2020年7月24日 21:00
夫以外の男性とラブホで…食にまつわる人間模様を描く彩瀬まる短編集
次の「ポタージュスープの海を越えて」では女性2人が温泉に行くが、これは母と娘の話にもなっている。
「ある時ふと、母や祖母が好きだった食べ物を知らないと気づいたんです。私自身も今、毎日作るのは自分が食べたいものではなく、子どもが文句言わずに食べるものだったりする。毎日人の食事を作るうちに自分が何を食べたいか分からなくなっている人はたくさんいるだろうけれど、そういう人たちがどこかで自由に好きなものを美味しく食べていたらいいな、と思いました」
次の「シュークリームタワーで待ち合わせ」は料理研究家の主人公が、疎遠だった旧友が悲しい体験をして食欲を失っていると知り、毎日料理を作って食べさせる。と説明すると一見いい話に聞こえるが、
「食べたくない人を支配して食べさせる話です。美味しいものを食べさせるって、暴力的なパワーで人に影響を与えることだなとも思うので」
一方「大きな鍋の歌」では料理人の男が、難治性の病で入院中の知人を見舞う話で、“昔食べたかったものを自分で作る”というテーマだとか。どの話も確かに苦みがあり、また、描かれる他者との関係が、必ずしも確かな友情や愛情や絆で結ばれているわけではないのも印象的。