2022年3月5日 18:40
木村綾子&前田エマ「直接的な性描写よりずっとノックアウトされた」 文学の“焦がれ”
その二人の愛の行方は、よう子の生家で住み込みの家政婦をしていた冨美子の視点で描かれます。実は太郎との間に関係があったようなのですが「匂わせ」だけで描かれないんです。直接的な性描写よりずっとノックアウトされました。
木村:人間の想像力はたくましいので、実際に書かれている文字情報以上のもの、たとえば自分がしてきた経験や見聞や五感で得たものを同時にそこに読み取ってしまうんですよね。だからこそ、同じ文章が書かれていても、それぞれにイメージするものが違う。私が中学2年生で『仮面の告白』を読んだときに、ちらっと本から目を逸らしたときに映った、銀杏の揺れる枝葉や前の席の男子の背中が生々しくて。小説で描かれている官能が肌感覚と直につながったと感じた瞬間でした。
前田:すごい大人びた素敵な中学生ですね(笑)。
木村:『溺レる』も、結構暴力的なセックスがあったり、排泄の場面があったり、五感が刺激される作品集です。
前田:谷崎潤一郎の『痴人の愛』は外せませんよね。木村さんも谷崎をお持ちですね。
木村:『瘋癲老人日記』。谷崎は死ぬまで性や欲望に従順で奔放で、女性の肉感…特に足ですよね、その憧れと渇望の描写がすごい。