2021年11月22日 22:10
狂言誘拐があぶり出す虐待の連鎖…現代社会問題を映す、降田天の社会派ミステリー
萩野瑛さんがプロット担当、鮎川颯さんが執筆担当。2014年に「女王はかえらない」で「『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞し、以降は降田天名義で良質な作品を生み出している。’18年に「日本推理作家協会賞短編部門」に輝いた「偽りの春」は、交番勤務の警察官・狩野雷太が、いわば名探偵的に登場した初めての作品。その狩野が、本書『朝と夕の犯罪』でも活躍する。
傷ついた子どもたちは、それでも“大切な家族”を求めた。
「前々から兄弟の話を書きたいという気持ちがありました。一度考えたのですが、編集さんからのリクエストもあって、狩野雷太を登場させてすべて作り直すことに。そのときに題材として使っていた無戸籍や虐待の問題は、形を変えて組み込みました」(鮎川さん)
さらに、ネグレクト、10代の出産、ひとり親など、現代社会の課題を詰め込んだ、慟哭の物語である。
第一部では、アサヒとユウヒの現在と過去が軸になる。ふたりはまったく別の境遇で育ち、10年ぶりに再会。ユウヒは養護施設の改修資金を、地元名士の娘・美織と結託した狂言誘拐の身代金で賄うことを計画。アサヒはある負い目によって、共犯になることを承諾する。