悩みはみんな同じ、それは「偏食」!出典 : 息子が幼稚園の頃、同じ発達障害の子どもを持つお母さんたちと園で会うたびに話した共通の話題は「偏食」についてでした。発達障害のある子どもの多くは、食にこだわりがあったり、初めての食べ物に対する恐怖感が強かったりで、偏食傾向があります。うちの息子は味覚過敏もありましたので、「混ぜ込んで食べさせる」ということも通用しませんでした。苦手な食材の、ほんの少しのかけらが舌に当たった瞬間に、嘔気を催してしまうのです。同じ幼稚園で出会った、他の発達障害のお子さんたちもそれぞれ偏食には悩まされていましたが、その現れ方は様々でした。なかには、「パンの固さ」や「ごはんの温度」にまでこだわりがあるお子さんもいて、それぞれのお母さんは毎日のお弁当作りに、それはそれは苦労していました。息子の場合は、食べられる食品の種類は両手で数えられる程度。混ぜ込みは受け付けないので、おかずのバリエーションも増えません。ごはんにかけるふりかけさえ、こだわりがありました。息子の幼稚園は毎日お弁当でしたので、両手で数えられる程度のおかずを毎日順番に詰めるだけの毎日。結局幼稚園の3年間で、そのバリエーションが増えることはありませんでした。ある日幼稚園の先生から言われた意外な一言出典 : 世の中には「キャラ弁」や「食育」という言葉が「母の愛情」の象徴としてあちらこちらで語られています。我が家はそんな「母の愛情」とは無縁のお弁当。全く頭を使わせることのない、同じ食品のオンパレードでした。そんな味気のないお弁当を作って楽しい気持ちになるわけもなく、「食育」という言葉を聞くたびに責められているような気持ちになりました。ある日、私はふと妙なことを思いつきました。「もしかしたら、みんなが一緒に食べていることに触発されて、嫌いなものでも食べるかもしれない」それまでは息子の食べられるものだけをお弁当に詰めていた私ですが、ある日を境に息子の苦手な物を1~2品入れるようになりました。ある日はプチトマト、ある日はブロッコリー、ある日は野菜炒め…。しかし息子は見事にそれだけは残して帰ってきました。それでも私は毎日、息子の嫌いなものを一品ずつ入れました。「いつか食べられるようになる」という気持ちと、「私だって食育に無関心なわけじゃないんだよ…好きなものだけ食べさせればいいと思って手を抜いているわけじゃないんだよ…」という、後ろめたい気持ちに、私は勝てなかったのでした。祈るような気持ちで息子の苦手な食べ物をお弁当に詰めていたある日、幼稚園の先生から突然お電話がかかってきました。そして、こう言われたのです。「お母さん、お弁当は、お母さんと息子さんとの信頼関係の一つです。息子さんの嫌いなものはお弁当に入れなくて大丈夫です。食べられるものだけを入れてあげてください。息子さんの大好きなものだけを詰めてあげてください。後になってその意味が分かると思います。」幼稚園の先生からの電話を受けて、私は呆気に取られてしまいました。それまで言われていた「食育」とは真逆のことを言われたからです。本当にいいのだろうか、栄養のことは考えなくていいのだろうか、このまま偏食を治さなくていいのだろうか…。幼稚園の3年間、私は迷いながらも息子の好きなものだけをお弁当に入れ続けたのでした。小学校に入って分かった、先生の言葉の意味出典 : そして息子は小学校に入学しました。小学校に入学して、私が一番嬉しかったことと言えば、給食が始まったことです。毎朝毎朝、同じような食材を詰めるだけの幼稚園のお弁当は、私にとっては本当に苦痛でした。しかし、そんな私の喜ばしい気持ちとは裏腹に、息子にとっては小学校生活で一番頭が痛いことが「給食」だったのです。バランスを考えていろいろな食材が混ぜ込まれて作られている給食は、息子にとっては食べられない物のオンパレードです。息子いわく、「僕はクラスでお残しナンバーワン」だそうです。前日に給食のメニューや食材を見せて、予告はしていますが、それを食べられるかと言われれば全く別問題です。お腹が空けば、そのうち食べられるようになるだろう、と周囲は楽観視していますが、どんなにお腹がすいても息子は初めての食べ物が怖いのです。何が出るのか分からない、どんな味か分からないものが毎日提供される給食。一口手をつけようと頑張ってみはするものの、固まってしまう息子。「こんなに残すのはあなただけ」と周囲にたしなめられ、がっくり肩を落として帰宅します。そんなある日、小学校が1日だけお弁当の日がありました。毎日給食のことでがっくりとして帰ってくる息子のために、息子の好きなものだけてんこ盛りのスペシャル弁当を作って持たせました。今思えば、幼稚園時代はそれがスペシャル弁当だという認識はありませんでした。息子の好きなものだけを詰めるということは、苦痛でしかなかったからです。久しぶりのお弁当デー。息子は目をキラキラ輝かせて帰ってきました。帰ってきて一言。「お母さんのお弁当には、僕の嫌いなものは絶対入ってないんだ。幼稚園の頃はいつも、安心しきってお弁当箱を開くのが当たり前だと思ってたんだ。給食みたいに、出てくるときに怖い気持ちにならなかったんだ。お母さんのお弁当は、安心できたんだ。」この言葉を聞いて、かつて幼稚園の先生が「息子くんの好きなものだけを入れてください。それは信頼関係なんです」とおっしゃってくださった意味が分かり、私は幼稚園時代が懐かしくて、涙が出てきてしまいました。出典 : 初めてのものが怖い息子にとって、いつも安心して弁当箱の蓋を開くことのできた3年間は、宝物のような時間だったのです。そして、その安心感を親が与えずに、誰が与えられるでしょうか。「食育」とは、栄養をバランスよく与えることではなく、「食べる」ということを楽しいことだと感じられるようになる教育だと私は思っています。そう考えれば、偏食の多い発達障害児が、安心感を持って食事をできるようにすることも、立派な「食育」ではないかと私は思います。
2017年06月22日カナー症候群とは?出典 : カナー症候群(カナー型自閉症)とは、自閉症の中で知的障害を合併する場合を指す用語で、医学的な診断名ではありません。カナー型自閉症、カナータイプなどと呼ばれることもあります。「言葉の発達の遅れ」「コミュニケーションの障害」「対人関係・社会性の障害」「パターン化した行動、こだわり」などの自閉症の特徴と知的機能の発達の遅れをもつ障害で、3歳までには何らかの症状がみられると言われています。1943年にアメリカの児童精神科医レオ・カナーによって報告されたため、カナーの名前をとって呼ばれています。現在、最新の診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、自閉症状のある障害は「自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」(ASD)という診断名に統一されています。しかしかつては、症状によってカテゴリー分けされており、アスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症、小児自閉症などさまざまな名称で呼ばれていました。そのような中でカナー症候群という用語が生まれ、広がった背景には、アスペルガー症候群や高機能自閉症という用語の広がりとの関係があるようです。アスペルガー症候群や高機能自閉症という、知的障害を伴わない自閉症の概念が拡大するにつれ、それに対する、知的障害のある自閉症を表わす概念としてカナー型・カナー症候群・低機能自閉症などの用語が使用されてきたと考えられます。つまり、スペクトラム(連続体)と捉えられるようになり、知的障害がない自閉症のタイプが広く知られるようになったことで、逆説的に知的障害のあるタイプを指す用語が必要とされる場が増えてきたということです。またこれらのタイプは認知機能や言語面での発達に遅れが見られることから、自閉症に対する支援と知的障害に対する支援の両面が必要になり、一様な「自閉症スペクトラム」への支援だけでは不十分なことも多いです。そのため、この記事では「カナー症候群」という用語を用い、その症状や特徴、対処法や受けられる支援を具体的に説明します。カナー症候群をはじめ、さまざまな自閉症状のある障害が自閉症スペクトラム(ASD)と総称されるようになりましたが、知能指数(IQ)と自閉症状の程度の関係をみると、カナー症候群は以下の図のように位置づけることができます。Upload By 発達障害のキホン【図表は『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』を元に作成】【図表は『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』( )を元に発達ナビ編集部にて作成】図にもあるようにそれぞれのボーダーラインは曖昧で、一人ひとり特徴の表れ方もそれぞれです。障害名や疾患名に基づいて治療・療育をするのではなく、一人ひとりの子どものニーズや特徴にあわせた療育やサポートを柔軟に行っていくことがとても大切になっていきます。カナー症候群の原因は?出典 : さまざまな議論が交わされていますが、 カナー症候群(自閉症スペクトラム)の原因はいまだ特定されていません。しかし、親のしつけや愛情不足が直接の原因ではないことがわかっています。カナー症候群をはじめ、自閉症スペクトラムは生まれつきの脳機能障害であると考えられており、その機能障害を引き起こすそもそもの原因は遺伝子にあるとみられています。しかし、遺伝子が関与しているからといって親から子に必ず遺伝するタイプの「遺伝病」ではありません。また遺伝的要因だけではなく様々な環境要因も関わっていると考えられています。現在の医学では妊娠中の羊水検査、血液検査、エコー写真などの出生前診断でカナー症候群と判明することはありません。また、出生後も遺伝子検査や血液検査といった生理学的な検査では診断できません。これは自閉症スペクトラムの原因が完全には解明されておらず、またその原因も複雑で単一ではないと考えられるためです。生理学的な検査方法を確立するのはかなり難しいとも言われています。参考:鶴田一郎『自閉症スペクトラムの臨床心理』ふくろう出版(2008)p.24, 25カナー症候群の年齢ごとの特徴出典 : カナー症候群のある人は、成長していくにつれて症状の特徴も人それぞれ変化していきます。自閉症状や知的障害の程度の重さや特性は人によって違いますが、乳幼児期から成人以降までのライフステージに分けて、それぞれよく見られる症状や特徴を説明します。0歳から1歳までの乳児期は・声をたてて笑うこと・「いないいないばぁ」への反応・抱っこへの積極的欲求・指さしなどにおいて同月齢の子どもと比べると表出に遅れがみられることがあります。また、人見知りが強い場合もあります。他にも、個人差がありますが、バイバイの動作や後追い、喃語の発声においても遅れがみられることがあります。2歳から就学までは以下のような特徴があります。・こだわりや興味関心の偏りが見られる気にいったものを見続ける、特定の数字やマークを好む、ドアや窓の開け閉めを繰り返すなどの強いこだわりが見られる場合があります。遊びもミニカーを並べるなどの一人遊びを好み、他の人の介在を拒むこともあります。・周囲にあまり興味を持たない傾向があるコミュニケーションの中で視線が合いにくいと感じられる子が多いです。また他の子どもに興味をもたなかったり、聴力に問題がないにも関わらず、名前を呼んでも振り返らないことも多いです。また、他の人の動作を模倣するのが苦手な子もいます。・コミュニケーションを取るのが苦手満2歳までは言語理解がなかなか進まないなどの言葉の遅れや、オウム返しなどの特徴がみられることがあります。自発的になかなか声を発さず、指さしをして興味を伝えることをしない代わりに、クレーン現象といって相手の手をそこに持っていって意思表示をすることがあります。集団での遊びにあまり興味を示さず1人で遊ぶこともよくみられる特徴です。勝ち負けの概念やゲームのルールの理解が難しい場合は他の子との遊びに参加できないこともあります。・パニック・自傷行動が起こりやすい要求がうまく伝わらないときや、好きなことやこだわりをやめさせようとすると突然泣き出したり、わめいたり、自分の手を噛んだり、頭を殴りつけたりといった行動が生じることがあります。コミュニケーションの発達に伴い改善されることもありますが、学童期にも夏の暑い時や、スケジュールの変更時、勉強中などにパニックを起こしてしまうこともあります。・視覚、聴覚、味覚などの感覚に特徴がある視覚に関しては、横目でじっとみつめたり、自分の顔になにかを極端に近付けたりする傾向がある場合があります。鏡、光の点滅、扇風機のような円運動に夢中になったりすることもあります。聴覚に関しては、騒音や大きな音、サイレンのような不快な音を避けようとして耳をふさぐ傾向がある子もいます。その逆で、紙などでカサカサと小さな音をつくり耳元で聞いて落ち着くケースもあります。味覚に関しては、極端な偏食がある子も少なくありません。このような光や音などをはじめとする特定の刺激を過剰に受け取ってしまう状態のことを感覚過敏(過剰反応性)と呼びます。逆に、刺激に対する反応が低くなることを「感覚の鈍感さ(鈍麻・低反応性)」といいます。どちらも感覚のはたらきに偏りがあることが原因です。これらの特徴は学童期に落ち着くことも多いとされています。・こだわりが強く臨機応変に対応するのが苦手きちんと決められたルールを好む子が多いです。言われたことを場面に応じて対応させることが苦手な傾向があり、時間、道順、手順、物の位置など習慣化されたものを変更することに抵抗を示すこともあります。・集団になじむのが苦手年齢相応の友人関係が少なく、周囲にあまり配慮せずに、自分が好きなことを好きなようにしてしまう傾向があります。人と関わる時は何かしてほしいことがある時なだけのことが多く、基本的に1人遊びを好む傾向があります。また、学校などの集団生活の中で他者のペースに合わせるのが難しい場合、パニックや自傷が増えてしまうこともあります。・話を聞いて、理解するのが苦手視覚的な認知能力が聴覚的な認知能力より優れた人が多く、目に見える物事の理解は得意な場合があります。認知力の発達の遅れから、抽象的な概念の理解が困難であったり、過去の出来事や自分の気持ち、行動の理由の説明などがうまくできないこともあります。相手の話を聞いて内容を理解したり、相手の気持ちを想像したりすることが難しい場合も多いです。子どもに合わせた視覚支援を行い、適切な教育環境を整えることによって、できることも増えてきます。自己コントロールや集団参加も少しずつできるようになり、知的障害の程度により個人差はありますが、認知能力やコミュニケーションも発達してきます。改善されにくい特徴として、1人でいることを好む、興味や関心の偏り、変化や変更に対する困難などは、成長や療育によっても改善されにくいことがあります。思春期に癲癇(てんかん)などを発症する場合もあります。心配な症状があれば医療機関に相談しましょう。てんかん発作については以下の記事をご参照ください。参考:自閉症とてんかんQ&A|茨城県自閉症協会知的障害の程度や自閉症状の重篤度によって大きな幅があり、生活で必要とする支援の内容は変わってきます。身辺自立に加えて簡単な調理や買い物、洗濯などの日常生活スキルを学ぶとともに、本人に合うように構造化された環境の中で安定した生活を送れるように支援していく時期です。しかし、周りに理解を得られなかったり、ASDの特性に配慮されない環境だったりすると、自傷・他害、パニックなどの行動の問題が生じたり重篤化してしまうこともあります。このような場合は、早めに支援機関・医療機関に相談するようにしましょう。参考文献:鶴田一郎/『自閉所スペクトラムの臨床心理』(ふくろう出版,2008)カナー症候群(自閉症スペクトラム)かな?と思ったら出典 : 「カナー症候群(自閉症スペクトラム)ではないか?」と気づき始めるのは生後6~7ヶ月頃です。この頃になると、親と目を合わせない、呼んでも反応しないなどの症状が目立つようになります。しかし、こうした特徴がみられるすべての子どもがカナー症候群(自閉症スペクトラム)と診断されるわけではありません。一般的に自閉症スペクトラムと診断されるのは2~3歳になってからですが、知的障害のあるカナー症候群の子どもの場合は、早くて1歳代から診断が可能なケースもあり、知的障害のないアスペルガー症候群よりも早期の診断が可能といわれています。いきなり医療機関を受診するのには抵抗があったり、ハードルが高いと感じられることがあると思います。そのような場合、まずは身近な相談機関に行ってみるとよいでしょう。自分の子どもが困っていることに気づけたり、参考にできる子育てや支援方法を知ることができたりなど、メリットがたくさんあります。専門的に相談や診断を行っている機関を紹介します。【子どもの場合】・児童精神科・子ども発達クリニック・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センターなど日本児童青年精神医学会認定医一覧発達障害者支援センター一覧【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所などカナー症候群の診断出典 : 近年は、カナー症候群やその他の自閉症もひとまとめに「自閉症スペクトラム」と診断されることが定着してきています。カナー症候群は医学的な診断名としては使われることはあまりありません。診断は、本人の年齢や状態によって検査のボリュームが変化します。以下、具体的な診断方法を紹介していきます。医療機関を受診した際の臨床的な診断として、行動観察と生育歴について聞き取りを行います。自閉症スペクトラム障害について、より専門的な診断を行う場合には以下の検査が用いられることが多いです。・ADOS(エイドス)検査用具や質問項目を用いて、自閉症スペクトラム障害(ASD)の評価に関連する行動を観察するアセスメントです。発話のない乳幼児から成人の方まで、幅広く対応しています。・ADI-R対象者の行動の系統や詳細な特徴を捉える検査です。精神年齢が2歳0ヶ月以上であれば、幼児から成人まで、幅広い年代に対応しています。社会性、対人コミュニケーションや限定的な行動・興味・反復運動などに焦点を当てて構成されています。・PARS-TR自閉症スペクトラム障害がある方の特性理解を深め、一人ひとりに合った支援を可能にしていくために、日常の行動の視点から簡単に評価できるアセスメントです。1)対人、2)コミュニケーション、3)こだわり、4)常同行動、5)困難性、6)過敏性の6つの領域に関する全57の評価項目から構成されています。自閉症スペクトラム障害には知的障害、てんかん、感覚過敏、鈍麻などの合併症を伴う場合があります。合併する障害があるかアセスメントを行ったうえで検査する場合が多いです。その際に以下の検査が用いられることが多いです。・知能検査知能検査は心理検査のひとつであり、精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値などによって測定されます。最近では、ウェクスラー式知能検査、田中ビネー知能検査、K-ABC知能検査などがよく使われています。・脳波検査自閉症スペクトラム障害はてんかんとの合併症を伴っている場合があるため、CTやMRIといった脳波検査を行ういます。自閉症スペクトラム障害の子どもの場合は狭い空間に入るとパニックになることもあるので、検査をする際には注意が必要です。・感覚プロファイル自閉症スペクトラム障害をはじめ、発達障害の人たちの感覚特性を客観的に把握するためによく使われている尺度です。質問票は保護者と本人が記入し、聴覚、視覚、触覚、口腔感覚など、幅広い感覚に関する125項目で構成されています。・Vineland(ヴァインランド:社会生活能力検査)0歳から92歳の幅広い年齢帯で、同年齢の一般の人の適応行動をもとに、発達障害や知的障害、あるいは精神障害の人たちの適応行動の水準を客観的に数値化する検査です。対象者にどんな特性があるのかを評価してくれます。また教育や福祉分野の個別支援計画の立案にも役立てることもできます。カナー症候群の治療・療育出典 : カナー症候群の根本的な治療法や手術といった医学的な方法は確立していません。しかし、子どもに、社会で暮らしていくために必要な技術や技能を教えたり、生活上の問題点を軽減させる方法を見つけたりするなどの教育的な援助を行うことが、カナー症候群をはじめとした自閉症スペクトラムに対する効果的な治療法になります。こうした対応の方法を「療育(治療・教育)」といいます。療育は、薬による治療のようにすぐに効果が表れるものではありませんが、長期的に続けることによって自閉症の子どもの生活を安定させ、社会への適応力を養うこともできるようになっていきます。代表的な自閉症スペクトラム障害の療育方法を紹介します。・ABA(エービーエー、Applied Behavior Analysis/応用行動分析)人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、問題解決に応用していく理論と実践の体系です。・TEACCH(ティーチ、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children)自閉症スペクトラム障害の当事者とその家族を障害支援する総合的なプログラムです。自閉症児のためのTEACCHハンドブック・PECS(ペックス、Picture Exchange Communication System)主に話し言葉に遅れがある場合に、話し言葉の代わりに絵カードや写真カードを使ったコミュニケーション援助プログラムです。・SST(エスエスティー、ソーシャルスキルトレーニング)対人関係をうまく行うための社会生活技能を身につけたり、障害の特性を自分で理解し自己管理をしたりするためのトレーニングの総称です。その他にもDIR、感覚統合療法、太田ステージ、VB(言語による行動変容法)、PRT(機軸反応訓練)、RDI(アールディーアイ、Relationship Development Intervention/対人関係発達指導法)などさまざまな療育方法があります。子どもの症状の特徴を考慮して、子どもにあった療育方法を選んでいきたいですね。自閉症の根本的な原因と推測される脳の機能障害を薬で治すことはできません。ですが、子どもに厳しい症状があらわれたときに、それを抑えるために薬を用いることがあります。たとえば、昼夜問わず走り回っている、こだわりやパニック症状が強い、自傷行動が激しく親子ともに苦しんでいる場合などは服薬したほうがよいと判断される場合があります。このようなケースでは「向精神薬」(精神安定剤、抗うつ薬、抗精神病薬)が使われます。また、症状を緩和するための薬が用いられることもあります。最初は少量からスタートして効果や副作用の有無を観察しながら、医師の指示に従って調節していくとよいでしょう。また、ただ薬を利用するのではなく、症状が緩和されている時には必ずスキルトレーニングなどを行いましょう。カナー症候群の子育てにおいて大切な考え方や悩みと対処法出典 : 子育てをしていく中で、ときに子どものことがわからなくなってしまったり、自分の子育てに不安や悩みを抱えることが多いと思います。子育てにおいて「正解」や「こうすべき」という決まりはありませんが、子どもの特性に合った適切な接し方を知ることが子育てにおいてとても重要となります。1. カナー症候群の子どもは、自分とは物事の感じ方が違うことを理解するカナー症候群を含め自閉症のある人の中には、定型発達の人と比べて特定の感覚に過敏性や鈍さ(鈍麻)があったり、独特の物事の理解の仕方や受け止め方があったりする場合が多いです。そのため、子どもが「自分とは違う感じ取り方をしているかも」ということを意識し理解することが重要です。「このくらい言わなくてもわかるだろう」「この程度の音なら我慢できるはず」と思わずに、子どもがどう感じているかに耳を傾け、何に困っているかを想像して接するようにしましょう。2. 本人がわかりやすい方法で具体的に伝えてあげる自閉症の中でも特にカナー症候群のある人は認知機能や言葉の発達の遅れがみられることが多く、言葉でのコミュニケーションに大きな困難を持つ人がいます。言葉でくどくど説明しても、子どもは混乱してしまうだけです。子どもにとってわかりやすい指示や対話の方法は一人ひとりの特性によって違います。本人が理解しやすいやり方を考え、説明して納得させてあげてください。以下は代表的な方法です。◇短い言葉で具体的に指示する「椅子に座って」「靴を履いて」など、短い言葉で具体的に伝えます。状況や理由などの説明をしたり、一度にあれこれ指示をしたりするとわかりにくくなってしまいます。シンプルなステップに分け、一つが終わってから次の指示をします。◇視覚的な方法で説明する自閉症のある子どもは、耳で伝えられる情報は理解することが難しいことが多い一方、絵や写真といった視覚的な情報による理解は得意であることが多いようです。言葉の指示や説明に加えて、絵や写真を補助的に使用すると、言葉だけでなく視覚でも理解ができるようになります。言葉でのコミュニケーションが苦手な自閉症の子どもにとって理解しやすい環境になり、何をして欲しいのか明確にわかるようになります。予定や約束ごとなども、絵にして知らせると、理解しやすく安心できます。3. ほめることで「できる」を増やしていく自閉症のある子どもに教える上では「ほめる」ことが大きなポイントになります。◇スモールステップで「できた」を増やす日常生活上でできないことに対しては、少しずつ、ステップごとに教えていく方法が効果的です。まずは手順を細かくわけ、分かりやすい方法で一つひとつ説明します。やってみて、一つできたら思いっきりほめてあげます。子どもに「できたら嬉しい」「自分にもできる」ことがある、という成功体験をたくさん味わわせることがとても重要なのです。◇のぞましい行動をほめる自閉症のある子どもは相手の言葉の意図をくみ取ることが難しい場合があります。そのため「してはダメ」なことを叱るよりも、「してはいけない」ことはできるだけスルーし、「してほしい」ことをしたときにストレートな表現でほめるほうが効果的です。うまくいったことや頑張ったことがあれば、どんな小さなことでも思い切りほめます。同じことでも何度もほめることで「よい行動」が印象づけられ、定着していきます。4. 不安な気持ちに寄り添う自閉症のある子どもは環境の変化がとても苦手であることが多いと言われています。「いつもと違う」ことに強い不安と拒否感を感じ安く、例えば、いつもと違う道を通った、部屋の家具の位置が違うといった場合など、他の人には些細に思えることでも気持ちが動揺しパニックになってしまうことがあります。◇見通しを持たせて安心させる先の見通しを立てられるように予告しましょう。これから何をするか理解し、予測できると安心して行動できます。そのためには絵などを使って子どもが分かりやすい方法で、かつその子が安心できるタイミングで伝えるようにしましょう。伝えるタイミングは直前だとパニックの原因になりますし、早すぎると意味がなくなったり、他のことが手に付かなくなったりすることもあります。5.特徴からくる行動を理解するにおいを嗅いだり、くるくるまわったり、ジャンプを続けたり…このように常同行動と呼ばれる変わった行動や癖があると、親としてはやめさせたくなりますが、無理に止めるといっそう落ち着けなくなります。危険な行動や人に大きな迷惑がかかることでなければ、落ち着くために必要であることも理解し、ある程度は容認してあげることも大切です。また、年齢とともに不安に対する適切な対処法、例えば深呼吸、散歩、音楽を聴く、ヨガをするなどを、常同行動に代わる行動として教えていくとよいでしょう。自閉症のある子どもは、何もすることがないと時間をもてあまして不安になる傾向もあります。病院の待合室や電車の中などで手持ち無沙汰を解消できるよう、絵の描けるホワイトボードやパズルなど、好きな遊びを準備しておくと落ち着いて過ごせることがあります。6.感情的に怒らないこちらが感情的になると、いつもと違うできごとに不安を感じ、かえって混乱させてしまいます。何かを伝えたい時は、冷静に短い言葉で簡潔に伝えることを心がけてください。できるだけ否定的な言葉は使わず、「○○してほしい」「○○しましょう」と言い換えるようにしましょう。◇パニックになってしまう原因を避けたり、落ち着くまでゆっくり見守ってあげる親や周囲の大人としては、感情的に怒りたくなることもあるかもしれません。自閉症の子どもにとっては、どうして怒られているのか理解することが難しく、パニックになってしまう場合もあります。パニックになると落ち着くまでに時間がかかりますし、その間は周囲の大人が何を言っても聞く耳を持つことができません。しかし、ゆっくり感情的にならず説明すると、理解しやすくなります。パニックが起きたらおさまるまでしばらく見守ってあげましょう。頭を壁に激しくぶつけるなどして危険な場合は壁にクッションを当てるなどしてけがをしないようにします。更に詳しく自閉症の子どもの接し方について紹介している記事があるので、以下の記事をご参照ください。参考文献:前川あさ美 /『「心の声」を聴いてみよう!発達障害のこどもと親の心が軽くなる本』(講談社,2016)子育てをしていると、周囲に気を使ったり、子どもの様子に気を配ったりと、体力的にも精神的にも毎日へとへとになるパパママも少なくないでしょう。これでいいのか、子育てに自信がなくなることもあるでしょう。そんな時は、誰かに相談したり頼ったりしましょう。公的支援をはじめ、さまざまなサポートがあります。◇専門機関に相談する地域の子育て支援センターや児童発達支援センター、児童相談所などでは、子どものことや子育てについて、気軽に相談ができます。必要があれば医療機関や療育施設などの専門家を紹介してくれます。◇親の会に参加する自閉症の家族を対象とした家族会やサポートグループが全国にあります。親の会は障害のある子どもを持つ親同士がつながり、障害について学んだり情報交換をしていく活動です。また、発達ナビのQ&Aコーナーやコミュニティでも、子育ての悩みを相談することができます。誰かにつらい気持ちを話すだけでも、気持ちが楽になり、一人で悩みを抱え込まずにすみます。◇ペアレントトレーニングを受ける親が子どもとのより良いかかわり方を学びながら、日常の子育ての困りごとを解消し、楽しく子育てができるよう支援する、パパ・ママ向けのプログラムです。子どもをのばすほめ方、環境調整の仕方、指示の出し方、行動の教え方などを具体的に学べます。◇レスパイトケアで意識的に休息をとるがんばりすぎて、余裕がなくなっているときは、リフレッシュが必要です。育児を軽減するサポートを利用するなどして、自分の時間をつくりましょう。児童発達支援、放課後等デイサービスの中には預かり型の支援サービスもあります。また、障害児を受け入れているファミリーサポートもあります。一時的預かりのサービスを行っている地域もあります。地域の福祉相談窓口などで相談してみてください。カナー症候群の人が受けられる支援出典 : 療育手帳とは知的障害者福祉法に基づき、知的障害のあるために日常生活に支障がある方に、適切な支援をすることを目的として作られました。療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所で知的障害であると判定された方が取得できます。そのため、カナー症候群の特徴がみられる子どもの場合、療育手帳を取得できることが多いです。療育手帳制度の概要(厚生労働省)療育手帳の呼び方は自治体によって異なります。多くの自治体は療育手帳としていますが、東京都や横浜市では”愛の手帳”、埼玉県やさいたま市では”みどりの手帳”と呼ばれています。療育手帳は都道府県知事または指定都市市長が交付します。療育手帳を取得することによって、さまざまなメリットがあります。1.保育・教育面の援助を受けられる2.就労に向けての支援を受けられる3.各種サービス・割引を受けられる(交通機関、障害者医療費、災害時の支援、施設・サービスの割引4.給付・税の減免や控除に役立つ申請方法や詳しい申請の流れは以下の記事をご参照ください。通院による精神医療を継続的に受ける人の医療費を、公費で一部負担してくれる制度です。申請が通ると「自立支援医療受給者証」が交付され、外来診療・処方薬・病院での療育等の自己負担割合が原則1割になります(ただし、所得によって窓口負担の上限が定められています)。「特別児童扶養手当」とは、障害のある子どもを対象に、その保護者や養育者へ給付される扶養手当です。この法律は精神、または身体に障害がある児童について特別児童扶養手当を支給することで、生活の豊かさの増進を支援することを目的とします。児童が20歳になるまで、障害の等級に応じて一定の金額が保護者もしくは養育者に支払われます。児童発達支援とは、障害児通所支援の一つで、小学校就学前の6歳までの障害のある子どもが主に通い、支援を受けるための施設です。日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、保育園や幼稚園のように遊びや学びの場を提供したりといった障害児への支援を目的にしています。障害のある子どもが住んでいる地域で療育や支援を受けやすくするために設けられました。それまで障害種別だった施設が一元化されましたが、障害ごとの特性に応じた専門的な支援に特化した施設もあります。具体的なサービス・支援としては以下のようなものがあります。・児童発達支援子どもの個別支援計画に応じて聴能訓練や言語聴覚訓練などの専門的な機能訓練を行います。・地域支援(主に児童発達支援センター)地域の保育園といった障害児を預かる施設の訪問などを行い、連携をとっています。また通所していない子どもについても親の相談を受けるなどの相談支援を行っています。・放課後等デイサービス障害のある就学児童(小学生・中学生・高校生)が学校の授業終了後や長期休暇中に通うことのできる施設です。障害児給付費の対象となるサービスで、受給者証を取得することで国と自治体から利用料の9割が給付され、1割の自己負担でサービスが受けられます。カナー症候群などの知的障害を伴う自閉症スペクトラムの子どもの場合、特別支援教育を受けることができます。特別支援学校は心身に障害のある児童・生徒が通う学校で、幼稚部・小学部・中学部・高等部があります。基本的には幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準じた教育を行っていますが、それに加えて障害のある児童・生徒の自立を促すために必要な教育を受けることができるのが大きな特徴です。小・中学校では障害のある子どもの教育環境として、通常学級・通級・特別支援学級があります。それぞれの対象となる障害の程度に明確な基準はありませんが、一般的に通級・特別支援学級・特別支援学校の順に障害への支援量は大きくなります。そのため、障害が軽度の場合は通級、より専門性の高い支援が必要な場合、特別支援学級や特別支援学校を検討する場合が多いと言えます。学校によっては見学会や説明会を行っているところもあります。また、文化祭などのイベントに行くことでも雰囲気や様子をつかむことができます。お子さんと学校へ見学に行ったり、周りの学校の先生やお医者さんなどに相談しながら、お子さんにとって最善の教育環境を考えてみてください。カナー症候群のある人の家族や周りの人の関わり方で大切なこと出典 : まずは家族全員がカナー症候群の特徴を正しく理解し、同じ認識、同じ方針のもとで子どもに接することがとても重要です。また、家族としては症状や関わり方を理解していても、外に連れていくことには不安を抱いてしまう、ということもあると思います。ですが、外の世界に触れて刺激を受けたり、さまざまな経験をすることは、カナー症候群のある子どもの社会性を伸ばしていくチャンスにもなります。そのためには家族だけでなく、学校や近所の人を含め地域みんなでその子の特性を理解し、関わっていくことが必要です。以下では、カナー症候群のある人と関わる人のうち、保護者以外の存在ーきょうだいや地域の人たちへの情報発信や関わり方についてご紹介します。■きょうだいのためにできることきょうだいたちの中には、カナー症候群のある子どもをケア親の姿をみて「自分はいい子でいないと」と気持ちを我慢して孤独感や嫉妬を抱えている子もいます。また、親も「いろんな我慢をさせている」「親が死んだらきょうだいどうしで支えあっていけるのか」と不安になってしまうこともあります。まずは、障害について正確な知識を共有してあげて、色々な感情を無理に抑え込まなくていいことを伝えることが大切です。親としてはどうしてもカナー症候群のある子どものことばかりに目が行きがちですが、きょうだいが親と一緒にゆっくり過ごせる時間を積極的につくってあげることも大切です。■地域のひとを味方によく会う近所の人や、行きつけのお店などには、子どもの特徴についてあらかじめ説明しておき、理解を得ることで、「見守り役」として手を差し伸べてもらえるようにするといでしょう。見かけたときは、お互い挨拶をして、必要であればなにかあったときに連絡をもらえるようにしておくことも助けになるでしょう。まとめ出典 : カナー症候群とは自閉症の中で知的障害を合併する場合を指す用語で、医学的な診断名ではありません。現在の医学的な診断名として、いくつかの自閉症状のある障害が統合されてできた「自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」(ASD)と診断されることが定着してきています。カナー症候群を含め、自閉症は生まれつきの脳機能障害であると考えられており、親のしつけや愛情不足が直接の原因ではありません。一人ひとり、個性があるようにカナー症候群の特徴の表れ方もそれぞれです。障害名や病名に基づいて治療・療育をするのではなく、その子どもの特徴にふさわしい療育やサポートを柔軟に行っていきましょう。ときに、子育てに悩んだり親として自信を無くしたりしてしまうこともあると思います。一人で抱え込むのではなく、周囲に正しい理解を持ってもらったり、専門機関や同じ悩みを持つコミュニティに相談したり、頼ったりすることが親子にとって重要です。子どもの心の声に耳を傾け、それぞれの親子にあったスタイルで向き合っていくことが大切になってくるのではないでしょうか。
