いつの時代も家庭教育における定番のツールである「絵本」。実際、絵本の読み聞かせにはどんなメリットがあるのでしょうか。「本」であることから、つい「語彙力を高める」といった学習面に目が向きがちですが、「絵本スタイリスト®」である景山聖子さんは、「なによりも人格形成に大きな影響を与える」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)絵本のなかでの「自分自身の体験」が豊かな人格を形成する子どもに絵本を読み聞かせすることのメリットは枚挙にいとまがありませんが、なによりも子どもにとって大きな「体験」を得られるということがまず挙げられます。8歳くらいまでの子どもは、その発達段階として、まだ現実と空想をしっかりと区別できません。その後、成長するにつれて現実と空想をしっかりわけてとらえられるようになり、徐々に大人になっていきます。幼稚園で幼い子どもたちを相手に、妖精が登場する絵本を読み聞かせしたとします。すると、そのあとの散歩の時間になると、子どもたちは一斉に「妖精探し」をはじめます。なかには、「あそこの木に妖精がいたよ!」というような子もいるほど。こういうことが起きるのは、幼い子どもが現実と空想の区別をできていないから。つまり、絵本のなかで体験したことも、8歳くらいまでの子どもにとっては紛れもない自分自身の体験だといえるのです。このことのなにが重要なのでしょうか?それは、人格形成に大いに影響を与える点です。子どもたちは、将来どんな人間になっていくのかという、まさに人格をつくっている真っ最中にあります。そのとき、誰かから聞いたというような知識ではなく、絵本によって自分自身の体験をどんどん重ねていくことで、それだけ豊かな人格を形成することができるのです。もちろん、その体験のなかにはたくさんのことが含まれます。「感情」を学ぶこともそう。絵本の登場人物は、そのストーリーによってさまざまな感情を表現します。その感情すらも、子どもたちは自分の体験として得ることができるのですから、絵本に親しめば親しむほど、豊かな感情も手に入れられるというわけです。もちろん、8歳を過ぎた子どもにとっても、絵本に親しむことは悪いことではありません。ただ、現実と空想を区別できないという時期が、人生のうちでも限られた貴重な時間だということを考えると、やはりなるべく幼いときから絵本のなかでたくさんの体験をできるようにしてあげたいものです。肌を触れ合わせて「親子の絆」を深めるその他、絵本の読み聞かせの大きなメリットとしては、「親子の絆を深める」ということも挙げられます。絵本を読むときは、たとえば子どもを膝のうえに乗せたり、寝っ転がりながら肩が触れていたりと、親子で肌と肌を触れ合わせていますよね。すると、オキシトシンというホルモンが、親子ともに脳から分泌されるのだそうです。このオキシトシンは、「愛情伝達物質」とか「愛情ホルモン」という呼び名で知られ、思いやりや愛情といった心の機能を健やかに発育させるために欠かせないもの。そして、その働きによって、親子は信頼関係を心のいちばん深いところで結んでいく、つまり親子の絆を強めることができるのです。わたしは、講演活動を通じてたくさんのお母さんたちから絵本にまつわる体験談を耳にしますが、実際、「絵本の読み聞かせをしたことで子どもの態度が変わった」という話を頻繁に耳にします。たとえば、絵本の読み聞かせをする前は、公園で遊んでいて「もう帰るよ」といってもなかなか遊びをやめずに駄々をこねていたような子どもも、絵本の読み聞かせをはじめてからは素直に従ってくれるようになったという話もあります。それだけ親子の絆が深まり、強い信頼関係が築けたということなのではないでしょうか。絵本の読み聞かせが、肉体的な疲労を取ってくれる!加えていうなら、愛情ホルモンであるオキシトシンには、なんと「肉体的な疲れを取る」という働きもあるようです。寝る前に、肌と肌を触れ合いいとおしい気持ちで読み聞かせを実践した多くのお母さんが、翌日自分の疲れまで取れたという体験談を話されています。共働き家庭が増えているいまは、働きながらもこれまでの専業主婦と変わらず子育ての中心を担っているお母さんが増加中です。そういうお母さんには、まさに24時間、気が休まる時間がほとんどないといっていいでしょう。そうすると、「絵本の読み聞かせは子どもにとっていいことだ」「絵本の読み聞かせをしてあげたい」と思っていても、仕事から帰って夕食の支度をして、子どもをお風呂に入れて、寝かしつけるので精いっぱい。つい、「今日は絵本の読み聞かせはしなくていいや」と思ってしまうものです。でも、そういう忙しいお母さんたちにこそ、ぜひ絵本の読み聞かせを積極的にしてほしいと思います。そもそも、絵本の読み聞かせによって分泌されるオキシトシンに肉体的な疲れを取るという多くの体験談があることもそうですし、先にお伝えしたように、絵本の読み聞かせで親子の信頼関係が深まれば、子どもが駄々をこねて困らされるようなことも減るのですから、それだけ日常生活のなかでたまる疲労も減ることになるのです。『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』景山聖子 著/小学館(2018)■ 絵本スタイリスト®・景山聖子さん インタビュー記事一覧第1回:「絵本の読み聞かせ」から、子どもが学ぶもの。そして、親が手に入れるもの。第2回:「勉強が勉強でなくなる」のが絵本の魅力! でも「勉強のつもり」で読み聞かせてはダメ(※近日公開)第3回:「上手に読んであげて、感想を聞く」のは絶対に避けて。絵本の読み聞かせの鉄則です(※近日公開)第4回:「もっと頑張らなきゃ」と自己嫌悪に陥りがちな母親たちに、励ましをくれる絵本の存在(※近日公開)■景山聖子さん連載『絵本よみきかせコーチング』記事一覧【プロフィール】景山聖子(かげやま・せいこ)群馬県出身。絵本スタイリスト®。群馬テレビアナウンサーを経て上京し、TBS、テレビ朝日、日本テレビ等で報道番組などのリポーターを務めたのち、ナレーターへ転身。NHKラジオの朗読番組『私の本棚』などを担当する。一児の母となると同時に、絵本の世界に魅せられ、2013年に(社)JAPAN絵本よみきかせ協会を設立し、代表理事に就任。ボランティア認定資格講座には全国から人が集まり、公共施設やカルチャーなどの「よみきかせ講師」も多数育成。現在は、絵本を介しての子育てに関する講演活動を行うほか、パナソニック読み聞かせ機能搭載ライトのアドバイザーやカルピス読み聞かせ隊のサポーターに就任。アカチャンホンポ・ピジョン保育士の全国社員研修なども担当。NHK総合テレビで絵本の朗読も行う。園や小学校での絵本の読み聞かせも続け、絵本の持つ力を広めるために精力的に活動している。主な著書に、『今日から使える読み聞かせテクニック』(ヤマハミュージックメディア)、(『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』(小学館)、『子どもが夢中になる 絵本の読み聞かせ方』(廣済堂出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月15日スーパーに買い物に行くたびに、子どもがお菓子をねだって駄々をこねてしまう……。いわゆる、「泣き落とし」の行為です。親として大いに悩まされることのひとつかもしれません。欧米で学んだ心理学を子育てに生かし、母親たちをサポートしている公認心理師の佐藤めぐみさんは、子どもの泣き落としを収めるには、「子どもがねだっているものとは『別のよろこび』に目を向けさせることが大切」だといいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹「泣き落とし」の最大の要因は、子ども自身の「気質」にある子どもの「泣き落とし」のピークは、大体が2歳くらいです。ただ、その頃は、まわりの同年代の子どもも泣き落としをしていることが多いので、「うちの子も一緒、イヤイヤ期だからだよね」と、一時的なものとしてとらえていることが多いものです。ところが、一般的に泣き落としが収まりはじめる5、6歳になっても泣き落としをしていると年齢的にも目立つため、親が悩みはじめることになります。なかには、「自分の育て方が悪かったのかな……」と、自分を責めてしまう人もいるでしょう。でも、子どもが泣き落としをするかどうかの原因は、一概に育て方にあるとはいえません。子どもが泣き落としをするもっとも大きな要因は、子ども自身が持っている「気質」です。もともと、自分の意志を押し通そうという気持ちが強い子どもがいるのです。見方を変えれば、粘り強さがある子どもだといういい方もできます。粘り強さというといい意味でとらえられることが多いですが、それがマイナスの方向に出たのが泣き落としといえるでしょう。もちろん、育て方に原因があるケースもあります。単純な話ですが、子どもに泣き落としをされると、親が根負けしてしまうということを繰り返すケースです。すると子どもは、「泣けば思いどおりになる」と学んでしまいます。この流れになってしまうと、どんなに口では「スーパーではお菓子は買わないよ!」といったとしても、そのルールは子どもに伝わりません。その子にとってのルールは、「泣けば買ってもらえる」というものだからです。「親子が互いになんとか守れるルール」を決めるそう考えると、子どもの気質にかかわらずに、親が「一貫した姿勢を示す」ことが子どもの泣き落としを収めるためのポイントになります。昨日は「いいよ」といってもらえたことが、今日は「駄目」だといわれると、子どもは混乱するからです。それに、子どもは自分に都合がいいほうを優先しますから、「いいよ」といわれたことだけを学んでしまうのです。ただ、「一貫した姿勢を示す」とはいっても、ひたすら厳しいルールを課せばいいというわけではありません。ここで大事なことは、「親子が互いになんとか守れるルール」にすること。スーパーでお菓子をねだって泣き落としをするケースなら、「平日にママとスーパーに行くときはお菓子を買わないけど、週末にパパとスーパーに行くときにはひとつだけお菓子を買っていいよ!」といったようなルールにするのです。そうすれば、子どもにとっても目指すものがあるので取り組みやすく、平日の買い物をスムーズにできるようにもなります。そういった過程を経て、「泣かなくてもいいんだ」ということを子どもに学んでもらうことが大切です。つまり、ゲーム感覚でプログラムを遂行させていくようなイメージですよね。きちんとおねだりを我慢できたら、「よく我慢できたね!」とたくさん褒めてあげてください。もちろん、お菓子を食べること自体を禁止しているわけではありませんから、帰宅したらおやつタイムにします。すると子どもからすれば、泣かなくても結局はお菓子を食べられたし、ママは機嫌がいいし、しかも、褒めてくれたということになります。このようにして、子どもがねだっているそのものとは別の視点でのよろこびに目を向けられるようにしていくのがおすすめです。ゲームや漫画などについても、すべて取り上げてしまうというような家庭もあるかもしれません。しかしながら、ゼロでは子どもは満足できませんし、一方で、遊び放題では親も困ってしまいます。ゼロか100かではなく、互いが折り合えるルールを考える方が現実的であり、実行しやすくなります。泣き落としをする子どもの「粘り強さ」を生かす話は少し本筋からそれますが、先にお伝えした泣き落としをする子どもの「粘り強さ」をいい方向に出せるように導いてあげてほしいですね。粘り強さがある、自分の意思を押し通そうとする子どもの思考のベースには、「疑問を持つ」という姿勢があります。スーパーでお菓子をねだる例なら、「ママはダメだといっているけれど、それは本当なのか?」という疑問が最初にあるのです。その思考をうまく生かすことができれば、これからの時代に必要な強い力となるでしょう。これまで、学校で「いい子」といわれてきた子どもは、先生や親にいわれたことに素直に従っていた子どもたちです。しかし、学習指導要領も変わり、これからの子どもには自分で疑問を持って、自分で考えることが求められます。そんな時代にあって、さまざまなことに「疑問を持つ」思考を持っている粘り強い子どもは、うまく導いてあげれば力を発揮できるはずです。そういう子どもは、ひとつのことにこだわって夢中になる傾向もあります。持ち前の粘り強さをいい方向に発揮できるよう、その子がなにかに夢中になって繰り返しチャレンジしていたら、温かく見守ってしっかりと褒めてあげましょう。子どもの気質は、親の接し方次第でプラスにも向かうこともあればマイナスにも向かうこともあります。きちんとプラスの方向に発揮できるよう、親がしっかり導いてあげたいものですね。『子育て心理学のプロが教える 輝くママの習慣』佐藤めぐみ 著/あさ出版(2012)■ 公認心理師・佐藤めぐみさん インタビュー記事一覧第1回:「登園時、毎朝大泣き」問題は、親がコレをしてあげると解決できる!第2回:子どもの「泣き落とし」を収めるテクニック。コツは“ルール作り”にあり第3回:子どもは「甘やかす」より「甘えさせる」!甘えさせてもらえない子は将来こうなる(※近日公開)第4回:「過干渉、ヘリコプターペアレント予備軍」親の意外な特徴。もしかしてあなたも?(※近日公開)【プロフィール】佐藤めぐみ(さとう・めぐみ)1969年生まれ、東京都出身。公認心理師。オランダ心理学会認定心理士。イギリス・レスター大学大学院修士号取得。欧米で学んだ心理学を日本のお母さんが取り入れやすいかたちにしたポジティブ育児メソッドを考案。現在は公認心理師として、ポジティブ育児研究所でのオンライン子育て心理学講座、育児相談室ポジカフェでのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動等を通じ、子育て心理学を活用した育児支援を行っている。HP:megumi-sato.com【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月14日子どもを幼稚園や保育所に預けて仕事に行かなければならないのに、毎朝のように我が子が大泣き……。そんなことに悩んでいる人も多いかもしれません。どうすれば登園時に子どもは泣かないようになるのでしょうか?アドバイスをもらったのは、欧米で学んだ心理学を子育てに生かし母親たちをサポートしている、公認心理師の佐藤めぐみさんです。佐藤さんは、「鍵を握るのは『アタッチメント』」だと語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹登園時に子どもが泣いてしまう3つの要因子どもが登園時に泣いてしまうことには、いくつかの要因が考えられます。ひとつは「年齢」が挙げられます。子どもが1歳になったタイミングで仕事に復帰する方は多いですが、ちょうどその頃から1歳半くらいにかけて記憶力が発達し、子どもたちは過去と現在を比較できるようになります。ですから、幼い子どもを幼稚園や保育所に預けると、子どもは「さっきまで一緒にいてくれたお母さんがいまはいない……」と感じて、大泣きするわけです。1歳過ぎから1歳半くらいまでのあいだは、いわゆる分離不安のピークですので、この時期の子どもが登園時に泣いてしまうのは、発達的に見ても「あって当然」のことなのです。このケースでは、「泣かなければラッキーで、泣いても仕方ない時期」と考えて、自分を追い込まないようにしてほしいなと思います。預けなくてはいけない以上、できる工夫はしつつも、「時間が解決してくれる」といういい意味での割り切りも肝心かもしれませんね。しかし、いちばんの要因としては、もともとの「気質」があるでしょう。大人のみなさんでも、行ったことがない場所に行ったり面識がない人に会ったりすることにワクワクする人もいれば、不安を感じる人もいますよね?それは、人生経験の少ない子どもだったら、なおさらのことです。さらには、初めて行った場所や初めて会った人に対する順応のスピードも気質のひとつ。すぐになじむことができる子どももいれば、そうではない子どももいるのです。ただ、気質についても年齢と同じように割り切らなければならないかというと、そうではありません。のちにお伝えしますが、ある方法で解決できる可能性もあります。もうひとつ要因を挙げるとすれば、「家の環境」があります。あまりに家の居心地がいいために、子どもが外に出たがらないのです。もちろん、親子のあいだの愛情にあふれているという居心地のよさであればなんの問題もありません。でも……異なる意味合いで見た場合、居心地のよさが子どもを王子さまやお姫さまのように扱い、なんでも親が世話をして甘やかしていることからであれば問題があります。幼稚園や保育所での集団活動では、我慢しなければならないことが多々あります。そういう場所(幼稚園や保育園)と、とことん甘やかしてもらえる家を比べ、子どもは登園を嫌がるということになるのです。子育てのすべての土台となる「アタッチメント」が鍵ではどうすれば登園時に子どもが泣かないようにできるのでしょうか?その鍵となるのは、「アタッチメント」です。アタッチメントとは、「子どもが特定の人に示す愛着感情」のこと。簡単にいえば、特定の人との「精神的な絆」のことです。そして、小さな子どもにとっての最初の「特定の人」とは、一般的には、もっとも身近に接して世話をしてくれるということで母親というケースが多いと思います。このアタッチメントこそが、子育てのすべてを支える土台なのです。また、子どもは親とのアタッチメントを通じて、人との接し方も学んでいきます。親から「こういうふうにまわりの人とかかわっていけばいいんだな」というテンプレートを学ぶのです。つまり、アタッチメントとは、その子の将来の人間関係の広げ方にも大きくかかわるものなのです。こう表すと、その重要性を強く感じられたのではないでしょうか。そして、このアタッチメントの育み方次第で、気質的には引っ込み思案で幼稚園や保育所で不安を感じるような子どもであっても、しっかり元気に登園できるようにもなります。もちろんその育み方とは、王子さまやお姫さまのように甘やかすことではありません。その育み方とは、親があれこれ手を出すのではなく、子どもが甘えたがっているときにその気持ちをしっかり受け止めること。幼稚園や保育所に子どもをお迎えに行くと、子どもが「抱っこして」といったり手をつないできたりと、子どもに甘え行動が出ますよね。そのときにしっかり甘えさせてあげるのです。もちろん、子どもが望むのなら自宅に帰ってからも膝の上に子どもを乗せて絵本を読んであげたり、一緒にお風呂に入って遊んであげたりすることも、子どもの甘え行動を受け止めることのひとつです。「アタッチメント」で子どもにエネルギーをチャージ!なぜ、こういう行為によって、登園に不安を感じるような子どもでも泣かずに登園できるようになるのでしょうか?それは、アタッチメントによってエネルギーをチャージできるからです。気質が引っ込み思案である子どもの場合、親と離れて幼稚園や保育所で過ごすにも、引っ込み思案ではない子どもと比べ、より多くのエネルギーを使います。だからこそ、翌日も元気に登園できるように、たっぷり甘えさせてエネルギーをしっかりとチャージしてあげることが大切になります。加えて、子どもの気質を無視して、親の主観で言葉をかけることに注意してください。ありがちなのが、自分が子どもの頃には幼稚園や保育所が大好きだったというケース。親子でも気質が正反対ということも珍しくないですよね?それなのに、自分が子どもの頃には幼稚園が楽しかったからと、「大丈夫、大丈夫!元気よく行ってらっしゃい!」「絶対に楽しいから!」と押しつけてしまうのはよくありません。もともとの気質は変わらないものなので、そこを理解したうえのアプローチをしないといい方向へは進みにくくなります。どんな子どもにもアタッチメントは大切なものですが、引っ込み思案の子どもにとってはとくに大切なこと。引っ込み思案の子は、時間をかけてその場所や人々に慣れていくものなので、そのペースに合わせ、日々、子どもにしっかりとエネルギーをチャージしつつ進んでいくことが大事になります。『子育て心理学のプロが教える 輝くママの習慣』佐藤めぐみ 著/あさ出版(2012)■ 公認心理師・佐藤めぐみさん インタビュー記事一覧第1回:「登園時、毎朝大泣き」問題は、親がコレをしてあげると解決できる!第2回:子どもの「泣き落とし」を収めるテクニック。コツは“ルール作り”にあり(※近日公開)第3回:子どもは「甘やかす」より「甘えさせる」!甘えさせてもらえない子は将来こうなる(※近日公開)第4回:「過干渉、ヘリコプターペアレント予備軍」親の意外な特徴。もしかしてあなたも?(※近日公開)【プロフィール】佐藤めぐみ(さとう・めぐみ)1969年生まれ、東京都出身。公認心理師。オランダ心理学会認定心理士。イギリス・レスター大学大学院修士号取得。欧米で学んだ心理学を日本のお母さんが取り入れやすいかたちにしたポジティブ育児メソッドを考案。現在は公認心理師として、ポジティブ育児研究所でのオンライン子育て心理学講座、育児相談室ポジカフェでのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動等を通じ、子育て心理学を活用した育児支援を行っている。HP:megumi-sato.com【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月11日わたしたちは、無意識のうちに多くの「思い込み」を抱えて生きています。その思い込みが、子どもが勉強で成果を出すにあたって支障になっていたとしたら?親であれば、子どものためにもそんな思い込みは払拭したいものです。算数に特化した学習塾「RISU」の代表である今木智隆先生が、算数を中心とした勉強に関する思い込みを教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)算数が得意な子どもの男女比はほぼ5対5「男性は理系教科が得意で、女性は文系教科が得意」。みなさんのなかにもそう思っている人が多いはずです。でも、これはまさに思い込み。算数が得意な子どもの男女比は、ほぼ5対5という数字があるのです。わたしが収集した10億件ものデータによる結果なので、間違いありません。でも、理系の大学院に進むような人には男性が多いというのは事実です。ただ、これは単純に環境によるものではないでしょうか。わたしも京都大学の大学院に行きましたが、理系の大学院は女性に優しい環境だとはとてもいえないからです。いまなら綺麗になっているところも多いかもしれませんが、伝統的に男社会である理系の大学院の多くは、やはり汚いし臭いし……(苦笑)。研究に追われて泊まり込むというようなことになれば、仮眠室なんてものもありませんから、並べたふたつの椅子のうえに寝るようなこともふつうにある。そんなところを女性が敬遠するのはあたりまえのことでしょう。そういうことの積み重ねが、「男性は理系教科が得意で、女性は文系教科が得意」という思い込みを多くの人に持たせてしまっているのだと思います。また、親によるミスリードも「男性は理系教科が得意で、女性は文系教科が得意」という風潮をつくっている要因のひとつでしょう。父親よりも家庭教育を担うことが多く、得手不得手が遺伝すると思い込んでいるような母親が、子どもの頃に算数が苦手だったというケースがそれにあたります。「わたしは算数が苦手だったから、同性の娘も苦手にちがいない」というわけです。でも、子どもにそう思い込ませることほどもったいないことはありません。もしかしたら、母親には発現していない算数の才能をその子は持っているかもしれないのですからね。子どもは親とはまったくの別人格なのですから、親の体験を子どもに投影しないようにしてほしいものです。テストの85点はいい点?悪い点?また、思い込みという点では、テストの点数の解釈にも注意が必要です。たとえば、子どもが算数のテストで85点を取ってきたとしたら、みなさんはどんな印象を受けるでしょうか?100点ではありませんが、「8割以上はできているし、問題ない」と思う人も多いはずです。ところが、その内容によっては大いに問題であるという場合もあるのです。たとえば、配点はすべて5点の20個の問題のうち、ケアレスミスで計算問題だけを3つ間違ったケースと、3つの文章題すべてを間違ったケースではどうでしょう?前者は、学習内容はきちんと理解できていて、今後はケアレスミスにだけ注意すればいいということ。一方、後者の場合、計算はできても、文章題を解釈して式を立てる能力がまったく足りないということになる。深刻度でいえば、後者は前者の何倍にもなるでしょう。つまり、点数そのものではなく、どういうミスをしたのかというところにきちんと着目し、理解すべき大切な内容が抜け落ちたまま先に進むことがないよう注意する必要があるのです。そうしなければ、算数の場合は、「積み上げ型」という教科の特性があるため、その抜け落ちた内容がネックとなって、のちのちに大きな壁にぶつかることになります(インタビュー第1回参照)。親の謙遜と、子どもへのご褒美の条件に要注意ここからお伝えすることは、算数に限った話ではありません。でも、子どもが勉強でしっかり成果を出していけるようにするため、ぜひみなさんには心にとめておいてほしいことです。ひとつは、親の謙遜に注意してほしいということ。ママ友との会話のなかで、「うちの子なんて、算数が全然駄目で……」なんてことを口にしていませんか?じつに謙虚な日本人らしい言葉です。ただ、謙虚であることがいいというのは、このケースにはあてはまらず、ただの思い込みといえます。もし、その言葉を当の子どものまえでいっていたとしたどうでしょう?子どもは大人ほど言葉の裏にある文脈を読めませんから、字面どおりに親の言葉を受け取ります。子どもは、「僕は駄目な子で、お母さんにも期待されていないんだ……」と思ってしまう。すると、「駄目な子なんだから、できなくていい」という論法が成立し、勉強しない理由を子どもにつくらせることになってしまうのです。子どもの勉強に対するモチベーションを上げるためにも、やはり褒めてあげることを大切にしてください。もうひとつは、ご褒美のあげ方についての注意点です。ご褒美によって子どもの勉強に対するやる気を出させること自体が間違いだというわけではありません。ただ、ご褒美をあげる条件の内容には注意が必要。たとえば、「宿題が終わったらゲームをしていいよ」。この場合、たとえば計算ドリルで全問間違ったとしても、とにかく全問やればいいということになりますから、宿題をする意味がまったくありません。「勉強を1時間したら……」でも同様です。勉強の内容は問いませんから、極端な話、机に向かっていたらいいということになります。ではどんな条件がいいのかというと、たとえば、「宿題をやって採点をして全部正解になったら……」ならどうでしょうか。これなら自己採点の習慣もつきますし、内容の理解も進みます。ご褒美の条件次第で、子どもの勉強は意味のある時間にもなれば、まったく意味のない時間にもなる。その点を意識して、ご褒美の条件を考えてみてほしいと思います。