子育て情報『新しい環境で心細いのは、子どもだけじゃない。私もだ。 / 18話 sideキリコ』

新しい環境で心細いのは、子どもだけじゃない。私もだ。 / 18話 sideキリコ

 

https://conobie.jp/article/11902
【前回のお話はこちら】

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新しい環境で心細いのは、子どもだけじゃない。私もだ。 / 18話 sideキリコの画像

出典 : Upload By さいとう美如


第18話side キリコ

ヨリミチビヨリの吉田さんに会い、そして夫と2人で名古屋にあるフォトスタジオ『ファミーユ・ウルーズ』に訪れた翌日の日曜日。

私と夫、奏太の3人は夫の友人で地元の不動産屋の江原さんが紹介してくれた家を見に向かった。

まだ色々分からないけど、色んな可能性を、可能性を見て…。

キリコ「…わぁ」

夫の運転する車がその家の前に着くと、私は思わず声をあげた。

うー、めっちゃ理想の感じじゃないの。建売なのに、夫と話した理想の家のイメージに近い。

シンプルな白い家。庭はほどよい広さで、駐車スペースもこれ…3台分はあるよね?

路駐してあった赤色のレクサスからえびす様のような顔をした江原さんが降りてくる。

江原「どうもこんにちは~!お、奏ちゃん、おじさんのこと覚えてる?」

奏太「……」

キリコ「ほら、奏太、隠れてないでこんにちはでしょ。すみません…」

江原「いいんですよ~、じゃあ、中へどうぞ」

江原さんに誘導され、私たちは中に入る。

うわー…玄関に納戸みたいのがある~。これほしいんだわー。マンションにはないんだわ~、これ。

うわ~、新築のニオイがする~。当たり前だけど、めっちゃキレイ~。カウンターキッチン、広い~。シンクも広い~。

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奏太「ママ!かいだんがあるよ!行ってもいい?」

キリコ「危ないからパパと行って。ママはまだいろいろ見たいんだから」

奏太「分かった!」

奏太と夫が2階に向かい、私はトイレやバスルームを見る。

キリコ「わ~、バスタブひろっ」

江原「家族3人、余裕で入れますよ」

キリコ「ですね~」

続いてリビングの窓を開け、庭を見る。

キリコ「わ~、日当たりいいですね~」

江原「ここにベンチを置いたりしたらもう最高ですよ。日向ぼっこ」

キリコ「夢が広がりますね~」
なんて話していたら「マーマ!マーマ!はやくきて!」と騒ぐ奏太の声が聞こえてくる。

なんだよ、なんだよ、じっくり見させてくれよ。そう思いながらこれまた光が入って明るい階段を上る。もう脳内は「いいないいな」しかない。
奏太が騒いでいるのはベランダだった。おそらく8畳ほどある洋室から続くルーフバルコニーで夫が奏太を抱き上げ、何かを見ている。

奏太「マーマ!マーマ!みてみて!」

キリコ「なんだよ、騒ぐと危ないよ」

置いてあったサンダルを履きベランダに出ると、奏太の指さす方向に電車が見えた。

奏太「とうかいどうほんせんだよ」

江原「奏ちゃん分かるの!?すごーい!」

いつの間にか2階に来ていた江原さんが奏太に拍手すると、奏太はぷいっと江原さんから顔を背ける。でも口元はニヤついているのを私は見逃さない。嬉しいくせに。

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奏太「このおうち、でんしゃ見えるんだねぇ。すごいねぇ!階段のおうちすごいねぇ!」

江原「お!奏ちゃん、気に入った?」

奏太「……」

江原「あー、ごめんごめん。おじさん黙りまーす」

奏太「ねぇ、ママ!このおうち、ぼくのおうちになる?」

キリコ「うーん…それは」

奏太「ぼくこのおうちがいい!買って!」

キリコ「買ってって…。お菓子を買うみたいに簡単には買えないんだよ?」

奏太「なんで!」

キリコ「うーん、奏ちゃん、ここを買うってことはね、ここに引っ越すってことなの」

奏太「うん」

キリコ「そうなったらさ、今、遊びに行ってる幼稚園じゃなくて、このおうちの近くの幼稚園に行くことになるんだよ?」

奏太「いいよ!」

キリコ「ちょっと…本当に分かってる?」

満「まぁ…分かってないよね」

奏太「わかってる!わかってるの!」

江原「火曜のプレはもう話を通してありますぜ、奥さん」

キリコ「あ、本当ですか?ありがとうございます」

奏太「ねぇ、このおうちがいい!パパ!」

満「奏太、じゃあさ、明後日、このおうちの近くの桜葉幼稚園ってところに、ママと遊びに行ってみる?」

奏太「うん、いくいく」

キリコ「奏ちゃんがいつも遊びに行ってる川口つばさ幼稚園と違うからね?」
奏太「うん、わかったって。じゃあ、買おうっか」

キリコ「………」

ぜんぜんわかってないですね、これは…。

キリコ「…まぁ、とりあえずプレに行ってみるよ」

満「ありがとう」

キリコ「うん。火曜だしね」

江原「奏ちゃんが桜葉を気に入って、みっつーの転職も決まって、この家に引っ越してきたら、俺もちょ~嬉しいなぁ!」

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――翌朝。

夫は出勤するため6時台の新幹線で東京に帰って行った。

さて、今日は近所の公園にでも行ってみるかと思っていたのに、昼前から雨が降りだしてしまった。

雨にも関わらず「どこかに遊びに行きたい」という奏太のワガママに義両親がお昼ご飯も兼ねてショッピングモールにある室内広場で連れて行ってくれてたから私は義実家で一人のんびりと過ごすことが出来た。

