9月7日(土) より開催される『第46回ぴあフィルムフェスティバル 2024』のコンペティション部門「PFF アワード 2024」の応募数が、前年より135本増となる692作品となったことが発表された。700本に迫る今回の数字は、石井裕也監督(『舟を編む』『月』)がグランプリを受賞した「PFF アワード 2007」で700本台を記録して以来で、直近17年間で最多の本数となる。また、前年比で25歳以下の応募が152%増となったほか、今年はじめて実施した「18歳以下の出品料無料化」により、18歳以下の応募が225%に倍増するなど、若年層からの応募数が増加した。全応募者のうち62%が初応募で、「18歳以下出品料無料」がきっかけとなり、全体の応募数増加や若年層の増加につながったと推測される。応募作品は、すでに16名のセレクションメンバーによる審査がスタートしており、7月初旬に入選作品が発表される予定だ。入選作品は、9月の「第46回ぴあフィルムフェスティバル 2024」で上映され、オンライン配信も予定。映画祭会期中の9月20日(金) には表彰式が行われ、最終審査員の審査によってグランプリをはじめ各賞が決定する。<イベント情報>「第46回ぴあフィルムフェスティバル 2024」9月7日(土)~21日(土) 国立映画アーカイブにて開催※月曜休館
2024年04月08日第26回PFFスカラシップ作品『すべての夜を思いだす』(監督・脚本:清原惟)の初日舞台挨拶が3月2日、東京・渋谷ユーロスペースで行われ、清原監督をはじめ、出演する兵藤公美、大場みなみ、内田紅甘、遊屋慎太郎が登壇した。PFFアワード2017のグランプリを受賞した初長編『わたしたちの家』(2017) で国内外から注目を集めた清原監督が、東京郊外の街・多摩ニュータウンを舞台に、世代の異なる3人の女性それぞれの“ある日”を温かいまなざしでつづったドラマ。『わたしたちの家』に続き、ベルリン映画祭のフォーラム部門に正式出品された。昨年9月には全米で先行公開もされた本作が、いよいよ日本に“凱旋”。清原監督は「すごくうれしいですし、うれしさと同時に、どのように皆さんに受け取っていただけるのかドキドキしている。ぜひ感想を聞かせていただければ」と観客に呼びかけた。清原惟監督撮影が行われた多摩ニュータウンは、清原監督が生まれ育った地でもあり、「計画された都市というイメージが強いですが、実際には地域の人たちが、自分たちの手で良くしようという歴史がさかんだった。その空気がいいなと思いました」と深い思い入れ。「みんなで散歩するみたいな撮影ができればいいねと話していた」といい、撮影中に声をかけた住人たちが、エキストラとして映画に出演したこともあったと明かした。また、劇場パンフレットは、清原監督自らリソグラフで“手作り”しており、「編集、デザイン、製本もして。建築や音楽など、いろんなジャンルの素晴らしい執筆陣に(文章を)書いていただき、地図や散歩マップもついている」と本作ならではの試みも紹介。舞台挨拶終了後には、劇場ロビーで清原監督が、パンフレットを販売したり、サインに応じたりと、公開初日に駆けつけたファンと交流していた。友人からの転居届を手に、見知らぬニュータウンに足を踏み入れる女性を演じた兵藤は、「リアルな生活が映っている。一見、ゆるりとした作品だが、“太古”ともつながったり、ダイナミックな体験をした」。ガス検針員を演じた大場は、ユーロスペースがある建物の1階に、かつてあったカフェで働いていたといい「この作品も街と土地の記憶を描いていて、リンクしている」と、兵藤同様に、本作に“地形と歴史の連なり”というテーマ性を見出していた。兵藤公美大場みなみ内田は「撮影自体はタイトなスケジュールで、(クランクアップ後)3カ月で完成披露。すごいスピードだと思ったら、北米に行っちゃって(笑)、今日こうして初日を迎えた」と感激の声。遊屋は「音が本当にすごく良いんですよ。映像には映っていないけれど、そこにあるはずのものを感じさせる音がたくさんあって。それはすごく豊かなことで、劇場でしか味わえない」と音響の魅力を語っていた。内田紅甘遊屋慎太郎取材・文・撮影=内田涼<作品情報>第26回 PFFスカラシップ作品『すべての夜を思いだす』3月2日(土) 全国順次公開公式サイト:
2024年03月03日数々の映画監督を見出してきた「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」。第46回となる今年は9月7日(土)~21日(土)の13日間(月曜休館)、東京・京橋の国立映画アーカイブでの開催される。今月1日からは、前年の締切日以降(2023年3月24日~)に完成した「新作」ならば、作品の長さやジャンルなど、一切の制限のない自主映画コンペティション「PFFアワード」の公募がスタートした。その「PFFアワード」ではひとつうれしい情報が。本年から高校生以下(※今回は2005年4月1日以降生まれの方が対象)の出品料が無料となったのだ。これは「新しい才能」との出会いをなによりも求めるPFFが「常識や固定観念や既存のルールに囚われず、しなやかで自由な発想から生まれる新しい映画表現に出会いたい。若い世代の初めての映画、高校生、中学生、小学生のつくる映画を応募して欲しい」との願いから。18歳以下の若い世代の映画作りをもっと奨励しようということで無料化が実現した。そこで、映画づくりを考えている、応募に興味があるティーン世代の一助になればということで、高校時代に映画制作を始めた、ふたりの若きクリエイターにインタビュー。人気バンド「チョーキューメイ」のメンバー麗さんに続くふたり目は、映画監督として活躍する村田夕奈さんに高校時代の映画づくりへの挑戦を振り返ってもらった。村田さんの初監督作『可惜夜(あたらよ)』は、高校二年生の時に制作された。きっかけはいくつかの理由が重なってのことだったという。「子どものころからテレビドラマが大好きで、いつか映像の現場に携わりたいと考えていて、中学2年のとき、まず俳優を目指して事務所に入りました。でも、すぐにコロナ禍に入ってしまい、群馬にいた自分はレッスンやオーディションを思うように受けられない。この中途半端な状況が嫌で沢山の映画を見て学ぶことにしました。その流れで、オンライン上で映画関係者が集まるコミュニティに参加するようになり、日本映画の現状や今後の話を聞く中で危機感を覚えて……。微力でもいいので自分も大好きな映画に何らかの形で貢献したい。その思いが映画をつくるという意識につながっていきました。それからコロナ禍と同時に高校生活が始まり、青春を謳歌するようなことが何一つできていない。その中で、学校の仲間と映画をつくれたらいい思い出になるんじゃないかと思いました。同時に、同じようにコロナに青春を奪われたすべての子たちに、映画で青春を届けたい思いも出てきました。それは先ほどお話しした映画への貢献にもなるのではないかと。あるとき、放課後の教室で友達の誕生日をお祝いしたんです。その様子を撮った動画をCM風に編集したものを見せたら、みんながすごく感動してくれて言ってくれたんです。『コンクールに出すような映画を撮ってみたら?』と。そのことも私を後押ししてくれました。そして、私自身が変わりたかった。ままならない現状から抜け出したかった。こういったいくつかの理由が重なって、映画づくりへ踏み出していきました」ただ、映画を学ぶ授業や活動が学校にあったわけではない。もっと言うと、当時、学校が学生の映画づくりに理解があったわけではなかった。いくつかの困難をクリアしなければならなかった。「Instagramのストーリーで『映像製作に興味ある人いますか?』と流してみたら、すぐに乗ってくれる子たちが十人以上集まったんです。ただ、いくつか壁がありました(苦笑)。当初から学校を舞台にしたくて、機材を借りるお金もないので使い慣れているスマホで撮影しようと思っていました。でも、うちの学校はスマホ禁止。映画制作の許可への最初の回答は、『使用できる教室は一つ、スマホは禁止』というものでした。これではつくれない。そこで自分たちの本気度を見せないといけないと思って。まず一年生の冬に、ミュージックビデオをつくったんです。集まったメンバー全員が親しいわけではなかったので知り合う目的もあって二班にわけて、それぞれにつくりました。で、そのMVを限定のリンクで公開したら、学校中に広まって先生の耳にも入った。そして、校長先生が見てくれて、私たちの本気度が伝わったのか『スマホや機材の持ち込み、学校のどこで撮影してもOK』になったんです。こうして高校二年生の夏休み期間を使って撮影することになりました」『可惜夜』は、大人と子どもの狭間にいる高校生の主人公・さわの心のざわめきを丹念に見つめたひと夏の青春物語。いまの自分を変えたい、うまくいかない現状をどうにかして打ち破りたい彼女の切実な声が聴こえてくる。「当時、コロナ禍であったことも含めて、私たちは我慢しなければいけないことばかりでした。このとき、自分が感じていたこと、自分の目に映っていたこと、自分の切実な声をきちんと作品に封じ込めて残したいと思いました。たぶん数年後、おそらく自分も大人になって当時の感情には戻れなくなる。だから、このときの自分を忘れないためにも残しておきたいと思いました。また、いろいろと苦しいことがあったからこそ、かけがいのない瞬間や時間がきっとどこかであったはず。そういう思いも込めて、明けるのが惜しいほどの美しい夜という意味のタイトルの『可惜夜』とつけました」「映画祭はチャンスを掴めるかもしれない場」初めての映画づくりの感想は?「本当に楽しかったです。いろいろと噂が広まって、学校中がお祭り騒ぎのような状態になりました(笑)。クランクアップとなる屋上でのラストシーンを撮って、映像を確認してOKとなった瞬間は、本気で『生きててよかった』と思いました」こうして完成した『可惜夜』は、「高校生のためのeiga worldcup2021」に入選すると大きな反響を呼び、その後、MOOSIC LAB 2023でも特別招待上映されることになる。「『高校生のためのeiga worldcup2021』は、YouTube限定公開で鑑賞する形式だったんですけど、初日の再生回数の伸びがすごかったんです。それこそ最初は自分の目の届く範囲内で、友人や知人からダイレクトメッセージが届いて『みんなみてくれているんだなぁ』と思っていたんです。でも、少ししたら、もう友人関連の範囲では収まらない再生数になり、まったく知らない人たちから長文のコメントが続々届いて、気づけば公開1日目で1,000回を突破していました。信じられなかったです。『作品は自分の子ども同然。でも、公開されると観客のみなさんのものになって親の手を離れて成長していく』といった主旨のことをよくおっしゃる監督さんがいらっしゃいますけど、『こういう感覚なのかな』と思いました。それから、どちらの映画祭での上映でも自分の伝えたかったテーマや表現したかったことを、多くの方がきちんと受けとめてくださっていた。そのこともすごくうれしかったです」今後の映画づくりに向けて大きな自信をくれた映画祭での上映。ただ、実は映画祭への出品は「高校生のためのeiga worldcup2021」のみだったという。その理由をこう明かす。「『高校生のためのeiga worldcup202』に関しては、高校生という同年代の間で評価を受けることになる。でも、ほかの映画祭となると、あらゆる世代と比べられてのことになる。そうなると辛辣なことを言われることを覚悟しなくてはならない。私自身はそれを受け入れられる。でも、一緒につくった仲間の中には『可惜夜』が最初で最後の映画になるであろう子も大勢いる。だから、できるだけ作品を傷つけないで、いい思い出として残したかった。それでほかの映画祭には応募しませんでした。ただ、出品が無料だったらちょっと違ったかも(笑)。高校生にとっては3000円、4000円でも痛い出費。それが無料になるのは大きいです。私の中でPFFは自分の実力がある一定に達しないと出せないと意識する大きな映画祭。でも、当時、無料だったら、『力試しで』と応募していたかもしれません。映画祭はチャンスを掴めるかもしれない場。無料であれば失うものはなにもないので、臆することなく多くの10代にチャレンジしてほしいですね」その後、高校の卒業制作作品と自身で位置付けて完成させた『自画自讃』はMOOSIC LAB 2024で上映に。いまは大学で映画を学びながら、映画監督の道を模索している。「『可惜夜』の上映の中で、うれしいことに同年代のみならず大人世代からも温かい言葉をかけていただいたんです。独学で初めてつくった映画ですから技術的に未熟で欠点や粗があるのは確か。自分のつくりたい映画は『これ』という強い気持ちで完成させましたけど、自信なんてなかった。だから上映のときは、『時間があったらみてください』『温かい目でみていただければ』みたいな感じで。正直な話、ダメ出しばかりされるのかなと考えていました。でも、実際は『自信もっていいよ』とか『頑張ったね』とか私を勇気づけてくれる言葉をいっぱいいただきました。今は、その時の言葉を励みに、頑張って映画をこれからつくっていこうと思っています」取材・文:水上賢治「第46回ぴあフィルムフェスティバル 2023」9月7日(土)~21日(土) ※月曜休館会場:国立映画アーカイブ(京橋)「PFFアワード 2024」作品募集受付期間:2024年2月1日(木)~3月23日(土)出品料:一般 3,000円※18歳以下は無料(2005年4月1日以降生まれの方)※学生証または年齢がわかる書類が必要作品募集ページ:公式サイト:『自画自讃』MOOSIC LAB 2024大阪&名古屋にて上映3月30日(土)~4月5日(金)、大阪シアターセブン、名古屋シネマスコーレにて開催
2024年02月23日数々の映画監督を見出してきた「第46回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が、9月7日(土)~21日(土)の13日間(月曜休館)、東京・京橋の国立映画アーカイブで開催される。今月1日からは、前年の締切日以降(2023年3月24日~)に完成した新作ならば、作品の長さやジャンルなど、一切の制限のない自主映画コンペティション「PFFアワード」の公募がスタートした。その「PFFアワード」でひとつうれしい情報が。本年から高校生以下(※今回は2005年4月1日以降生まれの方が対象)の出品料が無料となったのだ。これは「新しい才能」との出会いをなによりも求めるPFFが「常識や固定観念や既存のルールに囚われず、しなやかで自由な発想から生まれる新しい映画表現に出会いたい。恐れを知らぬ若い世代の初めての映画、高校生、中学生、小学生のつくる映画を応募して欲しい」との願いから。18歳以下の若い世代の映画作りをもっと奨励しようということで無料化が実現した。そこで、映画づくりを考えている、応募に興味があるティーン世代の一助になればということで、高校時代に映画制作を始めた若きクリエイターにインタビュー。一人目として、TikTokでの再生数が10億回を突破した「貴方の恋人になりたい」等の楽曲で知られる、人気急上昇のバンド「チョーキューメイ」のメンバ-として活躍する麗さんに、高校時代の映画づくりや映画祭体験を振り返ってもらった。現在はミュージシャンとして活動する麗さんだが、実は高校時代、映画づくりに取り組んでいる。完成させた監督作『森は鳴き止まぬ』は「高校生のためのeiga worldcup2020」で優秀作品賞を受賞。「PFFアワード2021」でも一次審査を通過した。加えると、このときの麗さんの映画制作体験にインスパイアされて誕生したのが、昨年の「PFFアワード2023」でグランプリに輝いた中野晃太監督の『リテイク』。同作で麗さんは主演を務めた。さぞ映画に興味があったかと思いきや、当時は映画をつくることは考えたこともなかったという。「通っていた高校の選択講座に映像表現の授業があったんです。高3の時に、その講座をとったのが映画をつくるきっかけでした。ただ、講座を受けることにした動機は軽音楽部で一緒にバンドを組んでいた仲のいい友人に強く誘われたのと、授業がゆるそうだったから(苦笑)。当時、映像制作にまったく興味がなかったわけではなかったですけど、つくろうとまでは思っていなかったです」講座は週一回2時間の授業。最初はまずひとりで何かを撮り、次はふたりで、その次はグループで、最後、修了制作というのが大まかな流れだったという。その卒業制作として取り組んだのが『森は鳴き止まぬ』だった。「特に映像に目覚めたということもなく、その都度出される課題を滑り込みセーフで提出するような感じでしたね(笑)。ただ、修了制作を前にした時、学校も同じく卒業するということも相まってか、最後ということを意識しました。そこで考えたんです。『自分で本気で映像に取り組んでみたらどんな作品ができるんだろう』と。それから、少し話が飛ぶんですけど、自然が大好きな友人がいて、高校3年の6月ぐらいに彼女と山によく出掛けていたんです。そのとき、奥多摩で今は使われていないトンネルをたまたま見つけたんです。その光景が、なぜか分からないけどずっと忘れられないでいた。で、卒業制作という課題を前にしたとき、純粋に撮りたいと思うものが、このトンネルしか思い浮かばなかった。じゃあ、あのトンネルの景色からストーリーを考えていけばいいんじゃないかと思って、わたしをこの講座に誘ってくれた友人と、もう一人の友人も加わって、三人でアイデア出し合って脚本を書き上げていきました。それで、あのようなちょっと不思議なストーリーが出来上がりました。その後、キャストも決まって、機材も用意して、撮影日も決まって、気づけば映画づくりに本格的に取り組んでいました。授業である程度のことを学んではいましたけど、ほとんど見様見真似で撮った感じでしたね」だが、実は完成まではかなり遠回りすることに。実は卒業制作作品ではあるが、実際に作品を完成させたのは高校を卒業してからのことだった。「諸事情あって、最初に脚本づくりを一緒にした二人が途中で抜けたんです。特にこの講座に誘ってくれた友人の離脱はショックでしたけど、関係の修復は不可能で、残念ながら袂を分かつことになってしまいました。抜けられたときは途方に暮れましたけど、『リテイク』にアリサ役で出演していたタカノアレイナが新たに参加してくれてて事なきを得ました。ただ、進行は遅れて結局、撮り終えたのが高校を卒業した年、2020年の夏ぐらい。そこから燃え尽き症候群になって、編集になかなか手をつけられなかったんですけど、どうにこうにか乗り越えて、同年の9月ぐらいに完成させることができました。最後はほとんど執念でした。袂を分かつことになった彼女に対する怒りが、ある種、映画作りの原動力になっていて、投げ出さなかった自分を証明するためにも完成させなければという気持ちでした。でも、映画を撮り切ったということが、自分の人生の中での自信にもつながっていて、複雑な思いはあるんですけど、いまは彼女に感謝しています。いいか悪いかわからないですけど、彼女への負の感情がなかったら完成にたどり着けたかわかりませんから。