『 オン・ザ・ミルキー・ロード 』『 アフターマス 』『 天使の入江 』『 禅と骨 』 試写室便り 【 大高博幸さん連載 Vol.411 】

2017年9月5日 18:00
 

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(C)2016 LOVEAND WAR LLC

戦争が終らない架空の国を舞台に、
ミルク運びの男と美しい花嫁の愛の逃避行がはじまる。
エミール・クストリッツァ監督 9 年ぶりの新作!

オン・ザ・ミルキー・ロード
セルビア、イギリス、アメリカ/ 125 分
9.15 公開/配給:ファントム・フィルム
onthemilkyroad.jp

【 STORY 】 隣国と戦争中の とある国。右肩にハヤブサを乗せたコスタは、兵士たちにミルクを届けるため、晴れの日でも傘を差し、銃弾をかわしながら ロバに乗って前線を渡っている。彼は ある日、村一番の英雄の花嫁になるために現われた 謎の美女と出会い、激しい恋に おちる。やがて 彼女のある過去によって 村が襲われてしまい、ふたりの逃避行が はじまる――。 ( プレス資料より抜粋 )

世界中に熱狂的なファンを持つ鬼才 E・クストリッツァ ( 監督・脚本 ) の久々の新作です。
今回は彼自身が主役も務めていて、相手役は なんと〝 イタリアの宝石 〟モニカ・ベルッチ。お話は、戦火の中に展開する 寓話的な愛の逃避行。日常的に激戦が続く村で 運命的に出会ったミルク運びの男と謎の美女が、命がけで愛を貫こうとするピュアなラブロマンス。
クストリッツァの ユーモア & ブラックユーモア、のん気で陽気な喜劇味 & 争いがもたらす悲劇の混在、リアリズムとファンタジーの融合、稚気と機知が ないまぜになった奇想天外な痛快さ、そして 彼独得の世界観・幸福観 + 辛辣なアイロニーが溢れ出す、力強い一篇です。

クストリッツァ作品に共通する明白な特徴は、① 村や山の動物がコレでもかというほど続々と登場し、そのうちの何種かは それなりの演技をする ( or しているように観える ) コト、② 人間の営み、特に歌ったり踊ったりする様子が延々と映し出されるコト。彼の作風に慣れていない観客には、「 編集作業が完了していないのでは? 」と想わせてしまうような雰囲気があるのです。しかし 本作は相当にテンポが良く、動物たちの扱いも無理のない範囲内で徹底している感じ。なにしろ、コスタの演奏に合わせてダンスを踊る猛禽のハヤブサと、ミルクが大好きなコブラ似の大蛇は コスタの命を身をもって救うし、飼い主のお婆さんのために貢物を用意する犬をはじめ、ロバ、アヒル、ガチョウ、羊、熊から、蜂や蝶々までが それなりに役割を果たしているのですから凄いです。節度不足でトゥーマッチだと感じたのは、牛乳屋の娘のキャラクター設定と登場々面の多さぐらいで ( そこを整理したなら、批評家の支持率は上がり、ファン層も さらに拡大するはず ) 、本作は 彼の代表作 or 最高作と呼ばれて然るべき出来です ( 僕は 彼の作品を全て観たワケでは ありませんが ) 。

何があろうとも愛を貫くという ゆるぎない心と、「 美しさや優しさは、周囲の人間の悪意を誘うコトがある 」という台詞などは胸に響き、銃弾に吹き飛ばされたコスタの左耳を 美女が縫いつけてあげるシーンの大らかなユーモア、雨漏りのシーンのマンガチックな面白さ、コスタが望遠鏡で覗く美女と犬の姿を サイレント映画風にコマ落としで観せるセンス etc etc 、僕は 遅ればせながら 彼の大ファンになりました。

俳優としてのクストリッツァは、その無垢な少年風の瞳の奥に潜む、深いニュアンスが素晴らしい。M・ベルッチの本作への出演は大正解。特に 河で溺れかけるシーンや 滝での幻想的なシーンに於ける演技等は非常に印象的でした。彼女のファン & ファンだった皆様は、万難排して ぜひ観てください。
監督の実の息子が手掛けた音楽も美しく効果的で、とてもとても良かったです。

 

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© 2016 GEORGIA FILM FUND 43, LLC

シュワルツェネッガーが追いつめる!
《 飛行機衝突事故 》の結末は?

