドラールのどなたと話されたのですか?泉:バルドラールで当時監督をやっていた岡山さんと話していく中で、今経験していることを活かし、障がい者スポーツとフットサルが連携できるチームを作りたいと相談しました。そこで賛同を得て、最初は東京などで立ち上げる話をしていたんです。そこから塩谷社長とお話する機会がありました。自分としては障がいのある方がチャレンジできる場を作りたかったし、クラブとしてもFリーグのクラブとして社会貢献を行うメリットがあると考えていました。素人みたいなプレゼンだったかもしれませんが、社長に伝えたらやってみるかといってもらえました。ただ、チームを立ち上げていく中で、自分としてはデフメンバー主体としつつ、いろんな人が関われる場にしたいという想いがあったんです。もちろん、デフの人だけにしても良かったのですが、セパレートしたら意味がないと思っていました。ただ、聞こえる人はあくまでサポートとしての位置付けで、デフの人が主体になるチーム。そこからさらに高みを目指せるチームをイメージして作りました。■「健常者と戦う所に価値を求めている」正直な気持ちが受け入れられた松田:現在、デフィオは健常者とともに千葉県リーグの3部に所属しています。参加するための過程はかなり大変だったのでは?泉:そうですね。自分は前例を調べ、どこで断られたとか、どこでうまくいかなかった理由を聞いていたので、申請が通らない可能性があると思っていました。ですが、エントリーをして代表者会議があった時に、「実は僕たちは耳が聞こえないメンバーが大半で、コミュニケーションの部分で工夫が必要なチームです。健常者と一緒に戦うところに価値を求めているのでお願いします」という気持ちを話させてもらったところ、拍手をもらったんです。自分としては「なにそのチーム?」って思われると考えていたのですが、後から考えれば、バルドラール浦安の中にチームを作らせてもらったことも大きかったと感じます。皆さんが全く知らないチームではないので、スムーズにエントリーできたのかもしれません。■聞こえないことでの工夫を、「こうすればできるんだ」というチャレンジとして見せたい松田:実際に健常者の人たちと同じリーグを戦ってみての難しさはありましたか?泉:リーグに加盟した当初、ホイッスルが聞こえづらいのに一緒にできるの?という疑問を持たれていたんです。他のチームの方などはあまり言葉にされていませんが、実際にはあったと思うんです。でも、デフのメンバーはプレーを見て判断できますし、聞こえていなくても周りがサポートをしてきました。聞こえていなければ、ベンチから身振り手振りでサインを送ったり、手話も使って伝えたんです。一見大変に見えるところをデフィオなりに工夫してきました。やっぱり、健常者と同じステージで戦うことに価値がある。一般の人にこうすればできるんだとか、こんなチャレンジがあるんだと思ってもらいたいんです。僕自身も最初はこのチャレンジを躊躇していましたが、自分たちを見て新しいことを始めるきっかけにしてくれたら嬉しいですね。なので、リーグ戦を戦う上で色んな壁に当たりましたが、常にポジティブに考えて難しいことも工夫して乗り越えようという想いで取り組んでいます。■試合で笛を吹く際は、サポートできる体制をとっている松田:例えば、リーグ戦ではチームから第1審判以外のレフリーを出す必要があります。そこはどのようにされていたんですか?泉:デフィオのメンバーも審判の資格を取りに行きました。知り合いを通じて、講習会に手話通訳の方に来てもらい、補助することで審判資格を取得してもらいました。実際に試合で笛を吹く際は、自分も近くにいて、何かあったらサポートする体制を取っていました。3部の場合は第2審判と第3審判とタイムキーパーを努めますが、フットサルは第1審判と第2審判でジャッジをするので役割は大きいです。難しい部分もありますが、一緒の条件でオフィシャル業務も行っています。
2022年02月08日スポーツの現場から中々無くならない、暴力・暴言などの威圧的指導。サッカー少年少女の保護者の皆さんも関心が高い問題ですよね。日本サッカー協会(以下JFA)では、2013年に暴力根絶宣言を行い、相談窓口の設置をはじめ指導者養成講習会などでの啓発など、サッカーの現場から暴力を無くす活動を行っています。サッカーに関わるすべての人が安全にサッカーを楽しむことができる環境を作り出すため、そして差別・暴力問題を未然に防ぐための啓発活動や顕在化した問題への対応を行うために2015年からは「ウェルフェアオフィサー」の制度を開始しています。【関連記事】サッカー界から暴力、暴言、ハラスメント根絶のためにJFAが行うコーチへの指導■ウェルフェアオフィサーの役割サッカーを楽しむサッカーファミリーの安心、安全を守り、より快適なサッカー環境の構築リスペクト・フェアプレーの伝道者① リスペクトやフェアプレーを啓発、促進② 暴力、差別等の予防活動(問題の顕在化を未然に防ぐこと)③ 諸問題対応④ 司法機関や諸関連組織への橋渡し役■ウェルフェアオフィサーのカテゴリー① ウェルフェアオフィサー(ジェネラル)② マッチ・ウェルフェアオフィサー※主に競技会におけるリスペクトの周知・啓発、暴力・差別予防③ クラブ・ウェルフェアオフィサー※主に所属クラブでの啓発、クラブ内研修など開催■オンラインワークショップを開催10月17日には、オンラインでウェルフェアオフィサー(ジェネラル)のリフレッシュ(更新)研修会が開催され、集まった有資格者の皆さんは、JFA暴力等根絶相談窓口の現状報告や、セーフガーディングワークショップを通じて、改めて、指導現場の暴力・暴言・ハラスメントについて学びを深めました。JFAからの報告によると、近年直接的な暴力指導の報告は減っているものの、その分暴言や威圧的な指導の報告が増えており、報告の約8割が18歳以下のカテゴリーだとのこと。叩く、蹴るなど目に見える暴力には指導者も敏感になっているようですが、相手を傷つけるようなひどい言い方や、委縮させるような発言など精神を追い込む行為が増えている模様です。審判への威圧的な暴言や、失敗した選手への罵声等もまだまだ見受けられる一方で、そうした状況に即座にそして適切に対応するためには知識と経験が必要です。この辺りの課題は、今後も情報発信を続けることや講習会を増やすなどの対策で、自信をもって活動できるようにサポートしていくとのことです。■JFAとしての取り組みJFAリスペクト・フェアプレー委員会委員長の山岸佐知子さんは、今後のプロモーション強化として、JFAセーフガーディングポリシー(※)を浸透させ、ウェルフェアオフィサー活動を充実させること、U-12年代の全国大会でのグリーンカード活用推進や参加チームに「RESPECT」のキャプテンマークをつけていただくことなどを進めていく予定だと報告しました。また、同委員会委員の松崎康弘さんは、「セーフガーディングのポリシーは、子ども達を守り、エンパワーする(=本来持っている力を引き出し、自信を持たせる)ためのものである」と説明しました。そのうえで、プレーヤーの安心安全環境は、指導者だけに課された問題ではなく、子ども達を含む当事者たち皆の意識改革が必要だとし、JFAは暴力暴言・差別やハラスメントなどあらゆる問題を許さないと発表されました。※セーフガーディングとは、18歳以下の子どもたちや社会的弱者を、肉体的、精神的、心理的、性的虐待から守り、安心安全を高めることをまとめたプログラムで、各国が参考にしている。■広島県の好事例を共有都道府県FAの中で、良い取り組みをしているとして広島県FAの勝山正比呂さんから活動が参加者に共有されました。