あと、実は講座の講師が中野監督なんです。わたしが作品をちゃんと完成させることを信じて、修了をくれた中野監督にも感謝してます」「可能性はあると信じて、映画を作ったら出品してみては」こうして完成した『森は鳴き止まぬ』は、先で触れたように「高校生のためのeiga worldcup2020」で優秀作品賞を受賞し、「PFFアワード2021」でも一次審査を通過した。聞くと、当初から映画祭出品を考えていたという。「そうですね。はっきり言うと映画祭の入選を狙っていました。ただ、自分が評価されたい気持ちはなくて、これもわたしの意地というか。途中で抜けた彼女に『こういう映画が完成した』ということを伝えたかったからです。なので「高校生のためのeiga worldcup2020」で優秀作品賞を受賞できてうれしかったです。あと、映画に詳しくないわたしですけど、PFFの名前だけは知っていて、若手映画作家の登竜門ということも覚えがあって、完成したときに絶対応募しようと思っていました。一次審査通過どまりでしたけど、のちに審査コメントが届いて驚いたのが、素敵なアドバイスがいろいろと書かれていたこと。『つまらない』とか『へた』とか厳しい言葉が書かれていると思ったら、『こういうところをこうしたらもっと良くなる』といった具体的なアドバイスが書かれていてすごく励みになりましたね」ただ、映画祭への出品はやはり悩ましいところがあったという。「やはり出品料がかさむと苦しいですよね。たとえば出品料が4000~5000円ぐらいだとする。社会人だと許容範囲内かもしれないですけど、高校生はかなりつらい。たぶん高校生の時給1000円ぐらいですから、1日のバイト代が飛んでしまう。そうなるとやはり出せる限度がある。だから、今回の出品料無料というのはすごく大きいと思います。運営にはお金が必要なのは承知しているのですけど、成人前の立場からすると助かります。あと、変な話になりますけど、出品しやすくなるというか。有料だとやはり自分の作品は入選の見込みがあるかなどいろいろと考えてしまう。でも、無料だと力試しにしてみようかと、わりと気軽に応募できる気がします。いや、映画にほとんど興味のなかった高校生のわたしでも、こんなことが起きているので、可能性はあると信じて、映画を作ったらまず出品してみてはと思います」今はライブ、楽曲づくりと音楽活動での忙しい日々が続く。でも、また映画をつくってみたいそうだ。「『森は鳴き止まぬ』はほとんどのことが初めてで粗削りもいいところなので、リベンジじゃないですけど、ステップアップしたいまの自分で新たな作品に挑戦したい気持ちがあります。」取材・文・撮影:水上賢治「第46回ぴあフィルムフェスティバル 2023」9月7日(土)~21日(土) ※月曜休館会場:国立映画アーカイブ(京橋)「PFFアワード 2024」作品募集受付期間:2024年2月1日(木)~3月23日(土)出品料:一般 3,000円※18歳以下は無料(2005年4月1日以降生まれの方)※学生証または年齢がわかる書類が必要作品募集ページ:公式サイト:チョーキューメイ
2024年02月17日第45回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)のメインイベントで、新人監督の登竜門として名高い自主映画のコンペティション「PFFアワード2023」表彰式が9月22日、都内で行われ、中野晃太監督の『リテイク』がグランプリを受賞。髙田恭輔監督による『ふれる』が準グランプリに輝いた。PFFは新しい才能の発見と育成、新しい映画の環境づくりをテーマに1977年にスタートした自主映画のコンペティションをメインプログラムとした映画祭。第45回を迎える今年は、PFF アワードに557本の応募があり、22作品が入選。最終審査員として、石井裕也(映画監督)、石川慶(映画監督)、岸田奈美(作家)、國實瑞惠(プロデューサー)、五月女ケイ子(イラストレーター)が審査にあたった。グランプリを受賞した『リテイク』は、自主映画の撮影現場を舞台に、さまざまな人間模様が入り乱れる群像劇。巧みな劇中映画の使い方が、観客を翻ろうしていくユニークな内容だ。出演者とともに登壇した中野監督は、「信じられないという思い」と喜びの声。高校で映像を教えている経験が、作品に反映されているといい「僕自身が『頑張らなきゃな』と触発された」と振り返った。また、撮影中はキャストとの対話を通して、脚本が変わったこともあったそうで、一丸となった現場に感謝を示していた。プレゼンターを務めた石井監督は、「映画との戯れ方というものが、とても面白かったです。それと時間と青春との戯れ、それらが不思議な魅力につながったのかなと。その面白さがずっと続いていき、次はどうなるのかなというドキドキワクワクしながら、最後まで観ることができました」と評し、「虚実入り乱れる物語構造の面白さもさることながら、一番のポイントは、俳優の躍動が魅力的だったということ。プロが狙ってもできない配役とバランス、そういう奇跡も自主映画の魅力なのかなと思い、僕がこの作品を推しました」と選考理由を説明していた。なお、グランプリを受賞した『リテイク』は、10月23日から開催される「第36回東京国際映画祭」にて特別上映される。第45回を迎えた今年は、コンペティション「PFFアワード2023」をはじめ、招待作品部門では、今年から新たにスタートする企画(2028年の第50回に向けた5年連続企画)の第1弾「イカすぜ!70~80年代」や、27年ぶりにPFFに帰還したフランスの名匠、アルノー・デプレシャン監督特集、ピーター・バラカン氏による音楽映画シリーズ「ブラック&ブラック」など、映画祭でしか観ることのできない上映企画、映画講座が開かれた。<グランプリ>『リテイク』監督:中野晃太<準グランプリ>『ふれる』監督:髙田恭輔<審査員特別賞>『うらぼんえ』監督:寺西 涼『鳥籠』監督:立花 遼『リバーシブル/リバーシブル』監督:石田忍道<エンタテインメント賞(ホリプロ賞)>『完璧な若い女性』監督:渡邉龍平<映画ファン賞(ぴあニスト賞)>『じゃ、また。』監督:石川泰地<観客賞>『移動する記憶装置展』監督:たかはしそうた<入選作22作品>※作品名50音順。敬称略。年齢は応募時のもの。『移動する記憶装置展』監督:たかはしそうた(31歳/東京藝術大学 大学院映像研究科映画専攻)『うらぼんえ』監督:寺西 涼(27歳/フリーター)『鳥籠』監督:立花 遼(21歳/京都芸術大学 芸術学部)『完璧な若い女性』監督:渡邉龍平(22歳/武蔵野美術大学 造形構想学部映像学科)『こころざしと東京の街』監督:鈴木凜太郎(21歳/東京工芸大学 芸術学部)『サッドカラー』監督:髙橋栄一(33歳/フリーランス)『じゃ、また。』監督:石川泰地(27歳/フリーター)『Sewing Love』監督:許 願(27歳/多摩美術大学 グラフィックデザイン学科)『ただいまはいまだ』監督:劉 舸(28歳/会社員)『ちょっと吐くね』監督:大野世愛(22歳/会社員)『逃避』監督:山口真凜(22歳/フリーランス)『肉にまつわる日常の話』監督:石川真衣(22歳/名古屋学芸大学 メディア造形学部)『ParkingArea』監督:増山 透(29歳/武蔵野美術大学 造形構想学部映像学科 助教)『ハーフタイム』監督:張 曜元(33歳/東京藝術大学 大学院映像研究科 博士課程)『不在の出来事』監督:川口淳也(29歳/フリーランス)『Flip-Up Tonic』監督:和久井 亮(22歳/東京大学 教養学部)『ふれる』監督:髙田恭輔(21歳/日本大学 芸術学部)『ホモ・アミークス』監督:馬渕ありさ(27歳/自営業)『また来週』監督:ハインズ麻里子(21歳/早稲田大学 文化構想学部)『USE BY YOUTH』監督:高木万瑠(20歳/武蔵野美術大学 造形構想学部映像学科)『リテイク』監督:中野晃太(35歳/NPO職員)『リバーシブル/リバーシブル』監督:石田忍道(34歳/映像作家・障がい福祉従事者)【東京】日程:2023年9月9日(土)~23日(土) ※月曜休館会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)【京都】日程:2023年10月14日(土)~22日(日) ※月曜休館会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)【企画紹介】<コンペティション部門>(1) PFFアワード2023<招待作品部門>(2) イカすぜ!70~80年代・大森一樹再発見・斎藤久志再発見・日比野幸子プロデューサー再発見・山中瑶子『あみこ』への道・塩田明彦監督がみつめる相米慎二の少年少女・アルノー・デプレシャン監督『女囚701号 さそり』を語る・驚異のデビュー作・『陽炎座』4Kデジタル完全修復版ワールドプレミア上映(3) アルノー・デプレシャン監督特集(4) ピーター・バラカン氏による音楽映画シリーズ「ブラック&ブラック」(5) 特別企画・生誕120年 小津安二郎が愛したふたり・20代監督の衝撃作!(6) 第29回PFFスカラシップ作品『恋脳(れんのう)Experiment』(岡田詩歌監督)【関連リンク】PFF公式サイト()「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」公式サイト()
2023年09月22日今年で45回目となる映画祭「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が現在国立映画アーカイブにて開催中。映画祭2日目となる9月10日、招待部門メイン特集「イカすぜ!70~80年代」では「大森一樹監督再発見」と題した特集上映で大森監督の自主映画作品が一挙上映され、大森監督の熱狂的な大ファンである緒方明監督をゲストに迎えたトークイベントが行われた。映画上映後、ステージに登壇した緒方監督は「(初期作品は)50年近く前の映画なのでビックリですよね。今日改めて観てみて、最近のフィルムのスキャン技術の向上にビックリしています。実は大森さんの自宅の地下には、DVDが何千本もあるような有名な書斎があるんですけど、亡くなられた後にそこを掃除したら、原版が出てきたんです。これはPFFと一緒に上映会をやるべきだと思い、現像所でスキャン、修復作業を行ったんですけど、本当にキレイになっていましたね」としみじみ。大森監督の父親は、著名な放射線科医だったことでも知られる。そのため家には父親の8ミリカメラが早くからあり、それをおもちゃ代わりに遊んでいたという少年時代だった。中学生の頃にはそのカメラを持って、当時、神戸で行われていた『007は二度死ぬ』のロケ現場を撮影しに行ったという、まさに映画の申し子ともいうべきエピソードもある。ただし初期の8ミリフィルムは技術的に音を入れられるものではなかったため、くしくも大森監督の初期作品は、映画の歴史同様、サイレント映画からスタートすることになった。「今ならビデオやスマホで撮影すると、映像と同時に音が入っているのが当たり前ですよね。でも大森さんが常々話していたのは、映画の原風景というのはサイレント映画なんだということ。サイレント映画というのは、見たこともないお芝居を、動きだけで見せるもの。それが映画の原風景であると言っていましたね」(緒方監督)。とにかく映画が大好きで、映画のことばかり考えていたという大森監督。「コロナになってからは、なかなか会えなくなっていましたけど、最後まで『スター・ウォーズ』のTシャツを着ているような人でした。それと一回、神戸フィルムコッミションの誘いで、韓国のロケ地を、向こうの映画人と一緒にまわって、交流するという機会があって。その行程で最後にお土産タイムを作ってもらったんですけど、大森さんはDVDとTシャツしか買わないんですよね。そういうのがいまだに好きだった方なんですよね」と緒方監督が振り返ると、聞き手のモルモット吉田氏も「僕らが学生の頃も、大阪でビデオのセールとかがあると、映画ファンに紛れて大森監督が必ずいましたからね」と証言。映画好きだった大森監督らしいエピソードの数々に、会場はドッと沸いた。かつて大森監督の作品で助監督についた経験があったことや、住まいが近所だったということもあり、近年は一緒に酒を飲む機会も多かったという緒方監督。そこで大森監督の過去作の話を聞いていくうちに、これはしっかりと記録しなければと思うようになったという。「後々は書籍化できればいいねということで、2015〜16年ごろから、インタビューとして何時間にもわたって聞くようになりました。その一部は、先日亡くなられた時に(執筆依頼があった)雑誌の『映画芸術』に載せています。ただ結局は最後まで聞くことができなかったのが残念なんですが、2002〜03年あたりの作品までのインタビューだけでも膨大な量があるんで。大森さんの(映画監督としての)栄枯盛衰を網羅したい」と意気込む。「大森さんは本当にあこがれだった」と語る緒方監督は、「80年代、90年代までは日本を代表する四番バッターとして活躍してきた方。そこからはご自身でもおっしゃってましたが、少しずつ時代と合わなくなってしまい、失速していくわけです。流行監督というのはそういう宿命があるのかもしれませんが。大森一樹とは映画史的になんだったのかというのを今は調べているところです」と語る。文芸作品からアイドル映画、コメディ、ファンタジー、果てはゴジラ映画まで、大森監督が手掛けたジャンルは幅広く、しばしば職人監督として見なされることも多い。「普通、自主映画から出てきた人って大林宣彦さんや石井(岳龍)さん、森田芳光さんもそうですが、匿名の職人性よりも、自らの作家性を大事にする人が多いと思うんです。でも大森さんはある時期からそれを全部辞めるんです。今日上映された『暗くなるまで待てない!』や『夏子と長いお別れ』などは作家性の強い作品ですが、作家性が出ているのは翌年の(村上春樹の原作を映画化した1978年の)『風の歌を聴け』までですね。あの作品はものすごく作家性の強い作品だったんですが、その次からはそれを捨てて、吉川晃司のアイドル映画。プログラムピクチャーをつくるようになった」(緒方監督)。だがそうした資質こそが、映像作家としての大森監督のユニークな立ち位置を指し示している。「インタビューをしていて面白いなと思ったのが、『風の歌を聴け』という映画は今観ても自分の才能に満ちあふれていると思うけど、映画を才能で作ってはダメだと言うんですね。俺が俺が、の人ではないわけです。ショットを決めるのは俺ではなく、映画が決めているんだと。非常に娯楽映画というか、撮影所育ちの監督に近いというか。ある意味で中島貞夫さんのような、そういう映画監督だった。そこが面白くて、僕も影響を受けてますね」(緒方監督)。しかしそうは言いながらも、作品から作家性や趣味性が強く匂い立つのが大森監督らしさだとも言える。緒方監督が「まるでタランティーノのよう」と指摘するように、自分が大好きだった映画のエッセンスを貪欲に自作に取り込み、その愛情を高らかに謳いあげる姿勢。さらには「(自主制作時代の代表作と名高い)『暗くなるまで待てない!』がいいのが、哀しみがあるところなんですよ。黄昏の感覚というのかな。青春の終わり、遊びの時間は長く続かない。だから今は戯れるんだというところがあって。藤田敏八の映画やロベール・アンリコの『冒険者たち』に通じるものがある」と緒方監督が切り出しつつ、「あの映画を作っていた当時の気分としては、その時が大学を留年していた時期だったということもあって。こんなことをやってられるのは今だけだという意識がすごくあったと言ってましたね。ゆくゆくは大学に戻って、まじめに勉強しないといけない。どこかで終わってしまうという切なさや哀しみを抱えた中でつくったものなので、全体的に哀しみが出たんじゃないかと本人は分析してましたね」と指摘する。会場には大森監督と同世代を生きたであろうシニア層のみならず、大森作品に初めて触れたと思われる若者層も多数来場。緒方監督と聞き手・モルモット吉田氏による豊富な知識と愛情に裏打ちされたトークは興味深い内容の連続で、会場の観客も熱心に耳を傾けていた。本特集は、9月20日13時にも実施予定。上映作品は、新藤兼人が自身と妻・乙羽信子の人生を綴った脚本を、大森監督、斉藤由貴主演で描き出したテレビドラマ『女優時代』をスクリーンで上映。そして90年代後半から低迷期に入った大森監督が、21世紀に入って起死回生の出来でその健在ぶりを見せつけたサスペンス映画『悲しき天使』を2本立てで上映する。「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」公式サイト()【東京】日程:2023年9月9日(土)~23日(土)※月曜休館会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)【京都】日程:2023年10月14日(土)~22日(日)※月曜休館会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)