『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』今木智隆 著/文響社(2019)■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題(※近日公開)第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法(※近日公開)【プロフィール】今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月09日「理系離れ」という言葉が生まれて久しいいまも、「算数が嫌い」「算数が苦手」という子どもはたくさんいます。「好きなことや得意なことを伸ばせばいい」という考え方もありますが、子どもの将来の可能性を狭めないためにも、苦手教科をつくりたくはありません。では、どうすれば子どもたちは算数に親しむことができるのでしょうか?算数に特化した学習塾「RISU」の代表である、今木智隆先生にアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)算数が持つ「積み上げ型」という特徴に注意低学年の頃には多くの子どもが算数に苦手意識を持っていないのに、学年が上がるにつれて「算数が嫌い」「算数が苦手」という子が増えていきます。これには、算数という教科が持つ「積み上げ型」という特性が影響しています。歴史という教科の場合なら、試験範囲が近代であれば、古代のことはなにも知らなくても近代のことだけを暗記してしまえば高得点を取ることができます。でも、算数にはその手法が通用しません。足し算、引き算、掛け算、割り算のすべてを理解しておかないと、それらのすべてが含まれる四則混合計算の問題では絶対に正解にたどり着けませんよね。ゲームにたとえていうなら、RPGのようなもの。味方のメンバーに勇者と戦士がいれば序盤の敵なら倒せるとしても、強いボスに勝つには、勇者と戦士に加えて魔法使いも必要というイメージです。ゲームのメンバーに魔法使いがいない状態のように、どこかで重要な要素が抜け落ちたまま先に進んでしまうと、学年が上がるにつれて理解できないことが増え、「算数が嫌い」「算数が苦手」という子どもが増えていくのです。ですから、どこかのタイミングで大きく算数の成績が下がるというようなことがあれば、その単元に含まれる要素をさかのぼり、その要所を復習する必要があります。「時計」の単元でつまずいたのなら、時計の単元の内容だけでなく、それ以前に習った足し算や引き算の要所を理解していない可能性もあるのです。子どもの興味関心と算数を関連づけるもちろん、小学生になる以前の幼いときから、子どもが算数に親しめるようにさせることも大切なことでしょう。ただ、やり方には注意が必要です。近所の同い年の子どもが50まで数を数えられるからと親が勝手に焦って、「じゃ、50まで数えてみようか」と自分の子どもにただ数を読み上げさせたとしても、子どもにとっては面白くもなんともない。興味を示すわけもありません。それどころか、面白くもないことを強要されることで、むしろ算数を嫌いにさせてしまう可能性もあります。そうではなく、子どもが興味を持っていることと算数を関連づけることが大原則。わたしの子どもの場合なら電車が好きですから、駅の階段を降りるときにわたしが階段の数を数えてあげる。自分が好きな駅という空間で数字を耳にすることで、子どもは自然に数字にも興味を示してくれるようになりました。大人だって同じですよね?ある日、会社でいきなりセキュリティー研修に参加させられたとします。セキュリティーに興味がある人ならともかく、そうではない人にとってはなにも面白くない。こどもの場合、大人以上に好きかどうかでそのことに向かう関心に大きなちがいが生まれますから、なにより子どもの興味関心を軸に算数に親しめるように工夫してみてください。それこそ、子どもがレゴブロックといった知育玩具に興味を示してくれたりすればしめたもの。ブロックで遊ぶことで、「図形」の単元の内容に幼いときから親しむことになるからです。苦手な子どもが多い図形ですが、とくに二次元から三次元になると、その難易度はさらに上がります。紙に描かれた立方体を見せられて「頂点はいくつ?」と問われた場合、見えない部分を類推しなければならない。でも、ブロックに直接触れていた経験があれば、その類推もスムーズにできるでしょう。そういうリアルのものに触れる体験が、小学生になって算数をするとなったときに生きるのです。先取り学習をさせるにも子どもの特徴に要注目子どもそれぞれの興味や特徴に注目しなければならないということについては、子どもに先取り学習をさせる際にも同様のことがいえます。わたし自身は、先取り教育に賛成でも反対でもありません。なぜなら、子どもそれぞれがその子なりの適切なペースで学べることがなにより大切だと考えているからです。もちろん、先取り学習に合う子どももいます。子どもの頃のわたしもそうでしたが、ゲーム感覚でテストに臨んで高得点を取ることが気持ちいいと感じるような子どもは先取り学習に合うタイプでしょう。そして、いい点を取れたことが自信になり、「頑張れば自分はやれるんだ!」と感じる体験を積み重ねれば、その後も努力をいとわない子どもになります。そのスタンスは、算数の勉強に限らず、あらゆることを子どもが主体的に進めるうえでとても大切なものです。一方で、そういうゲーム感覚のようなペースでの勉強が合わず、新しい単元の概念はじっくりと時間をかけてかみ砕いて教えてあげないと理解できない子どももいます。そういう子どもに、「みんなもやっているから」と親が焦って、まわりの子と同じ先取り学習をさせても効果は薄い。このタイプの子どもは、学校や規模の大きい学習塾での集団授業に合いませんから、先取り学習をするにしても、少人数制の塾などでフォローしてあげることが必要になってくるでしょう。先に述べた、算数の学習を進めるうえで理解すべき要所を抜け落ちさせないことに関してもいえますが、我が子の現状や特徴を親がまず理解することが大切なのだと思います。『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』今木智隆 著/文響社(2019)■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない(※近日公開)第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題(※近日公開)第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法(※近日公開)【プロフィール】今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月02日「勉強する」というと、みなさんはどういうスタイルをイメージするでしょうか。机に向かって教科書や問題集を広げる――。たしかにわかりやすい勉強のスタイルです。でも、それこそが勉強することだと考えて子どもに強いることが、子どもを勉強嫌いにしてしまっているとしたらどうですか?独自の授業スタイルで注目される「探究学舎」の代表である宝槻泰伸先生に、子どもの勉強法に関するアドバイスをもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)大人の働き方は変わるのに、子どもの勉強の仕方は変わらない時代が進むに伴って、これまでは価値があったもの、あたりまえだと思われていたものもそうではなくなることは珍しくありません。それこそ、時代の変化が激しいいまなら、その傾向はさらに強まっています。たとえば、働き方がそうでしょう。かつての企業の従業員たちは、企業のリーダーが決めた課題を解決するために、企業によって割り振られた仕事をなるべく要領よくこなしていました。それは、従業員を管理することを重視した軍隊的な労働環境だったといえるでしょう。でも、そういう働き方に対して多くの人が違和感を覚えるようになりました。そうして、いまは自由度が高い労働環境をデザインする時代に入ってきました。たとえば、フリーランスもそうですし、企業も勤務時間を自由にしたりフリーアドレス制にしたり、あるいはソファやハンモックを配置するなど、以前では考えられなかったオフィスも増えてきています。ところが、子どもたちが勉強する環境はどうでしょうか?いまも子どもたちは、何十年前の子どもたちとなんら変わらず、姿勢を正して机に向かい、教科書を開いて勉強することがよいとされています。大人の働き方はどんどん変化しているのに、子どもたちの勉強に関しては、かつてとまったく同じスタイルが正しいとされているのです。まずはそのあたりまえを疑ってみませんか?ずっとあたりまえとされてきた子どもの勉強スタイルを疑うみなさんも、仕事の最中にお菓子を食べて小腹を満たすこともあるでしょう。あるいは、仕事で必要な資格を取得するための勉強として、自宅のソファに寝っ転がってテキストを読むこともあるはずです。子どもだってそうしていい。ソファに寝っ転がってポテトチップスでもつまみながら勉強をしてもいいのです。しかも、教科書を使うことにこだわる必要もありません。子どもが夢中になって石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』シリーズ(中央公論新社)を読んでいたら、それも立派な歴史の勉強であるはずです。また、みなさんもメディアを通じてGoogleなど最先端の企業のオフィスを見て、「いいなあ、こういうところで働きたいな」と思ったことがあるでしょう。それは、子どもの勉強にもいえるはずです。大人が、これまであたりまえとされてきた働き方を疑っていいのなら、子どもだってこれまであたりまえとされてきた勉強の仕方を疑ってもいい。そして、子どもが自分でやりたい方法で勉強することを、大人は認めてあげるべきだと思うのです。子どもの思考力を鍛える、おすすめ「なぞ解き教材」ではひとつ、わたしがおすすめする勉強法をお伝えしましょう。もちろん、これまでお伝えしてきたように、勉強法は子どもそれぞれでいいのですから、わたしがおすすめする勉強法を絶対にやらせるべきだというわけではありません。さて、そのおすすめの勉強法ですが、松丸亮吾くんの著書を子どもに与えるというものです。松丸くんは、有名なメンタリストのDaiGoさんの弟で、なぞなぞをつくるクリエイターです。その著書であるなぞ解き教材がじつに素晴らしい!たとえば、『東大松丸式 数学ナゾトキ 楽しみながら考える力がつく!』(ワニブックス)がそのひとつです。松丸くんがつくるなぞなぞのなにが素晴らしいかというと、とにかく考えたくなるし夢中になるし、答えられるととてもうれしくなるというところです。そんなクリエイティブななぞなぞをつくれる一種の才能を松丸くんは持っているのです。もちろん、著書に掲載されているなぞなぞは、ただのなぞなぞではありません。松丸くんは、「考えるという行為を楽しい行為にすること」をビジョンに掲げて活動している人です。だからこそ、著書に掲載されているなぞなぞも、解くことで思考力を鍛えられるものになっています。先に挙げた著書の帯を見てみると、「想像力、多角的思考力、発想力、試行錯誤力、説明力――勉強でも社会でも役立つ5つの力を鍛える!」とうたっています。これなら、「子どもに勉強を得意になってほしい」と願っている親にも響くのではないでしょうか(笑)。ただ、みなさんには、「子どもには絶対に学校の勉強を得意になってほしい」と願うような古い価値観はやはり捨ててほしいなと思っています。現代的にいえば、価値観をアップデートしてほしい。もちろん、学校の勉強を全否定する必要はありません。漢字の読み書きができないよりはできたほうがいいし、計算も正確にできたほうがいいでしょう。でも、それはベターであってマストではありません。そうして親が自らの価値観をアップデートした先に、従来の勉強の仕方などにはこだわらない、我が子にフィットする勉強法が見えてくるのではないでしょうか。『探究学舎のスゴイ授業 子どもの好奇心が止まらない! 能力よりも興味を育てる探究メソッドのすべて 元素編』宝槻泰伸 著/方丈社(2018)■ 「探究学舎」代表・宝槻泰伸先生 インタビュー記事一覧第1回:“勉強させずに”子どもを伸ばす! 「従来型の学習にこだわってはいけない」その訳は第2回:親がどんなに願っても勉強しない子どもの「学びへの好奇心」は、こうくすぐる!第3回:「勉強嫌い」は親の価値観が古いせいかも。寝転がってお菓子を食べながらでもいいんです【プロフィール】宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)1981年5月25日生まれ、東京都出身。京都大学経済学部卒業。探究学舎代表。幼少期から「探究心に火がつけば、子どもは自ら学びはじめる」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し京都大学に進学。ふたりの弟も同様に京都大学に進学。その後、5年の歳月をかけて、子どもたちが「わあ、すごい!」と驚き感動する世界にたったひとつの授業スタイルを開発。5児の父でもある。主な著書に『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)、『とんでもオヤジの「学び革命」 「京大3兄弟」ホーツキ家の「掟破りの教育論」』(小学館)、『勉強嫌いほどハマる勉強法 子どもが勝手に学びだす!! 宝槻家のストーリー活用術』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月21日かつてないほど変化が激しい時代にあって、子どもたちが未来の社会で活躍するためには「探究する力」を身につけるべきだと主張するのが、独自の授業スタイルで注目される「探究学舎」の代表を務める宝槻泰伸先生。では、その探究する力を子どもに身につけさせるにはどうすればいいのでしょうか。宝槻先生は、「従来型のいわゆる勉強ができるようになってほしいと願う親の価値観を変えなければならない」といいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「探究する力」を身につけるには、「好奇心」が重要これからの時代を生きる子どもたちが身につけておくべきもっとも大切な力が、自ら課題を見つけて自ら解決する「探究する力」だとわたしは考えています(インタビュー第1回参照)。では、どうすればその探究する力を身につけることができるのでしょうか?その答えは、「好奇心を伸ばす」こと。なぜなら、好奇心がなければ、探究のスタートを切ることすらできないからです。だとすると、今度は、「好奇心を伸ばすにはどうすればいいのか」という疑問を持った人も多いはずです。その答えを解説するため、縦軸と横軸で4つにわけられたマトリクスをイメージしてください。縦軸の要素は、「楽しい、快楽」と、その真逆の「不快」。横軸は「悪いこと」と「いいこと」です。子どもの周囲にあるあらゆるものは、このマトリクスのどこかに分類することができます。たとえば、「楽しくて悪いこと」というと、どんなものをイメージするでしょうか?子どもにとっては楽しくて、大人からすれば好ましく思えないこととなると、ゲームや漫画、YouTubeなどが挙げられるでしょう。そのように、子どもと親では、同じものに対しても向ける視線がそれぞれ異なります。なぜかというと、子どもは「楽しい、快楽」を感じられるものに強く反応し、親としては我が子には将来役に立つような「いいこと」をしてほしいと思うからです。一般的な学校の勉強なら、親にとっては「いいこと」だと思えても、たいていの子どもにとっては楽しく感じられない。そのため、親がどんなに勉強をしてほしいと願っても、子どもはなかなか勉強に興味を持ってくれないということになるのです。子どもには楽しく、親にとっては「やってほしい」と思えるものを与える子どもは、そもそも好奇心がくすぐられて熱中できるものにしか反応しない生きものです。子どもが夢中になっているものがあったとしたら、それは子どもにとって楽しいことで好奇心が満たされるものだと考えられます。でも、それらは漫画やゲームといった大人にとってよろこばしくないものということも多いでしょう。そこでどうすべきか?子どもにとっては「楽しい、快楽」と感じられ、親にとっては「いいこと」だと思えるものを与えることを考えるべきです。スポーツはその典型かもしれませんね。そして、その与えるものは、ノンフィクションでなければならないというのがわたしの考えです。フィクションの世界を夢中になってむさぼったとしても、人生を大きく変えることはできないのではないでしょうか。子どもたちは現実の世界を生きていくわけですから、現実の世界を楽しんで現実の世界に熱中したほうが、よりよい人生を歩めるようになるはずです。わたしが代表を務める「探究学舎」の場合なら、授業のテーマは宇宙、生命、元素、医療、数学、経済、歴史、芸術、ITとさまざま。でも、どれもノンフィクションのものです。それらに好奇心をくすぐられた子どもたちが驚き、感動することで、探究する力が伸びていくのだとわたしは信じています。親の価値観を変えるため、子どもの姿をしっかり見るそうはいっても、旧来の価値観を捨てきれない親も多いものです。どうしても、「学校の勉強もしっかりできるようになってほしい」と我が子に願ってしまう……。そういう自覚があるみなさんには、ぜひ子どもの姿をしっかりと見るようにしてほしいと思います。どんな親も、「子どもがよろこんでいる姿を見たい」というのが究極の願いであるはずです。一般的な学校の勉強とはちがうものだけれど、現実の世界に触れて我が子が目をキラキラと輝かせて、「もっと知りたい!」「もっとやってみたい!」という姿を見せてくれたとしたら、親の価値観は一気に変わるのではないでしょうか?「漫画を読ませるのは駄目だ」と考えている親なら、歴史や科学などをテーマにした漫画を子どもに与えてみてはどうでしょう。漫画はエンターテインメント性が高く、それこそ子どもにとっては「楽しい、快楽」と感じられるもの。そして、そのテーマが歴史や科学などだったら、親からすれば「いいこと」だと思えるものでしょう。そして、その漫画を与えられた子どもは目を輝かせて夢中になって読みふける――それこそが、探究する力を身につけるために子どもが自ら動きはじめた第1歩なのです。『探究学舎のスゴイ授業 子どもの好奇心が止まらない! 能力よりも興味を育てる探究メソッドのすべて 元素編』宝槻泰伸 著/方丈社(2018)■ 「探究学舎」代表・宝槻泰伸先生 インタビュー記事一覧第1回:“勉強させずに”子どもを伸ばす! 「従来型の学習にこだわってはいけない」その訳は第2回:親がどんなに願っても勉強しない子どもの「学びへの好奇心」は、こうくすぐる!第3回:「勉強嫌い」は親の価値観が古いせいかも。寝転がってお菓子を食べながらでもいいんです(※近日公開)【プロフィール】宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)1981年5月25日生まれ、東京都出身。京都大学経済学部卒業。探究学舎代表。幼少期から「探究心に火がつけば、子どもは自ら学びはじめる」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し京都大学に進学。ふたりの弟も同様に京都大学に進学。その後、5年の歳月をかけて、子どもたちが「わあ、すごい!」と驚き感動する世界にたったひとつの授業スタイルを開発。5児の父でもある。主な著書に『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)、『とんでもオヤジの「学び革命」 「京大3兄弟」ホーツキ家の「掟破りの教育論」』(小学館)、『勉強嫌いほどハマる勉強法 子どもが勝手に学びだす!! 宝槻家のストーリー活用術』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月20日親としてぜいたくがいえるのなら、我が子には学校の勉強がしっかりできるようになってほしいものでしょう。でも、独自の授業スタイルが注目される「探究学舎」の代表である宝槻泰伸先生は、子どもたちが未来の社会で活躍するためには、「勉強する力よりもずっと大切な力がある」と語ります。その大切な力とは、「探究する力」なのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)一般的な勉強とはまったく異なる「探究学習」わたしが代表を務める「探究学舎」は、一般的な学習塾ではありません。扱うテーマは、宇宙、生命、元素、医療、数学、経済、歴史、芸術、ITなどさまざま。いわゆる、文科省が決めた5教科の枠組みに沿って子どもに知識を授けるということはしていないのです。それから、問題を解かせて知識や技能が身についているかどうかを評価することもしません。つまり、わかりやすくいえば、一般的な勉強をさせていないということです。そういった、一般の授業とはまったく異なる独自の授業によって目指しているのは、子どもの「探究する力」を伸ばすということに尽きます。その探究する力こそ、これからの時代を生きる子どもたちにとって大切になっていくものでしょう。では、探究する力とはどういうものでしょうか?わたしは、「自分の問いに対して自分の方法で自分の答えにたどりつく力」だと考えています。たとえば、米アップル社の共同設立者のひとりだったスティーブ・ジョブズは、「これからの時代に主流となるデバイスはどんなものか」と考え、自分なりの方法でiPhoneを生み出しました。それこそ、まさに探究による成果でしょう。一方、一般的な勉強はどういうものかというと、与えられた課題を解決するための力を身につけるトレーニングです。たしかにこれまでは、そういう力が重視されてきた時代でした。でも、時代は大きく変化しました。経済活動の変化により求められるようになった「探究する力」わたしが、これからの時代に探究する力が求められると考える理由は大きくふたつ。ひとつは、経済的な文脈による理由です。先に、与えられた課題を解決するための力がこれまでは必要とされてきたとお伝えしました。これまでの経済活動において、そういった力が求められてきたのです。かつての経済活動の主役は国家や企業でした。そして、そのリーダーが課題を決めていました。従業員は割り振られた仕事をできるだけ要領よくこなし、リーダーが決めた課題を組織によって解決してきたのです。それが、20世紀の経済原理です。だからこそ、従業員たちには与えられた課題を解決する力が求められ、その力を身につけるためにいわゆる勉強が有効だったわけです。でも、いまの経済活動はどうかというと、組織的な行動の成果としてのバリューだけではなく、個人的なクリエイティブ活動の成果によるバリューが直接市場に流通するようにもなってきています。いまは、さまざまなインフラが整備されたことにより、個人でアプリを開発することもできれば、ユーチューバーとして大金を稼ぐことも可能です。そう考えると、これからの経済活動のなかで活躍するには、クリエイティビティーを磨いていくことが必要となっていきます。それでは、クリエイティビティーをどうやって磨いていけばいいのでしょうか?わたしは、従来型の学校の授業や一般的な勉強ではそれは難しいと感じました。そうして、探究する力こそが重要だと考え、試行錯誤しながら独自の授業スタイルを構築してきたのです。働き方は「ライスワーク」から「ライフワーク」へこれからの時代に、探究する力が求められるとわたしが考えるもうひとつの理由は、個人主義的な文脈によるものです。人類は、その長い歴史を通じて自らの幸せを追求してきました。では、その幸せとはなにかといえば、基本的に「自由であること」ではないでしょうか。自由こそが、人間の幸せを支える非常に重要な要素であるはずです。ところが、これまでの労働には不自由なことがとても多かった。会社に決められた時間に出社し、決められた仕事をこなす……。そして、経営者に搾取される……。とうてい、自由とはいえませんよね。でも、昭和の時代には「生きるためには仕方ない、忍耐や努力も必要だ」という共通認識がありました。でも、平成から令和になり、時代はどんどん変化してきています。大企業に入社すれば安泰という時代は終わり、フリーランスで働く人も増えています。そのなかで、自分の自由と収入の折り合いをつけようと多くの人がチャレンジしている。それが、いまという時代です。要するに、飯を食うために働く「ライスワーク」から、自分を自由に表現するために働く「ライフワーク」に移行しつつあるのです。そして、その変化がもっと進んだ未来を生きる子どもたちは、いまのうちにどんな準備をしておけばいいのか?それこそ、自分の自由に従って好きなことをとことん探究していく学習なのではないでしょうか。『探究学舎のスゴイ授業 子どもの好奇心が止まらない! 能力よりも興味を育てる探究メソッドのすべて 元素編』宝槻泰伸 著/方丈社(2018)■ 「探究学舎」代表・宝槻泰伸先生 インタビュー記事一覧第1回:“勉強させずに”子どもを伸ばす! 「従来型の学習にこだわってはいけない」その訳は第2回:親がどんなに願っても勉強しない子どもの「学びへの好奇心」は、こうくすぐる!(※近日公開)第3回:「勉強嫌い」は親の価値観が古いせいかも。寝転がってお菓子を食べながらでもいいんです(※近日公開)【プロフィール】宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)1981年5月25日生まれ、東京都出身。京都大学経済学部卒業。探究学舎代表。幼少期から「探究心に火がつけば、子どもは自ら学びはじめる」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し京都大学に進学。ふたりの弟も同様に京都大学に進学。その後、5年の歳月をかけて、子どもたちが「わあ、すごい!」と驚き感動する世界にたったひとつの授業スタイルを開発。5児の父でもある。主な著書に『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)、『とんでもオヤジの「学び革命」 「京大3兄弟」ホーツキ家の「掟破りの教育論」』(小学館)、『勉強嫌いほどハマる勉強法 子どもが勝手に学びだす!! 宝槻家のストーリー活用術』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月19日どんなに子どもを愛していても、自由奔放な子どもに振り回されてイライラしてしまうこともあるのが子育てです。自分のイライラにどう対処していいかわからず、悩んでいる人もいるのではないでしょうか。