恋心や愛を表現するときに、歌は大きな武器になる。大谷紀子さんの人気コミックが原作の『すくってごらん』で、尾上松也さんは改めてその事実に気づかせてくれる。
演じることで大切なのは、そこに感情があるかどうか。
ミュージカルでも活躍する歌舞伎界のホープが演じるのは、左遷された片田舎の町で金魚すくいの店を営む美女・生駒吉乃(いこま・よしの)に恋をする銀行員・香芝誠(かしば・まこと)。エリートコースからはずれた憂鬱な心の声や恋心が、赤と青のコントラストが美しい「和」の世界観の中、ラップや歌でポップに描かれる。中盤、街中で吉乃に想いをぶつける「オンリー・ユー、オンリー・ミー」は、恋の高揚感のみならず、身勝手さも浮かび上がらせる。
「まさしく、愛を伝えるのに歌はぴったりな手段ですよね。自分の想いが爆発してしまったがゆえに左遷されたように、香芝は心に爆弾みたいなものを抱えている。
吉乃に想いをぶつけるシーンでは台詞を歌として表現していますけれど、想いが爆発した表現として非常にしっくりきました。歌舞伎では踊りのときはもちろん、お芝居の中でも音楽を使って表現します。歌舞伎もミュージカルも映像作品も、演じるということにおいて重要なのはその中に感情があるかどうか。