お昼ご飯は「おぼろさん」で出前したチャーハンと餃子。あぁ、ご褒美をもらった気分。

そんなこんなで翌日、火曜日――。

その日もすべての用意を義母がしてくれるので、私はゆっくり時間をかけてメイクをした。うん、久々にはっきりくっきりした己の顔。
私がいつものように「早くして!」「どうしてふざけるの!」なんて怒らないから、奏太もご機嫌だった。

義実家から徒歩で行ける桜葉幼稚園に奏太と手を繋いで向かった。あぁ、こんな穏やかな気分で出かけられるなんて、いいな。

園の入り口に到着して、門にいた先生に名前を告げ園内に入ると――。

おそらくプレに通ってる子たちのママグループ、上に兄弟がいる子たちのグループ、などなど人が固まりになっている。
うわー…。久々のアウェイ感。

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奏太「…ママ」

小さな声で呼ばれ奏太を見ると、知らない場所、知らない人たちを見て表情を曇らせている。

これはいかん。私がビビっててどうする!大丈夫だよ、奏太!ママがついてる!

受付で名前を書き、先生に言われた「くまさん」の絵がドアに貼られている教室に向かう。

うぅ…ここも固まりだらけじゃ。ひるんではいけない。とりあえず笑顔、得意の外面をキープして声をかけてみようかな…。近くにいたママに声をかけようかと一歩踏み出すと、奏太が私の手を引いてブレーキをかける。

キリコ「ん?どうした?」

奏太「…おそといきたい」

キリコ「せっかく来たんだし、あそん…」

奏太「やだ!」

奏太が大きな声を出したと同時に、先生が2人教室に入って来た。

先生1「おはようございま~す!どこでもいいから好きなところに座ってね」

子どもたち「はーい」

キリコ「ほら、奏ちゃんはどの席にする?」

慌てて奏太を席に座らせようとすると、奏太の手の力がさらに強くなる。

奏太「やだやだやだー!!」

その一瞬、教室が静まり返って、全員の視線が私と奏太に向けられた。
うわー…変な汗が出る。

先生1「ママと一緒で大丈夫だよ」

キリコ「あ…すみません…」

私は先生に一礼するとしゃがみ込み、どうしても席に座りたがらない奏太を抱きしめた。

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奏太「おそとにでたいー!」

キリコ「奏ちゃん、静かにして。みんな先生のお話聞いてるよ?」

奏太「おそとにでたいー!でるー!」

キリコ「奏ちゃん!」

思わず強めに名前を呼ぶと、奏太は驚いた表情を見せ、泣き出してしまった。

奏太「う…わああああん!ママやーだー!」

キリコ「奏ちゃん、お願い。静かにして」

先生2「奏太くん、手遊び一緒にしよう?」

キリコ「…あ、すみま」

奏太「うわああああん!」

優しく声を掛けに来てくれた先生にお礼を言う余裕もないほど、私の額から汗が吹き出し、もうこれ以上、知らない人たちに迷惑をかけるのに耐えられず、私は奏太を抱いて廊下に出た。

泣き止まない14キロ超えの奏太を抱き上げたままテンパっているうちに、プレが終わってしまった。楽しそうに教室から出てくる子どもたち、仲良くおしゃべりするママたち。あぁ、私と奏太だけ別の場所にいるみたい。

呆然としていると見知らぬ女の子が奏太を指さして「あっ」と声を出した。そして品の良いママと一緒に私たちの元にやってきた。

江原の妻「あの、もしかして…奏ちゃん?」

奏太「…」

キリコ「え、あの…」

江原の妻「あ、江原です」
キリコ「あー!」

江原の妻「いつも主人がお世話になっています」

江原さんに微笑まれ、私は少し肩の力が抜ける。あぁ、すごい汗かいてて恥ずかしい。化粧も崩れてるだろうな。普段はやらないアイラインもマスカラも落ちて、パンダになってるかも…。

キリコ「ここの幼稚園、すごく広いですね、園庭も園舎も」

江原の妻「そうですね」

キリコ「あの…」

やっと話ができる人が見つかって、幼稚園のことを聞こうとしたのに、江原さんは他のママに声を掛けられてぐるっとそっちを向いてしまう。

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奏太「おそといきたい!」

キリコ「ちょっと待って」

キリコ「ごめんさい…奏太が外に行きたがってるので」

…ダメだ。周りの音にかき消されて私の声が届かない。

奏太「はやく!おそと!」

キリコ「…じゃあ、失礼します」

江原さんは私が去って行くことに全然気づかず、ずっと話している。きっとあのママとは仲良しで、私なんて夫の友人の妻、っていう全然親しい仲じゃないし、仕方ないんだけど…仕方ないんだけど…なんか寂しい。

子どもたちが園庭でワイワイと騒ぐ楽しい雰囲気の中、奏太と手を繋いで義実家へと歩き出す。

キリコ「奏ちゃん……どうだった?幼稚園」

奏太「やだ」

キリコ「…だよねー。でもあの電車の見えるおうちを買ったら、今日行った幼稚園に行くことになるかもなんだよ?」

奏太「やーだー!」

キリコ「…だよねー」

あぁ、やっぱり理想の家を買うのは難しい。
あの家は理想の家だったけど、仕事も家族もすべてが100点なんてムリなのかな。

その日、沈んだ気持ちのまま、私と奏太は新幹線で川口へ戻った。

とても疲れていて、私も奏太も家に着くと布団にダイブした。落ち着く、落ち着くなぁ、賃貸だけどマイホーム。マイタウン川口…。

そしてそのまま夕方から2人で爆睡した。私たちが寝ている間に夫がどんなことをしていたか全く知らず――。

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▶︎▶︎ 次回、19話は、4/13(金)20時公開予定!
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