2022年5月5日 21:10
実話がベースに? 明治期の神戸を舞台に繰り広げる、化粧品を巡る物語『コスメの王様』
そう、本作は利一だけでなくハナも主人公だ。
「女性は男性の添え物のような扱いをされていた時代。その事実を歪めることなく、女性を男性の添え物ではない主役として書きたかった。それにこれは化粧品の話ですから、開発に女性たちが関わっていたはず。ハナは架空の人物ですが、こんなことがあってもおかしくなかったという人物像を膨らませました」
品質の良さと宣伝の工夫で20代で成功をおさめた利一が大事にしていたのは、ベンジャミン・フランクリンの教訓「十三徳」。
「中山太一さんも亡くなるまで実践されていたそうです。その十三徳には、人を恨みすぎてはいけないという内容もある。作中、利一が借金を踏み倒された時に恨み言を言わず真摯な対応をして銀行から信頼を得た話はわりと実話のままです。
失敗をプラスの連鎖に繋げる姿勢は私自身も勉強になりました」
執筆にあたっては当然、中山太一氏のご遺族にも許諾をとった。
「クラブコスメチックスの現社長は太一さんの孫のユカリさん。会社にうかがって、モデルにしたい、でもダブル主人公にしたい、などと説明したんです。そうしたら快く資料室の使用まで許可してくださって。ちゃんとした社史も残っていて、専属の司書さんにも助けられました」