「あんふぁん」と姉妹誌「ぎゅって」では、12/11(金)・12(土)に、ひと足先におうちクリスマスを盛り上げる「」を開催。そのワークショップに「わくわくさん」でおなじみ、久保田雅人さんが登場します!今回、久保田さんの知られざる子育てエピソードや、工作への想いを聞いちゃいました。興味を持ったことが「わくわくさん」につながった―ご自身はどんなお子さんでしたか?子どものころからものを作るのが好きでした。今みたいにゲームなどはなかったので、自分で遊ぶものを作っていましたね。例えば空き箱や爪楊枝、タコ糸を使って、手すりのある船を作っていました。―かなり本格的ですね!小さい頃から凝り性だったんですね(笑)。今にして思えば、父の影響があったと思います。父が手先が器用な人で、何か作っているのを見ていました。親がやることは子どもが興味を持つものですよね。我々の世代はプラモデルブームがあって、長いことはまっていたのですが、高校生ぐらいになると自分でオリジナルのパーツを作ったり改造したり。やっぱり自分で遊び方を考えるところは同じでしたね。―そのまま工作の道に進もうと思ったのですか?将来の夢は全然違って、歴史が好きだから日本史の先生になろうと思ったんです。大学で中学・高校の社会科の教員免許を取りました。親はそのまま先生になると思いますよね。ところが大学4年生の時にふらふら〜っと劇団に入っちゃいましてね(笑)。劇団で活動をしているときに、「NHKの教育番組の出演者を探している。手先が器用でおしゃべりが得意な男性はいないか」と話を聞いて。それでオーディションを受けたら通って、「わくわくさん」になったんです。だから、幼児教育や造形教育を学んだことは一切ないんです。自分の昔の思い出を元に活動を切り開いていったんです。―でも、作ることが好きなことや、人に教えるスキルなど、これまでの歩みがすべてつながっていますねそうなんですよ、だから人生どうなるか分からないものですよね(笑)。子育ての秘けつは〝親がワクワクしていること〟―久保田さんご自身もお子さんがいますが、〝わくわくさん流〟の子育てはありましたか?そんな大層なことはしていないですね(笑)。僕は子どもが3人いて、奥さんも働いていたのでみんな保育園に通っていました。僕が子育てで気をつけていたことは「ベタベタしすぎない」こと。子どもと接する時間が短いからといって、一緒にいる時間を濃厚にしようとすると却って難しいと思います。特別なことはしなくても、みんな一緒にいることが大切だと思っています。また、工作教室などで園を訪問することがありますが、子どもを乗せてママチャリを必死にこいでいるママを見ると「カッコいいな!」と思います。子どもも同じように感じ取っていると思いますよ。親が一生懸命な姿を見せることが一番です。あくまで経験ですが、大人になった僕の子どもを見ると、やっぱり見ていないようで案外見ているなと思いました。―子どもと楽しく過ごすためのアドバイスはありますか?例えば散歩をするとき、いつもとは違う角を曲がって歩くだけで、子どもにとっては冒険になります。逆に子どもだけが知っていることもあるので、親も知るチャンスなんです。お金をかけて旅行にでかけなくても、そういう経験を持つことが大切と思います。―今年はとくに「おうち時間」が長い分、お菓子を作るなど一緒に何かをする機会が増えているようです。ごはんを手伝ったりするのはいいですよね。その時に失敗してもいいと思いますよ。親子で一緒に苦労すると有り難みが分かると思うんです。有り難みと言えば、「もったいない」ということだけを教えるのは違うかな、と思うんです。例えば子どもがティッシュをたくさん引き抜いてしまった時、そこには理由があるのかもしれない。ものを作ろうと思ったかもしれないし、机を拭こうとしたのかもしれない。そこで「ああ、もったいない」を優先してはいけないと思います。それよりも大切なのは、「ものを使い切る」ことに頭を切り替えること。出してしまったティッシュも使って捨てればもったいなくはないですよね。工作も使い切ることを教える方法のひとつだと僕は思っています。「わくわくさん」とは、子どもにわくわくを教えてくれる人、という意味なんです。だから、親がワクワクする気持ちを大切にしていれば、子どもにもワクワクが伝わります。ぜひ子育てを楽しんでほしいですね。「よし、親子で作ってみよう」が永遠のテーマ―「ものを使い切る」ほかに工作を考えるときに大切にしていることはありますか?一番は「よし、作ってみよう」と子どもが思ってくれるか。ただ、面白おかしく作り方を見せるだけでは意味がないんですよね。その後のことまで考えて、分かりやすく伝えることが基本です。あとは、「親子で一緒に作る」こと。どんな工作でもお子さん一人で作るのは難しいものです。紙の大きさを「A4」と言っても、子どもには通じないですよね。大人が材料をそろえてあげないと、子どもは作ることができません。だから僕は大人向けの説明もかなり入れるようにしています。そして、親子で仲良く、楽しくお話しながら作ってくださいね、というメッセージを込めています。今回のクリスマスのワークショップも、見終わったらぜひ親子で作ってみてください。必要なのは色画用紙だけですし、作るのは小さいサイズなので簡単です。上手・下手は気にせずやってみてください。親の方が下手でもいいんです(笑)。ぜひ家族みんなで作ってみて「楽しかったね」を共有してほしいと思います。<文:あんふぁんWeb編集部>あんふぁん・ぎゅってタウンクリスマスオンラインイベント12/11(金)・12(土)久保田さんが登場する親子向けワークショップのほか、子育てにまつわるトークショーや親子でうれしいキーワードプレゼントなど2日間のお楽しみがいっぱい!詳細・申し込みは下記にアクセスを。イベントの詳細はから
2020年11月19日我が子に立派な人間になってほしい――。そう願うのなら、子どもが好ましくない行動をとったときにはある程度叱ることも必要だと考えるのは当然のことかもしれません。ところが、「基本的に、子どもは叱らなくても大丈夫」と言うのは、株式会社子育て支援代表取締役の熊野英一さん。その真意はどんなものなのでしょうか。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会の正会員でもある熊野さんが、アドラー心理学の観点から教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人ほめるも叱るも、子どもを「操作」しようとしているだけ「ほめて育てる」子育てが注目されている昨今ですが、アドラー心理学に基づく子育てでは、基本的に子どもをほめません。それなら、子どもを叱り飛ばしてばかりいるのかというとそうではなく、アドラー心理学では子どもを「叱らない」ことも大切にしています。子どもをほめないのは、「子どもを自分の思い通りにしよう」という「操作」の下心によって親子の信頼関係が壊れてしまわないようにするため。または、ほめすぎることで子どもの人格形成に悪影響を与えないようにするためです(インタビュー第3回参照)。では、「叱る」という行為はどうかというと、これもまた「操作」なのです。親が怒りやイライラなどの感情を子どもに対してぶちまけて叱ることには、「怖い顔をして大きい声を出せば、この子は言うことを聞くだろう」といった、操作の下心があります。その点で、叱ることもほめることと同様に、親子の信頼関係を壊してしまう危険性をはらんでいるのです。ほめるのも叱るのも、親が子どもを思い通りに操作するための作戦の違いに過ぎません。子どもに早く起きてほしいとき、多くの親は、「いい子だから、早く起きようね」と、まずほめる作戦から始めます。そして、どんどん時間が過ぎていくと、「なにやってるの!早く起きなさい!」と今度は叱る作戦を使うという具合です。もちろん、ほめることも叱ることも、たいていは子どものためを思っての親の行動です。「我が子にきちんとした人間に育ってほしい」と思って、ほめてみたり叱ってみたりと、親は一生懸命なのです。でも、結果はというと……親子の信頼関係を壊してしまったり、子どもの人格形成に悪影響を与えてしまったりと、あまり好ましくない方向に向かいます。つまり、その作戦自体が間違っていると考えるべきです。怒りではなく、「一次感情」を落ち着いて伝えるでは、どうすればいいのでしょう?その答えは、子どもの言動に対する怒りやイライラの感情の前にある、「落胆」「心配」「不安」「寂しい」「悲しい」といった一次感情に着目することです。怒りをそのまま子どもにぶつけるのではなく、怒りに達するほど「あなたを心配しているんだよ」だとか「嘘をつかれると悲しいんだよ」といった一次感情を子どもに伝えてください(インタビュー第1回参照)。すると、子どもの心に響く度合いがまったく違ってきます。「なんで嘘つくの!」と叱り飛ばされるのではなく、「お母さん、嘘をつかれると悲しいな……」と言われたなら?子どもは子どもなりに、「本当に悪いことをしたんだな」と感じて反省してくれるはずです。一方、ただ大声で子どもを叱るようなやり方では、「なにか大声で怒鳴っているな」という事実はわかっても、ではどうしてほしいのかということも、親の素直な一次感情も、子どもには伝わりません。だから子どもは同じ過ちを繰り返し、そのたびにまた親が叱るという悪循環に陥ってしまいます。怒りに飲み込まれないようにして、自分の素直な一次感情を落ち着いて伝えるのです。そうすれば、幼い子どもにもその気持ちは必ずきちんと伝わります。「インタビュアー」になれば、親のやるべきことが見えるそのように、子どもを叱りたくなるときにも落ち着いて子どもと接するために、子どもに対しては「インタビュアー」になることを意識してみてください。子どもが約束を破ったとか嘘をついた、暴力をふるったというような、子どもを叱りたくなる場面では、親はつい裁判官のような「評価者」になりがちです。そうして、「あなたは駄目だ!」と評価を下すことが自分の仕事だと思ってしまうのです。でも、子ども自身からすれば、ただどうしていいかわからなくて、親が叱りたくなるような言動をしてしまっただけということもよくあるケース。友だちにおもちゃを取られて、「返して」という言葉が出てこなくてつい手が出てしまった……。そんなときに、「子どもが暴力をふるった」という事実だけに目を向けて叱るのではなく、インタビュアーになって「なぜ手を出したのか」ということを聞き出してほしいのです。子どもの言動にはその子なりの理由が必ずあります。しっかりと子どもに向き合って話を聞いて、子どもなりの理由を聞き出すことができたら、頭ごなしに叱るのではなく、「そういうときは『返して』って言えばいいんだよ」というふうにアドバイスするなど、親としてやれることがはっきりと見えてくるのではないでしょうか。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月18日子育てにおけるキーワードとして頻繁に見聞きする「ほめて伸ばす」という言葉。ただ、株式会社子育て支援代表取締役であり日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員でもある熊野英一さんは、「ほめて伸ばす」子育てに潜む危険性を指摘します。アドラー心理学に基づく子育てでは、ほめるのではなく、「勇気づける」ことが大切だとされているのだそう。その理由とはどんなものでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)親子の信頼関係を壊す、子どもを操作しようとする「下心」アドラー心理学に基づく子育てでは、「ほめない」ことを大切にしています。その代わりに、子どもを「勇気づける」のです。こう言うと、「ほめることで子どもは伸びるのではないか」と思う人も多いでしょう。「ほめ言葉」が駄目だという意味ではありません。大切なのは、親の声かけのなかに「下心」をもたないこと。子どもをほめるときには、どこかで「子どもを自分の思い通りにしよう」という「操作」の下心が入りやすくなるものです。「いい子だから早く寝ようね」「こんなに勉強ができてすごいね!」と言って子どもをその気にさせようとする。そういった操作の下心があると、子どもとの信頼関係をきちんと築けなくなります。なぜなら、親の下心を子どもは敏感に察知するからです。最初は、子どももよろこぶでしょう。お父さんやお母さんから「いい子だね」と言われて嬉しくない子どもはいません。でも、親の下心は、表情やしぐさなどどこかににじみ出るものですから、そのうち必ず子どもにバレます。自分に置き換えて考えてみてください。仕事相手でもプライベートの知り合いでも、妙にお世辞を言うなどしてあなたのことをうまく転がそうとしてくるような人間と、いい関係を築けると思うでしょうか?そんなことはないはずです。ほめすぎることが子どもの人格形成に与える悪影響また、下心をもっているかどうかは別として、子どもをほめすぎることは、子どもの人格形成に悪影響を与えることもあります。ひとつは、「ほめられないとなにもしない子どもになる」ということ。ほめられることが当たり前になるために、ほめてくれないのなら勉強もしない、部屋の片づけもしない、といったことになります。また、「指示待ち人間になる」というのも、ほめすぎることが子どもに与える悪影響です。なぜなら、ほめるという行為の前提は、上下関係があるということだからです。子どもをほめすぎることは、「親は上に立って命令し、結果を評価する人であり、子どもは言うことを聞いたり親に依存したりして、その評価に左右される人」という関係をつくってしまう。その関係のなかで、子どもは指示待ち人間になっていきます。そして、最終的には子どもが「勇気を失ってしまう」ことにもなる。子どもを大げさにほめすぎるような親は、反面、子どもがちょっとしたミスをしたようなときには必要以上に叱りがちです。そういう親は、子どもが勉強の基本問題で正解できたようなときにも「わあ、すごい!」なんて大げさにほめ、「あなたは頭がいいから、応用問題もやってみようか」とけしかけます。でも、子どもは「基本問題だけでいい」とチャレンジから逃げてしまう。なぜなら、難しい応用問題でもいい結果を出せなければ、叱られることを知っているからです。ほめられないとなにもしない、自分で考えて行動できない、チャレンジする勇気がない――そんな子どもが、将来、自立した人生を歩んでいけるでしょうか?答えは考えるまでもなく「NO」ですよね。子どもを認めることが、子どもに「勇気」を与える大切なのは、ただ子どもをほめることなどではなく、子どもをひとりの人間として信頼してリスペクトすることにあります。もちろん、親と子、大人と子どもという立場の上下は存在する。でも、親子でコミュニケーションをするときには、縦ではなく横の関係であるべきです。それは、子どもを「認める」、子どもに「共感する」ことであり、そして子どもを「勇気づける」ことにつながります。テストで100点とったかそうではないのか、スポーツでいいプレーをできたかそうではないのか――そういった子どもがやったことの結果ではなく、子どもの気持ちに関心を寄せるのです。仮に結果がよくなかったとしたら、悔しさや恥ずかしさなど、子どもはさまざまな気持ちを抱いています。その気持ちに共感して寄り添うのです。そして、「じゃ、今度はどうしようか?」「なにか手伝えることはある?」と親が伴走してくれたなら、子どもにとってこれほど頼もしいことはない。きっと子どもは「よし、もう一回やってみよう!」という勇気を手にすることができるはずです。このように、子どもがなにかに失敗した場面でなら、「認める」「共感する」「勇気づける」ための親の振る舞いはイメージしやすいものでしょう。でも、逆に子どもがなにかに成功した場面ならどうでしょうか?それこそ、手放しでほめたくなるものですよね。下心のないほめであればいいですが、やはりほめることに重点は置かないようにしましょう。ほめてあげるよりも、もっと子どもを勇気づけるのは、「自分の気持ち」、そして「感謝」を伝えることです。子どもが打ち込んでいるなにかでしっかり結果を出した。そのとき、お父さんとお母さんから、「すごく嬉しいよ、ありがとう!」と言われた――。それこそが、子どもにとって最高の勇気づけです。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える(※近日公開)【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月16日子育てに関する考え方は家庭それぞれです。「子育てに欠かせないものはなに?」と問われたら、みなさんならどう答えるでしょうか。この問いに、株式会社子育て支援代表取締役の熊野英一さんは「信頼」だと答えます。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員でもある熊野さんが、アドラー心理学の観点から、子育てにおける「信頼」の重要性、その築き方を教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)子どもは、生まれた瞬間から親の「信頼」を確認するみなさんは、自分の子どもを「信頼」していますか?「もちろん!」と思った人もいるかもしれませんが、じつはなかなか難しいことでもあります。でも、子どもを「信用」している人は多いはず。どういうことかと言うと、「信用」と「信頼」はまったく別の意味を持つ言葉なのです。簡単に言えば、「信用」は「条件つきで信じる」こと。対して、「信頼」は「無条件で信じる」ことです。「テストで100点とれたからいい子だね」「早く起きてくれたからいい子だね」――。これらの言葉には条件がありますから、「信用」になります。子どもを信用することも子どもを信じることには変わりありませんが、これらの言葉は、「あなたがいい子であるためには、なんらかの条件をクリアしないとだめだよ」と伝えていることになります。これは、子どもにとってはよくないこと。そうやって条件をつきつけられ続けた子どもは、「もし条件をクリアできなかったら、いい子じゃなくなっちゃう……」と怖がり、さまざまなチャレンジを回避するような生き方しかできなくなってしまうでしょう。子育てにおいては、子どもを無条件で信じる「信頼」こそが大切です。これは、「愛」と言い換えてもいいでしょう。子どもに対する信頼が大切になるのは、子どもが生まれたその瞬間からです。生まれたばかりの子どもは、2歳くらいまでのあいだに親からの「信頼」を確認していきます。一番近くにいる親――たいていは母親の振る舞いから、「この世界は、そして自分は、生きるに値するのか」と確認するのです。赤ん坊は、自分ではなにもできない存在です。それでも、そんな自分に対して母親はあらゆる世話をしてくれる。そのなかで、「ありのままの自分が受け入れられている」「なにも価値を生み出さなくとも、ありのままの自分がすでに価値を持っているんだ」と確認します。それが、その後の人生をしっかり歩んでいくうえで欠かせない重要なステップなのです。親の過剰な期待によって、「信頼」が減り「信用」が増えるもちろん、ほとんどすべての親が、子どもが生まれた瞬間には「この世に生まれてきてくれただけで嬉しい!」と感動し、ありのままの子どもを受け入れ信頼します。ところが、時間が経つにつれて、ほかの子どもや自分の理想の子ども像と現実の我が子を比べ始めてしまう。そうして、「こんなふうに育ってほしい」という思いから子どもに条件を突きつけ、徐々に信頼の割合が減って信用の割合が増えることになるのです。このことは、先にもお伝えしたように、子どもがチャレンジを回避するような生き方しかできなくなるといったデメリットを生みます。さらに、ほかのデメリットとして、親子関係を悪化させることも挙げられます。親は「こんなふうに育ってほしい」と子どもに対して過剰な期待をしてしまいますから、そのあとには必ず「落胆」がある。落胆は、コミュニケーションの大きな障害となる「イライラ」や「怒り」を生む一次感情です。そうして必要以上にイライラや怒りの感情を抱えてしまうことになり、親子関係は悪化してしまうでしょう。そう考えると、子どもをしっかり信頼するための方法のひとつが、前回の記事でお伝えした、まず子どもの気持ちに共感する「共感ファースト」ということになります(インタビュー第1回参照)。子どもの言動にたとえ同意できなくとも、まずは共感する。そうすることが、よりよい親子関係、親子間のコミュニケーション、信頼の構築につながるはずです。子どもに対する強い信頼をつくる「課題の分離」子どもを信頼するためのもうひとつの方法として、アドラー心理学でいう「課題の分離」というものも紹介しておきましょう。「勉強をしない」「きょうだいげんかをする」といった子どもの言動に「イライラする」とき、その主述関係を整理して、課題を親子それぞれにきちんと分けるのです。このケースなら、「イライラする」のは「親」です。つまりこれは「親の課題」となる。一方、「勉強をしない」「きょうだいげんかをする」のは「子ども」ですから、これらは子どもの課題。そのように切り分けて、子どもの課題に親が手出し口出ししないようにするのです。これは、日本を含むアジア圏でとても有効な方法です。小さい子どももひとりの人間として扱う個人主義が強い欧米に比べ、アジアでは「子どもは親が助けてあげなければならない存在」と考えがちです。そのため、子どもの課題も親の課題であるかのように考えて介入したくなってしまう。そうして、必要以上にイライラしていく構造だというわけです。でも、親子それぞれの課題を明確にすれば、そういったことは激減するでしょう。もちろん、子どもが本当に困ってしまって助けを求めてきたなら、助けてあげる必要はあります。でも、そうなるまでは信頼して子どもを見守るべきです。その姿勢が、子どもに対する強い信頼をつくっていきます。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法(※近日公開)第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える(※近日公開)【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月14日家庭教育の話題としても耳にすることが増えている「アドラー心理学」。そもそも、アドラー心理学とはどんなもので、子育ての場面ではどのように生かせるのでしょうか。そのポイントを、株式会社子育て支援代表取締役であり、日本アドラー心理学会/日本個人心理学会の正会員でもある熊野英一さんが教えてくれました。熊野さんは、アドラー心理学の考え方を生かすことにより、親子間のコミュニケーションが格段にスムーズになると言います。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人一般人でも実践的に使えるアドラー心理学アドラー心理学は、心理学の一分野です。その創始者であるオーストリアの心理学者、アルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングと並ぶ心理学の3大巨頭ですが、日本ではほかのふたりと比べて少しマイナーな存在でした。それが大きく変わったのが、2013年。アドラーの教えを伝える書籍『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社/岸見一郎・古賀史健 著)が大ヒットしたことで、日本にもアドラーの名が知れわたったのです。もちろん、アドラー心理学が注目を集めるようになった要因は、書籍のヒットだけではありません。なにより、その使い勝手の良さが大きかったと思います。アドラー心理学は、非常にシンプルでわかりやすい理論のため、子育てのほか、夫婦関係や職場での人間関係など、さまざまな対人関係に適用しやすいのです。