そこで、「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生に、子育てでイライラせず、かつ幸せになるという欲張りな方法を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)イライラした自分を責めずに認める子育ては本当にたいへんなことの連続です。いうことを聞いてくれない子どもに対してイライラしてしまうことも少なくないでしょう。そのとき、イライラしてしまった自分を責めていませんか?それでは自分が苦しくなるばかりです。子育てにはイライラすることもあって当然なのですから、自分を責めるのではなく、「イライラしたなあ」と、イライラした自分をただ認めることが大切です。というのも、「イライラは完全に悪いものだ」といい切れるものではないからです。親のイライラというものは、子どもにも伝わり、ある程度の教育効果があります。親がイライラしていると、その事実を子どもは察して、「こういうことはしてはいけないな」と感じることもある。あるいは、場合によっては反面教師としての教育効果かもしれません。「イライラしているお母さんみたいな人にはなりたくない、穏やかな人になりたい」と、子どもが思うようなことです。しかしながら、子育てをするうえでは、やはりなるべくイライラしないほうが理想的です。ですから、イライラを抑えるためのトレーニングをしましょう。イライラしたら、まずはその事実を認める。それから、6秒間、深呼吸をしてイライラを子どもにぶつけたくなるのをぐっと我慢する。これは、怒りをコントロールするメソッドであるアンガーマネジメントの手法です。怒りは、6秒間我慢すれば消えるという研究結果があるのです。さらに、イライラしている自分を俯瞰するイメージで客観視してみてください。これら3つのことを続ければ、イライラに対して冷静に対処でき、徐々にイライラを抑えられるようになっていくはずです。子育てをめぐる夫婦の方針がちがってもいいただ、子育てにおいてイライラさせられるのは、子どもの行動だけに限りません。たとえば、どちらかといえば母親に多いことだと思いますが、「夫が子育てに協力してくれない!」ということも、イライラしてしまう大きな要因のひとつです。そういう人のなかで、パートナーに対して「あきらめ」の気持ちを持っている人はいませんか?「夫にいっても、どうせわかってくれない」と思っているようなことです。あるいは、子育てをめぐって夫婦喧嘩をしたときに、解決しないまま、「その話をするとまた喧嘩になるから」と放置してしまう。そしてまた別の理由で喧嘩をして解決しないまま放置する……。そのようにして、夫婦がわかり合えない事実をどんどん蓄積していないでしょうか。これは、子育てのためには完全にNGなことです。いや、最悪といってもいいでしょう。なぜなら、子育てをめぐる父親と母親の方針が食いちがっていると、子どもは混乱してしまうからです。ですから、やはりあきらめることなく夫婦でよく話し合うことが大切です。その場合、夫婦間で子育ての方針が一致することが理想ですが、もしちがっていたとしても、きちんと夫婦で話し合ったうえで「わたしたちは考えがちがうんだね」と認め合うことができていれば問題ありません。これは、先に挙げた、あきらめによって子育ての方針の食い違いを放置していることとはまったくちがうこと。夫婦が互いに認め合っているために、「考えはちがうけど、共存していこうよ」と前向きに子育てに向かうことができるからです。「お父さんとお母さんの考えはちがうけど、お父さんもお母さんもあなたのことをきちんと考えているんだよ」と子どもに伝えられる。そうすれば、子どもも混乱することなく両親の考えのちがいを受け止めてくれるでしょう。夜寝る前に、その日にあったいいことを3つ書き出す最後に、子育て中のみなさんがイライラせずに幸せになれる、とっておきの方法をお教えしましょう。これは、アメリカの心理学者であるマーティン・セリグマンが唱えているもので、「毎晩寝る前に、その日にあったいいことを3つ書き出す」という方法です。人間の脳は、同じ失敗を繰り返さないため、ポジティブなことよりネガティブなことをより強く記憶するようにできています。危機管理能力としては優秀ですが、やはり嫌なことばかり覚えていては、幸せを感じにくいですよね。でも、よく考えてみれば、ごく平凡に思える1日のなかにも見落としているいいことはたくさんあります。それこそ、子育て中の親であれば、いうことを聞いてくれない子どもにイライラさせられることがあったとしても、昼寝している子どもの寝顔を見れば「なんてかわいいんだ」と思うでしょう。親として最高に幸せな瞬間です。その事実を書き出すことで、日々のイライラは減り、幸せを感じられるようになるはずです。この方法が面白いのは、習慣化するといいことに自然に目が向くようになる点です。いいことを書き出したいがために、いいことを見つけられるようになるというわけです。いわば、「幸せ体質」になるといっていいでしょう。わたしの妻なんて、まさにその幸せ体質。朝の9時になる前に、「もういいことが3つ見つかっちゃった!」なんていっていますよ(笑)。『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき第4回:子育てでイライラした時どうすれば?幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方【プロフィール】前野隆司(まえの・たかし)1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月14日子どもの幸せを願わない親はいません。そう考えて、子どもばかりを優先し、夫婦関係をおざなりにしている人はいませんか?「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生は、「親だからこそ、子どもではなく夫婦、そして自分の幸せを追求してほしい」と語ります。そのことが「子どものためになる」というのですが、はたしてどういう意味なのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)スキンシップをすれば幸福度が上がるみなさんは、子どもと積極的にスキンシップをしていますか?感覚的にもわかることかと思いますが、スキンシップが多いほど幸福度が上がるという研究結果があります。これは、神経伝達物質の影響によるものです。人間の脳は、他人とスキンシップすることにより、セロトニンやオキシトシンなど「愛情ホルモン」と呼ばれる神経伝達物質を分泌します。その働きにより、人は安心感を得て幸せを感じられるのです。ですから、子どもに対してどんどんハグをしてください。もちろん、スキンシップであればいいのですから、握手でもいいし、肩や背中をポンポンとたたいたり、「いい子いい子」と頭をなでてあげたりすることでもいい。とにかく、親子ともども幸せになりたいのなら、スキンシップを欠かさないことです。そういう意味では、日本人はちょっと不利かもしれません。外国人と比べると、日本人のスキンシップは明らかに少ないからです。わたしの知り合いがとあるラテン系の銀行に就職したところ、「自分の席になかなかたどり着けない」と苦笑いしていました。というのも、席に着くまでのあいだ、清掃員のおばちゃんなど出会う人出会う人から、「今日も会えたね!」と、まるで1年ぶりに会ったかのように激しくスキンシップされるからだそう(笑)。そのことを思えば、文化的にスキンシップが少ない日本人、とくに子育て中の親であるみなさんは、意識的に子どもとのスキンシップを増やしていく必要がありそうです。たとえ他人とのスキンシップには抵抗がある日本人でも、親子であれば問題ないでしょう。スキンシップをすれば幸せになるように人間はできているのですから、我が子を思う親なら、スキンシップをしない理由はありません。「子どもは宝物だ」という思考は危険さて、愛情を持って子どもとスキンシップをすることはもちろん大切ですが、その愛情の中身については注意が必要です。みなさんのなかに、「愛する子どもをきちんと育てることこそがわたしの生きがいだ!」なんて考えている人はいないでしょうか?それは、ちょっと危険な思考です。子どもに依存している可能性があるからです。わたしの母の世代の女性には、そういう人が多かったように思います。そういう女性は、妻として夫に尽くし、母親として子どもを育てることが任務であり幸せだと考えていました。そして、夫に先立たれて子どもが独立すると、自分の役割がなくなったと感じ、幸せの代わりに虚脱感を感じるようになる。そういう人の予備軍が、いまの親世代の人にも見られるのです。それこそ、「かわいい子どもには、できれば大きくならないでずっとそばにいてほしい」「将来、子どもが結婚して家を出ると思うといまから憂うつ」「子どもはわたしの宝物だ」なんて考えている人は危険です。そういう思考を持っている人は、無意識のうちに子どもを自分の「持ちもの」のように思っています。いうまでもなく、子どもは持ちものなどではなく、ひとりの独立した人間です。だからこそ、「いずれ我が家を出て他人になっていく子どもを遠くから応援しよう」という気持ちを持っていなければならないのです。子どものためにも、夫婦が仲良くしておくべきそう考えると、親が持っておくべきもうひとつの大切な思考があります。それは、夫婦こそが仲良くしておくべきだということです。子どもが独立して家を出ていったとしたら、そのあとに家に残るのは夫婦ですよね?それなのに、夫よりも、妻よりも「子どもが大事!」と子どもにばかり目を向けていれば、子どもが家を出た途端に、親はそれこそ虚脱感に襲われることになってしまいます。いま、熟年離婚する夫婦も多いですよね。それも、いまお伝えしたような、子どもにばかり目を向けている親が多いことにもよるのではないでしょうか。子どもとスキンシップをしてコミュニケーションを取ることも大切ですが、夫婦のあいだでももっともっとコミュニケーションを取るべきです。もっといえば、親自身が自分の幸せを追求してほしい。「子どものことを思えば、そんな勝手なことはできない」と考える人もいるかもしれません。でも、それは勝手なことなどではありません。むしろ、親自身が自分の幸せを追求することこそが子どものためになるのです。両親がしっかりコミュニケーションを取って幸せなカップルでいられたら、そんな両親の背中を見て育った子どもは、「自分もお父さんやお母さんみたいな家庭を築こう」と思うはずです。でも、親が子どもにばかり愛情を注いでしまうと、その子が大人になり子どもを持ったときも、自分の子どもに対して同じような愛し方しかできません。いわば、依存のループを子孫につないでしまうのです。そして、親に依存された子を待っているのは、最終的に虚脱感を味わうことです。みなさんも、我が子にそんな思いをさせたくはないでしょう。親自身が幸せになることはわがままでも勝手なことでもなく、むしろ子どものため――。そう考えて、子どもに依存しない親子関係を築いてください。『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき第4回:子育てでイライラした時どうすれば?幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方(※近日公開)【プロフィール】前野隆司(まえの・たかし)1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月13日いま、「先が見えない」といわれる時代です。だからこそ、「どんな時代になっても活躍できるように」と願い、親の多くが我が子にたくさんの習い事をさせています。ただ、「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生は、「習い事漬けの子どもは大切な時間を奪われている」と語ります。その真意と併せて、先が見えない時代に子どもが身につけるべきものを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)習い事漬けになっている子どもが奪われている大きな学びいま、日本の子育てにおいて大きな問題だと感じるのは、親が我が子をほかの子どもと比較することです。人が幸せになるためには、「やってみよう」とか「ありのままの自分でいいんだ」と思えなくてはなりません(インタビュー第1回参照)。ところが、いまの子どもたちは朝から晩まで習い事漬けといってもいい状況ですから、親としてはどうしても我が子とまわりの子どもの出来のちがいが気になる。そのため、「○○ちゃんはもう△△ができているのに……」と、我が子を他人と比較することが増えているのでしょう。極論をいえば、わたしは幼い子どもに対する早期教育はまったく必要ないと思っています。わたしの仕事の関係で、息子は3歳のときに半年ほどアメリカで過ごしました。すると、すぐにネイティブスピーカーのような発音で英語を話せるようになった。せっかくだからと、帰国してから某有名英語塾に通わせたのですが、結果は散々……。まわりの子どもの「日本人発音英語」に影響され、あっという間にひどい発音になってしまったのです。生き生きと遊んで過ごせる時期というのは、長い人生のあいだでも子どものときだけではないですか。わたしの世代はもちろんですが、いまの親世代のみなさんも多くが子どもの頃は野山を走り回って遊んでいたはずです。そのなかには多様な経験がある。たとえば、友だちと喧嘩することもそうでしょう。それは、子どもにとって大きな学びの場です。強い怒りを感じたり自分の気持ちを主張したり相手の気持ちを察したり相手に譲ったりして仲直りする。それは、間違いなく社会に出たあとも必要となる人間関係構築力の学びです。そういう大事な時間を子どもから奪ったうえに、我が子とほかの子どもを比較するようなことがあれば、いいことはひとつもありません。もし習い事などの早期教育を子どもにやらせるとしても、本人がよほど強い興味を示しているものだけに絞るべきでしょう。目的もなく東大に入っても意味がない時代多くの子どもがやっている習い事をさせることなどより、オンリーワンの強みを伸ばしてあげることが、これからの時代には大切だとわたしは考えます。わたしの友だちの子どもに、魚のある骨を集めるのが趣味だという子がいます。「鯛の鯛」というその骨は、魚のかたちをしていて、「魚のなかの魚」とも呼ばれるものです。その子は、鮮魚店に行ったり釣りをしたりして鯛の鯛を集めるうち、どんどん知識が増えていった。すると、ついにテレビに出演して、あのさかなクンにほめられたのです。さかなクンも、かつてはまさにそういう子どもだったでしょう。そしていまの活躍がある。とことんなにかを追求して周囲から突き抜ける、いわばいい意味でオタクになるほうが、いまは輝ける時代なのです。というのも、いい大学に入っていい会社に就職すれば人生は安泰だという構造がとっくに崩壊しているからです。そんな時代に活躍するには、やはり自分だけの強みを持っている必要がある。そう考えると、大学に進学するにしても、いわゆる一流大学に行けばいいというものでもありません。わたし自身は、いまは大学に一流も二流もないと思っています。というのも、二流三流と呼ばれるような大学にも、ひとつのことをとことん追求している、いい意味で変な先生がたくさんいるからです。なんの目的もなく東大に入っても意味はありません。それよりも、「これを学びたいんだ!」という強い気持ちがある学生なら、たとえ二流三流と呼ばれる大学に行ったとしても、その分野でトップになる可能性もあり、そのほうが社会に出たあとでよほど活躍できるのです。個性と大混乱の時代であるいま、必要なものとは?いまは個性の時代に変わりました。インターネットの普及もあって、それこそ世界中の個性的な人とつながることができて、そういうつながりのなかから大きな成果を挙げる人たちが生まれてきています。そんな時代にあって、ただひとつの大企業のピラミッドのなかで生き抜くすべなどではなく、自らの強みによって個性を伸ばすことこそが大切なのです。そう考えると、親であるみなさんが、時代の変化をきちんと把握しておくことも重要です。個性の時代になったということもそうですし、なんの目的もなく一流大学を目指すことに意味がなくなったということもそう。また、学習指導要領もようやく変わりました。みなさんが子どもの頃とは、確実に時代は変わったのです。そうして大きな変化が起きているいまは、個性の時代であると同時に大混乱の時代ともいえるでしょう。いまはトップ企業が短期間でガンガン入れ替わっています。いま、世界を引っ張っているGAFAも、10年後、20年後にはトップにはいないでしょう。そんな先行きが見えない時代になにが必要かというと、先の鯛の鯛が大好きな子どもではありませんが、時代がどう変わっても目を引くような個性的なスキルなのです。あるいは、時代の変化を敏感にくみ取って、「これからはこういうスキルが必要なんだ!」と自ら考えてチャレンジできる力でしょう。そのためにも、子どもの「好き」を大切にしてあげてください。子ども自身が好きなことであれば、とことん追求して個性的なスキルを手にすることができる。あるいは、好きなことに自らチャレンジする経験が多いほど、変わる時代に合わせて新たなチャレンジをしていくこともできるはずです。『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき(※近日公開)第4回:子育てでイライラした時どうすれば?幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方(※近日公開)【プロフィール】前野隆司(まえの・たかし)1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月12日幸せになりたい――。人間の究極の願いかもしれません。それこそ子を持つ親なら、我が子には絶対に幸せな人生を送ってほしいと願うでしょう。そこで、「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生に、親子そろって幸せになる方法を教えてもらいました。まずは、そもそも幸福学とはどんな学問なのかというお話からはじめてもらいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)他人と比較できるもので得られる幸せは長続きしないわたしの専門のひとつである「幸福学」を、まだ知らない方もおられるかもしれません。幸福学が世界的に広まりはじめたのは1980年代になってからです。ただ、「人はいかにすれば幸せになれるのか?」ということについては、2500年くらい前から哲学者や宗教学者が研究をしてきました。そこに科学の視点が入り、さまざまな説にエビデンスがもたらされ、幸福学という学問として確立されたのが1980年代以降ということなのです。心理学・統計学ベースの幸福学は、哲学でも宗教学でもありませんから、「人の幸せはなにか?」という根本的な問いを扱うものではありません。幸福学の研究では、その問いはさておき、研究対象の人たちにはそれぞれの主観で自分が幸せかどうかを問います。そして、「幸せだ」と答えた人たちにはどういう共通項があるのかを研究し、「人はいかにすれば幸せになれるのか?」という問いに答えを導くのです。また、そういった基礎研究に加えて、応用分野もある。たとえば、基礎研究によってわかった人が幸せになる仕組みを、企業経営やそれこそ子育てなどに応用し、幸せになる方法を広めることも幸福学の範疇に含まれます。さて、その幸福学の研究が進んだことで、ひとつの大きな事実が見えてきました。その事実とは、「お金やモノ、地位など他人と比較できるもので得られる幸せは長続きしない」ということです。たとえば、ある人が昇進して給料が上がったとします。もちろん、その瞬間はうれしいし、幸せを感じるでしょう。でも、もっと給料をもらっている人は世界にはいくらでもいる。上を目指せばきりがありません。そのことに気づき、せっかく給料が上がって得た幸せも、結局は長続きしないのです。長続きする幸せを得るために必要な「幸せの4つの因子」では、長続きする幸せを得るにはどうすればいいのでしょうか?それは、「心と体をいい状態にすることで幸せになる」ということです。そのうち、心の状態に着目すると、幸せな心の状態というものは数え切れないほどあります。それらを因子分析という手法によって整理したところ、4つにわけることができました。つまり、心がその4つの状態にあれば、強い幸福感を得られるというわけです。それらを、わたしは「幸せの4つの因子」と呼んでいます。【幸せの4つの因子】「やってみよう」因子「ありがとう」因子「ありのままに」因子「なんとかなる」因子では、子育て中の親と子どもはどうすれば幸せになれるのでしょうか?4つの因子それぞれをベースにお話しましょう。まずは「やってみよう」因子から。いまの子どもたちの多くは幼いときからたくさんの習い事をしたり、塾に通ったりしています。なかには、「通わされている」といったほうがいい子どももいるでしょう。これが大問題。やりたくもないことをやったところで幸せを感じられるでしょうか?答えは考えるまでもなく「ノー」ですよね。人は、自分の意志で「やってみよう」と思うことをやることで幸せを感じられるからです。親であるみなさんに注意してほしいのは、親自身も「やってみよう」と思っていなければならないということ。「自分は英語が苦手だったから」と、子どもを英語塾に通わせているだけでは、親の「やってみよう」が足りません。「幸せは伝染する」ものですから、親も「やってみよう」ということが日常になければならない。つまり、親は親、子は子で、それぞれが好きなことをやることで互いに幸せが伝染し、親子そろって幸せになれるのです。子どもに感謝し、子どものありのままを認めるふたつ目は「ありがとう」因子です。イメージしやすいことだと思いますが、感謝の気持ちを忘れない人は周囲といい人間関係を築けるので、当然、幸せを感じることができます。ところで、みなさんは子どもに感謝していますか?あるいは、夫や妻に感謝しているでしょうか?子育ては本当に大変なものです。協力が足りないパートナーや駄々をこねる子どもに対して、ついイライラしてしまうこともあるでしょう。でも、それでは幸せはあなたから逃げてしまいます。「わたしのパートナーでいてくれて、わたしの子どもに生まれてくれてありがとう」という気持ちを忘れず、日常的に「ありがとう」と口にするようにしてください。3つ目は「ありのままに」因子です。この因子を潰してしまうのは、「他人との比較」です。このことにも、「やってみよう」因子と同じように、いまの子どもがたくさんの習い事をしていることが悪影響を与えていると感じています。子どもが習い事をしていると、親としてはどうしても他の子どもと我が子の出来を比較してしまいがちです。そうして他人と比較されてばかりいる子どもが幸せを感じられるはずもありません。そもそも、子どもの生育には非常に大きな個人差がありますし、親の希望でやらせている習い事が、その子が得意なことではないかもしれません。親の勝手な理想の子ども像を我が子にあてはめるのではなく、我が子の「ありのまま」を受け入れ、また子ども自身にも「ありのままの自分でいいんだ」と思わせてあげましょう。失敗した子どもに「グッジョブ!」と声をかけるアメリカ人最後は「なんとかなる」因子です。「自信がない」「どうせ自分には無理」とネガティブ思考でチャレンジを恐れる人と、「なんとかなる」とポジティブに考えてさまざまなことにチャレンジしていく人ではどちらが幸せになれるでしょうか?答えはもちろん後者です。そして、子どもをポジティブ思考にするために重要となるのは、親の言葉かけです。ここで、わたしがアメリカに住んでいたときに妻から聞いたエピソードをお話しましょう。その日、妻はまだ幼かった子どもを公園で遊ばせていました。すると、アメリカ人の子どもが転んでしまった。その子の親は、どんな声をかけたと思いますか?日本人なら、「大丈夫?」と心配し、「だから気をつけなさいっていったじゃない」なんて小言をいってしまうかもしれません。ところが、アメリカ人のその母親は、間髪入れずに「グッジョブ!」といったのだそうです。驚きですよね。アメリカ人は、子どもがなにかにチャレンジして失敗するたび、「グッジョブ!」「ナイストライ!」と声をかける。それを何度も繰り返すのですから、仮にもともとは引っ込み思案の子どもだったとしても、どんどんポジティブになっていくはずです。民族性というところもありますから簡単ではないかもしれませんが、みなさんも、もっと前向きな言葉を子どもにかけてあげることを意識してはどうでしょうか。『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!(※近日公開)第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき(※近日公開)第4回:子育てでイライラした時どうすれば?幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方(※近日公開)【プロフィール】前野隆司(まえの・たかし)1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年03月11日かつてないほどに教育熱が高まっているいま、多くの親が、よりよい子育てをしようとたくさんの教育情報に触れています。でも、そのことの危険性を指摘するのが、スクールカウンセラーの経験も豊富な心理学者である、明治大学文学部教授の諸富祥彦先生。「完璧な子育てをしようとすることなどではなく、親は自分の幸せを追求することがなにより大切」と諸富先生は語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親が自己否定に陥りがちな現代の情報化社会現在の情報化社会のなかでわたしが懸念しているのが、親が自己否定に陥ってしまうという問題です。いまは、ママタレントと呼ばれる芸能人の子育てブログなど、あらゆるところから子育てや家庭教育の情報が入ってきます。そうして、「わたしの子育ては不十分じゃないのか……」というふうに不安になってしまう親が増加しています。その根底にあるのが、少しでも他人より優位に立ちたいという心理です。これは、学生時代の学業や部活となんら変わりません。勉強でまわりより少しでもいい成績を残したい、部活でまわりより少しでも活躍したい。そういう願望を多くの人が持っていたはずです。そして、子育てでも同様に、「わたしは他人よりいい子育てをしている」と感じ、安心したいと思うようになるのです。でも、そう感じるためには他人と比較することが必要となってきます。すると、安心するどころか、逆に「わたしの子育ては不十分じゃないのか……」と不安を感じ、自己否定に陥ることになってしまう。そうならないために意識してほしいのは、「完璧な親なんていない」ということ。どんなに完璧に見える親も完璧ではありませんし、そもそも完璧になる必要なんてないのです。