「教育」について知りたいことや今話題の「教育」についての記事をチェック! (19/25)
ADHD息子、小学3年生で学校生活のストレスが溜まりはじめて...Upload By かなしろにゃんこ。ADHDと広汎性発達障害がある息子リュウ太が小学校3年生のとき。リュウ太は、学校でイライラすることが多くなりました。そして周囲とケンカになる、机に伏せて授業が受けられないなど、学校生活を送る上での問題が目立ってきたのです。担任の先生との一学期の面談では、「リュウ太くんは他の子よりも心の成長が遅いのかもしれません。教育相談所に相談してみたらどうでしょう?」と言われました。Upload By かなしろにゃんこ。私もリュウ太は年齢よりも幼いし、気性も激しくて育てにくいと感じていたので、やっぱり何か発達に問題があるのかもしれない…と思い、担任の先生が勧めてくれた教育相談所に連絡してみようと思い始めました。とはいえ私はそれまで、教育相談所という機関の存在なんて気にしたことすらありませんでした。それに当時は今から12年前。スマホで手軽にネット検索できる時代ではありませんでしたから、教育相談所がどんなところなのか何も情報がない状態で不安な気持ちなこともあって、すぐに問い合わせる勇気はありません。どうするか悩んでいた夏休みの前、リュウ太のストレスはピークに達してしまいました。家に帰ってきてもイヤなことを引きずって物にあたり散らす日々…そのうち「お腹が痛い」と言うようになりました。どのあたりが痛いのか聞くと、胃のようでした。イライラや心の問題が体にも不調となって表れていたのです。これはもう私一人ではどうしようもない…勇気を出して、教育相談所に連絡してみることにしました。担任の先生は教育相談所について、「育児の悩み相談もできるところだから何でも相談してみるといいですよ」と教えてくれましたが、私の中では「ザーマスタイプのおっかない教育熱心な指導者に『あなたの育児は間違っています!そんなんじゃダメですよ!』と怒られるのかも…」そんなイメージばかりが膨らんで(笑)、面談に行く前はドキドキだったことを今でも思い出します。勇気を出して教育相談所へ!そこは母も息子も安心できる場所だったUpload By かなしろにゃんこ。しかし、実際は違いました…!私よりも少し若い男性相談員の方が私のカウンセリングをしてくれる間、息子には若い女性の指導員の先生がついてくれるのだといいます。息子はオモチャがたくさん置いてある畳の部屋に誘導され、指導員の先生と一緒にさまざまなオモチャで遊びました。息子は自分の好きなオモチャもそうでないものも、片っ端から引っ張り出しては触って試して遊んだそうです。ここでの狙いは、遊びの中で「この遊び方をしていいんだ、ぼくはぼくのままでいいんだ!」という自己肯定感を育むことなのだと教えてもらいました。ですから、息子がどんな遊び方をしても指導員の先生は怒ったり注意したりすることはなく、息子は楽しみながら自己肯定感を高めることができたのです。Upload By かなしろにゃんこ。私も小さな相談室に促され、相談員の先生に子育ての様子や困っていることを打ち明けました。これまで誰にも子育ての困り事を相談したことがなかった私。聞いてくれる人がいる、なんでも話していい。それだけでとても嬉しく、心が軽くなる感じがしました。それまでは、親など身近な人に話しても「言い聞かせが足りない」「躾ができていない」などと言われて、「もっと厳しくしないといけないんだ…私の育児は甘いんだ」と落ち込むばかり。息子に対して厳しくすればするほど反発され暴れられるということを繰り返し…いつからか誰にも相談しなくなっていたのです。「一人でなんとかしなくちゃ!」と頑張りすぎていたその頃の私は、「厳しさが足りないんだ」と思い込んで、軍隊のような礼儀・作法・規則を厳守させたりする指導が必要なんじゃないか、とまで考えていました。でも、教育相談所に通った2年の間、毎回少しずつ困り事を話していくうちに、私が困っていることの要因やどうしたらいいのかが、整理できてきました。〇ただ厳しく育てるだけでは逆効果で、息子は変わらないこと。〇息子は周りからちょっかいを出され、やめてと言ってもやめてもらえずに学校でイライラしていること。〇息子は学校でイヤなことがあると、そのストレスを家で爆発させていること。整理されて気づいたのは、私が困っていることは息子も困っていることだということです。Upload By かなしろにゃんこ。一人だと悩みをまとめることができなくて「自分はとにかく息子のことで困ってる!問題がいろいろありすぎて何に困っているかは分からない?考えるの面倒だから全部に困ってる!」となるんですが、人に話すことで見えてくるんですね。なんとか変えていきたいことについては、できることから取り組むようにアドバイスしてもらいました。〇息子の場合は、一人でできないことはできるようになるまで注意しないで待ってあげる方がよいこと。(例えば時間割に合わせた持ち物の準備や、提出物の準備など)〇学校で起こったイヤな出来事の話も含めて、家でたくさん息子の話を聞くこと。アドバイスを受けて、「息子が一日のうちで体験するイヤなことを、家では減らす」ということかな?と思いました。学校で起こることは親にはどうにもできないこともあります。その分、家の中では子どもの思いを受け止めて、楽しく過ごさせてあげたいなと思ったのです。家でも学校でもイヤなことがあったらたまりませんもんね…。悩みを吐き出したら、息子にとってより良い環境づくりに前向きになれたUpload By かなしろにゃんこ。躾が足りないと思って厳しくしていた私は、逆のことをやっていたんだ――そう気がついたのは、通い出して半年後のことです。相談員の先生は私に「こうしなさい」「ああしなさい」とは言いませんでした。「こうしてみるのもいいかもしれないですね」とあくまで提案のかたちでした。提案された方法の中から、息子に合ったものを考えて自分で選んでいくプロセスが、私には必要だったんだと思います。相談員の先生は、そこまで分かった上で話してくれていたのでしょう。息子が変わるには、まず私が変わることが先で、私が変わるには考え方を変えていかないといけない。考え方を変えるには、私の中に新しい情報が入るように空欄を作ること、空欄を作るために私の悩みや苦しいものを外に出さないといけなかったんですね。そして新しい情報が入ると共に、こだわっていた考え方が柔らかくなってきて「新しい方法を試そう!」という気持ちになってくる。Upload By かなしろにゃんこ。育児を注意されないように、甘やかしていると思われないように、相手に攻撃されないように…絶えずそんな気持ちでバリアを張っていたら、新しい有力な情報をはじいてしまいますもんね。でも、以前の私はそんなふうに生きていたんでしょう。そんな私の姿を学校の先生も分かっていて、教育相談所を紹介してくれたんだと思います。そして教育相談所とつながれたから、発達が気になる子の診断をしてくれるクリニックも紹介してもらい、小学4年の頃に受診、ADHDと広汎性発達障害と診断され、特性による困りごとにも早め早めに対応できるようになったのです。おかげで、後に訪れる反抗期の息子と大喧嘩はしても大きくこじれることもなく乗り越えることができました。必要なときに必要な支援に出合えたことが、大人になった息子とのイイ感じの親子関係にもつながっています。いまもし悩んでいるママがいたら、一人で抱え込まずに、支援機関につながって悩みも不安も全部相談してみてほしいなと思います。
2019年07月22日夏休み前の数週間、イギリスの小学校は楽しい行事が目白押しになります。6年生は全国統一の学力テストSATSを終え、再び体験型の学習が始まります。お天気に恵まれ、遠足や地元の自然観察が盛んになるのもこの時期です。ある朝、学校にいくと4年生がみんなスーツケースを持っていました。「どうしたの?」「ニューヨークにいくの!」教室のドアを開けたのは、フライトアテンダントさんの格好をした先生たち。前日からガイドブックを読んで観光名所を調べたり、歴史を調べたり……。飛行機での旅行を疑似体験する学習だったようです。あとで聞いたところ、授業中に「お飲み物はいかがですか?」と先生方がジュースを配ってくれたとか。こんなふうに体験学習を得意とする下の子の小学校で、学年末に学校中の子供たちが参加するのが「エンタープライズ・ウィーク」。一週間丸々かけて、金曜日のエンタープライズデイのために準備をします。子供たちがとても張り切るエンタープライズデイは、一学年の終わりを飾るとても大切な行事です。さて、一体どのようなことをするのでしょう?子供がビジネスの基礎を学ぶ「エンタープライズ教育」エンタープライズ教育は、子供にビジネスの基礎を学ばせるための教育です。国で定められているコア・カリキュラム(日本の学習指導要領のようなもの)には入っていませんから、どの程度重要視するかは学校によって違いがありますが、多くの学校で取り入れられています。公民(シティズンシップ)の授業と絡めている学校や、お金のやり取りをすることで伸びる算数の能力を重視している学校もあるようですが、下の子供の学校では、様々な技能を組み合わせた総合的な学習の時間として、かなり重要な位置を占めているように思います。一週間かけて、班ごとに事業計画を立て、売り物を準備し、当日の仕事の手分けを決めます。当日は2ポンド(約300円)分の小銭を持って買い物を楽しみ、決められた時間には自分の班に戻って売り子をするのです。時計が読める年齢ですから、時計を見ながら時間配分を考えなくてはなりません。校庭まで含めた学校中に小さなお店が出ているのですから、時間管理ができないとあっという間に1日が過ぎてしまいます。事業計画をたて、ものを作り、そして売る子供たち週の終わりの金曜日にお祭りになるエンタープライズウィークですが、週のはじめの月曜日は事業計画作りから始まります。子供の手で作ることができるものを、子供たち同士が話し合って決めるのです。1年生の頃は先生がかなり手伝って、ブレスレットを作っていました。材料はリボンと穴の空いたシリアル、Cheerios(チェリオス)。まさに「食べられるブレスレット」です。イギリスの小学校一年生は4歳。年齢の低い子供でも作れるし、食べてしまっても問題がない。よく考えられた商品でした。一箱どこかの家庭が寄付したものを使ったようです。もう少し年齢が上がると売り物も多様化してきます。空き箱で工作をして売り出す班もあれば、家庭から持ってきた布切れや輪ゴムを元に、使えそうなものを器用に作ってしまう高学年の班も。小麦粉や砂糖を手分けして集め、学校の調理室でカップケーキを焼いて売り出す子供達も現れました。出来上がったものは10ペンスから50ペンス(15−75円程度)の値段がつけられます。ものを売るだけがお金の稼ぎ方じゃない!?色々と話し合っていた下の子の班は、最終的に「ものを売るだけがお金の稼ぎ方ではない」という結論に達したようです。「それじゃあ、どうするの?」「ママ、きれいなスポンジある?スポンジ投げをするの!」よく日本の観光地にあるような、穴から顔だけ出すことのできるパネルを班全員で作り、班員がモグラ叩きのようにそこから顔を出す。水を含んだスポンジを投げて、顔に当たったら景品の紙で作ったおもちゃがもらえる──1回スポンジ3つで10ペンス。当たっても外れても大笑いです。「先生が “まと” の役で顔を出してくれたらすごく盛り上がると思って、交渉したんだけど、うまくいかなかったの」素晴らしいアイデアですが、それはさすがに先生も断るでしょう。お菓子を作ることが得意な子供はお菓子を作り、楽器が得意な子供たちは集まって楽器を演奏し──と、「今の自分の得意なこと」を中心に考えながら、「他の人は何を楽しいと思うのか」聞いて回ったりと、初歩的ながらも市場リサーチのようなこともしたようです。楽しいお祭りを通して、デザイン力・観察力・交渉力を育む子供にとっては楽しいお祭りの一週間、「エンタープライズウィーク」。親の視点からは、そこにいかに多くの学びのチャンスが仕込まれているのかが、ありありと見て取れます。ディスカッションを大切な技能だと考えるイギリスの小学校ではおなじみの光景ですが、みんなで話し合って制限時間内に計画を立てたり、自分の身近な場所にどんなニーズがあるのか探したり、どの程度の値段付けが適切なのか考えたり、と多岐にわたる技能が使われています。観察し、デザインし、交渉し、そして最後にお金のやり取り、計算をする。もうすぐ夏休みが始まり、しばらく学校から離れるこのタイミングでは特に、自分の身の回りにある商業活動が一体どのように成り立っているのかに目を向けることは重要だと思います。子供たちの意識を「机の上での学び」から「日常生活全体に応用できる学び」へと優しく導く、そんな効果もありそうです。お互いを楽しませながら様々な知識や技能を身につけていくこと。学んでいると感じさえさせず、子供が活躍できる場所を作ること。親は入ることができない子供だけのお祭りですが、毎年「できること」が確実に増えていっていることに気づかされる、とても大切な節目でもあるのです。
2019年07月19日調べ学習や夏休みの自由研究では動物や生き物のテーマが人気です。動物園を活用するときは、どういった目線で動物を観察すれば良いのでしょうか?上野動物園教育普及係の井内岳志さんに詳しくお聞きしました。構成・編集/木原昌子(ハイキックス)取材・文/田中祥子写真/児玉大輔動物はいろんな視点でじっくり時間をかけてみると面白い親子で動物園を楽しむときに重要なポイントは「1日で全部を見ようと思わないこと」です。特に大きな動物園になると、全部の動物を見るにはとても時間がかかるため、子どもは疲れてしまいます。また、ひとつひとつの印象が散漫になって、なにも得られないまま終わってしまいがちです。そのため、何かテーマを絞っておくと良いでしょう。たとえば、今日はこのエリアだけ、この動物の種類だけ、と決めることで、じっくり観察することができますね。もちろん、見ているうちに子どもが別の動物に興味を持ち始めたら、それを中心に見るように変更してもかまいません。無理に最初に決めたテーマにこだわる必要はないと思います。子どもが見たいと思うものを、時間をかけて満足するまで見せてあげてください。数年に一度の来園だと、親子ともたくさんの動物を見たくなってしまいますが、年間パスポートなどを利用して年に何度か来園すると、余裕のある観察ができます。動物は、ひとつの動物をなるべく長い時間見ているほうがおもしろいと思います。最低2~3分は観察するようにしてください。もしも動物が見当たらなくてもそのまま立ち去らず、子どもに「どこにいるかな?」と声をかけて探してみるのもおもしろいですよ。よく見ると、やぶや水の中にじっと隠れていることがあります。どうしてそこに隠れるのかを考えるのも良いですし、どれくらい水に潜っていられるのか測ってみるのも楽しいですね。動物が見えなかったり寝ていたりしても、観察するポイントはあります。動物舎は、その動物の生態や本来の生活に合わせて作られているもの。水辺の動物にはプールを設置していますし、木登りが得意な動物には木のジャングルジムが作られています。昔は衛生管理が第一条件になっていましたので、コンクリートの平らな動物舎が多かったのですが、最近はさまざまな方法で清潔にすることができるようになり、より自然に近づけることができるようになりました。動物舎を観察するだけでも、動物がどんな場所に住んで、どんな動きをするのかをイメージすることができるんですよ。また、周囲の足元を見ると動物の足跡が描かれていることもあるので、大きさを比べたり、指の本数を調べたりすると良いでしょう。動物園が企画するガイドツアーもおすすめさまざまな動物園でガイドツアーやスポットガイドなどを設けています。ボランティアや解説員・飼育員が動物の詳しい話を聞かせてくれるので、積極的に活用してください。上野動物園や葛西臨海水族園(東京)では、スマートフォンなどで楽しめる「Tokyo Parks Navi」を公開しています。動物舎に貼ってあるタグにタッチするかQRコードを読み込むと、テキストや動画などで詳細情報を説明するものです。ほかにも、旭山動物園(北海道)や天王寺動物園(大阪)などでは、スマートフォンアプリ「one zoo」で、園内マップや音声ガイドが利用できます。鳴き声やにおい、爪や動き方など実際に感じたことを記録する動物の解説ラベルを書き写すのに夢中になっている子どもがいますが、せっかく目の前に本物の動物がいるのにもったいないですよね。図鑑でも得られる知識は家に帰ってから調べるようにしましょう。動物の動きや鳴き声、におい、細かな部分が観察できるのが動物園のおもしろさです。子どもの記念写真を撮るときは、園内にある動物のオブジェなどと一緒に撮るのがおすすめです。上野動物園にあるゴリラやヒグマ、ゾウガメなどの像は、実際の大きさを忠実に再現していますから、子どもを横に並ばせて写真を撮れば、あとで改めて大きさを比較できますよ。家に帰ったら、その日に見た動物の仲間を図鑑で調べてみましょう。たとえば「今日はクロサイを見たけれど、図鑑で見るとインドサイは角の本数が違うね」などと親が少し誘導してあげれば、子どもの興味は広がっていきます。さらに「恐竜のトリケラトプスにも同じような角があるけれど、あれはサイの仲間なのかな?」とほかの分野に興味を広げてあげることもできます。動物園の次に、動物の剥製や骨格標本のある博物館を訪れるのもおもしろいですよ。絶滅した動物の模型や、恐竜の骨、化石なども観察できるので、子どもの興味がさらに広がっていくでしょう。朝、昼、夕方、夜。それぞれに動物の見どころがあります動物の時間帯ごとの習性に着目して観察するのもおもしろいものです。たとえば、トラは朝一番に自分の縄張りをパトロールするので、開園すぐの時間がおすすめです。うろうろと動き回る姿を見ることができます。上野動物園では朝、お客さんの見えるところに骨付きの肉を用意しているので、肉を食べる様子も観察できますよ。キツネザルは体温調整が苦手な動物なので、朝は太陽に向かって手を大きく広げて日光浴をするかわいい姿も見ることができます。上野動物園のゾウは、夕方に室内へ入るとき、前のゾウの尻尾を鼻でつかんで一列で行進します。これは狭い入り口に殺到すると危ないために訓練させたものです。ショーではありませんが、とても人気があります。また、昼間とは違った動物の姿を観察することができる貴重な機会として夜間開園があります。暗くならないと活発に動かない夜行性の動物を観察できるチャンスとして、最近ではさまざまな動物園や水族館などで企画されていて、たいへん人気がありますね。上野動物園では、毎年お盆の時期に10日間ほど開催しています。こうした夜間公開や特別展示などの企画イベントでは、動物の生態をより楽しめるものがそろっています。ぜひチェックして親子で出かけてみてください。***動物園で1日を過ごすには、お弁当を食べる場所や園内のレストランを確認しておくことも必要ですね。レストランでは動物にちなんだメニューが用意されているところもあるようですから、チェックしておくとより楽しめるでしょう。次回は井内さんに、動物のどんなところに注目して観察したら良いかをお話しいただきます。■ 上野動物園教育普及係・井内岳志さん インタビュー一覧第1回:動物園は学びの場!上野動物園の学芸員が伝授する、親必見の「動物観察準備テク」第2回:解説のメモなんてしなくていい。「目の前の動物」から最大限学びとるコツ第3回:「夏休みの自由研究」は動物園で。上野動物園おすすめの“調べ学習”のテーマとポイント(※近日公開)第4回:動物園は子どもの「心」を育てる場所。“楽しみながら動物を知る”ことの大きな価値(※近日公開)【プロフィール】井内岳志(いうち・たけし)恩賜上野動物園教育普及係主任(学芸員)。大学ではサルの生態を研究。恩 賜上野動物園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化園などの動物園・水族館で30 年以上、 動物園教育に関わる。大哺乳類展などの国立科学博物館との企画展 や、上野動物園で毎年恒例の夜間開園「真夏の夜の動物園」の企画など、さまざまなイベント・企画で動物たちの生態を紹介している。
2019年07月18日大切にしているのは“学び合い、支え合える”場所出典 : 「支援の仕事は未経験だが、いつか挑戦してみたい」「発達が気になるわが子を育ててきたが、その経験を活かした仕事に就きたい」など、就労支援や発達支援に興味を持ったことがある方もいるかもしれません。発達ナビの姉妹サイト「LITALICOキャリア」がサポートしているのは、障害福祉・児童福祉分野で働く支援者のみなさんです。肩の力を抜いてもっと“自分らしく働くって?”を考えられる場所、困難がある人へ向けて、より良い支援についての意見交換ができる場所…。「これからの福祉と教育」をテーマに学び合い、語り合える場所、それが「LITALICOキャリアCafe」のコンセプトです。支援者の役割を再発見するー「LITALICOキャリアcafe」出典 : 「LITALICOキャリアcafe」では、ここでしか聞けないセミナーや自分のことを棚卸しするワークショップ、また同じような思いを抱える支援者同士で交流できる場を定期的に開催していきます。第1回となる「LITALICOキャリアcafe」のテーマは“支援者の役割を再発見”です。12年の支援経験を持つゲストを招き、その経験談と学びを深めるワークショップを行います。また参加者同士の交流の場も設けているので、ざっくばらんな情報交換も可能です!●3年以上の支援経験があり「実現したい支援のかたち」をしっかり言語化したい●サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者をしているが、今の役割に課題やモヤモヤを感じている●支援経験を経て、サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者を目指したいと考えている●支援職としての自分のこれからのキャリアを見直したい「LITALICOキャリアcafe」vol.1の開催概要出典 : ・トークセッション「12年間の支援経験から形づくられた自分の実現したい“支援のカタチ”」・ワークショップ自分なりの「児発管サビ管の役割」を捉え直すワークショップ登壇:恒吉 麻実子さん(LITALICOワークス HRグループ)プロフィール:社会福祉士。児童相談所で勤務後、2007年より障害者の就労支援を専門に、現場での支援を8年、その後は大学院で臨床心理学を学びながら、スタッフの向け・サービス管理責任者向けの研修の設計や実施、ケースのスーパーバイズの業務に従事して4年目に入る。現在はLITALICOワークス博多でサービス管理責任者も務める。参加者同士でざっくばらんに情報交換をしていただける交流の場となります。飲み物などをご用意する予定です。日程:7月21日(日)13:00~15:30(開場:12:45)対象・参加条件:・サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者として働いている方・今後、サービス管理責任者の就任、児童発達支援管理責任者を考えている方・3年以上の支援経験がある方会場:株式会社LITALICO 中目黒本社〒153-0051東京都目黒区上目黒2-1-1中目黒GTタワー16F東京メトロ日比谷線・東急東横線「中目黒駅」東口より徒歩1分案内マップ:参加費:1,000円※領収書が必要な方は当日発行いたします。持ち物:特になし服装:自由です。リラックスした服装でお越しください。そのひとりの幸せと、自分自身の喜びを出典 : 支援する「人」の想いで、関わる人の可能性がひろがる。そして、支援する「人」が幸せでいることが、関わる人の幸せにつながる。だから私たちは、この業界で支援する「人」を増やし、思いがあって多様な経験のある人に、この業界に関わり続けてほしいと思っています。みなさんがもっと自分らしく働ける場所や、困難のあるひとへのサポートが自分自身の幸せにつながる場所を見つけるきっかけに、「LITALICOキャリアcafe」がなれればと思います。
