最近はゴミの分別回収が進んでいます。ルールに従わない場合、自治体の依頼を受けた人間がゴミ袋を開封したうえ個人情報をチェックし、特定できた場合注意を促したうえ、罰金を課す自治体もあるほどです。そのようなケースは条例に基づいているため基本的には適法と考えられています。しかし、なかにはゴミ出しにうるさい人間が勝手にゴミ袋を開け特定し、「ちゃんと分別しなさいよ!」と電話をかけるなどして抗議してくることがあります。明らかにプライバシーを侵害しているように思えるこの行為。法律違反ではないのですか?近隣トラブルに精通したピープルズ法律事務所の森川文人弁護士に見解をお伺いしました。 Q.「ゴミの出し方がなっていない」という理由で隣人が勝手にゴミを開け、個人を特定しクレームをつける行為は違法?*画像はイメージです:ケース・バイ・ケースです。適法な場合もあります。「例えば、その人の家の玄関前にゴミが置かれていたとか、頻繁に庭にゴミが投げ込まれているとかなど、その第三者に対する違法行為の可能性がある場合、違法行為者を特定するためにゴミを開披することは許されるのではないかと思います。それ以外の場合で、単に主観的に不当な“ゴミの出し方”に対し、第三者がゴミを開披して個人を特定することはプライバシー権の侵害となりうるとは思います。もっとも、まさに“ゴミ”であり、所有権を放棄した動産類につき第三者が扱うことの違法性を指摘するには、さらに、そこに至った状況についての詳細がわからなければ一概にはいえません」(森川弁護士) ゴミを私有地に置かれるなど、違法行為を受けている人がその人間を特定するためであれば、適法となることもあるようです。しかし、主観的な理由で開ける行為は違法となる可能性が高くなります。また、自治体の「ゴミ開封行為」については議論が分かれており、「憲法違反ではないか」という指摘もあるようです。いずれにしてもゴミ問題は近隣トラブルに発展することが多く、様々な状況が考えられるため、法的判断も「ケース・バイ・ケース」で変わってきます。勝手にゴミを開けられるなどの行為に悩んでいる場合は、近隣トラブルに詳しい弁護士に相談してアドバイスをもらうのがベストかもしれませんね。 *取材協力弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年02月10日滋賀県長浜署の警察官が、宴席の余興としてプロレス技をかけようということになり、スカート姿の女性警官にロメロ・スペシャル(つり天井固め)をかけたことが問題になっています。経緯は不明ですが、やはり男性が女性にプロレス技をかけ、その様を大勢で楽しむという行為は異常と言わざるを得ません。警察官ということをもう少し自覚してほしいものです。このようなケースは稀であると思われますが、宴会で何らかの宴会芸を強要されることは多々あるかと思います。なかには苦痛を感じ、いっその事強要する人間を「訴えてやりたい」と考えている人も多いのではないでしょうか?宴会芸をしつこく強要する人間に対し法的請求を行うことはできるのか?弁護士法人プラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士に見解をお伺いしました。 Q.宴会芸の強要に法的請求を行うことはできる?*画像はイメージです:ケース・バイ・ケースですが、請求ができることもあります。「本ケースでは場合を分けて考える必要があります。まず「宴会芸」の強要が上司の個人的行為として行われた場合。同宴会が会社の行事としてではなく、単に有志懇親会で任意参加あるような場合がこれに該当します。この場合は、当該強要行為が社会通念上相当な範囲を超えた態様で行われた場合には、不法行為(民法709条)に基づき損害賠償請求を行うことは理論的には可能です。ただ、いかなる場合に“社会通念上相当な範囲を超えた”と言えるかは明確な基準はなく、あくまでケース・バイ・ケースの判断となると考えます。例えば、上司が暴行又は脅迫行為によって当該強要行為を行ったような場合(行為態様が重大)や当該強要行為が危険行為の強要でこれにより負傷したという場合(結果が重大)は、損害賠償請求は可能でしょう。そうでない場合は特段の事情がない限り基本的には難しいと思います(“特段の事情”としては、過去長期間にわたり同様の行為が反復継続されるなど著しい執拗性があり、これにより被害者が相当の精神的苦痛を被っていると評価される場合が考えられます)。なお、この場合は、上司の行為はあくまで個人的行為ですので、会社に対する請求はできません。次に“宴会芸”の強要が業務として行われた場合です。同宴会が会社の行事として行われ、参加も事実上強制である場合がこれに該当します。この場合、上司の強要が任意での実施を勧奨するものではなく、指示・命令として行われた場合は会合の性質上、業務命令と評価することが可能であり、この場合は(ⅰ)業務との関連性、(ⅱ)業務上の必要性、(ⅲ)態様の相当性という観点から、業務命令として適正な範囲を超える場合は、不法行為(所謂パワーハラスメント行為)として違法性を帯びることになります。そして、このような違法性を帯びる範囲は、上記個人的行為の場合よりも広く捉えられるのが通常と考えます(業務命令として適正か否かという観点での判断となるため)。また、当該強要行為が業務的に行われているという観点からすると、これが不法行為(パワーハラスメント)に該当する場合は、会社に対しても職場環境配慮義務違反(労働契約法4条)又は使用者責任(民法715条)に基づき、法的請求は可能です。なお、いずれのケースも特段の事情がない限り、精神的苦痛のみの訴え提起であれば最終的に認容されても慰謝料額は10万円がせいぜいではないかと思いますので、訴えるメリットはあまりないかもしれません」(梅澤弁護士) ケース・バイ・ケースですが、慰謝料など法的請求することは可能であるようです。とくに会社が指示・命令として強制している場合は、パワーハラスメントに該当する可能性が極めて高いのとのこと。ただし受け取ることのできる金額は少額のようなので、問題提起や悪事の告発などを目的する場合のみに訴えたほうがいいかもしれません。 *取材協力弁護士:梅澤康二(弁護士法人プラム綜合法律事務所。東京都出身。2008年に弁護士登録。労働事件、労使トラブル、組合対応、規定作成・整備などのほか各種セミナー、労務問題のリスク分析と検討など労務全般に対応。紛争等の対応では、訴訟・労働審判・民事調停などの法的手続きおよびクレーム、協議、交渉などの非法的手続きも手がける。M&A取引、各種契約書の作成・レビュー、企業法務全般の相談など幅広く活躍。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*プラナ / PIXTA(ピクスタ)
2017年02月08日Amazonや楽天など、実際に店舗には出向かなくても買い物ができるため、便利になりました。大変高い利便性から、ネットでショッピングする方も多いかと思いますが、ネット上では、実際に遭ったトラブルがまとめられていました。あくまで噂の範疇なので、実際にこういったトラブルに遭われたかどうかは定かではありませんが、まとめられていた事例について法的な観点から解説してみたいと思います。*画像はイメージです:■そもそも宅配業はどういった規定があるのか宅配業については、商法で規定があります。ちなみに、商法では、宅配業者のことを「運送人」、宅配業者に荷物の配送を依頼した人のことを「荷送人」、配送先の人のことを「荷受人」という言葉を使っています。商法では、運送人は、運送品の受取り、引渡し、保管及び運送に関して、注意を怠らなかったことを証明できなければ、運送品の滅失、毀損または延着につき、損害賠償の責任を免れることができないとされています(商法577条)。まぁ、債務不履行責任として、当然のことです。特則については、高価品について、運送を委託するにあたり、その旨を告知しないと、損害賠償請求ができないということになっています(商法578条)。 では、以下に個別で見ていくことにしましょう。 ■勝手に荷物を置いていく本来、受取人の受取りのサインをもらうというのは、ちゃんと届けましたという宅配業者側のリスクを回避するためのものであるにもかかわらず、それをしないというのは、もし荷物に何かあった時(壊れた、盗まれた等)には、無条件で責任を負うということになってきます。また、雨が振っていた場合に濡れて荷物が使い物にならなくなった、犬小屋に荷物を置いていった場合に犬が噛み砕いて壊したなどの場合にも、受取人は、宅配業者に対して損害賠償請求ができることになります。 ■中身を聞く中身を聞く権利は、宅配業者には荷受けの場合以外にはありません。荷受けの場合でも、具体的な内容までは聞く権利はなく(プライバシーの問題がありますね)、一般的なジャンルまでということになります。興味本位で中身を聞いたからといって、それが違法行為ということにはなりませんが、受取人の側では答える必要はありませんので、きっぱりと拒否してください。しつこく聞いてくるようであれば、プライバシー侵害として慰謝料の対象になることもありうるかと思います。 ■冷凍便が常温になっていた形跡がある運送業者として、通常の注意義務をもってすれば、冷凍便を常温で運送することはあり得ないことになります。したがって、受取人は常温になって溶けてしまったアイスクリームの弁償を求めることができます。 ■他人に荷物を届ける他人に荷物を届けるということも、運送業者として通常の注意義務をもってすればあり得ないことです。配達するときに、「◯◯さんですよね?」と必ず聞くのが普通ですね。他人に荷物を届けることによって、紛失したということになれば、当然損害賠償請求の対象になります。 *著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所代表。手品、フルート演奏、手相鑑定、カメラ等と多趣味。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする)【参考】*Yomerumo NEWS:【最悪】これはひどい! 宅配業界の信じられない噂×12選【画像】イメージです*Satoshi KOHNO / PIXTA(ピクスタ)
2017年02月07日1月3日に行われた箱根駅伝で、神奈川大学の走者が東京千代田区の交差点付近を走行していたところ、交通整理にあたっていた警察官が車を止めずに通行させ、あわや事故になる事案が発生。ギリギリで走者がかわしたため大事には至らなかったものの、警察官や暴走車への批判、そして長時間に渡り道路を封鎖する駅伝やマラソンについてもその必要性を問う声があがりました。警察は今後交通整理員の増員を検討しているようですが、不信感を持っている人もいるようです。*画像はイメージです:■事故が発生した場合責任の所在は?最近は健康ブームの影響で、走ることを趣味にしている人が増えています。市民マラソンに参加し、1つでも上の順位を目指し練習にうちこんでいるランナーも多いでしょう。とくに2月には東京マラソンもあり、出場する市民ランナーの皆さんは多少不安を感じているかもしれません。快調に走っているときにいきなり車が突っ込んで事故になった。仮にこのような事態が発生してしまった場合、気になってくるのは、「責任の所在」です。今回の箱根駅伝では交通整理を担当していた警察官の不手際が不祥事発生の原因と言われていますが、警察の責任はどのようなものになるのでしょうか?また、主催者や実際に事故を起こした自動車運転手への処分も気になります。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 ■運転者の責任は免れない「行動を運転しているときには、信号機に従わなければいけないのは当然ですが、マラソン大会の際には、警察官が交通整理をしていることも多いと思います。それにもかかわらず事故が起きてしまう可能性は否定できず、最近で言えば箱根駅伝が記憶に新しいところですね。まずはそのような場合について触れますが、警察官は、信号機と異なる手信号等をすることができ、運転者に対して必要な指示等をすることができ、運転者はこれに従わなければならないとされています(道路交通法6条及び7条)。これに従わなかった場合、一般の交通事故と同様に、自動車の運転者は、道路交通法70条の“安全運転義務”に違反(前方不注意)したとして、違反点数を加算されることになりますし、警察官の交通整理に違反して突っ込んだということであれば、道路交通法違反としての懲役刑ないし罰金のみならず、自動車運転過失致傷罪、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。また、警察官の交通整理がなく、自動車の運転者側の信号が青であったとしても、前方注意義務が免責されるわけではありません。個別具体的な状況に応じて、前方不注意があったと言える場合には、運転者の責任は免れないことになると思います」(大達弁護士) ■警察の責任はどうなる?「警察に関しては、交通整理を職務で行っているため、職務上の義務、具体的には、“マラソン大会で交通事故が生じないように適正な交通整理をする義務”が存在し、それに反した過失があった結果として交通事故が生じたといえる場合には、その警察を所管する地方公共団体は、損害賠償責任を負う可能性があります(国家賠償法1条1項)」(大達弁護士) ■主催者の責任は?最後に主催者の責任はどうでしょうか?「次に、走路、周辺道路の交通量などから、マラソン大会をするには危険であり不適当な場合や、マラソン大会の開催について周知されず、自動車の運転者が、マラソン大会が開催されていることを知るのが困難であった場合など、マラソン大会の選手に危険が及ぶ可能性が高いことを考慮に入れず、大会が開催されていたといえる場合には、マラソン大会の主催者も民事上(不法行為)あるいは刑事上(業務上過失致傷罪)の責任を負う可能性があります。また、マラソン大会の主催者は、安全に大会を運営する義務、“いいかえれば参加者が交通事故に遭うことのないように配慮する義務”を負っているにもかかわらず、その義務を怠ったとして、マラソン大会に参加することの契約に付随する安全配慮義務の違反するものとして、民法上の債務不履行を問われ、損害賠償責任を負う可能性もあります」(大達弁護士) 大規模なマラソン大会には管理する主催者、交通整理を担当する警察に管理監督それぞれ責任があり、道路を走る自動車の運転者にはそれにしたがう義務があるようです。今後東京マラソンなど大規模な大会もありますので、主催者・警察・運転手・参加者それぞれが注意をする必要がありますね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Dachs / PIXTA(ピクスタ)