これは、『Nobody’s Perfect』というカナダで生まれた親向けの教育支援プログラムの名称にも表れている考え方です。1980年代にはじまったこのプログラムは、親たちがグループのなかで互いの経験や不安を語り合うことで子育てのスキルを高めること、そしてなにより自信を取り戻すことを目的としています。子どもをしっかりと導いていくべき親が自信を失って不安になっていては、いい子育てができるはずもありません。子どもを目一杯愛して、親ばかになってもいいそして、「完璧な親なんていない」ということと同時に、子育てのゴールというものも意識してほしいと思います。子育てとは、とても長い時間を要するものです。子育ての目的は、子どもを、幼稚園児として幸せな幼稚園児にすることでもなければ、小学生として幸せな小学生にすることでもありません。子育てのゴールが、子どもが幸せな人生を歩むことだとするならば、子どもが大人になったときに子ども自身で幸せな人生を送っていけるような基礎能力をつけてあげることが子育ての最大の目的であるはずです。では、その基礎能力とはどんなものでしょうか?それは、子どもが自分でどんな人生を歩んでいきたいのかとプランニングして、やるべきことを自己決定して、自分で自分を幸せにできるような、タフな生きる力です。いくら親が望むとおりの道を子どもに歩ませたところで、親が押しつけた人生を子どもが幸せに感じるとは限りません。そう考えると、親がやるべき重要なことにはふたつのことが考えられます。ひとつは、子どもの自己肯定感を高めてあげること。「僕なんて幸せになっちゃいけない人間なんだ……」と自己否定していては、その子は幸せになれるはずもないからです。子どもの自己肯定感を高めるためには、「僕は僕のままでお父さんやお母さんに愛されている」と子どもに思わせてあげることが大切です。そして、子どもにそう思わせるには、親がしっかり愛情表現をすべきです。「ママはあなたを愛しているのよ」「あなたが大事なんだよ」と言葉で表現することでもいいでしょう。でも、わたしはなによりスキンシップをおすすめします。言葉よりも、肌の触れ合いを通じてのほうが、より多くの愛情が伝わるとわたしは考えています。スキンシップをすることに対して、「子どもを甘やかすことになりませんか?」と心配する人もいますが、そんなことはありません。目一杯、スキンシップをして愛してあげればいい。ですから、親ばかになっていいんです。ばか親になってしまうのは困りますけどね……(笑)。たとえ離婚してでも親が幸せになることが大切そして、子どもが自分を幸せにすることができるようになるために親がやるべき重要なもうひとつのことが、親自身が幸せになること。「人生は楽しいんだ!」「幸せになっていいんだ!」ということを、親の生き方を通じて子どもに伝えるのです。そういうと、「夫婦仲を良好に保つことも大事」というふうに考えるかもしれません。でも、夫婦仲を悪くしないために親が互いに我慢を重ねていいたいこともいわず、うつうつと暮らすようなことは、果たして幸せといえるでしょうか?そんな生活をしていては、子どもに「人生は楽しいんだ!」という大事なメッセージを伝えられません。極端にいえば、離婚したとしてもなんの問題もないということです。たとえ離婚をしてでも「俺は幸せになるぞ!」「わたしは幸せになるぞ!」と、幸せを追求する姿勢、強い生命力を親が示すことのほうがよほど大事なことだからです。完璧な子育てをする完璧な親になどなる必要はありませんし、なれるはずもありません。そんなことを考えるより、もっと自分の願望に素直に従って、親自身が幸せになり、子どもに「僕も幸せになっていいんだ」「わたしも幸せになっていいんだ」と思わせてあげる。それが子育てにおいてもっとも大切なことです。『孤独の達人 自己を深める心理学』諸富祥彦 著/PHP研究所(2018)■ 諸富祥彦ホームページ■ 明治大学文学部教授・諸富祥彦先生 インタビュー記事一覧第1回:“手がかからない子”ほど要注意!「いい子症候群」が怖い理由と、その防止法第2回:「過干渉」育児が招く悲しい結果。“見守るだけでは物足りない”親が危険なワケ第3回:「スマホ依存の親」と「衝動がコントロールできない子ども」の意外な関係第4回:完璧な子育てを目指さなくていい。親はもっとわがままに“自分の幸せ”を追求しよう【プロフィール】諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)1963年5月4日生まれ、福岡県出身。心理学者。明治大学文学部教授。「時代の精神(ニヒリズム)と闘うカウンセラー」「現場教師の作戦参謀」を自称する。1986年、筑波大学人間学類卒業。1992年、同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、同大学教育学部助教授を経て、2006年より明治大学文学部教授。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事、日本生徒指導学会理事、教師を支える会代表等の肩書も持つ。専門は人間性心理学、トランスパーソナル心理学。孤独、むなしさ、生きる意味などをキーワードに、現代人の新たな生き方を提示している。スクールカウンセラーとしての活動歴も長く、学校カウンセリングや生徒指導の専門家でもある。『男の子の育て方』『女の子の育て方』『一人っ子の育て方』(いずれもWAVE出版)、『子育ての教科書』(幻冬舎)、『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』(集英社)、『他人の目を気にしない技術』(PHP研究所)、『「プチ虐待」の心理』(青春出版社)、『「すべて投げ出してしまいたい」と思ったら読む本』(朝日新聞出版)、『知の教科書 フランクル』(講談社)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月27日教育熱心な読者のみなさんなら、「ネグレクト」という言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。ネグレクトとは、子どもを無視して放置するという、虐待の一種のこと。そのネグレクトに含まれるものとして、近年、問題視されているのが「スマホネグレクト」です。それはいったいどんなもので、どんな問題をはらんでいるものなのでしょうか。スクールカウンセラーの経験も豊富な心理学者である、明治大学文学部教授の諸富祥彦先生にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親のスマホ依存症によって引き起こされるネグレクト近年問題となってきたネグレクトのひとつに、「スマホネグレクト」というものがあります。これは、親のスマホ依存症によって引き起こされるネグレクトのこと。ただ、スマホネグレクトの場合は、子どもを完全に放置しているわけではなく、たとえば食事中に親がスマホばかりを見て子どもとの対話が減るといった、程度としては通常のネグレクトより小さいものといえます。しかしながら、スマホネグレクトも大きな問題をはらんでいることは間違いありません。家族の大切な対話の場である食事中にも、親はスマホばかり見ているのですから、「お父さん、お母さんは自分のことを大事に思ってくれている」という実感を子どもは得にくくなる。そのため、いわゆる愛着、専門用語ではアタッチメントといいますが、親子間における心の絆の形成が弱くなるのです。そうなると、親子関係はうまくいきにくくなる。また、スマホネグレクトを受け続けた子どもは、親から愛されている人間として穏やかに育つということも難しくなるでしょう。数年前に出版された『ママのスマホになりたい』(WAVE出版)という絵本をご存じですか?これは、スマホ依存症のお母さんに対する子どもの心の叫びを描いた作品です。食事中でも、子どもではなくスマホが気になってしまうという人がいれば、ぜひ一度読んでみてください。あなたの子どもも、登場人物の子と同じような寂しい思いを抱いているかもしれませんよ。衝動をコントロールできない子どもが増加中いま、幼い子どものなかに衝動をコントロールできないという子が増えています。小学生になっても、嫌なことがあると寝っ転がって「やだやだやだ!」とバタバタと暴れ、いうことをまったく聞いてくれない3歳児のような子どもが増加中なのです。わたしが小学校の先生から聞いた例を紹介します。ある低学年の女の子が手を洗っていると、水がはねて体にかかってしまったそう。途端に、その子は手足をばたつかせながら、「いますぐ乾かせ!」といったのだそうです。先生が「じゃ、向こうにいって乾かそうね」というと、今度は「いまここで乾かせ!」といって暴れたのだとか……。いま、こういう子どもが増えているのです。わたしは、このことにもスマホネグレクトが関連していると考えています。子どもの情緒の安定には、子どもが親に対して「ママ」と呼べば「なに?」と返してくれるという心のレスポンスが欠かせません。親がすぐそばにいてくれるという安心感のなかで、子どもの心は安定していくからです。それなのに、親がスマホに夢中で、子どもの「ママ」という呼びかけに気づかない、あるいは上の空の返事をしていたらどうですか?子どもはつねに不安を抱えることになり、自分の気持ちを持て余して、先に述べたようなかんしゃくを起こすような子どもになってしまうのです。そういう子どもは、ちょうどスマホが普及しはじめた頃から増加しています。割合を見ても、スマホ依存症の親は10人にひとりくらいで、衝動をコントロールできない子どもも10人にひとりくらいと完全に一致している。この数字からも、スマホネグレクトと衝動をコントロールできない子どもの増加には強い関連があると考えられます。より自覚的になりスマホの利用法を見直すスマホネグレクトの問題を解決するには、親自身がスマホ依存症を断ち切るしかありません。ただ、アルコール依存症と比べると、スマホ依存症を自覚することは簡単ではありません。アルコールの場合は誰もが体に悪いものだとわかっていますし、昼間からお酒を飲むようなことがあれば、完全にアルコール依存症を疑いますよね?でも、スマホの場合、スマホ自体を悪いものだとは考えませんし、スマホ依存症かそうではないかの線引きも非常に曖昧なものです。わたしの調査では、大学生の1日あたりのスマホ利用時間が6時間半でした。それだけ、スマホが生活の深いところまで浸透しています。大学を卒業して結婚し、親になったからといって、スマホの利用時間を減らすということは簡単ではないでしょう。そう考えると、より自覚的に自分自身がスマホ依存症になっていないかと疑い、その利用時間を減らしていくよう考えるべきです。たとえば、スマホを使うのは、トイレに入っているときだけにする。「ちょっとトイレにいってくるね」といって、トイレの中でだけスマホでの用事を済ませるというふうに制限するのです。あるいは、子どもとの関係を思えば、「子どもの前ではスマホを触らない」というルールを自分に課すのもいいと思います。毎日、子どもと接することができるのは、子どもが18歳や22歳になるくらいまでの限られた時間です。そのかけがえのない時間を大切にするためにも、スマホの利用法を見直してみてください。『孤独の達人 自己を深める心理学』諸富祥彦 著/PHP研究所(2018)■ 諸富祥彦ホームページ■ 明治大学文学部教授・諸富祥彦先生 インタビュー記事一覧第1回:“手がかからない子”ほど要注意!「いい子症候群」が怖い理由と、その防止法第2回:「過干渉」育児が招く悲しい結果。“見守るだけでは物足りない”親が危険なワケ第3回:「スマホ依存の親」と「衝動がコントロールできない子ども」の意外な関係第4回:完璧な子育てを目指さなくていい。親はもっとわがままに“自分の幸せ”を追求しよう(※近日公開)【プロフィール】諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)1963年5月4日生まれ、福岡県出身。心理学者。明治大学文学部教授。「時代の精神(ニヒリズム)と闘うカウンセラー」「現場教師の作戦参謀」を自称する。1986年、筑波大学人間学類卒業。1992年、同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、同大学教育学部助教授を経て、2006年より明治大学文学部教授。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事、日本生徒指導学会理事、教師を支える会代表等の肩書も持つ。専門は人間性心理学、トランスパーソナル心理学。孤独、むなしさ、生きる意味などをキーワードに、現代人の新たな生き方を提示している。スクールカウンセラーとしての活動歴も長く、学校カウンセリングや生徒指導の専門家でもある。『男の子の育て方』『女の子の育て方』『一人っ子の育て方』(いずれもWAVE出版)、『子育ての教科書』(幻冬舎)、『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』(集英社)、『他人の目を気にしない技術』(PHP研究所)、『「プチ虐待」の心理』(青春出版社)、『「すべて投げ出してしまいたい」と思ったら読む本』(朝日新聞出版)、『知の教科書 フランクル』(講談社)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月26日ひとりっ子家庭の増加に伴い、教育界において注目度を増している問題が「過干渉」です。子どもを大事にして「いい子に育ってほしい」という気持ちが強いあまりに、親の希望を優先した子育てに走ってしまう――。子どもを大事に思う気持ちは悪いものではありませんが、過干渉気味に育てられた子どもはさまざまな問題を抱えてしまいます。スクールカウンセラーの経験も豊富な心理学者である、明治大学文学部教授の諸富祥彦先生に、過干渉の典型例や、そうしないための方法を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親が子どもの友だちや遊びを決める、過干渉の典型例自分の子どもを、他人の顔色ばかり伺って自分がなにをしたいかもわからない「いい子症候群」にしないためにもっとも大切なことが、あらゆることを子ども自身に自己決定させることです(インタビュー第1回参照)。逆に、子どもの意志とは関係なく、どんなことも親が決めてしまうことを「過干渉」といいます。過干渉は、いい子症候群とセットのように大きな問題となっています。子どもが幼い場合、典型的に見られる過干渉の例が、親が子どもの友だちを選ぶということ。子どもの友だちに対して、親の勝手な価値観によって、「もうあの子とは遊ぶのはやめなさい」「この子はいい子だから、この子と遊びなさい」というようなことです。いまもむかしもよく見られるケースですから、ドキッとした人もいるでしょう。友だちを選ぶという行為は、絶対に子ども自身にさせるべきものです。そうでないと、子どもが自分自身で人間関係を築いていく力が育たないからです。あるいは、友だちどころか、遊びの内容そのものすら親が決めるというケースもある。子どもが遊びたいことではなく、親が子どもにしてほしい遊びを決めてしまうのです。そんなことをしてしまえば、子どもがどんどん自己決定できない人間になっていくことは明らかですよね。「自分づくり期」に入った子どもを「見守る」意識では、どんな親が子どもに対して過干渉になってしまいがちなのでしょうか?もっとも大きな特徴として、そういう親は子どもに依存しているという点が挙げられます。過干渉になってしまう親は、子どもに対してあれこれと口を出すことが子育てだと思っています。もちろん、小学3年くらいまでの子どもには、そういうことも必要です。それは、小学3年くらいまでは「しつけ期」にあたるからです。子どもが他人に迷惑をかけないため、自分のことを自分でできるようにさせるため、あるいは子ども自身の安全のため、幼い子どもにはあれこれと口を出してしつけることも必要です。でも、子どもが小学4年くらいになって思春期に差し掛かれば、必要以上に子どもに口を出してはいけません。なぜなら、その時期から子どもは「自分づくり期」に入るからです。自分づくり期という名のとおり、この頃から子どもは個性を磨いて自分らしさを身につけ、自分という人間をつくっていく。どんな大人になってどんな人生を歩んでいくのか――そういうことのベースが形成されるとても大事な時期といえます。そして、その時期の子どもに対して親がやるべきことは、それまでのようにあれこれと口を出すのではなく、見守るということ。つまり、子育てにはギアチェンジが必要なのです。ところが、子どもに依存している親は、このギアチェンジができない。あれこれと子どもに口を出して怒鳴っていないと、育児をしている気になれないのです。子どもを見守るだけではむなしいわけです。そういう親の勝手な空虚感を埋めるために、子どもに口を出してしまう。そういう意味で、過干渉の親は子どもに依存しているといえます。「一歩下がる」意識を持ち、自己満足の子育てをしないそうして、過干渉気味に育てられた子どもはどうなるのでしょうか?ひとつは、他人の顔色ばかり伺って自分がなにをしたいかもわからないいい子症候群になってしまうということ。もうひとつが、逆に親に対してものすごく反発して非行に走るようなケースです。非行に走って万引をする子どもたちの多くは、万引が楽しいからやるわけではありません。親が悲しむから万引をするのです。いわば、これは親に対する復讐です。ずっと自分を支配してきた親に対して、親を悲しませることで復讐をしているわけです。いい子症候群になったとしても、非行に走ったとしても、それは親子ともに望んでいなかった結果です。子どもをそんな道に進ませないためにも、子どもが自分づくり期に入ったら、親は子育てのギアチェンジをして子どもを見守ることを考えるべきです。なにより、「一歩下がる」ということを意識してください。自分よがりの子育てを優先してしまうと、ついあれこれと口を出したくなるものです。そんな子育ては、ただの自己満足に過ぎません。自己満足に走ることなく、親は一歩下がって、子どもが自分のことを自分で決めるというプロセスを辛抱強く見守るべきです。そういう姿勢でいられれば、子どもがいい子症候群になったり非行に走ったりするという、悲しい結果を招くことはないはずです。『孤独の達人 自己を深める心理学』諸富祥彦 著/PHP研究所(2018)■ 諸富祥彦ホームページ■ 明治大学文学部教授・諸富祥彦先生 インタビュー記事一覧第1回:“手がかからない子”ほど要注意!「いい子症候群」が怖い理由と、その防止法第2回:「過干渉」育児が招く悲しい結果。“見守るだけでは物足りない”親が危険なワケ第3回:「スマホ依存の親」と「衝動がコントロールできない子ども」の意外な関係(※近日公開)第4回:完璧な子育てを目指さなくていい。親はもっとわがままに“自分の幸せ”を追求しよう(※近日公開)【プロフィール】諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)1963年5月4日生まれ、福岡県出身。心理学者。明治大学文学部教授。「時代の精神(ニヒリズム)と闘うカウンセラー」「現場教師の作戦参謀」を自称する。1986年、筑波大学人間学類卒業。1992年、同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、同大学教育学部助教授を経て、2006年より明治大学文学部教授。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事、日本生徒指導学会理事、教師を支える会代表等の肩書も持つ。専門は人間性心理学、トランスパーソナル心理学。孤独、むなしさ、生きる意味などをキーワードに、現代人の新たな生き方を提示している。スクールカウンセラーとしての活動歴も長く、学校カウンセリングや生徒指導の専門家でもある。『男の子の育て方』『女の子の育て方』『一人っ子の育て方』(いずれもWAVE出版)、『子育ての教科書』(幻冬舎)、『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』(集英社)、『他人の目を気にしない技術』(PHP研究所)、『「プチ虐待」の心理』(青春出版社)、『「すべて投げ出してしまいたい」と思ったら読む本』(朝日新聞出版)、『知の教科書 フランクル』(講談社)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月25日親の立場からすると、自分の子どもには「いい子」になってほしいと思うものです。ところが、一見いい子に見えるのに、心に大きな問題を抱えている子どもたちもいます。それが、親など他人の顔色ばかり伺って自己決定できない「いい子症候群」の子どもたち。いい子症候群にはどんな問題があり、どうすれば我が子がいい子症候群になることを防ぐことができるのでしょうか。スクールカウンセラーの経験も豊富な心理学者である、明治大学文学部教授の諸富祥彦先生にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「いい子症候群」の原因は、親の子どもとのかかわり方にあるみなさんは、「いい子症候群」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「いい子」というからには、悪くないどころか、いいことのように思うかもしれません。でも、いい子症候群の子どもたちの場合、必要以上にいい子であろうとする傾向があるのです。その大きな特徴としては、自分を抑えて周囲の人の期待に過剰に応えようとする、いま風にいえば、空気を読もうとするあまりに、自分というものがわからなくなっているということが挙げられます。いい子症候群の子どもたちの典型的な行動例を挙げてみましょう。家族と一緒に食事に出かけたとします。ふつうの子どもであれば、たまの外食で、なにを食べようかと大いに興奮している場面ですよね。でも、いい子症候群の子どもたちは、自分がなにを食べたいのかということすらわからない。なぜかというと、なにを食べたいといったら親がよろこぶのかというようなことばかり考えるように、小さいときから強いられてきたからです。つまり、子どもをいい子症候群にさせてしまう最大の要因は、親の子どもとのかかわり方にあります。子どもが子ども自身の気持ちに従って行動できるようなかかわり方をしていないのです。そういう親も、一見すると子どもに対して理解があるようなかかわり方をしていることも少なくありません。たとえば、子どもが高校や大学などの進路を選ぶというとき、そういう親はまずはこういうはずです。「あなたが好きな学校に行っていいのよ」と。でも、子どもがいざ自分の志望校を口にしたら、「でも、その学校だとこういうところが心配だな」「お母さんはこの学校がいいと思うな」というふうにいってしまう。それでは、子どもからすれば、自分の行きたい学校に行っていいとはとても思えませんよね?そして、「親の気持ちに応えないと……」と考えるようになるのです。もちろん、そういう場面で子どもが自分の気持ちに従って反発するケースもあります。頭ごなしに「そんな学校は駄目!こっちにしなさい!」なんていわれれば、子どもも反発しやすいでしょう。でも、先に述べたように、いい子症候群を引き起こす親は、「あなたのためを思っていっているのよ」という態度を取りますから、子どもからすれば反発しづらくもある。そうして、子どもたちはいい子症候群になっていくわけです。「母親と娘」に圧倒的に多い、いい子症候群ここまで、わたしが例に挙げた親の口調が気になった人も多いかもしれませんね。そう、いい子症候群を引き起こす親は、圧倒的に母親が多いのです。加えて、いい子症候群になる子どもには女の子が多いという特徴もあります。男の子に対しては、最初からいい意味で両親ともにあきらめています。「男なんてなるようになる」「好きに生きろ」というように。でも、女の子の場合はちがう。父親からすれば異性のことはわからないですし、性のちがいを尊重しないといけないという意識が働くのでまだ問題は起きません。ところが母親は、「娘は自分のコピーのようなもの」だという認識をするケースが多いのです。「自分がこう思うのだから、娘もこう思うにちがいない」「娘の幸せは、こういうものにちがいない」と、娘だけは自分の期待に応えさせてかまわない存在だと思い込んでしまう。そうして、親である自分の希望を娘に最優先させるような言動をしてしまうのです。いい子症候群の子どもは「アダルトチルドレン」になるいい子症候群が怖いのは、いい子症候群の子どもたちの多くが、いい子症候群であることに無自覚だという点。わたしが過去に会った女性を例にしましょう。彼女は、母親からこんな言葉をかけられ続けて育ちました。「お母さんは英語をきちんと習いたかったから、あなたにはそうしてほしい」「お母さんは、本当は学校の先生になりたかったから、あなたにはそうなってほしい」「そうするのが、あなたにとってもいいことだと思うよ」と。彼女は、母親の期待にしっかり応えて英語の教師になりました。そして、それが母親のためにやってきたことなんて思うこともなかったし、自分にとっての幸せだと信じて疑うこともありませんでした。ところが、35歳くらいになったときに、突然、「わたしの人生って誰のものなのか」「わたしの人生は空っぽじゃないのか」という思いに襲われて、心が不安定になったのです。彼女はもう30代でしたから、厳密にいえばいい子症候群とはいえません。いい子症候群の子どもは、大人になったときに、「アダルトチルドレン」と呼ばれるようになります。アダルトチルドレンとは、子どもの頃に自分らしくさせてもらえない体験を重ねることで、大人になってからも、生きづらさを抱えてしまう大人のことです。アダルトチルドレンの人たちはたくさんの問題を抱えています。先に例に挙げた女性のように、人生自体に空虚感を持ってしまうこともそう。また、職場や家庭などの人間関係においても多くの壁にぶつかります。自分がなにをどうしたいのかということがわからないため、「わたしはこうしたい」という交渉ができないからです。そうして、我慢に我慢を重ねて不満を限界までため込んだ揚げ句に、「わたしを大事にしてくれない!」と怒りを爆発させるということになる。でも、相手からすれば、自分のことをなにもいわない人の気持ちなんてわかりようがありませんよね。子どもに「空気を破る」練習をさせる先に、いい子症候群の特徴として、周囲の空気を過剰に読もうとすると述べました。そう考えると、子どもをいい子症候群にしないためには、子どもに空気を破る練習をさせればいいのです。わかりやすい例なら、先にも挙げた外食の場面など最適でしょう。親の希望など関係なく、子ども自身に自分が食べたいものを真っ先に選ばせてあげればいい。このとき、親の顔色を伺うような素振りを子どもが見せていたとしたら、危険信号と考えていいと思います。いい子症候群の子どもは、親からすれば親のことを考えてくれて、反発もしてこないし、まさにいい子に思えるでしょう。