子育て情報『ママを2時間休む。それだけで気持ちが軽くなった。 / 第9話 sideキリコ』

ママを2時間休む。それだけで気持ちが軽くなった。 / 第9話 sideキリコ

 

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【前回のお話はこちら】

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ママを2時間休む。それだけで気持ちが軽くなった。 / 第9話 sideキリコの画像

出典 : Upload By さいとう美如


第9話side キリコ

昨夜から高熱を出している私のヘルプのため、岐阜から義母・真由美が我が家にやってきた本日――。

これまでラーメン屋の仕事があったから、うちに単独で来るのも初、泊まるのも初、そして夫は今日も休日出勤…。

はぁ、頭が痛いけど、胃も痛い。

…いや、そもそも熱を出してる自分が悪いよ?それは分かってる。34歳にもなって自己管理できてないなんて…。

高熱の体で奏太の相手をするのは辛すぎるから、義母が奏太の相手をしてくれるだけでありがたいけど…けど…さすが横になんてなってられないよね?しんどい…。

39度超えの体で玄関に向かい、私は口角を上げる。

キリコ「…お義母さん、すみません。大したことないのに、パパが電話しちゃって…」

真由美「いいのよ~。奏ちゃんに会いたかったから。あー、これね、お土産。満からキリコちゃんが甘いもの好きって聞いたから、どら焼きと」

キリコ「…ありがとうございます」

奏太「おばあちゃん、しんかんせんに乗ったんだって」

キリコ「…そうなんだ」

真由美「7時くらいに家を出たから…今…」

キリコ「…10時ですね」

真由美「じゃあ3時間くらいか。そのくらいで来れるのね」

奏太「ねぇねぇ、おばあちゃん、あそぼ!」

真由美「はぁい。あ、キリコちゃん、あとこれ、私が漬けたたくわん。それとね、これお餅。冷凍しておいた方がいいかも」

キリコ「あー…はい」

奏太「おばあちゃん!こっちきて!」

真由美「あとね、駅のパン屋さんでいろいろ買って来ちゃった。キリコちゃん、クロワッサン好き?」

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キリコ「はい…」

真由美「それと」

奏太「おばあちゃん!はやく!」

…うわー!みんな黙れぇい!

狭い廊下の中心で本音をさけ…びそう。

キリコ「お義母さん!とりあえず荷物置いて座ってください…」
真由美「あ、そうね。ありがとう。体調どう?」

『すこぶる悪いです。近年まれにみる体調不良です。ですので、少し落ち着いてもらえると助かります。というか、ほっといてほしかった…』

なんて言えるわけもなく。

キリコ「…実は39度あります」

真由美「大変!横になってなきゃ」

…なれるなら、なりたいですけど。

奏太「おばあちゃん!」

真由美「はいはい。奏ちゃん、パズル買ってきたよ」

奏太「ぱずる?」

真由美「おばあちゃんとやってみようか?」

奏太「うん!やるやる!」

真由美「キリコちゃん、今のうちに病院に行っておいで。お昼ご飯も適当に買ってきたから時間も気にしないで大丈夫だからね」

キリコ「え…でも」

真由美「大丈夫。そのために来たのよ。気にしないで甘えてね」

…いやー、でも大変ですよ?奏太の相手。がっつり幼児の相手をするのは何年ぶりですか?本当に大丈夫かな…。

そもそも奏太は私がいなくても平気なんだろうか。しゃがみこんで奏太に目線を合わせる。

キリコ「ママ、お医者さんに行ってきてもいい?」

奏太「いいよ!おばあちゃん、早くパズルやろう!」

見ない、一切私を見ない。パズルしか見てないし。

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ソファーの上に散らばっていたチラシから市の広報誌を探し出し、休日診療の病院を確認した。

キリコ「…今日は駅前の内科か」

広報誌から目を離すと、奏太と義母はすでにパズルを始めている。

奏太「おばあちゃん、これはどこ?」

真由美「うーん、ここかな?」

奏太「おお、すごいすごい」

じゃあ、ママは着替えますよっと…。

ババシャツの上にセーター、タイツの上に靴下、ジーパン、ニット帽を深くかぶり、マスク。ダウンコートを羽織って、スヌードを首に通した。

すごいビジュアル。でもこれで寒さ対策は万全じゃ!