2017年06月21日ネグレクトとは?出典 : 一般的にネグレクトとは、「幼児・児童・高齢者・障害者などに対し、その保護、世話、養育、介護などを怠り、放任する行為」を指します。中でも特に、子どもに対して行われるネグレクト、すなわち「育児放棄」を意味して使用されることが多いようです。厚生労働省によると、ネグレクトは「身体的虐待・精神的虐待・心理的虐待とならぶ虐待の一つ」とされています。ほかの3種類の虐待が一般的に「子どもに有害なことをする」ものであるのに対して、ネグレクトは「子どもが必要とするものを親が提供しない」ことであると言えます。またネグレクトは、その背景によって、物理的・経済的条件が整っているのにもかかわらず保護を遺棄する「積極的ネグレクト」と貧困や知識不足などが原因で保護ができない「消極的ネグレクト」とに分けられます。両者とも、親の注意が子どもに向いていないという点では共通していますが、根本的な背景が異なるために解決の方法も変わってきます。児童虐待の定義と現状|厚生労働省厚生労働省の報告資料によると、平成27年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待に関する相談のうち、約4分の1にあたる2万4438件がネグレクトであったとされています。また、年度別の推移を見るとネグレクトの相談件数は増加傾向にあります。相談件数が増加している要因としては、後述する児童相談所全国共通ダイヤルの3桁化189(イチハヤク)が広く知られるようになってきたことや、児童虐待事件の報道によって国民の児童虐待に対する意識が向上したことが指摘されています。そのため、相談件数の増加は必ずしもネグレクトの数そのものの増加を示唆するわけではありません。平成27年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数|厚生労働省平成27年版 子ども・若者白書 > 犯罪や虐待による被害|内閣府ネグレクトに気付くためのサインはあるの?出典 : ネグレクトを受けている子どもには、どのような特徴があるのでしょうか?一般的に、以下のようなサインが見られる場合、ネグレクトの可能性が考えられると言われています。ただし、これらのサインが見られる子どもすべてがネグレクトを受けているわけではないので、あくまで一例として参考にしてください。・子どもの身長・体重が同年齢標準よりも極端に低いまたは軽い・冬なのに上着を着ていないなど季節はずれな服装をしている・皮膚がかさかさで目の下に黒いクマがある・虫歯がある、予防接種を受けていないなど医療的ケアを受けていない明白な兆候がある・いわゆる「ゴミ屋敷」に住んでいる等、住居が不適切である・親の監督不行き届きのためにたびたび危険な行為に参加している・不潔な身なりをしている・平日の昼間なのに公園にいるなど、学校に行っていないように見える・夜遅くまで外で遊んでいるなど、家に帰りたがらない・空腹のため、食べ物をせびったり盗んだりする・気だるそうで、何事にも無関心に見える現実では、断片的な情報しか得ることのできない家庭外の第三者がネグレクトがあるかについての判断をすることは容易ではありません。次章では、どこから虐待といえるのか、厚生労働省が示す虐待の捉え方について解説します。バーバラ ローエンサル『子ども虐待とネグレクト』(明石書店、2008)どこからが虐待になるの?出典 : 親による子どもに対する行為が虐待にあたるかどうかの判断は、以下で紹介するような児童虐待防止法の定義に基づいて総合的に行われるのが基本ですが、厚生労働省はその過程における重要な観点として「子どもの側に立って判断すべき」という点を明らかにしています。厚生労働省のホームページでは、虐待を判断する上で有効な考え方として、小児科医・小児精神科医である小林美智子氏の言説が引用されています。「虐待の定義はあくまで子ども側の定義であり、親の意図とは無関係です。その子が嫌いだから、憎いから、意図的にするから、虐待と言うのではありません。親はいくら一生懸命であっても、その子をかわいいと思っていても、子ども側にとって有害な行為であれば虐待なのです。我々がその行為を親の意図で判断するのではなく、子どもにとって有害かどうかで判断するように視点を変えなければなりません。」(小林美智子,1994)つまり、親に虐待の意図があろうとなかろうと、子どもにとってその行動が虐待であると感じられれば、それは虐待であると考えられているのです。ネグレクトを含む児童虐待に関係する法律の一つに、児童虐待の発生予防、早期発見・早期の適切な対応、虐待を受けた子どもの保護・自立に向けた支援などの推進を目的に制定された「児童虐待防止法」があります。この児童虐待防止法において、虐待は以下のように定義されています。<児童虐待防止法 第二条>>この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。一児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。二児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。三児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。四児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。出典:児童虐待の防止等に関する法律ここで挙げられている4種類の行為のうち、「三」がネグレクトにあたります。しかし、堅い表現で書かれた法律の条文を読むだけではあまりイメージがわかない方もいるかもしれませんね。より具体的には、以下のような行為がネグレクトに該当するとされています。<ネグレクトに該当する行為>●子どもの健康・安全への配慮を怠っているなど。(1)家に閉じこめる(子どもの意思に反して学校等に登校させない)、(2)重大な病気になっても病院に連れて行かない、(3)乳幼児を家に残したまま度々外出する、(4)乳幼児を車の中に放置する など。●子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。●食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。(1)適切な食事を与えない(2)下着など長期間ひどく不潔なままにする(3)極端に不潔な環境の中で生活をさせる など。●親がパチンコに熱中している間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、誘拐されたり、乳幼児だけを家に残して火災で子どもが焼死したりする事件も、ネグレクトという虐待の結果であることに留意すべきである。●子どもを遺棄する。●祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人がア、イ又はエ(心的虐待、性的虐待又は心理的虐待*)に掲げる行為と同様の行為を行っているにもかかわらず、それを放置する。子ども虐待の援助に関する基本事項|厚生労働省から抜粋、一部編集、*は編集部註一口にネグレクトといっても、衣服の着替えなどの不十分なまま登校してくるような事例から、飢えなどによって子どもが命を失ってしまうような事例までが存在し、その範囲は広いものとされています。ただし、どのような種類・程度のネグレクトであったとしても、それが子どもに大きな悪影響を与える可能性が高いということは紛れもない事実です。次章では、ネグレクトが子どもにどのような影響を与えるのかについて見ていきます。ネグレクトが子どもに与える影響は?出典 : 虐待の一つであるネグレクトは、子どもにさまざまな悪影響を与える可能性があります。本章では、身体的影響・知的発達面への影響・心理的影響の3種類に分類してネグレクトが子どもに与える影響について解説します。ネグレクトが子どもに与える身体的影響としては、十分な食事が与えられず栄養障害になってしまったり、愛情不足により成長ホルモンが抑えられて成長不全を引き起こしたりという身体的発育への悪影響のほか、保護者の監督不十分により子どもが事故に巻き込まれたり、保護者の関心あるいは知識不足によって治療すべきケガ・病気が放置され悪化したりという直接的な悪影響が挙げられます。事故に巻き込まれた結果、大きなケガを負ったり、命を落としてしまったりするケースも報告されています。ネグレクトのなかには、子どもが学校に行けていないケースも存在します。そのようなケースでは、子どもの言語発達に遅れが生じたり、学力が同年代の子どもと比べて低くなってしまったりする可能性が高いです。学年に応じた学力が身に付かないことで、その後の進学や就職において困難を抱えてしまうことが予想されます。ネグレクトが原因で、親との間に適切な愛着関係が築けないと、愛着障害や感情のコントロールに関する障害を発症することが多く、そのために対人関係で困難を抱えるようになってしまうことがあります。また、ネグレクトを受けた経験がトラウマとなり、長い間苦しむこともあります。さらに、保護者からの愛情・関心を十分に受けることのなかった子どもは極端に自己肯定感が低いことも少なくなく、自分自身を大切に思えない感情から自傷行為をしたり、自殺を試みたりする確率が高いといわれています。子ども虐待対応の手引き(PDF版)|厚生労働省日本弁護士連合会子どもの権利委員会『子どもの虐待防止・法的実務マニュアル【第5版】』|厚生労働省ネグレクトを引き起こす要因出典 : 子どもの虐待は、身体的、精神的、社会的、経済的などいくつもの要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。そのためネグレクトを解決するためには、単純に虐待をする側を罰したり責めたりするだけでは解決しないことが少なくありません。虐待をしてしまう状況に陥りやすいリスクに早く気付き、そこに支援の手を差し伸べることが、結果的に子どもを虐待から守ることにもつながります。保護者側の要因としては、さまざまなものが考えられます。まず要因の一つとして、親が子どもを受け入れられていないことが挙げられます。残念なことに、望まない妊娠であったり、子どもが何らかの障害や疾患などを持って生まれてきたりしたために、子どもを自分の子として受け入れられず、ネグレクトに至ってしまうケースがあるのです。ほかにも、「再婚相手の連れ子だから」という理由で子どもを愛せず、ネグレクトをしてしまう事例も報告されています。そのほかには、保護者の知識不足がネグレクトの要因となることもあります。育児知識が不足しているために子どもに与えるミルクの量が不適切だったり、子どものケガや病気に対して、例えば病院に連れていくなど適切な対応を取れていなかったりする場合もネグレクトとなります。また、保護者自身が虐待を受けて育った場合、自分の子どもに対しても虐待をおこなう可能性が高いとされています。子ども側の要因として共通してポイントとなるのは、「養育者にとって何らかの育てにくさを持っている」ことです。子育てにおける「困りごと」によって親のストレスなどがたまり、ネグレクトへとつながってしまうことがあるのです。例えば、乳児、未熟児、障害児、慢性疾患を抱える子どもは、そうでない場合の子育てに比べて虐待のリスクが高まると言われています。養育関係の要因としては、家庭の経済的困窮と社会的な孤立が大きく関係しているとされています。経済的な困窮のために医療費が払えず、治療を必要とする子ども病院に連れていくことができないケースや、なんとか生計を立てるために保護者が長時間・夜間労働をしている間、子どもが「放置状態」になってしまうケースなどがあります。孤立した家庭は子育てに関する知識・情報を持たなかったり、そうした情報にアクセスしにくかったりするほか、頼りにできる人がいないために保護者が精神的に追い詰められてしまうなどの理由で、ネグレクトを含む虐待全般が生じるリスクが相対的に高いと考えられています。ネグレクトを受けている可能性のある子どもを見つけたら?出典 : 虐待から子どもを救うためには、第一に虐待が行われている疑いがあることが外部に認識され、その情報が関係機関に伝えられる必要があります。虐待を受けているのではないかと思われる子どもを見つけた場合、その内容を児童相談所に連絡することを「通告」と言います。速やかな通告がされないと、行政機関も虐待の防止に向けた活動を行うことができず、虐待を受ける子どもの生命や心身に大きなダメージを与える危険性が高くなります。そのため、虐待の通告は「児童虐待対応において極めて重要」とされており、したがって、児童虐待防止法では以下で示す通り、すべての国民に通告義務を課しています。<児童虐待の防止等に関する法律第六条>児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。出典:児童虐待の防止等に関する法律通告の時点で通告者が本当に虐待であるかどうかを判断する必要はなく、「一般の人の目から見て主観的に子どもの安全・安心が疑われる場合」であれば通告してよいのです。また、もし仮に通告の後で虐待の事実がないと判明したとしても、虐待の事実がないことを知りながら故意に虚偽の通告したという場合などを除けば、法的責任を問われることはありません。また、通告した人が特定されるような情報や通告内容が漏れることはありません。子ども虐待対応の手引き(PDF版)|厚生労働省日本弁護士連合会子どもの権利委員会『子どもの虐待防止・法的実務マニュアル【第5版】』■「189」で電話相談しましょう「189」は、児童相談所や市区町村が「いちはやく」児童虐待に対応できるよう、厚生労働省により設けられた全国の児童相談所の共通ダイヤルです。「189」に電話をかけ、音声ガイドに従うことで最寄りの児童相談所につながります。Upload By 発達障害のキホン「189」への相談は24時間365日いつでもすることができます。電話の通話料金自体は相談者の負担となりますが、相談料などはいっさいかかりません。また、相談者の氏名や相談内容に関する秘密に関しては口外されないよう定められているため、相談者にとって安心して相談しやすい環境が整えられています。児童相談所の担当者に対して氏名を明かしたくない場合は、匿名での相談もおこなうことができます。しかし、いざネグレクトを受けている疑いのある子どもを見つけたとしても「自分の通告によって親子の関係を引き裂いてしまうのではないか」と不安に感じ、通告をためらってしまう方もいるのではないかと思います。そのような感情を抱くのは自然なことですが、そんなときに知っておいてほしいのは、「児童虐待の通告は、子どもだけではなく、保護者をも救う」ということです。多くの場合、ネグレクトが起きてしまう背景には「保護者が抱えている何らかの困難」が潜んでいます。ネグレクトをしてしまう保護者は、経済的に苦しい生活をしていたり、自分自身が病気や発達障害、精神疾患などを抱えていたり、子どもをしつける方法がわからなかったりという困難を抱えているにも関わらず、身近に相談する相手もいなくて、社会的にも精神的にも孤立状態にあることが多いと考えられているのです。通告によって行政がネグレクトの存在を知ることができれば、それは保護者にとって子どもとの関わり方を見直し、自分自身が抱える困難への対処を行うきっかけとなります。また、貧困や疾患が背景にある場合や子育て方法がわからない場合など、保護者自身への支援につながることもあるのです。さまざまな思いが浮かんで通告をためらってしまうことは自然なことですが、それでも勇気を持って行動することで、親と子ども、両者を救う手助けとなるのです。児童相談所全国共通ダイヤルについて|厚生労働省児童相談所全国共通ダイヤルの利用状況|厚生労働省「189」(児童相談所共通ダイヤル)について|全国民生委員児童委員連合会児童虐待の通告義務について|東京都八王子市◇ネグレクトをやめたいと苦しむ親の相談先「ネグレクトをやめたい」と苦しむ親への支援として、社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP)が、研修を受けた相談員による電話相談を行っている他、ケースによっては虐待などの悩みをもつ母親同士が自分の体験を語ることによる治療的グループケアなども行っています。また、社団法人子どもの虐待防止センターでは、電話での相談を受け付けているとともに、育児スキルトレーニングの教室の実施なども行っています。「虐待をやめたい」と悩み苦しむ親への支援社会福祉法人子どもの虐待防止センター (CCAP)まとめ出典 : 保護者の愛情や関心が子どもに向かないことで生じるネグレクトは、子どもの精神的・身体的な発達に大きなダメージを与えます。精神面で例を挙げると、幼児期に保護者との間で愛着を築けなかったり、ネグレクトの経験がトラウマとなったりすることで長期的な影響を与えることが多く、それらの影響が多動性や気分のコントロールに関する障害、対人関係に関わる障害などとなって現れることも少なくありません。直接的な影響としては、親の注意監督不足によって子どもが事故・事件に巻き込まれて大けがを負ったり命を失ってしまったりする事例が報告されています。虐待を受けている子どもは、日常的に虐待を受けていながら、それを虐待とは感じていないこともあると言われています。また、小さい子どもは自分でSOSを出すことができません。ネグレクトを受ける子どもを救うためには、周りの人が気づき、支援の手を差し伸べることが極めて重要です。もし疑いのある子どもを見つけたら、勇気をもって行動するようにしましょう。
2017年06月20日実は私、「選択性のかんもく」のある子でした。出典 : 今でこそ、凸凹3兄妹の子育てをしながら、「楽々かあさん」として支援・執筆活動を続け、学校の先生方と連携し、ママ友さんやご近所づきあいも無難になんとかこなせている「大人の凸凹さん」の私。でも、実は、小学生の頃は「選択性のかんもく」のある子でした。「選択性のかんもく」(場面緘黙症)では、家などで慣れた人とは話せるけど、それ以外の場所・人ではだんまりになる…などの特徴が現れます。(※「選択性のかんもく」表記について:現在日本では、本人の意思に関わらず、話すことに困難さがあることから「場面緘黙症」という呼称が一般的なようですが、この漢字表記は、視覚にやや過敏性のある筆者が、若干の圧迫感を覚えますため、このコラムでは「選択性のかんもく」という表現を使用させて頂きます。)選択性のかんもくになる原因や、発達障害との関連性は明確ではないようですが、私自身のことを振り返ってみれば、元々の体質的な凸凹などから不安感が強く、いろいろと空気を読み過ぎていたように思います(あくまで私自身の自己分析であり、選択性のかんもくになる理由はさまざまだと思います。)そんな私から、人と話すことが苦手なお子さん・大人の方、そしてお子さんを心配されながらも子育てしている母さん・お父さんに今、伝えたいことがあります。休み時間の過ごし方が分からなかった出典 : 私は、小さな頃から感覚が敏感な体質で、小学3年生の頃まで「選択性のかんもく」がありました。私の場合、軽く頷いたり、「うん」とか「はい」程度は言えたので、ある程度の意思疎通はでき、「内向的で大人しい子」といった印象だったように思います。そのため当時は「発達障害」や「場面緘黙症」などの言葉を、周囲の大人は知る由もありませんでした。でも、首を横に振るなど「ノー」という意思表示は苦手だったように記憶しています。そして、不思議と学校の授業中は発言できていたので、さほど問題にはされませんでしたが、その実、私はとっても困っていました。授業中は、「1+1は…?」と聞かれれば、答えは「2」と決まっています。「教科書の◯ページを読んで」と言われれば、そこを書いてある通りに読めばいいだけです。ところが、休み時間や、給食、登下校などの「お友達と自由に話していい時間」には、一体何を話したらいいのか、何をして過ごせばいいのか、さっぱり分かりませんでした。そこには「正解」がなかったからです。更に、こだわりも強かったので「こうしなければならない」という自分ルールがたくさんあり、自由に身動きできなくなっていました。だから、当時の私は、授業中よりも休み時間のほうが緊張して過ごしていました。今思うと、凸凹傾向で感覚が敏感だった私にとって「休み時間」=「予測のつかない時間」で、とても不安だったように思います。教室はざわざわとして情報量が多く、予測不能に自由に動き回る男子達にも、宇宙語のような言語を操る女子達にも、私の情報処理は全く追いつかなかったのです。当時の私には、学校の休み時間は混沌として、居場所のない空間でした。そして、どうしたらいいのか分からずにだんまりを決め込んで、自由帳に黙々と絵を描き続け自分を守っていました。お絵かきの中だけは自由に過ごせる居場所があったんです。Upload By 楽々かあさん今でこそ、いろんなアイデアが出て来る私ですが、当時は、クラスの寄せ書きの大半に「生真面目」と書かれるくらい真面目過ぎる子で、決められたルールや規則に従って動くことはできても、柔軟に、臨機応変に動くのは苦手だったんですね。大人になってからも、話すことは苦手。自分自身を療育した私そんな私も、小3の時の約1ヶ月間の不登校と、担任の先生のある言葉をきっかけに、少しずつクラスの子達とも話せるようになっていったのです。それでも、複数の人前で話すことや、雑談には苦手意識があるまま大人になりました。以前は、公園のママ友さん達の井戸端会議の輪の中では情報量が多過ぎて、一体誰を見て、どのタイミングで話せばいいのか分からなくて、帰宅後どっと疲れてしまったり、悶々と一人反省会をして眠れない、なんてこともありました。娘にも「ママ、いつもおばあちゃん達とお話するばっかじゃなくて、お母さんのお友達も作ったら?」と促される始末(笑)出典 : でも、うちの子達にソーシャルスキルやセルフコントロールを教えるために学んだことを、私自身が目の前で実践し、お手本を見せていく必要に迫られたのです。子どもに一つひとつ、人づき合いの仕方を教えていくのと同時進行で、私はアラフォーになってから独学で自分自身を療育し、苦手さと上手につき合えるようになりました。(療育は、何才からでも遅過ぎるということはありません!)うちの子と同じように、人づき合いを「自然と学ぶ」ができて来なかった私。だから、社交的な方なら自然と当たり前にできることも、ひとつひとつ、自分自身に再度プログラミングするように、それまでのこだわりや思い込みを書き換えていきました。そして、感じてはいけない感情などない、ということも発見しました。その結果、今では人づき合いで大きく困るということもなく、自分にちょうど良い距離感を掴み、ほどほどに人間関係に無理しない線引きができるようになって、なんとかお母さん同士の雑談も、たまには楽しめるようになりました。そして、そんな子ども時代を過ごした私が、前著の出版を機に、お母さん達の前で講師としてお話する機会を、ほんの少しだけ頂くこともできたのです。この機会を通じて「自分は意外と話すことが好きだったんだ」と、生まれて初めて知りました。そんな私から、今「人と話すのが苦手」だと感じているお子さん・大人の方に向けて書いたメッセージを、お伝えします(以下、著書より引用して公開)。今、人と話すのが苦手なあなたへーそして、小学生の頃の私へーUpload By 楽々かあさん”人と話すのが苦手なあなたは、きっととても心優しい子・方なのでしょうね。もしかしたら、誰も傷つけないように、一生懸命言葉を選び、相手の期待する「正解」を探して、言葉が出てくるまでに、すごく時間がかかったり、ましてや、グループの会話だと、誰に返したらいいのかも分からないし、せっかく「正解」らしきものを思いついても、その間にお話はどんどん進んで、今頃言ったら雰囲気が壊れるかも……なんて、結局言葉を飲み込んでいるのかもしれませんね。でもね。実は、他の人は「正解」を知りたいのではないんです。あなたに話しかけてくる人は、自分の話を最後まで聴いて欲しいだけか、あなたの素敵な声が、ほんのちょっと聞きたいだけか、あなたに興味があって、自分との違いを知りたいだけなんです。でも、自分の心がよく分からないうちは、無理に話さなくても大丈夫です。優しいあなたは、誰よりもまず、自分の心の声をよく聴いてあげて下さいね。よく知らない子・人と、そんなにお話できなくてもいいから、今は、自分の心と仲良くなって、できるだけホンネで話せれば、それで充分です。そして、もし、自分の心の声がはっきりと聴こえてきたら、自然と、だれかにそれを伝えたくなるかもしれません。もしかしたら、人を気遣って思いやり、相手に合わせてあげられる……そんな優しいあなたを必要としている人が、いつか、どこかで、待っているのかもしれませんね。人と話すのが苦手だった、私より。”出典「発達障害&グレーゾーンの3兄妹を育てる母のどんな子もぐんぐん伸びる120の子育て法」p.146よりおわりに出典 : 今、「選択性のかんもく」のあるお子さんや、人と話すのが苦手だと感じている子・方、そんなお子さんを見守っているお母さん・お父さんは、話すことに対する不安やプレッシャーを強く感じられているかもしれません。私もそうでした。だから、「私が大丈夫になったんだから、お子さんも大丈夫」なんて、私には言えません。お子さんにはお子さんのペースがあるし、背景となる理由も人それぞれですものね。でも…かつてそんな子だった私も、無事大人になり、この通り、なんとか元気でやっているということ、頭の片隅で覚えていて下さると嬉しいです。Upload By 楽々かあさん大場美鈴/著『発達障害&グレーゾーンの3兄妹を育てる母のどんな子もぐんぐん伸びる120の子育て法』2017年/刊/ポプラ社
2017年06月19日低身長とは出典 : 低身長とは、その年齢の子どもの平均身長と比べて大幅に身長が低い状態を指します。低身長は「周りの子どもと比べると身長が低い」「身長順に並ぶと自分の子どもはいつも先頭だ」など、単純に周りの他の子どもとの比較で認められるものではありません。低身長と認められている子どもの割合は、どの年齢においても全体の2%程度と言われています。この割合は、身長のSD値に基づいて割り出されています。SDとは、標準偏差(StandardDeviation)の略称で、低身長を考えるうえでは平均身長からどのくらい高いか、低いかを客観的に判断する基準として用いられています。成長科学協会身長基準・成長速度基準(男女)低身長はSDが-2以下の数値を取った場合に認められます。ただ、SDが-2以下で低身長であると判断されたとしても、必ず医療的な治療をしなければならないわけではありません。むしろ、低身長の中で治療が必要だったり、何か病気が隠れていたりするケースは珍しいといえます。はぐはぐキッズクリニック附属東出低身長治療研究室低身長の原因には何があるの?出典 : 低身長の背景には何があるのでしょうか。4つにわけて解説していきます。身長のSD値が-2以下であっても、特にこれといった原因がない場合が大多数といわれています。子どもの身長の伸びには個人差があり、早い段階でぐんぐんと伸びる子どもや、ゆっくり時間をかけて伸びる子どもなどさまざまです。特に病気などとの関連が見られず、生活習慣も良好である時は、「この子のペースでゆっくりと伸びていくのだな」と長い目で子どもの成長を見守ることが大切です。親御さんの中には、「子どもが低身長なのは自分の身長が遺伝的に影響しているからなのでは?」と不安に思ったり、責任を感じたりしてしまう方もいるかもしれません。確かに、子どもの身長には、ある程度両親の身長が影響するということがわかっています。身長や子どもの身体発達に関する本には、しばしば両親の身長から子どもの最終身長を求める計算式などが紹介されていることもあります。ですが、子どもの身長の伸びは親の遺伝のみで決定されるものではありません。食事や睡眠などの生活習慣や、スパートをかけるように身長が伸びるとされている思春期がどのタイミングで訪れるかなど、さまざまな要因が絡み合って身長は伸びていきます。両親の身長から子どもの身長を求める計算も、あくまでも目安の1つにしか過ぎません。遺伝的な要因を気にするよりは、子どもの生活習慣を整えたり、成長記録をこまめにつけたりすることを意識する方が大切です。子どもが親から愛情が得られず、精神的なストレスが増えると、子どもの成長を促す重要なホルモンである成長ホルモンが分泌されにくくなる、という研究結果が出ています。親が子どもへ愛情をもって接することができていないなど、精神的ストレスを与える環境が原因で子どもが低身長になることを愛情遮断症候群(母性剥奪症候群)といいます。子どもに精神的ストレスを与える、というと虐待やネグレクトなどを想像してしまいがちですが、そのような極端な場合でなくても愛情遮断症候群による低身長は起こることがあります。例えば、親同士のケンカが絶えないことを子どもが思い悩んだり、親が子どもにプレッシャーをかけてしまい、子どもが家庭で安らぐことができなかったりすることが、低身長の一因となる可能性があるのです。親同士の不仲や子どもへの接し方が子どもの成長に大きな影響をもたらす、ということを親自身が自覚し、子どもにとって家庭が安心できる場になるように環境を整えておくことが、愛情遮断症候群の予防になります。成長科学協会 研究年報 No.37 2013精神的ストレスに応じて成長ホルモン分泌を抑制する分子の探索額田 成/著『子どもの身長を伸ばすためにできること―小児科専門医が教える食事と生活習慣』2004年/PHP研究所低身長が何らかの病気によってもたらされている場合、次のような病気が考えられます。■成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌異常による病気(成長ホルモン分泌不全性低身長症や甲状腺機能低下症など)出産の時に仮死状態になったり、事故など何らかの原因で脳が傷ついてしまったり、脳腫瘍など脳の機能障害になったりすることにより、成長ホルモンが分泌される脳下垂体という部分に障害が残ることがあります。そうなると、成長ホルモンの分泌が十分に行われず、低身長につながります。■染色体の病気(ターナー症候群やプラダー・ウィリ症候群など)ターナー症候群とは、染色体の全体または一部が欠けることによって、低身長や女性ホルモンの不足を引き起こす疾患です。女性だけに発症するという特徴があります。プラダー・ウィリ症候群とは、15番染色体という染色体の異常により発症する症候群です。症状は、低緊張、母乳を吸うための筋肉が弱い哺乳障害、幼児期からの過食と肥満、発達の遅れ、低身長などが特徴とされています。■子宮内発育不全(SGA性低身長症)母親のお腹の中でゆっくりと成長したため、お腹の中にいた期間の割に小さく生まれてきた赤ちゃんがいます。このような赤ちゃんは、8割以上が2, 3歳までに急速に成長し、標準身長に追いつきます。しかし、これらの赤ちゃんのうち、2, 3歳になっても標準身長に追いつくことができない場合、SGA性低身長症と呼ばれます。SGA性低身長症は何も治療をしないと低身長のまま大人になる可能性が高いだけでなく、肥満や思春期が早く来る、糖尿病になりやすいなどの傾向があります。3歳から成長ホルモンによる治療を始めることが可能です。■骨や軟骨の病気(軟骨異栄養症)骨や軟骨そのものに何かしらの異常があることが原因で、低身長になることがあります。骨や軟骨の病気で低身長になっている場合、胴体にくらべて手足が短いなど、体のバランスに気になる点が見られることが特徴です。■心臓・肝臓・腎臓などの臓器の異常心臓や肝臓、腎臓などの重要な臓器に病気があると、体に十分な栄養を取り込むことができないために身長の伸びが悪くなり、低身長になることがあります。一般社団法人日本小児内分泌学会身長が伸びる仕組みとは出典 : そもそも、人間の身長はどのように伸びていくのでしょうか。身長が伸びるということは、骨が伸びるということを意味しています。子どもの骨の両端には、軟骨層と呼ばれる隙間があります。X線にはこの軟骨層が線となって映るため、軟骨層のことを骨端線(こったんせん)ということもあります。軟骨層には軟骨細胞というものがあり、これが子どもの時にはどんどん増殖していきます。そしてこの増殖した軟骨細胞にカルシウムが沈着することで、しっかりとした骨になっていくのです。このようなメカニズムで子どもの骨は伸びていきます。この軟骨層は成長とともに薄くなっていき、最終的にはなくなってすべて硬い骨になります。この状態でX線写真を撮ると骨端線が見えなくなります。これを「骨端線が閉じる」と表現することがあり、この段階に至ると身長はそれ以上伸びることはありません。また、低身長を治療していく場合、「骨年齢」を調べることがあります。骨年齢とは、現時点どのくらいまで骨が育っているかをわかりやすくするために年齢という数値で表したものです。骨年齢は実際の年齢と一致することがほとんどですが、多少のずれが生じることもあります。低身長の人が骨年齢を測定した時に、実際の年齢との間にあまりに差があると、その低身長の裏に何か病気が隠れていると考えられます。骨年齢は手のX線写真をもとに判定されます。骨年齢を把握することは、低身長の原因が病気であるかどうかを探るだけでなく、この先いつ頃までどの程度身長が伸びていくのかについて予測することに役立ちます。野瀬 宰/著『子どもの身長が気になったら読む本 親がわが子にしてあげられること』2012年/幻冬舎低身長で受診する時の検査内容って?出典 : 子どもの身長の伸びが悪かったり、平均よりぐんと低かったりすると、「子どもの身長が低くて不安…病院で診てもらった方がいいのかな?」と心配になる親御さんも少なくないと思います。以下、どのくらい身長が低い場合病院へ行くべきなのか、また受診したらどんな検査を受けるのかについて説明します。子どもの身長に対して、病院へ相談してみる・検査を受けてみることをおすすめする基準は、主にこの2点です。・子どもの身長が-2SD以下・身長の伸びが悪い状態が2年続く一般社団法人日本小児内分泌学会子どもの身長の伸びが心配になったら、まずは子どもの成長曲線をつけてみましょう。成長曲線とは、子どもが生まれてから身長の伸びが止まるまでの間、身長と体重の伸び方や増え方をグラフに記録したものです。多くの成長曲線には、平均身長だけでなく-2SDから+2SDの身長も記載されていますので、子どもの身長を成長曲線にしてみて、身長が-2SD以下の場合は一度専門家に相談してみましょう。また、身長自体は-2SD以上でも、身長の伸び率が急に微々たるものになったり、全く伸びなくなったりする状態が2年以上続いている場合も、専門家への相談をおすすめします。相談先として、かかりつけの小児科医がある場合はまずはそこを受診するのがよいでしょう。そのほかにも小児内分泌科や内分泌内科でも低身長を取り扱っていたり、低身長専門外来などを設けていたりするクリニックもあります。かかりつけ、もしくは近所の小児科に相談し、場合によってはより専門的に診てもらえる病院を紹介してもらうのも良い手段です。日本小児内分泌学会横断的標準身長・体重曲線(0-18歳)男子(SD表示) (2000年度乳幼児身体発育調査・学校保健統計調査)日本小児内分泌学会横断的標準身長・体重曲線(0-18歳)女子(SD表示) (2000年度乳幼児身体発育調査・学校保健統計調査)実際に低身長かも?と思って病院へ受診すると、どんな検査を受けるのでしょうか。大きく分けると、まず最初に受けるスクリーニング検査と、スクリーニング検査によって成長ホルモン分泌の異常が考えられる時に行われる、成長ホルモン分泌刺激試験(負荷試験)があります。■スクリーニング検査スクリーニング検査では、成長曲線の記入・手の骨のX線撮影・尿検査・血液検査を行います。まずは過去の身長記録をもとに成長曲線を正確に記入することで、子どもの生後から受診時までの成長スピードやパターンを把握します。そのため、低身長で初めて病院に受診する、スクリーニング検査を受ける場合、子どもの成長がわかるもの(母子手帳、学校での身体測定の結果など)を持参しましょう。また、手の骨のX線からは、骨年齢や骨の成長度合いがどの程度か確認することができます。血液検査や尿検査からは成長ホルモンをはじめとするホルモン値が正常かどうかだけでなく、肝臓や腎臓などの内臓機能の異常や、ウイルス感染などの有無も調べることができます。また、ターナー症候群やプラダー・ウィリ症候群などの染色体の病気が疑われる場合は染色体を詳しく調べる検査も行われることがあります。スクリーニング検査は基本的に1回の受診ですべて行うことができ、2週間程度で結果がわかるところが多いようです。なごやかこどもクリニック■成長ホルモン分泌刺激試験(負荷試験)スクリーニング検査の結果から、成長ホルモンの分泌に問題がありそうだ、と診断された場合、成長ホルモンの分泌に関してより精密な検査を行います。成長ホルモン分泌刺激試験では、子どもに成長ホルモンの分泌を促進する薬を投与し、一定時間ごとに採血をします。その血液中に成長ホルモンがどのくらい出ているかを見ることで、成長ホルモンの分泌状態を確認します。薬を使って意図的に成長ホルモンの分泌を促しても血液中に成長ホルモンが分泌されない、またはごく少量である場合、成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断がつくことになります。成長ホルモン分泌刺激試験で成長ホルモン値が正常であることがわかった場合は、成長ホルモン治療などの必要性がないため、経過観察という措置が取られます。ぬかたクリニック成長ホルモン治療Q&A低身長に有効な成長ホルモン治療ってどんな治療法?出典 : 低身長に何かしらの治療が有効であるという診断がついた時は、多くの場合成長ホルモン治療が行われます。成長ホルモン治療は先ほど説明したような検査の結果によって、成長ホルモンの分泌に異常があると認められた場合のみ適用されます。成長ホルモン治療は、毎日寝る前に注射で成長ホルモンを注入するという方法で進められます。成長ホルモンは本来、脳下垂体から毎日分泌されるものです。そのため、治療によって成長ホルモンを外から補完する際も、本来のホルモン分泌の仕組みと同じように毎日少しずつ補う方が、効果が高く、副作用も出にくくなると言われています。自らで注射を打たなくてはならない、と聞くと「自分で注射を打つなんてできるだろうか…」などと不安に感じる親御さんもいるかもしれません。成長ホルモン治療に使われる注射はペン型で操作しやすいものですし、針も非常に短くて細いものを使用します。注射をする箇所は臀部や太腿などです。病院でも医師や看護師が使い方を丁寧に教えてくれるので、過度に心配になる必要はありません。成長ホルモン治療は、取り入れてすぐに効果が出るようなものではありません。治療開始時にどのくらい骨が成熟しているかにもよりますが、基本的には数年を見越した長期的な治療となります。骨端線が閉じて骨が完全に大人の骨になると、いくら成長ホルモンを補っても骨の伸びにはつながりません。定期的な病院での検査で、大人の骨になったという結果が出ると、成長ホルモン治療は終了となります。成長ホルモン治療は長期間の治療であることに加え、毎回注射でホルモン剤を打つということは子どもにとってストレスになる可能性があります。そのため、治療の継続には周りの大人のサポートが必要不可欠になってきます。注射を打つ必要性を理解するには難しいような低年齢の子どもには眠った後に注射をしてみる、低身長への自覚・治療の理解ができる年頃の子どもには、注射が寝る前の習慣になるように声をかけてみるなど、さまざまな工夫で子どもをサポートしている親御さんもいるようです。治療を計画通りに進めることはもちろん大切ですが、子どもに無理をさせたり、ひどく不安を与えたりしないように寄り添いながら治療と向き合っていきましょう。成長ホルモン治療を考えている、または治療が決まった親御さんの中には治療による副作用が心配な方もいるかもしれません。成長ホルモン治療で使うホルモン剤は、もともと人間の体内で分泌される成長ホルモンと同じものを人工合成してつくっています。そのため副作用はほとんどないと言われています。まれに、治療を開始した初めごろに頭痛を訴えたり、骨や関節に軽い痛みを感じたりするケースもありますが、多くが一時的なものであると言われているので特に心配する必要はないと言われています。成長ホルモン治療は在宅治療が中心となりますが、定期的な検査の受診は必須です。定期的に専門家に診てもらうことで、万が一副作用かも?と思った時も的確なアドバイスを得ることができます。とびた整形外科・内科クリニック低身長の治療費用・保険適用についてご紹介!出典 : 低身長を治療していくにあたり、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。また、保険の適用によって治療費の負担が軽くなることはあるのでしょうか。身長が-2SD以下で成長ホルモン治療が認められた場合、その治療費に対して健康保険(社会保険、国民健康保険)が適用されます。そうすると自己負担分は治療費全体の3割となります。西新宿整形外科クリニック成長ホルモン治療には健康保険が適用され、自己負担は治療費の3割で済みます。ですが実際のところ、成長ホルモン治療の治療費は健康保険の助成のみではまだ高額で、支払いが厳しいと感じる人も少なくありません。成長ホルモン治療は、子どもの体重によって1ヶ月あたりのホルモン剤投与量が決まります。そのため子どもの成長に伴って治療費も高額になってきますし、長期的な治療ともなれば当然金銭的な負担も大きくなってきます。そのため、成長ホルモン治療にはいくつかの補助制度が用意されています。■高額療養費制度高額療養費制度とは、病院や薬局で、1ヶ月間に支払う医療費が一定の金額を超えた場合に、超えた分の医療費が返ってくるという制度です。成長ホルモン治療の費用は健康保険のみの助成ではまだまだ経済的負担が大きいことが多いため、高額療養費制度が適用できることがあります。自己負担限度額は、保護者の所得や生活状況、年齢によって異なります。詳しくは、治療を受けている病院やお住まいの地域の役所窓口などに問い合わせてみてください。厚生労働省保険局高額療養費制度を利用される皆さまへ■小児慢性特定疾患による医療費補助骨端線がまだ閉じていない、つまり成長ホルモン治療がまだ有効であるという条件のもと、以下の病気が原因で低身長であると認められると、小児慢性特定疾患による補助が出ます。・-2.5SD以下の成長ホルモン分泌不全低身長症・ターナー症候群・プラダー・ウィリ症候群・軟骨異栄養症・慢性腎不全病気ごとに、補助対象となる身長のSD値や成長ホルモンの分泌量の基準などが異なりますので、詳しい情報は以下のサイトをご覧ください。小児慢性特定疾病情報センター小児慢性特定疾病における成長ホルモン治療の認定について小児慢性特定疾病情報センター成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症(脳の器質的原因によるものを除く。)助成を受けるためには、身長や成長率が定められた基準を満たし、小児慢性特定疾患であるという認定を受けたうえで地域の保健所へ申請する必要があります。助成を受ける詳しい条件や詳しい手続きの方法については、専門家に直接尋ね、指導を受けることをおすすめします。牛乳を飲むと本当に背が伸びるの?寝る子は育つ?身長の伸びに関する噂のウソホント出典 : 「牛乳を飲んだら背が伸びる」「寝る子は育つ」など子どもの成長・身長の伸びに関する噂や情報を耳にしたことはありませんか?このような噂は果たして本当にあてはまるのでしょうか。牛乳には骨にとって大切な栄養源であるカルシウムが多く含まれています。このイメージが広まっているせいか、背が伸びるようにと子どもに牛乳を積極的に飲ませる親御さんは少なくないようです。ですが実際のところ、牛乳をたくさん飲んだところで背が伸びる、というわけではありません。その理由は、カルシウムのはたらきは骨を伸ばすことではなく、「骨を強くすること」だからです。骨を伸ばすために必要なのはタンパク質です。タンパク質が骨をつくり、背を伸ばす役割を果たしています。つまり、骨をつくるタンパク質と骨を強くするカルシウムをバランスよく摂取することが、身長の伸びにつながるのです。身長を伸ばすため!と思って牛乳を1日に何杯も飲んでしまうと、満腹になって食欲がなくなったり、脂肪分の多さから肥満の原因になったりすることがあります。親として、牛乳に含まれるカルシウムが、骨にどのようにはたらくかをきちんと理解したうえで、子どもには適度に牛乳を飲ませるようにしましょう。インターネットや雑誌などで、「身長が伸びる!」などとうたわれたサプリメントや民間療法などの広告を見たことはありませんか?使ってみた人の体験談や著名人のコメントなどが載っていると、「本当に身長の伸びに効果があるのかも!」と気になってしまいますよね。今の時点で、低身長の治療できちんと効果がある、と科学的・医学的に認められたものは成長ホルモン治療のみです。サプリメントや民間療法に関する体験談は利用した本人の個人的な意見に過ぎず、科学的・医学的に根拠があるという証明はまだありません。子どもの身長の伸びが不安だと、手軽に試せるようなサプリメント・民間療法はつい魅力的に思えてしまうかもしれません。「身長がぐんぐん伸びた、身長が平均に追い付いた」などの体験談があったとしても、それは個人の体験でありすべての人にあてはまるとは限らない、という考え方を忘れずにもつことが大切です。「ぶら下がり運動をすると背が伸びる」「バレーボールやバスケットボールをすると背が伸びる」など、身長と運動に関してはさまざまな噂があります。無理のない適度な運動をすることは、食欲の増進や質の良い睡眠など正しい生活習慣につながります。また、適度な運動は成長ホルモンの分泌も促されるので、結果として運動が身長の伸びに良い影響を与えるといえます。ここで注意したいのは、「ぶら下がり運動」「バレーボール・バスケットボール」などある特定の運動が背の伸びに効果があるわけではない、ということです。大切なのは、子どもにのびのびと思いっきり身体を動かす機会を与えてあげることなのです。日本には「寝る子は育つ」ということわざがありますが、これは科学的にも正しいと言われています。それは、成長ホルモンの分泌の特性に由来しています。身長を伸ばすために大切な成長ホルモンは、夜寝ている時に多く分泌されます。そのため夜にしっかり寝ることは成長ホルモンのはたらきを最大限得ることができるという意味で、身長の伸びに効果があるとされています。ですが、だからといって長く寝ればいいというわけではありません。睡眠は眠りに入った直後にもっとも深い眠りとなり、その後は浅い眠りと深い眠り(いわゆるレム睡眠とノンレム睡眠)を繰り返していきます。成長ホルモンは寝入った直後の深い眠りの時にもっとも多く分泌されると言われています。そのため、子どもがリラックスして寝つけるかどうかが重要になってきます。親は寝る時間が近くなったら照明や電子機器の利用を控える、小言や愚痴など、子どものストレスとなるようなことを就寝前に与えないようにするなど、子どもがぐっすり眠れるよう配慮してあげましょう。まとめ出典 : 低身長とは、-2SD以下の身長の伸びを記録している状態のことです。子どもの身長を成長曲線に書き起こしてみた時に、-2SDを下回る、またはここ数年身長が極端に伸び悩んでいるという場合は、一度かかりつけの小児科医などに相談してみましょう。また成長ホルモン治療を受ける場合、自宅での注射や長期間の治療などに対して不安に思う親御さんも多いと思います。そんな時、少しでも不安に思ったことは専門家に聞いてみたり、親自身が子どもの成長や身長の仕組みに関する知識を得たりすることが大切です。子どもの身長の伸びは生活環境や家庭環境に影響されることも多くあります。食事や睡眠はもちろん、子どもが安心して過ごせるような環境を整えてあげることで、低身長の改善や低身長の子どもの心のサポートを進めていきましょう。
