2021年3月30日 19:40
“一気読み&二度読み必至”に納得 小説『ヴィクトリアン・ホテル』の仕掛け
名画『グランド・ホテル』といえば、ホテル内で複数の人間のドラマが同時進行で進む名作映画。下村敦史さんの新作『ヴィクトリアン・ホテル』はまさにこの“グランド・ホテル方式”に則った作品だ。
高級ホテルに来た訳ありな人たち。巧妙な伏線に驚愕必至のミステリー。
「最初は爆弾テロ計画などの犯罪事件も考えましたが、今回は人間模様を重視することにしました」
と言いつつ、巧妙な伏線が仕掛けられる本作。老舗ホテルにやってくるのは悩みを抱えた女優、人生を諦めた老夫婦、宣伝マン、パーティ会場で新人賞の授賞式に臨む若手作家、借金まみれのスリら。彼らの運命が思わぬところで交錯していく。
「もちろん、ミステリーとして面白いこと、驚かせることを考えました。
と同時に、新しい視点を提示したかった。もとの映画がお金と愛情がテーマになっているようにひとつのテーマで登場人物を結びつけるのも方法だと思って。自分は“優しさ”でいくことにしました。前作『同姓同名』で悪意を徹底的に書いて毒素が全部出されたのか、今回は善意がメインになりました(笑)」
だが、ほのぼのした内容なわけではない。たとえば女優は駅で困っていた人を助けた行為がSNSで「騙されたのでは」