キリコ「……じゃあ、何かあったら電話ください。鍵、ここに置いていきますね」

真由美「はい、いってらっしゃい」

奏太「ばいばーい!」

…あっさりしてらっしゃいますね。

得体のしれないモヤッとした気持ちを抱えつつ、私は自転車でフラフラと病院に向かった。予想はしていたけど、「冬」「休日診療」という最強ダブルキーワードで病院は鬼混みだった。座る席もなく、立っている人たちに紛れて私も待つことにした。

久々の高熱でしんどいけど、子連れじゃないだけで、精神的にはかなり軽い。どんなに待たされてもイライラ、ソワソワする理由がない。

日常でなかなか出来ないスマホゲームやくだらない検索のネットサーフィンを楽しんでいれば、時間なんてあっという間に過ぎる。

そして診察の順番になり、その後、薬局で抗生剤をもらった。

時刻は12:53。

2時間かかったけど、その間「ママ」を休めた。毛穴が全部開きそうなほど気が楽だ。

あぁ…家に帰りたくない。まだ休みたい。

でもそうもいかない。

ゆっくりと自転車を走らせ、自宅に戻ると奏太と義母はお昼ご飯を食べ終えたところだった。

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奏太は帰ってきた私に目もくれずテレビを見ている。…離れても意外と大丈夫なんだな。

真由美「おかえり」

キリコ「…すみません、すごい混んでて」

真由美「休日診療は混むよね。食欲ある?キリコちゃんの分もあるから、食べられそうなら少し食べて」

キリコ「…はい。ありがとうございます」

奏太が食べ終えた皿を持ってキッチンに向かう義母の背中を見る。…勝手だと分かっているけど、気が重い。

ありがたいとは思っているけど、やっぱり他人が家にいると気が張って休めない…。

奏太「あ、ママ。おかえりなさーい」

キリコ「…ただいま」

奏太「ちゅうしゃしたの?」

キリコ「注射はしてないよ」

奏太「なんで?」

キリコ「…なんでって言われてもなぁ」

手洗いうがいを済ませ、こたつに入ると良い香りの湯気と共に、義母お手製の味噌汁が運ばれてきた。

真由美「冷蔵庫にあった大根と白菜とお豆腐使っちゃったけど、大丈夫だった?」

キリコ「あ…はい」

奏太「おみそしる、おいしいよ!」

真由美「あとおにぎり。こっちが梅干しで、こっちが昆布ね」

キリコ「ありがとうございます…」

あぁ、冷蔵庫、勝手に開けたんだー…。

そんなくだらないことにひっかかりながら、味噌汁を口にする。…美味しい。おにぎりも美味しい。

誰かに作ってもらったご飯をこの家で食べるのはいつぶりだろう。美味しい。

真由美「お薬飲んだら、寝ちゃっていいからね」

キリコ「え…でも」

真由美「家事は適当にやっちゃっていいかな?」

キリコ「…あ、はい」

本当にいいのかな?と思いつつも体が眠りたいと言っている。

2時間、1人でいて楽になった気でいたけど、やっぱりそれは気持ちの問題で、やっぱり体は相当しんどい。もう気を遣う余裕がない。

キリコ「…ありがとうございます。なにかあったら起こしてください」

真由美「うん。ゆっくり寝てね」

奏太が限界になってグズったらすぐ起きれるように、早く眠ろう…。

お昼ご飯を食べ終え、薬を飲んだ私は寝室の布団に倒れ込むようにして寝始めた。薬のせいなのか何なのか、夢も見ず深い眠りだった。

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――ゆっくりと瞼を開くと、部屋の中は真っ暗になっていた。

今、何時?スマホを見ると「17:32」と表示されている。

私…4時間も寝てたんだ。

奏ちゃん、大丈夫かな?起き上がろうとして、右隣に奏太が寝ていることに気づいた。

小さな寝息を立てている。その優しい寝顔に触れる。まつ毛は濡れてない。泣いたりしてなかったみたい。良かった。

そっと布団を出て、寝室のドアを開けると、キッチンから揚げ物のいい香りがしてくる。

パチパチパチと油の音、トントントンと包丁の音。誰かがご飯を作る音ってこんなに温かい気持ちにさせてくれることを、ふと思い出す。こんな気持ちになるのは子どもの頃ぶりかも。

キリコ「…すいません、寝てしまって」

料理をしている義母に声をかけると、「起きた?」と微笑まれて、私はなんだか恥ずかしくなる。

真由美「奏ちゃんといっぱい遊べて楽しかった~。ずっとね、遊びたいなと思ってたから」

キリコ「………」

真由美「お兄ちゃん家族には色々してあげられてたけど、満やキリコちゃんには何もしてやれてなかったからさ。奏ちゃんにもやっとおばあちゃんらしいことできて嬉しい」

キリコ「………」

真由美「今、温かいお茶入れるから、座ってて」
キリコ「はい…」

言われた通りこたつに入り、夕方のニュース番組をぼんやりと眺めた。そして義母が入れてくれた温かいお茶を飲みながら、無意味に義母を面倒だと思っていた自分に恥ずかしくなる。