では、アドラー心理学とは具体的にどういうものなのでしょうか。アドラーは、簡単に言うと、「どうすれば人は仲良くできるのか」ということを追求した人です。アドラー以前の心理学は、基本的に、心の問題を抱えている人を精神分析したりトラウマなど心の闇をまさぐったりして、「問題の原因を解明していく」というスタンスでした。でも、それでは即座に問題を解決することは難しい。いままさにけんかしている目の前の人とどうすれば仲直りできるのか、これから仲良くできるのか――。アドラーはそこにフォーカスしました。だからこそ、心理学について特別に学んでいない人たちであっても実践的に使える心理学として、アドラー心理学の注目度がどんどん増しているのだと思います。「子育ての最終目標」とは「子どもを自立させる」ことそのアドラー心理学の観点から、「子育ての最終目標」とは「子どもを自立させる」ことだと私は考えています。普通に考えると、親は子どもより長く生きることができません。そうであるなら、子どもが親から離れて自活し、自らの幸せをつかめるような人間に育てること、すなわち自立させることが親の役割だと言えます。また、自立に加えて、もうひとつの大事なキーワードが、アドラー心理学の専門用語で「共同体感覚」と呼ぶものです。わかりやすく言うと、「公共心」とか「思いやり」になるでしょうか。どんな人間にとっても自分は大事ですから、必要以上に自分を犠牲にする必要はありません。その一方で、社会生活を営む人間としては、「自分さえよければいい」という考え方はNGでしょう。自分を大事にして自らの幸せを追求しながらも、困っている他者に対して手を差し伸べることができる感覚――。共同体感覚を誰もがもっていたとしたら、その社会はきっとハッピーであるはずです。そういう点では、自分も他者も大事にできる共同体感覚をもっている人間が、自立している人間だと定義できるかもしれません。もちろん、アドラー心理学を学んだ経験がない人でも、親であれば誰もが「子どもに自立してほしい」「自分も他人も思いやれる人になってほしい」と願うものでしょう。ところが、実際の子育てとなると、さまざまな問題に直面します。その筆頭が、子どもに対する「イライラ」や「怒り」の感情ではないでしょうか。親は子どもを愛しているからこそ、イライラしてしまうでは、イライラや怒りとはなにか?それらは、心理学的には「二次感情」と呼ばれるものです。でも、二次感情以前に別の感情である「一次感情」があります。それらが増大して沸点に達した結果、イライラや怒りになるのです。代表的な一次感情は、「落胆」「心配」「不安」「寂しい」「悲しい」の5つ。「いい子に育ってほしい」と期待しているから落胆がある。「健康でいてほしい」と願うから心配するし不安にもなる。子どもと離れると寂しいし、子どもと愛し合えなくなったら悲しい。どれも親が子どもに対してもちやすい感情ですよね。つまり、これらの感情は親としての子どもへの愛情とセットのものです。親はみんな子どもを愛しています。だからこそ、一次感情が膨らんでイライラや怒りを抱えてしまうのです。つまり、親が子どもに対してイライラや怒りを覚えるのは当然のこと。問題は、親の気持ちの伝え方にあるのです。二次感情のイライラや怒りをそのままぶつけるから、親子関係がうまくいかなくなる。そうではなく、冷静に一次感情を伝えることを考えましょう。親子間に欠かせない「共感」は、「同意」とはまったくの別物そして、それ以前に子どもの話をきちんと聞くことを心がけてください。その際のキーワードとなるのが、「共感ファースト」。まずは子どもの話を聞いて、その思いに共感することが重要なポイントです。ただ、注意してほしいのは、「共感」と「同意」はまったく別物だということ。「共感=同意」だと考えると、すべて子どもの言いなりになるしかありません。それではやはり、親としては納得できない。「同意できないから、私は共感もしない」と考えてしまい、きちんと子どもの話を聞いてあげられなくなり、親子間の衝突が起きるのです。同意しなくてもいいのです。でも、まずは共感してみましょう。たとえば子どもが友だちに暴力をふるったとします。その行為自体はいいものではありませんから、絶対に同意はできないでしょう。でも、その行為の裏には、暴力をふるってでも守りたかった自分の正義があったのかもしれない。その本心をきちんと聞いて共感してあげないことには、子どもはいつまでたっても「どうしてわかってくれないんだ!」と親に対して不信感を募らせるだけです。でも、親がしっかり子どもの話を聞いて共感してくれたら、「お父さん、お母さんは、自分のことを本当にわかろうとしてくれているんだ」と子どもは思いますよね。そうすれば、そのあとのコミュニケーションもスムーズになる。「あなたの気持ちはよくわかった、でもやっぱり暴力はよくないと思う」と同意できないことを伝えても、自分に共感してくれた親の言葉になら、子どもは素直に耳を傾けてくれるはずです。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険(※近日公開)第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法(※近日公開)第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える(※近日公開)【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月12日子どもに対して、「勝手に育ってくれ」なんて思っている親はまずいません。親それぞれに理想の子育てがあるからです。そのため、自分の理想から外れるようなことを子どもがすると、どうしても親子でぶつかりがち。アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練プログラム「親業」のインストラクターである親業訓練協会の瀬川文子さんは、親子間の問題を解決するには「勝負なし法」がベストだと言います。しかも、この方法には子どもの創造性を伸ばすというメリットもあるのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人親子間における問題の解決法は3種類「親業」においては、親子間における問題を解決するには3つの方法があると考えています。よく使われるのが、親の意見や考えを無理やり子どもに押しつけて従わせる方法です。これをわたしたちは、「第1法」と呼んでいます。一方で、スーパーで子どもに「お菓子が欲しい」と駄々をこねられ仕方なく親が従うということもある。これは、子どもが自分の考えを押し通したケースで、「第2法」と呼ぶものです。これら第1法と第2法には、勝ち負けが存在します。第1法なら親が勝ちで子どもが負け、第2法なら子どもが勝ちで親が負け。これら勝ち負けがある「勝負あり法」は、力技です。力を使われて負けたほうは、勝ったほうに対してもどうしても不満を持ってしまう。そのため、いい関係を築きにくくなります。でも、3つ目の問題解決の方法である「第3法」と呼ぶものは、勝ち負けがない「勝負なし法」です。この方法では、本来、子どもより力を持っている親は、その力を使わずに子どもとの話し合いのテーブルにつきます。いわば、横並びで対等になるわけです。そして、子どもと同じ目線に立ち、互いが納得できる解決策を話し合いながら探していくのです。もちろん、子どもの側も子どもなりに考えて解決策を出します。そのため、互いに不満が残らないのです。「勝負あり法」が子どもの育ちに与える悪影響もちろん、「勝負なし法」で親子間の問題を解決することが信頼関係を強めます。第1法、第2法では、親子のどちらかに不満が残ること以外にも、大きなデメリットがあります。それは、子どもの育ちに悪影響を与えるということ。第1法では、指示命令によって親の言いなりに子どもを育てることになります。そのため、子どもは、「言われたことはやるけど、言われなければやらない」という、いわゆる「指示待ち人間」になってしまうでしょう。これからの時代に大切だとされる、自立心や主体性がまったく育たないということになりかねません。また、第2法の場合には、子どもは常に自分の要求が通るために、すごくわがままで傍若無人に育ってしまう可能性を秘めています。もちろん、その要求を親だけに向けるのではなく、友だちなどまわりの人にもそうするでしょう。それでも、未就学児の頃までならなんとか社会生活ができるかもしれません。でも、小学校に入学したらそうはいかない。先生からは叱られ、友だちには嫌われる……。そうして、不登校になるといったことだって否定できません。さらに、第2法を使い続けると、年齢に応じて要求が大きくなることも問題です。スーパーでお菓子をねだるくらいならまだかわいいものですが、10代も後半となったら、バイクや自動車をねだるといったふうに要求はエスカレートするでしょう。そのときになって「これじゃ駄目だ」と慌てて第1法に変えようものなら、それこそ親子間のバトルが勃発してしまいます。子どもが一生懸命に考えることで、創造性が伸びる一方、「勝負なし法」である第3法の場合には、親子双方に不満が残らないことのほかにもメリットがあります。それは、子どもの創造性が伸びるということ。なぜなら、子どもが自分で「どうしたらこの問題を解決できるんだろう?」と一生懸命に考えるからです。いろいろな経験があるために「こういうケースはこうするべきだろう」と考えがちな親よりも、むしろ子どものほうがよほどおもしろくて自由な解決策を提案するということも珍しくありません。これは親子が衝突したケースではありませんが、かわいらしくて楽しいエピソードをひとつ紹介しましょう。わたしたちが行なっている親業訓練講座(インタビュー第1回参照)を受講したお母さんから聞いたお話です。そのお母さんには3人の子どもがいます。そして、問題となっていたのが、「寝るときにお母さんの隣を3人の子どもが取り合う」ということでした(笑)。子どもは3人なのに、お母さんの隣はふたつしかありませんからね。どうすればいいかと話し合ってみると、子どもたちは、じつにおもしろくて自由な解決策をどんどん提案しました。たとえば、「ひとりはお母さんの上で寝る」とか。それから、「みんなで寝られる大きい布団を買う」という意見も。その子の視点からは、同じ布団に入っていたら隣で寝ているという感覚なんですね。そんな発想は大人にはありません。このケースのように、なにか問題が生じたとしても「勝負なし法」によって子どもの発想を面おもしろがるような姿勢が、親子間の問題解決には大切なのかもしれません。子どものおもしろい発想に親が笑ってしまったら、それこそ衝突どころではありませんからね。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月10日「何度言っても子どもが言うことを聞かない」「いつも同じことで叱っている気がする」――。これはもう、親にとっての「あるある」でしょう。そういうことが起こる原因はどこにあるのでしょうか。アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練プログラム「親業」のインストラクターである親業訓練協会の瀬川文子さんに、対処法と併せて教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)「あなた」を主語にした叱り方が子どもの反発を招くNGな叱り方をひとことで言うと、「『あなた』を主語にした叱り方」です。子どもを叱るのは、たいてい子どもの行動に対して親が気に入らないとき。すると、「どうしてそんなことするの!」というふうな表現になります。主語を省略することが多いのが日本語の特徴であるためにわかりづらいかもしれませんが、これは、「(あなたは)どうしてそんなことするの!」と、「あなた」を主語にした叱り方です。「(あなたは)なにやってるの!」「(あなたは)またそんなことして……」も同様。そして、これら「あなた」を主語にした叱り方には、相手を責めるニュアンスが強く含まれます。そのため、責められたほうは言い訳をしたり反発したりしたくなるのです。親からしたら気に入らない行動も、子どもからすれば「親に迷惑をかけてやろう」なんて思ってやっているわけではありません。汚れた靴下を脱ぎっぱなしにしたのもただ忘れてしまっただけとか、おもちゃを片づけないのも夢中になって遊んでいるうちに結果的に散らかってしまっただけということがほとんどでしょう。そこで、「まったくこの子は!」というふうに子どもを責めるのはお門違いです。叱るときは、怒りではなく「第一次感情」に注目そうではなくて、親は「(私が)困っているんだ」ということを丁寧に子どもに伝えていかなければなりません。「私」を主語にした「私メッセージ」で子どもに感情を伝えることが大切なのです。そうすれば、子どもは親の感情をきちんと受け取って、行動を変える可能性が高くなります。でも、親も自分の感情にはなかなか気づけないものです。私たちが行なっている親業訓練講座(インタビュー第1回参照)の受講者のみなさんに、「私メッセージ」をつくる練習のために、親子にありがちなシチュエーションのなかでの自分の感情を挙げてもらうと、「嫌だ」「困る」「イライラする」くらいなもの。普段からそこに注目していないために、自分の感情が見えなくなっているわけです。でも、感情がそんなに単純なものだけであるはずはないですよね?そこで、自分の感情に注目するトレーニングをしましょう。注目してほしいのは、いわゆる「第一次感情」です。子どもを叱るとき、多くの親は先に挙げた3つの感情などを含む「怒り」を感じています。でも、怒りというものは、たいてい別の感情の次に湧いてくるもの。その怒りより先に湧いてくる感情こそが第一次感情です。子どもが遊園地で迷子になったとします。親が最初に感じる感情はなにかといったら、当然「心配」や「不安」でしょう。「どこに行っちゃったんだろう……」と親なら誰もが我が子を心配して不安になる。でも、子どもが無事に見つかったら、最初にどんな言葉をかけるかというと……「(あなたは)なにやってんの!」です。これでは、心配されていたことがわからないまま、怒られたという事実だけが子どもの印象に残ってしまう。つまり、親子間のコミュニケーションにとって好ましくない誤解を生むことになるのです(インタビュー第1回参照)。親の「私メッセージ」が、子どもの「思いやり」も育むもちろん、場合によっては叱らなければならないこともあるでしょう。でも、その前にまずは親の心配や不安といった第一次感情を「私メッセージ」で伝えるほうが効果的です。そうすれば、叱られた子どもに親の気持ちがしっかり伝わり、子どもの反省の度合もまったく違ってきます。それこそ迷子になった子どもが見つかったときであれば、親に「よかった、すごく心配して不安だったのよ」と言われたなら、子どもも「こんなに心配させてしまうんだったら、今度から気をつけよう」と思うでしょう。そのあとのお説教も素直に聞いてくれるはずです。最後に、子どもの行動や言葉が嫌だなと思ったときの、「私メッセージ」の伝え方のコツを紹介しておきます。以下の「3部構成」にすることが効果的です。【「私メッセージ」のコツ】子どもの行動:非難がましくなく、目に見える、耳に聞こえる事実を伝える行動から受ける自分への影響:できるだけ具体的に伝える私の感情:正直に素直に伝えるこの「3部構成」で「私メッセージ」を伝えることにより、子どもは自分の行動が親を困らせたり悲しませたりすることを理解できるようになる。ひいては、他人に対する「思いやり」を育むことにもつながります。そのためにも、「こうしてちょうだいね」という言葉をつけ加えて「4部構成」にしないことです。それでは結局、指示命令になってしまい、子どもの思いやりが自発的に生まれることを阻害することになりますから注意してください。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響(※近日公開)【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月08日アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練のプログラム「親業」。そのインストラクターである親業訓練協会の瀬川文子さんに、具体的なメソッドを教えていただきます。今回、取り上げるポイントは、「聞き方」です。瀬川さんは、「子どもが育っていく過程において、親による話の聞き方は非常に重要」だと言います。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)聞き方には「受動的な聞き方」と「能動的な聞き方」がある「親業」においては、聞き方には「受動的な聞き方」と「能動的な聞き方」の2種類があるとしています。受動的な聞き方とは、子どもがなにかを話しているときに「相づちを打つ」「黙って聞く」「話が止まったら促す」といったことを指します。これも、親子間のコミュニケーションにおいては大切なことです。でも、受動的な聞き方が適さないケースもあります。子どもが深刻な悩みを打ち明けているのに、親が「へえ」「ふうん」とただ相づちを打っているだけだとしたらどうでしょうか?子どもは、自分の言っていることがきちんと親に伝わっているのか、親が自分を受け入れてくれているのかがわからず、不安に陥ります。そのような不安を招かないために効果的なのが、「能動的な聞き方」です。能動的な聞き方とは、「あなたの話を私はこう理解したけれど、それで正しい?」というふうに、相手に確認する聞き方のこと。具体的には、「相手の言葉を繰り返す」「言い換える」「相手の気持ちを汲む」です。子どもに問題や悩みを客観視させる「能動的な聞き方」じつは、この聞き方は、カウンセラーがよく使うものです。カウンセラーは、基本的に依頼者の話を聞くだけで、解決策を与えることはしません。与えなくとも、この能動的な聞き方によって依頼者自身が解決策を見いだすことができるからです。友だちと喧嘩したことを悩んでいる子どもが、どうしたらいいかと親に相談していたとします。そこで、「いまのあなたの話って、こういうことだよね?」と親から確認されると、子どもは自分の悩みや問題、喧嘩の経緯を鏡で見ているような状態になる。そのために、「僕の言葉にも悪いところがあったかも……」といったふうに客観視ができ、「じゃ、どうしたらいいんだろう」と子どもが自分で考えて解決策を導き出すことができるのです。もちろん、ただ能動的な聞き方をすればいいわけではありません。子どもが悩みを打ち明けているようなケースなら、それこそ子どもの気持ちに共感してあげる必要がある。それなのに、親業をちょっと学んだ人のなかには、表面的なテクニックに走る人も見受けられます。能動的な聞き方の具体的な方法は、「相手の言葉を繰り返す」「言い換える」「相手の気持ちを汲む」ことだとお伝えしました。このなかで一番簡単なものが「繰り返す」ですよね。そのため、「なんでもかんでも子どもの言葉を繰り返せばいい」と考える人もいるのです。でも、子どもが困っているケースにもいろいろなものがあります。これは少し極端な例えですが、先の予定がわからなくて困っている子どもから、「お母さん、来週の予定ってどうなってたっけ?」と聞かれたのに、それを繰り返したところでなんの解決にもならないですよね。あるいは、子ども自身が親の考えを見抜くということもあります。ただ表面的にテクニックを使って「とにかく繰り返せばいいや」と思っていたら、そのいい加減な気持ちは表情や声のトーンなどどこかに出てくるものです。子どもは敏感ですから、そういうサインを見逃しません。そのため、むしろ親子の信頼関係を壊してしまうことにもなりかねないのです。気持ちを3つに整理して、親がやるべきことを知るそんな悲劇を招かないためにも、「気持ちを整理する」ことを意識しましょう。親業においては、気持ちを大きく3つに分けて考えます。その分類基準は、「自分(親)が受け入れられるか受け入れられないか」ということ。子どもが汚れた靴下を脱ぎっぱなしにしていることを「嫌だなあ」と思ったら、それは親としては受け入れられない――「非受容」の行動として整理します。非受容の行動については、「嫌だなあ」と思っているのは親ですから、親自身がきちんと表現しない限り子どもには伝わりません。だから、「靴下を脱いだままにされると困るんだよね」というふうに表現する必要がある。非受容の行動についてはきちんと表現しなければならないのだと自動的に判断できます。一方、受け入れられる――「受容」に整理したもののなかにも、親は嫌ではなくても子どもが嫌だと思っていたり困ったりしている行動もあります。これが2つめの分類です。たとえば、子どもが「お母さん、抱っこして」と言ってきたとします。「嫌だなあ」と思う親はほとんどいませんよね?でも、子どもの様子をよく見ると、なんだかいつもと違って元気がない。「なにか嫌なことがあったのかも」「困っていることがあるのかな」というふうなサインをキャッチできたら、今度は逆に子どもの話を聞くことで問題の解決を図れます。要は、誰が困っているのかを親自身の感じ方で整理し、対応を決めるのです。もちろん、親子ともに困っていない行動もあります。これが3つめの分類です。この行動に関しては、親子ともに落ち着いている状態ですから、特にやるべきことはありません。自由になんでもできる状態といっていいでしょう。このように、「親は子どもの行動に困っている(非受容)」「子どもが困っている(受容)」「親も子も困っていない(受容)」の3つに気持ちを整理することで、親が話すのか、子どもに話を聞くのか、特になにも気にしなくてもいいのか、やるべきことが明白になるのです。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して(※近日公開)第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響(※近日公開)【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月06日どんな親も、我が子との関係をよりよいものにしたいと思っているもの。ですが、子育てをするなかでは、「子どもを思っての言葉なのに、反発ばかりされる……」という経験をして、「子どもへの愛情が伝わっていないのではないか?」と感じることもあるはずです。その問題解決の鍵を握るのは「双方向」のコミュニケーションだと語るのが、「親業」というコミュニケーション訓練プログラムのインストラクターである瀬川文子さんです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人「子どもがどう育つか」ではなく、「親がどう育つか」「親業」とは、アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練のプログラムです。この親業には、ほかのプログラムにはない大きな特徴があります。子育てに役立つとされるほかのプログラムの場合、そのほとんどが「子どもをどう育てるか」という視点でつくられているものです。一方の親業は、「親がどう育つか」という視点でつくられています。親自身が学んで成長することで、子どもとの接し方や関係を改善できるというわけです。このプログラムを開発した当時、ゴードン博士はカウンセラーとして活躍していました。そのため、いわゆる非行少年と呼ばれる子どもたちに接する機会が多くあったそうです。ところが、家や学校では問題児扱いされてカウンセリングを受けさせられることになった子どもたちに会ってみると、子ども自身にはまったくおかしなところがないと感じることが多かったといいます。そして、むしろ親や教師の対応の仕方に問題があるために子どもが反発しているのではないかと考え、親向けのコミュニケーション訓練プログラムを開発するに至ったのです。