でも、手がかからないいい子というのは、のちのちに手がかかる人間になりやすいのです。「なにを食べればいいかな?」というふうな、指示待ちの言動を子どもがするようなら、いい子症候群の兆候が見られますから、要注意!そして、子どもが自分で決められるまで、親は辛抱強く待ちましょう。ここに、欧米と日本の大きなちがいがあります。パン屋さんでの親子の振る舞いを見ていると、欧米人と日本人のちがいがはっきり感じられます。欧米人の親の場合、「なにを食べたい?」と子どもに聞いたら、子どもが自分で決められるまでずっと待ちます。欧米には、たとえ相手が子どもであっても、自己決定を大切にする習慣があるからです。ところが、日本人の親は待てない。「じゃ、これにしとこうか」「これ好きだよね、これでいいよね?」と、親が決めて押しつけてしまうのです。子どもをいい子症候群にしないため、日本人の親にもっとも必要なものは、なによりも根気、「待つ力」ではないでしょうか。『孤独の達人 自己を深める心理学』諸富祥彦 著/PHP研究所(2018)■ 諸富祥彦ホームページ■ 明治大学文学部教授・諸富祥彦先生 インタビュー記事一覧第1回:“手がかからない子”ほど要注意!「いい子症候群」が怖い理由と、その防止法第2回:「過干渉」育児が招く悲しい結果。“見守るだけでは物足りない”親が危険なワケ(※近日公開)第3回:「スマホ依存の親」と「衝動がコントロールできない子ども」の意外な関係(※近日公開)第4回:完璧な子育てを目指さなくていい。親はもっとわがままに“自分の幸せ”を追求しよう(※近日公開)【プロフィール】諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)1963年5月4日生まれ、福岡県出身。心理学者。明治大学文学部教授。「時代の精神(ニヒリズム)と闘うカウンセラー」「現場教師の作戦参謀」を自称する。1986年、筑波大学人間学類卒業。1992年、同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、同大学教育学部助教授を経て、2006年より明治大学文学部教授。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事、日本生徒指導学会理事、教師を支える会代表等の肩書も持つ。専門は人間性心理学、トランスパーソナル心理学。孤独、むなしさ、生きる意味などをキーワードに、現代人の新たな生き方を提示している。スクールカウンセラーとしての活動歴も長く、学校カウンセリングや生徒指導の専門家でもある。『男の子の育て方』『女の子の育て方』『一人っ子の育て方』(いずれもWAVE出版)、『子育ての教科書』(幻冬舎)、『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』(集英社)、『他人の目を気にしない技術』(PHP研究所)、『「プチ虐待」の心理』(青春出版社)、『「すべて投げ出してしまいたい」と思ったら読む本』(朝日新聞出版)、『知の教科書 フランクル』(講談社)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月24日貧困家庭に生まれながら、独学で東大とハーバード大に合格。現在は、「学びのイノベーター」という肩書で、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う本山勝寛さん。そんな本山さんは、子どもの自己肯定感を高めるために「褒めて伸ばす」ことがいいと進言します。では、具体的にどのように子どもを褒めればいいのでしょうか?本山さんが掲げる「あいうえおかきくけこ」の褒め方を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)才能ではなく、結果につながる努力や過程を褒める子どもを褒めるということに関しては、「褒めて育てるのがいい」「褒めない子育てがいい」「褒めずに認めるのがいい」というふうに、さまざまな意見がありますが、わたし自身は褒めて育てるべきだと考えています。なぜなら、褒めてあげることが子どもの自己肯定感を高めることにつながるからです。しかし、ただやみくもに褒めればいいというわけではありません。たとえば、「頭がいいね」「運動神経がいいね」というふうに才能を褒めることは避けたほうがいいでしょう。というのも、それでは子ども自身が「自分には才能がある」と自信過剰になり、「頭がいいんだから勉強しなくていい」と考え努力をおこたるからです。才能そのものではなく、結果につながる努力や過程を褒めてあげるべきです。それも、ただ「頑張ったね」だけではやはり不十分。努力をする過程のなかにも子どもなりに工夫した部分もあるでしょう。そういう具体的な部分をしっかり褒めてあげれば、子どもは「やればできるんだ!」と思い、自己肯定感を高めていけます。達成経験で得る「やればできるんだ!」というマインドセットこの、「やればできるんだ!」というマインドセットを子どもに持たせてあげることがなにより大切です。逆に、自己肯定感が低く、「どうせできない」「やっても無駄だ」と子どもが思っていたとしたらどうでしょうか?なにかに取り組む前からあきらめてチャレンジすらしないのですから、豊かな人生を歩むのは困難です。子どもの自己肯定感を高めるには、結果につながる努力や過程を褒めて、小さな達成経験をたくさん積み重ねさせてあげることが大切です。達成する内容は、勉強やスポーツに限りません。お絵描きや縄跳びなどの遊びだっていい。最初は3回しか縄跳びができなかったのに10回跳べるようになった、さらに一生懸命練習したり工夫をしたりするうちに100回跳べるようになった。赤いものを描いてみようとお題を出して、リンゴやイチゴ、サクランボ、トマトやチューリップ、金魚やザリガニ、たくさんの赤いものが描けた。そういう達成経験が子どもの自己肯定感を高めていきます。実際のところ、縄跳びがいくら上手に跳べても将来の仕事に役立つわけではないですし、絵を描くことも大半の人は将来の職業にはつながりません。でも、できなかったことが努力してできるようになった経験や、自分が手を動かしてなにかをつくり出したという経験によって培われる「やればできるんだ!」というマインドセットは、仕事はもちろん、あらゆる場面で大いに力を発揮します。仕事で大きな壁にぶつかったとき、「どうせできない」と思うのか、「やればできるんだ!」と思うのか。その後の成果に大きなちがいが出ることはいうまでもないでしょう。子どもが伸びる、褒め方ガイド最後に、わたしが考える子どもの上手な褒め方についてまとめておきます。拙著『そうゾウくんとえほんづくり』で、「子どもが伸びる、あいうえおかきくけこ」としてまとめています。その内容は、次のようなものです。あ 「あたりまえ」を褒めるいう 「一人称」で、「うれしい」気持ちを伝えるえ 「笑顔」で褒めるお 「同じ目の位置」で褒めるかき 「過程」を観察、「気持ち」に共感くけこ 「具体的」に「結果」も「行動」も褒めるまず、「あ」は、「あたりまえ」を褒める。大人にとってはあたりまえにできることも、子どもにとっては一生懸命に頑張ってはじめてできたということがたくさんあります。大人にとってのあたりまえは子どもにとってはあたりまえではないわけです。そう考えて、親からすれば小さなことに思えることでも褒めてあげてほしい。次の「いう」が、「一人称」で、「うれしい」気持ちを伝えます。子どもは、大好きなお父さんやお母さんがよろこんでくれることによろこびを感じるものです。ですから、「○○ちゃんの絵、大好き!」「一緒に遊べて楽しかったよ」というふうに、親自身のうれしい気持ちをしっかり伝えてあげてください。「え」は、「笑顔」で褒めます。子どもは、親の言葉だけではなく表情やしぐさなども観察しています。同じ言葉で褒めるとしても、無表情で褒めるのか、笑顔で褒めるのかでは褒めることの効果が大きくちがってくる。できるだけ、笑顔で褒めるように心がけましょう。続いて、「お」は、「同じ目の位置」で褒めます。表情のちがいと同様に、子どもの頭のうえからいうのか同じ目線でいうのかでは、同じ言葉でも伝わり方がちがってきます。また、笑顔をしっかり見せる意味もあります。次の「かき」は、「過程」を観察し、「気持ち」に共感します。先に努力や過程を褒めてあげるべきだと述べましたが、そうするためには子どもが取り組んでいる過程をしっかり観察する必要があります。また、子どもがよろこんでいるときには一緒によろこび、逆に悩んでいるときには「難しいね」と一緒に悩む。そういった共感の積み重ねが、子どもとの絆を深め、褒める効果を高めてくれます。最後の「くけこ」が、「具体的」に「結果」も「行動」も褒めます。「できたね!」と結果を褒めることも大切ですが、先に触れた過程と同じように、子どもが取り組んだ行動の一つひとつを褒めてあげましょう。しかも、その行動について「こういう工夫をしたんだね、面白い発想だね!」と、なるべく具体的に褒めることが大切です。そうすれば、子どもは「お父さん、お母さんは自分をしっかり見てくれている、認めてくれる」と感じ、「これでいいんだ!」と思って自己肯定感を育むことにもなるのです。『そうゾウくんとえほんづくり』本山勝寛 著/KADOKAWA(2019)■ 学びのイノベーター・本山勝寛さん インタビュー記事一覧第1回:非認知能力のなかで最重要なのは「○○心」。実は、日本の子どもは学びへの興味が低い!?第2回:「ただの石でも化石に見える」?自分で新たに生み出す経験が育むイノベーション能力第3回:自己肯定感がぐんぐん高まる最高の褒め方。「やればできる」のマインドはこう育てる!【プロフィール】本山勝寛(もとやま・かつひろ)1981年3月13日生まれ、大分県出身。学びのイノベーター。本山ソーシャル・イノベーション塾(MSI塾)塾長。日本財団子どもの貧困対策チームリーダー兼人材開発チームリーダー。高校時代、アルバイトで自活しながら独学で東大に現役合格。東京大学工学部システム創成学科卒業後、ハーバード大学教育大学院国際教育政策専攻修士課程を修了。現在は日本財団にて子どもの貧困対策チームリーダーと人材開発チームリーダーを務め、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う。5児の父で育児休業を4回取得。自身の経験を基にした勉強法、教育論などについての執筆活動にも積極的に取り組む。『最強の暗記術 あらゆる試験・どんなビジネスにも効く「勝利のテクニック」』(大和書房)、『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。 貧困の連鎖を断ち切る「教育とお金」の話』(ポプラ社)、『最強の独学術 自力であらゆる目標を達成する「勝利のバイブル」』(大和書房)、『一生伸び続ける人の学び方』(かんき出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月19日日本の教育の問題点として、「イノベーション能力を育てることができない」ことが挙げられることがあります。それがひいては、日本の経済力低下にもつながっていると指摘されるいま、これからの時代を生きる子どもたちのイノベーション能力を育てることは重要な課題でしょう。その課題克服のために、貧困家庭に生まれながら独学で東大とハーバード大に合格し、現在は「学びのイノベーター」という肩書で、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う本山勝寛さんは、「子どもの『好き』を大切にしてほしい」といいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)好奇心、創造性、発想力がイノベーション能力の源泉子どもたちが豊かな人生を歩んでいくために重要なものとして、わたしは第一に好奇心を挙げます(インタビュー第1回参照)。というのも、好奇心がなければ、勉強でもスポーツでも、なにかに取り組む最初の一歩を踏み出せないからです。加えて、これからの時代を生きる子どもたちには、創造性や発想力も大切な力でしょう。なぜかというと、好奇心、それから創造性や発想力は、社会的にも重要性が増していて日本人に欠けているといわれるイノベーション能力につながるものだからです。では、なぜイノベーション能力がそんなに重視されているのか。その理由は、すでに確立された手法を知っていたり多くの知識を持っていたりすることの価値が、今後はどんどん下がっていくからです。人間は、知識の量ではAIにかないません。そのため、AIではなくて人間だからこそできる新しい発想を生む――つまり、イノベーション能力が大切になってくるわけです。「なにものでもないもので遊ぶ」ことの重要性そのイノベーション能力の源泉である好奇心、創造性、発想力が子どもに芽生えているかどうかは、子どもをよく観察していればわかります。たとえば、子どもが砂場で遊んでいたとします。そして、砂場のなかから石が出てきた。ただの石ですが、好奇心や創造性、発想力がある子どもは、そんな石にも興味をかき立てられます。そうして、砂場から出てくる石を次々に集め、今度は別の遊びをはじめたりもする。子どもは水が大好きですから、それらの石を水で洗ってみる。好奇心、創造性、発想力の芽が育っている子どもの場合、水に濡れて石の色が変化することにも面白さを感じるのです。わたし自身、自分の子どもと砂場で「化石発掘ごっこ」をしたこともあります。砂場から出てくる石を化石に見立てて、恐竜のかたちに並べる遊びです。ただの石も、好奇心、創造性、発想力を持って見てみれば、恐竜の化石に見えるというわけです。もちろん、子どもの好奇心、創造性、発想力が発揮される場面は、砂場遊びに限りません。たとえば、落ち葉遊びもそうでしょう。大人からすれば落ち葉はただのゴミかもしれません。でも、好奇心、創造性、発想力がある子どもにとっては、色のちがいに興味を持ったり、穴を開けてお面にしたりと格好のおもちゃになります。なにものでもないもので遊ぶ――そういうことの積み重ねが、将来的なイノベーション能力を伸ばすことにつながるのではないでしょうか。アウトプットしなければイノベーション能力は育たないじつは、わたしが2019年末に出版した『そうゾウくんとえほんづくり』(KADOKAWA)も、子どもの好奇心や創造性、発想力を伸ばすことをコンセプトにつくった本です。この本は、さまざまなワークをしていくことで、最終的にオリジナルの絵本をつくれるという内容です。もちろん、絵本の内容には正解はありません。だからこそ、子どもの好奇心や自由な創造性、発想力を伸ばすことができるのです。わたしの娘もこの本を使って自分だけの絵本をつくっています。娘がいまいちばん興味を持っているものがハムスターですから、娘は絵本に登場するキャラクターもハムスターにしました。「1匹だと寂しくてかわいそう」といって、登場キャラクターはハムちゃんとスタちゃんという双子のハムスターです。そこからは、順を追ってストーリーを考え、絵本をつくっていきます。この絵本づくりのなにがいいかというと、アウトプットそのものだからです。イノベーション能力は、ただ知識や情報をインプットしたからといって育つものではありません。これまでにない新しいものを生み出すのですから、アウトプットの経験を積み重ねることこそが大切なのです。子どもがアウトプットしたくなるための大前提でも、親が「アウトプットしなさい」といったところで、子どもがアウトプットするわけでもありませんよね?なによりも、その大前提として、子ども自身が大好きなものを持っている必要がある。わたしの娘の場合はハムスターが大好きだからこそ、ハムスターをキャラクターにした絵本をつくりたい、つまりアウトプットしたいと考えたわけです。わたしの子どもの例ばかりで恐縮ですが、いま長男が大好きなのはザリガニです。春や夏の時期には毎日のようにザリガニ釣りに出かけ、あまりにザリガニ釣りがうまいので近所の子どもたちのあいだでは「師匠」と呼ばれているとか(笑)。そして、ザリガニが好きだからこそ、ザリガニについていろいろと勉強をする。そういった経験を続けるうち、息子のなかには「表現したい」という欲求が生まれたようです。その気持ちは、夏休みの自由研究となって表れました。息子の自由研究は、「ザリガニオリンピック」。飼っている10匹ほどのザリガニに陸上や水泳などの競技をさせて、その結果をまとめて発表したのです。親は一切口出しをしませんでしたが、自分で細かいルールも決めて測定し、すべて自ら考えて完成させていました。この他にも、食用のウチダザリガニという種類のザリガニを釣って調理して食べてみて、それをレシピにまとめて発表したり、ザリガニくんを主人公にした絵本もつくりました。息子のザリガニが好きという気持ちが「アウトプットしたい」というかたちになって表れたのだと思います。そう考えると、親としては子どもの興味関心をしっかりと観察し、「好き」を大切にしてあげることが、子どもイノベーション能力を伸ばすためにもっとも重要なことなのではないでしょうか。『そうゾウくんとえほんづくり』本山勝寛 著/KADOKAWA(2019)■ 学びのイノベーター・本山勝寛さん インタビュー記事一覧第1回:非認知能力のなかで最重要なのは「○○心」。実は、日本の子どもは学びへの興味が低い!?第2回:「ただの石でも化石に見える」?自分で新たに生み出す経験が育むイノベーション能力第3回:自己肯定感がぐんぐん高まる最高の褒め方。「やればできる」のマインドはこう育てる!(※近日公開)【プロフィール】本山勝寛(もとやま・かつひろ)1981年3月13日生まれ、大分県出身。学びのイノベーター。本山ソーシャル・イノベーション塾(MSI塾)塾長。日本財団子どもの貧困対策チームリーダー兼人材開発チームリーダー。高校時代、アルバイトで自活しながら独学で東大に現役合格。東京大学工学部システム創成学科卒業後、ハーバード大学教育大学院国際教育政策専攻修士課程を修了。現在は日本財団にて子どもの貧困対策チームリーダーと人材開発チームリーダーを務め、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う。5児の父で育児休業を4回取得。自身の経験を基にした勉強法、教育論などについての執筆活動にも積極的に取り組む。『最強の暗記術 あらゆる試験・どんなビジネスにも効く「勝利のテクニック」』(大和書房)、『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。 貧困の連鎖を断ち切る「教育とお金」の話』(ポプラ社)、『最強の独学術 自力であらゆる目標を達成する「勝利のバイブル」』(大和書房)、『一生伸び続ける人の学び方』(かんき出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月18日近年、教育におけるトレンドのキーワードとしてあがるのが、「StudyHackerこどもまなび☆ラボ」でも幾度となく登場している「非認知能力」。それにはじつにさまざまな力が含まれますが、なかでも「好奇心が大切」だと語るのは、貧困家庭に生まれながら独学で東大とハーバード大に合格し、現在は「学びのイノベーター」という肩書で、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う本山勝寛さんです。好奇心の重要性とは、どんなところにあるのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)人生のいろいろな面を左右する非認知能力すでに知っている人も多いと思いますが、非認知能力とは、文字どおり認知能力ではない能力のことを指します。認知能力は、テストで測れるIQや学力のこと。一方の非認知能力は、テストでは測れない力のことです。非認知能力には、ものごとを途中で投げ出さずにやり抜く力や、自分自身をコントロールする自制心、周囲と良好な関係を築くコミュニケーション能力や社会性、ものごとに興味関心を持って探求していく好奇心など、さまざまなものが含まれます。非認知能力が重要だということは、多くの人が直感的にはわかっていたことだと思いますが、その重要性が、いまではたくさんの研究によって裏づけされています。たとえば、「認知能力が高くても非認知能力が高まるわけではないが、非認知能力が高ければ認知能力も高まる」という研究もそのひとつでしょう。たとえどんなにIQが高くても、「自分は頭がいいんだ」と過信して勉強をしなかったり、あるいはやり抜く力がなくてすぐに勉強を投げ出してしまったりすれば、学力が伸びないのはあたりまえのことですよね。一方、IQは平均的であっても、やり抜く力があればコツコツと努力を続けられ、自制心があれば遊びたい気持ちを抑えて勉強を続けることができる。よくよく考えてみれば、研究結果など待たずとも、非認知能力が高ければ認知能力が高まることは容易に想像できるでしょう。もちろん、これらの力は大人になってからも重要なものです。自制心をもって仕事に必要なスキルをコツコツと学んで身につけたり、やり抜く力を発揮して困難に直面しても最後まであきらめずに取り組んだりすれば、仕事で成果を出すこともできる。中長期的に見れば、年収が上がることにもつながるでしょう。このように、人生のいろいろな面を左右するという点で、非認知能力の注目度が上がっているのです。ものごとに対して最初の一歩を踏み出させる好奇心非認知能力のなかでも、わたしはとくにこれからの時代には好奇心が重要だと考えています。というのも、学校や会社から決まったことを指示されて取り組んでいればよい時代から、自らが主体的に新たなことを見出して取り組み、創造していくことが求められる時代になってきているからです。自制心ややり抜く力は、やるべきことが定まっていればその効力を発揮しますが、自ら主体的に学んだり、行動したり、創造したりすることを促す原動力は好奇心です。勉強やスポーツ、仕事でも、ものごとに対して興味関心を持って取り組む、最初の一歩を踏み出させる力が好奇心なのです。しかし、日本人の場合、その好奇心が低いという残念なデータがあります。OECD(経済協力開発機構)が、15歳児を対象に定期的に行っている学習到達度調査「PISA」というものがあります。最近、その2018年調査で日本の生徒の読解力が8位(全70カ国・地域中)から15位(全79カ国・地域中)に低下したというニュースを見聞きした人も多いでしょう。とはいっても、まだ日本の生徒の読解力は平均より上です。わたしが問題として考えているのは、知的好奇心の低さなのです。その学習到達度調査では、数学や理科に対して興味があるかというアンケートも取っているのですが、日本の生徒の興味は非常に低く、OECD加盟国のなかでワーストに近かった。つまり、日本の子どもたちが持っている学力は、興味もないのに学校や塾で勉強をさせられた結果によるものと考えられます。でも、先にお伝えしたように、勉強に対する興味、つまり好奇心がなければ勉強に自ら積極的に取り組むこともないのですから、学校や塾でのやらされる勉強がなくなれば終わり。主体性や創造性が求められるようになると、日本人が成果を出せなくなってしまうことを危惧しています。子どもに好奇心が育つかどうかは親のかかわり方次第これらを前提とすると、やはり子どもの好奇心をしっかりと伸ばしてあげることが大切だと考えられます。そうするために、親はどうすべきなのでしょうか?それは、親自身もさまざまなものに好奇心を持つということに尽きます。子どもと一緒に自然のなかに遊びに出かけたとします。本来、多くの子どもは強い好奇心を持っていて自然が大好きですから、山や公園を散歩していてドングリなどを見つけたら、大いに興味を持つはず。そして、色やかたちが異なるドングリをたくさん集めるでしょう。でもそのとき、子どもがドングリに興味を持っていること対して親が興味を持っていなかったとしたら?「汚いから捨てなさい」なんていって、子どもの好奇心の芽を摘むことになってしまいかねません。こうして、親の好奇心の低さが子どもに伝染し、子どもも本来持っていた好奇心を失うことになるのです。そうではなく、子どもが興味を持っているものに対して、親も興味を持つことです。子どもがドングリに興味を持っているのなら、「いろいろなかたちがあるね」「種類がちがうのかな?」「このドングリは小さいから○○ちゃんドングリ、こっちは大きいからパパドングリだね。ママドングリも探しみよう!」「帰ったら、ドングリのちがいを一緒に図鑑で調べてみようか!」「今日見つけたドングリ家族の絵を描いてみようよ!」と、子どもの興味に親が寄り添い、想像が膨らむようにコミュニケーションを取ることです。そうすれば、子どもの好奇心、探究心、創造性はどんどん伸びていきます。『そうゾウくんとえほんづくり』本山勝寛 著/KADOKAWA(2019)■ 学びのイノベーター・本山勝寛さん インタビュー記事一覧第1回:非認知能力のなかで最重要なのは「○○心」。実は、日本の子どもは学びへの興味が低い!?第2回:「ただの石でも化石に見える」?自分で新たに生み出す経験が育むイノベーション能力(※近日公開)第3回:自己肯定感がぐんぐん高まる最高の褒め方。「やればできる」のマインドはこう育てる!(※近日公開)【プロフィール】本山勝寛(もとやま・かつひろ)1981年3月13日生まれ、大分県出身。学びのイノベーター。本山ソーシャル・イノベーション塾(MSI塾)塾長。日本財団子どもの貧困対策チームリーダー兼人材開発チームリーダー。高校時代、アルバイトで自活しながら独学で東大に現役合格。東京大学工学部システム創成学科卒業後、ハーバード大学教育大学院国際教育政策専攻修士課程を修了。現在は日本財団にて子どもの貧困対策チームリーダーと人材開発チームリーダーを務め、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う。5児の父で育児休業を4回取得。自身の経験を基にした勉強法、教育論などについての執筆活動にも積極的に取り組む。『最強の暗記術 あらゆる試験・どんなビジネスにも効く「勝利のテクニック」』(大和書房)、『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。 貧困の連鎖を断ち切る「教育とお金」の話』(ポプラ社)、『最強の独学術 自力であらゆる目標を達成する「勝利のバイブル」』(大和書房)、『一生伸び続ける人の学び方』(かんき出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月17日子どもは元来飽きっぽいものですが、「いまの子どもたちの集中力は、かつての子どもより低下している」と指摘するのは、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る進学塾VAMOSの代表である富永雄輔先生。