優柔不断な俺は、いつも社長に振り回される。 / 第4話 side満
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出典 : Upload By さいとう美如
第4話side 満
カッパーレッド色のマフラーに鼻の頭あたりまで顔を埋めながら、俺は白金台駅から会社に向かう長い下り坂を歩いていた。
…あぁ。寒い。岐阜よりは寒くないけど、なんか寒い。
まるで若者のようにはいしゃいだ岐阜の夜。楽しかったなぁ。
でも江原だってタカヒロだって、今日は普通に働いている。
えびす顔でお客を物件に案内し、韻を封印してオーダーを取りに行っている。
俺だってマネージャー業を頑張らないと。
俺がマネージャーをしているスタイリスト派遣事務所「フリープラン」はこの半年で、少しは売り上げがマシになっていた。
危機は脱したけど、また同じことにならないとは言えない。
熱いコーヒーでも飲んで仕事を始めようと思った矢先、「満、ケンゾー、ちょっと来い」と社長に声をかけられた。
スタイリストリーダーのケンゾーと目を合わせ、首を傾げる。
1年の最後にまた何か問題だろうか。そう思いつつも、特にざわざわしない自分がいる。慣れって怖い。
昔、何かで聞いたことがある。カエルが熱湯に落ちたら、慌てて飛び出すけど、水から徐々に熱湯になるとその熱さに気づいて驚いた時にはもう飛び出す元気もないと。
いやいや、俺はそこまで麻痺してない。そんなことをぼんやり考えながら、会議室に入った。

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席に着くと社長は「相談なんだけど、服のお直し業務を新規に始めようと思う」と言い出した。
…ん?これは相談というより報告じゃないか?
前にすごく綺麗なビジネスパートナーの女性と「ネイルサロンをやろうと思う」って言った時もこんな感じだった。
あの時は向こうが乗り気じゃなくなって助かったけど。あの女性、すごい顔が小さかったな、俺の拳くらいしかなかったんじゃないか?
俺が机の下で拳を作っていると、隣の席からケンゾーがそれを真剣な顔で見つめ、うなずく。
え?なに?
ケンゾー「社長、ちょっと待って下さい」
社長「まぁ、話を先に聞けよ」
ケンゾー「…満さん」
ケンゾーが困った表情で俺を見るので、俺はとりあえず微笑んでうなずく。
満「…まずは聞いてみよう?」
ケンゾー「…分かりました」
…