2017年06月15日動けなくなるほどの疲労。息子の反応はというと…。出典 : 発達障害のある子どもを育てていると、親の側も知らず知らずのうちに小さな疲れが蓄積してしまうことがあります。音や味覚などに敏感なために、気を遣わなければならない部分が多かったり、学習上のサポートが毎日のように必要だったりすることも少なくありません。常にそばにいる親は、無意識のうちに生活環境や学習環境を先読みし、発達障害の子どもが不本意な癇癪などを起こさなくて良いようにアンテナを張り巡らしているふしがあります。もちろん、親の生活は発達障害の子どものケアが全てではありません。仕事をしている人もいるでしょうし、兄弟・姉妹のケア、そして地域社会での活動などにも常に心を砕いているはずです。そんな目まぐるしい日々の中で、私自信もたまに、夕方になると動けないほど疲れきってしまう日があります。子どもたちに心配をかけてはいけない…分かってはいても、少しでも休まなければ夕食を作ることもできないのです。同じ発達障害の子どもを育てるお母さんたちとみんなで話していると、同じようなことを言う人が結構多いことに気づきました。「週末は疲れきってしまって動けなくなる」「自分は何かの病気ではないかと疑ってしまうほど疲れてしまう…」そんな声をよく聞きました。動けなくなるほどの疲労に襲われながらの毎日。でも、現在小学校1年生の息子はそんな私を気にかけている様子は全くありませんでした。倒れている私の横でゲームをしているし、どんなに私が辛くとも、決まった時間になると「お腹すいた!」と揺り起こしてくる子です。息子は、私が疲れて動けなくても、気に病んだりしない子なのだな、と私はちょっと気楽に考えていました。けれども、息子は決して気にしていないわけではなかったことを、私は後で知ることになります。ある日、友達の母さんから届いた息子の本音。出典 : ある日、いつものように帰宅してからお友達の家に遊びに行った息子。そのときに、訪問先のおうちのお母さんから、突然メールが来ました。「息子が何かやらかしたかな!??」とドキドキしながらメールを開くと、そこには「ママさん、体調大丈夫ですか?」という言葉が書いてありました。なんだろう、と思ってメールを読み進めてみると、息子が「うちのママはいつもすごく疲れていて、変な病気じゃないか心配になる。もしかしたら僕のせいで疲れているのかもしれない。僕はママにいっぱい迷惑をかけているのかもしれない。」とずっと心配していたそうなのです。私はびっくりしました。そしてとてもショックでした。息子は私が疲れて横になっていることで、自分自身の存在に罪悪感を感じ、自信を失っていたのでした。思い出した、あの言葉出典 : 息子が言っていた言葉をお友達のお母さんに聞いたとき、私は自閉症作家の東田直樹さんが言っていた言葉を思い出したのです。東田直樹さんは、こう言いました。「僕たちが一番辛いのは、自分のせいで悲しんでいる人がいることです。 自分が辛いのは我慢できます。しかし、自分がいることで周りを不幸にしていることには、僕たちは耐えられないのです。」東田さんのこの言葉を聞いたときは、「私は別に息子がいるからって自分が不幸だとは思っていない」と思い、それほどこの言葉の意味について深く考えることはありませんでした。けれども息子にとって私が寝込んでいるそのことこそが、自分が誰かを不幸にしている出来事に他ならなかったのです。私の取った選択は、出典 : 発達障害の子どもを育てていると、どうしたって疲れて動けなくなるようなこともあります。であれば、どうしたら息子が見てないところで倒れる時間を確保できるかを考えたのです。そして私は、週に2回息子を放課後デイサービスに預けることにしました。最初は仕事をするために預けていましたが、今は息子の前で倒れないためにも、預けている間は横になっています。また、夕方倒れそうになったら、1時間でも早く帰ってきて欲しいと夫に連絡します。夫が帰る時間まで頑張って持ちこたえて、夫が帰ってきたら即家事育児をバトンタッチして早めに寝ます。どんなに息子に幸せになって欲しいと願ったところで、私が頑張り過ぎて倒れてばかりいたら、本末転倒。それに気付くことができた出来事でした。
2017年06月15日2020年度末には障害者の法定雇用率が2.3パーセントに出典 : 厚生労働省は、2017年5月30日、民間企業に義務付けている障害者の法定雇用率を段階的に引き上げていくことに決めました。現在の障害者法定雇用率は2.0%ですが、2018年4月には2.2%に、2021年3月末までには2.3%にまで引き上げていく計画とのことです。また国や地方自治体、独立行政法人の障害者法定雇用率は2018年4月までに2.5%、2018年4月までには2.6%に引き上げられ、各都道府県の教育委員会の障害者法定雇用率は、まずは2.4%に、その後、2.5%にまで引き上げられます。民間企業の障害者雇用率を段階的に2.3%に引き上げることを了承(平成30年4月1日から2.2%、3年を経過する日より前に2.3%)障害者の法定雇用率が引き上げられることになった背景は?Upload By 発達ナビニュースこれまでも、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、障害者雇用促進法)に基づき、障害者雇用率制度として、事業主は一定数以上の障害者を雇用しなければならないということが厚生労働省によって義務付けられていました。(対象障害者の雇用に関する事業主の責務)第三七条全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない。(一般事業主の雇用義務等)第四三条事業主(常時雇用する労働者(以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第四十六条第一項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。しかし、この法定雇用率に基づき雇用義務が課せられる障害者は、これまで身体障害者または知的障害者のみでした。精神障害者については、2006年以降は雇用義務の対象ではないものの、雇用した場合は雇用している障害者の数に入れることができる、という位置付けだったのです。障害者雇用率制度の概要しかし2013年の障害者雇用促進法改正に伴い、2018年4月からこの法定雇用率の対象となる対象障害者に、身体障害者と知的障害者に加え精神障害者も含めることとなりました。ここでの精神障害者とは、精神障害者保健福祉手帳を持っている方です。第三十七条2 この章、第八十六条第二号及び附則第三条から第六条までにおいて「対象障害者」とは、身体障害者、知的障害者又は精神障害者(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第四十五条第二項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る。第三節及び第七十九条を除き、以下同じ。)をいう。どういうことかというと、これまで労働市場にいる障害者の数は、身体障害者と知的障害者の数によって定められていたのです。上の図の分子の部分に当たります。しかしこの度、精神障害者が法定雇用率算出の対象になることによって、分子の部分の障害者とされる人の全体数が多くなります。結果、この度の障害者法定雇用率の引き上げにつながり、障害者の雇用が増えるということです。2018年4月以降、各企業において精神障害者の雇用が義務化されるわけではないですが、法定雇用率自体が引き上げられることにより、社会全体として、精神障害のある方の雇用機会も広がっていくことが期待されます。発達障害者の雇用はどうなる?出典 : 障害者雇用促進法において、発達障害は、精神障害の一部として定義付けられています。(用語の定義)第二条障害者身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいうしかし一方で、障害者雇用の対象となる「対象障害者」である精神障害者とは、精神障害者保健福祉手帳を公布されている方とされています。もちろん、手帳を取得せず、通常の雇用枠での就職を目指すことも可能ですが、発達障害のある方が障害者雇用枠での就職を目指す場合は、精神障害者保健福祉手帳の取得が必要になります。発達障害に関しては、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)において精神疾患のカテゴリーに含まれていることもあり、精神障害者保健福祉手帳の交付対象となっています。しかし、二次障害による精神症状の有無など、交付判定に細かい基準が設けられているため、詳しいことはお住まいの市区町村に相談することをおすすめします。企業は法定雇用率を満たさないとどうなるの?出典 : 現在の企業の障害者法定雇用率は2.0%ですが、この法定雇用率を達成している企業は2016年6月時点で48.8%にとどまっており、過半数の企業は法定雇用率が未達成となっています。平成28年障害者雇用状況の集計結果法定雇用率が未達成であり、常時雇用している労働者数が100人を超える企業は、障害者雇用納付金制度に基づき、法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて、1人につき月額50,000円の障害者雇用納付金を納付しなければならないこととされています。逆に、法定雇用率を達成しており、常時雇用している労働者数が100人を超える企業は、障害者雇用調整金として、法定雇用障害者数を超えて雇用している障害者数に応じて、1人につき月額27,000円が支給されます。また、常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数又は72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合は、障害者雇用報奨金として、その一定数を超えて雇用している障害者の人数に21,000円を乗じて得た額が支給されます。今後、法定雇用率の引き上げを見越して、障害者雇用をより積極的に行っていく企業も増えていくのではないかと予想されます。しかし、障害者雇用枠であろうとなかろうと、働く上での障害や困難がある方には、その方が力を発揮できるような業務上の配慮や調整ー「合理的配慮」を各企業で推進していくことが重要です。法定雇用率の変更を契機に、障害のある方も含めた多様な人々が働ける環境作りに積極的になる企業が増えていくことを願います。障害者雇用納付金制度の概要
2017年06月13日何を言っても、否定された気持ちになってしまう娘出典 : 我が家には9歳の娘と7歳の息子がいます。ともに自閉症スペクトラムと診断済みで、娘は特にアスペルガーの要素が強く出ています。ある日、ふらふらと歩く弟を見て、私が注意するよりも先に娘が怒りを爆発させました。「ちゃんと前を見て歩かないと危ないでしょ!」「いつも言ってるのにどうして分からないの!」と怒鳴りつけると同時に、娘は後ろから息子の首根っこを掴んで引っ張ったのです。体幹の弱い息子は、もう少しでなぎ倒されるところでした。私「注意してくれるのは本当に助かるし、言ってることは正しいんだけど、そのやり方だと相手には恐怖しか残らないからすごくもったいないなと思うの」娘「でも、誰かにぶつかってからじゃ遅いでしょ!ママだっていつも相手に怪我させちゃいけないから前見なさいって言ってるじゃない!!!」そうなのです。娘は弟や私のことを思うあまり、それが怒りとして表出してしまうのです。私は娘に続けます。私「うん、確かにそうなんだけどね、周りの人がビックリして振り向いちゃうぐらい、すごく怒ってたよ?」娘「わかってるわかってるわかってる!!!何度言われても怒っちゃう!私なんて最低の人間なんだ!」娘は、自分がすぐ怒ってしまうことを自覚しています。それでも、どうしても湧き上がる怒りを押さえられず、あとから自己嫌悪に陥ってしまうようなのです。私「そんなことないよ。ママだって怒っちゃうこと多いもん。あなたがすごく優しい気持ちで弟を守ろうとしてくれたことも、ちゃんとわかってるよ」娘「そうだよ!私は弟が心配だっただけなのに!誰かにぶつかったら弟だって怪我すると思って!なのにどうしてこうなっちゃうの!もうイヤだっ!」私「そうだよね、イヤだよね、苦しいよね。せっかく優しい気持ちで行動したのに、ママに注意されると全部否定された気持ちになって、すごく孤独な気持ちになっちゃうかも知れないね」娘「そう、すごく孤独になる。私なんて、いなくなればいいのにって、そう、思う……」そんな風に思わなくてもいいよって伝えても、それは難しい様子。私は、その時々の対処法だけではなく、根本的な予防法を考えることが必要だと感じました。こうして、娘が自分自身を否定せずに怒りと向き合える方法はないものか、探してみることになったのです。怒りの裏に隠された「第一感情」を、相手に素直に伝えてみよう出典 : そこでふと気がついたのですが、私も娘も、アンガーコントロール自体についての本はたくさん読みましたが、“感情”というものについてきちんと学んだことがなかったのです。発達障害を抱える子どもたちは、日々の暮らしの中で、周囲を見て自然と立ち居振る舞いを覚えたり、コミュニケーションの取り方を学んで行くのが苦手です。しかし、道筋を立ててわかりやすく教えることができれば、ものにできることは多いのです。ならば、感情についてもきちんと学び、「こういうことだったのか!」「こうすればいいんだ!」と整理して頭の中に入れてあげる方が、その都度対処法を伝えていくよりも娘にとってはわかりやすいのかもしれません。そこで、書店で感情に関するさまざまな本を見て、数ある本の中から選んだのがこちらの本です。Upload By GreenDays『マンガでよくわかる怒らない技術』嶋津 良智 著 フォレスト出版これは累計90万部を突破した『怒らない技術』『怒らない技術2』『子どもが変わる 怒らない子育て』の内容がマンガ化されたものです。食品会社の営業部で働く女性が、イライラと怒ってばかりの毎日から脱却していく様子が描かれており、間には解説も書かれています。この本を選んだのには理由があります。・「怒りの裏に隠された感情」についてのお話しが、とてもわかりやすく詳しく載っていたこと・ 大人向けの本であるため、娘が主人公を自分と重ねて自己嫌悪に陥ってしまうことがないこと・ 大人でも怒りの感情で悩んでいる人がたくさんいると知ることで、自分を否定する気持ちを薄めることこれらを考慮し、数ある書籍の中からこの本を選ぶことにしたのでした。「ママも感情についてきちんと学んだことがなかったから、あなたと一緒にお勉強してみようと思うんだけど、まずはこの本を一緒に読んでみない?」この本を手にした娘は、声を出して笑いながら読んでいたかと思うと、「この人の気持ち、すごくよくわかる」としんみりしてみたり、娘なりにいろんなことを吸収してくれたようです。以前から娘に伝えたかったこと。・「怒り」というのは第二感情であり、その元になっているのは「不安・心配・寂しさなど」の第一感情である・「怒り」を感じた時は、それを口にする前にまず第一感情を探り、心配なら心配していた気持ちを、不安なら不安な気持ちを、そのまま素直に相手に伝えるこれらが、きちんとした形で綴られていて、娘にとっては大きな学びとなったはずです。私自身も、とても勉強になる内容がたくさんあったので、手元に置いていつでも見られるようにしておくことにしました。「第一感情は何だろう?」親子で探す日々出典 : この本を読んでから、娘が怒りを爆発させてしまった時は「第一感情はなんだろう?」と声をかけることで、怒りを一時停止させて自分の心を探る時間を作れるようになりました。すると娘からは「ちょっとうらやましかったかも」「すごく心配しちゃったから」という回答が返ってきます。そこから「そういえば、第一感情を素直に伝えるといいって書いてあったね」と娘に促すことで、はにかみながら「私も一緒に遊んでほしい」「お姉ちゃん、君がケガをしたら心配だから手を繋いで歩いてね」などと言えるようになってきました。今はまだ怒りを爆発させてしまった後で第一感情を探していますが、この手順が定着すれば、いずれ怒りの言葉を口にしてしまう前に自分の本当の気持ちを探る時間が取れるようになるのではないかと思います。「伝授」するのではなく、対等に「学ぶ」出典 : 娘はもうすぐ10歳。精神年齢が幼いとはいえ、少しずつ自立心が芽生えてきているため、今後は親の言うことを素直に聞き入れるのに抵抗を感じる瞬間も増えてくると思います。親がなにかを教えるという方法では、なかなかうまく行かないことも多くなるでしょう。そこで、今回は私自身が娘に方法を伝授するのではなく、同じ本を読んで怒りについて学ぶという方法を取りました。自分自身を直接知らない第三者の話というのは、意外と素直に入ってくるものです。それはおそらく、「一般的にはこうだ」というだけで「自分自身が否定されているわけではない」という距離感を持つことができるからだと思います。また、同じ本で同じことを学ぶということは、娘と私は対等の立場。いわばクラスメイトのような関係でいられるので、「あっちの本にはこう書いてあったけど本当かな?」「今度やってみる?」とフランクな会話も成り立ちます。それゆえ、親が正しいと思っていることを押し付けられるという圧迫感も少ないのではないかと思うのです。お子さまが思春期に差し掛かり、話し合いのつもりがついケンカ腰になってしまって、上手く子どもに伝わらないとお悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、同じ教材で同時に学ぶという方法を取ってみてはいかがでしょうか?思いがけず、楽しく時間を過ごせるかも知れません。
2017年06月13日障害がある2人の子ども…お兄ちゃんになります!出典 : 小学1年生の長男と、年長の次男はそれぞれ発達障害と知的障害があります。2人の障害児がいる4人家族の我が家。春を間近にして長男の特別支援学校進学が決まった頃、我が家に大きなニュースが…私が3人目を妊娠したのです。「いつか3人目ができてもいいよね、まあ授かりものだからできなくってもいいけど。どちらでも。」そんなことをたまに話してはいたものの、「3人目」についてはなんとなく強く意識することを避けていた私。実は「欲しい!」思っていたタイミングにはなかなか授からずに残念な思いをしたので、あまり考えないようにしていたのです。しかし30代半ばに差し掛かり、もう子どもはできにくいかなと思っていたところに嬉しい嬉しい出来事でした。障害児の親同士だから言える、率直な本音出典 : 身体的に辛い妊娠初期を経てようやく安定期を迎えたある日、長男と同じ支援学校のママ友とお茶をしました。その方には先天性の遺伝子疾患があるお子さんと健常のお子さんがいます。支援学校のママ友とは変に気を遣い合うことや探り合うこともなく、話していて心から楽しいと思える関係です。そんな仲だからこそ、ママ友が私に言いました。「でも偉いよね。上に2人障害児がいたら、もう下の子産むことは考えられないかも。」…確かに!!私はそこではじめて「上の子2人が障害児で、更にもう1人って、世の中的には無謀かも」と気づいたのです。障害児2人の子育てを経て感じること世の中的には、世論的には「無謀」な気がするこの【3人目】ですが、実は私にとってはそうではなかったのです。お腹の子を妊娠してからというもの、上の子2人のときには芽生えなかった気持ちが毎日湧いてくるのです。「どんな子でも、本当にどんな子でも大丈夫だから、生まれておいで」毎日毎日そんな気持ちに溢れています。私はまだ短いながら上の2人の子育てを経て、「障害があろうと我が子は可愛くて自分の命より大切だということ」を実感し「どんな子でも任せとけ、バッチ来いや」と言う謎の自信が付いてしまったようなのです。あんまり大したことはできないし、どうせ大したものも遺せないだろうけど、愛情だけは自信がある。サポートし尽くす用意もある。元気があればなんでもできる。イジイジした性格の私でしたが、障害のある2人の子育ては、いつしか私を肝っ玉に育て上げてくれたようです。出典 : 「大丈夫よ!どんな子が生まれても3人とも育て上げる!別に健常児でもOK!私ならイケる!」とママ友にガッツポーズをする私。爆笑しながら「確かに!」と応えてくれるママ友もまた、「そういえば以前私たち夫婦もね、もう1人同じ障害の子が欲しいって言ってたな〜。」と語ってくれました。誤解を恐れず言うとすれば、障害児のおかげで親は大きく育てられ、人生も心もどんどん豊かになっていく気がしています。「世の中に生まれる障害者の人数が決まっているのなら、どうぞ遠慮なく我が家へおいで!!」肝っ玉のビッグマウスはとどまることを知りません。どんな子でも生まれておいで!優生思想の世の中において、このコラムを書くことでバッシングを受けるかもしれません。妊婦のお花畑、兄弟の身にもなれと言われるかもしれません。それでも私は「どんな子でも生まれておいで!」と大きな声で言いたいです。そして、これから出産される方にも「生まれてきた子がどんな子でも大丈夫よ。」と伝えたい。生まれる前から過剰に心配したり、生まれてから絶望の淵に立ったり…それも大切な時間だとは思うけれど、そのトンネルは必ず抜けるし仲間もお友達もできる。日本の医療は充実しているし、海外に劣るとは言われていてもちゃんと支援は受けられる。熱意を持って接してくださる専門家がいる。そして日本人はなんだかんだ結局優しい。だから障害のある子どもが生まれてくることをそんなに怖がらなくても大丈夫よ、と親となる方々へ伝えたいと日々感じるのです。出典 : ちなみに、「どんな子でも生まれておいで!」という気持ちに一片の曇りもありませんが、あわよくば鼻はパパに似て欲しいなと願っていることだけは一応お伝えして、コラムの結びとさせていただきます。
2017年06月12日オキシトシンとは?出典 : オキシトシンとは、人間の脳から出るホルモンの一つです。ホルモンとは、体の働きを調整する役割を果たすもので、血液中にある物質です。オキシトシンは、出産時においては子宮を収縮する作用があり、陣痛をうながす役目を持っています。子育てにおいては、授乳時にオキシトシンの分泌が増加し、乳腺を刺激して母乳を出すように働きます。また、赤ちゃんも抱っこされて乳首を吸う際にオキシトシンが分泌されます。母子の関わり合いの中で、ともにオキシトシンの分泌が促進されていくのです。また、オキシトシンは出産や子育てだけではなく、男女の愛情にも関わっていることが分かってきています。男女の営みの際には、子宮頸部を刺激することでオキシトシンの分泌がおきます。それにより、親密感が促進されるといわれています。また、信頼関係の構築や共同作業にも効果的であるようです。スキンシップからもオキシトシンの分泌が促進されることから、一部では「幸せホルモン」ともいわれています。妊娠出産に関わっていない女性、また男性にもこのホルモンが分泌されることが、近年の研究で明らかになってきました。オキシトシンによって対人交流や親密感が上がることは、人間に本来備わっている機能であるともいえるでしょう。参考:棟居俊夫「自閉症のオキシトシンによる臨床試験の難しさ:その背景にあること」 コミュニケーション障害学, Vol.31, No.3. p.176, 2014.参考:橋川成美「幸せホルモン? オキシトシンが母から子に与える影響」ファルマシア, Vol.50, No.9. p.913, 2014.参考:東田陽博ほか「自閉症スペクトラム障害とオキシトシン (特集 自閉症の分子基盤)」分子精神医学, Vol.14, No.2. p.77, 2014.近年、オキシトシンの研究が進むにつれ、対人交流や親密感の形成が難しい自閉スペクトラム障害のある人に対してオキシトシンを投与することで、他人の感情を読み取る、目を見る、顔を認識するなどといった、対人関係改善のきっかけとなる効果があるのではないかと考えられるようになってきました。(なお、自閉症スペクトラム障害の原因はいまだ特定されていませんが、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられています。しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないとわかっています。)オキシトシンの研究でどんなことが分かってきたの?出典 : この章では、オキシトシンは対人関係の改善のきっかけとなるのではないかとの仮説から、2005年にスイスで行われた研究をご紹介します。スイスの研究グループは、健康な20代男性58名に臨床実験を行い、オキシトシンの点鼻薬を投与した結果、「他人への信頼」の増加がみられたという研究結果を発表しました。この研究では、健康な男子大学生を対象として、「信頼ゲーム」というゲームの中で、お金をもつ投資家29名とお金を運用する立場の信託者29名に分けました。さらに、点鼻薬の形をした本物のオキシトシンと偽のオキシトシンに分けて投与しました。その結果、本物のオキシトシンを投与した人は、45%の割合において、相手への愛着感が増し、信頼・信用し、全額に近いお金を信託者に預けました。一方で、偽のオキシトシンを投与した人は、21%のみ信託者にお金を預けました。この結果を受け、オキシトシンは将来への不安や恐怖を増加させない効果があるのではないかと考えられたのです。ここで点鼻薬を用いたのは、オキシトシンを鼻から吸引すると、他者の感情の理解などの機能を担っているとされる、内側前頭前野と呼ばれる脳の部位が活性化されるからです。オキシトシンの点滴投与によって、朗読の際の情感の理解困難などの症状が改善したという報告もあります。このような研究結果から、「オキシトシンは対人関係の改善のきっかけになるのではないか」と考えられ、効果が期待される人に対して、臨床での治験に向けての研究が進められました。出典:Kosfeld M, Heinrichs M, Zak PJ et al :Oxytocin increases trust in humans, Nature 435, pp.673-676, 2005.参考:山本英典「オキシトシン点鼻薬の自閉スペクトラム症に対する臨床応用」内分泌・糖尿病・代謝内科, Vol.43, No.1. pp.73-78, 2016.参考:東田陽博ほか「自閉症スペクトラム障害とオキシトシン (特集 自閉症の分子基盤)」分子精神医学, Vol.14, No.2. p.77. 2014.参考:共同発表:自閉症の新たな治療につながる可能性~世界初オキシトシン点鼻剤による対人コミュニケーション障害の改善を実証~参考:東田陽博・棟居俊夫「オキシトシンと発達障害」脳21, Vol.13, No.2. pp.100-101. 2010.参考:山本英典「オキシトシン点鼻薬の自閉スペクトラム症に対する臨床応用」内分泌・糖尿病・代謝内科, Vol.43, No.1. pp.73-78. 2016.オキシトシンと自閉症スペクトラムに関する研究動向出典 : オキシトシンが対人関係改善のきっかけになりうるという報告を受け、多くの研究者が自閉症スペクトラムに関する議論を交わすようになりました。自閉症スペクトラムは社会性やコミュニケーションの障害が特徴であるため、オキシトシンが自閉症スペクトラムに効果的なのでは?と考え始めたのです。そして、これらの議論が盛んになるにつれ、自閉症スペクトラムに対するオキシトシンの効果についての研究も数多くなされるようになりました。例えば、目もとから感情を推し量る能力の改善や、協調性のある行動が促進されたという報告です。また東京大学医学部の研究チームが、18歳から55歳の男性自閉症スペクトラム者18名のうち、9名にオキシトシンを6週間投与したところ、一部の投与しなかった対象者に比べ少しばかり自閉症スペクトラムの特性ゆえの社会性、行動発達、常同行動が改善しているとの研究結果が出ました。一方で、オーストラリアのシドニー大学の研究チームが、12歳から18歳の自閉症スペクトラム男児50名のうち、26名にオキシトシンを8週間投与しました。こちらの研究では、オキシトシンの投与を受けていない24名の対象者と比べても、自閉症スペクトラムにおける社会性、行動発達、常同行動のいずれにおいても改善されたという結果は出ませんでした。このように、現段階では研究チームによって、また実験方法、対象人数、評価などによってばらつきがあり、効果についての明確な立証には未だたどり着けていません。またオキシトシンが鼻からどのような経路で脳内に入るのか、判明していません。さらには、適切な投与量や投与期間も分かっていません。オキシトシンの効果は個人の性質によっても異なることや、時には逆の作用をすることもあります。また、オキシトシン投与時の経過観察における、研究者(定型発達者)と自閉症スペクトラムのある当事者の関係性にも着目する必要があるでしょう。オキシトシンを投与された当事者にどのような効果が出るのかを判断するのは、その研究者自身です。つまり、「当事者である自閉症スペクトラムのある人が、観察者である定型発達者に視線をよく向けるようになった」ということを研究成果としてよいのかという疑問も残っています。同時に、これらの研究は、実生活とはかけ離れた環境で行われた実験であり、実際の治療においての結果ではないことを理解しておかなければなりません。出典:Guastella et al. “The effects of a course of intranasal oxytocin on social behaviors in youth diangnosed with autism spectrum disorders: a randomized controlled trial” J Child Psychol Psychiatry. Vol.56, No.4. pp.444-452. 2015.出典:Watanabe et al. “Clinical and neural effects of six-week administration of oxytocin on core symptoms of autism” Brain, Vol.138, No.11. pp.3400-3412. 2015.参考:山本英典「オキシトシン点鼻薬の自閉スペクトラム症に対する臨床応用」内分泌・糖尿病・代謝内科, Vol.43, No.1. pp.73-78, 2016.参考:棟居 俊夫「自閉症とオキシトシン (特集 自閉症研究の最前線)」精神科, Vol.27, No.4, pp.282-286, 2015.参考:東田陽博ほか「自閉症スペクトラム障害とオキシトシン (特集 自閉症の分子基盤)」分子精神医学, Vol.14, No.2. p.77. 2014.参考:棟居俊夫「自閉症のオキシトシンによる臨床試験の難しさ:その背景にあること」 コミュニケーション障害学, Vol.31, No.3. p.176, 2014.最新研究にみる自閉症スペクトラムの新薬としての期待出典 : いままで世界中の研究チームによって、自閉症スペクトラム児・者へのオキシトシン点鼻薬の投与を通した研究が行われてきましたが、いずれも社会性やコミュニケーションの障害という自閉症スペクトラムの代表的な症状に有効であるということをデータで実証することはできていませんでした。しかし、2015年に東京大学医学部付属病院の研究チームが行った、男性自閉症スペクトラム者18名へのオキシトシン投与では、一部の協力者において社会性やコミュニケーションの障害への顕著な改善が見られました。さらにはその改善が脳機能の改善にも関連しているということを世界で初めて報告し、オキシトシン点鼻薬の臨床試験を進める根拠になりうると言及しました。このように、一部の人には効果があることが分かり、新薬の実用化に向けた臨床試験が進められています。過剰な期待は禁物ですが、この研究成果が実現すれば、自閉症の症状に対する治療法の一つになる可能性があるのではないでしょうか。出典:オキシトシン経鼻剤連日投与による自閉スペクトラム症中核症状の改善を世界で初めて実証|東京大学医学部附属病院オキシトシンの副作用出典 : オキシトシン点鼻薬の場合、薬成分の血中濃度が半減する時間が10分未満で、すぐに体内から排泄されます。そのため、ほかの薬剤との併用による副作用がほとんどないと言われています。出典:Study Protocol. ECSSIT – Elective Caesarean Section Syntocinon® Infusion Trial. A multi-centre randomised controlled trial of oxytocin (Syntocinon®) 5 IU bolus and placebo infusion versus oxytocin 5 IU bolus and 40 IU infusion for the control of blood loss at elective caesarean section | BMC Pregnancy and Childbirth |参考:中村秀文「薬物動態と薬力学」日臨麻会誌, Vol.29, No.7. pp.789-796. 2009.しかしながら、まれに、錯乱、けいれん、呼吸困難、めまいなどの副作用があります。また妊娠中であったり、高血圧、心臓疾患、腎臓病、甲状腺異常、精神不安症、鬱病、喘息、またはこれらに疑いがあったりする場合は使用ができません。注射液・点滴においても多くの副作用があります。例えば、過強陣痛(子宮の収縮が非常に強く、長く続く)、血圧低下、蕁麻疹(じんましん)といったものです。2016年には、アナフィラキシーショック(血圧が低下して意識がもうろうとし、脱力するようなショック状態)が副作用として追加されています。参考:Syntocinon Side Effects in Detail|Drugs.com参考:オキシトシンの「使用上の注意」の改訂について | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構自閉症スペクトラムのある人にオキシトシンを投与した場合の副作用は、まだ詳しく分かっていません。ですが、オキシトシンの投与によって接近行動を起こす効果がある場合、人によっては接近行動が起こることで、かえって新たな問題につながる可能性もありうると指摘をする臨床医もいます。オキシトシンの入手について出典 : 現在、ヨーロッパでは授乳促進の目的で成人にオキシトシン点鼻薬の販売が認可されていますが、日本国内では認可されておらず、もちろん自閉症の治療薬として購入することはできません。個人輸入で入手した医薬品で健康被害が起こった場合、自己責任となります。輸入代行業者なども存在してはいますが、自己判断で購入したり使用したりすることは控え、まずは主治医とよく相談しましょう。参考:オキシトシン経鼻剤連日投与による自閉スペクトラム症中核症状の改善を世界で初めて実証~新しい治療法の確立をめざして~参考:医薬品等の個人輸入について|厚生労働省まとめ出典 : ここまでオキシトシンの効果や研究動向について紹介してきました。現時点ではオキシトシン点鼻薬はヨーロッパで授乳促進の薬として販売されているに留められているため、日本国内において自閉症スペクトラムの薬としては認可されていません。現在は研究段階ですので、臨床実験がすすみ、さらに実際に治療に導入されるようになるにはもう少し時間がかかるとみられます。仮にオキシトシンが認可されたとしても、全ての人に効果があるとは限らないことも理解しなければなりません。また、たとえ適用となった場合でも、薬のみに頼るのではなく、その後の環境調整も大切となります。特性に合った働きかけ、相互交流をすることで、長期的に好ましい影響が出るのではないでしょうか。
2017年06月09日子どものころから家事が大嫌いだった私出典 : 私の母親は「娘に家事を仕込まなくては」と使命感があったようで、「お母さんと一緒に台所に立って料理を覚えなさい」と口を酸っぱくして言われました。母は料理が上手で、とても手際よくおいしい料理を品数多く作ってくれました。だけど、いざ手伝おうとしてもその手順を見ているだけで目が回るような気がして、何をすればいいのかわからず呆然と立ち尽くすありさま。母には呆れられ、それ以来「絶対に嫌!」と二度と台所には立ちませんでした(皿洗いはできたんですけどね)。大学に行って一人暮らししてからは、餃子や肉を焼くだけ。あとは味噌汁とカレーライスくらいでしょうか。それさえも作っていることを忘れ、鍋を真っ黒に焦がしてしまったこともありました。部屋の床はろくに見えず、もはや汚部屋と呼べるレベル。実家に戻ってからは無理やり初心者向けの料理教室に行かされましたが、なぜかいいところは他の人に全部取られてしまって私は米洗い係。あほらしくなって1回で行かなくなってしまいました。結婚してからは、「これからはちゃんとした料理を作らなきゃ」と意気込んで、料理本を積み上げて3時間以上かけてご飯を作っていました。ただの家庭料理ですよ?別に特別なごちそうを作ろうとしていたわけではありません。掃除も嫌いで、「掃除しなくちゃ」と思うだけでうんざり。「私って家事嫌いのズボラ人間なんだな」こんな日々の中で、私の自己肯定感は地に落ちていました。「頑張らなくちゃ」と自分を追いつめる日々出典 : その後、31歳で子どもが生まれ、「ちゃんとやらなきゃ、頑張らなくちゃ」と、私はどんどん追い詰められてゆきました。「できないのはだらしない性格で今まで怠けていたからだ」と自分を責める日々。持てる力の200%を発揮して必死で料理を作り、部屋も掃除していましたが、それでもなかなか自分の育った家庭のような状態にはなりません。せめて母がしてくれたことくらいは、子どもにもしてあげたいのに。いくら頑張ってもどうしてうまくいかないのかわからず、無理して家事をこなすと心身ともにどんどん疲れがたまっていき、次第に鬱状態になってしまいました。昔から家事をすると疲れの余り機嫌が悪くなる傾向があった私。掃除しているとき、小学生にもならない娘に「邪魔だから出て行け」と言ってしまったり、料理をしながら「どうしてこんな思いをしなきゃいけないんだろう」と声に出して言うようになってきてしまいました。娘は泣くし、私も泣きたいし、もう消えてしまいたいほど苦しかったです。発達障害専門医にかかってから苦手の正体がわかってきた!出典 : それから、46歳で発達障害の専門医にかかり、アスペルガー症候群に加えてADHDの診断が下りました。先生に掃除と料理が苦手なことを話すとこういわれました。先生「掃除は段取りを組む必要があって、それは発達障害の人は苦手なんです」私「ルーチン化してできるだけ迷わないようにしたのですが」先生「そうすると、掃除を遂行するのに過集中を起こして疲れてしまうんですよ」まさにその通りで、掃除が嫌いなのにアスペルガーのこだわりゆえに隅々まできれいにしようとして疲れて泣きそうになったり、逆に怒りが湧いてきて子どもに当たり散らしていました。私「先生、私料理が大嫌いなんです」先生「料理はマルチタスクが必要な上、段取りよく進める必要があります。手早くすることも必要になりますね。(検査結果を見て)あなたの苦手なことばかりですから、苦手なのはしょうがないのです」そういえば、2品同時に作ろうとしたら片方は失敗する、何度作ってもレシピが頭に入らない、レシピを何度も見直さなければ手順を忘れるということがありました。ちなみに同じアスペルガー症候群の娘も、レシピと首っ引きでないと料理を作ることができません。やはり同じ特性があるのだなと納得しました。こうして解説してもらうと、自分の力ではどうしようもないことで苦しんでいたことが分かり、「苦手なものはどうしようもないんだ」と心が軽くなりました。障害福祉サービスを利用してヘルパーさんに来てもらうことに出典 : 市の相談支援事業所で相談したところ、生活の自立能力が低いということでヘルパーさんが派遣されることになりました。最初の月2回からだんだん増やして、今月からは週2回の計4時間になります。私の場合は、料理を主にお願いすることにしました。材料は適当に野菜や肉を買っておきます。それが難しければ買い物に同行してもらうことも可能です。ヘルパーさんが来たら、一緒に冷蔵庫を見ながら「今日は小松菜はベーコンいためにして肉は唐揚にしよっか」という風にヘルパーさんに案を出してもらい作ってもらうものを決めていきます。そのときに古くなった調味料やダメになってしまった肉や野菜など、冷蔵庫の腐海を整理してもらうこともあります。あとはおしゃべりしながらヘルパーさんがメインで料理を作っていきます。毎週決まった日に4~5品の作り置き料理を作ってもらうことで、「あと3日間は何もしなくてもごはんがある」と思うことができるようになり、ものすごく心が軽くなりました。それまで、疲れたときはお惣菜を買ったり、冷凍食品に頼っていましたが、コンスタントに手作りの料理が食べられるようになり、罪悪感が減って心が明るくなってきました。娘は味覚が敏感なので、「ママが作った料理が食べたい」と言うこともあります。これだけ料理の負担が減ると、ストックがなくなった日にリクエストされた料理を作る余裕もできてきました。それにヘルパーさんが作る料理にもだいぶ慣れてきたようです。今では、料理が出来上がったらすぐ味見に来るほどになりました。また、うちの場合は、ヘルパーさんが来てる間に見守ってもらいながら掃除をすることにしました。そうすると過集中を起こすことを避け、掃除をすることができることに気づいたのです。ヘルパーさんが来ることで、家の中に吹き込んだ新しい風出典 : うちは母子家庭かつ娘が引きこもりという特殊な環境であるため、家のなかは閉じられた空間でした。だけどヘルパーさんという新しい風が入ってきたことで、私も人としゃべる機会が増えて元気が出てきましたし、娘に家事のことで当たることもほとんどなくなってきました。ヘルパーさんに聞くと、だんだん発達障害の利用者さんが増えているそうです。苦手なことは人に手伝ってもらうことで、日常の困難を軽減し、より充実した時間を過ごせるようになるといいですね。困難なことを助けてもらう。それは甘えではありませんから。