その要因はどんなところにあり、どうすれば子どもの集中力を伸ばしてあげられるのでしょう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)好きなことをやることでしか集中力は育たない効率的に勉強をして結果につなげるには、集中力が不可欠です。では、集中力があるとはどういうことを指すのでしょうか?長時間、勉強を続けられるというイメージを持っている人もいるかもしれませんね。でも、長時間にわたって勉強することは、別に集中していなくてもできることです。ダラダラと集中しないまま勉強をすることはできるからです。わたしが考える集中力がある子どもは、短いパートの集中を繰り返したくさんできる子どもです。しかも、その集中の度合いが、わたしの感覚ではふつうの子どもの1.4倍くらいあるイメージ。100メートルダッシュにたとえるなら、ふつうの子が6本もダッシュをすれば疲れてしまうところを、集中力のある子どもはふつうの子より速いスピードで12本のダッシュができるといった感じです。では、集中力があるか否かはどう決まるのか?わたしは、小さい頃から好きなことに集中する経験をたくさんしてきた子どもが、それ以降も充実した集中力を得られるのだと考えています。人間が持っている集中力というものは、好きなことをやることでしか絶対に増やせません。その好きなことというのは、なんでもいい。親とすれば、それがレゴブロックなどの知育玩具だったり、それこそ勉強だったりすればうれしいのでしょうけれど、漫画やテレビでもいいのです。いまの子どもは集中力をどんどん失っているいまの子どもたちの集中力は、かつてと比べてどんどん下がってきているように思います。ゲームでも、わたしが子どもの頃なら『ドラゴンクエスト』などのRPGにハマって、それこそ三日三晩ほとんど寝ずに遊ぶ子どももいました。でも、いまのスマホのゲームは集中しなくてもいいものばかり。なぜかというと、いまの子どもたちは膨大な情報や娯楽に囲まれているために、ゲームにすら集中できなくなっているからです。漫画の例なら、かつての漫画の主流は、『ドラゴンボール』など子ども向けのものでした。ところが、いまの漫画の主流は明らかに大人向けのもの。なぜなら、いまの子どもたちは漫画を買わないから。というのも、漫画1冊を読み通すことへの興味や集中力が、いまの子どもにはないからです。スマホやタブレットでいろいろなコンテンツに触れ、飽きたら次々に別のコンテンツに移ることができる。だからこそ、集中力が育たないのです。そう考えると、「ゲームや漫画は禁止!」なんてことをいってしまえば、ただでさえ低下気味である子どもの集中力の育ちを、親がわざわざ阻害することになってしまいます。もちろん、子どもが集中できる好きなものが、先に挙げたレゴブロックなどの知育玩具だったり、あるいは習い事だったりすればベストでしょう。ですから、子どもに習い事をさせるにも、やはり子どもが好きなものかどうかという軸で判断してほしい。ただでさえいまの子どもたちは忙しいので、好きでもない習い事をたくさんさせてしまうと、集中するタイミングがまったくない生活を子どもが送ることになってしまいます。人生をより豊かにする「長期的な集中力」そして、この集中力こそが、子どもにとっては強力な武器になります。これからの時代を生きる子どもにとって大切なものとして、いろいろな人たちがさまざまな力を挙げますが、集中力こそ大切なものだとわたしは信じています。わたしは、いわゆる難関校に受かる子どもかどうかは、会ってから30分で見極められます。そして、そのちがいはどこにあるかというと、集中力の有無です。もちろん、集中力が育っていない子どもも、その後の努力によって難関校に合格するということはあります。ただ、集中力がある子どもは、その時点で極めて高い確率で難関校に合格できるといい切れる。わたしの感覚では、上位の難関校に合格する子どもの9割は、強い集中力を持っています。そう考えると、親としてはやはり好きなことに没頭する経験を子どもにさせて、しっかりと集中力を身につけさせることを意識してほしい。ただ、みなさんにはもうひとつ別の視点も持っていてほしいのです。それは、「長期的な集中力」というものがあるということ。先に、集中力があるとは、短いパートの集中を繰り返したくさんできることだと述べました。それももちろん大切な集中力です。でも、たとえば1カ月のあいだの小テストですべて100点を取るというような、長いパートでの集中も大切です。短いパートの集中を長期間にわたって続けられる力があれば、長い人生をより良い方向に進められる人間になれるのではないでしょうか。『それは子どもの学力が伸びるサイン!』富永雄輔 著/廣済堂出版(2019)■ 進学塾VAMOS代表・富永雄輔先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「“エンジンがでかい”賢い子」にするための、親の心得第2回:“できない”意識を持つ子にすべき、超重要なこと「褒めて自己肯定感を高める!」第3回:「ゲームや漫画は禁止!」が、子どもの“集中力の育ち”を阻害する理由【プロフィール】富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)京都府出身。進学塾VAMOS代表。幼少期の10年間をスペインのマドリードで過ごす。京都大学卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生までを対象とする進学塾VAMOSを設立。現在、吉祥寺校に加え、四谷校、浜田山校の3校を開校。入塾テストを行わず、先着順で子どもたちを受け入れるスタイルでありながら、毎年、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。受験コンサルタントとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の子どもたちの家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性に合った難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についての研究を続けている。主な著書に『男の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『女の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月11日「褒めて伸ばす子育て」がいいといわれることが多い昨今。新著『それは子どもの学力が伸びるサイン!』(廣済堂出版)が好評で、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る進学塾VAMOSの代表である富永雄輔先生は、「褒める」ことの一方で「叱る」ことの重要性を指摘します。そして、そもそもいまは、時代背景として「褒める」ことがより大切になってきているのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの精神状態を一定にすることが大切いま、子どもの力をしっかり伸ばしてあげるために、「褒める」ことが大切だとよくいわれます。でも、その反面、きちんと「叱る」ことももちろん大切。そして、子どもを褒めるにしても叱るにしても、そのタイミングこそが重要だとわたしは考えています。褒めることが大切だといっても、ただむやみに褒めるのではなく、適切なタイミングで褒め、逆に叱るべきタイミングにはしっかり叱るべきです。なぜかというと、子どもが勉強で成果を出すためには、精神状態を一定に保つことがなにより大切だからです。勉強ができる子どもには、いい精神状態を保っているという特徴があります。いい精神状態とは、学校や塾に通うこと、学ぶこと、勉強で結果を出すことが「楽しい」と感じる状態です。そういう子どもの学力が伸びることは、容易に想像できるでしょう。しかも、精神状態がいい子どもの場合、その伸び方は大人の想像を超えます。「飛び越し学習」といいますが、大人の勉強での伸び方が「1、2、3、4……」と一定のものだとすると、子どもの場合は、「1、2、7、12、20……」というふうに、飛躍的な伸び方をするということがよくあります。でも一方で、ちょっとした心の問題によって、「20、12、7、2、1……」というふうに学力が直滑降で落ちてしまうことがあるのも子どもの特徴です。褒めるも叱るも、子どもの精神状態次第子どもがなにか心の問題を抱えているような状態で、算数の問題を目の前にしても、気持ちを切り替えてしっかり勉強に取り組めるはずもありません。大人でもそうでしょう?たとえば、離婚したというようなネガティブな出来事を経験した直後に、気持ちを切り替えてしっかり仕事に取り組めといわれても、なかなかそうはできません。そういう状態では、仕事のパフォーマンスが上がるわけもないでしょう。まだ精神的に幼い子どもなら、なおさらです。そして、子どもの精神状態を安定させるために、適切なタイミングで褒めたり叱ったりすることが大切なのです。では、その「適切なタイミング」とはいつなのでしょう。それは、子どもの精神状態次第ということになるでしょう。たとえば、子どもがテストで70点を取ってきた。70点に対して子どもが自信を失って落ち込んでいるようなら、70点取れたことをしっかり褒めてあげるべきです。逆に70点で子どもが有頂天になっているようなら、足りなかった30点についてしっかりと叱るべき。精神状態が安定していることが大切だといっても、子どもが有頂天になっているような状態は問題です。有頂天とは油断以外のなにものでもなく、現状に満足して努力をやめるということもあるからです。褒め上手とは叱り上手――そう認識して、テストの点数などの基準ではなく、子どもの精神状態をきちんと観察して、適切なタイミングで褒めたり叱ったりしてもらいたいと思います。子どもができたことを褒めて自己肯定感を高めるまた、褒めることには、子どもの精神状態を安定させること以外にも子どもの自己肯定感を高めてあげられるというメリットがあります。いまの子どもたちは、たくさんの習い事をしています。しかも、わたしたちが子どもの頃の習い事と比べて、野球やサッカーなどスポーツの習い事も本格的ですし、英会話やプログラミングなど、かつてはあまり見られなかった習い事をしている子どもも多い。とくに都内では小学校受験も盛んですから、そういう傾向も強まっています。すると、子どもたちのなかでのヒエラルキーが早い段階ででき上がってしまうのです。小学校に入学した時点で、体操教室に通っていたために鉄棒で前回りが何回もできる子どももいれば、鉄棒なんて触ったこともないという子もいる。先取り教育によって小学校入学前に九九を覚えている子どももいれば、数字を覚えていない子もいます。しかも、幼い子どもは残酷ですから、「え?○○ちゃん、こんなことも知らないの?」「こんなこともできないの?」というふうに、まわりの子に劣等感を植えつけるということもある。そうして、ヒエラルキーの下位になってしまった子は、劣等感の塊になってしまいます。そして、劣等感の塊になってしまった子どもに起こりがちなのが、できないことや苦手なことを「嫌い!」と思ってしまうこと。まわりの子どもよりできないから「鉄棒は嫌い!」「算数は嫌い!」というふうに思ってしまうのです。「嫌い!」というのは“感情”ですから、親など周囲からの働きかけで解消させることは容易ではありません。だからこそ、たとえまわりの子どもたちから遅れていたとしても、なにかができたらしっかり褒めることが重要です。そうして子どもの自己肯定感を高め、「嫌い!」をつくらないようにしてください。子どもを褒めることが単純にいいわけではなく、いまの時代背景として、子どもの自己肯定感を高めるためにも、褒めることが必要になってきているのです。『それは子どもの学力が伸びるサイン!』富永雄輔 著/廣済堂出版(2019)■ 進学塾VAMOS代表・富永雄輔先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「“エンジンがでかい”賢い子」にするための、親の心得第2回:“できない”意識を持つ子にすべき、超重要なこと「褒めて自己肯定感を高める!」第3回:「ゲームや漫画は禁止!」が、子どもの“集中力の育ち”を阻害する理由(※近日公開)【プロフィール】富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)京都府出身。進学塾VAMOS代表。幼少期の10年間をスペインのマドリードで過ごす。京都大学卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生までを対象とする進学塾VAMOSを設立。現在、吉祥寺校に加え、四谷校、浜田山校の3校を開校。入塾テストを行わず、先着順で子どもたちを受け入れるスタイルでありながら、毎年、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。受験コンサルタントとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の子どもたちの家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性に合った難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についての研究を続けている。主な著書に『男の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『女の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月10日どんな親も、我が子を「できない子」にしたくはありません。そのために、親はどうすればいいのでしょうか。新著『それは子どもの学力が伸びるサイン!』(廣済堂出版)が好評で、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る進学塾VAMOSの代表である富永雄輔先生にアドバイスをしてもらいました。まずは、「できない子」の対極にある「賢い子」の話から伺いました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「賢い子」とは、地頭のよさを使える子みなさんは、「賢い子」というとどういう子どもをイメージするでしょうか?わたしは、賢い子を自動車にたとえて「エンジンがでかい」というふうにいっています。これは、いわゆる地頭がいいということです。むかしからある表現なら、「1教えられれば10わかる子」ともいえるでしょう。では、賢い子はどうして1教えられれば10わかるのでしょう。それは、点と点をつなげられるからです。一つひとつの知識をバラバラに理解しているのか、それとも意図的につなげて体系化する習慣があるのか。そのちがいが、賢さという点で大きな差を生みます。たとえば、算数の掛け算と割り算を別のものとして理解している子どもは、それほど賢いとはいえません。一方、賢い子は掛け算を理解すれば必然的に割り算も理解できる。なぜなら、掛け算と割り算は同じ事象に対する観点を逆にしたものに過ぎないからです。つまり、賢い子とは、点と点をつなげ、ひとつのことから複数のことを理解しようとする子といういい方もできるでしょう。加えていうなら、「地頭のよさを使える」ことも賢い子の特徴です。先に、賢い子を車にたとえて「エンジンがでかい」と表現しました。ただ、車の場合はエンジンが大きければそれだけスピードも出るのですが、人間の場合、たとえ大きなエンジンを持っていても、そのエンジンをうまく使えない人もいます。最近、兵庫県に住む9歳の子どもが、数学・算数検定の最難関である1級合格の最年少記録を更新したことが話題になりました。その子の地頭のよさは、モンスター級といっていいでしょう。ただ、どんなに頭がいい子どもでも、なにもしないまま微分や積分がわかるようになるわけではありません。その子の親がしっかりと自分の子どもを観察し、我が子が数学に向いていることに気づき、地頭のよさをきちんと使えるように数学の勉強をさせてあげた――そのことが素晴らしいのだと思います。できない子ができる子を逆転しづらい時代この子のように、子どもがしっかりと地頭を使えるようになるためにも、わたしは先取り教育をおすすめします。ときどき、「先取り教育を受けた賢い子は、そのまま伸び続けるのでしょうか?」といった質問を受けることがあります。おそらく、「そうではない」という答えを期待する人も多いでしょう。でも、現実問題でいうと、近年は勉強が苦手ないわゆるできない子が、先取り教育を受けてきたできる子を逆転するという現象が起きづらくなっているように思います。それには、大きくふたつの理由が考えられます。ひとつが、いまの子どもたちのメンタルが非常に弱いこと。もっというと、そのメンタルを厳しく鍛えることが世間的にハラスメントだとしてやれなくなっていることも大きい。勉強をさぼって周囲から遅れはじめた子どもに対して、学校や塾の先生が叱って一生懸命に勉強させようとすると、その行為がハラスメントだと取られる。そうすると、できない子を一生懸命に指導しようという先生もいなくなりますから、できない子ができる子に追いつくことが難しくなるのです。もうひとつの理由が働き方改革です。いまは学校の先生も塾の先生もきちんと休みを取らなければなりません。ですから、正規の授業に加えてプラスアルファの補習が非常にやりづらくなっています。正規の授業だけでは内容を理解できない子どもをフォローできないわけです。つまり、先の質問に対する正確な回答は、「できる子がそのまま伸び続けるというよりは、できない子ができる子との差を埋めることができず、逆転しづらくなっている」ということになります。多くの親の教育知識は子どもの頃で止まっている加えて、いまは公教育が崩壊しつつあることも重要なポイントです。ここ30年ほどのあいだに、教育内容は大きく変わっていないものの、授業の時間は減っています。そのため、かつてなら公教育だけでも子どもたちが身につけられていたことも、いまの子どもはそうできなくなっています。では、いまの親は、我が子の学力をしっかりと伸ばしてあげるためになにをすればいいのでしょうか?それは、ここでわたしがお伝えしたようなことを含め、いまの子どもたちをめぐる教育環境の変化をきちんと知るということです。それぞれの業界の最先端でバリバリ働いているような人も、教育のこととなると自分が子どもの頃の知識で止まってしまっている人が多いようです。なぜかというと、すべての大人が自分たちなりに教育を受けた経験があるからです。その経験があるために、教育に関する新たな情報を知ろうとせず、教育環境はいまもむかしも変わらないと思い込んでいるケースが非常に多いのです。でも、むかしといまでは子どもをめぐる教育環境が大きく変化していると知れば、打つ手はいくらでもありますよね。クレームを恐れて先生たちが子どもを厳しく指導できないのであれば、親自身が我が子には厳しく指導すればいい。学校や塾の授業だけでは足りないのなら、親が補習をする、あるいは家庭教師に補習をしてもらえばいい。いずれにせよ、打つ手を考えるにも、親は教育に関する最新の情報にもっと敏感になるべきだと思います。『それは子どもの学力が伸びるサイン!』富永雄輔 著/廣済堂出版(2019)■ 進学塾VAMOS代表・富永雄輔先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「“エンジンがでかい”賢い子」にするための、親の心得第2回:“できない”意識を持つ子にすべき、超重要なこと「褒めて自己肯定感を高める!」(※近日公開)第3回:「ゲームや漫画は禁止!」が、子どもの“集中力の育ち”を阻害する理由(※近日公開)【プロフィール】富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)京都府出身。進学塾VAMOS代表。幼少期の10年間をスペインのマドリードで過ごす。京都大学卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生までを対象とする進学塾VAMOSを設立。現在、吉祥寺校に加え、四谷校、浜田山校の3校を開校。入塾テストを行わず、先着順で子どもたちを受け入れるスタイルでありながら、毎年、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。受験コンサルタントとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の子どもたちの家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性に合った難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についての研究を続けている。主な著書に『男の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『女の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月09日ほとんどの子どもが「イヤイヤ期」を経て、成長していきます。それこそ、はじめての子どもの場合だと、その対処に悩まされるのではないでしょうか。そこで、幼稚園教諭の経験もある、玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友先生に「イヤイヤ期」にある子を持つ親が知っておきたいことを教えてもらいました。子どものことを一生懸命に考え、「イヤイヤ」を収めようとすることも大切ですが、大豆生田先生は「頑張りすぎず、『ほどほどのお母さん』になることも大事」といいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「イヤイヤ期」は、子どもの発達途上に出てくる自然な姿「イヤイヤ期」とは、だいたい1歳半から3歳くらいまでの子どもに見られる、なにをするにも「嫌!」という拒否反応を示す時期のことです。しかし、イヤイヤ期については個人差が大きく、なかには「うちの子にはイヤイヤ期なんてなかった」という人もいれば、「もう5歳になるのにまだイヤイヤ期で……」と悩む人もいます。そもそも、イヤイヤ期とはどんな時期なのかを整理しておきます。イヤイヤ期とは、子どもの自我が目覚めはじめ、「自分でやってみたい」「自分でできるんだ」という気持ちが出てきている時期です。でも、なにせ幼い子どもですから、お手伝いをしようと食器を運んでいても落としてしまうなど、「やりたい」「できる」という気持ちとは裏腹にうまくできないことばかり。しかも、そういうモヤモヤした気持ちをうまく言葉で説明することもできない。そうして自分をコントロールできなくなり、あらゆることに「嫌!」という反応を示してしまうのです。でもこれは、子どもの発達途上に出てくる自然な姿です。この時期にはまだ脳の前頭前野が未発達ともいわれます。その前頭前野が司るのは、感情のコントロール。そこが発達途上にあるのですから、うまく自分をコントロールできなくて当然なのです。ですから、イヤイヤ期に悩んでいる人も、「自分の育て方が悪いのかな……」なんて深刻に考える必要はありません。いずれはイヤイヤ期を脱しますから、気長に待つことが大切です。子どもの「抱っこして」「あれ買って」に対する対処法この時期の子どもは、親からすればわがままにしか映らない行動をとります。たとえばそれは、もう抱っこを卒業するような年齢になっても「抱っこ、抱っこ」とせがんでくる、あるいは「あれ買って、これ買って」というふうにものをねだるといったことです。抱っこの場合、「抱っこをしすぎると抱き癖がつくからよくない」ということもいわれます。でも、いまの考えでは、それは誤りです。その子は、たとえば両親が下の弟や妹ばかりをかまって、「自分のほうを向いてくれない」といったことを感じているのかもしれませんよね?その気持ちを子どもなりに「抱っこ、抱っこ」と表現しているわけですから、しっかり受け止めてあげたほうがいいのです。子どもが必要としている場合、親の無理のない範囲で受け止めてあげることが大切です。そうやって親に気持ちを受け止めてもらえた子どもは、結果として、いずれ自分自身の道をしっかり歩みだすということになるはずです。なぜなら、自分の欲求が承認され、次第に自分の気持ちをコントロールできるようになるほか、安心感や自信を得ることができるからです。一方、「あれ買って、これ買って」とものをねだるケースの場合は、少し話がちがってきます。それはもう、親の考え方次第というところでしょう。「これは大人でも面白そうだな」「子どもの学びにもつながりそうだ」など、そこにある事象を考え、買い与えるべきだと親が感じるなら買い与えるというのも、親の考え方次第です。買い与えるものとそうではないものの線引きは必要ですし、そのルールは子どもにもちゃんとわかるように説明してあげるべきです。もちろん、望めばなんでも買い与える必要はありません。子どもにとっては、いつも自分の思うとおりにいかないことを経験し、我慢することも必要な経験です。いずれにせよ、「どんな子育てをするか」というビジョンを親がしっかり持っていることが大切です。それが、ものを買い与える場面だけでなく、あらゆる子育ての場面で生きていくるからです。親が子どもを思う気持ちは必ず子どもに通じるわたし自身、幼児教育を専門としているため、「どうすれば子どもの『イヤイヤ』をうまく収められますか」といった質問をよくされます。でも残念ながら、そう簡単に収める方法は存在しません。しかし、親が一生懸命に考えていろいろな方法を試すことは大切。たとえば、子どもの「イヤイヤ」がはじまったら、しっかり抱っこしてその気持ちを受け止めてあげる。あるいは、静かな落ち着いた場所に移動するといったこともひとつの方法です。そうはいっても、「イヤイヤ」は簡単には収まりませんよね?でも、大事なことはそのように子どもの気持ちに寄り添ったという、その事実なのです。その繰り返しのなかで、子どもは「自分が困ったときには、お父さんやお母さんは一生懸命に手を尽くしてくれる」と感じていくことができる。そのことが、その後の親子関係を良好なものにするために大いな力を発揮するでしょう。親の思いは、きっと子どもに通じるのです。そして、お母さんたちにはぜひ、「ほどほどのお母さん」となることを心がけてほしいですね。「ほどほどのお母さん」とは、イギリスの精神科医であるドナルド・ウィニコットが提唱した「good enough mother」の訳です。いまのお母さんたちは、本当によく頑張っています。だからでもあるのですが、「イヤイヤ期の子どもにはこう対処すべき」「これからの社会を子どもが生きるには非認知能力が必要だ」「あれも必要、これも必要」「もっといい家庭教育の方法があるのではないか」「この子のすべてがわたしの肩にかかっている」というふうに考え悩んでしまうのですよね。