アフターマス
アメリカ/ 94 分/ PG 12
9.16 公開/ 配給:ファインフィルムズ
www.finefilms.co.jp/aftermath

【 STORY 】 ローマンは 妻と娘の帰宅を心待ちにしていたが、ある日 突然、飛行機同士の衝突事故により 家族を失う。しかし、この事故に何か引っかかるローマンは、その当時の航空管制官が真相の鍵を握ることを突き止める。( 試写招待状より )

2002 年にドイツ南部の上空で実際に起きた、航空機空中衝突事故を基に脚色されたヒューマンドラマです。主演は アーノルド・シュワルツェネッガー、監督は エリオット・レスター
題名の〝 アスターマス 〟とは、災害・大事件・大事故が引き起こす、その 余波・痛手・結果・後遺症等を意味する言葉。本作には 空中衝突の瞬間のスペクタキュラーなシーンはなく、題名通り、遺族となったローマン ( シュワルツェネッガー ) 、及び 事故の直接的な原因を招いてしまった管制官 ジェイク ( スクート・マクネイリー ) 双方の心理と、一変した生活の様子を描いています。

それでもドキドキさせられたのは、事故発生直前の管制室内の場面でした。
まず、電話回線のメンテナンス係が入って来て「 5 分ほど、つながりにくゝなります 」と言いながら作業を始め、ほゞ同時に 管制官のひとりが 規則に従って、休憩をとるために 室を出る…。ひとりになったジェイクは、休憩中の 相棒の席の電話を受けるためにヘッドフォンを外し、遅れて着陸するコトになった機の 進入管制に当たる…。さらに 緊急の電話が つながらない状態と受けられない状態が続き、ジェイクは 上空を飛行中の 2 機の異常接近に 気付くのが遅れてしまう…。画面は複雑な要素を短かい細かいカットで映し出すのですが、とにかくジェイクは、決して職務を怠ったワケではありませんでした。もしも メンテナンスと相棒の休憩時間が重ならなかったなら…、もしも 事故後、航空会社の代理弁護人が、ローマンへの対応に 然るべき配慮・態度をとっていたなら…、もしも 姓名と職業と生活の場を変えたジェイクの居所を、ローマンの耳に入れる 思慮不足な人物がいなかったなら…、この事故の〝 アフターマス 〟は、最小限度内に抑えられたはずでした。

シュワルツェネッガーは、適役かどうかはベツとして、演技派俳優として成功。たゞし、〝 事故 〟と その後に起きた〝 事件 〟の〝 11 年後 〟のラストシークエンスでは、彼のルックスに関して 疑問を抱かされました。癒えない悲しみと深い悔恨の 暗く長い時間の経過を、全くと言っていゝほど感じさせなかったのは、彼自身と監督とメークアップ担当者の不注意としか思えません。
ジェイク役の S・マクネイリーと 彼の妻 クリスティーナ役の マギー・グレイスは、コントロールの利いたリアルな熱演を観せています。

 

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(c) cine tamaris 1994

ドゥミ × ルグラン × J・モロー。
フランス映画界最高のコラボが織りなす
愛のルーレット。

天使の入江
フランス/ 85 分
全国順次公開中/配給:ザジフィルムズ
www.zaziefilms.com/demy-varda

【 STORY 】 パリの銀行員 ジャンは、同僚に連れられ 初めて訪れたカジノで大当たりして以来、ギャンブルの虜に。父からは勘当され、南仏 ニースへ向かう。カジノ通いの日々を過ごしていた ある日、ジャッキーという名の女性と出会う。( 宣伝用パンフレットより )

7 月の末に 89 歳で亡くなった フランス映画界を代表する女優、ジャンヌ・モロー( 1928~2017 ) の 1963年の主演作。これは「 ドゥミとヴェルダ、幸福 ( しあわせ ) についての 5 つの物語 」と題して開催中の 特集回顧上映プログラムの中の 1 本。