広島県FAではウェルフェアオフィサーの理念を浸透させるために「ウェルフェアオフィサー委員会」を組織し、ウェルフェアオフィサーをすべての種別及びカテゴリーに配置するよう計画的に人材養成を行っています。大会ではウェルフェアオフィサーシート(報告書)を共有し、本部テントには啓発用のイラストなどを描いたタペストリーを掛けるなどの活動を行って周知しているとのこと。また、現状2~4種年代のウェルフェアオフィサーはいますが、大学生、社会人、シニア、フットサルのカテゴリーにはいないので、この先の活動としてまずは社会人連盟と一緒に何かできないか模索したり、講習会の取り組みを強化することを検討していると勝山さんは教えてくれました。■小学生相手に人格否定をするような指導者も参加した都道府県FAの方にお話を伺ったところ、「子どもたちを守るためにウェルファオフィサーについて学ぼうと参加した」、「低学年では楽しむことを大事にしていた保護者も、高学年になると勝利を求め厳しくなる。サッカーはみんなが楽しめる生涯スポーツなので、ウェルフェアオフィサーの理念を理解してもらい、楽しめる環境にしていきたい」など、この日のウェルフェアオフィサー(ジェネラル)に参加した理由を教えてくれました。とある県では独自に通報ページを作成したところ、当該チームの保護者や対戦相手の関係者などから報告が届くことがある、という現状も明かしてくれました。直接的な暴力はないものの、子どもたちの人格を否定するような酷い発言も見られるそうです。最近では女子チームでのそういった指導も多く見られるとういことも語ってくれました。そのような実情を目の当たりにしていることもあり、「セーフガーディングの考え方はすべての指導者が知るべきだと感じます」と、今後は情報の共有や研修会の実施を増やすことに注力するとの展望を教えてくれました。■「暴力暴言指導はダメだよね」で思考停止してはいけないこの日ワークショップを担当したJFAリスペクト・フェアプレー委員でJFAインストラクターの眞藤邦彦さんは、「排除ではなく、自分に何ができるか、自分ごととして考えることが大事」と言います。ワークショップでは「わかる」を「かえる」に、をスローガンに掲げ、「暴力や暴言指導はよくないですよね」と理解する、わかるので終わりではなく、では「自分たちは何ができるか」と思考を変えることが安心安全な環境づくりの基本だとワークショップなどを通じて伝えているそうです。子どもたちには「考えてプレーをしなさい」と言っているのに大人は現状に甘んじて思考停止していませんか?指導者も含め、安心安全な環境でサッカーを楽しむためには、大人が思考停止せず考え続けることが大事なのだと眞藤さんはワークショップを通じて伝えていました。今後も研修会やワークショップを開催予定とのことですので、お住まいの都道府県のサッカー協会にお問い合わせください。
2021年11月11日日本サッカー協会(JFA)は「JFAグラスルーツ推進・賛同パートナーカンファレンス2021」を12月2日(木)、3日(金)、9日(木)、10日(金)の期間、オンラインで開催します。JFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度とは、「引退なし」、「補欠ゼロ」、「障がい者サッカー」、「女子サッカー」、「施設の確保」、「社会課題への取り組み」の6つのテーマがグラスルーツの環境改善を推進するキーファクターであると考え、それらのテーマに沿う活動に取り組む団体を賛同パートナーとして認定し、広く紹介することでその活動を後押ししようとするものです。本カンファレンスでは、賛同パートナーの方々が普段から取り組まれている活動を、全国のグラスルーツの現場で活動されている方々と共有し、各々の活動の一助となることを目的としています。また、賛同パートナー同士の交流の場としてご活用いただけますので、ぜひご参加いただき様々な情報を共有し、今後の活動の参考にしてください。■開催方式:オンライン会議システムを使用■開催日:2021年12月2日(木)、3日(金)、9日(木)、10日(金)■開催時間:19:00~20:50※12月10日のみ20:30まで■対象:グラスルーツ推進に関心のあるすべての方■定員:各回200名■参加費:無料(オンライン会議システムを利用上の通信費用などは自己負担)■募集期間:2021年11月9日(火)より12月7日(火)■申込方法こちらのフォームよりお申込み下さい。■各日プログラム19:00-19:10オープニング、挨拶、スピーカー紹介19:10-19:30プレゼンテーション①+質疑応答19:30-19:50プレゼンテーション②+質疑応答19:50-20:10プレゼンテーション③+質疑応答20:10-20:40交流タイム(小グループによる)20:40-20:50まとめ、クロージング<第1回12月2日(木)>19:00~20:50特定非営利活動法人FC岸和田 理事長河内賢一氏(大阪府岸和田市)・施設の確保、女子サッカー一般社団法人IMIZU Regional 代表理事窪哲志氏(富山県射水市)・女子サッカー、障がい者サッカー桶川QLS チーム代表築根英樹氏(埼玉県桶川市)・女子サッカー、補欠ゼロ<第2回12月3日(金) >19:00~20:50バルドラール浦安デフィオ 監督兼選手泉洋史氏(千葉県浦安市)・障がい者サッカー、社会課題への取り組みFC PORT 代表篠崎安志氏(神奈川県川崎市)・障がい者サッカー、社会課題への取り組みNPO法人ダイバーシティサッカー協会 代表理事鈴木直文氏(大阪府大阪市)・社会課題への取り組み<第3回 12月9日(木) >19:00~20:50アルクオーレ 広報担当渕上千春氏(東京都中野区・杉並区・足立区)・引退なしウォーキングサッカー・イン・ザ・サイレンス 共同代表日比秀則氏(東京都江東区、神奈川県横浜市)・障がい者サッカー、社会課題への取り組みチームSMiLEサラダ 監督長谷川健氏(神奈川県川崎市)・社会課題への取り組み<第4回 12月10日(金) >19:00~20:30株式会社パン・アキモト 専務取締役秋元信彦氏(栃木県那須塩原市)・施設の確保Amista FC 代表監督出頭聡洋氏(北海道苫小牧市)・女子サッカー、施設の確保各団体のプレゼン詳細はこちらでご確認ください>>■お問い合わせ先公益財団法人日本サッカー協会指導普及部JFAグラスルーツ推進・賛同パートナー係メールアドレス:jfa_grassroots_partner@jfa.or.jp
2021年11月10日日本サッカー協会(JFA)は、子どもたちが楽しく、安全に、安心してサッカーに打ち込めるようリスペクト・フェアプレー委員会を中心に様々な取り組みを行い、暴力や暴言、ハラスメントのない健全なサッカー環境の実現を目指しています。JFAでは毎年、Jリーグや各種連盟、地域・都道府県サッカー協会と協力し、スポーツの現場での差別や暴力に断固反対し、リスペクト(大切に思うこと)とフェアプレー精神を広く伝えることを目的とした活動を行っており、今年は9月10日(金)から19日(日)まで「JFA リスペクト フェアプレーデイズ2021」を設置しています。その一環で9月11日(土)、「JFA リスペクトシンポジウム2021~子どもたちの明るい未来のために」をオンラインにて開催しました。JFAの田嶋会長や現在JFAロールモデルコーチを務める中村憲剛さんが語った内容を紹介します。■田嶋会長「子どもたちが自由に笑顔でプレーができるようにしないとサッカーの未来はない」第一部の基調講演では田嶋幸三会長が、9/12(日)に開幕したWEリーグに触れ「女性の社会進出が日本はOECD(経済協力開発機構)の中で遅れている。サッカー界から変えていきたい」とコメント。