2019年5月18日 10:30
「奇跡!」と学芸員絶賛…シンプルな銀器に隠された革新的な秘密
本橋さん個人的に、すごく好きな作品をご紹介します。市民文化が開花した19世紀前半、ビーダーマイアー時代に制作された銀器です。
――とてもシンプルでモダンな雰囲気ですね。
本橋さんそれまでの芸術品や家具、ドレスは、権力や財力をいかに示すか、というものが多く、装飾的で威圧的で、その人の地位を示すものでした。このような燭台などにも、花やキューピットなどでごてごてと装飾されていたのです。そんな時代に、一気にこれだけシンプルですっきりとしたデザインの一点物が手づくりされるようになったというのは、奇跡に近いと思います。銀の輝きもすばらしいです。
――どのような人たちが使っていたのですか?
本橋さん主にユダヤ人をはじめとする都市の富裕層です。18世紀後半、啓蒙主義を支持していた皇帝ヨーゼフ2世の改革でユダヤ人がウィーンに集まるようになり、商業で成功した彼らが文化のパトロンとなって、銀器などもつくられるようになったのです。
これらの銀器は、とても丁寧につくられていて、まるでモランディ(※)の静物画のような美しいたたずまいで、日本のわびさびにも近いものがあります。ごてごてと装飾されていた時代に、これだけ価値観の転換があったのはすごいことだと思います。