この親業訓練講座(Parent Effectiveness Training)は、1962年にアメリカのカリフォルニアで開催されたのをきっかけにして全米に広がり、現在では世界50カ国に広まっています。日本では、ゴードン博士の著書『親業 子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』(大和書房)を翻訳された近藤千恵氏が設立し、私も運営に関わっている親業訓練協会が、1980年から講座を提供しています。コミュニケーションの仕方次第では、愛情は伝わらない親子間のコミュニケーションにおける問題には、じつにさまざまなものがありますが、親業の視点から見て大きな問題のひとつだと感じるのが、「子どもが問題に直面したときに、親が性急に解決策だけを与えようとする」ことです。子どもが悩んだり困ったりしていれば、子を愛している親なら助けたくなって当然です。すると、子どもよりはるかに多くの経験をしている親には、「こういうときはこうすればいい」というふうに解決策が見えます。そして、親が考える解決策や意見を子どもに押しつけ、なるべく早く子どもの問題を解決させてあげようとしてしまうのです。もちろん、その言動は子どもへの愛情からくるものです。でも、子どもからすれば、自分が悩んだり困ったりしている気持ちをまったく受け取ってもらえないまま、「こうしなさい」とただ解決策だけが押しつけられたに過ぎません。そのため、どうしても反発や抵抗をしたくなるのです。大人だって同じではないですか?悩んだり困ったりしているときは、悩みを解決したいという気持ちはもちろんですが、なによりまず「誰かに話を聞いてもらいたい」と思うものでしょう。親は、子どもにとってのその「誰か」になってあげなければなりません。「一方向」のコミュニケーションが誤解を生じさせるでは、親業のトレーニングを積んだあとには、子どもとどんな関係を築いていけるのでしょう。大きなメリットとして、「誤解が減る」ことが挙げられるでしょうか。親業訓練講座では、実際の生活のなかで使えるように、さまざまなシチュエーションを想定し、参加者が親役になったり子ども役になったりしながらロールプレイのトレーニングを数多く行ないます。そのトレーニングにより、親子間で「双方向」のコミュニケーションができるようになります。すると、たとえば先に挙げた子どもが悩んだり困ったりしているケースなら、「子どもを愛しているから、早く問題を解決してあげたい」という親の気持ちと、「話を聞いてほしいだけなのに、意見を押しつけられた」という子どもの気持ちのすれちがい――すなわち誤解を減らしていけるのです。逆に、コミュニケーションが「一方向」の場合には、親子間に誤解が生じます。たとえば、子どもに対する「早く起きなさい」「歯を磨きなさい」「宿題をしなさい」という指示命令の言葉がそれにあたります。これらももちろん、子どもを思っての言葉ですが、完全に一方向のものですよね?そのため、子どもには「なぜそうするべきなのか」という理由や、親が子どもを思う愛情は伝わりません。そうした誤解だらけのコミュニケーションを続けていると、子どもが思春期になった頃には、親がなにを言っても「うるさいないあ」としか反応しないようなことになってしまうでしょう。でも、双方向のコミュニケーションにより親子間に強い信頼関係ができていれば、子どもも不要な反発や反抗はしません。このことは、私自身が実感しています。息子が中学生くらいのとき、普段の口調は少し生意気になっても、本当に困ったときは私に相談をしてくれました。普段からの双方向のコミュニケーションの積み重ねにより、息子は「僕が悩んだり困ったりしたときには、お母さんはちゃんと向き合って話を聞いてくれる、僕の気持ちを理解しようと努力してくれる人なんだ」と思ってくれていたはずです。そんな関係性を築き、子どもが親を頼ってくれることは、間違いなく親としての大きな喜びとなるでしょう。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる(※近日公開)第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して(※近日公開)第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響(※近日公開)【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月04日近年の教育界における重要なキーワードとして「自己肯定感」があります。その解釈や評価は人によってさまざまですが、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんは、「自己肯定感は、人間が生きていく力の根幹」だといいます。それだけ重要なものだとすれば、親としては子どもの自己肯定感をしっかりと伸ばしてあげたいものですよね。そのために必要なのは、「親自身が幸せになること」なのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)ありのままの自分を認められる自己肯定感は、生きる力の根幹「自己肯定感」とは、自分のいいところも悪いところも含めて、「自分はありのままでいいんだ!」と認められる感情のことです。一方、その逆はなにかというと、自分の存在を認められない「自己否定」です。この自己否定の感覚が強くなると、最悪の場合は自ら死を選ぶということにもなりかねません。それだけ自己肯定感は重要な力であり、いわば生きる力の根幹です。そう思えば、親であれば我が子の自己肯定感をしっかりと高めてあげたいもの。では、自己肯定感が高い子どもの親にはどんな共通点があるのでしょうか?いま、わたしは、自分のやりたいことをしっかり持っている、自己肯定感の高い子どもの親たちへの取材を続けています。その取材を通じて見えてきたことのひとつとして、自己肯定感の高い子どもの親たちには、子どもに干渉しすぎず、それこそ「子どものありのままを受け止めている」という共通点があることが挙げられます。子どもがやりたいことがなんであれ、まずは認めてあげて、うまくいかないときには、どうすれば実現できるかと一緒に考え、子どもを支援するかたちでの対応をしているのです。一方、自己肯定感の低い子どもの親に見られる共通点が、「子どもをできない存在としてとらえている」ということでした。そういう親は「子どもは、あらゆることを親が教えてあげなければならない存在」だと思っています。そのため、よかれと思って、自分が正しいと思っていることを押しつけて、子どものやりたいことを否定してしまう。あるいは、他人と比較してダメ出しをしたり、親の望む子ども像を押しつけたりしがちです。それでは、子どもの自己肯定感が育まれるはずもありません。しっかりと子どもを観察し、できるだけ子どものいい面やできた部分を見て励ましてあげてください。自己肯定感が高い子どもの親も自己肯定感が高いまた、自己肯定感の高い子どもの親に見られるもうひとつの共通点として、「親自身の自己肯定感が高い」ということも挙げられます。じつは、自己肯定には2種類あります。ひとつが「条件付きの自己肯定感」、もうひとつが「条件のない自己肯定感」です。条件付きの自己肯定感とは、「誰かと比較して優れている」とか「評価されている」というように、人との比較でもたらされる自己肯定感です。この自己肯定感は、自分より優れている人が現れたり失敗して評価が下がったりすると、途端に自信がなくなって低下してしまうものです。反対に、条件なしの自己肯定感は、いいところもダメなところもある自分を受け入れられる自己肯定感。「自分はこのままでいい!」「自分は大丈夫!」と感じられれば、たとえうまくいかないことが起こっても、自己肯定感は揺るがず安定しています。そして、自己肯定感が高い親は、自分の心のコップを、ありのままの自分を受け入れられる自己肯定感という水で満たしているからこそ、子どもの心のコップにも水を注ぐことができるわけです。自分のコップが水で満たされていないのに、子どものコップに水を注ぐことはできませんよね。そうであるならば、親自身が楽しく幸せな人生を歩むことが大切。しかし、残念ながら、ありのままの自分を肯定できないということはあると思います。それでも、もし自分が真剣にそれを望めば、人は必ず変わることができます。そのためには、「ポジティブ心理学」というものを学んでみるのもいいかもしれませんね。じつは、ポジティブ心理学については、わたしもいままさに勉強中です。いま、ポジティブ心理学の分野では、それこそ人が幸せになるための方法の研究がどんどん進んでいます。そういった、自分が幸せになる方法を学んで実践するわけです。ファーストステップとしておすすめするのが、その日にあったよかったことを3つ書き出してみて、なぜそれが起きたのかを考えるということです。これは、マイナスではなくプラスのことに目を向けるレッスンであり、続けていくと幸福度が上がるといわれています。日常のなかの小さな幸せに気づくことができるようになると、自分の心のコップが満たされていくのを感じられるようになります。ぜひやってみてください。日本人は、どうしてもまわりの目を意識しすぎているように感じます。周囲に気を使うばかりに自分の幸せを感じられなくなっている人も多いのではないでしょうか?子どもの自己肯定感を高めてあげるためにも、親であるみなさんはもう少し自分の幸せを追求してみてはどうでしょうか。子育ては「未来をつくる人材の育成プロジェクト」また、いまの親御さんたちを見ていて強く感じるのは、真面目すぎる面があるということ。先行きが不透明な時代ですから、子どもの将来を思って子育てに力を入れるという感情はもちろん理解できます。でも、不安な気持ちからは、いい結果は得られません。「子どもはきっと大丈夫! なんとかなるさ」と、もう少し気楽に考えていいとも思うのです。わたしは、子育てとは「未来をつくる人材の育成プロジェクト」なのだと考えています。我が子だから「きちんと育てないといけない」と力が入るわけです。ならば、とらえ方を少し変えてみましょう。「子どもは神様から一時的に預かったたまもので、独り立ちできるように育てて社会に還す」という感覚で子育てをするのです。「自分のもとにたまたまやってきた子どもは、はたしてどういう人間なのかな?」と考えて、まずは観察してみる。そうして、「こういう性格なのかな」「得意分野はこういうところかな」というふうに見立てをして、その子の強みが生かせるように励ましながら、子どもが自分で決めていけるように支援してほしいのです。子どもは最終的に親離れしなければなりませんし、親もまた子離れしなければなりません。そのためにも、子どもに自分の人生のすべてを注ぐようなことは避けたほうが賢明です。親であると同時にひとりの人間であるみなさんの人生には、さまざまな出来事があります。子育てという人材育成プロジェクトに携わることは、そのひとつに過ぎません。そういうふうに少し俯瞰して考えることが、子育てに入れ込みすぎることなく、子どもをひとりの人間として認められ、自己肯定感を高めることにもつながるはずです。新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界は大きく揺れ動き変化しています。そんな時代に遭遇した子どもたちには、これまで以上に、自分で考え、道を切り開いていく力が必要になってくると思います。ぜひ、失敗を恐れずに挑戦できる力を育んでください。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月25日少子化が進んだいま、限られた数の子どもに愛情をたっぷり注ぐ親が増えていることで、新たな問題が生じています。それは、「子どもが失敗をしないようにする親」の増加です。失敗をしないことは悪いことではないようにも思えますが、いったいなにが問題なのでしょうか。教育ジャーナリストとして活躍する、中曽根陽子さんに教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)子どもに失敗させまいとするのは、親が「安心したい」だけ子どもが失敗することがわかっていて、みすみすその道を進ませるのは忍びない――。子どもに失敗させたくないというのは、我が子を思う親として当然の感情であり、親が持つ本能ともいえます。ただ、その感情の裏にあるのはなにかというと、多くは親自身が「安心したい」という気持ちのように思うのです。いまは世の中の先行きが不透明な時代です。だからこそ、自分が受けてきた教育や体験をそのまま子どもに与えるだけでは通用しないということも親は薄々感じています。すると、「学歴をつけておけばいい」というふうに、「これをやらせておけばいい」といった策が見つからないということになる。その不安を解消して自分が安心したいがために、「せめて子どもがなるべく失敗しないですむようにしたい」という発想に至るのだと思います。「わたしの子どもは失敗しないから、子育てや家庭教育がうまくいっている」と感じたいわけです。そう考えると、子どもに失敗させまいとして取っている言動も含め、自分の言動の裏にある親自身の気持ちをときどき振り返ることが大切になってきます。「いまの言葉かけや行動は、本当に子どものためのものなのか?」「そもそも自分が安心したいだけではないのか?」というふうに疑問視するのです。子育てに追われる忙しい生活のなかでは、どうしても目先のことばかりに目が向きがちですが、自分自身を俯瞰することはとても大切です。困難に立ち向かう力は、失敗からしか学べないでも、なぜ親が安心したいがために、子どもに失敗させまいとすることがよくないのでしょうか?親が安心することがよくないわけではありません。子どもに失敗させまいとすることがよくないのです。なぜなら、失敗の経験から子どもは多くのことを学び、たくましさを身につけていくからです。新型コロナウイルス感染の拡大という事態で、世の中は一気に変化を余儀なくされています。変化が加速していく時代のなかを子どもたちはサバイバルしていかなければなりません。思いもかけない事態に直面したときにはなおさら、自分で判断し行動する主体性が必要です。それなのに、まったく失敗を経験しないまま大人になってしまうと、ちょっとした困難にぶつかっただけでも挫折してしまうということになるでしょう。困難にぶつかって一度はしょげてしまっても、そこから学び、再びその困難に立ち向かうようなたくましさは、失敗を乗り越える経験からしか学ぶことができません。そして、その学ぶ場は学校などではなく、多くは家庭生活のなかにあります。だからこそ、親の対応が大切になるのです。考えてもみてください。親元にいるときの子どもの失敗なんて、大人から見れば大したものではないはずです。仮に失敗したとしても、人生が終わるといったことはありません。ですから、どんどん失敗をさせてあげましょう。そのなかで、子どもは失敗を乗り越える成功体験を積むことができる。その体験が、のちに生きる知恵として力を発揮するようになるのです。子ども自身に任せ、子ども自身に解決させる子どもに失敗をさせることが大事だというと、「子どもにどうやって失敗させたらいいでしょうか?」なんて疑問を持った人もいるかもしれません。でも、「失敗をさせる」のではなく、「失敗をさせないようにしない」ことが大切です。言い換えると、いい意味で放っておくのです。たとえば、「子どもが忘れ物をしないか心配だから」と考えて、子どもが小学校に持っていく持ち物をすべて用意しているような人はいませんか?もちろん、子どもが小さいときにはトレーニングとして一緒に持ち物の準備をすることも必要でしょう。でも、いつまでたっても親がすべて用意していると、仮に忘れ物があったときには、子どもは「お母さんがちゃんと用意してくれなかったからだ!」と親のせいにします。そうではなくて、子どもに任せればいい。それで忘れ物をしたとしても、強く叱ってはいけません。なぜなら、叱るだけでは子どもの行動変容につながらないからです。親がやるべきことは、子どもに任せて、失敗したとなったら今後の行動変容を促すこと。「次からどうすればいいかな?」と聞いてみましょう。忘れ物をして恥ずかしい思いをした子どもなら、「忘れ物をしないためにはどうしたらいいか」と自分で必死に考えるはずです。持ち物の用意に限らず、さまざまなことを子どもに任せること。そしてなにか問題が発生したとしても、親はサポートに徹して子ども自身に解決させることを強く意識してほしいと思います。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは(※近日公開)【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月21日「これからの時代、学歴は武器にならない」ともいわれます。その一方で、中学受験をはじめとした受験熱、教育熱は高まるばかり。日本において、学歴が持つ価値や意味はどんなものになっていくのでしょうか。教育ジャーナリストの中曽根陽子さんは、「大学に行くことを目的とするのではなく、もっと大きな人生の目的に向かうルートに大学があるなら、行けばいいだけのこと」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)日本とまったく異なる欧米の入試システム世代人口が減った現在、日本は「大学全入時代」といわれます。大学のレベルを問わなければ、いまの子どもたちは全員が大学に入学できるというわけです。そうはいっても、やはりレベルの高い大学への入学はいまも変わらず簡単ではありません。とくにそういった難関大学は、入学者数を減らして一定のレベルを保とうとしているからです。では、その「レベル」とはなにか?それは、いまも変わらず、基本的には「偏差値」です。世代人口が多い団塊ジュニア世代が受験生だった時代のような「偏差値至上主義」とまではいかなくても、日本においては偏差値が重視される傾向にあることはたしかです。一方、日本や韓国などで行われるような、アジア型といわれる入試とまったく異なる入試システムをとっているのが、欧米です。欧米の入試では、日本の入試のように受験生が一斉に同じテストを受けるということはありません。一定の学力を測るスコアは必要ですが、その結果はあくまでも合否を判断する資料のひとつにすぎません。その一方で、たとえば志望理由やポートフォリオ、エッセイなどの書類をたくさん提出する必要があります。あるいは、何人かの推薦者がいないといけないということも。要は、入学を志望する人物が、いままでにどういうことをしてきて、どういう人たちとかかわってきて、入学したらなにをしたいのかといったことまで含め、トータルの人物像が欧米では問われるわけです。日本における自分の偏差値で表せるようないわゆる学力と呼ばれるものは、あくまでひとつの指標でしかありません。大学入試改革が失敗すれば日本の未来はない!?ただ、日本でも大学入試改革が進行中です。そもそも、なぜ大学入試改革をする必要があったか?それは、いまという時代が大きく変化しているからです。時代が変われば、それに伴って必要とされる人材も変わってくる。ところが、経済界からは「欲しい人材が育っていない」という声が以前から相次いでいました。そこで、大学入試を変えれば、その前にある高校、中学校、小学校の教育も必然的に変わっていく。そうして、実社会で求められる人材を育てようというロジックで大学入試改革が進められることになったのです。でも、当初予定されていた英語民間試験や記述式問題の導入が延期となるなど、現在は大学入試改革がトーンダウンしているのが実情です。しかし、仮にこのまま大学入試改革が頓挫して、結局かつての入試と同じようなシステムに戻ってしまったら、「日本の未来はない!」というくらいにわたしは考えています。先にお伝えしたように、大学入試改革に先んじて2020年から、高校、中学校、小学校の教育も変わっていきます(インタビュー第1回参照)。そのベースとなるのが、新たな学習指導要領。それは、これまでの教育とは異なる「生きる力」を伸ばすことを目指したものです。さらに、現在のコロナ危機で学校が休校に追い込まれ、オンライン化が加速しているなかで、学校教育の意味が問い直されています。もし、学校関係者が、単にコロナ禍の前に戻すことだけを目指すなら、日本は世界の潮流からも完全に遅れを取ることになるでしょう。さて、文科省によれば、生きる力とは具体的に「学びに向かう力、人間性」「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」とされています。明らかに、これまで重視されてきたような知識をたくわえる力とは異なるものであり、どれもとても重要な力ですよね。その教育が本当にしっかりと定着するのか。そして、その教育で子どもたちが身につけた力を大学がきちんと評価できるのか。そこに大学入試改革が実を結ぶかどうかの鍵があるように思います。今後は学歴が持つ価値が変わっていく大学入試改革にはじまる日本の教育全体の改革が進めば、「これからの社会で求められる人材」が育つことになるでしょう。ただ、わたし自身は、これからは学歴は万能ではなくなると思っています。もちろん、これからも学歴はある程度の武器にはなるでしょう。でも、「あの大学を出るくらいのポテンシャルを持っている人なんですね」という程度の評価基準になるのではないでしょうか。それよりも問われるようになるのは、先の欧米の大学入試ではないですが、その人自身がなにをしてきたか、なにができるのか、なにをしたいのかといったトータルの人物像でしょう。そう考えると、今後は、自分自身の人生の「目的」をしっかり考えることがより大切になります。たとえば、なんの目的も持たないままに東大に行ったところで、東大で過ごす時間はただの無駄でしかありません。それよりも、自分の人生の目的をしっかり見据え、その目的のために必要な大学に行くこと。必要なければ大学には行かずに目的に向かって最短距離で進んでいく。あるいは、必要になったときに行く。そういった柔軟な考え方を持つことが大切です。大学は単なる通過点にすぎません。その先を見据えて自分の生き方を考えることを、ぜひお子さんに伝えてほしいと思います。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎(※近日公開)第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは(※近日公開)【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月19日「時代の変化が激しい」「先行きは誰にも見えない」――。いまという時代を指してよく形容される言葉です。では、いまから30年後の2050年はどんな時代になっているのでしょうか?少々無茶なお願いと知りながら、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんに予測してもらいました。そして、そんな時代に必要な力とはどんな力なのでしょう。併せて中曽根さんに答えてもらいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人子どもたちの65%は、いまは存在しない職業に就くみなさんは、1990年に、その30年後であるいまの社会を想像できたでしょうか?時代の流れが加速度的に速くなっていることを思えば、いまから30年後の2050年の社会となると、それこそ誰にも予測できないはずです。それどころか、新型コロナウイルスの影響で、数カ月先の見通しを立てることさえ難しい事態に陥っています。ただ、このことで、人は国境を越えてつながっているということをなおさら実感するようになっています。