2020年12月3日 20:30
母性信仰で分断される女性たち、本当の敵は? 小説『乳房のくにで』
その小さなグループごとに“これが普通”があり、そこからはみ出すと軋轢が生まれる。女性たちの生きにくさにつながっているように思います」
本書が素晴らしいのは、ただの対立の物語になっていないからだ。福美と奈江は、やがて自分たちが抗うべき本当の敵が何かを知る。その象徴として描かれるのが、奈江の義母である千代だ。
「『いまどきこんな姑はいないのでは?』という反応もあったんです。でもマインドは現代にも生きていますよね。実際問題、千代のような考え方をしている人が国を動かす権力側にいますよ、ということをわかってほしくて、あえて濃く書いたところがあります。男性あっての女性という“アフターユー”の価値観を持つ人の、一種のメタファーです」
家父長制が女性に押しつけてくる役割を、個人だけで乗り越えるのは不可能だ。
「社会構造そのものを変えるために、女性たちは共闘していくことが必要だと思うんです」
そんな気づきと祈りが、ひしひしと伝わってくる。
ふかざわ・うしお作家。東京都生まれ。2012年「金江のおばさん」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。受賞作を含む『ハンサラン 愛する人びと』(文庫版『縁を結うひと』)