12年6月に慶應義塾大学医学部准教授のK氏(54)と結婚した松田聖子(55)。そんな夫のK氏が今、世界的に注目を集めているという。京都大学の山中伸弥教授(54)が作成したiPS細胞の提供を受け、下歯槽神経再生の研究に取り組んでいるのだ。 それは聖子にとっても5年越しの悲願だった。結婚当初、日本を代表するアイドル歌手である聖子に対して夫は50歳をすぎても大学の准教授のままだった。それでも聖子は多忙なかたわら、夫のための献身的なサポートを決して怠らなかった。 「聖子さんお母さんは元看護師で伯母さんは院長夫人。そのため、医療の世界の厳しさをよく知っていました。だからこそ彼女は、研究で忙しい夫のため一肌脱ぐことを決断しました。毎日の通勤のため、夫に運転手付きの高級乗用車を用意。これによりK先生は通勤中に車内でゆっくりと専門書などを読むことができるようになったのです」(音楽関係者) 結婚後、彼女はインタビューやコンサートで一度もK氏について触れることはなかった。それが聖子の“妻としてのポリシー”だったのだろう。 「聖子さんと結婚してから、K先生は変わりました。それまではスーツがヨレヨレでも、靴に泥がついても平気なタイプでした。でも最近ではしわのないスーツをびしっと着こなし、ブランド物も身に着けるように変身したのです。これももちろん、聖子さんのサポートのおかげです。夫が出世できるよう、イメージアップを図ったそうです」(病院関係者) さらに夫の食事についても、聖子は地道な努力を続けていたようだ。 「聖子さんは毎朝6時に起きて、Kさんのために栄養バランスのいいお弁当を作っていると聞きました。また帰宅後も深夜まで机に向かうKさんのために、聖子さんが夜食を作ってあげていると聞きました」(前出・病院関係者) そんな聖子の“内助の功”が力となったのか、K氏の研究努力は少しずつ実を結び始めている。そして、こんな嬉しい声も聞こえてきているという。 「医学部歯科・口腔外科の教授は基本的に1名で、現在の教授は15年間もつとめています。K氏は東北大学出身で、慶応大学の“生え抜き”ではありません。しかし彼の研究は脊髄損傷患者やアルツハイマー症の治療にも貢献が期待できると言われている。そのため『来年3月時点の成果次第では次期教授昇進も夢じゃない!』と囁かれています」(医学部関係者)
2017年08月01日韓国で人気を博したミュージカル『フランケンシュタイン』が日本に初上陸する。あの有名なフランケンシュタインの物語を大胆にアレンジし、メインキャスト全員が一人二役で演じる手法にも注目が集まる。メインキャストのひとりは、舞台をはじめ、映画やテレビドラマで味のある演技を見せる、ベテラン俳優の相島一之。「ミュージカルコメディの経験はありますが、シリアスなミュージカルは初めて」という相島にその思いを聞いた。ミュージカル「フランケンシュタイン」チケット情報「今回は、『ザ・ミュージカル』ですよ。『ザ』ですよ、ザ(笑)。本当に僕でいいの?と何回、念を押したことか」と豪快に笑いながら、オファーを受けた心境を語る。19世紀のヨーロッパを舞台に、死人の命を甦らせ、「生命創造」の研究に身を捧げる科学者ビクター・フランケンシュタインが主人公だ。ビクターは、友人のアンリを無実の罪で亡くしたことから、アンリにその研究成果を注ぐが、誕生したのはアンリの記憶を失った「怪物」だった。「死者を生き返らせるという物語はiPS細胞やクローンなど、21世紀の医学の進歩で突拍子もない話ではなくなってきた。観客は色々なことを思い巡らせるはず。また、登場人物が救いを求め、人間の生きる意味を問う姿は話に深みを与えます。そこに壮大でドラマティックな音楽が入ると、物語がさらに勢いよく立ち上がり、本当に素晴らしいんですよ」と熱を込める。相島は、第一幕でビクターの婚約者ジュリアの父・ステファン、第二幕でギャンブル闘技場に出入りするフェルナンドを演じる。社会的地位や名誉があるステファンと、金の亡者で裏社会とも繋がるフェルナンド。一方、研究熱心なビクター役の中川晃教、柿澤勇人(Wキャスト)は、ギャンブル闘技場を営む悪党のジャックに豹変する。あまりにも正反対なキャラクターは、一人二役というものの、実は同じ人間ではないかと思わせる。どんな人間にも光と闇があるように。「まさにそうですね。脚本と歌詞を手掛けたワン・ヨンボムさんが意図して書いているのだと思います。一人二役は役者にとっては、苦労より楽しみのほうが大きい。振り幅の大きい違う役をやればやるほど、バッと弾ける。その生き生きとした役者の魅力が芝居全体の高揚感にも繋がり、物語自体が大きく揺れる。Wキャストだと揺れ方もそれぞれ違うはずです」役者のほか、立川志らくと落語会をしたり、自身のブルースバンドのライブでブルースハープを吹いて熱唱したりする。また、長男は5歳、長女は2歳とかわいいさかり。50代にして人生花盛りの様子だ。「いえいえ(笑)。でも、異業種に挑戦して確実に分かったのは、僕は俳優以外の何物でもないということです」。きっぱりとそう言い切った。公演は、1月8日(日)から29日(日)まで東京・日生劇場、2月2日(木)から4日(土)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演。その後、福岡、愛知でも公演あり。チケットは発売中。取材・文:米満ゆうこ
2017年01月05日順天堂大学は4月6日、悪性リンパ腫細胞や成人T細胞白血病細胞を今まで知られている仕組みとは異なった機序で死滅させる抗体を樹立したと発表した。同成果は、順天堂大学 医学部 病理・腫瘍学講座 松岡周二助教、理化学研究所 統合生命医科学研究センター ワクチンデザイン研究チーム 石井保之チームリーダーらの研究グループによるもので、3月31日付けの米科学誌「PLOS ONE」に掲載された。B細胞リンパ腫や成人T細胞白血病において有意な治療効果を示す抗体医薬はこれまでにも開発されているが、一部の効果がみられない患者や、一度寛解しても標的分子を欠失した耐性株が出現し再発する患者も多いという問題があった。同研究グループは今回、通常行われているように標的分子のペプチドを免疫したり、1種の悪性リンパ腫で免疫したりするのではなく、複数の悪性リンパ腫で免疫したマウスの抗体産生細胞を用いて融合細胞を作製し、悪性リンパ腫細胞への細胞傷害活性を指標にスクリーニングした。この結果、複数の分子(HLAクラスII分子群のDP、DQ、DR)に結合し、多くの悪性リンパ腫に傷害活性を有する抗体「4713モノクローナル抗体(mAb4713)」を得た。同抗体は、短時間で巨大な穴を血液がん細胞に直接あけるという作用をもっており、同抗体を注射することにより、悪性リンパ腫細胞を移植したマウスの生存を有意に延長したという。さらに正常な細胞に対しては傷害活性がないことも確認している。同研究グループは、今までの抗がん剤や分子標的薬で治療できなかった患者や再発した患者に対し、効果的な治療薬の開発が見込まれるとしている。
