2021年6月5日 20:40
サスペンス満載の恋愛短編集 “ハラハラする”十市社の『亜シンメトリー』
意味深なタイトル、巧みな文体、センスのいいエピソードやモチーフ…。そのすべてに痺れる、十市社さんの『亜シンメトリー』。なかでも表題作は、十市さんが初めて短編に挑戦した作品だそうで、魅惑的ないくつもの謎に陶然とする。執筆に1年以上かけたという野心的な一作だ。
謎解きの難易度高め、読む快感強め。魅力的な仕掛けで惑わせる短編集。
「物語を面白くするにはどうすればいいかと考えていくうちにこうなった、というのが正直なところです。ただ、ヒントはすべて書いてあるつもりなので『読み終わっても、よくわからない』という反応になるとまでは思っていなかったです(笑)」
大学講師の亜樹は、通勤に利用している循環バスで〈六十の境はまだ越えていない〉くらいの年齢の花田早由里と乗り合わせる。
ふたりはやがて奇妙なゲームに興じるようになるのだが、その流れで、亜樹は早由里の初恋物語を知ることになり…。
「自分にいろいろ縛りを設けた作品で、シンメトリーにこだわりを持つ女性というのもその一つですね。さらに、宇治の巨椋池や、和辻哲郎さんの随筆、その辺りを走る循環バスなど、作中に織り込める実在の場所やものがつながって、物語の世界を広げてくれました」