在宅でデキる!? 認知症の進行を遅らせる“音楽回想療法”の効果と注意点
当時観た映画をDVDで鑑賞してもらい、奥さま(旦那さま)と出会ったころを回想していただくのもいいでしょう。
でも、“105歳の現役医師”として名高い日野原重明先生によると、そういった方法にも勝る「特に優れた回想法」があるというのです。それが、『音楽回想療法』です。
日野原重明医師はご自身が監修した『標準音楽療法入門・理論編』の中で次のように述べています。
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『音楽はいろいろな出来事と結びつきやすく、特に高齢者の記憶を再生し回想する手段として用いられる。回想に使われる方法としては写真や絵、草花なども用いられるが、音楽の強い情緒性が特に長期記憶と結びつきやすいために、優れた回想法になるものと考えられる』
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さまざまな回想法が考えられる中で、特に音楽を用いた回想法の効果が抜群である ことを日野原先生は指摘していたのでした。
●高度の認知症にもかかわらず『北国の春』を聴いてにっこりとほほ笑んだ父
日野原先生がおっしゃるような“音楽を用いた回想法の効果の高さ”について、筆者には思い当たる実体験があります。
50代のはじめごろ、87歳になっていてすでに認知症が“高度”の段階に達していた父親に関する思い出です。
そのころには父はもう筆者の顔を見て「やあ。社長!」などと言うほど人が誰だか認識できなくなっていて、家の中での徘徊もひどく、献身的に介護をする母にはつらくあたるなどとても重い状態になっていました。
常に無表情で笑うことはほとんどなく、食欲もわかないため主治医に処方された缶入りの流動食品でなんとか栄養摂取をしているような毎日でした。
そんなある日、居間のテレビで昔の昭和歌謡の特集番組がついていて、『北国の春』をオリジナルの歌手の人がライブで歌っていたのです。
この曲は東北地方出身の父が現役の中小企業経営者だった当時に大好きだった曲で、社員や取引先の人たちとよくカラオケで歌っていた「十八番(おはこ)」でした。
急いで父の部屋のテレビをつけてあげると、それまでの固まったような父の表情が見る見るうちにやわらかくなってきて、およそ半年ぶりににっこりとほほ笑んだのでした。結局4か月後に父は他界するのですが、あのとき以降、筆者もなるべく心がけて父が好きだった曲、『恋人よ』や『津軽海峡冬景色』などのCDをかけてあげるようにしたところ、ほほ笑むことが増え、食欲も若干ですが回復し、家族はみな本当に嬉しく思ったものです。