2016年04月07日理化学研究所(理研)、オーガンテクノロジーズ、北里大学は4月2日、マウスiPS細胞から、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ「皮膚器官系」を再生する技術を開発したと発表した。同成果は、理研 多細胞システム形成研究センター 器官誘導研究チーム 辻孝チームリーダー、オーガンテクノロジーズ 杉村泰宏社長、北里大学 医学部 武田啓主任教授、佐藤明男特任教授、東北大学大学院 歯学研究科 江草宏教授らの研究グループによるもので、4月1日付けの米科学誌「Science Advances」に掲載された。皮膚には、皮膚付属器として毛包や皮脂腺、汗腺などの複数の器官が一定の規則性を持って配置されており、体の中で最も大きく複雑な器官系である。皮膚に関わる疾患は、外傷や熱傷、先天性乏毛症、脱毛症、分泌腺異常など数多く知られているが、皮膚器官系が複雑なために皮膚の完全な再生はいまだ実現していない。同研究グループは今回、皮膚疾患に対する新たな再生治療法の確立に向け「Clustering-Dependent embryoid Body:CDB法」を開発した。CDB法は、マウス歯肉の細胞から樹立したiPS細胞株を、1週間低接着培養することにより胚葉体(EB)と呼ばれる凝集塊を形成。コラーゲンゲル内に30個以上のEBを立体的に配置したものを免疫不全マウスの腎皮膜下に移植するというもの。移植されたEBは、移植30日後にはテラトーマ様の組織を形成していた。この移植物を組織学的に解析したところ、移植物は外胚葉や内胚葉性の上皮組織からなる空洞構造(嚢胞)を多数持っており、これは、iPS細胞単独移植や単一のEBを移植した場合と比較して、約4倍の上皮組織からなっていたという。同上皮組織をより詳しく解析すると、移植物の上皮組織の一部に、天然の皮膚と同等の組織構造が形成され、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ皮膚器官系が再生されていることがわかった。この皮膚器官系には、毛穴を介して毛幹が萌出している様子も観察されたという。これら再生皮膚器官系に含まれる付属器官の組織構造を詳しく解析したところ、毛包器官内に毛包上皮性幹細胞や毛乳頭細胞が正常に再生され、毛包に付随する立毛筋も適切な位置に配置されていることがわかった。また再生皮膚器官系が正常な機能を持つかどうかを解析するため、再生皮膚器官系から毛包を10~20本含む全層組織をひとつの再生皮膚器官系ユニットとして外科的に分離し、ヌードマウスの皮下へ移植した結果、移植した再生皮膚器官系は、移植されたヌードマウス(レシピエント)に生着し、少なくとも3カ月にわたりがん化することはなかったという。移植14日後には、再生毛がレシピエントの皮膚表面より萌出し、その後、天然毛と同様に成長していく様子が観察された。この再生毛は、iPS細胞に由来することが実験で確認されている。なお、マウスの体毛はおよそ20日間という一定の毛周期で生え替わるが、再生毛包の毛周期を解析したところ、マウスの天然の体毛と同様に約20日間の毛周期で生え替わることが明らかとなり、機能的な毛包再生が可能であることも示されている。同研究グループは今回の研究について、将来、皮膚の重度の外傷や熱傷などの完全な再生を可能にするとともに、先天性乏毛症などの深刻な脱毛症や皮膚付属器に関する疾患の再生治癒につながることが期待できるとしている。
2016年04月04日慶應義塾大学(慶大)と日本医療研究開発機構(AMED)は4月1日、ヒトiPS細胞におけるグルタミン代謝の特徴を利用し、安全性を高めた心筋細胞の作製に成功したと発表した。同成果は、慶應義塾大学 医学部 循環器内科学教室 遠山周吾助教、藤田淳特任講師、福田恵一教授、医化学教室 末松誠教授(研究当時、現:AMED理事長)らの研究グループによるもので、3月31日付けの米科学誌「Cell Metabolism」に掲載された。ヒトES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞は、多種類の体細胞に分化出来る能力を有している反面、分化させた細胞集団のなかに未分化幹細胞が残存する性質があることがわかっている。こうした未分化幹細胞が生体内に移植されると、腫瘍を形成する危険性があるため、実用化にあたっては、目的とする細胞を純化精製すると同時に、未分化幹細胞を除去する方法の開発が望まれている。同研究グループはこれまでに、未分化幹細胞においてグルコース代謝が活発であること、心筋細胞は乳酸をエネルギー源とすることを明らかにし、培養液に含まれているグルコースを除去し、乳酸を添加することで未分化幹細胞を除去する方法を報告している。しかし、グルコースを除去するだけでは、未分化幹細胞が完全に死滅するのに時間を要するという課題があった。そこで今回、同研究グループは、未分化細胞においてグルコースと同時に消費が活発なグルタミン、アルギニン、セリン、グリシンの4つのアミノ酸に着目。これらのアミノ酸を除去した条件に加えて、グルコースも除去した培養液を用いてヒトES・iPS細胞を培養したところ、アミノ酸を除去しなかった場合と比較してヒトES・iPS細胞が劇的に死滅することがわかった。また4つのアミノ酸のうち最も重要なものがグルタミンであることを見出した同研究グループは、次にヒトES・iPS細胞におけるグルタミン代謝の役割について、細胞に存在する全遺伝子を網羅的に解析する「トランスクリプトーム解析」および細胞や組織内に存在する全代謝産物を網羅的に解析する「メタボローム解析」を行った。この結果、ヒトES・iPS細胞はグルタミンを活発に取り込んでミトコンドリアにおける酸化的リン酸化によりエネルギーを得ていることが明らかになった。さらに、同研究グループは「未分化幹細胞やその他の増殖細胞が生存不可能で、心筋細胞のみが生存可能な代謝環境」を作り出すために、通常は培養液に必要不可欠とされるグルコースおよびグルタミンを除去し、心筋細胞にとってエネルギー源となる乳酸を添加することにより、心筋細胞のみを選別できるのではないかと考え、「無グルコース無グルタミン乳酸添加培養液」を作製。実際に、ヒトES・iPS細胞由来のさまざまな細胞集団をこの培養液で培養すると、短期間で未分化幹細胞が完全に死滅し、心筋細胞のみが選別されることが確認された。この結果についてメタボローム解析した結果、心筋細胞では乳酸を利用してエネルギーを得ているだけでなく、乳酸を利用してグルタミン酸を産生しており、さらに、選別されたヒトES細胞由来の心筋細胞には、腫瘍を形成する原因となる未分化幹細胞が残存しておらず、その残存率は0.001%未満であることが確認された。なお、純化精製後の心筋細胞はそのほとんどが心室筋細胞であったという。同研究グループは今回の成果について、安全性の高い心筋細胞を比較的安価かつ簡便に入手するという大きな課題を解決し、心臓の再生医療の実現化を大きく加速するものであると説明しており、今後は医師主導の臨床研究、臨床治験の準備を実施する予定であるとしている。
2016年04月01日メガソフトは4月1日(エイプリルフール)、iPS細胞対応の3Dプリンタを使って美容整形できる「3Dマイフェイスデザイナー」を発表した。価格は税別300,000円。マウス操作で顔面のデザインができるソフトウェア「3Dマイフェイスデザイナー」に、iPS細胞対応の3Dプリンター「3Dマイフェイスバイオプリンター」をバンドルした家庭用美容整形ソリューション。鼻・耳・唇などの顔面パーツは5万点以上で選びたい放題。自撮り写真と組み合わせ、手軽に美容整形データを作成できる。完成したパーツは「顔面にグイッと押しつけるだけ」でセット完了。出力後30分以内に顔面に装着する必要があるとのことだ。