そして「子どもたちが自由に笑顔でプレーができるようにしないとサッカーの未来はない。子どもたちの環境をプロテクトする。未来に責任を持つという事は、今いる子どもたちを大切にすることだ」と、子どもたちが安心してサッカーができる環境を守ると強く宣言。また、「サッカーは男性だけのものではない」とし、子どもや障がいのある方、LBGTQの世界にも門戸を開きたいという意向も明かし挨拶を締めくくりました。■FIFA「子どもを危害から守り、保護することは道徳であり法律」今回のシンポジウムでは、特に子どもを守ることに焦点が当てられており、FIFAのセーフガーディングマネージャー(※)、マリー=ロール ルミナーさんは、FIFAがどれほどに子どもがサッカーに親しむ環境を大事に考え、大人による暴言や暴力といったハラスメントを根絶させるために尽力しているかをスライドで説明。サッカーを愛し、プレーを続けるためには安全な環境を作ることが大事なことであり「子どもを危害から守り、保護することは道徳であり法律」であるとマリーさんは言います。また、ハラスメントの問題を根絶させるためには全員が当事者意識を持つことが重要であると強調しました。※セーフガーディングとは、18歳以下の子どもたちや社会的弱者を、肉体的、精神的、心理的、性的虐待から守り、安心安全を高めることをまとめたプログラムで、各国が参考にしている。■JFAはハラスメントに容赦なしの対処をするJFAでも、もちろん子どもを守る活動に力を入れており、担当者から暴力等根絶相談窓口の現状報告もありました。それによると、暴力暴言窓口への相談は2020年は109件でそのうちの47%が4種年代、内訳としては「暴言・威圧」が訳50%とのこと。近年は目に見える暴力は減少しているものの、その代わりに心にダメージを与えるような暴言や威圧の割合が増えています。これらのハラスメントに対して「ゼロ・トレランス」(容赦なし)で対処するというJFAセーフガーディングポリシーについて報告されました。今年5月にはトライアルとして「JFAセーフガーディング・ワークショップ」を開催。暴力、体罰はダメ!で思考停止するのではなく、子どもたちが笑顔でプレーするために自分たちに何ができるのか、を考える場を設けたそうです。この取り組みは始まったばかりですが、今後も継続して続けていきたいと発表がありました。■中村憲剛さん「自分が受けた指導を繰り返す指導者がいる」現在JFAのロールモデルコーチを務める中村憲剛さんが参加したパネルディスカッションでは、子どもたちを守るために大人はどうすればいいかが話し合われました。「暴力暴言指導は受けたことがない」という中村憲剛さんは、自信のサッカー人生を振り返り「指導者たちはサッカーが楽しめるようにしてくれた。子どものころから強制されることのない、主体的に取り組める環境で育ったから40歳までプレーできたと思う」とコメント。現在は指導に関わることも増えてきて、他の指導者を見て「自分が受けた指導を繰り返してしまう人もいる」という事を実感することもあるそう。子どもを守る、という当たり前ができていない人もいるという現状の課題はあるけれど、自分自身は子どもを守る大人になりたい、と意思を明かし「僕自身もこの活動をより多くの指導者、保護者に広めていけるように、みんなで一緒にやっていきたい」と意気込みを語ってくれました。FIFAのセーフガーディングマネージャーのマリーさんは、JFAの子どもを守る取り組みを、「十分にやっている」と高く評価。日本の取り組みもまだ完ぺきではないとしながらも、できることをやっていくことが大事として、「この取り組みを継続してください。FIFAはJFAをサポートします」と力強く宣言し、会を締めくくりました。
2021年09月13日リーダーシップというと、以前は付いて来い!という強い人物像を描きました。今は仲間と協力しあえる、人のことを気遣うことができる、フォローし合える人のことだとサカイクキャンプのライフスキル講習では伝えています。サカイクキャンプではリーダーシップとは「相手の立場に立って行動できること」を念頭に子どもたちと接しています。キャンプを過ごす中で子どもたちがどう変わるのかを菊池健太コーチに聞きました。(取材・文:前田陽子)サカイクキャンプで選手同士話し合う姿■強いキャプテンシーから気遣いの人へ。リーダーシップ像が変わった「リーダーシップ」というと保護者世代のみなさんは、強い精神でみんなを引っ張る、組織の上に立つといった、強さや行動力、対人コミュニケーションに長けた人だとイメージする方もいるかもしれません。サッカーでいうと、うまい子がキャプテンのように指示を出すようなことを考えるかと思いますが、じつはサカイクキャンプに参加する子たちは、自分から前に出て思いを伝えることが苦手な子が多いのだと菊池コーチは言います。元日本代表の中田英寿さんや本田圭佑選手のような、強い意志で選手を鼓舞するようなリーダー像もありますが、現在のリーダーシップは協力し合え、人のことを気づかうことができ、互いをフォローし合える人だとサカイクキャンプのライフスキル講習では伝えています。1人でみんなを引っ張り、重責を一身に担うのではなく、自分の得意分野は精一杯頑張って、不得意なところはできる子に任せて協力して勝利を目指す、そんな人が現代のリーダーシップと考えているのです。元鹿島アントラーズの内田篤人さんも「プレイ中の気配りが大切」だと言っていましたが、近年はJFAのトレセンでも同様で足元の技術だけでなく、気配りのできる子が評価されています。菊池コーチはこんなエピソードを教えてくれました。以前、サカイクキャンプの練習中にコーチやトレーナーさんが重いジャグを抱えているのを手伝ってくれた子がいたそうです。その子はピッチの中でリーダーシップをとるような子ではなかったそうですが、そういうことも素晴らしいいリーダーシップだとコーチたちは考えているのだそう。「相手の立場に立って行動してくれることもリーダーシップだよ」と、みんなの前で伝えるとその子は嬉しそうな表情を見せ、同時に自信もついたようだったとコーチは振り返ります。自発的に行った行動を褒められ、認められて、「こういうこともリーダーシップなんだ」と気が付いたその子は、以降の練習中も少しずつ声が出せるようになったそうです。■思いは伝えなければ、伝わらない。そのために自信をつけるもちろん旧来の「言葉や行動でみんなを引っ張るリーダーシップ」も発揮できればいいのですが、できない子の方が圧倒的に多いものです。思いはあってもどう伝えたらいいのかわからないのです。でも、大人やまわりの人が行動や言葉を認めて評価することで、自信が付きます。そうすると自信をもってプレイができて、自信をもって話せるようになると菊池コーチ。些細な事でも認められる、受け入れられることで、その自信が人に思いを伝えることの糧になるのだそうです。ですが、すべてを褒めたたえればいいのではなくメリハリが必要なのだそう。「褒めて伸ばすことはいいと思いますが、今の子はどんなプレーでも褒められているので、その子の『特にいいところ』を指導者に伝えてもらっていないように感じます」と語るコーチ。「幼少期から始める子が多いので何となくサッカーはうまくできている子は多いです。キレイにボールもつながるし、サッカーの形はできています。けれど、そういった足元の技術だけでなく自分の考えを持ってプレイの意図は何なのか、『僕はこうしたい』ということを伝えることがサッカー選手には大切だと考えます。それを伝えることで仲間からも意見が出て、前向きな話にしようというコミュニケーションになります。リーダーシップもそうですが、まずは自分の思いを伝える力が大事だと思います」と、サッカーではボールコントロールだけではなく、自分の考えを伝えることが重要なのだと教えてくれました。