2017年06月09日幼稚園に貼り出された絵を見てビックリ!出典 : まだ娘に発達障害があることなど微塵も考えていなかった頃のことです。幼稚園に入園して間もなく、園児たちの絵が壁一面に貼り出されました。愛らしい子供たちの絵を楽しく眺めながら、わが子の絵はどこかしら?とわくわく探していた私の目に飛び込んできたのは、なにやら乱暴にぐちゃりと描かれた落書きのような作品でした。まさかと思いつつ名前を確認すると、それはやはりわが子の作品だったのです。家でもあまりお絵描きをすることはなかったので、幼稚園で経験を重ねれば、そのうち自由に描きたいものが描けるようになるかな?無理に描かせる必要はないかな?と思っていたのですが、半年経っても娘の絵は変わらぬままでした。そのうち、担任の先生から「描くこと自体を嫌がっているのか、白紙のまま座っている時間が長いです」「家でも少し練習してください」と言われるようになりました。できれば絵を描くことを嫌いにならないで欲しい。いつか楽しく自分が思い描くものを描けるようになって欲しい。そんな私の願いから、娘と私のお絵描きへの取り組みが始まったのです。「嫌いじゃないけど、描けないの」娘の手を止めてしまう理由は一体…?出典 : 白紙のままだと、どのスペースに描けばいいのかわからなくて描けない子もいるから、四角く枠をつけてあげるといいよ!お友達からそんな風に聞いて、早速白い紙に外枠をつけて一緒にお絵描きをしてみました。おかげで白紙を前にしたまま固まることはなくなりましたが、少し描くとすぐに「私はもういいから、ママが描いて〜」とクレヨンを放り投げてしまうのです。「お絵描きが嫌いなの?」と聞いてみると、「嫌いじゃないけど、描けないの」という返事が返ってきます。この娘の言葉を聞いて私は「嫌いじゃないのになぜ描けないの?」と疑問に思うばかりでした。市販のお絵描きドリルを試す嫌いではないのなら、と市販の子供向けのお絵かきドリルを何冊か買ってみました。ていねいに描く順番も載せてくれているので取り組みやすいと思ったのですが、結果はすべて撃沈。始めの2、3ページだけ取り組んだドリルが山のように残りました。あれこれ検討して次に試したのが「空想画」を描く通信教育でした。簡単なストーリーに沿って、小さな画用紙いっぱいに自分が作った世界・キャラクター・模様などを描いていくというものです。これは今までのどの方法よりも娘に合っていたようで、始めは「本当に自分が考えたものだけ描けばいいの?」と躊躇していた娘が、次第に画用紙を埋められるようになりました。少しずつ描く楽しみを知った娘ですが、幼稚園では相変わらず筆が進まず、担任の先生と一緒に頭を悩ませていました。大人向けの本で大変化!娘が本当に書きたかった絵とは出典 : そうこうしている間に空想画も幼稚園も卒業した娘は、小学2年生になっていました。相変わらず、学校のお絵描きの時間は苦痛なようで、教室に貼り出された絵をいくら褒めても「どうせ私の絵は下手だから」とそっぽを向くばかりでした。ところがある日、なにか習い事をしてみない?と声を掛けると思いがけず「お絵描きを教えてくれるところに行きたい」と言い出したのです。驚く私に向かって「遠近法とか物の描き方をちゃんと教えてくれる先生のところに行きたい」と娘は続けました。その時になってようやく、幼かった娘が言った「嫌いじゃないけど、描けないの」という言葉の意図を理解することができました。娘は幼稚園の先生や私が想像していたような、いわゆる“子供らしい絵”が描きたかったのではなく、猫なら猫、犬なら犬、家なら家、それぞれをそのままの姿で画用紙に写し出すことを望んでいたのです。いくら子供向けのドリルに取り組んでも興味を示さなかったのは、それが娘の描きたい絵ではなかったから。あとから娘に聞いてみると、描きたいと頭に思い描いていたものを表現するにはまったく技術が足りず、いくら描いても思い通りにならなくて嫌になっていたのだそうです。そこで、お絵かき教室に通う前に一冊の本を手渡してみました。それは大人向けの『図解・いきなり絵がうまくなる本』という新書本でした。遠近法を学びたいと言っていた娘の希望通り、どう描けば立体的に見え、リアルな絵になるのかという説明が丁寧に解説されている内容でした。この本のおかげで、娘は机を描き、机の上に乗っているパソコンや文房具を描き、やっと満足そうに微笑んだのです。Upload By GreenDays図解・いきなり絵がうまくなる本 (メディアファクトリー新書)好きなことが増えると人生が豊かになる!それ以来、娘は絵を描くことをいとわなくなったどころか、進んでお絵描きを楽しむようになりました。私も本屋さんで子供向けのお絵描きコーナーをのぞくのをやめ、大人向けの塗り絵やなぞり絵の本を娘にプレゼントすることにしています。なかでも『なぞり猫』などは、リアルな絵を描きたいと望む娘にピッタリの教材でした。また、子供向けの塗り絵には興味を抱かなかった娘ですが、大人の塗り絵を渡すと何時間も集中して塗り続けています。Upload By GreenDays描いて楽しい なぞり猫 (成美堂出版)発達障害のある子どもたちは、娘のようにさまざまなこだわりを持っています。その理由も多岐にわたっているので、何が嫌なのか、どうして受け入れてくれないのかわからないまま、トライすることをあきらめている保護者の方も多いと思います。私も娘の絵に関しては、描く楽しみを知って欲しいというのは親のエゴかも知れないと、半ばあきらめていました。しかし、小学4年生になった娘が毎日絵を描いたり、嬉しそうにお絵描き教室に通っている姿を見ると、「見たままの絵が描きたい」という娘のこだわりポイントを理解することができて本当に良かったと思えます。子供たちは年齢が上がるとともに、少しずつ自分の気持ちを表現できる方法を学んでいっています。親も子もリラックスした状態の時に、「どうしてあれが嫌だったのか教えてほしいな」「もっとあなたの考えてることを知りたいな」と話し合ってみるのも良いかも知れません。思わぬところでこだわりを理解するポイントが見つかって、好きだと思えることが増えるかもしれませんよ。なかなか周囲の理解が得られず、さまざまな刺激と戦いながら毎日がんばっている子供たち。楽しんでできることが一つ増えれば、そこから少しずつ世界は広がって行くかもしれません。子どもたちが豊かな人生を送るために私たちにできることは、“好き”を一緒に発見していくことかも知れませんね。
2017年06月06日家の中でも大暴走!超多動な長男出典 : <span><a class="linkclass" href="">支援学級に通いながら学校で頑張っている長男。しかし頑張りすぎているせいか、家では暴走して毎日大変です。家中を走り回るだけでなく家具に登ってジャンプして、モノを投げて弟を叩きと、まるで嵐のようです。そしてさらに頭が痛いのは、そんな長男に冷静に対処できないキレやすい夫。長男が家の中で暴走→弟も被害に合う→夫が長男を怒鳴ってしかり、長男が泣く→そんな夫のやり方に妻キレる。といった負のループが続いていました。エネルギーを発散させるためにはパンチが必要?出典 : <span><a class="linkclass" href="">このままじゃいけない!とスクールカウンセラーの方に相談したところ、長男を学校で観察した上で次のようなアドバイスを頂きました。「お子さんはボールを投げるなど“手を思い切り振りぬく動作”で、エネルギーを発散しているようですね。家で安全に投げたり叩いたりできるものがあればよいと思います」確かに晴れた日や昼間、長男はいつも公園でボール投げをしています。とはいえ家でできることってなんだろう?と悩みました。押入にあった!夫と息子がニコニコになれた魔法のグッズそこでふと思い出したのが押入にあったこれ。Upload By はるなあきこボクシングの家庭用のトレーニンググッズ。パンチを受けるパンチングミットです。夫が昔ネットで衝動買いして、そのまま押入に放置してあったものです。早速夫に渡して、「長男とパンチの練習をやってみてよ」とお願いしました。夫がミットを両手にはめて長男に「パンチの練習するか?」と聞いたところ大喜び。がむしゃらに殴ってくる長男がかわいいのか、夫もニコニコで延々と練習していました。長男にとって、1.腕を振りぬく動きができる2.むちゃくちゃ叩いても誰にも怒られないというのがよかったようです。そしてさらに重要な3つ目のメリット、それはいつも叱ってばかりで自己嫌悪に陥っている夫と叱られてばかりの長男にとって、3.息子はお父さんに構われている、父は息子に好かれているという実感が得られることパンチングミットはこの3つのメリットが揃った魔法のグッズだったのです。発達障害の子育ては家族全員が大変です。しかし色々と工夫することで、笑顔が生まれる瞬間があることをこのエピソードで発見しました。これからの発達ファミリーが笑顔になれるモノやコトを追求していきたいと思います。
2017年06月05日きっかけは「異才発掘プロジェクトROCKET」中邑賢龍先生のお話出典 : きっかけは、息子と参加した「異才発掘プロジェクトROCKET」のセミナーでの中邑賢龍先生のお話でした。「おこづかい制なんてものはやめた方がいい、何も働いていないのにお金なんか渡すからダメになる」というような内容。それまで、小学生は100円ずつアップで5年生なら500円、中学生からは1,000円ずつアップで2年生なら2,000円という父親が決めた定額制のおこづかいだった我が家。5月1日になり、いつものように父親がおこづかいを渡したところで、息子が中邑先生のお話を持ち出しました。「そのやり方ダメだってよ」と、息子が話を始めたので、私も「お手伝いした分あげることにしよっか」と提案。娘もそれでいいと言い、父親もそれならと、我が家のおこづかい定額制は廃止で可決しました。我が家の新しいおこづかい制度出典 : これまで毎月500円もらっていた娘と、5,000円もらっていた息子。1回のお手伝いでいくらのおこづかいを渡すかが争点となりました。1回10円だと娘は1日に2回手伝いをすれば1か月に500円を超えるけれど、息子は1ヶ月に500回もおてつだいをしなければ今までのようにはおこづかいをもらえない。「オレは別にお金いらないからいいよ」と息子が言うものの、1回10円はさずかに安すぎるだろうという話になりました。「1回50円にする?」と私が投げかけると「高すぎない?」と夫。「でも、お兄ちゃんは100回手伝わないと今までのようにはもらえないよ…」そこで、とりあえずおてつだい1回で1ポイントのポイント制にして、1ポイント=50円で良いかは今後の状況によって変更も有りにしようということで新制度はスタートとなりました。我が家だけの通貨単位出典 : そして、ポイント制の発足だけでは終わらないのが我が家。「ポイント」というのが面白くないということで、新しい単位を決めようという流れに…様々な案が出ましたが、我が家はみんなイニシャルがSNなので1SN(スン)という通貨にすることにしました。「お手伝い1回1SNね」「えー、何でも1回1SN?」「簡単なのはイージーとかすればいいじゃん」また、学校になかなか行けない息子と、やはり時々何かしらで休んでしまう娘。「学校に行きたくない時に行ったら?」考えた結果、学校に行くことにもSNを与えることにしました。様々な意見?質問?が飛び交って、決まったことを整理すると下のように。・お手伝い(ハード)3SN・〃(ノーマル)2SN・〃(イージー)1SN・学校に行きたくないけど自力で行く3SN・〃送ってもらう2SN・〃遅れて行く1SN「デノミが起こるかもしれないよ」と、夫からデノミについての説明もありつつ、こうして我が家の小さな経済活動がスタートしたのです。デノミネーション(英: denomination)とは、通貨の単位を表す言葉である。日本語においては、それを切り下げる、もしくは切り上げることとして使われることもある。国内の全ての資産と負債に対して行われる。インフレーションなどにより、通貨金額の桁数表示が大きくなると経済活動に支障をきたすので、その解決のために行われる。デノミと省略されることが多い。息子と娘、新制度になってどうなった?Upload By SONO娘は元々お金が好きで、物欲は低いものの好きなものをたまに買うためにおこづかいを貯めていました。いつものようにお手伝いをしては、「今の何SN?」と表に書き込んでいました。息子の方は、欲しいものもめったになく、お金も要らないと言っていたので、やはり消極的。手伝いを頼んだタイミングが良ければ手伝ってくれるものの、記録もうっかり忘れたりする始末。「後でやるわ」と言ってお菓子を食べながらゴロゴロする姿を見て、わたしは新たなシステムを追加することにしました。働かざるもの食うべからず?息子に効果てきめんだった追加の制度出典 : 新たなシステム、それは家で食べるおやつもSNで購入する制度です。現在1SN=50円なので、100円のお菓子が2SNで買えることになります。小袋のお菓子などは50円分ずつに袋分けをして「1SN」と書いたシールを張りました。また、娘が面倒だと言うので、ホワイトボードに表を作り、マグネットで1SN、2SN、5SN、10SNなど貼れるようにしました。この新たなシステムは、息子にはピッタリだったようで、SNを得てお菓子を買うために自発的に動くようになりました。「わー、すごい。言われなくても手伝うなんて、楽チンやわ。自発ポイント1SN追加するわ。」思わず言った追加ポイントに、お菓子とSNを交換しながら追加SNの分を嬉しそうにホワイトボードに貼る息子。娘のSNが増えすぎておこづかいが高すぎになるのではと夫は心配していましたが、現金に換金できるSNは定額制の時とあまり変わらなそうです。息子は現金収入はなくなりそうですが、それはそれで本人も求めていないので今のところはいいでしょう。家庭内通貨の導入で良かったこと出典 : 私としては、買っても買ってもすぐになくなっていたお菓子もあまり減らなくなり、お手伝いは気持ちよくしてもらえて、何だかとても満足です。息子はやはり学校に行けず、娘も行きたくない時は行かないのですが、息子の笑顔は増えた気がします。労働の対価を得ること、得たもので欲しいものを手に入れることというのは、人間にとって大切な活動なのだと感じました。お金について学ぶ機会にもなり、手伝うことが増えて経験にもなっているので、この仕組みはできるだけ長く続けていけたらと思います。
2017年06月04日小学生のころは忘れ物常習犯だった私が、息子の支援をするのは大変で…出典 : 私は小学生だった頃、忘れ物と宿題忘れの常習犯でした。どこかにメモを取れば良いのに、取ってこない…。メモを取ったとしても、どこに書いてあるのか分からない…。挙句の果ては連絡帳を毎日のように学校に忘れてくる…。そして家に帰ると、宿題のことなど綺麗さっぱり頭から消えているのです。翌日の授業中、先生の嫌味と怒号を聞いて「またやってしまった…明日こそは」と決意します。しかし、またその翌日には、宿題やその他の持ち物のことは綺麗さっぱり忘れてしまっているのでした。そんな私も今では母になり、発達障害の診断を受けた6歳の息子がいます。小学校時代には先生から「忘れ物大賞」をもらって泣いて帰った私が、息子の小学校の持ち物の管理をしなければならないなんて、どういうことになるかは火を見るよりも明らか…という感じでしょう。小学校からの連絡袋の中には、毎日大量のお手紙が投入されています。息子はもちろん、何がなんだか良く分かっていません。その情報を読んだだけでも、私の頭は大混乱になります。「○日までに△を持っていって」「×日までに○と△を持っていって」「宿題はこれとこれで…」と何度も何度も復唱しながら、家の中をウロウロするありさまの私。息子を登校させた後も、「今日は忘れ物ないだろうか」「あれを忘れたかも」と気になってしまい、気がそぞろになってしまいます。発達障害児の小学校生活の支援は、同じ特性を持つ私にとって、苦難の連続だったのです。気が気じゃない私をさらに追い詰めた「連絡帳」の内容とは…出典 : こんな状態で疲弊しきっていた私をさらに追い詰めたのは、連絡帳でした。息子の連絡帳には毎日、忘れ物や持ち物のミスについて必ず記載がされていました。息子が小学校でどんな風に過ごしているかのような情報は一切なく、ただひとこと、「○○を忘れていました」「××のサイズが違います」「◇◇の切り方が違いました」というような言葉だけ。これを読むたびに、私は小学校の頃に先生に叱られて、下を向いているときの気持ちが蘇ってきてしまいました。そのうちに、私は息子の連絡帳を開くのも怖くなってきてしまったのです。「また先生に叱られちゃう…」「どんなに気を付けても、いつも何か書かれている」「私はやっぱりダメな人間だ~」私の心は小学生の頃に逆戻りです。さらに、「私がこんなミスばっかりしているから、息子があんななんだって思われているかもしれない」とあらぬ方向に思考がいってしまいました。毎日連絡帳を見てはガックリとうなだれながら、自分の子を通して、自分の過去を思い出してしまう辛さに苛まれました。連絡帳に落ち込んでいた私。でも励ましてくれたのも、また連絡帳だった!出典 : 息子の連絡帳を見るたびに、過去の自分も今の自分も責められているような気がして落ち込んでいた私。しかし、私は途中で大きな励ましを得ることができたのです。それは、息子の支援級通級が始まったことがきっかけでした。支援級通級が始まると、もう一冊、支援級用の連絡帳を準備するのです。支援級は少人数なので、先生は息子の生活や学習について毎日びっしりとコメントを書いてくださっています。そして、支援級の連絡帳には、「息子くんは今日はこんなことを頑張りました」「この問題は自分で頑張って解きました」「毎日楽しそうに学校に通っています」というような、息子を褒める言葉がたくさんたくさん書かれています。息子の支援級の先生は、「通常級で頑張ってきてるんだから、支援級ではとにかく褒めるんです」とおっしゃってくださる方です。それが連絡帳のコメントにもよく表れています。私は支援級の連絡帳を読んでいるうちに、なんだか「お母さんも頑張ってますね」「息子くんは大丈夫ですから、お母さんも肩の力を抜いて」と言われているような気がして、大きな救いと癒しになりました。通常級の連絡帳を見るたびに自分を責めていた私ですが、支援級の連絡帳を読んで気持ちを取り直すことができるようになったのです。「支援」は親の心をも支えてくれる出典 : そして私は気づきました。「支援」とは、子どもだけではなく、ときに親の自信まで回復させる役割もはたしてくれるのだと。発達障害の子どもを育てていると、実は親も自信を失いがちになります。思うようにいかない育児に振り回され、周囲からの視線を気にしているうちに、どうしても「自分はダメな親だ」と自分を責めるようになります。私のように、子どもと同じ特性がある場合は困難はさらに倍々になります。自分の管理ができないのに、子どもの管理まですることは、そうたやすいことではありません。「支援」とは、「こんな風にお手伝いしたら、こんなことができるようになりましたよ!」というものでもあると思います。自分の子どもが「できましたよ」「頑張りましたね」と言われることで、日ごろ自信を失いがちな親も、活力を得ることができるのです。支援級の「連絡帳」の記録、それは親へのエールでもある。そう捉えると、困難が多い毎日を進んでゆくための新たな活力源が生まれたように感じることができました。
2017年06月01日場面緘黙って?出典 : 緘黙(かんもく)とは、発声器官には問題がなく、言語能力があると認められているにもかかわらず、特定の場面などでしゃべることができなくなってしまうことをいいます。2014年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計のマニュアル』第5版) において、場面緘黙症は不安障害の一種とされています。場面緘黙は、本人が自分の意思で話す場所を選んでいるのではありません。一定の状況におかれると、どうしても話すことができないのです。(同義で「選択性緘黙」という呼称もありますが、この記事では場面緘黙と表記します。)『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計のマニュアル』第5版)場面緘黙の特徴とよくある誤解出典 : 場面緘黙は、子どもが、学校や公共の場所などの特定の場面で話せなくなることです。家庭では問題なく流暢にことばを話せている子どもについて学校の先生から「お子さんは学校で話しません」と聞かされ、その症状をはじめて認識し、びっくりする保護者も多くいます。場面緘黙がある子どもはわざと「話さない」わけではありません。周りにはそのように誤解されやすいのですが、緘黙児は不安や緊張があるため「話せない」のです。これは症状を理解するために、とても重要なポイントになります。また「時間が経過すれば自然と治る」と思われがちですが大人になっても緘黙が続いたり、また大人になってから発症することもあります。「大人の場面緘黙」に関しては、社会的な認知度は子どもの場面緘黙よりさらに低く、あまり知られていません。大人が発症する場合、既往歴をみると子ども時代にまで遡れる場合がほとんどですが、子どもの頃の緘黙に関して、はっきりとした自覚症状がない大人の当事者もいます。参考:かんもくネット参考:かんもくネット (著)『場面緘黙Q&A―幼稚園や学校でおしゃべりできない子どもたち』学苑社 (2008)場面緘黙はなぜ起こるの?原因は?Upload By 発達障害のキホン場面緘黙は単一の原因で生じる状態ではありません。影響している要因は人によってさまざまで、いくつかが複雑に絡み合って生じます。はっきりとしたメカニズムはわかっていませんが、さまざまな仮説に基づいて検証が行われています。場面緘黙が生じやすい要因としては主に以下の項目が挙げられます。◇行動抑制的な気質(生物学的な要因)一般的に繊細で感じやすく、何かに慣れるのに時間がかかったり、人見知りが激しい気質を持った子どもがいたりします(赤ちゃんの時に、そのような性質があった子どもを含む)。このような繊細な子どもは、集団行動や対人関係において「他人に対して慎重な態度をとる」「目立つことを嫌う」「新しい状況になじむのに時間がかかる」という傾向が挙げられます。繊細さはどこから生まれるのでしょうか?その多くは先天的な脳のはたらきに起因していると言われています。行動抑制的な気質が起こる原因には、危険に反応する脳である「扁桃体」が大きく関係しているのではないかという研究仮説があります。場面緘黙がある子どもは、脳の扁桃体の反応する閾値(反応を引き起こすのに必要な刺激や入力の最小限の値)が低く、刺激に対して過敏に反応してしまうのです。この気質を持った子どもたちは危険を感じる程度が、普通の人よりも敏感で繊細なために、小さな刺激に大きな不安を感じてしまうのではないかといわれています。そのため、家などのリラックスしてくつろぐことのできる不安の少ない環境ではことばが話せるのに、人が集まる学校などでは些細なことでも不安を感じやすく、行動を抑制してしまうことから「話せない」状態になっているのではないかとみられています。参考:危険に反応する脳扁桃体(へんとうたい)のメカニズム◇認知の偏り緘黙がある子どものなかには、ことばの発達の遅れや発達の凸凹(発達障害)などが起因している場合があります(発達障害とのかかわりについてはのちの章で解説します)。・感覚過敏(光や音に敏感、食べ物や衣服に好き嫌いが激しくあるなど)・物事の受け取り方や考え方に偏りがある・ことばの意味の理解に時間がかかる、単語を思い浮かべたり文章構成に時間がかかる・発達障害(未診断を含む)◇話しことばの理解およそ3分の1の緘黙児に話しことばや言語の問題があるといわれています。家庭より複雑で高度なコミュニケーションが求められるところでの会話が難しいと感じる子どもがいます。バイリンガル環境におかれている子どもに場面緘黙が発症するのもこの要因に含まれます。◇身体・運動身体の育ちや身体能力が緘黙の要因になる場合があります。・運動の不得手・非言語領域の問題(雰囲気を汲み取った行動ができない、不器用など)・身体発達の問題(身体発達がゆっくりしている、動きがぎこちない、バランスがとりづらいなど)◇環境要因緘黙の発症に関わる環境要因は、単純なロケーションの問題に限りません。その環境が継続的/断続的だったのか、ある期間の作用/一回の出来事だったのかなどによって起因する場合が異なります。またその場所や出来事の組み合わせについても、保護者や教師の客観的な認識と本当の原因が異なる場合があります。「子どもの主観的な体験がどうだったのか」という視点で考えることが必要だといわれています。直接場所に関係する要因、クラスメイトとの関係や、心身への危害など外からの負荷一般、以下のような項目がこの要因に含まれます。・急激な環境の変化(転校やクラス替え、引っ越しなど)・恐怖や失敗、辛い体験(いじめ、病気やけが、傷つくことを言われたなど)以前は過保護や無関心な態度など、親の育て方が場面緘黙の原因になり得ると、家族要因に結び付けた研究も多く発表されましたが、近年ではそういった説は撤回されています。養育方針やしつけの方法、家族関係などについて、場面緘黙がある子どもの親と場面緘黙がない親の間に違いは見られないということが立証されています。参考:『場面緘黙Q&A』かんもくネット著/角田圭子編(学苑社2008年)発達障害と場面緘黙出典 : 場面緘黙は医学上の定義では不安障害の一種と考えられており、発達障害には含まれていません。5歳前後で発症することが多いといわれています。しかし、教育分野や行政政策の上では「場面緘黙」は発達障害者支援法の対象になっています。学術的な発達障害と行政政策上の発達障害が一致していないことに混乱する保護者の方もおられるでしょう。実際のところ、場面緘黙がある子どものうち、発達障害が場面緘黙の発症に影響したと考えられる子どもがいます。これら疾患の因果関係については、実際は明確な診断分けが難しい場合も多いとされています。「場面緘黙は発達障害と併存することがある」ととらえたほうが、場面緘黙がある子どもの手立てを考える上で有効だといえるでしょう。2000年にアメリカの学会でクリステンセンが発表した説によると、発達障害は、不安障害と同じくらい場面緘黙と併存しやすいといわれています。コミュニケーション障害、発達性協調運動障害、軽度精神発達遅滞、アスペルガー症候群などとの併存が多いようです。,H.(2000):”SMandcomorbidity with developmental disorder/delay,anxiety disorder,and elimination disorder”.J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 39:249-256,2000.(「場面緘黙症と発達障害/遅れ、不安障害、排泄障害の併存」)参考:場面緘黙(選択性緘黙)の多様性―その臨床と教育―発達障害者支援法発達障害は見た目にわかる障害ではありません。早期発見・早期治療が大切であるとされていますが、見過ごされることもあります。発達障害がある(もしくはその疑いがある)子どもに対して、環境調整など適切な対応がなされなかった場合、その子にとって受け入れられない問題が生じ、場面緘黙になる場合があります。子どもの特性が理解されないまま、失敗経験を繰り返し、自己評価を下げることにつながります。このような場合、場面緘黙の症状に限って対処を行っても、改善がみられないことがあります。大人の場面緘黙の原因出典 : 場面緘黙の状態が青年期以降も続くケースがあります。大人の場合も、子どもの場合と同様に「話さない」のではなく「話せない」状況のことをいいます。場面緘黙は小児期に発症することが多く、早期発見、早期支援が大切だといわれていますが、まだまだあまり世間的に知られていないという側面もあり、適切な支援をうけられなかったケースが少なくありません。大人の場面緘黙の原因は、小児期に発症し、それが継続ないし再発する場合がほとんどです。小児期の場面緘黙について自覚症状がないことや、見過ごされている場合もあります。成人後も場面緘黙の症状に苦しむ人や、症状が軽減された後も会話が苦手と認識している人もいます。参考:青年・成人用場面緘黙リーフレット場面緘黙の早期発見・早期対応の重要性出典 : 今まで、場面緘黙は「時間がたてば治る」「自然としゃべれるようになる」と誤解され、症状があっても特に手立てを打たず、場面緘黙を長引かせるということがありました。現在、日本では「自然に治る」という見方は適切でないとされ、早期発見・早期治療が重要とされています。多くの緘黙児の治療と支援を行ってきたアメリカの場面緘黙症不安研究治療センター(スマート・センター)の臨床研究などをふまえた結論です。アメリカの場面緘黙症不安研究治療センター(スマート・センター)子どもの場面緘黙のケアに対して警鐘が鳴らされつつある背景には、日本であまり知られていなかった大人の場面緘黙に対する研究や、認知度が深まっていることがあげられます。子どもの頃の場面緘黙を長引かせたことが原因で、大人になってからうつなどの「後遺症」(二次障害)に苦しむケースの当事者が、その声をあげ始めていることに起因します。参考:緘黙症体験記集場面緘黙のある子どもは、本人が困っていても、「おとなしい子」などと捉えられたり、本人が訴えることが難しかったりするため、見落とされたり放置されたりすることもあります。早期発見には本人から直接様子を聞くだけではなく、友達や友達の保護者とのコミュニケーション、授業参観の機会なども大切になります。困っている様子がみられれば、早めに保健センターや児童相談所、学校のスクールカウンセラーなど相談先に連絡してみましょう。まとめ出典 : 子どもの場面緘黙は2~5歳の入園や小学校入学時、または小学校低学年までに発症するといわれています。集団活動が始まってはじめて、その不安から生じると考えられます。原因は本文に挙げた通りたくさんの要因が考えられますが、しつけの問題ではありません。着実に対応し改善を図るためには、まずは子どもがどんな要因を抱えているか探ることが重要です。親御さんはお子さんの様子をしっかり受け止め、学校などとも協力しながら、場面緘黙を長期化させない工夫をすすめていけるとよいですね。
2017年05月31日ビジョントレーニングとは出典 : ビジョントレーニングとは、目で見る力を高めるための訓練の方法です。生活の中の問題やスポーツのスキルアップを目の機能からのアプローチによって解決しようという目的のものです。私たちは普段目でものを見て生活をしていますが、「見る」ということは、視力以外に様々な機能を使用します。例えば、自由自在に目を素早く動かしたり、目から取り込んだ情報を正しく頭で処理したり、またそれらの情報に合わせて体の動きを調節したりするなどです。これらの正しくものを見るために必要な機能を高めるのがビジョントレーニングです。ビジョントレーニングはアメリカにおいて歴史が深いトレーニング法ですが、現在は日本でも導入されつつあります。トレーニングは学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもたちの諸問題の改善・克服からプロスポーツ選手のパフォーマンス向上に至るまで、多くの人々の能力向上に用いられています。ビジョントレーニングには様々な効果が期待できますが、身近な例だと板書や本読みのスピードがあがったり、整ったきれいな文字を書くことができるようになったりする結果があります。子どもの困りごと、もしかして「見る力」の弱さが原因かも?出典 : 「見る力」に問題があることによって起こる困りごととして以下のようなことが挙げられます。・板書をノートにとることが苦手・写生など見たままの状態で絵を描くのが苦手・本を読むとき文字や行を読み飛ばしてしまう・定規のメモリがうまく読めない・漢字がなかなか覚えられない・算数の図形の問題が苦手また、二次的な問題としては、全体的に運動に不器用さが見られることが特徴として挙げられます。体の緊張の高さや、姿勢の悪さ、書くときの筆圧が強さや弱さなどです。他には、自転車にうまく乗ることができなかったりなど、運動面での不器用さの原因にも「見る力」の弱さが潜んでいることがあります。ビジョントレーニングはこれらの問題に対し、「見る力」を高めることで解決しようとするアプローチ法なのです。そもそも「見る力」ってどういうこと?Upload By 発達障害のキホン「見る力」すなわちビジョンとは、いわゆる視力のことを指しません。私たちが「ものを見る仕組み」のことです。ビジョンとは、視力に関係する機能よりはるかに幅広く複雑なものです。「ただ単にものを見る」ための視覚のシステムは生まれたときにはほぼできあがっていますが、ビジョンは発達とともに身についていくものです。私たちは、運動や学習、生活の場面などあらゆる場所で目を使っていますが、ビジョンは大きく分けて「眼球運動」、「視空間認知」、「目と体のチームワーク」という3つの構成要素があります。ものを目で追ったり、視線をすばやく動かしたり、両目を寄せたり離したりするのが眼球運動のはたらきです。このはたらきは「入力」の部分にあたり、目の動きが適切に行えることで、情報をくまなく目から取り込むことができます。眼球運動には、さらに3つの種類があります。◇「追従性眼球運動」…見ているものの動きに合わせて滑らかに、動いているものと同じ速さで眼球を動かすことです。【例】・本に書かれた文字を目で追う・動いているものを目で追う・ひとつのものに焦点を絞って見つめ続けたりする◇「跳躍性眼球運動」…一点から別の一点へ視線をすばやくジャンプさせる眼球運動です。この眼球運動は、多くのものの中から必要な情報を早く、正確に見つけるために必要なはたらきです。【例】・黒板とノートを交互に見る・人ごみの中から探している人を見つける・本を読む際、次の行に移る◇「両目」のチームワーク…私たちは両目を使うことにより物の距離感や立体感をつかんでいます。その時、対象物に焦点を合わせるために、ものとの距離に合わせて、右目と左目の視線を変化させています。【例】・近くのものを見るときには両目を真ん中に寄せる・遠くのものを見るときには両目を離すこれら3つの眼球運動が正しく機能することにより、情報を目から取り入れる「入力」という第1ステップが完了します。第1ステップで「入力」された視覚情報は脳へ伝わり、「情報処理」という第2ステップへと引き継がれます。この情報処理のことを視空間認知と言います。視空間認知は、目から入った情報を脳で把握する能力です。空間の一部ではなく、全体像を把握するはたらきがあります。ただの点や線だった情報が、一つの形として具体的にイメージすることができるのは視空間認知のはたらきのおかげです。視空間認知のはたらきには以下の4つがあります。・見たい対象と背景を区別する・形や色を弁別する・位置や色・形の不揃いにかかわりなく、「同じ」ものだと認識する・空間的な位置を把握するくわしくは以下の記事をお読みください。発達の専門用語では「目と手の協応」といいます。第1ステップで情報を目で見て、第2ステップで脳の中で認知された情報をもとに、私たちは体を動かします。これは、「入力」「情報処理」の次のステップの「出力」にあたります。「目と体のチームワーク」とは、視覚のはたらきと体の動きを連動させることです。例えば「ボールで遊ぶ」ことを例にあげて考えてみましょう。1.転がってくるボールを目でとらえて、目で追う2.ボールが到達する位置とタイミングを脳が把握する3.目で追いながら体を動かして、手を伸ばしてキャッチするこのように、私たちの体は視覚の情報をもとに動いています。私たちは、これらの一連の動きを普段意識することなく行っています。ボール遊びが練習しなければならないように、このような「見る」と「動く」という能力のつながりは、心身の発達にともなって活動しながら、調節していってできるようになるのです。学習障害の子どもにビジョントレーニングは有効?出典 : 学習障害(LD)とは、知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」力のうちいずれか、または複数で習得、使用に著しい困難を示している状態のことです。学習障害というと、暗記や理解する機能などに困難があると考えがちですが、実は「見る力」の弱さが原因となっている場合があることがわかってきました。例えば、「教科書を読むのが苦手な子ども」について考えてみましょう。教科書に書いてある文字を追うためには、眼球運動の力がかかわっています。眼球運動がすばやく、正確にできないと、読みとばしが増えたり、読んでいる場所を見失ってしまったりして読書効率が落ちてしまうことがあります。このほかにも「見る力」を含む複雑で多様な力を総動員させながら、子どもたちは学習活動を行っています。勉強が苦手とされる子どもが苦手なのは実は「見ること」や、「見た情報をもとに体の動きを制御する」という動作だったりするのです。「見る力」の弱さが原因の場合、そのフォローをせずに、ひたすら音読の練習だけ「がんばってもできない」ことが多いのです。しかし、学習障害のある子どもは、「がんばりが足りない」「やる気がない」などと個人の意志や努力不足として叱責されることが少なくありません。それが積み重なると、自己肯定感や学習意欲も低下してしまいます。そのため、ビジョントレーニングによってこれらの目の働きを高めることが、学習障害のある子どもの困難の解決につながることがあります。ビジョントレーニングはどこで受けられるの?出典 : ビジョントレーニングはどのような人によって行われているのでしょうか。この章では、ビジョントレーニングを行う人や、取り入れている場所についてご紹介します。■トレーニングを行う専門家・オプトメトリストというアメリカの資格を持つ視覚機能専門の有資格者・臨床発達心理士や療育のスタッフなど発達障害に関する知識をもつ人など■施設ビジョントレーニングは普段の療育の場で取り入れられていることが多いです。ビジョントレーニングと銘打っているところでも、上記3点の「見る力」の機能の向上を行うためのトレーニングとして取り入れられていることが多いです。ほかに「見る力」を高めるための民間の行う教室がいくつかあります。ビジョントレーニングの方法出典 : 療育や民間の施設に通わなくても、普段の生活の中に少し工夫をすることによって「見る力」を鍛えることは可能です。ここで紹介するのは、「見る」力を養うために挙げられるもののほんの一部です。家庭でできるものもあります。少しづつでもよいので、できれば毎日、子どもが取り組める環境をもつようにしましょう。出典 : 眼球運動のトレーニングです。定規の両端と中心に貼ったシールを目の前で水平に持って、大人の指示に従って交互に見ていきます。シールは両端は赤、真ん中は青にして指示がわかりやすく通るようにすると、集中力を妨げずに済むのでよいでしょう。最初は指さしをしながら取り組んでもらい、徐々に指を使うことなく、目だけでポイントを追えるように行っていきます。ひとつのポイントに焦点を合わせたり、同時に2つのポイントを捉えたりする動作を順序に行っていくことで、ピントを合わせる力を養います。近くでより目をしたり、離して見たりするトレーニングは、「忍法より目!」などと掛け声をかけて何かになりきったりすることで子どもも楽しく行うことができます。出典 : 本を読むときの行がえが苦手な場合の眼球運動のトレーニング方法です。縦と横に文字が羅列してあるものを用意し、子どもは左端と右端の文字だけを声をだして読む。こうすることによって、他の文字にとらわれず、注目したい文字にだけ焦点を合わせていきます。子どもが楽しく取り組むためには、「怪盗Xからの暗号文書!」などというタイトルをつけて文章を作成して、机の上においておき、解読ができるとお菓子のありかに辿り着けるなど、子どもが興味をもちそうな題材に置き換えてみるなど工夫を行ってみるのもよいかもしれません。「↑ → ↓ ← 」などと矢印がランダムに描かれた紙を使用してトレーニングを行うことができます。2人組となり、1人が上記の矢印が描かれた紙をもち、指差していきます。もう1人の人は、指差された矢印の方向に動きます。「↑」だとジャンプする、「↓」だとしゃがむ、「→」だと右に一歩ずれる、「←」だと左に一歩ずれる、というように目で見た通りに体を動かすような練習をします。出典 : 視空間認知には「目で見ること」「実際に手でものを触る」の2点が重要となります。その後、ねんど遊び・ブロックなどで目で見たものをそっくり作る・まねする遊びは「目と体のチームワーク」の力を養うのにも適しています。まねっこしてお絵かきをするのもお進めです。ここで求められる力は、黒板の文字を見て、自分の手元にあるノートに写すという板書をするときに求められる力にも合致する部分があります。まず、大きめの紙とペンを用意します。子どもの好きなキャラクターやイラストを題材として、大人が絵を描き、それを見て子どもに真似をさせます。複雑なイラストの場合には特徴だけを残して細かな部分は省くなど、イラストを簡単にしてから子どもに提示するのがよいでしょう。このときには、まず大人の隣で描く→少し離れた場所でお手本を提示するという順序を踏んでいくことがよいでしょう。離れた場所を見てから、自分の手元に目線を落とすことは、対象物の距離によって焦点を合わせる力が必要となるからです。最初から難しい課題ばかりを出していると子どもがうまくできずに気持ちが落ち込んでしまうことがありますので、ゆったりした曲線のある絵を選ぶなどの配慮を行うとよいでしょう。出典 : これらの遊びを行うことで、耳の中の前庭感覚というバランスをとる器官の問題と併せて、目と体のチームワークの力を鍛えることができます。目で見た情報から、位置や傾きなど体の状態を把握し、動きを調整していくという点で目と体のチームワークの力が鍛えられます。例えば、トランポリンを例にとって考えてみましょう。トランポリンで何度も飛び跳ねるうちに体の位置がずれていくことがあります。そのまま体の動きを修正せずに飛び跳ね続けるとトランポリンからはみ出し落下してしまいます。このときに必要なのが、トランポリンのどの位置に自分がいるかどうかをまず目で見てとらえることです。そして、例えば右にずれているなら、左側に体をずらしなおすという修正をすることが必要です。何度も飛び跳ねる中で目で見て、ずれている分だけ体の動きを修正することを繰り返していきます。「目で把握し、体を調整する」という手続きを含む遊びはトランポリンだけではなく、アスレチックや平均台などもあります。身体を使った遊びはすべて「見る力」を鍛えるよい素材となるといえます。まとめ出典 : 見る力に困難のある場合、子どもは「ものすごく気を付けていてがんばってもできない」「やりたいことができない」というストレスを感じます。学習や運動に限らず、子どもが努力や気合で乗り切れないことがあるとき、その背後には何かの原因が必ずあります。それらのストレスが二次的な困難となってあらわれないようにするには、読み書きや運動の困難の裏側に、視覚機能の問題があるのではという可能性に周りの大人が目を向け、原因を探っていくことが大切です。ビジョントレーニングの際には、ちょっとしたことでもほめてあげることを心がけましょう。具体的にした努力や行動、パフォーマンスを褒めてあげられると、子どもがどんな行動がよいとされるのか判断をしやすくなります。また身近な大人に褒めてもらうことにより、子どもの意欲がさらに高まり、継続してトレーニングを行うことができるでしょう。また、ハードルを高くしすぎず、スモールステップで取り組むこともポイントです。文字や図形をノートに写す場合は、見た目の美しさは気にせず、見てそれとわかればよいということをまずは大切にしてみましょう。子どもの好きなキャラクターを導入したり、カラフルなツールを使ったり、トレーニングを物語風にしたりと、子どもの楽しんでできる環境をつくる工夫をできると良いですね。取材協力:天ケ瀬正博(奈良女子大学大学院 准教授)