2017年02月06日気が付けばもうすぐ2月に入り、いよいよ受験シーズンも本格的にやってきますね。最後の追い込みとばかりに、勉強に勤しんでいる学生も多いことでしょう。気合を入れて勉強し、体調も完璧で試験に臨む。そんなとき意外な落とし穴になるのが、公共交通機関の遅延です。今年のセンター試験も雪となり、電車などが遅れて開始時刻を遅らせるケースがありましたが、人身事故による電車運転見合わせや事故渋滞によるバスの遅れの場合、同様の措置をとってくれるとは限りません。公共交通機関の見合わせや大幅遅延で試験が受けられず不合格となった場合、鉄道会社やバス会社に損害賠償を請求したくなります。そのようなことは可能なのでしょうか?星野法律事務所の星野宏明弁護士に伺いました。 Q.公共交通機関の遅延等で試験を受けられなかった場合、鉄道やバス会社に損害賠償を請求できる?*画像はイメージです:残念ながらできません。鉄道会社やバス会社と顧客は旅客運送契約を結んでいますが、そのなかに「時間通りに顧客を運ぶ」という契約はありません。あくまでも運賃を支払った客を目的地まで安全に運ぶことを約束しており、遅延による損害については責任を負わないと規定をされている会社がほとんどです。また、試験を受けて合格するとは限りませんから、「試験を受けたら絶対に合格していたのに遅延で受験すらできなかった」と言っても、その主張は認められません。やはり大事な試験の前日は天気予報を確認したうえで早目に就寝し、時間に余裕を持った行動を取るしかありません。 *記事監修弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*BASICO / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月31日昨年12月、愛知県の名鉄名古屋本線国府宮~名鉄名古屋駅間の電車内で女性の髪が切られる事件が発生。まもなく、大学院生の男が現行犯逮捕されました。通勤時間帯の混雑した車内で発生しており、被害に遭った女性は下車するまで全く気が付かなかったそうです。同区間では3年前から同様の事件が頻発しており、余罪は30件に上るとも言われています。髪は女性の命というだけに、切られたほうはたまったものではありません。このような場合、どのような罪になるのでしょうか? Q,他人の髪の毛を勝手に切ったらどんな罪になる?*画像はイメージです:傷害罪・暴行罪になる可能性があります他人の髪の毛を同意なく勝手に切り落とすということは、他人に対し危害を加える行為になります。したがって、刑法204条の傷害罪もしくは208条の暴行罪に該当する可能性があります。また、民事でも損害賠償請求を行えば、しかるべき金額を相手に支払わせることができる可能性があります。髪というと聞くと軽く感じる人もいるかもしれませんが、その代償は大きなものになります。当たり前ですが美容室のように髪を切ることに一度同意したにも関わらず、後になってスタイルが気に入らないなどの理由で「勝手切られた」と主張しても、罪に問うことはできません。髪を同意なく切るのは列記とした犯罪行為。よく覚えておいてください。 *記事監修弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*tsukat / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月29日救急車に道を譲ったところ、後続車両が救急車の前に割り込むように追い越しをしていき、あわや救急車と接触するかのような場面を映したドライブレコーダーの映像がTwitterに投稿されていたようです。後続車両の運転手がサイレンを鳴らしている救急車の存在に気づいていたのかいないのかはわかりませんが、客観的に危険な運転であることに間違いありません。そこで、今回は、緊急走行中の救急車に道を譲らなかったり、走行を妨害したりしたときは、どのような処分が待っているのかについて解説します。*画像はイメージです:■救急車に道を譲らないと行政処分等の対象になる自動車教習所でも習うことですし、常識的な結論ですが、救急車やパトカー等の緊急走行車両に道を譲らないときは道交法40条、120条1項2号により、5万円以下の罰金が科されます。また、行政処分としても違反点数1点、反則金6,000円(普通車の場合)となります。 なお、2車線以上の道路において、右側車線を走行中に後ろから緊急車両が来た場合でも、道路の左側に寄るのが正解です(道交法40条1項、2項)。 ■道を譲らないことによって搬送中の患者が亡くなったらどうなる?道を譲らなかった運転手がいたことによって、救急車の到着時間が遅れ、搬送中の患者が亡くなったり後遺障害が残ったりした場合、運転手に民事上ないし刑事上の責任を問えるのか?という疑問が生じるかもしれません。この問題は民法や刑法の教科書事例のようなものですが、因果関係や故意・過失があれば(そして実務上はこれらが立証できたとしたら)、運転手は民事上ないし刑事上の責任を負うことになります。ただし、実際には、たとえば到着時間が2分遅れたとして、2分早く病院に到着さえしていれば適切な治療を受けられて患者が生存していた(あるいは後遺障害が残らなかった)はずだという因果関係の立証は非常に困難です。緊急車両妨害のケースに限らず、自動車にドライブレコーダーを付けておくことにより加害者となった場合も被害者となった場合も身を助けたり裁判での立証に役立ったりすることがありますので、まだドライブレコーダーを付けていない方は設置を検討してみるとよいでしょう。 *著者:弁護士 木川雅博 (企業法務(会社運営上生じる諸問題)、売買代金・貸金請求、損害賠償・慰謝料請求、不動産を巡る法律問題、子どもの事故、離婚・男女間のトラブル、相続問題,破産・民事再生・債務整理、労働問題など、法人・個人を問わず様々な案件を扱っています。趣味は料理とランニング。東京弁護士会。星野法律事務所)【参考】*grape:後ろから救急車のサイレンが!しかし後続車が危険な運転【画像】イメージです*kou / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月28日今月11日、郵便物222通を配達しないで海に投げ捨てた容疑で広島県警は30歳のアルバイトの男性を逮捕するというニュースがありました。男性は勤務時間内に配達が出来なかったと供述しているようですが、郵便物を海に投げ捨てるといった行為はどのような罪に問われるのでしょうか。また、本件では、222通の郵便物を1つの袋にまとめていたため、日本郵便は無事に全て回収したようですが、回収できなかった場合はどうなるのかといった点について、解説していきたいと思います。 *画像はイメージです:■海に郵便物を捨てたことによる違法性は?郵便法によれば、郵便配達員が、わざと配達しなかったり、遅延させた場合は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同法79条)。海に投げ捨てた郵便物が、壊れたり、なくなった時は、さらに刑法261条の器物損壊罪となり、3年以下の懲役に処せられる可能性があります。本件では無事に回収され、再配達されているようなので、郵便法違反の罪だけになると思います。 ■郵便物を回収できなかった場合は損害額をどう算出するのかまず、下記の郵便物は、損害賠償の対象となりません。簡単に言えば、普通の郵便物は、郵便事故があって損害が発生しても泣き寝入りするしかないと言うことです。 1)郵便物(手紙)で書留または代金引換としないもの2)郵便物(はがき)で書留としないもの3)レターパック4)ゆうメールで書留または代金引換としないもの5)ゆうパケット 大切なものを郵送するときは必ず書留郵便にしましょう。書留郵便にした場合、差し出す時に申し出た金額が最高額となります。例えば、10万円を現金書留にした場合、それが紛失すれば10万円を限度に賠償されます。金額を申し出ないと、10万円が限度額となります。このように郵便事業者の責任が制限されているのは、低廉な価格で郵便事業が出来るようにするための政策です。高額な賠償責任を負わせると、今のような低価格で全国一律に配達できる郵便事業は成り立ちません。 *著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)【画像】イメージです*Nature / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月25日公務員が国民・住民に対して損害を与えたとき、その公務員は原則として責任を負いません。なぜなら、国家賠償法という法律によって、国や公共団体が責任を負うことになっている(国家賠償法1条1項)からです。ですが例外もあり、公務員個人がわざと又は甚だしい不注意(法的に「重過失」といいます)であった場合は、国又は公共団体は公務員個人に対して国民・住民に支払った分のお金の支払いを求める(法的に「求償」といいます)ことができます(国家賠償法1条2項)。しかし、従来裁判所は、重過失による求償権をあまり認めてきませんでした。「重過失」を安易に認定すると公務員の活動を必要以上に委縮させてしまうのがその理由でした。ところが、平成28年12月に、地方公共団体の公務員に「重過失」を認め、公務員個人に対する求償権を認める裁判所の判断が立て続けに出されました。そこで、今回は、これらの裁判所の判断を紹介します。*画像はイメージです:.東京都国立市が元市長に対して求償請求をした事例(最高裁平成28年12月13日)建築基準法に違反しない建築物の建築・販売をしようとした不動産デベロッパーに対し景観利益を重視する国立市の当時の市長が行った妨害行為が、裁判所によって国家賠償法1条1項の「違法」であると判断されたため、国立市は平成20年に不動産デベロッパーに対して約3,120万円の賠償金を支払っていました。この損害賠償金相当額等の支払を国立市の元市長に対して請求する住民訴訟が提起され、国立市が元市長に対して求償請求したのがこの事例です。元市長の妨害行為というのは、次のようなものでした。 (1)マンションの建築計画が、不動産業界の噂程度のもので、土地周辺住民や一般市民には知られていなかった段階で、市長として知り得た建築計画という内部情報を住民に提供してマンション建設に反対する住民運動を企図したこと(2)将来給水拒否等の不利益を受ける可能性があることを示唆して不動産デベロッパーの顧客に影響を与えたこと (1)は、内部情報の提供行為について、この行為の違法性の認識について元市長は当然に認識していたはずであり、元市長に違法性の認識がなかったとしても、この行為が市長の職務を逸脱したもので、手段として社会に認められることがない違法な行為であることは容易に認識できた、という理由で重過失を認定しています。また(2)は、給水拒否の示唆については、上下水道を供給しないなどの対応が不動産デベロッパーの顧客に対して不安を与えることは容易に認識でき、これによって不動産デベロッパーにも損害を与えることも容易に認識できたはずであること、また正当な理由なく上下水道の供給をしないことが違法であることは明らかであるから、そのような不安を与える行為の違法性について容易に認識できた、という理由で重過失を認定しています。 2.大分県が元顧問に対し求償権を行使することを認めた事例(大分地裁平成28年12月22日)剣道部の練習中に重度の熱中症で倒れ死亡した生徒の親は、国家賠償法に基づく損害賠償請求で大分県に勝訴していました。