2021年6月22日 19:10
“片づけ”を通して自身と向き合う…アラフォー女性の再生を描く『片をつける』
少しずつ彼女たちの来歴が明かされ、読者が彼女たちを見る目も変わる。
「案外、ふたりは似たところがあるのかなと思います。ふたりの心の近づき方はレイモンド・カーヴァーの『大聖堂』という短編の〈私〉と盲人にすごく影響を受けていますね」
床の上、引き出しの奥、冷蔵庫の中。粛々と仕分けし、八重に捨てるように促す阿紗。その一方で、片づけの極意を切々と伝え、八重が〈死んでも捨てるな〉というヨレヨレのパンツを残すことは受け入れ、八重が売りかけたシノワズリーのボンボニエールは取っておくよう促す。
「終活でも断捨離でも、要不要だけで考えて、ムダだからと、物だの感情だののすべてを『一切合切捨てなきゃ』というのは違うんじゃないかと。美しくないものは取り除いた方がいいけれど、美しいものを見ているときの豊かさは値千金。大切なものを見極め、捨てられない思い出に気づくことが〈片をつける〉ことかなと思うんですよね」
『片をつける』作中作の童話も著者のオリジナル。
登場する片づけや掃除についての知識や情報は実践的。ささやかなロマンスもあって、盛りだくさんだ。ポプラ社1760円
おち・つきこ作家。1965年、福岡県生まれ。