■自分を知ることで自信がつき、積極的にプレイできるようになるサッカーの技術向上と自信はリンクします。サカイクキャンプでは、例えば守備の時に、積極的にボールに向かって行けたことを良かったと認めたうえで、「行き過ぎると抜かれるから、どこまで追うかタイミングがポイントだよ」などと具体的なことを示すそうです。すると子どもは、まず褒められたことで自信が付き、きちんと話を聞く耳が持てます。「頭の中で理解してトライ&エラーで続けてもらい、うまくいったところで褒めます。そこ子の判断を認めて、そのうえでチャレンジしようと言い続けることが大事」だと菊池コーチ。サッカーはミスの多いスポーツなので、ミスは当然あるもの。たくさんのトライ&エラーが子どもたちに自信を与えることができるのです。ライフスキルをキャンプに導入するにあたり、コーチたちはまず学ぶことからスタートしたそうです。どうしたら子どもたちが心からサッカーを楽しめるんだろう、どうしたらいきいきした顔で過ごせるのか、子どもたちが考えながらプレイするようになるのか、どういう風に声をかけると子どもたちにわかりやすいのか、その辺りの考えを深めていったのだそうです。以前はコーチたちそれぞれの感覚でやっていたことが、ライフスキルプログラムで共通認識ができたので、指導の中で同じワードが出てくるようになりました。そのおかげで、子どもたちも迷いなくキャンプを楽しむことができるようになったと感じるそうです。「今の子はみんな技術がすばらしい」と技術面で以前よりうまい子が増えているとコーチは言います。真似をすることが得意で、動画で見ているのかリフティングなどは低学年の子でも放っておいたらずっとやっているそうです。ですが、キャンプが始まってサッカーをやったらうまくいかない子も多いのだとか。リフティングなど、ひとりで行う自分の世界ではうまくても、サッカーは人と関わって成立するスポーツなので、足元でボールを扱う個人の技術だけでは不十分なのです。チームメイトがいて、対戦相手の仲間がいて、みんなで意見を出し合い勝ちに向かって協力する、本来のサッカーをサカイクキャンプで体験することができます。自分で考え行動すること、上手くいかなくても再度チャレンジする姿勢、周囲の状況を理解し、自発的に協力できることは、サッカーのプレーにもつながっているのです。家では親に甘えてしまって、指摘されるとふてくされてしまう子も、大好きなサッカーを楽しみながら過ごすキャンプでは、同じことをコーチに指摘されても素直に聞く耳を持てたりするもの。サッカーも普段の生活でも一回り成長してほしいなら、この機会にサカイクキャンプに参加させてみませんか?
2020年12月07日サカイクキャンプ独自のカリキュラム、サッカーを通じて社会を生きる力を育む「ライフスキル」プログラム前回はサカイクキャンプで身に付くライフスキルの中から「感謝の心」と「コミュニケーション力」を中心に菊池健太コーチにお話しを聞きました。いずれもピッチ上ではもちろん、学校など普段の生活でも必要な力です。具体的な言葉や方法を示すのではなく、自分で考えさせる伝え方をすることで、感謝の心とコミュニケーション力を引き出しつつ、考える力も同時に身に付けられます。(取材・文:前田陽子)サカイクキャンプでは練習中や試合のハーフタイムに子どもたちどうしで「何ができるか」「何をすればいいか」を話し合う機会がたくさんあります<<足元の技術習得より「ごめん」「ありがとう」が言える、人を気遣えることがサッカー上達につながる理由■サッカーができるのは親のおかげ。子どもたちはそう思っていますサカイクキャンプではまず「サッカーは何人でするスポーツ?」と聞きます。そして「誰がいるからサッカーができると思う?」と。すると子どもたちは「親」と口を揃えます。普段子どもたちが親に対して「サッカーをできること」についてお礼を言うことは少ないと思いますが、本当はちゃんと感謝しているのです。でも、気持ちは言葉に出して伝えなければ相手に伝わりません。サカイクキャンプのライフスキル講習では、伝えることの大切さも話しているので、キャンプから帰った時に親御さんに「ありがとう」が言える子になっているはずです。次に、サッカーをできる理由を問うと、一緒にプレーする仲間や審判の声が上がります。子どもたちは相手チームのことを敵と言いがちですが、敵ではなくサッカーをする仲間です。「相手がいないとサッカーはできないから、相手選手だよね」と話します。相手選手をリスペクトすることも感謝の心に通じます。相手選手と同時に大切なのがチームメイトです。子どもたちの中でもどうしても上手い下手で優位が付いてしまい、うまい子が全体を仕切ってしまうことがよくあります。その際には「サッカーを楽しむ権利は全員が持っている。唯一それがみんなに均等にあることでそれを奪う事は許されないことだよ」と伝えるそうです。「下手だからチームに入れないとか、Bチームだからあっち行っていろとか。少なからずまだこういう態度があるので、それは絶対にダメなことで、してはいけないことだ」ということをきちんと理解できるまで伝えると菊池コーチは教えてくれました。サカイクキャンプは、初めての子からトレセン活動の子まで誰でも参加できます。できる子に「サッカーはみんなで楽しむスポーツだから、誰かのミスをカバーしてあげることが大事。誰かのミスをつついているようでは勝つことはできないよね」と声をかけると、「よし、やろう!」と士気が高まることも多いのだとか。中には「あいつのミスじゃん、なんで俺がカバーしないといけないの」といった他責的な発言をする子もいるそうですが、「サッカーがうまい子は、このキャンプ以外の場所にもたくさんいて、その時々によっては君も"上手じゃない方"になるかもしれない。その考え方は間違っているよ」ということを言い聞かせるそうです。そして、そういった子をわざとうまいチームにいれてみたりするのだそう。そうるすことで考え方を変えてほしいし、サッカーの本質を理解してほしいと考えているからだと菊池コーチは言います。■コミュニケーションは"目的のために前向きな話をする"こと試合中に声を出してコミュニケーションを取ろうと言われても、どんな声かけがいいのか、どうしたらいいのか分からない子が多いのが現実です。「どんなコミュニケーションがあるの?」と聞くと、どうしても言葉にすることが多く出てきます。今年は新型コロナウイルスの影響で難しいですが、ハイタッチや抱き合って喜んでいるシーンなどの写真を見せて「これもコミュニケーションだよね」とコミュニケーションの方法は様々あることを伝えています。サカイクキャンプのコーチたちが考えるコミュニケーションは、目的のために前向きな話をするということ。何でもかんでも伝えていいよとなると、「おまえちゃんとやれよ」「今のボール取りに行けよ」「シュート決めろよ」など味方にダメ出ししてしまいがち。これもコミュニケーションのひとつと言えるかもしれませんが、後ろ向きでマイナスなこと。前向きな話をすると雰囲気も良くなって結果も良くなります。ですが、その際に具体的な言葉を教えることはありません。サカイクキャンプでは、試合のハーフタイムには必ずコーチたちが「どんな話をしようか」と声をかけます。負けているとマイナスな言葉が多くなるので、「うまくいかないなら逆転するためにどうすればいいだろう、何ができるかを話すといいよ」とアドバイスをすると前向きな会話が増えてくるそうです。ですが、残念なことに負けているとどうしてもあら捜しになってしまい、ダメだったところを見てしまう子が多いのだとか。子どもたちは、普段接している人が話しているように言うのでしょうね、とコーチたちは見ています。