2016年04月01日理化学研究所(理研)は3月18日、マウスES細胞(胚性幹細胞)の老化回避機構を解明したと発表した。同成果は、理研 多細胞システム形成研究センター 多能性幹細胞研究チーム 丹羽仁史チームリーダー、二木陽子 研究員らの研究チームによるもので、3月17日付けの米科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載された。一般に、細胞は分裂を繰り返すことで染色体DNAの末端にあるテロメアと呼ばれる部分が短くなり老化するが、ES細胞は老化することなく半永久的に培養できる。2010年に、マウスES細胞で「Zscan4」というタンパク質がテロメアを伸長し、遺伝子を保護することが発見されたが、Zscan4はすべてのES細胞にいつも発現しているわけではなく、どのようなときに発現するのかはわかっていなかった。同研究チームは今回、Zscan4の発現様式を経時的に解析するために、Zscan4が発現すると緑色に光るマウスES細胞を作り、顕微鏡下で120時間観察した。その結果、Zscan4は一部の細胞においてのみ発現していることを確認。また、赤色の核マーカー(H2B)を指標に細胞を1時間おきに追跡し、緑色の輝度を測定することでZscan4の発現を定量化した。このZscan4の発現様式を細胞の家系図となる細胞系統図に沿って記述することにより、これまで平均12時間でほぼ均一と思われていたES細胞の細胞周期が、実際には10~30時間と大きくばらついていたことがわかった。さらに、Zscan4の発現量を経時的に詳しく解析したところ、細胞周期が長いほどZscan4の発現量が多く、Zscan4の発現量が一旦増えた後は、次の細胞周期の長さが短くなる傾向にあることがわかった。また、培養系においてES細胞内に色素を注入し、その希釈率で細胞周期の長さを同定する手法を用いて、細胞周期の長さとテロメアの長さの関係を解析した結果、細胞周期が長い状態のES細胞は、テロメアが短くなっていることがわかった。一般にテロメアの著しい短縮やDNAの損傷が起こると、その修復機構が働いて細胞周期が一時的に停止し、細胞周期が長くなる傾向にあるが、今回の結果でも、テロメアが短いES細胞は細胞周期が長くなることが示され、またそのような状態においてはZscan4の発現量が増えることが新たにわかった。このことから、Zscan4はテロメアが短くなったことに応じて発現が誘導され、テロメアの長さを元に戻すことでES細胞の老化を回避していることが示されたといえる。同研究チームは今回の成果について、再生医療分野での応用が期待されるES細胞およびiPS細胞の培養にも応用できることが期待されると説明している。
2016年03月18日東京大学は3月16日、東京大学分子細胞生物学研究所の中村勉講師らの研究グループが、ヤコブセン症候群患者が発症する自閉症の原因は、脳の神経細胞の活動を抑えるGABA受容体の運搬に関与するたんぱく質「PX-RICS」だと特定したと発表した。今後、自閉症の新薬の開発につながる期待が持てるという。自閉症は発達障害の一つ。厚生労働省によると、発達障害にはアスペルガー症候群や注意欠如・多動性障害(ADHD)などもあり、自閉症は80~100人に1人の割合で発症すると言われている。「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「限定的な興味や強いこだわり」などの症状を特徴とする。「社会認知機能」と呼ばれる他者の心情を推し量ったり、他者に共感したりする脳の機能の障害が自閉症の原因であると考えられているが、発症の詳しい仕組みはこれまでにわかっていなかった。研究グループは大脳皮質や海馬など、脳の認知機能に関連する領域の神経細胞に豊富に発現しているたんぱく質・PX-RICSを同定し、その遺伝子を欠損するマウスを作製した。そのマウスは外見的には正常だったが、他のマウスに対する興味が少ないことを確認。具体的には、「他のマウスに対する反応や超音波域の鳴き声を使った母子コミュニケーションが少ない」「反復行動が正常なマウスよりも多い」「習慣への強いこだわりを持つ」など、自閉症の症状に特徴的な行動異常を示していたという。さらに解析を進めたところ、PX-RICS遺伝子が「ヤコブセン症候群」(11番染色体長腕末端部の欠失に起因する先天異常疾患)患者の半数以上が発症する自閉症の原因となる遺伝子であると特定できたとのこと。中村講師はこの結果を受け、「今回、私たちはGABA受容体の輸送が自閉症の発症に関係することを明らかにしました。この輸送メカニズムを標的とした薬剤を開発するなど、今回の成果は自閉症の新たな治療戦略へ貢献できる可能性があります」とコメントしている。
2016年03月17日アークレイは3月9日、京都大学との共同研究によりヒトiPS細胞から膵島細胞の高効率作製に成功したと発表した。同成果は「第15回日本再生医療学会総会」の付設展示会で紹介される予定。血糖値を下げるインスリンは、膵臓内の膵島で産生・分泌される。膵島が障害を受けてインスリン分泌が枯渇すると、慢性的な高血糖となり、その状態が続くと腎不全や網膜症などの合併症を引き起こす可能性がある。障害を受けた膵島は再生できないため移植治療が必要となるが、ドナー不足により治療が思うように進んでいない現状がある。そのためヒトiPS細胞やヒトES細胞を用いて人工的に膵島を作製・利用する再生医療に期待が寄せられているが、移植治療に十分な量の膵島細胞を作製する方法や品質のバラツキが少ない作製方法の開発が課題となっている。こうした課題に対し、アークレイは2014年にヒトiPS細胞を1個から培養可能な流路型の超小型培養装置の開発に成功するなどしている。今回の研究では、新たにヒトiPS細胞の流路型培養システムを開発し、ヒトiPS細胞から膵島細胞を作製することに成功した。同システムは培養環境を物理的に制御することができ、同一構造を多数作成することで容易に培養規模を拡大することができる。現在、培地交換や温度管理、CO2濃度管理を全自動化した培養システムを開発中とのことで、大型化・自動化に加えて膵島以外の細胞腫への応用も検討していくとしている。
2016年03月09日順天堂大学(順天堂大)と慶應義塾大学(慶大)は2月19日、ヒト末梢血から作製したiPS細胞を効率的に神経幹細胞に誘導する技術を開発したと発表した。同成果は順天堂大医学部脳神経内科の服部信孝 教授、ゲノム・再生医療センターの赤松和土 特任教授と、慶大医学部生理学教室の岡野栄之 教授によるもの。2月18日(現地時間)の米国科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載された。同研究グループはこれまで、パーキンソン病患者からiPS細胞を作製し病態メカニズムを再現することに成功しているが、皮膚を採取する必要があるため患者の負担が大きく、研究の大規模化を妨げていた。一方、より採取の負担が少ない血液からもiPS細胞を作ることはできるが、血液由来のiPS細胞は神経系に分化しにくいことが課題となっていた。今回の研究では培養中の酸素濃度を低くすることで未分化iPS細胞を強制的に神経系に分化する環境を作り出し、末梢血由来iPS細胞を効率よく神経系の細胞に分化させることができた。同手法を用いることで患者に負担の大きい皮膚生検をせずに、通常の血液検査程度の量の血液から樹立したiPS細胞でも、神経難病研究を効率よく進められるようになる。同研究グループは今後、この方法を用いて順天堂医院に通院する数千人のパーキンソン病の患者からパーキンソン病iPS細胞バンクを構築し、パーキンソン病の病態研究・再生医療を促進していくとしている。
2016年02月19日細胞を用いたアート作品が展示される「ELEGANT CELL -細胞とバイオマテリアルの小さな実験室」が、2月17日から23日まで東京大学駒場リサーチキャンパス内の東京大学生産技術研究所S棟1階のギャラリーで開催される。ビーズ状に加工した細胞を型に入れて固めたり、糸状に並べて編み物をしたりと、細胞を高度な機能部品として生きたまま配置して立体的に造形する研究を行う東京大学竹内研究室。これまで、東京大学山中研究室とともに細胞を用いた新しいものづくりを行ってきた。今回開催される展覧会では、細胞の彫刻や新しいデザインの実験器具などを展示する。ラインアップは、パナソニック ヘルスケアとインダストリアルデザイナーの山中俊治によるバイオメディカ機器(生物医療に関わる機器のこと)や、アーティストの鈴木康広が細胞や生体材料を用いて製作した「細胞を生ける器」など。また、2月17日の18時から19時30分まではアーティストの福原志保と山中が、19日の同時刻には女優の池澤あやかと東京大学教授の竹内昌治が、21日の14時から15時30分までは、鈴木と竹内と山中がトークセッションを行う。【イベント情報】「ELEGANT CELL -細胞とバイオマテリアルの小さな実験室」会場:東京大学生産技術研究所S棟1階ギャラリー住所:東京都目黒区駒場4-6-1 東京大学駒場リサーチキャンパス内会期:2月17日~23日時間:11:00~19:00会期中無休