しかし、元顧問に対する請求が認められなかったために、住民監査請求を経て住民訴訟を提起し、大分県に対し元顧問に対する求償権行使を求めていた事例です。下記の2つの理由から重過失と認定されています。(1)事故当時、亡くなった生徒は竹刀を落としたのに、気づかず竹刀を構えるしぐさを取った。熱射病による異常行動と容易に認識できたのに、元顧問は何ら合理的な理由もなく演技をしていると決めつけ、練習を継続させ、適切な措置を取らなかった(2)元顧問は、元生徒を前蹴りし、倒れた生徒にまたがって10回ほど頬を平手打ちをする、という状態を悪化させるような不適切な行為にまで及んだ。注意義務違反の程度は重大であり、その注意を甚だしく欠いた 地方公共団体が公務員個人に対して求償できることを認めた裁判所の判断は少ないですが、近時の裁判所は、認める傾向にあるといえましょう。今後は公務員個人としての責任ある行動がより一層求められるでしょう。 *著書:弁護士 鈴木謙太郎(1972年の設立以来40年以上の歴史がある、虎ノ門法律経済事務所の池袋支店で支店長を務める。注力分野は遺産相続、不動産取引、交通事故、債権回収、労働問題、債務整理、刑事事件、離婚等。「皆様の人生の一大事を共に解決するパートナーとして、真摯に業務に取り組んでまいります。」) 【画像】イメージです*bee / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月25日昨年10月に、オンラインゲームの「モンスターハンターフロンティアG」のプログラムを改変するチート行為を代行したということで、奈良県の通信大学3年生の男性が逮捕されていましたが、この判決公判が1月17日にあり、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)を言い渡されています。チート行為とは、ゲーム内通貨やレアアイテムを不正に増やしたり、キャラクターのレベルを急激に上げるなどする行為を指しますが、この件では、私電磁的記録不正作出と同供用罪を問われています。一体、これらの罪はどのようなものでしょうか。解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■私電磁的記録不正作出・同供用罪とは私電磁的記録不正作出とは、人の事務処理を誤らせる目的で、事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作出することをいいます。ここで、「事務処理」とは社会生活上意味のある事項を広く含むとされ、「事実証明に関する」とは社会生活に交渉を有する事項であればよいとされます。そのため、ゲーム内のことであっても、社会生活上意味があることである以上「事務処理」に関するものといえ、また、ゲームという社会生活と関係するといえるため「事実証明に関する」という点も満たします。そして、チート行為はゲームを不正に有利に進めようとする意図の下にされるものである以上、「人の事務処理を誤らせる目的」もあるといえます。したがって、この罪が成立し、かつ、作出された電磁的記録が使用されれば、同供用罪が成立することになります。 ■その他の責任は?また他に、電子計算機損壊等業務妨害罪が成立する余地があります。この罪は、「虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した」場合に成立します。不正な指令等があった場合、これによって正常な処理ができなくなっている場合であるといえ、業務が妨害されているということができるためです。そして、チート行為によって正常な業務が妨げられているといえる以上、損害賠償責任を負うべき場合もあるといえます。 *著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)【画像】イメージです*Jes2u.photo / Shutterstock
2017年01月24日フランスでは今月1日より、従業員が50人を超える会社で、「勤務時間外の会社からの連絡に対して対応しなくてもいい」という権利を認める法律が施行されました。法律が施行されたフランスや、日本でも賛否両論があるようですが、現時点での日本の法規制はどうなっているのか、また、同法律を日本で施行したとしたら、どんな影響が生まれるのでしょうか?解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■つながらない権利(The right to disconnect)とは?つながらない権利とは、会社からの勤務時間外の電子メール等のアクセスに対し従業員が遮断することができる権利のことです。通信手段が発達した世の中において、過剰な通信から従業員の私生活の平穏を守る権利といったところでしょう。フランスでは、今回の法制化で従業員が会社の権利侵害を理由に裁判を起こせるようになったとのことです。 ■日本の法規制はどうなっている?日本の場合、ストーカーの電話・ファクシミリ送信・電子メールによるアクセスを禁止する法律(「ストーカー行為等に関する法律」)はありますが、現時点において、会社の電子メール等を禁止する法律はありません。現行法では、会社の電子メール等があまりにも過剰で違法性を帯び、それによって従業員が精神疾患を発症したような場合に、一般法である民法709条・710条を根拠に従業員の会社に対する損害賠償請求が認められるかどうかといったところです。憲法は13条で人格的生存に不可欠な権利・自由を幸福追求権として保障していますが、つながらない権利を保障して個人の私的領域を確保することは人が自分の人格を維持するために不可欠だと考えられますので、つながらない権利も憲法13条の幸福追求権の一つとみることができます。したがって、日本でもつながらない権利を法律で具体化して会社の過剰な通信から保護することも十分可能だと考えられます。 ■つながらない権利によるデメリットも……ただし、法律でつながらない権利を認めた場合、規制の内容・程度によっては、会社の営業の自由を不当に制約することになりますし、働き方についての個人の自由を不当に制約することにもなるかと思います。例えば緊急事態です。滅多にない緊急事態でその人しか対応できず、今すぐ対応してもらわなければ会社に大損害が生じることが明らかな場合、会社によるアクセスが許されてもいいのではと思うわけです。勤務時間外に会社から頻繁にアクセスがあるようでは、勤務時間外を働かされているのと変わらないわけですから、つながらない権利を法制度化することも方向性としては良いと思います。しかし、法律でつながらない権利を認めるにしても、会社の営業の自由や働き方についての個人の自由に配慮して認める必要があるでしょう。 *著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。) 【画像】イメージです*さわだゆたか / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月23日東京・新宿区にある診療所新宿セントラルクリニックにて、院長を務める男性が60代の男性患者に対して「性感染症に感染している」と嘘の診断をして、男性患者から治療費をだまし取ったことが明らかになり、1月17日に警視庁は院長の男性を逮捕したようです。同様の方法で昨年9月から12月に数千人を診断したとも報じられており、被害額は数千万円に上る見込みだということです。そこで、今回は嘘の診断の違法性についてや、今後の処分について解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■嘘の診断の違法性について嘘の診断そのものについては、何らかの犯罪が成立するわけではありません(公務所に提出すべき診断書に虚偽の記載を書けば、虚偽診断書作成罪に問われることはあります)。ただ、嘘の診断をして、治療費を騙し取ったということになれば、詐欺罪が成立しますし、民事でも不法行為が成立し、損害賠償請求の対象になります。つまり、民事上では、騙し取る行為と相俟って、嘘の診断が違法となるわけです。 ■間違った診断をしたが、故意ではなかった場合は?過失の内容によりけりです。医師としての一般的な注意義務をもってすれば、誤診を通常は防げたということであれば、同じように民事では不法行為が成立し得ることになります。 ■どういった処分が下されるのか医師が犯罪行為によって罰金以上の刑に処せられた場合、厚生労働大臣による行政処分の対象となります。実質的に量刑を決めるのは、医道審議会です。詐欺行為を行ったということであれば、「重い処分」となりますから、免許停止、或いは、医療停止の処分となるだろうと考えられます。 *著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所代表。手品、フルート演奏、手相鑑定、カメラ等と多趣味。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする) 【画像】イメージです*Lisa S. / Shutterstock
2017年01月22日安倍首相は、2017年1月5日の党役員会において、「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を目的とした組織犯罪処罰法改正案を今期の通常国会での提出・成立を目指す意欲を示したとの報道がありました。この改正法案については、菅官房長官による「一般人は(適用の)対象外」との発言が批判されたことに表れているように、結局は600を超える犯罪について共謀罪を新設して処罰範囲を広げるための法律だとの意見が出されています。そこで、今回は、テロ等組織犯罪準備罪(以前の共謀罪)とは何かについて、その新設の目的とともに、反対意見を踏まえながら解説したいと思います。*画像はイメージです:■テロ等組織犯罪準備罪とは何か報道によれば、政府案は、(1)4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することを目的とする団体が(2)その団体の活動として、(3)具体的・現実的な犯罪計画に基づき、(4)犯罪実行のための準備行為を行うこと等をテロ等組織犯罪準備罪の成立要件とするようです。そのため、政府は、友人同士の集まりやPTAなどはもちろん、一般の市民団体は同罪の適用対象外であることをプッシュして国民や与党内の理解を求めています。 ■団体の存続目的はどう判断?健全な団体のプライバシーが侵害される恐れもしかし、団体の存続目的が犯罪実行であるのではないかと疑われた場合には捜査が開始され得るわけですから、実際には犯罪目的ではなく適法な活動を行うことを目的とする市民団体に対し、通信傍受等の捜査が行われて、構成員の通信の秘密やプライバシーの権利が侵害されるおそれは否定できません。特殊詐欺(振り込め詐欺など)を行う集団が、会社形態をとって通常の事業活動に見せかけ、法人名義で架電のための部屋を賃借することを行っている事実があるように、団体の存続目的は一見して明確にわかることは多くありません。そして、特殊詐欺集団の場合は、部屋を借りる行為や法人名義の口座開設行為が犯罪実行のための準備行為に当たるわけです。このように、団体の存続目的という外観からは一見して明らかでない要件によって、事業活動行為が犯罪の構成要件に該当するか否かを左右しかねないわけですから、やろうと思えば、政府は、正当な捜査目的を盾に、気に入らない思想を持った特定の団体を捜査対象とすることも可能になってしまいます。 ■今後さらに慎重な議論が必要犯罪遂行意思の連絡・謀議という「共謀」と単純な準備行為のみで犯罪が成立するとすれば、実害発生なしに、共謀にかかわったとされる多数の人を処罰することが可能になってしまい、日本の法体系を破壊するものとの批判も寄せられています。政府は国際組織犯罪防止条約の締結、批准のためにはテロ等組織犯罪準備罪の新設が必要不可欠と説明していますが、日弁連は、国際組織犯罪防止条約締結のためには犯罪の未遂に至る前の段階における処罰規定があれば足り、一定の重大犯罪について予備罪を設ける等の対応によるなど、共謀罪を新設する必要まではないと指摘しています。また、諸外国との協議内容の重要な部分が公開されておらず、共謀罪を新設しなくても足りるとする従前の日本提案が受け入れられなかったという説明の真偽を検証できないことも併せて指摘しています。 2020年の東京オリンピックの開催に向けてテロ対策を整えるという目的は正当なものかもしれませんが、テロ等組織犯罪準備罪の新設、対象犯罪については、さらに慎重な議論が必要不可欠だといえましょう。 *著者:弁護士 木川雅博 (企業法務(会社運営上生じる諸問題)、売買代金・貸金請求、損害賠償・慰謝料請求、不動産を巡る法律問題、子どもの事故、離婚・男女間のトラブル、相続問題,破産・民事再生・債務整理、労働問題など、法人・個人を問わず様々な案件を扱っています。趣味は料理とランニング。東京弁護士会。