2019年07月05日お子さんが1人生まれたご家庭では、もう1人子どもを考えるケースもあると思います。実際のご相談でも、「経済的に2人目はいつ産むといいですか?」とご質問をいただくこともあります。 子育てのしやすさや体調、お仕事の状況などから、適切な年齢差もそれぞれあると思います。今回は、マネープランの観点から1歳差~5歳差までの年齢差の主なメリット・デメリットをお伝えします。 1歳差の主なメリット・デメリットメリット①受験などの行事が重複しない②育児用品や衣料品を2人目に使いやすい③市区町村からの就園奨励補助金が加算されやすい④きょうだいが、同じ幼稚園・保育園の場合、割引を受けられる可能性がある デメリット受験などの行事が2年連続になり、学用品の購入や入試の費用も連続する 2歳差のおもなメリット・デメリットメリット①市区町村からの就園奨励補助金が加算されやすい②きょうだいと同じ幼稚園・保育園の場合、割引を受けられる可能性がある デメリット受験などの行事は重複しないが、上の子の受験時期と下の子の入学時期(例:中学3年と中学1年)が重なる 3歳差のおもなメリット・デメリットメリット①市区町村からの就園奨励補助金が加算されやすい②きょうだいが同じ幼稚園・保育園の場合、割引を受けられる可能性がある デメリット受験などの行事が重複する(例:高校3年と中学3年)ため、学費等の負担が集中しやすい 4~5歳差のおもなメリット・デメリットメリット幼稚園3年間や大学4年間の時期が重複しない デメリット①教育費を支払う期間が長くなる②育児用品や衣料品を買い替えることが多い いずれのケースにしても、かかる費用に大きな差ができるというよりは、子育て期間は短くなるものの、教育費を重複して支払う期間がある状況と、子育て期間は長いものの教育費を分散させる状況のどちらがいいかを決めることになります。 実際にお子さんが生まれてから社会人になるまでの20年~25年程度の収支について表にまとめると、どの時期に多くのお金がかかるかわかりやすくなります。そのため、2人目のお子さんを考えられている場合には、表をまとめて家計全般や教育費の推移を把握するといいでしょう。 監修者・著者:ファイナンシャルプランナー 大野高志1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®(日本FP協会認定)。独立系FP事務所・株式会社とし生活設計取締役。予備校チューター、地方公務員、金融機関勤務を経て2011年に独立。教育費・老後資金準備、税や社会保障、住宅ローンや保険の見直し、貯蓄・資産運用等 多角的にライフプランの個別相談を行うとともにセミナー講師として活動しています。
2019年06月30日むかしから家庭教育の大定番であるのが「絵本の読み聞かせ」です。それが子どもの成長に与える効果については、屈指の名門校、麻布中学・高校の国語科教諭である中島克治先生も手放しで絶賛します。絵本の読み聞かせは、子どもになにをもたらしてくれるのでしょうか。中島先生が「計り知れない」と語るその効果を教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)絵本の読み聞かせが子どもの心を豊かにする日々、進化を続ける子ども向け教材ですが、やはりむかしながらの「絵本の読み聞かせ」は、いまも変わらず最高の教育ツールといえます。お父さん、お母さんに絵本を読んでもらえる時間は、子どもにとってはまさに至福のとき。親子の強い絆を生んでくれるものです。そして、絵本の読み聞かせは子どもの心を成長させてくれます。絵本というものは、言葉の世界とイマジネーションの世界がぴたっとつながっていくものです。言葉によってイマジネーションをつくっていく、あるいは絵で表現されているものを言葉で補っていく。そのプロセスは、幼い子どもの脳にとっていちばん大切なものといっても過言ではありません。それが子どもの心を豊かにしていくのですからね。教育熱心な親であれば、絵本の読み聞かせによって「読解力」を得られるのかという点も気になるでしょう。その疑問に対する答えは、もちろん「YES」です。小学校での国語のテストでは「この場面での登場人物の気持ちを答えなさい」という問題が出されますよね?その問いに解答するために必要なものとはなんでしょうか。それは、「共感力」です。その力を絵本が高めてくれます。たとえば、みなさんにもおなじみのかぐや姫が物語の最後に月に帰っていく場面をイメージしてください。そこでは、かぐや姫もおじいさんもおばあさんも別れを惜しんで悲しんでいます。実際には別れというものの重みが子どもにはまだわからないにしても、自分から切り離された物語の世界として仮想的に別れを感じることができる。それは、ある種、社会的な常識を学んでいるともいえます。子どもはその過程を経て、「どういう世界のどういう状況に置かれた人間がどういう感情を抱くのか」ということを知っていきます。そうやって、共感力が磨かれていくわけです。いまの世界に必要な「思いやりと優しさ」その共感力は、子どもの内面にも大きな影響を与えます。絵本の世界に触れている子どもとそうではない子どもには、「思いやりと優しさ」という点で大きなちがいが出るように思います。もちろん、思いやりと優しさを持つことができるのは、絵本の世界に触れている子どものほうです。いまの世界は弱肉強食とまではいわないまでも、どこか殺伐としたところがあるものです。価値観が単純化していて、「勝つことがいいこと、強いことがいいこと」だと多くの人がとらえています。だからこそ、負けること、弱いことを見下す風潮もどうしても出てくる。そういう世界ですから、弱い子どものなかではどんどん劣等感が膨らむし、そうではない子どもは優越感を持つために差別的になることも多いように感じます。でも、絵本の世界に触れていたとしたらどうでしょうか。絵本は、そもそも作者である大人が「こういう子どもになってほしい」「こういう世界が大事だよ」と考えて、絵と文章で子どもに訴えている内容がほとんどです。そこには、子どもに対する大人の強い願い、思いが込められています。そういう絵本を親が媒介して子どもに触れさせてあげれば、殺伐とした日常生活とは切り離されたところで「心の大切さ」を感じることになり、子どもは自然と思いやりや優しさに重きを置くようになるはずです。そういう子どもなら、たとえ目の前の世界がどれだけ殺伐としていて、タフな者しか勝ち残れないようなものに見えるとしても、その競争からこぼれ落ちること、こぼれ落ちた者にも価値を見出していけるのではないでしょうか。子どもが求める限り読み聞かせをしてあげようさて、絵本の読み聞かせというと、「何歳くらいまでやってあげればいいの?」という疑問を持っている人もいるかもしれません。その答えは、「子どもが聞いてくれるうちはいつまででも」です。子どもはある日突然大人になるわけではありません。ある部分は大人に近づいても、ある部分は子どものままというふうに、凸凹した状態で成長していきます。それは大人になったあとも変わらないのではないでしょうか。誰のなかにも大人の心と子どもの心が共存しています。そして、読み聞かせを求める子どもの心があるうちは、いつまでだって絵本の読み聞かせをしてあげればいいと思うのです。子どもは絵本の読み聞かせを通じて、絵本の内容とは別のものも受け取っています。それはたとえば親が自分のそばのいてくれることだとか、親が自分のために時間を使ってくれている、心を使ってくれているということです。それらの安心できる時間の大切さというのは、小学生になる前の幼い子どもでも、小学生でも変わらないはずです。子どもが求める限り、いつまでだって読み聞かせをしてあげてください。『本物の読解力をつけることばパズル 入門編』中島克治 著/小学館(2019)■ 麻布中学・高校国語科教諭・中島克治先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「言葉の力」を伸ばすには?名門麻布の国語教師が説く“親の心得3か条”第2回:先取り学習はこんなに危険。「した子」の成績が「しなかった子」に抜かれるのはなぜ?第3回:麻布中高の国語教師が断言。「絵本の読み聞かせ」の教育効果はやっぱり絶大だった!第4回:我が子に“読書好き”になってほしいなら。ぜひ身につけさせたい「読み癖」とは(※近日公開)【プロフィール】中島克治(なかじま・かつじ)1962年生まれ、東京都出身。麻布中学・高校を経て東京大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程修了。現在、私立麻布学園麻布中学・高校国語科教諭。『本物の読解力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『一生役立つ! 子どもの本当の読解力をグッと引き出す方法』(PHP研究所)、『1話5分! 12歳までに読みたい名作100』(新星出版社)、『小学生クロスワードBOOK 1・2・3年生』(星雲社)、『本物の国語力をつけることばパズル 中級編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 入門編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『夏目漱石ほか文豪名著 書き写しノート』(朝日新聞出版)、『小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚』(小学館)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月26日絵本の読み聞かせには教育効果があるということは、多くの方がご存じでしょう。しかし、読み聞かせの方法によって、伸びる能力の種類が変わるということは、あまり知られていないかもしれません。今回は、読み聞かせの方法別の教育効果や、読み聞かせのさまざまなコツについて紹介します。読み聞かせには親子ともにメリットあり人気ゲーム「脳トレ」の監修を担当した、東北大学・川島隆太教授の脳科学研究グループは、山形県長井市と共同で読み聞かせに関する研究を行ないました。約40組の幼児とその家族に読み聞かせをしてもらったところ、平均で約5歳3カ月相当であった子どもたちの語彙力が、8週間後には平均で約5歳9か月となり、8週間で約半年分語彙力が伸びたそうです。また、子どもの問題行動が減り、不安や抑うつ状態が減少したともいいます。さらには、読み聞かせの時間が長いほど、母親が育児中に感じるストレスが減っているという結果も出たのだそう。特に、子どもが言うことを聞かない、落ち着きがないといった際に感じるストレスが減少したそうです。これは、読み聞かせそのものが母親のストレス軽減につながったのではなく、読み聞かせを続けて子どもの問題行動が減ったことによって、母親がそれまで感じていたストレスの減少につながったと考えられています。読み聞かせには、親子ともにメリットがあるといえるでしょう。読み方を変えるとさらなるメリットが!さまざまなメリットがある読み聞かせですが、読み方を変えることで伸びる能力がそれぞれ違います。具体的には以下の通りです。・一音一音ハッキリ読む→集中力が上がる教育環境設定コンサルタントの松永暢史さんが推奨している、絵本に書かれた一字一字のすべてをハッキリ発音する読み方です。抑揚をつけたりせず、ゆっくり淡々と読み聞かせます。一音一音ハッキリ読むことで「今までじっと聞いていられなかった子どもが、じっと聞いている」という報告があったと松永さんはいいます。口をしっかりと動かしながら、母音を正しく発音して読み聞かせることで、子どもにとってより聞きとりやすくなるのでしょう。・感情を込めて読む→感受性が高まる絵本スタイリスト®の景山聖子さんは、感情を込める読み方について以下のように解説しています。子どもには、読み手の「自然な感情」が伝わります。その人の想いや生き様が、読み聞かせに如実に反映されるのです。(中略)感情を込めて行う読み聞かせは、子どもたちに様々な想いを伝えることで、子どもの感受性を豊かにします。(StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもの「感受性」と「想像力」。絵本の読み聞かせ方を変えるだけで、その両方が同時に育つ?)例えば、読み手が「『頑張ることの重要性』を伝えたい」と思いながら読み聞かせをすると、子どもが「頑張ることって大切なんだな」と気づくことにつながります。無理に感情を込めようとするのではなく、絵本のストーリーに沿って感じたままに読み聞かせをすれば充分です。・棒読みをする→想像力が高まるこちらも、絵本スタイリスト®の景山聖子さんが紹介しているメリットです。景山さんの絵本講座の参加者の方に、棒読みで読み聞かせをしてもらったところ、子どもたちは「絵が可愛い」「私ならこうする」など、絵本の内容から想像したことを感想として述べてくれたのだそう。読み聞かせにまつわるQ&A続いて、読み聞かせにまつわるさまざま疑問について解説していきます。Q. 子どもが毎回同じ本ばかり選ぶけど、どうすればいい?A. 子どもがお気に入りの本ばかり繰り返し読みたがったら、飽きるまで読んであげましょう。東京大学大学院教育学研究科の針生悦子教授は「子どもが同じ絵本を繰り返し読みたがるのを不思議に思われるかもしれませんが、大人が流行の歌を何度も聞きたくなるのと同じです」と述べており、同じ本を繰り返し読むことを肯定しています。親としては「色々な本を読んだほうが刺激になるのでは?」と思いがちですが、同じ本を何回も読むのは、まだその本についての探求心や好奇心があるということなのです。 Q. 子どもが読み聞かせの途中で質問ばかりしてきて、読み進められないときは?A. 読み聞かせの途中に質問攻めにあうと、つい「最後までしっかり聞いて!」と言ってしまいそうになりますよね。しかし、教育評論家の親野智可等先生によると、そんなときは子どもの質問にしっかり答えてあげることが重要とのこと。子どもが疑問に感じたページを一緒に読み返すのもおすすめです。大切なのは、本を最後まで読むことよりも、子どもに読み聞かせは楽しいと思ってもらうことです。 Q. 絵本よりも図鑑を好んで、読み聞かせの時間が作れないときは?A. 読み聞かせというとどうしても絵本のイメージが強いですが、子どもが好むものを一緒に共有することが大切です。教育評論家の親野智可等先生は、読み聞かせの本について「子ども本人が『おもしろい、楽しい』と感じる本を優先し、大人が読ませたい本もときどき入れるくらいでちょうどいい」とおっしゃっています。そのため、図鑑が好きな子どもであれば、無理に読み聞かせをせずに、一緒に図鑑を眺めて楽しむのもよいでしょう。図鑑の内容について子どもと話し合ったりするのも、好きなものを共有するという意味で有効です。 ***読み聞かせには、子どもはもちろん、親にもうれしいメリットがあり、読み方次第でさまざまな効果が期待できます。親子で読み聞かせの時間を楽しみましょう。文/田口るい(参考)東洋経済オンライン|「本の読み聞かせ」が親子共に効果絶大な根拠ベネッセ教育情報サイト|読み聞かせで気をつけること[教えて!親野先生]StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「読み聞かせ」でなぜ学力が上がるのか?絵本がもたらす ”驚きの効果”StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「心の脳」に直接働きかける読み聞かせ。語彙を豊かにし、学力向上につながる読み方とはStudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもの「感受性」と「想像力」。絵本の読み聞かせ方を変えるだけで、その両方が同時に育つ?すくコム|絵本の読み聞かせは同じ本を繰り返すより、いろんな本を読み聞かせる方がいい?
2019年06月23日近年、虐待に関する悲しいニュースが続いていますよね。同じ子どもを持つ親として、心を痛めている方も多いのではないでしょうか。しかし、こうした問題は決して他人事ではありません。なぜなら、虐待は悪意のもとになされるものだけではないから。「子どものためによかれと思って」なされた行動が、親の自覚のないままに虐待とみなされるケースもあるのです。特に、「教育虐待」にはその傾向があります。「教育虐待」は、ここ数年で広まってきた言葉ですが、どのような行為を指すかご存知でしょうか?「知らない」という方のなかには、気づかないうちに当てはまってしまっている方もいるかもしれません。そこで今回は「教育虐待」と「教育虐待を未然に防ぐ方法」についてお話しします。「教育虐待」は子どもの将来に多大なダメージを与えるみなさんは、自分の子どもに下記のような「しつけ」や「教育」を行なっていませんか?・宿題が終わっていないと、夜遅くまでやらせる・解けない問題があると、「どうしてできないの?」と責める・塾や習い事でスケジュール漬けにしている・親子間の約束が守られなかったとき、厳しく責め立てる・成績が悪いと、「努力が足りない」「人間のくず」などの暴言を浴びせる一見、よくある「しつけ」や「教育」のように思われるかもしれません。しかし、これらの行為が子どもを過度に追い詰めた場合、「教育虐待」とみなされることがあります。青山学院大学の古荘純一教授によると、「教育虐待」とは、教育を理由に子どもに無理難題を押し付ける心理的虐待のこと。2011年の「日本子ども虐待防止学会」で初めて発表された、新しい考え方です。「教育虐待」を受けている子どもは、大人になってからも、他者からの指示がなければ動けなくなる恐れがあります。また、自信が持てない、何をしても楽しめないなど、心の問題を抱えてしまうことも。学校生活や就職活動を機に不適応行動を起こす人も少なくありません。こうしたことから、「教育虐待」は子どもの将来に多大なダメージを与えるということがわかります。「子どものために」と言いながら子どもを追い詰める親たち「教育虐待」という言葉を広めた武蔵大学の武田信子教授によると、教育虐待に走りやすい家庭は、下記のような特徴を持っている家庭が多いと言われています。1. 親自身が、経済的事情などで進学を諦めた経験がある2. 母親が不本意に仕事を辞めて、専業主婦になった3. 子どもの両親ともに高学歴で社会的地位が高い上記の1と2の親が「教育虐待」をした場合の理由として考えられるのは、自らの生き方や学歴にコンプレックスを抱いているということ。子どもには同じ苦しみを与えたくないという強い思いから、自分が経験した失敗を避けるための教育に力を入れてしまいます。一方、3の親の場合は “失敗知らず” ですが、逆に自らの成功体験に依存しているということが考えられます。自分の知らない道を子どもに歩ませることを極端に恐れ、子どもにも高学歴・社会的地位の高い大人を目指すことを強制してしまうのです。社会福祉法人カリヨン子どもセンターの石井花梨事務局長いわく、教育虐待は決して特別な家庭に限った話ではないのだそう。表面的には「子どものために」という親心のもとに行なわれているのです。しかし、本当に子どものことを考えていると言えるでしょうか。本当に子どものことを考えていれば、子どもを追い詰めるほどの行為には至らないはずです。そう考えると、「教育虐待」をしている親は、「子どものために」と言いながら、実際には自分のために、過度な「しつけ」や「教育」を行なっているのだと言えますよね。その教育、本当に必要……?子どもを見て考え直そうとはいえ、「しつけ」や「教育」そのものを怠るわけにはいきません。親として、子どもに適切な「しつけ」や「教育」を行ないつつ、「教育虐待」しないようにするには、どうすればいいのでしょうか。小児科医の高橋孝雄さんは、親の「しつけ」や「教育」が虐待になるかどうかの分かれ目は、「親の関心が子どもにあるのか、テストの点数や合格した学校などの成果にあるのか」であると言います。前者であれば、自分の行為によって子どもが追い詰められていたら、すぐに気づいて対処できるはずです。しかし、後者の場合、子どもの変化に気づけないまま、子どもを追い詰め続けてしまうことがあります。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏いわく、現在の教育虐待には、「親自身の不安を解消しようとしている」という構造があるのだそう。我が子が新しい時代を生き抜いていけるのかが不安で、親が思う解決策を与えようと無理やり難関大を目指させたり、子どもの望まない習い事でスケジュールを埋めたりしてしまうのです。しかし、子どもたちがこれから生きていくのは、親たちが生きてきた世界とは全く異なり、予想もつかない世界。おおた氏は、親が与える解決策にはあまり意味がないと言います。まずは、「親は無力である」と親自身が自覚することが大切なのだそう。「教育虐待」を未然に防ぐのに必要なのは、まず子ども自身に関心を持つことです。子どもの様子をよく観察し、今行なっている「しつけ」や「教育」が本当にその子に必要なのか、よく考えなくてはなりません。たとえば、子どもが習い事に行くのを嫌がったとき、たまたま気分が乗らないだけなのか、ずっといやいや通っていたのか、はっきりさせることが必要です。そのうえで、なぜその習い事に通わせているのか、親の考えを伝えます。最後は、「続けるのか辞めるのか、あなたが決めていいよ」と、子どもの意思を尊重しましょう。子どもの人生は子どものものであることを自覚したうえで、子ども自身の生きる力を信じてあげることが大切なのです。***子育てをしていると、子どもが自分の分身であるかのような錯覚につい陥ってしまうことがあるでしょう。だからこそ、より幸せな人生を歩めるように導かなくては、と考えてしまいます。しかし、子どもは親と同じひとりの人間であり、親の分身ではありません。どんな人生を歩むことが幸せか、決めるのは子ども本人です。親が特別なことをしなくても、自分の思う幸せを追い求め、たくましく道を切り開いていきます。親は、それを一番近くで応援してあげればいいのです。(参考)こどもまなびラボ|「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには “決定的に足りない” 時間がある日経DUAL|「勉強しなさい」エスカレートすれば教育虐待に東洋経済ONLINE|中学受験で教育虐待しやすい親の2つの特徴東洋経済ONLINE|「あなたのため」が「教育虐待」に変わるときPRESIDENT Online|なぜ「教育」という名の「虐待」が増えているのか朝日新聞DIGITAL|しつけに名を借りた虐待…どの家庭でも起こりうる「考える力」を伸ばす『地図育®』コラム|教育熱心も度が過ぎると虐待になる?あなたのその行動が”教育虐待”にならないように気を付けよう日経DUAL|「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに?