2016年02月15日東京都・駒場の東京大学生産技術研究所は、東京大学駒場リサーチキャンパス内S棟1階ギャラリーにて、細胞を生きたまま配置し、立体をデザインする「ものづくり」の展覧会「Research Portrait02:Elegant Cell ー細胞とバイオマテリアルの小さな実験室」を開催する。会期は2月17日~2月23日。開場時間は11:00~19:00。入場無料。同展は、東京大学山中研究室と竹内研究室が共同で、細胞を用いた「ものづくり」への新しい挑戦を発表するもの。モーターやネジなどを組み合わせて作られるロボットなどとは異なり、生き物は受精卵から細胞分裂を繰り返し、徐々に成長してかたちづくられる。しかし、竹内研究室では、細胞を高度な機能部品として生きたまま配置し、ビーズ状に加工した細胞を型に入れて固めたり、糸状に並べて編み物をしたりと、立体を造形することを研究しているという。これらの研究は、将来的に人工臓器や実験動物の代替など、医療分野への応用が期待されているが、同展ではこの細胞を使った「ものづくり」に、これまで関わることの少なかったデザイナーたちが挑戦する。また、将来再生医療への応用が期待されるバイオエンジニアリング分野だが、細胞を点・線・面という規格に沿ったパーツに加工することで、三次元構造を作り出すことができるという。今回の展示では、その一つ一つの「点」として使用されるビーズ状に加工した細胞や、「線」として使用されるアルギン酸のファイバー、「面」として利用される「細胞折り紙」などが展示されるということだ。そのほか、同展では、パナソニック ヘルスケアと共同で制作している、山中俊治教授デザインのバイオメディカ機器「CO2 Incubator TypeY」と「Biological Safety Cabinet TypeY」が初公開される。なお、山中氏は、デザイナーとして腕時計から鉄道車両に至る幅広い工業製品をデザインする一方、技術者としてロボティクスや通信技術に関わる。大学では義足や感覚に訴えるロボットなど、人とものの新しい関係を研究している。さらに、アーティストの鈴木康広(東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室客員研究員・武蔵野美術大学空間演出デザイン学科准教授)による細胞や生体材料を使用した作品「細胞を生ける器」も展示されるということだ。また、関連企画として、福原志保(アーティスト)・山中俊治(東京大学教授)によるトークセッション「バイオアートとバイオデザイン」が2月17日18:00~19:30、池澤あやか(女優)・竹内昌治(東京大学教授)によるトークセッション「池澤あやかの研究体験― 竹内教授のバイオの授業」が2月19日18:00~19:30、鈴木康広(アーティスト)・竹内昌治(東京大学教授)・山中俊治(東京大学教授)によるトークセッション「細胞のかたち」が2月21日14:00~15:30に開催される。詳細は同展Webサイトにて。
2016年02月15日ヒト幹細胞培養液を導入東京都渋谷区の高級エステティックサロン「シャンテリー」の最先端エイジングケア「ヒト幹細胞培養液導入コース」が人気だ。ソウル大学で研究がおこなわれた「ヒト幹細胞培養液」を導入するもので、日本では唯一。世界的にも注目されるエイジングケアだ。定価は43,200円(税込み)だが、現在キャンペーン中につき、10,800円(税込み)となっている。肌再生医療けがや病気で失った体の機能や組織を元通りにするためにうまれた再生医療。この再生医療を美容分野に応用したところ、飛躍的に効果が出ている。ヒト幹細胞培養液は、成長ホルモンがピークの脂肪細胞を培養したもので、失われた細胞を修復したり再生させたりする働きをもっているため、肌の再生を促進する。「ヒト幹細胞培養液導入コース」は、この培養液を導入することによって、シミやほうれい線が薄くなったり、傷跡が小さくなったりする効果が期待できるものだ。シャンテリー「シャンテリー」は、創業53年の完全個室形式の高級エステティックサロン。ヒト幹細胞を日本に初めて導入させた。現在までの施術は1,000人以上となっており、しわやシミ、たるみ、ニキビ跡や、傷跡などに対しての効果が出ている。(画像はプレスリリースより)【参考】・日本初!ヒト幹細胞培養液を導入したフェイシャルエステが人気急増中! 最先端アンチエイジングを提供する広尾のエステサロン『シャンテリー』
2016年02月13日京都大学iPS細胞研究所(京大CiRA)は2月9日、ヒトのiPS細胞から免疫細胞の一種であるiNKT細胞を作製することに成功したと発表した。同成果は京大CiRAの喜多山秀一 研究員、同 金子新 准教授、愛知県がんセンター研究所のRong Zhang 研究員(当時、現・国立がん研究センター)、同 植村靖史 主任研究員(当時、現・国立がん研究センター)らの研究グループによるもので、2月9日(現地時間)に米国科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に公開された。iKNT細胞は免疫反応を誘導し、がんへの免疫反応を高める上で重要な役割を果たしている。がん患者の多くでは体内のiNKT細胞の数や機能が低下していることが知られており、体内のiNKT細胞の数を増やすことで免疫機能を高め、がん治療につなげられると考えられている。今回の研究では、iNKT細胞からiPS細胞を作製し、再びiNKT細胞(re-iNKT細胞)へ分化させることを目指した。その結果、元のiNKT細胞よりも元気で他の免疫細胞の機能を高めてがん細胞への攻撃を促すre-iNKT細胞を作製することに成功。さらに、re-iNKT細胞自身もがん細胞を直接攻撃することが観察された。これにより、iPS細胞への初期化を介して機能が改善した大量のre-iNKT細胞を作製できることが示されたほか、iNKT細胞はがんだけではなく感染症や自己免疫疾患など幅広い疾患に関連する免疫応答を制御していると考えられており、今後細胞治療への応用が期待される。
2016年02月10日横浜市立大学(横市大)は1月20日、細胞質のタンパク質合成を制限することにより細胞老化を抑制するメカニズムを発見したと発表した。同成果は、横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 博士後期課程3年 高氏裕貴氏、藤井道彦 准教授、鮎澤大 名誉教授らの研究グループによるもので、1月5日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。動物細胞においては、種々の老化ストレスにさらされると肥大化・扁平化をともないつつ細胞増殖を停止し、最終的に分裂能力を失う「細胞老化」と呼ばれる現象がある。近年、細胞老化は生物個体の老化の原因のひとつであることが明らかになりつつあり、たとえば、老化したマウスには老化した細胞が多く存在するが、老化細胞を選択的に除去することで、マウスの老化が遅くなることが報告されている。今回、同研究グループは、細胞老化の共通の特徴であるDNA複製の遅滞と細胞の肥大化・扁平化に着目し、「細胞老化の不均衡増殖モデル」を細胞老化の普遍的モデルとして提唱した。細胞はさまざまな障害を受けるとDNA複製を停止させるが、同モデルでは、この状態が長く続くと、タンパク質の過度な蓄積が起こり、細胞膨張と核膨張が起こる。次いで核膜とヘテロクロマチン複合体の崩壊が起こり、分裂能力の喪失や老化特異的遺伝子の発現が誘導される。同研究グループは、ヒト正常およびがん細胞を用いた解析から、細胞質タンパク質合成の制限が細胞の種類に関係なく不均衡増殖を解消し、細胞老化を抑制することを見出した。この制限はヒト正常細胞の分裂寿命を顕著に延長しただけではなく、細胞老化により分裂を停止した細胞の増殖を再開させることができたという。さらに、タンパク質合成の制限が個体の老化に及ぼす影響を、モデル生物である線虫C.elegansを用いて調べたところ、タンパク質合成の制限は、線虫の平均寿命および最大寿命を延長させ、個体レベルでの老化防止にも有効である可能性が示された。今後の課題は、細胞質タンパク質合成の制限により、ヒトなどの高等動物の老化防止を実現できるかどうかであり、そのためには細胞質タンパク質合成をターゲットとした老化抑制剤の探索や開発を進める必要があると同研究グループは説明している。