私にとって義母が他人であるように、義母にとって私だって他人なのに。それでもこうして接してくれているのに。

真由美「夕飯、奏ちゃんがから揚げ食べたいっていうから、から揚げにしちゃったんだけど、キリコちゃんは胃に優しいものがいいよね。玉子雑炊でも作ろうかな?」

キリコ「…すいません」

真由美「どう?体調は?」

キリコ「よく寝たら、少しすっきりした気がします」

この1週間、体も心も頭の中もテンパっていたけど、少し落ち着きを取り戻しだした感じがする。

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真由美「よかった。夜も薬飲んだら寝ちゃっていいからね。満の夕飯も作っておくから」

キリコ「ありがとうございます」

なんだろうか、このゆったりした気持ちは。

抱えていた荷物を全部持ってもらえたような安心感。それが一時でも、あるかないかでは全然違う。

高熱を出していなかったら、きっともっと気を遣って疲れていたけど、本当にしんどかったから動けなかった。

その結果、義母に丸投げしたら別の世界が見えてしまった。ベテラン主婦に支えてもらう安定感。

そんなことを考えていると、自分の分のお茶を持った義母がこたつに入った。

キリコ「寒かったですよね。すみません」

真由美「ううん。うちより全然温かい。ほら、うちのキッチン、北側にあるでしょ」

キリコ「あー、そうですね」

真由美「ふふふ」

キリコ「?」

真由美「なーんだか、今日は初めてづくしで楽しい」

キリコ「そうですよね」

真由美「いつかこうしてキリコちゃんと二人でゆっくり話してみたいと思ってたのよ。ほら、満と知り合ったきっかけとか聞いたことなかったし」

キリコ「あー…」

真由美「男の子って年頃になると母親になーんにも話してくれなくなっちゃうから。それに満は高校を卒業してすぐに東京に行っちゃったしね。なーんにも知らなくて」

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奏太もいつか夫のように大人になる。今はまだだっこをせがむ奏太もいずれ、離れていく。

奏太のことが大好きな私の気持ちはずっと変わらないし、奏太のことを知りたい気持ちもずっと変わらないと思う。

だから義母の気持ちはなんとなく分かる気がする。

キリコ「えっと…私とパパが出会ったのは、赤羽にあるカフェです。そこで料理教室があって、話しているうちに気が合って…。そんな感じです」

真由美「そうなんだ。へぇ!料理教室。あの子が」

義母はぱぁっと花が咲くように目を輝かせた。

真由美「そんな趣味があったなんて知らなかったなぁ。縫物は昔から好きだったのよ。他には?もっと教えて」

キリコ「あー、えーっと…。そうだ。写真ありますよ。…見ます?」

真由美「見たい」

にこりと微笑む義母を喜ばせたくて、私はクローゼットの中にある段ボールから、古い写真たちを取り出す。もう何年もしまいっ放しだったな。

キリコ「どうぞ」

真由美「ありがとう」

キリコ「あー、この頃、パパは金髪なんですよ」

真由美「えー!初めて見た」

キリコ「なんかしっくりこなかったらしくて、一週間くらいで黒髪に戻したらしいです。あー、この服、パパが自分で作ったみたいですよ」

真由美「あ、ナポレオンジャケット。懐かしい。高校生の頃も買ったやつを着てたのよ。近所にそんな服を着てる子はいなかったから、少し目立ってた。ふふ。あの子、本当に服が好きだったもんね」

キリコ「販売員になってからはお店の服ばっかり着てたし、ここ数年は作ってないですけどね。ミシンもしまったっきり」

真由美「そっかー」

キリコ「私がパパと出会った頃はすでにマネージャーだったから、この頃のことは実際には見たことないんですけど、昔の写真を見せてくれて、いろいろ話してくれた時、とっても楽しそうだったから、きっと服が大好きだったんだろうなって」

真由美「満の青春時代かしら。子どもの頃はおとなしい方だったから。でも野球はうまかったのよ」

キリコ「そうなんですか?」

真由美「うん、少年野球チームに入ってて…」

お互いに知っている「満」の話をした。それはまるで宝箱を見せ合うような楽しさがあった。

私もいつか奏太のお嫁さんと仲良く話せたらいいな。そんなことを思って、もう一度ちゃんと義母を見てみる。

この人だって、思いは同じだ。子を持つ同じ母親なのだから。それに気づけた今日は自分のこれからの人生にとってかなり意味のある日だ。高熱を出して良かった、とさえ、思えた。

そんな私とは対照的に、夫は切ない一日を送っていた――らしい。

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▶︎▶︎ 次回、第10話は、3/9(金)20時公開予定!

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