2017年05月31日心身症とは?定義をご紹介します出典 : 心身症は特定の疾患を指す疾患名ではなく、身体疾患のなかでもこころの状態と身体の状態が相互に影響を及ぼしている状態を指す言葉です。例えば、胃潰瘍(いかいよう)とは胃の粘膜がただれて深く傷ついてしまう疾患です。この発症には様々な要因がありますが、仕事がつらい、プレッシャーがあるといった過剰なストレスを受けたことが要因となって関わる場合があります。このような時に心身症であると言えるのです。胃潰瘍であっても心理的な影響がない場合は心身症とはいいません。また、あくまでも心身症は心理的な要因が関わる身体疾患であり、精神疾患ではありません。参考:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学用語事典第2版』2009年 三輪書店/刊参考:筒井末春ら/著『心身医学 (心身健康科学シリーズ)』2008年人間総合科学大学/刊日本心身医学会の定義による心身症の定義は以下のとおりです。「心身症とは身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など,他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(引用:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊)心身症の種類・分類・症状出典 : 心身症には現実心身症と性格心身症という2つの種類があります。◇現実心身症現実の生活における強いストレス環境に影響されるものです。この場合は大方、環境を改善すれば身体の症状も改善されることが多いとされています。◇性格心身症本人のストレスの受け止め方やストレス対処の仕方に問題があるものです。この場合、身体面からの薬物療法だけでなく、認知行動療法などの心理療法により本人の思考パターンや行動パターンの偏りの改善が必要になることもあります。参考:心身症|Kumano’s Information Base HP参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊心身症の症状は胃潰瘍なら上腹部の痛みや吐き気、片頭痛なら激しい頭痛といったように、疾患ごと、そして患者ごとにそれぞれ異なる症状を持ちます。症状が現れる身体の部分ごとに、以下のように分類されます。心身医学的配慮が必要な代表的疾患◇呼吸器系気管支喘息、過換気症候群など◇循環器系本態性高血圧症、本態性低血圧症、起立性低血圧症、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)など◇消化器系過敏性腸症候群、胃・十二指腸潰瘍、機能性胆道障害、潰瘍性大腸炎など◇内分泌・代謝系糖尿病、甲状腺機能亢進(こうしん)症、神経性食欲不振症、神経性過食症など◇神経・筋肉系筋緊張性頭痛、片頭痛、慢性疼痛(とうつう)性障害、チック、痙性斜頸(けいせいしゃけい)、筋痛症、吃音など◇皮膚科領域アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症、皮膚瘙痒(そうよう)症など◇外科領域頻回手術症、腹部手術後愁訴(いわゆる腸管癒着症、ダンピング症候群ほか)など◇整形外科領域関節リウマチ、腰痛症、多発関節痛など◇泌尿・生殖器領域過敏性膀胱(神経性頻尿)、夜尿症、インポテンス、遺尿症など◇産婦人科領域更年期障害、月経前症候群、続発性無月経、月経痛、不妊症など◇耳鼻咽頭科領域メニエール症候群、アレルギー性鼻炎、嗄声(させい)、失語、慢性副鼻腔炎、心因性難聴、咽喉頭部(いんこうとうぶ)異常感など◇眼科領域視野狭窄(しやきょうさく)、視力低下、眼瞼痙攣、眼瞼下垂など◇歯科・口腔外科領域口内炎(アフタ性)、顎関節症など心身症は、一般的にライフステージごとに現れる症状の性質が異なるとされています。小児期の心身症の傾向としては、特定の器官に限定されず全身に症状がでるとされています。思春期、青年期には、偏頭痛や過敏性腸症候群などの身体の機能の障害が、成人期、初老期、老年期になるにつれて消化性潰瘍などに代表される身体の臓器(構造)の障害としての心身症になりやすい傾向があります。子どもがかかりやすい心身症については以下のページで詳しく解説されています。参考:小児の心身症-各論|小児心身医学会HP心身症になりやすい方の特徴出典 : 心身症になりやすい方には特徴があると言われています。性格面では、生真面目、頑張り屋、人からの頼まれごとを断れない、自己犠牲的、模範的な方がなりやすいです。また、空腹感・疲労感などの身体の感覚への気付きが鈍かったり、自分の内的な感情への気づきや、それを言葉で表現することが難しい方も心身症にかかりやすいとされています。ただし、これはあくまで傾向であり、全ての心身症にかかる方がこのような傾向があるわけではありません。参考文献:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊心身症の原因はストレスなの?出典 : 心身症は、強い心理的ストレスが過剰に、長期間持続することが原因になりやすいです。長期にわたり同じストレスが繰り返されることで、身体の弱いところに症状が現れてしまうとされています。ストレスには家庭や職場、学校における人間関係だけでなく、妊娠、出産、災害、親族の死などがありますが、個人により何にどの程度ストレスを感じるかは大きく異なります。参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊参考文献: 小牧元ら/編 『心身症診断・治療ガイドライン〈2006〉2006年協和企画/刊心身症と似ている病気は?仮面うつ病、自律神経失調症との違い出典 : ここでは、心身症と類似する代表的な病気である仮面うつ病と自律神経失調症を紹介いたします。似ている病気と間違えると、適切な治療方法が受けられず、症状が長引いてしまう場合もあるので注意が必要です。仮面うつ病とは、「他の症状という仮面によって、うつ病本来の症状が見えにくくなっている」うつ病のことで、患者本人が身体的な症状を強く訴えているが、実は抑うつ症状が隠れているタイプのことです。心身症と非常に類似している概念ではありますが、仮面うつ病の中心的な治療は薬物療法としても抗うつ薬の使用が中心であるのに対し、心身症は身体とこころの両面からの治療が重視されます。症状の相違点としては、仮面うつ病は倦怠感や食欲不振、頭痛や肩こりなどの多種多様な症状が全身にみられるのに対し、心身症は胃潰瘍にみられるように身体のある箇所に症状が限定されることが挙げられます。自律神経失調症とは、検査しても明らかな異常がみられないのに、肩こりやめまい、不安感等の様々な不快な症状が現れる状態のことです。心理的な問題やストレスが原因である点は自律神経失調症と類似していますが、実際に身体の臓器もしくはその機能に明らかな異常がみられる点において自律神経失調症とは異なります。詳しくは以下の記事を御覧ください。参考文献: 筒井末春,中野弘一/著 『心身医学入門』 1989年 南山堂/刊心身症の診断はどのように行われるの?出典 : 心身症の診断は、いままで罹った病気や現在の症状、検査の結果に基づく身体面からの資料と面接や心理テストなどの心理・社会面からの資料を総合して病気の様子全体を把握します。重大な身体の病気を見逃さないために、まずは十分な身体面の検査が行われます。どのような身体の病気なのか把握したあとは、その症状にこころと身体の相互影響があるかを確かめ、治療の目的や方針が設定されます。こころと身体の相互影響を確かめるため、面接に加え心身両面の全般的健康状態を把握することを目的として行われるCMI(コーネル・メディカル・インデックス)検査、パーソナリティの特性やタイプを把握することを目的とした矢田部・ギルフォード性格検査(Y-G性格検査)などの心理・社会面の検査が行われることがあります。また、心理的ストレスに由来する身体生理反応を調べるために心電図、脳波、マイクロバイブレーションなどの検査が行われることもあります。参考文献:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊)参考文献:小牧 元ら/編 『心身症診断・治療ガイドライン〈2006〉 』2006年 協和企画/刊)参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊心身症に心当たりがあるときの診療科は?出典 : 心身症を対象としている診療科は心療内科です。とはいえ、心療内科と標榜していても実際は心身症ではなく精神疾患を専門としている場合もあるので、もし通いたい心療内科がある場合は、事前に電話して、自分が抱える悩みが対象かどうか調べることをおすすめいたします。心身症の治療出典 : 身体の症状に合わせた治療とともに、薬物療法や各種心理療法などを組み合わせて行われます。治療の期間は一般的には2~3ヶ月から半年、長い場合には1~2年くらいかかるとされています。参考:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊胃潰瘍や喘息などの本人が抱えている症状にあわせて、一般内科や各診療科で行われるような身体面からの治療が行われます。食生活や運動、睡眠などにおける生活習慣の歪みも、症状と密接に関連します。生活療法では、規則正しい生活に正すために諸々の生活習慣や症状の経過などの記録を参考にしながら指導がおこなわれます。薬物療法には、身体症状に対応する薬を用いた治療と、抗不安薬や抗うつ薬、睡眠薬などの向精神薬、漢方を用いた治療などがあります。心身症を対象とする心身医学的治療法にはさまざまな理論・アプローチがあります。身体からこころに働きかける自律訓練法やバイオフィードバックなどの行動療法、交流分析などが代表的です。その他にも音楽療法や森田療法などが行われることもあります。まとめ出典 : 心身症がある方は、胃の痛みや頭痛などの身体症状が前面に出ていることがほとんどのため、心理的アプローチを受けることに抵抗がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?心理的アプローチの必要性があるのに放っておくと症状が長引いてしまう可能性もあります。まずは医師に相談してみましょう。参考文献: 矢吹弘子/著筒井末春/監 『心身症臨床のまなざし』 2004年 新興医学出版社/刊参考文献:石津 宏/編『精神科領域からみた心身症 (専門医のための精神科臨床リュミエール)』2011年中山書店/刊
2017年05月31日視覚障害とは出典 : 現在、視覚障害はメガネやコンタクトを使った状態での両目あわせた視力と、視野の広さの二つの観点から法律で定義されています。視覚障害は、大きく分けると、「弱視」と「盲」になります。まったく目が見えないわけではないが、メガネやコンタクトで視力を矯正することができず、見えにくい困難を抱えている場合を「弱視」と言います。しかし、「弱視」には注意する点があります。医学的な意味での「弱視」と教育や福祉の面での「弱視」の意味が微妙に異なる点です。医学では、「弱視」は視覚が発達する過程で、眼に適切な刺激が与えられないことで視力が十分に発達していない状態をあらわしています。片目のみに発症することも多く、視覚障害ではないことも多いです。そのため、医学では見えにくいという困難を抱えていることを意味する言葉として「ロービジョン(low vision)」が用いられるようになりました。福祉教育の場面では、このロービジョンの意味で弱視ということがあります。法律上で視覚障害が視力と視野の観点から定義されているために、視覚的な困難があっても障害者手帳を取得することのできない色覚障害と光覚障害というものがあります。◇色覚障害色覚障害は、視力や視野には問題がありませんが、特定の色の区別が苦手な症状です。ほかにも、特定の色が別の色に見えることもあります。◇光覚障害光覚障害は、明るさを区別することが苦手な症状です。そのため、暗い所から明るい所に移動したときに適応するまでにかかる時間が長くなったりします。また、視覚障害の原因は先天的な場合と、後天的な場合があります。後天性の場合は、緑内障や糖尿病網膜症などの疾患が主な要因になります。しかし、いまだに視覚障害の50%近くは原因がはっきりとわかっていません。出典:平成18年身体障害児・者実態調査結果p17|厚生労働省参考:視覚障害(視力障害・視野障害・色覚障害・光覚障害)|広島市障害者支援情報提供サイト参考:身体障害者手帳 Q&A 障害内容と程度編|長野県視覚障害者の等級って?出典 : 視覚障害のある人が社会福祉で、どのようなサービスや支援を受けられるのかを決める基準が身体障害者福祉法によって定められています。この基準に該当する人に、「身体障害者手帳」が交付されます。この基準は、障害の程度によって1級から6級まで分けられていて、それによって受けられる支援が異なります。「身体障害者手帳」の交付の流れについては、後ほど詳しく触れるので、この章ではどのような基準なのかを紹介します。1級両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者については、きょう正視力について測ったものをいう。以下同じ。)の和が0.01以下のもの2級(1)両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野についての視能率による損失率が95パーセント以上のもの3級(1)両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90パーセント以上のもの4級(1)両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの5級(1)両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの(2)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの6級一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもので、両眼の視力の和が0.2を超えるものこのように、視覚障害の等級も、視力と視野の広さを基準に決められています。小学校や中学校で行われることの多い視力検査に、5メートル離れた地点から、ランドルト環の穴があいたほうを答えるというものがあります。視力がだいたい0.1前後だと、一番大きいランドルト環でさえぼやけて正解を答えることができなくなります。5メートル先がぼやけると、日常生活の中で信号機の色もぼやけてしまい見にくかったり、歩道を歩くだけでも神経を使うため疲れてしまったりします。また、ヒトは視線をまっすぐ見た状態で固定して、上方60度、鼻側60度、下方70度、耳側100度の範囲を片目で見ることができるとされています。出典:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)ここで注意が必要なのは、ヒトの両目は比較的近い所に位置しているため、両目で重なって見ている部分が広く、単に片目を失ったからといって視野が半分にはならないことです。視覚障害のある人が障害者手帳を取得するまでの流れ出典 : 「身体障害者手帳」を取得することのできる基準を先ほど紹介しました。そもそも、「身体障害者手帳」は身体障害者福祉法に基づき、身体障害のある方の自立や社会活動の参加を促し、支援することを目的として作られました。ここでの身体障害というのは、一時的なものではなく一定期間以上続く場合に限られます。身体障害者手帳は都道府県知事、指定都市市長、中核都市市長によって交付されます。交付に至るまでには、3つのステップがあります。Upload By 発達障害のキホン市区町村の障害福祉担当窓口の方に申請したい旨を伝え、身体障害者診断書・意見書の書式をもらいます。この書式は、身体障害者福祉法第15条の指定を受けている医師しか作成することができないので、窓口やかかりつけの医師に相談しましょう。Upload By 発達障害のキホン身体障害者診断書・意見書を作成してもらいう必要があり、視覚障害の場合は視力と視野の検査を行います。一般的な視力検査で測定できないと、指を何本か立ててその数がいくつかわかるかや、目の前で手を振ったり、ペンライトで眼に光を入れたりしてそれを認識できるかということを調べたりすることもあります。また、視野の広さを調べるために行われる精密な機器を用いる検査では、病院で専門の測定技術を持った検査者によって実施されます。Upload By 発達障害のキホン役所の相談窓口で、必要な書類と、ステップ2で受け取った診断書・意見書を揃えて提出します。ここで、いくつか注意することがあります。・身体障害者診断書・意見書は発行から1年以内のものである必要があります。・交付申請書は区市町村の障害福祉担当窓口で入手します。・申請する方の写真は縦4cm×横3cm、上半身で脱帽で撮影してください。・15歳未満の場合は保護者、15歳以上は本人が申請します。・個人番号(マイナンバー)や身元確認のできる書類が必要です。また、医療の進歩や治療などの結果で、障害の程度が変化することがあります。そのような人のために、東京都では障害再認定制度を平成14年度から実施しています。障害再認定制度では、期日までに身体障害者診断書・意見書を提出することで障害程度を改めて審査します。そのときに、重大な変化があると判断される場合にはすでに持っている手帳と引き換えに、新しい手帳を交付します。この制度に該当しない場合でも、障害の程度が変わったり、新たに他の障害が加わったりしたときには等級変更を行わなくてはなりません。参考:身体障害者手帳について|東京都福祉保健局視覚障害のある人が障害者手帳によって受けられるサービス出典 : 「身体障害者手帳」によって受けられるサービスには、次のようなものがあります。・盲導犬や白杖などを借りられる場合があります。・国税や地方税が控除されたり、減免されたりします。・公共施設の利用料や交通機関の運賃が割引されることがあります。・公営住宅に優先的に入居できます。これはあくまで一例です。障害者手帳の等級やお住まいの地域によって受けられるサービスが異なるので、各自治体に確認することが必要です。参考:よくあるご質問|独立行政法人福祉医療機構視覚障害者向けサービス・道具出典 : 近年、ユニバーサルデザインやバリアフリーなどが一般的になりつつあり、障害のあるなしにかかわらず生活できるような社会の実現に向けて進んでいます。視覚障害のある人が生活しやすくなるためのサービスや道具も多くあります。このような道具は大きく3種類に分けることができます。・目から情報を受けとりやすくする・目の代わりに耳から情報をいれる・手触りで判断できるようにする全盲の方の場合は、目から情報を受け取ることは難しいですが、弱視や視野が狭い方の場合は工夫することで目から情報を受け取ることができます。例えば、拡大読書機というものがあります。拡大読書機には、虫眼鏡のように新聞の上におくと文字が拡大されるようなものや、特定の台の上に本を置くと、文章が拡大されてディスプレイに表示されるものがあります。目の代わりに耳から情報を入れるような方法は、身の回りのさまざまなところで確認することができます。例えば、信号機ではカッコーやピヨピヨと鳴ることで青であることを視覚障害者に伝えています。他にも、パソコンやスマートフォンを利用するときに、画面上に表示されている文字やエラーを音声で伝える機能があります。この機能を用いることで、画面を見ることなく操作することができます。点字や白杖など、手触りや足触りで周囲の状況を判断できるようにする道具もあります。最近では、点字も紙面上だけでなく、ディスプレイや視覚障害者向けのスマートウォッチの開発も行われています。「手触りで判断できるようにする」という考えは多くのユニバーサルデザインにも活用されています。シャンプーの容器にギザギザがついていたり、牛乳パックの開け口でないほうに扇形の小さな切り口があったりします。視覚障害のある人への教育の場出典 : 視覚に障害のある子どもが小学生以上の年齢になったときに、どのような教育の場で学ぶのかは非常に大切な問題です。現在、視覚障害のある子どもの教育の場としては、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、通常学級の4種類があります。それぞれについて詳しく見ていきます。2007年4月1日から、盲学校は聾学校、養護学校とまとめて、「特別支援学校」という名称になりましたが、呼び名が変わっただけで障害種類別に運営されています。特別支援学校では、特別支援教育の教員免許状を持っている教員によって視覚障害に対応した教育を行います。各教科の指導要領には、通常の学級と同じレベルの教育を行うことと記されています。しかし、視覚障害の特性に合わせた教育を行うため、目標は同じでも指導法は異なります。具体的には、そろばんを用いた指導が例として挙げられます。視覚障害のある子どもは、筆算をつかって複雑な計算をすることができませんが、視覚情報がなくてもそろばんを用いることで計算できるようになります。特別支援学級は、小中学校に設けられている障害のある子どもが学ぶ学級です。視覚障害を対象とした学級を弱視学級と呼んでいます。弱視学級では、視覚障害の特性に合わせた教育を行います。また、他の子どもと一緒に受けられる授業があれば、通常の学級で授業を受けることもあり、子ども同士ふれあう機会が多くなります。通級に通っている子どもは、普段は通常学級で教育を受けています。しかし、小中学校の教育課程のほかに、視覚障害の特性に合わせた指導を受けることができます。視覚障害があったとしても、特別支援学校・学級に通ったほうがいいと判断されなければ、通常学校に通うことになります。この場合は、先生から授業で使う教科書や資料を事前に拡大してもらっておくなどの合理的配慮を受けながら学習していくことになります。これらの教育の場のどこに通うのか決める目安として、次のようなものがあります。特別支援学校に通う基準両眼の視力がおおむね〇・三未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの特別支援学級に通う基準拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの通級に通う基準拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするものしかし、これらはあくまで目安であり、市町村教育委員会と相談しながら決めていきます。そのときには、障害の様子や保護者と子どもの希望、各専門家の意見、学校や地域の状態が判断材料になります。もし時間があれば、通う可能性のある学校の見学に行ってみると雰囲気がよくわかるかもしれません。視覚障害のある人の職業出典 : この章では、視覚障害者がどのようなところで働いているのかを紹介します。視覚障害のある人の仕事として、昔から有名な職に「三療」があります。三療とは、あん摩マッサージ指圧、鍼、灸のことを指します。これらの職で働いていくには、法律で定められた教育を受けて、試験に合格し、免許証を得なくてはいけません。免許証をとったあとは、医療機関等で働くことができます。また、近年では企業の障害者雇用の拡大を目指して「ヘルスキーパー制度」が導入されつつあります。ヘルスキーパーとは、企業に就職して、従業員にマッサージを行ったり、セルフケアについて指導したりするあん摩マッサージ指圧、鍼、灸師のことです。そのためこれらの職業に従事する方の活躍するフィールドと雇用形態は、以前より広がりを持っています。さらに最近特に増えているのが、コンピュータ・プログラマーとして活躍する方です。音声読み上げソフトや画面表示拡大ソフトなどの発展によって、さまざまな職業への就職も可能になりつつあります。上記はあくまで、視覚障害のある方の職業の例にすぎません。他にも、一人ひとりのスキルや希望、受けられるサポートに応じて、様々な職業での活躍事例があります。参考書籍:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)参考:視覚障害者のあはきによる就労参考:障害者雇用の拡大を目指して「ヘルスキーパー制度」視覚障害のある人に対して、周囲の人が気をつけることは出典 : 視覚障害のある子どもを育てたり、視覚障害のある人とともに生活をしたり仕事をしたりするときに周囲の人はどのようなことに気をつければいいのでしょうか。視覚障害のある乳幼児を育てるときには、注意しなくてはいけないことがあります。視覚障害のある場合、ハイハイや歩くといった基本的な運動機能の発達に遅れがでやすいと指摘する研究があります。これらの運動機能は、乳児が興味関心のあるおもちゃのもとに行くために獲得していきます。通常、聴覚による情報は視覚によるそれに比べて、かなり限定的になってしまいます。そのため、音の出るおもちゃや触って楽しめるおもちゃを使ったり、少し離れた場所から声掛けをして後追いを促したり、子どもが安心して動き回れる環境を整備したりする工夫をするといいでしょう。運動機能のほかに、言語機能でも注意が必要です。視覚障害児は一見すると、言語に遅れがないように見えます。しかし、絵本や大人の会話から覚えた表現が、現実世界と結びついていないことは珍しくありません。現実世界と結びついた言語を習得するためには、からだ全体を使ってさまざまな経験を積むことが重要です。例えば、「米」を理解するために必要な経験を考えてみます。子どもにとって、食卓に並ぶごはんしか知らないなら「米」を全体的に理解しているとはいえません。自分自身で、稲を植えて、育てて、稲刈りをして、ごはんを炊くという一連の流れを行うことで、はじめて理解できます。一度「米」について理解すれば、他の農作物について理解しやすくなります。このような基本になる経験を積むことが必要です。視覚障害のある人と生活するときには、周囲が配慮をすることで日常生活での負荷をできるだけ小さくすることが大切です。具体的には次のようなことに気をつけるといいでしょう。・視覚障害の方が歩くときには、手引きをしたほうがいいか聞くようにする。・自分の名前を伝えてから、会話に加わるようにする。・モノの位置を伝えるときは、「あそこ」や「すぐそこ」などではなく、「左に2歩進んだところ」などより具体的な数字を使って伝える。・日常用品や仕事用具は、できるだけ同じ場所に置き続ける。場所を変えないといけないときは、そのことをしっかりと伝える。・本来、通路であるところに荷物を置くことを避ける。現在、さまざまな道具が発達しており、視覚障害があっても社会進出している方は多くいますが、このような配慮をするかしないかで、視覚障害の方の生活のしやすさがずいぶん変わります。また、本人の希望に沿って配慮することが重要です。例えば、普段ひとりで歩くことが多い人は手引きがあるとかえって歩きにくく感じることもあります。そのため本人にどのような配慮が必要か確かめる必要があります。参考書籍:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)まとめ出典 : ここでは、視覚障害の等級や障害者手帳の制度、乳幼児の育て方、小中学校の種類、職業、周囲の人が気をつけることをご紹介しました。音声読み上げソフトなどの技術が発達している現代では、視覚障害のある人も自分に合った道具を利用することで自分なりの働き方ができるようになってきています。実際、学校の先生や一般企業で周囲と同じように働いている方も少なくありません。視覚障害のある人が活躍するためには、周囲の理解や配慮が必要不可欠だといえますが、必要とされる支援や配慮は一人ひとり異なるので、しっかりコミュニケーションをとっていくといいでしょう。また子育てをしていくなかで、子どもの見えかたに少しでも違和感を感じたら、専門家に相談して検査をすることをおすすめします。視覚障害のある子どもは、目が見える子どもに比べて発達が遅れることがあります。親が焦って無理に発達を促すのではなく、子ども一人ひとりにその子にあった発達スピードがあると信じて、子どもの成長を待つといいでしょう。子どもが成長していくと、どの学校に通うかやどのような仕事に就くかなどさまざまな選択に迫られます。特に子どもが小さいうちは保護者が考える機会が増えます。悩んだときには市町村の相談所で相談するなど、一人で抱え込まないようにすることが大切です。
2017年05月30日言語障害とは出典 : 言語障害とは、広義には、言葉によるコミュニケーションに何かしらの困難さがある障害を指し、精神医学上の狭義の定義では、特に言語の習得と使用に困難さのある障害を指す言葉です。言葉を使ったコミュニケーションに困難さが生じる障害・疾患にはさまざまな種類がありますが、「言語障害」という言葉がなにを指すかや、どんな疾患名が含まれるかは、その用語が使われるシーンによって少しずつ定義や使われ方が違ってきます。先に述べたように、精神医学における言語障害では、言語能力の発達の段階で、言葉を理解する能力と話す言葉を考える能力に困難さがあることを「言語障害」と定義しています。一方、一方、教育における言語障害は、より広い意味合いで捉えられています。すなわち、話す能力や聞く能力そのものというよりは、本人の発音や話し言葉によって、他人との一連のコミュニケーションに困難や不都合が生じている状態を「言語障害」と位置付けているのです。以下は、文部科学省における言語障害の定義です。言語障害とは、発音が不明瞭であったり、話し言葉のリズムがスムーズでなかったりするため、話し言葉によるコミュニケーションが円滑に進まない状況であること、また、そのため本人が引け目を感じるなど社会生活上不都合な状態であることをいいます。この他にも、介護の世界では、言語能力の発達には問題がないものの、脳卒中や認知症により後天的に話すことができなくなってしまったり、言葉を理解できなくなってしまったりする疾患を「言語障害」と呼ぶことが多いようです。このように、一口に言語障害と言ってもさまざまな定義が存在しますが、このコラムでは精神医学上の定義に則り、発達期の子どもが発症する言語障害について、人のコミュニケーションの仕組みを踏まえながら説明していきます。音声言語コミュニケーションの仕組み言語障害について詳しく解説する前に、まずは人がどのように言葉を操り、他者とコミュニケーションをとっているのか、その仕組みを確認しましょう。下の図は「スピーチチェーン」といい、人が音声言語コミュニケーションをとる仕組みについて説明するものです。Upload By 発達障害のキホンスピーチチェーンに則って考えると、人間が音声を受け取り、理解し、他者に言葉を発するまでのプロセスは、大きく三段階に分けることができます。■第一段階音響学的レベル誰かが発した音声が、空気を振動して耳へと伝わります。■第二段階言語学的レベル耳を通して伝わった音声を、脳で意味のある言葉として理解し、それについての受け答え(自分が話したい内容など)を考えます。そして、受け答えのための音声を出すために脳から発声器官(口や舌、肺など)の筋肉に信号を出します。■第三段階生理学的レベル脳の信号を頼りに声帯や舌、肺などを運動させ、音を発声します。また、口や舌の動きを使い、人が理解できる言葉にします。参考書籍:内須川 洸 /著『言語臨床入門』(風間書房,2000年/刊)スピーチチェーンの第三段階目で生成された音声に対して、相手側もまた、耳を通して聞き取り、脳で処理し、受け答えを考え、発生をする…このようなサイクルを通して、人は言葉を発し、他者とコミュニケーションをとっています。精神医学における言語障害出典 : アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)における言語障害(言語症)は、言語の習得と使用に困難さのある疾患として定義されています。主に、上の図におけるスピーチチェーンの第二段階目にあたる、脳内の言語処理に困難さがある疾患です。その困難さにより具体的には次の3つのような症状があります。1. 少ない語彙その年齢の子どもが知っているであろうレベルより単語の知識より少なく、語彙に多様性が欠けている状態です。例えば、言葉の定義(理解)があやふやであったり、類義語や多義語が理解できなかったりなどが挙げられます。2. 限定された構文文を形成するために、文法規則に基づいて単語や語を配置することに困難さがあります。言語障害のある子どもが話す文章は、文法上の誤りを伴い、より短く単純であることが多く、特に過去時制が適切に使うことが難しい場合が多くなります。こうした言葉や文法理解の困難さから、新しい単語や文章を記憶することにも困難さが生じます。例えば電話番号を覚えたり、買い物リストを覚えたりすることです。3. 話法における障害一つの話題や一連の出来事を順序をたてて説明・表現したり、会話をしたりすることに困難さがあります。このような症状は、言語の理解と産出する能力に困難さがあるために起こります。専門用語では、言語の受容性の能力、表出性の能力と言います。言語の受容性の能力とは、言語によるコミュニケーション(主に音声による)の意味のあるものとして理解することを指し、言語の表出性の能力とは、声、身振り、言葉の合図などを生み出すことを指します。言語障害は、言語がある程度発達し、個人差が少なくなってくる4歳以降で診断されることが多いです。幼稚園、保育園、小学校などに入ることで、さまざまなコミュニケーションの機会に触れる中で、他の子どもと比べてその困難さが際立つようになり、言語障害が明らかになる場合が多いと言えます。 精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版言語障害と似たような言葉として、「言語発達遅滞」という言葉を聞きますが、その違いはなんなのでしょうか。言語発達遅滞とは、言語障害があるかどうかによらず、言語の発達が年齢に想定されるよりも遅いという状況を指す言葉です。言語発達遅滞には2つのパターンがあります。一つ目は、乳児期の時点では言葉が遅れていても、育ちの過程において、遅れが目立たなくなるような場合です。この場合は、「ただ言葉の習得が遅いだけ」、「育ちのスピードの個人差の範囲」と言えます。もう一つは、発達や聴覚に障害のある可能性があり、その兆しとして言葉の遅れが生じる場合です。言葉の発達の遅れは、発達の早期である乳幼児期において生じやすく、その子どもの育ちは個人差が大きいです。また性格や環境など様々な要因が関わっています。そのため乳幼児期に語彙が少なかったり、文や文章の組み立てが苦手であったりといった、言語発達遅滞状態にあっても、その子どもがただちに言語障害であるとは限りません。言語障害とその他の言語に関わる疾患の違い出典 : これまで説明してきた通り、『DSM-5』における言語障害は、言葉の理解と産出に困難さがあるため、言葉をうまく話すことができない障害として定義されています。しかし、言語障害以外でも、同じく「言語がうまく話せない」という症状が生じる疾患・障害は存在します。ここでは、上記で説明したスピーチチェーンのどこに問題が生じているかに触れながら、言語障害と、それ以外の言語に関わる障害・疾患の違いについて説明していきます。音が聞こえない、または音が聞こえにくいため、音声言語を正しく認識できず言葉に困難さが生じます。スピーチチェーンでは、第一段階目の「音響的レベル」に当たる、耳で音を拾う過程に困難さがある障害です。聴覚障害があるため言葉に困難さがある場合は、聴覚障害という診断になることがほとんどです。知的障害のある子どもの多くは、運動機能や言語発達に遅れがある場合があります。知的発達の遅れがベースとなって、言葉が遅れていたり、コミュニケーションに困難さがあったりする場合は、言語障害ではなく知的障害という診断が下ります。構音障害とは、声が鼻にかかったり、鼻に抜けてしまうため、発音が不鮮明になったり、間違った発音になってしまう症状を特徴とする障害です。スピーチチェーンの三段階目である「生理学的レベル」での困難さがある障害と言えます。例えば、さかな”の発音が”たかな”になってしまうようにサ行やカ行がうまく発音できない場合です。これは、唇の断裂(口蓋裂)や、音を発声させる器官(構音器官)のまひなどによる機能的問題が原因となって言葉の困難さを引き起こしています。構音障害は、精神科だけでなく耳鼻咽喉科や小児科の領域の疾患でもあります。そのため必ずしも精神科で診断がくだされるわけではありません。小児科、リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、脳神経外科、神経内科、形成外科、言語外来を設置している各科などでも診てもらうことができます。吃音とは吃音などの話し言葉におけるリズム流暢でないために、言葉に詰まってしまったり、同じ音を繰り返してしまうことです。上の図では、三段階目の生理学的レベルに困難さがあります。そのため、吃音は精神科だけでなく耳鼻咽喉科や小児科、児童神経科の領域の疾患でもあります。例えば、”きんぎょ”を”き、ききんぎょ”と言葉を繰り返してしまったり、”き...んぎょ”など言葉が詰まってしまうなどです。このような言語に関する困難さを吃音といい、言語障害とは区別されます。言語障害と発達障害の関連は?出典 : 言語障害は、学習障害、ADHD(注意欠如・多動性障害)、自閉症スペクトラム障害などの発達障害との併存も珍しくないと言われています。発達障害について、詳しくは以下の関連記事をご覧ください。言語障害が気になる場合の相談先出典 : 歳から未就学児までの子育てに関する、不安や悩みがある親子に対する相談、援助を実施しています。子育て支援センターでは、病院と違い診断や治療を受けることはできませんが、相談・診察の状態によっては、医療機関を紹介してもらうこともあるようです。乳幼児健診(1歳半健診や、3歳健診など)では、乳幼児の健康について診てもらうだけでなく、子育てに関する相談もすることができます。場合によっては臨床心理士さんなどに相談できるよい機会です。教育相談とは、就学児(小学校入学以後の児童)の発達と教育にかかわる問題についての心理的・教育的援助です。教育相談センター・教育センターで行われる教育相談では、来所、電話、メール、さまざまな形での相談を受け付けています。児童相談所でも、幼児~高校生までの教育に関する相談を行うことができます。子どもの言語障害や言葉の遅れに関する診察や治療は、小児科や、神経科、小児神経科が主な受診先となります。言語障害のある子どもへの支援・治療法出典 : 言語障害はその症状によってさまざまな治療法があります。言語障害にはこの方法が必ずいいというわけではなく、子どもの特性や困難さに合わせた、個別の支援、治療を考えていく必要があります。言語聴覚療法とは、言葉を話したり聞いたりする機能に障害がある人に対して、日常生活を円滑に送るために行う、発音・発声に関するリハビリテーションです。言語聴覚療法では、専門知識を持った言語聴覚士がリハビリテーションにあたります。一般的に、発音・発声の機能獲得と、言語をつかさどる脳機能の獲得の二つのトレーニングを受けることができます。子どもの場合も、聞く、読む、話す、書くことという言葉全般の働きについて、その子どもの症状や課題に応じたトレーニングが行われます。また、子ども本人だけでなく、家族や生活環境にも焦点を当てたリハビリテーションが行われる場合もあります。ことばの教室とは、言葉に関する困りごとのある児童を対象とした、小学校、中学校で行われている特別支援教育の場です。一般的に、通級指導教室と特別支援学級に設置されています。ことばの教室に通うことを希望している場合は、就学前に就学相談を行う必要があります。そこで、教育委員会や学校と相談をしながら、就学先としてことばの教室に通うかどうかを決定します。また、すでに通常学級へ通っている場合でも、学校との相談の結果、必要に応じて通級指導教室に通ったり、特別支援学級に転籍することができる場合があります。まとめ言葉に関する疾患は数多くあり、広義にはそのような言葉に関する困難さ全般を言語障害と呼ぶこともあります。この記事では、医学的な診断名として定義された、発達期における、言葉の習得と使用に困難さを感じる疾患としての「言語障害」に焦点を当てて開設しました。言語障害は、コミュニケーションの中でも、特に言葉の理解と産出がうまくいかないために起こる障害です。子どもの言語の発達に不安がある場合は、上記のような相談場所へ行ってみましょう。