2016年01月21日国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)はこのほど、日本医療研究開発機構(AMED)および先端医療振興財団との共同研究により、再生医療用の移植細胞の製造中に混入または発生するがん化のリスクを持つ悪性形質転換細胞(がん細胞)を超高度に検出する「デジタル軟寒天コロニー形成試験法」を開発したと発表した。同成果は同研究所再生・細胞医療製品部の佐藤陽治 部長とAMEDリサーチ・レジデントの草川森士 博士を中心としたグループによるもので、2015年12月8日に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。再生医療に用いられる移植細胞の製造工程管理では、がん細胞が混入してしまった場合にそれを高感度で検知し、移植細胞の品質を確保する必要がある。がん細胞の特性である足場非依存性増殖を利用する従来の「軟寒天コロニー形成試験」は、正常細胞への混入を比較的短期間かつ簡便に評価することができるが、従来のアッセイ法におる検出感度は低く、正常細胞中に微量に混入したがん細胞から形成されるコロニーを検出することは困難だった。これに対し、同研究では画像解析によるコロニー検出に挑戦し、細胞の核、ミトコンドリアをそれぞれ青、赤に染める生細胞染色試薬を用いてコロニーを染色し、コロニーの形状、大きさ、蛍光輝度などを指標とすることで1個のコロニーを高精度に認識することが可能となった。また、画像解析のハイスループット化にも成功した。さらに、同技術を応用して、細胞試料をマルチウェルプレートに分割、播種して軟寒天培養を行い、各ウェル内での細胞コロニー形成を解析し、足場非依存的に増殖するがん細胞の混入を評価する「デジタル軟寒天コロニー形成試験」を考案。同試験法は大量の細胞からなる試料であっても、複数に分割したウェル毎にコロニー形成の有無を解析するため、高シグナル/ノイズ比が確保され、試料中に微量に存在するがん細胞を高感度に検出することが可能となる。同試験法を同グループが評価したところ、HeLa細胞相当のがん細胞が混入する細胞試料であれば0.00001%の感度で検出可能であることが示唆されたという。また、細胞試料を分画、播種するウェル数および培養細胞数を調節することで、検出感度を適宜向上させることが可能であることに加え、細胞数にかかわらず、高検出感度を保持する同試験法の適用が可能だと考えられている。同研究グループは今後、再生医療用の移植細胞の製造工程における品質評価のための標準的な試験系にすることを目指し、試験系の自動化などもふまえ、試験方法の最適化に向けた研究を進めていくとしている。
2016年01月18日慶應義塾大学(慶大)は1月18日、ヒトiPS細胞から効率的にオリゴデンドロサイト前駆細胞へと分化誘導する方法を開発し、マウス損傷脊髄の再髄鞘化に成功したと発表した。同成果は同大医学部生理学教室(岡野栄之 教授)と同整形外科学教室(中村雅也 教授)によるもので、2015年12月24日に米科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載された。オリゴデンドロサイトは中枢神経内に存在する細胞の1つで、細い神経の周囲を取り囲む髄鞘と呼ばれる脂質の層を形成し、神経の信号が伝わる速度を早める機能を持つ。脊髄損傷に対する神経幹細胞移植による機能回復メカニズムとして、移植細胞がオリゴデンドロサイトに分化して神経の再髄鞘化に寄与するという説が唱えられているが、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞は主にニューロンに分化し、オリゴデンドロサイトにはあまり分化には分化しなかった。今回の研究では、同研究グループが2014年に開発したヒトiPS細胞から効率的にオリゴデンドロサイト前駆細胞を多く含む神経幹細胞(hiPS-OPC-enriched NS/PCs)へと分化誘導する方法を用いて、マウス脊髄損傷に対しhiPS-OPC-enriched NS/PCsを移植し、その有効性を検証した。その結果、hiPS-OPC-enriched NS/PCsが多くの神経栄養因子を分泌していることを確認。移植後12週のマウス脊髄内で、移植細胞はニューロン、アストロサイトに加え、成熟オリゴデンドロサイトに分化していた。さらに従来のヒトiPS細胞由来神経幹細胞の移植では見られなかった所見として、移植細胞由来オリゴデンドロサイトが残存軸索を再髄鞘化していた。また、移植細胞由来ニューロンは、ホストマウスのニューロンとシナプスを形成していた。その後、hiPS-OPC-enriched NS/PCsを移植したマウスの後肢運動機能評価を行った結果、明らかな運動機能の改善が認められた。また、電気生理学的評価として、運動誘発電位を計測したところ、明らかな改善が認められたことから、移植細胞由来のニューロンやオリゴデンドロサイトが、神経回路の再構築や神経伝達速度の回復に寄与していることが示唆された。脊髄損傷に対しては、従来の細胞移植でも有意な運動機能の回復が認められていたが、今回の成果によってさらなる機能回復を望める可能性が示されたことになる。
2016年01月18日理化学研究所(理研)と熊本大学は1月18日、エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルスである「HIV-1」が細胞から細胞へと感染拡大する際の新たなメカニズムを解明したと発表した。同成果は、理化学研究所 統合生命医科学研究センター 粘膜システム研究グループの大野博司 グループディレクター、環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループの長田裕之 グループディレクターと熊本大学 エイズ学研究センター・国際先端医学研究拠点施設(鈴プロジェクト研究室)の鈴伸也 教授らの研究グループによるもので、1月15日付けの米科学誌「Journal of Immunology」に掲載された。免疫系細胞は、細胞膜が細長く伸びた細胞膜ナノチューブ(TNT:Tunneling NanoTube)を作り、離れた2つの細胞を物理的に連結して、細胞間で物質交換を素早く確実にやりとりする機能を持っているが、この性質を逆手に取り、エイズウイルスなどのウイルスやウイルスの病原タンパク質が細胞から細胞へと移動することで、感染を拡大させたり、免疫機能を抑制して病態を悪化させたりすることが知られている。HIV-1は、CD4という表面分子を持つTリンパ球(CD4+Tリンパ球)とマクロファージという2種類の免疫細胞に感染し、これらの免疫細胞の中で増殖。未感染のCD4+T細胞やマクロファージへと感染することで、免疫細胞の機能不全や減少を引き起こす。このようにHIV-1が感染拡大していく経路には、一度HIV-1が感染細胞の外に出て周囲の未感染細胞に感染する経路のほかに、TNTを介してHIV-1が感染細胞から未感染細胞に移る経路が知られていたが、そのメカニズムは明らかにされていなかった。今回の研究では、ヒト血液由来のマクロファージにHIV-1を感染させ、TNTの形成促進を観察した。この結果、ウイルスタンパク質であるNefを欠損した変異HIV-1を感染させるとTNTの形成促進は観察されなかった。一方、HIV-1をCD4+Tリンパ球に感染させても、このHIV-1によるTNTの形成促進は見られなかった。そこで同研究グループは、マクロファージには発現しているが、CD4+Tリンパ球には発現していないTNT形成因子「M-Sec」に着目。マクロファージ細胞株にNefを強制的に発現させるとTNTの形成促進が見られたが、M-Secの発現を抑制したマクロファージ細胞株では、Nefを強制的に発現させてもTNTの形成促進が見られなかったことから、NefによるTNTの形成にはM-Secが必要であることを明らかにした。同研究グループはさらに、理研の化合物バンクを用いて、6800の化合物の中から、M-SecによるTNT形成の抑制活性を指標として、TNT形成を可逆的に阻害する「NPD3064」という化合物を見いだした。この化合物を用いたTNT形成の抑制により、HIV-1の産生は約2分の1に減少したという。このメカニズムが解明されると、HIV-1の感染やそれによる病態形成の詳細がわかり、エイズの治療や発症予防に貢献すると考えられる。さらにTNTの形成阻害薬が、これまでの抗エイズ薬と異なる作用メカニズムにもとづく、新たなエイズの治療薬の開発につながる可能性があると同研究グループは説明している。