2019年06月20日我が子には健康に育ってほしい――。子を持つ親であれば誰もがそう願います。その観点からも、普段の食事の栄養面に気を配り、子どもの「食育」に対しての関心が高い人も増えています。しかし、食育の意味をぼんやりとはイメージできても、本来はどういったものを指すのかを知っている人は少ないかもしれません。食育、家族社会学を専門とするお茶の水女子大学生活科学部非常勤講師の松島悦子先生に、食育の定義や意義を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)人間は食を通じて多くのことを学んでいく「食育」という言葉もいまではかなり一般的になりましたから、多くの人が聞いたことがあるでしょうね。その定義は、2005年に制定された食育基本法の前文に書かれた次の内容になるでしょうか。表現は固いのですが、食育とは「生きるうえでの基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置づけるとともに、さまざまな経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること」となります。したがって、食育は、心身の健康を維持増進するための食習慣を身につけ、食の管理能力を育てることを目標としているといえます。この定義でもそうですが、「食育」という言葉からも、食育とはどうしても食生活に限定された教育と思われがちです。食育で学ぶものというと、栄養や食品の知識、調理の技術といったものをイメージしますよね?もちろんそれらも食育の基本ですから、身につけることはとても大切です。ただ、食育はそこにとどまらないものだとわたしは考えています。というのも、人間は食を通じて本当にたくさんのものを学ぶことができるからです。ひとつ例を挙げるなら、親や友だちなどと食卓を囲めば、子どものコミュニケーション能力が伸びることは容易に想像できるでしょう。日本では現在進行形で外国人労働者がどんどん増えています。いまの子どもたちは、たとえ海外に行かなくても、価値観や文化がちがうたくさんの外国人と接していくことになる。そして、彼ら外国人とうまく共生して人間関係をきちんと築いていくために欠かせないものといえば、やっぱりコミュニケーション能力ですよね。コミュニケーション能力を磨けば、多様な人々と円滑な人間関係をつくったり、互いに譲り合って調和を図る協調性といった大切な能力を身につけたりすることにもつながります。そのように、これからの時代に必要とされるさまざまな力を食がもたらしてくれるのです。わたし自身は、食育とは「食を通じた人間教育」だと考えています。食を大切にすることは人生を豊かにすることもちろん、さまざまな力を身につけるという点以外でも、子どもにとって食育は大切なものです。たとえば、生活リズムを身につけることも食育の大きな目標のひとつです。食習慣はそれこそ離乳期から徐々に形成されていきますから、きちんと食事の時間を決めることできちんとした生活リズムを身につけることができます。また、食を大切にすることは、人生を豊かにすることにもつながります。たとえば、幼児期になると、自我が芽生えてなんでも自分でやりたがるときがきます。食べ物をスティック状にするなど子どもが自分の手で持って食べる楽しい経験を存分にさせてみる。一緒に食卓を囲んだ大人が子どもに話しかけながら、美味しそうに食事を食べる。そういった食卓での経験は、その子どもの人生における食への意識や態度に表れるようになります。食事が「楽しいもの」だと思えれば、それだけ人生は豊かになりますよね。では、逆にそういう経験がなかったとしたら、子どもはどんな大人に育つか想像してみてください。食事に対しての関心が薄く、食事が楽しいものだと思えなかったら、やっぱり人生のなかのひとつの大きな楽しみを自ら手放すことになるのではないでしょうか。1日に3回の食事が楽しいと思える人なら、長い人生のうちに何万回もの楽しみを味わえます。でも、それがまったくないとしたら……その人生はちょっぴり寂しいですよね。毎日の食事中の会話で行う食育また、食育と聞いて多くの人がイメージするのが、食品や栄養などの知識を得ることでしょう。もちろん、そのポイントも食育の重要な側面です。将来、親元を離れたときに、自炊は苦手だったとしてもより体にいい食事を選べることは大切です。それこそ、現在はさまざまな冷凍食品の他、「中食」と呼ばれるお弁当やお惣菜など、なにを食べるかという選択肢がどんどん広がっている時代ですから、きちんと知識さえ身につけておけば自ら調理することなく自分の健康を考えた食事を組み立てることができるのです。そういった教育は、なにも学校の家庭科の授業でしかできないものではありません。むしろ、家庭での普段の食事でこそ、子どもに学ばせることができるはずです。食事中には、積極的に食べ物に関する話をしてあげましょう。幼い子どもに対してなら、炭水化物だとかビタミンといった専門用語を使う必要はありません。「色の濃い野菜を食べると元気が出るよ」とか、「お肉を食べてパワーアップしよう!」といった栄養のことや、食文化、調理法、季節の食材などの話をしてみてください。もちろん、そのようにして親子でコミュニケーションが取れれば、家族の関係をより良くすることにもなります。せっかく目の前に料理という素晴らしい会話の題材があるわけですから、それを話の種にして家族の絆を深めていきましょう。それが子どもの食育にもつながれば一石二鳥だと思うのです。『白熱教室 食生活を考える』松島悦子 他 著/アイ・ケイコーポレーション(2016)■ お茶の水女子大学生活科学部・松島悦子先生 インタビュー一覧第1回:「食育=食生活の教育」ではない!?常識を超えた、食育の“真のねらい”第2回:「家族で食べたい」と素直に言えない子どもたちに、親がすべき“食事の場”づくり(※近日公開)第3回:子どもに「調理」をさせるメリット。料理をする子・しない子の“内面”の大きな違い(※近日公開)第4回:「父親のかかわり」で食は2倍豊かになる!料理が苦手でもできる食育の方法とは?(※近日公開)【プロフィール】松島悦子(まつしま・えつこ)お茶の水女子大学生活科学部非常勤講師。専門は食育、家族社会学、消費者科学。お茶の水女子大学家政学部食物学科卒業、同大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。東京ガス都市生活研究所勤務、お茶の水女子大学食育プロジェクト講師、和洋女子大学家政学群准教授を経て現職。著書に『子育て期女性の「共食」と友人関係』(風間書房)、『白熱教室 食生活を考える』(アイ・ケイコーポレーション)、『食物学概論』(光生館)、『消費者科学入門』(光生館)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月17日現在の子ども教育の重要なキーワードとして、教育メディアでも頻繁に取り上げられる「自己肯定感」。日本人の場合、そもそも自己肯定感が低いことが問題ともされますが、その原因はどんなところにあるのでしょうか。お話を聞いたのは東京都市大学人間科学部教授の井戸ゆかり先生。二児の母でもある先生に、子どもの自己肯定感を高めるために親が果たすべき役割も含めて教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの自己肯定感を下げてしまう親の「先回り」日本人の自己肯定感は低いとよく指摘されます。それどころか、いまの子どもたち、若い人たちを見ていると、自己肯定感はさらに低くなっているように感じてしまいます。学生に自分の長所と短所をそれぞれ10個挙げるようにいってみても、すぐに挙がるのは圧倒的に短所のほう。一方、長所はなかなか挙がってきません。その要因のひとつとしては、謙虚であることを美徳とする日本の文化があるでしょう。本当は自分でいいところだと思っていても、それを口にすることがはばかられる。加えて、長所というからには、誰からもいいところだと思われるようなものでなければいけないという考え方もあるように思います。でも、長所というのはもっと身近なところ、日常生活のなかにでもあるもので、なにか大きなことを成し遂げたといったことでなくてもいいのです。でも、日本人の場合はやっぱり謙虚ですから……そういうふうに自分を見ることができない場合があるようですね。また、親が先回りしてしまうことも、いまの子どもたちの自己肯定感を下げている要因かもしれません。子どもがなにか問題にぶつかりそうになったら、その問題の芽を事前に摘んでしまう親が多いのです。その先回りを、親は子どものためだと思っています。でも、子どもは成長過程でさまざまな問題に直面し、解決するなかで自信を持つと同時に達成感を感じたり、周囲の人に認められる言葉かけをされたりすることで自己肯定感を高めていくわけです。そのきっかけを奪ってしまっては、子どもの自己肯定感が高まるわけもありません。自己肯定感の高低による子どものちがい自己肯定感の高低によって、子どもにはさまざまなちがいが表れます。自己肯定感が高い子どもは、自分に自信があるのでどんなことにも積極的に取り組むことができます。それから、自分のいいところも悪いところも含めて「いまの自分でいいんだ」という思いがあるので、気持ちにゆとりがあり、情緒が安定して他人にも優しくできます。しかし、自己肯定感が低い子どもは、人からどう見られているかという評価を気にして自分に自信を持てません。すると、友だちに対するジェラシーもあって、大人が見ていないところで友だちに対して意地悪をするといった問題行動を起こすこともあります。自己肯定感が低いというと、ただ自分に自信がないおとなしい子を想像するかもしれません。もちろん、そういうタイプの子どももいますが、自己肯定感が低い子どもであってもどこかで「認められたい」という気持ちがあり、それが友だちへの意地悪などゆがんだかたちで出てしまうこともあるのです。子どもに役割を与えて褒めるきっかけをつくるこれらの話を聞けば、あたりまえですが「自己肯定感が高い子どもに育ってもらいたい」と考えるのが親心でしょう。自己肯定感は、とくに小さい子ども同士の関係性のなかではなかなか育まれません。つまり、子どもの自己肯定感を育てるには周囲の大人、とくに親のかかわり方が重要になってくる。親はしっかりと子どもを観察する必要があるのですが、なかでも注意してほしいのは、「どうせ」という言葉です。だいたい4歳後半くらいから出てくる言葉ですが、子どもが「どうせできない」なんていいはじめたら要注意。「どうせ」という言葉が出たら、子どもを認めたり褒めたりするような言葉かけを増やす必要があると考えてください。あるいは、家のお手伝いなど役割を子どもに与えてあげることも効果的です。ポイントは、その子どもの力では「簡単ではないけどなんとかできる」という無理のないハードルの役割にすること。そして、そのお手伝いを子どもがしてくれたなら、「頑張ったね!」「すごいね!」「ありがとう!」とたくさん褒めてあげましょう。そうすることで、子どもは自己評価が上がり、自然と自己肯定感も高まっていきます。幼児期から小学校低学年くらいまでの子どもの自己肯定感は、親の言葉かけ次第で高くもなれば低くもなります。お手伝いなどの役割を子どもに与えることは、子どもに「自分は必要とされている」と自信を与えるとともに、親が言葉かけしやすい状況をつくる意味もあるのです。「自分の良さ」に目を向けることを教えるまた、親が子どもを見る「ものさし」を意識することも大切です。子どもは4歳頃から「あの子は足が速い」とか「この子は絵が上手」といったものさしで友だちと自分を比べるようになります。小学生になると勉強やテストもはじまるので、子ども自身もつい「できる・できない」のものさしで自分を見てしまうものです。でも、そのものさしのなかで育つと、できる子と自分を比べてしまう傾向が強まり、自己肯定感は高まりません。そこで親の出番です。誰もが万能ではないし、得意なことも苦手なこともあってあたりまえだということを子どもに教えてほしいのです。子どもにとって苦手なことがあれば、「一緒にやろうか」と手伝って達成感を味わわせてあげましょう。そして、なによりも「自分の良さ」に目を向けることを教えてあげてください。たとえば、図工の課題で工作をするにも要領がいい子はささっと終わらせてしまうのに、苦手な子、あるいは丁寧な子はどうしても時間がかかります。その子が居残りまでして作品をつくり上げて、しかもひとりできちんと片づけまでしたとしましょう。最後まで手を抜くことなく頑張れたこと、みんなで使う教室をきちんと片づけたことは間違いなくその子の「良さ」であるはずです。親としては、完成した作品の評価だけでなく、むしろ、完成するまでのプロセスをしっかり褒めて、「お母さんがちゃんと見ていてくれた」と子どもに思わせ、自信を持たせてあげてほしいと思うのです。『保育の心理学 実践につなげる、子どもの発達理解』井戸ゆかり 編著/萌文書林(2019)■ 東京都市大学人間科学部教授・井戸ゆかり先生 インタビュー一覧第1回:あなたの子どもは大丈夫?絶対に見過ごしてはいけない「自己肯定感」低下のサイン第2回:「失敗を恐れない力」の育て方。子どもに「挑戦したい!」と思わせる、効果抜群な言葉かけ(※近日公開)第3回:「辛抱強い子」を育てるヒント。「我慢する力」を伸ばすのは“○○上手な親”だった!(※近日公開)第4回:「先生に言いつけるよ」がダメな理由。自己主張できない子が育つ“4つのNGなしつけ”(※近日公開)【プロフィール】井戸ゆかり(いど・ゆかり)東京都出身。東京都市大学人間科学部教授。専門は発達臨床心理学、保育学、児童学。学術博士。横浜市子育てサポート研修講師、渋谷区子ども・子育て会議会長などを務める。二児の母。著書に『子どもの「おそい・できない」にイライラしなくなる本』(PHP研究所)、『「気がね」する子どもたち-「よい子」からのSOS-』(萌文書林)、編著に『保育の心理学Ⅱ 演習で学ぶ、子ども理解と具体的援助』(萌文書林)』、監修書に『1さいのなあに? のびのび育つ! 親子ふれあい絵本』『2さいのなあに? 「知りたい」がいっぱい! であい絵本』(ともにPHP研究所)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月12日「リベラルアーツ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本ではまだ浸透しているとはいえませんが、アメリカの大学ではごく一般的な教育のことです。そのリベラルアーツのエッセンスを子どもに吸収させることが大切だと語るのは、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開し、全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集めました。ボーク重子さんが、これからの子育てにおいてリベラルアーツを重視する理由はどんなところにあるのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)リベラルアーツの本質は「どう生きるか」と考えること辞書を見れば、リベラルアーツは「一般教養」と訳されています。ですから、わたしも最初は「なんだ、難しい本を読んで知識を得る勉強のことか」と思いました。でも、実際はその真逆といっていいものです。「知識の集積」という側面の強い日本の一般的な勉強とはちがって、リベラルアーツが目指すものは「問いを立てる力」「考える力」を育むこと。その力を身につけるために哲学書などの本を使うのです。哲学書を読むのも、アリストテレスやプラトンなど過去の哲学者たちがどんなことを述べたのか、彼らの生涯がどんなものだったのかといった知識を得るためではありません。そうではなくて、そこからさらに進んで、「彼らはこう考えてこんな答えを出したが、自分はどうだろう」「自分にとっての正義とはなんだろう」というふうに、疑問を持つ、そして考えてみる――。それこそが、リベラルアーツです。具体的には、授業はほとんどがディスカッション形式で行われます。ですから、教官が教壇に立って学生に教えるというものではありません。教官は学生の考えを引き出す進行役です。学生たちは、授業までに教材本の指定箇所を読んできて、それに対する自分の考えを述べる。そして、さらにそれぞれの考えについて各自が意見を述べる。そうして、自分の考えを構築し、相手に伝えるすべを学んでいきます。以前、日本の一般的な勉強とリベラルアーツのちがいについて、娘が面白いことをいったことがあります。彼女いわく、「日本の大学は専攻を決めて専門知識を学ぶところだけど、アメリカの大学は『これから自分がどうやって生きていくか』『自分にとっての幸せとはなにか』と考える、その期間なんじゃないかな」と。「これはリベラルアーツを完璧に表現している言葉だな」とわたしは思いました。リベラルアーツでは、なにを読むのか、なにを知るのかということが重要なのではありません。なにかを読んだり知ったりしたことで自分はなにを感じたのか、そしてそれをどう応用して生きていこうと考えるのか、それこそが大切なのです。これからの社会で必要とされる、考える力と表現する力わたしがこのリベラルアーツを重要だと考える理由は、「考える力」「自分の意見を表現する力」を伸ばすということに尽きます。わたしたちは、すでに多様化したグローバル社会に生きています。にもかかわらず、日本人のなかには「僕は海外で働く予定はないから、グローバルな教養なんて必要ない」という人もいるのは少し残念なことです。グローバル社会というのは、外国だけにあるもの、外国の社会を指すものではありません。そうではなくて、国境を越えた文化や人、お金などの流動のなかにある社会のことなのです。つまり、日本はもう立派なグローバル社会なのです。日本で働き生きていく外国人は、今後ますます増えていきます。しかも、わざわざ日本を目指す外国人の多くは優秀な人材だと思ったほうがいいでしょう。リベラルアーツ教育を受け、しっかりと自分の考えを伝えることができる人たちなのです。そんな社会に能力的には彼らと互角という日本人がいたとしても、自分の意見を論理的に表現することができなければ、彼らと競い合う、あるいは協働することなんてできませんよね。しかも、これからの社会は変化のスピードも増していきます。よく指摘されることですが、AIの進化によって今日まではあった仕事が明日にはなくなるかもしれません。小さい頃に、「タクシードライバーになりたい」といっていた子どもが大人になったときには、自動運転車が普及してタクシードライバーという仕事がなくなっているかもしれないのです。そうなったとき、どうすればいいのかと考える力を持っていなければ、自分の人生を切り開くことはできないでしょう。また、人生にはいいときもあれば悪いときもあるものです。悪いときには置かれた状況を打開しなければなりません。そういう場合も、たとえ誰かがアドバイスをしてくれたとしてもその意見を鵜呑みにすることなく疑問視し、自分できちんと精査してどんな可能性や選択肢があってなにがベストなのかと、やはり考える力が求められるのです。まず親がリベラルアーツの基本姿勢を身につけるただ、日本では、リベラルアーツを行っている大学はいくつかあるものの、公教育の小学校や中学校で行っているところはないといっていいでしょう。それでも、リベラルアーツの考え方を家庭教育に生かすこともできます。学校ではディスカッション形式の授業で学ぶものですが、家庭教育でなら、それは「親子の対話」に置き換えられるでしょう。ただ、親子で対話をする、つまり自分の意見をいうにも、自分の考えがなければそうできません。子どもと対話し、子どもの考える力、意見を表現する力を伸ばすには、まずは親自身が自分の考えをしっかり持って伝えられる必要があります。そこで、パートナーがいる場合なら、お父さんとお母さんでいろいろな意見を交換し、しかもその様子を子どもに見せてあげてください。そのとき、「ディスカッションだから」と変に身構える必要もありません。ちょっと変な意見をいってしまってもいいのです。それを見れば、子どもは「どんな意見を伝えたっていいんだ」と思ってくれるはずです。アメリカで暮らしていてやはり気になるのは、自分の意見をいえない日本人がいかに多いかということ。もちろんわたしもかつてはそうでした。でも、どんなに素晴らしい考えを持っていても、それを表現できなければ意味を持ちません。意見の内容を問わず、まずはとにかく表現できる人間に子どもを育ててほしいと願っています。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月11日ICT教育とは、簡単に言うと「デジタル機器(タブレットやパソコン)を使った教育」のことを指しますが、そのメリットや注意点を正しく理解しているでしょうか。ICT教育は、国もその重要性を認識し、ガイドラインが策定されています。そのため、今後多くの学校でICT教育が取り入れられると予想されているのです。この記事では、ICT教育の代表的なメリットや、ICT教育を受ける際に注意しておきたいことも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。そもそもICT教育とは?そもそもICT教育とは、インターネット、パソコンやタブレットを利用した教育のことです。「ICT」は、「Information and Communication Technology」の頭文字をとった言葉で、「情報通信技術」という意味で、現在非常に注目されています。ICT教育では生徒1人ひとりに端末を配布し、紙ではなくデジタルを媒体とした授業を行います。事前に作成したデータや動画を用いて授業を行うため、紙を使った授業ではできなかった五感を刺激する授業が可能です。特に、紙では伝えづらかった英会話や図形問題では、理解を深めるのに役立つでしょう。今後は情報通信技術が益々重要になっていくことが考えられているので、総務省や文部科学省もガイドラインを策定するほど重要でありと認識されています。しかし、現在はすべての学校でICT教育を受けられるわけではありません。子どもにICT教育を受けさせたいのであれば、ICT教育を導入している学校を探す必要があります。ICT教育のメリットとは?ICT教育のメリットには、代表的なものに以下の3つがあります。授業が分かりやすくなる効率的に授業の準備ができるデジタル機器が身近な存在になるひとつずつ解説していきます。●授業が分かりやすくなるICT教育を導入することにより、インターネット環境や映像を使うことで授業が理解しやすくなります。具体的な例を挙げると英会話がイメージしやすいのではないでしょうか。英語の授業は、英語が話せない日本人教師が教えています。そのため、ネイティブな発音による授業が難しく、文法ばかりの授業で英会話が身につきにくい環境です。しかし、ICT教育を取り入れることで、インターネットを通じてネイティブに話せる講師が授業を受け持てるため、子ども達は日頃からネイティブな英語に慣れ親しめます。幼いころからこの環境が整っていれば英会話が身近なものになり、今以上に実用的な英語力が身につくことに期待ができるのです。他にも、アニメーションを使った授業を行えば、図形を立体的に認識する手伝いができたり、歴史に興味を持ちやすくなったりすることに期待できます。また、端末を使った授業なので、何度も同じ授業を見直せるため、自習がしやすくなり理解度の向上にも役立つでしょう。ICT教育を取り入れれば、再生するだけで教師の授業を何度でも受けられます。興味が持ちやすく分かりやすい授業を受けることが可能なので、子ども達の理解度を高められる可能性があるのです。●効率的に授業の準備ができるこちらは教員側のメリットになりますが、ICT教育を取り入れることで効率的に授業の準備ができるため、教師の負担を軽減することができます。というのも、紙が媒体の授業を行う場合はプリントを作ったり、1人ひとりのテストの採点を教師が行ったりする必要がありました。授業の準備やテストの採点は教師への負担が大きく、退職する理由のひとつでもあったのです。しかし、ICT教育ならデジタル機器を使った授業になるので、授業の準備はデータの必要な箇所の修正や追加で済みます。小テストのような頻繁なテストもデジタル化することで、準備が簡単になるだけではなく、採点の時間を大幅に削られるようにもなるでしょう。