2016年5月17日 08:00
天才女絵師の情熱に現代女性も共感 直木賞作家・朝井まかての最新作
思わず惹きつけられる、カバーの装画。朝井まかてさんの『眩(くらら)』に使われているのは、江戸のレンブラントとも称される葛飾応為の代表作のひとつ、「吉原格子先之図」だ。朝井さんにお話を伺った。
「原宿の太田記念美術館で展覧会が開かれたときに観に行き、この絵の前で立ちすくむほどの衝撃を受けました。奥行きのある大きな空間を描いていますが、想像するよりずっと小さな作品。他の浮世絵師とはまるで違う光と影の表現。
真ん中に陣取る花魁は影なんです。すぐに応為の人生に迫ってみたいと思いました」
葛飾応為は、葛飾北斎の三女・お栄の雅号。父の右腕として絵筆を執り、代作も引き受けたほどの才能の持ち主だが、時代が時代だけに、彼女をめぐる記録は極端に少ない。
「遺っているわずかな手紙や、北斎の弟子たちなど周辺の証言などから、お栄の人物像を読み解いていきました。弟子の証言にもあるように、“侠気に富んだ”気っ風のいい性格。江戸の女性観では“貞女”が褒め言葉ですから、規格外だった彼女は、奇女と見なされていたようです」
四六時中絵のことばかり考えているさまや、結婚の失敗、兄弟子であり自分の絵の理解者でもあった善次郎との恋といった虚実ないまぜのエピソードで彩りながら、本書は「なぜ応為は『吉原格子~』のようなすばらしい絵に到達できたのか」