子どもたちが発する言葉を聞くと、「チームで結構厳しく言われているんだろうな」とか、周囲に前向きな言葉をかけられる子は「チームでもいい声をかけてもらっているんだな」というのはわかるものだそうです。子どもは体験からしか言葉が出ないので、周囲の会話の質が自然と身に付いてしまいます。親御さんたちにもいつもどんな言葉をかけているのかを、振り返ってもらえるといいかもしれません。キャンプでは「伝える」ことを大事にしていますが、それは声に出すことだけではありません。時に目線やしぐさ、アイコンタクトでのコミュニケーションをとることもあります。コーチから子どもたちへ親指を立てて「今のプレーはグッドだよ」とジェスチャーも。どの子もグッドサインを出してもらえると嬉しくて笑顔になるものです。高学年になるとコーチがしていることをマネしてくれるなど、コミュニケーションのレパートリーも増えていくことも多いそうです。■環境ができれば、子どもたちは自然とコミュニケーションをとるようになるキャンプで泊まる宿舎は、他の利用者も泊っています。施設内でほかの利用者に出会った際や施設の方へ「おはようございます」「こんにちは」など、コーチたちが積極的にコミュニケーションをとるところを見せることで、子どもたちも自然とあいさつができるようになるそうです。感謝の心にも通じますが、宿舎の人へ「ありがとう」が言えるのはとても喜ばしい光景です。うまくいかない事に対して前向きな意見を言うなど、自分のチームの戻ってからも発言できることを期待しているとコーチは言います。サカイクキャンプに来た時は引っ込み思案でもじもじしている子もたくさんいますが、3日間で確実に変わるそうです。子ども同士が慣れてくるというのもありますが、初日と最終日では全く違う表情、態度になると言います。最終日はずっと一緒にやっていたチームのような雰囲気になり、住所を交換して年賀状のやり取りをしたりする子たちもいるそうです。コミュニケーションは無理やり取らせるものではありません。どんなことをしたらいいかというヒントを与えてあげることが大事だと菊池コーチは言います。大人が環境を整えてあげれば子どもたちは自然とコミュニケーションが取れます。ですので、子どもがいろんな人とお話するようにあれこれ口をだしたり、演出してみたりする必要はありません。大人はあまり介入しないことが一番だとサカイクキャンプでは考えています。<<足元の技術習得より「ごめん」「ありがとう」が言える、人を気遣えることがサッカー上達につながる理由
2020年11月24日サカイクキャンプ独自のカリキュラム、サッカーを通じて社会を生きる力を育む「ライフスキル」のプログラムでは、子どもたちが生きていく中で必要なスキルとされる「考える力」「リーダーシップ」「感謝の心」「チャレンジ」「コミュニケーション」の5つの力をサッカーをしながら学べます。親御さんたちもライフスキルの概念に賛同してご参加いただいている方も多いのですが、では具体的にライフスキルが高まるとサッカーにどう影響するのか、まではいまいちよくわからない、という方もまだまだ多い様子です。そこで今回は、子どもたちを指導しているサカイクキャンプの菊池健太コーチに「ライフスキル」とはどういうものなのか、子どもたちがどう成長できるのかを聞きました。(取材・文:前田陽子)サカイクキャンプでコーチの話に耳を傾ける子どもたち■ピッチ上で仲間をフォローできる人が求められている以前は足元の技術など個人技を磨くことが推奨されましたが、今はチームにいかに貢献できるか、チームのためにプレイできるかが求められる時代。そのためには、一緒にプレイする仲間を知り、自分のことを仲間にわかってもらう必要があります。そこで必要になるのがライフスキルです。ピッチ内外で考え、サッカーができることに感謝し、いろいろなことにチャレンジして、コミュニケーションを取り、リーダーシップでチームを導く。技術の習得に比べて、パッと見て変化がわかることではありませんが、ここを磨くことで技術も向上していくのです。JFAでも"判断も含めてテクニック"と言っています。育成年代の選手たちに求めるスキルとして「仲間をフォローすることができる選手」を高く評価するとも言っています。元日本代表の内田篤人さんも、その判断力の早さ、仲間との連携意識やプレーの正確性に定評がありました。サカイクキャンプではこれからのサッカーや人生に必要なライフスキルを知り、体感することができます。■サッカーというスポーツの本質を知る「チームプレイであるサッカーは、勝つことを目的に仲間同士が互いをフォローするもので、それがサッカーというスポーツでフォローし合うことが当たり前であることを子どもたちに伝えています」と菊池コーチ。すると自然とミスをフォローするプレイが増えていきます。自分のタイミングでボールを蹴っていた子が、コミュニケーションを知ると仲間を思ったパスが出せるようになります。俺が活躍すればいいという、独りよがりのプレイが減っていくのです。サッカーはミスのスポーツであり、助け合いが必須です。ミスをしたら「ごめん」と謝ること、味方がフォローしてくれたら「ありがとう」とお礼を言えること。その瞬間に口にすることは難しくても、普段からごめんなさい、ありがとうが言える習慣が身に付いている子は、ピッチの中でも助けてもらいやすかったりして、結果として試合が上手く回るのです。親御さんたちはどうしても個人技のところに注目してしまい、何点取った、何人抜いたで褒めたり残念に思ったりしますが、子どもたちの中には目立たないけれど丁寧なパスが出せたりする子もいて、そんな子はとても技術が高いとコーチたちは評価します。菊池コーチは「足元の技術は後からついてきます。ボールを扱う技術は大事ですが、丁寧さや気遣いができる選手はすごいんです」とも。一概に技術と言っても個人のものとチームの中でのものの2種類があります。もちろん、どちらも伸びるといいのですが、まずはサッカーの本質であるチームプレイを学ぶことが小学生年代には大切だとサカイクでは考えています。■キャンプに参加することが、チャレンジの第一歩キャンプは初めての場所、初めての友達、初めてのコーチ。泊りで行くのは子どもにとってすごく大きなチャレンジです。これは大人でもなかなか難しいこと。まずはキャンプに行こうと決断した子どもの勇気を褒めてあげましょう。その上で、キャンプへの持ち物は自分で何が必要かを考えて判断させて持たせてください。サカイクキャンプでは支度から子どもに任せてほしいという思いもあり、細かく持ち物を提示していません。3日間必要なものを自分で考えてほしいのです。寒い時期ならピステ持ってくる子もいますし、洗濯するから少しでいいという子もいます。そういう様子を見ていると親御さんは手をかけずにやってくれているなと思います。反面、「一日目の上はコレ、下はコレ」とセットしたものを持ってくる子もいます。親御さんなりの子どもへのサポートかもしれませんが、そういった子は柔軟な発想ができず、2日目に雨が降ったりして、翌日分(キャンプの最終日)を着替えに使うと、最終日の朝に「もう着る服がない」と大騒ぎすることもあるのだとか。子どもたちが準備した上での忘れ物はコーチたちは想定済みです。シャンプーや洗剤などの細かなものから、サッカーに必要なボールなどもサカイクキャンプでも準備しているので、忘れ物をしても安心してください。もちろん、忘れ物をしない方が良いのですが、忘れてしまったときにどうするかが大事で、その過程をコーチたちはどう解決していくかを見守っています。レガースやソックスなど借りれるものならチームメイトに「貸して」と言えること、チームメイトが忘れ物をして困っていたら「貸してあげようか」と提案できること、そういったお互い助け合って協力することが大事なのです。そのようなことが自然にできるようになると、例えばボールを奪われそうな時など、ピンチの際に仲間にヘルプを求めること、味方がピンチの時は自分が助けに行くことなど、サッカーの動きにもつながっていきます。ピッチの外での行動が変わるとピッチの中の行動も変わります。ライフスキルが身に付くと、技術も伸びてくるのです。■キャンプに来た子どもたちは、必ず成長しますサカイクキャンプに参加する子には、すべてにおいて、自分で考えて行動できる子になって欲しいとコーチたちは考えています。サッカーもコーチや周り仲間に何かを言われてプレイするのではなく、自分の判断でプレイを選択できる子になってほしい。いずれ社会に出てからも自分の意見をしっかり持って、自分で考えて判断ができる、そんな子になってくれたらと思っています。そのために小学生の間はサッカーは自由で楽しいと感じてもらいたい。中学高校に行けば自然とサッカーも厳しくなり、社会人になれば仕事もしなくてはなりません。なので、根底に楽しさ、仲間と協力するすばらしさを蓄えてほしいと考え、コーチたちは子どもたちと接しています。