その結果、ICT教育は残業や休日での仕事を減らせるので、教師の負担を大きく軽減させることができます。●デジタル機器が身近な存在になる日本に限らず、世界的にパソコンやスマートフォンなどのデジタル機器が身近な存在になりつつあります。一昔前まで、パソコンやスマートフォンを持っている人は多くありませんでしたが、現在は仕事や大学でも使用する場面が増えたため、デジタル機器を取り扱えるスキルが必須になってきています。このような流れからも、パソコンやスマートフォンが使えなくては、社会に出てから戦力になりづらくなってきています。そのため、これからの子ども達は今までの授業と同時に、デジタル機器の取り扱いについても理解することが必要と言えるのです。ICT教育を導入することで幼いころからデジタル機器の扱いに慣れさせることができるため、デジタル機器の導入による授業の効率化に加え取り扱いも学ぶことができるため一石二鳥です。さらに、デジタル機器は非常に高価なので、家庭の収入差によるデジタル機器を取り扱う機会に差がありましたが、ICT教育を受けることによりすべての子ども達が平等にデジタル機器を身近な存在にできるようになるのもメリットの一つです。仕事の自動化やビッグデータの取り扱いなど、今後益々デジタル機器を使った仕事が増えていくことが考えられており、ICT教育はそんな状況になっても対応できるような教育が期待できるのです。ICT教育の注意点生徒の理解度を深めたり教師の負担を軽減させたりと、ICT教育には大きなメリットがあります。しかし、ICT教育は大きなメリットと同時に、注意したほうが良いこともあるのです。ICT教育で注意しておきたいことは、主に以下の3つです。時代とともにトレンドが変化するVDT症候群になる可能性がある想像力が低下する可能性もある子どもにICT教育を受けさせたいのならば、情報収集してよく注意しておきましょう。●時代とともにトレンドが変化するデジタル機器や情報通信技術というものは、進化が非常に早いです。つい最近出たデジタル機器や技術でも、数年後には古くて誰も使わなくなっている可能性があります。せっかく学校で習得したことや慣れた端末がトレンドではなくなり、将来役に立たない知識や技術になるかもしれません。そのため、ICT教育を受ける際はトレンド色の強い知識や技術だけではなく、ワードやエクセルなど凡庸性が高い教育も受けることをおすすめします。●VDT症候群になる可能性があるデジタル機器を使いすぎると、VDT症候群になる可能性があります。VDT症候群とは、パソコンやスマートフォンのディスプレイやキーボードの使いすぎで、肉体的・精神的に疲労をすることで起こる症状です。VDT症候群には、以下のような症状が確認されています。眼球……ドライアイ、視力低下、頭痛体……肩こり、腰痛、手のしびれ精神……イライラ、耳鳴り、頭痛VDT症候群を予防するためには、連続作業時間を60分以内にして定期的に休憩をするようにしてください。また、正しい姿勢で作業することも重要です。ICT教育を取り入れる場合は、自然とパソコンやスマートフォント接触する時間が増加しますので、子どもがVDT症候群にならないように常に注意してあげましょう。●想像力が低下する可能性もあるICT教育では、視覚から得られる情報量が非常に多くなります。調べれば解決してしまうため自分で考える機会が減ってしまい、その結果想像力が低下するかもしれないと考えられているのです。もし、ICT教育を取り入れるのなら、五感を使う教育をしたり、自分で考える時間を作ったりと、子どもの想像力を向上させる工夫をする必要があるでしょう。モバイル機器を禁止する時間を設けたり、親子で会話するときは調べることを禁止したり、子どもが想像力を働かせられる環境を整えることをおすすめします。まとめICT教育は学習効率を上げられるため、子どもには大きなメリットがあります。また、世界的にモバイル機器の取り扱いスキルや情報通信技術は必須スキルとなっていくことが予想されているので、社会に出てから苦労しないようにぜひとも取り入れておきたい教育方法です。しかし、ICT教育には気をつけなければいけないことが多々あります。もし子どもにICT教育を受けさせるのならばデメリットに関して把握しておき、ICT教育によるデメリットを最小限にする努力が必要になるでしょう。●ライター/高須 亮
2019年06月06日子どもたちの個性を大切にする『イエナプラン』教育で知られるオランダ。その教育環境の良さや子どもの幸福度の高さ(2013年・世界第1位)から、日本でもオランダ教育の要素を取り入れていこうという動きが出てきています。今回は、教師の役割や通知表の評価の仕方を通して、日本とは何もかも違うオランダ教育について考えていきましょう。イエナプランだけじゃない!?学校ごとに異なる教育方針オランダでは、学校が「子どもの未来を作る場」だと考えられています。そして、学校は「自分の好きなことや得意なことを見つける場所」という考えが、社会に根づいているのです。このように、国全体で子どもの未来につながる教育を目指していて、憲法でも『教育の自由』が保証されているオランダ。よく知られているのは「イエナプラン教育」ではないでしょうか。■イエナプラン教育って?ドイツのイエナ大学教授ペーター・ペーターゼンが生み出した、子どもたちの個性を大切にして対話を重視する教育のこと。<特徴>○異なる年齢の子どもたちが一緒に学習する。○子どもたちが輪になって、さまざまなテーマについて話し合い発表する。教師は進行役に徹する。○教室は「リビングルーム」という考え。グループ活動がしやすいように、自由に移動可能な机・椅子が配置されている。※イエナプランについて、詳しくは過去記事をご覧ください。□尾木ママ絶賛!“日本教育の3周先を行く”オランダの「イエナプラン教育」□オランダで大人気「イエナプラン教育」とは?日本でも開校間近“期待のスクール”の魅力。もちろん、オランダのすべての小学校がイエナプラン教育を取り入れているわけではありません。「100人いれば、100通りの教育方法がある」といわれるくらい多様性に富んでいるオランダ教育には、他国で生まれた教育も積極的に取り入れる柔軟さがあるようです。先生はコーチ!自己肯定感を育む授業の仕組み『子どもを伸ばす共育コーチング』(拓殖書房新社)の著者でコーチングのプロとして活躍中の石川尚子先生は、視察に行ったオランダの学校で次のような授業風景を目にしたそう。オランダの学校では、授業の折々に、先生から質問が投げかけられます。(中略)純粋に、子どもたちの考えを促す質問です。どんな答えが返ってきても、先生はまず受け止めます。ですから、子どもたちにも、先生が求めている正解を答えなければという思考がありません。誰かの評価を得るためではなく、純粋に自分はどう思うかを考え、表現し合います。(引用元:ベネッセ 教育情報サイト|教育にコーチングが根付いている国の子どもは幸福度が高い?[やる気を引き出すコーチング])その質問とは、「ここまでやってみてどう思った?」「どんなことに気がついた?」といった、子どもの内に秘められている言葉を引き出すものばかりだったそうです。そして授業の最後には、必ずこの学びの体験を次に活かす質問を投げかけます。先生から「次やるときは、どうしたらもっとよくなると思う?」などの問いを受けることによって、子どもたちは今回の体験を振り返り、次に活かすための気づきが生まれるのです。やってみて振り返り、またやってみて振り返る。オランダの教育現場ではこの過程が大事にされており、それはまさにコーチングのプロセスと手法だと石川先生は述べます。このプロセスを繰り返し、実践したことがうまくいくと、自己肯定感はより高まるそう。まずは大人が答えを持たずに、子どもの考えを受け止めることが大切です。そして、次に進むためにはどうしたらいいか、この学びからどんな気づきが得られたか、など子どもなりの考えを引き出すように導く「質問力」が必要なのですね。オランダは「先生こそが社会のことを一番知らない」という前提で教育プログラムが作られているそうです。極端な言い方になりますが、それは「社会に出たことがないから」。しかし、私たちが生活している「社会」は、日々ものすごいスピードで変わっていっているという現実があります。だからこそ先生は「教える人」「指導する人」ではなく、子ども一人ひとりの適性を見抜き、適した道に進めるようにアシストしてあげる「コーチ」に徹しているのです。点数で評価しない。通知表は子ども自身の成長の記録博報堂のクリエイティブディレクターを経て、家族の教育環境のためにオランダに移住した吉田和充さんは、小学校に通うお子さんが持ち帰ってきた通知表に非常に驚かされたそう。それは、日本の学校で渡される通知表とはまったく違うものでした。日本との大きな違いは、分厚いバインダーに挟まれた書類のような形式で渡されることです。このバインダーは入学時からずっと同じものを使い続けていて、4歳の最年少学年では絵や工作がファイルされているだけのこともあるそうです。学年が上がるにつれて、全国統一試験の結果なども加わってきます。内容としては、まず担任の先生の総評から入ります。A4サイズ1ページ分にもわたり、生徒のことをかなり詳細に記しているそう。次に生徒自身のコメントです。仲の良い友だちや好きな活動や遊び、授業について自分の言葉で書かれています。このように最初の2ページほどは、先生と生徒双方の総評のようなコメントが書かれているそうです。次にようやく成績に関するページが出てきます。ただし各教科で点数が重視されることはなく、過去の自分と比べた成長率が評価のポイントになります。つまり、すべての評価は『絶対評価』であり、大事なのは「前の学期の自分と比べてどう成長したか」ということだというのです。テストの点数や偏差値を重視しないのは、オランダが国として「学校は自分の適性や好きなことを見つけて、将来の自分の進む道を決める場所」という共通の認識をもっていることにほかなりません。通知表に記されている42個の評価項目の一部をご紹介します。・積極性・人の話を聴く力・リーダーシップ・プレゼン能力・計画性・他人を助ける能力・学校行事への参加度・自己主張力・協調性・独創性日本の学校の通知表でも同じような評価項目がありますが、「プレゼン能力」や「自己主張力」「独創性」などは、これからの社会を生き抜くために、ぜひ身につけたい能力です。我が子の成長と向き合うとき、「テストの点数が上がった」「同級生のほかの子に比べて優れている」という視点で見るのではなく、「1年前に比べて積極的に発言できるようになった」と評価してあげたいですね。***日本でも少しずつオランダ式の教育を取り入れようという動きが出てきているようです。いいところは取り入れつつも、日本独自の優れた教育は否定すべきではありません。目まぐるしく変化する世の中の流れに合わせながらも、常に「子どもにとって何が最善なのか」を考えて導いてあげる必要がありそうですね。(参考)現代ビジネス|「世界一の教育」オランダの小学校は日本とはレベルが違ったStudy Hacker こどもまなび☆ラボ|オランダで大人気「イエナプラン教育」とは?日本でも開校間近“期待のスクール”の魅力。Study Hacker こどもまなび☆ラボ|尾木ママ絶賛!“日本教育の3周先を行く”オランダの「イエナプラン教育」ベネッセ 教育情報サイト|教育にコーチングが根付いている国の子どもは幸福度が高い?[やる気を引き出すコーチング]FINDERS|「通知表」が変われば教育が変わる?オランダの通知表に見る世界一子どもが幸せな理由【連載】オランダ発スロージャーナリズム(11)
2019年06月04日「ソーシャルスキル」という言葉を知っているでしょうか。直訳すると「社会的な技能」となりますから、なんとなく意味も想像できるかもしれません。いま、子どもたちのソーシャルスキルが不足している、あるいは未熟なままであると危惧しているのが、法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生。きちんと社会生活を営むために欠かせないというソーシャルスキル。具体的にはどんなものなのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「バイバイ」のハンドサインもソーシャルスキルソーシャルスキルというと、なにか特別な技能を想像するかもしれませんね。でも、これはみなさんすべてが日常的に使っているしぐさや行動なのです。たとえば、手の振り方次第で相手に「こっちに来て」とも「バイバイ」とも伝えられますよね?このように、社会生活をうまく営むために「こういう場合はこういう振る舞いをする」というフォーム(モジュール:人間の行動のうえで、まとまった社会的機能を有する単位)のようなものです。「うまく営む」というと、「要領良く生きていく」ためのスキルだと勘違いする人もいるでしょう。でも、そういうものではなくて、ある社会に暮らすために誰にも求められているものなのです。電車に乗るときのマナーをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。電車でのマナーは、社会生活をスムーズに営むためのものであって、要領良く生きるためのものではないですよね。それらは、かつては親やおじいちゃん、おばあちゃん、近所の大人たちが子どもたちに教えてきたものです。でも、地域との接点が薄れ、核家族化が進んだいまはそれが難しくなってきています。極端にいえば、家庭教育を担うのは親だけという状況。その親が教えることができなければ、子どもはソーシャルスキルを学ぶことができないのです。遊びが多くのソーシャルスキルをもたらすまた、子どもがソーシャルスキルを身につけることが難しくなってきている原因としては、子どもたちが自由に遊べる時間が激減しているということも挙げられます。いまの時代の親は本当に教育熱心です。子どものためを思って塾はもちろんさまざまなお稽古事に子どもを通わせますから、子どもが自由に友だちと遊べる時間はどんどん減っています。でも、本来、子どもは遊びからさまざまなソーシャルスキルを学ぶのです。たとえば、近所の子どもたちと遊ぶうち、年上のお兄さんやお姉さんに優しくされれば、「思いやる力」を学べます。そうして学んだスキルを、今度は年下の子どもたちを相手に発揮することもあるでしょう。また、山の急勾配を登るような遊びなら、何度転げ落ちても粘り強く挑戦を続けるうちに、子どもは「あきらめない力」を身につけます。逆に、遊びのなかで「あきらめる力」を身につけることもあります。たとえば、本当はもっと遊んでいたいのに、日が暮れてしまって遊ぶことを「あきらめた」という経験はみなさんにもあるでしょう?これも立派なソーシャルスキルです。「あきらめる力」は「粘り強さ」の対極にあるものではありません。ときと場合によっては、どこかで妥協することも必要なのです。そうできなければ、次のステップに進んで頑張るということもできないでしょうからね。そういった「決断」が「あきらめる」ということなのです。ソーシャルスキルの不足が招く悪影響ソーシャルスキルは、いってみれば「生きるための総合力」です。それらが不足してしまうと、当然、子どもたちにはさまざまな影響が表れます。その筆頭は、「人とうまくかかわれなくなる」ということ。人間は社会生活を営む動物ですから、「ひとりで生きていける」なんて思っている人であっても、実際にはどこかで人とかかわって生きています。それなのに、人とうまくかかわることができなければ、まわりから「迷惑な人だ」と思われるなどして、幸せな人生を歩むことが困難になります。それから、「うまくかかわれなくなる対象」には「自分」も含まれます。「ソーシャル」というからには他者とのかかわりをイメージすると思いますが、先に挙げた「あきらめない力」や「あきらめる力」がそうであるように、ソーシャルスキルが欠乏すると、自分ともうまくかかわれなくなるのです。「不安ありき」の家庭教育では子どもも不安になるでは、子どもにソーシャルスキルを身につけさせるために親はどうすればいいのでしょうか。わたしは、変に難しく考える必要はないと思っています。なによりも楽しく子育て、家庭教育をすることを心がけてほしいのです。先に、ソーシャルスキルが不足すると人とうまくかかわれなくなるとお伝えしました。すると、「うちの子がそうなったらどうしよう」と思った人もいることでしょう。いまの親を見ていると、多くの人が「不安ありき」の家庭教育をしているように思えてくるのです。自分の子どもが「不登校にならないか」「いじめに巻き込まれないか」といくつも不安があって、そうならないための家庭教育になっているのではないでしょうか。それはすごく残念なこと。子どもは無限の可能性を秘めています。だとしたら、起きてもいない問題をイメージして不安を取り除くような発想ではなく、子どものいいところをどんどん伸ばしてあげるためになにをすべきなのかという発想で、もっとポジティブに家庭教育をしてほしいですね。親が毎日のように不安な顔をしていたら、子どもだって不安になります。でも、お父さんとお母さんが人生を楽しんで、いつもニコニコして「人生って面白いよ!」と伝えてくれたら、子どもはワクワクした気持ちで毎日を過ごせるにちがいありません。「情動感染」という言葉がありますが、気持ちは即時に影響し合うところがあるのです。そうすれば、幼稚園でも小学校でも友だちがどんどんできて、先生ともいい関係を築けるし、自己肯定感が高まり、結果として自然に必要なソーシャルスキルを学んでいくように思うのです。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!(※近日公開)第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法(※近日公開)第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由(※近日公開)【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月03日先行き不透明なこの時代、子どもの将来に不安を感じる親が、わが子になるべくたくさんの教育をほどこそうとする風潮があります。ですが、中には子どもが大きな負担を強いられているようなケースや、課題をさぼったり期待通りの成果を出さない時に、つい強く叱りすぎてしまったり、時には罰を与えてしまったり…。そんな話を聞くことも決して少なくはありません。どこまでが教育で、どこからが虐待なのか? 何が親をそこまで駆り立ててしまうのか?『追いつめる親』『習い事狂騒曲』の著者であり、教育ジャーナリストのおおたとしまささんにインタビュー。第3回は、おおたさんが考える「これからの時代に必要な力」についておうかがいします。お話をうかがったのは… おおたとしまささん教育ジャーナリスト。麻布中高卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業後、リクルートにて雑誌編集。独立後、多数の育児・教育関連媒体の編集・企画に関わる。学校や塾などの教育現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。しつけから中学受験、夫婦関係までをテーマに、講演・メディア出演も多数。中高教育の資格、カウンセラーの資格。小学校教育の経験もある。『ルポ塾歴社会』『名門校とは何か?』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』など著書は50冊以上。 『追いつめる親「あなたのため」は呪いの言葉』 の改訂版が2019年7月に出版予定。■あれもこれもの器用さはいらない! たった1本のナイフを磨き鍛えること――これからのグローバル時代を、子どもに「たくましく生き抜いてほしい」と願う親御さんは多いと思うのですが、どんな力が必要になるとお考えですか?おおたさん:私は、真のグローバル教育というのは、例えば、手元には1本のナイフしかないけど、これを使って森の中でどう生き延びるか? というようなことを考える訓練をつむことだと思っています。よくグローバルな人になるためには、英語やらディベート力やらあれこれ必要だと言われますが、大切なのはどれだけ多くのツールを持っているかではなく、自分の中の個性的なナイフをどれだけ鍛えておくことができるかだと思います。あれもこれもとツールを与えすぎることは、逆に子どもたちが本来持っているナイフをさびつかせてしまうことになりかねません。――たくさんの道具を与えるのではなく、本来子どもが持っている「1本のナイフ」を鍛えることが大事なのですね。おおたさん:親が与えすぎると、子どもは自分で選ぶことも考えることもできなくなります。それでは、よく言われる「指示待ち人間」になってしまいますよね。「指示待ち人間」ではこれからの世の中生きていけないということは、もう親御さんはとっくにわかっているはずです。――確かに。…そのはずなのに、気が付けばつい与えすぎてしまう。いったいなぜ!?おおたさん:親自身が与えられる以外の生き方を知らないからでしょう。必要な武器を自分で考えて、自分で手に入れて、自分で磨くという経験がないから、不安で怖い。だから、子どもにあれもこれも与えようとしてしまうのです。周囲に、「自分の道は自分が選ぶ」と言える大人がどれだけいるでしょうか? 大人たちが自分で自分の道を選んでいくことができていないから、無意識のうちに子どもたちにも自分の道を選ばせまいと仕向けてしまうのです。■ボーっとする時間…「余白」が子どもを育てるおおたさん:もちろん、子どもにたくさんの機会を与えてあげたい、いろいろな能力を伸ばしてあげたいという親の気持ちは間違っていませんし、よくわかります。例えば、習い事をつめこんでしまうのも、どこにどんな才能があるかわからないから、いろいろなことをやらせて引き出してあげたいという気持ちからだと思います。ですが、そもそも子どもというのは、ボーっとしている時間に一番育つのです。そういう時間を奪ってしまったら、育つものも育たなくなってしまいますよ。――ボーっとしている時間に育つものとは?おおたさん:子どもは暇な時間があれば、それをどう使おうか考えて、そこで自発性が芽生えます。例えば、暇な時間があって、本を読んでも絵を描いてもつまらない。で、今度は庭に出て虫を取ってみたら、「あ!これ、すっごく楽しい!」と時間を忘れて取り組めたとします。そうすると、自分が何を好きで、何をしている時が幸せで、何を欲しているのかを感じ、自分自身を知ることができます。それが、「人生の羅針盤」を作るのです。幼児期は、その羅針盤に気づいて、それを使いこなす訓練をたくさんしなければならない。そのために必要なのが、ボーっとする時間なのです。常に予定を埋められて、ボーっとする時間を奪われると、人生の羅針盤を使いこなせない人になってしまいます。主体性なく、なんとなく世間的に良いと言われる方向を向いて生きるしかなくなった状態で、いくら高学歴や仕事スキルを得ても何の意味があるのでしょうか?――暇な時間に自ら考えて動いているうちに「人生の羅針盤」を築いていくのですね。おおたさん:親が子どもにいろいろなことを与えるのは、例えるなら、スマホに使うのか使わないのかよくわからないようなアプリを、とにかく大量に入れるようなものです。特に、今の親御さんは、正解がわからないといわれているこれからの時代に向けて、使えそうなアプリを全部入れておかなければという発想になって、インストールすることにばかり時間を費やしてしまっているように思います。でも、本当にやらなければならないのは、スマホ自体の性能をあげることです。OS(基本ソフト)やCPU(中央演算処理装置)をアップデートして、将来、アプリをサクッとダウンロードできるような本体にしてくことが大事なわけです。そもそもの優先順位が間違ってしまっているのです。■習い事は何のため? 結果を求めすぎて奪われる「3つの時間」おおたさん:また、私は、習い事はスキルを身につけることが目的ではないと思っていて。習い事の目的は、「夢中」になって「達成」して「挫折」して「克服」する、この4つのサイクルを経験し人間的に成長することだと思っています。――具体的には、どういうことでしょうか?おおたさん:例えば、子どもが水泳に夢中になって、25メートルが泳げるようになったり、何か目標を達成したりするとします。でも、がんばればがんばるほど、思うようにタイムが伸びなかったり、必ずどこかで壁にぶちあたる時がきます。そこで、子どもが「もう辞める」とくじける。でも、それでもがんばってみようと乗り越えた時に、ネガティブな部分を克服するというすばらしい経験をすることができるのです。こうした経験は、勉強やほかの体験にも応用が効きます。――なるほど…。でも、習い事にスキルの獲得を求めてしまっている親御さんも多いように感じます。おおたさん:「ボーっとする子どもの時間を奪っていないこと」「子どもの基本的な成長に必要な時間を奪っていないこと」「家族の時間を奪っていないこと」、その3つの時間が確保できるうえなら、スキルを獲得するためでも良いと思いますよ。でも、少しでも空き時間があると「もったいないから」とつめこむのは大きな間違いです。――話はちょっと変わりますが、一時期、幼児教育ブームが起こり、本を数千冊読んだり高い飛び箱を飛んだりという園の教育がメディアで称賛されていましたが、おおたさんはどう思われましたか?おおたさん:サーカス団に入れれば、クマだって玉乗りするしライオンだって火の輪をくぐりますよね? それと同じで、子どもだって鍛えればできるようになるかもしれません。でも、「それに何の意味があるのですか?」ってことなのですよ。本は数千冊読んだからすごいのでしょうか。1冊の本にこだわって何度も読み返すことだって大事ですよね。実際、子どもは気に入った絵本を何度でも読みたがります。子どもには子どもの物差しがあるのに、大人が子どものことを知らないから、大人の価値観で「数千冊も読むのはすごいこと」と決めつけてしまう。逆に、数千冊読むことで損ねていることもある。そういう視点も持ってほしいと思います。■「親は無力である」その自覚が子どもの励ましになることもおおたさん:子どもが育つうえで、親の影響力は絶大です。ですが、結局のところ、親は実は無力なのです。親になると、子どものためにあれもこれもしてあげようという気持ちにかられます。でも、それがそのまま親の期待通りの成果をもたらすとは限りません。むしろそうならないことの方が圧倒的に多いですよね。――確かに。それに、子どもに期待通りの結果を望むのは親のエゴですよね…。おおたさん:親ができることは、子どもを励まし見守ることだけ。「生まれてきてよかったね」「ひとりぼっちじゃないよ」と言ってもらえ、「あなたの人生はあなたしか歩めない」と認めてあげることだけなのです。でも、無力であることは、決して悪いことではありません。たとえ、子どもと一緒にオロオロすることしかできなくても、それが子どもにとって生きる支えになるのです。むしろ、親が子どもにしてあげる、最高の励ましであることも多いのです。同時に、親は子どもの人生を支えることだけに依存せず、自分の道を自分で選ぶような生き方を常に実践していかなければなりません。「自分の道を自分で選ぶ生き方」の手本を示すことができれば、それが親にできる最高の教育であると私は思っています。親は自分の理想を子に押しつけるのではなく、ありのままの子どもを認めてあげればいい。そうすれば、子どもはまぶしいくらいに輝きはじめます。そして、不安な気持ちでいっぱいになりながら、子どもの背中を見守るしかないというのが子育ての本質であり、そのこと自体がこのうえなく幸せなことなのではないでしょうか。生まれたばかりの頃は、ただ健康で元気に育ってくれればそれで良かった。なのに、いつから、親はわが子に「もっともっと」と求めてしまうようになるのでしょう?「教育虐待」の話を聞いていて、いつの間にか子育ての原点に立ち帰らせられた、そんな取材でした。まちとこ出版社N