この『 天使の入江 』は、実は日本では今回が劇場正式初公開 ( 僕は ’70 年代か ’80 年代に 出張中のパリで観たコトがあります ) 。内容は シンプルそのもので、先輩の誘いを断わり切れずに 市営のルーレット場に同行した 美青年 ジャン ( クロード・マン) が、夫と子供と別れる破目になってもなお、ギャンブルの魔力に心を奪われている 美女 ジャッキー( J・モロー ) と共に、大儲けしたり 無一文になったりを繰り返す様を描いています。それだけの話なのに、妙に惹きつけられるヌーヴェルヴァーグの小品です。

ここで注目したいのは、J・モローのヘア & メークと衣裳。未完成に終ったアメリカ映画『 Something’s Got to Give 』( ’62 ) での マリリン・モンローのスタイリングを 意図的に真似ている感じ…。それが意外なほど J・モローに似合っていて、とてもスマートで格好いゝのです。ギャンブル狂いの役柄はベツとして、彼女の〝 大人の女の魅力 〟を観察するだけでも、これは一見の価値があります。特に歩きかたを第一に、その身のこなしの美しさには惚れ惚れとさせられるコト、間違いありません。

監督は『 シェルブールの雨傘 』( 1963 ) の ジャック・ドゥミ。想像させる、省略する、納得させるというスタイルで描かれるジャンとジャッキーのベッドシーンも、この時代の映画ならではのソフィスティケーション。題名の『 天使の入江 』とは、ニースの海辺にある美しい湾の名称です。

 
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©大丈夫・人人FILMS

横浜生まれの日系アメリカ人禅僧 ヘンリ・ミトワ。
枯淡の境地の人…と思いきや?

大ヒット作『 ヨコハマメリー 』の中村高寛監督、11 年ぶりの新作。

禅と骨
日本/ 127 分
9.2 公開/配給:トランスフォーマー
transformer.co.jp/m/zenandobones/

【 INTRODUCTION 】 京都 嵐山・天龍寺に、一風変わった禅僧がいた。名は ヘンリ・ミトワ。1918 年、横浜でアメリカ人の父と新橋の芸者だった母の間に生まれた。時代の波に翻弄されながらも、戦後は 日本文化を こよなく愛したヘンリ。晩年は 文化人や財界人に囲まれ、悠々自適… なはずだった。「 〝 赤い靴 〟をモチーフにした映画を作りたい! 」、80 歳を目前に 突如、追い求めた夢のために、家族や周囲を巻き込み、彼が築き上げてきた〝 青い目の文化人 〟という地位から 大きく逸脱していく…。( プレス資料より。一部省略 )

ドラマパート & アニメーションパート付きの〝 骨太娯楽ドキュメンタリー 〟。
実は この映画、2 年ほど前に、僕の住む小田原市内の「 日之出旅館 」でロケーションされました。「 日之出旅館 」は、関東大震災で 1 階がつぶれ、2 階が そのまゝ 1 階になったという 100 年ほど続く古い旅館。戦後は行商宿として知られ、今も市役所が合宿に使ったりしていますが、最近は「 日本の古い家に泊まりたい 」という外国人観光客がよく訪れるという所。ロケがあったコトは、その直後に旅館の大将から聞いていたので ( 大将は「〝 赤い靴 〟という題名の映画 」と、その時、おっしゃっていました ) 、僕は公開を楽しみにしていたというワケ。

だから では全くありませんが、この映画で一番良かったのは「 日之出旅館 」等で撮影されたドラマパート…、青年時代のヘンリを ウエンツ瑛士、その母を 余 貴美子が演じた部分です ( ウエンツの演技が驚くほど自然で巧み ) 。〝 赤い靴 〟の話は、今日マチ子原案による叙情的なアニメーションで描かれていますが、晩年の H・ミトワの〝 逸脱 〟ぶりのため、終盤に向けて 映画そのものが大きくゆらぐ感がありました。監督をはじめ スタッフ全員が相当困惑したはずですが、とにかく完成し、公開に こぎつけるコトができて良かったと思っています。P.S. 本作は、禅僧の彼を紹介したり、禅の教えを説いたりする内容では ありません。その点、お間違えなく。

 

 

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biteki-m@shogakukan.co.jp
(個別回答はできかねますのでご了承ください。)



ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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