星野法律事務所) 【画像】イメージです*chepilev / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月16日レストランなどで料理を食べるときに写真を撮るという方も多いのではないでしょうか。お店によっては、料理の写真をSNSなどに投稿するとクーポンがもらえたり、料金が割引になったりといったサービスを行っているお店もありますが、一方で、“店内撮影禁止”としているお店もあります。では、店内での撮影を禁止されているお店で写真を撮影した場合どんな罰則があるのでしょうか?解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■客は店主と契約している写真撮影禁止の店で、写真をとれば、それは、店主との関係で債務不履行になります。悪質な場合は、損害賠償を請求されることもありえます。お店は、店主が管理する場所であり、お客は店主の管理方法に従うと言うことを暗黙の前提として、入店しているからです。料理の写真を撮ること自体は犯罪にはならないと思いますが、写真を撮る際には、店の人に確かめるのが良いと思います。お店の外観を写真に撮ることも、同様です。店主が許可していないのに、勝手に撮って公開することは、不法行為になり、損害賠償請求をされることがありえます。ただ、店内とは違い、お店の外観は、公開されていますので、よほど悪質な場合以外、損害賠償責任を負うことはないと思います。少し前までは、写真に撮られてもそれが拡散することはほとんどありませんでしたが、ネットが発達した現在では、写真が権利者の意図に関係なく拡散されることが増えました。そのため、写真を撮る側のモラルも厳しく問われることになります。 ■自分がやられたら嫌なことはしない法律問題を難しく考える必要はありません。自分が相手の立場になった時にどのように思うか、と考えれば良いと思います。自宅に友達を招待したときに、その友達が勝手に料理の写真や自宅の外観をネットにアップしたらどのように思うか、と考えて下さい。決して良い気持はしないと思います。ネットにアップするなら、事前に了承を得て欲しいと思うと思います。料理店は、営業ですから、自宅とは異なり、宣伝になればネットにアップされることにあまり異論はないと思います。それでも、店主によっては嫌な人もいると思います。一言声をかけて、承諾を得れば、写真を撮る側も取られる側も円満に行くと思います。楽しく食事するには、最低限のマナーを守りましょう。 *この記事は2014年11月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)【画像】イメージです*Syda Productions / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月15日毎年1度はな冬山での遭難事故がニュースになりますよね。山梨県警が今月12日に発表したデータによりますと山梨での山岳遭難者は160名に上り、うち25名は命を落としているようです。この160名という数は統計が残る1965年以降最多で、登山ブームの影響があるのではないかとされています。少し前の話にはなりますが、2009年に遭難したスノーボーダーが亡くなるという事故がありました。亡くなった男性の両親が北海道に対して損害賠償を求めたところ、札幌地裁は北海道に、第一審で約1,200万円の支払いをそして、第二審では約1,800万円の支払いを命じる判決を下しています。当時、判決に対して、救助隊による救助活動が不適切とされて損害賠償が認められるのはおかしいといった否定的な意見が多くありました。では、この問題は法的にどう考えるべきなのでしょうか。*画像はイメージです:■損害賠償請求の根拠亡くなった男性の両親は、国家賠償法1条にもとづき、北海道に対して損害賠償請求をしています。国家賠償法1条によって損害賠償が認められるためには、(1)公権力の行使に当たる公務員が、(2)その職務を行うについて、(3)故意または過失によって、(4)違法に、(5)他人に損害を与えたことの5点を必要とします。本件ではもっぱら救助隊の救助の方法の適切さが論点となっているため、(3)ないし(4)の要件を充たすかが争われています。この判断に当たっては、裁判例の多くは公務員が「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか」という基準に則っているといえるでしょう。 ■本判決に対する私見本判決が批判されるのは、自分からわざわざ危険な場所に行った人を救助隊が(税金を使って!?)命がけで救おうとしたのに、多額の賠償責任が認められるならばだれも救助になんか行きたくなくなるのではないかという感情があるからだと考えられます。私の母も雪山遭難のニュースを見るとよく「そんな危ないところに行かなければいいのに」などと言っています。しかしながら、どんなに相手に道義的・法的な落ち度があったとしても、自分の仕事を果たさなかったらその果たさなかった程度に見合った責任を負うというのが法律の世界なのです。本件では、自分たちも亡くなった男性と共に雪庇(崩落の危険のある雪の塊)を踏み抜いて滑落したなど、救助隊のみなさんは命がけで男性の救助を行ったといえます。しかし、雪庇を踏み抜いたのは救助隊が常時コンパスを確認する等の慎重な方法を採らなかったためであるという本判決の事実認定が妥当なのであれば、男性の過失割合を8割としていることも相まって、本判決が、具体的状況下において救助隊に要求された職務が果たされなかったとして北海道に対して賠償責任を認めたこと(国家賠償法の場合は公務員の個人責任は否定されています)は不当とは言えません。 ■救助したのが一般人だった場合なお、救助者がたまたま居合わせた登山者などの一般人の場合には、限られた場合にのみ賠償責任を負うことになるといえましょう。たとえば、けが人をその場から動かさないほうが安全であることが明白であるにもかかわらず、猛吹雪の中危険なルートを選択して下山中に、折れやすい木の枝にそりを括り付けたために枝が折れて滑落させてしまった場合など、不注意の程度があまりにも大きい場合などです。本件のように、感情的には「おかしい」と思う判決だとしても法的に考えれば問題がないということはよくありますが、念のため付言すると、裁判所も普通の人の常識を無視することはなく、弁護士としても常識や感情に訴える場面は多々あります。結論がおかしく感じるのはその事件で認められた事実関係が原因となっていることが多いので、ニュースで結論だけを見て満足するのではなく、どういう事実があると結論が変わるのだろうと考えてみるとおもしろいかもしれません。 *この記事は2015年1月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)【画像】イメージです*fmostudio / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月14日ネットユーザーらによる芸能人への誹謗中傷は、どのような罪に問われるのか? 昨年12月25日、日本テレビ系情報番組『PON!』(毎週月~木10:25~11:30)にVTR出演したタレント・加藤紗里(26)は、2016年を「バッシングがつらかった」と振り返った。マスコミやコメンテーターに向けた言葉だったようだが彼女のブログコメント欄は他の芸能人にはない、ある"特徴"を確認することができる。加藤といえば昨年、お笑い芸人・狩野英孝(34)との二股騒動で知名度が急上昇。ブログへのアクセスが殺到しアメブロランキングで1位になるなど、一躍時の人となった。先述した"特徴"というのはブログの読者コメント欄。昨年2月から多い時で数千、平均して数百のコメントが各記事に書き込まれているのだが、応援の声もある一方、そのほとんどが批判的な内容だ。最新の投稿(2016年12月30日)だけでも「妖怪おばさん」「気持ち悪い」「疫病神」「詐欺師」「ゴミ」「ドブス」「馬鹿」「消えろ」など日々、誹謗中傷の罵詈雑言で埋め尽くされている。加藤はこれらの書き込みについて、「コメント監視はOFF」と宣言して放置。「コメントを見ると紗里は吐きそうになるから、紗里は見るけど心臓の弱い人は見ないでね」と呼びかけるなど、コメントの選別は行っていないようだ。SNS上では著名人に向けた誹謗中傷があふれているが、果たしてどの程度の罪に問われるのか? そして、その量刑とは? アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に見解を求めた。○匿名でも罪に――SNSでの誹謗中傷はどのような罪になるのでしょうか。不特定又は多数人が見ることができるSNSで、事実を示して、人の評判を下げるような書き込みをすると名誉毀損罪が成立する可能性があります。また、事実を示さないで単に侮辱すると侮辱罪が成立する可能性があります。――ブログコメント欄、ツイッターなど投稿先によって違いはありますか?不特定又は多数人が見ることができるものであれば、どのSNSでも違いはありません。書き込んでも自分以外は見られないような設定になっていれば名誉毀損罪は成立しないでしょう。――今回のように匿名コメントによる書き込みでも罪になりますか?書き込みした人の名前が匿名であったとしても、同じように罪は成立します。――どこまでのコメントであれば許されるのでしょうか。具体的な線引きは難しいですが、人の評価を低下させるおそれのあるコメントは名誉棄損行為にあたります。○書き込んだ数で量刑が重くなる――仮に加藤さんが民事の損害賠償請求をする場合、コメント欄に書き込んだ人物を特定することはできますか?プロバイダ責任制限法では、(1)権利が侵害されたことが明らかであり(2)開示を受けるべき正当な理由がある場合は、プロバイダ、サーバの管理・運営者に書き込んだ人の情報(氏名や住所)の開示を請求できるとされています。開示に応じてもらえなかった場合は、開示について訴訟でも争うことができます。――書き込んだ数などによって量刑は変わりますか?書き込んだ数が多く内容が悪質であれば、犯行対応が悪く被害も甚大ということで量刑は重くなります。その他、被告人の反省や再犯可能性なども考慮されて量刑は決まります。――これだけ多くの人からの誹謗中傷の場合、一人ひとりを罪に問うことは可能なのでしょうか。起訴するのは検察です。複数人が名誉毀損行為を行っているのであれば、起訴するとしても別々に起訴するでしょう。○「バカ」は侮辱罪――「事実を示して、人の評判を下げるような書き込みをすると名誉毀損罪が成立する可能性がある」とのことですが、「事実を示して」というのは具体的にどのような文言を指すのでしょうか。過去の裁判例では、「手前の祖父は詐欺して懲役に行ったではないか」「今まで何十軒となく泥棒をしている」など具体的な事実を示した事案で名誉棄損罪が成立しました。一方、事実を示さない単なる軽蔑、例えば「お前はバカだなあ」などの場合は侮辱罪が成立する可能性があります。――名誉毀損罪と侮辱罪が成立した場合、どのような罰則が課せられるのでしょうか(罰金、懲役など)。名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金、侮辱罪の法定刑は、拘留又は科料(科料とは、1,000円以上1万円未満の罰金)です。■岩沙好幸(いわさ よしゆき)弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら、「弁護士が教える 労働トラブル解決サイト」へ。