2019年05月30日先行き不透明なこの時代、子どもの将来に不安を感じる親が、わが子になるべくたくさんの教育をほどこそうとする風潮があります。ですが中には、子どもが大きな負担を強いられているようなケースや、課題をさぼったり期待通りの成果を出さない時に、つい強く叱りすぎてしまったり、時には罰を与えてしまったり…。そんな話を聞くことも決して少なくはありません。どこまでが教育で、どこからが虐待なのか? 何が親をそこまで駆り立ててしまうのか?『追いつめる親』『習い事狂騒曲』の著者であり、教育ジャーナリストのおおたとしまささんにインタビュー。第2回は、「教育」と「虐待」の境目についておうかがいします。お話をうかがったのは… おおたとしまささん教育ジャーナリスト。麻布中高卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業後、リクルートにて雑誌編集。独立後、多数の育児・教育関連媒体の編集・企画に関わる。学校や塾などの教育現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。しつけから中学受験、夫婦関係までをテーマに、講演・メディア出演も多数。中高教育の資格、カウンセラーの資格。小学校教育の経験もある。『ルポ塾歴社会』『名門校とは何か?』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』など著書は50冊以上。 『追いつめる親「あなたのため」は呪いの言葉』 の改訂版が2019年7月に出版予定。■教育と虐待、その境い目の見極め方法――明確な線引きは難しいと思うのですが、「教育的指導」と「虐待」の境目をきちんと知っておきたいです。おおたとしまささん(以下、おおたさん):概念的な線引きとしては、「子どもの人権を尊重しているか」というところです。子どもを親の所有物ではなく、自分と同じひとりの人間だと思うことができているかどうか、それが「教育的指導」と「虐待」の境目だと思います。――具体的な目安はありますか?おおたさん:例えば、1日5時間勉強させても全然平気な子もいるのですが、普通の子にさせたら大抵はつぶれてしまいます。それと同じで、負荷はその子にとっての相対的なものである、ということがまず大前提です。そして、その相対的な負荷が子どもの受忍限度を超えていることに気づくには、なんらかの負荷(勉強や習い事など)をかけた後の子どもの表情を見ればわかると思います。例えば、勉強が終わった後、「つらかったけどやっと終わったぜー!」というふうに晴ればれとした明るい表情になっているのか。それとも宿題が終わった後も「また明日もあるのか…」というふうに全然表情が輝かないのか。それが、ひとつの判断材料になると思います。負荷が終わった後にショボンとしているようでしたら、それは明らかに「これ以上やったらマズイ」というサインです。■「どうしてできないの?」「約束したでしょう?」2つの言葉が子どもを追いつめる――教育熱心すぎる親がやってしまいがちなNG対応はありますか? おおたさん:2つのパターンがあります。1つは、「どうしてできないの?」という言い方。そう言われても、わからないものはわからないのだからどうしようもないですよね。追いつめられれば追いつめられるほど、子どもの頭は真っ白になってしまいますし、「こんな問題ができないあなたはバカ」という含意が子どもを直撃します。――確かに…。ですが、親がつい言ってしまいがちな言葉です…。おおたさん:もう1つは「約束」です。例えば、テストで悪い点を取ると、教育熱心な親御さんは「どうしてこうなったのか?」「これからどうするか?」と冷静に原因と対策について話します。そして、「じゃあ具体的にどうするんだ?」と問いつめます。ヘビににらまれたカエル状態の子どもは、「これからはゲームの時間を減らして毎日勉強する」などと言わざるを得ません。ほとんど誘導尋問なのですが、こうして子どもは約束させられるわけです。でも、約束した時は本気でも、人間はそんなに強くありませんし、ましてや子どもです。ですが、約束が破られた時、「やるって約束したのに! 約束を破ったのか!」と親は理論武装して責め、子どもは言い逃れができず、追いつめられてしまうのです。――身に覚えがあるような…(苦笑)。おおたさん:実は、むやみに怒鳴ったりたたいたりする親御さんは少数で。最近の多くの親御さんは、こうして子どもを叱るに十分な理由をみつけてから、その正論を振りかざして、子どもを追いつめるのです。でも、たとえ、そこに正論があったとしても、相手を傷つけすぎて良いわけがないのです。親がやるべきことは、どうしたら子どもが悪かったと理解してくれるのか、次から改善してくれるのかを考えること。なのに、目的が自分のネガティブな感情を全部吐き出して、子どもにぶつけることに変わってしまっているのです。■体罰は愛ではない! 指導者としての未熟さが原因――「時には、ビシッと親の力を見せつけてやらないとなめられる」という厳しい親の意見も耳にしますが、どう思われますか?おおたさん:家庭において、親は絶対的な強者で子どもは弱者です。親という圧倒的に強い立場を利用して、逃げ場がない子どもを追い込むのは、穴に落ちた犬に石を投げるような卑怯(ひきょう)なことだと思いますけどね。以前、北海道で、親がしつけと称して山中に7歳の子どもを置き去りにした事件(※)がありましたよね? 当時も「親の行為はしつけか、虐待か?」と話題になりましたが、山中に幼い子どもを置いていくなどということがしつけのわけがない。あれは命に関わるような暴力的な行為で、たとえどんな理由があっても絶対にやってはいけないのです。――当時、「似たようなことをやってしまったことがある」という親御さんも少なくなかったですよね。おおたさん:中には、しつけと称して、愛があればたたいていいと体罰を容認する人もいますが、私は、体罰を生むのは愛ではなく、指導者としての未熟さだと思っています。言葉や態度による罵倒も同じです。スパルタ的な指導で子どもが伸びるという人もいますが、罰による成長は一時的なものであり、本質的な成長にはなりません。人は変えられる(外的動機づけ)のではなく、自ら変わる(内的動機づけ)のですから。 ■子どもの言動にイラッ「どうしても怒りが抑えられない時は?」――でも、親も未熟で、怒りの感情が抑えられない時もあります。そんな時はどうしたらよいのでしょう?おおたさん:ひとつ提案があります。子どもの言動にイラッとしてしまった時は、「今、自分は溺れかけているんだ」と考えてみてください。溺れている時、あなたはまず何をしますか? まず、口を閉じますよね? 次に、ジタバタするのをやめますよね? そうやって溺れた時と同じようにふるまったうえで、自分の感じていることをただ言葉にするのではなく、どうやったら子どもが前向きな気持ちで、自らの行動を改めようと思えるようになるか、翻訳するひと手間を考えましょう。いい翻訳が思いつかない時は、そのまま口を閉じていることが最善の策であることも少なくありません。――すでにやってしまった(手を出してしまったり暴言を吐いてしまったり)場合、親はどうやってリカバリーしたらいいのでしょう?おおたさん:間違いに気づいた瞬間から、親子関係をどうつくっていくのか、どんな親になりたいのか、それを考えればいいと思います。大切なことは、起きてしまったことを否定するのではなく、それを糧にするにはどうしたらいいかを考えること。望ましくないことが生じてしまった時、それを今後の糧にすることができるかどうかが、その人の強さだと思います。親も強くならなければいけないし、子どもにもその強さを学んでもらわなければならない。親も子どもも成長しています。親子関係も修復可能です。取り返しがつかないなんてことはないのですから。友人や仕事関係の相手にはきちんと配慮できるのに、わが子となると遠慮なく追いつめてしまう。子どもなら許されると思ってしまう。そこには、どんなに傷つけても結局、子どもは親以外には頼れない、という親のおごりや甘えがあるのかもしれません。でも、おおたさんが言うように、「たとえ、正論だとして相手を傷つけすぎて良いわけがない」のです。怒りが抑えられない時は、せめて「口を閉じる」こと。心に留めておきたいと思いました。次回は、おおたさんが考える「これからの時代に必要な力」についてうかがいます。※2016年、北海道の山中で、親が子どもをしつけのために車から降ろし、置き去りにした事件。7日後、子どもは無事発見された。取材・文/まちとこ出版社N
2019年05月29日小学校にまだ入学していない幼い子どもがいる親であれば、いわゆる就学前学習などの「先取り学習」に強い興味があるはずです。その効果はどれほどのものなのか、そもそも必要なのか――。お話を聞いたのは、東京の公立小学校教諭・杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)先生。子どものやる気を引き出す独自の授業で注目され、「教育の鉄人」とも呼ばれるカリスマ教師です。実際の教育現場から見た先取り学習の価値とはどんなものでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)学習内容のつながりを意識した「先取り授業」ひとことで「先取り学習」といっても、さまざまな種類があります。わたしの授業スタイルも先取り学習といえるものです。たとえば、本来のカリキュラムでは順に教える足し算と引き算もわたしは同時に教えます。また、掛け算と割り算も同様です。なぜかというと、足し算だけを先にやってしまうと、「足し算脳」とでも呼ぶべき頭の使い方が子どものなかでできあがってしまうから。そうなると、引き算を学ぼうとするときにその足し算脳が邪魔をして、なかなか引き算ができるようにならないということが起こるのです。掛け算と割り算の場合も同じです。先に掛け算だけを教えてしまうと、九九はしっかりできるのに、なぜか割り算は苦手だという子どもが続出してしまう。それは、本来であればひとつながりのものなのに分断して学ばせているからです。ピアノでいえば、課題曲全体を聴かせてもいないのに、頭から順に教えようとしているようなもの。どんな曲なのか全体像が見えていなければ、学習効果が高まるはずもありませんし、子どもは自分がなにをしているのかが見えずに不安になってしまいます。楽しければ、勉強も大好きな絵本と同じ感覚になるとはいえ、そういう授業スタイルを取っている教員はそうはいないでしょうから、ここでは一般の家庭でもできる先取り学習について、わたしの考えをお伝えします。先取り学習と聞いたときにまずイメージするのが、学校での学習内容を前もってやるというものでしょうね。小学校に入る前の就学前学習はその典型です。それらの先取り学習については、子どもにどんどんやらせてほしいと思います。というのも、「学校での勉強が復習になる」からです。そういった先取り学習については、「子どもが学校の勉強に興味関心を示さなくなるから駄目だ」という意見もあります。でも、映画にだって予告編があるじゃないですか?予告編を観て、その作品を観たくなったという経験はほとんどの人にあるでしょう。それに、好きな映画を3回も4回も観る人もいます。その場合、1回観ただけでは気づかなかったことに気づくということもある。つまりそれは、復習の効果に他なりません。「先取り学習が子どもの興味関心を奪う」なんてことは大人の発想で、子どもにとってはちがうのです。それこそ、大好きな絵本だったら、親が「また?」とうんざりするほど、何回も何回も「読んで」と子どもがせがむこともありますよね。勉強だって、楽しくできるように大人がちゃんと導いてあげれば、子どもにとっては映画や絵本と変わらないのです。とはいえ、先取り学習をさせるにも注意が必要です。やっぱり楽しくなければ子どもは興味を示しません。学校の教科書の内容を勉強するような先取り学習を無理に押しつけてしまうと、小学校に入る前に「勉強は楽しくない、面白くない……」と子どもに思わせて、まったくの逆効果となってしまいかねません。子どもの「学びの感覚」をつくる親子の対話また、とくに幼い子どもの家庭における先取り学習となると、学校の学習内容を先取りするタイプの学習の他にも大切なものがあります。それは、学びのための「感覚」を身につけるということ。たとえば、親子で一緒に出掛けたときには、「夕焼けって綺麗だね」とか「あれは三日月っていうんだよ」というふうに、目に入ったものを子どもに優しく教えてあげてください。家にいるときも、たとえばご飯を食べるときには「ハンバーグ、美味しいね」などと話しかける。内容はなんでもよくて、とにかく話しかけることが大切。そういった親との対話を通じて、子どもは学びのためのさまざまな「感覚」を身につけていきます。また、「感覚」という点では、体の「感覚」を使って学ぶことも大切です。ひらがなやカタカナを書いて覚えるにも、幼い子どもは鉛筆をまだうまく使えません。ですから、鉛筆ではなく大きな紙にクレヨンで書かせるとか、砂場で手を使って書かせる、あるいは尻文字で書かせることをおすすめします。そうすれば、体の感覚を通じて文字を覚えていくのです。それから、日常生活のなかでは、算数の勉強の橋渡しになるような数字に親しませるということもできます。スーパーに子どもと一緒に買物に行ったとします。親は「リンゴが5個ほしいのよね」といいながら、買い物かごに3個のセットをふたつ入れようとする。子どもが「お母さん、それじゃ6個だよ」なんていってくれたらしめたもの。「じゃ、どうすればいい?」と聞く。子どもは自分なりに考えて、3個のセットをひとつとバラ売りのものを2個持ってきてくれるかもしれません。そういうふうに、日常生活のなかにも学校の勉強につながるような要素はいくらでも転がっているものです。親御さんがそういう意識を持って、日常的な就学前学習を子どもにやらせてあげるように心がけてほしいですね。『たし算ひき算 10マス計算ドリル 左利き用』杉渕鐵良 著/学研プラス(2019)■ 東京都公立小学校教諭・杉渕鐵良先生 インタビュー一覧第1回:先取り学習はこうやれば効果的。「就学前学習ってどうなの?」に“教育の鉄人”が回答!第2回:「ちゃんと宿題やりなさい!」に効果がない理由。子どもに“響く”声かけの方法とは?(※近日公開)第3回:子どもを「読書好き」にするきっかけの作り方。国語力アップの決め手は家庭にある!(※近日公開)第4回:算数の力は“楽しく”伸ばす!地味で単純な「四則計算」を笑うほど面白いものにする工夫(※近日公開)【プロフィール】杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)1959年生まれ、東京都出身。東京都公立小学校教諭。小学校教諭となって7年目に子どもたちのやる気を引き出す独自の授業「ユニット授業」を開発。その成果により、「教育の鉄人」と呼ばれ、2011年には「ユニット授業研究会」を設立。若手教員の指導にあたる他、講演のために全国各地を飛び回っている。『小学校教師だからわかる 子どもの学力が驚くほど上がる 本物の家庭学習』(すばる舎)、『全員参加の全力教室2 燃える! 伸びる! 変わる! ユニット授業』(日本標準)、『1日1枚5分でできる 漢字パズル』(すばる舎)、『自分からどんどん勉強する子になる方法』(すばる舎)、『子どもが授業に集中する魔法のワザ!』(学陽書房)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月24日教育といえば「何かを教える」というイメージが強いですよね。しかし最近では「教えない」教育が重視されています。今回は、教えない教育がもたらすメリットや、家庭でもできる教えない教育について紹介しましょう。詰め込み教育から「教えない」教育へこれまでの教育は、試験や受験に役立つ知識をただひたすら詰め込む形が主流でした。教科書の内容を暗記したり、計算問題をひたすら反復練習したりして知識を蓄えることこそが、正しい勉強方法だと考えていらっしゃった親御さん方も多いのではないでしょうか。しかし、時代は変化しました。今やロボットやAIが人間の代わりに仕事や作業をすることが当たり前になりつつあります。その結果、これからを生きる子どもたちに必要なのは、知識を詰め込むことではなく、物事をより柔軟に、かつ自主的に考える力を身に付けることに変わってきているのです。こうした力を育てるためには、かつての教育とは真逆ともいえる「教えない」教育が有効だとされています。教えない教育がもたらすメリット教えない教育とは、子どもに何も教えずにただ放置することではありません。学びの基礎となる部分をしっかり教えたり、安全な環境を整えたりした上で、その先を子ども自身に考えさせることに重点を置いた教育です。結果として、子どもには以下のようなメリットがあります。・思考力が身につく教えない教育は、言い方を変えれば「子どもに考えさせる教育」です。「どうしたらこれが達成できるのか」「どうしたら前よりもうまくできるのか」などと考えることで、思考力がどんどん身についていきます。・自分の意見を言えるようになる教えない教育では、自分の中の考えをまとめて実行したり、相手にわかりやすく伝えたりすることが必須です。その結果、子どもは、自分の意見を言うことに慣れていき、やがてプレゼンテーション能力が向上していくことも期待されています。・問題解決能力が伸びる子どもが自分なりに試行錯誤することで、納得のいく答えを導き出したり、自分の本意とは違う結果を受け入れたりする場面が、教えない教育ではたくさん存在します。そうした経験をした子どもは、問題にぶち当たった時にも諦めたりせず、どうすれば解決できるのかをしっかりと考えることができるのです。・知的好奇心が伸びる教えない教育を行うと、子どもは新しい発見にたくさん出会います。その結果、自分で考えることの楽しさや、気づくことの喜びを知っていくようになり、知的好奇心がどんどん伸びていきます。子どもが「学びたい」と思える環境づくりのコツ教えない教育を通して、子どもが自ら「学びたい」と思えるようにするために、以下に取り組んでみましょう。・子どもが集中している時は見守る子どもが何かに集中している時間は、まさに「自ら学んでいる」状態です。そんな時はついつい「すごいじゃん!」「ママ(パパ)にも見せて!」などと声をかけたくなりますが、その気持ちをぐっとこらえて見守るようにしましょう。教えない教育では、子どもが行なっていることに親がやたらと手出しをするのではなく、子どもが安心して集中できる環境を整えてあげることこそが重要とされています。・自然の中で遊ばせる自然には、木の香りや太陽の光、土の感触や鳥の鳴き声など、五感への刺激が溢れています。脳科学分野の権威である小泉英明氏は、自然がもたらすさまざまな刺激についてこう述べています。「光、音、様々な形や色、感触――自然は、意図しない刺激に満ちています。一方、人間が与える教育は、意識上の言語で作られたもの。良い教育をしているつもりでも知らず知らずのうちに意識下への刺激がカットされて、刺激が狭められてしまう危険性があるのです」(引用元:日経DUAL|“教えない”早期教育を脳科学者らが勧める理由)さらに小泉氏は、意欲ややる気にかかわっている脳の内側を鍛えるためには、ひらがなや数字を教えるといった知育的な学びよりも、まずは自然に触れることが大切だとおっしゃっています。子どもと自然がいっぱいの公園などで遊ぶのはもちろん、キャンプや農作業体験をするのも、教えない教育の一環として有効です。・子どもの質問にすぐ答えを出さない子どもに「どうしてこれはこうなるの?」と質問されたら、「それはこうだからだよ」と答えを教えて説明する親は多いでしょう。しかし、それでは子どもの考える機会を奪うことにつながる場合もあります。そのため、子どもに質問されたら「どうしてだと思う?」と質問返しをして、子どもなりの考えを引き出しましょう。そうして自分の考えを言えたら「しっかり考えたんだね」と褒めてあげるのがコツです。そんなやりとりを通して、子どもは考えることの楽しさを覚えていきます。***昨今では、低年齢から塾や習い事をする子どもも多く、親はつい「うちの子にも何かさせなければ……」と焦りがちです。しかし、何かを教えたり与えたりする教育だけでなく、あえて教えない教育も、子どもの成長を促すことを知っておきたいですね。文/田口るい(参考)プレジデントオンライン|ペラペラな親ほど早期英語教育に“冷淡”日経DUAL|“教えない”早期教育を脳科学者らが勧める理由プレジデントオンライン|自ら机に向かう子の親が欠かさない習慣日経ビジネス|先生が「教えない」ほうが学力は伸びるぎゅってweb|一生モノの「集中力」は子どものときにベネッセ教育情報サイト|どうなる?大学入学共通テスト小学生のうちから「考える」習慣づけが大切に!?Study Hackerこどもまなび☆ラボ|2020年度から「大学入学共通テスト」がスタート!親が今からやっておくべきことは?
