2020年3月28日 20:40
話題の小説『デッドライン』作者が考える“色気のある文章の特徴”
さらに人間には、ある種のマゾヒズムというか、不安な状態が気持ちがいいと感じる習性があります。例えば自らジェットコースターに乗りに行き、怖い思いをしたりしますよね。同じように、文章でも、読み手に理由を説明しすぎず不安な状態を与えるというのは、色気を感じさせるひとつのテクニックです」
説明不足が生み出す不安が、色気のもと。
小説『デッドライン』は、まず主人公に名前がなく、“くん”と呼ばれているところからして、ある意味とても“説明不足”。また場面転換も非常に独特で、多摩川の河川敷にいるかと思ったら、いつの間にか場面が変わって大学院の廊下でタバコを吸っていたり。主人公の視点で描かれていると思っていたら、急に大学の先生が語り始めたり…。加えて、それぞれのシーンや会話の間には、繋がりを説明する要素がほぼないことも、ひとつの特徴です。意図的にそのような状態を生み出しているのかと聞いてみると…。
「作品の種明かしをしてしまうと、受け手のテンションを下げかねないので、あまり言わないようにしているんですが…(笑)。とはいえ、自分にとって気持ちいい文章を書いていくと、自ずとそうなっていくというか。僕はもともと説明不足に文章を書く癖があるようで、よく“そこにもう一文入れて、もう少し説明を”と言われるんですが、それを入れてしまうと、どんどん飛躍するのが特徴の僕の文章ではなくなるし、何より野暮になる。