2023年09月12日今年で45回目を数える映画祭「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が9月9日に国立映画アーカイブにて開幕。招待作品部門のメイン特集「イカすぜ!70~80年代」では初日、「山中瑶子監督『あみこ』への道」と題した特集上映が開催され、『あみこ』と『おやすみ、また向こう岸で』の2本立て上映後に山中監督と古川琴音が登壇した。PFFは、自主映画を対象とした日本初の本格的なコンペティション「PFFアワード」をメインプログラムとした映画祭。招待作品部門では、「イカすぜ!70~80年代」のほか、27年ぶりにPFFに帰ってくるフランスの名匠、アルノー・デプレシャン監督特集など、映画祭でしか観ることのできない上映企画、映画講座を予定している。「山中瑶子監督『あみこ』への道」では、『ホーリー・マウンテン』(1973年/監督:アレハンドロ・ホドロフスキー)、『ポゼッション』(1980年/監督:アンジェイ・ズラウスキー)、『あみこ』(2017年/監督:山中瑶子)、『おやすみ、また向こう岸で』(2019年/監督:山中瑶子)の4本が上映された。『おやすみ、また向こう岸で』は、2019年に放送された山中監督初のテレビ作品。山中監督をはじめ、三浦透子、中尾暢樹、そして古川と全員が同学年だ。その理由について「『あみこ』の時からそうでしたけど、なるべく若い人たちで。同じ時代を肌で感じているような、若い座組でやりたいと思っていました」と説明する山中監督。そして「みんなどこかおぼつかなくて。フレッシュでしたね」と続けた古川も、「あの時は事務所に入って1年経ったくらいで、お芝居を始めたばかりの頃。当時は監督のことを大先輩だと思っていたんですけど、今回パンフレットを見返してみたら2017年の『あみこ』が初監督作だったということで。ということは、ほとんど同じキャリアなんだとビックリしました」と笑いながら振り返った。大学時代は映像身体学科で学び、英語劇のサークルで活動していたという古川。「やはり大学というのは、自分の学びたいことを学ぶ場だと思って。当時、自分がやりたいことは人前に立ちたいということだったんで、将来のことをほとんど考えずにその映像身体学科に入ったんですけど、お恥ずかしいことにその時はほとんど映画を観てなくて。この仕事を始めるまでにただひたすら部活とサークルで舞台に立っているのが好きだったんです。だから就活の時にお芝居を仕事にしてみようと思ったんですけど、でも舞台のお芝居しかしたことがなかったから、映像のお芝居をやってみたいと思ったんです」と振り返った。そこから「映画のお芝居ってなんだろう?」と考えていたという古川だが、その時に満島ひかり主演、越川道夫監督の映画『海辺の生と死』が上映されていたことを知り、それを観ることにしたという。「その映画には満島さんが裸になって身を清めるシーンがあって、その時に月に照らされた顔がアップになるシーンがあったんですけど、それが本当にキレイで鳥肌が立って。舞台というのはお客さんに想像してもらったり、自分で想像しながら演じるものですけど、映像ってそれがちゃんと残るんだなというのが新鮮で。わたしもその中に入りたいと思って。ちょうどその映画を製作していたのが(現在、古川が所属する芸能事務所の)ユマニテだったので、応募して入りました」と明かす。一方の山中監督が映画の道を志そうとしたきっかけは、この日上映されたアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『ホーリーマウンテン』。それまで漠然と映画を観ていたという山中監督が、その背後にいる“つくり手”の存在を強烈に認識するきっかけになった作品だったという。その言葉を聞いた古川も「分かる気がします」と深くうなずくと、「この仕事を始めてみて分かったのが、カメラの後ろにこんなにも人がいるんだということ。ある意味、舞台と一緒だなと思って。やはり観ている人がいないと、どこに向けて芝居をしたらいいのか分からないんです」と明かす。自主制作の『あみこ』の時は少人数のスタッフで、手の届く範囲でものづくりをしていたという山中監督だが、商業作品を任されるようになるとスタッフの数もおのずと増えていくようになった。「ある意味のコントロール不可みたいな感じが生まれているんですけど、でも編集でつないでみると自分のものになっているのが不思議なんですよね」と笑う山中監督は、「そもそも脚本も、まずは無意識の状態で最後まで書くんですけど、その後からこことここがつながっているかも、というような構造的な何かを見いだせたりするんです。意外と自分で分かっていなかったことをスタッフさんが、こことここはつながりがあって、こういう意味になっているんですよねと聞いてくれたりして。そういう意味ではひとりでやっていた時よりも映画の奥行きだったり、多面的な視点が入ってきてはいます」と変化を感じているようだった。ただし撮影前からすべてを完璧に構築してそれを伝えることはなるべく避けたいという思いがあるという。「やはりスタッフの皆さんは、ここはどういう意味なのかと、その意図を知りたがっているんですけど、ここはこういう意味なんです、と言い切ることによって取りこぼすことも大きいから。わたしは具体的には言わずに、ニコニコして煙に巻いたりします。分かってないことを分かったふりして言ったとしても、それが良くなった試しがないので」と語る山中監督の言葉に、「確かに監督から演出が入る時にハッキリ言われるよりも、監督ですら言葉にならないようなものを、わたしも分かりたいと思いながらやった時の方がゾクゾクしますし、自分のキャパシティーを越えるというか。目に見えないことができたら最高だなと思いますし、(過去にも)そういう経験があったなと思います」と山中監督の考えに共鳴している様子だった。今回、上映された『おやすみ、また向こう岸で』のアイデアのきっかけは「最初は女2、男1のバカンス映画をつくりたいと思ったんですけど、それがうまくいかなくて。最初は三角関係の、すごい異性愛主義的な別な脚本を書いていたんですけど、何かのまねをしているような気がしてピンとこなかった。それで撮影の一週間前にひっくり返して書き直しました。それはロケ地とキャストが一緒だったから許されたことですけどね」と明かした山中監督。「映画づくりは大変なことが多いですけど、でもわたしは比較的自由にやらせていただいていると思います。最近は『あみこ』を観てくださった、ちょっと年上の当時の若者がプロデューサーになったりして、声をかけたりしてくださっているので、そういう若い世代で、違う風を吹かせたら」と意気込む。そして「山中監督は大好きな監督です」と語る古川も、「それこそ自分の力を自然と引き出してくれる監督なので。さっきも言った通り、この監督の考えていることをもっと知りたいと思ったり、自分もその頭の中の一部になりたいと思うような、そういう気持ちを役者に起こさせてくれる監督なので。その若い力に加わらせていただけたらと思っています。ついていきます!」とラブコール。山中監督も「すでに加わっていただいています」と感激した様子を見せた。「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」公式サイト()【東京】日程:2023年9月9日(土)~23日(土)※月曜休館会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)【京都】日程:2023年10月14日(土)~22日(日)※月曜休館会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)
2023年09月12日世界最大級の自主映画のコンペティション“PFFアワード”を擁する映画祭『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』が今月9日から東京で、来月に京都で開催される。本映画祭はこれまでに数々の人気監督を輩出しており、プロになるために本映画祭のアワードに応募する監督も多いが、本映画祭の最大の目的はまだ見ぬ新しい才能を発掘すること。たくさんの映画を観てきたファンも驚く、あまり映画を観ない人が思わず共感してしまうような“これまでにない映画”が上映される可能性を秘めているのだ。16人のセレクションメンバーの“いちおし”がすべて違った今年のPFFアワード荒木啓子ディレクターは今年PFFアワードに入選した「22作品の中にはどれか“刺さる”ものがあると思います」と語る。世界には様々な映画祭があり、その多くがコンペティション部門を設けているが、その多くが名の通り“コンペティション(競争)”だ。しかし、PFFアワードは各賞の発表はあるが、それ以上に新しい才能を発掘することに力を注いでいる。まず入選作品は投票では選ばれない。情熱のあるセレクションメンバーが今年も応募作品557本を途中で止めたりすることなく観て、じっくりと話し合いを行う。その結果、今年は近年で最も多い22作品が入選した。PFFアワード2023より『完璧な若い女性』『ホモ・アミークス』『リテイク』『ちょっと吐くね』「今年の選考会は驚くほどセレクションメンバーのセレクトがバラバラで、16人のメンバーの“いちおし”がすべて違ったんです」と荒木ディレクターは振り返る。「それはすごく良いことだと思いますし、メンバーが推す作品はすべて上映したくなるんです(笑)。『この映画のどこが良いのかぜんぜんわからない』という人が仮にいたとしても、その作品を熱く語る人がひとりでもいるのであれば、上映した方がいいと思うんです。今年は上映時間の短い作品が多かったこともあって、上映できる枠の中に可能な限り入れて選考しました。PFFアワード2023より『鳥籠』『サッドカラー』『USE BY YOUTH』『ただいまはいまだ』ここ数年は入選作品の自由度がどんどん上がってきていると思います。応募監督の中には高校生の時から映画を撮っている若い人もいますし、映画を撮りたくて上京してきて、ネットで仲間を募って撮影をはじめる人もいます。大人のつくった仕組みやシステムに乗らないで、自分でなにかをしようとしている若い人が増えている感覚があります。だから、若い人に観てもらいたいですし、22作品の中にはどれか“刺さる”ものがあると思います」若い人には会場に足を運んでもらいたいし、オンラインでも観てもらいたいここにはまだ見ぬ映画たちと、そんな作品と出会える場がある。だから本映画祭は世界がコロナ禍に見舞われる前から入選作品のオンライン配信に力を入れてきた。PFFアワード2023より『移動する記憶装置展』『また来週』『ふれる』『Flip-Up Tonic』「PFFは“映画をつくりたい人は全国にいる”と思っています。でも、映画祭は東京と京都でしか開催されないので、オンラインでも観てもらいたいんです。中学生が偶然に配信で観てくれて、『自分でも映画をつくってみようか』と思ってくれるのを期待しているんです。だから中学生や高校生に気軽に観てもらいたいですし、その中から新しい監督が彗星のように現れるのを期待しています。“偶然の出会い”がこれだけ少なくなっている状況で、オンライン配信はとても大事なんです」PFFアワード2023より『ParkingArea』『逃避』『うらぼんえ』『こころざしと東京の街』一方で、会場でのスクリーン上映と上映後のQ&Aの時間も必ず用意されている。「いまは若い監督たちも“配信”で観るのが普通になっていて、自作のリアルな上映を想定していない。だからこそ、映画祭は監督たちにリアルで上映する場を経験してもらう役割もあると思っています。多くの入選監督にとってスクリーンで自作を観る初めての場だと思うんです。その時に“大きなスクリーンで上映される時に、どれだけのクオリティが必要なのか”を知ってもらいたいんです。いまは映画館が“ワクワクできる場所”じゃなくなってきているのかもしれません。だからこそ、若い人には放課後にでも会場に足を運んでもらいたいですし、オンラインでも観てもらいたいです」スカラシップは“プロになるため”ではなく、“隠された才能を発掘する”ためにやっているPFFアワード2023より『リバーシブル/リバーシブル』『肉にまつわる日常の話』『Sewing Love』『じゃ、また。』映画祭では22作品が、9つのプログラムで2回ずつ会場で上映される。最終審査員によって各賞が決定し、PFFアワード入賞者にはオリジナル作品をPFFが企画開発から製作、劇場公開までトータルでプロデュースする長編映画製作援助システム「PFFスカラシップ」の挑戦権が与えられるが、これも“プロ監督への道”ではなく、“新たな才能の発掘と育成”のためにあるプログラムだ。「“商業映画”という言葉はすでに現代には存在しないと思うんです。だからスカラシップは入選監督たちが『これまでとはまったく違う環境で映画をつくることを経験する』ためにあります。PFFアワード2023より『ハーフタイム』『不在の出来事』自分の企画をプロデューサーに説明しなくてはならない、見知らぬスタッフと一緒に撮影しなければならない、つまり、自分のやりたいことを整理して具体化して入選作品よりも面白いものをつくらなければならない。つまり、スカラシップで競うのは自分の入選作品なんです。PFFスカラシップは“プロになるため”ではなく、若い監督にはもっとつくりたい映画、やりたい企画があるはず、という前提でやっています。すべては“隠された才能を発掘する”ためにやっていること。この映画祭は、隠された才能を見つけたい、才能をもっている人の可能性を広げたい。そのためにやっているんです」『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』9月9日(土)~23日(土) 東京・国立映画アーカイブ10月14日(土)~22日(日) 京都文化博物館※月曜休館公式サイト()【コンペティション部門】PFFアワード2023()
2023年09月06日9月9日(土) より東京・国立映画アーカイブで開催される映画祭『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』のコンペティション部門『PFFアワード 2023』の最終審査員が発表された。映画祭のメインプログラムである『PFFアワード』は、1977年にスタートした世界最大の自主映画のコンペティション。これまでに黒沢清、塚本晋也、佐藤信介、李相日、荻上直子など、180名を超えるプロの映画監督を送り出してきた。今年は557本の応募から入選を果たした22作品が、映画祭でグランプリ他各賞を競う。その賞を決定する今年の最終審査員は、PFFと縁の深い映画監督の石井裕也をはじめ、石川慶(映画監督)、岸田奈美(作家)、國實瑞惠(プロデューサー)、五月女ケイ子(イラストレーター)といった各ジャンルの第一線で活躍するクリエイター5名が務める。賞は数時間にわたる討議の末に決定し、9月22日(金) の表彰式で最終審査員により、グランプリ(1作品)、準グランプリ(1作品)、審査員特別賞(3作品)が発表される予定だ。<イベント情報>『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』9月9日(土)~23日(土) 東京・国立映画アーカイブ10月14日(土)~22日(日) 京都文化博物館※月曜休館公式サイト:
2023年08月22日ぴあフィルムフェスティバル(PFF)が映画製作を支援するPFFスカラシップから生まれた『恋脳Experiment』の撮影が終了し、9月9日(土)から開催の「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」で上映されることが決定した。「PFFスカラシップ」とは、PFFアワード入賞者の中から選ばれたフィルムメーカーのオリジナル作品をPFFが企画開発から製作、劇場公開までトータルでプロデュースする長編映画製作援助システム。これまでに橋口亮輔、矢口史靖、李相日、荻上直子、石井裕也をはじめ、現在活躍する監督たちのデビュー作を送り出してきた。本作を手掛けたのは、短編アニメーション『Journey to the 母性の目覚め』で、PFFアワード2021審査員特別賞を受賞した岡田詩歌(おかだ・しいか)監督。岡田監督にとって初の実写映画で初の長編作品となる本作は、「恋をすれば可愛くなれる」というまるで“呪い”のような言葉に翻弄されながら生きてきた女性が主人公の物語。役者たちの身体表現と監督自らが作るアニメーションとが融合した異色の映画となっている。なお、9月15日(金)夜に予定されているお披露目上映には、岡田監督はじめ、キャストの祷キララ、平井亜門、中島歩も来場予定だ。■第29回PFFスカラシップ作品『恋脳Experiment』2023年/カラー/110分予定監督:岡田詩歌出演:祷キララ、平井亜門、中島歩(C)2023ぴあ、ホリプロ、電通、博報堂DYメディアパートナーズ、一般社団法人PFF■岡田詩歌(おかだ・しいか)プロフィール1996年生まれ、東京都出身。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の修了作品『Journey to the 母性の目覚め』が、PFFアワード2021審査員特別賞を受賞。第29回PFFスカラシップの権利を獲得して制作した、本作『恋脳Experiment』が、商業映画デビューとなる。■PFFスカラシップ詳細は こちら()【「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」開催概要】【東京】9月9日(土)~23日(土)会場:国立映画アーカイブ※月曜休館【京都】10月14日(土)~22日(日)会場:京都文化博物館※月曜休館公式HP()※第45回特設サイト準備中。ラインナップは8月9日(水)発表予定。
2023年08月03日9月に東京、10月に京都で開催される『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』のコンペティション部門「PFFアワード2023」の入選作品が発表された。「PFFアワード」は、1977年にスタートした世界最大の自主映画のコンペティション。世界で活躍する黒沢清、塚本晋也、佐藤信介、李相日、荻上直子、石井裕也監督など、これまでに180名を超えるプロの映画監督を送り出してきた。今年は、557本の応募作品の中から22作品が入選。入選作品は、東京会場で2回、京都会場で1回、スクリーン上映を行うほか、DOKUSO映画館、U-NEXTでオンライン配信される。■「PFFアワード2023」入選作品※50音順。年齢、職業(学校名)は応募時のものです。『移動する記憶装置展』71分監督:たかはしそうた(31歳/神奈川県出身/東京藝術大学 大学院映像研究科映画専攻)『うらぼんえ』28分監督:寺西 涼(27歳/神奈川県出身/フリーター)『完璧な若い女性』65分監督:渡邉龍平(22歳/東京都出身/武蔵野美術大学 造形構想学部映像学科)『こころざしと東京の街』10分監督:鈴木凜太郎(21歳/東京都出身/東京工芸大学 芸術学部)『サッドカラー』24分監督:髙橋栄一(33歳/岐阜県出身/フリーランス)『じゃ、また。』52分監督:石川泰地(27歳/東京都出身/フリーター)『Sewing Love』8分監督:許 願(27歳/中国出身/多摩美術大学 グラフィックデザイン学科)『ただいまはいまだ』28分監督:劉 舸(28歳/中国出身/会社員)『ちょっと吐くね』20分監督:大野世愛(22歳/北海道出身/会社員)『逃避』57分監督:山口真凜(22歳/栃木県出身/フリーランス)『鳥籠』66分監督:立花 遼(21歳/大阪府出身/京都芸術大学 芸術学部)『肉にまつわる日常の話』4分監督:石川真衣(22歳/愛知県出身/名古屋学芸大学 メディア造形学部)『ParkingArea』9分監督:増山 透(29歳/茨城県出身/武蔵野美術大学 造形構想学部映像学科 助教)『ハーフタイム』30分監督:張 曜元(33歳/中国出身/東京藝術大学 大学院映像研究科 博士課程)『不在の出来事』11分監督:川口淳也(29歳/三重県出身/フリーランス)『Flip-Up Tonic』26分監督:和久井 亮(22歳/東京都出身/東京大学 教養学部)『ふれる』56分監督:髙田恭輔(21歳/茨城県出身/日本大学 芸術学部)『ホモ・アミークス』42分監督:馬渕ありさ(27歳/東京都出身/自営業)『また来週』36分監督:ハインズ麻里子(21歳/東京都出身/早稲田大学 文化構想学部)『USE BY YOUTH』51分監督:高木万瑠(20歳/東京都出身/武蔵野美術大学 造形構想学部映像学科)『リテイク』110分監督:中野晃太(35歳/神奈川県出身/NPO職員)『リバーシブル/リバーシブル』77分監督:石田忍道(34歳/愛知県出身/映像作家・障害福祉従事者)<入選作品データ>【入選数】22本【年齢】平均:26.1歳最年少:20歳最年長:35歳【上映時間】平均:40.0分最短:4分最長:110分<応募全体データ>【応募数】557本【年齢】平均:31.5歳最年少:12歳最年長:72歳【上映時間】平均:36.5分最短:1分最長:172分<「PFFアワード2023」入選作品発表にあたって>■ディレクター 荒木啓子ご応募ありがとうございました。「PFFアワード2023」入選作品が決定致しました。近年では最多の22作品の入選となりました。4分の短編から、110分の長編まで、長さもバラバラですが、内容も多彩。セレクションメンバー15名との長い討議ののちに決定した22作品は、いずれも弱点がありますが、そこを補う魅力を持つ原石です。9月9日からの『第45回ぴあフィルムフェスティバル』では、9つのプログラムを構成し、2回ずつの上映を行います。「PFFアワード」は、「自主映画」のためにありますので、どんなことを映画で試みてもOKです。魂を奪われるような体験をした映画をまるごと真似しても大丈夫です。真似しても真似しても別物になってしまうのが、創作のスタートラインです。真似することで身につく技術も重要です。どんどん真似して欲しい。そして、テーマもサブジェクトも完全に自由です。規制はありません。自主映画は商品ではない、個人の創作ですから、ただただ創作に没頭し、すごい映画世界をみせて欲しいと願っています。本年のセレクションを振り返ると「似ている」という印象が立ち昇りました。物語、演出、撮影、リズム、とても似ている。それはなぜ……と考えていると「ジャンル映画の消滅」が、長い年月に渡り、じわじわと効いてきた結果なのかも、と思い当たりました。海外の映画祭―カンヌ含む―がいつも探しているジャンル映画。しかしみつからない日本のジャンル映画……映画の豊潤さを構成するワンピースであるジャンル映画の欠落が及ぼすものを考えています。それは、本年の招待作品企画に反映されることとなるでしょう。改めまして、557作品の応募に御礼申し上げます。ここに応募されていない作品も想像すると、いまも毎日数本、数十本の自主映画がどこかで生まれているのだと、そのことを感じるだけで、心が躍ります。映画という手間暇かかる創作に挑戦する皆様に、深い敬意を表し、本年『第45回ぴあフィルムフェスティバル』を創って参ります。<イベント情報>『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』■東京9月9日(土)~23日(土) 国立映画アーカイブ ※月曜休館■京都10月14日(土)~22日(日) 京都文化博物館 ※月曜休館公式サイト:
2023年07月07日竹田優哉監督『暮れる』は、“真実の映画”だ。映画監督への登竜門と呼ばれる自主映画のコンペティション、ぴあフィルムフェスティバルの「PFFアワード」は、1977年から続く歴史の中で、黒沢清監督や諏訪敦彦監督など日本映画界を牽引する映画監督を数多く輩出してきた。今年開催されたPFFアワード2022で京都会場のグランプリ「京都観客賞」を受賞したのが『暮れる』だ。主人公は祖母と愛犬と暮らす無職の青年。将来への不安を抱えながら静かな日常をおくっている。ある日彼は犬の散歩中に原因不明の腹痛に襲われ、犬のリードを離してしまう。迷子になってしまった犬を探して辿り着いた自然の中で、彼はキャンプ中の男性と出会い、そこで一夜を過ごすことになる。痛みは、湖の水面や火の音と同じように、全てリズムなのだ。少し掴みづらいリズムもあるというだけだ。世界に隠された優しい真実を見せてくれた竹田監督は、どのような眼差しで世界を見つめ、映画にしたのだろうか。竹田監督が本作に込めた思いを伺った。――『暮れる』を製作した経緯を教えてください。大学院で長期間留学に行く予定だったんですが、コロナで中止になってしまって1年間ほど空き時間ができたというのが大きな理由です。どうせなら何かやろうと思って、友達と2人でアイディアを発表する会を立ち上げました。そのとき僕の頭の中にあったのが『暮れる』のような映画をつくることでした。その会を開いていた場所が友達の家族が所有していた山の近くにある空き家だったんですが、そこの環境がすごく良くて、この場所で友達と一緒に映画をつくりたいという思いが徐々に湧き、プロットを書き始めました。そのとき一緒に会をやっていた友達が『暮れる』の主演の子です。スタッフも大学の後輩や先輩や友達などを集めて撮りました。――『暮れる』は少し俯瞰的な視点から日常を描いているように感じました。そこは意識されていますか?映画の視点というのは常に意識しています。ある映画監督から、「監督の重要な仕事のひとつは、カメラポジションを最良の位置に持ってくることだ」という言葉をいただいたことがあります。それから「最良のカメラポジション」ってなんだろう…とずっと考えていました。僕は登場人物の主観やモノの肌触りを感じるような作品が好きだったので、当初は人間の目線に近い画角を意識して撮ろうと考えていました。だけど同時に、必要以上に物語に入り込みたくないという気持ちもありました。だから、手持ちカメラなどとは別のやり方で、普段感じていることを映画で表現してみようと思いました。脚本を書いたのは僕ですが、それに必要以上に縛られるとわざとらしくなってしまいます。そうならないために今回使った手法は、リハーサルを繰り返して、セリフを役者が言いやすいように変えたり、役者の普段の立ち振る舞いをもとに脚本を考えたりすることでした。撮影もどこからか眺めているような映像を目指してつくりました。――葛藤の末に生まれた視点だったのですね。PFFアワードで入選したことはやはり嬉しかったですか?めっちゃ嬉しかったです(笑)。自分が考えていることを自分なりに映画にしたら、10人中9人はつまらないと言うけど、1人くらいの心には届くんじゃないかなという期待はありました。PFFアワードの審査員の中にそういう方が1人くらいいたら、もしかしたら…と思っていたら、そのもしかしたら起きました(笑)。積極的に賞をとりにいった作品ではなかったのですが、せっかく本気でつくった映画なので、誰かに届いてほしいという思いはありました。だから入選したときは本当に嬉しかったです。――主人公が月に一度襲われる原因不明の腹痛や迷子になってしまう犬など、印象的な描写がありますが、これは竹田監督の経験に基づいたものでしょうか?腹痛は僕自身の経験です。人はコントロールできない何かとどういう風に折り合いをつけていくのかということにずっと興味がありました。それを考えているときに映画づくりでピックアップしたのが、まず自分にとって身近な腹痛、つまり身体です。犬や自然というのも、人間のコントロールから外れてしまう存在として入れました。――どうしてコントロールできない存在との関係性に興味を持ったのですか?僕はコントロールできないものとうまく折り合いをつけることができないから、興味を持ったんです。うまく生きていくことができないなとずっと思っていました。たぶんそういう人はたくさんいると思うんですけど、そういう人たちの中でもすごく楽しそうに生きている人はいるじゃないですか。彼らはどうやって楽しく生きているんだろうというのを探っていくと、やっぱり彼らなりの工夫がたくさんあることがわかりました。僕も折り合いをつけて楽しく暮らしていきたいので、そのためにまず人の生き方を観察したいという思いがありました。大学院ではそういうことを研究していました。――主人公の青年が歌う開放的なシーンがありましたが、あれは折り合いのつけ方のひとつでしょうか?あれは単純に、自己主張が苦手な青年がきっかけを与えられたことで自分を表出するというシーンを撮りたかったんです。でも、言われてみれば折り合いのひとつかもしれませんね。主演の子は歌がすごくうまかったので、これを活かさない手はない、と思っていました。もし彼が走るのが得意だったら、走らせていたかもしれないですね(笑)。――竹田監督の映画観についてお聞きしたいのですが、竹田監督にとって映画はどのような存在ですか?映画は僕にとって一番馴染みのあるメディアですし、元気をもらえたり、自分の人生を見つめ直すきっかけになったりもします。でも映像をつくる一番の理由は、考えていることを言葉でうまく伝えられないからだと思います。言葉をうまく操ることができなくても、映像だったらできそうだなと思うんです。僕はどこか自分の気持ちを隠してしまう癖を持っているので、それと向き合うためにも映画づくりが必要でした。――最後に、『暮れる』を通してどのようなメッセージを伝えたいですか?あえて言うとすれば、「みんないろいろ背負っていると思うけど、大丈夫。そのまま生きていけばいい」ということかもしれません。でも僕は、何かメッセージを伝えたいというよりは、ひとつの自律した世界のような映画を生み出したいという気持ちの方が強いです。映画を観終わったあとも、映画の世界や人物が動いているのではないかと思えるような映画をつくりたいです。そんな映画を観ると、たぶん自分を見つめ直すきっかけになるんじゃないかなと思います。僕自身、そうやって今まで映画に救われてきました。『暮れる』も、別の誰かの人生を見ることで自分の人生を考えなおす鏡のような存在になればいいなという思いでつくりました。今後もそのような映画はつくっていきたいです。そして、何かで悩んでいる人たちの考えるきっかけになってくれたら嬉しいです。「PFFアワード2022」は2023年1月13日(金)まで「スカパー!番組配信」にて配信中。※視聴には、スカパー!のいずれかの有料チャンネル、プラン・セット(一部有料PPS放送を除く)のご契約が必要です。(text:cinemacafe.net)■関連作品:【映画祭】ぴあフィルムフェスティバル 2013年9月14日〜20日、渋谷シネクイントにて開催
2022年12月27日第44回『PFF(ぴあフィルムフェスティバル)』のメインイベントで、新人監督の登竜門として名高い自主映画のコンペティション「PFFアワード2022」表彰式が9月22日、都内で行われ、河野宏紀監督の『J005311』がグランプリを受賞。峰尾宝・髙橋直広の両監督による『スケアリーフレンド』が準グランプリと観客賞に輝いた。新しい才能の発見と育成、新しい映画の環境づくりをテーマに1977年にスタートした自主映画のコンペティションをメインプログラムとした映画祭。第44回を迎える今年は、PFF アワードに520本の応募があり、16作品が入選。最終審査員として、菊地健雄(映画監督)、玉川奈々福(浪曲師・曲師)、とよた真帆(俳優)、光石研(俳優)、三島有紀子(映画監督)が審査にあたった。『J005311』は生きることに絶望したサラリーマン・神崎が、同じく人生を諦めている青年・山本のひったくり現場を目撃したことから、正反対の男二人の静かなる衝突が生まれるスリリングなロードムービー。神崎は高額報酬で、山本にある場所への運転を依頼されるが、重苦しく奇妙な旅路の先に、思わぬ奇跡が待っていた。河野監督とは俳優養成所の同期にあたる野村一瑛が主演を務めた。グランプリに輝いた河野監督は、「野村とは8年くらい前に出会って、当初から映画を作ろうと話していたが、何もできずにいた」と振り返り、「仕事も人生もどん底の二人に光をあて、自分自身、野村自身を救いたかったという気持ちがあった。そういうものを評価してくださった皆さんに感謝します」と思いの丈を吐露。野村は「映画の中でもそうだったんですけど、河野には実際の生きてきた人生でも、本当に一番救ってもらった人物。そういう人の強さが、この映画に表現されている」と語り、「おめでとうございます」と受賞を祝していた。なお、タイトルの『J005311』は天体現象に由来しているといい、河野監督は「すでに死んでいる星二つが、ものすごい奇跡的な確率で衝突したら、再び光り出したという話を知って。それを人間に当てはめた」と説明していた。プレゼンターを務めた三島監督は、「この作品にグランプリをとってもらうために、審査員に呼んでいただいたんだなと思いました。人間に絶対的に寄り添うという、監督の優しさがあふれていた」と強い思い入れ。「審査では、この作品の良さをただひたすらに話していたんですけど、実は満場一致だったんです」とグランプリ受賞の経緯を明かした。第44回を迎えた今年は、コンペティション「PFFアワード2022」をはじめ、今年3月21日に亡くなった映画監督・青山真治氏を回顧する「青山真治特集」として、『WiLd LIFe』『月の砂漠』など個性あふれる初期の35mmフィルム5作品を緊急特集。また、今年生誕100周年を迎えたピエル・パオロ・パゾリーニ監督を特集する「ようこそ、はじめてのパゾリーニ体験へ」、ピーター・バラカン氏がナビゲートする映画と音楽シリーズ「ブラック&ブラック」といった多彩なプログラムで映画ファンを魅了した。<グランプリ>『J005311』監督:河野宏紀<準グランプリ>『スケアリーフレンド』監督:峰尾宝、髙橋直広<審査員特別賞>『MAHOROBA』監督:鈴木竜也『the Memory Lane』監督:宇治田峻『幽霊がいる家』監督:南香好<エンタテインメント賞(ホリプロ賞)>『水槽』監督:中里有希<映画ファン賞(ぴあニスト賞)>『瀉血』監督:金子優太<観客賞>『スケアリーフレンド』監督:峰尾宝、髙橋直広<入選作18作品>※作品名50音順。敬称略。年齢は応募時のもの。『アクト』監督:田中 夢(38歳/千葉県出身/俳優・立教大学 映像身体学科卒)『石川君、行け!!』監督:高階 匠(32歳/東京都出身/映像制作会社勤務)『彼は誰時(かわたれどき)』監督:谷本桃子(21歳/青森県出身/名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科)『暮れる』監督:竹田優哉(25歳/広島県出身/神戸大学大学院 国際文化学研究科)『J005311』監督:河野宏紀(26歳/神奈川県出身/フリーター)『瀉血』監督:金子優太(20歳/東京都出身/青山学院大学 理工学部物理学科)『水槽』監督:中里有希(20歳/山形県出身/東北芸術工科大学 デザイン工学部映像学科)『スケアリーフレンド』監督:峰尾 宝(23歳/東京都出身/会社員)髙橋直広(23歳/神奈川県出身/無職)『バンド』監督:河村 陸(24歳/千葉県出身/フリーランス)『ふちしすこ』監督:亀井史興(40歳/新潟県出身/フリーター)『ポラン』監督:中村洸太(23歳/東京都出身/立教大学 社会学部)『MAHOROBA』監督:鈴木竜也(27歳/宮城県出身/飲食店勤務)『the Memory Lane』監督:宇治田 峻(27歳/和歌山県出身/フリーター)『最も無害で、あまりにも攻撃的』監督:中田江玲(23歳/東京都出身/慶應義塾 大学環境情報学部)『幽霊がいる家』監督:南 香好(31歳/神奈川県出身/フリーター)『Lock Up and Down』監督:Minami(27歳/北海道出身/東京大学大学院 総合文化研究科)映画祭「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」開催概要<東京>日程:2022年9月10日(土)~25日(日)※月曜休館会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)<京都>日程:2022年11月19日(土)~27日(日)※月曜休館会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)取材・文・写真=内田涼【公式サイト】
2022年09月22日9月10日(土)から開催中の「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」(PFF)。PFFでは毎年、映画を志す人たちに観てほしい映画、対話してほしい人をテーマとした特集上映を行っているが、今年は生誕100周年を迎えるイタリアの鬼才ピエル・パオロ・パゾリーニ監督が登場。この稀有な才能がもたらす、唯一無二の映画体験をぜひとも多くの若い人たちに体験してもらいたい。そこで今回は若手映画ライターのSYOさんにパゾリーニを初体験していただいた。SYOさんが選んだパゾリーニ作品とは?パゾリーニ作品を通じてSYOさんが感じたこととは?PFFの荒木ディレクターとともに、その魅力を語りあっていただいた。“パゾリーニ初体験”のSYOが気になる作品は?荒木SYOさんは普段はどういったジャンルの映画をご覧になっているんですか?SYO特にジャンルで映画を観ているわけではないですが、仕事柄、どうしても最新の映画を観る機会が多くなってしまうんです。そういう意味ではパゾリーニも名前は知っていたけれど、今まできちんと観たことがなくて。だから今回はいい機会をいただけたと思っています。――今回は“パゾリーニ初体験”ということで、SYOさんに気になるパゾリーニ作品を選んでいただいたわけですが、どの作品が気になりました?SYO『豚小屋』と『ソドムの市』ですね。荒木それは極端かも(笑)。割とこの辺の『アッカトーネ』とか『奇跡の丘』とかもいいですよ。SYOそうですよね。でもその2作品がどうしても気になってしまって(笑)。実は、大学で映画を勉強する機会があって。そこで先生から『ソドムの市』の一部を抜粋して見せてもらった記憶があるんです。ただそのときはパゾリーニというよりも『ソドムの市』という作品が中心で、「ヤバい映画があるぞ!」という形で紹介されていました。『豚小屋』――『豚小屋』はどこが気になったんですか?SYOタイトルですね。『豚小屋』って、明らかに不穏な話っぽいじゃないですか。不穏な映画が個人的に好きで……(笑)。荒木『豚小屋』は傑作ですよ。パゾリーニって知れば知るほど深みが増してくるような映画が多いんで、そこが面白いんですよね。特に初期の2作品(『アッカトーネ』『マンマ・ローマ』)は完全に文学なんですよ。だからこの2作品を観てから他の作品を観ると、また違う印象があるんで。それは組み合わせとしておすすめですね。SYOそうなんですよね。今回は結構どぎつい2本をチョイスしちゃったかなと思っているので、パゾリーニ体験をした今は、彼がいかにして『ソドムの市』にたどり着いたのかが気になっています。荒木パゾリーニは映画つくりに関しては素人というところから始まっていますからね。特に映画の現場で訓練を受けたわけではないのに、デビュー作の『アッカトーネ』があのクオリティーですから。本当にすごい人ですよ。しかも映画監督としては14年しか活動していない。それであれだけのものを生み出し続けたというのは、どれだけなのかと思いますよ。「『ソドムの市』を観て感じた“エグ味”は強烈だった」(SYO)SYO荒木PFFは大島渚監督と縁が深いんですけど、人を褒めるということのあまりない大島監督が、なぜかパゾリーニのことは面白がっていた。それはなんでだろうと思っていたんですけど、今回いろいろと調べていくうちに、ふたりが似ているからなのかと思いました。大島渚に比べて高い映画教育を受けているわけではないですし、キャリアも長いわけではないですが、それでもあの短い時間を駆け抜けたパゾリーニという人は、知れば知るほどカッコいいなと思います。SYOうちは母親が映画好きなので、母親にパゾリーニのことを聞いてみたのですが、けっこうリアルタイムで観ていたみたいで。