2017年05月30日自己愛性パーソナリティ障害とは出典 : 自己愛性パーソナリティ障害とは、自分に対して誇大なイメージを抱き、注目や称賛を求める一方で、他者からのマイナスな評価に対して過敏に傷つきやすく、他者に対する共感性が薄いことを特徴とする障害です。◇自己愛って?自己愛とは自分を大切にできる能力のことをいいます。自己愛は少なからず誰にでもあるものです。自己愛は年齢を重ねるごとに成熟していくといわれています。この「自己愛の成熟」とは精神医学では自分を肯定して愛することができる状態といわれていて、さらに、成熟すると自分以外の他者にも愛情を注げるようになるといわれています。◇自己愛性パーソナリティ障害は自己愛が未成熟な状態自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己愛が未成熟な状態にあると言えます。自己愛が未成熟な状態とは、ありのままの自分を受け入れ愛することができていない状態をいいます。その未成熟さの現れが「自己の誇大化」、「他者からの評価に対する過敏さ」、「共感性の薄さ」になります。例えば自分自身が掲げる理想の姿が高く、「自分は特別」「自分はできる人間だ」という思い込みが強い傾向があります。そのために誇大な言動が表出します。「自分はできる人間だ」と思い込んでいるために他者からの評価を受け入れることができず、怒り出したり、過敏に傷つき、引きこもりやうつ病になったりすることもあります。さらに共感性の薄さによって、相手の立場に立って物事を考えることができず、その場にふさわしくない言動をしていたり、自分の目的達成のために友人を利用したりするような対人関係がみられることをいいます。以上の傾向に柔軟性がなく、持続的で、社会生活が困難になるほどの苦痛を引き起こしている場合に自己愛の歪みや未成熟さがあり、自己愛性パーソナリティ障害と判断されます。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の特徴と2つのタイプ出典 : 自己愛性パーソナリティ障害には大きく分けて3つの特徴と、表出する2つのタイプがあります。以下にそれぞれを紹介します。◇誇大な言動・自分は才能がある特別な人間だと思い込み、それに伴った言動が目立つ・有名人や権威のある人と知り合いであることを自慢する(知り合いである自分は特別という裏打ち)◇他者からの評価に過敏・恥をかいたり、屈辱感を抱いたりするとカッとなって激しく怒り出す・ときにはその憤り(いきどおり)を超えて、ひどく落ち込み、自殺を考えだすこともある◇他者への共感性の薄さ・病気で入院している人のところへお見舞いに行って、自分の健康自慢をするなど相手の状況を考えない言動をする・自らの成果や目標達成のために、友人を利用したり裏切ったりという行為をする・わがままかつ傲慢な性格のため、あまり自分の意見を言えない友達を従えてあたかも自分が一番偉いかのように振る舞う自己愛性パーソナリティ障害の人は「3つの自己」を持っているといわれています。・誇大化させて形成された尊大で傲慢な自己・自分は欠陥がある人間だというイメージを持った自己・奥底に隠れている本当の自己この「3つの自己」がどれか一方に偏っていると、「自分は特別な人間だ!」と思い込んだり、「自分は誰よりもダメな人間だ・・・」と思い込んだりしてしまいます。「3つの自己」の偏り具合によって表出する人物像が異なってきます。根本にある自己愛の未成熟さや原因は共通ですが、その表出の仕方によって、自己愛性パーソナリティ障害は次の2つのタイプに分類されます。誇大的・自己顕示的で他者の反応に鈍感な「無自覚型」と他者の反応に敏感で注目されるのを避ける「過敏型」です。◇周囲を気にしない「無自覚型」タイプこのタイプの人は、自分はできる・自分は特別だと思い込み、社交的に振る舞いつつも他人のことには興味はなく自分の利益だけを考えています。このタイプの人が他者と親しく付き合うのは、自分に何かしらの利益があるからだと考えているためですが、自分の意向に沿わないときや責められると激怒することがあります。このような言動は本来の弱い自分を守るための防衛本能だといわれています。その他にも次のような特徴がみられます。・わがまま・傲慢な態度をとる・自分に夢中で他人のことは全く考えない・注目の的でないと気に入らない・他者に対する言葉づかいは常に攻撃的・他者の反応を気にしない/怒りに表わすことで気にしないことにしている・他者の気持ちを傷つけても平気◇周囲を過剰に気にする「過敏型」タイプこのタイプは身の丈に合わない理想化した自分自身を掲げますが、現実の自分との間にあるギャップに悩みます。他者からの評価に過敏ですぐに傷つきますが、自分には本当は才能があるという思いを持ち続けています。それゆえに自分自身を責めて落ち込んでいくサイクルが続きます。他にも次のような特徴がみられます。・内気で恥ずかしがり屋・自分の意見や感情を出さない・傷つけられたと感じやすい・注目の的になるのを避ける・他者の反応に対して敏感に落ち込む・他者からの評価を気にするこの障害がある人が自分を誇大化する理由は、本当の自分に自信が持てないなどの理由があります。本当の意味で自分自身を受け入れることができていない状態なのです。参考:『コフートの自己心理学に基づく自己愛的脆弱性尺度の作成』|パーソナリティ研究 2005 第14巻 第1号80–91 上地雄一郎宮下一博参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)自己愛性パーソナリティ障害の原因はなに?出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の原因を「これだ」とはっきり断定することは難しいといわれていますが、現時点では2つの仮説が提唱されています。自己愛性パーソナリティ障害は、生まれながらに持っている気質的要因に環境的要因が影響し、パーソナリティ(人格)が形成されていくという精神分析学者のカーンバーグの説と、環境的要因が最も作用しパーソナリティが形成されているという国際精神分析学会のコフートの説があります。気質的要因とは、人にもともと備わっているものの見方、感情の動きのことを言います。気質は先天的な特性と、あるいは後天的な経験が組み合わさりながら成り立っていると考えられています。例えばある物事をどのくらい細かくみられるか、どのくらい面白がれるか・関心を持てるか、没入できるかなどは人それぞれで、その度合いも異なります。物事に細かい神経質な人もいますし、その反対に大ざっぱな人もいますよね。気質として自己愛が低い人がいることがあってもおかしくありません。その感覚は人それぞれですが、家族でその気質は似ることもあります。参考:『意志気質検査の要因分析的研究』|久芳忠俊 山口大学ここで述べる環境的要因とは親と子どもの関係性や家族環境のことを指しています。環境的要因に関してはコフートとカーンバーグの考え方をそれぞれ紹介します。◇コフートが考える環境的要因コフートは例えば、幼少期の子どもの「お母さん(お父さん)見て!」という承認欲求に対して、親が肯定的に応えて「共感」の態度をとることは、自己愛の形成に大きな影響を与えているといいます。幼い子どもはみな誇大な自己を持っていて、なんでもできる気になっています。そして親に褒められたいと思うようになり、顕示し承認されることで自己愛を育みます。そして成長に伴ってその理想像が変化し、親から褒められることがそれほど重要なことと思えなくなっていきます。それがまさに自己愛の成熟の過程の一部です。しかし親が子どもへの「共感」の態度を示さないと共感不全の状態に陥り、自己愛が育ちにくいといわれています。自己愛が未成熟のまま成長すると親だけではなく他人からの称賛や注目を集めて自己愛を満たそうとしますが、それで自己愛が成熟することはありません。コフートは必要な精神療法を用いて自己愛を成熟させる治療は可能だと考えています。◇カーンバーグが考える環境的要因カーンバーグは本人の気質的要因と家族がつくりだす環境的要因の2つが作用していると考えています。気質的要因はこれまで述べた通りです。環境的要因として過剰な期待をのせて、才能を褒め立てて「特別な子ども」と言い聞かせて育てたり、体の弱い子に対して過保護になったりすることが挙げられます。良かれと思っていても過度にそういった行動をすると自己愛が成熟せず、未成熟の状態が続いてしまいます。以上のことから先天的な気質要因と後天的な環境要因の影響が加わって、人格および自己愛が形成されていくといわれています。参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害は見つかりにくい障害出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は本人が気づきにくい障害です。もともとの気質や慣れてしまった環境の中で、自らの生きにくさに気づくことはほとんどありません。自己愛性パーソナリティ障害は、その障害によって引き起こされた二次障害が表出することによって後から発覚することがほとんどです。自己愛性パーソナリティ障害が引き起こす二次障害とは、例えば自傷行為、うつ、パニック障害、摂食障害、不眠症、心身症、不安障害などが含まれます。これらの症状が表出することで医療機関を受診し、原因を探っていくと自己愛性パーソナリティ障害があった、ということが多いようです。特に自己愛性パーソナリティ障害がもつ誇大性や他者からの評価へ過敏などの症状は、少なからず誰にでもありそうなことです。しかしその考え方が原因で二次障害や社会生活に困難が生じている場合は「障害」になります。それゆえに、これまでは「そういう性格の人」として周囲からも認識されていることから、家族や周りの人も気づきにくいのです。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の診断基準出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の診断基準について説明していきます。診断基準は医療機関によって異なりますが、主に世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)やアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に基づいて臨床的に診断が下されます。ここでは『ICD-10』による診断基準を説明していきます。『ICD-10』では以下から5項目以上が認められれば自己愛性パーソナリティ障害である可能性が高いという基準になっています。次のうち,5項目以上が存在すること.(1)誇大な自尊心をもっていること(すなわり,業績や才能を実際よりも過大視し,相応の実績がないのに自分が優れていると認められているはずだと思う).(2)際限のない成功・能力・才気・美貌,あるいは理想の恋愛について,非現実的な考えにふけること.(3)自分は「特別」で比類がなく,他の特別な,あるいは地位の高い人々(または組織)だけが自分を理解でき,それらの人たちと付き合うべきだと信じている.(4)称賛を必要以上に要求する.(5)権利意識が強い.ありえないのに,自分に好都合な特別待遇を期待したり,または自分の要望がそのまま受け入れられることを期待する.(6)自分の目的を達成するために他人を利用する.(7)共感性の欠如.他人の感情や要求に気づいたり理解したりしようとしない.(8)よく他人をねたむ,あるいは他人が自分をねたんでいると確信する.(9)横柄で傲慢なふるまいや態度.『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版 p494)自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害は見分けるのが難しい出典 : 専門医でも見分けるのが難しいといわれている自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害について紹介していきます。境界性パーソナリティ障害とは対人関係、自己像などの広い範囲において、激しく考え方や感情が変化してしまう障害です。他人から見捨てられてしまうのでないかという不安と、自分が何者でどうふるまえばよいのか分からない自己イメージの不安定さが発症の背景にあるといわれています。「見捨てられる不安」とはどういうことかというと、自身が信頼をおいている相手には依存する症状がある一方で、常に根底では「自分が見捨てられてしまうのではないか」という不安を感じているということです。「自己イメージの不安定さ」とは、自己同一性(アイデンティティ)が確立していないことから、例えば一面的な評価を自分の全人格に対する評価として過剰に受け取ってしまいます。その度にひどく落ち込んでしまったり、同じ人からの評価にも関わらず、褒められたときはその人のことを好意的に思う一方で、問題などを軽く指摘されただけでその人に敵意を示し激しい怒りを感じたりします。境界性パーソナリティ障害は自己中心的で対人関係の問題から情緒不安定をまねくことなどから自己愛性パーソナリティ障害と共通点が多くあります。また原因も自己愛の未成熟が関わってくることから診療の現場では、この2つの障害の区別は難しいとされています。この2つの障害の違いは、境界性パーソナリティ障害は、自己否定を繰り返し考え続けることで情緒不安定を生みます。それに対して自己愛性パーソナリティ障害は、理想と現実のギャップを受け止められず、自己防衛のために誇大化した言動を繰り返し、自信があるようにうかがえるという点です。そもそもパーソナリティ障害はそれぞれ独立して存在するのではなく、重複している共通の症状があるため、複数のパーソナリティ障害が併存しやすくなっています。ですので境界性パーソナリティ障害に限らず、他のパーソナリティ障害が合併していることがあったり、判断が難しかったりする場合があります。参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)自己愛性パーソナリティ障害は発達障害と合併している可能性もある出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は、必要な親からの共感が得られなかったことが原因のひとつではないかという仮説があります。自閉症スペクトラム障害やADHDをはじめとする発達障害がある人は、その特性から、社会関係や対人コミュニケーションに困難さが生じる場合があるほか、親が育てづらさを感じて親子の関係がうまくいかなかったり、体の感覚が過敏で子どもがだっこを嫌がったりして、必要なコミュニケーションをとる機会を持ちにくかったりする場合があります。こうした、親子や対人関係上の困難さが積み重なることによって、子どもの自己愛が十分に成熟することができず、自己愛性パーソナリティ障害へと発展する可能性もあると考えられています。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害かも・・・相談先や医療機関、保険は効くの?出典 : パーソナリティ障害の診断は、専門医にも難しいものです。もしご自身やご家族に自己愛性パーソナリティ障害の疑いを感じた場合は、一人で悩む前にまずは専門機関に相談することをおすすめします。医療機関での受診先は精神科、神経科、心療内科などになります。「相談」のつもりであっても、形式は「受診」になるため、できるだけ本人を連れていくようにしましょう。「もしかして自己愛性パーソナリティ障害かも・・・?でも、医療機関を受けるほどのことでもないような気がする・・・」そのような場合は、各都道府県や政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター、または各市区町村に設置されている保健所・保健センターの相談窓口へ相談してみてください。もちろん、本人だけではなく家族が電話などで相談することもできます。次のリンクは全国の精神保健福祉センターの一覧になりますので、参考にしてみてください。参考:全国の保健福祉センター一覧また、本人が会社勤めの場合や高校や大学に通っている場合、学校や企業専属のカウンセラーに相談することもおすすめです。企業や学校のカウンセラーは、その人が所属している組織の内情にも通じているため、より適切なアドバイスをもらうことができる可能性が高いです。また、連携している医療機関を紹介してもらえる場合もあります。自己愛性パーソナリティ障害で医療機関を受診する場合は保険診療となります。ですが自己愛性パーソナリティ障害と診断されて治療を開始することは少なく、二次障害として現れるうつ病や摂食障害などの治療から始めることが多いです。この場合でも保険診療となります。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の治療法はある?出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は、その人の気質・家族環境によって表出する症状なども変わってきます。そのため治療も人によって異なり、さまざまな方法を組み合わせて治療が進められます。医師や心理技術者が患者さんの心理面に様々な働きかけを行い、患者さんの認知や思考、行動パターンなどの偏りを改善して少しずつ社会に適応できるようにしていく治療法です。1週間に1~2回、30分から1時間程度、治療者が患者さんと面接する形で行うのが一般的です。内容に関しては個々の治療者の判断によるところが多く、統一のガイドラインはありません。この治療法においては、以下の3点を患者さんと周囲の人々が理解する必要があります。・効果が表れるのに時間がかかる治療法であり、一般的には数年かかる・誰にでも効果が期待できるものではない・治療者との信頼関係がなければ効果は得られない個人精神療法は、精神科医が行うもっとも基本的な治療法の一つではありますが、「絶対的な治療法」であるという過度の期待を持つと、すぐに効果が出ないと治療を投げ出してしまったり、治療者を疑ったりと逆に治療が困難になってしまうことがあります。その場しのぎではなく問題を根本から改善しようとするものであるため、時間はかかりますが、本人が治療の意思を持って、治療者と信頼関係をしっかり結んで治療を継続していくことが必要です。集団精神療法とは、同じパーソナリティ障害を持つ人が複数人集まり、グループで話し合いをしたり、共同で作業をしたりする活動を通して、社会にうまく適応できない原因を見つけて解決する方法です。他の患者さんとコミュニケーションをとりながら、自分と同じ障害を持っている人を見つめることで問題に気付き、それを自分にあてはめて考えることができるようになります。集団精神療法での仲間体験は、患者さん自身の自己肯定感を持たせることにつながり、他人とコミュニケーションの取り方を練習する機会にもなります。また患者さん本人だけでなく、家族にも治療を行う場合があります。パーソナリティ障害がある患者は、その家族にも認知や思考のパターンに偏りがあることが多いためです。この偏りのために、家族の努力が患者さんの症状を逆に悪化させていることもあります。具体的には、治療者が家族全員と面接を行ったり、患者さんの付き添いで来院した際に話を聞いたりします。患者さんに思いをうまく伝える言葉のかけ方や、患者さんの気持ちを安定させるための振舞い方など、適切な対応法を治療者から指導します。なお家族療法は、患者さんが未成年のときに行われることが多いです。患者さんがある程度の年齢に達している場合は、患者さん自身が家族から自立する方向で治療が行われる傾向にあります。薬物療法は、強い不安や緊張、抑うつなど、程度の強い精神症状を一時的に和らげる目的で使われます。しかし、あくまで対症療法にすぎず、障害を根本から治すことはできません。治療の中心は精神療法で、薬物療法はその潤滑油としての役割を果たします。使われることのある薬の種類と働きは以下の通りです。■抗精神病薬主にドパミン系の神経に作用し鎮静させます。自傷行為などの衝動性が強くみられる場合に使われることがあります。リスぺリドンなどリスペリドン■抗うつ薬気分の落ち込みが続くときなどに用いられます。主にセロトニンなどの神経伝達物質を調整するSSRIやSNRIなどを使用します。・SSRI:フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール)、パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル)など・SNRI:ミルナシプラン塩酸デプロメールパキシルトレドミン■抗不安薬不安や焦り、イライラ感が強い場合に使われるが、依存や乱用、衝動的な行動を増すおそれなどがあるのでSSRIのパロキセチン塩酸塩水和物に切り替えていくこともあります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬(レキソタン)参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害克服のヒント出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の克服に向けては本人だけでなく、家族の協力も必要になってきます。克服していくためには障害と向き合う本人の意欲と家族が何ができるかを考えて実践していくことが重要です。ここでは家族が本人に向けてできること、家族ができることのヒントを紹介していきたいと思います。■家族が本人に向けてできることまずは本人が自分の障害になっていることを突き詰めて考えていくよう促します。その時に自分に障害があることを家族や誰かのせいにする、医師が何とかしてくれるという考え方を捨てて、自分自身の問題だと自覚し、自分で向き合っていくというスタンスをつくっていきます。これはとても時間が必要ですので、何度も何度も繰り返しながら新しい考え方をつくっていくように心がけることが大切です。■家族自身ができることこれまでの育て方や障害になったのは自分のせいだ、と思い悩まずに、障害がある本人のために何ができるかということを考えていきましょう。家族の在り方を見直し、本人だけをみるのではなく家族全体の「関係性」に視点を変えていきます。どのような関係性が出来上がっているのか、それをどのように調整していったら良いのかなど、改善できそうな点を挙げて実践していくことをおすすめします。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)まとめ出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の原因にはさまざまな説がありますが、どの説にもほぼ共通しているのは自己愛が形成されていく過程には親との関係性が大きな割合を占めているということです。共感が感じられなかったり、逆に過度な子どもへの干渉から自己愛の形成がスムーズに進まないことなどによって自己愛性パーソナリティ障害は発症するといわれています。「自己愛」は自己愛性パーソナリティ障害だけでなく、他のパーソナリティ障害の根本的な原因にもなりうるといわれています。人間がより幸福に生きていくためには心と体の健康を意識しなくてはなりません。幼少期に十分にコミュニケーションをとることやスキンシップをとることは、心の健康を育てていくことと繋がります。とはいえ、完璧な自己愛をもっていると言い切れる人は少ないとも言えるでしょう。どこかに何かしらの欠如があるからこそ、その人らしさが現れることもあります。自己愛性パーソナリティ障害に関しては、自己愛の未成熟さは治療によって成熟に向かうこともあるといわれています。治療はある意味でこれまでの生き方やその人らしい考え方の変化とも言えます。そのため、治療には長い時間がかかりますし、本人がより生きやすくなるためには家族の協力も必要になってきます。家族だけでは難しい場合は周囲の人と協力して環境を調整していく努力も重要です。今まで築いてきた本人や家族のスタイルを見直すことは容易なことではありません。しかしより良い環境へ変化させていくチャンスだと思って積極的に取り組んでいくことで、それぞれにとって生きにくさを解決するきっかけになることもあるのです。
2017年05月29日歯がぬけたお友達を見て絶叫する長男出典 : 年長になった頃、周りのお友だちの歯が生え変わりはじめました。保育園に長男を送り迎えに行くと、「見て見て!昨日歯が抜けたの!」「私はここがグラグラしてる!」「僕はもう◯本も抜けたよ!」と、文字通り「歯抜け」の口をイーっと見せてくれるお友だち。「格好いいね」「よかったね」「痛くなかったの?」と声をかけると、どの子もとっても嬉しそうです。思い返せば私も、歯が抜けたことに対して「オトナだ」と感じて喜んでいるような子どもだったなあとしみじみ。しかし我が家の長男は違いました。歯が抜けたお友だちの口の中を見て「怖い!」と後ずさり…。「Aくん(長男)の歯も、グラグラしてきて抜けて、大人の歯が生えてくるんだよ」と説明すると、「嫌だーーー!!ぜったい嫌だ!!Aくんの歯は抜けないよ!」と大絶叫。障害特性のある長男ですが、それを抜きにしても、「歯が抜ける」ことに怖い気持ちを抱くことはまあ不思議ではないかなとは思います。そうは言ってもいつかは生え変わる歯。体の大きい長男のことですから、いつその日がやってきてもおかしくないはずです。彼にはそのことが受け入れられるのだろうか。「嫌だ!」と叫ぶ長男を見て不安がよぎります。そうは言っても、抜けないこの歯はこのままで大丈夫?出典 : 長男と私の不安が伝わったのか、歯は抜けるどころかグラグラする気配すらありません。クラスでは早生まれのお友だちも次々と歯が抜けて大人の歯に生え変わっているというのに…。身長も高く、顎も大きくなってきた長男の口の中にはアンバランスな乳歯たちが、お隣さんとは距離を保って生えています。抜けるときは大変だと一時はかまえていたものの、さすがにそろそろ生え変わらなくて大丈夫かしら?すこし心配になってきていました。そしてやってきたXデー出典 : そして気づけば長男も小学1年生。いよいよその日がやってきたのです!下の前歯がグラグラし始めました。それに気づいた長男は怖がって歯を見せようともしてくれませんし、自分で触ることもしません。しかし日に日に揺れが大きくなる乳歯、もう今にも抜けそうです。ある日下校時のスクールバスで、運転手さんが「Aくん、歯が抜けそうだって担任の先生が言ってたよ」と声をかけてくださいました。そしてその日の連絡帳にも「歯が抜けそうでイライラしています」と。たくさんの人に見守られながら、乳歯はグラグラを続けています。そして、ついに息子の乳歯は、出典 : そしてその日の夜、「ママー、歯が抜けたーーー」意外や意外、「牛乳ちょうだい」くらいの普通のテンションで教えてくれました。私「えっ?見せて!痛かった?」長男「いたくなかった」私「すごいねえ!格好いいね!」長男「A君のね、歯がぬけた。いたくなかった。」あれだけ怖がっていた長男はとっても自信に満ち溢れた顔をしていました。乳歯が長男の成長を待ってくれたのかも出典 : その日は眠りにつくまでに100回くらい「A君のね、歯がね、抜けた。いたくなかった」と教えてくれました。そして翌日はスクールバスの運転手さんにも歯がぬけた口を見せて喜んでもらい、担任の先生にも「いたくなかった」と嬉しそうに言っていたようです。あれだけ怖がっていた歯の生え変わり、いざ抜けてみれば拍子抜けだったようではありますが、1年前ではなく今この時期に抜けてくれたことは彼の精神的なダメージを最小限にできたように思いました。そんなことを考えると、もしかしたら息子の心の準備が整うまで、乳歯は抜けるのを待っていてくれたのかな?とも思ってしまいます。子どもの乗り越える力を信じたい出典 : 親が知らないうちにどんどん心の成長を遂げていく子ども。ついつい親は先回りしがちですが、子どもの乗り越える力を信じることは大切だなと、日々感じます。ただ、歯がぬけた翌日の連絡帳には「実はA君、昨日は抜けそうな歯に絆創膏を貼ろうとしていたんですよ」と書いてあったのを見て「まだまだ子どもだな」と、ゆっくり成長する子どもを心から愛おしく感じるのでした。
2017年05月29日パーソナリティ障害とは出典 : パーソナリティ障害とは、一般の人と比べて著しく偏った考え方や行動パターンのために家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたした状態を指します。どんな人にでも性格の偏りはあるものですが、その偏りによって二次障害が現れたり、日常生活に支障が生じることではじめて「障害」と判断されます。米国精神医学会によって作成される『精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)』では、パーソナリティ障害は以下のように説明されています。パーソナリティ障害とは、その人が属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛または障害を引き起こす内的経験および行動の持続的様式である。出典:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)以上のように「苦痛または障害を引き起こす」という特徴により定義されるパーソナリティ障害ですが、周囲から見てパーソナリティ障害であるかどうかを見分けることは極めて困難であるとされており、パーソナリティ障害は理解のされにくい病気と言われています。パーソナリティ障害に対する理解を深める前に、「そもそもパーソナリティって何?」という疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。人間は誰でも、考え方や行動のパターンに何かしらの特徴・偏りを持っていて、そうした「その人らしさ」といえるような特徴を“パーソナリティ”と呼びます。「人付き合いの好きな人」「自己中心的な人」「神経質な人」「怒りっぽい人」などさまざまなパーソナリティがあります。今日の精神医学・心理学の分野では、パーソナリティは「性格」と「気質」という2つの要素が合わさったものと考えられています。「性格」はパーソナリティの心理社会的側面を、「気質」は遺伝的・器質的素因といった生物学的な側面を意味します。アメリカの精神科医ロバート・クロニンジャーは、性格を形作るものとして「自己思考」「強調」「自己超越」という3つの要素を、気質を形作るものとして「新奇性探求」「損害回避」「報酬依存」「固執」という4つの要素があると考え、合計7つの要素からなるパーソナリティ理論を提唱しました。この理論は、前者の3つの要素は体験からの学習として得られ、後者の4つは生まれつき備わっている要素なのではないかということを示唆しています。参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.22, 23以前は、パーソナリティ障害は英語名である“Personality Disorder”を直訳する形で「人格障害」と呼ばれていました。しかし、日本語の「人格」という言葉は人としての道徳観や良心の有無といった意味合いを含むため、「人格障害」という呼び名を用いることは当事者に対する否定的なイメージや偏見につながりかねない、と考えられるようになりました。現在は使われる頻度も減少しているようです。本記事では、それぞれ異なった特徴を持つパーソナリティ障害のタイプ別分類、各種パーソナリティ障害の概要やパーソナリティ障害の原因といった基本情報に加えて、パーソナリティ障害と発達障害との関連、具体的な治療法、周囲の接し方などについて、わかりやすく解説します。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:パーソナリティ障害(境界性/自己愛性)について|すぎうらメンタルクリニックパーソナリティ障害の分類出典 : 現在、精神科医療の現場で広く用いられている診断基準である『DSM-5』では、パーソナリティ障害は10のタイプに分類され、それぞれの特徴・傾向をもとにA・B・C群という3つのグループに分けられています。Upload By 発達障害のキホンそれぞれのタイプの詳しい症状などについては、関連記事を参照してください。A群:奇妙で風変わりに見えるA群は「オッド・タイプ」という別名を持ち、非現実的な考え方にとらわれやすいという特徴があります。統合失調症や妄想性障害といった精神疾患とのつながりが指摘されています。A群には以下の3タイプがあてはまります。・猜疑性パーソナリティ障害/妄想性パーソナリティ障害・シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害・統合失調型パーソナリティ障害B群:演技的で情緒的に見えるB群は「ドラマチック・タイプ」とも呼ばれ、感情的かつ衝動的なのが特徴です。そのため、周囲を巻き込んで迷惑をかけることが多いタイプであるといえます。B群には以下の4タイプがあてはまります。・反社会性パーソナリティ障害・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害C群:不安または恐怖を感じるC群は「アンクシャス・タイプ」と呼ばれることもあります。不安・恐怖心などが強く、自己主張は控えめなのが特徴です。自己本位というより他社本位なタイプといえるでしょう。A群には以下の3タイプがあてはまります。・回避性パーソナリティ障害・依存性パーソナリティ障害・強迫性パーソナリティ障害新たな種類のパーソナリティ障害上で挙げた10種類のパーソナリティ障害に加え、近年では「循環病質」という病前性格、すなわち疾患を発症する以前の性格をベースとしたパーソナリティ障害も増えていると言われています。この種類のパーソナリティ障害には、普段は社交的・活動的だが激しい気分変動が起きるという特徴があります。この種類には以下の2つのタイプが当てはまります。・サイクロイド・パーソナリティ障害・サイクロタイパル・パーソナリティ障害以上、DSM-5に従ってパーソナリティ障害の3つのグループと10の下位分類、そしてDSM-5にはない、新たな種類のパーソナリティ障害について紹介しましたが、世界保健機関(WHO)により作成される疾病分類であるICD-10など、他の診断マニュアルにおいては分類のしかたや下位分類の名称が違うこともあります。参考:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)パーソナリティ障害(人格障害)|慶應義塾大学病院複数のパーソナリティ障害が重なり合うこともある出典 : パーソナリティ障害は10のタイプに分類されていますが、実際のところ、パーソナリティの特徴が明確に見られる「典型例」といえるような患者さんばかりではなく、複数のパーソナリティの傾向を同時に持ち合わせている人もいるため、どのパーソナリティ障害なのかを見極めることが困難な場合もあります。もともと何らかのパーソナリティの偏りを持っていた人が、その偏りが原因で問題を抱えるようになった結果、二次的に新たなパーソナリティ障害の傾向を示すようになることもあります。なかには3~4つのパーソナリティ障害を併発する人もおり、そのようなケースではその人がもともと持っていたパーソナリティを特定することが重要となります。パーソナリティ障害のなかには、重複しやすいタイプがあると言われています。例えば、・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害・反社会性パーソナリティ障害といったパーソナリティ障害は「対人関係に支障をきたす」「自己中心的な考え方をする」「反社会的な行動をとる」など共通した特徴を持っており、相互に重複の可能性が指摘されています。さらに、自己愛性パーソナリティ障害と強迫性パーソナリティ障害が重なるケースも指摘されているようです。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害 正しい理解と付き合い方』ナツメ社 (2011)参考:パーソナリティ障害|厚生労働省パーソナリティ障害の原因出典 : パーソナリティ障害は、誰でもなる可能性があるといわれています。しかし、パーソナリティ障害の原因に関して、現時点では十分なことは明らかになっていません。それでも、さまざまな研究が進められていて、生物学的な特性や発達期の経験がパーソナリティ障害の発症に関与することなどが指摘されています。例えば、衝動的な行動パターンには脳内の神経物質の関与が認められること、幼少期の辛い経験が発症に影響を及ぼすといった研究結果が報告されています。パーソナリティ障害の原因に関する研究でしばしば用いられるのが遺伝的要因と環境的要因という分類です。遺伝的要因とは遺伝子による影響だけを指し、それ以外の要因はすべて環境的要因として捉える考え方です。すなわち、環境要因のなかには生まれ育った環境、親との関係、病気やケガ、社会的影響などすべてが含まれます。遺伝的要因が関与する割合については、双生児による研究を通して推定されることが多いです。ある疾患の遺伝率を求める場合、一卵性双生児と二卵性双生児で、一人がその疾患にかかっているとき、もう一人の兄弟がその疾患にかかる割合(一致率)を調べます。遺伝性が高い疾患では、二卵性に比べて一卵性双生児での一致率がとても高くなります。一方で、遺伝率が低い疾患だと、一卵性双生児と二卵性双生児との間で一致率にあまり差は見られません。このような方法を用いた研究によれば、パーソナリティ障害の遺伝率は50~60%ほどという結果もあるようです。このことから、程度遺伝的要因はパーソナリティ障害に関連するが、それだけではない環境要因も影響すると言われています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82子どもの性格の形成に関して、親との関係は大きな影響を与えるといわれています。そのため親子関係の変化する各段階におけるなんらかのつまづきによって偏ったパーソナリティが形成されて行く可能性も少なくないと考えられます。例えば、乳児期に適切な世話や愛情を受けることができないと、安定した愛着が構築されず、外界や他者に対して不安や恐怖を抱くなるようになってしまう可能性があることが専門家によって指摘されています。しかし、その可能性は様々にあるパーソナリティ障害の要因の一つにすぎません。また、どのような要因があるにせよ、原因探しが必ずしも治療の手助けになるわけではありません。時をさかのぼって過去をやり直すことができない以上、原因は原因として客観的に受け止め、「現実の問題に対して対応していく方法」について考えていくことが大切なのではないでしょうか。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)パーソナリティ障害と関連するその他の障害出典 : パーソナリティ障害には、合併しやすい障害や疾患があると言われています。また、その他にも症状が似ている障害の存在も指摘されています。本章では、前半で合併しやすい障害・疾患について、後半で症状の似たものについて紹介します。それぞれの障害・疾患について詳しく知りたい方は、関連記事をご参照ください。■うつ病気分障害の一つであるうつ病は、パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。■双極性障害双極性障害はうつ病と同じく気分障害の一つであり、気分が高まる「躁(そう)状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。サイクロイド・パーソナリティ障害、サイクロタイパル・パーソナリティ障害の場合、双極性障害へと進展するケースが指摘されています。■統合失調症幻覚や幻聴、気分の落ち込みがある統合失調症。妄想性パーソナリティ障害、スキゾイド・パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害から進展することがあるといわれています。■不安障害不安が異常に高まってしまう疾患である不安障害はパーソナリティ障害と合併することがあります。不安障害とはどのような疾患なのか|せせらぎメンタルクリニック■強迫性障害自己愛性パーソナリティ障害に合併しやすいといわれています。■摂食障害摂食障害の症状の中でも、「過食」は境界性パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害に合併しやすいようです。摂食障害|厚生労働省■アルコール依存・薬物依存アルコールや薬物への依存症状は、反社会性パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82■妄想性障害妄想性障害は、妄想性パーソナリティ障害や妄想型統合失調症と症状が似ています。妄想性障害(パラノイア)とはどういう病気なのか|せせらぎメンタルクリニック妄想性障害のほかにも、発達障害はパーソナリティ障害と似た特徴・傾向がみられることがあります。パーソナリティ障害と発達障害との関係については、次章で解説します。パーソナリティ障害と発達障害の関係は?出典 : 発達障害とは脳機能に先天性の障害があるために、幼児期から発達に何らかの遅れや困難が生じることを指します。