ついつい「完璧なお母さん」を目指しているわけです。でも、それでは苦しくなって当然です。また、「機嫌がいいことが多かったお母さんに育てられた子どものほうが、機嫌よく幸せに育つ」というフィンランドの研究もあります。このことに関しては、研究結果など関係なく誰もが想像できることでしょう。でも、あまりに完璧なお母さんを目指して苦しんでいると、いつも機嫌がいいというわけにはいきません。ですから、あまり子育てに対して前のめりにならず、「わたしは十分に頑張っている」「これくらいでいいか」といった気持ちを持ちながら、「ほどほどのお母さん」でいるくらいでいいのです。いまでも、十分によく頑張っていると思いますよ。■ 玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友先生 インタビュー一覧第1回:非認知能力は育っているか?子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です第2回:かわいい子には“いたずら”をさせよ!?「自由に遊んでいいよ」で子どもは学ぶ第3回:親が先回りしたら「自己決定力」は育たない。幼くても決断力を伸ばせる声かけのコツ第4回:イヤイヤ期に「悩まない、苦しまない」。子育ては“ほどほど”がちょうどいい『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』大豆生田啓友・大豆生田千夏 著/講談社(2019)【プロフィール】大豆生田啓友(おおまめうだ・ひろとも)玉川大学教育学部教授。青山学院大学大学院文学研究科教育学専攻修了後、青山学院幼稚園教諭等を経て、現職。専門は乳幼児教育学・保育学で、現在、日本保育学会副会長。メディア出演も数多い。著書は、『子育てを元気にする絵本』(エイデル研究所)、『非認知能力を育てる あそびのレシピ 0~5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)、『日本が誇る!ていねいな保育 0・1・2歳児のクラスの現場から』(小学館)、『マンガでわかる! 保育っていいね』(ひかりのくに)、『子どもの姿ベースの指導計画』(フレーベル館)、『あそびから生まれる動的環境デザイン』(学研みらい)、『21世紀型保育の探求-倉橋惣三を旅する』(フレーベル館)、『子育てを元気にすることば』(エイデル研究所)他、多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月02日過去には考えられないほど、時代が変化するスピードは上がっています。そんな「いま」を生きる子どもたちに必要とされる力は、じつにさまざまです。研究者によって意見は異なりますが、大切な力として「自己決定力」「協働性」を掲げるのは、幼稚園教諭の経験もあり、著書『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)で注目を集める玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友先生。その真意を伺ってきました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)多様性ある社会をつくるためにも重要な「自己決定力」と「協働性」いまの時代、あるいはこれからの時代を生きていく子どもにとって大切な力のひとつとして、わたしは「自己決定力」と「協働性」を挙げています。なぜなら、自己決定力と協働性は、自分らしく主体的に、あるいは他者とともに生きていく力そのものだからです。いま、外国人がどんどん増えている日本でも、「多様性のある社会をつくることが大切だ」と盛んにいわれています。そういう社会をつくるためにも、自己決定力や協働性は欠かせません。自分の考えを自分で決められないと、自分自身のことを大事に思えませんよね?同時に、他者のことも大事に思えないのではないでしょうか。自分らしさを大事にすることと他者を大事にできることは同時に大切なのです。近年、選挙があるたびに投票率の低さについて懸念するニュースを目にします。もしかすると、投票に行かない人は自己決定していないということなのかもしれません。そうではなく、社会全体を見回して、「いまの時代にはこういう政治が必要だ」と、自分の考えを決めることも大切です。その一方で、「自分はこう思うけど、別の考えを持つ人もいる。ちがう考え方のなかにもいいところがある」というふうに考えることも、また重要ではないでしょうか。子ども時代に自分らしさや個性を大事にされ、興味関心に即した遊びを大事にすることは、自己決定力を養い、他者の視点にも立ちながら他者と協力して生きていくことを大事にすることなのです。子ども自身が興味を持っていることについて決断させるでは、どうすれば子どもに自己決定力はつくのでしょうか?大切なのは、なるべく小さい頃から自分で選ぶ・決めるという経験をさせることです。いま、日本では、早期教育が盛んです。その多くは先取りしてなにかを伝えること。それは、その子がなにを必要としているかではなく、こうしたことがあとで役に立つのではないかといった「先回り」です。でも、それは、その子の個性や、興味関心に合っていない可能性もあります。日本よりも海外が優れているというわけではないですが、欧米などでは幼い子どもに対しても、食事をする際には「なにをどれくらい食べたい?」というふうに、基本的に「あなたはどうしたいのか?」ということを確認し、決断させることを目にすることがあります。もちろん、日本には日本の良さもあるのですが、もう少し自己決定の文化を取り入れるのも大切なのではないでしょうか。それこそ、子どもが着る服を選ぶにも、着せ替え人形のように親が服を決めてしまうのではなく、夜に寝る前に「明日はどの服を着ようか?」というふうに、子どもに選ばせてもよいのかもしれません。ただ、子どもの興味関心は十人十色。服を自分で選ぶことにまったく興味を示さない子どももいるでしょう。そこで、「自己決定力が大切だ」と考え、「どうして自分で選ばないの!」と叱ってしまっては本末転倒です。その子にとっては、「服には興味がない」「服は自分で選ばない」ということも自己決定なのです。ですから、その子が本当に興味を持っていることについて自分で決断させればいい。「切り替える力」を得ることにもつながる自己決定また、まだ小さい子どもの場合だと、たとえ興味があることに対してであっても、自分で決めることはそう簡単ではありません。そういうときは、子どもに選択肢を与えてはいかがでしょうか。服を選ばせるのであれば、いくつかの服を見せて「どれにする?」と選択させるのです。この行動は、「切り替える力」を伸ばすことにもつながります。遊びに夢中になっている子どもも、ご飯やお風呂の時間が迫ってきたら、切り替えておもちゃを片づけ、やるべきことをやる必要がある。しかし、小さい子どもにとっては、その切り替えがなかなか難しいのです。親としては、予定通りに遊び終えない子どもに「いつまで遊んでいるの?」といってしまうこともあるでしょう。でも、子どもにもまだやっていたいという気持ちがあって、なかなか終われないのかもしれません。そこで、その子の自己決定を促すための声かけをしてみてはいかがでしょうか?たとえば、「時計の大きい針が3のところまできたら、おもちゃを片づけようか」「このテレビ番組が終わったら片づける?」というふうに、選択肢を示してあげる。本来であれば、そんな選択肢がなくても自分で決められればいいわけですが、選択肢を与えられていても自分自身で決めることには変わりありません。そういった経験を積み重ねることで、段階を経て自己決定力を身につけていくのです。■ 玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友先生 インタビュー一覧第1回:非認知能力は育っているか?子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です第2回:かわいい子には“いたずら”をさせよ!?「自由に遊んでいいよ」で子どもは学ぶ第3回:親が先回りしたら「自己決定力」は育たない。幼くても決断力を伸ばせる声かけのコツ第4回:イヤイヤ期に「悩まない、苦しまない」。子育ては“ほどほど”がちょうどいい(※近日公開)『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』大豆生田啓友・大豆生田千夏 著/講談社(2019)【プロフィール】大豆生田啓友(おおまめうだ・ひろとも)玉川大学教育学部教授。青山学院大学大学院文学研究科教育学専攻修了後、青山学院幼稚園教諭等を経て、現職。専門は乳幼児教育学・保育学で、現在、日本保育学会副会長。メディア出演も数多い。著書は、『子育てを元気にする絵本』(エイデル研究所)、『非認知能力を育てる あそびのレシピ 0~5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)、『日本が誇る!ていねいな保育 0・1・2歳児のクラスの現場から』(小学館)、『マンガでわかる! 保育っていいね』(ひかりのくに)、『子どもの姿ベースの指導計画』(フレーベル館)、『あそびから生まれる動的環境デザイン』(学研みらい)、『21世紀型保育の探求-倉橋惣三を旅する』(フレーベル館)、『子育てを元気にすることば』(エイデル研究所)他、多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年02月01日近年、注目度がどんどん増している「非認知能力」。そのため、ともすれば「子どもの非認知能力さえ伸ばしてあげればいい」という考えを持ってしまうこともあるでしょう。しかしそうではなく、「非認知能力と認知能力の両方が大切」だというのは、幼稚園教諭の経験もあり、著書『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)で注目を集める玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友先生。そして、「子どもの非認知能力を伸ばしてあげることが、認知能力を伸ばすことにもなる」とも語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「自然物」とは、子どもにとって最高のおもちゃ子どもたちは、自分の興味関心に従い遊ぶなかでたくさんの非認知能力を獲得していきます。ですから、子どもの非認知能力を伸ばしてあげるためには、子どもの興味関心を大事にしてあげることがもっとも重要です(インタビュー第1回参照)。しかも、幼い子どものすごいところは、自分の世界をどんどん広げる力を持っていることでしょう。なにか特別なものを与えなくても、身のまわりにあるものを使ってどんどん遊んでいくことができる。身のまわりのもののなかでも、子どもにとっての最高のおもちゃは「自然物」です。自然物は、人の想像力や創造力を膨らませてくれる力を持っています。周囲にあるテクノロジーの産物も、もともとは自然物がモデルということが少なくありません。飛行機だって虫や鳥などの動物にヒントを得て生まれたものでしょう?それだけ、自然物は人の想像力や創造力、興味関心をかき立ててくれるものなのです。そういった背景から、ひとつアドバイスを送りたいと思います。子どもと外に出かけるときには、ぜひ、ビニール袋を持参してみてはいかがでしょう。なぜなら、人の興味関心をかき立てる自然物は当然ながら子どもの心も強くとらえるものであり、子どもはいろいろな自然物を集めたがるからです。秋や冬なら落ち葉を拾いはじめるでしょうし、桜の季節なら桜の花びら、虫が元気な季節なら虫を集めるかもしれない。また、時期によっては花びらを使って色水をつくるなんて遊びもできます。ビニール袋がひとつあるだけで、子どもはずっと夢中になって遊ぶことができるのです。大人からすれば、落ち葉はゴミになるし、「虫が苦手……」いう人もいるでしょう。よくわかります。でも、子どもが小さい時代、それにつき合ってみると、意外といとおしく見えてくることもありますよ。空き箱や廃材があれば家のなかでも自由に遊べるしかしながら、都市化が進んでいる地域に住んでいる人の場合だと、子どもと外で遊ぶ機会自体があまりないという人もいるでしょう。そういう人は、週末や長期休暇を使って自然のなかに遊びに出かけることを考えてみてください。親子それぞれにとって、とても豊かな時間になるはずです。そして、なかなか日常的に自然に触れられない場合でも、なるべく普段の生活のなかで子どもが夢中になって遊べるようにしてあげたいものです。そういうときは、空き箱や廃材などを家のなかに置いてあげてください。落ち葉の例ではありませんが、それらは親にとってはゴミかもしれません。でも、子どもにとっては魅力的なおもちゃなのです。子どもは、想像力と創造力をフル回転させた自由な発想で、空き箱や廃材をさまざまなものに変身させていきます。そうしてできあがったものは、子どもの想像力と創造力の産物です。遊び方が決まっている既製品のおもちゃだけで遊ぶのか、それとも空き箱や廃材などで自由に遊ぶのか。そのちがいは、子どもの経験にも大きなちがいを生み出します。でもなかには、「空き箱や廃材で家のなかを汚されたくない……」という人もいますよね?そうであれば、リビングなどの部屋の一角を子どもが自由に遊べるコーナーにしてあげてみてはいかがでしょうか。いたずらのような遊びからも子どもは学んでいる空き箱や廃材を使った遊びにも通じることですが、親からすれば迷惑に感じたりいたずらにしか思えなかったりする遊びからも、子どもはさまざまなことを学んでいるケースがあります。子どもは、ティッシュボックスからティッシュを全部出して、再び詰めるような行動をしますよね?この行動を、専門用語では「探索活動」といいます。このとき、子どもは、「こうしたらどうなるだろう」「ああしたらどうなるだろう」と試行錯誤をしているのです。親からすればたしかに迷惑な行動なのですが……、子どもがやりたがることに似たことを迷惑にならないやり方で自由にやらせてあげることを考えたいものです。ティッシュペーパーを次々に取り出す遊びが迷惑なら、「新聞紙を使うのだったら、自由に遊んでいいよ」と伝えてあげる。洗面所の水道の蛇口を思い切りひねって延々と水を出されることが迷惑なら、庭やベランダで思い切り水遊びさせるという具合です。こうした探索活動は、意欲や探求心などの非認知的な力だけでなく、認知的な力を伸ばすことにもつながります。「認知能力」とは、読み書きや計算のように、テストなどで測ることができる、いわば目に見える力のこと(インタビュー第1回参照)。子どもがペットボトルなどに水を入れたり出したりする遊びを繰り返していたら、見方によっては数量の経験をしているととらえることもできる。あるいは、虫を夢中になって集めている子どもが、ある日「昆虫図鑑を買ってほしい」といってきたとします。それはイコール、科学に興味を持ったことに他なりません。非認知能力を伸ばすことを重視すれば、結果的に認知能力を伸ばすことにもつながる――そう意識してほしいのです。■ 玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友先生 インタビュー一覧第1回:非認知能力は育っているか?子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です第2回:かわいい子には“いたずら”をさせよ!?「自由に遊んでいいよ」で子どもは学ぶ第3回:親が先回りしたら「自己決定力」は育たない。幼くても決断力を伸ばせる声かけのコツ(※近日公開)第4回:イヤイヤ期に「悩まない、苦しまない」。子育ては“ほどほど”がちょうどいい(※近日公開)『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』大豆生田啓友・大豆生田千夏 著/講談社(2019)【プロフィール】大豆生田啓友(おおまめうだ・ひろとも)玉川大学教育学部教授。青山学院大学大学院文学研究科教育学専攻修了後、青山学院幼稚園教諭等を経て、現職。専門は乳幼児教育学・保育学で、現在、日本保育学会副会長。メディア出演も数多い。著書は、『子育てを元気にする絵本』(エイデル研究所)、『非認知能力を育てる あそびのレシピ 0~5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)、『日本が誇る!ていねいな保育 0・1・2歳児のクラスの現場から』(小学館)、『マンガでわかる! 保育っていいね』(ひかりのくに)、『子どもの姿ベースの指導計画』(フレーベル館)、『あそびから生まれる動的環境デザイン』(学研みらい)、『21世紀型保育の探求-倉橋惣三を旅する』(フレーベル館)、『子育てを元気にすることば』(エイデル研究所)他、多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月31日年々、教育界における注目度が上がっている「非認知能力」。読者のみなさんも、何度となく見聞きしているでしょう。しかし、研究者によって非認知能力に対する見解はさまざま。今回は、幼稚園教諭の経験もあり、著書『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)で注目を集める、玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友先生に非認知能力に対する見解を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)非認知能力だけが重要ではないことに要注意「認知能力」とは、読み書きや計算のようにテストなどで測ることができる、いわば目に見える力のことです。それに対して、「非認知能力」は、「非認知」というだけにテストなどでは測りにくい、目に見えづらい力といえます。それに含まれるものは本当にさまざまですが、社会性や情動性、意志力、自己肯定感、なにかをやり抜く忍耐力、コミュニケーション能力、他者に対する思いやり、自分をコントロールする自己制御など、主に「心」や「社会性」にまつわる力です。非認知能力が注目されるようになった大きなきっかけは、アメリカの経済学者であるジェームズ・ヘックマンが行った子どもたちの追跡調査でした。その追跡調査の結果、幼児期に質の高い教育を受けた子どもとそうではない子どもでは、大人になってからの経済力などに大きな差が生まれたことがわかったのです。そして、大人になって経済力や社会的地位が高くなった人は、幼児期に非認知能力を高めるような教育を受けていた。ただ、誤解してはならないのは、「非認知能力が重要」だからといって「認知能力が重要ではない」というわけではないこと。そのどちらも大切な力ですから、しっかり伸ばしてあげるべきでしょう。時代の変化によって、非認知能力を獲得する機会が激減また、非認知能力が注目を集めることとなった背景には、先のヘックマンの研究の他に、時代の変化が挙げられます。本来、非認知能力とはなにか特別なものなどではなく、むかしであれば子どもの普段の遊びやあたりまえの子育てのなかで勝手に育っていたものです。かつての子どもたちは、豊かな自然のなかで元気にたくさん遊び、異年齢の子どもたち、あるいは異世代の大人とも触れ合う機会が数多くあり、多様で具体的な体験を通した経験を積み重ねていました。すると、遊びのなかでうまくいかないことがあっても、熱中して続けるうちにうまくいくといった経験を通じて、困難を乗り越えるために必要な意志力や忍耐力、やり抜く力を獲得することができた。また、他人とかかわるなかで人間関係の問題にぶつかったら、なんとか折り合いをつけるようなコミュニケーション能力や思いやり、自己制御といった力を得ることもできました。そのようにして、非認知能力を自然に獲得していたわけです。ですから、これまでは非認知能力が特段にフォーカスされることがなかっただけのことです。でも、むかしとは時代が大きく変化していますよね。まず、習い事などに忙しいいまの子どもは、単純に遊ぶ時間自体が減っています。そのため、遊びを通じて非認知能力を得る機会が激減している。また、いまの親は子どもになるべく喧嘩をさせないようにしています。本来なら、子ども同士でおもちゃを取り合うようないざこざは、社会性を身につける絶好の機会です。いざこざのなかで、子どもは自分の気持ちを相手にぶつけてその反応を見たり、相手に譲ったりといった経験を通じて成長していくのですからね。ところが、いまは親のクレームを恐れ、幼稚園や保育所でも子どもの喧嘩をなるべく未然に防ぐようにしてしまっている。これでは、なかなか子どもの社会性は育ちません。重要となる、子どもの興味関心に親がつき合う姿勢わたしは、2019年に妻との共著で『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)という本を出版しました。じつはこの本は、「こういう時代であっても、多くの親たちが何気なくやっていることが大事」というメッセージを込めたものでもあるのです。先にお伝えしたように、非認知能力は特別なものではありません。非認知能力というたいそうな名前がついているがために、特別なことをしなければ育たないと考える人もいるかもしれませんが、そうではないのです。では、なにをすればいいのか?それは、大人からしっかりと受け止められる経験を子どもにさせること、そして、子どもの興味関心を大人が大切にするということです。非認知能力の多くは、「主体性」にかかわるものです。人間は、好きなことに対してであれば、主体的に取り組むことができます。みなさんも、大好きなアーティストのコンサートチケットを手に入れるためなら、多少の困難があっても手に入れようと頑張るでしょう?それは、見方を変えれば、困難を乗り越える力を発揮しているともいえます。子どもだって同様です。親子で散歩に出かけたときに、子どもが落ち葉のことが気になって拾いはじめたら、一緒に拾ってあげればいい。家のなかで何度もソファに昇り降りする遊びを面白がっているのなら、「ソファがへたっちゃうでしょ!」なんて叱らずに遊ばせてあげればいい。そういう親の姿勢が、子どもの非認知能力を育てていくのです。また、子どもの興味関心は、子どもに非認知能力が育っているかどうかのひとつの目安にもなります。非認知能力はそもそも測ることが難しい力ですから、本来、「これができていれば非認知能力が育っている」といった明確な基準はありません。ただ、非認知能力の多くは、先に述べたように興味関心、主体性から生まれてくるもの。ですから、子どもが目を輝かせて強い興味を示すような世界を持っているようなら、ひとまずは安心していいでしょう。■ 玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友先生 インタビュー一覧第1回:非認知能力は育っているか?子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です第2回:かわいい子には“いたずら”をさせよ!?「自由に遊んでいいよ」で子どもは学ぶ(※近日公開)第3回:親が先回りしたら「自己決定力」は育たない。幼くても決断力を伸ばせる声かけのコツ(※近日公開)第4回:イヤイヤ期に「悩まない、苦しまない」。子育ては“ほどほど”がちょうどいい(※近日公開)『非認知能力を育てるあそびのレシピ 0歳〜5歳児のあと伸びする力を高める』大豆生田啓友・大豆生田千夏 著/講談社(2019)【プロフィール】大豆生田啓友(おおまめうだ・ひろとも)玉川大学教育学部教授。青山学院大学大学院文学研究科教育学専攻修了後、青山学院幼稚園教諭等を経て、現職。専門は乳幼児教育学・保育学で、現在、日本保育学会副会長。メディア出演も数多い。著書は、『子育てを元気にする絵本』(エイデル研究所)、『非認知能力を育てる あそびのレシピ 0~5歳児のあと伸びする力を高める』(講談社)、『日本が誇る!ていねいな保育 0・1・2歳児のクラスの現場から』(小学館)、『マンガでわかる! 保育っていいね』(ひかりのくに)、『子どもの姿ベースの指導計画』(フレーベル館)、『あそびから生まれる動的環境デザイン』(学研みらい)、『21世紀型保育の探求-倉橋惣三を旅する』(フレーベル館)、『子育てを元気にすることば』(エイデル研究所)他、多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月30日スポーツの対外試合、ピアノの発表会、入試……いわゆる「本番」に強い子どももいれば弱い子どももいます。そのちがいはどんなことに起因するのでしょうか?お話を聞いたのは、「励ましの言葉」である「ペップトーク」の第一人者、日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん。「本番」に必ずついてまわる「緊張」との向かい方と併せて教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親や指導者の価値観が、本番に対する子どもの強さを決める本番に強いか、それとも弱いか――。そのちがいは、元来的な性格によるものと思う人も多いかもしれませんが、わたしは「価値観」のちがいによるものだと考えています。スポーツの試合に臨む直前、「試合に出ることが楽しみでしょうがない」と考える子どもと、「絶対に勝たないといけない」と考える子どもでは、価値観がまったくちがいますよね。後者の子どもは、「2番以下はビリと一緒」というふうに考える指導者のもとで育った子どもだという可能性が高いと見ます。つまり、どんな価値観を持つ人間に育てられたかによって、本番に対する子どもの価値観、姿勢、強さといったものが変わってくるのです。では、本番に弱いのはどちらかというと、いうまでもなく後者です。「絶対に勝たないといけない」「2番以下はビリと一緒」と考えてプレッシャーを感じるのですから、本番を怖がることになるからです。もちろん、勝つためにしっかり練習したり、試験に受かるために必死に勉強したりすることは大切なこと。でもそこに、「絶対に勝たないといけない」「絶対に受からないといけない」といったプレッシャーが加わると、チャレンジすること自体に恐怖心が芽生えるのです。そうではなく、「まずはチャレンジして、それまでに培ったすべての力を出し切ることが大事」「それでも駄目だったとしても、次へのチャレンジのはじまりでしかない」という考えを身につけさせてあげることが大切です。そういうポジティブな価値観を持った子どもたちは、「持っている力を全部出し切って試合に負けたのなら、強かった相手に『おめでとう』といってまた頑張ればいいだけじゃないか」「自分が勝ったら支えてくれたまわりの人に『ありがとう』といえばいいじゃないか」と考えられます。