2021年5月29日 20:00
「いつか授かるよ」が叶わない。家を継ぐため夫を養子にしたけれど…#1
年齢、仕事、体力、経済力―――。子どもを産み育てることへの希望と不安は紙一重です。立ちはだかるさまざまな現実。そして「もう一人産みたい」と願う気持ち。第2子、第3子を考えたとき、揺れる気持ちにさいなまれる女性は少なくありません。
不妊治療で得られた複数の受精卵(胚、以下同)を凍結保存している場合はなおさらです。既に存在している受精卵をどうすべきか。
きょうだいをつくるために、子宮に迎え入れるのか。 病院やクリニックに凍結保存の延長をお願いするのか、しないのか。多くは夫婦の判断に委ねられます。
悩んだ末、凍結していた3つ目の受精卵を体に戻さないことを決断した女性の物語です。ケース4、松本あゆみさん(39・仮名)の場合。
16人に1人が体外受精で授かる命、第2子以降のために凍結保存も可能
卵子を一度体の外に取り出し、医療の手助けによって体外で受精させる体外受精。生殖医療の進歩により体外受精を行う不妊治療(ART=高度生殖補助医療)で、毎年多くの命が授かっている。
日本産科婦人科学会のまとめによると、2018年にARTで誕生した子どもの数は、過去最多の約5万7千人だった(注1)。
この年に生まれた子どもの16人に1人が体外受精によって生まれたことになる。
1回の採卵で採取した複数の受精卵で兄弟姉妹を作ることも考えられる。凍結された受精卵は、夫婦が希望すると1年保存され、1年ごとに更新を確認される。つまり、保存を延長するかしないかは、夫婦の判断ということにもなる。
家を継ぐため夫を養子に 「授かることは当たり前だと思ってた」
現在、4歳と1歳の2児の母である松本あゆみさん(39・仮名)は、いったん凍結した受精卵で2人の子どもを授かった。
25歳で3つ年上の夫と結婚。周囲より結婚は早く、「いつか授かるよ」と夫婦2人で気ままな新婚時代を過ごした。ただ、あゆみさんの実家は江戸時代から続く旧家。
名を継ぐために夫を養子に迎え入れたこともあり、子どもを産むことは“当たり前”と考え、子どもが生まれたら実家の両親と同居するつもりだった。
「子どもは好きだし、お墓を守らなきゃいけないし、子どもがいない人生はまったく想定していませんでした。