その症状は、通常低年齢の発達期において発現することが多いといわれています。他者と考え方や感じ方か違う、自己中心的になりやすい、衝動的な言動がみられるといった特徴・傾向は、パーソナリティ障害・発達障害の両方でみられることがあるため、見分けるのは容易ではありません。また、発達障害のある子どもは、学校でいじめを受けたり、勉強についていけなくて周囲に叱責されたりと、自尊感情が損なわれやすい傾向があります。そのために自我がうまく育たず、他者と友好関係を築くのが苦手になり、しだいにパーソナリティに偏りが生まれてしまう場合もあるようです。上記のように、発達障害をベースとして二次的にパーソナリティ障害と同様の症状が現れている場合には、発達障害の治療と並行してパーソナリティ障害への対応に準じた対応策が必要とされます。パーソナリティ障害かもと思ったら?相談先は?出典 : パーソナリティ障害であるかどうかを、当事者本人が自覚したり、周囲の家族や友人が判断することはきわめて難しいといわれています。身近な人に抑うつ症状や衝動行為をしていて、それが心配になるレベルである場合には、精神科か心療内科に受診して専門医の診断を仰ぐことが好ましいでしょう。すぐには診断は出ませんが、それでも相談したり、強い症状をある程度治療によって抑えることができる場合もあります。精神的に安定した状況を取り戻し、ほかの障害の併発を防ぐためにも、できるだけ早期の受診が望まれます。はじめから医療機関に行くことに対して抵抗を感じる場合は、精神保健福祉センター・保健センター・地域活動支援センターなどといった地域の相談窓口を利用してもよいでしょう(名称は地域によって異なることがあります)。地域にある相談先|厚生労働省全国の保健福祉センター一覧|厚生労働省パーソナリティ障害の診断の流れと診断基準出典 : 前章でも述べた通り、パーソナリティ障害の疑いがある場合は精神科もしくは心療内科を受診するとよいでしょう。基本的に、初診でパーソナリティ障害の判断がつくことはあまりありません。初診時の面接では現在困っていること・悩んでいること・気分の状態などについて聞かれることが多いようです。医師は、面接を繰り返す中で、気持ちや考え方に変化がないかなどを確認しながら診断を進めていきます。また、患者さんは過去の出来事や幼少期の親子関係などについて聞かれることもあります。患者さんの話だけでは性格や気質を捉えきれないと医師が判断した場合には、心理テストを行い、その結果を判断材料とすることもあります。問診や心理テストの結果を分析し、DSM-5、あるいはWHO(世界保健機関)が作成する疾患の分類であるICD-10の診断基準に照らし合わせながら最終的な診断が下されます。DSM-5では、パーソナリティ障害の全般的基準は以下のようにまとめられています。A. その人の属する文化から期待されるものから著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)(3)対人関係機能(4)衝動の制御B. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。C. その持続的様式が、臨床的に意味のある著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。D. その様式は安定し、長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。E. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。F. その様式は安定し、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理的作用によるものではない。引用:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)この診断基準に当てはまる場合、さらに10タイプある下位カテゴリーそれぞれの診断基準に照らして、慎重に診断されます。パーソナリティ障害の経過と治療法出典 : パーソナリティ障害は自然に治るものではありませんが、症状や困難性は、適切な治療を受けることで改善させることができます。しかしながら、すべての人に有効な決定的な療法は見つかっておらず、同じ治療法でも人によって効果は異なります。根本的な治療法は精神療法、対症療法としては薬物療法が用いられるのが基本ですが、さまざまな治療法を組み合わせながら、その人に合った方法で治療が進められます。より具体的には、以下のような治療法が代表的といわれています。■個人精神療法医師や心理技術者といった治療者が患者さんとの面接を通して患者さんのパーソナリティ障害に対する理解を促したり、認知や思考・行動パターンの偏りや問題点の改善を目指していく根本的な治療です。面接は、治療者と患者さんの1対1で1週間に1~2回、30分~1時間程度行われるのが一般的なようです。この治療法では、患者さんと治療者の間に信頼関係があることが前提条件になります。■集団精神療法その名の通り、集団で行うことが特徴の治療法です。患者さん、治療者に加え、ほかの患者さんも交えたグループで話し合いをしたり、共同作業を行ったりという活動の中で生まれる患者さん同士の相互効果を治療に生かします。同様の障害を持つ人と交流することで、障害を客観的に理解したり、「人の振り見て我が振り直せ」効果を期待することができます。■家族療法家族療法では、患者さん本人のみならず、家族に対しても治療を行います。患者さんと家族との関係性を捉え、そこに存在する問題の解決を目指す治療法です。家庭における家族一人ひとりの役割を見直し、正常化することで、患者さんの精神的な安定をはかります。具体的には、治療者が家族と面接を行ったり、家族内での問題への対処法に関する助言や指導を行ったりします。パーソナリティ障害を根本から治す薬は現在のところありません。薬による治療はあくまで対症療法になりますが、強い不安や緊張、抑うつなどといった精神症状を一時的に和らげる目的で投薬治療を行うことがあります。認知行動療法とは、患者さんの認知のしかたの「ゆがみ」の改善をはかる治療法です。患者さんに自分を客観的に観察してもらい、認知のゆがみがいつ、何をきっかけに起きたのかを記録し、そのゆがみについて自覚してもらいます。そのうえで、そうしたゆがみを改善するための認知のしかたや行動の取り方を、ロールプレイングなどを通して実践的に身につけていきます。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)パーソナリティ障害のある人に対する、周囲の接し方は?出典 : パーソナリティ障害は、本人にとっても周囲にとっても理解しにくい障害であり、本人に対する接し方においてもさまざまな配慮が求められます。家族が医師の話を聞きながら適切な対応をとっていくことが大切です。家族がパーソナリティ障害の患者さんと向き合い、支えていくうえで最初のステップとなるのが、パーソナリティ障害について正しく理解することです。程度に差はあれど誰もが持っている「考え方の偏り」によって社会活動に支障が生じるパーソナリティ障害は、誰にでも起こりうる障害であるといえます。「治療には時間がかかる」「本人には自覚が乏しいこともある」「治療においては周囲のサポートが重要」といった特徴について理解しておくことで、治療が進みやすくなります。本人が医療機関の受診を拒むケースも少なくありません。患者さんが、自分が抱えるトラブルの原因は自分ではなく周囲にあると捉えていることも多いです。そうした状況下で周囲によって受診を強くすすめられると、「どうして自分が病院に行かないといけないんだ!」とますますかたくなになってしまう可能性もあります。家族は、本人が医療機関を受診する前から「病気」や「障害」と決めつけるようなことはせず、「あなたの悩みを軽減・解消するために行ってみない?」といった促し方をしてみましょう。受診について切り出すタイミングに関しては、患者さんの気持ちが安定していて、落ち着いて会話ができる状態が好ましいでしょう。パーソナリティ障害の人のなかには、家の中にひきこもり、社会活動に参加を拒む人もいます。患者さんがひきこもるのには、さまざまな理由が考えられます。例としては、自分が他者に受け入れてもらえるか・どう評価されるのかということを過剰に心配してそとの社会との関わりを避けるケースや、もともと人付き合いが嫌いもしくは苦手で、対人関係のストレスを避けるケース、仕事上の失敗などが原因で自信を失い社会に戻ることを拒むケース、外の世界に興味・関心が持てなくて外に出る気持ちが起こらないケースなどが挙げられます。患者さんがひきこもっているとき、家族が無理に外へ連れ出すのは好ましくないとされています。その人がひきこもっているのにはそれなりの理由があるはずなので、その気持ちを尊重し、理解しようとする姿勢を示すほうが解決につながりやすいでしょう。社会での対人関係やコミュニケーションをとることに対する不安からひきこもり状態になっているときには、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)を受けることが状況の改善につながることもあります。パーソナリティ障害の人のなかには、激しい怒りなどの感情とともに、暴力を振ったり暴言を吐いたりする人がいます。こうした暴力や暴言も衝動行為の一つで、自分の感情をうまくコントロールできないために直接的な行動によって発散している状態です。親や交際相手、自分の子どもなど、身近な人ほど対象になりやすいです。パーソナリティ障害の人が粗暴な言動をしたとき、周囲の人は極力冷静に対応することが求められます。家族まで感情的になって同じように暴力や暴言で対抗してしまうと、患者さんはさらに動揺し、不安を強め、精神が不安定になり、さらに衝動的になるという悪循環に陥ってしまう可能性があります。解決を目指すうえでは、容易なことではないとは思いますが、専門家との連携をとりながら、患者さんをつねにあたたかく見守っていく姿勢をくずさないようにすることが重要です。患者さんを安心させることで衝動行為の抑制をはかりましょう。まとめ出典 : 人はみなそれぞれ異なる性格を持っています。それぞれ異なる考え方を持っています。ただ、同じような傾向の性格を持っていたとしても、その性格の偏りによって家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたしてしまう場合は、パーソナリティ障害と判断されます。治療に際しても、一人ひとりの症状や考え方の違いに応じて、異なった対応が必要になります。専門の医師による治療やアドバイスを受けながら、患者さん本人や周囲の人たちもその症状を理解し、焦らずじっくりと対応していくことが大切です。
2017年05月28日不安が強くて出かけられない子ども出典 : パニック障害や不安神経症の人は外に出かけられなくなることがあります。それは、「外に出て具合が悪くなったらどうしよう」という強い不安があるからなんです。小学校4年生でアスペルガー症候群と診断された娘の場合は、いつ始まるかわからない腹痛が大きな不安の種となっています。また、人がたくさんいるところ、騒がしいところ、電車・車などの乗り物がとても苦手です。生まれつきの気質もあったと思いますが、外出できなくなるほどひどくなったのは登校へのプレッシャーが強くなった3年生からでした。それまでは電車に酔いながらも遠方への旅行も行くことができていました。しかし、精神的なストレスが強くなり不安がよりいっそう大きくなったことが、出かけることができないほどに娘を追い込んだのだと思います。小3で引きこもった娘が出かけるようになった理由出典 : 娘は小3で引きこもってからというものの、お医者さんの診察や年に1度くらいの散髪など、必要最低限しか出かけなくなってしまいました。外に出てお腹が痛くなることも怖かったようですが、人がいるところに出ていくのが嫌なようで、外にいても元気や活力を全然感じることができませんでした。転機となったのは、中2になった時です。学習支援を受けることになり、自転車で30分ほどの場所まで通うことになりました。娘自身も、「将来のことを考えて勉強しなくては」と思っていたようで、何度か休みながらも月1回、私と一緒に通い続けました。そして、「私は勉強している」ということが自信となり、それまでよりは出かける回数が増えていったのです。「映画館に連れて行ってくれる?」と言われた時は耳を疑うくらいビックリしました。途中退場も覚悟の上だったのですが、「ちょっとしんどかったけど楽しかった」と笑う娘を見てとてもうれしかったのを覚えています。ただ、出かけたあとは大量にエネルギーを消耗するようで、1回のお出かけで行ける場所は2ヶ所まで、時間はだいたい3時間が限界でした。そして出かけたあとは1週間は寝込んでいましたね。怖がりで慎重な性格の娘のカバンの中は、トイレに行きたくなったときに読む本、胃薬(処方してもらったものと市販薬両方)、水、飴など不安解消グッズでいっぱい。でも、そういう工夫が自分でできるようになったことにも成長を感じていました。娘みずから大チャレンジを提案!その内容とは出典 : そんな娘が中3になったゴールデンウィーク前のことです。「ママ、遊園地にキャラクターショーを見に行きたい」と娘が言いだしました。昔はよく行っていた遊園地ですが、電車3本を乗り継ぎ1時間強かかる遠さです。確かに、娘はそのキャラクターのためなら映画館も行きますし、ショッピングセンターでのショーも見に行くようになっていました。遊園地の大きな舞台のショーを見たいから、遠出にもチャレンジする気になったのでしょう。ですが、私は正直、不安でいっぱいでした。電車に3駅ほど乗るだけで真っ青になるこの子が無事に行って帰ってこれるのだろうか。でも同時に、私は娘の「行きたい」という気持ちを大事にしたいとも思ったのです。そして、無謀とも言えるこのチャレンジに娘と2人で挑戦してみることにしたのでした。行きは順調!でも帰るころになると…出典 : 行きは少し混んだ電車でも「乗ろう」とやる気を見せていた娘。ですが、乗り換えが重なるごとに口数も少なくなってきました。遊園地の手前では、「ちょっともたれかかっていい?」と私の方にぐったりもたれかかる様子に少し不安になりました。遊園地は朝一番でまだ人は少なかったのですが、娘のテンションは低く、「早くショーのあるステージに行こう」と不安そうでした。もともと遊園地の乗り物は嫌いで、小学生になっても幼児用の乗り物にしか乗れなかった娘は、周りのアトラクションには全く興味を示しません。不登校になるまでは露店や動物コーナーなどには興味いっぱいで、フリーパスを持って幼児用の乗り物を堪能し、あちこち走り回っていたので、その差にちょっと悲しくなりました。そしてお目当てのショーを2人で見ることに。しかし、ショーが終わるとすぐに「もう帰ろう」と満足ながらも疲れた顔。帰りの電車に乗ってしばらくすると「もう降りたい」と言い出したのです。途中下車してトイレに行ったり、ベンチに寝かせてみたりしましたがもう動くこともできません。駅の救護室で長い間休ませてもらったのですが、ひどい吐き気が治まらずとうとう救急車を呼ぶことになりました。やはりストレスが原因のようで、病院では「吐き気止めを飲んで少し休んでもらうことしかできませんね。入院するほどではないですし」と言われました。それでも病院に運んでもらってベッドで休んでいるという状況に安心したのか、娘も次第に落ち着いてきました。そして、「タクシーで帰る」と自分で答えを出したのです。タクシー代は大変痛かったですが、駅員さん、救急隊員さん、病院の方に親切にしていただき感謝の気持ちでいっぱいでした。自分の楽しみのために出かけられるようになってほしい出典 : 次の日、娘は私に言いました。「いきなり遠いところにチャレンジしたのは失敗だった。今度はもう少し近いところにしたい」「でもイベントに行けたのはうれしかったし、楽しかった」「いろいろな人に迷惑をかけてしまったのが残念」ああ、この子は何もかも分かっているんだ。たとえ失敗があったとしても、外出することを決して諦めていないことに、私は嬉しく思いました。今回は失敗だったように見えるかもしれませんが、決して無駄ではなく、次の1歩を踏み出すための大切な経験だったと感じます。それと、「もし外で具合が悪くなっても助けてくれる人たちがいる」ということを実感できたことも、娘にとってプラスになったと思います。以前、ひきこもりの子どもへの支援講演会で聞いたのですが、「次も一緒に行ってくれる?」と言えるようになったらひとりで行ける日も近いのだそうです。これから先、高校などのこともどうしようか考えてはいますが、まずは娘が自分の楽しみのために出かけられるようになってほしいと願っています。それがきっと娘に生きていくための楽しみと力を与えてくれると信じています。もちろん、「ママ、もういいよ」といわれるまではどこにでも付き合う覚悟です。
2017年05月26日成長障害とは?出典 : 成長障害とは、各年齢の標準身長と比べて、極端に身長が低かったり高かったりすることを指します。子どもが大きくなることを、「成長」「発達」などとさまざまな表現で表わします。広義では、子どもが大きくなるという意味合いはどちらにもあてはまりますが、正確には違いがあります。「成長」は、見た目からわかるような、身体のサイズが大きくなることを指します。一方、言葉が上手に話すことができるようになったり、友達とうまく付き合うことができるようになったりするなど、身体の機能や精神面が育つことは「発達」と言われています。林泰史、長田久雄/編『最新 介護福祉全書 9発達と老化の理解』2013年/メヂカルフレンド社つまり、成長障害の「成長」が指すのは、身体の、主に身長の伸びのことです。それゆえ、成長障害は身長の伸びに対する何らかの障害を指します。成長障害についての本やウェブサイトには、低身長を中心に取り上げられていることが多いですが、成長障害には平均身長から極端に外れるような高身長も含まれます。成長障害の判断は、子どもの身長と年齢をグラフ化した「成長曲線」をもとに行われます。成長曲線を通して、その子どもの身長がどんなペースで伸びているのか、平均とどのくらい違いがあるのかを明らかにし、成長障害といえるのかどうか判断します。つまり、自分の子どもが他の子どもと比べて身長があまりに低い・高いからといってそれが必ずしも成長障害であるとは限りません。あくまでも子ども1人の成長の記録を見ることで、身長の伸びに異変がないかどうかを見ていくことが大切です。成長曲線を活用した小児成長障害の診かた成長障害の理解のために押さえたい!成長曲線・SDとは?出典 : 子どもの身長の伸びを正確に理解したり、成長障害であるのかどうかを判断したりするためには「成長曲線」と「SD」についての理解が重要となってきます。一見わかりにくい「成長曲線」と「SD」について、詳しく説明します。成長曲線とは、子どもが生まれてから身長の伸びが止まるまでの間、身長と体重の伸び方や増え方をグラフ上に記録したもののことです。通常、身長の伸びが止まるとは、思春期を過ぎ、子どもの身長の成長速度が1年間で1cm程度になった年齢を目安としています。大半の成長曲線の年齢軸には0歳から18~20歳までの目盛がふられているため、おおよそこの年齢の間、身長を記録していきます。よく使われる成長曲線は、横軸に年齢、縦軸に身長が記入できるようになっています。成長曲線から、子どもの年齢が増えるにつれて、どのくらいのペースで成長しているのかを客観的に確認することができます。成長曲線に子どもの身長を記録することで、平均の身長と比べて身長が低すぎるのか、高すぎるのか、などが明らかになります。このように子どもの成長を目に見える形で記録すると、身長の伸びに異変が起きた時、早めに気づくことができます。もし、成長障害が何らかの病気が原因でもたらされている場合、その病気の早期治療にもつながります。そのため、子どもの身長を計測した時に、ただ数値を記録するだけでなく、成長曲線というグラフで記録することが重要です。公益財団法人日本学校保健会特集第1回「成長曲線」~学校での成長曲線の活用~SDとは、標準偏差(StandardDeviation)の略称を指します。成長障害や子どもの身長に関してSDは、子どもの身長が、平均身長と比べるとどの程度低いのか、高いのか、客観的に判断するための基準という役割を果たします。先ほどもご紹介したように、成長障害には大きく分けて低身長と高身長という2つのパターンがあります。医学的に診療の対象になる低身長は、-2SD以下、高身長は+2SD以上と言われています。医学的に基準が設けられた低身長や高身長はそれぞれ、同い年の子どもの中で2%程度いると言われています。野瀬 宰/著『子どもの身長が気になったら読む本 親がわが子にしてあげられること』2012年/幻冬舎成長障害の原因とは?出典 : 成長障害になる原因には、何が考えられるのでしょうか。低身長と高身長に分けて、それぞれの原因や隠れている可能性のある病気に関して説明します。低身長とは、その年齢の子どもの平均身長に対して極端に身長が低い状態を指します。医学的には、-2SD以下の身長の伸びを記録していると、低身長と認められます。低身長は、原因別に考えると以下の3つが挙げられます。・特発性低身長(原因不明)・家族性低身長・病気が原因で起こる低身長低身長は、特発性低身長と呼ばれる、これといった原因がない・体質的なものである、という場合が大半です。また、身長の伸びはある程度親の影響を受けるものなので、両親が小柄な場合、子どもも小柄になることがあります。一方、病気が原因で低身長になっている場合は、以下のような病気が考えられます。■成長ホルモンや甲状腺ホルモンの病気出産の時に仮死状態になったり、事故など何らかの原因で脳が傷ついてしまったり、脳腫瘍など脳の機能障害になったりすることにより、成長ホルモンが分泌される脳下垂体という部分に障害が残ることがあります。そうなると、成長ホルモンの分泌が十分に行われず、低身長につながります。低身長の原因に病気が関わっている場合、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌が低下することで発症する、成長ホルモン分泌不全性低身長症と甲状腺機能低下症が一番多いと言われています。このようなホルモンの分泌不足が原因で低身長になっている場合、成長ホルモンや甲状腺ホルモンを治療で補うことで、身長の伸びを促進することができます。成長ホルモンなどにまつわる詳しい治療方法はこの後解説します。■染色体の病気(ターナー症候群、プラダー・ウィリ症候群)ターナー症候群とは、染色体の全体または一部が欠けることによって、低身長や女性ホルモンの不足といった特徴を引き起こす疾患です。女性だけに発症するという特徴があります。ターナー症候群が原因で低身長を引き起こした場合も、成長ホルモン治療や女性ホルモン治療など、足りないホルモンを外から補う方法が効果的な治療法とされています。プラダー・ウィリ症候群とは、15番染色体という染色体の異常により発症する症候群です。症状は、低緊張、また、お乳を吸うための筋肉が弱い哺乳障害、幼児期からの過食と肥満、発達の遅れ、低身長などが特徴とされています。プラダー・ウィリ症候群によって低身長になっている場合も、成長ホルモン治療が有効とされています。他にも、食事や運動療法を通じて症状の改善が見られる場合もあるようです。難病情報センタープラダー・ウィリ症候群■子宮内発育不全(SGA性低身長症)母親のお腹の中でゆっくりと成長したため、お腹の中にいた期間の割に小さく生まれてきた赤ちゃんがいます。このような赤ちゃんは、8割以上が2,3歳までに急速に成長し、標準身長に追い付く一方、2,3歳になっても標準身長に追い付くことができない場合もあります。この、標準身長に一定の年齢になっても追い付くことができず低身長になることを、SGA性低身長症と言います。SGA性低身長症は何も治療をしないと低身長のまま大人になる可能性が高いだけでなく、肥満や思春期が早く来る、糖尿病になりやすいなどの傾向があります。SGA性低身長症に関しても、成長ホルモン治療が平成21年度から認められたため、医師からの診断を得次第、成長ホルモン治療をすることができます。■骨や軟骨の病気(軟骨異栄養症、軟骨無形成症)骨や軟骨そのものに何かしらの異常があることが原因で、低身長になることがあります。骨や軟骨の病気で低身長になっている場合、胴体にくらべて手足が短いなど、体のバランスに気になる点が見られることが特徴です。このような骨や軟骨の病気に関しても、成長ホルモン治療が有効とされているほか、整形外科での治療を施すこともあります。■心臓・肝臓・腎臓などの臓器の異常心臓や肝臓などの重要な臓器に病気があると、体に十分な栄養を取り込むことができないために身長の伸びが悪くなり、低身長になることがあります。このような場合、何よりもまず臓器の病気への治療を行います。治療をし、病気の回復に伴って身長の伸びも良くなることが考えられます。一般社団法人日本小児内分泌学会低身長高身長とは、低身長の反対でその年齢の子どもの平均身長に対して極端に身長が高い状態のことです。医学的に+2SD以上の身長記録があると、高身長であると認められます。高身長も低身長と同様に、原因ごとに以下の3つのパターンがあります。・特発性高身長(原因不明)・家族性高身長・病気が原因で起こる高身長特に高身長の場合は、低身長の時よりも不安を感じることが少なく、「すくすくと大きく育っている!」とむしろ喜ばしく思うことが大半だと思います。もちろん、高身長の多くの場合は病気と関係なく起こりますが、高身長にも病気が影響していることがあります。考えられる病気には、以下のようなものが挙げられます。■ホルモン分泌に関する病気成長ホルモンの分泌過剰による下垂体性巨人症や、甲状腺ホルモンの分泌過剰による甲状腺機能亢進症(バセドウ病)が考えられます。低身長の場合とは反対で、成長に関するホルモンが必要以上に分泌される病気が影響し、高身長になります。また、高身長の原因として、思春期早発症ということも考えられます。思春期早発症とは、性ホルモンが突然過剰に分泌されることで、思春期に見られる身体の変化が早期に起こることです。思春期の身体の変化の一つとして身長の伸びが目立って見られる、ということがありますが、思春期早発症の場合、この目立つ身長の伸びも早く見られるため、極端な高身長につながる可能性があります。■染色体・遺伝子に関する病気染色体や遺伝子など、いわゆる先天的な病気が原因で、高身長になっていることもあります。高身長につながる先天的な病気には以下のようなものがあります。・マルファン症候群・ホモシスチン尿症・ソトス症候群・ベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群・クラインフェルター症候群いずれも難病指定をされていたり、小児特定慢性疾患であったりする、発症率から見ると比較的まれな病気であると言えます。いずれも専門的な治療を必要とするため、もしこのような病気への不安がある場合、難病や小児特定慢性疾患に関する専門的な診断・治療を行っている病院へ相談に行くことをおすすめします。難病情報センターマルファン症候群小児特定慢性疾患情報センターホモシスチン尿症難病情報センターソトス症候群小児特定慢性疾患情報センターベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群子どもの身長が伸びるメカニズム出典 : 子どもの身長はいつ、どのように伸びていくのでしょうか。ここでは乳幼児期・前思春期・思春期の3つの時期ごとに、それぞれ成長にどのような特徴があるのか見ていきましょう。新生児期、そして乳幼児期は、一生のうちで最も成長スピードが速い時期と言われています。赤ちゃんは平均して約50cmで生まれてきますが、1歳時の平均身長は約75cmと、1年間で25cmも身長が伸びるとされています。そして、1歳から2歳、2歳から3歳と、成長につれて身長の伸びはゆるやかになります。乳幼児期を過ぎた後から思春期に入るまでは、男女ともほぼ一定のスピードで比較的ゆるやかに身長が伸びていきます。この時期の成長には成長ホルモンの分泌が大きな影響を与えると言われています。成長ホルモンを安定的に分泌させ、健やかな成長を促すためには、睡眠や食生活など日々の生活習慣が大切です。それゆえ、この時期の子どもには、正しい生活習慣が身に着くよう親としてもはたらきかけていくことが子どもの成長にとって大切な要素であると言えます。思春期になると、だんだんと男性・女性らしい身体つきになっていきます。思春期には男女ともに身体の変化が見られますが、身長に関しても例外ではありません。思春期では、急にスパートがかかったように身長が伸びていきます。思春期は女の子が10歳~14歳、男の子が11歳~16歳ごろを指します。思春期が始まってから終わるまで、女の子は約25cm、男の子は約30cm伸びると言われています。このような身長の急激な伸びとともに骨が大人の骨になっていき、やがて成人身長に達するのです。野瀬 宰/著『子どもの身長が気になったら読む本 親がわが子にしてあげられること』2012年/幻冬舎成長科学協会子どもの成長・発達一人ひとりの子どものために成長曲線を描こう成長障害の治療・費用・保険ってどうなっているの?出典 : 成長障害の疑いで初めて診察を受ける場合、まず子どもの体型や顔つきを診ることで、成長障害の原因が先天的なものによるのかどうかを確認します。また、生まれてから現在に至るまでの身体成長の様子を調べるとともに尿・血液検査、X線検査などを行い、病気が隠れていないかを調べます。成長障害が起こる背景に何らかの病気が関連していない場合は治療不要と見なし、経過観察という措置が取られます。成長障害に治療が必要とされる場合、多くの場合はホルモン治療という方法が用いられます。低身長の場合、成長ホルモンや甲状腺ホルモン、性ホルモンなど足りないホルモンを補うことで身長が伸びるようにしていきます。低身長のホルモン治療で最も多いとされる成長ホルモン治療は、決まった量の成長ホルモン剤を1日1回、お尻や太もも、お腹などに自己注射するという治療方法です。ただ、成長ホルモン治療を始めたからといって、すぐに効果が出るわけではありません。身長の伸び方には個人差があり、伸び率も一定とは限らないため、数年を見越して根気強く治療をしていく必要があります。高身長の場合は、その原因の病気によって治療方法は異なってきます。中でも投薬治療が多く、ホルモンの分泌を抑える薬を飲むことで過剰な身長の伸びを防ぐことが期待されています。野瀬 宰/著『子どもの身長が気になったら読む本 親がわが子にしてあげられること』2012年/幻冬舎成長障害の治療にかかる費用や保険は、原因の病気によって変わってきます。病気が原因の成長障害の治療によく利用される成長ホルモン治療は、長期的な治療になることが多いため自然と治療費用も高くなると考えられます。また、病気によっては基準を満たせば小児慢性特定疾患として公費負担が認められることもあります。成長障害を引き起こしている病気にどのような支援が受けられるのか、専門家に詳しく聞いてみることをおすすめします。また、小児慢性特定疾患として認められない場合でも、健康保険を利用した治療が可能なこともあるので、合わせて聞いてみましょう。額田 成/著『子どもの身長を伸ばすためにできること―小児科専門医が教える食事と生活習慣』2004年/PHP研究所子どもの成長を見守るうえで気をつけたいこと出典 : 親にとって、子どもの身長が伸びるということは、「大きくなったなあ」と実感できる、嬉しいことだと思います。一方で、子どもの身長がなかなか伸びず不安に思ったり、周りの子どもと比べて心配になったりする親御さんも少なくないと思います。親が子どもの成長を見守るうえで大切なことは、子どもは一人ひとり成長のスピードが違うこと、子どもの身長を周りの同い年の子どもと比べて心配しすぎる必要はないということです。背の順で並ぶといつも1番前・後ろになるなど、周りの子どもより身長が低い・高い、といっても必ずしも成長障害であるわけではありません。また、小学生や中学生ごろになると、学校で身長順に並ぶことも増え、子ども自身が自分の身長にコンプレックスを抱くこともあるかもしれません。そんな時、親として子どもの身長に関して正しく理解したうえで、良いアドバイスと励ましをしてあげたいですね。例えば、「男の子は高校生くらいまで身長が伸び続けるらしいよ。」「身長がぐんぐん伸びる時期は人それぞれ。あなたは少し早めに背が伸びたけど、これからあなたを追い越すほど身長が高くなる人だっているんだよ。」など、身長が伸びる可能性を具体的に教えてあげたり、身長の伸び方には個性があることを伝えてあげたりするなど、アドバイスをするのも良いでしょう。まとめ出典 : 成長障害とは、子どもの身長が、平均と比べて極端に低かったり高かったりすることです。自分の子どもが他の子どもと一緒にいるところを見ると、「自分の子どもは小さいのでは?大きすぎる?何か病気かもしれないの?」などと不安に思う親御さんもいらっしゃるかもしれません。子どもの身長の伸びを見る時には、他の子どもと比べることで判断するのではなく、成長曲線への記録から、成長に異常はないか見てみることが大切です。成長障害の多くは原因不明とされていて、何かしらの病気が関係している可能性は低いと言えます。ですが、子どもの身長を見てみた時に、平均からあまりに離れている場合や急に伸び率が高くなったり悪くなったりしていたら、不安に思うのも無理はありません。子どもの身長記録を客観的に見た結果、心配だなと感じたら小児科など専門機関へ相談してみることをおすすめします。子どもの成長には個人差があります。ぐんぐん育つ子どももいれば、ゆっくりと育っていく子どももいます。我が子の成長を温かく、丁寧に見守っていきましょう。
2017年05月25日RDI(対人関係発達指導法)とは出典 : 「RDI(対人関係発達指導法)」とは、英語のRelationship Development Interventionの略で、自閉症児の社会的活動をサポートするための療育方法です。RDIの目的は、家族へのコンサルティングを通して、子どもが非言語コミュニケーションを活用した対人関係を構築することのサポートをすることです。非言語コミュニケーションとは態度や表情など、言葉以外を使ったコミュニケーションのことを言います。RDIは1996年、アメリカの臨床心理学博士スティーブン・E・ガットステインが自閉症スペクトラム障害の療育方法として提唱しました。それまでの自閉症スペクトラムの療育方法では治療対象になっていなかった、社会性に焦点を当てた療育方法です。さらに、RDIの特徴として以下の2点が挙げられます。・困難を抱える子どもだけではなく、その家族を療育の対象としていること・療育にインターネット上のラーニングシステムや、ビデオ通話を使ったりすることRDIのラーニングシステムは、アメリカ・ヒューストンにある「RDI Connections center」というRDIの公式機関が定めているものであり、自閉症ではない子どもとその家族の行動をモデルにしています。支援を受ける家族はRDI認定のコンサルタントのガイドに従って、段階的に実践を進めていきます。「RDI認定コンサルタント」とは、アメリカにあるConnections Centerで公式認定をされたコンサルタントのことを言います。公式認定を受けるためには、Connections Centerで研修を受けた後、スーパーバイズを受けながらの臨床試験を1~1.5年ほど行いながら実力をつける必要があります。研修から臨床までがすべて英語で行われること、アメリカでしか受けられないこともあり、日本にはRDI認定コンサルタントは2017年現在で7人しかいません。 Connections CenterRDIの対象となるのはどんな人たち?出典 : はもともと自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害のある人々の対人関係上の困難を解決するために開発されたプログラムですが、最近はADHDや学習障害など、様々な要因から対人関係に困難を抱えている人々にも実践されています。「自閉症ではない子どもの行動を模倣しながら成功体験を積んでいく」という方法は、脳の発達分野や発達度の影響を受けにくいため、年齢や診断名に関係なく効果的な療育方法だと言われています。RDIの具体的な療育方法出典 : という療育方法の基本的な考え方は、「子どもがコミュニケーションをとることが楽しいと思えるような関係性の築き方を、親に考えてもらう」という内容です。親子間の非言語コミュニケーションの量と質を上げるために、自閉症ではない親子をモデルにした行動モデルの模倣をします。この行動モデルは6段階に分けられており、レベルごとに目標となる行動が決められています。例えばレベル2では、ボールを投げ合うといった、簡単な順番のあるゲームをします。ゲームをしている間、家族はガイドされた通りの表情や態度で子どもに接します。子どもは家族の態度に影響されて、物事の順番を予想することや、パートナーと協調するために自分の行動を調整することを学ぶのです。こうして家族のガイドに沿った関わりに触れながら、自らも非言語コミュニケーションを使う経験を重ねることで、子どもたちはより高いレベルの行動目標をこなせるようになっていくのです。具体的な療育の流れは以下の通りです。1. 親がRDI認定コンサルタントとのデモンストレーションやインターネット上の学習システムを通して「子どもにどう接すればいいか」を勉強する。2. 親子は別の部屋に移動して、コンサルタントから指示された簡単な遊びを始める。その間、後に自分たちの行動を客観的に評価できるようにビデオ撮影を行う。コンサルタントは遠隔でその様子を観察している。3. 録画したビデオを見ながら行動評価をして、課題特定を行う。4. コンサルタントと一緒に親子の間での非言語コミュニケーションが十分であったかを評価し、課題となる行動領域を決める。RDIがもたらす効果とは...?出典 : で期待されている効果として、「子どもたちが人と経験を共有することに喜びを感じられるようになる」ことが挙げられます。具体的な行動に起こる変化としては以下の3点が挙げられます。・非言語コミュニケーションを使った柔軟な対応ができるようになる・自分と他者の個性を認め、尊重できるようになる・人間関係を継続させるために、自分から行動を起こせるようになる例えば、「人に話しかけたいときに、どのような表情で、どのようにアイコンタクトをとるのか」「みんなで遊ぶ時はどのように順番を守るのか」など、子どもたちが社会で生きていくために必要なスキルを学んでいきます。このように、対人関係に関する成功体験をつんでいくことによって、子どもたちの中に「人と関わることって楽しい!」という気持ちが芽生えてきます。その気持ちを育てることで、コミュニケーションを単に「必要なモノ・情報を手に入れるための手段」ではなく、「自分の人生をより豊かにするための手段」として捉えられるようになっていくのです。RDIが注目されている理由の一つに、その効果の高さが挙げられます。RDI公式サイトから見ることのできる資料によると、RDI指導を1年半受けた自閉症スペクトラムの子どもたちは、「ADOS(自閉症診断観察尺度)」という尺度を用いた測定で、15人中13人が自閉症の症状が軽減したと診断され、その中でも11人は自閉症の域から外れたという研究結果もあるそうです。® Introductory Workshop Going to the Heart of Autism with Relationship Development InterventionABA、TEACCHなど...他の療育方法とのちがいは?出典 : 発達障害療育には様々な方法が存在しています。現在主流となっている支援法としては、応用行動分析(ABA)とTEACCHなどが挙げられます。この章では、その2つの支援法とRDIとの違いについて説明します。◆応用行動分析(ABA)応用行動分析学、通称「ABA」(Applied Behavior Analysis)とは、発達障害児を対象とした療育の理論と実践の体系です。人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、実社会の諸問題の解決に応用していくという考え方がベースになっています。◆TEACCHTEACCHとは、ASD(自閉症スペクトラム障害)の当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラムのことで、ASDの人々の自立とQOL向上を目指す包括的な「支援の枠組み」を指します。「構造化された環境で認知発達を促す訓練をする」という考え方がベースになっています。ABA、RDIは実践の体系を表すのに対して、TEACCHは支援の枠組みを指す言葉なので、役割の面では一概に比較することはできません。ABAとRDIの違いは、支援対象と教える内容にあります。まず、ABAは子どもに対して、社会生活の行動における正解を与える方法のこと。一方RDIは、家族に対してコミュニケーションの取り方をガイドする方法のことです。ABAは本人と環境にある問題を分析・指導し、RDIは「どういったかかわり方をすれば、本人がコミュニケーションに対する意欲を引き出せるか」を親に対して指導します。どれか一つの正解をだすのでなく、症状や段階に応じて組み合わせることでより個別最適化された療育が可能になるといわれています。自閉症児のためのTEACCHハンドブックRDIを受けられる場所、必要な費用や期間は?出典 : 日本にいるコンサルタントは、Connections Centerのホームページから探すことができます。RDIに関する本も出ていますが、毎年アップデートされているシステムであるため、個人で学ぶよりも専門家と協力して行うことが推奨されています。RDIにかかる費用はコンサルタントによって変わりますが、大体1時間のコンサルティングで1万円ほどが相場です。RDIは他の療育方法と比べ効果が見えづらい療育方法で、2週間に1回程度のコンサルティングを行いながら、約1~2年で効果が見えてきます。療育にかかる費用や期間は、担当するコンサルタントによって変わることが現状です。療育を受けようと思っている家族は、複数のコンサルタントを比較検討してみてもよいでしょう。 Connections Centerより、日本におけるコンサルタント一覧ページまとめ出典 : とは、対人関係において困難を持つ子どもの、生活の質を向上させることを目的とした家族向けの療育プログラムです。RDI認定コンサルタントと協力して、子どもが価値を感じられるようなコミュニケーションの取り方を学んでいきます。RDIは自発的にコミュニケーション上の最適解を見つけていく過程を大事にしているため効果が出るには1~2年ほどの時間がかかりますが、診断名や年齢に関係なく療育を受けることができます。まだ日本ではあまり浸透していない療育方法ですが、子どもが社会活動に一歩踏み出すための身近な環境作りのために、家族同士の関わり方を見直す良いきっかけとなるのではないでしょうか。取材協力:白木孝二RDI®Program Certified Consultant認定臨床心理士