2020年11月17日サッカーをする子どもたちや保護者にとって、興味の対象である「トレセン」について、日本サッカー協会(JFA)ユース育成ダイレクターの池内豊さんに話をうがかいました。インタビュー後編では、トレセンの意義やオフ・ザ・ピッチでの取り組みなどをお伝えします。(取材・文:鈴木智之)日本独自の制度「トレセン」の意義とは(写真は少年サッカーのイメージ)<<前編:トレセンは日本代表への切符?どんなスキルを重視しているの?日本サッカー協会に聞いた最新トレセン事情■トレセンは日本独自の活動なぜ海外にはトレセンがないのか池内さんはトレセンの意義について、まずはこう話します。「トレセン活動の意義として、拮抗したレベルで練習や試合ができることがあります。子どもたちに『お山の大将』で満足しないように刺激を与え、勝ちか負けかどちらに転ぶかわからない相手と試合をする中で、『どうすれば、相手を上回ることができるか?』を考えるようになります。その環境を用意するのが、トレセン活動の意義のひとつです」上達のためには、レベルの拮抗した相手と試合やトレーニングをすることが必要です。その環境があれば、子どもたちは自ら考え、成長するための努力に視線を向けていきます。「ヨーロッパには、シーズンを通したリーグ戦があり1部、2部、3部とカテゴリーに分かれていることで選手のレベルに応じたリーグに参加できる環境が整っています。そして、一番上のカテゴリーである1部のクラブに、質の高い選手がいます。日本も育成年代にリーグ戦を導入し始めましたが、クラブのカテゴリー分けも含めて、整備している途中です。そのため、色々なチームに良い選手がいます。そこでトレセンを活用し、選手の発掘や刺激を与える場としています」池内さんは「ドイツには、日本のトレセンを参考にした活動がありますが、それ以外の国には存在しないと思います」と話し、その理由を「育成はクラブでするものという考えがあるからではないでしょうか」と言います。日本のジュニア年代では、リーグ戦を最優先ととらえないクラブも多く、ヨーロッパのように、リーグ戦を中心シーズンが進んでいく文化が浸透していないのが現状です。シーズンを通して、レベルが拮抗した相手との試合ができれば、一番の強化になるのですが、トーナメント形式をベースとした大会が多く、リーグ戦がカレンダーの中心になっていない以上、トレセンという日本独自の活動が広まってきたことも合点がいきます。■トレセンで実力を存分に発揮するための準備日本サッカー協会としても、トレセンをさらに有効活用できるように、リーグ戦の導入と平行して、トレセンの整備にも取り組んでいるようです。「これまで、トレセンの指導はボランティアの方々に支えられてきました。その環境を少しでも良くするために、47FA(都道府県サッカー協会)に技術の専任者を置いて、地域のトレセンのリーダーになってほしいと思っています。そこにJFAが補助金を出す形で進めていて、47FAのうち20ほどの地域で実施しています」静岡県では、すでにその制度が導入されていて、JFAのサポートを受けた専任者が指導しています。池内さんは「指導の質が上がり、選手のレベルも上がってきました。その成果が、(2019年の)国体(U‐16)での優勝にもつながっていると思います」と手応えを口にします。トレセンやセレクションなどの「選ばれる舞台」でプレーするのは緊張するもの。なかでも、経験の少ない子どもたちは、緊張して普段の力が出せないといったこともあるでしょう。そんな子どもたちに対し、池内さんは「前日や当日に何かをしたとしても、大きく変わることはありません。だからこそ、そこまでに何ができたか、いい準備ができたかが大切になります」とエールを送ります。「トレセンやセレクションで力が発揮できなかった、メンバーに入れなかったとしても『自分はこれだけやってきたのだから、後悔はない』という心理状態になれるかどうかです。プレー会場で不安を感じるのは、やり残したことがあるということ。次はそうならないように、頑張るしかありません。12歳のときにトレセンに選ばれなくても、コツコツやってきた子が追い越していく例は、たくさんあります。次のチャンスは絶対にあるし、それが報われる環境が日本サッカーにはあります」■サッカーがうまくなるために必要なことは日常生活にも関わっているトレセンではオン・ザ・ピッチのプレーに加えて、日常生活での取り組みや姿勢も大切にしているそうです。JFAのトレセン活動では、「トレセンの選手として」と題し、生活習慣の5か条を制定しています。それが、次の5つです。1:自分の物の管理に責任を持とう2:ルールを守ろう3:あいさつをしよう4:サッカー選手として、何をすべきかをいつも考えよう5:何事も積極的に!前向きに!池内さんは「自分で判断して実行することなど、サッカーがうまくなるためにすることは、実際の生活にも関わってきます」と言います。「ただし、大人が『あいさつしろ』『片付けしろ』『準備しろ』と言って、子ども自身に理解させず、形だけやらせても意味がありません。指導者に言われたから、チームのルールだからカバンをきれいに並べるのではなく、なぜカバンを並べたほうがいいのかを考え、そのために行動することが大切なのです。それができたら、ピッチの中で自分で判断して、実行したことが力になり、サッカー自体も伸びていくと思います」ピッチ内外で自分で判断し、行動すること。レベルの高い仲間と切磋琢磨すること。そのような日々の積み重ねこそが、サッカー選手としての成長につながります。トレセンはその一助になりますが、12歳の時点で選ばれなかったといって、悲観する必要はありません。子どもも保護者もそれを念頭に入れて、一喜一憂せず、自らの課題に向き合って、地道にトレーニングしていくことこそが、成長のためにもっとも大切なことではないでしょうか。池内豊(いけうち・ゆたか)現役時代はフジタ工業クラブサッカー部などに所属、1981年には日本サッカーリーグ1部で新人王を獲得。日本代表としてワールドカップ予選にも出場。引退後は名古屋グランパスエイトユースで指導者の道に進む。2007年にU-15日本代表監督に就任、2009年のFIFA U-17ワールドカップでも指揮を執った。現在はJFAユース育成ダイレクターを務める。
