2022年3月29日 19:40
6人の有名画家たちが繰り広げる、摩訶不思議な世界…藤原無雨の“注釈小説”
軸になる物語が少しずつ変容しながら繰り返される、藤原無雨さんの『水と礫(れき)』。あの無二の読み心地は忘れがたかった。新刊『その午後、巨匠たちは、』でも、期待を裏切らない特別な読書体験を味わえる。
荒廃した町に、歳を取らない女性〈サイトウ〉がふらりとやって来て、山に神社建立を進言する。すると町にはさまざまな幸運が舞い込み始める。その〈サイトウ〉が、神社の石柱に6人の巨匠たちの名前を彫ると、北斎は卵の殻を割って世に現れる。それを皮切りに、レンブラントやダリ、モネ、ターナー、フリードリヒら画家たちが相まみえることに…。わかりやすさを拒否する、ユニークな物語の幕が開く。
「さまざまな画家の絵が、すべて混ざって展開されるというモチーフが最初に浮かんだんですね。絵によって世界が影響されるというのなら、人間の画家では不可能だし、ならばそれは神様だろう…と、そんなふうに連想を膨らませていきました」
それが帯文にもある〈注釈小説〉というスタイルとして結実する。
「実在する画家や絵のこともたくさん出てくるので、その説明がいるという必要性があったのがひとつ。加えて、小説から注釈へ、注釈から小説へ、グラデーション的に戻ることによって小説を読むモード、つまり小説であるという視点を取っ払った上で、小説の中に入っていく瞬間がそこに現れるわけなんです。