2020年12月30日 20:50
心中未遂から70年…恋人同士だった女性たちの人生描くコミック『夢の端々』
上下巻同時にリリースされた須藤佑実さんの『夢の端々』は、まるで一本の美しい映画を観たような読後感だ。登場人物たちの人生にすっかり入り込み、物語が終わってもなお、心はその世界を漂っている。
なぜ彼女たちは心中を選んだのか。“未遂”後の70年にわたる恋と人生。
「百合マンガは読むのも描くのも好きですが、若い人同士の“百合のその後”を描いてみたかったんです」
百合のその後として冒頭で描かれる時代は、2018年。認知症で一緒に暮らす家族のこともわからなくなりつつある85歳の伊藤貴代子のもとに、同い年とは思えないほど若々しい園田ミツが訪ねてくる。お互いの近況など他愛もない会話を楽しむふたりは、70年ほど前の女学生時代に心中を図り、世間を騒がせた恋人同士だった。
「最初に思いついたのは、時間が遡る設定です。
だいぶ前のことなのですが、現代から過去に戻っていくお芝居を観て、いつか自分もマンガでやってみたいと思っていました」
1話目で読者に明かされるのは、85歳の貴代子が鍵付きの日記帳のなかに“指”を大事に隠し持っていること。たしかに彼女の左手の小指は第一関節から先がなく、ひ孫には戦争で失くしてしまったと説明する。