2017年05月25日また言われた!「息子くん、ふざけてばかり」出典 : 発達障害のある息子は、たまに周りの人が困ってしまうほど、場をわきまえずにふざけてしまうことがあります。近くに私がいて制止しても何の効果もありません。むしろ、制止すればするほど、ふざけ方がエスカレートしていくのです。頭の切り替えがうまくいかないからふざけてしまうのか、それとも単純に場の空気を読むことが苦手なだけなのか、とにかく一度ふざけ始めると「もう勘弁してよ~」と私は半泣きになるのでした。息子のそんな態度に冷や冷やしながら始まった小学校生活。ある日、私が用事で小学校に行ったときに、息子と同じクラスのお友達からこう言われたのです。「息子くん、掃除のときずっとふざけてます。全然ちゃんとやらないんです」この言葉を聞いて、私はとにかく情けなくなってしまいました。1年生になれば普通に掃除もできるようになるでしょうに、どうしてそういうときにふざけるのか…と。さらに詳しく聞くと、息子は、みんなが掃除をしているのに、教室の中をフラフラしていたり、学校の備品などを触って遊んでいるというのです。こんなことを同じ年のお友達に報告されるのも情けない限りで、私は何度も謝って小学校をあとにしました。息子がふざけてしまった理由を聞き…出典 : その日、帰宅した息子に、なるべく冷静さを保ちながら私は言いました。「ねえ、今日ね。掃除のときに息子くんがふざけてばかりでちゃんとやってくれないって聞いたんだけど。掃除の時間はふざけたりしないで、ちゃんとやろうよ」すると、息子は言ったのです。「ふざけてるんじゃない」そして、その次の言葉に、私は衝撃を受けたのでした。「掃除の時間、自分は何をやればいいのか分からない。今日は教室の担当、とか、今日は下駄箱の担当、とかしか言われないけど、何をどうすればいいのか分からない。みんなは何も教えられていないのに、自分のやることがなんとなく分かっているみたいだ。でも僕には、さっぱり分からない。分からないうちに取り残されている。」息子の頬から、小学校入学して初めての涙が、ぽとんと落ちました。息子は発達障害の特性で、周囲の流れを読みながら行動をするということがとても苦手なのです。何をすればいいのか具体的に指示がない、自分に特別な役割が与えられているわけでもない、ただ周りの動きを見ながら自分のやることを見つけなければならない、それが掃除だったのでした。息子は決して「ふざけていた」のではないのです。「困っていた」のです。「困った子」は「困っている子」という言葉を思い出す出典 : 息子の言葉を聞いて、私はそれまで息子がふざけてしまって制止ができなかった場面を一つひとつ回想してみました。それはどれも、息子が「どう行動したら良いのか分からないとき」だったのです。息子は、初めて会った人にいろいろ話しかけられたり、初めての場所で何かをしなければならないときに、必ずふざけ始めます。初めての人や初めての場所は、息子が特に苦手とするものです。なんとなく周囲を見ながらコミュニケーションを取ったり、自分の行動を決めたりということが、発達障害の子どもには難しいからです。そのことに気づいた私は、息子が掃除のしかたが分からないという件について、連絡帳に書いておきました。学校ではすぐに、息子に具体的な指示と役割を与えてくださり、以後「掃除中ふざけている」というような話は聞かなくなりました。息子が「ふざけている」のは「困っている」とき。これは、発達障害児についてよく言われる「困った子」は「困っている子」と同義なんだな…と感じています。このことが分かってから、ふざけてしまう息子に対して「ふざけちゃダメ!」と怒るのではなく、「何に困っているのかな」と思って接することができるようになりました。そのおかげで、ただただ「情けない」と私の感情が高ぶってしまうこともなくなり、どうしたら息子が楽になるのか、冷静に考えることができるようになったのです。
2017年05月25日怒りに翻弄され苦しむアスペルガー症候群の娘。出典 : 歳の娘はアスペルガー症候群と診断されています。自分の感情のコントロールが難しく、赤ちゃんの頃から力の限り怒り続けてきた娘。周囲はもちろん大変ですが、人生の大半を怒りの感情に翻弄されている本人が一番苦しんでいるのだと思います。これまで思いつく限りの方法で娘とともに怒りの感情と向き合ってきました。そのおかげで、今では少しずつ和やかに過ごせる時間が増えてきています。しかし、心に余裕のない時はつい怒りを炸裂させてしまい、収まった後にも自分を罵ってしまうのです。その姿を見ていると、まだまだ工夫できることが残っているような気がします。今回は、息子が私に「“こちょこちょ”して〜!」とねだっている姿を見て激怒した娘と話し合い、なぜそこで怒らなければならなかったのかを考えてみました。怒りの裏には隠された感情があった!出典 : ある日曜日の朝。私のベッドにもぐりこんで、「“こちょこちょ”して〜!お願い!」と甘える息子と「え〜、どうしようかな?」と笑いながら話していた時のことです。自分のベッドで本を読んでいた娘がなんの前ぶれもなく怒鳴り始めました。「ちょっと!いい加減にしなさい!ママはゆっくりしたいのにワガママばかり言って!聞いてるだけでしつこくてうんざり!!」まったりと過ごしていた時間は娘の怒鳴り声で瞬く間に消え去ってしまいました。しゅんと落ち込んでしまった息子と、怒りに震える娘のケアをしなければと考えただけで、朝から私もぐったりしてしまいます。どうしてこうなってしまうんだろう?そう思った時は、問題点をじっくりと考えるチャンス。まずは娘の様子を観察し、どんな気持ちだったのかを聞き出してみました。こちらを向いて怒っている娘は、口を尖らせて目に涙を浮かべています。これは正義感から怒っているのではなく、なにかを我慢している時の顔。私「ねぇ、なにか我慢したりしてない?」娘「そりゃしてるよ!私だってママの所に行きたけど我慢してたのに!のこのこベッドに潜り込んでくすぐってもらうなんて!」私「そっか。じゃあ弟のことがちょっと羨ましかったのかな?せっかく我慢して自分の気持ちを閉じ込めてたのに、何も考えずに甘えられる弟に嫉妬しちゃったのかもしれないね」娘「ううっ。ママ、どうして私の気持ちが分かるの!?私だって何も考えずにママのベッドに飛び込みたいよ!」これが怒りに隠された娘の本当の気持ちなのです。私は娘と似た思考回路を持っているので、本心はどこにあるのかを毎回じっくりと探ることができます。ですが他の人には、本当の気持ちを汲んでもらうことは難しいでしょう。私だけではなく、他の人に自分の気持ちを上手く伝えられるようになるためには、まずは自分で怒りの影に隠された気持ちに気づくことが大切です。長い時間をかけて娘の気持ちを言語化し続け、「自分は今こういう心理状態にあるんだな」と判断できるようになってくれれば、スムーズにコミュニケーションを取れる機会が増えてくるかもしれません。子供たちを素直にするのは母のお芝居!?出典 : そこで、私はある方法を取ることにしました。私「そっかー!いっぱい我慢してくれてたんだね、ありがとう。でも、それで誰かを攻撃しちゃうくらいなら、我慢しなくていいんだよ?」娘「でもママの体のことを考えたら、素直になんてなれないよ!」私「じゃあね〜、こうしてみよう!(声色を変えて)『羨ましいを検知しました!羨ましいを検知しました!どうぞこちらへ!』」娘「うふふ。なにそれ〜!」私「ママが疲れて大変なときは、ちゃんと無理だって伝えるから心配しなくていいよ。羨ましいと思ったら、まず自分の心を満たしてあげることを考えよう?そうすると、自分も周りもハッピーになれるから!こっちにおいで『羨ましいを検知しました!羨ましいを検知しました!今すぐママのそばに来てください!』」娘「ちょっとー!そのロボットみたいな声やめてよ~」さっきまで怒り狂っていた娘は、恥ずかしそうに笑いながら私のベッドに潜り込み、ようやく安堵のため息をつきました。私がいつもの口調で「こっちにおいで」とだけ伝えると、娘はより一層態度を頑ななものにしてしまいます。私ではない別人格が話しているように少しお芝居をすると、子どもたちは笑ってなぜか素直になることができるのです。お母さんは怒るかもしれないけど、お芝居の中のキャラクターは自分たちを怒ったりしないと思っているからかも知れませんね。毎日の生活の中で少しずつ感情を整理出典 : そうやって少しずつ娘の怒りの裏に隠された感情を言語化し、娘と確認していく作業が始まりました。どうやら娘の中には、さまざまな感情が怒りに直結してしまう回路が出来上がってしまっているようです。今日もショッピングモールに漂うたい焼きの匂いに反応し、「こんなに匂いをまき散らして!お腹が減ってる人は我慢するのが大変なんだからね!」と怒りをあらわにしていましたので、ロボットに出動してもらいました。『いい匂い!食べたいなぁを検知しました!』と一言娘に告げると、恥ずかしそうに笑います。食べたいなと思ったときに怒るのはおかしくないかな?怒ったら食べられるのかな?と聞くと、しばらく考えた後で、美味しそうだから買ってほしいなと穏やかに気持ちを表わすことができました。今はまだ私の手助けが必要ですが、いつの日か「自分はどうして怒っているんだろう?」「ああ、こんな気持ちがあったからか」と気付けるようになれば、その先の「ではどうすれば良いか」を考え、自分で前に進むことができるはずです。一朝一夕にはいきませんが、毎日の生活の中で少しずつ隠された感情を言語化してあげることで、少しでも精神的に安定した暮らしを送れるようになればと思っています。怒りっぽいお子さまに疲れてしまっている方がもしいらっしゃったら、「さっきはこういうことで怒ってしまったのかな?そこにはどんな気持ちが隠されていたのかな?」と話し合ってみませんか?お子さまの本当の気持ちを知るよいきっかけになるかもしれませんよ。
2017年05月24日境界性パーソナリティ障害とは?出典 : 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、対人関係や自己に対するイメージなどの広い範囲において、激しく考え方や感情が変化していく特性がある障害です。境界性パーソナリティ障害の多くは思春期から青年期・成人早期に起こる感情と行動の失調状態です。時間はかかりますが適切な治療を行うことによって自分自身を取り戻していくことができるといわれています。現在さまざまなパーソナリティ障害が確認されており、境界性パーソナリティ障害はその中の一つとして存在しています。パーソナリティ障害とは、思考、感情、人とのかかわり方、衝動の制御の4つのうちの少なくとも2つにおいて、柔軟性がない状態をいいます。このようなパーソナリティ障害がある人は、考え方や行動パターンに著しい偏りがあるため他者と摩擦が生じ、日常生活や仕事・学校の場面でトラブルをおこしてしまうことがあります。境界性パーソナリティ障害は他人から見捨てられてしまうのでないかという不安と、自分が何者でどう振る舞えば良いのか分からない自己イメージの不安定さがトラブルの背景にあるといわれています。境界性という名前は、“強いイライラ感”が症状として現れる神経症と、“現実が冷静に認識できない”認知障害をもつ統合失調症、2つの精神疾患の境界にあると、かつて考えられていたことに由来し命名されています。現代社会の中では境界線がはっきりしないことは数多く存在しています。例えば自分と他人との境界や男と女の境界、子どもと大人との境界など、あらゆるボーダーラインがあります。境界性パーソナリティ障害がある方はその境界が分かりにくく、社会にうまく適応できないという生きづらさを抱えています。境界性パーソナリティ障害を発症している方々の中での男女割合は女性が75%と多く、主に女性が発症しやすい傾向があることが分かっています。出典:日本精神医学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(医学書院,2014)参考:岡田尊司/著『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書,2009)境界性パーソナリティ障害の主な特性とは?出典 : 境界性パーソナリティ障害の主な特性として代表的なものは、自己イメージの混乱と見捨てられるかもしれないという強迫観念があることです。この3つの特性からくる不安と恐怖の感情がもととなり、さまざまな症状に発展していきます。境界性パーソナリティ障害がある人は、「自分がどんな人か分からない…」というように自己イメージがはっきりしない状態であるため、他人の影響を受けやすかったり、他人と自分を区別できなかったりすることがあります。自己イメージは自己同一性(アイデンティティ)とも言われ、自分・他人から見ても一貫している自己を持っていることをいいます。自己イメージが安定していると、自分が社会にとって意味があり、自分の中に生きているという実感が生まれます。それによって過剰に不安になることや人に流されることが減ってきます。しかし境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージが混乱しているため、例えば一面的な評価を自分の全人格に対する評価として過剰に受け取ってしまうことが多くなります。その度にひどく落ち込んでしまったり、同じ人からの評価にも関わらず、褒められたときはその人のことを好意的に思う一方で、問題などを軽く指摘されただけでその人に敵意を示し激しい怒りを感じたりします。このような対人関係を続けることで過度なストレスを感じるようになり混乱や落ち込んだ状態が慢性化し、さらに自分を見失うという悪循環に陥ってしまいます。境界性パーソナリティ障害がある人は、自身が信頼をおいている相手に依存する特性がみられます。常に根底には自分が見捨てられてしまうのではないかという「見捨てられ不安」というものを感じています。幼い頃に両親の離婚によって家族や愛着のある場所などから離れることに強い不安を抱いたり、虐待などにより愛情を失う体験をしたことが背景になっている場合もあります。「また同じ思いはしたくない」という潜在的な意識によって見捨てられ不安は招かれ、信頼できる相手に対して疑い、見捨てられるのではないかという不安を抱いています。その見捨てられ不安から例えばメールを送ってもすぐに返ってこなかったり、自分が期待している反応が返ってこなかったりする場合、「嫌われたのではないか?」、「見放されたのではないか?」と強い恐怖を感じ相手から離れまいとしがみつこうします。そして見捨てられ不安から逃れたり、相手の興味を自分に引きつけたりするためにギャンブルや過食、過量の飲酒・服薬、自傷行為や自殺をほのめかす行動を起こしてしまうのです。境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージの混乱や見捨てられることに不安や恐怖を常に感じていることから、感情の波が激しく変動し、自分でコントロールすることができなくなります。激しい怒りやひどい落ち込みや空虚感を感じることから、それを解消しようと暴力や暴言を吐いたり、リストカットなどの自傷行為や大量の薬物摂取、大量の飲酒、過食などに走りやすくなります。これらを繰り返すことで日常化していくと、薬物依存やアルコール依存などに発展していくこともあります。さらに強いストレスにさらされ続けると一時的な記憶喪失になる解離性症状が表出する場合もあります。境界性パーソナリティ障害が発症する原因ときっかけって?出典 : 境界性パーソナリティ障害の原因はさまざまな説があり、定まっていません。原因は本人の生物学的な気質要因と環境的要因の相互作用によって生じるという考え方が有力です。脳の機能の中には衝動を抑えたり、怒りや不安をコントロールしたり、ストレスに対する感情をコントロールしたりする部位があります。境界性パーソナリティ障害がある人は、何らかの原因によってそれらの部位に特徴があるために、衝動性、怒り、不安、ストレスなどを感じやすくなっているのだと考えられています。・前頭前皮質:行動をコントロールし、合理的判断に関係する部位です。なんらかのストレスによりこの部分の活動が低下すると、扁桃体の活動を抑えることができず、感情や行動をコントロールできなくなると考えられています。・扁桃体(へんとうたい):怒りや不安といった感情をつかさどっている部位です。境界性パーソナリティ障害がある人は扁桃体が平均より小さいという研究があります。扁桃体の特定の部位が、感情的な刺激に対して過剰に反応するという研究があります。・視床下部/下垂体:ストレスに対する反応に関係する部位です。ちょっとしたトラブルにもイライラや落ち込みを感じる人とあまり動じない人がいますが、それはこの部位の反応の個人差が一因と考えられています。境界性パーソナリティ障害がある人は過剰にストレスを感じ、精神的なショックを受けて落ち込んでしまったり、心が傷ついたりするのは、この部位に関連があると考えられます。・セロトニン系:脳内にある神経細胞間の神経細胞伝達物質のひとつです。セロトニンがうまくはたらかないと、不安やうつの気分が強くなったり、衝動性が抑えられなかったりすることがわかっています。環境的要因には養育環境が大きく関係しているという説があります。過去に心的外傷体験(心が傷ついた体験)や不認証体験(自分を認めてもらえなかった体験)があり、数年後に似たような体験が再現されることによって、境界性パーソナリティ障害の症状が表出するということがあります。心的外傷体験や不認証体験とは、極端な例だと親が子どもに対する虐待やネグレクト(育児放棄)などが挙げられます。または親の離婚や死別によるショックなどもあります。これはあくまで極端な例ですが、他にも、子どもへの愛情不足や褒める・認めるといった共感の不足、過保護や過干渉によるストレスなども子どもにとっては負担になっていることがあります。そのような体験がベースにあり、ちょっとした友人関係や恋人関係の出来事がきっかけで、見捨てられ不安などの症状が発生します。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)参考:岡田尊司/著『境界性パーソナリティ障害』|(幻冬舎新書,2009)境界性パーソナリティ障害の診断基準出典 : 境界性パーソナリティ障害の診断基準について説明していきます。診断基準は医療機関によって異なりますが、主に世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)やアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に基づいて臨床的に診断が下されます。ここでは『DSM-5』による診断基準を説明していきます。『DSM-5』では以下から5項目以上が認められれば境界性パーソナリティ障害である可能性が高いという基準になっています。対人関係、自己像、感情などの不安定性及び著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる、以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。(1) 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力(注:基準5で取り上げられる自殺行為または、自傷行為は含めないこと)(2) 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係の様式(3) 同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識(4) 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、過食)(注:基準5で取り上げられる自殺行為または自傷行為は含めないこと)(5) 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し(6) 顕著な気分反応性による感情の不安定性(例:通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらただしさ、または不安)(7) 慢性的な空虚感(8) 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)(9) 一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状日本精神医学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(医学書院,2014)p.654より引用境界性パーソナリティ障害と併発する合併症出典 : 境界性パーソナリティ障害はその障害の特性上、うつ病などと合併しやすく、発達障害などと併発している場合もあります。また境界性パーソナリティ障害と似ている自己愛性パーソナリティ障害についても紹介していきます。■うつ病などと合併することがある境界性パーソナリティ障害がある人がうつ病を経験する割合は90%に近いという報告もあるくらい、最も合併することが多い病気です。うつ病は抑うつ気分が続き、何もやる気がしなかったり、すべて自分が悪いと責めてしまい、死にたい気持ちになったりする症状があります。境界性パーソナリティ障害の症状と共通点も多く、対人関係のトラブルが頻繁に起こることで抑うつな感情をもたらします。境界性パーソナリティ障害とうつ病が合併すると自己破壊への衝動が増し、死にたい気持ち(希死念慮)が増すと言われています。自己破壊的な行為はたとえば、過剰な自己非難や絶望感から自傷行為を行ったり自殺を考えたりすることです。またうつ病に限らず、境界性パーソナリティ障害の自己破壊的行動への衝動が高まることによって、アルコール依存症、薬物依存症や気分障害、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、パニック障害などを引き起こすこともあります。■ADHDとの合併の可能性がある境界性パーソナリティ障害がある人はADHDを小児期または同時に発症している可能性があると、近年の研究によりいわれるようになりました。イギリスのある研究では、境界性パーソナリティ障害がある人でADHDの発症率は小児41.5%、成人16.1%と高いことが分かりました。境界性パーソナリティ障害の発症は、必要な親からの共感が得られなかったことが原因の一つではないかという仮説があります。ADHDがある人は、その特性から、社会関係や対人コミュニケーションに困難さが生じる場合があるほか、親が育てづらさを感じて親子の関係がうまくいかなかったり、体の感覚が過敏で子どもがだっこを嫌がったりして必要なコミュニケーションをとる機会を持ちにくかったりする場合があります。こうした、親子や対人関係上の困難さが積み重なることによって、子どもが十分に共感を受け取ったと感じられないなどが原因で境界性パーソナリティ障害へと発展することもあり得ます。また発達障害の中には境界性パーソナリティ障害と似た症状が現れるものもあるため、臨床現場では障害同士の鑑別が難しいとも言われています。■自己愛性パーソナリティ障害との合併が混在することがある自己愛性パーソナリティ障害とは、自分に対して誇大なイメージを抱き、注目や称賛を求める一方で、他者からのマイナスな評価に対して過敏に傷つきやすく、他者に対する共感性の薄さが特徴的な障害です。境界性パーソナリティ障害は、自己中心的で対人関係の問題から情緒不安定をまねくことなどから自己愛性パーソナリティ障害と共通点が多くあります。また原因も自己愛の未成熟が関わってくることから診療の現場では、この2つの障害の区別は難しいとされています。この2つの障害の違いはどこにあるのでしょうか。境界性パーソナリティ障害が自己否定を繰り返し、考え続けることで情緒不安定が生じる傾向にあります。それに対して自己愛性パーソナリティ障害は、理想と現実のギャップを受け止められず、自己防衛のために誇大化した言動を繰り返し、自信があるようにうかがえるという点に特徴があります。そもそもパーソナリティ障害はそれぞれ独立して存在するのではなく、重複している共通の症状があるため、複数のパーソナリティ障害が併存しやすくなっています。ですので境界性パーソナリティ障害に限らず、他のパーソナリティ障害が合併していることがあったり、判断が難しかったりする場合があります。参考:『Attention-deficit hyperactivity disorder as a potentially aggravating factor in borderline personality disorder』|BJPsych参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)境界性パーソナリティ障害かも?と思った時の相談先と医療機関出典 : パーソナリティ障害の診断は難しいものです。もしご自身やご家族に境界性パーソナリティ障害の疑いを感じた場合は、一人で悩む前にまずは専門機関に相談することをおすすめします。医療機関での受診先は精神科、心療内科などになります。「もしかして境界性パーソナリティ障害かも・・・?でも、医療機関を受けるほどのことでもないような気がする・・・」そのような場合は、各都道府県や政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター、または各市区町村に設置されている保健所・保健センターの相談窓口へ相談してみてください。もちろん、本人だけではなく家族が電話などで相談することもできます。次のリンクは全国の精神保健福祉センターの一覧になりますので、参考にしてみてください。参考:全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省また、本人が会社勤めの場合や高校や大学に通っている場合、学校や企業専属のカウンセラーに相談することもおすすめです。企業や学校のカウンセラーは、その人が所属している組織の内情にも通じているため、より適切なアドバイスをもらうことができる可能性が高いです。また、連携している医療機関を紹介してもらえる場合もあります。境界性パーソナリティ障害の治療ってどんなものがあるの?出典 : 境界性パーソナリティ障害の治療法は、主に精神療法と薬物療法があります。精神療法は即効性はありませんが、医師や専門家と一緒に本人の物事に対する考え方や感じ方などを見直していく治療法になります。これから紹介するのは境界性パーソナリティ障害に有効といわれている精神療法の2つの代表例です。■認知行動療法(CBT):認知行動療法とは、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。具体的には、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのかを客観的に観察し、自動思考という考えのクセを把握します。そして、そういった状況に直面した際に、どのように考え、対処していけばいいかを考え、考え方をコントロールしていく治療法です。参考:認知療法・認知行動療法マニュアルl日本認知療法学会■弁証法的行動療法(DBT):弁証法的行動療法とは、マーシャ・M・リネハンによって開発された、境界性パーソナリティ障害に効果的といわれている、行動療法を中心とした心理療法です。以下の4つの治療法を組み合わせることで、考え方のクセに気付かせ、バランスの良い考え方や反応ができるようにすることが目的です。・苦悩耐性スキル....自身の感情の波が激しくなっているときに、問題がさらに悪化しないように、状況を改善するタイミングを待つためのスキルを身につけます。・マインドフルネススキル....ありのままの自分を受け入れるスキルを身につけます。・感情調整スキル....自身の感情を理解し、調節することのできるスキルを身につけます。・対人関係スキル....感情調整を行いながら、適切な対人関係を築くスキルを身につけます。しかし、欧米を中心に発達した治療法であり、日本で受けられる場所はまだ限られています。また、薬物療法と心理療法以外にも、重度の境界性パーソナリティ障害と診断されたときに入院療法が適応される場合があります。・薬物乱用、自殺、自傷行為を繰り返すとき・重度の妄想により日常生活を送ることが難しいとき・社会から離れた場所で本人に休息が必要と判断されたとき・家族などの周囲の人が疲れてしまったときこれらの場合は入院をし、カウンセリングなど様々な治療法を組み合わせて治療していきます。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)境界性パーソナリティ障害に根本的に作用する薬は残念ながらありません。そのため衝動性や感情の不安定さといった症状を改善するために薬が処方されます。主に気分の落ち込み、不安、現実認識の低下に対する薬が処方されます。BPDの薬物療法の第一選択は,中等量の非定型抗精神薬であり,抑うつ, 不安に対してはセロトニン選択性再取り込み阻害薬SSRIぐらいに抑えるべきであるというのがガイドラインにおける薬物療法の基本である。牛島定信『境界性パーソナリティ障害の治療ガイドライン』(2010)抗うつ薬は抑うつ症状を改善するほか、衝動性や感情の不安定、激しい怒りの抑制のために処方されます。薬には副作用もありますし、人によって薬が合わないこともあります。低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で納得して治療を進めることをおすすめします。境界性パーソナリティ障害がある人にどう接したらいい?出典 : 境界性パーソナリティ障害がある方は身近な人に見捨てられることへの不安を強く抱いています。治療を行っていくにあたって、本人のなかでは葛藤や変化が訪れます。また治療も長期にわたって行われるために、効果がなかなか現れないことに対する苛立ちや不安感を抱くかもしれません。そんなときに寄り添うことができるのは医師ではなく、本人の家族や周囲の人たちです。その人たちが安全基地としての役割を担うことによって本人が治療に挑みやすい環境をつくることができます。あなたの居場所はここにある、いつもそばにいると安心させる協力的な姿勢と環境づくりが大切です。境界性パーソナリティ障害がある方は、感情や言動の変化が激しいために家族や周囲の人が振り回されてしまったり、本人からの強い物言いによって責任を感じてしまったりすることがあります。本人に対してどう接していいかわからず悩み、周囲の人がうつ病などになってしまうケースもあります。そのようにならないためには、本人に振り回されすぎないことが大切です。拒絶せず、過保護にもせず、程よい距離感をもって本人の言動を観察してみてください。境界性パーソナリティ障害がある人を支えることは難しく共倒れしてしまう危険性がありますので、本人に振り回されないように意識してみてください。また本人の言動の一つひとつは、本人に責任がある姿勢を貫いてください。境界性パーソナリティ障害の原因のうちの環境要因として家族の環境がありますが、たとえこれまでの関わりに何らかの問題があったとしても、その結果何を感じて、何を行うかは本人次第です。家族や周囲の人が責任を感じすぎてしまうと、本人は自分の問題の責任を家族に押しつけてしまい兼ねません。そうではなく「それはあなたの問題です。」と一線を引いたり、家族で抱えこまずに専門家に相談し支援を受けたりすることが重要です。上記と矛盾してしまうかもしれませんが、家族・周囲の人などとのかかわりの積み重ねによって、本人が負担を感じていることがあります。しかし具体的にどのようなかかわりが負担になっていたのかは、関係性の当事者たちには分からないことがあります。そのようなときには家族なども一緒に治療を受ける方が良い場合もあります。治療を受ける程ではなくても、本人とのかかわり方や自分を見直すよい機会になります。長年築いてきた関係を改善するには時間がかかります。一気に問題を解決しようとは考えずに、焦らず少しずつでも変わっていくことを意識してみてください。しかし本人の回復に貢献するために、家族や周囲の人自身が無理矢理変わらなければならないということではありません。「できないことはできない」と言うことも、現実的な一人の人として本人とかかわっていくためには大切なことです。本人にとって身近な家族などは、激しい感情をぶつけやすい人でもあります。そのために本人に対して怒りや嫌悪感を感じ、ときには拒絶してしまうこともあります。しかし拒絶してしまっては本人にとっての安全基地であることも、かかわり方をお互いに変えていくこともできず、根本的な治療を行うことはできなくなります。ですので、定期的に他の人に相談して助言をもらうことは重要です。周囲に安心して相談できる相手がいない場合は、心理カウンセラーなど専門家のサポートを求めることも考えましょう。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)まとめ出典 : 境界性パーソナリティ障害の症状は多岐にわたって存在し、本人をはじめ周囲の人たちも悩まされます。しかし決して個人の性格の問題ではありません。本人が過去の体験を自分の糧となるように消化できていなかったり、現在またこれまでの環境が合わなかったりといったことが積み重なっています。その積み重なっている経験が考え方をつくり、そこから言動が生まれています。これらは適切な治療を受けることによって、少しずつではありますが変えていくことができます。境界性パーソナリティ障害がある人を支えることは大変なことだと思います。ですが、本人も自身の言動や思考をコントロールできず苦しんでいます。本人や家族だけで解決しようとするのではなく、専門家の支援も受けながら、お互いに適切な距離を取りつつ、また一方で支え合いながら付き合っていくことが大切です。
2017年05月23日小児科外来のカウンセリング室にやってきた母娘出典 : 病院の小児科外来でカウンセリングを行っているカウンセラーの私のもとに、不登校の娘さんと母親が心理相談を受けに来ました。そのとき娘さんは中学3年生。母親の話だと中学2年生のころから学校に行き渋るようになったけれども、教師の働きかけで今は何とか相談室登校をしているとのこと。母親が説明する間、その子は一言も話さず暗い顔をして座っていました。私は「学校で何か嫌なことがあったのか」、「友だちと気まずいことでもあったのか」と問いかけましたが、無言のまま。母親は、「家で娘に尋ねても嫌なことやいじめはないと言うのです」と代弁します。医師の方では医学的処置は行わないとのことを聞いていたので、経過観察をしながらじっくり支援の方向性を探ろうと考え、「すぐには話したくないかもしれないので、時々来て状況を知らせて下さい」と言って初回の面談を終わろうとしました。しかし母親は「どこに行っても同じことを言われます。私が心配でたまらないのです。このまま一生引きこもりになるのではないかと不安です。ここで話を聞いていただけませんか」と言うのです。娘さん本人の考えは計り知れませんでしたが、母親の困り感が大きいことも鑑み、ひとまず次週も面談の予約を入れることにしました。カウンセラーと母親と娘の三者面談、しかし彼女は一言も話さず…出典 : 翌週、時間通りに母娘がやってきました。母親はこの一週間も娘の状況は変わらないことを説明してくれましたが、肝心の娘さん本人はやはり一言も発しません。母親がしゃべり過ぎるので娘さんが話さないのかと考え、母親の発言を抑えて彼女の発話を待ちました。しかしいくら待っても言葉を発しません。最後にはうなだれ、長く伸びた髪が顔を覆い、ホラー映画の「貞子」のような状態になってしまったので、「これ以上はまずい」と思い、母親との話に戻りました。親子で訪れる小児科の心理相談の時、私は特別の事情がない限り親子別々に話すことをしません。子どもは不安を抱いて訪れます。その時に親から離れて一人で知らない人と話すことは苦痛でしかないと思うからです。廊下で待たされ母親だけが診察室に通されると、そこでは自分のことを話しているに違いないが、何を話しているのか気になるでしょう。余計な不安や苦痛を子どもに与えないために親子で話すのです。まれに母親だけに伝えなければならないことがある場合は、子どもが退屈そうに見えたとき、「退屈なら廊下を歩いてきていいよ」と言って外に出します。時間的に余裕がある環境でしかできないことかもしれません。カウンセリングというより雑談?それでも続く、奇妙な3者面談出典 : そういうわけでその母娘との面談はいつも三者で行いましたが、話すのはいつも私と母親でした。それでも娘さんは毎週来ることを拒まず、一言も話さないにもかかわらず毎回1時間近くその場に座り続けていました。半年近く話しても事態が大きく変わることもなかったので、話の内容は徐々に雑談に変わっていきます。明朗快活なお母さんはニコニコしながらたくさんおしゃべりしました。よもやま話になるとつい笑いだすようなことにもなりますが、娘さんはそれでもやはり、無表情のまま。わずかでしたが相談料を支払っていただいていましたので、談笑でお金をいただくのはどうかと思い、母親に「このまま続けますか」と尋ねました。母親は「長い目で見なければいけないのは分かっているが、娘と二人でいると気が沈んでしまうので、迷惑でなければ続けさせてください」と言ったので、ひとまず継続することに。とはいえこのままずっと談笑を続けるというのも気が引けます。なにか改善のきっかけがつかめないかと、私は彼女が在籍する中学校を訪問することにしました。しかし、娘さんは中学校では人目を避けて登校し、ほとんど相談室で好きな漫画やイラストを描きながら過ごしているとのことで、変化を期待できるような情報を手に入れることはできませんでした。高校受験が迫ったある日、無言だった娘が、はじめて「やりたいこと」を口にした出典 : それからも、カウンセラーと母親が談笑するだけという、奇妙な"三者"面談が続きました。初夏から始まった面談も初冬にさしかかっていました。母親は高校進学のことを気にし始めました。私も引き受けてくれる学校があるか気になりました。そんなある日、母親が思いがけないことを話しだしたのです。「娘は、高校はイラストやデザインが学べるところにしたいと言っています。中学校で尋ねたらA高校のデザイン科があると言われたそうで、そこを受験したいと言うのですが、先生どう思いますか」。この話も三者面談の中でした。私は母親に「それは素晴らしい。本人が受けたいと言うのならぜひ受けさせるべきです」と言いました。本人が高校には行きたいと言い、志望校もはっきりと言った。母親はこのことには喜んでいましたが、実際受験するにあたっては、相談室登校で学力がきわめて不安、試験や面接に行けるかどうか、受験に失敗したらもっと落ち込みがひどくなるのではないかなど、心配でたまらないようでした。私は、「本人が自分で道を切り開こうとしているのです。今はそれを応援しましょう。失敗したらその時に次を考えましょう」と言い背中を押しました。その後。その子は自宅でも受験勉強をし、中学校では専願という受験方法を示され、無事試験会場にも行け、めでたく志望の高校、学科に合格したのです。娘さんの高校入学後も母親はしばらくの間、「また、いつ登校しなくなるか不安だから」と言い、私との心理相談にやってきましたが、不登校が生じやすい5月の連休明けまで様子を見ても特に問題は起こらず、母親も安心して心理相談を終了しました。ずっと黙っていた娘が、なぜもう一度学校に行けるようになったのか出典 : その後も娘さんが私の相談室に来ることはなく、毎日他の生徒と同じように登校し授業を受けており、部活もバスケットボール部に入り元気に活躍しているとのことでした。母親は「嘘みたい、今までのはなんだったの」とキツネにつままれたかのようでした。心理相談を続けている間は一言も発さなかった娘さんが、なぜこのように劇的な変化を起こしたのでしょうか。私が思うに、その子自身の伸びる力がもともと眠っており、表面には出ない間も、じっくりと力を蓄えていたのだと思います。不登校、相談室登校は彼女にとって不快な経験だったと思います。彼女自身もなんとかそれを克服しようと思ったでしょう。しかしなかなか克服の道が見えず、長い間ふさぎ込むことになったのだと思います。高校進学を目の前にして、やっと自分の好きなデザインを学び、本来やりたかったバスケットを行うことに道を見出し、光を見つけたのだと思います。道を見出したのは彼女自身です。それができたのはその子の成長する力によるものと思います。小学校や中学校で不登校を経験したのちに高校生になり、「休みたくなると、もうあの不登校を再び経験したくないからという気持ちになって、それで頑張って登校したんだ」と打ち明けてくれた子もいました。一人、二人ではありません。子どもたちはしっかり学んでいるのです。そしてそのような子どもの成長する力を発揮させることができたのは母親の頑張りだったのだと思います。相談室登校の娘さんを見放すことなく、少しでも効果があることは惜しまず与え続けました。それとともに母親は、娘を支え続けるために自分の心の安定も求めました。娘さんは三者面談の中で一言も発しなくても、母親の言葉、カウンセラーの言葉をしっかり聞いていたのです。自分を支えてくれる人たちの中で自分は何をすべきかを考え続けていたのでしょう。子どもは母親や家族に支えられ、母親や家族は社会に支えられるような循環が子どもたちの成長には不可欠だとの思いを深めたケースでした。
2017年05月20日