2016年01月18日名古屋大学(名大)と理化学研究所(理研)は1月15日、ヒトES細胞から下垂体ホルモン産生細胞を分化誘導することに成功したと発表した。同成果は同大大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科の須賀英隆 助教および、理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝 チームリーダー、大曽根親文 リサーチアソシエイト、同センター立体組織形成研究チームの永樂元次 チームリーダーらの研究グループによるもの。1月14日(米国東部時間)の英科学誌「Nature Communicaitons」に掲載された。下垂体はさまざまなホルモンを分泌する器官で、成人で1cm程度と小さいが、全身の恒常性を保つために大きな役割を果たしていることで知られる。下垂体が機能しなくなると血圧低下や電解質異常、基礎代謝の低下、不妊など、欠乏したホルモンに応じて重い症状が発生する。同研究グループは2011年にマウスのES細胞から下垂体組織を作ることに成功しており、今回の研究ではその時に用いられた培養技術を改良・発展させることでヒトES細胞から、下垂体のもととなる下垂体原基を試験管内で作ることに成功した。さらに、数週間に渡る長期培養方法を開発し、成熟した下垂体ホルモン産生細胞を誘導することができた。作製したホルモン産生細胞は、生体内の下垂体細胞と同様にホルモンを分泌し、下垂体の機能を失ったマウスに移植すると生存率が著しく向上するなど、治療効果も確認された。同成果は今後、下垂体機能不全に対する再生医療への応用が期待されるとともに、ヒトの下垂体発生のモデルとしての利用や、疾患特異的iPS細胞を用いた下垂体疾患モデルとしての応用も見込まれており、新規薬剤の開発にも役立つと考えられている。
2016年01月16日理化学研究所や科学技術振興機構は1月12日、がんや細胞内病原体に対する免疫に重要な「樹状細胞」の働きを、生体内で可視化するイメージング解析技術の開発に成功したと発表した。今回開発された技術を用いて、感染症やがんの種類に応じ、最適な樹状細胞を効率的に活性化するワクチンの設計・開発に役立つ可能性があるという。同研究は、理化学研究所 統合生命医科学研究センター 組織動態研究チームの岡田峰陽チームリーダーや和歌山県立医科大学 医学部 先端医学研究所 生体調節機構研究部の改正恒康教授らが共同で実施した。体内に侵入した病原体や接種されたワクチンは、免疫細胞の一種である樹状細胞によって認識される。その樹状細胞がリンパ球の一種である「T細胞」を活性化すると体を守る獲得免疫が働くが、樹状細胞には多くの種類があり、病原体やワクチンの種類に応じて異なった役割を果たす。ウイルスやある種の細菌は、体内のさまざまな細胞の中に寄生するが、このような細胞内病原体やがんに対する免疫には、「キラーT細胞」による攻撃が重要となる。がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃するキラーT細胞は、そのほとんどが「CD8陽性T細胞」と呼ばれる細胞が、樹状細胞に活性化されることで形成される。「CD8陽性T細胞」を活性化する能力の高い樹状細胞は2種類ある。1つはリンパ節やパイエル板、ひ臓などのリンパ組織に常在しており、もう1つは皮膚や腸、肺などさまざまな組織に存在し、そこからリンパ組織へと移動していく。それぞれの役割やその連携は、病原体やワクチンの種類や感染部位、接種方法などによって異なると考えられているものの、その詳細はわかっていなかった。研究グループは今回、2種類の樹状細胞だけが特定の波長の光を当てることで蛍光色が変化する光変換蛍光タンパク質KikGRを発現するマウスを作成。このマウスの体内に存在する2種類の樹状細胞は、もともとすべて緑色の蛍光を発する。このマウスの皮膚に青紫色の光を照射すると、皮膚にいる交差提示(一部の樹状細胞が細胞外の異物を取り込んで、その抗原を主要組織適合性複合体クラスI上に提示できること)能を持つ樹状細胞だけが、赤色の蛍光を発するようになったという。そして、赤色蛍光を発するようになった皮膚の樹状細胞が、時間とともにリンパ節へと移動してくる様子が観察できたとのこと。この成果により、これらの樹状細胞がリンパ節に移動してきた後の動きなどが判明。マウスにおいては、約3日間のうちにリンパ節内の一番深い部分まで移動する点、リンパ節内で約1週間生存する点などが明らかになったという。理研などは、キラーT細胞の分化に重要な2種類の樹状細胞を、生体内で区別することおよびイメージング解析をする技術の確立に成功したことは、今回が初としている。今回開発された技術を用い、さまざまな種類のワクチンや感染に対する免疫応答を解析することで、効果の強いワクチンが、どの種類の樹状細胞とCD8陽性T細胞の相互作用を最も強く誘導しているかを知ることが可能となる。理研などは「得られた知見を蓄積することにより、感染症の種類に応じて、最適の種類の樹状細胞をターゲットとする新しいワクチン設計・開発の道が開かれることが期待されます。こうした戦略は、感染症に対するワクチンだけでなく、さまざまな腫瘍に対するがん免疫応答を誘導するワクチンの設計・開発にも応用できると考えられます」としている。
2016年01月13日京都大学(京大)は1月6日、ヒト体細胞からiPS細胞へ再プログラム化される中間段階にあたる幹細胞株、ヒトiRS(intermediately Reprogrammed Stem)細胞を新たに樹立したと発表した。同成果は同大学 再生医科学研究所の多田高 准教授の研究グループによるもので、英科学誌「Development」の電子版で公開された。同研究グループが樹立に成功したヒトiRS細胞は、ヒト体細胞とiRS細胞の再プログラム化の中間段階にあり、培養条件を変えることでiPS細胞への再プログラム化を再開するほか、単一細胞からの増殖が可能で、ゲノム編集などの遺伝子操作技術の応用が容易であるなどの特性を持つ。研究ではさらに、ゲノム編集により、iPS細胞のマーカー遺伝子として知られるOCT4遺伝子の下流に蛍光照射によりグリーンに光るタンパク質を挿入することで、ヒトiRS細胞(OCT4発現オフ)がiPS細胞(OCT4発現オン)に変化する様子を生きた細胞で可視化する事に成功。また、OCT4の活性化はiPS細胞化に必要であるが十分ではない事も明らかにした。今回の研究成果によって、ゲノム編集を含む遺伝子改変されたiPS細胞の作製が簡易になり、遺伝性疾患の病因解明や創薬開発、iPS細胞の品質の安定化につながることが期待される。