2019年05月17日幼い子どもがいる親御さんには、小学校での勉強に子どもが置いていかれないようにと、いわゆる就学前教育を検討している人もいるはずです。でも、発達心理学と認知心理学の専門家である十文字学園女子大学の大宮明子先生は、「いわゆる先取り学習にはあまり意味がない」と語ります。しかし、就学前教育のやり方次第では、その後の学力の伸びを左右する大きな効果も期待できるのだそうです。その鍵を握るのは「語彙力」です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)先取り学習にはあまり意味がない?就学前教育はおおまかに3つの種類にわけられます。ひとつはピアノなどの音楽、お絵描きといった芸術系の習い事。もうひとつがスイミング、体操、リトミックなどの体育系の習い事。そして3つ目が、小学校で学ぶ内容のいわゆる先取り学習、知育系の教育です。就学前教育といった場合、最後の知育教育をイメージする親御さんが多いようです。そして、その効果も気になるところ。たとえば幼児期に先取りして漢字を覚えれば、小学1年の段階ではやっていない子どもよりは国語の成績は良くなります。それは至って当然のことですよね。でも、追跡調査をしてみると、じつは小学2年の1学期が終わる頃にはほとんど差がなくなってしまうのです。つまり、先取り学習にはあまり意味がないといっていいかもしれません。ここで、多くの親御さんが持っている誤解を解いておきましょう。全国には49の国立大学付属幼稚園があります。いわゆるエリートコースの幼稚園と思われているのですから、それらの園では先取り学習をしていると思うのが自然ですよね。でも、実際のところ、いっさい勉強をしていません。ひらがななどの文字学習もまったくやらないのです。これには明確な意図があります。平成30年に幼稚園教育要領と保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改訂され、幼稚園や保育所では「遊びを主体とした学び」を小学校以降の学びにつなげていくという方針が明文化されました。国としても、幼いときには子ども一人ひとりが自主的に好きなことをとことんやっていく、遊んでいくことが将来的な学びの力につながると考えているわけです。幼児期の語彙力がその後の学力を予測するでも、親御さんはやっぱり不安なのでしょうね。「そうはいっても、小さいときから勉強をしたほうがいい」と考えてしまう。もちろん、知育系の教育にしろ、芸術系、体育系の習い事にしろ、子ども本人が「やりたい!」と思っていることなら、さまざまなものを得ることができるでしょう。そのなかでも、わたしが注目しているのが語彙力です。わたしも携わったある研究では、なんらかの習い事をしている子どもは、一切習い事をしていない子どもより語彙力が高いという結果が出ました。大好きな習い事をしていれば、先生や同じ教室に通う友だちとも積極的に話すことになります。そのコミュニケーションによって、語彙力が伸びたのだと推測できます。ただ、面白いことに、知育教育を受けた子どもが、たとえば体操教室に通った子どもより語彙力が高いかというと必ずしもそうではありませんでした。語彙力というと、知育教育で伸びるイメージを持つと思います。でも、なによりも言葉は実際に使わないと身につきません。語彙力の伸びという点では、習い事の種類ではなく、習い事をすること自体に意味があるのです。そして、語彙力と学力には非常に強い相関関係があります。幼児期の語彙力が高いほど、小学校以降の学力が伸びることがある研究であきらかになっているのです。その理由について、わたしの考えをお伝えしておきましょう。語彙力というと、たくさんの単語を知っていることだと思うものですよね?もちろん、ある程度の数の単語を知っていることも重要ですが、その使い方も知っておかなければ、本当の意味で語彙力があるとはいえません。小学校以降になると、たとえばテストの問題文に使われているそれぞれの単語がいったいどういう意味を持ち、ひとつの文としてなにを要求しているのかを理解する必要があります。幼児期に触れる具体物を指す言葉とちがって一気に抽象度が上がり、そういう内容も含めて理解できる語彙力が求められることになる。高い語彙力を幼児期に身につけておけば、勉強の最初の段階(小学校)でつまずくこともないでしょう。だからこそ、幼児期の語彙力が学力の伸びに大きく関与していると考えることができるのです。楽しく豊かな会話が子どもの語彙力を伸ばすそうなると、「幼いときから子どもの語彙力を伸ばしてあげたい」と親御さんは考えますよね。そのために親御さんができることは、日常で豊かな会話をするということ。豊かな会話とは、なるべく具体的な言葉を使う会話です。「こそあど言葉」を多用する家庭で育った子どもとそうではない子どもでは、後者のほうが小学校の成績が優秀だという研究結果があるほどです。「これ」とか「それ」は、会話相手が目の前にいるのなら通じる言葉ですよね。でも、隣の部屋にいる人に「それ、取って」といったところで、話は通じません。はっきりと対象物を名前でいって、どうしてほしいかということまで動作を表す言葉を使っていわなければ意図が伝わらないからです。「それ、取って」ではなくて、「テレビの横にあるリモコンをわたしのところに持ってきて」といった具合です。ちょっと回りくどいようですが、そういった積み重ねが子どもの語彙力を大きく伸ばすことになります。わたしもずいぶんたくさんの家庭を追跡調査してきましたが、やはり親御さんがきちんとした言葉を使っている家庭の子どもの語彙はとても豊富だという実感があります。子どもは周囲の大人を真似して言葉を覚えますから、それも当然のことかもしれませんね。ですが、「きちんと具体的に話さなきゃ……」と思うあまり、親御さんが自然にしゃべれなくなってしまっては本末転倒です。大人でもつねに厳密な日本語を使っているかというとそうではないですよね。こそあど言葉をなるべく使わないようにするという意識は重要ですが、そのことに余計に注意を向けることなく、まずは、子どもとの会話を楽しむことを心がけてください。お父さん、お母さんとの楽しい会話こそ、子どもの語彙を豊かにしていくものなのですから。『幼児期からの論理的思考の発達過程に関する研究』大宮明子 著/風間書房(2013)■ 十文字学園女子大学教授・大宮明子先生 インタビュー一覧第1回:東大・京大・司法試験・医師試験の合格者たちが、幼児期に共通してやっていたこと第2回:「ママがやって」と言われたら黄色信号。子どもの考える力を奪う親のNGワード第3回:「親の言葉遣い」に見る、成績優秀な子が育つヒント。語彙力が伸びる会話の特徴第4回:絵本の目的は学びにあらず。子どもの興味の芽を摘む、読み聞かせ後の「最悪の質問」(※近日公開)【プロフィール】大宮明子(おおみや・あきこ)6月5日生まれ、東京都出身。十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科教授。1988年、中央大学法学部法律学科卒業。1997年、お茶の水女子大学教育学部教育学科心理学専攻3年次編入学。2001年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科発達社会科学専攻博士前期課程修了。2008年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻博士後期課程修了。人文科学博士。発達心理学、認知心理学、とくに子どもの思考の発達、乳幼児期の親子の関わりを専門研究分野とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月10日親子のコミュニケーションの一環として、あるいは寝かしつけのおともとして、多くの家庭で取り入れられている「絵本の読み聞かせ」。しかし、「なんとなく教育によさそうだからやっているけど、どういいのかはわからない」という親御さんも少なくありません。絵本の読み聞かせには、子どもにとってたくさんのメリットがあります。具体的に知っておいて損はないはずです。とりわけ、学びに関するメリットについては、「こどもまなびラボ」の読者のみなさんにとっても興味深いものではないでしょうか。今回は、絵本の読み聞かせのメリット——なかでも学力向上につながる効果と、それを高める読み聞かせ方をご紹介します。絵本は「心の脳」に働きかける!?子どもに絵本を読み聞かせると、その内容に応じて子どもがニコニコしたり、目を見開いたりする様子が見られます。ときには、日常生活では見られないような複雑な表情をすることも。そんな我が子の一面を見て、読み手である親もうれしい気持ちになるでしょう。このように、読み聞かせ中に聞き手である子どもの表情がクルクル変わるのは、子どもの脳内で喜怒哀楽を司る大脳辺縁系が活発に動いているから。元東京医科歯科大学大学院教授の秦羅雅登先生は、大脳辺縁系のことを「心の脳」と表現し、それが子どもにどんな影響をもたらすか次のように説明しています。読み聞かせは子供の「心の脳」に直接働きかけることがわかっています。言葉はわからないけど「心の脳」はしっかり働いて、うれしい、たのしい、こわい、悲しいがちゃんとわかる子が育ちます。(引用元:東京都教育委員会|脳科学の先生が考える“絵本の読み聞かせ”って?)スポーツにトレーニングが欠かせないのと同じように、脳も使わなければ発達しません。「心の脳」も同様です。絵本の読み聞かせにより、「心の脳」をしっかり動かし、発達させることで、感情が豊かになっていきます。また、「心の脳」が発達すると、その子の行動も発達するといいます。心がうれしい、楽しいと感じれば、「もっとやりたい」と思って行動するし、悲しい、怖いと感じれば、「やめよう」という判断ができるからです。絵本の読み聞かせは、子どもの脳に働きかけ、心や体を動かす糧となることがわかります。語彙力を鍛え、学力向上にも効果あり!絵本の読み聞かせの効果は、それだけに留まりません。学力向上にも効果があるのです。「2013年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」(国立大学法人お茶の水女子大学)をもとにつくられた、絵本の読み聞かせと学力の関係を示すデータがあります。それによれば、子どもが小さい頃絵本の読み聞かせをしていた家庭の子どもは、そうでない家庭の子どもより、国語と算数の正答率が高かったのだそう。小学6年生と中学3年生を対象とした調査ですが、その傾向は両方に見られました。一方で、2015年に実施された「大学生意識調査-東京大学編」(KUMON)では、「子どものころ、親にしてもらって感謝している教育とは?」という問いに対する東大生の答えで最も多かったのが、「本の読み聞かせ」でした。つまり、実際に学力の高い学生の多くが、小さい頃に絵本の読み聞かせをしてもらい、それがよかったと感じているということです。なぜ、絵本の読み聞かせで学力が向上するのでしょうか。絵本スタイリストの景山聖子さんは、その要因のひとつに「語彙力」を挙げます。ここでいう語彙力とは、どれだけ多くの言葉を知っているか、その言葉をどれだけ適切に使えるか、を示す力のこと。景山さんは、次のように説明します。お子さんに絵本を読み聞かせてあげるだけで、自然と語彙力が鍛えられます。その上、多くの言葉を理解することで、文章理解力も増します。さらには、小学校で全教科の先生の話がより深く理解できるようになります。その結果、学力の高い子どもが育ちます。(引用元:Study Hackerこどもまなびラボ|「読み聞かせ」でなぜ学力が上がるのか?絵本がもたらす ”驚きの効果”)景山さんの言うとおり、語彙力や文章理解力は国語のみならず、全教科で活かされます。言葉や文章がまったく使用されない教科はないからです。逆に、語彙力が乏しいと、授業中に先生が何を言っているのかわからない、テスト中に問題文の意味が理解できない、なんてことも起こりえます。絵本の読み聞かせで鍛えられた語彙力は、学校に入ってからの学びをそっと支えてくれるでしょう。効果を高める読み聞かせ方とは!?では、こうした効果をより高めるには、どのように読み聞かせればいいのでしょうか。まず、読み聞かせる絵本の選び方としては、毎日違う絵本をたくさん読み聞かせるより、同じ絵本を繰り返し読み聞かせるほうが、語彙力を鍛えるのには効果的であるといえます。イギリスで行われた研究では、1冊の絵本を何度も読み聞かせたグループと、複数の絵本を読み聞かせたグループで覚えた単語数を比較したところ、前者が後者の2倍も多く覚えたのだそうです。一方で、「ただ読むだけでは、理想的な語彙力や文章理解力はつきません」と、教育環境設定コンサルタントの松永暢史さんは言います。松永さんが効果的な読み聞かせ方として推奨しているのは、絵本に書かれた一字一字のすべてをハッキリ発音する、「一音一音ハッキリ読み」です。街中で移動販売車から聞こえてくる、「いしや〜きいも〜」「たけや〜さおだけ〜」などの呼びかけをイメージするとわかりやすいかもしれません。一音一音切って、下記のように母音を正しく発音し、口を大きく動かして読み聞かせます。「あ」→最大限に口を開く発音。自分の口にゲンコツを入れるイメージで広げ、腹の底から音を出す「い」→「あ」の状態から左右を思いっきり口を引き裂くイメージで。「う」→口を前にとがらせて、しっかり止める。「え」→唇を少しかたくして、口をやや縦に開いて発音する。「お」→口を結びかけて下あごを下げ、口の中に空洞を作る。(引用元:EhonNavi|『将来の学力は10歳までの読書量で決まる!』松永暢史さんインタビュー)この読み聞かせ方をするときは、子どもにわかりやすいように言い換えたり、抑揚をつけたりする必要はありません。子どもの耳から体内へ注入させるようなイメージで、ゆっくり淡々と読み聞かせるのがポイントです。なお、集中力のない子や、じっとしていられない子に読み聞かせるときは、親子で一緒に寝転がって読むとうまくいくかもしれません。松永さんによれば、この読み聞かせ方を実践した親御さんから、「今まで、じっと聞いていられなかった子どもが、じっと聞いている」という報告があったそうです。読み手がしっかりと言葉を発することで、聞き手もしっかりとその音を聞き、言葉のひとつひとつを理解しようとするのでしょう。***絵本の読み聞かせのコツについては、あらゆる媒体で様々な情報が公開されています。大切なのは、読み手である親御さんがいろいろ試してみて、一番楽しく読み聞かせることができるやり方を知ることです。読み手が楽しめなければ、聞き手も楽しめませんし、長続きしません。親子で一緒に楽しむことが、絵本の読み聞かせの最大のコツといえるのではないでしょうか。(参考)東京都教育委員会|脳科学の先生が考える“絵本の読み聞かせ”って?Study Hackerこどもまなびラボ|「読み聞かせ」でなぜ学力が上がるのか?絵本がもたらす ”驚きの効果”Study Hackerこどもまなびラボ|「東大生が親に感謝していること」堂々1位!本の読み聞かせの効果と “学力を上げる” 本の選び方。EhonNavi|『将来の学力は10歳までの読書量で決まる!』松永暢史さんインタビューStudy Hackerこどもまなびラボ|国語力は“〇〇の音読”で爆発的に伸びる。読むだけで子どもの頭がよくなる名作本の選び方
2019年05月06日子どもたちに「好きな遊びは?」と聞くと、必ず上位に入ってくるレゴブロック。最近ではレゴ(R)スクールも街中でよく見かけるようになりましたし、レゴ(R)を使ったロボットプログラミングなど、教育の分野でも注目されています。筆者はレゴ(R)世代ではないのですが、10年ほど前に幼児教育関連の仕事で「レゴ(R)×英語」のコラボに出合いました。レゴ(R)のデザイン性、そしてバリエーション豊富な色や形は子どもたちに英語を教える上でぴったりの教材です。今回は知育玩具としても人気のレゴ(R)を使って、自宅でできる英語遊びを紹介します。どのタイプのレゴ(R)を使うの?レゴ(R)にはたくさんの種類がありますが、今回の英語遊びにおすすめは、「レゴ (LEGO) デュプロ 基本ブロック (XL) 6176」です。対象年齢が1歳半~となっており、ブロックが大きめなので、子どものレゴ(R)デビューにはぴったり。対象年齢4歳~のレゴ(R)クラシックが使えるようになるまでのつなぎかと思いきや、レゴ(R)クラシックとの互換性もあり、現在小学4年生になる息子も長くお世話になりました。上記製品ではなくても、デュプロシリーズであれば、組み立てやすく、はずしやすいので、英語の指示にすぐに対応できます。まずは色からはじめよう!レゴ(R)デュプロの基本ブロックには赤、オレンジ、黄色、黄緑色、緑色、青、白、黒の8色+スカイブルー(透明)(red / orange / yellow / yellow-green / green / blue / white / black + transparent blue)が含まれています。[caption id="attachment_710762" align="alignnone" ][/caption]まずは“What color is this?” (この色は何色?)“It’s red!”(赤!)のQ&Aでリズムよく色の単語のやりとりをしましょう。次に数を覚えてみよう!実際に指示を出す時にブロックの数を指定しなくてはいけないので、数の数え方を練習します。1~10までの数でしたら、子どもは歌であっという間に覚えてくれます。軽快なリズムの"Seven Steps"やジェスチャーが楽しい"Five Little Monkeys"などがおすすめ。動画サイトで検索すると色々なバージョンの数え歌が楽しめます。最後に大きさを覚えてみよう!ひと通りの色と数を英語で覚えたら、今度は大きさを覚えます。形は大、中、小(large / medium / small)の3種類。“What size is this?” (この大きさは?)“It’s small!”(小さい!)こちらも色と同様にリズムよく覚えましょう!準備ができたらお花作りスタート!まずは使うブロックの指示をします。今回使うブロックはこちらです。[caption id="attachment_710763" align="alignnone" ][/caption]"Let’s pick up 1 medium green block, 3 small green blocks, 2 medium red blocks, 2 small red blocks, and 1 small yellow block."(中くらいの大きさの緑色のブロックを1個、小さい緑のブロックを3個、中くらいの大きさの赤いブロックを2個、小さい赤いブロックを2個、小さい黄色いブロックを準備しましょう)ゆっくりとわかりやすく、ジェスチャーを交えながら、ブロック選びの指示を出していきます。"Connect 2 small green blocks."(小さな緑色のブロック2個をくっつけて)慣れてくれば、"Connect"や"Add"などの指示を出してもよいですが、初級編としては、シンプルに次に使うブロックの色と数、大きさを教えて、あとはジェスチャーで伝えるのがおすすめです。[caption id="attachment_710764" align="alignnone" ][/caption]ゆっくりと色と数、大きさを伝えながら組みたてていくと…お花の完成です!わが家では3歳から英語でのレゴ(R)遊びをスタートさせ、お花から、ゾウ、キリン、トラック、カメラ…小学校入学前には家やドラゴンなどの超大作も作っていました。息子は、英語で会話をする際に必要とされる基本の単語も、英語でのレゴ(R)遊びで覚え、4歳でアメリカへ行った際も、筆者の友人たちと英語でしっかりコミュニケーションがとれていました。ちなみに作品の作り方は親が動画サイトなどで調べて、先に英語で覚えなくてはいけないので、大人の脳トレにもぴったり。そして、作品が完成したら、その作品で子どもとたっぷり遊ぶことがまた大切!レゴの楽しさも英語の楽しさも広がります。レゴ(R)と英語のコラボで子どもも大人も楽しく遊んで学びましょう!<参考商品><文・写真:フリーランス記者稲井華子>
2019年05月01日先行きが見えないといわれるいまの時代に子育てをしていると、親はこれまで以上に子どもの将来を心配しているかもしれません。そのため、親の注目を集める新しい教育手法が次々に生まれています。アクティブ・ラーニングやプレイフル・ラーニングと呼ばれるものもそれらのひとつです。人の学習について研究をしている慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみ先生に、アクティブ・ラーニングやプレイフル・ラーニングの要素を家庭教育に取り入れるためのアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)学びは夢中になる行為の副産物皆さんは、人がいちばん学べるときはどんなときだと思いますか?それは、自分で「楽しい」と感じていて、それをもっと「知りたい」「やりたい」と思っているときです。もしかしたら、本人は学んでいるつもりがないかもしれません。でも、楽しくて夢中になる行為の副産物として「学び」が残るのです。そういう過程で得た学びがいちばん深く定着する学びになるという考えから、いま教育界には「プレイフル・ラーニング」というものが広まりつつあります。簡単にいえば、遊びと学びが連動していて、「遊びながら学ぶ」というものです。遊びというと、たとえばアウトドアで体を動かすような遊びなどをイメージしがちだと思いますが、じつは学校での授業も内容によってはプレイフル・ラーニングと呼べるものになり得ます。本当に生き生きしている学級では、学び自体が完全に楽しく、ワクワクするものになっているのです。その内容は、先生が睡眠時間を惜しんでひたすら考えてお膳立てをしたというようなものではありません。大切なのは、子どもになにをしたいのかを尋ねて子どもに決めさせること。同じものを学ぶにしても、子どもに主体を持たせるというわけですね。知識は他人が入れようとして入るものではないこれまでの教育のほとんどは、学習指導要領をいかに解釈して、どれだけ効率的に子どものなかに知識を入れられるかという視点でおこなわれていました。そして、そういった授業こそがいいものとして評価されてきたのです。でも、じつは、「生きた知識」は外から「入れ込む」ことはできないものです。とくに、子どもが興味を持っていないことに関しては、外から入れようと一生懸命に教師が頑張っても、それは子どもを素通りしてしまいます。多くの人が、なにかをわかりやすく説明してもらえればすべて理解できると考えます。でも、人がどのように情報処理をするかという観点から考えると、どんなにわかりやすく説明されたとしても、10の内容のうち3くらいが記憶に残れば上出来だといえます。なぜなら、人間の注意や記憶に限界があるからです。説明された直後は、誰もがすべて理解できたつもりになります。でも、10の内容すべてに注意を向けて、そこで得た内容がこれまでの知識と結びつき、10の内容すべてがずっと残るということはあり得ないのです。でも、自分が興味を持っていることなら話は別。自分が主体的に働きかけて疑問に思ったこと、知りたいと思って調べたり聞いたりして発見したことは確実に残っていきます。そういう学びこそ、プレイフル・ラーニングなのです。重要なのは形式ではなく学び手の主体的な行為子ども教育に興味がある人なら、「アクティブ・ラーニング」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。一般的には、議論形式やグループ形式の学習方法を指すことが多いものです。でも、アクティブ・ラーニングは、特定の学習形式を指すものではないとわたしは考えています。座学形式ではなく、グループでわいわいと勉強すればアクティブ・ラーニングになるわけではありません。アクティブ・ラーニングとは、子どもたちに知識を入れるのではなく、子どもたち自身が主体的に知識を得ようとする学習のこと。無理やりグループ形式の学習を押しつければ、子どもがアクティブになるのでしょうか?一方、子どもたちが主体的となり「自ら学ぼう」という姿勢を持てば、これまでと変わらない座学形式であっても、それはアクティブ・ラーニングといえます。そういう学びこそが、本当に実社会で役立つ「生きた知識」を生んでいくのです。もちろん、アクティブ・ラーニングと同様に、プレイフル・ラーニングもある形式を指すものではありません。ダンスや体操を通じて学ぶというプレイフル・ラーニングも存在しますが、子どもが興味を持っていないのに、大人が設定した場に子どもを押し込んでも、プレイフルではないのです。逆に、はたから見れば遊んでいるようには見えなくても、子ども本人が楽しんでいれば、その学びはプレイフル・ラーニングといえます。アクティブ・ラーニングもプレイフル・ラーニングも、学び手の能動的な行為によって定義づけられるものなのです。ここまでの話を聞くと、「子どもがあまり興味を持っていないのに、親が家庭教育をすることにもあまり意味がないのではないか?」と考える人もいるかもしれません。でも、そこであまり難しく考えてほしくはありません。家庭での教育をアクティブでプレイフルなものにすることはそう難しいことではないからです。親が子どもと一緒に遊びながら学ぶ。それがいちばんの方法です。子どもは、無条件にお父さんやお母さんのことが大好き。そんな大好きな親となにかを一緒にすることがいちばんうれしく、ワクワクしながら多くのことを学ぶことができます。家庭で学ぶものは、子どもが興味を持っているものならどんなものでもかまいません。昆虫かもしれないし、怪獣かもしれない。子どもが大好きなものなら、それについてお父さんやお母さんが、逆に教えられてしまうなんてこともあるはずです。そんな時間は、子どもにとっては本当にうれしいもの。そして、「学ぶよろこび」を得ることにも大きくつながっていくのです。『科学が教える、子育て成功への道』キャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ 著今井むつみ、市川力 翻訳/扶桑社(2017)■ 慶應義塾大学環境情報学部教授・今井むつみ先生 インタビュー一覧第1回:我が子の「成功」を願う親が、絶対に伸ばしてやるべき子どもの“力”第2回:小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない第3回:「コミュニケーション能力を重視しすぎ」な親が、犯しかねない過ちとは第4回:家庭での学びが「アクティブ」で「プレイフル」になる、いちばんの方法【プロフィール】今井むつみ(いまい・むつみ)慶應義塾大学文学部西洋史学科卒、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、ノースウェスタン大学心理学部博士課程修了。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。とくに語彙(レキシコン)と語意の心のなかの表象と習得・学習のメカニズムを研究している。著書に『学びとは何か――<探求人>になるために』(岩波書店)、『言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで』(筑摩書房)、『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月29日この連載のタイトルは「ものがたりが開く世界への扉」ですが、ちょっと目を上に向けていただけるとサブタイトルが見えるかと思います。「子どものための英文学」となっていますね。一番最初の記事ではこんな風に書きました。実は「英文学」というくくりには数多くの問題があるのですが、とりあえず、今の段階では「英語で書かれた」「主にイギリスの」文学、としておきましょう。