2017年01月13日週刊誌で薬物使用疑惑を報じられ、昨年12月9日に芸能界を電撃引退した元俳優の成宮寛貴氏。所属事務所が否定したことで、週刊誌への批判が相次ぐ一方、薬物使用疑惑の決着についても議論がなされるなど、波紋を呼んだ。週刊誌の報道は果たして適法なのか、また薬物使用が認められなかった場合はどのような展開が考えられるのか。今一度法的なポイントをおさらいするべく、アディーレ法律事務所所属弁護士の吉岡一誠氏に話を聞いた。○真実と信じた理由があれば、名誉毀損罪にはあたらない――今後薬物の使用が認められなかった場合、今回のような報道は名誉毀損にあたりますか?名誉棄損罪(刑法230条第1項)は、多数の人が認識できる状態で、「人の社会的評価を低下させる可能性のある事実」を適示した場合に、成立する犯罪になります。「違法薬物の使用」という事実は、これにあてはまるため、週刊誌の行為は名誉棄損罪に該当する可能性があります。しかし、名誉棄損罪が成立しない場合(刑法230条の2第1項)もあります。「個人の名誉の保護」と「言論の自由」との兼ね合いのため、摘示された事実が公共の利害に関するもの(事実の公共性)で、目的が公益を図ることにあった場合(目的の公益性)に、真実であることの証明ができれば(真実性の証明)、名誉棄損罪とはならないのです。――今回のケースでは、どのように見ることができますか?まず「事実の公共性」についてですが、起訴されるに至っていない犯罪行為に関する事は、「公共の利害に関する事実」にあたるとみなされています(刑法230条の2第2項)。この点をふまえると、本件においては「事実の公共性」はあるといえるでしょう。また、週刊誌側は私怨で今回の記事を書いた訳ではないでしょうから、「目的の公益性」も認められると考えられます。また、報道された事実が真実だと証明されない場合でも、真実であると誤信するような確実な資料・根拠に照らして、相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損罪は成立しないとされています。したがって週刊誌側は、成宮氏の違法薬物使用に関して真実であることを証明するか、あるいは真実であると誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らした理由を証明することで、名誉棄損罪の成立を免れる可能性があります。――実際に、週刊誌側は「理由があった」と証明することができると思いますか?私見としては、週刊誌側は、コカインを常用する人でなければ通常は用いない(あるいは、そもそも知らない)「チャーリー」という単語(コカインの隠語)を発言している成宮氏の肉声録音、成宮氏の違法薬物使用に関する友人の証言、成宮氏が自宅で違法薬物を使用している際に友人が撮影したという写真、といった資料群を提出するなどして立証活動を尽くすことで、「相当な理由があった」と判断される余地はあるかと思います。その際には、記事の作成時に、「チャーリー」という隠語が薬物使用者の間で使用されていることを裏付ける資料を参照していたといったことも必要でしょう。成宮氏の肉声録音については、客観的に見て明らかに別人の声であったり、音質が悪くほとんど聞き取れないようなものであれば、誤信の相当性が認められない方向に働きますが、音質もはっきりとしており、本人の声紋との一致を示す声紋鑑定結果が存在するなどの事情があれば、誤信の相当性が認められる可能性が高まるでしょう。――今回の件でもし成宮氏側が訴えた場合、週刊誌に勝てる可能性はありますか?まず、違法薬物の使用に関する名誉棄損を理由とした損害賠償請求についてですが、週刊誌側が真実と信じるについて相当の理由があるときには、不法行為が成立せず、損害賠償責任を負わないとされています。したがって、週刊誌側は、このような各種資料を提出して立証活動を尽くすことで、損害賠償責任を免れる可能性があります。吉岡一誠弁護士(東京弁護士会所属)。関西学院大学法学部卒業、甲南大学法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。友人がとても困っているのに、相談に乗ることしかできない自分自身に憤りを覚え、弁護士になることを決意。現在は悩んでいる方のために、慰謝料問題や借金問題などを解決すべく、日々奔走している。
2017年01月07日*画像はイメージです:年も終わり、2017年を迎えましたね。正月太りという言葉がある通り、おせち料理やお雑煮などついつい食べてしまう方も多いのではないでしょうか。そして、毎年この時期に耳にするニュースのひとつに「餅による窒息事故」があります。高齢の方だけではなく、若年の方も餅を喉に詰まらせてなくなっているようです。同じく喉に詰まらせて亡くなられた方が頻発した食品では、こんにゃくゼリーが一時期メディアを賑わせました。こんにゃくゼリーでは製造者の責任を追及する報道がなされていましたが、餅についてはそのような報道は見かけない気がします。餅を喉につまらせた場合でも、誰かが責任を負うのでしょうか。また、こんにゃくゼリーとの扱いの違いの原因はどこにあるのでしょうか。今回は、星法律事務所の星正秀先生に、この点について伺ってみました。 ■餅で死亡しても製造者は責任を負う「ある製品を使用して事故が起こった場合に、その製品を作った者が負うとされる責任のことを、製造物責任と呼びます。少し細かく説明すると、第1義的には、餅を販売した小売店の不法行為責任あるいは債務不履行責任が問題となります。ただ小売店だと小規模なものが多く、被害者の被害を救済できない可能性もありますので、餅を製造した会社の製造物責任が問題となります。」まず実際に事故の原因となった餅を消費者に売った業者の責任が問題となり、その後に製造業者の責任が問題となるようです。餅による損害賠償の話は耳慣れぬことですが、損害賠償の問題は起こりうるようです。 ■自分たちでついた餅で事故が起きたら、餅をついた人は責任を負う場合がある「餅をついた人に故意、過失があれば、上記の不法行為責任を負う可能性はあります。製造物責任は負いません。故意とは、この場合は、喉に詰まりやすい餅を食べさせようとする意思です。過失とは、不注意で喉に詰まりやすい餅をついてしまったということです。さらに、この餅を食べれば喉に詰まるということを予見可能でないと過失にはなりません。」餅をついた人が責任を負う場合があることに驚かれた方もいることでしょう。ただし、普通についた餅を食べさせただけで損害賠償責任を負うことには必ずしもならないようです。「ちなみに、販売目的で餅をついて売る場合と、仲間内で餅をついて食べる場合の故意過失の内容は変わってきます。当然前者の場合がより厳しい内容となります。」そうであるならば、仲間内で餅をついて窒息をさせた場合に損害賠償責任を負うケースは、あまりないといえるのかもしれません。 ■刑事事件に発展する可能性は?「民事事件としても問題にするのは難しいですから、刑事事件になる可能性は低いと思います。故意過失の内容は民事も刑事もほぼ同じです。ですが、その認定の厳密さが違います。当然、刑事事件の方が認定が厳密ですので、立件するのは難しいです。」 ■こんにゃくゼリーと餅の、取り上げられ方の違いについて「全くの推測ですが、餅を喉に詰まらせて死亡する事故は割と多く、餅の危険性は広く認識されています。それなのに餅を食べて死んでしまっても、食べた方が悪いという判断になるのかも知れません。」他にも、餅が日本全国に文化として馴染んでいることや、多くの人々に食べる習慣が広まっていることから、なかなか攻撃対象とならないのかもしれません。餅を詰まらせても法的な責任問題が生じることが明らかとなりましたが、せっかくの美味しい冬の風物詩でありますから、不幸な事故が起きないように楽しみたいものです。 *この記事は2014年12月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)【画像】イメージです*Skylight / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月01日12月は忘年会、クリスマスパーティーなど夜遅くまで飲み会が続くことも増えて来ます。終電を逃してしまった人が、タクシーを捕まえるために列に並んでいる姿も、年末年始の風物詩ですね。深夜タクシーは、割増料金がつくので、誰もが最短の距離で家路につきたいと思うでしょう。しかし、そんな時に限って、運転手が近隣の地理に詳しくなくて遠回りばかりしていたり、道を間違えたりするといったことを経験した人も多いのではないでしょうか。悪気がない場合は、仕方ないと諦めもつきますが、中にはわざと遠回りしたり、道を間違える運転手もいるのではないかと、疑心暗鬼になることも多いと思います。そこで、以下のような質問に関して、法的にどのような解釈ができるのかを専門家に伺ってみましょう。Q)タクシーがわざと道を遠回りして運賃割増し請求…支払い拒否は可能?*画像はイメージです:)YES(増額分について)タクシーと乗客は旅客運送契約を結ぶことになります。タクシーは合理的な経路で、目的地まで安全に乗客を運送する義務を負いますから、わざと遠回りして運賃を上げることは契約違反であり、乗客は増額分を損害賠償請求できる(支払わなくてよい)と考えられます。わざとではなく道を間違えて遠回りした場合も同様です。もっとも、常に絶対的な最短距離を求めるのも無理な要求ですし、道路状況や交通規制の影響もあり得ます。まずは運転手さんと話し合い、納得できないようであれば所属のタクシー会社やタクシーセンターに相談・苦情を申し出るのが現実的な対応に思います。 *取材協力弁護士: 渡邊寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)【画像】イメージです*BLACKY / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月29日*画像はイメージです:月29日から冬のコミックマーケットが開幕しますね。昨今はその注目度が増しており、東京ビッグサイトには日本からはもちろん、世界から多くの人々が集まります。様々な問題も指摘されていますが、やはり参加するのは楽しいものです。今年はあの叶姉妹も参戦を匂わせるなど有名人も注目。企業も出展しており、その規模は年々大きなものになっています。そんななか、重大な問題とされているのが権利の問題。既存のキャラクターを使用して創作された作品、いわゆる「二次創作」については著作権を侵害しているのではないかとの指摘があります。コミケの根幹を揺るがす問題だけに、気になるところ。一体現行の法律ではどのような解釈になるのでしょうか?パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解を伺いました。 ■二次創作は著作権の侵害になる?二次創作は著作権の侵害になるのでしょうか?「コミックマーケット、いわゆる「コミケ」で販売されている雑誌には、商業作品として発表されている漫画やアニメのキャラクターを利用して描かれた作品が掲載された「(漫画・アニメ系)同人誌」と呼ばれるものがあります。漫画等に出てくる(具体的な絵として表現されている)キャラクターは、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)にあたると考えられていますから、著作権法の保護の対象となります。ですから、例えば、漫画等のキャラクターを著作権者に無断で利用した作品を同人誌に描き、それを販売することは複製権(著作権法21条)を侵害する違法な行為になりますし、無断でキャラクターの画像をインターネット上に掲載すれば公衆送信権(著作権法23条)の侵害になります。また、キャラクターを改変することは、翻案権(著作権法27条)侵害になります(ただし元になったキャラクターが持つ「表現形式上の本質的な特徴」を感じられるかどうかという観点からみて、単にアイデアが共通しているにすぎない場合や、ありふれており創作性が認められない部分が似ているにすぎないような場合には、著作権侵害が否定されることもあります)。」(櫻町弁護士)どうやら既存のキャラクターをそのまま複製し販売することや、ネットに流す行為は、著作権の侵害になるようです。逆に、「ちょっとあの作品と似ているなあ」くらいのレベルであれば、侵害にあたらないようです。 ■自分の趣味で書くレベルなら問題なしさらに櫻町弁護士に、二次創作物の著作権侵害の現状についての意見を聞いてみました。「好きなキャラクターを自分が趣味で描くこと自体は、何ら問題ありません。しかし、それを不特定多数に公表したり、さらにはそれによって利益をあげるという形になってしまえれば、そうした行為が著作権侵害にあたることは当然と思います。現状は、そうした行為について都度著作権者が差止めや損害賠償等を求めることが時間・労力・コストがかかり、困難な場合もあることから「黙認」されているに過ぎないといえます。他人の著作物に対する尊敬の念があれば、きちんと許諾を得て利用するというのが、創作に携わる人が最低限守るべきことなのではないかと思います(例えば、キャラクターの認知度が高まるから著作権者にとってもメリットがあるという意見は著作権者が言うなら理解できますが、利用している方が言うものではないと思います)。例えば一案として、著作権者の許諾を得るということがスムーズにできるように、楽曲を管理しているJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)のような、キャラクターの著作権について一元的に管理し、利用者からは著作権料を収受、それを著作権者に支払うという仕組みがあるとよいかもしれませんね。」(櫻町弁護士)現在の状況は「黙認状態」で、原作をそのまま複製した作品を販売し利益をあげたり、ネットで公開するなどの行為は原作者が訴えを起こせばやはり著作権侵害として損害賠償を請求することができるようです。櫻町弁護士もおっしゃられていますが、アニメなどキャラクターの著作権を一元管理する組織があってもいいかもしれませんね。 *取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。ブログ「ネットイージス.com」)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*naonao / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月28日今年の12月15日、Amazonがイギリスでドローンを使った配達を実施し、無事に成功させたそうです。日本でも昨年からドローンを使った医薬品の僻地への配送プランをはじめとした実験が繰り返されており、先日も、佐川急便が北九州で1.4キロ離れた場所への「ドローン宅配」を成功させています。