2020年8月5日 20:00
“本屋大賞”凪良ゆう、小説書き始める前の10年が「宝物の山」 その理由は?
けれど小説家になったいま振り返ってみると、その何もしていなかった時期が宝物の山なんです。感じたことや考えたこと、経験したこと、人との出会いなどが引き出しに詰まっていて、物語を書いていると、その引き出しが開くんです。それは本当に貴重です。もちろん何かを成し遂げるために寝食を忘れて打ち込む時間も必要なんですが、あの“世間から見たらアカン10年”も同じくらい必要だったかなと思います。
私は好きになると猪突猛進型で、他は何も目に入らなくなる。小説家になる前もなったいまも変わらず、朝起きてから寝るまでずっと書いています。その分、バランスをとって優先順位も決めてうまくやれない。一つのことにすべて注ぎ込んでしまい、私には小説しかないというのが少し寂しくもあります。
一方で、好きなことに全力を注いでいるのだから、他のものはなくてもしょうがないと納得している自分もいる。実際、「他のことがすべてダメになってもこれができればいい」と思うくらい満たされた瞬間があったから、いま私は書いているんですよね。その気持ちが湧く何かに、才能の糸口があるように思います。
なぎら・ゆう2006年に『恋するエゴイスト』でデビュー。