堅苦しく考えることはなく、ピーター・ラビットも、不思議の国のアリスも、ハリー・ポッターも英文学の世界の住人です。(引用元:StudyHackerこどもまなび☆ラボ|英語をただ学ぶだけでは身につかない?英文学から得られる文化的な読解力「文化リテラシー」)ここで言っている「数多くの問題」について、今日は「英」の部分を取り上げて、少しだけ考えてみましょう。お父さんとお母さんが気付いているかどうかで、物語を読んだ後の子供への声がけが変わってくるでしょうし、そもそもどんな本を子供と読むべきかという判断も変わってくるだろうと思うからです。「国」と「言葉」と「物語」は一直線ではつながらない?「英文学」の「英」とは、「英語」なのでしょうか、「英国」なのでしょうか?さらにいえば、「英国」はいつの時代のことをさしているのでしょう?かつて大きな帝国を持っていたイギリスの国境は、時代によって大きく動きます。そのうちの、どの国境が「英文学」について話をする時に適用されるのでしょう?今年2月に公開されたディズニー映画『メリー・ポピンズリターンズ』を親子で観に行ったという方もいるかもしれません。その原作となった、古典的な児童文学の名作『メアリー・ポピンズ』を例にあげてみましょう。ロンドンを舞台にした、とてもチャーミングで人気のある物語です。けれども、原作の作者のP.L. トラヴァースは、オーストラリア生まれです。子供時代をオーストラリアで過ごし、大人になってからイギリスに移住しました。イギリス生まれの父親を持ち、オーストラリアとイギリスの二重国籍者です。さて、『メアリーポピンズ』は英文学でしょうか、それとも、オーストラリア文学でしょうか?英語話者=50数ヶ国語話者!?○ヶ国語という表現の落とし穴「英文学」という言葉の中には、「国」や「言葉」や「文学」に関わる概念が複雑に入り混じっています。この国と言葉と物語の関係性について、子供達にできるだけ柔らかい態度を持っていてもらいたいのです。多くの日本の人は、なんとなく漠然と「言葉」と「国籍」と「住んでいる国」がきれいな形で繋がっていると思っています。けれども実際は、言語と国籍と居住国は、必ずしも一致するとは限りません。日本語が使える外国人は数多くいますし、日本語しか使えない外国籍の人も数多くいます。私も含め、日本の外に住んでいる日本人も少なくありません。生まれた時の国籍と、大人になった時の国籍が異なる場合だってあるでしょう。英語という言語は一つですが、英語を公用語とする国は現在50を超えるはずです。つまり、英語と日本語を話す私は基本的には2言語話者ですが、屁理屈を言えば50数ヶ国語話者でもあるのです。「○ヶ国語」のように、「国」と「言葉」を一本の線で結びつけて言語や社会を理解しようとすることに、そもそも無理があるのかもしれません。「単なる日本語の表現の問題じゃないの?」と思われるかもしれませんね。確かに、「2言語」というのか「2ヶ国語」というのかは、とてもささいなことです。けれど、国や言葉、文化について考えていく、とても身近なきっかけでもあります。それを潰して欲しくはないなあ、とも思うのです。言葉と文化と国の関係に柔軟な姿勢を、幼少期から育むためにこれから先、子供達が暮らしていくであろう世界は、必ずしも国と言葉と文化や文学が一本の線で単純につながっていくような世界ではないだろうと予想がつきます。「イギリスに住むイギリス人が、母語である英語を使ってイギリス人の心を描いたのが英文学」と単純にくくることができないように、「日本に住む日本人が、母語である日本語を使って日本人の心を描いたのが日本文学」と言うことが適切でない世界に、子供達は育っていくでしょう。細かいことを言えば、これからの子供達がそういう世界に育っていくのではなく、もともと世界はそういうもので、今まで私たちの多くが気づかなかっただけなのかもしれませんね。「英文学」「英語の物語」という言葉を聞いた時に、「イギリスの」あるいは「アメリカの」物語だけを思い浮かべるのではなく、もう少し、広い世界を想定できること。そして、「国、言葉、文学(文化)」が一直線で繋がらない、という、シンプルだけれどとても重要なことを理解していること。言葉と文化と国の関係に柔軟であることは、やがて子供達が、自分の暮らす社会や、もっと広い世界を理解しようとする時に、手助けになるだろうと思うのです。英語の物語の世界の広がりを味わえる絵本様々な歴史のせいで、世界のあちらこちらで使われている英語は、国と言葉と文化は多元的・流動的だという実感を育むために、良い下地を作ってくれるのではないかと思います。英語で書かれた物語の世界の広がりを感じさせる作品を、いくつかご紹介しましょう。まずはオーストラリアの子供だったら、誰でも必ず読んだ事のある絵本、Possum Magic(『ポッサムの魔法』本邦未訳)。オーストラリアの記念硬貨にモチーフが使われたことがあるくらい、よく知られた作品です。ポッサムはオーストラリアの動物です。日本の方にはあまり馴染みがないかもしれませんね。おばあちゃんポッサムが魔法を使って孫娘を透明にするのですが、元に戻すことができなくなってしまいます。孫娘をもう一度見えるようにするために「人間の食べ物」を食べるのです。オーストラリアの動物たちとオーストラリアの名物料理がたくさん並ぶ、楽しいお話です。数多くの読み聞かせ動画もあります。台湾系アメリカ人作家によるA Big Mooncake for Little Star(『小さなお星さまの大きな月餅』本邦未訳)も可愛らしい物語です。舞台は空。お母さんが作った大きな月餅を、本当は食べちゃいけないのに、食べてしまいたい小さなお星さま。月餅は、台湾では重要な民俗行事、中秋節(旧暦8月15日)に、お月見をしながら食べるもの。なんとも微笑ましいお話です。中国やアフリカの赤ずきんちゃん!?日本語訳もある絵本中国生まれの作家、エド・ヤングによる『ロンポポ——オオカミと三人のむすめ』は、中国に伝わる民話を元に、英語で書かれたお話です。1990年、アメリカで出版されたもっとも優れた児童文学に授与されるコールデコット賞を受賞しました。英語版では「中国の赤ずきん」という副題で愛されています。南アフリカの作家ニキ・ダリーによる『かわいいサルマ』。こちらの副題は「アフリカのあかずきんちゃん」。原色の挿絵が美しいだけでなく、街角の様子も楽しいのです。英語の読み聞かせもネット上で見つけることができます。文化や言葉は国境を超えていきます。最初から難しいことを子供に説明する必要はありません。世界のあちらこちらで描かれている物語を楽しみながら、いずれ、大きくなってきたときに、ほんの少し、言葉と文化と物語の関係を考えてもらえるといいな、と思うのです。英語で書かれた物語の中には、世界の様々な地域へと扉を開いていくものが確実にあるからです。(参考)映画.com|メリー・ポピンズリターンズMem Fox, Possum Magic, (LindfieldL Scholastic Australia, 2018., 初版1983)Grace Lin, A Big Mooncake for Little Star (New York: Little, Brown and co., 2018)エド・ヤング『ロンポポ——オオカミと三人のむすめ』(古今社、1999年)ニキ・ダリー『かわいいサルマ——アフリカのあかずきんちゃん』(光村教育図書、2007年)
2019年04月18日「将来、子どもが英語を話せるようにするためにはどうしたらよいですか?」これは私が幼児の英語教育に携わってから、一番よく聞かれる質問です。2020年度に全国の小学校で英語教育が必修化することを受け、英語教育を重視するママが増えています。そんな教育熱心なママたちからの質問の中には「あれ?」と感じてしまうものも。今回は私の経験も含めながら、みなさんが勘違いしているかもしれない英語教育のいろいろをQ&A形式で紹介したいと思います。Q. 英語耳・英語脳は6歳までしか育たないの?A. 幼児期(1~6歳)は「聞く」と「話す」がとても得意な時期です。そして、リスニング能力については、やはり早い時期から英語を始めた子どものほうが発音が良いと感じます。でも、6歳を過ぎても英語耳、英語脳を育てることは可能です。私の経験の範囲内ですが、年齢に関わらず、良い耳を持つ人は日本語にない"R"と"L"の聞き取りもできますし、聞き取りができれば、その音を自分で作り出すこともできます。英語と日本語は周波数が違う、音節が違うから聞き取りづらいなどと言われますが、大人になってから環境や勉強法で克服し、ネィティブ並みの発音を身につけている人が私の周りにはたくさんいます。Q. 英語に興味がないわが子。英語を学ばせるのはムリ?A. 子どもが英語に興味がないと悲しんでいる人は、まず自分が英語に興味があるかを考えてみましょう。私が英語を学ぶ上で一番大切だと思うのは、子どもだけでなく、大人も一緒にやってみること。一番効果的なのは、で以前にお伝えした、子どもが好きな遊びを英語で大人が一緒にやることです。でも、それが難しい場合は、自分が好きな海外アーティストの曲を子どもに聴かせたり、海外旅行に行ったときのエピソードを話してあげるだけでも大丈夫。家庭で身近に英語の存在を感じられる環境が子どもの言語感覚を養います。Q. 日本人の親が英語を教えるのはよくないの?A. 発音を重視される保護者にはネィティブの先生とのレッスンをおすすめしています。しかし、「英語を嫌いにならない子ども」を育てたいのであれば、日本人のママやパパが英語を教えることに私は大賛成です。幼少期から英語に触れておけば、子どもが成長してやる気になった時にぐんと伸びます。そのためにはやはり子ども本人が楽しめる形を大人が一緒になって作り上げることが一番。幼少期は「大好きなママやパパ」と一緒に「遊びながら学ぶ」ことが、子どもの心も育てます。Q. お金をかけているのにちっとも上達しない!A. レッスンに通わせているのに、英語が身についていない!」という相談もよく受けます。そのような相談に限って「レッスンにさえ通わせていれば大丈夫」と家庭でのサポートがない場合がほとんど。週に1度、1時間程度のレッスンに通わせているだけでは英語は身につきません。家庭で習い事と連動している教材のCDを聴かせ、DVDを見せるのは大切な親の役目。子どもと一緒にCDを聴いて、DVD鑑賞ができればなおよしです。私が教えているクラスの子どもたちも家庭でのサポートのあるなしで、あきらかに習熟度に違いが見られます。英語教育は年齢があがると、子どもの努力も親の努力もより必要になりますが、幼児期に種まきをしておくと、この努力が軽減されます。「大人も一緒に楽しむ」をキーワードにこの春から親子で英語を楽しんでみませんか。<文・写真:フリーランス記者稲井華子>
2019年04月15日「眠育」という言葉はご存知ですか?いま、日本の教育現場において、「眠育」の重要性が叫ばれています。今回は眠育についての解説とともに、規則正しい睡眠が子どもにとってなぜ必要なのか、その理由をご紹介しましょう。睡眠の教育が、今こそ必要なワケとは?「眠育」とは、「睡眠教育」のことを指し、睡眠についての知識と正しい睡眠習慣を身につけることを言います。私たちは知育や体育、食育など、学校でさまざまな教育を受けていますが、睡眠についての授業を受けたことはあるでしょうか。「睡眠なんて単なる休息の時間だから……」と思ってはいませんか?睡眠は人生の3分の1の時間に相当し、もちろん単なる休息ではありません。睡眠は私たちの体を支えて守るという重要な役割を果たすとともに、睡眠中の潜在意識は心のケアも行なっているのです。つまり、眠育は「食育」と同じように、“生きていくために必要な教育”なのです。ところが世界的に見てみると、日本は全体的に睡眠時間が短くなってきていて、きちんと「眠ること」が、大人も子どももできていないのが現状。OECD(経済協力開発機構)が2014年に行った国際比較調査の中で、各国の15歳~64歳までの男女の睡眠時間を比較すると、最も長い南アフリカの9時間22分と比べ、日本人は睡眠時間が7時間43分と、1時間30分以上も短いという結果が出ています。さらに、世界の主要国29カ国の中では、日本は韓国に次いで二番目に睡眠時間が短いことが分かっています。この要因にはスマホやパソコンの普及によって、生活の夜型化が進んでいることが挙げられますが、もうひとつの大きな要因は、日本人の睡眠に対する意識の低さがあると言います。明治以来、教育は「五育」の思想に基づき行われてきました。五育とは体育・知育・才育・徳育そして食育をさしますが、これらはすべて、日中の活動時間になされるものです。睡眠領域については、第六番目の教育として「眠育」が存在すべきあり、老若男女を問わず、すべての世代に伝えられなければいけません。しかし、現在の日本の社会では眠育は全く不十分な状況で、医療関係者にさえ知識がなかったり、睡眠の重要性の認識が薄かったりすることは大問題です。(引用元:日本眠育普及協会|眠育とは)睡眠に対する意識が低く、睡眠時間を十分に取らないことは、心にも体にも影響を及ぼします。そのひとつとして大きな問題になっているのが、小中学校の不登校問題です。2017年度に行った調査によると、小中学校の不登校児童生徒は14万4031人にのぼり、前年度より1万人以上増えていることが分かりました。また、2014年に文部科学省が発表した実態調査では、不登校のきっかけの上位は1位が「友人との関係」、2位が「生活リズムの乱れ」、3位が「勉強が分からない」という結果が出ていて、不登校の原因に生活リズムの乱れが関係しているケースが非常に多いことが分かります。前述のように睡眠は心身のケアをする大事な時間ですから、睡眠時間が削られたり、睡眠の質が低下することは、生活リズムそのものに大きく影響を与えるのです。睡眠不足が子どもの心身に及ぼす影響とは?では、睡眠が足りていなかったり、睡眠のリズムが乱れることは、子どもの心身にどんな影響を与えるのでしょうか。睡眠不足は、成長の遅れや食欲不振・注意や集中力の低下・眠気・易疲労感などをもたらします。子どもの場合、眠気をうまく意識することができずに、イライラ・多動・衝動行為などとしてみられることも少なくありません。また睡眠不足は将来の肥満の危険因子になることも示されています。(引用元:厚生労働省e-ヘルスネット|睡眠不足や睡眠障害、子どもへの大きな影響)成長の遅れや原因不明の体調不良、集中力が続かないなど、体の不調や精神的な問題は、睡眠と切り離して考えがちですが、実は睡眠が大きく関係している場合も考えられます。もし、このように子どもの心身の不調で悩んでいるようなら、しっかりと睡眠が取れているかを一度見直してみることも必要です。たとえば、子どもの睡眠時無呼吸症候群、おねしょ(夜尿)、睡眠時遊行症、いびき、歯ぎしりなど、睡眠障害が原因で睡眠不足になっているケースもあります。その場合は、必要な医療機関に相談・治療することで、症状が改善することもあります。睡眠時の症状は本人では気づかないことですから、親御さんがその症状を見つけてあげ、適切な処置をしてあげることが大切です。また、学習面でも影響があります。健全な生活習慣のある子どもは、そうでない子どもよりも学習意欲が高く、体力・運動能力が高いことがさまざまな調査によって明らかになっています。具体的には、レム睡眠の際に脳内で記憶の整理・定着が行われるのですが、睡眠不足になると学習したことが脳内に定着せず、成績にも関係すると言われているのです。眠育の先進地域では、不登校が減少する成果も!日本では睡眠に関する意識が低く、眠育が遅れていると言われていますが、近年では大阪や兵庫などでは「眠育」がすでに導入されている地域もあります。たとえば堺市の三原台中学校区では、平成27年度から「眠育」をスタートさせました。校区の小中学生全員に睡眠の大切さを説明するリーフレットを配り、年に3回の授業も実施しています。授業では、いつ寝ているのかの「睡眠表」をつけさせ、睡眠の質や量を検討し、問題の多い子どもには、親も交えた面談も行っているようです。ある中学3年の女子生徒は10日出席しては10日休むことを繰り返していた。親が夜も働いており、夕食は午後11時、寝るのは日付が変わった後だったという。親も交えた面談の後、夕食を7時に食べて11時には寝られるようになり、その後は1日も休まず登校した。また、中学2年の男子生徒は連日午前2時ごろまで塾の宿題に取り組み、朝、親が起こすと暴れるように。面談後、塾をやめて夜十分に寝るようになり、家庭内暴力は消えたという。(引用元:SankeiBiz|睡眠の大切さを教える「眠育」って何?規則的な睡眠で不登校予防、家庭内暴力も収まる)このように「眠育」の先進地域では、3年間で不登校率は約37%減るなどの成果が出ています。そして29年度からは、堺市全体で眠育に取り組んでいるのです。家庭で実践したい、規則正しい睡眠のコツいくら学校で眠育が広がっても、実際に睡眠をとるのは各家庭でのこと。子ども自身が睡眠の大切さを知るとともに、親御さんの意識も変えることも必要です。まずは、子どもが快適に眠ることができる寝室の環境を整えたり、バランスの良い食事を用意したりするなど、親御さんが心がけることも必要です。また、質の良い睡眠を取るために、以下のようなことに気をつけましょう。<朝>・毎朝できるだけ同じ時間に起きるように習慣づけ、しっかり朝日を浴びる・朝食は必ずとり、炭水化物、たんぱく質、糖質などバランス良い食事をとる<昼>・しっかり体を動かす・食事はバランスよく、できるだけ同じ時間帯に食べる<夜>・眠る2時間前までに夕食は済ませる。夜は脂質が多いものはできるだけ避ける・眠る30分前にはテレビやスマホなどの画面を見るのは控える・できるだけ毎日、同じ時間に眠る・夜寝ている間は、電気は消す・寝室はこまめに掃除をして、寝具は清潔を保つこのように、睡眠の環境や食事、日中の過ごし方によって、睡眠の質をあげることができます。また、睡眠時間は幼児は10時間以上、小学校低学年は9〜10時間、小学校高学年は9時間、中学生は8時間以上を目安にし、午後7時から午前7時までの間で眠るようにしましょう。****眠りの仕事でもうひとつ大事なことは、「脳を育てる力」です。海馬と言う脳は、新しい知識を蓄えるために最も大事な脳で、唯一細胞分裂して大きくなります。そして、質の良い眠りをすることは、海馬の発育を助けると言われています。お子さんに良い教育を受けさせたいと願う親御さんがほとんどだと思いますが、質の良い睡眠をさせることも同じぐらい大切です。規則正しい睡眠とバランスのよい食事を毎日用意することは、親から子どもへの一番の贈り物ですよ。文/内田あり(参考)西川リビング|眠育公式サイト「キッズの眠育」SankeiBiz|睡眠の大切さを教える「眠育」って何?規則的な睡眠で不登校予防、家庭内暴力も収まるNHK|子どもたちの質の良い眠りが人生を豊かにする日本眠育普及協会|眠育とは日本睡眠科学研究所|日本国内の睡眠事情厚生労働省e-ヘルスネット|睡眠不足や睡眠障害、子どもへの大きな影響
2019年04月09日子どもは褒めて伸ばす――。よく耳にする言葉ですが、とくに最近は教育業界で頻繁に聞かれるキーワードです。そして、EQWELチャイルドアカデミーの主席研究員・浦谷裕樹先生もその重要性には賛同するひとり。先生が注目する、自己肯定感、忍耐力、協調性、やり抜く力、自制心、共感力、リーダーシップ、誠実さ、創造性、コミュニケーション能力といった「心の知能指数」である「EQ」を伸ばすためにも、「褒める」という姿勢は大切な要素だといいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/榎本壮三(インタビューカットのみ)「安心感」が子どもの心と才能を育む子どものEQを伸ばす、心を豊かにするためには「褒める」ことが大切です。そして、まずは「褒める」以前に「認める」必要があります。親に自分の存在を認めてもらえる、丸ごと受け止めてもらえると、「自分はここにいていい存在なんだ」と子どもは「安心感」を得る。この安心感こそが、子どもの心と才能を育むために重要なものだからです。これは大人でも同じではないでしょうか。たとえば、新たに入社した会社にはじめて出勤するときは、誰もがドキドキするものでしょう?そういう心理状態では、なかなか本来の力を発揮できません。でも、新しい会社に徐々に慣れ、上司や先輩に仕事ぶりを認められ褒められれば、「自分はここにいていいんだ」「組織に必要とされているんだ」と思えるようになる。そして、より自分らしく仕事ができるようになり、持っている能力を発揮できるようになるのです。親が子どもを認めることの効果は、東大生へのあるアンケートにも顕著に表れています。そのアンケートでは、「東大生の親の96%は子どもの話をよく聞いた」という結果が示されました。しかも、興味深いことに、これは親ではなく東大生自身におこなったアンケートなのです。東大生が自分の子ども時代を振り返って、「親はよく話を聞いてくれた」と答えたわけです。着目すべきは、親が自分を良く見せようとしたわけではなく、子ども自身が親に認めてもらえたと感じていたということです。もちろん、このことが直接的に学力を高めたとはいえないかもしれません。でも、EQが高まれば、学力がさらに大きく向上することがわかっていますから(インタビュー第1回参照)、親が受け止めてくれたことで子どものEQが高まり、東大に入学できるほどに学力も高まったという推測もできるのではないでしょうか。子どものEQを高める褒め方のコツさて、子どもの存在を認めたら、今度はしっかり褒めてあげましょう。ただ、褒めて伸ばすことが大切とはいえ、やたらに褒めればいいというものではありません。たとえば、いわゆる「能力褒め」は子どもの成長にとってマイナスにも働きます。もともと持っている能力を褒めると、やる気を失ってしまうことにもなるのです。このことは、ある実験の結果ではっきりと示されています。その実験では、まず小学生を対象に知能テストをおこないました。そして、同じくらいの点数だった子どもたちをふたつのグループにわけ、ひとつのグループに対しては「能力」を褒めた。「頭がいいね、かしこいね、天才だね」といった具合です。一方、もうひとつのグループに対しては、「よく頑張ったね、最後までやり抜いたね」といったふうに「努力」を褒めました。その後、2回目のテストではわざと難しい問題を出しました。どちらのグループも能力は同じくらいの子どもたちですから、全員の点数ががくんと落ちます。続いて、3回目のテストでは1回目と同じくらいの難易度のテストを出しました。すると、能力を褒められたグループは1回目より点数が下がったのに、努力を褒められたグループは1回目より点数が上がったのです。これはどういうことなのでしょうか?ポイントは2回目のテストで「点数が下がった」ということです。その要因を、能力を褒められた子どもたちは、「これは自分に能力がないからだ」と考えてしまう。「自分には能力がない、だからこれ以上勉強をしても仕方がない」と勉強をやめてしまった。そして、3回目のテストでは1回目より点数が下がるという結果になったのです。一方の努力を褒められたグループはどう考えるかというと、2回目のテストで点数が下がった要因を「努力が足りなかったからだ」と考える。努力が足りなかっただけなのですから、子どもたちは「もっと頑張ろう!」と思い、いっそう努力をします。そうして、3回目のテストでは点数が上がったというわけです。やり抜く力やチャレンジ精神といったEQの伸びに関して、褒め方のちがいが大きく左右したことの証といえるでしょう。叱るときは子どもを「教え諭すチャンス」もちろん、「褒めて伸ばす」とはいっても、子どもが約束を破った、他人を傷つけたといった問題を起こした場合にはきちんと叱る必要もあります。意識してほしいのは、そういう場面を「子どもを教え諭すチャンス」だととらえるということ。子どもがなんらかの問題を起こしてしまったときは、子ども自身も「まずい、どうしたらいいんだろう……」と思っています。つまり、学びやすいタイミングなのです。そのとき、教え諭すのではなく、「子どもを怒るチャンス」だととらえて感情任せに怒りを爆発させては、子どもはほとんどなにも学ぶことができません。「怒る」のではなく、起こしてしまった問題への対処法を「教え諭す」のです。そのためにも、親自身が冷静になり、「1分以内」くらいの短い時間で叱ることを心がけましょう。お説教が長時間に及ぶと、子どもは途中からなぜ叱られているのかすらわからなくなるものです。結果的に、子どもの行動にはなんの変化も起こらないということになりかねません。もちろん、理性的に叱るべきだと頭ではわかっていても、子どもが起こした問題によっては、つい感情を爆発させてしまいそうにもなるものです。わたしも、こう語りながらも、自分の子どもに対してはそうなってしまいそうになることもありますけどね……(苦笑)。そういうときにおすすめしているのが、「一度、その場を離れる」ということ。物理的に距離を取るのです。「一度、見なかったことにする」といってもいいでしょう。さらには、特定の言葉を使うことも効果的です。「ま、いいか」「そういうこともあるよね」と口にする。これらの行動で、感情ではなく理性のほうに脳がスイッチするため、冷静になれるわけです。子どもをしっかり認めて褒めて、必要なときには怒るのではなく叱る。子どものEQを高めるため、つねに心がけてみてください。『子どもの未来が輝く「EQ力」』浦谷裕樹 著/プレジデント社(2018)■ EQWELチャイルドアカデミー・浦谷裕樹先生 インタビュー一覧第1回:幼児教育ブームのなかで今注目の「EQ、非認知能力」って何のこと?第2回:「頭の力」には「心の力」こそ必要。EQが高いと優秀な子に育つ納得の理由第3回:父親流の「厳しい愛情」が子どものEQを伸ばす。人間性と学力を高める親のかかわり方第4回:お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは【プロフィール】浦谷裕樹(うらたに・ひろき)1972年7月31日生まれ、東京都出身。EQWELチャイルドアカデミー・新未来教育科学研究所主席研究員。工学博士、理学博士。京都大学理学部卒業、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。高校時代に「人間の可能性はどこまで伸ばせるのか」との問いを抱き、学生時代より古今東西の能力アップ法を研究開始。現在は「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。とくに参加型のトレーニングやワークを盛り込んだセミナーを得意とする。著書に『メンタルウェルネストレーニングのすすめ』(エコー出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月06日いわゆる知能指数と呼ばれる「IQ」という言葉は誰でも知っていますが、それに対して、「EQ」というものがあります。これは「Emotional Intelligence Quotient」の略で、日本語では「心の知能指数」と訳される概念のこと。このEQの重要性を提唱し、『子どもの未来が輝く「EQ力」』(プレジデント社)を上梓したEQWELチャイルドアカデミーの主席研究員・浦谷裕樹先生に、あらためてEQとはどんなものかを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/榎本壮三(インタビューカットのみ)幼児教育の有無でその後の人生に現れた大きなちがいかつては社会で活躍して幸せであるためには、IQが大切だとされていました。でも、どんなにIQが高くて高学歴を手にしていても社会で活躍していない人、ハッピーではない人も少なくなかった。本当に重要なものはIQではないのではないか?――。そんな疑問を持つ人たちが現れたわけです。2000年にノーベル経済学賞を受賞した、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマンという経済学博士もその疑問を持ったひとり。