安倍首相も2018年にはドローンを使った荷物配送を実現させると宣言しているようですが、はたして日本でもドローン配送が可能となるのか、現状の問題点等について解説したいと思います。*画像はイメージです:■現在のドローン法規制現在、ドローンに関しては、航空法と電波法による法規制がなされています。航空法による規制により、 1)人口集中地区の上空の飛行2)地上から150m以上の場所の飛行3)空港や重要施設の周辺の飛行4)人や物件から30m未満の場所の飛行5)日没後飛行6)操縦者からの目視外飛行 等の場合は許可が必要となり、無許可飛行の場合には50万円以下の罰金が科されます。逆に言えば、上記の規制外の飛行や、上記規制範囲内であっても事前許可の上での飛行は自由に行うことができるということです。なお、2016年12月21日の航空法施行規則の改正により、新たに三沢飛行場と木更津飛行場の周辺空域が飛行禁止区域となりましたので、最新の法改正には十分注意して下さい。また、電波法による規制により、技術基準適合証明・技術基準適合認定のいずれかの認証を受けていることを示すマーク(「技適マーク」)のないドローンを屋外で飛ばすと、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。通常、国内で販売されているドローン(並行輸入品を除く)であれば技適マークが付いていますが、ドローン購入の際には今一度確認をするとよいでしょう。 ■ドローン配送の問題点インターネット上でも言われているように、都市部では上記の航空法規制に引っかかるため、ドローン配送が可能になるのは山間部や僻地などの一部の地域に限られるのではないかという問題があります。事業者としても、都市部でわざわざ許可を取るコストを負担するとは考えられません。他方、航空法規制を緩和して都市部のドローン飛行可能区域を広げれば、落下物やドローン本体が人や物件に当たる可能性は高まります。かりに規制緩和がされたとしても、事業者が損害賠償請求を受けるリスクが高まりますから、やはり無理してドローン配送を実現することは考えづらいですね。政府としても、人口集中地区での実用化というよりは、人が行うよりもドローン配送や撮影のほうが安全な場合や過疎地での医薬品等の輸送を念頭に置いているようです。ドローンの活用可能性はまだまだ広がっているので、今後の法改正や事業者の参入状況が気になるといえましょう。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【画像】イメージです*chesky / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月27日平成21年10月に、島根県立大学の学生だった平岡さん(当時19歳)がアルバイトを終えた後に行方が分からなくなり、その11日後に、およそ25キロ離れた臥龍山の山頂付近の付近で、遺体の一部が発見されました。警察によると、事件の2日後に山口県内の高速道路で起きた事故で死亡した30代の会社員男性が、事件に関与している疑いがあるということから、殺人などの容疑で書類送検する方針であると報じられています。まだ現段階では書類送検はされていないようですが、「すでに事故で亡くなっている人を書類送検する」ということはどういった意味があるのでしょうか?また、(今回の例に限らずが)事件発生から書類送検、その後の一般的な流れについても解説したいと思います。*画像はイメージです:■「送検」には「身柄送検」と「書類送検」の2種類あり警察は、例外的な微罪事件を除き、犯罪の捜査をしたときは、事件を検察官に送致しなければならないとされています(刑事訴訟法246条)。この事件を検察官に送致することを「送検」と言います。送検には2種類有り、逮捕した場合に犯人ごと送検する場合を「身柄送検」、逮捕しないで書類のみを送検する場合を「書類送検」と言います。本件では、被疑者が既に死亡していますので、「身柄送検」はできません。また、微罪事件でもありませんので、書類のみを送検する「書類送検」を刑事訴訟法に基づいて行うということになります。 ■不起訴処分が決まっていても被害者の損害賠償請求に「書類送検」は有用!それでは、検察官は、書類送検された後にどのような処分を行うのでしょうか?刑事訴訟法には、339条1項4号に、「被告人が死亡したときには、決定で公訴を棄却しなければならない」とされており、被告人が死亡している場合には、公判を維持できないことになっています。それとの関係で、検察官は、書類送検された事件については、必ず「不起訴処分」とすることになっています。不起訴処分にするのであれば、書類送検する意味が無いのでは?と思われるかも知れませんが、捜査結果がキチンと残ることで、被害者による損害賠償請求(対保険会社、対遺族)の証拠ともなり得ますので、有用なことに間違いありません。 *著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)【参考】NHK NEWS WEB:島根 浜田の女子大学生殺害事件 死亡の男を書類送検へ【画像】イメージです*naka / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月20日先月29日にキュレーションメディア「WELQ」が全記事を非公開にしたことを口火に、「NAVERまとめ」でも無断転載が問題になったりと、インターネット上の記事等に関する著作権に関し、注目が集まっています。いわゆる“コピペ”をしたら著作権侵害になるだろう、といった想像はつくかと思いますが、実際、著作権というものに対して、なんとなく抵抗を感じる方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、著作権についての基本的な考え方について解説していきたいと思います。また、日常生活でやってしまいがちな著作権侵害についても触れたいと思いますので、ご覧ください。*画像はイメージです:■著作権の法的な定義とは?「著作権」という言葉は日常生活でもよく耳にすると思いますが、法律上の定義を確認しておきましょう。「著作権法」という法律に、以下の規定があります。 著作権法17条著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。 「第二十一条から第二十八条までに規定する権利」というのは、具体的には、複製権、上演権及び演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利です。色々とありますね。ただし、何にでも著作権が認められるという訳ではなく、著作権が認められるのは「著作物」にあたるものだけです。著作物についても著作権法に規定があり、法2条1項1号に「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定されています。ちょっと、抽象的で分かりにくいかもしれません。法律というのは社会を規律するためのルールであり、様々なケースへの適用が前提となりますから、ある程度抽象的にならざるを得ないところはあるのですが、著作権にはちゃんと「例示」があって、10条で以下のとおり規定されています。 第10条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物二 音楽の著作物三 舞踊又は無言劇の著作物四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物五 建築の著作物六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物七 映画の著作物八 写真の著作物九 プログラムの著作物2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。3 第一項第九号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。一 プログラム言語プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。二 規約特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう。三 解法プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。 ■著作物であるかの判断となるポイントは?著作物であるかどうかを判断するポイントになるのは、「思想や感情が創作的に表現されているかどうか」ですが、中にはそれが微妙なものもあるでしょう。しかし、インターネット上に投稿されている「記事」や「画像」(写真、イラスト、CG等)については、基本的には「著作物」にあたると考えたほうが無難でしょう。そうした他人の著作物を無断で使う(自分のブログに載せる等)ことは、著作権を侵害する行為になりますから、差止め(著作権法112条)や損害賠償請求がなされる可能性があります(著作権法には罰則もあり、著作権侵害については10年以下の懲役、500万円以下の罰金(またはこれらを併科)というかなり重いものが規定されています(法119条1項))。ただし、著作権法には「公表された著作物は、引用して利用することができる。」(法32条1項)という規定がありまして、著作権を持っている人の承諾を得ていなくても、著作権法が定める「引用」にあたるときは、著作権侵害にはありません。 ■適切な「引用」はどういった要件を満たす必要がある?では、どういう利用方法ならば「引用」といえるのかですが、著作権法32条1項では、上にあげた条文に続けて「この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定されています。具体的には、たとえば論文を執筆している場合に、その論文の中で他人の論文に言及し、それについて考察するために文章を掲載する、といったケースが考えられるでしょうか。そして、適法な「引用」と認められるためには、以下の条件を満たす必要があるとされています。 (1)引用する必然性があること(2)他人の著作物を引用した部分が明確に分かるよう、括弧をつける等して自分の著作物と区別されていること(3)自分の著作物が「主」、他人の著作物を引用した部分が「従」という関係にあること(4)引用した部分の出典(著作者、著作物のタイトル、サイト名、URL等)が明示されていること(著作権法48条) ちゃんと「引用」するためには、けっこう色々な点に気をつける必要がある、ということがお分かりいただけるでしょうか。例えば、「インターネット上で見つけた記事を自分のブログに転載する」場合には、上に述べた「引用」の条件を満たすよう必要がありますから、記事を全文コピペして「こんな記事がありました!」など申し訳程度のコメントを付記した程度では、「引用」とは認められないと考えたほうがよいでしょう。 ■SNSアイコンでの使用やブログへの画像アップロードも注意また、「漫画やアニメのキャラクター画像を自分のブログに載せること・SNSのアイコンとして使用すること」については、「引用する必然性がある」ということを示すのが難しく、やはり、「引用」とは認められない可能性が高いと思われます。なお、「私的使用」(他人の著作物につき、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合。著作権法30条)にあたるときも著作権侵害にはなりませんが、インターネット上の記事・画像は不特定多数が閲覧可能なものですから、「個人的に又は家庭内といった限定的な範囲での利用にとどまる」とは言い難く、「私的利用」にもあたらないと考えられます。インターネット上では、容易にデータのコピー、転載ができることから、ついつい「このくらいなら問題ないだろう」などと考えて他人の著作物を承諾なく載せてしまいがちですが、「引用」の条件がちゃんと満たされているか、考えてみることが必要でしょう。 *著者:弁護士 櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。ブログ「ネットイージス.com」)【画像】*Ushico / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月18日刑事ドラマなどでは、緊急車両で現場に乗り付けた刑事がエンジンを切ったかどうかもわからない状態でその場を離れ現場に急行するシーンを目にします。そのたびに、「よくパトカー盗まれないな」と思ってしまいますが、そこはドラマの世界だけに何事もなく物語が進んでいきます。実際にあんなことをする人はほとんどいないと思いますが、なかにはせっかちな人がエンジンをかけっぱなしにしながら、車を離れてしまうことも稀にあるようです。しかし、そんな行動を一般人がすると交通違反になるらしいのです。本当でしょうか?Q.エンジンをかけっぱなしで車を離れると交通違反って本当?*画像はイメージです:違反です!