もしかしたら、30年後には、宇宙空間までも含めて、遠く離れた場所にいる人やものがつながっていくという世界になっているのかもしれません。そして、社会の変化に伴って変わるのが仕事です。1990年に、30年後にはユーチューバーという仕事があるなんて誰にもわからなかったはずです。よくいわれる話ですが、AIの進化によって、いまの子どもたちが大人になったとき、その65%はいまはない職業に就く可能性が高いという研究もあるほどです。しかし、予測よりもっと早く、「アフターコロナ」には社会は一変するかもしれません。実際、外出が禁止されたことで、リモートワークが予測より早く広まり、働き方も大きく変わっていきそうです。学校教育もオンライン教育が普及するでしょう。私たちはいま、歴史的な大きな転換期に遭遇していて、社会はもちろん、働き方、そして生き方も含めて、もっと多様な時代になっていくのではないかと感じています。これまでの教育で培われる力だけでは、今後は生きていけないでは、そんな時代を生きていくいまの子どもたちには、どんな力が必要とされるのでしょうか?それは、「21世紀型能力」と呼ばれる力です。2020年から施行された新しい学習指導要領では「生きる力」と表現されています。それについて、わたしなりの解釈をお伝えします。これまでの教育では、いかに知識をたくわえるか、そしてその知識を決まった手順に沿ってアウトプットできるかという能力が重視されてきました。でも、その決まった力だけでは、どんどん変化していくこれからの時代を生きていけそうにありませんよね。そんな時代に必要なのは、知識をただたくわえるだけではなく場面に応じて自分なりに活用し、自ら考えて課題を発見し、その課題を解決していく能力です。コロナ危機のいま、まさにその能力が求められています。また、これからは国境を越えて人がつながっていく事象がさらに進んでいくと先に述べましたが、そういう意味で大切になるのが多様性の理解と協働力。外国人と一緒に仕事をしているという人はどんどん増えていますが、今後はさらにその傾向が強まるでしょう。そんななかで大きな仕事をしようと思えば、さまざまなパーソナリティーを持つ人たちと一緒に協働できる力が大切になるはずです。これら、新たな学習指導要領に盛り込まれた「生きる力」が大切だということについては、わたしも基本的には賛同しています。ただ、わたしはもう少し別の視点での能力も大切になるのではないかと感じています。その能力とは、「自分らしく自分の強みを生かしながら幸せに生きていく力」です。ただ生きていても意味はありません。この世に生まれてきた以上、やはり幸せな人生を歩みたいものです。そして、幸せとは、やはり誰かに決められたレールのうえを歩くのではなく、自分の強みを生かして自分らしく生きていくことでしょう。しかも、その生き方が社会や周囲の人たちに貢献できるようなことになれば、幸福度はさらに上がるのではないでしょうか。親の役目は子どもの「自分らしさ」を伸ばすサポートそう考えると、ちょっと欲張りかもしれませんが、未来を生きる子どもたちにはもうひとつ別の能力も身につけてほしい。それは、「自己探究の力」です。「自分らしく自分の強みを生かしながら幸せに生きていくのがいい」とどんなに思っていても、その「自分らしさ」や「自分の強み」をわかっていなければ、そうすることはできないからです。そして、親であるみなさんにも、この「自己探究の力」の重要性を知ってほしいですね。親であれば誰もが我が子には期待します。「こんな人間に育ってほしい」だとか、「子どものときに自分が苦手だったことを得意になってほしい」というふうに考えてしまいますよね?親ならあたりまえのことです。でも、親としての究極の願いは「子どもに幸せになってほしい」ということであるはずです。そこで、ちょっと立ち止まって考えてほしいのです。はたして、親であるみなさんが考える「理想の子ども」は、目の前の我が子とはまったく別の人間になっていないでしょうか。自分が思う理想の子ども像に我が子をあてはめようとして、子どもが「自分らしく自分の強みを生かす」ことを邪魔していないでしょうか。親の役目は、我が子の「自分らしさ」や「自分の強み」を見極め、それらを伸ばしていく手助けをしてあげることなのだと思います。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない(※近日公開)第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎(※近日公開)第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは(※近日公開)【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月17日「子育ての最終目標」というと、みなさんはどんなものだと考えているでしょうか。人それぞれだとは思いますが、自身も子育ての真っ最中である、京都大学大学院准教授の森口佑介先生は、「子どもの自主性を伸ばすことが子育ての最終目標」だといいます。では、子どもの自主性を伸ばすために親ができることとはなんでしょうか?森口先生がアドバイスしてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)受け身ではない「真の我慢」が自主性を伸ばす「我慢」という言葉を聞いたとき、みなさんはどんなイメージを持ちますか?子どもの頃、親や学校の先生に「我慢しなさい」といわれたことは誰もがあるでしょう。一般的に、我慢とは周囲の誰かに強いられるものというイメージが強いはず。このケースなら、子ども自身は我慢しようと思っているわけではなく、親や先生が我慢させたいだけ。これは、いわば「受け身の我慢」です。ただ、子ども自身がそうしたいと思ってする我慢もあります。たとえば、大好きなスポーツをうまくなりたいからと、肉体的にはきつくても一生懸命に練習やトレーニングに取り組むような我慢がそれにあたります。これは、子どもが自らすすんでやる「真の我慢」といえます。では、どちらの我慢が大事かというと、もちろん「真の我慢」です。というのも、自らすすんで行う「真の我慢」には、いわゆる非認知能力の発達に欠かせない「自主性を伸ばす」ということが伴うからです(インタビュー第1回参照)。また、非認知能力を伸ばすという目的以外にも、子どもの自主性を伸ばすことはとても大切だとわたしは考えています。意見はそれぞれでしょうけれど、子どもの自主性を伸ばすことこそが、子育ての最終目標なのではないでしょうか。通常、親は子どもより長く生きることはできません。子どもに「親から離れたあとも、自分で生きていける力」を身につけさせるには、自主性を育てることが大事。これこそが、親の役割であるはずです。成長する子どもをよく見て、子どもの自主性に「任せる」さて、子ども自らそうしたいと思ってやる「真の我慢」が大切であることはたしかですが、そうはいっても、幼い子どもにはなかなかできることではありません。「真の我慢」ができるようになるのは、だいたい4〜6歳頃からです。ですから、3歳くらいまでの子どもには、必要に応じて親がある程度コントロールして我慢させることも必要でしょう。でも、いつまでもそういう我慢をさせていては、子どもは「受け身の我慢」を続けさせられるだけですから、「真の我慢」によって自主性を伸ばすことができません。その一方で、親が子どもの自主的な行動を容認することで、子どもに「真の我慢」が身につくということもあります。だからこそ、親が子どもにかかわるバランスが大切。日々成長していく子どもの行動をしっかりと見て、親がかかわる度合を少しずつ減らしていくのです。そうして、これまでは子どもが自分でできなかったことが、子どもひとりでできそうに思えたなら任せてあげる。子どもの「自分でやりたい!」という気持ちを尊重し、徐々に子どもの自主性に任せる割合を増やしていくことがなにより大切です。「褒める」より「認める」子育てを!また、子どもの自主性を伸ばすことを考えるなら、近年流行している「褒めて伸ばす」子育てをするにも注意が必要です。なぜなら、褒めることが子どもの自主性によくない影響を与えることが研究によってわかっているからです。これは、専門用語で「アンダーマイニング効果」と呼ばれるもの。どういうものかというと、子どもが自主的にやっていることに対して褒めたりご褒美をあげたりすると、その行為を子どもがしなくなるというものです。たとえば、子どもがお友だちに対してなにか親切なことをしたとします。親であれば褒めたくなりますよね?でも、子どもというのはそもそも親切にすること自体が好きなのです。ですから、ただ自分がそうしたくて自主的にお友だちに対して親切にしただけにすぎないということもよくあります。それなのに、「すごいね!」なんて大げさに褒められたり、あるいはご褒美をもらったりすると、ただそうしたくてやっていたことの目的が、「褒められたい」「ご褒美が欲しい」というふうにすり替わってしまうのです。すると、「褒められたい」「ご褒美が欲しい」というときには同じことをするかもしれませんが、「褒められたくない」「ご褒美はいらない」というときには、それまでならすすんでやっていたことをやらなくなってしまうというわけです。褒め方次第では子どもの自主性の芽を摘むことになるという点には注意が必要です。そこで、「褒める」よりも「認める」ことを意識してください。「すごいね!」「天才かも!」といった大げさな言葉ではなく、子どもの行動をしっかりと見て、「頑張ってるね!」「自分でやり切ったね!」といった言葉で、「あなたがやっていることをきちんと見ているよ」ということを伝えてあげてほしい。それこそが「認める」ということであり、認められた子どもは「このままでいいんだ!」とさらに自主性を伸ばしていくことになるはずです。『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』森口佑介 著/講談社(2019)『非認知能力を育むリーフレット』(大阪府教育委員会)森口佑介先生作成協力■ 京都大学大学院准教授・森口佑介先生 インタビュー記事一覧第1回:エビデンス多数あり。「目標を達成する力」のある子どもは幸せになる!第2回:困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」第3回:“真の我慢”によって「子どもの自主性」を伸ばす。これぞ子育ての最終目標!【プロフィール】森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)1979年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院文学研究科准教授。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任する。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は発達心理学、発達認知神経科学。人文学に着想を得た問題を科学的に検討している。主な著書に『自己制御の発達と支援』(金子書房)、『おさなごころを科学する 進化する幼児観』(新曜社)、『わたしを律するわたし 子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月13日子育てにおいて重要なものとされる、「アタッチメント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?発達心理学を専門とする京都大学大学院准教授の森口佑介先生は、「しっかりとしたアタッチメントが、子どもにさまざまな力を与えてくれる」と語ります。そして、そのための鍵を握るのが「親の子離れ」なのだそう。まずは、そもそもアタッチメントとはどういうものなのかという話から始めてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)アタッチメントにより子どもは自信を持つ「アタッチメント」とは、ごく簡単にいえば「親子の絆」のことです。子どもが赤ちゃんのときには、なにをするにも親の助けが必要です。あるいは、なにか嫌なことがあったときにお母さんが抱っこしてくれるなどすれば安心できる。そういう親子のやり取りのなかで、子どもは親との感情的な絆を深めていきます。そして、このアタッチメントこそ、子どもがよりよい人生を歩んでいける人間になるための「礎」なのです。たとえば、親とのあいだにしっかりしたアタッチメントが形成できた子どもは「自信を持つ」ことができます。親からしっかりと愛情を受け取って育っているために、なにか嫌なことや困ったことがあったときにも、「親やまわりの人は自分のことを助けてくれる」「自分は親やまわりの人から愛される存在だ」という認識を持っているために、自信を持って問題解決に臨むことができるのです。しかし、親とのあいだのアタッチメント形成が不十分な子どもの場合は、「親やまわりの人は自分を助けてくれることなんてない」「自分なんて親やまわりの人から愛されない存在だ」という認識があるために、自信を持つことができず、ちょっとした困難にも立ち向かうことができません。社会で生きる人間に不可欠な「感情をコントロールする力」また、強いアタッチメントを形成できれば、子どもは「感情をコントロールする力」も獲得していきます。なぜなら、その力をアタッチメントの形成途上で親から学ぶからです。赤ちゃんが泣くと、親は必死に慰めますよね?このことは、いわば親が子どもの感情をコントロールしている状態だといえます。でも、こういうことを繰り返し経験するうちに、子どもは自分自身の慰め方、自分自身の感情をコントロールする方法をどんどん吸収して学んでいるのです。この「感情をコントロールする力」が重要なことについては、想像しやすいものでしょう。自分の感情をコントロールできず、場や相手を考えずに喜怒哀楽を周囲にぶつけていては、いい人間関係を築くことはできません。人間には、「他者とうまくつき合う力」が欠かせません。どんなに一匹狼に見える人でも、人間は社会のなかでしか生きられない生き物だからです。そして、他者とうまくつき合うためにも、「感情をコントロールする力」をしっかりと身につけなければならないのです。この「感情をコントロールする力」が育っていない子どもは、駄々をこねたりかんしゃくを起こしたりするようなことが増えます。もちろん、イヤイヤ期の影響もありますが、一般的なイヤイヤ期を過ぎてもかんしゃくを起こすようだと、アタッチメントの形成が不十分であることのほか、子どもが日常的にストレスを感じていることを疑ってもいいかもしれません。ついさっきまで機嫌がよかったのに、突然かんしゃくを起こすなど感情をコントロールできなくなる子どもには、ストレスに弱いという特徴があります。そして、どういう子がストレスに弱いかというと、日常的にストレスを受けている、虐待や体罰を受けているような子どもです。虐待や体罰などによって強いストレスを受け続けると、ストレスに強くなるのではないかと思う人もいるかもしれませんが、実態は真逆。ストレスを受け続けた子どもは、ストレスに対して敏感になり、ちょっとした嫌なことに対してもストレスを感じてしまうのです。もし子どもが頻繁に感情をコントロールできなくなるというなら、「しつけのつもりで虐待をしてしまっていないか」というふうに、自身の子育てを冷静に振り返ってみてください。子どもの成長の鍵を握る「親の子離れ」また、子どもがしっかりと自分自身で感情をコントロールできるようになるには、「親の子離れ」も欠かせない要素だということも、加えてお伝えします。いつまでたっても親が子どもを慰めるように、子どもの感情をコントロールしていては、子どもは自分の感情をコントロールする実践の場を経験できません。この子離れについては、いまの親は大きな問題を抱えているように思います。たとえば、わたしが勤める京大の卒業式を見ても、学生の親がついてくるケースが本当に多いのです。わたしが学生だった頃は、大学の体育館で卒業式をしたものですが、いまは同席する親があまりに多いために、大きなイベント会場を借りて行わなければならなくなっているくらいです。そういった子離れできない親の特徴として、子どもを「自分の所有物」のように思っていることが挙げられます。自分の「もの」だから、必要以上にかわいがって甘やかすのです。また、逆の方向として、虐待についても親が子どもを自分の所有物だと思っていることがひとつの原因です。自分の「もの」だから殴ってもいいというような思考を持っているのでしょう。そうではなくて、「子どもは自分とはまったく別の人格を持ったひとりの人間」という認識を持たなければなりません。そういう認識を持っていれば、最初はひとりではできなかったことを子どもができるようになってくれば、そのあとは子ども自身に任せられるようになる。そうして、きちんと子離れができるのです。『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』森口佑介 著/講談社(2019)『非認知能力を育むリーフレット』(大阪府教育委員会)森口佑介先生作成協力■ 京都大学大学院准教授・森口佑介先生 インタビュー記事一覧第1回:エビデンス多数あり。「目標を達成する力」のある子どもは幸せになる!第2回:困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」第3回:“真の我慢”によって「子どもの自主性」を伸ばす。これぞ子育ての最終目標!(※近日公開)【プロフィール】森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)1979年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院文学研究科准教授。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任する。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は発達心理学、発達認知神経科学。人文学に着想を得た問題を科学的に検討している。主な著書に『自己制御の発達と支援』(金子書房)、『おさなごころを科学する 進化する幼児観』(新曜社)、『わたしを律するわたし 子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月11日我が子には幸せな人生を歩んでほしい――親の誰もがそう思っています。では、我が子が幸せな人生を歩むために、親にはなにができるのでしょうか。発達心理学を専門とする京都大学大学院准教授の森口佑介先生は、「『目標を達成する力』を伸ばしてあげること」だといいます。それには、なにより「子どもの自主性」を大切にすることが重要なのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)非認知能力のなかでも重要な「目標を達成する力」「非認知能力」という言葉もかなり一般的になりましたから、それがどういうものか、多くのみなさんがご存じでしょう。非認知能力とは、文字どおり、「認知能力ではない能力」のこと。この場合の認知能力とは、いわゆるIQで表せるような知能を指します。一方、非認知能力は認知能力以外の能力ですから、ものすごく範囲が広い。よくいわれるように、忍耐力や創造性、へこたれない力など、それこそ枚挙にいとまがありません。これらの能力が、よりよい人生を歩んでいくためには大切なものだ――というわけで、非認知能力の注目度が増しているのです。そして、よりよい人生を歩んでいくためという観点から見ると、世界的には「他者とうまくつき合う力」「感情をコントロールする力」「目標を達成する力」の3つの力が大切だとされています。なかでもわたしが本当に重要なものとして考えているのが、「目標を達成する力」です。その理由としては、なによりその重要性を裏づける研究が世界中にたくさんあるということ。ちょっとあいまいな表現になるかもしれませんが、「目標を達成する力」を調べるテストのようなものがあり、その成績がいい子どもほど学力が高いだとか、クラスのなかでうまくやっていける、将来的に社会的地位の高い職業に就きやすいといった研究結果が数多く存在するのです。つまり、「目標を達成する力」は、それだけ確実に人生においてプラスに働く力だといえるエビデンスがあるということです。目標達成に必要な「切り替える力」と「自己抑制する力」では、その「目標を達成する力」とは具体的にどんなものかというと、大きくふたつにわけられます。ひとつは、「切り替える力」。たとえば、幼稚園で遊んでいる子どもに「お弁当の時間ですよ!」と声をかけたときに、すぐに遊びをやめて切り替えられる力のことです。幼い子どもは、遊びが楽しくてなかなか頭や行動を切り替えることができませんよね?その場合は、まだ「切り替える力」が未発達だということです。もちろん、切り替えが必要なのは、していることをやめるといった場面だけではありません。なにか達成したい目標があったとき、つねにスムーズに目標達成に向かって進めるわけではないですよね。目標の達成には失敗がつきものです。精神的にまいってしまうような嫌な目に遭うこともあるでしょう。そのときに気持ちを切り替えて前に進んでいけるか――。それこそ、目標を達成するためには大切な力です。また、もうひとつの「目標を達成する力」が、「自己抑制の力」です。有名な「マシュマロ・テスト」を知っていますか?子どもの「自己抑制の力」を調べるために、1960年代後半から欧米を中心に盛んに行われた有名なテストです。その内容は、マシュマロやクッキーなどのお菓子を用意し、テスト対象の子どもたちに「いますぐに食べてもいいけど、15分食べずに待てたら2倍のお菓子をあげるよ」と伝え、子どもが我慢できるかどうかを見るというものでした。未来を見越して、きちんと自己抑制できるか否か――。この力が目標を達成するためには大切です。このことは、大人のみなさんでしたら、たとえばダイエットをしている場面を思い浮かべれば分かりやすいでしょう。ダイエットを成功させるには、運動することはもちろんですが、食事制限も大切になる。大好きなビールやラーメン、ケーキを我慢できるのかどうかが、ダイエットという目標を達成できるかどうかをわけるのです。そんな力を測っていたのがマシュマロ・テストであったわけですが、実はこれには注意が必要です。マシュマロ・テストが子どもの将来に重要だという話が少し前に広まったものの、現在ではこの可能性は低いと考えられているのです。というのも、これが「目標を達成する力」を測るテストのひとつであることは間違いないとはいえ、マシュマロ・テストだけではその力を測り切れないためです。それでも、この「自己抑制する力」が「目標を達成する力」につながることは確か。ぜひ子どもには身に付けさせたいものです。非認知能力を伸ばすには「子どもの自主性」を伸ばすさて、我が子の幸せを願うみなさんなら、もちろん子どもにはしっかりと自分の目標を達成して充実した人生を送ってほしいと思っているでしょう。そのためには、心理学では「実行機能」とも呼ばれるふたつの「目標を達成する力」をしっかりと高めてあげる必要があります。では、どうすれば子どもの実行機能を高められるのでしょうか?鍵を握るのは、親であるみなさんです。というのも、実行機能を含む非認知能力全般にいえることですが、子どもの非認知能力が伸びるかどうかは、遺伝のほか、教育や家庭環境の影響が非常に大きいからです。ただ、非認知能力を伸ばすためには、「これをすればいい」ということははっきりとはいえません。でも、さまざまな研究によって、「これをしてはいけない」ということは明確にわかっています。