2016年01月06日京都大学(京大)は12月25日、ヒトiPS細胞から気道上皮細胞を効率よく分化させる方法を確立したと発表した。同成果は、京都大学 医学研究科 三嶋理晃 教授、京都大学 医学部附属病院 呼吸器内科 後藤慎平 特定助教、大学院生 小西聡史氏らと、大阪大学生命機能研究科/医学系研究科 月田早智子 教授らの研究グループによるもので、12月24日付けの米科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載された。肺の気管を覆う気道上皮細胞は粘液を分泌し繊毛の運動によって流れを作り出すことによって、異物や病原体を除去するのに重要な役割を果たしている。今回の研究では、ヒトiPS細胞を段階的に分化させ、表面蛋白質「Carboxypeptidase M(CPM)」を用いて肺のもととなる細胞を単離し、サイトカインや化合物などを加えながらさまざまな条件で三次元培養を試みた。この結果、繊毛上皮細胞、クラブ細胞、基底細胞、粘液産生細胞、神経内分泌細胞といったさまざまな気道上皮細胞の成分を含む嚢胞構造を作る方法が開発された。また、さまざまな発生のプロセスで分化に重要とされるNotchシグナルを抑制すると、気道繊毛上皮細胞や神経内分泌細胞が効率よく誘導されることがわかった。ヒトiPS細胞から作られた気道繊毛上皮細胞は、体の中と同じように規則正しく振動し粘液を動かす機能を持つことも確認されている。今回の成果により、COPD、気管支喘息、気管支拡張症、嚢胞性線維症、原発性繊毛機能不全症などといった呼吸器疾患の解明や創薬の研究が大きく前進することが期待されると同研究グループは説明している。
2015年12月25日理化学研究所(理研)は12月18日、呼吸器学者の間で40年近く謎とされていた、神経内分泌細胞(NE細胞)が気管支の分岐点に規則正しく配置され、塊を形成するメカニズムを解明したと発表した。同成果は、同研究所 多細胞システム形成研究センター呼吸器形成研究チーム 森本充 チームリーダー、野口雅史 研究員、同研究所 生命システム研究センター 細胞デザインコア 合成生物学研究グループ 高速ゲノム変異マウス作製支援ユニット 隅山健太 ユニットリーダーらの研究グループによるもので、12月17日付けの米科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。NE細胞は気管支の上皮細胞の一種で、気管から細気管支までの上皮組織に広く観察される。NE細胞は吸気の酸素濃度のセンサーであるとともに、組織の損傷時には組織修復に働く幹細胞のための幹細胞ニッチになることが知られている。また、気管支の分岐点に数個集まって小型のクラスター(塊)を形成する。この特徴的なNE細胞の分布パターンは40年近く前に報告されて以来、吸気の酸素濃度の感知に役立っていると考えられてきたが、NE細胞が気管支の分岐点に規則正しく配置されクラスターを形成するメカニズムは謎となっていた。また、NE細胞は肺がんの1種である小細胞肺がんの起源になることが知られており、同細胞種の制御メカニズムの解明が求められている。同研究グループはまず、肺の上皮細胞およびNE細胞が蛍光で光るマウス系統を作製。このマウス系統の胎児から光る肺を採取し、組織透明化試薬で透明化した後、共焦点顕微鏡と2光子励起顕微鏡で高解像度かつ広範に撮影した。この結果、気管支の立体構造を保ったまま、ひとつの肺葉のすべての上皮細胞とそのなかに存在するNE細胞の分布の観察に成功した。さらに、取得した3次元画像を用いてNE細胞の正確な位置とクラスターの大きさを定量的に解析し、気管支の分岐構造とNE細胞クラスターとの関係を幾何学的に理解することに成功した。画像解析の結果、NE細胞クラスターは気管支の分岐構造においてほぼ同じ位置に形成されること、および発生中に少しずつ大きくなることがわかった。また、より高解像度の画像を取得したところ、分岐点と関係なく単独で出現する「単独NE細胞」を多数発見したという。単独NE細胞は、Notch-Hes1シグナルによって出現数が制限されていることも明らかになった。さらに同研究グループは、NE細胞の分化とクラスター化をリアルタイムで撮影する技術を開発し、NE細胞の挙動の経時観察に成功。その結果、NE細胞は分化するときは単独NE細胞として出現し、その後、自ら歩いて分岐点に向かって移動し、クラスターを形成することがわかった。同細胞を起源とする小細胞肺がん細胞は転移能が高いことが知られているため、今後はNE細胞の移動を制御している因子の同定が課題となる。
2015年12月18日フィリップスは8日、IPS-ADSパネルを採用する31.5型ワイド液晶ディスプレイ「BDM3201FC/11」を発表した。12月下旬から発売し、価格はオープン、店頭予想価格は36,800円(税込)前後。1,920×1,080ドット(フルHD)に対応した31.5型ワイド液晶ディスプレイ。独自技術「SmartContrast」では、色調整やバックライト強度を自動制御し、コントラストを動的に調整しながら見やすく鮮やかな画面を出力する。加えて、画面に表示されるコンテンツを分析し、コントラスト、彩度、鮮明度を調整する「SmartImage」も搭載。用途に合わせて、オフィス、写真、映画、ゲーム、エコノミーなどのモードを選択することで、表示を動的に最適化する。主な仕様は、解像度が1,920×1,080ドット(フルHD)、液晶パネルがIPS-ADSの半光沢(ハーフグレア)、視野角が上下左右とも178度、輝度が300cd/平方メートル、コントラスト比が1,200:1(スマートコントラスト比が20,000,000:1)、応答速度が6.5ms(スマートレスポンス時:3ms)。映像入力インタフェースはDVI-D×1、D-sub×1。VESAマウント100mmに対応し、本体サイズはW726×D180×H495mm、重量は6kg。
2015年12月09日マウスコンピューターは7日、iiyamaブランドの液晶ディスプレイとして、31.5型AH-IPSパネルを採用したフルHD(1,920×1,080ドット)解像度の液晶ディスプレイ「ProLite X3291HS」を発売した。価格はオープンで、楽天市場での直販価格は39,800円(税込)。画面の表面処理には、グレア(光沢)とノングレア(非光沢)の中間であるハーフグレアを採用。ブルーライト低減機能「Blue Light Reducer」は3パターンの選択肢を用意し、LEDバックライトの光量を調整することで画面のちらつきを減らす「フリッカーフリーLEDバックライト技術」を搭載した。OSDでの画質調整としては、画面の暗い部分の色合いを10段階で調整する「黒レベル調整」や、ガンマ補正といった項目を備える。フルHD未満の解像度を表示するときのスケーリング機能では、ドットバイドット表示とアスペクト比固定拡大の表示が可能。そのほか主な仕様は、輝度が250cd/平方メートル、コントラスト比が1000:1(ACR時12,000,000:1)、視野角が上下左右とも178度、応答速度(GtoG)が5msとなる。映像入力インタフェースは、HDCP対応DVI-D、HDMI、D-Subの3系統。スタンド機能は下3度/上21度のチルトのみで、対応VESAマウントは100mm、3W+3Wのスピーカーを内蔵する。消費電力は通常モードが36W(最大55W)、パワーマネジメント時が0.5Wで、3段階のエコモードを選択可能。通常モードと比較した場合の消費電力は、エコモード1で約15%削減、エコモード2で約25%削減、エコモード3で約45%削減となる。本体サイズはW737.5×D240×H523.5mm、重量は約7kg。
