2019年10月8日 19:30
廃墟ホテルにハント…「幽霊を見たい」と願う芥川賞作家の怪談コラム
実際に幽霊や怪異に出くわしたわけではないが、その影は感じる。なのに、不思議と怖くない。むしろ忌み嫌われがちな幽霊や怪異に対して、新しい光を当てている。そのひとつが『ジェーン・ドウの解剖』という映画を俎上に載せ、語っていく章だ。
「身元不明の若い女性の遺体を検死官父子が解剖し、彼女の死の謎を探るのですが、その父子が見舞われるオカルトな状況はホントに理不尽です。でも殺されたその女性だって、普通に生きていただけでああいう目に遭った。理不尽に何かを求められたり奪われるのは恐ろしいなと」
それを踏まえ、幽霊とは何かをこう考察しているのがすばらしい。
〈私たちは誰であれ今でも、上げられない声を抱えながら生きているから、それでこんなにも私たちは幽霊を追い求めるのだ〉
「私が幽霊を好きという以上に、世の中の人がより幽霊を好きなんだなということを感じましたね。
いくら科学が進み、解明できる怪異が増えようが、これからも人々は求めていく。目に見えない存在も、排除できないこの世界の一部なんだろうなと思います」
『私は幽霊を見ない』〈三島由紀夫の霊が出るといいなあ〉と願ったり、セント・ルイス第一墓地ツアーに参加したりする、藤野さんのおちゃめな幽霊蒐集。