まず、あたりまえのことですが、虐待や体罰は絶対にしてはいけないこと。というのも、非認知能力の成長をもっとも強く阻害するのが、ストレスだからです。子どもが非認知能力を伸ばしていくには、安心して過ごせる家庭環境、深い親子関係が欠かせません。もちろん、しつけの範囲で叱らなければならないときもあるでしょう。でも、体罰はもちろん、虐待といわれかねない、子どもの心を壊してしまうような言動は絶対にNGです。そう考えると、しっかりした親子関係を築くことが第一となるでしょう。世界的に見ると、日本の親子関係はちょっと特殊な面があります。欧米の家庭の場合、厳しいしつけと温かさが両立しているケースが多いのですが、日本の家庭の場合は、体罰を肯定するような親もいまだに多いかと思えば、逆に甘やかし過ぎている親も目立ちます。なぜか両極端なのです。体罰をするなど厳し過ぎるかかわり方がよくないのは、すでにお伝えしたとおりです。一方、子どもを甘やかし過ぎている親の問題は、「手出し口出し」をしてしまうこと。じつは、実行機能を含む非認知能力を伸ばすキモとなるのが、「子どもの自主性」なのです。それなのに、子どもがどうしたいかを確認することなく、「こうしたほうがいいんじゃない?」などと、自分の考えを押しつけている親が多いように思います。子どもがやることを一歩後ろから見届ける――そんな姿勢で子育てに臨んでください。『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』森口佑介 著/講談社(2019)『非認知能力を育むリーフレット』(大阪府教育委員会)森口佑介先生作成協力■ 京都大学大学院准教授・森口佑介先生 インタビュー記事一覧第1回:エビデンス多数あり。「目標を達成する力」のある子どもは幸せになる!第2回:困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」(※近日公開)第3回:“真の我慢”によって「子どもの自主性」を伸ばす。これぞ子育ての最終目標!(※近日公開)【プロフィール】森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)1979年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院文学研究科准教授。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任する。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は発達心理学、発達認知神経科学。人文学に着想を得た問題を科学的に検討している。主な著書に『自己制御の発達と支援』(金子書房)、『おさなごころを科学する 進化する幼児観』(新曜社)、『わたしを律するわたし 子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月09日共働き家庭が増加し、かつ教育熱も高まっているいま、「歴史上かつてないほど、お母さんが頑張っている時代」なんてこともいわれます。そういうお母さんたちに向けて、「すでに十分に頑張っている自分を認めることが大切」と語るのは、自身が母親になったことをきっかけに絵本の世界に飛び込んだ「絵本スタイリスト®」の景山聖子さん。景山さんがおすすめするお母さん向けの絵本の紹介と併せて、頑張っているお母さんに向けてメッセージを頂きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)とにかく「頑張りすぎている」いまのお母さんたちいまのお母さんたちは、とにかく「頑張りすぎている」というのがわたしの印象です。というのも、いまはすぐに「比較」できてしまう時代だからです。インターネットが浸透したいまは、いくらでも情報が手に入りますよね?とくにまだ幼い子どもがいる場合、自分のために外出することなどほとんどなく、家では基本的に子どもと過ごすことになるでしょう。そのためにインターネットでいろいろな情報に触れる機会も増えます。すると、まずは他のお母さんと自分を比べてしまう。自分の子どもの成長や自分の子育てを、他の子どもの成長ぶりや他のお母さんの子育てと比べてしまうのです。そうして、「もっと頑張らなきゃ!」というふうに思ってしまうお母さんが多いのではないでしょうか。また、その比較対象は他人ばかりではありません。自分の記憶にある、ワーキングウーマンとしてばりばり働いていた頃の自分といまの自分を比較することもあります。子育てや家事に疲れていて、仕事では勤務時間が限られていたりするためにむかしほど成果を挙げられないいまの自分とむかしの自分を比べて、「あの頃の自分は輝いていたな……」なんて考えてしまうこともあるのです。お母さん向けの絵本を読んで本当の自分の気持ちを知るそんなときに大切なのは、すでに頑張っている自分を認めてあげること。そのための助けになるような、お母さん向けの絵本がたくさんあります。たとえば、『今日』(福音館書店)という絵本もそのひとつ。これは、ニュージーランドの子育て支援施設に伝わる詩を、詩人の伊藤比呂美さんが日本語訳したものです。登場人物のお母さんは、その日、皿洗いもしなければ窓ガラスも磨かなかったし、ベッドはぐちゃぐちゃのままにしていました。そうして「わたしは今日なにもしなかった」と自己嫌悪に陥ります。でもその日、お母さんは子どもが眠るまでおっぱいをあげたり、泣きやむまで抱っこをしてあげたり、子どもとかくれんぼをして遊んであげたりしました。そうして、なにもやっていないどころか、「いちばん大切なことをしていたんだ」とお母さんは気づくのです。それこそ、共働きをしているような忙しい毎日を送っているお母さんには、ぜひ読んでほしい1冊です。また、お母さん向けの絵本には、先にお伝えしたようなインターネットなどから入ってくる情報に振り回されることなく、自分自身の子育てができるようになるという効果もあります。たとえば、のんびりした雰囲気の絵本を読んだときに、「こういう生活がいいなあ」と感じるようなら、そのお母さんには詰め込み教育のような子育ては合わず、もっとのんびりした子育てが合っているのです。たとえば、『くまくまちゃん』(ポプラ社)という絵本は、まさにそういうのんびりした雰囲気の絵本です。内容としては、ただただお母さんがしたいことがいっぱい書かれているだけのもの(笑)。この絵本にぐっとくるようなら、もっとのんびりとした子育てができるようにすることを考えるのがいいかもしれませんね。いずれにせよ、お母さんを対象にした絵本を読んで、そこから湧き上がる自分の感情をキャッチしてみましょう。そうすることで、自分がどんな子育てをしたり家庭を築いたりしたいのかということが見えてくるはずです。夫を褒めると夫自ら子育てに協力的になる!最後に、ご主人との関係についてわたしからお母さんたちにアドバイスをしておきます。多くのお母さんたちから、「夫との関係が修正できた」という感想が届いている方法です。共働き家庭が増えたとはいえ、やはり子育てや家事の中心を担うのはお母さんだという家庭が多いはず。そのため、「夫が協力してくれない」と悩んでいるお母さんも多いものです。ここでも、まずは絵本を読んでほしい。わたしからおすすめするのは、『みつけてん』(クレヨンハウス)。内容はちょっとシュールなのですが、夫婦が仲良くできていたときの愛情を思い出せて穏やかな気持ちになれるような内容です。すると、普段は忘れていたようなご主人のいいところもまた思い出せるようになる。そうして自分の心を満たしてから、ご主人に対して文句をいったり要望を伝えたりするのではなく、その思い出したご主人のすてきなところを褒めてあげてみてください。そうすると、不思議なことに、ご主人が自分からどんどん子育てや家事に協力してくれるようになるはずです(笑)。わたしが講演などを通じて出会ったお母さんたちからは、「夫が自分から皿洗いをしてくれるようになった」といった声がたくさん届いていますよ。一方で、不満は不満で吐き出すことも大切です。核家族化が進んだいま、子育てなどをめぐってご主人とぶつかっている状態では、家庭には不満を吐き出す場所がありません。ですから、ママ友同士のつながりが大切なのです。イライラしたり怒りを感じたりしてしまうのは、人間だから当然です。そういう自分を「駄目な自分」というふうに決めつけるのではなく、「人間とはそういうものだ」ととらえ、ママ友の集まりの場に積極的に参加してイライラなどを吐き出すようにしましょう。それが、結果的には家庭円満につながるのです。『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』景山聖子 著/小学館(2018)■ 絵本スタイリスト®・景山聖子さん インタビュー記事一覧第1回:「絵本の読み聞かせ」から、子どもが学ぶもの。そして、親が手に入れるもの。第2回:「勉強が勉強でなくなる」のが絵本の魅力! でも「勉強のつもり」で読み聞かせてはダメ第3回:「上手に読んであげて、感想を聞く」のは絶対に避けて。絵本の読み聞かせの鉄則です第4回:「もっと頑張らなきゃ」と自己嫌悪に陥りがちな母親たちに、励ましをくれる絵本の存在■景山聖子さん連載『絵本よみきかせコーチング』記事一覧【プロフィール】景山聖子(かげやま・せいこ)群馬県出身。絵本スタイリスト®。群馬テレビアナウンサーを経て上京し、TBS、テレビ朝日、日本テレビ等で報道番組などのリポーターを務めたのち、ナレーターへ転身。NHKラジオの朗読番組『私の本棚』などを担当する。一児の母となると同時に、絵本の世界に魅せられ、2013年に(社)JAPAN絵本よみきかせ協会を設立し、代表理事に就任。ボランティア認定資格講座には全国から人が集まり、公共施設やカルチャーなどの「よみきかせ講師」も多数育成。現在は、絵本を介しての子育てに関する講演活動を行うほか、パナソニック読み聞かせ機能搭載ライトのアドバイザーやカルピス読み聞かせ隊のサポーターに就任。アカチャンホンポ・ピジョン保育士の全国社員研修なども担当。NHK総合テレビで絵本の朗読も行う。園や小学校での絵本の読み聞かせも続け、絵本の持つ力を広めるために精力的に活動している。主な著書に、『今日から使える読み聞かせテクニック』(ヤマハミュージックメディア)、(『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』(小学館)、『子どもが夢中になる 絵本の読み聞かせ方』(廣済堂出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月24日文章に出てくる数字を並べて適当に計算をするだけでは、絶対に正解にたどり着けない――。算数嫌いな子どもたちが、とくに苦手としているもののひとつが「文章題」ではないでしょうか。では、どうすれば文章題に対する子どもの苦手意識をなくせるのでしょうか。算数に特化した学習塾「RISU」の代表である今木智隆先生は、「読み解き、考える」ことをキーワードに挙げてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)文章題が、大人になったときの問題解決能力を育む算数という教科には、「積み上げ型」という特性があります。足し算、引き算、掛け算、割り算のどれかの理解が足りなければ――つまり、それらが積み上げられていなければ、あらゆる要素が含まれてくる四則混合計算の問題を解くことはできません。そうして、重要な要素が抜け落ちたままで先に進むと、理解できないことが増えて算数がどんどん苦手になるのです(インタビュー第1回参照)。しかも、学年が上がるにつれて単元の内容や問題自体が次第に複雑化していき、中学以降の数学になれば変数なども読み解かなければならない。この「読み解く」ということが、文章題を語るうえでのキーワードです。文章題は、それこそ内容を読み解いて考えなければ正解にたどり着くことができない問題です。つまり、小学校の算数で文章題を読み解くことができなければ、読み解かなければならない要素がどんどん増えていくその後の数学、あるいは物理はまともにできないということになるでしょう。そうなると、ロケット開発に携わるといった子どもが持つ夢を叶えることは難しくなります。ただ、同じ理系の科目でも、化学には比較的暗記や実験が重視される側面があります。理系の科目のなかにも、化学のように暗記と実験の要素が強いものと、物理のように数学的要素が極めて強いものというちがいがあるのです。そういう意味では、小学生の頃から文章題が苦手なままだと、将来のいくつかの選択肢がそぎ落とされるということがいえるかもしれません。そのように将来の可能性を狭めないためということの他に、子どもたちには文章題を得意になってほしいとわたしが考える理由があります。それは、文章題を解くという行為が汎用性の高い力を身につけるからです。なにかを読み解いて考えるという行為は、あらゆる問題を解決するプロセスの基本中の基本ですよね。この力は、将来さまざまな場面で役立ってくれます。もちろん、算数の文章題ができない人のすべてが社会に出たときに力を発揮できないというわけではありません。でも、文章題によって問題解決能力を高められれば、それだけ社会で活躍できる可能性も広がると思うのです。「文章題といえない文章題」では読み解く力は育たないでは、どうすれば文章題が苦手ではなくなるのでしょうか?ここで、小学生向けの少しひねった例題を紹介しましょう。【問い】A君はボールを2個、B君はボールを3個、C君はボールを4個持っています。B君とC君のボールを合わせるといくつになるでしょうか?大人のみなさんなら簡単でしょう。B君の3個とC君の4個を足して「3+4=7」となるので、答えは「7個」です。ところが、子どもたちのなかにはA君の2個も足して「9個」と答える子も少なくありません。というのも、公立校で使われる教科書にもそれに準拠した一般的な教材にも、こういった少しひねった問題がほとんど出てこないからです。「足し算」の単元で習った計算問題のように、出てくる数字を頭から足していけばいいと子どもたちは思っているわけです。本来、文章題というのは、文章をきちんと読み解いて考えなければ式を立てられない問題である必要があります。でも、なにも考えず頭からただ数字を足せばいいといった、本当の意味では文章題とはいえないような文章題でも形式的には文章題に見えます。そのため、そのような問題であっても正解すると、「僕は文章題が得意だ」と子どもは勘違いしてしまう。でも、そのままでは、ひねった応用問題に対応するために必要な、読み解いて考える習慣が身につきません。メリットが多い「算数検定」の問題集がおすすめ大切なのは、読み解いて考える習慣を身につけること。そして、そういう習慣を身につけられる、いわゆる「良問」をたくさん解いていくことが重要です。そういったことを前提に、子どものために良問が多い教材を選んであげましょう。わたしが代表を務める「RISU」のタブレット教材もおすすめしたいのですが、他にわたしがおすすめするのは、「算数検定」の問題集。受験者のあいだに差をつけられなければ検定になりません。ですから、算数検定には、本当に力がある子とそうでない子にきちんと差をつけられるような良問が多いのです。また、算数検定の問題集には、実力診断にもなって子ども自身が得意な単元や苦手な単元を把握することもできる、あるいは、算数が得意な子どもなら飛び級でレベルの高い問題に挑戦できるというメリットもあります。文章題の苦手を克服するということ以外にも有意義なものですから、算数検定の問題集を子どもに与えてみてはどうでしょうか。『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』今木智隆 著/文響社(2019)■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法【プロフィール】今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月23日子どもに絵本を読んであげるとき、「どうせだったら、うまく読んであげよう」と考える人もいるはずです。でも、「絵本スタイリスト®」であり、絵本の読み聞かせのプロでもある景山聖子さんは、「うまく読もうとしなくていい」と語ります。その理由はどんなものでしょうか。子どもの年齢別のおすすめ絵本と併せて、読み聞かせのコツを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)子どもの年齢に合った絵本を「プロ」に選んでもらう絵本の読み聞かせをする前に、なによりも子どもの発達段階に合った絵本を選ぶことが大切になります。というのも、絵本はそれぞれ対象年齢を考えて学習効果などなんらかのメリットがあるようにつくられているからです。なかには、まだ1歳くらいの赤ちゃんに、「4〜5歳向け」の絵本を読んで反応が悪いからといって、「うちの子は絵本が嫌いだ」なんて思うような人もいるようですが、発達段階に合っていない本を読み聞かせしているのですから反応が悪いのは当然です。ただ、むかしの絵本には「○歳向け」というふうな表示がありましたが、じつはいまの絵本にはその表示が減ってきています。では、どうやって絵本を選べばいいのでしょうか?それはとても簡単なこと。「絵本のプロ」に教えてもらえばいいのです。図書館に行けば、「0〜1歳向け」「2〜3歳向け」というふうに、絵本の棚がわけられていることもあります。そういう分類をリストにして配布している図書館もありますから、それらを参考に選べばいいわけです。あるいは、まさに絵本のプロである図書館の司書さんに話を聞いてもいいでしょう。きっと、それぞれのお子さんに合った絵本を紹介してもらえるはずです。ストーリーではなくコミュニケーションが大切では、子どもの年齢に合った読み聞かせのコツと、わたしがおすすめする絵本を紹介していきましょう。まずは0〜1歳の子どもへの読み聞かせについて。この時期の子どもは、親との親密なコミュニケーションによって親子の絆を築いていく時期にあたります。もちろん、まだストーリーは理解できません。ですから、重要となるのは絵本のストーリーなどではなく、親子のコミュニケーション。この年齢の子どもを対象とした絵本には、親子でコミュニケーションが取りやすいように、擬音語や擬態語がただ並んでいるだけというような内容が多いものです。わたしがおすすめするのは、『じゃあじゃあびりびり』(偕成社)。それこそ、擬音語や擬態語が並んでいるだけです。それらを子どもの目をしっかり見て、大げさに抑揚をつけるなど面白おかしく読んであげてください。そうすることで、子どもは「お父さん、お母さんと過ごす時間は楽しい」「絵本は楽しい」と感じ、ゆくゆくは読書に親しんでくれる子どもに成長してくれるでしょう。続いて、2〜3歳の場合です。この時期の子どもは、日常生活にとても強い興味を示します。大人がやっていることに興味を持って自分でもやりたがりますが、内容によっては危険が伴うこともあり、なんでも経験させるわけにはいきません。ですから、絵本のなかでいろいろな日常を経験させてあげましょう。雨などの天候や食べ物など、日常が描かれているものが最適です。わたしのおすすめは『どうぞのいす』(ひさかたチャイルド)。それこそおいしそうな食べ物がたくさん描かれていますし、内容として助け合いの大切さを学べるというメリットもあります。4〜5歳向けの絵本は「栄養価が高い絵本」の宝庫それから、4〜5歳の子どもを対象にした絵本は、まさに良書の宝庫です。4〜5歳向けの絵本には、「栄養価が高い絵本」と呼ばれるようなロングセラーの絵本がたくさんあるのです。この時期の子どもは、比較的長いストーリーもしっかり理解できるようになることがその要因でしょう。それぞれに個性的なストーリーを持っているバリエーション豊かな絵本がたくさんあります。それらを通じて、さまざまな「体験」をさせてあげることが、子どもの人格を豊かにしていくために大切です(インタビュー第1回参照)。わたしがおすすめするのは『ラチとらいおん』(福音館書店)。内容は、泣き虫だった男の子が、ある日出会ったライオンに特訓してもらって少しずつ強く成長していくというもの。成長の真っ最中にある子どもの心に大いに響く内容です。最後が、6〜7歳の子どもを対象とした絵本について。この時期の子どもは、心が急激に成長しています。そのため、それまでならお父さんやお母さんになんでもいえたのに、「これはいっちゃいけない」「これはいったら恥ずかしい」といった気持ちや悩みが出てきているものです。そこで、そういう子どもの心に寄り添って癒やしてくれるような内容の絵本を与えるのがいいでしょう。わたしからは、『びゅんびゅんごまがまわったら』(童心社)をおすすめしておきます。この絵本では、開かれた小学校生活のシーンが繰り広げられ、親しめる校長先生が登場し、「大人を信じてなんでも話してみたら?」というメッセージもあります。子どもの心が温かくなり、大人は寄り添ってくれる存在として映ることで、悩みが生まれはじめる子どもの心を自然と癒しやてくれることでしょう。「うまく読もう」なんて思わなくていい最後に、全般的な絵本の読み聞かせのコツについてアドバイスしておきましょう。まず、子どもはまだ理解力が成長している途中にありますから、とにかくゆっくり読むということが大切です。大人からすれば、ゆっくりだと感じるスピードをもう1段階遅くするくらいがちょうどいいでしょう。また、読み終わったあとに「どう思った?」と感想を聞くことは絶対に避けましょう。子どもは、絵本を通じて描かれている絵の前後を空想のなかで動かしています。そうして、想像力や集中力、感受性を育んでいるのです。その作業は、絵本を読み終えたあとも子どものなかで続いています。でも、そこで「どう思った?」と聞かれると、その大切な作業を止めてしまうことになってしまう。それから、うまく読もうとすることもNGです。読み聞かせは親の発表会ではありません。絵本は子どもとのコミュニケーションの道具だというふうに考え、子どもの興味がどこに向いているかというところをいちばんに考えてください。子どもがどんどんページをめくりたがるならそうさせればいいし、逆にひとつのページに興味を持って立ち止まったら飽きるまで見せてあげればいい。絵本の内容から親子の会話が盛り上がったら、そのまま絵本を読むことをやめても構いません。そのことが、親子の絆を深め、子どもに「絵本は楽しい」と感じさせ、読書や勉強に対する興味を持たせることにもつながるのです。『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』景山聖子 著/小学館(2018)■ 絵本スタイリスト®・景山聖子さん インタビュー記事一覧第1回:「絵本の読み聞かせ」から、子どもが学ぶもの。そして、親が手に入れるもの。第2回:「勉強が勉強でなくなる」のが絵本の魅力! でも「勉強のつもり」で読み聞かせてはダメ第3回:「上手に読んであげて、感想を聞く」のは絶対に避けて。絵本の読み聞かせの鉄則です第4回:「もっと頑張らなきゃ」と自己嫌悪に陥りがちな母親たちに、励ましをくれる絵本の存在(※近日公開)■景山聖子さん連載『絵本よみきかせコーチング』記事一覧【プロフィール】景山聖子(かげやま・せいこ)群馬県出身。絵本スタイリスト®。群馬テレビアナウンサーを経て上京し、TBS、テレビ朝日、日本テレビ等で報道番組などのリポーターを務めたのち、ナレーターへ転身。NHKラジオの朗読番組『私の本棚』などを担当する。一児の母となると同時に、絵本の世界に魅せられ、2013年に(社)JAPAN絵本よみきかせ協会を設立し、代表理事に就任。ボランティア認定資格講座には全国から人が集まり、公共施設やカルチャーなどの「よみきかせ講師」も多数育成。