そのときに言っていたのが、ある種のエグ味はあるけどやっぱり面白いし、笑える部分もある。なんだか残るんだよねということでした。ピエル・パオロ・パゾリーニ監督荒木いいですね、身近に聞ける人がいるのは。SYO僕の映画の師匠はオカンなんです。実家が田舎だったので、映画館が近くに全然なくて。だから小さい頃は昔の作品を含めて、オカンが薦めてくれる映画を観ていました。それこそ『自転車泥棒』とか『モンパルナスの灯』とかも薦められて観ましたし。うちの両親はふたりともクリエーターなので、「こうなりたいな」みたいな憧れもあって。自分と感性は全く別ですが、両親がいいというものは今でも基本観るようにしています。荒木映画関係の人って、ご両親のどちらかが映画が好きという人が多いんですよね。SYOそういう意味ではすごく環境に恵まれていたなと思います。荒木それで『ソドムの市』を観たときはどうだったんですか?SYO最近だと『哭悲 THE SADNESS』という強烈な台湾映画があって。ここ数年で、久しぶりに途中で観るのをやめたくなるような映画だったのですが、観始めた最初はその感覚を少し思い出しました。でも、映画を観て感じたエグ味は『ソドムの市』の方が比べ物にならないくらい強くて(笑)。それはきっと画がすごく美しくて、しかも引きの画で撮られている分、異常性に引いた目線――客観性を感じたから。「怖いものですよ」と見せ物にするのではなく、異常性を当たり前のように描いている。話は通じるけど理解は絶対にできないような、真の意味で怖い人たちに出会ってしまった……と震えました。「なにかをする度に反発が起きるというのはすごい才能」(荒木)荒木啓子ディレクター荒木『ソドムの市』はわたしにとっても、もう1回観たいような、観たくないような、ある種のタブーの映画だったんですよ。ただ今回の上映に合わせてプリントチェックをするために、あらためてスクリーンで観たんですけど、やっぱりパゾリーニの深い絶望のようなもの、だけど絶対に希望は捨てないではいられないというようなものがあって。この引きかれたような、生まれながらの表現者としての魂みたいなものにいつも感動するんですよね。SYOやはり今回、僕が『ソドムの市』を観たいなと思ったのは、やっぱり体験として受け継がれていく作品だから、ということもありますよね。だからといって教授が学生たちにそれを薦めるのもすごいことだと思いますが(笑)、でもそういう力があると思うんです。「俺、『ソドムの市』観たんだぜ!」と言いたくなるような。それは本当に映画の力だと思いますね。『ソドムの市』荒木とにかくパゾリーニは、誰もやらないようなことをやろう、究極のことをやってやろうとしていたんですよね。そういうことを常に思っている作家がいるというだけで、60年代の映画の芳醇(ほうじゅん)さがあると思うんです。パゾリーニは作品を発表する度に、常に訴訟を起こされたり、上映中止を命じられたりしてきたわけですが、なにかをする度に反発が起きるってすごい才能だと思う。SYO一生懸命作っているのに、事件が起こってしまう……。荒木ある種の人たちにとって、彼がやることは恐怖を感じさせるんでしょうね。でもそういう人がボコボコ出てきた時代って、やはり戦争の傷跡みたいなものがあって。めちゃくちゃになった世界の傷を回復させようとしていたからだと思うんです。あの時代の表現欲ってすごかったなと思うんで。だから、むしろこれからの日本映画が面白くなっていくんじゃないかと期待しているんですけどね。とにかくパゾリーニを通して、映画ってなにやってもいいんだよ、ということが伝わったらなと思っているんです。今の人たちの視点でパゾリーニを語ってほしいSYOこれだけエグいものを見せられてるのに、終わった後に「観てよかった」と思うのはなぜなんだろう?と思います。荒木『豚小屋』とか大笑いしませんでした?SYOそうですね。すごいシニカルだなと思いました。『ソドムの市』のように直接的な描写があるのかなと覚悟していた部分もあったんですけど、そうではなく伝聞形式に近い。あえてそこを描かないがゆえのエグさというか、想像力に訴えかけてくる怖さでした。豚が出てくるだけでゾッとしますもんね。荒木『豚小屋』って本当に爆笑に次ぐ爆笑だったんですよね。だから本当に上映のときも真剣に観ないでほしいなと思っているんです。結構、ばかなこともやっていますからね。SYOそれってすごく大事だなと思います。パゾリーニについて語られているものって、どうしてもちょっとアカデミックになりすぎている気がしていて。そうなってくるとこちらも「知識なしに観ちゃいけないのかな」という気持ちになってしまう。だから真剣に観なくていいと言っていただけると、すごくありがたいです。荒木映画の書籍は、研究者のものが多くなりますしね。でも普通に映画を観てどう思ったかといった感想はネットにあふれていますから、こちらも重要。今の人たちの視点で、パゾリーニを体験してどう思ったか、どんどん語ってほしいです。今回の特集を共催しているイタリア文化会館の人は『アラビアンナイト』がすごく好きだとおっしゃってて、それは「パゾリーニの中でも一番美しい映画だから」なんだと。そういうときは「美しい」という言葉だけで伝わるんだなと思いましたね。『アラビアンナイト』それと今回の上映作品で『愛の集会』という、イタリア中をインタビューして歩いているドキュメンタリーがあるんですけど、これを観ていると、みんなうれしそうにパゾリーニに話しかけているんですよね。子どもとかもスッゴイ喜んで寄ってきているし。やっぱり人間的にすごく魅力的な人だったんじゃないかなと思います。『愛の集会』SYO今回、パゾリーニ作品を体験することができて良かったなと思います。ある種、一番強烈なものを最初に観たからこそ、他の作品を観たいなという気持ちになりましたし。今のままだと、自分の中で「強烈な映画を撮る人」のイメージが固まってしまいそうなので(笑)、他の作品も観たいなと思っています。パゾリーニを一気に観て、人生で得がたい体験を!短編では『「奇跡の丘」のためのパレスチナ訪問』(写真右)ほか3本立て上映© Cristina D’Osualdo. Tutti i diritti riservati.Pubblicato per gentile concessione della VIGGO Srl.荒木わたしもまさかPFFでパゾリーニの特集をやるとは思ってもみなかったんですけど、誰もやらなそうだと分かり、2年前から準備しました。PFFは誰もやらないことをやりたいんです(笑)。SYO今回、短編プログラムを入れたら相当な数の映画を上映するんですよね。荒木これを一気に観たらすごいですよ。自分の人生の中でも得がたい体験になります。おそらくスクリーンで、これだけの規模で上映される機会はもうないでしょうしね。――今回の特集で気になった作品はありますか?SYO今回、上映作品のチラシを拝見して。面白そうな作品が多いなと思ったのですが、『大きな鳥と小さな鳥』は観たいなと思いました。『大きな鳥と小さな鳥』荒木興味を持ったのはどういうポイントで?SYOあらすじを読んだだけでもう面白そうだなと思ったというのもありますし、言葉を話すカラスってどんなだろう?というところも気になります。これなら笑えそうな気もしますしね。荒木お時間あるときに、ぜひ映画祭に遊びに来てください。取材・文・撮影:壬生智裕【第44回ぴあフィルムフェスティバル2022】会期:9/10(土)~25(日)※月曜休館会場:国立映画アーカイブ第44回ぴあフィルムフェスティバル2022 特別企画「ようこそ、はじめてのパゾリーニ体験へ」特設サイト: 上映劇場:【東京】京橋・国立映画アーカイブ9月11日(日)~22日(木)渋谷・ユーロスペース10月22日(土)~11月3日(木・祝)【京都】三条高倉・京都文化博物館11月19日(土)~26日(土)<「ようこそ、はじめてのパゾリーニ体験へ」上映作品>『アッカトーネ』1961年『マンマ・ローマ』1962年『ロゴパグ』1963年『愛の集会』1964年『奇跡の丘』1964年『大きな鳥と小さな鳥』1966年『華やかな魔女たち』1967年『アポロンの地獄』1967年『イタリア式奇想曲』日本初上映 1968年『テオレマ4Kスキャン版』1968年
2022年09月12日「映画の新しい才能の発見と育成」をテーマに、現在日本映画界の第一線で活躍する映画監督を多数輩出している映画祭「第44回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が9月10日より開幕。初日にPFFスカラシップ最新作『すべての夜を思いだす』の完成披露上映会が国立映画アーカイブで行われ、清原惟監督、キャストの大場みなみ、見上愛、内田紅甘が登壇し、それぞれ本作への熱い想いを語った。左から)清原惟監督、大場みなみ、見上愛、内田紅甘「PFFスカラシップ」は自主制作映画のコンペティション「PFFアワード」の受賞監督からオリジナル企画を募り、毎年1名を選出して企画・製作から劇場公開までをプロデュースする“映画製作体験プロジェクト”で、これまで李相日、荻上直子、内田けんじ、石井裕也ら錚々たる監督たちの商業映画デビュー作を世に送り出してきた。清原惟監督は東京藝術大学大学院映像研究科の修了作品として製作した『わたしたちの家』で見事PFFアワード2017グランプリに輝き、今回のPFFスカラシップ作品の製作につながった。監督にとっては5年ぶりの長編となる『すべての夜を思いだす』は、東京・多摩ニュータウンですれ違う、世代が異なる3人の女性たちの断片的に響き合う1日が描かれる。清原監督は「約5年という長い時間をかけて作った作品で、トラブルなど大変なこともありましたが、素晴らしいキャストとスタッフの方と作り上げられたこと、こうやって無事に完成できたことをうれしく思います」と挨拶。『すべての夜を思いだす』(C)PFFパートナーズ=ぴあ、ホリプロ、日活/一般社団法人PFF撮影はコロナによる影響が大きかったようで、企画が2回ほど変わってこの形になったという。それについて大場は「この話を最初に頂いたときは、3人がキッチンカーで出会う話だったんですが、スケジュールの都合で撮影が延びて、教習所で出会う3人がキッチンカーを始めるというお話に変わったんです。教習所の話だから車を運転できた方がいいと思って免許を取ったんですけど、最終的にガスの検針員役で……(笑)。おかげさまで車に乗れるようになって楽しませていただいてます!」と笑いを誘った。大場みなみ一方監督は、「撮影を延期したことで、映画をよりシンプルにしていこうと思うようになったときに、3人それぞれの時間をじっくり描き、3人それぞれがこの世界に生きているということが見せられたらよいかなと思って再出発しました。3人の物語を描いてはいるんですが、街に住んでいるほかの人たちのことも想像できるような作品になればと思って、このようなタイトルにしています。5年という長い時間はかかってしまったけど、今思えば必要な時間でした」とコメント。清原惟監督舞台となっている多摩ニュータウンは、約50年前に開発された東京の郊外にあるベッドタウンで、団地と公園が永遠と続く、どこまで行ってもこの景色から抜け出せないように感じる独特の風景。「街をたくさん歩いている中で見つけたいい場所をどうやったら映画にしていけるかを考えていった」と監督が語るよう、場所からインスパイアされたシーンも多くあるそうだ。また、「困ったことがあってもその都度、キャストみんなが相談に乗ってくれたので、そこまで困ったことはなかった」と語る監督。一方、大場は「監督はリハーサルを結構入念にやるんですが、本番では1回でOKのことが多くて。何回もテイクを重ねないのが印象的だった」と回顧。片や、ダンスをやっている大学生・萩野夏を演じた見上は、「逆に私はテイクを重ねた気がします(笑)」と打ち明けると、夏の友人・吉田文を演じた内田も「私もそんな気がします(笑)」と続く。それについて、内田は「特に見上さんが演じた夏は、感情的に難しい繊細なシーンが多かったのでは」と分析した。見上愛内田紅甘最後にPFF2017で審査員を務めた渡部眞撮影監督が登場し、清原監督に花束を贈呈。「5年前グランプリを授賞された時、李相日監督が“監督は映画の匂いを感じてくれたんじゃないか”みたいなことをコメントされていましたがその通りだなと思いました。今日観て、私もプロながら心から感動しました。企画としていろいろ迷った5年間が結実した作品だったのではないかと思います」と監督へエールを送った。なお、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」は25日まで国立映画アーカイブ、11月19日から27日にかけて京都・京都文化博物館で開催。PFFアワード入選作品はDOKUSO映画館、U-NEXTにて配信も行われる。<イベント情報>「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」■東京日程:2022年9月10日(土)~25日(日) ※月曜休館会場:国立映画アーカイブ■京都日程:2022年11月19日(土)~27日(日) ※月曜休館会場:京都文化博物館公式サイト:
2022年09月11日今年で44回目を迎えた「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」。多彩なプログラムで、映画ファンを魅了し続ける同映画祭の中核をなすのが、自主映画を対象にしたコンペティションで、新人監督の登竜門として多くの才能を世に送り出す「PFFアワード」だ。今年は520本の応募作品の中から入選した、16作品が上映され、最終審査員らにより各賞が決定する。このたび、独自の切り口の映画感想で、絶大な支持を集めるTikTokクリエイター・しんのすけさんと、PFFディレクターの荒木啓子氏の対談が実現。実は2007年に創設された京都造形芸術大学の映画学科(現在の京都芸術大学)一期生だったしんのすけさんは、在学中にPFFアワードへの応募をひとつの目標にしていたのだとか。そんなしんのすけさんが考えるPFFアワードのすごさとは?卒業制作が完成も、応募はせず。その理由は?TikTokクリエイター・しんのすけしんのすけPFFアワードは、映像を作っている人間なら誰もが知っている賞ですから、いつか応募したいという思いはありましたね。受賞すれば、次のステップが見えてくるような現実的なコンペが、PFFアワード以外ありそうで実はあまりないですから。実際、卒業制作は完成させたんですが、応募はしませんでした。荒木あら、残念。なんで?しんのすけはっきりした理由は思い出せませんが、ひとつは当時自信がなかったということですね。PFFアワードという、めちゃくちゃ大きなブランドに応募するハードルの高さを感じていたんだと思います。長い歴史もありますし、権威性というか……。荒木やってる側としては、権威にはなりたくないですよ。例えば、いわゆる世界三大映画祭みたいな、歴史と権威を誇るような場所ではない。自主映画の祭典ですから、常にフレッシュ、常にリニューアルの気持ちです。そうでなければ、存在する意味もないですし。権威って言われると、チェってなる(笑)。しんのすけもちろんそうですが、僕が学生だった10年前に比べても、映像祭と呼ばれるものが、尋常じゃないくらい増えた今だからこそ、よりPFFアワードは不動の位置にあるというか。PFFアワードを受賞すれば、劇場公開作品が撮れたり、そういう部分は、やはり揺るがない印象がありますね。実際に後輩の工藤監督(『オーファンズ・ブルース』でグランプリを受賞し、PFFスカラシップ作品『裸足で鳴らしてみせろ』で商業映画デビューした工藤梨穂監督)の授賞は、学科内に留まらず、大学全体の大きなニュースとして扱われていましたし。荒木去年グランプリを受賞した『ばちらぬん』の東盛あいか監督も、京都芸術大学の後輩にあたりますよね。実は『ばちらぬん』がグランプリをとって「やったな」って思ったんですよ。こういうタイプの作品って見たことある人は少ないだろうし、劇場公開も決まりましたから。PFFアワードは“才能に出会える”場今年のPFFアワード全16作品しんのすけまさに“才能に出会える”場としての魅力が、PFFアワードにはありますよね。数多くの監督を輩出した歴史もあるし、会場に足を運ぶファンの中にも「自分も新しい才能を応援したい」という、ある種の“推し活”が楽しみ方のジャンルにもなっている。そうやって、映画祭を支えるファンの存在は確かにありますよね。荒木去年、エンタテインメント賞(ホリプロ賞)と映画ファン賞(ぴあニスト賞)をダブル受賞した『愛ちゃん物語♥』や、観客賞の『距ててて』は、まさにそうかも。しんのすけそういう出会いって、一般的な商業映画ではなかなか生まれない感覚ですよね。荒木でも、今は映画制作を取り巻く環境もどんどん厳しくなっているでしょ?どういう映画祭でなければいけないのか。それを考えることが、いつの間にか仕事になっている面もあって。映画って、音楽や小説と違って、成果が見えづらいし、成功したと認められるプロセスも違う。いわば、最も不安な仕事なんですよ、映画監督って。それでも「映画を作っていいんだ」と思ってもらえるよう、監督たちにどうやって寄与できるか。なにか力を貸せないかと考える。それ以外のこと……、例えば、映画祭を大きくするとか、そういうことは目標ではないし、考えてもいないんです。強いて言えば、作ったものを、ちゃんと誰かに観てもらえるということだけが役割なのかなって。しんのすけコロナ禍もあって、みんなが同じ空間に集まるということの価値が、今まで以上に大きなものにもなっていますもんね。スクリーンで上映されて、誰かの反応が返ってくるという感覚は、確実に作家のテンションに直結するし、次回作を作ろうと思えるはず。PFFアワードに応募すれば、その可能性があるわけですから。大切なきっかけ作り。でも「選ぶのって、本当に難しい」荒木啓子ディレクターしんのすけTikTokで映画を紹介していて思うんですが、今はある種のお墨付きというか、レコメンドがないと、お客さんも映画を観ようって気持ちにならない。きっかけ作りがすごく大切で。荒木映画祭で言えば、(賞に)選ばれた作品の方が、観る側にとっても安心感がある。PFFアワードという形でコンペが始まったのは、1988年のこと。それまでは、例えば、大島渚や寺山修司、大林宣彦といった人たちが「おれはこれを推す」という作品をただ上映していたけど、応募者から「コンペにしてほしい」という声があがり、始まったそうです。ただ、大切にしないといけないのは、応募者全員に「参加して良かった」と思ってもらうことで。賞を受賞すれば注目を浴びるのはもちろんだけど、じゃあ、賞に漏れた作品がダメなのかって言えば、もちろん、そんなことはなくて。しんのすけ僕も毎週、どの作品を紹介するのか?そのチョイスによって、もしかすると、動画を見てくれている人が、出会うはずだった作品に出会えないこともあるんじゃないかって考えることはよくあります。コンペもそれに近いのかなと。荒木それを考えたら、寝られないですよ。