2019年5月4日 19:00
ホテルの中にホテル? 小説『壺中に天あり獣あり』が描く不思議な世界
がありました。思えばカフカの『失踪者』でも、主人公はアメリカを放浪し、ホテルに職を得ています」
光は、無限の迷宮の存在を忘れるためにこのホテルを切り盛りし、全知の世界を構築しようと考えるが…。
「光のそういう感覚は、僕もよくわかります。何でも作っているとき、計画しているときがいちばん楽しくて、実現してしまえば、そこにとどまることはできない。また次の夢を見てしまうものじゃないでしょうか。僕にとっては小説の執筆もそう」
独特の作風は、誰からの影響なのか。好きな作家を尋ねると、
「高校時代に中島らもとか好きでした。最近『裸のランチ』を再読したらすごく面白くて。
あの頃、バロウズやケルアックに入れ込んでたのを思い出しました。僕の作品とはあまり結びつきませんね(笑)」
かねこ・かおる1990年、神奈川県生まれ。2014年に『アルタッドに捧ぐ』で文藝賞を受賞し、デビュー。’18年に『わたくし、つまりnobody賞』、および『双子は驢馬に跨がって』で野間文芸新人賞を受賞。
『壺中に天あり獣あり』美酒佳肴にあふれた、現世の別世界を意味する「壺中の天地」。その言葉と連接する美しい世界が、著者の緻密な描写によって眼前にそびえ立つ。