2020年10月12日サッカーをしている子どもたち、高学年になると「トレセン」の存在を知りますよね。チーム内で上手いと思っていた上級生がトレセンに呼ばれて行ってきた、というのを間近で見ることも増えます。プロになった選手たちも少年時代からトレセンに参加している経験を持つ選手も多く、上手くなりたい子どもたち、さらには保護者にとって「トレセンに選ばれるかどうか」は重大な関心事です。そこでサカイクでは、日本サッカー協会(JFA)のユース育成ダイレクターの池内豊さんに、トレセンの目的や選ばれる選手の特徴などをうかがいました。(取材・文:鈴木智之)トレセンでは何を見ているのか日本サッカー協会に聞きました(写真は少年サッカーのイメージ)■トレセンの目的はタイムリーに刺激を与えることトレセンとは、クラブを主とした選手育成と平行して、日本サッカー協会や都道府県協会、地区協会などが選手を選抜し、「個の育成」を目的に行う活動のことを言います。トレセンには、下から地区トレセン、47都道府県トレセン、9地域トレセン、ナショナルトレセンというカテゴリーがあり、U‐12年代から活動しています。トレセンの意義や目的について、池内氏は次のように言います。「トレセン活動自体は、30年以上前から始まっていて、12歳頃から選手をセレクトして、上を目指している子たちに、タイムリーに刺激を与えることを目的としています。(トレセン活動の最上位カテゴリーである)ナショナルトレセンでは、サッカーについての考え方などを、ナショナルトレセンコーチが選手たちにしっかりと伝え、最終的にはA代表につなげていきたいと思っています」トレセン活動の手応えについては「各地域から幅広く選手を見ることができるのは、ひとつの成果だと思います」と話します。「U‐12のナショナルトレセンから、U‐13/U‐14のエリートプログラムへの橋渡しができるようになり、エリートプログラムから、U‐15代表につながる選手が非常に多くなってきました。選手発掘の流れができてきたのは成果だと思います」■トレセンは将来を保証するものではない一方で、課題も感じているようです。それは、U‐15代表を経験した選手から、A代表へと上り詰める選手があまり見られないこと。「U‐12からU‐15までのつながりはできてきましたが、そこから上(A代表)への流れはまだまだです。私も監督をしていましたが、U‐17代表からA代表に進む選手は10%程度しかありません」これは言い換えると、12歳、15歳、17歳の時点で高い評価を受けていたとしても、将来どうなるかはわからないということです。池内氏もそこは認めていて、「U‐12のトレセンであれば、12歳の時点で良い子に刺激を与える場がトレセンであって、選ばれたからといって、将来につながる保証はどこにもありません。それは毎回のトレーニングで伝えるようにしています」と話します。「トレセンに選ばれたことで、選手や保護者が天狗になってしまうのは、我々が一番危惧することです。トレセンに選ばれなくても、悔しさをバネに頑張れば、絶対に次につながります」■「テクニック」とは判断力を伴うもの池内氏自身も、高校時代、自分以外のチームメイトのほとんどが国体メンバーに選ばれる中、選抜から漏れたことがありました。その悔しさをバネに「普段の3倍練習した」ことで、国体選抜を飛び越えて、年代別の日本代表に入った経験があるそうです。とくに12歳前後の年代は、成長による個人差が大きい時期です。身体の大きさ、パワー、スピードといった部分では、成長速度や生まれ月による影響など、様々なことが関係してきます。「私自身、育成年代に何十年と携わっていますが、子どもの頃は成長に個人差があるので、見極めが難しいです。12歳の時点では、プラスマイナス5歳ほど、成長に個人差があると言われています。指導者はそれを頭に入れて、評価することが大切だと思います」サッカーには、身体の大きさや成長スピードに関わらず、高めることができるものがあります。それがテクニック(技術)です。池内氏は「成長の個人差に関わらず、テクニックを身につけることは必要です。そこに早熟、晩熟は関係ありません」と、言葉に力を込めます。「テクニックとは、技術に加えて判断を伴うものです。状況を観て、判断して、一番良いと思うプレーを選択し、そのための技術を発揮する。そのすべてを『テクニック』という言葉に込めています。ボールを止めて、蹴る動作の質を高めるのは当然のことで、サッカーは動きながら、ゴールに向かいながら、どういうテクニックを発揮することができるかが大切になります。ぜひ、動きながらのテクニックを身につけてほしいと思います」サッカーの試合中、ボールに触っている時間はほんのわずかです。テクニックに加えて「オフ・ザ・ボールの動き」も同時に身につけていくことで、試合の中で消えることなく、攻守に関わることができるようになります。「テクニックの他に大切なのは、ボールを持っていない場面(オフ・ザ・ボール)での動きの質を上げることです。具体的には、ボールに近い所での攻守に渡るサポートです。攻撃ではボールを失わないためのサポートや、相手の守備を突破するためのサポート。守備では味方が抜かれた時のサポート、ボールを奪うためのサポート。ボールから遠いところでも、ポジションをしっかりととることを含めて、ボール周辺のオフ・ザ・ボールの動きは身につけてほしいと思います」■相手との駆け引きや判断を伴う中でのシュート練習をそして何より、「シュートのテクニック」を高めることにも、目を向けてほしいそうです。「サッカーの目的はゴールを決めることなので、子どもたち全般に言えることですが、シュートのテクニックはもっと練習してほしいですね。どこにボールを蹴るかというコントロールもそうですし、相手との駆け引きや判断を伴う中でのシュートは、もっとトレーニングした方がいいと思います」技術だけでなく、判断をともなう「テクニック」を身につけること。それが将来、良い選手になるために必要なことと言えるでしょう。トレセンでは、レベルの高い仲間と切磋琢磨することで、より精度の高いプレーをするためにはどうすればいいかを考えたり、コーチのアドバイスから刺激を受けられる場になっているようです。後編では、トレセンに向けた準備やリーグ戦の意義などについて、話は進んでいきます。池内豊(いけうち・ゆたか)現役時代はフジタ工業クラブサッカー部などに所属、1981年には日本サッカーリーグ1部で新人王を獲得。日本代表としてワールドカップにも出場。引退後は名古屋グランパスエイトユースで指導者の道に進む。2007年にU-15日本代表監督に就任、2009年のFIFA U-17ワールドカップでも指揮を執った。現在はJFAユース育成ダイレクターを務める。
2020年10月08日スポーツの現場での暴言、暴力、ハラスメントは世界中で大きな問題とされています。7月20日、調査機関ヒューマン・ライツ・ウオッチが、来年開催される予定のオリンピック、パラリンピックに向け「日本のスポーツにおける子どもの虐待」というレポートを発表しました。これは子どものころにスポーツをしていた50人以上へのインタビュー、400人以上へのオンラインアンケート、スポーツ団体へのデータ提供などで調査を行ったもので、日本の子どもたちがいまだにスポーツの場で暴力・暴言などの被害を受けていることがわかりました。また、この問題に対する対処と予防の遅れの原因となっている制度上の不十分な点も明らかに。サカイクではこの調査結果を受け、サッカー界での現状・対策方法などについて、日本サッカー協会(以下JFA)リスペクト・フェアプレー委員会、委員長の山岸佐知子さんにお話しを聞きました。2008年度にリスペクト宣言をし、暴力根絶に向けてとりくんできたJFAの現状とは。(取材・文:前田陽子)親は「我慢が足りない」などと言ってはいけません■サッカー界は他競技に先駆けて2013年に相談窓口を設置ヒューマン・ライツ・ウオッチのリサーチを受けて、山岸さんは「正直そうだと思います」と話します。ただ、日本も少しずつ改善されているとも。