色気とは一体どんなもの?芥川賞作家の平野啓一郎さんに、色気について語ってもらいました。
もっと混じり合いたいと、こちらを前のめりにさせる何か。
僕の小説の登場人物は、色気があると言われることがあります。そうしようと意識しているわけではなく、必要に応じてそういう雰囲気が出るような書き方もしている程度だと思いますが…。もっとも、小説に描かれているのが、どうでもいい人の恋愛だったらつまらないだろうから、基本的に「このふたりは結ばれてほしいな」と読者が思うくらいの魅力は備えた人物にはしたいですよね。
たとえば、『マチネの終わりに』の天才ギタリスト・蒔野聡史はかなりカッコよく書きました。半面、ちょっと抜けてるところがあるとか、想い人のジャーナリスト・小峰洋子と顔を合わせると冗談ばかり言っているとか、ギャップも持たせました。
ギャップって、こちらが相手と関わっていける「隙」というか、前のめりにさせる何かだと思うんですね。
コミュニケーションを重ねる中で、相手の考え方や口グセなどが、自分のそれと混ざり合っていくのが心地よい、もっと溶け合わせたい。そう能動的にさせるものがたぶん「色気」だと思うんです。