現在は、絵本を介しての子育てに関する講演活動を行うほか、パナソニック読み聞かせ機能搭載ライトのアドバイザーやカルピス読み聞かせ隊のサポーターに就任。アカチャンホンポ・ピジョン保育士の全国社員研修なども担当。NHK総合テレビで絵本の朗読も行う。園や小学校での絵本の読み聞かせも続け、絵本の持つ力を広めるために精力的に活動している。主な著書に、『今日から使える読み聞かせテクニック』(ヤマハミュージックメディア)、(『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』(小学館)、『子どもが夢中になる 絵本の読み聞かせ方』(廣済堂出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月21日家庭教育の一環として、「絵本の読み聞かせ」を重視しているみなさんも多いでしょう。「絵本スタイリスト®」である景山聖子さんは、絵本の読み聞かせのメリットとして、「子どもの人格を豊かにしてくれる」ことを挙げます。その一方で、「子どもの学力、とくに国語力の向上にも役立つ」といいます。その理由を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)文科省のお墨付き!絵本の読み聞かせで学力は上がるわたし自身は、絵本の読み聞かせのメリットというと「子どもの人格形成に好影響を与える」ことを第一に挙げますが(インタビュー第1回参照)、絵本の読み聞かせは、子どもの学力向上にも大いに好影響を与えます。このことには、文部科学省の調査データがエビデンスを与えてくれます。文部科学省の調査では、小学生と中学生の親を対象に、子どもが幼い頃に積極的に絵本の読み聞かせをしたかどうかをアンケートしました。そして、「積極的に絵本の読み聞かせをした」と答えた親の子どもと、そうではない親の子どもでは、前者のほうが小学生、中学生ともに国語と算数(数学)の試験成績で大きく上回ったのです。あるいは、2015年にKUMONが現役東大生100人を対象に行ったアンケート調査では、「子どもの頃に親にしてもらって感謝している教育」として、じつに40人が「絵本の読み聞かせ」を挙げました。これは、選択肢のなかの堂々1位。それだけ、その後の学力の伸びに絵本の読み聞かせが役立ったと東大生自身が考えていることがわかります。また、4人の子どもを東大に合格させたとして有名な、佐藤ママこと佐藤亮子さんも、さまざまなところで絵本の読み聞かせの有用性を語っているひとりです。佐藤ママによると、なんと子どもが3歳になるまでに1万冊の絵本の読み聞かせをしたのだといいます。勉強を勉強ととらえさせず親しませる絵本の働き先の文部科学省の調査では、幼い頃に絵本の読み聞かせをたくさんしてもらった子どもは、そうではない子どもに比べて、国語、算数(数学)ともに試験成績がよかったことがわかりました。そのうち国語力に絵本の読み聞かせが与える影響が非常に大きいのではないかと、わたしは自分の体験から考えています。ひとつ、ここでわたしのエピソードを紹介しましょう。ある小学校で絵本の読み聞かせを依頼されたときのことです。私が主宰するよみきかせ協会のボランティアのみなさんで行ったのですが、読み聞かせの対象は1、2年生の子どもたち。学校からは「1、2年生は俳句の勉強をまだしていないので、俳句の絵本は使わないでください」といわれていました。でも、わたしはあえて松尾芭蕉の『おくのほそ道』(ほるぷ出版)という俳句を題材にした絵本をある方に読んでいただきました(笑)。なぜなら、とってもいい絵本である他、読み聞かせをお願いした人が俳句好きで、その読み聞かせが楽しさで満ちあふれていたからです。その絵本では、事あるごとに「そこで一句!」という決まり文句が出てきます。そのときに、子どもたち全員で行うジェスチャー加えることで一体感をつくりました。すると、そのリズムや繰り返しが楽しかったのでしょう。子どもたちは自分でも知らないうちに俳句になじみ、最終的には「自分で俳句を詠みたい」という子も出てきたほどでした。これは、絵本というツールを使って、「勉強」という意識ではなく、「楽しいこと」という意識で俳句に触れることができたからでしょう。さらには、しばらく時間がたってから、その小学校の校長先生から電話を頂きました。その内容は、「あの読み聞かせのおかげで俳句に対するファーストインプレッションがすごくよかったせいか、子どもたちが実際に俳句の授業を受けるときにもとても楽しんで、かつすごい集中力を発揮して勉強してくれた」というお礼でした。絵本には、勉強を勉強としてとらえさせずに親しませるという働きがあります。それこそ、俳句など子どもにとってちょっとなじみがないような国語の単元に事前に触れさせるには最適なツールといえるのではないでしょうか。親が「勉強のつもり」で読み聞かせするのはNG!もちろん、絵本には子どもの語彙力を高めるという力もあります。絵本のいいところは、もちろん絵があるところ。子どもが昔話の絵本を読んでいて、「かやぶき屋根」という言葉がわからなかったとしましょう。でも、すぐそばにはかやぶき屋根の絵が描かれてある。そうして、出てくる言葉が具体的にどういうものなのかをその場で学べるわけです。文字が羅列されているだけの本ではこうはいきませんよね。あるいは、絵本に親しむことよって、文章の書き手のメッセージを推測する力を高められることも考えられます。中学受験をするような子どもは、いわゆる論説文もきっちり読み解く力が求められます。絵本をはじめとした本にあまり親しむことなく、いきなり難しい論説文を読み解くのはかなりハードルが高いことでしょう。でも、幼い頃から絵本に親しみ、児童書なども含めて読書をする習慣がついていたらどうでしょうか?その子は、小さいときからさまざまな文章のパターンを自分のなかにデータベースとして蓄積しています。そのため、論説文を読み解くにも、「あ、あのパターンの文章だな」というふうに、文章の構成や重要なことが書かれているであろう部分を推測することができる。そうして、難しい論説文も容易に読み解くことができるのです。ただ、みなさんに注意してほしいのは、絵本の読み聞かせが子どもの学力、とくに国語力を高めるために有効だからといって、「勉強のつもり」で読み聞かせをすることは避けてほしいということ。子どもはとっても敏感で、親がなにを考えているのかをしっかり感じ取れますから、親が「勉強のつもり」で読み聞かせをしようとすると、子どもはそのことを感じ取り、絵本が嫌いになり、勉強嫌いになってしまいかねません。絵本の読み聞かせが子どもの国語力を高めることはたしかですが、「子どもの国語力を高めたい」と思うのなら、その思いはいったん置いて、子どもと過ごす時間をただ楽しんでください。その姿勢が、最終的には子どもの国語力を伸ばしてくれるはずです。『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』景山聖子 著/小学館(2018)■ 絵本スタイリスト®・景山聖子さん インタビュー記事一覧第1回:「絵本の読み聞かせ」から、子どもが学ぶもの。そして、親が手に入れるもの。第2回:「勉強が勉強でなくなる」のが絵本の魅力! でも「勉強のつもり」で読み聞かせてはダメ第3回:「上手に読んであげて、感想を聞く」のは絶対に避けて。絵本の読み聞かせの鉄則です(※近日公開)第4回:「もっと頑張らなきゃ」と自己嫌悪に陥りがちな母親たちに、励ましをくれる絵本の存在(※近日公開)■景山聖子さん連載『絵本よみきかせコーチング』記事一覧【プロフィール】景山聖子(かげやま・せいこ)群馬県出身。絵本スタイリスト®。群馬テレビアナウンサーを経て上京し、TBS、テレビ朝日、日本テレビ等で報道番組などのリポーターを務めたのち、ナレーターへ転身。NHKラジオの朗読番組『私の本棚』などを担当する。一児の母となると同時に、絵本の世界に魅せられ、2013年に(社)JAPAN絵本よみきかせ協会を設立し、代表理事に就任。ボランティア認定資格講座には全国から人が集まり、公共施設やカルチャーなどの「よみきかせ講師」も多数育成。現在は、絵本を介しての子育てに関する講演活動を行うほか、パナソニック読み聞かせ機能搭載ライトのアドバイザーやカルピス読み聞かせ隊のサポーターに就任。アカチャンホンポ・ピジョン保育士の全国社員研修なども担当。NHK総合テレビで絵本の朗読も行う。園や小学校での絵本の読み聞かせも続け、絵本の持つ力を広めるために精力的に活動している。主な著書に、『今日から使える読み聞かせテクニック』(ヤマハミュージックメディア)、(『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』(小学館)、『子どもが夢中になる 絵本の読み聞かせ方』(廣済堂出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月18日小学生の苦手教科に挙げられることも多い算数ですが、その苦手意識の強さは単元によって異なります。はたして、どんな単元を子どもたちはとくに苦手としているのでしょうか。算数に特化した学習塾「RISU」の代表である今木智隆先生が収集した10億件ものデータから、小学生がとくに苦手としている単元とその例題を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人親の態度と発言が子どもに苦手意識を植えつけるわたしは2019年に『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』(文響社)という著書を出しました。その本を読んだ読者のブックレビューには、「こんな問題は簡単です」というものもありますが、それはあたりまえのことです。小学生向けの問題を大人が間違っていては、それこそ問題です。でも、大人には簡単に思えても、多くの子どもたちが間違う問題があるのです。たとえば、以下の問題もそういうもののひとつです。大人なら、すぐにどちらも「6cm」だとわかるでしょう。ところが、子どもたちが学校の授業で「円」の単元を習うときには、円はひとつしか出てきません。こういうふうに複数の円が組み合わさった問題を見たことがないために、子どもは戸惑うわけです。30年も40年も生きている大人からすれば簡単に思えることも、8歳や9歳の子どもにとってはそうではありません。ですから、こういう問題に取り組む子どもに対して、「どうしてこれくらいの問題ができないの?」なんていうことはご法度です。そういう親の態度や言葉が、算数に対する苦手意識を子どもに持たせかねません。小学生が苦手な単元として頭ひとつ抜けている「位」ここから、多くの小学生が苦手としている単元とその例題をふたつ取り上げます。ひとつ目は「位」で、ふたつ目が「時計」です。まず位ですが、わたしが収集した10億件のデータからも、小学生が苦手としている点で頭ひとつ抜けています。では、位の例題を紹介しましょう。「あ」の問題の答えは「2100」ですが、多くの子どもが「2001」と答えます。小学生は普段使っている定規を見て、目盛りは1、2、3、4……と進んでいくものだと思っている。そのため、この問題でもひとつの目盛りが1だと思ってしまうのです。ひとつの目盛りが1であるというのは、習慣からくる思い込みです。だとしたら、このようなちょっと立ち止まってきちんと考えなければならない変則的な問題を経験させてあげることが大切です。そうして、思い込みをなくしてあげれば、その後は問題なく解けるようになるでしょう。そして、そういったしっかりと考えなければならない問題こそが良問といえます。「時計」を苦手としないためにはアナログ時計を使う続いては、「時計」の例題です。答えは「7時間15分」ですね。それこそ大人には解けて当然の問題ですが、これが小学生には本当に難しい。午前・午後の概念や、1分は60秒なのに時間は12や24だとか、24時間たったらゼロになるなど、子どもにとっては複雑なことのオンパレード。正直、この単元がなぜ低学年のカリキュラムにあるのかと疑問を持つくらいです。ただ、もし子どもが中学受験をしないのならば、時計に関してはスルーしてしまっても問題ありません。というのも、小4以降の算数にも中学以降の数学にも時計の単元は一切ないからです。大人になれば誰もが時計を読めるようになりますから、なんの問題もありません。一方、子どもが中学受験をするというなら、きちんと勉強する必要があります。中学受験では時計の問題は頻繁に登場します。なぜなら、「○時○分のときの長針と短針のあいだの角度は?」「1年のうちで長針と短針は何回交わるか」といった嫌がらせのような問題をつくりやすいからです。では、苦手意識を払拭するためにはどうすればいいでしょうか?そのためには、つねにアナログ時計に触れることをおすすめします。いまは子どもたちも多くがスマホを持っていますから、日常的に目にする時計はほとんどがデジタル時計でしょう。でも、算数の問題では必ず丸いアナログ時計が使われる。そうでないと、先に例に挙げたような受験問題がつくれないからです。だからこそ、日常的にアナログ時計を使うべきです。そうすれば、「長針が30分を指しているときには、短針は文字盤の数字のあいだにある」といったことも自然に理解するようになる。実物があるのに、「勉強だから」と紙のうえだけで学ぼうとするのはおかしなことですよね?リアルの体験から得た知識や体感ほど強いものはありません。『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』今木智隆 著/文響社(2019)■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法(※近日公開)【プロフィール】今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月16日いつの時代も家庭教育における定番のツールである「絵本」。実際、絵本の読み聞かせにはどんなメリットがあるのでしょうか。「本」であることから、つい「語彙力を高める」といった学習面に目が向きがちですが、「絵本スタイリスト®」である景山聖子さんは、「なによりも人格形成に大きな影響を与える」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)絵本のなかでの「自分自身の体験」が豊かな人格を形成する子どもに絵本を読み聞かせすることのメリットは枚挙にいとまがありませんが、なによりも子どもにとって大きな「体験」を得られるということがまず挙げられます。8歳くらいまでの子どもは、その発達段階として、まだ現実と空想をしっかりと区別できません。その後、成長するにつれて現実と空想をしっかりわけてとらえられるようになり、徐々に大人になっていきます。幼稚園で幼い子どもたちを相手に、妖精が登場する絵本を読み聞かせしたとします。すると、そのあとの散歩の時間になると、子どもたちは一斉に「妖精探し」をはじめます。なかには、「あそこの木に妖精がいたよ!」というような子もいるほど。こういうことが起きるのは、幼い子どもが現実と空想の区別をできていないから。つまり、絵本のなかで体験したことも、8歳くらいまでの子どもにとっては紛れもない自分自身の体験だといえるのです。このことのなにが重要なのでしょうか?それは、人格形成に大いに影響を与える点です。子どもたちは、将来どんな人間になっていくのかという、まさに人格をつくっている真っ最中にあります。そのとき、誰かから聞いたというような知識ではなく、絵本によって自分自身の体験をどんどん重ねていくことで、それだけ豊かな人格を形成することができるのです。もちろん、その体験のなかにはたくさんのことが含まれます。「感情」を学ぶこともそう。絵本の登場人物は、そのストーリーによってさまざまな感情を表現します。その感情すらも、子どもたちは自分の体験として得ることができるのですから、絵本に親しめば親しむほど、豊かな感情も手に入れられるというわけです。もちろん、8歳を過ぎた子どもにとっても、絵本に親しむことは悪いことではありません。ただ、現実と空想を区別できないという時期が、人生のうちでも限られた貴重な時間だということを考えると、やはりなるべく幼いときから絵本のなかでたくさんの体験をできるようにしてあげたいものです。肌を触れ合わせて「親子の絆」を深めるその他、絵本の読み聞かせの大きなメリットとしては、「親子の絆を深める」ということも挙げられます。絵本を読むときは、たとえば子どもを膝のうえに乗せたり、寝っ転がりながら肩が触れていたりと、親子で肌と肌を触れ合わせていますよね。すると、オキシトシンというホルモンが、親子ともに脳から分泌されるのだそうです。このオキシトシンは、「愛情伝達物質」とか「愛情ホルモン」という呼び名で知られ、思いやりや愛情といった心の機能を健やかに発育させるために欠かせないもの。そして、その働きによって、親子は信頼関係を心のいちばん深いところで結んでいく、つまり親子の絆を強めることができるのです。わたしは、講演活動を通じてたくさんのお母さんたちから絵本にまつわる体験談を耳にしますが、実際、「絵本の読み聞かせをしたことで子どもの態度が変わった」という話を頻繁に耳にします。たとえば、絵本の読み聞かせをする前は、公園で遊んでいて「もう帰るよ」といってもなかなか遊びをやめずに駄々をこねていたような子どもも、絵本の読み聞かせをはじめてからは素直に従ってくれるようになったという話もあります。それだけ親子の絆が深まり、強い信頼関係が築けたということなのではないでしょうか。絵本の読み聞かせが、肉体的な疲労を取ってくれる!加えていうなら、愛情ホルモンであるオキシトシンには、なんと「肉体的な疲れを取る」という働きもあるようです。寝る前に、肌と肌を触れ合いいとおしい気持ちで読み聞かせを実践した多くのお母さんが、翌日自分の疲れまで取れたという体験談を話されています。共働き家庭が増えているいまは、働きながらもこれまでの専業主婦と変わらず子育ての中心を担っているお母さんが増加中です。そういうお母さんには、まさに24時間、気が休まる時間がほとんどないといっていいでしょう。そうすると、「絵本の読み聞かせは子どもにとっていいことだ」「絵本の読み聞かせをしてあげたい」と思っていても、仕事から帰って夕食の支度をして、子どもをお風呂に入れて、寝かしつけるので精いっぱい。つい、「今日は絵本の読み聞かせはしなくていいや」と思ってしまうものです。でも、そういう忙しいお母さんたちにこそ、ぜひ絵本の読み聞かせを積極的にしてほしいと思います。そもそも、絵本の読み聞かせによって分泌されるオキシトシンに肉体的な疲れを取るという多くの体験談があることもそうですし、先にお伝えしたように、絵本の読み聞かせで親子の信頼関係が深まれば、子どもが駄々をこねて困らされるようなことも減るのですから、それだけ日常生活のなかでたまる疲労も減ることになるのです。『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』景山聖子 著/小学館(2018)■ 絵本スタイリスト®・景山聖子さん インタビュー記事一覧第1回:「絵本の読み聞かせ」から、子どもが学ぶもの。そして、親が手に入れるもの。第2回:「勉強が勉強でなくなる」のが絵本の魅力! でも「勉強のつもり」で読み聞かせてはダメ(※近日公開)第3回:「上手に読んであげて、感想を聞く」のは絶対に避けて。絵本の読み聞かせの鉄則です(※近日公開)第4回:「もっと頑張らなきゃ」と自己嫌悪に陥りがちな母親たちに、励ましをくれる絵本の存在(※近日公開)■景山聖子さん連載『絵本よみきかせコーチング』記事一覧【プロフィール】景山聖子(かげやま・せいこ)群馬県出身。絵本スタイリスト®。群馬テレビアナウンサーを経て上京し、TBS、テレビ朝日、日本テレビ等で報道番組などのリポーターを務めたのち、ナレーターへ転身。NHKラジオの朗読番組『私の本棚』などを担当する。一児の母となると同時に、絵本の世界に魅せられ、2013年に(社)JAPAN絵本よみきかせ協会を設立し、代表理事に就任。ボランティア認定資格講座には全国から人が集まり、公共施設やカルチャーなどの「よみきかせ講師」も多数育成。現在は、絵本を介しての子育てに関する講演活動を行うほか、パナソニック読み聞かせ機能搭載ライトのアドバイザーやカルピス読み聞かせ隊のサポーターに就任。アカチャンホンポ・ピジョン保育士の全国社員研修なども担当。NHK総合テレビで絵本の朗読も行う。園や小学校での絵本の読み聞かせも続け、絵本の持つ力を広めるために精力的に活動している。主な著書に、『今日から使える読み聞かせテクニック』(ヤマハミュージックメディア)、(『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』(小学館)、『子どもが夢中になる 絵本の読み聞かせ方』(廣済堂出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月15日わたしたちは、無意識のうちに多くの「思い込み」を抱えて生きています。その思い込みが、子どもが勉強で成果を出すにあたって支障になっていたとしたら?親であれば、子どものためにもそんな思い込みは払拭したいものです。算数に特化した学習塾「RISU」の代表である今木智隆先生が、算数を中心とした勉強に関する思い込みを教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)算数が得意な子どもの男女比はほぼ5対5「男性は理系教科が得意で、女性は文系教科が得意」。みなさんのなかにもそう思っている人が多いはずです。でも、これはまさに思い込み。算数が得意な子どもの男女比は、ほぼ5対5という数字があるのです。わたしが収集した10億件ものデータによる結果なので、間違いありません。でも、理系の大学院に進むような人には男性が多いというのは事実です。ただ、これは単純に環境によるものではないでしょうか。わたしも京都大学の大学院に行きましたが、理系の大学院は女性に優しい環境だとはとてもいえないからです。いまなら綺麗になっているところも多いかもしれませんが、伝統的に男社会である理系の大学院の多くは、やはり汚いし臭いし……(苦笑)。研究に追われて泊まり込むというようなことになれば、仮眠室なんてものもありませんから、並べたふたつの椅子のうえに寝るようなこともふつうにある。そんなところを女性が敬遠するのはあたりまえのことでしょう。そういうことの積み重ねが、「男性は理系教科が得意で、女性は文系教科が得意」という思い込みを多くの人に持たせてしまっているのだと思います。また、親によるミスリードも「男性は理系教科が得意で、女性は文系教科が得意」という風潮をつくっている要因のひとつでしょう。父親よりも家庭教育を担うことが多く、得手不得手が遺伝すると思い込んでいるような母親が、子どもの頃に算数が苦手だったというケースがそれにあたります。「わたしは算数が苦手だったから、同性の娘も苦手にちがいない」というわけです。でも、子どもにそう思い込ませることほどもったいないことはありません。もしかしたら、母親には発現していない算数の才能をその子は持っているかもしれないのですからね。子どもは親とはまったくの別人格なのですから、親の体験を子どもに投影しないようにしてほしいものです。テストの85点はいい点?悪い点?また、思い込みという点では、テストの点数の解釈にも注意が必要です。たとえば、子どもが算数のテストで85点を取ってきたとしたら、みなさんはどんな印象を受けるでしょうか?100点ではありませんが、「8割以上はできているし、問題ない」と思う人も多いはずです。ところが、その内容によっては大いに問題であるという場合もあるのです。