(審査する側として)選ぶのって、本当に難しい。受賞作品よりも、選考のボーダーラインにいた作品のことをずっとよく覚えている。そういった作品、そして作った監督たちにチャンスをつかんでもらうためになにができるのかは大きな課題で。PFFアワードであれば、長編映画の製作を援助する「PFFスカラシップ」というシステムがあって、理想に近づけるように、今も試行錯誤をしているところなんですけどね。それって、映画祭がやることなのかなって、ふと思うこともあるけど(笑)。多様化する視聴スタイルスクリーン上映の価値は?しんのすけ技術面でいうと、今、スマホで撮る作品も増えています。異常に高画質だったりするので。荒木スマホ、すばらしいよ!本当にスマホでどんどん撮ってほしいと思います。おっしゃる通り、カメラの性能がすごくいいもん。問題は音ですよね。音もちゃんと計算しないと、映像が活きないよって。しんのすけそうなんです。音をちゃんときれいに調整しないと、なにが描かれているか分からない。音のリテラシーは、映像制作の大きな課題だなって思います。それと今は、自宅で映画を観るにしても、4Kのプロジェクターとか、いい機材が手頃な値段で手に入るんですけど、やっぱり音響には限界があって。映画館も今まで以上に音響へのこだわりが強くなっていますし、スクリーンで観る価値もそこにあるのかなって。荒木だからこそ、PFFアワードも、スクリーンでの上映は絶対に捨てないという気持ちがありますね。音のこともそうだし、同じ空間でいろんな反応に触れることって、作り手にも、お客さんにもすごく刺激的な体験になるはずなので。しんのすけ先ほどPFFアワードは“才能に出会える”場だという話をしたんですが、特にクオリティに縛られない初期衝動や、いい意味での粗さがある作品に奇跡的に出会えるのがいいんですよ。普通じゃ観られないもの(笑)。技術は後からついてくるとして、ちゃんと作りたいものがあって、どこか突き抜けている感覚というか。荒木自分でも自分がなにを作っているのか分からない。それくらい極端な冒険もしてほしいですよね。そういう自由さも含めて、PFFアワードは「いろいろあっていいんだ」っていう多様性を示す場所でありたいと思っていますね。しんのすけこれだけSNSが浸透した時代なので、作り手には自分で発信することの大切さも知ってほしい。作るだけで終わるのではなく、作品をどうアピールするかを意識するのがすごく大事で。それは商業映画も自主映画も同じで、未来の作り手に求められることだと思いますね。その上で、PFFアワードが道を切り開くサポートをしてくれる。そういう意義があるんだと知ってほしいですね。取材・文・写真:内田涼PFFアワードとは?“映画の新しい才能の発見と育成”をテーマに、1977年に活動がスタートした「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」。その中心的な役割を果たす「PFFアワード」は、世界でも類を見ない自主映画を対象としたコンペティションで、入選者の中からは、後にプロとして活躍する映画監督を約170名輩出している。上映時間やジャンル、年齢、性別などは不問。新しい才能が集う場所として、広く認知されている。また、1984年から映画祭がトータルプロデュースする長編映画製作システムとして、「PFFスカラシップ」が実施され、新人監督のデビューを支援している。【第44回ぴあフィルムフェスティバル2022】会期:9/10(土)~25(日)※月曜休館会場:国立映画アーカイブ■映画祭公式サイト■映画祭公式Twitter■チケット購入はこちら※会場での当日券販売はありません。
2022年09月09日ぴあフィルムフェスティバルの映画製作プロジェクト「PFFスカラシップ」の新作2本『猫と塩、または砂糖』、『裸足で鳴らしてみせろ』の連続公開を記念し、これまでのPFFスカラシップ作品を振り返る特集上映「 35mmフィルムで蘇る! PFFスカラシップ傑作選」が渋谷・ユーロスペースで開催中。7月17日には、李相日監督が来場し、自身が手掛けた『BORDER LINE』(2002年/第12回PFFスカラシップ作品)について語るトークイベントを行った。大学卒業後、日本映画学校の卒業制作として監督した『青~chong~』がPFFアワード2000で、グランプリを含む4賞を獲得した李監督。長編映画デビューを飾った『BORDER LINE』は実際に起きた事件をモチーフに、やる気のないタクシー運転手、事件の容疑者として自転車で逃走中の高校生、幹部に追われるチンピラ、夫のリストラや息子のいじめ問題に頭を悩ませる主婦らを通して、家族のあり方を問いかけるヒューマンドラマだ。「自分の映画としてやりたいこと、考えていること、思いのすべてを注ぎ込んだ。非常に不器用で不格好な映画だなと思ったりしますけど、表現したいことの原点が詰まっていて、技術的に及ばない中で、思いの丈だけがはみ出ている」と李監督。東京から青森、北海道・函館までロケーションを敢行し、ロードムービーに相応しい心象風景を描いており、「予算とかはまったく考えていなかった(笑)。若さゆえ、状況に左右されず『やってみないとわからない』と抗うことが映画作りの原動力だと信じ込んでいた」と初期衝動を振り返った。村上淳、光石研、麻生祐未らが出演し「プロの俳優さんとの仕事は初めて。内面から何か引き出せないかと真剣に始めた」と今に至る俳優への演出方法の原点にも言及。「当事者にしかわかりえない真実」というテーマはその後に続く『悪人』『怒り』、最新作『流浪の月』にも通じており、「狙ったわけではないが、『BORDER LINE』で欲張って描いたことがつながっている。映画が終わった先、登場人物や土地の匂いがスクリーンの枠からはみ出し、こぼれ落ちることを求めている」と話していた。取材・文・写真=内田涼「<<ミニシアターセレクション>>35mmフィルムで蘇る! PFFスカラシップ傑作選」日程:7月16日(土)~22日(金)※連日18:30からの上映会場:ユーロスペース7月16日(土) 『二十才の微熱』初日来場者限定 特別プレゼントあり7月17日(日) 『BORDER LINE』李相日監督 来場予定7月18日(月・祝) 『二十才の微熱』橋口亮輔監督 来場予定7月19日(火) 『運命じゃない人』内田けんじ監督 来場予定7月20日(水) 『川の底からこんにちは』7月21日(木) 『バーバー吉野』荻上直子監督 来場予定7月22日(金) 『二十才の微熱』【イベント詳細ページ】 【チケット購入:ユーロスペース】 企画制作:マジックアワー企画協力:一般社団法人PFF『猫と塩、または砂糖』(小松孝監督)7月23日~公開『裸足で鳴らしてみせろ』(工藤梨穂監督)8月6日~公開
2022年07月18日第44回ぴあフィルムフェスティバル『PFFアワード2022』の入選作品が、3月から約3カ月に及ぶ審査を経て決定した。『PFFアワード』は、1977年にスタートした世界最大の自主映画のコンペティションで、世界で活躍する黒沢清、塚本晋也、佐藤信介、李相日、荻上直子、石井裕也など、これまでに170名を越えるプロの映画監督を送り出してきた。今年は520本の応募作品の中から、16作品が入選。入選作品は、『第44回ぴあフィルムフェスティバル2022』9月の東京会場で2回、11月の京都会場で1回のスクリーン上映が行われる。また今年も、DOKUSO映画館、U-NEXTで配信が行われる予定。グランプリなどの各賞は、9月22日(木)に行われる表彰式にて、最終審査員らにより発表される。■『PFFアワード2022』入選作品 ※作品名50 音順。上映時間、年齢、職業(学校名)は応募時のもの『アクト』78分 監督:田中夢(38歳 / 千葉県出身 / 俳優・立教大学 映像身体学科卒)『石川君、行け!!』 80分 監督:高階匠(32歳 / 東京都出身 / 映像制作会社勤務)『彼は誰時(かわたれどき)』 15分 監督:谷本桃子(21歳 / 青森県出身 / 名古屋学芸大学 メディア造形学部映像メディア学科)『暮れる』 52分 監督:竹田優哉(25歳 / 広島県出身 / 神戸大学大学院 国際文化学研究科)『J005311』 93分 監督:河野宏紀(26歳 / 神奈川県出身 / フリーター)『瀉血』 86分 監督:金子優太(20歳 / 東京都出身 / 青山学院大学 理工学部物理学科)『水槽』 53分 監督:中里有希(20歳 / 山形県出身 / 東北芸術工科大学 デザイン工学部映像学科)『スケアリーフレンド』 76分 監督:峰尾宝(23歳 / 東京都出身 / 会社員)、高橋直広(23歳 / 神奈川県出身 / 無職)※高橋直広の「高」は正しくは「はしごだか」『バンド』 28分 監督:河村陸(24歳 / 千葉県出身 / フリーランス)『ふちしすこ』 69分 監督:亀井史興(40歳 / 新潟県出身 / フリーター)『ポラン』 75 分 監督:中村洸太(23歳 / 東京都出身 / 立教大学 社会学部)『MAHOROBA』 14分 監督:鈴木竜也(27歳 / 東京都出身 / 飲食店勤務)『the Memory Lane』 25分 監督:宇治田峻(27歳 / 和歌山県出身 / フリーター)『最も無害で、あまりにも攻撃的』 40分 監督:中田江玲(23歳 / 東京都出身 / 慶應義塾 大学環境情報学部)『幽霊がいる家』 12分 監督:南香好(31歳 / 神奈川県出身 / フリーター)『Lock Up and Down』 34分 監督:Minami(27歳 / 北海道出身 / 東京大学大学院 総合文化研究科)ぴあフィルムフェスティバル ディレクター荒木啓子ご応募誠にありがとうございます。セレクション・メンバー全員で 2 日間に渡る討議を経て、コンペティション「PFFアワード2022」は別掲の16作品で決定致しました。「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」9月の東京会場で2回、11月の京都会場で 1回のスクリーン上映を行います。また今年も、DOKUSO映画館、U-NEXTで配信を予定しています。毎年のことながら、セレクション・メンバー17名それぞれが強く推す作品は、見事にばらばらでした。「各人の推薦の言葉が新たにその作品を発見させる」というマジカルな時間に興奮し、その後、クールダウンしながらさまざまに考察を重ね、プログラムを決定しました。この作品、このつくり手の皆さんと、観客が出会う場となる「映画祭」の準備も、いよいよ本格的に始まります。映画祭全貌の発表は、8月上旬まで今少しお待ちください。最後に、高校生作品の傑作がたくさんあったことを特筆しておきたい本年です。ますます10代の力に期待が高まります!映画をつくりあげた皆様に、改めて敬意を表します。ありがとうございました。<入選作品データ>【入選数】16本【年齢】平均:26.5 歳 最年少:20歳 最年長:40歳【上映時間】平均:51.9分 最短:12分 最長:93分<応募全体データ>【応募数】520本【年齢】平均:31.7歳 最年少:14歳 最年長:72歳【上映時間】平均:36.5分 最短:3分 最長:159分<審査の流れ>1次審査(3月中旬~4月下旬)「1作品を4名が必ず最初から最後まで、1分1秒もらさず観る」というルールのもと、全作品をセレクション・メンバーで手分けして鑑賞。1次審査会議では、鑑賞した4人の審査員が他のメンバーにぜひみせたい作品を推薦し「1次通過作品」を決定。2次審査(4月下旬~6月下旬)「1次通過全作品」をセレクション・メンバー全員が鑑賞。2次審査会議では、丸2日間かけて 全員で合議を行う。個々の作品に対する、セレクション・メンバーの想いが溢れる、白熱した会議となった。 最終的なプログラミングはPFFディレクターに委ねられ、入選作品が決定。■映画祭『第44回ぴあフィルムフェスティバル2022』開催概要公式サイト <東京>日程:2022年9月10日(土)~25 日(日) ※月曜休館会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)<京都>日程:2022年11月19日(土)~27 日(日) ※月曜休館会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)
2022年07月01日日本映画界を牽引する監督たちの商業デビュー作を世に送り出してきた、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)の映画製作プロジェクト「PFF スカラシップ」。この度、過去のPFFスカラシップ作品の名作を35mmフィルム上映で振りかえる『PFF スカラシップ傑作選』が開催されることが決定した。1984年の創設から38年を迎えたPFF スカラシップは、PFFが新人監督のデビューをトータルプロデュースする長編映画製作プロジェクト。2022年の今夏には、このPFF スカラシップを受賞した『猫と塩、または砂糖』(7月23日公開)、『裸足で鳴らしてみせろ』(8月6日公開)が連続公開される。これを記念し、過去のPFF スカラシップ作品の名作を35mmフィルム上映で振りかえる『PFF スカラシップ傑作選』の開催が決定。現在、PFFや国立映画アーカイブ所蔵の上映可能な35mmフィルムから、各劇場がセレクトする【ミニシアターセレクション】形式で開催する。スカラシップ創設の1980年代〜2010年頃までは35mmフィルムでの上映が主流だったが、保管やメンテナンスが難しく、また映写機の設備がある劇場も少なくなり、フィルム上映が困難になってきている。だが、最近では、このフィルム独特の質感が若い世代にも見直されブームに。映画館でもクラシック作品の35mmフィルム上映をする企画が相次ぎ、往年の映画ファンから若い世代までが注目する人気の企画となっている。今回上映するのは、過去にPFF入選を果たした監督たちの商業デビュー作。東京では、渋谷・ユーロスペースにて、橋口亮輔監督『二十才の微熱』、李相日監督『BORDER LINE』、荻上直子監督『バーバー吉野』、内田けんじ監督『運命じゃない人』、石井裕也監督『川の底からこんにちは』の5作品を、7月16日(土)から7月22日(金)までの1週間上映。さらに、期間中の上映スケジュールに合わせて、橋口監督、李監督、荻上監督、内田監督が来場し、トークイベントを開催する予定となっている。また、本企画は東京で開催後、関西などの劇場でも順次開催予定。上映劇場及び各セレクション作品は公式サイトにて発表する。本企画では、35㎜フィルムならではの光や色彩表現をスクリーンで堪能できるのはもちろんのこと、上映するPFFスカラシップ作品の公開当時、劇場に駆け付けた映画ファンにとっては懐かしい体験と今見直しても色あせない名作の感動を、そして、若い世代にとっては、日本映画の第一線で活躍する監督たちの原点となるデビュー作ならではの熱を、公開当時と同じ35mmフィルム上映で追体験ができる、貴重な機会となる。渋谷・ユーロスペースでは、7月23日(金)からはPFF スカラシップ新作連続公開の1本目『猫と塩、または砂糖』が公開される。『<ミニシアターセレクション>35mmフィルムで蘇る!PFF スカラシップ傑作選』<ユーロスペース セレクション>上映期間:7月16日(土)から22日(金)まで※上映作品は以下の5作品※連日18:30~の回※監督が来場してトークイベント開催予定7/16(土)『二十才の微熱』7/17(日)『BORDER LINE』*李相日監督来場(予定)7/18(月・祝)『二十才の微熱』*橋口亮輔監督来場(予定)7/19(火)『運命じゃない人』*内田けんじ監督来場(予定)7/20(水)『川の底からこんにちは』7/21(木)『バーバー吉野』*荻上直子監督来場(予定)7/22(金) 『二十才の微熱』料金:一般¥1,500(税込)学生・シニア・会員¥1,200(税込)*ゲスト登壇者は予定につき、予告なく変更となる場合がございますので予めご了承くださいユーロスペース: (渋谷駅下車、Bunkamura 前交差点左折) 渋谷区円山町 1-5 KINOHAUS 3F企画サイト: 『猫と塩、または砂糖』7月23日(土)より公開『裸足で鳴らしてみせろ』8月6日(土)より公開
2022年06月28日ぴあフィルムフェスティバルの「PFFアワード2020」で審査員特別賞を受賞したロードムービー『頭痛が痛い』の初日舞台挨拶が6月3日、東京・アップリンク吉祥寺で行われ、出演する阿部百衣子、せとらえと、本作で監督デビューを飾った守田悠人が登壇した。新国立競技場の建設が進む2018年の東京を舞台に、空気を読みながら明るく振る舞う一方で憂鬱な気持ちを抱えていた女子高生・いく(阿部)と、自傷行為を繰り返しながら、心の隙間をライブ配信で埋めようとする不登校気味の鳴海(せとら)が、互いの心と傷の手当てをし、支え合う姿を描いた。実際の事件がモチーフになっており、守田監督は「当時、自分の中になった憂鬱とリンクした瞬間があり、これを今の自分が映画にしなければ。10年後の自分が映画にできるか分からないと思い、製作しました」と振り返った。『頭痛が痛い』初日舞台挨拶より撮影は4年前に行われ、阿部は「こうして作品を皆さんにお見せできる機会にめぐりあえて、幸せだなと思います」と俳優デビュー作の念願の劇場公開に喜びの声。本作を鑑賞するのは、およそ2年ぶりだといい「当時の私は、自分の苦しさや、嫌だなと思うことを表に出せなかったり、いくと重なる部分もあった。ズーンと心に残るものがあった」と明かし、「彼女たちの生きざまは泥臭いですが、美しいなと。逃げ出したいときは、いくや鳴海を思い出して、もう少し頑張ろうかなと思ってもらえれば」とアピールした。阿部百衣子せとらも「繊細で傷つきやすいところは重なっているなと思いました」と役どころに共感。「自分には価値がない、誰にも愛されていないと思っている人にも、私は生きていてほしいと思うんです。見ず知らずの人間に言われても届かないかもしれないですが、自分を愛してあげてほしいです」とメッセージを送った。せとらえとぴあフィルムフェスティバルでの上映を経て、劇場公開にあたっては再編集が施され、守田監督は「自分が(再編集を)やらなくてもいいかなと思っていたら、当時高校卒業したての小本(菜々香)に出会って。150分くらいの素材を渡したら、90分にしてきて肝が据わっているなと思った」と舞台裏を回想。審査員特別賞受賞については、「受賞の瞬間は何かしゃべらないといけないと焦りましたが、作品に箔が付いたので、スタッフや俳優の皆さんのためにもなって、うれしかった」と話していた。守田悠人監督取材・文=内田涼<作品情報>『頭痛が痛い』公開中『頭痛が痛い』ポスタービジュアル脚本・監督:守田悠人出演:阿部百衣子 / せとらえと / 鐘ヶ江佳太 / 山本華世子 / 大友久志 / ナツメ / 杉山宗賢『頭痛が痛い』予告編『頭痛が痛い』公式サイト:
2022年06月04日「PFFアワード2020」で審査員特別賞を受賞した映画『頭痛が痛い』が6月3日(金)より、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開となる。この度、脚本と監督を務めた守田悠人のオフィシャルインタビューが公開された。本作の主人公は自傷行為や恋愛感情のないセックスを繰り返し、家庭に不和を抱える不登校気味の高校生・鳴海と、エゴだとわかりつつ、いつも人のことを考え、救急セットを持ち歩く同級生・いく。それぞれの「死にたさ」を擦り合わせようとするふたりによるシスターフッドロードムービーである。守田監督のインタビューは下記の通り。――本作制作のきっかけをお教えください。本作は2018年、大学4年の時に作ったんです。当時、高校生がライブ配信中に線路に飛び込むという事件が起きて、彼女の過去の配信映像だとかがネット上で拡散されました。その一連を見たときに自分の中に漂ってきたものをうやむやにしたくないと思ったんです。10年後の自分がこのテーマで撮れるかわからないですし「今しか撮れない」と思って撮りました。――タイトルの「頭痛が痛い」に込めた想いは?「ちぐはぐな痛み」を描きたくて作りました。例えば、自分のしんどさを伝えたい時に「今、頭痛が痛くてしんどいんだよ」と言っても、「『頭痛が痛い』って言葉の使い方が間違っている」と言われて、まともに取り合ってもらえない。でも、こっちとしては今の自分のしんどさを他の言葉で形容できない、「頭痛が痛い」としか言えない、という、他人とのわかりあえなさや矛盾した痛みを含んだタイトルがいいなと思ったんです。――いくと鳴海がさっきまでいたのに、次の瞬間いなくなっているというシーンがあって、命の儚さなどを感じましたが込めた想いはありますか。ジャンプカットはラスト手前の、屋上に立つ誰かの足が不意に消えるというシーンにもリンクさせています。雑踏のなかでさっきまでそこに居た誰かが不意に消えていても認識できないのと同じように、人がこの世から消えてゆくことを認識できないですし、そのスピード感についていけない、処理が追いつかない、という感覚で使いました。――いくの家のシーンがなかったりと、いくの境遇の描写が省かれている理由を教えてください。「誰でも抱えうる憂鬱を持っている子」という風にしたく、原因を描いてそれと紐付けたくなかったというのが一番の理由ですね。――いくの「私は死にたいんだと思うと、妙に腑に落ちて楽になる」というセリフがありますが、監督もそう思ったことがあるんですか?僕もありますし、厳密に言うと僕はちょっと違いますが、みんなそれぞれ憂鬱に対処する儀式みたいなものがあるんじゃないかなと思っています。僕の身の回りにいる人で、毎日「死にたい」と言いながらすごく健康的に生きている人がいて、めちゃくちゃカッコいいと思うので、それを肯定するためにこのセリフを書いたんだと思います。――いく役を阿部百衣子さん、鳴海役をせとらえとさんをキャスティングした理由をお教えください。阿部さん、せとらさんに共通するのは、オーディションで「この人のことを知りたい」と思ったからです。オーディションの際に、全員の方に「死にたいと思ったことはありますか?」という質問をしたのですが、阿部さんの答え方は「皆あるんじゃないんですかね〜」と自分に当てられた焦点をすり変えているような交わし方をされたので、阿部さんという人間に興味が湧きました。せとらさんは、入ってきた瞬間の挙動が印象的で、ヒョウ柄のボトムスとすけすけのシャツを着ていたのも相まって、映画のオーディションに来る人ではない異様な感じがしました。それまで漠然としたイメージだった鳴海が、実際にせとらさんを見て、この子が鳴海だったんだと思ったんです。――女子高生ふたりだけでも映画は成り立ったとは思いますが、フリージャーナリストの直樹の役を作った理由をお教えください。いくが遺書という爆弾をばら撒きますが、受け取った側にどう作用するかを描くと、爆弾に奥行きが出るんじゃないかなと。それで正義感が空回ってほしい、そういう存在がほしい、と直樹のキャラクターを構築しました。――撮影時のエピソードを教えてください。いくのラブホでの援助交際のシーンはしんどい描写だったんですけれど、本番でカメラを回している最中に、いくの姿を見ながら「あ〜」と声が漏れてしまい、NGを出したことがありました。――本作の見どころは?主演のふたりのお芝居や、両者が持つそれぞれの強さ、いくと鳴海の関係性を見てほしいです。――読者にメッセージをお願いします。自主映画で至らない部分もたくさんありますが、2018年の自分ができる限りリアルを全部吐き出して作った映画なので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。『頭痛が痛い』6月3日(金)公開
2022年05月29日ベトナム人女性労働者たちを描く長編第2作『海辺の彼女たち』が昨年公開され話題を集めた、藤元明緒(ふじもと・あきお / 33歳)監督が、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)による映画賞「大島渚賞」を受賞したことが発表された。4月3日(日)に東京・丸ビルホールで記念上映会が行われる。この賞は映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする、若くて新しい才能に対して贈られるもの。2019年に創設され、今年で3年目を迎える。かつて大島渚監督が高い志を持って世界に挑戦していったように、それに続く次世代の監督を期待と称賛を込めて顕彰してきた。選考方法は「日本で活躍する映画監督(劇場公開作3本程度)」、「原則として前年に発表された作品がある」監督を対象に、大島渚監督作品を知る世界各国の映画人より推薦を募り、審査員が授賞者を決定。第1回は『鉱 ARAGANE』や『セノーテ』が世界各国で高い評価を受けるなど、次々に新たな作品を生み出している小田香監督が受賞し話題を呼んだ。そして昨年の第2回は「該当者なし」という結果を経て、今回の藤元監督の受賞となった。「大島渚賞 記念上映会」では、受賞監督作品と大島渚監督作品が上映される。前述の『海辺の彼女たち』、そして1969年のカンヌ映画祭監督週間で上映され、大島渚監督の国際的評価の皮切りとなった『絞死刑』。2作の上映後には、藤元明緒監督と黒沢清、大島新(大島渚監督の息子であり、『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』を監督)、MC荒木啓子(PFFディレクター)によるトークショーも行われる。■イベント情報「大島渚賞記念上映会」4月3日(日)13時開映会場:丸ビルホール料金:一般 2,500円、学生 1,500円発売:チケットぴあにて、3月19日(土)午前10時より発売(会場でのチケット販売なし)<上映ラインナップ>(※予定)『海辺の彼女たち』『絞死刑』<トークショーゲスト>藤元明緒監督、黒沢清(映画監督)、大島新(ドキュメンタリー監督)MC:荒木啓子(PFFディレクター)
2022年03月10日新人監督の登竜門として名高い第43回『PFF(ぴあフィルムフェスティバル)』が開催中の国立映画アーカイブにて9月24日、「PFFアワード2021」表彰式が行われ、東盛あいか監督の『ばちらぬん』が見事グランプリに輝いた。また、準グランプリ、審査員特別賞(3作品中2作品)、エンタテインメント賞(ホリプロ賞)、映画ファン賞(ぴあニスト賞)、観客賞を女性監督が独占し、例年以上の躍進を印象付けた。新しい才能の発見と育成、新しい映画の環境づくりをテーマに1977年にスタートした自主映画のコンペティションをメインプログラムとした映画祭。第43回を迎える今年は、PFF アワードに489本の応募があり、18作品が入選。最終審査員として、池松壮亮(俳優)をはじめ、今泉力哉(映画監督)、柴崎友香(作家)、岨手由貴子(映画監督)、高田亮(脚本家)が審査にあたった。『ばちらぬん』は与那国の持つ記憶や文化を、沖縄県出身の監督の個人的経験に重ねた実験作。タイトルは「忘れない」という意味の与那国の言葉。変化する島の様子や、消滅危機言語の島言葉をめぐる“人と土地”の物語はコロナ禍の影響で、当初企画されたフィクション映画としての撮影が断念され、結果的にフィクションやドキュメンタリーの枠を超えた感性あふれる一作となった。グランプリに輝いた東盛監督は「映画だったら、『つながりたい』という思いを未来に運べるんじゃないかと思った」と作品への思いをコメント。監督に加えて、主演も務め「自分の不甲斐なさに、気持ちがそがれる日々だった」というが、「映画が完成し、皆さんに見てもらえたのは、本当にうれしく思います」と喜びの声をあげていた。プレゼンターを務めた池松は「すばらしい作品に出会えた」と断言し、「私たちは短い人生にとらわれがちですが、この作品は『人間はもっと精神の歴史の上を歩いている』ことを当たり前のようにわかっている。言葉にならない何かを、映像でつかみ取ろうとする意志の強さと、技術的なバランスに感銘を受けた」と魅力を語った。第43回を迎えた今年は、昨年に引き続き、新型コロナウイルス感染予防を徹底して開催。客席の稼働率は50%に制限されたが、期間中は約3400人が会場に来場した。コンペティション「PFFアワード2021」をはじめ、第27回PFFスカラシップ作品『裸足で鳴らしてみせろ』完成披露上映、世界が注目するタイのアート系監督ナワポン・タムロンラタリナットにフォーカスした特集や、ピーター・バラカン氏がナビゲートする映画と音楽シリーズ「ブラック&ブラック」など、8企画、59本の映画と40人のゲストで構成された。<グランプリ>『ばちらぬん』(監督:東盛あいか)<準グランプリ>『グッバイ!』(監督:中塚風花)<審査員特別賞>『Journey to the 母性の目覚め』(監督:岡田詩歌)『転回』(監督:岩崎敢志)『豚とふたりのコインランドリー』(監督:蘇鈺淳)<エンタテインメント賞(ホリプロ賞)>『愛ちゃん物語♡』(監督:大野キャンディス真奈)<映画ファン賞(ぴあニスト賞)>『愛ちゃん物語♡』(監督:大野キャンディス真奈)<観客賞>『距ててて』(監督:加藤紗希)<入選作18作品>※作品名50音順。上映時間、年齢、職業(学校名)は応募時のもの。18監督の平均年齢25.4歳『愛ちゃん物語♡』91分監督:大野キャンディス真奈(22歳/東京都出身/東京藝術大学 美術学部油絵科)『苺のジャムとマーガリン』10分監督:宮永咲弥花(18歳/埼玉県出身/埼玉県立芸術総合高等学校 映像芸術科)『壁当て』10分監督:井上朝陽(19歳/大阪府出身/ビジュアルアーツ専門学校 大阪)『巨人の惑星』25分監督:石川泰地(25歳/東京都出身/フリーター)『帰路』19分監督:高橋伊吹(18歳/愛知県出身/瑞陵高校)『グッバイ!』31分監督:中塚風花(20歳/滋賀県出身/会社員)『県民投票』92分監督:大場丈夫(38歳/茨城県出身/会社員)『五里霧中』40分監督:曽子明(26歳/中国出身/武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『サイクルレース』5分監督:倉澤紘己(21歳/東京都出身/武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『Journey to the 母性の目覚め』5分監督:岡田詩歌(25歳/東京都出身/東京藝術大学大学院 映像研究科アニメーション専攻)『転回』14分監督:岩崎敢志(24歳/愛知県出身/フリーター)『ばちらぬん』61分監督:東盛あいか(23歳/沖縄県出身/京都芸術大学 映画学科)『Parallax』34分監督:野辺ハヤト(49歳/埼玉県出身/フリーランス)『豚とふたりのコインランドリー』22分監督:蘇鈺淳(26歳/台湾出身/東京藝術大学大学院 映像研究科映画専攻)『距ててて』78分監督:加藤紗希(31歳/愛知県出身/俳優・振付師)『みなみとあした』22分監督:林崎征大(22歳/東京都出身/武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『夜の帳につつまれて』70分監督:松林悠依(23歳/三重県出身/早稲田大学 人間科学部)『ROUTINE』21分監督:宮原拓也(28歳/東京都出身/映像作家)取材・文・写真=内田涼「第43回ぴあフィルムフェスティバル」【会期】2020年9月11日(土)から25日(土)まで※月曜休館【会場】国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)
2021年09月24日9月11日(土)から開催される「第43回ぴあフィルムフェスティバル」において、映画祭のメインプログラムであるコンペティション部門「PFFアワード2021」の最終審査員5名が発表となった。映画祭のメインプログラムであるコンペティション部門「PFFアワード」は、世界で活躍する黒沢清、諏訪敦彦、園子温、塚本晋也、李相日、荻上直子、石井裕也など、これまで160名を超えるプロの映画監督を送り出してきた、映画監督の登竜門としても知られている。本年は489本の応募から入選を果たした18作品が、映画祭でグランプリほか各賞を競う。その賞を決定する本年の「最終審査員」5名が発表された。<PFFアワード2021最終審査員>(50音順。敬称略)池松壮亮:俳優『宮本から君へ』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』など今泉力哉:映画監督『街の上で』『愛がなんだ』など柴崎友香:作家「春の庭」(14年・芥川賞)「寝ても覚めても」(10年※18年に映画化)岨手由貴子:映画監督『あのこは貴族』『グッド・ストライプス』『マイム マイム』(アワード 2008 準グランプリ)『コスプレイヤー』(PFF アワード 2005 入選)高田亮:脚本家『まともじゃないのは君も一緒』『そこのみにて光輝く』『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』9月24(金)の表彰式にて、この最終審査員よりグランプリほか各賞が発表される。「PFF アワード 2021」18作品(50音順。敬称略)※上映時間、年齢、職業(学校名)は応募時のもの。『愛ちゃん物語』91分監督:大野キャンディス真奈(22歳/東京都出身/東京藝術大学 美術学部油絵科)『苺のジャムとマーガリン』10分監督:宮永咲弥花(18歳/埼玉県出身/埼玉県立芸術総合高等学校 映像芸術科)『壁当て』10分監督:井上朝陽(19歳/大阪府出身/ビジュアルアーツ専門学校 大阪)『巨人の惑星』25分監督:石川泰地(25歳/東京都出身/フリーター)『帰路』19分監督:高橋伊吹(18歳/愛知県出身/瑞陵高校)『グッバイ!』31分監督:中塚風花(20歳/滋賀県出身/会社員)『県民投票』92分監督:大場丈夫(38歳/茨城県出身/会社員)『五里霧中』40分監督:曽子明(26歳/中国出身/武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『サイクルレース』5分監督:倉澤紘己(21歳/東京都出身/武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『Journey to the 母性の目覚め』5分監督:岡田詩歌(25歳/東京都出身/東京藝術大学大学院 映像研究科アニメーション専攻)『転回』14分監督:岩崎敢志(24歳/愛知県出身/フリーター)『ばちらぬん』61分監督:東盛あいか(23歳/沖縄県出身/京都芸術大学 映画学科)『Parallax』34分監督:野辺ハヤト(49歳/埼玉県出身/フリーランス)『豚とふたりのコインランドリー』22分監督:蘇 鈺淳(26歳/台湾出身/東京藝術大学大学院 映像研究科映画専攻)『距へだててて』78分監督:加藤紗希(31歳/愛知県出身/俳優・振付師)『みなみとあした』22分監督:林崎征大(22歳/東京都出身/武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『夜の帳につつまれて』70分監督:松林悠依(23 歳/三重県出身/早稲田大学 人間科学部)『ROUTINE』21分監督:宮原拓也(28歳/東京都出身/映像作家)なお「PFFアワード 2021」18作品は、 配信サイト「DOKUSO 映画館」と「U-NEXT」でオンライン配信される(配信は映画祭終了後の 10/31(日)まで継続)。また観客賞の投票は、国立映画アーカイブの会場に加え、「DOKUSO 映画館」でも実施する。次代を担う新しい才能に注目したい。「第43回ぴあフィルムフェスティバル」は9月11日(土)から25日(土)まで東京・国立映画アーカイブにて開催。(text:cinemacafe.net)