他人が運転できるような状態で車を離れてはいけない道路交通法第71条5号の2に「自動車又は原動機付自転車を離れるときは、その車両の装置に応じ、その車両が他人に無断で運転されることがないようにするため必要な措置を講ずること」と明記されています。したがってエンジンかけっぱなしの状態で自動車を離れることは道路交通法違反となります。颯爽と登場し、「そのまま現場に急行」という行為はかっこよく思えますが、一般人の場合は法に触れています。なおこの状態で自動車を盗まれた場合、持ち主にも責任が問われます。エンジンを止めしっかり施錠することは、運転者の義務なのです。年末年始は自動車に乗る機会も増えるものですが、車を安全に止め施錠し降りるまでがドライブということを忘れないでください。 *記事監修弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)*取材・文:佐藤俊治(複数メディアで執筆中のフリーライター。真面目な話題からくだけた話題まで手広く記事を執筆中。趣味は将棋、好物はカツカレーとパインアメ)【画像】イメージです*ridia / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月17日DeNAが運営する医療・健康情報サイト「 ウェルク(Welq)」への、不確かな情報を元にした記事を大量公開していたことに対する批判が発端となり、一般ユーザーが投稿した記事を掲載するいわゆる「まとめサイト」や「キュレーションサイト」と呼ばれるWEBメディアへの法的責任に注目が集まっています。またこの批判を受けて、12月に入ってからは、DeNAをはじめ「まとめサイト」や「キュレーションサイト」を運営する企業では、記事を非公開化する流れを拡大させつつあります。これらのもっとも重大な問題点として、「他者コンテンツを盗用した」ということが挙げられます。自分が作ったコンテンツが、無断で使われている…しかも、それでお金を儲けている…コンテンツホルダーとしては、許せないですよね。そこで、自分の著作権が侵害された場合に、どういう対処法があるのか、解説していきます。*画像はイメージです:■盗用された著作物の「削除と損害賠償」を請求する方法自分のコンテンツをパクった者に対して、盗用コンテンツの削除や損害賠償を請求することが考えられます。とはいえ、削除は分かるけど、損害賠償と言われても、いくら請求していいのか分からないと思われるかもしれません。しかし、著作権法では、著作権を侵害した側が、それによって利益を得ていた場合には、相手方の利益額を損害賠償できるという規定があります。また、相手方の利益額が分からなくても、いわゆる著作権のロイヤリティ金額を損害賠償できるという規定もあります。なので、そのような法律に基づいて、自分に有利な金額の損害賠償請求をしましょう。具体的な請求方法は、下記のような流れが想定できます。①侵害している者に対して、内容証明を送付し、金額などの交渉をする②相手方が交渉に応じない、又は返答がない場合には、訴訟する ■盗用コンテンツが別のウェブサービスに拡散されたときに「削除要求」する方法盗用されたコンテンツが、ブログサービス(アメブロ、ライブドアブログなど)やECサイトに掲載されるといった例は多いです。このような場合には、サービス運営事業者に対して、自己の著作物が侵害されている旨を通報し、盗用コンテンツの削除を要求することが考えられます。このようなサービスには、権利侵害を通報するフォームがあることが通常なので、 そこから入力して通報することが出来ます。また、事業者に対して、内容証明などの方法で、削除要求するなどの方法もあります。 ■「警察へ刑事告訴」するための準備方法著作権侵害があまりにひどい(コンテンツを丸々パクられた)ようだと、著作権法違反で警察に刑事告訴という手段もあります。刑事告訴する場合には、必ずを次の3つを準備して、警察にいきましょう!①これまでの経過②自社が著作権者であることの証拠③著作権侵害の証拠(ネットの画面をプリントアウトするなど)警察も数多くの事件を抱えているため、手ぶらでいってもほぼ相手にされません。きっちり証拠を見せて、事件化してほしい旨を警察官に伝えることが大事なのです! ■コンテンツがパクられたら「Google」へ削除の申し立てまた、自分のコンテンツが盗用された場合には、上記のように法的に様々な方法がとれますが、Googleに申請して、検索結果から削除してもらう方法もあります。これは、削除や損害賠償などのように、直接的なものではないですが、検索結果から削除されるため、自分のコンテンツ盗用の影響を最小限にとどめるという意味が有用です。「削除申し立てフォーム」は以下になります。著作権侵害の報告: ウェブ検索 *著者:弁護士 中野 秀俊(グローウィル国際法律事務所。弁護士になる前、システム開発・インターネット輸入事業を起業・経営。IT・経営・法律に熟知していることから、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動している。ブログ「IT・インターネット法律ブログ」)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月13日*画像はイメージです:大阪名物「串カツ」を食べた事がある方は多いと思います。もちろん大阪の名物でもありますし、今年の9月14日に東証マザーズに上場した『串カツ田中』も関東エリアでの火付け役に一役買ったのではないでしょうか。そんな串カツと言えば、よく耳にするソースの「二度づけ禁止」。このルールを破ったらどうなるの?と疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回は「ソース二度づけ禁止」を明示しているお店で、“二度づけした場合はどうなるのか”“もしお店側が退店を要求したら、応じなければならないのか”について、法的な解釈を基に解説してまいります。 ■店とお客さん……そもそもどんな契約関係が?飲食店とお客さんとの間には、お店がお客さんに対し、飲食物を提供し、飲食する場所を提供する「飲食物提供契約」が成立します。お客さんとお店の間にどのような意思の合致があるか、すなわち、どのような「申込み」と「承諾」があるかどうかが重要になります。具体的には、お客さんの「飲食物を提供して下さい」という「申込み」と、お店側の「提供します」という「承諾」があって、初めて契約が成立することになるのです。 ■そもそも店側が決めたルールの拘束力は?民法の大原則として「契約自由の原則」というものがあります。これは読んで字のごとく、「私人と私人の間の契約は、(公序良俗に反しない限り)自由である」という原則のことです。つまりお店は、“いつ”“誰と”“どのような契約を締結するか”を決める自由があり、お客さんも、“いつ”“どのお店と”“どのような契約を締結するか”を決める自由があります。そのため、お店側が「ソースの二度づけ禁止」というルールを明示し、お客さんが同意した以上、「ソースの二度づけ禁止」には、契約上の拘束力が生じます。また、明示されていなかったとしても、串カツ屋における「ソースの二度づけ禁止」という慣習が認められる場合には、お客さんの黙示の同意が認められることになり、法的拘束力が生じるでしょう。(関西では慣習があると認められそうですが、関東では未だそのような慣習があると認められにくいかもしれません) ■お店のルールを守らないお客さんを追い出すことは可能か?お店とお客さんとの間には「ソースの二度づけ禁止」という合意ができており、かつ二度づけしたお客さんには退店いただきます、ということまで明示された上でお客さんが入店した場合には、お客さんは合意をしたものとみなされます。そして、一方がその契約を守らない場合には、他方は、契約を守らないことを理由に、催告をした上で契約を解除することができます(民法541条)。つまり、「ルールを守らないのであれば出ていってもらいます」という忠告をお店側がしたにもかかわらず、お客さんがルールを守らないのであれば、契約を解除し、それまでの飲食代金は損害賠償(民法415条)として請求することになります。 ■「違反したら退店」という記載がない場合は?また、仮に退店いただく、ということまでの明示がない場合には、お店側がお客さんとの間の飲食物提供契約を解除できるか、という観点から検討することになります。たとえば、「ソースの二度づけ禁止」を守らないことでお店の営業に大きな支障を生じる場合、具体的には、昔からソースを継ぎ足しで使っていることを売りにしているお店において、カウンター席などで他のお客さんとソースを共用するような場合には、二度づけをすることが、お店の貴重な財産であるソースを使えなくしてしまい、かつ「ルールを守らずに二度づけしてしまう客がいて、お店もそれを黙認しているらしい」という風評が、他のお客さんの来店を遠ざけてしまうことになりかねません。その場合、「ソースの二度づけ禁止」迷惑などの理由から、お店側は即刻契約を解除して、退店いただくことが可能になる可能性は高いと思います。一方、ソースが個別のお客さんに提供されているような場合で、ソースを継ぎ足し使用していないお店の場合には、即刻飲食物供給契約を解除できるまでの重大な契約違反があるとは言いにくく、退店いただくことまでの必要性は認められにくいと思います。なお、お客さんがお店から退店を指示されたにもかかわらず退店しない場合には、不退去罪(刑法130条)、態様によっては威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性があります。 単純そうですが、法的な解釈を元にすると少々複雑ですね。とはいえ、美味しい串カツを食べているのに、お店のルールを守らずに“カツ!”を入れられてしまっては、せっかくの楽しい時間も台無しです。お店とお客さんのそれぞれがルールを守ることが大事ですね。 *著者 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)【画像】*Key West / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月11日*画像はイメージです:先頃、東京・吉祥寺にある「水口病院」にて人工妊娠中絶手術受けた女性が、術後6日に亡くなったというニュースが報道されました。この女性は、2016年7月6日に夫と結婚したが、8日後に23歳という若さで亡くなったとのことです。今回問題となっているのは、手術を行った医師が中絶手術に必要な資格を所持していないと報道されている点で、法律では「母体保護法指定医」という資格を持った医師でないと中絶手術を行えないとされています。手術との因果関係は不明とされていますが、妻を亡くした夫としては真実を明らかにしたいはず。もし、手術と女性の死に因果関係が認められた場合は、どのような罪になるのでしょうか。和田金法律事務所の渡邊寛弁護士に見解を伺いました。*取材協力弁護士:渡邊寛(和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。個人事案は子どもいじめ事件から相続争いまで、企業事案は少額の債権回収から渉外買収案件まで、あらゆる案件に携わる。) ■そもそも「母体保護法指定医」とは?今回、無資格の執刀が問題となっていますが、そもそも中絶手術は資格が必要なのでしょうか。「人工妊娠中絶は、中絶することも中絶させることも刑法上堕胎罪になり得ます。母体保護法は適法に人工妊娠中絶ができる場合を定めていますが、中絶を行なえる医師を都道府県医師会の指定する医師に限定しています。」(渡邊寛弁護士)つまり、適法に人工妊娠中絶を行なえる医師は母体保護法指定医だけということになります。 ■無資格で手術を行うことはどんな罪になる?では、今回のケースのような無資格の医師による執刀が行われた場合、どのような罪となるのでしょうか。「母体保護法指定医でない医師が人工妊娠中絶を行うと、妊婦本人の同意があっても、業務上堕胎罪になります。医師や薬剤師等による「業務上」堕胎は、そうでない者(医師・助産師・薬剤師・医薬品販売業者以外の者)の堕胎(同意堕胎罪)より重く処罰されます。法定刑は3か月以上5年以下の懲役です。」(渡邊寛弁護士) ■もし、因果関係が認められた場合は?もし、手術と女性の死との因果関係が認められる、つまり手術によって女性が死亡したと認められた場合はどうなるのでしょうか。「中絶手術と死亡との因果関係が認められると、“業務上堕胎致死罪”となり、法定刑が6か月以上7年以下の懲役に加重されます。業務上堕胎(致死)罪に問われるのは執刀医個人です。」(渡邊寛弁護士) それでは、病院に責任はないのでしょうか。「病院(医療法人)は刑法上の責任は負いませんが、一般的な監督を超えて、上司が母体保護法指定医でない医師にあえて中絶手術を指示していたような場合は、上司個人が共犯となる可能性はあります。」(渡邊寛弁護士) 行政処分についてはいかがでしょうか。「行政処分も通常は執刀医個人に対してなされます。もし業務上堕胎(致死)罪で有罪となると、執刀医は、戒告、医業停止又は医師免許取消の行政処分の対象となり得ます。