たとえば、配点はすべて5点の20個の問題のうち、ケアレスミスで計算問題だけを3つ間違ったケースと、3つの文章題すべてを間違ったケースではどうでしょう?前者は、学習内容はきちんと理解できていて、今後はケアレスミスにだけ注意すればいいということ。一方、後者の場合、計算はできても、文章題を解釈して式を立てる能力がまったく足りないということになる。深刻度でいえば、後者は前者の何倍にもなるでしょう。つまり、点数そのものではなく、どういうミスをしたのかというところにきちんと着目し、理解すべき大切な内容が抜け落ちたまま先に進むことがないよう注意する必要があるのです。そうしなければ、算数の場合は、「積み上げ型」という教科の特性があるため、その抜け落ちた内容がネックとなって、のちのちに大きな壁にぶつかることになります(インタビュー第1回参照)。親の謙遜と、子どもへのご褒美の条件に要注意ここからお伝えすることは、算数に限った話ではありません。でも、子どもが勉強でしっかり成果を出していけるようにするため、ぜひみなさんには心にとめておいてほしいことです。ひとつは、親の謙遜に注意してほしいということ。ママ友との会話のなかで、「うちの子なんて、算数が全然駄目で……」なんてことを口にしていませんか?じつに謙虚な日本人らしい言葉です。ただ、謙虚であることがいいというのは、このケースにはあてはまらず、ただの思い込みといえます。もし、その言葉を当の子どものまえでいっていたとしたどうでしょう?子どもは大人ほど言葉の裏にある文脈を読めませんから、字面どおりに親の言葉を受け取ります。子どもは、「僕は駄目な子で、お母さんにも期待されていないんだ……」と思ってしまう。すると、「駄目な子なんだから、できなくていい」という論法が成立し、勉強しない理由を子どもにつくらせることになってしまうのです。子どもの勉強に対するモチベーションを上げるためにも、やはり褒めてあげることを大切にしてください。もうひとつは、ご褒美のあげ方についての注意点です。ご褒美によって子どもの勉強に対するやる気を出させること自体が間違いだというわけではありません。ただ、ご褒美をあげる条件の内容には注意が必要。たとえば、「宿題が終わったらゲームをしていいよ」。この場合、たとえば計算ドリルで全問間違ったとしても、とにかく全問やればいいということになりますから、宿題をする意味がまったくありません。「勉強を1時間したら……」でも同様です。勉強の内容は問いませんから、極端な話、机に向かっていたらいいということになります。ではどんな条件がいいのかというと、たとえば、「宿題をやって採点をして全部正解になったら……」ならどうでしょうか。これなら自己採点の習慣もつきますし、内容の理解も進みます。ご褒美の条件次第で、子どもの勉強は意味のある時間にもなれば、まったく意味のない時間にもなる。その点を意識して、ご褒美の条件を考えてみてほしいと思います。『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』今木智隆 著/文響社(2019)■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題(※近日公開)第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法(※近日公開)【プロフィール】今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月09日「理系離れ」という言葉が生まれて久しいいまも、「算数が嫌い」「算数が苦手」という子どもはたくさんいます。「好きなことや得意なことを伸ばせばいい」という考え方もありますが、子どもの将来の可能性を狭めないためにも、苦手教科をつくりたくはありません。では、どうすれば子どもたちは算数に親しむことができるのでしょうか?算数に特化した学習塾「RISU」の代表である、今木智隆先生にアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)算数が持つ「積み上げ型」という特徴に注意低学年の頃には多くの子どもが算数に苦手意識を持っていないのに、学年が上がるにつれて「算数が嫌い」「算数が苦手」という子が増えていきます。これには、算数という教科が持つ「積み上げ型」という特性が影響しています。歴史という教科の場合なら、試験範囲が近代であれば、古代のことはなにも知らなくても近代のことだけを暗記してしまえば高得点を取ることができます。でも、算数にはその手法が通用しません。足し算、引き算、掛け算、割り算のすべてを理解しておかないと、それらのすべてが含まれる四則混合計算の問題では絶対に正解にたどり着けませんよね。ゲームにたとえていうなら、RPGのようなもの。味方のメンバーに勇者と戦士がいれば序盤の敵なら倒せるとしても、強いボスに勝つには、勇者と戦士に加えて魔法使いも必要というイメージです。ゲームのメンバーに魔法使いがいない状態のように、どこかで重要な要素が抜け落ちたまま先に進んでしまうと、学年が上がるにつれて理解できないことが増え、「算数が嫌い」「算数が苦手」という子どもが増えていくのです。ですから、どこかのタイミングで大きく算数の成績が下がるというようなことがあれば、その単元に含まれる要素をさかのぼり、その要所を復習する必要があります。「時計」の単元でつまずいたのなら、時計の単元の内容だけでなく、それ以前に習った足し算や引き算の要所を理解していない可能性もあるのです。子どもの興味関心と算数を関連づけるもちろん、小学生になる以前の幼いときから、子どもが算数に親しめるようにさせることも大切なことでしょう。ただ、やり方には注意が必要です。近所の同い年の子どもが50まで数を数えられるからと親が勝手に焦って、「じゃ、50まで数えてみようか」と自分の子どもにただ数を読み上げさせたとしても、子どもにとっては面白くもなんともない。興味を示すわけもありません。それどころか、面白くもないことを強要されることで、むしろ算数を嫌いにさせてしまう可能性もあります。そうではなく、子どもが興味を持っていることと算数を関連づけることが大原則。わたしの子どもの場合なら電車が好きですから、駅の階段を降りるときにわたしが階段の数を数えてあげる。自分が好きな駅という空間で数字を耳にすることで、子どもは自然に数字にも興味を示してくれるようになりました。大人だって同じですよね?ある日、会社でいきなりセキュリティー研修に参加させられたとします。セキュリティーに興味がある人ならともかく、そうではない人にとってはなにも面白くない。こどもの場合、大人以上に好きかどうかでそのことに向かう関心に大きなちがいが生まれますから、なにより子どもの興味関心を軸に算数に親しめるように工夫してみてください。それこそ、子どもがレゴブロックといった知育玩具に興味を示してくれたりすればしめたもの。ブロックで遊ぶことで、「図形」の単元の内容に幼いときから親しむことになるからです。苦手な子どもが多い図形ですが、とくに二次元から三次元になると、その難易度はさらに上がります。紙に描かれた立方体を見せられて「頂点はいくつ?」と問われた場合、見えない部分を類推しなければならない。でも、ブロックに直接触れていた経験があれば、その類推もスムーズにできるでしょう。そういうリアルのものに触れる体験が、小学生になって算数をするとなったときに生きるのです。先取り学習をさせるにも子どもの特徴に要注目子どもそれぞれの興味や特徴に注目しなければならないということについては、子どもに先取り学習をさせる際にも同様のことがいえます。わたし自身は、先取り教育に賛成でも反対でもありません。なぜなら、子どもそれぞれがその子なりの適切なペースで学べることがなにより大切だと考えているからです。もちろん、先取り学習に合う子どももいます。子どもの頃のわたしもそうでしたが、ゲーム感覚でテストに臨んで高得点を取ることが気持ちいいと感じるような子どもは先取り学習に合うタイプでしょう。そして、いい点を取れたことが自信になり、「頑張れば自分はやれるんだ!」と感じる体験を積み重ねれば、その後も努力をいとわない子どもになります。そのスタンスは、算数の勉強に限らず、あらゆることを子どもが主体的に進めるうえでとても大切なものです。一方で、そういうゲーム感覚のようなペースでの勉強が合わず、新しい単元の概念はじっくりと時間をかけてかみ砕いて教えてあげないと理解できない子どももいます。そういう子どもに、「みんなもやっているから」と親が焦って、まわりの子と同じ先取り学習をさせても効果は薄い。このタイプの子どもは、学校や規模の大きい学習塾での集団授業に合いませんから、先取り学習をするにしても、少人数制の塾などでフォローしてあげることが必要になってくるでしょう。先に述べた、算数の学習を進めるうえで理解すべき要所を抜け落ちさせないことに関してもいえますが、我が子の現状や特徴を親がまず理解することが大切なのだと思います。『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』今木智隆 著/文響社(2019)■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない(※近日公開)第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題(※近日公開)第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法(※近日公開)【プロフィール】今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月02日「勉強する」というと、みなさんはどういうスタイルをイメージするでしょうか。机に向かって教科書や問題集を広げる――。たしかにわかりやすい勉強のスタイルです。でも、それこそが勉強することだと考えて子どもに強いることが、子どもを勉強嫌いにしてしまっているとしたらどうですか?独自の授業スタイルで注目される「探究学舎」の代表である宝槻泰伸先生に、子どもの勉強法に関するアドバイスをもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)大人の働き方は変わるのに、子どもの勉強の仕方は変わらない時代が進むに伴って、これまでは価値があったもの、あたりまえだと思われていたものもそうではなくなることは珍しくありません。それこそ、時代の変化が激しいいまなら、その傾向はさらに強まっています。たとえば、働き方がそうでしょう。かつての企業の従業員たちは、企業のリーダーが決めた課題を解決するために、企業によって割り振られた仕事をなるべく要領よくこなしていました。それは、従業員を管理することを重視した軍隊的な労働環境だったといえるでしょう。でも、そういう働き方に対して多くの人が違和感を覚えるようになりました。そうして、いまは自由度が高い労働環境をデザインする時代に入ってきました。たとえば、フリーランスもそうですし、企業も勤務時間を自由にしたりフリーアドレス制にしたり、あるいはソファやハンモックを配置するなど、以前では考えられなかったオフィスも増えてきています。ところが、子どもたちが勉強する環境はどうでしょうか?いまも子どもたちは、何十年前の子どもたちとなんら変わらず、姿勢を正して机に向かい、教科書を開いて勉強することがよいとされています。大人の働き方はどんどん変化しているのに、子どもたちの勉強に関しては、かつてとまったく同じスタイルが正しいとされているのです。まずはそのあたりまえを疑ってみませんか?ずっとあたりまえとされてきた子どもの勉強スタイルを疑うみなさんも、仕事の最中にお菓子を食べて小腹を満たすこともあるでしょう。あるいは、仕事で必要な資格を取得するための勉強として、自宅のソファに寝っ転がってテキストを読むこともあるはずです。子どもだってそうしていい。ソファに寝っ転がってポテトチップスでもつまみながら勉強をしてもいいのです。しかも、教科書を使うことにこだわる必要もありません。子どもが夢中になって石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』シリーズ(中央公論新社)を読んでいたら、それも立派な歴史の勉強であるはずです。また、みなさんもメディアを通じてGoogleなど最先端の企業のオフィスを見て、「いいなあ、こういうところで働きたいな」と思ったことがあるでしょう。それは、子どもの勉強にもいえるはずです。大人が、これまであたりまえとされてきた働き方を疑っていいのなら、子どもだってこれまであたりまえとされてきた勉強の仕方を疑ってもいい。そして、子どもが自分でやりたい方法で勉強することを、大人は認めてあげるべきだと思うのです。子どもの思考力を鍛える、おすすめ「なぞ解き教材」ではひとつ、わたしがおすすめする勉強法をお伝えしましょう。もちろん、これまでお伝えしてきたように、勉強法は子どもそれぞれでいいのですから、わたしがおすすめする勉強法を絶対にやらせるべきだというわけではありません。さて、そのおすすめの勉強法ですが、松丸亮吾くんの著書を子どもに与えるというものです。松丸くんは、有名なメンタリストのDaiGoさんの弟で、なぞなぞをつくるクリエイターです。その著書であるなぞ解き教材がじつに素晴らしい!たとえば、『東大松丸式 数学ナゾトキ 楽しみながら考える力がつく!』(ワニブックス)がそのひとつです。松丸くんがつくるなぞなぞのなにが素晴らしいかというと、とにかく考えたくなるし夢中になるし、答えられるととてもうれしくなるというところです。そんなクリエイティブななぞなぞをつくれる一種の才能を松丸くんは持っているのです。もちろん、著書に掲載されているなぞなぞは、ただのなぞなぞではありません。松丸くんは、「考えるという行為を楽しい行為にすること」をビジョンに掲げて活動している人です。だからこそ、著書に掲載されているなぞなぞも、解くことで思考力を鍛えられるものになっています。先に挙げた著書の帯を見てみると、「想像力、多角的思考力、発想力、試行錯誤力、説明力――勉強でも社会でも役立つ5つの力を鍛える!」とうたっています。これなら、「子どもに勉強を得意になってほしい」と願っている親にも響くのではないでしょうか(笑)。ただ、みなさんには、「子どもには絶対に学校の勉強を得意になってほしい」と願うような古い価値観はやはり捨ててほしいなと思っています。現代的にいえば、価値観をアップデートしてほしい。もちろん、学校の勉強を全否定する必要はありません。漢字の読み書きができないよりはできたほうがいいし、計算も正確にできたほうがいいでしょう。でも、それはベターであってマストではありません。そうして親が自らの価値観をアップデートした先に、従来の勉強の仕方などにはこだわらない、我が子にフィットする勉強法が見えてくるのではないでしょうか。『探究学舎のスゴイ授業 子どもの好奇心が止まらない! 能力よりも興味を育てる探究メソッドのすべて 元素編』宝槻泰伸 著/方丈社(2018)■ 「探究学舎」代表・宝槻泰伸先生 インタビュー記事一覧第1回:“勉強させずに”子どもを伸ばす! 「従来型の学習にこだわってはいけない」その訳は第2回:親がどんなに願っても勉強しない子どもの「学びへの好奇心」は、こうくすぐる!第3回:「勉強嫌い」は親の価値観が古いせいかも。寝転がってお菓子を食べながらでもいいんです【プロフィール】宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)1981年5月25日生まれ、東京都出身。京都大学経済学部卒業。探究学舎代表。幼少期から「探究心に火がつけば、子どもは自ら学びはじめる」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し京都大学に進学。ふたりの弟も同様に京都大学に進学。その後、5年の歳月をかけて、子どもたちが「わあ、すごい!」と驚き感動する世界にたったひとつの授業スタイルを開発。5児の父でもある。主な著書に『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)、『とんでもオヤジの「学び革命」 「京大3兄弟」ホーツキ家の「掟破りの教育論」』(小学館)、『勉強嫌いほどハマる勉強法 子どもが勝手に学びだす!! 宝槻家のストーリー活用術』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月21日かつてないほど変化が激しい時代にあって、子どもたちが未来の社会で活躍するためには「探究する力」を身につけるべきだと主張するのが、独自の授業スタイルで注目される「探究学舎」の代表を務める宝槻泰伸先生。では、その探究する力を子どもに身につけさせるにはどうすればいいのでしょうか。宝槻先生は、「従来型のいわゆる勉強ができるようになってほしいと願う親の価値観を変えなければならない」といいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「探究する力」を身につけるには、「好奇心」が重要これからの時代を生きる子どもたちが身につけておくべきもっとも大切な力が、自ら課題を見つけて自ら解決する「探究する力」だとわたしは考えています(インタビュー第1回参照)。では、どうすればその探究する力を身につけることができるのでしょうか?その答えは、「好奇心を伸ばす」こと。なぜなら、好奇心がなければ、探究のスタートを切ることすらできないからです。だとすると、今度は、「好奇心を伸ばすにはどうすればいいのか」という疑問を持った人も多いはずです。その答えを解説するため、縦軸と横軸で4つにわけられたマトリクスをイメージしてください。縦軸の要素は、「楽しい、快楽」と、その真逆の「不快」。横軸は「悪いこと」と「いいこと」です。子どもの周囲にあるあらゆるものは、このマトリクスのどこかに分類することができます。たとえば、「楽しくて悪いこと」というと、どんなものをイメージするでしょうか?子どもにとっては楽しくて、大人からすれば好ましく思えないこととなると、ゲームや漫画、YouTubeなどが挙げられるでしょう。そのように、子どもと親では、同じものに対しても向ける視線がそれぞれ異なります。なぜかというと、子どもは「楽しい、快楽」を感じられるものに強く反応し、親としては我が子には将来役に立つような「いいこと」をしてほしいと思うからです。一般的な学校の勉強なら、親にとっては「いいこと」だと思えても、たいていの子どもにとっては楽しく感じられない。そのため、親がどんなに勉強をしてほしいと願っても、子どもはなかなか勉強に興味を持ってくれないということになるのです。子どもには楽しく、親にとっては「やってほしい」と思えるものを与える子どもは、そもそも好奇心がくすぐられて熱中できるものにしか反応しない生きものです。子どもが夢中になっているものがあったとしたら、それは子どもにとって楽しいことで好奇心が満たされるものだと考えられます。でも、それらは漫画やゲームといった大人にとってよろこばしくないものということも多いでしょう。そこでどうすべきか?子どもにとっては「楽しい、快楽」と感じられ、親にとっては「いいこと」だと思えるものを与えることを考えるべきです。スポーツはその典型かもしれませんね。そして、その与えるものは、ノンフィクションでなければならないというのがわたしの考えです。フィクションの世界を夢中になってむさぼったとしても、人生を大きく変えることはできないのではないでしょうか。子どもたちは現実の世界を生きていくわけですから、現実の世界を楽しんで現実の世界に熱中したほうが、よりよい人生を歩めるようになるはずです。わたしが代表を務める「探究学舎」の場合なら、授業のテーマは宇宙、生命、元素、医療、数学、経済、歴史、芸術、ITとさまざま。でも、どれもノンフィクションのものです。それらに好奇心をくすぐられた子どもたちが驚き、感動することで、探究する力が伸びていくのだとわたしは信じています。親の価値観を変えるため、子どもの姿をしっかり見るそうはいっても、旧来の価値観を捨てきれない親も多いものです。どうしても、「学校の勉強もしっかりできるようになってほしい」と我が子に願ってしまう……。そういう自覚があるみなさんには、ぜひ子どもの姿をしっかりと見るようにしてほしいと思います。どんな親も、「子どもがよろこんでいる姿を見たい」というのが究極の願いであるはずです。一般的な学校の勉強とはちがうものだけれど、現実の世界に触れて我が子が目をキラキラと輝かせて、「もっと知りたい!」「もっとやってみたい!」という姿を見せてくれたとしたら、親の価値観は一気に変わるのではないでしょうか?「漫画を読ませるのは駄目だ」と考えている親なら、歴史や科学などをテーマにした漫画を子どもに与えてみてはどうでしょう。漫画はエンターテインメント性が高く、それこそ子どもにとっては「楽しい、快楽」と感じられるもの。そして、そのテーマが歴史や科学などだったら、親からすれば「いいこと」だと思えるものでしょう。そして、その漫画を与えられた子どもは目を輝かせて夢中になって読みふける――それこそが、探究する力を身につけるために子どもが自ら動きはじめた第1歩なのです。『探究学舎のスゴイ授業 子どもの好奇心が止まらない! 能力よりも興味を育てる探究メソッドのすべて 元素編』宝槻泰伸 著/方丈社(2018)■ 「探究学舎」代表・宝槻泰伸先生 インタビュー記事一覧第1回:“勉強させずに”子どもを伸ばす! 「従来型の学習にこだわってはいけない」その訳は第2回:親がどんなに願っても勉強しない子どもの「学びへの好奇心」は、こうくすぐる!第3回:「勉強嫌い」は親の価値観が古いせいかも。寝転がってお菓子を食べながらでもいいんです(※近日公開)【プロフィール】宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)1981年5月25日生まれ、東京都出身。京都大学経済学部卒業。探究学舎代表。幼少期から「探究心に火がつけば、子どもは自ら学びはじめる」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し京都大学に進学。ふたりの弟も同様に京都大学に進学。その後、5年の歳月をかけて、子どもたちが「わあ、すごい!」と驚き感動する世界にたったひとつの授業スタイルを開発。5児の父でもある。主な著書に『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)、『とんでもオヤジの「学び革命」 「京大3兄弟」ホーツキ家の「掟破りの教育論」』(小学館)、『勉強嫌いほどハマる勉強法 子どもが勝手に学びだす!! 宝槻家のストーリー活用術』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月20日親としてぜいたくがいえるのなら、我が子には学校の勉強がしっかりできるようになってほしいものでしょう。でも、独自の授業スタイルが注目される「探究学舎」の代表である宝槻泰伸先生は、子どもたちが未来の社会で活躍するためには、「勉強する力よりもずっと大切な力がある」と語ります。その大切な力とは、「探究する力」なのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)一般的な勉強とはまったく異なる「探究学習」わたしが代表を務める「探究学舎」は、一般的な学習塾ではありません。扱うテーマは、宇宙、生命、元素、医療、数学、経済、歴史、芸術、ITなどさまざま。いわゆる、文科省が決めた5教科の枠組みに沿って子どもに知識を授けるということはしていないのです。それから、問題を解かせて知識や技能が身についているかどうかを評価することもしません。