子育て情報『思春期の娘との悩みを、静かに打ち明けた/ 娘のトースト 5話』

思春期の娘との悩みを、静かに打ち明けた/ 娘のトースト 5話

宝箱?

聞き返そうとすると、コーヒーを持って店員がやってきた。2つのカップが置かれる間、私は黙ってテーブルの上を見つめる。

ふいに、さっき見た唯とありさちゃんの姿が思い浮かんで、それを振り払うようにあわてて首を振った。

「学校、今日は帰りが早いんですね」

顔を上げた私は、「そうなの、テスト前だから」とうなずいた。

中村さんは静かにほほえんでいる。その穏やかな笑顔にうながされるように、私はゆっくりと今までのことを話しはじめる。

春休みの手紙のこと。それからお互いギクシャクとしてしまったこと。それでも、最近は話をするようになったこと。

中村さんはただ黙って話を聞いてくれた。今まで一人で抱えていたことを話してしまうと、気持ちがずいぶん軽くなった気がした。

手をつけずにいたコーヒーに、ミルクを注ぎ、ゆっくりとかきまぜる。

「ねえ、庸子さん」

スプーンを置く私に、中村さんは優しく言う。

「あの時、唯ちゃんの宝箱を見つけた時、庸子さんは、ただ箱を元に戻したじゃないですか。

唯ちゃんを叱ったりもしなかったし、無理に理解をしめしたりもしないで、わからないことはわからないまま、丁寧にふたをして、箱をしまいましたよね」

わからないことはわからないまま。私は、中村さんの言葉を心の中で繰り返す。

「庸子さんのそういうところ、素敵だと思うんですよね」

思春期の娘との悩みを、静かに打ち明けた/ 娘のトースト 5話の画像

出典 : Upload By 狩野ワカ


中村さんの相談

中村さんの言葉に、私は唯の小さな宝箱を思い出す。そう、たしかに、私はあの宝箱をただ開けて、そして閉じた。

「……そうだね」

つぶやくように返事をして、私は静かに目を閉じた。そして、一度深くうなずき、「ありがとう」と、かすれた声で中村さんにお礼を言った。

「あーあ、でも、唯のイケメン彼氏も見てみたかったけどなあ」

勢いよくソファにもたれながら、私は「あはは」と空気を吐き出すみたいにして笑う。しぶとく残る未練みたいなものを出し切るように。

「将来的にどうなるかはもう、神のみぞ知るというか、わからないと思いますよ、本人でさえ」

「唯なりの幸せ、なんて言いながら、勝手に期待しちゃってたんだよね」
「いや、親ってたぶん、そういうものだと思います」

いたわるような中村さんの言葉を聞きながらコーヒーを飲むと、やわらかな苦みが口の中にじわりと広がった。

「あの、前から庸子さんにお願いしたいことがありまして」

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