JFAでは、暴力行為の早期発見と是正および再発防止をするために2013年に暴力等根絶相談窓口を設置しています。2018年に寄せられた相談総数は120件、2019年は243件と増えています。増えた要因はさまざまなスポーツでの暴力暴言が報道されたことも一因。世間が関心をよせ、暴力や暴言に敏感になったことで相談数も増えているようです。「件数が増えることは決して悪いことではありません。悩みを抱えている人が、内にこもることなく相談というアクションを起こすことができているのは、いいことだと思います。」相談内容は暴力、暴言、そのほかのハラスメントと大きく分けていて、2019年は暴力が43件、暴言が127件と暴言の相談が増えています。「手を上げることはいけない、よろしくないという認識が大分浸透してきていますが、それまでは暴力をしていた指導が暴言にシフトしている可能性もあるのではないかと考えています。受ける側からすると暴力も暴言も同じこと。特に年齢が低いお子さんにはダメージが大きいです。暴言は暴力と同等、もしくはそれ以上の凶器になってしまうと考えています」■選手の安全や安全を確保する『ウェルフェアオフィサー』JFAでは2013年からウェルフェアオフィサーの設置に取り組んでいます。ウェルフェアオフィサーの主な役割は、サッカーを楽しむために選手の安心や安全を確保すること、リスペクトやフェアプレーを推進することにあります。全試合とはいきませんが、一部の主要な試合でマッチ・ウェルフェアオフィサーを置き、試合でのチームのマナー、声かけの仕方などをアドバイスしています。ウェルフェアオフィサーは規律委員ではないので、罰則を下すことで排除するのではなく、気づきを与え自ら改善するように促すことが役目です。「仲間同士で気づいて、お互いに指摘しあってほしいです。仲間内で改善されていくことが一番いいと思っています。暴力や暴言を続けていくと、監督さんやコーチもいずれはその立場を失うことになるかもしれない。そういうことを互いに話せる環境になっていくと暴力、暴言指導なども自然となくなっていくのではないかと思います」さらに、JFAではクラブで問題が起きた時にクラブ内で解決できるようにする仕組みづくりの一環として、クラブ・ウェルフェアオフィサーの設置を推進しています。■親は子どもの話をよく聞いて、解決ができなければ相談窓口へ子どもが暴力・暴言を受けていると思っても、監督やコーチに直接話をするのは難しいところ。子どもに「あなたがいけないんじゃない?」、「我慢がたりないのよ」などの声かけは絶対にNGです。そんな風に言われたら、子どもの言葉は続かなくなってしまいます。まずは子どもの話をきちんと聞くこと。そして、問題だと感じたらJFAの暴力等根絶相談窓口へ連絡することです。相談は匿名でも受け付けて、必要であれば調査をします。相談は昨年までは電話、FAXの手段でしたが、今年からはJFAのホームページ内にある暴力等根絶相談窓口通報受付フォームから通報が出来るようになりました。「これまでにライセンスの一次的な停止などの処置をしたケースもありました。ですが、起こしてしまったことをしっかりと反省をして、心を入れ替えて再度サッカーに携わるという道もないといけないと思っています。大切なのは過ちを理解して、繰り返さないこと。そのための教育的なプログラムは必要になってくると思います」と山岸さん。■サッカーをプレーしているところに笑顔があふれるようにJFAでは、自分たちの環境を自分たちで守るウェルフェアオフィサーのような役割の人を増やしていく予定です。サッカーに暴力も暴言も必要ありません。プレーしている選手たちが笑顔でサッカーを楽しめることが重要で、そういう環境を守るのは、サッカーに携わる私たち大人です。また、指導者には暴力暴言を使って指導をしていてもいいことはないということを、しっかりと認知してもらくことが大事です。「ただし、古い体質は長い歴史の上にあるもので改善までには長い時間がかかるのではないかと思っています。コツコツと努力を続け、グラスルーツのチームまで浸透させていくことが我々の役割だと思います」■子どもたちは大人の背中を見ています山岸さんは、以前はレフェリーとして多くの試合を担当していました。そんな山岸さんから貴重なお話をうかがいましたので、ご紹介します。「サッカーはコンタクトスポーツです。当然、フェアにチャレンジしていてもコンタクトすれば倒れる場面もあります。その際にすぐに立ち上がってプレーを続けることを促すチームと、倒れたことをアピールするチームでは、特に下の年代ですが、冷静なチームの方が強いです。コーチがレフェリーに対して倒れたことをアピールすることで、選手も煽られてしまい、プレーに集中することを忘れてしまうのです。それが当たり前だと、自分たちがミスをしたりうまくいかないと人のせいにしてしまうようになります。練習の中でレフェリーにアピールするようにという指導はしていないと思いますが、子どもたちは大人の背中を見ている。せっかくいいプレーをする力も持っているのに残念です。倒れてもすぐに起き上がってプレーする習慣があるチームは、仮にその時に優勝する力がなくても、そういう習慣が身に付いている選手は年齢が上がるに連れてたくましくなり、優勝争いができるようになります。自分のやるべきことがちゃんとわかるようになるので。子どもたちは大人の様子を見て、真似ます。大人はそれを自覚して接してほしいですね。」大人になると中々自分を変えることは難しいものです。ですが、選手たちが安心、安全な環境の中でサッカーを楽しむために、JFAへの啓蒙を続けていきます。後編では指導者養成の面でどのような活動をしているのかをお送りします。日本サッカー協会暴力等根絶相談窓口対象となる行為の詳細、通報フォームはこちら>>
2020年09月08日新型コロナウイルス感染症予防には、免疫力を高めるため、適度な運動も必要だと言われています。そこで日本サッカー協会(JFA)は、個人でテクニックを身につけられるプログラム「JFAチャレンジゲーム」(動画)を4月5日(日)まで無料公開しています。■チャレンジゲームとは?子どもに必要な動きづくりを徐々にステップアップしながら取り組んでいく個人向けプログラムです。これは8歳までを対象とした「めざせクラッキ!」、9歳以上を対象とした「めざせファンタジスタ!」の2部構成になっています。ボールがひとつあれば一人でできるものがほとんどで、広い場所がなくても大丈夫です。※「クラッキ」とは、ブラジル(ポルトガル語)で「名手」「サッカーのとてもうまい人」という意味「めざせクラッキ!~ボールはともだち」トレーニング動画はこちらから>>「めざせファンタジスタ!~ボールを意のままに」【1】ボールフィーリング【2】フェイント&ターン【3】ボールフィーリング手トレーニング動画はこちらから>>
2020年03月06日日本フランチャイズチェーン協会(JFA)は11月20日、10月のコンビニエンスストア売上高を発表した。それによると、10月は北日本を除き平年並みの気温であったものの、降水量が少なく日照時間が多かったため行楽需要等が好調であったことから、全店・既存店とも来店客数はプラスとなったという。また、淹れたてコーヒーを含むカウンター商材や、調理麺・おにぎり・サンドイッチ等の中食、デザート・アイスクリーム・飲料等が好調に推移したことから、全店・既存店とも売上高は前年を上回る結果となった。既存店ベースでは、売上高8,025億円(前年同月比+2.5%)が7カ月連続のプラス、来店客数13億6,196万人(前年同月比+2.1%)が2カ月ぶりのプラスになり、平均客単価589円(前年同月比+0.4%)は7カ月連続のプラスとなった。
2015年11月24日