2015年12月07日東京大学は12月2日、細胞の酸素代謝を、細胞を傷つけずに計測できる柔らかい光学式シート型センサを開発したと発表した。同成果は同大大学院工学系研究科の一木隆範 准教授らとニコンの共同研究グループによるもので、12月1日に米科学誌「PLOS ONE」に掲載された。iPS細胞などの細胞技術を産業化するには、研究に使う細胞を同じ品質で供給する方法や、細胞の状態を傷つけない「非侵襲・非破壊」で評価する技術が必要となる。細胞の品質を評価する指標の1つとして、細胞の呼吸による酸素消費量があるが、現在市販されている酸素センサでは、培養液中の酸素濃度を計ることはできても、個々の細胞の酸素消費量を計測することはできない。また、従来の方法では、細胞1つあたりの代謝活性を測定するには、細胞を培養シャーレから剥がして専用の装置の中に細胞を移す必要があり、細胞を傷つけてしまうという課題があった。同研究グループが開発したシート型センサは柔らかな透明ポリマーシートの表面に、マイクロチャンバーと呼ばれる直径90μmの小さなへこみが多数形成されており、その中に酸素濃度によって発光応答が変わるリン光発光性金属錯体のセンサを備えている。研究では、同シートを培養細胞や生体組織に載せ、自動光学計測システムと組み合わせて使うことで1分間に100カ所の自動計測を行い、がん細胞や脳組織中の神経細胞の酸素代謝を計測することに成功した。同センサは個々の細胞や細胞コロニー単位で代謝活性を計れるため、薬効の評価や治療に使用する細胞の品質管理に役立つと考えられているほか、これまで不可能だった生体組織の細かい部位ごとに挙動の変化を調べることができるため、医薬品の開発における新しいスクリーニングに道を拓く可能性があると考えられている。
2015年12月03日京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は12月1日、本来は骨が出来てはいけない組織の中に骨ができてしまう進行性骨化性線維異形成症(FOP)の患者から作製したiPS細胞を用いた研究によってFOPの新たなメカニズムを発見したと発表した。同成果は同研究所の日野 恭介 共同研究員、池谷真 准教授、戸口田淳也 教授らの研究グループによるもので、11月30日の「米国科学アカデミー紀要」で公開された。FOPは筋肉や腱など通常は骨が形成されない組織の中に異所性骨と呼ばれる骨が徐々にできる疾患で、骨形成を司る増殖因子であるBMPの受容体の1つであるACVR1遺伝子に突然変異が生じて変異型ACVR1へと変化し、BMPシグナルを過剰に伝えることにより筋肉などに軟骨が形成され、それが骨になると考えられている。200万人に1人程度の割合で患者がいるとされる希少難病の1つで、発症に至る詳しいメカニズムはわかっていなかった。今回の研究では、FOP患者から作製したiPS細胞(FOS-iPS細胞)を用いることで、通常は別のシグナルを伝達するアクチビンAというタンパク質が疾患細胞ではBMPシグナルを異常に伝達し、異所性骨形成を促進することを発見。また、FOS-iPS細胞から作製した間葉系間質細胞をアクチビンA発現細胞と共に免疫不全マウスに移植することで、患者由来細胞を用いた異所性骨形成モデルの作製に成功した。同研究グループは、今回の結果についてアクチビンA阻害剤がFOP治療薬の候補となる可能性を示すものであるとともに、異所性骨形成モデルを用いることでFOPに対する薬剤の効果を生体で検証することが可能となり、治療薬のスクリーニングに役立つことが期待されるとしている。
2015年12月01日京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は11月24日、細胞シートを簡便に多数積層化する手法を確立したと発表した。同成果は同大医学部附属病院心臓血管外科(当時)の松尾武彦氏(現同大学医学研究科 客員研究員、神戸市立医療センター中央市民病院医長)、CiRAの山下潤 教授、同大学医学部附属病院心臓血管外科(当時)の坂田隆造 元教授(現神戸市立医療センター中央市民病院院長)、同大学再生医科学研究所の田畑泰彦 教授らの研究グループによるもの。11月20日に英科学誌「Scientific Reports」で公開された。研究では、マウスES細胞から作製した心筋・血管などを含む心臓組織シートをゼラチンハイドロゲル粒子を挿み込みながら15枚積層化し、厚さ約1mmにすることに成功。また、ラット心筋梗塞モデルに心臓組織シートを5枚積層化したものを移植したところ、移植後12週間にわたり血管形成を伴った厚い心臓組織として生着すると同時に梗塞部の心機能を回復させていることが認められたという。今回の研究で確立された手法はほかの臓器や組織にも応用可能で、3次元の高次組織形成を容易にするものとなる。今後は、ヒトiPS細胞からも同様の積層化シートを形成すること、ブタなどヒトに近い動物モデルを含め有効性や安全性を確認することなどを行っていく。また、同研究グループは将来的には積層化したヒト心臓組織シートを製品化し、重症心不全治療に広く用いることを目指すとしている。
2015年11月25日慶應義塾大学は11月6日、ES/iPS細胞から脳・脊髄にある任意の神経細胞を作製することができる技術を開発したと発表した。同成果は同大学医学部生理学教室の岡野栄之 教授、今泉研人氏、順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センターの赤松和土 特任教授らの共同研究グループによるもので、11月5日に米科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載されたアルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経疾患では、脳・脊髄の特定の部位が障害されることが知られている。ヒトES/iPS細胞を用いてこれらの疾患を研究するためには、病変となる部位の神経細胞を選択的に作製する技術が必要となる。しかし、ヒトES/iPS細胞から任意の部位を自在に作り分ける手法は開発されておらず、これまで報告されている選択的に神経細胞を作製する方法はそれぞれが全く異なる手法を用いているため、異なる部位での症状を比較する研究は難しかった。今回の研究では、神経の発生過程における神経管の細分化を決定するシグナルを調整する薬剤の濃度を変化させることで、共通の作製法を用いて前脳から脊髄に至るあらゆる脳領域を作り分けることに成功。さらに、同技術を用いてアルツハイマー病とALSにおいて脳・脊髄の特定の部位の神経細胞で生じる症状を、患者iPS細胞から作製した神経細胞で再現することができたという。同技術により、特定の脳領域で起きる神経疾患の症状を正確に試験管内で再現することが可能になるほか、脳の複数の領域にまたがる神経難病では、iPS細胞を用いた研究の精度が向上し、新しい診断・治療方法の開発につながることが期待される。
2015年11月06日東北大学は10月5日、ヒト皮膚由来多能性幹細胞(Muse 細胞)を用いて脳梗塞動物モデルの失われた神経機能を回復することに成功したと発表した。同成果は東北大学大学院医学系研究科の出澤真理 教授と冨永悌二 教授らのグループによるもので、9月21日に米学術誌「Stem Cells」に掲載された。Muse細胞は骨髄・皮膚などに存在する腫瘍性を持たない多能性幹細胞で、肝細胞、筋肉、神経、グリア細胞、皮膚色素細胞、表皮、血管などへの分化が報告されている。同研究では、脳梗塞ラットにMuse細胞を移植した結果、梗塞部位に生着して自発的に神経細胞に分化し、大脳皮質から脊髄までの運動・知覚回路網を再構築した。また、脳梗塞で失われた運動・知覚機能の回復は約3カ月後も維持され、腫瘍形成は見られなかった。また、移植前にMuse細胞を神経に分化誘導する必要がなかったことから、脳梗塞に対して皮膚や骨髄などからMuse細胞を採取し移植することによって機能を回復する治療が実現する可能性があるという。今後、比較的小さな脳梗塞が単純構造の部位で生じ、かつ高度の症状を示すタイプの脳梗塞である「深部白質梗塞」に対してMuse細胞自家移植による「深部白質梗塞治療」に対してMuse細胞を用いた治療の開発を進め、3年以内に前臨床試験を終了し、臨床応用に移行することを目指すとしている。
2015年10月06日