2021年7月5日 21:10
相模原の殺傷事件から着想 “社会の闇”を描くミステリー小説
冬の七重町の静謐な姿を遠景に、社会的に弱い立場の人々の姿をちりばめながらスリリングに謎解きは進む。
記憶をモチーフにする際、忘れ去られた人、見過ごされてきた人を掬い上げるのが倉数作品の特徴だ。
「僕は文学研究者でもあるんですが、それも主に大正~昭和をフィールドにしていました。いま自分が生きている社会の中に過去の痕跡を感じて、遡って考えることが多いんです」
本作の着想のひとつには、2016年の相模原障碍者施設殺傷事件があったという。
「あの事件にはものすごく衝撃を受け、いろんなルポや証言も読みました。“誰でもよかった”という通り魔的な殺人とは違い、論理を持って多くの人を殺あやめたという事実が非常に辛い。あの事件を直接書くのではなく、過去に置き換える形で物語にしようと考えました」
浩明が過去に差別されていたハンセン病患者について専門家に話を聞く場面がある。そこで語られることに読者も驚くはずだ。
「患者たちが、わりと最近までひどい扱いを受けていたこと、それが知られていないことに驚きますよね。患者の家族も口をつぐみ、社会から見えないようにされていたんです」
実は浩明には障碍のある弟がいる。