執刀医個人や病院には民事上の損害賠償責任も生じ得ますが、母体保護法指定医でなかったことだけではなく、施術自体に過失があったかどうかなどが問題になります。」(渡邊寛弁護士) 語弊が無きよう繰り返しますが、手術と死亡の因果関係は不明とされています。ただ、無資格での執刀自体は許しがたいものであることに変わりはありません。お亡くなりなられた方のご冥福をお祈りいたします。 *取材協力弁護士: 渡邊寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)*取材・文:編集部【画像】*freehandz / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月11日*画像はイメージです:今年も師走が訪れ、木枯らしが吹きすさぶ頃になりました。「ボーナスちゃんと出るのかな?」なんて憂いながら、身も心もはたまた懐までも震えている方も少なくないかもしれません。そんなことをも忘れてしまうために、今日も日々居酒屋などで忘年会の賑やかな声が聞こえてくる頃でもありますね。そんな飲み会でお世話になっている方も多いであろう飲み放題。そして、飲み放題において必ずと言ってもいいほど存在する「グラス交換制」ルール。ふと、「飲み放題なのにグラス交換制って?」と疑問を持った方もいらっしゃると思います。そこで今回は「グラス交換制」という“お店のルール”はどこまで拘束力があるのかを、両者に発生する契約関係をもとに解説してみたいと思います。 ■お店とお客さん……そもそもどんな契約関係が?飲食店とお客さんとの間には、お店がお客さんに対し、飲食物を提供し、飲食する場所を提供する「飲食物提供契約」が成立します。お客さんとお店の間にどのような意思の合致があるか、すなわち、どのような「申込み」と「承諾」があるかどうかが重要になります。具体的には、お客さんの「飲食物を提供して下さい」という「申込み」と、お店側の「提供します」という「承諾」があって、初めて契約が成立することになるのです。 ■では、お店側のルールに拘束力は?民法の大原則として「契約自由の原則」というものがあります。これは読んで字のごとく、「私人と私人の間の契約は、(公序良俗や強行法規に反しない限り)自由である」という原則のことです。つまり、お店は、いつ、誰と、どのような契約を締結するか決める自由があり、お客さんもいつ、どの店と、どのような契約を締結するか決める自由があります。そのため、お店側が「グラス交換制の飲み放題を提供します」という申込みの誘引をし、客側が「それで構わないので飲み放題をお願いします」と申込みをし、お店側が「かしこまりました」と承諾をした場合には、お店とお客さんとの間には「グラス交換制という条件での飲み放題を提供する契約」が成立することになります。そして、契約が発生した以上は、契約上の拘束力が生じることになり、お客さん側がグラス交換制を拒絶して、「じゃんじゃん持って来い!」などとおかわりを要求しても、お店側として応じる義務はないことになります。 ■強硬におかわりを要求するようなお客さんを追い出すことはできる?お店とお客さんとの間に「グラス交換制の飲み放題」という内容の契約が成立している場合、お客さんもその契約に拘束されます。そして、民法上、一方がその契約を守らない場合、他方は、契約を守るよう催告をした上で契約を解除することができます(民法541条)。つまり、「ルールを守らないのであれば出ていってもらいます」という忠告をお店側がしたにもかかわらず、お客さんが従わなければ契約を解除するとともに、それまでの飲食代金は損害賠償(民法415条)として請求することが可能です。そして、お店側は飲食物提供契約を履行するため、自身の施設管理権に基づき、客に立入りを許しているわけですから、契約が解除された以上、お客さんに退店いただくことは可能になるわけです。ええっ!?厳しくない?と思う方もいるかもしれませんが、お客さんもその店に行くかどうかはまったくの自由。その店のルールが嫌ならば、その店に行かなければいいだけの話なのですから、必ずしも厳しいとも言い切れません。なお、お客さんがお店から退店を指示されたにもかかわらず退店しない場合には、不退去罪(刑法130条)に該当したり、大声をあげたりすると、場合によっては威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性がありますので、ご注意ください。 グラス交換制って、確かに立て続けに飲みたいのに、持ってきてもらうまでのタイムラグが生じてしまったり、逆にそのタイムラグを見越して早めに飲みほして結果的に飲みすぎてしまったりするなどのリスクもありますね。(自分だけ?)居酒屋さんもグラスが足りなくなってしまうことを防ぐ必要もありますので、事前にルールを確認し、楽しい忘年会を過ごしてくださいね。 *著者 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)【画像】イメージです*NOBU / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月09日評論家の池田信夫氏がインターネット上で発信した表現に対し、弁護士の伊藤和子氏が名誉毀損等を理由とする損害賠償を求めた裁判につき、平成28年11月24日、東京地方裁判所で判決が言い渡されました。裁判を担当した手嶋あさみ裁判長は、伊藤弁護士に対する名誉毀損等が成立することを認めて、約57万円を支払うよう池田氏に命じました。*画像はイメージです:■「スラップ訴訟」とは何か?池田氏は、伊藤氏が提起したこの裁判に関し、自身のブログ記事「伊藤和子のスラップ訴訟について」で、「このように他人を脅迫して言論を封殺するための訴訟をスラップ訴訟(Strategic Lawsuit Against Public Participation)と呼ぶ。こういう訴訟を許すと、ネット上の言論に対する萎縮効果が大きい。まして「人権派」を自称する弁護士がこのような人権侵害を行なうことは弁護士の職業倫理に反するので、彼女が訴訟を撤回しなければ、弁護士懲戒請求も検討する。」などと批判していました。「スラップ訴訟」とは、ウィキペディアでは「大企業や政府などの優越者が、公の場での発言や政府・自治体などの対応を求めて行動を起こした権力を持たない比較弱者や個人・市民・被害者に対して、恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟である。」と説明されているように、本来、「大企業等の経済的・社会的に個人を圧倒する力を持つ存在」が、「個人」に対しておこなうものを指します。伊藤氏が池田氏に対して提起したような、「個人」が「個人」に対しておこなう訴訟は、(訴えを提起した個人が高い社会的地位にあるといった例外を除けば)スラップ訴訟にはあたらないと考えるべきでしょう。訴えられた方が、(本来はそうでないのに)「スラップ訴訟だ」という言葉で非難することは、「正当な被害の救済」を妨げるという(負の)効果を生じさせるものだと思います。なお、伊藤弁護士は、池田氏が「スラップ訴訟だ」と非難したことに対して、自身のブログ記事「【ご報告池田信夫氏を名誉棄損で提訴しました】」で、「この訴訟はスラップ訴訟に該当しないことは明らかです。不当な名誉棄損を受けた個人が裁判手続きを通してこれを是正することは、個人の基本的人権であり、憲法でも“裁判を受ける権利”として保障されています。訴訟による法的解決自体を糾弾する姿勢にははなはだ疑問です。」と述べています。私も同感です。 ■名誉毀損が成立するために必要な要素とは?ところで、池田氏は「スラップ訴訟だ」などと伊藤氏を非難しながら、裁判においては、自分が投稿した記事が「真実であること」について、何ら主張立証をしなかったそうです。名誉毀損とは、不特定多数に向けて、人の社会的評価を低下させるに足る事実を摘示(または、意見ないし論評を表明)することです。しかしながら、摘示された事柄(意見ないし論評の表明の場合は、前提とされた事柄)が、(1)公共の利害に関わる事実であること(2)専ら公益を図る目的であったこと(3)真実であること(または真実であると信じたことに相当の理由があること)という要件を満たす(と表現者が主張立証した)場合には、違法性が阻却され、名誉毀損は成立しません。これは、一定の要件を満たす場合には、名誉毀損にあたる表現であっても法的な責任を負わないとすることで、「表現の自由」の保障と、表現によって人格権(名誉権)を侵害された者の救済とのバランスを図ったもの、と理解されています。しかるに、名誉毀損にあたる表現について池田氏が「真実であること」を主張も立証もしなかったということであれば、違法性が阻却されることはなく、名誉毀損が成立するということになりますね。 *著者:弁護士 櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。ブログ「ネットイージス.com」)【参考】池田信夫氏ブログ:伊藤和子のスラップ訴訟についてWikipedia:スラップについての記述伊藤弁護士ブログ:【ご報告池田信夫氏を名誉棄損で提訴しました】【画像】*Andrey_Popov / Shutterstock
2016年12月06日11月30日、モデルの押切もえさんの電子メールのサーバーに不正接続したなどとして、日本経済新聞社デジタル編成局の男性社員が、不正アクセス禁止法違反と私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで逮捕されました。このようなサイバー犯罪も近年では目立つようになってきましたが、一方で飲食店などの従業員が有名人の来店情報やその有名人の住所を入手したことをSNSなどで拡散してしまい、その従業員の勤め先が対応に追われるといった事件も後を絶ちません。とはいえ、家族に対してはつい気が緩んで、業務上知った秘密を話してしまう人は実際には多いのではないでしょうか。そこで、今回は、業務上知った秘密や個人情報を家族に話すのはNGなのか等について解説したいと思います。 *画像はイメージです:■そもそも個人情報の社外持出しは絶対ダメ金融機関はもちろん、一般的な会社では、個人情報を社外へ持ち出すことを禁止し、守秘義務に関する誓約書を従業員に提出させることが一般的ですから、母親の行為は守秘義務(契約)違反に当たります。そして、守秘義務違反を行った従業員は懲戒や損害賠償請求の対象になりますので、安易な気持ちで個人情報を社外に持ち出すことは絶対にやめましょう。 ■家族に有名人の来店情報を知らせるのもダメなの?業務中に有名人が来店したことを不特定多数の第三者に知らせるのは何となくアウトな気がする人も、家族に対しては気が緩んでしまうと思います。公開ロケ等で有名人が来店していた場合であれば、帰宅後に家族に対してこれを話しても違法となることはならないでしょう。しかし、有名人がプライベートで来店していた場合、その情報は業務上知り得た秘密に当たり得るため、厳密には家族に対して話すことも禁止されます。また、そもそも業務中に来店情報を電話やLINE、SNSで家族に知らせることは、労働者の職務専念義務違反に当たることが多いです。したがって、家族に有名人の来店情報を知らせることは、場合によっては懲戒や損害賠償請求の対象になり得ますので、原則として行わないほうがよいです。 ■家族から聞いた来店情報や個人情報をSNSに流すことはどうか?「今日の10時くらいにお母さんが働いている○○銀行△△支店に、●●●●が美人と一緒に来てたんだって!うちも見たかった(ToT)」というようなことをSNSに投稿した場合は、理屈としてはプライバシー侵害に当たり、損害賠償請求の対象になります。ここで、プライバシー侵害に当たるか否かのポイントは、(1)プライベートでの来店か、(2)その情報は一般的に人に知られたくない類のものか、(3)一般的に知られている情報かという点にあります。上記の例でいうと、イケメン俳優の●●●●であれば美人と一緒に行動することは珍しくないかもしれません。しかし、場所が銀行なだけにプライベートの来店である可能性が高く、また、●●●●は結婚しておらず彼女もいないことになっているので一般的には知られたくない情報といえましょう。なお、ここで挙げた例はフィクションであり、実在する人物とは一切関係がありません。プライバシー侵害になるかどうかは判断が難しいですので、自慢したくなる気持ちを抑え、家族から聞いた来店情報や個人情報についてはSNSに投稿しないほうがいいでしょう。以上のように、たとえ家族であっても業務上知った秘密や個人情報を話したり、家族から聞いた情報を不特定多数に拡散したりすると思わぬ不利益を受けることがありますので、秘密や個人情報は誰にも漏らさないほうが安全です。 *この記事は2015年6月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)【画像】イメージです*チータン / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月04日兄の連れてきた婚約者は…
裏切り夫が毎週カレーを作る理由
婚約者は既婚者でした