2021年08月25日「第43回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が、9月11日(土)より、東京・国立映画アーカイブにて開催される。この度、映画祭のメインプログラムであるコンペティション部門「PFFアワード」の「最終審査員」5名が発表された。映画祭のメインプログラムであるコンペティション部門「PFFアワード」は、映画監督の登竜門として、世界で活躍する黒沢清や諏訪敦彦、園子温、塚本晋也、李相日、荻上直子、石井裕也など、これまでに160名を超えるプロ映画監督を送り出している。本年は489本の応募から入選を果たした18作品が、映画祭でグランプリ他各賞を競っている(グランプリは賞金100万円)。賞は数時間にわたる討議の末に決定、9月24日(金)の表彰式にて、この最終審査員より発表予定だ。映画祭チケットは、8月28日(土)午前10時より、チケットぴあにて発売。新型コロナウイルス感染拡大予防のため、定員の50%の座席数を販売となる。■イベント情報映画祭「第43回ぴあフィルムフェスティバル」9月11日(土)~25日(土)開催※月曜休館会場:国立映画アーカイブ公式サイト: <「PFFアワード2021」最終審査員(5名)>池松壮亮(俳優)、今泉力哉(映画監督)、柴崎友香(作家)、岨手由貴子(映画監督)、高田亮(脚本家)<「PFFアワード2021」18作品>※作品名50音順。上映時間、年齢、職業(学校名)は応募時のもの。『愛ちゃん物語♡』91分 監督:大野キャンディス真奈(22歳 / 東京都出身 / 東京藝術大学 美術学部油絵科)『苺のジャムとマーガリン』10分 監督:宮永咲弥花(18歳/埼玉県出身 / 埼玉県立芸術総合高等学校 映像芸術科)『壁当て』10分 監督:井上朝陽(19歳 / 大阪府出身 / ビジュアルアーツ専門学校 大阪)『巨人の惑星』25分 監督:石川泰地(25歳 / 東京都出身 / フリーター)『帰路』19分 監督:高橋伊吹(18歳 / 愛知県出身 / 瑞陵高校)『グッバイ!』31分 監督:中塚風花(20歳 / 滋賀県出身 / 会社員)『県民投票』92分 監督:大場丈夫(38歳 / 茨城県出身 / 会社員)『五里霧中』40分 監督:曽 子明(26歳 / 中国出身/武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『サイクルレース』5分 監督:倉澤紘己(21歳 / 東京都出身 / 武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『Journey to the 母性の目覚め』5分 監督:岡田詩歌(25歳/東京都出身 / 東京藝術大学大学院 映像研究科アニメーション専攻)『転回』14分 監督:岩﨑敢志(24歳 / 愛知県出身 / フリーター)『ばちらぬん』61分 監督:東盛あいか(23歳 / 沖縄県出身 / 京都芸術大学 映画学科)『Parallax』34分 監督:野辺ハヤト(49歳 / 埼玉県出身 / フリーランス)『豚とふたりのコインランドリー』22分 監督:蘇 鈺淳(26歳 / 台湾出身 / 東京藝術大学大学院 映像研究科映画専攻)『距(へだ)ててて』78分 監督:加藤紗希(31歳 / 愛知県出身 / 俳優・振付師)『みなみとあした』22分 監督:林崎征大(22歳 / 東京都出身 / 武蔵野美術大学 造形学部映像学科)『夜の帳につつまれて』70分 監督:松林悠依(23歳 / 三重県出身 / 早稲田大学 人間科学部)『ROUTINE』21分 監督:宮原拓也(28歳 / 東京都出身 / 映像作家)<入選作品データ>【入選数】18本【年齢】平均:25.4歳最年少:18歳最年長:49歳【上映時間】平均:36.1分最短:5分最長:92分<応募全体データ>【応募数】489本【年齢】平均:31.3歳最年少:18歳最年長:64歳【上映時間】平均:33.7分最短:2分最長:149分<入選作品が決まるまで>1次審査(3月中旬~4月下旬):「1作品を3名が必ず最初から最後まで、1分1秒もらさず観る」というルールのもと、全作品をセレクション・メンバー16名で手分けして鑑賞。1次審査会議では、鑑賞した3人の審査員が他のメンバーにぜひみせたい作品を推薦し「1次通過作品」を決定。2次審査(4月下旬~6月下旬):「1次通過全作品」をセレクション・メンバー全員が鑑賞。2次審査会議では、丸2日間かけて全員で合議を行う。最終的なプログラミングはセレクションに参加しているPFFディレクターに委ねられ、入選作品が決定。
2021年08月25日インディーズ映画の見放題サービスを展開するDOKUSO映画館(ドクソーエイガカン本社:東京都豊島区代表取締役:⽟井 雄⼤)は2021年8月24日(火)より、PFFアワード2020年入選作品13本を一挙配信します。若手映画監督の登竜門「PFFアワード」2005~2019入選作の約160本に加え、今回新たに2020年入選作13本を追加配信。PFFアワード2020入選13作品を一挙配信準グランプリ『屋根裏の巳已己』監督:寺西 涼同棲中のアパートから逃げるように実家に帰ったショウは、繰り返し夢に現れていた中学時代の幼なじみ、ミーコと再会する。だが、どこかおかしい...。不安をあおる独特のカメラとスピード感あふれる編集に魅せられる!審査員特別賞『頭痛が痛い』監督:守田悠人優等生のいくと不登校の鳴海。一見、相入れないふたりが「死にたい」という苦しみを共有し距離を縮めていく...。配信やSNSといった時代がもたらす問題を捉えつつ、生きづらい少女たちの声に真摯に向き合った作品。審査員特別賞『MOTHERS』監督:関 麻衣子不安定な父と暮らす監督自身が、姉とともに"3人の母親"に改めて向き合ったドキュメンタリー。家族という逃れられない呪縛。この映画をきっかけに、苦しみに直面しながら揺さぶられる家族の関係を、観客は目撃する!【審査員特別賞】『未亡人』監督:野村陽介【エンタテインメント賞(ホリプロ賞)】『こちら放送室よりトム少佐へ』監督:千阪拓也【映画ファン賞(ぴあニスト賞)】『LUGINSKY(ルギんスキー)』監督:haiena【観客賞】『アフタースクールデイズ』監督:稲田百音ほか、入選13作品を一挙配信月額980円(税込)のGOLDプランに加入することで、すべて作品を見放題にて鑑賞可能です。PFFアワード歴代入選作品の配信特集ページはこちらPIA FILM FESTIVAL × DOKUSO映画館 PFFアワード歴代入選作品 第5弾配信スタート!! : ■PFFアワードとは世界でも珍しい自主映画のコンペティション。1年以内に完成した自主映画であれば、年齢、性別、国籍、上映時間、ジャンルを問わない自由なコンペティション。入選者の中からは、後にプロの映画監督として活躍する人たちが140名を越え、若く新しい才能が集う場所として、広く認知されている。■DOKUSO映画館ついて■⽉額980円(税込)でインディーズ映画が見放題。⽇本最⼤級のインディーズ映画配信サイト。見る人も、演じる人も、つくる人も。映画をおもしろくする、あなたを応援したい。もっと挑戦的に。もっと独創的に。映画の才能を加速させるコミュニティです。 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2021年08月24日「第43回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が9月11日(土)、東京・国立映画アーカイブにて開催される。既に上映作品の一部が報じられてきたがこの度、全ラインナップ(8企画)の内の残り4企画が発表となった。まずは世界初となる「ナワポン・タムロンラタナリット監督特集 ~タイからの新しい風~」。写真やSNSなどの現代メディアを自在に駆使し、どこまでも自由にフィクションとドキュメンタリーを行き来する、新世代監督は親日家としても知られている。また彼のオンライントークが聞ける場も設けられてるという(詳細は後日発表)。<上映作品>『ハッピー・オールド・イヤー』(2019年)『BNK48: Girls Don’t Cry』(2018年)『ダイ・トゥモロー』(2017年)『フリーランス』(2015年)『あの店長』(2014年)『マリー・イズ・ハッピー』(2013年)『36のシーン』(2012年)「ハッピー・オールド・フィルムズ1」(2010~11年)ビターで奇妙でクールで温かい、のちの萌芽を感じる自選中編3本「ハッピー・オールド・フィルムズ2」(2011~18年)水原希子、モトーラ世理奈、BNK48出演のCMを含む自選短編16本またピーター・バラカンの解説と大スクリーンでの上映が好評の映画と音楽シリーズ「ブラック&ブラック」も準備されている。今回は「『ミカ・カウリスマキ / ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』と、『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』の2本の音楽ドキュメンタリーが上映されるもようだ。そしてスペインの映画祭「フィルマドリッド」で喝采を浴びたPFFアワード2019グランプリ受賞作『おばけ』も再上映。オンライン配信は行わず、スクリーンでの上映にこだわり続けた、監督の想いが詰まった本作をお見逃しなく。さらに「PFFスペシャル映画講座」は廣原暁(映画監督)×諏訪敦彦(映画監督)「コロナ禍の卒業映画制作」、藤元明緒(映画監督)×渡邉一孝(映画プロデューサー)「越境するインディペンデント映画~"越境シネマLABO" はじめます~」、横山百合子(国立歴史民俗博物館 名誉教授)「タイトルと内容のギャップに驚愕!加藤泰の傑作」、石井岳龍(映画監督)「安倍公房と勅使河原宏」、長嶌寛幸(音楽家)×松井茂(詩人)「勅使河原宏の音と空間」というラインナップ。今年は8人の豪華講師陣が様々な角度から映画と時代と人に迫り、一層映画を面白くする。これで今年の「PFF」の全企画が出揃った。映画祭チケットは、8月28日(土)午前10時より、チケットぴあにて発売される。■イベント情報映画祭「第43回ぴあフィルムフェスティバル」開催概要9月11日(土)~25日(土)開催※月曜休館会場:国立映画アーカイブ<ピーター・バラカン:コメント>『ミカ・カウリスマキ / ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』について欧米では「パタ・パタ」や「クリック・ソング」で知られるミリアム・マケバは故郷の南アフリカを離れた長い亡命生活でアパルトヘイトと闘い続けた活動家の面を持ちながら、アフリカの音楽との最初の接点を作った歌手としても有名でした。彼女の音楽と人生についての記録です。『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』について芸術はまさに爆発です。多くの矛盾をはらんだソウル・ミュージックの最重要人物、ファンクというジャンルの原形を作り、音楽界に革命を起こした男の人生を極貧の幼少期から、かなり珍しい映像と共に描いた貴重なドキュメンタリーです。
2021年08月19日「PFFアワード2021」入選作品が、3月から約3カ月に及ぶ審査を経て決定。489本の応募作品の中から入選したのは18作品。18歳・高校生監督の2作品が入選するなど、次代を担う新しい才能が発掘された。「PFFアワード」は、1977年にスタートした世界最大の自主映画のコンペティション。世界で活躍する黒沢清、諏訪敦彦、園子温、塚本晋也、李相日、荻上直子、石井裕也など、これまでに160名を超えるプロの映画監督を世に送り出してきた。入選作品は、9月11日(土)から国立映画アーカイブで開催する、『第43回ぴあフィルムフェスティバル』にて上映される。また、昨年のDOKUSO映画館に加えて、新たにUーNEXTでの配信も決定。9月24日(金)に行われる表彰式にて、最終審査員らにより各賞が発表される。■「PFFアワード2021」入選作品※作品名50音順。上映時間、年齢、職業(学校名)は応募時のもの。・『愛ちゃん物語』91分 監督:大野キャンディス真奈(22歳 / 東京都出身 / 東京藝術大学 美術学部油絵科)・『苺のジャムとマーガリン』10分 監督:宮永咲弥花(18歳 / 埼玉県出身 / 埼玉県立芸術総合高等学校 映像芸術科)・『壁当て』10分 監督:井上朝陽(19歳 / 大阪府出身 / ビジュアルアーツ専門学校 大阪)・『巨人の惑星』25分 監督:石川泰地(25歳 / 東京都出身 / フリーター)・『帰路』19分 監督:高橋伊吹(18歳 / 愛知県出身 / 瑞陵高校)・『グッバイ!』31分 監督:中塚風花(20歳 / 滋賀県出身 / 会社員)・『県民投票』92分 監督:大場丈夫(38歳 / 茨城県出身 / 会社員)・『五里霧中』40分 監督:曽 子明(26歳 / 中国出身 / 武蔵野美術大学 造形学部映像学科)・『サイクルレース』5分 監督:倉澤紘己(21歳 / 東京都出身 / 武蔵野美術大学 造形学部映像学科)・『Journey to the 母性の目覚め』5分 監督:岡田詩歌(25歳 / 東京都出身 / 東京藝術大学大学院 映像研究科アニメーション専攻)・『転回』14分 監督:岩﨑敢志(24歳 / 愛知県出身 / フリーター)・『ばちらぬん』61分 監督:東盛あいか(23歳 / 沖縄県出身 / 京都芸術大学 映画学科)・『Parallax』34分 監督:野辺ハヤト(49歳 / 埼玉県出身 / フリーランス)・『豚とふたりのコインランドリー』22分 監督:蘇 鈺淳(26歳 / 台湾出身 / 東京藝術大学大学院 映像研究科映画専攻)・『距ててて』78分 監督:加藤紗希(31歳 / 愛知県出身 / 俳優・振付師)・『みなみとあした』22分 監督:林崎征大(22歳 / 東京都出身 / 武蔵野美術大学 造形学部映像学科)・『夜の帳につつまれて』70分 監督:松林悠依(23歳 / 三重県出身 / 早稲田大学 人間科学部)・『ROUTINE』21分 監督:宮原拓也(28歳 / 東京都出身 / 映像作家)映画祭「第43回ぴあフィルムフェスティバル」2021年9月11日(土)から25日(土)まで※月曜休館会場:国立映画アーカイブ※岩崎敢志の「崎」は「たつさき」。※蘇 ぎょく淳の「ぎょく」は、「かねへんに玉」。
2021年07月07日「PFF アワード」の受賞8作品が、「TOKYO MX2」にて放送されることが決定した。「MX2」はTOKYO MXのマルチチャンネル。テレビリモコンの「9」を押し、「TOKYO MX1」を表示、さらにひとつチャンネルを送ると、「TOKYO MX2」が表示される。「PFF アワード」とは、映画を志す若者たちが自主的に制作した映画を広く紹介するために、 1977年から40年以上続いている映画祭「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」のコンペティション部門。毎年一般公募の自主映画を審査して入選作品を映画祭で上映し、それをきっかけにプロの監督となった人数が160名を超えていることから、若き映画監督の登竜門とも呼ばれている。TOKYO MXでは、こうした作品をより多くの視聴者に届けるため、 5月30日(日)から毎月、PFFアワード受賞作を厳選して放送する。放送作品は、李相日監督『青~chong~』、川尻将由監督作『ある日本の絵描き少年』、工藤梨穂監督作『オーファンズ・ブルース』、キヤマミズキ監督作『くじらの湯』、シガヤダイスケ監督作『春みたいだ』、小松孝監督作『食卓』、早川千絵監督作『ナイアガラ』、佐藤快磨監督作『ガンバレとかうるせぇ』。『~映画監督への登竜門~ PFFアワード・セレクション』< TOKYO MX2>2021年5月30日(日)15:00~李相日監督『青~chong~』川尻将由監督作『ある日本の絵描き少年』2021年6月6日(日)15:00~工藤梨穂監督作『オーファンズ・ブルース』キヤマミズキ監督作『くじらの湯』2021年6月19日(土)24:30~シガヤダイスケ監督作『春みたいだ』小松孝監督作『食卓』2021年6月27日(日)15:00~早川千絵監督作『ナイアガラ』佐藤快磨監督作『ガンバレとかうるせぇ』
2021年05月26日第42回ぴあフィルムフェスティバル「PFFアワード2020」グランプリに輝いた『へんしんっ!』が、6月下旬より劇場公開されることが決定した。体とからだ、人とひと。ちがうをつなぐ、こころとは。本作は驚きの、歓びのドキュメンタリー。電動車椅子を使って生活する石田智哉監督は「しょうがい者の表現活動の可能性」を探ろうと取材をスタート。演劇や朗読で活躍する全盲の俳優・美月めぐみ、ろう者の通訳の育成にも力を入れているパフォーマーの佐沢静枝といった多様な「ちがい」を橋渡しする人たちを訪ねる。こうして映画制作が石田と撮影、録音スタッフの3人で始まった。ある時、石田は「対人関係でちょっと引いちゃうんです。映画制作でも一方的に指示する暴君にはなりたくないと思っていて」と他のスタッフに打ち明ける。それから対話を重ねて映画の作り方も変化し、石田自身の心と体にも大きな転機が訪れる。振付家でダンサーの砂連尾理は「しょうがい」を「コンテクストが違う身体」という言葉で表現し、「車椅子を降りた石田くんがどんなふうに動くのかを見てみたい」と彼をパフォーマーとして舞台に誘う。それは多様な動きが交差する、ダンスという関係性の網の目に自らを預ける体験でもあった。そして完成した映画は「第42回ぴあフィルムフェスティバル」のコンペティション部門である「PFFアワード2020」でグランプリに。審査に関わった映画のプロたちが「とにかく興奮した」「映画をつくる楽しみが、画面全体から伝わってきた」と激賞。映画の登場人物たちが迎える大団円を見つめる観客は、スクリーンから溢れ出す表現する歓びに震え、知らぬ間に「へんしん」した自分自身に心の底から驚くに違いない。そしてメインビジュアルを手がけたのは、アートユニット・小森はるか+瀬尾夏美の最新作『二重のまち / 交代地のうたを編む』やドキュメンタリー『人生フルーツ』の宣伝美術を担当したグラフィック・デザイナーの成瀬慧。また上映方法は「どのように届けるかにも想いが込められる」という石田監督の考えのもと、バリアフリー上映ではなく日本語字幕や音声ガイドありの「オープン上映」となる(劇中の音声に加え、字幕はスクリーンに投影、音声ガイドは会場スピーカーから流れる)。監督の想いを映画だけでなく上映方法からもぜひ感じてほしい。石田智哉・コメント「表現活動をする人を撮ることで、自分がどう変わっていくのかを大切にしたい」。制作スタッフと集い、お互いの経験を話した初回撮影の最後、私はこう語った。映画冒頭のインタビューを観るたびに、その場で汗ばみ、少し震えて発した声と、いざ制作がはじまり、言葉にしたことを作品にのせるまでには、多くの葛藤があったことを思い出す。佐沢さんと美月さんから自分の思いを観客に届けるための活動が共有され、その活動には多岐にわたる観点を含んでいることを目の当たりにした自分は、圧倒されるばかりで、返せる言葉がなかった。ただ、その場で「やりたい」と強く心に決めたのは、ふたりが語ったことや問いかけを自分の中に取り込んで、そのことに対する自分なりの応答を、映像作品として形にしたいとの思いであった。その後、約1年かけて編集し、本作は「ぴあフィルムフェスティバル」にて上映する機会を得た。そこでの上映では日本語字幕と音声ガイドを間に合わせることができなかったが、どのように届けるかにも私の思いが込められることを映画祭に参加することで実感し、今回の劇場公開にあたっては、日本語字幕と音声ガイドのある状態で上映することにした。本作における、日本語字幕と音声ガイドは、この映画制作で自分が探究し、掴んでいったものを「自分なりに表現する」には不可欠なものとなった。この上映の形に、驚きや戸惑いが生じるかもしれない。だが最後まで、観たときに何らかの引っかかりや新しい感覚、面白さを感じてもらえたならば、作り手として、これほど嬉しいことはない。『へんしんっ!』というタイトルは、本制作をスタートから見守り、数々の励ましやアドバイスをくれた篠崎誠さんからもらった言葉である。「映画作りを通して、体と心が変わっていくこと」が切に込められたタイトルである。これ以上に作品のことを深く、そして自分らしく語ってくれる言葉は思いつかなかった。長い月日をかけて迷いながら映画を作ることは、貴重で味わい深い経験であった。出演者のみならず多くの人からあらゆる言葉をかけてもらい、鼓舞された。自分の姿を映像で見続け、自分の声を聞き続け、あれこれと思い悩みながらパソコンを使って言葉を綴り続け、本作は完成した。この過程によって、自分が何をすることに「よろこび」を感じるのかが、以前よりも少しだけ、はっきりと分かったような気がする。自らの変わっていく姿を映画に閉じ込めることができ、このことを作品として観てもらえる機会に恵まれたことへ感謝の想いでいっぱいである。『へんしんっ!』6月下旬、ポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタにて公開他全国順次
2021年03月08日