博士は、米国ミシガン州の貧困地域で、2年間の幼児教育を受ける60名のグループと、そうではない60名のグループを追跡調査しました。その幼児教育とは、幼稚園に通いながら、先生が週に1回の家庭訪問をするというもの。家庭訪問では、子どもへの接し方などについて親御さんに事こまかくアドバイスをしました。すると、幼児教育を受けたグループは、そうではないグループに比べて、将来的に学力、学歴、年収、持ち家率が高くて、生活保護受給率、犯罪率が低いという結果が出た。ほんの2年間の幼児教育によってその後の人生に大きな差が現れたことで、幼児教育の重要性に注目が集まることとなったのです。幼児教育によってもたらされたちがいこそ「EQ」そこで、みなさんも関心が高まると思います。幼児教育によって、子どもたちにどんな変化が起きたのか、と。ジェームズ・ヘックマン博士の研究では、幼児教育によってたしかにIQも上がったこともわかりました。ただ、それは一時的なものに過ぎなかった。幼児教育が終わったそのあと、両グループとも同じ教育を受けはじめると、8歳の時点ではIQにはほとんど差がなくなったのです。そして、両グループに大きなちがいが出たものこそ、EQだったのです。EQとは、一般的になりつつある言葉だと「非認知能力」と呼ばれるものにあたります。知能テストで測定できるIQに対して、これといった測定法がない「心の力」です。具体的には、自己肯定感、忍耐力、協調性、やり抜く力、自制心、共感力、リーダーシップ、誠実さ、創造性、コミュニケーション能力など、さまざまな要素があります。ひっくるめていえば、「人間力」といっていいでしょう。そして、これらの力が高いほど学力が高くなることもわかりました。ある研究によって、IQが高いからといってEQが高くなるとは限らないが、EQが高ければIQはさらに高くなるということがわかったのです。ただ、そんなことは研究するまでもなく想像できますよね。自己肯定感が高くて、忍耐力ややり抜く力、自制心があれば、勉強だってできるようになる。学力をはじめ、人間としてのさまざまな力を伸ばしていく「土台」にあたるのがEQなのです。「EQ」への注目度が高まっている背景いま、このEQ、非認知能力が日本でも大きな注目を集めるようになってきました。書店の教育関連書籍のコーナーに行くと、「非認知能力」という言葉はいくらでも見つけることができます。それには、幼児教育ブームも大きな要因となっているでしょう。いまや、幼児教育は「する・しない」ではなく、「するのがあたりまえ」「どんな幼児教育をするか」というところに移ってきています。そこで、EQ、非認知能力を伸ばす教育というものが注目されているわけです。また、2020年からはじまる教育改革もEQが注目を集めることとなった要因のひとつでしょう。新たな学習指導要領では、学力の3要素として、幼児の場合は「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」、そして「学びに向かう力・人間性」を掲げています。3つ目の要素である「学びに向かう力・人間性」は、新たな大学入学共通テストの出題指針としては「主体性・多様性・協働性」という表現になっています。これら3つ目の要素は、結局のところ、EQといっていいものでしょう。さらにEQの注目度が高まっている背景としては、時代の潮流というものも大きいように感じます。かつての大学入試は「富士山型」といえました。日本なら東大、世界ならオックスフォード大やハーバード大というひとつの「頂点」に向かうことが最良とされてきたのです。でも、現在は、「頂点」がいくつもある「八ヶ岳型」に変わりつつあるといえるでしょう。大学側は「うちの大学ではこういうことを教えるから、こういう学生がほしい」とそれぞれ異なる特徴を打ち出す。受験生も「こういうことを学びたいからこの大学に行きたい」と考える。価値観が多様化し、大学側、受験生側の双方が「マッチング」を重視するようになってきたのです。そこで、「自分はなにをしたいのか」「どんな能力を伸ばしていくべきなのか」といったことがわからなければ自分に合った大学を見つけることができず、その先の人生を充実させることも難しくなるでしょう。そして、そういった自分を見つめる力、自分を客観視する力もEQに含まれるものなのです。『子どもの未来が輝く「EQ力」』浦谷裕樹 著/プレジデント社(2018)■ EQWELチャイルドアカデミー・浦谷裕樹先生 インタビュー一覧第1回:幼児教育ブームのなかで今注目の「EQ、非認知能力」って何のこと?第2回:「頭の力」には「心の力」こそ必要。EQが高いと優秀な子に育つ納得の理由(※近日公開)第3回:父親流の「厳しい愛情」が子どものEQを伸ばす。人間性と学力を高める親のかかわり方(※近日公開)第4回:お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは(※近日公開)【プロフィール】浦谷裕樹(うらたに・ひろき)1972年7月31日生まれ、東京都出身。EQWELチャイルドアカデミー・新未来教育科学研究所主席研究員。工学博士、理学博士。京都大学理学部卒業、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。高校時代に「人間の可能性はどこまで伸ばせるのか」との問いを抱き、学生時代より古今東西の能力アップ法を研究開始。現在は「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。とくに参加型のトレーニングやワークを盛り込んだセミナーを得意とする。著書に『メンタルウェルネストレーニングのすすめ』(エコー出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月03日ある程度の一般常識やルールがある子どもの学校生活や日常生活とちがい、各家庭の経済状況や教育方針が大きく影響するために正解がない「おこづかい」。お金が絡むものだけに、ママ友、パパ友にも相談しづらいものかもしれません。そこでアドバイスをしてくれたのは、マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男先生。先生が提唱するマネー教育「おこづかいプログラム」の基本を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)おこづかいが「責任意識」も育てるキャッシュレス決済の急激な普及により現金そのものが見えにくくなっているいま、学校でのマネー教育も十分ではないとなると、まずは家庭でお金の扱い方を教える必要があります。そのためにわたしが提唱しているのが、おこづかいを有効に使ったマネー教育「おこづかいプログラム」です。その特徴は大きくふたつ。ひとつは「子どもは家の仕事をして、その対価として親がおこづかいを与える」ということ。大人であれば当然のことですが、なんの仕事もしないでお金を得られるなんてことはありません。子どものうちから、お金は放っておいても誰かが与えてくれたり、地道に働くことなしに簡単に手に入ったりするものではないと教えます。お手伝いの内容はどんなことでも構いません。玄関にある家族の靴をそろえるということでも、自分の部屋は自分で掃除するということでもいいでしょう。でも、自らが引き受けた仕事の「責任」を果たさなければ、おこづかいを手に入れることはできません。ここで重要なのは、お金は労働の対価だということだけでなく、それらを体験・体感することで、「約束を守ることの重要性」や「責任意識」を理解することです。幼い子どもに「責任を与える」というと、「早すぎる」と思う親御さんもいるかもしれませんが、そんなことはないのです。わたしが監修した、『子どもにおこづかいをあげよう!』(主婦の友社)という本の読者から手紙をもらったことがあります。その本の内容は、わたしが提唱するマネー教育「おこづかいプログラム」の実践法を解説したものでした。手紙によると、その読者は3歳のお子さんにトイレ掃除の仕事を与えたそうです。すると、その子はトイレ掃除が大好きになっちゃった(笑)。もう「トイレは僕の場所だ!」「トイレ掃除は僕の仕事だ!」といわんばかりだというのです。単純に掃除が楽しくなったということもあるかもしれませんが、3歳の子どもにも少なからず責任意識が芽生えたと見ることもできますよね。「おこづかい契約書」をつくることの意義「おこづかいプログラム」のふたつ目の特徴は、「親子で『会議』を開いて両者合意のうえでおこづかいのルールを決め、『おこづかい契約書』を作成する」ということ。ここで、「おこづかい契約書」の一例を紹介しておきましょう。【おこづかい契約書一例】おこづかいのルールには、子どもがするべき家の仕事、おこづかいの金額はもちろん、例のようにボーナスを得るための特別な仕事やその金額を盛り込んでもいいかもしれません。また、使いみちや貯金額についてのルール、1回の買い物で使ってもいい金額、1年ごとのおこづかいの上昇金額、「おこづかいの金額アップを希望するなら交渉ができる」といった文言を盛り込んでもいいでしょう。いずれにせよ、「○年生だからおこづかいはいくら」というふうに、親が一方的に決めないことが大切です。子どもを「大人扱い」するわけです。お父さんやお母さんの仕事の話に出てくる「会議」に参加して、おこづかいのルールを「交渉」して、普段は使わない言葉で書かれている「契約書」というものをつくる。これだけで、子どもからすれば一気に大人になった気分になるでしょう。そして、それらの取り組みは、自己肯定感を育むことにもなる。自己肯定感というものは、達成感を得たり、自分が社会で役立っている、自分の存在を他人が認めてくれることを実感したりすることで高まっていくものです。親が自分を大人扱いしてくれる――。大好きなお父さんとお母さんが自分の存在を認めてくれるわけですから、子どもが自信を持たないわけがありません。しかも、せっかく契約書をつくるのなら、面白おかしく楽しんでやってほしい。たとえば、普通紙じゃなくてちょっと高価ないい紙にするとか、サインには万年筆を使うとか、まるで条約の合意文書をつくるように楽しんではどうでしょうか。子どもはきっと、「よし、やるぞ!」ともっともっとやる気を出してくれるにちがいありません。興味を示すものだからこそお金を遠ざけないおこづかいのルールを契約書にして残すことには、他にも意味があります。それは、親子それぞれの「抑制装置」として働く点です。子どもの立ち場からすれば、おこづかいが足りなくなることもあるはずです。でも、大人と同じようにきちんと交渉して金額を決めた。その契約書は自分の机の大事なものを入れる引き出しに入っている――。そうすると、「我慢しなきゃ」と思うことにもなるはずです。一方、親とすれば、子どものお金の使い方にはつい口を出したくなるものですよね。でも、それが親子で決めたルールの範囲内のものであったらどうですか?子どもにとって理不尽な口出しをすることもなくなるのではないでしょうか。おこづかいの使いみちについていうと、それこそ家庭それぞれのルールになるでしょう。わたしなどは、「着色料が入ったお菓子は買っちゃ駄目」といわれて育った世代(笑)。ただ、アレルギーの問題などが絡むならともかく、あまり縛りすぎることはおすすめしません。というのも、「失敗から学ぶ」こともすごく重要だからです。ときには、「美味しそう!」と思って買ったお菓子が、食べてみたら思った味とは全然ちがった、まずかったという経験をすることもあるでしょう。コンビニでお菓子を買った後に親とスーパーに行ったら、同じお菓子がずっと安く売っていたことに気づくとかね。そういう失敗経験で学習することによって、子どもはお金を使うにも慎重になり、かしこい消費者に育っていくのです。子どもというのは、本当に幼い頃から、「お金って不思議なものだな」と、お金に興味を示すものです。一緒に買い物に行った親が、お金というものを払ってほしいものを手に入れる。そういう場面に日常生活のなかで否応なく触れるため、子どもはお金に強い興味を示すようになる。だからこそ、お金から子どもを遠ざけるのではなく、お金がどういうものか、お金をどう扱えばいいのか、きちんと教えてあげることが大切なのです。『子どもにおこづかいをあげよう!』藍ひろ子 著・西村隆男 監修/主婦の友社(2014)■ 横浜国立大学名誉教授・西村隆男先生 インタビュー一覧第1回:「子どもにお金はまだ早い」ではなぜダメなのか。マネー教育不足はこんなにも危険だ第2回:遅れが著しい日本の「マネー教育」。日本の子どもは“社会のなかで自立”できるのか?第3回:「会議・交渉・契約書」で自己肯定感が育つ。子どもをぐんと伸ばす“おこづかい”のあげ方【プロフィール】西村隆男(にしむら・たかお)1951年生まれ、東京都出身。横浜国立大学名誉教授。経済学博士。高校教諭を経て、横浜国立大学教育学部で25年教壇に立つ。研究テーマは金融教育、消費者教育、パーソナルファイナンス(家計財務管理)など。金融広報中央委員会委員、金融経済教育推進会議委員、前日本消費者教育学会会長。著書に『消費者教育学の地平』(慶應義塾大学出版会)、『社会人なら知っておきたい金融リテラシー』(祥伝社)、『子どもとマスターする46の金の知識』(合同出版)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月30日近年、子どもを取り巻くお金の環境が大きく変わったことで、学校教育でも間もなく「お金の教育」がはじまります。日本はようやく国としてマネー教育に本腰を入れることになったのです。では、海外のマネー教育とはどんなものなのでしょうか。マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男先生にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)いまの日本にもマネー教育はあるが……間もなく実施される新学習指導要領による公教育には、いわゆるマネー教育が組み込まれることになりました。とはいえ、現在も学校においてマネー教育がまったくされていないわけではありません。ひとつは日本銀行が組織している金融広報中央委員会によるもの。金融広報中央委員会のかつての名称は貯蓄増強中央委員会。もともとは、戦後間もない頃に、国民に貯蓄を奨励し、お金を財政と企業融資に使って日本の産業拡大を図るための組織でした。「貯蓄は美徳だ」と国民を教育していたわけです。現在も傘下の組織が各都道府県にあります。主な活動は、小学校、中学校、高校向けのマネー教育の教材をつくること。それから、金融・金銭教育研究校を指定して、「かしこい消費者になり、かしこい買い物をする」という教育をおこなっています。子どもの頃に通っていた学校が、「子ども銀行」の活動をしていたという方もいるかもしれません。それも金融広報中央委員会によるマネー教育の一環です。もうひとつは最近のものです。2012年に消費者教育推進法という法律が制定されました。これは、自分のためだけではなく、「世のなかのためにもいい買い物をしよう」という教育をおこなうための法律です。「世のなかのためのいい買い物」とは、たとえば持続可能な社会をつくるために環境にいいものを買う、あるいは人権のことも考えてフェアトレード商品を買うといったものですね。この法律により、現行の学習指導要領でも家庭科や社会科の学習内容に「消費者教育」という名称でマネー教育が盛り込まれています。たとえば、小学3年生なら、社会科の勉強として商店街や小売店のお金の流れやそこで働く人の視点を学ぶ。これも広い意味ではマネー教育といえます。欧米の教育は「生き方教育」とはいえ、授業時間全体からすれば日本のマネー教育はごく限られたものです。では、海外のマネー教育はどうなのかというと、特に欧米では日本よりもはるかに進んでいるといっていいでしょう。そのちがいは、教育そのもののとらえ方によるところが大きいと感じています。日本の中央集権的な教育の目的は、健全な勤労者を育てて経済のパイを大きくしようとするもの。いわばエリート養成のための「知識注入型教育」が中心です。一方、もともと子どもに自立心や権利意識を持たせることを重視する欧米の教育は「生き方教育」といえます。そのため、特に北欧の教育では、手に職を持たせるという意味もあってか、「ものづくり」を重視する。それどころか、小学4年生になると自分で仕事をつくって生活していくための「起業家精神」を教える授業もあるほどです。そういう教育ですから、当然、マネー教育にも力を入れています。スウェーデンでは子どもたちに生活設計をさせる授業があります。収入がいくらで家賃がいくらで、毎月いくら貯金できるとか、利息が○%だから年末には預金がいくらになるというふうに生活設計をさせる。しかも、面白いことにこれが算数の授業なのです。フィンランドでは図工の時間に広告をつくるという授業を視察しました。図工の授業とはいえ、ただのアートでは終わりません。子どもたちは「これなら商品が売れるだろう」と考えた文言を広告に入れる。売り手がどのように買い手を誘導しようするのか、マーケティング戦略を学ぶわけです。さらに、今度は消費者サイドに立ってそういう戦略に乗せられないための方法を学んでいました。求められる「実生活に根ざした教育」アメリカのマネー教育もわたしのなかでは強く印象に残っています。わたしがアメリカでマネー教育の視察をしたのは1987年頃。少し古い話になりますが、逆にいえばアメリカでは少なくとも30年以上も前から積極的にマネー教育がおこなわれていたということになる。さて、肝心の授業内容です。当時のアメリカは小切手社会でした。すると、小学生が小切手を切る授業を受けていたのです。子どもが「$100」と小切手に書いたら、先生は「それじゃ、駄目だ」という。ただ「$100」と書いたのでは、線を書き足されて「$400」にされるかもしれないし、0をふたつ加えて「$10000」に書き換えられるかもしれませんよね。不正防止のために「$100と書いたら、その下に『one hundred dollars』と書きなさい」と指導するのです。完全に実用的な内容でした。また、高校生になると、中古車ディーラーで車を買うシミュレーションをおこなう授業もありました。走行距離や事故歴、燃費など、車を買うときになにをチェックするべきかを教える。それこそかしこい消費者になるための教育をしているわけです。これは「コンシューマーエコノミクス(消費者経済学)」という教科の授業でした。独立教科でマネー教育をするアメリカ、さまざまな教科で横断的にマネー教育をするヨーロッパというちがいはありますが、学校でリアル経済を教える点では共通しています。そうして、子どもを社会のなかで自立した人間に育てることこそが教育だという思考があるのでしょう。二次関数や因数分解、微分積分を学んで数学の面白さに目覚めた子どもが数学者やエンジニアを目指す――そんな教育もたしかに大事なものでしょう。でも、日本の教育にももっと実生活に直結する内容が必要とされているのかもしれません。『子どもにおこづかいをあげよう!』藍ひろ子 著・西村隆男 監修/主婦の友社(2014)■ 横浜国立大学名誉教授・西村隆男先生 インタビュー一覧第1回:「子どもにお金はまだ早い」ではなぜダメなのか。マネー教育不足はこんなにも危険だ第2回:遅れが著しい日本の「マネー教育」。日本の子どもは“社会のなかで自立”できるのか?第3回:「会議・交渉・契約書」で自己肯定感が育つ。子どもをぐんと伸ばす“おこづかい”のあげ方(※近日公開)【プロフィール】西村隆男(にしむら・たかお)1951年生まれ、東京都出身。横浜国立大学名誉教授。経済学博士。高校教諭を経て、横浜国立大学教育学部で25年教壇に立つ。研究テーマは金融教育、消費者教育、パーソナルファイナンス(家計財務管理)など。金融広報中央委員会委員、金融経済教育推進会議委員、前日本消費者教育学会会長。著書に『消費者教育学の地平』(慶應義塾大学出版会)、『社会人なら知っておきたい金融リテラシー』(祥伝社)、『子どもとマスターする46の金の知識』(合同出版)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月29日日本という国で育つ子どもたちが、学校教育を受けはじめるのは誰もが小学生になってから。でも、生きていくうえで欠かせない「お金の教育」に関しては、はじまる時期もその内容も各家庭の方針によってまちまちです。正解がないだけに、マネー教育に関して悩んでいるという親御さんも少なくないでしょう。アドバイスをしてくれたのは、マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男先生です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)ようやく動きはじめた日本のマネー教育これまでの日本には「マネー教育」というものは存在しなかったというと、やや語弊があるかもしれませんが、あたらずといえども遠からずという状況でした。それは、日本人の国民性によるものでしょう。古くは日本ではお金は不浄のものと考えられ、家庭の話題に上げない、子どもは口を出すべきではないものとされてきました。お金に対してそういう感覚を持たされ育てられたのがいまの親世代です。ところが、ここ数十年でお金をめぐる状況は一変しました。最近ではキャッシュレス決済が急激に拡大しています。小学生でもスマホを手にしているいま、塾に行くにも「Suica」「ICOCA」などの電子マネーを使って電車に乗る。コンビニでちょっとしたお菓子や飲み物を買うにも電子マネーで支払う。子どもが使うお金を親がコントロールするためです。また、わたしのような60代くらいの世代だと、クレジットカードにはまだ若干の抵抗感があるもの。つい「借金」と考え、罪悪感があるわけです。でも、いまの親世代にとって、クレジットカードはひとつの決済ツールに過ぎません。借金だとは考えず、スーパーで500円の買い物をするにもクレジットカードを使います。こうして、子どもだけではなく、親世代にも現金が見えにくくなっているのです。もちろん、利便性という点ではほんの20年あまりの間に飛躍的に進化したと見ることができるでしょう。でも、まともにマネー教育を受けてこなかった世代が親になっているわけですから、その利便性の裏には子どもに対する大きな危険も潜んでいます。かつては「金融商品」なんて言葉は存在しませんでした。「株取引をしている」などというと、ギャンブル的な意味合いをもってさげすまれるような印象すら持たれたものです。ところが、ネット証券が広まって「金融商品」という言葉が一般的になり、最近では仮想通貨なんてものも出てきた。「マネーゲーム」という言葉も使われるほどです。それこそ、現金が見えにくくなっている時代に育った子どもがゲーム感覚でマネーゲームに走るようになったらどうするのか――。こうしてようやく日本でも、国策としてマネー教育を進めていこうとする動きが出てきたわけです。マネー教育開始は早ければ早いほどいいしかも、子どもたちがお金をめぐる問題に巻き込まれる危険性はこれからさらに拡大することも考えられます。その要因は成年年齢の引き下げです。明治時代から約120年にもわたって20歳だった成年年齢は、2022年4月から18歳に引き下げられます。18歳になれば高校生であっても自由に契約をすることができる、クレジットカードをつくることもできる時代になるのです。それを受けて、新しい学習指導要領は、高校卒業までに子どもたちに契約意識を持たせる内容になっています。ただ、新学習指導要領に基づく教育がはじまるのは小学校で2020年から。中学校では2021年、高校では2022年からです。高校を卒業してすぐに成人となる2019年度の高校1年生からは前倒しでその教育かおこなわれることになっていますが、それでもやはり遅すぎるように感じるのです。マネー教育をはじめるのは早ければ早いほうがいい――。それがわたしの考えです。それこそ、小学校でマネー教育がはじまる前から家庭ではじめておくべきでしょう。ものの価値もわからない、自分で買い物をした経験もないのに、小学校で売買契約の基礎を教えるといっても難しいというものです。しかも、幼い子どもにマネー教育をするにも現金を使うべきですね。実際に小銭を持って、10円玉10個が100円玉と交換できるものだということを感じたり、あるいは自分で買い物をして支払う金額を間違ったりする経験によって、お金がどういうものかを実感できるようになるからです。実体験としてお金を使ってみないとわからないこともあるはずです。学校でマネー教育をはじめるといっても、教室でシミュレーションするのではピンとこないこともあるでしょう。「魚が切り身のかたちで泳いでいると思っている子どもがいる」という笑い話がありますが、マネー教育も内容次第ではそれに近いことも起こり得るはずです。マネー教育不足が引き起こすさまざまな問題仮にマネー教育をまったく受けないまま大人になると、さまざまな問題に見舞われることが考えられます。何枚もクレジットカードをつくって多重債務を抱えて破産するというのもそのひとつかもしれません。また、現在、大きな問題として取り上げられるのが「奨学金破産」です。連帯保証人になっていた親が病気になるなどして、親が破産するというケースも見られます。まして少子高齢化がますます進むこれからは、老後の生活をイメージして個人でも年金をつくらないといけない時代になる。いま、大企業で必ず導入しているのが確定拠出年金です。個人型だろうと企業型だろうと、その企業に就職すれば必ず加入することになる。大学を卒業した途端に資産運用について選択を迫られることになるのです。どの投資信託にするのか、元本保証の預金にするのか、それとも別の選択肢にするのか……。それぞれがどういうものか理解できなければ、自分の将来を自分で決められないことになってしまいます。あるいは、振り込め詐欺の片棒を担ぐようなことにもなりかねません。「簡単に稼げる」といった犯罪の誘いに乗ってしまうのは、地道に稼いだお金を有効に使うとか、ある程度節約した生活をして計画的にお金をためるといった長期スパンでお金のことを考える姿勢が身についていないからです。公教育でマネー教育がはじまるのはこれから。その教育に臨む姿勢をつくってあげるのは家庭に他なりません。そのために大切だとわたしが考えているのが、「お手伝いの対価としておこづかいをあげる」ということ。責任を持って手伝いという自分の仕事(役割分担)をしてはじめてお金を得る。その経験を幼い頃からさせるのです。「まだ子どもだから」とお金に関する話を子どもに対してシャットアウトしてはいけません。むしろ、子どもだからこそ、きちんと導いてお金に触れさせてあげるべきです。そうでないとお金に対する正しい意識が育たず、将来、自立できない人間になってしまうことを親御さんには意識してほしいと思います。『子どもにおこづかいをあげよう!』藍ひろ子 著・西村隆男 監修/主婦の友社(2014)■ 横浜国立大学名誉教授・西村隆男先生 インタビュー一覧第1回:「子どもにお金はまだ早い」ではなぜダメなのか。マネー教育不足はこんなにも危険だ第2回:遅れが著しい日本の「マネー教育」。日本の子どもは“社会のなかで自立”できるのか?(※近日公開)第3回:「会議・交渉・契約書」で自己肯定感が育つ。子どもをぐんと伸ばす“おこづかい”のあげ方(※近日公開)【プロフィール】西村隆男(にしむら・たかお)1951年生まれ、東京都出身。横浜国立大学名誉教授。経済学博士。高校教諭を経て、横浜国立大学教育学部で25年教壇に立つ。研究テーマは金融教育、消費者教育、パーソナルファイナンス(家計財務管理)など。金融広報中央委員会委員、金融経済教育推進会議委員、前日本消費者教育学会会長。著書に『消費者教育学の地平』(慶應義塾大学出版会)、『社会人なら知っておきたい金融リテラシー』(祥伝社)、『子どもとマスターする46の金の知識』(合同出版)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
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