つまり、わかりやすくいえば、一般的な勉強をさせていないということです。そういった、一般の授業とはまったく異なる独自の授業によって目指しているのは、子どもの「探究する力」を伸ばすということに尽きます。その探究する力こそ、これからの時代を生きる子どもたちにとって大切になっていくものでしょう。では、探究する力とはどういうものでしょうか?わたしは、「自分の問いに対して自分の方法で自分の答えにたどりつく力」だと考えています。たとえば、米アップル社の共同設立者のひとりだったスティーブ・ジョブズは、「これからの時代に主流となるデバイスはどんなものか」と考え、自分なりの方法でiPhoneを生み出しました。それこそ、まさに探究による成果でしょう。一方、一般的な勉強はどういうものかというと、与えられた課題を解決するための力を身につけるトレーニングです。たしかにこれまでは、そういう力が重視されてきた時代でした。でも、時代は大きく変化しました。経済活動の変化により求められるようになった「探究する力」わたしが、これからの時代に探究する力が求められると考える理由は大きくふたつ。ひとつは、経済的な文脈による理由です。先に、与えられた課題を解決するための力がこれまでは必要とされてきたとお伝えしました。これまでの経済活動において、そういった力が求められてきたのです。かつての経済活動の主役は国家や企業でした。そして、そのリーダーが課題を決めていました。従業員は割り振られた仕事をできるだけ要領よくこなし、リーダーが決めた課題を組織によって解決してきたのです。それが、20世紀の経済原理です。だからこそ、従業員たちには与えられた課題を解決する力が求められ、その力を身につけるためにいわゆる勉強が有効だったわけです。でも、いまの経済活動はどうかというと、組織的な行動の成果としてのバリューだけではなく、個人的なクリエイティブ活動の成果によるバリューが直接市場に流通するようにもなってきています。いまは、さまざまなインフラが整備されたことにより、個人でアプリを開発することもできれば、ユーチューバーとして大金を稼ぐことも可能です。そう考えると、これからの経済活動のなかで活躍するには、クリエイティビティーを磨いていくことが必要となっていきます。それでは、クリエイティビティーをどうやって磨いていけばいいのでしょうか?わたしは、従来型の学校の授業や一般的な勉強ではそれは難しいと感じました。そうして、探究する力こそが重要だと考え、試行錯誤しながら独自の授業スタイルを構築してきたのです。働き方は「ライスワーク」から「ライフワーク」へこれからの時代に、探究する力が求められるとわたしが考えるもうひとつの理由は、個人主義的な文脈によるものです。人類は、その長い歴史を通じて自らの幸せを追求してきました。では、その幸せとはなにかといえば、基本的に「自由であること」ではないでしょうか。自由こそが、人間の幸せを支える非常に重要な要素であるはずです。ところが、これまでの労働には不自由なことがとても多かった。会社に決められた時間に出社し、決められた仕事をこなす……。そして、経営者に搾取される……。とうてい、自由とはいえませんよね。でも、昭和の時代には「生きるためには仕方ない、忍耐や努力も必要だ」という共通認識がありました。でも、平成から令和になり、時代はどんどん変化してきています。大企業に入社すれば安泰という時代は終わり、フリーランスで働く人も増えています。そのなかで、自分の自由と収入の折り合いをつけようと多くの人がチャレンジしている。それが、いまという時代です。要するに、飯を食うために働く「ライスワーク」から、自分を自由に表現するために働く「ライフワーク」に移行しつつあるのです。そして、その変化がもっと進んだ未来を生きる子どもたちは、いまのうちにどんな準備をしておけばいいのか?それこそ、自分の自由に従って好きなことをとことん探究していく学習なのではないでしょうか。『探究学舎のスゴイ授業 子どもの好奇心が止まらない! 能力よりも興味を育てる探究メソッドのすべて 元素編』宝槻泰伸 著/方丈社(2018)■ 「探究学舎」代表・宝槻泰伸先生 インタビュー記事一覧第1回:“勉強させずに”子どもを伸ばす! 「従来型の学習にこだわってはいけない」その訳は第2回:親がどんなに願っても勉強しない子どもの「学びへの好奇心」は、こうくすぐる!(※近日公開)第3回:「勉強嫌い」は親の価値観が古いせいかも。寝転がってお菓子を食べながらでもいいんです(※近日公開)【プロフィール】宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)1981年5月25日生まれ、東京都出身。京都大学経済学部卒業。探究学舎代表。幼少期から「探究心に火がつけば、子どもは自ら学びはじめる」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し京都大学に進学。ふたりの弟も同様に京都大学に進学。その後、5年の歳月をかけて、子どもたちが「わあ、すごい!」と驚き感動する世界にたったひとつの授業スタイルを開発。5児の父でもある。主な著書に『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)、『とんでもオヤジの「学び革命」 「京大3兄弟」ホーツキ家の「掟破りの教育論」』(小学館)、『勉強嫌いほどハマる勉強法 子どもが勝手に学びだす!! 宝槻家のストーリー活用術』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月19日どんなに子どもを愛していても、自由奔放な子どもに振り回されてイライラしてしまうこともあるのが子育てです。自分のイライラにどう対処していいかわからず、悩んでいる人もいるのではないでしょうか。そこで、「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生に、子育てでイライラせず、かつ幸せになるという欲張りな方法を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)イライラした自分を責めずに認める子育ては本当にたいへんなことの連続です。いうことを聞いてくれない子どもに対してイライラしてしまうことも少なくないでしょう。そのとき、イライラしてしまった自分を責めていませんか?それでは自分が苦しくなるばかりです。子育てにはイライラすることもあって当然なのですから、自分を責めるのではなく、「イライラしたなあ」と、イライラした自分をただ認めることが大切です。というのも、「イライラは完全に悪いものだ」といい切れるものではないからです。親のイライラというものは、子どもにも伝わり、ある程度の教育効果があります。親がイライラしていると、その事実を子どもは察して、「こういうことはしてはいけないな」と感じることもある。あるいは、場合によっては反面教師としての教育効果かもしれません。「イライラしているお母さんみたいな人にはなりたくない、穏やかな人になりたい」と、子どもが思うようなことです。しかしながら、子育てをするうえでは、やはりなるべくイライラしないほうが理想的です。ですから、イライラを抑えるためのトレーニングをしましょう。イライラしたら、まずはその事実を認める。それから、6秒間、深呼吸をしてイライラを子どもにぶつけたくなるのをぐっと我慢する。これは、怒りをコントロールするメソッドであるアンガーマネジメントの手法です。怒りは、6秒間我慢すれば消えるという研究結果があるのです。さらに、イライラしている自分を俯瞰するイメージで客観視してみてください。これら3つのことを続ければ、イライラに対して冷静に対処でき、徐々にイライラを抑えられるようになっていくはずです。子育てをめぐる夫婦の方針がちがってもいいただ、子育てにおいてイライラさせられるのは、子どもの行動だけに限りません。たとえば、どちらかといえば母親に多いことだと思いますが、「夫が子育てに協力してくれない!」ということも、イライラしてしまう大きな要因のひとつです。そういう人のなかで、パートナーに対して「あきらめ」の気持ちを持っている人はいませんか?「夫にいっても、どうせわかってくれない」と思っているようなことです。あるいは、子育てをめぐって夫婦喧嘩をしたときに、解決しないまま、「その話をするとまた喧嘩になるから」と放置してしまう。そしてまた別の理由で喧嘩をして解決しないまま放置する……。そのようにして、夫婦がわかり合えない事実をどんどん蓄積していないでしょうか。これは、子育てのためには完全にNGなことです。いや、最悪といってもいいでしょう。なぜなら、子育てをめぐる父親と母親の方針が食いちがっていると、子どもは混乱してしまうからです。ですから、やはりあきらめることなく夫婦でよく話し合うことが大切です。その場合、夫婦間で子育ての方針が一致することが理想ですが、もしちがっていたとしても、きちんと夫婦で話し合ったうえで「わたしたちは考えがちがうんだね」と認め合うことができていれば問題ありません。これは、先に挙げた、あきらめによって子育ての方針の食い違いを放置していることとはまったくちがうこと。夫婦が互いに認め合っているために、「考えはちがうけど、共存していこうよ」と前向きに子育てに向かうことができるからです。「お父さんとお母さんの考えはちがうけど、お父さんもお母さんもあなたのことをきちんと考えているんだよ」と子どもに伝えられる。そうすれば、子どもも混乱することなく両親の考えのちがいを受け止めてくれるでしょう。夜寝る前に、その日にあったいいことを3つ書き出す最後に、子育て中のみなさんがイライラせずに幸せになれる、とっておきの方法をお教えしましょう。これは、アメリカの心理学者であるマーティン・セリグマンが唱えているもので、「毎晩寝る前に、その日にあったいいことを3つ書き出す」という方法です。人間の脳は、同じ失敗を繰り返さないため、ポジティブなことよりネガティブなことをより強く記憶するようにできています。危機管理能力としては優秀ですが、やはり嫌なことばかり覚えていては、幸せを感じにくいですよね。でも、よく考えてみれば、ごく平凡に思える1日のなかにも見落としているいいことはたくさんあります。それこそ、子育て中の親であれば、いうことを聞いてくれない子どもにイライラさせられることがあったとしても、昼寝している子どもの寝顔を見れば「なんてかわいいんだ」と思うでしょう。親として最高に幸せな瞬間です。その事実を書き出すことで、日々のイライラは減り、幸せを感じられるようになるはずです。この方法が面白いのは、習慣化するといいことに自然に目が向くようになる点です。いいことを書き出したいがために、いいことを見つけられるようになるというわけです。いわば、「幸せ体質」になるといっていいでしょう。わたしの妻なんて、まさにその幸せ体質。朝の9時になる前に、「もういいことが3つ見つかっちゃった!」なんていっていますよ(笑)。『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき第4回:子育てでイライラした時どうすれば?幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方【プロフィール】前野隆司(まえの・たかし)1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月14日子どもの幸せを願わない親はいません。そう考えて、子どもばかりを優先し、夫婦関係をおざなりにしている人はいませんか?「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生は、「親だからこそ、子どもではなく夫婦、そして自分の幸せを追求してほしい」と語ります。そのことが「子どものためになる」というのですが、はたしてどういう意味なのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)スキンシップをすれば幸福度が上がるみなさんは、子どもと積極的にスキンシップをしていますか?感覚的にもわかることかと思いますが、スキンシップが多いほど幸福度が上がるという研究結果があります。これは、神経伝達物質の影響によるものです。人間の脳は、他人とスキンシップすることにより、セロトニンやオキシトシンなど「愛情ホルモン」と呼ばれる神経伝達物質を分泌します。その働きにより、人は安心感を得て幸せを感じられるのです。ですから、子どもに対してどんどんハグをしてください。もちろん、スキンシップであればいいのですから、握手でもいいし、肩や背中をポンポンとたたいたり、「いい子いい子」と頭をなでてあげたりすることでもいい。とにかく、親子ともども幸せになりたいのなら、スキンシップを欠かさないことです。そういう意味では、日本人はちょっと不利かもしれません。外国人と比べると、日本人のスキンシップは明らかに少ないからです。わたしの知り合いがとあるラテン系の銀行に就職したところ、「自分の席になかなかたどり着けない」と苦笑いしていました。というのも、席に着くまでのあいだ、清掃員のおばちゃんなど出会う人出会う人から、「今日も会えたね!」と、まるで1年ぶりに会ったかのように激しくスキンシップされるからだそう(笑)。そのことを思えば、文化的にスキンシップが少ない日本人、とくに子育て中の親であるみなさんは、意識的に子どもとのスキンシップを増やしていく必要がありそうです。たとえ他人とのスキンシップには抵抗がある日本人でも、親子であれば問題ないでしょう。スキンシップをすれば幸せになるように人間はできているのですから、我が子を思う親なら、スキンシップをしない理由はありません。「子どもは宝物だ」という思考は危険さて、愛情を持って子どもとスキンシップをすることはもちろん大切ですが、その愛情の中身については注意が必要です。みなさんのなかに、「愛する子どもをきちんと育てることこそがわたしの生きがいだ!」なんて考えている人はいないでしょうか?それは、ちょっと危険な思考です。子どもに依存している可能性があるからです。わたしの母の世代の女性には、そういう人が多かったように思います。そういう女性は、妻として夫に尽くし、母親として子どもを育てることが任務であり幸せだと考えていました。そして、夫に先立たれて子どもが独立すると、自分の役割がなくなったと感じ、幸せの代わりに虚脱感を感じるようになる。そういう人の予備軍が、いまの親世代の人にも見られるのです。それこそ、「かわいい子どもには、できれば大きくならないでずっとそばにいてほしい」「将来、子どもが結婚して家を出ると思うといまから憂うつ」「子どもはわたしの宝物だ」なんて考えている人は危険です。そういう思考を持っている人は、無意識のうちに子どもを自分の「持ちもの」のように思っています。いうまでもなく、子どもは持ちものなどではなく、ひとりの独立した人間です。だからこそ、「いずれ我が家を出て他人になっていく子どもを遠くから応援しよう」という気持ちを持っていなければならないのです。子どものためにも、夫婦が仲良くしておくべきそう考えると、親が持っておくべきもうひとつの大切な思考があります。それは、夫婦こそが仲良くしておくべきだということです。子どもが独立して家を出ていったとしたら、そのあとに家に残るのは夫婦ですよね?それなのに、夫よりも、妻よりも「子どもが大事!」と子どもにばかり目を向けていれば、子どもが家を出た途端に、親はそれこそ虚脱感に襲われることになってしまいます。いま、熟年離婚する夫婦も多いですよね。それも、いまお伝えしたような、子どもにばかり目を向けている親が多いことにもよるのではないでしょうか。子どもとスキンシップをしてコミュニケーションを取ることも大切ですが、夫婦のあいだでももっともっとコミュニケーションを取るべきです。もっといえば、親自身が自分の幸せを追求してほしい。「子どものことを思えば、そんな勝手なことはできない」と考える人もいるかもしれません。でも、それは勝手なことなどではありません。むしろ、親自身が自分の幸せを追求することこそが子どものためになるのです。両親がしっかりコミュニケーションを取って幸せなカップルでいられたら、そんな両親の背中を見て育った子どもは、「自分もお父さんやお母さんみたいな家庭を築こう」と思うはずです。でも、親が子どもにばかり愛情を注いでしまうと、その子が大人になり子どもを持ったときも、自分の子どもに対して同じような愛し方しかできません。いわば、依存のループを子孫につないでしまうのです。そして、親に依存された子を待っているのは、最終的に虚脱感を味わうことです。みなさんも、我が子にそんな思いをさせたくはないでしょう。親自身が幸せになることはわがままでも勝手なことでもなく、むしろ子どものため――。そう考えて、子どもに依存しない親子関係を築いてください。『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき第4回:子育てでイライラした時どうすれば?幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方(※近日公開)【プロフィール】前野隆司(まえの・たかし)1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月13日いま、「先が見えない」といわれる時代です。だからこそ、「どんな時代になっても活躍できるように」と願い、親の多くが我が子にたくさんの習い事をさせています。ただ、「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生は、「習い事漬けの子どもは大切な時間を奪われている」と語ります。その真意と併せて、先が見えない時代に子どもが身につけるべきものを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)習い事漬けになっている子どもが奪われている大きな学びいま、日本の子育てにおいて大きな問題だと感じるのは、親が我が子をほかの子どもと比較することです。人が幸せになるためには、「やってみよう」とか「ありのままの自分でいいんだ」と思えなくてはなりません(インタビュー第1回参照)。ところが、いまの子どもたちは朝から晩まで習い事漬けといってもいい状況ですから、親としてはどうしても我が子とまわりの子どもの出来のちがいが気になる。そのため、「○○ちゃんはもう△△ができているのに……」と、我が子を他人と比較することが増えているのでしょう。極論をいえば、わたしは幼い子どもに対する早期教育はまったく必要ないと思っています。わたしの仕事の関係で、息子は3歳のときに半年ほどアメリカで過ごしました。すると、すぐにネイティブスピーカーのような発音で英語を話せるようになった。せっかくだからと、帰国してから某有名英語塾に通わせたのですが、結果は散々……。まわりの子どもの「日本人発音英語」に影響され、あっという間にひどい発音になってしまったのです。生き生きと遊んで過ごせる時期というのは、長い人生のあいだでも子どものときだけではないですか。わたしの世代はもちろんですが、いまの親世代のみなさんも多くが子どもの頃は野山を走り回って遊んでいたはずです。そのなかには多様な経験がある。たとえば、友だちと喧嘩することもそうでしょう。それは、子どもにとって大きな学びの場です。強い怒りを感じたり自分の気持ちを主張したり相手の気持ちを察したり相手に譲ったりして仲直りする。それは、間違いなく社会に出たあとも必要となる人間関係構築力の学びです。そういう大事な時間を子どもから奪ったうえに、我が子とほかの子どもを比較するようなことがあれば、いいことはひとつもありません。もし習い事などの早期教育を子どもにやらせるとしても、本人がよほど強い興味を示しているものだけに絞るべきでしょう。目的もなく東大に入っても意味がない時代多くの子どもがやっている習い事をさせることなどより、オンリーワンの強みを伸ばしてあげることが、これからの時代には大切だとわたしは考えます。わたしの友だちの子どもに、魚のある骨を集めるのが趣味だという子がいます。「鯛の鯛」というその骨は、魚のかたちをしていて、「魚のなかの魚」とも呼ばれるものです。その子は、鮮魚店に行ったり釣りをしたりして鯛の鯛を集めるうち、どんどん知識が増えていった。すると、ついにテレビに出演して、あのさかなクンにほめられたのです。さかなクンも、かつてはまさにそういう子どもだったでしょう。そしていまの活躍がある。とことんなにかを追求して周囲から突き抜ける、いわばいい意味でオタクになるほうが、いまは輝ける時代なのです。というのも、いい大学に入っていい会社に就職すれば人生は安泰だという構造がとっくに崩壊しているからです。そんな時代に活躍するには、やはり自分だけの強みを持っている必要がある。そう考えると、大学に進学するにしても、いわゆる一流大学に行けばいいというものでもありません。わたし自身は、いまは大学に一流も二流もないと思っています。というのも、二流三流と呼ばれるような大学にも、ひとつのことをとことん追求している、いい意味で変な先生がたくさんいるからです。なんの目的もなく東大に入っても意味はありません。それよりも、「これを学びたいんだ!」という強い気持ちがある学生なら、たとえ二流三流と呼ばれる大学に行ったとしても、その分野でトップになる可能性もあり、そのほうが社会に出たあとでよほど活躍できるのです。個性と大混乱の時代であるいま、必要なものとは?いまは個性の時代に変わりました。インターネットの普及もあって、それこそ世界中の個性的な人とつながることができて、そういうつながりのなかから大きな成果を挙げる人たちが生まれてきています。そんな時代にあって、ただひとつの大企業のピラミッドのなかで生き抜くすべなどではなく、自らの強みによって個性を伸ばすことこそが大切なのです。そう考えると、親であるみなさんが、時代の変化をきちんと把握しておくことも重要です。個性の時代になったということもそうですし、なんの目的もなく一流大学を目指すことに意味がなくなったということもそう。また、学習指導要領もようやく変わりました。みなさんが子どもの頃とは、確実に時代は変わったのです。そうして大きな変化が起きているいまは、個性の時代であると同時に大混乱の時代ともいえるでしょう。いまはトップ企業が短期間でガンガン入れ替わっています。いま、世界を引っ張っているGAFAも、10年後、20年後にはトップにはいないでしょう。そんな先行きが見えない時代になにが必要かというと、先の鯛の鯛が大好きな子どもではありませんが、時代がどう変わっても目を引くような個性的なスキルなのです。あるいは、時代の変化を敏感にくみ取って、「これからはこういうスキルが必要なんだ!」と自ら考えてチャレンジできる力でしょう。そのためにも、子どもの「好き」を大切にしてあげてください。子ども自身が好きなことであれば、とことん追求して個性的なスキルを手にすることができる。あるいは、好きなことに自らチャレンジする経験が多いほど、変わる時代に合わせて新たなチャレンジをしていくこともできるはずです。『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき(※近日公開)第4回:子育てでイライラした時どうすれば?幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方(※近日公開)【プロフィール】前野隆司(まえの・たかし)1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月12日うちはモフモフ暮らし
めまぐるしいけど愛おしい、空回り母ちゃんの日々
子育ては毎日がたからもの☆