プラス思考の価値観を持っていれば、本番なんて怖いと思わないわけです。それどころか、「自分の力を試したくてしょうがない」「本番が楽しみでしょうがない」と思うはずです。普段のコミュニケーションがつくる本番前の「NGワード」こういった価値観は、子どもと指導者のあいだでつくられていくものです。わたしもペップトークを専門としている立場上、「本番前のNGワードを教えてください」と聞かれるのですが、一概に「これがNG」といえるものはありません。なぜなら、あくまでも子どもと指導者(親も含む)の関係性によって異なるからです。では、ひとつ例を挙げましょう。モチベーターとして優秀な指導者が、普段から「今日はみんなで『死ぬほど』走り込みをしよう!」「よし、『死ぬほど』腹筋をするぞ!」と子どもに声をかけていたとします。その環境のなかで成長してきた子どもたちに、本番前に「よし、今日こそみんな一緒に死んでこよう!」といったとする。普段の練習の様子を知らない親からすれば、「そんな言葉をかけるのはパワハラだ」と思うかもしれません。でも、普段から「死ぬほど」という言葉をかけられて練習に没頭してきた子どもたちは、「いよいよ力を発揮するときだ!」と、大きな声で元気に「はい!」と答えて闘志をみなぎらせるかもしれないのです。もっといえば、子ども個人によってもNGワードはちがってきます。「頑張れ」という言葉は、ふつうに考えればポジティブないい言葉に思えるかもしれません。でも、なかにはその「頑張れ」をプレッシャーに感じてしまう子だっている。そのような子どもの受け取り方のちがいを、指導者や親は把握しておく必要があるでしょう。緊張は、ポジティブにとらえれば強力な味方になるまた、本番には「緊張」がつきものです。しかし、小学生になる前くらいの小さな子どもの場合は、緊張とは無縁です。というのも、まだ緊張というものを知らないからです。でも、成長すると、突然、震えるほどの緊張を感じるときがやってきます。そのとき、指導者や親など、まわりの大人がどうかかわるかによって、緊張に対する子どもの認識は大きく変わるのです。「いい緊張感」という言葉があるように、緊張自体は決してネガティブなものではありません。緊張を「プレッシャー」という名の敵にしてしまえばネガティブなものになります。でも、逆に味方につければポジティブに受け取れるというわけです。緊張を味方につけられるプロアスリートの場合、汗をかいたり手足が震えたりするといった生理的反応を見て、「いま自分は緊張している」と察知します。そこでネガティブにならず、「これまで万全の準備をしてきたから大丈夫だ」「扉の向こうには自分の活躍を見るために大観衆が待っている」「汗は出るし手も足も震えているけど問題ない」「これは自分が本気になっている証拠だ」と考えられる。これは、緊張というものを、自分を鼓舞する材料にしている――つまり、味方につけているということです。はじめて緊張を味わった子どもには、その緊張をしっかり味方にすることを教えることが大切なのです。まずは、これまで知らなかった緊張に出会えたことに、「おめでとう」といってあげてほしい。そして、「ついにきたね。それは緊張っていうんだよ。あなたが本気になった証拠だから大丈夫」「緊張を味方にできたら練習以上にすごいことができるし、もっと大きな感動に出会えるよ」と、緊張をポジティブにとらえられるよう導いてください。『相手の結果を100%引き出す 実践!ペップトーク』岩﨑由純 監修・浦上大輔 著/フォレスト出版(2019)■ 日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの成功も失敗も、親の言葉がけ次第!「ペップトーク」が持つすごい力とは第2回:子どもの夢を断ち切っているのは親かもしれない。注意すべき「ドリームキラー」発言第3回:「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!第4回:本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方【プロフィール】岩﨑由純(いわさき・よしずみ)1959年10月10日生まれ、山口県出身。一般社団法人日本ペップトーク普及協会代表理事。NECレッドロケッツ・コンディショニングアドバイザー。日本体育大学体育学部体育学科卒業後に渡米し、米シラキューズ大学大学院体育学専攻科修士課程修了。日本初の「アスレチックトレーナー」として数々のスポーツ現場で活躍。アメリカ留学中に、ペップトークの迫力・思い・魅力を体感し、現在はスポーツの他、教育・ビジネスの世界にペップトークを普及するため精力的に講演活動を行っている。主な著書に『子どもの心に響く励ましの言葉がけ「ペップトーク」』(学事出版)、『想いが伝わるペップトーク』(いまじにあ出版)、『やる気をなくす悪魔の言葉VSやる気を起こす魔法の言葉』(中央経済社)、『心に響くコミュニケーション ペップトーク』(中央経済社)、『子どものココロを育てるコミュニケーション術』(東邦出版)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月29日子育てをする親にとって必要とされる重要なものにはどんなことがあるでしょう。近年のトレンドなら、「自己肯定感を伸ばしてあげること」「褒めて伸ばす考え方」などが挙げられます。子育てにとっての重要なものの筆頭に「傾聴力」を挙げるのは、「励ましの言葉」である「ペップトーク」の第一人者、日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん。その主張の真意とはどこにあるのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの気持ちを無視した「子どものため」はただの空回り子育てをするにあたって絶対に必要なものが「傾聴力」だとわたしは考えています。傾聴力とは、子どもの言葉や本心を聴く力のことです。その力がなかったら、どういうことが起きるでしょうか。たとえば、子どもに夢ややりたいことができたとします。すると、親のなかには、子どもの先回りをしてしまい勝手にいろいろと調べて、「こういう勉強や練習がいい」というふうに、自分の考えを押しつけてしまう人が出てくる。もちろん、この親も子どものことを思っています。でも、子どもの気持ちをくみ取ることなく突っ走ってしまっては、それはただの空回り。まずなによりも、子ども自身はどうしたいのかということをきちんと聴いてあげるべきです。親の傾聴力は、子どもが打ち込んでいるスポーツの試合や、勉強した成果を発揮すべき試験に臨むときにも威力を発揮します。子どもの本心をしっかり摑むことができれば、本番前に子どもがおじけづいているときに安心感を与えることができるし、興奮し過ぎているなら落ち着きを与えることもできるでしょう。また、気持ちが乗っていなくて落ち込んでいるなら励ますというふうに、適切な対応を取ることができるのです。耳だけではなく、目や心も使って子どもの心を「聴く」もちろんこの力は、他の場面でも大いに有効です。たとえばある朝、突然「学校に行きたくない」と子どもがいったとします。傾聴力がない親の場合、その瞬間に「学校に行くのはあたりまえのこと」という自分のものさしが作動し、「なにいっているの!ちゃんと学校に行きなさい!」と叱ってしまう。でも、子どもが「学校に行きたくない」というからには、そこになんらかの理由があるのです。それこそ友だちと大きな喧嘩をしたとか、いじめを受けている、授業中に恥をかいたなど……。なにか理由があって、意を決してそういっているわけですから、親ならその言葉の向こう側にある事実や、子どもの思いを聴いてあげる必要がある。では、どうすれば子どもの本心をしっかり聴くことができるのでしょうか?それは、コミュニケーションを取る以外にありません。この例の場合なら、子どもが「学校に行きたくない」と言葉を発しているわけですから、すでにコミュニケーションを取ることはできています。そこでもう1段階、コミュニケーションを先に進めてほしいのです。親の勝手なものさしで叱るのではなく、「どうしたの?なにかあったの?」と、子どもからさらなる言葉を引き出すことを意識すべきです。頭ごなしに親のものさしで意見をいうのは、コミュニケーションではないのです。また、言葉に頼ることだけがコミュニケーションではありません。「聴」という文字には、「耳」という字に加えて、「目」「心」が含まれます。つまり、耳だけではなく目や心も駆使して、子どもの本心をくみ取ることが大切なのです。子どもを「ひとりの人間」としてとらえることの重要性子どもの言葉や本心をしっかり聴くには、先の例にも表れているように、親のものさしを子どもにあてはめないことがなにより大切。そうしないためにも、子どもを自分の「持ちもの」ととらえないようにすべきです。「わたしの子=わたしのもの」と思うと、つい親は自分のものさしで子どもを測ることになるからです。子どもとは、親とまったく別の人格を持つ「ひとりの人間」です。ですから、大人同士がそうであるように、子どもは子どもなりに親を試している部分だってある。その傾向は、2歳くらいの小さい子どもにも見られることです。たとえば、なにか欲しいものがあって駄々をこねたとします。そのときの親の反応を見ながら、子どもは「お父さんはこうやって駄々をこねたら欲しいものを買ってくれる」「お母さんはこれだけ泣けば買ってくれる」というふうにしっかりと観察しているのです。そういう場面でこそ、子どもをひとりの人間としてとらえることが重要です。それを理解していれば、ただ親のものさしで「駄目!」といったり、かわいい「わたしの子」だからとものを与え過ぎたりすることもなくなるでしょう。きちんと、子どもの主張に耳を傾けたうえで、本当に必要なものなら買い与えるという判断ができるようになるはず。あくまでも、子どもは「ひとりの人間」なのです。また、共働き世帯やシングルの家庭も増えているいまの時代にはそぐわなくなっている部分もありますが、父親と母親でその役割をわけることも大切かもしれません。子どもの言葉や本心を聴くにも、母親は子どもの心に寄り添ってあげるべきでしょう。一方、一般的に母親に比べて社会経験豊富な父親は、子どもの目標や希望を叶えるためにはなにをすべきかといった実務的な部分の悩みを聴きサポートするのです。もちろんいまは、子育てや家事なども含めて両親の役割の差が明確ではなくなりつつあります。それぞれの家庭事情や子どもの悩みの種類などを踏まえ、臨機応変に対応することを考えてください。『相手の結果を100%引き出す 実践!ペップトーク』岩﨑由純 監修・浦上大輔 著/フォレスト出版(2019)■ 日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの成功も失敗も、親の言葉がけ次第!「ペップトーク」が持つすごい力とは第2回:子どもの夢を断ち切っているのは親かもしれない。注意すべき「ドリームキラー」発言第3回:「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!第4回:本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方(※近日公開)【プロフィール】岩﨑由純(いわさき・よしずみ)1959年10月10日生まれ、山口県出身。一般社団法人日本ペップトーク普及協会代表理事。NECレッドロケッツ・コンディショニングアドバイザー。日本体育大学体育学部体育学科卒業後に渡米し、米シラキューズ大学大学院体育学専攻科修士課程修了。日本初の「アスレチックトレーナー」として数々のスポーツ現場で活躍。アメリカ留学中に、ペップトークの迫力・思い・魅力を体感し、現在はスポーツの他、教育・ビジネスの世界にペップトークを普及するため精力的に講演活動を行っている。主な著書に『子どもの心に響く励ましの言葉がけ「ペップトーク」』(学事出版)、『想いが伝わるペップトーク』(いまじにあ出版)、『やる気をなくす悪魔の言葉VSやる気を起こす魔法の言葉』(中央経済社)、『心に響くコミュニケーション ペップトーク』(中央経済社)、『子どものココロを育てるコミュニケーション術』(東邦出版)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月28日子どもにとってもっとも身近にいる親は、子どもにとっての最強の応援団です。しかし、なかには子どもの夢を阻んでしまう最凶の「ドリームキラー」になっている親もいる――。そう指摘するのは、「励ましの言葉」である「ペップトーク」の第一人者である、日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん。親が子どものドリームキラーにならないために、どんなことに注意すればいいのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの努力とは無関係のことで、子どもの夢を断ち切らない子どもにとって「ドリームキラー」になってしまう親には、親の尺度による思い込みがあります。「宇宙飛行士になりたい」といった大きな夢を持っている子どもに対して、自分は勉強が苦手だったからと「無理に決まっている」などという親がいるのです。たしかに、遺伝の影響は小さくありません。でも、祖先から受け継がれながらも両親には現れていない素質が子どもには発現するということもあります。しかも、父親と母親の遺伝子の掛け合わせにより、子どもは両親とはまったくの別人になるもの。それこそ、「鳶が鷹を生む」ということは、まったく珍しいことではありません。それなのに、親が、環境や自分の遺伝子、ほんの数十年の人生のなかで培ってきた自分のものさしで子どもの可能性を奪ってしまう――つまりドリームキラーになってしまうということがよくあるのです。しかも、「わたしの子なんだから、無理に決まっている」というような遺伝のこと、あるいは「うちにはお金がないから」といった経済的なことは、子どもにはどうしようもないことです。自分の努力とは無関係な理由で夢を断ち切られるのは、子どもにとって本当につらいことなのです。夢に向かって頑張ることが他の可能性も広げる親が子どものドリームキラーにならないためには、子どもは自分とはまったく異なる別人であること、そして、子どもの努力ではどうにもならないことを理由に子どもの夢を断ち切ってはいけないことを親が認識することが大切です。その認識をしっかりすることで、子どもへの対応は自然に変わってきます。たしかに、子どもの夢によっては、経済的な問題が立ちはだかることもあるでしょう。それでも、子どものために最善を尽くしたり、親子で妥協点を探ったりすることはできるはずです。子どもが「宇宙飛行士になりたい」といった大きな夢を持っている場合にも、親の尺度で「絶対、無理!」なんていわず、心から応援することです。その応援を背に受けた子どもは、夢に向かって必死に頑張ることができる。そうやって、子どもの可能性というものは広がっていくのです。たしかに、宇宙飛行士になるという夢を叶えるのは本当に難しいでしょう。NASA(アメリカ航空宇宙局)の場合、その合格率は0.04〜0.08%ともいわれます。でも、その夢に向かって必死に勉強を続けられたとしたらどうでしょうか?たとえ宇宙飛行士にはなれなくとも、その勉強の成果として、それこそNASAやJAXA(宇宙航空研究開発機構)に就職できるかもしれない。あるいは、「プロ野球選手になりたい」という夢を持っている子どもの場合なら、その前に目指すのは甲子園出場でしょう。もちろん、その目標を叶えるのも簡単ではない。ほとんどの野球少年は、甲子園出場を果たすことなく野球をやめていきます。でも、大事なことは、甲子園に出場できたかどうかではありません。夢や目標に向かって頑張ったことこそが大事であって、その「頑張り方」を生かして、勉強や仕事、子育て、後の人生を頑張って生きられればいいのです。子どもが失敗したときこそ大きな成長のチャンスいずれにせよ、みなさんには、「夢に向かって努力するプロセスが大事」だと認識してほしい。もちろん、そのプロセスでは、子どもが失敗することもあれば壁にぶつかることもあるでしょう。そのときこそ親は「チャンスだ」と思ってほしいのです。子どもが打ち込んでいるスポーツの試合で勝てた、勉強の成果が出たというときには、一緒にただよろこんであげればいい。一方、試合に負けたりテストで大きなミスをしたりして子どもが落ち込んでいるようなときは、それこそ子どもにとって成長のチャンスです。そういうときは、間違っても、「なに負けてるの!」なんて責めるような言葉をかけるのはご法度です。子どもは悔しくて泣いているかもしれない。そのうえで親からそんな言葉をかけられては、子どもは努力をやめてしまい、打たれ弱い人間になってしまうはずです。子どもにとってのドリームキラーにならないために親がやるべきことは、なにより子どもを支えてあげることです。まずは、「悔しかったよね」と、子どもに寄り添ってあげる。加えて、本番までにもっとやるべきことがあったのだろうか、準備したことが間違っていたのだろうか、なにか足りないものがあったのだろうか、と子どもに考えさせるのです。「いま、本気で考えるチャンスだよ」と、次への努力へとつながる道を示してあげてください。『相手の結果を100%引き出す 実践!ペップトーク』岩﨑由純 監修・浦上大輔 著/フォレスト出版(2019)■ 日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの成功も失敗も、親の言葉がけ次第!「ペップトーク」が持つすごい力とは第2回:子どもの夢を断ち切っているのは親かもしれない。注意すべき「ドリームキラー」発言第3回:「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!(※近日公開)第4回:本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方(※近日公開)【プロフィール】岩﨑由純(いわさき・よしずみ)1959年10月10日生まれ、山口県出身。一般社団法人日本ペップトーク普及協会代表理事。NECレッドロケッツ・コンディショニングアドバイザー。日本体育大学体育学部体育学科卒業後に渡米し、米シラキューズ大学大学院体育学専攻科修士課程修了。日本初の「アスレチックトレーナー」として数々のスポーツ現場で活躍。アメリカ留学中に、ペップトークの迫力・思い・魅力を体感し、現在はスポーツの他、教育・ビジネスの世界にペップトークを普及するため精力的に講演活動を行っている。主な著書に『子どもの心に響く励ましの言葉がけ「ペップトーク」』(学事出版)、『想いが伝わるペップトーク』(いまじにあ出版)、『やる気をなくす悪魔の言葉VSやる気を起こす魔法の言葉』(中央経済社)、『心に響くコミュニケーション ペップトーク』(中央経済社)、『子どものココロを育てるコミュニケーション術』(東邦出版)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月27日子ども教育の現場においては、場面に応じた「言葉がけ」が重要だといわれます。さまざまな場面のなかでも、子どもが打ち込んでいるスポーツの試合、習い事の発表会や昇段試験、あるいは入学試験に臨むといった場面では、持っている力をしっかり発揮できるような言葉がけをしてあげたいものです。その言葉がけは、英語で「ペップトーク」と呼ばれています。その言葉がけによって、子どもはどんな影響を受けるのでしょうか。日本におけるペップトークの第一人者である、日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さんにお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)ラグビーワールドカップで生まれたペップトークの名言「ペップトーク」は、英語表記で「peptalk」と書きます。ちなみに「pep」は、「元気、活気、活力」といった意味です。それが「話」を表す「talk」と結びつき、日本語では「励ましの言葉、激励演説」というふうに訳されます。このペップトーク、もともとは欧米のスポーツの現場で生まれました。みなさんも、スポーツを題材にしたアメリカ映画のなかで、大事な本番直前のロッカールームで、監督やコーチが熱い言葉で選手たちを励まし、士気を高めるといったシーンを観たことがあるでしょう。その言葉がけがまさにペップトークです。ペップトークはとくにアメリカで発達してきました。というのも、アメリカは、さまざまなルーツや文化的背景を持つ人間が集まる多人種多民族の国家だからです。さまざまなタイプの選手たちをひとつの目標に向かわせるには、できるだけわかりやすく短い言葉で激励のメッセージを送る必要がある。そうして、ペップトークがアメリカで発達することになったわけです。つい最近、同じような力を発揮したペップトークの名言が日本でも生まれました。2019年に行われたラグビーワールドカップで、アイルランド代表との初戦に臨む日本代表メンバーにかけたジェイミー・ジョセフヘッドコーチの言葉です。代表メンバーはそれこそ多人種多民族。そんなメンバーに、彼はこんな言葉をかけました。「誰も勝てると思っていない。接戦になるとさえ思っていない。でも、君たちがどれだけハードワークをしてきたかを誰も知らない。君たちがどれだけ犠牲を払ってきたかも知らない。そして、君たちは自分たちが準備できていることを知っている。わたしもいままさにそのことを知っている。よし、行くぞ!」いま振り返っても感動がよみがえるという人もいるでしょう。そして、選手たちは見事に前評判を覆して勝利した。これが、ペップトークの持つ力なのです。ペップトークの対極にある「プッペトーク」とは?ただ、なにか大事なイベントを前にしてやる気を出したり、その気になる必要があったりするのはスポーツに限った話ではありませんよね。ビジネスの場でもそうでしょうし、子どもたちが習い事の発表会や入学試験に臨むときもそれにあたります。そうして、現在ではさまざまな場にペップトークが広まりつつあるのです。大事なイベントに子どもが臨む直前のことを想像してもらえればわかるかと思いますが、ペップトークに使う言葉は原則として「前向きな言葉」になります。逆のパターンを想像すると、よりわかりやすいかもしれませんね。たとえば、ペップトークという言葉を知らない人も、受験生には「落ちる」「滑る」といった言葉をかけないようにする、あるいは結婚式のスピーチでは「離れる」「終わる」「切れる」といった言葉を使わないということは知っているでしょう。それらのいわゆる「忌み言葉」のようなものが、子どもに対する言葉がけにもあるのです。それは、「短くてわかりやすくてポジティブな言葉」であるペップトークに対して、「長くてわかりにくくてネガティブな言葉」です。そういった言葉を、ペップトークの真反対のものだとして、わたしたちは「プッペトーク」とも呼んでいます。ただ、じつは短い言葉のなかにも、子どもを望ましくない方向に向かわせてしまうプッペトークはあります。たとえば、スポーツの大事な試合に臨む子どもたちに向かって、コーチが「負けたら罰走だぞ!」と声をかけた。もちろん、コーチは勝ってほしいと思うからこそ、厳しい言葉で励ましたつもりでしょう。でも、子どもたちは負けて走らされている姿をイメージしてしまいます。そうして試合前からネガティブになってしまっては、いい結果につながるはずもありません。ネガティブな言葉を浴びせ続けられた子どもの将来こういったプッペトークをかけ続けられた子どもはどうなるでしょうか。先に挙げた「負けたら罰走だぞ!」という言葉は、「脅し」の言葉でもあります。その言葉におじけづいた子どもは、負けまいと必死に頑張った。つまりこれは、コントロールされたわけです。すると、その子が成長したときには、同じように脅しの言葉で人をコントロールするようになる。また、プッペトークのなかには「嘘をつく」というものもあります。夜ふかししている子どもに、親が「夜ふかししているとおばけが出るよ!」といった。でも、夜ふかししてもおばけは出ませんよね。つまり、これは噓です。すると、脅しの言葉のケースと同じように、子どもは平気で噓をつくようになるのです。子どもをそんな大人にしないためにも、脅しや嘘ではない、なるべくポジティブな言葉をかけることが大切です。しかし、子育ての場合には別の視点も必要でしょう。たとえば、小さい子どもが道路に飛び出そうとしたとします。たしかに、スポーツの試合前に「ミスしたら駄目だぞ」なんて言葉をかけることはNGですが、この場合はきちんと「道路に飛び出したら駄目だよ」と教えなければなりません。そのうえで、「手を上げて横断歩道を渡ろうね」と教えてあげるのです。小さい子どもは、やってはいけないことやどうするのがいいのかといった判断がまだできませんから、場面に応じて、それらをセットで教えてあげることが大切なのではないでしょうか。『相手の結果を100%引き出す 実践!ペップトーク』岩﨑由純 監修・浦上大輔 著/フォレスト出版(2019)■ 日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの成功も失敗も、親の言葉がけ次第!「ペップトーク」が持つすごい力とは第2回:子どもの夢を断ち切っているのは親かもしれない。注意すべき「ドリームキラー」発言(※近日公開)第3回:「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!(※近日公開)第4回:本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方(※近日公開)【プロフィール】岩﨑由純(いわさき・よしずみ)1959年10月10日生まれ、山口県出身。一般社団法人日本ペップトーク普及協会代表理事。NECレッドロケッツ・コンディショニングアドバイザー。日本体育大学体育学部体育学科卒業後に渡米し、米シラキューズ大学大学院体育学専攻科修士課程修了。日本初の「アスレチックトレーナー」として数々のスポーツ現場で活躍。アメリカ留学中に、ペップトークの迫力・思い・魅力を体感し、現在はスポーツの他、教育・ビジネスの世界にペップトークを普及するため精力的に講演活動を行っている。主な著書に『子どもの心に響く励ましの言葉がけ「ペップトーク」』(学事出版)、『想いが伝わるペップトーク』(いまじにあ出版)、『やる気をなくす悪魔の言葉VSやる気を起こす魔法の言葉』(中央経済社)、『心に響くコミュニケーション ペップトーク』(中央経済社)、『子どものココロを育てるコミュニケーション術』(東邦出版)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月26日うちはモフモフ暮らし
めまぐるしいけど愛おしい、空回り母ちゃんの日々
子育ては毎日がたからもの☆